説明

プラスチック光ファイバの表面官能化

プラスチック光ファイバの表面を官能化して重合性基を得ること、及び指示薬モノマーを、任意選択でヒドロゲル形成モノマーと共に、ファイバの表面に重合させることによって、指示薬を該光ファイバに共有結合させる方法を提供する。これによって、指示薬、典型的にはヒドロゲルで包まれた指示薬が表面に共有結合している光ファイバが提供される。このプラスチック光ファイバは、センサとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指示薬をその上に固定化するためのプラスチック光ファイバの官能化、及び指示薬に、又は指示薬を含むポリマーに共有結合しているプラスチック光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、近年、化学的な又は生物学的なセンサとして、特に侵襲的な又は埋め込み可能なセンサデバイスの分野で用途を見出している。そのような光ファイバセンサは、典型的には指示薬を含み、その光学的性質は、対象となる検体の存在下で変化する。たとえば、対象の検体に結合できる受容体を有するフルオロフォアが、そのようなセンサにおける指示薬として使用されている。光ファイバは、ガラスから、及びプラスチックから製造されているが、プラスチックファイバが好ましい。破損する頻度が低いためである。
【0003】
指示薬をプラスチック光ファイバに結合することは、指示薬をヒドロゲルなどのポリマーマトリックス中に物理的に取り込んで、そのポリマーマトリックスをプラスチックファイバ上にコーティングすることによって行うことができる。しかし、そのような物理的な取り込みは、指示薬が漏出し、結果的にセンサの機能が損なわれることにつながる場合がある。この漏出の問題に対処するために、指示薬は、官能化され、その後にマトリックス材料と共重合されている。次いで、生成したコポリマーがファイバ上にコーティングされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしこの結合は、依然として満足できるものではない。というのは、得られるポリマーマトリックスがもろく、光ファイバから容易にはがれてしまうためである。したがって、指示薬の化学物質をプラスチック光ファイバに結合する改良された技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、プラスチックファイバそのものを官能化し、その後に指示薬を直接そのファイバに共重合させることを含む。通常は、指示薬と、ファイバと、ヒドロゲル形成材料などのマトリックス材料とを含む、ターポリマーを形成する。これによって、指示薬をヒドロゲル中に共有結合で固定化すること、及び同時にそのヒドロゲルをプラスチックファイバに共有結合させることが達成される。したがって、指示薬をファイバに確実に結合させることが実現する。
【0006】
したがって本発明は、指示薬をプラスチック光ファイバに共有結合させる方法を提供し、この方法は、
(i)プラスチック光ファイバを官能化して、1つ又は複数の重合性基を有する官能化されたファイバを得るステップと、
(ii)その官能化されたファイバを、少なくとも1つの重合性基を含む指示薬モノマーと重合させるステップとを含む。
【0007】
好ましい一実施形態では、重合ステップ(ii)は、官能化されたファイバを、指示薬モノマー、及びヒドロゲル形成モノマーなどのマトリックス形成モノマーと重合させるステップを含む。
【0008】
指示薬に、又は指示薬を含むポリマーに共有結合しているプラスチック光ファイバ、及びそのプラスチック光ファイバを含むバイオセンサも提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、反応性基が結合されるように官能化することができる任意のプラスチックファイバの表面に指示薬を結合することに適している。したがって、ファイバが製造される元となるプラスチック材料は、特に限定されない。熱可塑性物質、たとえばポリメチルメタクリレート、ポリメタクリレート、又はポリカーボネートがしばしば使用されるが、ポリメチルメタクリレートが好ましい。
【0010】
プラスチックファイバは、1つ又は複数の重合性基をその表面上に含むように官能化される。それらの重合性基は、たとえば炭素−炭素二重結合、シリコーンを生成するためのアルコキシシラン、或いはポリエステル又はポリウレタンを生成するためのカルボン酸誘導体、アルコール、又はイソシアネートとすることができる。典型的には、炭素−炭素二重結合が使用される。プラスチックファイバの表面上に重合性基を存在させるようにする任意のプロセスを使用することができる。典型的な一実施形態では、官能化ステップは、(ia)ファイバをプラズマと反応させて、ファイバの表面上に1つ又は複数の反応性基を得るステップと、(ib)その反応性基又は各反応性基を重合性基に変換するステップとを含む2段階プロセスとして実行される。
【0011】
プラズマ反応ステップは、典型的には、プラスチックファイバを高周波プラズマと接触させることを含む。典型的には、ファイバのうちで、指示薬に結合する部分(たとえば先端)のみをプラズマに浸す。このプラズマは、アンモニアプラズマ又はN/Hプラズマでもよく、その場合、ファイバは、−NH基によって官能化される。N/Hプラズマは、アンモニアと比べて腐食性でないため好ましい。或いはOプラズマを使用することもでき、その場合、ファイバは、−COOH基によって官能化される。N/Hプラズマの場合、典型的には約30〜60%のN、たとえば約45%など、少なくとも40%のNが存在する。高周波プラズマを使用することによって反応性の官能基をプラスチック材料に加えることは、当技術分野で知られており、当業者ならば、適切な技術に精通されていよう。たとえば、ポリメチルメタクリレートファイバ上にアミンの官能基を得るには、使用するガスは、それぞれ55%及び45%の組成での水素及び窒素であり、RFパワーは240wである。これらの条件で、アミンの取り込みを最大にすることができる。
【0012】
次いで、ファイバの表面上に存在する反応性基(単数又は複数)(たとえばアミン基又はカルボキシル基)をステップ(ib)において重合性基に変換する。典型的には、これは、(i)重合性基と、(ii)ファイバの表面上のアミン基又はカルボキシル基と反応できる官能基とを含む化合物と、ファイバとの反応によって実現される。重合性基は、上述のように、炭素−炭素二重結合であることが好ましい。アミン基と反応できる官能基は、たとえば酸塩化物基又は酸無水物基である。カルボキシル基と反応できる官能基は、たとえばアミンである。したがってステップ(ib)で使用するための化合物の適切な例としては、塩化メタクリロイル、塩化アクリロイル、無水メタクリル酸、及び無水アクリル酸が含まれる。
【0013】
ステップ(ib)は、簡単な合成反応を含み、そのような反応を行うことは、熟練した化学者にとって日常的なことであろう。たとえばアミン置換ファイバは、室温で乾燥エーテルなどの適切な有機溶媒中で塩化アクリロイルと反応させることができる。この反応は、副産物として生成されるHClと反応する塩基を加えることによって加速させることができる。たとえば、プロトンスポンジ(1,8ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン)を反応混合物に加えることができる。
【0014】
表面上に1つ又は複数の重合性基を有する官能化されたファイバが生成した後、そのファイバを重合ステップ(ii)にかける。このステップは、その官能化されたファイバを、少なくとも1種の指示薬モノマー、並びに任意選択で鎖延長剤及び/又は架橋剤などのさらなるモノマーと反応させることを含む。
【0015】
指示薬モノマーとは、重合性基、典型的には炭素−炭素二重結合を含むように必要に応じて修飾された指示薬である。本明細書で使用する際の指示薬とは、ある検体と結合すると光学的性質が変化する化合物である。したがって、そのような指示薬に結合した光ファイバは、その検体用のセンサとして使用することができる。典型的には、指示薬は、検体用の受容体と、フルオロフォアとを含む。検体が受容体に結合すると、フルオロフォアの放射波長が変化する。本発明で使用するための指示薬の例としては、pH指示薬、カリウム指示薬(たとえばクラウンエーテル)、及び重合性基の結合によって変化できる酵素が含まれる。
【0016】
本発明の一実施形態では、グルコース指示薬を使用する。グルコース指示薬は、典型的には、グルコース分子に結合するボロン酸受容体と、アントラセンなどのフルオロフォアとを含む。このようなグルコース指示薬の一例は、(以降で参照する)Wangらによって提供されている。
【0017】
指示薬モノマーは、重合ステップへの関与を可能にするための二重結合などの重合性基を含む。典型的には、構造内に二重結合を含めるように指示薬に適切な修飾を行うことによって、指示薬モノマーが得られる。指示薬のそのような修飾の一例は、Wang(Wang,B.、Wang,W.、Gao,S.、(2001年)。Bioorganic Chemistry、29、308〜320)によって提供されている。この論文は、メタクリレート基で誘導体化されたアントラセンフルオロフォアに結合したモノボロン酸グルコース受容体の合成について記載している。
【化1】


当業者ならば、類似の方法、又は当技術分野で知られている他の技術を使用して、必要とされる重合性基を有する代替指示薬モノマーを生成できよう。
【0018】
本発明の一実施形態では、ファイバを指示薬モノマーのみと重合させて、指示薬モノマーから得られる多数のユニットからなる1種又は多数のポリマーに結合したファイバを提供する。しかし、好ましい一実施形態では、マトリックス形成モノマー、すなわち鎖延長剤及び/又は架橋剤も、重合混合物中に存在する。
【0019】
特に好ましい一実施形態では、ヒドロゲル形成モノマーを鎖延長剤として使用する。ヒドロゲル形成モノマーは、親水性の物質であり、重合すると、ヒドロゲル(すなわち、大量の水を吸収できる親水性の高いポリマー)が得られよう。ヒドロゲル形成モノマーの例としては、ヒドロキシル基などの親水基を有するアクリレート(たとえばヒドロキシメタクリル酸エチル(HEMA))、アクリルアミド、ビニルアセテート、N−ビニルピロリドン、及び類似の物質が含まれる。HEMAが好ましい。このような物質から作製されるヒドロゲルは、生物学の分野で、たとえばセンサにおける使用でよく知られている。代替又は追加の鎖延長剤、たとえばエチレングリコールメタクリレート、又はポリエチレングリコールメタクリレートを所望であれば使用することができる。
【0020】
使用できる架橋剤の例としては、ジメタクリレート又はジアクリレートが含まれる。エチレングリコールジメタクリレートが好ましい。ポリエチレングリコールジメタクリレート、ビスアクリルアミド、及びN,N−メチレンビスアクリルアミドを使用することもできる。
【0021】
重合は一般に、所望のモノマーを含む重合混合物に官能化されたファイバ(又は官能化されたファイバの少なくとも一部、たとえば先端)を浸して重合を開始することによって行われる。重合反応は、加熱又は紫外線の照射など、任意の適切な手段によって開始することができる。紫外線は、関与する物質に対する損傷が通常少ないので好ましい。特にヒドロゲル形成モノマーを使用する場合には、加熱しすぎると問題が生じることがある。ヒドロゲルが乾き切ってしまうためである。
【0022】
一般には開始剤を加えて、重合反応を開始する。適切な開始剤は、当技術分野でよく知られているであろう。紫外線を使用する場合の光開始剤の例としては、Irgacure(登録商標)651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、及びIrgacure(登録商標)819(ビスアシルホスフィン)(チバガイギー)が含まれる。熱開始剤の例としては、AIPD(2,2’−アゾビス[2−([2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド)、及びAIBN(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル))が含まれる。
【0023】
典型的には、すべてのモノマーが、反応が開始する前の重合混合物中に含まれている。しかし、重合反応が進むにつれて、所望であれば、さらなるモノマーを重合混合物に追加することができる。
【0024】
重合混合物は、開始剤モノマーとヒドロゲル形成モノマーとの混合物、及び任意選択で架橋剤を含むことが好ましい。ヒドロゲル形成モノマーは、一般に重合混合物の大部分を構成する。指示薬モノマーは、ヒドロゲル形成モノマー中に10−6〜10−2Mの濃度で存在することが好ましい。架橋剤を使用する場合には、その架橋剤の濃度を変えて、生成するポリマーの拡散特性及び力学的特性を制御することができる。たとえば、ポリマーの多孔性及び親水性は、架橋剤の量及び性質に応じて、変えることができる。
【0025】
重合反応によって生成されたファイバは、指示薬モノマーから得られるユニットを含む1種又は複数のポリマーを表面上に共有結合させている。指示薬モノマーから得られるユニットは、ポリマーの100%を形成することができるが、ポリマーの50重量%以下、たとえば20重量%以下、10重量%以下、又は5重量%以下を構成することが好ましい。指示薬から得られるユニットは、たとえば、ポリマーの少なくとも0.5重量%、或いは少なくとも1重量%又は少なくとも2重量%を構成することができる。典型的には、ポリマーは、ヒドロゲル形成モノマーから得られるユニットの重量で少なくとも約20%、たとえば少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%、たとえばヒドロゲル形成モノマーから得られるユニットの重量で99.5%以下、又は99%以下又は98%以下から形成される。典型的には、ポリマーの0〜80重量%が架橋剤ユニットから構成される。
【0026】
本発明のプラスチック光ファイバは、センサとして、特に侵襲的な又は埋め込み可能なセンサとして有用である。グルコース指示薬(たとえばボロン酸受容体とフルオロフォアとを含む)及びヒドロゲルが、互いに及びプラスチック光ファイバに共有結合しているグルコースセンサを特に想定している。しかし本発明は、指示薬の化学物質を含む光センサが使用されるいかなる分野においても用途を見出すことができる。
【実施例】
【0027】
ステップ1:RFプラズマを使用したプラスチックファイバの化学的な官能化
PMMA(ポリメチルメタクリレート)光ファイバをRFチャンバ内に置き、チャンバを0.1Torrに減圧する。チャンバの圧力を維持し、55%のHと45%のNとを含む気体混合物を所定の流量で導入する。チャンバの圧力が安定すると(典型的には、ガスを導入すると、真空は0.4Torrに進む)、チャンバの反射板に向けてRFパワーのスイッチをオンにする。RFパワーは240Wである。チャンバ内の気体混合物が、RFによってイオン化され、それらのイオンが、チャンバ内の光ファイバの表面を修飾する。
【0028】
ステップ2:ファイバ上への重合性基の導入
(生じる塩化水素と反応させるためにプロトンスポンジ材料(1,8ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン)を加えて)乾燥ジエチルエーテル20cm中の塩化アクリロイル2cmの溶液中に、ステップ1に従って生成したファイバを浸す。これを室温で5分間放置し、次いで蒸発によって余分な物質を除去する。これで、ファイバは、二重結合を有し、他のモノマーと共重合できるアクリルアミドによって官能化された。
【0029】
ステップ3:重合
メタクリレート基によって誘導体化されたアントラセンフルオロフォアに結合しているモノボロン酸グルコース受容体を、(a)ポリヒドロキシエチルメタクリレート、及び(b)ステップ2において生成したアクリルアミド官能化PMMAファイバと共重合させる。重合の反応条件、及びグルコース受容体の生成については、Wangら、Bioorganic chemistry、29、308〜320(2001年)に記載されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指示薬をプラスチック光ファイバに共有結合させる方法であって、
(i)プラスチック光ファイバを官能化して、1つ又は複数の重合性基を有する官能化されたファイバを得るステップと、
(ii)前記官能化されたファイバを、少なくとも1つの重合性基を含む指示薬モノマーと重合させるステップとを含む上記方法。
【請求項2】
前記官能化するステップが、(ia)前記ファイバをプラズマと接触させて、前記ファイバの表面上に1つ又は複数の反応性基を生成するステップと、(ib)前記反応性基(単数又は複数)を重合性基(単数又は複数)に変換するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(ia)が、前記ファイバをN/H高周波プラズマと接触させて、前記ファイバの表面上に1つ又は複数のアミン基を生成するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記指示薬モノマーが、重合性基と、ボロン酸受容体基と、フルオロフォア基とを含む分子である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ヒドロゲル形成モノマーが前記重合ステップに含まれる、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
架橋剤が前記重合ステップに含まれる、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
指示薬に、又は指示薬を含むポリマーに共有結合しているプラスチック光ファイバ。
【請求項8】
指示薬を含むヒドロゲルに結合している、請求項7に記載のプラスチック光ファイバ。
【請求項9】
前記指示薬が、ボロン酸受容体基とフルオロフォア基とを含む、請求項7又は8に記載のプラスチック光ファイバ。
【請求項10】
請求項7から9までのいずれか一項に記載のプラスチック光ファイバを含むセンサ。

【公表番号】特表2011−509410(P2011−509410A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541837(P2010−541837)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000027
【国際公開番号】WO2009/087373
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(509002132)グリシュア リミテッド (4)
【Fターム(参考)】