説明

プラスチック光学部品の反射防止膜及びプラスチック光学部品の反射防止膜の製造方法

【課題】本件発明の課題は、プラスチック光学部品の表面に対する密着性に優れ、広い波長領域の光に対して優れた反射防止性能を有するプラスチック光学部品の反射防止膜及びプラスチック光学部品の反射防止膜の製造方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するため、反射防止膜を、プラスチック光学部品基材上に設けられ、有機系ケイ素化合物を用いて形成された応力緩和層と、当該応力緩和層上に、高屈折率層と、有機系ケイ素化合物を用いて形成される低屈折率層とを当該順序で積層した二層を一組の反射防止ペア層として、当該反射防止ペア層を少なくとも二組積層した構造を有する反射防止構造体とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、プラスチック光学部品の反射防止膜及びプラスチック光学部品の反射防止膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の走行を補助したり、車両の走行状態を記録したりするなどの種々の目的で車両にカメラユニットを搭載することが広く行われている。カメラユニットは、車室内或いはエンジンルームの近傍等、撮影目的に応じた位置に設置される。夏季等の炎天下に停車された車両では、車室内温度が70℃以上に達する場合もある。また、エンジンルームの近傍はエンジンの駆動と共に高温になる。このため、車載カメラユニットに用いられる光学部品には、100℃以上の高温耐久性が要求されている。また、当該車載カメラユニットは、車両の外部に設置される場合もあるため、耐環境性や耐薬品性についても要求される。
【0003】
ところで、これらの光学部品には可視光線波長域〜近赤外線波長域に渡る広帯域において、高い透過率が要求される。このため、表面における入射光の反射を防止して、透過率の向上を図るために、光学部品の表面に反射防止膜を設けることが行われている。この種の反射防止膜付きの光学部品として、樹脂材料から成る光学部品の表面に、無機材料から成る反射防止膜を設けたものが知られている(例えば、「特許文献1」参照。)また、光学部品の表面に有機金属を含むハードコート層及び屈折率調整層を介して無機材料から成る反射防止膜を設けたものもある(例えば、「特許文献2」参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−191801号公報
【特許文献2】特許第4337164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般に、無機酸化物の熱膨張係数に対して、樹脂材料の熱膨張係数は高い。このため、高温環境下において、光学部品(基材側)が熱膨張変形した場合に、無機酸化物のみから成る反射防止膜は当該基材側の熱膨張変形に追随できず、その結果、反射防止膜にクラックが形成されたり、反射防止膜の光学部品に対する密着性が低下したりする等の問題が生じる。
【0006】
また、反射防止膜に求められる性能として、可視光線波長域〜近赤外線波長域を含む広い波長領域の光に対して優れた反射防止性能を有する必要がある。
【0007】
本件発明は、上記事情に鑑みて行われたものであり、その課題は、プラスチック光学部品の表面に対する密着性に優れ、広い波長領域の光に対して優れた反射防止性能を有するプラスチック光学部品の反射防止膜及びプラスチック光学部品の反射防止膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下の構成を有する反射防止膜を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0009】
本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜は、プラスチック光学部品基材上に設けられ、有機系ケイ素化合物を用いて形成された応力緩和層と、当該応力緩和層上に、高屈折率層と、有機系ケイ素化合物を用いて形成される低屈折率層とを当該順序で積層した二層を一組の反射防止ペア層として、当該反射防止ペア層を少なくとも二組積層した構造を有する反射防止構造体とを備えることを特徴とする。
【0010】
本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜において、前記プラスチック光学部品基材の表面に、不飽和ケイ素(但し、SiO、1<x<2)及び酸化アルミニウムのいずれか一種、又は、これらの混合物を用いて形成された密着層を備え、前記応力緩和層は当該密着層の表面に設けられることが好ましい。
【0011】
本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜において、前記密着層及び前記低屈折率層の少なくともいずれか一において、前記有機系ケイ素化合物としてヘキサメチルジシロキサンを用いることが好ましい。
【0012】
本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜において、前記密着層及び前記低屈折率層は、前記有機系ケイ素化合物としてヘキサメチルジシロキサンを用いて形成された層であることが好ましい。
【0013】
本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜において、前記高屈折率層は、TiO、Ta、ZrO、Nb、La、Yから成る群より選ばれる1種又は2種以上の混合物を用いて形成された層であることが好ましい。
【0014】
本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜において、前記低屈折率層の屈折率(n)は、1.47<n<1.50であることが好ましい。
【0015】
本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜において、前記高屈折率層の屈折率(n)は、1.90<n<2.50であることが好ましい。
【0016】
本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜において、前記プラスチック光学部品基材は、ポリカーボネート樹脂、又は、シクロオレフィンポリマー樹脂から成ることが好ましい。
【0017】
本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜製造方法は、プラスチック光学部品基材の表面に反射防止膜を形成する方法であって、プラスチック光学部品基材上に、プラズマ化学気相法により、有機系ケイ素化合物を成膜して、応力緩和層を形成する応力緩和層形成工程と、当該応力緩和層上に、真空蒸着法又はスパッタ法により高屈折率層を成膜し、この高屈折率層の表面に、プラズマ化学気相法により有機系ケイ素化合物を成膜して低屈折率層を積層し、当該高屈折率層及び当該低屈折率層の二層を一組とする反射防止ペア層を少なくとも二組積層することにより反射防止構造体を形成する反射防止構造体形成工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜製造方法において、前記プラスチック光学部品基材の表面に、真空蒸着法により、不飽和ケイ素(但し、SiO、1<x<2)及び酸化アルミニウムのいずれか一種、又は、これらの混合物を成膜して、密着層を形成する密着層形成工程を備え、前記応力緩和層形成工程では、当該密着層の表面に、前記応力緩和層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本件発明によれば、反射防止ペア層の積層組数を調整することにより、可視光線波長域〜近赤外線波長域を含む広い波長領域の光に対して優れた反射防止性能を発揮することができる。また、プラスチック光学部品基材上に応力緩和層を介して、上記反射防止ペア層を複数積層した反射防止構造体を設け、更に、応力緩和層及び反射防止ペア層における低屈折率層として有機系ケイ素化合物を用いて形成することにより、これらの積層体である反射防止膜の柔軟性を高め、高温環境下においてもプラスチック光学部品の熱膨張変形に追従可能とし、クラック等の発生を防止して、プラスチック光学部品基材の表面に対する密着性に優れたものとすることができる。このため、100℃以上の高温耐久性が要求される車載カメラユニットに用いられる光学部品の反射防止膜として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜の層構成を示す模式図である。
【図2】実施例1で製造した反射防止膜の分光反射スペクトルである。
【図3】実施例2で製造した反射防止膜の分光反射スペクトルである。
【図4】実施例3で製造した反射防止膜の分光反射スペクトルである。
【図5】比較例で製造した反射防止膜の分光反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜及びプラスチック光学部品の反射防止膜の製造方法の実施の形態を説明する。
【0022】
1.プラスチック光学部品の反射防止膜
まず、図1を参照して、本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜10の実施の形態を説明する。図1は、本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜10の構成を模式的に示したものである。図1に示すように、プラスチック光学部品の反射防止膜10は、プラスチック光学部品基材20(樹脂基材20)の表面に設けられる密着層11と、この密着層11の表面に設けられる応力緩和層12と、この応力緩和層12の表面に設けられ、高屈折率層14及び低屈折率層13の二層を一組の反射防止ペア層15として、当該反射防止ペア層15を少なくとも二組積層した反射防止構造体とを備えている。なお、図1には、各層の厚みを全て等しいものとして示しているが、実際にはこの限りではない。各層の厚みについては後述する。また、図1には、反射防止ペア層15を二組積層したものを示しているが、反射防止ペア層15の積層組数は二組以上であってもよい。
【0023】
プラスチック光学部品基材20: まず、プラスチック光学部品基材20について説明する。本件発明において、プラスチック光学部品基材20は、特に限定されるものではない。光学部品用の樹脂基材20として用いられているものであれば、特に限定なく使用することができる。例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、アクリル樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、ポリエステル樹脂等を挙げることができる。本件発明では、当該プラスチック光学部品基材20は、雰囲気温度100℃以上の高温下で使用される透明性光学部品であるため、プラスチック光学部品基材20は、特に、ポリカーボネート樹脂、又は、シクロオレフィンポリマー樹脂から成るものであることが好ましい。
【0024】
密着層11: 密着層11は、プラスチック光学部品基材20の表面に設けられる任意の層である。当該密着層11を樹脂基材20の表面に設けることにより、樹脂基材20と応力緩和層12とが下記不飽和ケイ素又は酸化アルミニウム、或いはこれらの混合物を介して結合し、樹脂基材20と応力緩和層12との密着性をより向上することができる。また、当該密着層11を樹脂基材20の表面に設けることにより、応力緩和層12をプラズマ化学気相法により成膜する際に、樹脂基材20の表面がプラズマにより損傷するのを防止することができる。
【0025】
密着層11を構成する材料として、不飽和ケイ素(但し、SiO、1<x<2)及び酸化アルミニウムのいずれか一種、又は、これらの混合物を用いることが好ましい。これらの材料を用いることにより、光学的に影響を与えない程度に薄く成膜した場合であっても、当該薄膜は上記効果を得ることができる。また、これらの材料を用いて当該密着層11を構成することにより、当該反射防止膜10の成膜プロセス中、又は、成膜後に、プラスチック光学部品基材20に吸水された水分が反射防止膜10側に移行するのを防止することができる。これにより、プラスチック光学部品基材20に吸水された水分が、応力緩和層12等を構成する有機系ケイ素化合物と反応して、当該反射防止膜10の反射防止性能が経時的に低下するのを防止することができる。特に、プラスチック光学部品基材20として、吸水性の高いポリメタクリル酸メチル樹脂基材20やポリカーボネート樹脂基材20を採用する場合、密着層11を設けることが好ましい。
【0026】
密着層11の屈折率は、1.47〜1.63の範囲内であることが好ましい。密着層11の屈折率が1.47未満である場合、膜中の酸化アルミニウムまたは不飽和酸化ケイ素に対して二酸化ケイ素の比率が高まり、プラスチック光学部品基材20との密着力低下を引き起こす。また、プラスチック光学部品基材20の屈折率が1.5〜1.65であるのに対して、当該密着槽11の屈折率が低くなりすぎた場合、プラスチック光学部品基材20と密着層11との間で界面反射が生じるため好ましくない。一方、密着層11の屈折率が1.63を超えた場合、当該膜中の二酸化ケイ素に対して酸化アルミニウムまたは不飽和酸化ケイ素の比率が高まり、プラスチック光学部品基材20との密着力低下を引き起こす。また、当該膜中の不飽和酸化ケイ素の比率が多くなる場合、短波長領域(400nm付近)の光吸収量が多くなり、透過損失が生じるため好ましくない。
【0027】
また、密着層11の物理的な膜厚は、5nm〜15nmの範囲内であることが好ましい。密着層11の膜厚が5nm未満であると、当該密着層11を均一な厚みで形成することが困難になる。その結果、当該密着層11上に形成される応力緩和層12、反射防止構造体の厚みを均一にすることが困難になり、反射防止性能が低下する場合がある。一方、密着層11の膜厚が15nmを超える場合、密着層11の光学的特性を、応力緩和層12及び反射防止構造体の光学的特性に応じて厳密に制御する必要があり、好ましくない。
【0028】
応力緩和層12: 応力緩和層12は、プラスチック光学部品基材20上に設けられ、且つ、有機系ケイ素化合物を用いて形成される層である。本件発明において、プラスチック光学部品基材20の表面に当該応力緩和層12を直接設ける構成としてもよいし、プラスチック光学部品基材20上に上記密着層11を介して当該応力緩和層12を設ける構成としてもよい。但し、上述したように、密着層11を介して応力緩和層12を設けることは、密着性の向上、耐薬品性、耐湿性等の向上の観点から好ましい。
【0029】
本件発明において、有機系ケイ素化合物とは、炭化水素基等の有機基を有するケイ素化合物を指し、より好ましくは有機基を有する酸化ケイ素化合物であることが好ましい。例えば、C−H基又はCH基が伸縮性を有する有機系酸化ケイ素化合物を用いることが好ましい。例えば、応力緩和層12をSiO層として構成した場合、当該応力緩和層12の膜厚が厚くなるにつれて、硬度が増加し、圧縮応力が大きくなる。このため、高温環境下ではプラスチック光学部品基材20の熱膨張変形に追従することができず、クラック等が生じる場合がある。一方、このようなC−H基又はCH基が伸縮性を有する有機系ケイ素化合物を用いて、例えば、シリコーン樹脂層から成る応力緩和層12を形成することにより、雰囲気温度が100℃以上の高温となった場合にも、応力緩和層12をプラスチック光学部品基材20の熱膨張変形に追従させて、応力緩和層12にクラック等が発生するのを防止することができる。これにより、高温環境下においても、プラスチック光学部品基材20に対する反射防止膜10の密着性を維持することが可能になる。
【0030】
具体的には、有機系ケイ素化合物として、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメチルシラン(TMS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDSZ)等のC−H基又はCH基が伸縮性を有する有機系ケイ素化合物を用いることができる。これらは、いずれも好ましく用いることができるが、本件発明では、特に、下記式に示すヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を好ましく用いることができる。ヘキサメチルジシロキサンは成膜時における取り扱いが容易である。また、ヘキサメチルジシロキサンを適切な方法により成膜することにより、例えば、シリコーン樹脂膜から成る伸縮性に富む密着層11を形成することができる。このため、高温環境下においてプラスチック光学部品基材20が熱膨張変形した場合にも、当該変形により容易に追従して、プラスチック光学部品基材20の熱膨張変形により反射防止膜10側(特に、後述する無機酸化物からなる高屈折率層14)に生じる応力を緩和することができる。従って、本件発明では、有機系ケイ素化合物として、特に、ヘキサメチルジシロキサンを好ましく用いることができる。
【0031】
【化1】

【0032】
応力緩和層12の屈折率は、1.49〜1.55の範囲内であることが好ましい。応力緩和層12の屈折率が1.49未満である場合、当該膜中の炭化水素基(CH基乃至CH基)に対して、酸化ケイ素(SiO乃至SiO)の比率が多くなり、膜の伸縮性が低下するため、好ましくない。一方、応力緩和層12の屈折率が1.55を超えた場合、応力緩和層12の表面に積層する高屈折率層14との屈折率の差を十分に設けることができず、反射防止性能が低下する場合があるため、好ましくない。
【0033】
また、応力緩和層12の物理的な膜厚は、100nm〜300nmの範囲内であることが好ましい。応力緩和層12の膜厚を100nm以上とすることにより、上述のクラック抑制効果が得られる。一方、応力緩和層12の膜厚が100nm未満である場合、プラスチック光学部品基材20に対する密着性が低下するため好ましくない。また、応力緩和層12の膜厚をより厚くすることにより、クラック抑制効果を高くすることができるため、上記範囲内で応力緩和層12の物理的な膜厚は厚い方が好ましい。しかしながら、応力緩和層12の物理的な膜厚が300nmを超えると、当該有機系ケイ素化合物が光を吸収し、透過損失が起こる。また、透過損失と共に、当該応力緩和層12が黄色に着色して見えるようになる。従って、応力緩和層12の膜厚は、上述の通り、300nm以内とすることが好ましい。
【0034】
反射防止構造体: 次に、反射防止構造体について説明する。反射防止構造体は、応力緩和層12上に、高屈折率層14と、有機系ケイ素化合物を用いて形成される低屈折率層13とを当該応力緩和層12側から当該順序で積層した二層を一組の反射防止ペア層15として、当該反射防止ペア層15を少なくとも二組積層した構造を有するものである。本件発明において、反射防止ペア層15を積層する組数は、少なくとも二組であればよく、反射防止効果を要求される帯域幅に応じて、適宜、適切な数とすることができる。例えば、当該反射防止ペア層15を2組又は3組積層することにより、可視光波長域における反射防止効果を得ることができる。一方、当該反射防止ペア層15を4組又は5組積層することにより、可視光波長域から近赤外線波長域までの幅広い帯域における反射防止効果を得ることができる。このように、反射防止効果を要求される帯域幅に応じて、反射防止ペア層15を、適宜、適切な組数を積層すればよい。
【0035】
高屈折率層14は、例えば、TiO、Ta、ZrO、Nb、La、Yから成る群より選ばれる1種又は2種以上の混合物を用いて形成される。また、当該高屈折率層14の屈折率は、1.90<n<2.50であることが好ましい。ここで、高屈折率層14の屈折率は高い方が好ましい。光学部品用途のプラスチック基材20(プラスチック光学部品基材20)は、一般に無色透明な樹脂基材20であり、その屈折率は1.49〜1.65程度である。また、低屈折率層13は、後述する通り、有機系ケイ素化合物を用いて形成するため、その屈折率は1.47〜1.50程度となる。このため、高屈折率層14との屈折率の差が十分に大きくならず、反射防止帯域全域において、高い反射防止効果が得られない場合がある。従って、高屈折率層14の屈折率は上記範囲内において、より高いことが好ましい。具体的には、高屈折率層14の屈折率は2.00以上であることがより好ましい。
【0036】
一方、低屈折率層13は、有機系ケイ素化合物を用いて形成される。有機系ケイ素化合物として、応力緩和層12と同様に、C−H基又はCH基が伸縮性を有する有機系ケイ素化合物を用いることが好ましい。このようなC−H基又はCH基が伸縮性を有する有機系ケイ素化合物を用いて低屈折率層13を形成することにより、雰囲気温度が100℃以上の高温となった場合にも、当該低屈折率層13はプラスチック光学部品基材20の熱膨張変形に追従して変形することができる。このように、高屈折率層14を有機系ケイ素化合物を用いて形成された層(応力緩和層12又は低屈折率層13)で挟み込むことで、高屈折率層14が無機酸化物から形成される場合でも、高屈折率層14に加わる応力を緩和し、高屈折率層14にクラック等が発生するのを防止することができる。これにより、当該反射防止膜10の密着性をより向上することができる。
【0037】
各反射防止ペア層15において、低屈折率層13を形成する材料は有機系ケイ素化合物であればよく、各反射防止ペア層15を構成する低屈折率層13を形成する材料は、各反射防止ペア層15において異なる材料を採用してもよい。しかしながら、本件発明においては、最も外側に配置される反射防止ペア層15においては、有機系ケイ素化合物として、ヘキサメチルジシロキサンを用いることが好ましい。また、その他の低屈折率層13についても、ヘキサメチルジシロキサンをその形成材料として用いることがより好ましい。
【0038】
ヘキサメチルジシロキサンを用いて低屈折率層13を形成することにより、当該低屈折率層13を伸縮性に富む柔らかい膜とすることができ、プラスチック光学部品基材20が大きく熱膨張変形した場合にも、当該熱膨張変形に追従することができる。
【0039】
ここで、低屈折率層13の屈折率は、1.47<n<1.50であることが好ましい。当該範囲内の屈折率を有する低屈折率層13を、上記範囲内の屈折率を有する高屈折率層14と交互に積層することにより、反射防止効果を発揮することができる。ここで、より高い反射防止効果を得るためには、低屈折率層13の屈折率は上記範囲内においてより低い方が好ましい。すなわち、低屈折率層13の屈折率と、高屈折率層14の屈折率との差が大きい方が、反射防止効果が高くなるため、好ましい。
【0040】
一組の反射防止ペア層15における高屈折率層14及び低屈折率層13の光学厚みと、他の組の反射防止ペア層15における高屈折率層14及び低屈折率層13の光学厚みとは、それぞれ異なるものとすることができる。当該反射防止膜10に要求される反射防止効果に応じて、各組においてそれぞれ高屈折率層14及び低屈折率層13の光学厚みをそれぞれ設計することができる。
【0041】
但し、反射防止構造体において最も外側に配置される反射防止ペア層15と、最も応力緩和層12側に配置される反射防止ペア層15との間に、他の反射防止ペア層15が存在する場合には、この他の反射防止ペア層15における低屈折率層13の光学厚みと、高屈折率層14の光学厚みとは、当該反射防止膜10に要求される反射防止効果に応じて、適宜、その光学厚みを適切な値に設計することが好ましい。
【0042】
2.プラスチック光学部品の反射防止膜10製造方法
次に、本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜10製造方法の実施の形態を説明する。以下に説明する方法を採用することにより、上述した本件発明に係るプラスチック光学部品の反射防止膜10を製造することができる。
【0043】
本実施の形態のプラスチック光学部品の反射防止膜10製造方法は、以下の工程を備えている。
A)密着層形成工程
B)応力緩和層形成工程
C)反射防止構造体形成工程
以下、各工程毎に説明する。
【0044】
A)密着層形成工程
密着層形成工程は、プラスチック光学部品基材20の表面に、真空蒸着法により、不飽和ケイ素(但し、SiO、1<x<2)及び酸化アルミニウムのいずれか一種、又は、これらの混合物を成膜して、密着層11を形成する工程である。密着層形成工程は、プラスチック光学部品基材20の表面に密着層11を設ける場合にのみ行われる。
【0045】
B)応力緩和層形成工程
応力緩和層形成工程は、プラズマ化学気相法により、有機系ケイ素化合物を成膜して、プラスチック光学部品基材20上に応力緩和層12を形成する工程である。プラスチック光学部品基材20の表面に密着層11が設けられている場合には、密着層11の表面に、この応力緩和層12を形成する。
【0046】
ここで、有機系ケイ素化合物は上述した通りである。また、当該応力緩和層形成工程では、プラズマ放電条件及び原材料ガス流量条件等の成膜条件を後述する低屈折率層13の成膜条件とは異なる条件を採用する。これにより、低屈折率層13と同じ原材料を用いた場合でも、低屈折率層13とは異なる屈折率とすることができる。なお、当該応力緩和層形成工程では、これらの成膜条件を調整することにより、上述した通り、1.49〜1.55の屈折率を有し、100nm〜300nmの範囲の膜厚を有する応力緩和層12を形成する。
【0047】
C)反射防止構造体形成工程
反射防止構造体形成工程では、応力緩和層12上に、真空蒸着法又はスパッタ法により高屈折率層14を成膜し、この高屈折率層14の表面に、プラズマ化学気相法により有機系ケイ素化合物を成膜し、当該高屈折率層14及び当該低屈折率層13の二層を一組とする反射防止ペア層15を少なくとも二組積層することにより反射防止構造体を形成する。
【0048】
C−1)高屈折率層成膜工程
まず、高屈折率層14を成膜する工程について説明する。高屈折率層14を成膜する際には、真空蒸着法、又は、スパッタ法を採用する。成膜材料として、TiO、Ta、ZrO、Nb、La、及びYから成る群より選ばれる1種又は2種以上の混合物を用いる。本件発明では、可視光の波長域から近赤外線の波長域までの広帯域に渡って反射防止効果を得るためには、反射防止構造体において10nm前後の極薄い層を複数配置する必要が生じる。例えば、プラズマ化学気相法では、膜厚及び屈折率の再現性よくこのような極薄い層を形成することが困難である。特に、高屈折率層14を形成する際に、プラズマ化学気相法では、膜厚及び屈折率の再現性が低下するという課題がある。これに対して、本件発明では、高屈折率層成膜工程において、真空蒸着法又はスパッタ法を採用することにより、屈折率2.00以上であり、且つ、膜厚が10nm前後の極薄い層を形成する場合であっても、これらの屈折率及び膜厚を再現性良く、安定的に形成することができる。
【0049】
ここで、高屈折率層成膜工程において、真空蒸着法を採用する場合には、プラズマソース又はイオンソースを使用し、酸素ラジカルまたは酸素イオンを使用したアシスト蒸着することがより好ましい。酸素ラジカルまたは酸素イオンの持つイオンエネルギーと量を制御して蒸着を行うことにより、得られる膜の密度を制御し、膜応力を調整することが出来るためである。イオンの持つエネルギーを高く設定するほど、得られる膜は緻密になるが応力も高くなる傾向がある。プラスチック基板の反射防止膜において高温耐久性を高め、クラックの発生を抑制するには応力を低くすることが望ましい。一方、プラズマソース又はイオンソースによるアシスト蒸着をしない場合、膜中に蒸着容器内の残留ガスを取り込みやすく、屈折率が安定せず、応力制御が困難になる。
【0050】
C−2)低屈折率層成膜工程
次に、低屈折率層13を成膜する工程について説明する。低屈折率層13を形成する際には、プラズマ化学気相法を採用する。また、成膜材料として有機系ケイ素化合物を用いる。有機系ケイ素化合物については上述した通りである。また、プラズマ化学気相法は、膜厚が10nm前後の極薄い高屈折率層14を形成する際の膜厚及び屈折率の再現性が低いという課題がある。しかしながら、有機系ケイ素化合物を成膜材料として用いた低屈折率層13の形成時には、膜厚が10nm前後の極薄い層を形成する場合であっても、膜厚及び屈折率の再現性は比較的良好である。
【0051】
ここで、プラズマ化学気相法を採用して当該低屈折率層13を形成するプロセスとして、以下に示す1)第一のプロセス、及び、2)高周波プロセス等を採用することができる。
【0052】
a)第一のプロセス
真空容器内の圧力が10−4Pa台になるまで排気し、真空容器内を高真空状態とする。そして、真空容器内に設置されたプラズマソースのイオン放出源の直上に、成膜原料ガスを導入する。プラズマソースはアルゴン(Ar)などの希ガスを熱電子供給源として発生させたものを用いる。そして、引き出し電極により、基材20としてのプラスチック光学部品基材20の方に導出させたプラズマソースをモノマーとしての成膜原料ガスに衝突させる。これにより、モノマーは活性化し、分解反応が起こってラジカルが発生してプラズマ重合し、これにより基材20上に有機系ケイ素化合物から成るポリマー膜が付着する。このとき、プラズマソース内部に酸素(O)を導入すると、オゾンラジカル等の酸素活性種が発生する。当該酸素活性種の生成量は酸素の導入量により制御することができ、当該酸素活性種の生成量により、ポリマー膜の屈折率及び短波長領域(400nm付近)の光吸収量を制御することができる。
【0053】
b)第二のプロセス
真空容器内の圧力が10−4Pa台になるまで排気し、真空容器内を高真空状態とする。そして、真空容器内に成膜原料ガスを導入する。真空容器内に設置された平板状の電極に基材20としての応力緩和層12が形成されたプラスチック光学部品基材20を設置する。そして、基材20が設置された電極と、基材20に対向するRF電極との間に電圧を印加して真空容器内でプラズマ放電させる。これにより、基材20上に、有機系ケイ素化合物から成るポリマー膜を付着させる。
【0054】
低屈折率層13をプラズマ気相成長法により形成する際には、上記第一のプロセス及び第二のプロセスのいずれを採用してもよいが、第一のプロセスを採用することがより好ましい。可視光の波長域から近赤外線の波長域までの広帯域における反射防止効果を得るには、反射防止構造体において10nm前後の膜厚の低屈折率層13を形成する必要がある。第一のプロセスと第二のプロセスとを比較すると、第一のプロセスの方が膜厚の制御が容易であるためである。
【0055】
さらに、第一のプロセスにおいて、酸素ガスを微量に加えて成膜することにより、酸素の吸収を少なくするとともに、耐薬品性が向上し、複雑な形状の基材20にも厚みが均一で、且つ、密着性のよい有機系ケイ素化合物から成る膜を形成することができる。以上のことから、プラズマ気相成長法により低屈折率層13を形成する際には、膜厚制御及び不純物混入防止の観点から、上記第一のプロセスを採用することが好ましい。
【0056】
C−3)積層数
反射防止構造体形成工程において、反射防止ペア層15を積層する組数は、当該反射防止膜10に要求される反射防止効果及び波長帯域によって適宜、適切な数を選定することができる。例えば、当該反射防止膜10に対して可視光波長域から近赤外線波長域までの反射防止効果が要求される場合は、高屈折率層成膜工程と、低屈折率層成膜工程とをそれぞれ2回又は3回ずつ繰り返して、プラスチック光学部品基材20上に当該反射防止ペア層15を2組又は3組積層すればよい。一方、当該反射防止膜10に対して、可視光線波長域〜近赤外線波長域を含む広帯域に渡って反射防止効果が要求される場合には、高屈折率層成膜工程と、低屈折層成膜工程とをそれぞれ4回又は5回ずつ繰り返して、プラスチック光学部品基材20上に当該反射防止ペア層15を4組又は5組積層すればよい。
【0057】
C−4)膜厚
また、各層の膜厚は、当該反射防止効果を得るために必要な光学厚みとなるようにすればよい。但し、反射防止構造体において、最も外側に配置され、且つ、空気層に接する反射防止ペア層15と、最も応力緩和層12側に配置される反射防止ペア層15とに関しては、高屈折率層14の膜厚と、低屈折率層13の膜厚は以下の関係を満たすことが好ましい。
【0058】
反射防止構造体の最も外側に配置され、且つ、空気層に接する反射防止ペア層15では、低屈折率層13の光学厚みは、高屈折率層14の光学厚みよりも厚くなるように物理的な膜厚を設定することが好ましい。低屈折率層13の光学厚みを高屈折率層14の光学厚みよりも厚くすることにより、上述した通り、入射光の反射を効果的に抑制することができる。
【0059】
一方、反射防止構造体の最も応力緩和層12側に配置される反射防止ペア層15では、低屈折率層13の光学厚みが高屈折率層14の光学厚みよりも薄いことが好ましい。応力緩和層12側では、応力緩和層12の表面に形成された高屈折率層14の光学厚みを、当該高屈折率層14の表面に形成される低屈折率層13の光学厚みよりも薄くなるようにすることで、上述した通り、反射防止効果を高めることができる。
【0060】
以上説明した実施の形態は本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であるのは勿論である。また、以下、実施例を挙げて本件発明をより詳細に説明するが、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
実施例1では、表1に示す層構成を有する反射防止膜10(第1層〜第6層)をシクロオレフィン樹脂(COP;日本ゼオン株式会社製のZEONEX樹脂(登録商標)(E48R))から成るプラスチック光学部品基材20上に形成した。具体的な反射防止膜10製造工程は次の通りとした。
【0062】
第1層: 本実施例1では、プラスチック光学部品基材20の表面に、第1層として、酸化ケイ素と酸化アルミニウムの混合物から成る密着層11を真空蒸着法により形成した。
【0063】
第2層: 次に、第2層として、密着層11の表面にヘキサメチルジシランから成る応力緩和層12をプラズマ化学気相法により形成した。このとき、プラズマソースを用いて、アルゴン流量5sccm〜15sccm、プラズマ放電電圧80乃至150V、放電電流30A〜50Aの範囲で適宜調整して放電させた。同時にプラズマソース直上より導入される原料ガスはヘキサメチルジシロキサンと酸素との流量比が10:1〜10:3の範囲で流量を調整した。
【0064】
第3層: 次に、第3層として、TiOから成る高屈折率層14を応力緩和層12の表面にプラズマアシスト法により形成した。このとき、プラズマソースを用いて、アルゴン流量5sccm〜15sccm、プラズマ放電電圧100V〜150V、放電電流30A〜50Aの範囲で適宜調整して放電させた。同時にプラズマソース直上より導入される酸素ガスは10sccm〜30sccmの範囲で流量を調整して成膜した。
【0065】
第4層: 次に、第4層として、ヘキサメチルジシランから成る低屈折率層13を上記第3層の表面にプラズマ化学気相法により形成した。このとき、プラズマソースを用いて、アルゴン流量5sccm〜15sccm、プラズマ放電電圧80V〜150V、放電電流30A〜50Aの範囲で適宜調整して放電させた。同時にプラズマソース直上より導入される原料ガスはヘキサメチルジシロキサンと酸素との流量比が10:1〜10:3の範囲で流量を調整した。
【0066】
第5層: 次に、第5層として、膜厚を表1に示す通りにした以外は、第3層と同様にして、TiOから成る高屈折率層14を形成した。
【0067】
第6層: そして、第6層として、膜厚を表1に示す通りにした以外は、第4層と同様にして、ヘキサメチルジシランから成る低屈折率層13を形成した。なお、上記第3層及び第4層と、第5層及び第6層は、それぞれ反射防止ペア層15であり、本実施例では反射防止ペア層15を2組積層した。
【0068】
【表1】

【実施例2】
【0069】
実施例2では、表2に示す層構成を有する反射防止膜10(第1層〜第8層)をポリカーボネート樹脂(PC;帝人化成株式会社製のパンライト(登録商標)SP1516)から成るプラスチック光学部品基材20上に形成した。反射防止ペア層15の積層組数を3組とし、各層の屈折率及び膜厚を表2に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして各層を形成した。
【0070】
【表2】

【実施例3】
【0071】
実施例3では、表3に示す層構成を有する反射防止膜10(第1層〜第12層)を実施例2と同じポリカーボネート樹脂(PC;帝人化成株式会社製のパンライト(登録商標)SP1516)から成るプラスチック光学部品基材20上に形成した。実施例3では、反射防止ペア層15の積層組数を4組とし、且つ、高屈折率層14をNbを用いて形成し、各層の屈折率及び膜厚を表2に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして各層を形成した。
【0072】
【表3】

【比較例】
【0073】
次に、比較例について説明する。比較例では、実施例2及び実施例3と同じポリカーボネート樹脂から成る樹脂性基材20の表面に第1層〜第6層から成る反射防止膜10を設けた。比較例では、基材20の表面に設ける第1層を不飽和ケイ素(SiO)から成る応力緩和層12とし、第2層〜第6層を表4に示す通り、無機金属酸化物から成る層とした。また、各層は、イオンアシスト蒸着法により、加速電圧500V〜700V、加速電流100mA〜200mA、酸素流量5sccm〜60sccmの範囲内で適宜調整して、表4に示す膜厚になるように成膜した。
【0074】
【表4】

【0075】
[評価]
1.反射特性
実施例1〜実施例3で製造した反射防止膜10の分光反射スペクトルをそれぞれ図2〜図4に示す。また、比較例で製造した反射防止膜10の分光反射スペクトルを図5に示す。
【0076】
実施例1で製造した反射防止膜10は、反射防止ペア層15を2組積層したものであるが、図2に示すように、可視光の波長領域である430nm〜650nmの範囲において、概ね0.5%以下の低い反射率を達成した。また、実施例2で製造した反射防止膜10は、反射防止ペア層15を3組積層したものであるが、図3に示すように、可視光の波長領域及び近赤外線の波長領域に当たる430nm〜850nmの範囲において、概ね0.8%以下の低い反射率を達成した。また、実施例3で製造した反射防止膜10は、図4に示すように、実施例2と比較して可視域でより低い反射率としたもので、即ち、400nm〜650nmの範囲において、概ね0.5%以下、650nm〜850nmの範囲において、概ね0.8%以下の低い反射率を達成した。一方、比較例で製造した反射防止膜10は、図5に示すように、可視光の波長領域である430nm〜650nmの範囲において、概ね0.5%以下の反射率を示した。以上のように、本件発明に係る反射防止膜10によれば、積層する反射防止ペア層15の組数を調整することにより、可視光線波長域〜近赤外線波長域を含む広い波長領域の光に対して優れた反射防止性能を発揮することが確認された。
【0077】
2.クラック発生評価
次に、実施例1〜実施例3で製造した反射防止膜10と、比較例で製造した反射防止膜10とに対して、それぞれ80℃、100℃、110℃、120℃で24時間熱処理を施し、各反射防止膜10にクラックが発生したか否かを評価した。結果を表5に示す。なお、表5において、「マル」はクラックが発生しなかったことを示し、「バツ」はクラックが発生したことを示している。
【0078】
【表5】

【0079】
表5に示すように、実施例1〜実施例3で製造した反射防止膜10については、80℃〜120℃で24時間熱処理を施した場合であっても、反射防止膜10にクラックは発生せず、本件発明に係る反射防止膜10は、高温環境下においてもプラスチック光学部品の熱膨張変形に追従可能とし、クラック等の発生を防止して、プラスチック光学部品基材20の表面に対する密着性に優れたものとすることが確認された。一方、比較例で製造した反射防止膜10については、110℃以上で熱処理を施した場合、クラックが発生し、基材20に対する密着性が低下することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本件発明によれば、反射防止ペア層15の積層組数を調整することにより、可視光線波長域〜近赤外線波長域を含む広い波長領域の光に対して優れた反射防止性能を発揮することができるため、使用する光線の波長域に応じて適宜適切な積層構造を有する反射防止膜10を製造することができる。また、プラスチック光学部品基材20上に応力緩和層12を介して、上記反射防止ペア層15を複数積層した反射防止構造体を設け、更に、応力緩和層12及び反射防止ペア層15における低屈折率層13を有機系ケイ素化合物を用いて形成することにより、これらの積層体である反射防止膜10の柔軟性を高め、高温環境下においてもプラスチック光学部品の熱膨張変形に追従可能とし、クラック等の発生を防止して、プラスチック光学部品基材20の表面に対する密着性に優れたものとすることができるため、経時劣化の少ない反射防止膜10を提供することができる。
【符号の説明】
【0081】
10・・・反射防止膜
11・・・密着層
12・・・応力緩和層
13・・・低屈折率層
14・・・高屈折率層
15・・・反射防止ペア層
20・・・基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック光学部品の反射防止膜であって、
プラスチック光学部品基材上に設けられ、有機系ケイ素化合物を用いて形成された応力緩和層と、
当該応力緩和層上に、高屈折率層と、有機系ケイ素化合物を用いて形成される低屈折率層とを当該順序で積層した二層を一組の反射防止ペア層として、当該反射防止ペア層を少なくとも二組積層した構造を有する反射防止構造体と、
を備えること、
を特徴とするプラスチック光学部品の反射防止膜。
【請求項2】
前記プラスチック光学部品基材の表面に、不飽和ケイ素(但し、SiO、1<x<2)及び酸化アルミニウムのいずれか一種、又は、これらの混合物を用いて形成された密着層を備え、
前記応力緩和層は当該密着層の表面に設けられる請求項1に記載のプラスチック光学部品の反射防止膜。
【請求項3】
前記密着層及び前記低屈折率層の少なくともいずれか一において、前記有機系ケイ素化合物としてヘキサメチルジシロキサンを用いる請求項1又は請求項2に記載のプラスチック光学部品の反射防止膜。
【請求項4】
前記密着層及び前記低屈折率層は、前記有機系ケイ素化合物としてヘキサメチルジシロキサンを用いて形成された層である請求項3に記載のプラスチック光学部品の反射防止膜。
【請求項5】
前記高屈折率層は、TiO、Ta、ZrO、Nb、La、Yから成る群より選ばれる1種又は2種以上の混合物を用いて形成された層である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のプラスチック光学部品の反射防止膜。
【請求項6】
前記低屈折率層の屈折率(n)は、1.47<n<1.50である請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のプラスチック光学部品の反射防止膜。
【請求項7】
前記高屈折率層の屈折率(n)は、1.90<n<2.50である請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のプラスチック光学部品の反射防止膜。
【請求項8】
前記プラスチック光学部品基材は、ポリカーボネート樹脂、又は、シクロオレフィンポリマー樹脂から成る請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のプラスチック光学部品の反射防止膜。
【請求項9】
プラスチック光学部品基材の表面に反射防止膜を形成するプラスチック光学部品の反射防止膜製造方法であって、
プラスチック光学部品基材上に、プラズマ化学気相法により、有機系ケイ素化合物を成膜して、応力緩和層を形成する応力緩和層形成工程と、
当該応力緩和層上に、真空蒸着法又はスパッタ法により高屈折率層を成膜し、この高屈折率層の表面に、プラズマ化学気相法により有機系ケイ素化合物を成膜して低屈折率層を積層し、当該高屈折率層及び当該低屈折率層の二層を一組とする反射防止ペア層を少なくとも二組積層することにより反射防止構造体を形成する反射防止構造体形成工程と、
を備えることを特徴とするプラスチック光学部品の反射防止膜製造方法。
【請求項10】
前記プラスチック光学部品基材の表面に、真空蒸着法により、不飽和ケイ素(但し、SiO、1<x<2)及び酸化アルミニウムのいずれか一種、又は、これらの混合物を成膜して、密着層を形成する密着層形成工程を備え、
前記応力緩和層形成工程では、当該密着層の表面に、前記応力緩和層を形成する請求項9に記載のプラスチック光学部品の反射防止膜製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−247512(P2012−247512A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117520(P2011−117520)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】