説明

プラスチック基板のコーティング用結合層

プラスチック基板と選択不飽和を有するプラズマ重合したシクロシロキサンの結合層とからなる物品及びその形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、プラスチック基材(基板)との結合層としての、ケイ素原子上に1以上のアルケニル置換基を有するシクロシロキサン、それからなる物品、及びかかる物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは数多くの多様な設置条件で基板材料(基材)として広範囲の用途がある。その理由として、特に、プラスチックは、一般に軽量であり、高い延性をもち、高度の可視光透過性を示すことがある。ポリカーボネート(PC)のようなある種のプラスチックは高い衝撃強さという別の利点も有する。プラスチック基板の用途としては、限定されることはないが、自動車の窓、ヘッドランプ及びボディーパネル、建築用の窓、ディスプレイ、太陽電池及びコレクター、航空機の窓及びキャノピー、並びに電気製品がある。殆どの用途で、プラスチック基板には、1以上の機能性コーティングが設けられる。例えば、自動車用の窓は、最低でも、日光への暴露から保護するための紫外線(UV)遮断コーティングと、引っ掻きから保護するための耐磨耗性コーティングとの両方を必要とする。また、自動車用の窓は赤外線(IR)反射コーティング、ヒーター格子用の透明な導電性コーティング、及び/又はエレクトロクロミックコーティングを有しているのが望ましい。ディスプレイ、太陽電池及び二重ガラス窓では、酸素や水に対するバリアコーティングが重要である。
【0003】
必要な機能を提供するとはいうものの、コーティングは、目的とする層状化物品に対して最終的に有害となる固有の特性をもっていることが多い。例えば、多くのコーティングは、その下にあるプラスチック基板と大幅に異なるモジュラス(弾性率)値及び熱膨張係数(CTE)をもっている。この性質上の不一致により、熱サイクル期間中及び高湿度又は水浸漬への暴露中にコーティング内の層界面に大きな歪みを生じる可能性がある。すると、コーティングの層割れ及び/又は亀裂を起こす。
【0004】
この問題に対処する幾つかのアプローチが開発されている。一つの解答は、傾斜界面を用いて基板とコーティングとの間にコンプライアンスを提供するものである。例えば、米国特許第4927704号には、プラズマ支援化学蒸着(PECVD)により傾斜界面を形成してコンプライアンスを提供することが開示されている。このアプローチでは、ビニルトリメチルシラン(VTMS)又はヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を使用し、性質を基板の性質からコーティングの性質へと徐々に傾斜させている。このアプローチは、役に立つことはたつが、遅い蒸着速度工程でしか有効に使用することができない。工業的には低コストで高い蒸着速度の工程が好まれることから、この方法は経済的にみて実用的ではない。
【0005】
コンプライアンスを得るためのもう一つ別の試みは、単一の結合層を用いるものである。例えば、米国特許第5156882号には、米国特許第4224378号に記載されている一般式RSiZ(4−n)のオルガノシリコーン、及び米国特許第4242381号に記載されているRSi(OH)を使用することが開示されている。考えられる具体的な化合物の中には、ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)、HMDSO、VTMS及びオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)がある。
【0006】
米国特許第5718967号には、第1の接着促進剤層が、ジメトキシジメチルシラン(DMDMS)、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジエトキシジメチルシラン、メチルトリエトキシシラン、トリエトキシビニルシラン、テトラエトキシシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン、トリス(2−メトキシエトキシ)ビニルシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、HMDSO、HMDZ及びテトラメチルシラザンのプラズマ重合した有機ケイ素ポリマーである積層体が開示されている。
【特許文献1】米国特許第4927704号明細書
【特許文献2】米国特許第5156882号明細書
【特許文献3】米国特許第4224378号明細書
【特許文献4】米国特許第4242381号明細書
【特許文献5】米国特許第5718967号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの努力にもかかわらず、改良されたコンプライアンスを提供することによってより効果的な熱サイクルと加水分解安定性を可能にする結合層に対するニーズが未だに存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、プラスチック基板と、このプラスチック基板の表面上の結合層とからなり、この結合層がプラズマ反応したシクロシロキサンからなり、このシクロシロキサンがケイ素原子に結合した1以上のC〜C10アルケニル基を有する物品、及びその製造方法に関する。一つの実施形態において、シクロシロキサンはヘプタメチル(ビニル)テトラシロキサンからなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
プラスチック基板(基材)
プラスチック基板は、制限されることなく、熱可塑性ポリマー及び熱硬化性ポリマーからなるものを包含する。この基板は、単なる例示として、通例1種類のポリマー樹脂からなる。例えば、基板はポリカーボネートからなっていてもよい。基板を形成するのに適切なポリカーボネートは当技術分野で周知であり、一般に次式の繰返し単位を含んでいる。
【0010】
【化1】

【0011】
式中、Rはポリマー生成反応に使用した二価フェノール[例えば、ビスフェノールAともいわれる2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン]又は有機ポリカルボン酸(例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、など)の二価芳香族基である。これらのポリカーボネート樹脂は、1種以上の二価フェノールをホスゲン、ハロホルメート又は炭酸エステルのようなカーボネート前駆体と反応させることによって製造することができる芳香族カーボネートポリマーである。本発明でプラスチック基板として使用することができるポリカーボネートの一例はGeneral Electric Company製のLEXAN(登録商標)である。
【0012】
芳香族カーボネートポリマーは、例えば米国特許第3161615号、同第3220973号、同第3312659号、同第3312660号、同第3313777号、同第3666614号、同第3989672号、同第4200681号、同第4842941号及び同第4210699号に記載されているように当技術分野で周知の方法によって製造することができる。
【0013】
また、プラスチック基板は、カーボネート前駆体、二価フェノール、及びジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を反応させることによって製造することができるポリエステルカーボネートからなっていてもよい。ポリエステルカーボネートは、例えば米国特許第4454275号、同第5510448号、同第4194038号、及び同第5463013号に記載されている。
【0014】
プラスチック基板はまた、熱可塑性又は熱硬化性材料からなっていてもよい。適切な熱可塑性材料の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリメタクリレートエステル、ポリアクリル酸、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、フッ素含有樹脂並びにポリスルホンがある。適切な熱硬化性材料の例としてはエポキシ及び尿素 メラミンがある。
【0015】
アクリルポリマーは、やはり当技術分野で周知であるが、プラスチック基板を形成することができる別の材料である。アクリルポリマーは、アクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、などのようなモノマーから製造することができる。置換されたアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル、例えばアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、及びアクリル酸n−ブチルも使用できる。
【0016】
ポリエステルもプラスチック基板を形成するのに使用できる。ポリエステルは当技術分野で周知であり、有機ポリカルボン酸(例えば、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、ドデカン二酸、など)又はそれらの無水物の、第一又は第二ヒドロキシル基を含有する有機ポリオール(例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びシクロヘキサンジメタノール)によるポリエステル化によって製造することができる。
【0017】
ポリウレタンは、プラスチック基板を形成することができる別の一群の材料である。ポリウレタンは当技術分野で周知であり、一般にポリイソシアネートとポリオールとの反応によって製造される。有用なポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びビウレット並びにこれらのジイソシアネートのトリイソシアヌレートがある。有用なポリオールの例としては、低分子量脂肪族ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、脂肪アルコール、などがある。
【0018】
基板を形成することができるその他の材料の例として、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、VALOX(登録商標)(ポリブチレンフタレート、General Electric Co.から入手可能)、XENOY(登録商標)(LEXAN(登録商標)とVALOX(登録商標)のブレンド、General Electric Co.から入手可能)などがある。本発明の様々な実施形態において、基板は、ポリカーボネート(PC)(General Electric Companyにより商標Lexan(登録商標)で販売)、ポリエステルカーボネート(PPC)、ポリエーテルスルホン(PES)(Amocoにより商標Radel(登録商標)で販売)、ポリエーテルイミド(PEI又はポリイミド)(General Electric Companyにより商標Ultem(登録商標)で販売)及びアクリルのような透明なポリマー性材料からなる。
【0019】
プラスチック基板は、慣用法で、例えば射出成形、押出、冷間成形、真空成形、ブロー成形、圧縮成形、トランスファー成形、熱成形、などにより成形することができる。この物品は任意の形状でよく、また商品としての完成品である必要はない。すなわち、切断若しくはある大きさにしたり又は機械的に賦形して完成品にするシート材料又はフィルムであってもよい。基板は透明であっても透明でなくてもよい。基板は剛性であっても可撓性であってもよい。以上の材料相互のブレンド、及び充填材、可塑剤、ティント(tint)、着色剤(color)などのような添加剤とのブレンドも考えられる。
【0020】
好ましい基板はポリカーボネートから形成される。本明細書で使用する場合、用語ポリカーボネートは、ポリカーボネートとポリエステルや衝撃改質剤のような他の材料とのブレンドも意図している。
【0021】
当業者には了解されるように、基板用のプラスチック、及び基板自体の厚さの選択はその物品に対して設定する用途の関数である。基板の厚さは、制限されることはなく、通例0.05mm以上であり、他の実施形態では厚さが約4〜約6mmである。
【0022】
結合層
結合層(BL)はプラズマ反応したシクロシロキサンからなり、このシクロシロキサンはケイ素原子に結合した1以上のC〜C10アルケニル基を有する。一つの実施形態において、シクロシロキサンは非置換であることができ、別の実施形態においては、1以上のC〜C低級アルキル基でオルガノ置換されていることができる。すなわち、シクロシロキサンは1以上のメチル、エチル、プロピル及び/又はイソプロピル基又はこれらの組合せで置換されていることができる。特定の実施形態では、シクロシロキサンが環状トリマー(すなわちシクロトリシロキサン)、環状テトラマー(すなわちシクロテトラシロキサン)、又は環状ペンタマー(すなわちシクロペンタシロキサン)となっている。2〜10個の炭素原子を有する1以上のアルケニル基がシクロシロキサンのケイ素原子に直接結合している。特定の実施形態においては、唯一つのかかるアルケニル基が前記のように結合している。アルケニル基が3個以上の炭素原子を有している実施形態の場合、二重結合はその部分中のどこに位置していることもできる。別の実施形態において、このようなアルケニル基は末端の炭素−炭素二重結合を有する。アルケニル基の例としてはビニル、アリル、ヘキセニルなどがある。
【0023】
本発明で考えられる特定のシクロシロキサンは、制限されることなく、次式の構造を有する。
【0024】
【化2】

【0025】
式中、各Rは独立に水素、メチル又はエチルであるが、但し1以上のRはC〜C10アルケニル基であり、nは2〜8の整数である。
【0026】
本発明の一つの実施形態においては、1以上のRがC〜Cアルケニル基であり、nが3、4又は5である。
【0027】
本発明の別の実施形態においては、各Rがメチルであるが、但し唯一つのRがC〜Cアルケニル基、例えばビニルであり、nが4である。本発明の特定の実施形態において、シクロシロキサンはヘプタメチル(ビニル)シクロテトラシロキサン(ビニル−D4)である。
【0028】
シクロシロキサン結合層は、当技術分野で公知のプラズマ蒸着法、例えば、一例として米国特許第6420032号に記載されているプラズマ支援化学蒸着(PECVD)により、誘導結合プラズマ(ICP)、電子サイクロトロン共鳴(ECR)などにより、膨張熱プラズマ(ETP)、殊に本出願人の米国特許第6397776号に記載されているインラインETPにより、プラスチック基板に設けることができる。またこのプラスチック基板は、シクロシロキサンの蒸着前に公知の方法で、例えばアルコール溶媒、例えばイソプロパノールでの洗浄などのように清浄化してもよい。
【0029】
結合層の厚さはプラスチック基板及びその物品の前記したような用途設定の種類に依存する。用途設定としては、制限されることなく、物品が好ましくは乗用車、トラック、オートバイ、トラクター、ボート又は飛行機の窓のような車輌の窓であるものがある。基板はまた、テレビの画面、LCDスクリーン、コンピューターモニタースクリーン、プラズマディスプレイスクリーン又はコンピューターモニター用の防眩ガードのようなディスプレイスクリーンからなってもよい。また、これらのスクリーンは、UV吸収及びIR反射層で被覆して、そのスクリーンが黄変するのを防ぐと共にUV線及び熱がディスプレイ内部の電子部品を損傷するのを防ぐ。さらにまた、基板は、太陽電池や液晶ディスプレイ(LCD)の基板のような電子機器基板からなることもできる。制限されることはないが、結合層は通常10nm以上の厚さである。様々な実施形態で、結合層は約20〜約100nmの厚さである。さらに他の実施形態では約200〜約500nmの厚さである。
【0030】
プラズマ反応により結合層を設けた後、その上に必要に応じて他のコーティングを設置してもよい。例えば、1以上のUV吸収層(通例金属酸化物であるが必ずというわけではない)を設けてもよい。単なる例示として、好ましい金属酸化物としては、当技術分野で公知の酸化亜鉛(ZnO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)やアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)のようなドープ酸化亜鉛、二酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(Ce)などがある。その他のコーティングとしては、当技術分野で公知の酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ(SnO)などのような材料から形成された透明導電性コーティングがある。
【0031】
さらに別の実施形態においては、場合により1以上の耐磨耗性コーティングを使用してもよい。例えば、かかるコーティングはUV吸収層の上に設けることができる。この耐磨耗性層としては、当技術分野で公知のもの、例えばプラズマ反応し酸化したD4、HMDSO、TMDSOなどのような有機ケイ素材料で形成されたものがある。
【0032】
また場合により、IR反射コーティングも使用できる。当技術分野で公知のように、これらには、制限されることなく、銀(Ag)やアルミニウム(Al)のような金属、及び例えばITOのようなIR反射性酸化物があり、また制限されることなく、TiO/Ag/TiO、ZnO/Ag/ZnO、IZO/Ag/IzO及びAZO/Ag/AZOのような多層積層体もあり、さらにこれらの組合せがある。
【0033】
本発明は一般に、プラスチック基板上にコーティングを使用する必要があるあらゆる用途に有用である。より特定的には、自動車用の窓、ヘッドランプ及びボディーパネル、建築用の窓、ディスプレイ、太陽電池及びコレクター、航空機の窓及びキャノピー、並びに電気製品のような用途向けの結合層として有用である。最も具体的な用途は自動車用窓ガラスである。
【実施例】
【0034】
以下の実施例は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0035】
UV遮断及び耐磨耗性コーティングの熱サイクルに対する抵抗性及び加水分解安定性を改良するために結合層としてポリカーボネート(PC)基板上におけるヘプタメチル(ビニル)シクロテトラシロキサン(ビニル−D4)のプラズマ反応を使用した。蒸着は全て、米国特許第6397776号に記載されているインライン構成の膨張熱プラズマ(ETP)を用いて行った。各層に別個のETPを使用した。PCシートをイソプロピルアルコールで洗浄し、濯ぎ、風乾した後、一晩80〜100℃の真空中でベーキングした。基板をロードロック内のラック(棚)上に載せ、ポンプで通例1mTまで引いた後、インラインコーター中に導入した。基板を一連のETPに通過させることによってコートした。通例、第1のステーションは赤外線(IR)ヒーターであり、結合層の蒸着に先立ってPCの表面温度を所望のレベルまで上昇させた。
【0036】
比較のために、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、ビニルトリメチルシラン(VTMS)及びテトラメチルジシロキサン(TMDSO)のような各種オルガノシランを用いて同様な結合層を製造した。比較の判定基準は、クロスハッチテープ試験(1B〜5Bのユニットによる評価系を用いたASTM1044)又は引張試験によって測定されるPCに対する初期接着力、65℃で3日間水浸漬後の接着力(「WS adh」)、及び−50〜135℃の熱サイクル10回後の接着力又は亀裂であった。
【0037】
これらの試験を、PC/BL/UV吸収層及び4つの耐磨耗性層からなる6層系に対して繰り返すことにより、結合層としてのコーティングの性能を評価した。UV吸収層は米国特許第6420032号に記載されているようにZnOを含んでいた。各耐磨耗性層はプラズマ重合し酸化したD4から製造した。表1に、これらのBL材料性能を比較して示す。パッケージの性能は、初期接着力及び水浸漬後の接着力に対して「P−adh」及び「P−WS adh」として示す。検討した材料は全て、熱サイクル中積層体に良好なコンプライアンスを提供し、その結果6層パッケージは熱サイクル試験に合格し、又接着力の損失又は亀裂発生はなかった。重大な差は、自立コーティングとして、及び6層構造の結合層としての蒸着直後と水浸漬後の接着力であった。表1に示したように、V−D4は初期及び水浸漬後に自立コーティング及び6層構造の結合層として優れた接着力を示した。V−D4では、水浸漬の前後で合計34の試料を評価した。平均の接着力及び標準偏差は初期が3377及び1617であり、浸漬後が2838及び1243であり、水浸漬後に統計的に有意な低下は示さなかった。
【0038】
このパッケージはまた、熱サイクル及び水浸漬後のクロスハッチ試験にも合格した(5B接着力)。幾つかの試料は6日の浸漬にも合格した。結合層をさらに強めるために、コーティングの厚さを100〜600nmで増大させてPCに設けた。V−D4の場合、性能に差は観察されなかった。比較として、ビニル基を含まないD4は接着力が極めて低く、非常に薄いコーティングでさえ水浸漬後に低下した。約300nm以上のコーティングは水浸漬後劣化した。薄いD4結合層を有するパッケージは3日間の水浸漬中に劣化し、典型的な値は2〜3Bになり、幾つかの試料は1Bで自然に層割れが発生した。DMDMSの性能はD4より多少良好であり、初期接着力は改良されて1787psiaであるが、水浸漬性能は悪く316psiaであった。D4の典型的なパッケージ性能は初期接着力が良好であるが水浸漬性能が悪く、典型的な値は2〜3Bであり、幾つかの試料は1Bで自然に層割れが生じた。VTMSは良好な初期接着力を有しているが、水浸漬性能が悪かった。しかし、VTMS結合層を有する殆どのパッケージは水浸漬中自然に層割れを起こした。TMDSOは初期接着力が悪く、水浸漬性能も悪かった。V−D4結合層の追加の特徴は、PC基板のプラズマ処理が必要ないので、一つの工程が省略され、それに関連してコストが低下することである。
【0039】
さらに、本発明の実施により、酸素をプラズマに添加する場合の堅牢性が改良される。例えば、以前の場合は、ハード層として例えばD4又はDMDMSを用いてプラズマに追加の酸素を供給すると、例えば300nm程度の薄めのコーティング厚さで層割れが生じた。これに対して、例えばV−D4を結合層として使用する場合を非限定例として具体的に説明した本発明においては、厚めのコーティング、例えば600nmでも接着力を維持したまま約0.2〜約0.06リットル/分(LPM)の酸素をプラズマに追加導入することができる。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材と、
プラスチック基材の表面上の結合層と
を含んでなる物品であって、結合層がプラズマ反応したシクロシロキサンを含んでなり、シクロシロキサンがケイ素原子に結合したC〜C10アルケニル基を1以上有する、物品。
【請求項2】
前記シクロシロキサンが次式の構造を有する、請求項1記載の物品。
【化1】

式中、各Rは独立に水素、メチル又はエチルであるが、但し1以上のRはC〜Cアルケニル基であり、nは2〜8の整数である。
【請求項3】
1以上のRがC〜Cアルケニル基であり、nが3、4又は5である、請求項2記載の物品。
【請求項4】
各Rがメチルであるが、但し唯一つのRがC〜Cアルケニル基である、請求項3記載の物品。
【請求項5】
前記アルケニル基が末端の炭素−炭素二重結合を有する、請求項4記載の物品。
【請求項6】
前記アルケニル基がビニルであり、nが4である、請求項5記載の物品。
【請求項7】
前記プラスチック基材が熱可塑性又は熱硬化性ポリマーからなる、請求項1記載の物品。
【請求項8】
前記プラスチック基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリメタクリレートエステル、ポリアクリル酸、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、フッ素含有樹脂及びポリスルホン、アクリルポリマー並びにポリウレタンからなる、請求項6記載の物品。
【請求項9】
前記結合層が10nm以上の厚さである、請求項1記載の物品。
【請求項10】
さらに、前記結合層の上に1以上の追加コーティングを含んでおり、追加コーティングが1以上のUV吸収層、1以上の耐磨耗性層、1以上の透明導電性層、又は1以上のIR反射層である、請求項1記載の物品。
【請求項11】
熱硬化性又は熱可塑性基材と、
基材の表面上の結合層と
を含んでなり、結合層がプラズマ反応したシクロシロキサンからなり、シクロシロキサンがケイ素原子に結合した1つのC〜Cアルケニル基を有しており、シクロシロキサンがシクロトリシロキサン、シクロテトラシロキサン又はシクロペンタシロキサンである、物品。
【請求項12】
前記基材が熱可塑性であり、前記シクロシロキサンがシクロテトラシロキサンであり、前記アルケニル基がビニルである、請求項11記載の物品。
【請求項13】
ポリカーボネート基材と、
ポリカーボネート基材の表面上の結合層と
からなり、結合層がプラズマ反応したヘプタメチル(ビニル)シクロテトラシロキサンからなる、多層物品。
【請求項14】
プラスチック基材を準備し、
プラスチック基材の表面上でシクロシロキサンをプラズマ反応させて結合層を形成する
ことを含んでなる、多層物品の形成方法であって、シクロシロキサンがケイ素原子に結合したC〜C10アルケニル基を1以上有する、方法。
【請求項15】
前記プラズマ反応を、膨張熱プラズマ、プラズマ支援化学蒸着、誘導結合プラズマ又は電子サイクロトロン共鳴によって行う、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記シクロシロキサンが次式の構造を有する、請求項14記載の方法。
【化2】

式中、各Rは独立に水素、メチル又はエチルであるが、但し1以上のRはC〜Cアルケニル基であり、nは2〜8の整数である。
【請求項17】
1以上のRがC〜Cアルケニル基であり、nが3、4又は5である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
各Rがメチルであり、但し唯一つのRがC〜Cアルケニル基である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記アルケニル基が末端の炭素−炭素二重結合を有する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記アルケニル基がビニルであり、nが4である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記プラスチック基材が熱可塑性又は熱硬化性ポリマーからなる、請求項14記載の方法。
【請求項22】
前記プラスチック基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリメタクリレートエステル、ポリアクリル酸、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、フッ素含有樹脂及びポリスルホン、アクリルポリマー並びにポリウレタンからなる、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記結合層を約200〜約500nmの厚さで設ける、請求項11記載の方法。
【請求項24】
さらに、前記結合層の上にUV吸収層を設けることを含んでおり、前記UV吸収層がZnO、TiO又はCeからなる、請求項12記載の方法。
【請求項25】
熱硬化性又は熱可塑性基材を準備し、
基材の表面上でシクロシロキサンをプラズマ反応させて結合層を形成する
ことを含んでなり、シクロシロキサンがケイ素原子に結合した1つのC〜Cアルケニル基を有しており、シクロシロキサンがシクロトリシロキサン、シクロテトラシロキサン、又はシクロペンタシロキサンである、多層物品の形成方法る
【請求項26】
前記基材が熱可塑性であり、前記シクロシロキサンがシクロテトラシロキサンであり、前記アルケニル基がビニルである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
ポリカーボネート基材を準備し、
ポリカーボネート基材の表面上でヘプタメチル(ビニル)シクロテトラシロキサンをプラズマ反応させて結合層を形成する
ことを含んでなる、多層物品の形成方法。
【請求項28】
さらに、結合層の上に1以上の耐磨耗性層を設けることを含んでなる、請求項27記載の方法。

【公表番号】特表2006−502026(P2006−502026A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−543221(P2004−543221)
【出願日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2003/023446
【国際公開番号】WO2004/033204
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】