説明

プラスチック塗料用樹脂組成物およびそれを用いたプラスチック塗料

【課題】高光沢でABS樹脂、ABS/PC樹脂、PS樹脂素材からなる何れのプラスチック成型品に対しても優れた密着性と耐温水密着性および耐温水白化性を有する水性エマルジョンを塗料用樹脂成分に有するプラスチック塗料用樹脂組成物およびそれを用いたプラスチック塗料を提供する事を課題とする。
【解決手段】(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを必須成分として含有するエチレン性不飽和単量体を界面活性剤の存在下、乳化重合して、ガラス転移温度が50℃以上の水性エマルジョンを樹脂成分とするプラスチック塗料用樹脂組成物を得、該プラスチック塗料用樹脂組成物を用いてプラスチック塗料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、家電製品、OA機器等のプラスチック表面に塗装されるプラスチック塗料を得るために用いられるプラスチック塗料用樹脂組成物およびそれを用いたプラスチック塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック塗料は、携帯電話、家電製品、OA機器等のプラスチック成型品の商品価値向上のために装飾性と機能性付与を目的としてプラスチック表面に塗装される塗料である。具体的には、プラスチック塗料を塗装する事により、プラスチック成型品表面にない多色仕上げ、外観および質感を付与させる事が可能となり、また機能面では耐磨耗性、耐変退色性、耐皮脂性、高光沢性、高耐候性、電気絶縁性等の耐性の付与を図る事ができる。
プラスチック塗料は、一般に樹脂、着色剤、添加剤、媒体で構成されている。樹脂形態としてはアクリル樹脂を主成分としたものが一般的であり、1液タイプのアクリルラッカー系塗料と2液タイプのアクリルウレタン系塗料に大別される。現在使用されているプラスチック塗料のほとんどは、媒体が有機系溶剤で構成されている溶剤系塗料であり、該プラスチック塗料を用いると塗装乾燥時に多量の有機溶剤が飛散する事から、必ずしも環境に適合する塗料とは言えない。
【0003】
この環境適合対策として、塗料のハイソリッド化と塗料用樹脂として水性エマルジョンを用いた水性化が展開されている。中でも塗料用樹脂として水性エマルジョンを用いる事は、揮発性の有機溶剤を全く使用しないため、最も注目されている樹脂形態である。
しかしながら、水性エマルジョンを用いた水系のプラスチック塗料は、溶剤系と比較してプラスチック成型品表面の濡れ性および浸透性に劣り、プラスチック素材との密着性および樹脂形態が水性エマルジョンである事による耐温水密着性および耐温水白化性に問題があった。また、水性エマルジョンからなるプラスチック塗料をプラスチック表面に塗装した場合には、溶剤系塗料と比較して塗装表面の光沢が劣るといった問題があった。
これらの問題を解決する方法として、平均粒子径が500nm以下で、エマルジョン粒子に架橋構造を持たせる事により、プラスチック塗料の透明性、耐水性を向上させた水性エマルジョンが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この方法では光沢が不十分であり、全てのプラスチック素材に対する密着性の面で問題がある。
また、反応性乳化剤を用いて水性エマルジョンを微粒子化させる事により、プラスチック基材との密着性を向上させた水性エマルジョンが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
この方法でも、光沢および全てのプラスチック素材に対する密着性の面で問題がある。
さらに、耐水性およびプラスチック基材との密着性を向上させるため、重量平均分子量が2,000以上のアルコール性水酸基を含有する水溶性高分子を分散安定剤に用いた水性エマルジョンが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、この方法でも、全てのプラスチック素材に対する密着性の面で問題があった。
【0004】
一般に、携帯電話、家電製品、OA機器等のプラスチック成型品に採用されている素材は、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)、ABS/PC(ポリカーボネート)樹脂、PS(ポリスチレン)樹脂が主流であり、これまで検討されてきた前述の様な方法で得られる水性エマルジョンを塗料用樹脂に用いたプラスチック塗料では、これら素材全てに対して高い密着性と耐温水密着性および耐温水白化性を満足する塗料は見当たらず、現状では環境問題を抱えながらも圧倒的に溶剤系塗料の使用が中心となっている。
【0005】
【特許文献1】特開平2−73803号公報
【特許文献2】特開平6−116528号公報
【特許文献3】特開2001−152076公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高光沢でABS樹脂、ABS/PC樹脂、PS樹脂素材からなる何れのプラスチック成型品に対しても優れた密着性と耐温水密着性および耐温水白化性を有する水性エマルジョンを塗料用樹脂成分に有するプラスチック塗料用樹脂組成物およびそれを用いたプラスチック塗料を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、高光沢でABS樹脂、ABS/PC樹脂、PS樹脂素材からなる何れのプラスチック成型品に対しても優れた密着性と耐温水密着性および耐温水白化性を有する水性エマルジョンを塗料用樹脂成分に有するプラスチック塗料用樹脂組成物およびそれを用いたプラスチック塗料を得る事を目的として鋭意検討を重ねた。その結果、特定量の(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを必須成分とするエチレン性不飽和単量体を界面活性剤の存在下、乳化重合して得られるガラス転移温度が50℃以上の水性エマルジョンを樹脂成分とするプラスチック塗料用樹脂組成物を用いる事により、高光沢でABS樹脂、ABS/PC樹脂、PS樹脂素材からなる何れのプラスチック成型品に対しても優れた密着性と耐温水密着性および耐温水白化性を有するプラスチック塗料を得る事ができる事を見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを必須成分として含有するエチレン性不飽和単量体を界面活性剤の存在下、乳化重合して得られるガラス転移温度が50℃以上の水性エマルジョンを樹脂成分とするプラスチック塗料用樹脂組成物、
(2)水性エマルジョンの平均粒子径が200nm以下である上記(1)に記載のプラスチック塗料用樹脂組成物、
(3)(メタ)アクリル酸シクロヘキシルが、全エチレン性不飽和単量体中に10〜70質量%含有される上記(1)または(2)に記載のプラスチック塗料用樹脂組成物、
(4)エチレン性不飽和単量体として、不飽和カルボン酸および(メタ)アクリル酸グリシジルを含有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載のプラスチック塗料用樹脂組成物、
(5)界面活性剤が、ラジカル重合性界面活性剤である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のプラスチック塗料用樹脂組成物、
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のプラスチック塗料用樹脂組成物を用いたプラスチック塗料、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高光沢でABS樹脂、ABS/PC樹脂、PS樹脂素材からなる何れのプラスチック成型品に対しても優れた密着性と耐温水密着性および耐温水白化性を有する水性エマルジョンを塗料用樹脂成分に有するプラスチック塗料用樹脂組成物およびそれを用いたプラスチック塗料を提供する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを必須成分とする理由は、ABS樹脂、ABS/PC樹脂、PS樹脂素材からなる何れのプラスチック成型品に対しても優れた密着性を発現させるためである。またアクリル酸シクロヘキシルとメタクリル酸シクロヘキシルをそれぞれ単独または併用してもよい。ここで、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルとはアクリル酸シクロヘキシルまたはメタクリル酸シクロヘキシルを表す。
【0011】
本発明に用いられる(メタ)アクリル酸シクロヘキシル以外のエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられ、また得られる水性エマルジョンの乳化重合安定性または機械的安定性を向上させるために、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられ、不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸またはこれら不飽和ジカルボン酸のハーフエステル等が挙げられる。
【0012】
さらに、得られる水性エマルジョンの耐溶剤性をより向上させるために、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の不飽和基を2個以上有する架橋性多官能単量体、または分子量を調整するためにメルカプタン、チオグリコール酸及びそのエステル、β−メルカプトプロピオン酸及びそのエステルなどを用いても構わない。
【0013】
本発明の水性エマルジョンのガラス転移温度(Tg)は、50℃以上である必要がある。Tgが50℃未満では、プラスチック塗料から塗装された塗膜の硬度が低く、プラスチック素材に対する密着性、耐温水密着性、耐磨耗性、耐擦り傷性に問題がある。
【0014】
本発明の乳化重合の際に用いられる界面活性剤としては、通常のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が用いられる。アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられ、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが挙げられる。
また、ラジカル重合性界面活性剤としては、反応性であれば特に制限されるものではないが、より好ましいラジカル重合性界面活性剤としては、以下の一般式(1)、(2)及び(3)で表される乳化剤が挙げられる。
【0015】
【化1】

(R:アルキル基を表す)
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

(R:アルキル基、M:NH4又はNaをそれぞれ表す)
【0018】
界面活性剤の使用量としては、好ましくは不飽和単量体混合物の総質量に対して0.3〜3質量%である。界面活性剤の使用量がこの範囲内にあると、乳化重合が順調に行われ、また、得られた水性エマルジョンの粒子径が大きくなることもなく、プラスチック塗料塗装後の耐温水密着性および耐温水白化性、光沢も良好となり、また、樹脂の耐温水性の低下がなく、プラスチック塗料としての耐温水密着も良好となる。
乳化重合の際に用いられるラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド等が用いられ、必要に応じて重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤を併用したレドックス系重合開始剤を適用してもさしつけない。
【0019】
本発明の水性エマルジョンの乳化重合法としては、一括して仕込む重合方法、各成分を連続供給しながら重合する方法などが適用される。重合は通常30〜90℃の温度で攪拌下に行われる。尚、本発明において共重合した不飽和カルボン酸を重合中または重合終了後に塩基性物質を加えてpHを調整する事により、乳化重合時の重合安定性、機械的安定性、化学的安定性を向上させることができる。また、プラスチック塗料作製時の造膜助剤を添加する際の助剤混和性を著しく向上させることができる。この場合、得られる水性エマルジョンのpHを7以上になるよう調整する事が好ましい。
使用される塩基性物質としては、アンモニア、エチルアミン、エタノールアミン、苛性ソーダ等を使用する事ができる。
【0020】
本発明のプラスチック塗料は、前述の水性エマルジョンからなるプラスチック塗料用樹脂組成物に、造膜助剤、着色剤を添加する事により得られる。必要に応じてレベリング剤、消泡剤、防腐剤、耐候性をより向上させるために紫外線吸収剤、光安定剤等を添加することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、下記の実施例が本発明の全てを制限するものではなく、本記載の内容を逸脱しない範囲で実施したものは、全て本発明の技術範囲に含まれる。また、部、%は、特に断りのない場合はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0022】
以下に本発明により得られたプラスチック塗料の性能評価試験方法について説明する。
【0023】
(1)水性エマルジョンの粒子径
乳化重合により得られた水性エマルジョンの平均粒子径は、日機装(株)製MICROTRAC UPA150を用いて測定した。
(2)光沢
プラスチック素材としてABS基材に下記で得られたプラスチッック塗料を湿潤状態で50g/m2塗布し、60℃、30分加熱乾燥後、23℃、65%RH下で24時間放置した物を試験片とした。光沢は、スガ試験機(株)製デジタル変角光沢計UGV−5Dを用いて測定し、以下の基準で光沢性を評価した。
○:光沢性有り、△:やや光沢性に劣る、×:光沢性劣る
(3)一次密着性
各プラスチック素材に下記で得られたプラスチッック塗料を湿潤状態で50g/m2塗布し、60℃、30分加熱乾燥後、23℃、65%RH下で24時間放置した物を試験片とした。一次密着性は、JIS K−5400に準じて、1mm角100個の碁盤目のセロテープ(登録商標)剥離試験を実施した。剥離しない碁盤目数を計測し、以下の基準で評価した。
○:90</100、△:50〜90/100、×:50>/100
(4)耐温水密着性
一次密着性試験と同様の試験片を、50℃の温水に5時間浸漬させた後、一次密着性と同様の剥離試験を実施した。剥離しない碁盤目数を計測し、以下の基準で評価した。
○:90</100、△:50〜90/100、×:50>/100
(5)耐温水白化性
一次密着性試験と同様の試験片を、50℃の温水に5時間浸漬させた後、その外観を観察し、以下の基準で評価した。
○:変化無し、△:わずかな変化(白化)有り、×:変化(白化)有り
【0024】
(I)実施例で用いる各種水性エマルジョンの合成
(1)水性エマルジョンAの合成
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、イオン交換水180部および界面活性剤としてレベノールWX(株式会社花王製)2部を仕込み、75℃に昇温した。予めレベノールWX5部、メタクリル酸シクロヘキシル170部、スチレン180部、メタクリル酸メチル85部、メタクリル酸10部、イオン交換水200部からなるモノマー乳化物を3時間かけて滴下した。同時に重合開始剤として過硫酸アンモニウム1部をイオン交換水60部に溶解したものを3時間かけて80℃で滴下し重合した。滴下終了後、2時間熟成後、冷却し、アンモニア水3部を添加して水性エマルジョンを得た。
得られた水性エマルジョンの不揮発分は50.5%、粘度は4000mPa・s、pHは8.6であった。
【0025】
(2)水性エマルジョンBの合成
界面活性剤としてレベノールWXの変わりに、アデカリアソープSR−10(旭電化工業株式会社製)に変えた以外は水性エマルジョンAの合成と同様な操作を行った。得られた水性エマルジョンの不揮発分は50.4%、粘度は3500mPa・s、pHは8.3であった。
【0026】
(3)水性エマルジョンCの合成
メタクリル酸シクロヘキシル170部およびスチレン180部を、メタクリル酸シクロヘキシル120部およびスチレン230部に変えた以外は水性エマルジョンBの合成と同様な操作を行った。得られた水性エマルジョンの不揮発分は50.2%、粘度は5500mPa・s、pHは8.4であった。
【0027】
(4)水性エマルジョンDの合成
メタクリル酸シクロヘキシル170部およびスチレン180部を、メタクリル酸シクロヘキシル220部およびスチレン130部に変えた以外は水性エマルジョンBの合成と同様な操作を行った。得られた水性エマルジョンの不揮発分は50.3%、粘度は2000mPa・s、pHは8.5であった。
【0028】
(5)水性エマルジョンEの合成
メタクリル酸シクロヘキシル170部を、メタクリル酸シクロヘキシル90部およびアクリル酸シクロヘキシル80部に変えた以外は水性エマルジョンBの合成と同様な操作を行った。得られた水性エマルジョンの不揮発分は50.4%、粘度は2500mPa・s、pHは8.4であった。
【0029】
(6)水性エマルジョンFの合成
スチレン180部をスチレン130部、アクリル酸ブチル50部に変えた以外は水性エマルジョンBの合成と同様な操作を行った。得られた水性エマルジョンの不揮発分は50.5%、粘度3000mPa・s、pH8.4であった。
【0030】
(7)水性エマルジョンGの合成
メタクリル酸メチル85部を、メタクリル酸メチル70部、メタクリル酸グリシジル15部に変えた以外は水性エマルジョンBの合成と同様な操作を行った。得られた水性エマルジョンの不揮発分は50.0%、粘度は4500mPa・s、pHは8.0であった。
【0031】
得られた水性エマルジョンを用いたプラスチック塗料の作成方法を詳細に説明する。
【0032】
実施例1
水性エマルジョンA100部に対して、造膜助剤として(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)15部と着色剤5部、消泡剤0.1部、防腐剤0.1部および粘度調整水を適量添加し、プラスチック塗料を得た。得られたプラスチック塗料の評価結果を表1に示した。
【0033】
実施例2〜7
水性エマルジョンB〜Gを用いた以外は実施例1と同様な操作を行い、プラスチック塗料を得た。得られたプラスチック塗料の評価結果を表1に示した。
【0034】
(II)比較例で用いる各種水性エマルジョンの合成
(1)水性エマルジョンHの合成
冷却管、温度計、攪拌機、滴下ロートを有するセパラブルフラスコに、イオン交換水180部およびレベノールWX 2部を仕込み、75℃に昇温した。予めレベノールWX 5部、スチレン350部、メタクリル酸メチル85部、メタクリル酸10部、イオン交換水200部からなるモノマー乳化物を3時間かけて滴下した。同時に重合開始剤として過硫酸アンモニウム1部をイオン交換水60部に溶解したものを3時間かけて80℃で滴下し、重合した。滴下終了後、2時間熟成後、冷却し、アンモニア水3部を添加して水性エマルジョンを得た。
得られた水性エマルジョンの不揮発分は50.5%、粘度は7000mPa・s、pHは8.5であった。
【0035】
(2)水性エマルジョンIの合成
スチレン180部を、スチレン70部、アクリル酸ブチル110部に変えた以外は水性エマルジョンBの合成と同様な操作を行った。得られた水性エマルジョンの不揮発分は50.3%、粘度は2500mPa・s、pHは8.5であった。
【0036】
比較例1
水性エマルジョンH100部に対して、造膜助剤として(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)15部と着色剤5部、消泡剤0.1部、防腐剤0.1部および粘度調整水を適量添加し、プラスチック塗料を得た。得られたプラスチック塗料の評価結果を表1に示した。
【0037】
比較例2
水性エマルジョンIを用いた以外は比較例1と同様な操作を行い、プラスチック塗料を得た。得られたプラスチック塗料の評価結果を表1に示した。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、特定範囲のTgを有し、特定の単量体の共重合から得られる水性エマルジョンを樹脂成分としたプラスチック塗料が、高光沢で、ABS樹脂、ABS/PC樹脂、PS樹脂素材からなる何れのプラスチック成型品に対しても優れた密着性と耐温水密着性および耐温水白化性を有する水性プラスチック塗料用樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを必須成分として含有するエチレン性不飽和単量体を界面活性剤の存在下、乳化重合して得られるガラス転移温度が50℃以上の水性エマルジョンを樹脂成分とすることを特徴とするプラスチック塗料用樹脂組成物。
【請求項2】
水性エマルジョンの平均粒子径が200nm以下である請求項1に記載のプラスチック塗料用樹脂組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸シクロヘキシルが、全エチレン性不飽和単量体中に10〜70質量%含有される請求項1又は2に記載のプラスチック塗料用樹脂組成物。
【請求項4】
エチレン性不飽和単量体として、不飽和カルボン酸および(メタ)アクリル酸グリシジルを含有する請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック塗料用樹脂組成物。
【請求項5】
界面活性剤が、ラジカル重合性界面活性剤である請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック塗料用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチック塗料用樹脂組成物を用いたプラスチック塗料。

【公開番号】特開2008−169345(P2008−169345A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5651(P2007−5651)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【特許番号】特許第3934152号(P3934152)
【特許公報発行日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】