説明

プラスチック容器用のPICVDコーティング

【課題】 プラスチック容器内で液体の高い保管寿命を実現するために耐pH性の障壁被覆を提供すること。
【解決手段】 本発明は、基体(2)および基体(2)上の被覆(3)を備える複合材料(1)、それから作製される容器、および複合材料(1)を作製するための方法に関し、被覆(3)が、基体(2)に面する少なくとも1つの第1の領域(31)および基体(2)に離れて面する少なくとも1つの第2の領域(32)をもたらし、第1の領域(31)が障壁層(4)を備え、第2の領域(32)が不活性化層(5)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック容器、及び、独立請求項の前提部分に従う上記プラスチック容器上に被膜(コーティング)を塗布するための方法に関している。
【背景技術】
【0002】
ペットボトルなどの中空のプラスチック容器は、大抵の場合、考えられる使用目的のための十分な気体遮断性を有していない。例えば二酸化炭素などの気体は、容器から外へ、または、その容器の中へ、拡散し得る。この作用は大抵望まれていない。とりわけ、この作用はこれらの容器に保存される飲料の保存期間の短縮を導く。
【0003】
そうでなければ種々の利点を有するプラスチック容器のこれらの欠点を解消するために、障壁層或いは拡散遮断層を塗布するための技術が開発された。気体および液体の浸透の低減を図るために、並びに、化学的な腐食(Angriffe)またはUV放射からプラスチック材料を保護するために、例えば3次元中空体のような基体材料に、障壁層を設けることが有利である。被覆によって、廉価な量産のプラスチック(合成物質)に、高価な特殊なプラスチックと同じような性質を実現出来る。また、例えば医薬品の包装の分野でのガラスの代替が、その様な量産のプラスチックにより可能となる。
【0004】
化学気相蒸着法(化学蒸着、CVD)は、そのような被覆を塗布するための特に効果的で安価な技術である。CVD法では、コーティングされる表面を囲む反応性の化学的な気体混合物に関しての、層の析出が生じる。とりわけ、SiO層などの酸化物層は、拡散障壁としての価値が実証されている。
【0005】
化学反応性の気体混合物を、CVDコーティングのために、熱的なまたはエネルギーを注入することによるプロセスガスのイオン化によって、発生出来る。通常、プラスチックは、熱的に十分に安定していないかまたは低い軟化温度を有するので、プラスチック表面のコーティングには、CVDコーティングは温度影響のため適していない。しかし、ここで、プラズマ促進CVDコーティング(PECVD)が可能性として考えられる。ここでもコーティングされる表面の加熱が起こるので、プラスチックなど温度の影響を受けやすい材料上に被覆を塗布するのに、プラズマインパルスCVDコーティング(PICVD)が特に適している。
【0006】
PECVDによりプラスチック上に塗布される現在のSiO障壁層は、しかしながら通常、浸出に対する抵抗が弱い。測定が示すように、障壁層は、液体の特定のイオン濃度或いは導電率と関連して、既に5以上のpH値から、ほとんど層状にエッチング除去される。ここで、炭酸ガスなしのミネラルウォーターおよび水道水は、層の安定性に関して、浸透フィルタを押し通された水または脱イオン水(純粋、VE水)よりも臨界的であると分る。
【0007】
pH値が高いほど、及び/または、充填製品の充填温度および保存温度が高いほど、エッチング除去のプロセスはより速く行われる。したがって、そのような層は以下のような欠点を有する。つまり、そのような障壁層を有するプラスチック容器内での対応する液体の保存に関連して、合成物と液体の間に、強く減少されたコーティングの障壁作用のみしか有さないという欠点を有する。上記障壁作用はpH値ならびに保存および充填の条件に依存する。
【0008】
例えば緑茶、コーヒー製品およびミルク製品ならびに特に炭酸ガスの入っていないミネラルウォーターまたは極わずかの炭酸ガスを加えたミネラルウォーターなどいくつかの飲料のpH値は、6.5から7.5の間の範囲にある。ここで、プラスチックの包装内で典型的な保存期間を実現するために、室温(23℃)で6か月から12か月の耐久性を有する、耐pH性の障壁被覆が要求される。
【0009】
一部の国々では、緑茶またはコーヒーのような特定の製品は、熱い、すなわち95℃までの温度で詰められ、引き続き室温で6ヶ月まで保存される、それは販売のために60℃で14日間まで保存するためである。これらの製品を飲食の直前にマイクロ波を用いて加熱するという趣旨の開発も存する。これは例えば自動販売機内にて使用されている。これらの条件下では、pH耐久性の障壁層を準備するという要求も存在する。
【0010】
薬剤の包装手段用には、室温で一般に3年から5年の保存期間の場合、対応する障壁層のためにpH値10までのpH耐久性が要求される。加速試験は、60℃で6か月の保存期間でこれをシミュレートする。例えば精製化学製品、ブレーキ液、洗浄剤等の包装の技術的な包装手段に関する要求は、おおよそ薬剤の包装手段に関する要求に一致する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】ドイツ特許第10253512A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の課題は、5を上回るpH値(特に6.5を上回るpH値)を有する媒体に接しているとき、室温において少なくとも6か月間その遮断性を保つように、障壁層をさらに開発することである。
【0013】
本発明の別の課題は、pH値が10までの媒体に接しているときでさえ、室温において少なくとも3年間その遮断性を保つ層を作製することである。本発明の課題は更に、障壁層を有するプラスチック容器内に、pH値が6.5から7.5の範囲にある製品を、基本的に障壁層に損傷を与えることなく室温において14日間まで保管することができることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの課題は、請求項1の複合材料によって、本発明を用いて驚くほど簡潔な方法で、達成される。さらに、本発明は、そのような複合材料を作製する方法を提供する。
【0015】
本発明は、基体および基体上の被覆を備える複合材料を提供する。その際、この被覆は、基体へ向けられる少なくとも1つの第1の領域および基体から離れて塗布される少なくとも1つの第2の領域を有する。第1の領域は障壁層を備え、第2の領域は不活性化層を備える。
【0016】
特に、本発明によれば、不活性化層は、いわゆる「保護膜」、すなわち基体側から見たときの被覆の最後の層である。不活性化層によって、障壁層のために、特にエッチングによる腐食に対する防護層が、与えられる。したがって、効果のある障壁の場合には、本発明による複合材料は、不活性化層がない被覆を有する材料と比べて、明らかに長い寿命を有する。障壁層と比べると、化学結合タイプは、不活性化層を塗布することによって、障壁層の壊変が少なくとも遅らせられ、それどころか大抵の場合では基本的に回避されるような、影響を受ける。
【0017】
未使用の複合材料の場合には既に特定され得てそして使用中に見られる本発明の従う被膜の寿命増加と相関関係にある、特別なパラメータが、発明者によってOパラメータおよびNパラメータの形で発見された。本発明の好ましい実施形態では、不活性化層は、ATR(全反射減衰)を用いて計測されたOパラメータ:
【数1】

を有し、上記Oパラメータは0.4から0.9の範囲にあり、好ましくは0.45から0.55の範囲にある。1000cm−1と1100cm−1の間の範囲の強度値は次式で求められる:(1000cm−1から1100cm−1までの)強度=max[強度(1000cm−1);(強度1100cm−1)]
【0018】
これは、1000cm−1から1100cm−1の範囲に出現する最大値が強度に使用されることを意味する。興味を持ったピークがどの波数にあるかは、プローブの個々の特定構造次第である。
【0019】
ATR測定では、強度は任意の単位(a.u.)で「吸光度」として特定される。
【0020】
好ましくは、不活性化層は、次式を用いるNパラメータ:
【数2】

を含み、上記NパラメータはATR(全反射減衰)で計測され、0.7から1.6の範囲にある、好ましくは0.83から1.01の範囲にある。
【0021】
不活性化層を作製するとき、本発明に従いCVD法、好ましくはPICVD法が利用され、その際、有機ケイ素化合物または有機金属化合物が前駆物質として使用される。好ましくは、不活性化層として障壁被覆上に無極性の有機的保護膜を形成するために、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)が前駆物質として使用される。本発明による不活性化層が、2次イオン質量分析(SIMS)によって測定される特性種のための信号の特定の強度比があるときに、その好ましい効果を有することが判明した。
【0022】
本発明によれば、複合材料の不活性化層は、SIMS(2次イオン質量分析)を用いて測定されたCおよびSiの強度Iのための信号の強度比IC3/Si、を有し、上記強度比IC3/Siは2.5から7の範囲にある。更に、好ましくは、SIMS(2次イオン質量分析)を用いて測定されたSiOおよびSiの強度Iのための信号の強度比ISiO2/Siは、40から3の範囲にある。
【0023】
本発明によれば、SIMS(2次イオン質量分析)を用いて測定されたSiHおよびSiの強度Iのための信号の強度比ISiH/Siは、15から10である。
【0024】
本発明の枠内では、Siを含む不活性化層は特に安定していることが判明した。その際、xは18から23の範囲である。xが21の不活性層が好まれる。yの値は41から58の範囲にあり、好ましくは44から55の範囲にある。yが48であることが特に好まれる。zの値は23から38の範囲にあり、好ましくは25から36の範囲である。zが31であることが特に好まれる。x、yおよびzの和は100になる。
【0025】
x、yおよびzの値は原子百分率で表されており、また、MCs+分析によって特定された。この分析法は定量的SIMS調査用の技術であり、その場合、試験される材料をセシウムの一次イオンで撃った後に発生するMCs+2次イオンが検出される。この時、Mは検出されるべきエレメントを表す。MCs+イオンは、スパッタリングされた中性のMイオンと注入され再スパッタリングされたCs+イオンの組合せによって形成される。
【0026】
本発明は、特にPICVD法の利用により、感温性の基体或いは障壁被覆上への不活性化層の塗布も可能である。したがって、本発明によって、好ましくは、基体を含む複合材料が提供され、上記基体は少なくとも1つの合成物質、特に少なくとも1つのポリエステルおよび/または少なくとも1つのポリオレフィンおよび/または少なくとも1つの感温性で堆肥化可能なプラスチックを含む。例えば、基体は、PEおよび/またはPPおよび/またはPETおよび/またはPENおよび/またはLDPEおよび/またはHDPEおよび/またはPCおよび/またはCOC/COPおよび/またはPLAを含んでもよい。しかしながら、基体は、本発明の枠内で、紙および/または少なくとも1つの複合物質を含んでもよい。一般に、基体として250℃より低いTを有する材料を使用することも出来る。
【0027】
好ましくは、例えば特に自動販売機内で準備されているボトルまたはプラスチックコップの様な容器内の障壁被覆を腐食に対して保護するために、本発明に従う複合材料に従う不活性化層が使用される。この腐食は、従来の容器の場合、容器内に満たされた流体との接触によって容器材料に及ぼされる。
【0028】
そうして、本発明は中空体を有する容器を提供する、その際上記中空体は内部空間を画定し、また、少なくとも1つの開口部を有する。上記開口部は上記内部空間を中空体の周囲の領域に接続する。例えば、上記開口部は、飲料用ボトルの瓶の首またはカップの上方に開いた側であり得る。中空体は、上述のように、少なくとも1つの複合材料を含む。好ましくは、不活性化層は、中空体の内部スペースに向いている。
【0029】
本発明に従う複合材料を作製するために、本発明は更に、以下の行程:
a)調整チャンバ(または処理室)に、障壁層を有する少なくとも1つの基体を設ける
b)調整チャンバを真空にする
c)プラズマインパルスCVDコーティング(PICVDコーティング)によって不活性化層を生成する
を有する方法を提供する。
【0030】
基体を、本発明の枠内で、例えば障壁被覆を内側に有する容器の形態で、提供することが出来る。PICVD法によるそのような容器の被覆は、本出願人による引用文献1に記載されている。容器の内部被覆をするためにPICVD法を実行するための上記文献の内容は、参照により本出願に取り込まれる。
【0031】
有利には、不活性化層を発生させる場合に、基本的に無極性の有機的な最上層(トップレイヤー)を障壁層上に獲得するために、前駆物質として基本的にHMDSOが使用される。
【0032】
障壁層の基体から離れた領域を、その構造にて圧縮することにより、追加的にまたは代替的に、不活性化層をもたらすことも出来る。それに関して、本発明は、不活性化層を形生する際、調整チャンバがアースされ、気体ランスとアースされた調整チャンバの間にHFバイアス(高周波バイアス)が与えられることを想定する。それにより、PICVD法の実行の際に堆積される微粒子は、以下のように、気体ランスから離れ、そして、それにより気体ランスと調整チャンバの壁の間に存する基体上に移動される。つまり、基体上に設けられる障壁層上への衝突の際に、これが堆積する微粒子の「衝突」によって圧縮されるようにである。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、不活性化層を形成する際に、重イオン、特に例えばArおよび/またはXeのような希ガスイオンが、不活性化層を圧縮するために、前駆体ガスに混合されることが想定されている。
【0034】
不活性化層を形成する際に、有利にはMW(中周波)の範囲、特に2.45GHzの周波数、または、HF(高周波)の範囲の周波数、がプラズマを励起するために使用される。というのは、次いで障壁層の対応する領域を圧縮することが特に効果的であると明らかになっているからである。
【0035】
本発明は、添付の図面に関連して、実施形態を用いて以下でより詳細に説明される。同じ要素には全ての図面で同じ参照符号が与えられている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に従う複合材料を通る縦断面の概略図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に従う複合材料を通る縦断面の概略図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に従う複合材料を有する容器を通る縦断面の概略図である。
【図4】様々な前駆物質濃度で生成されてた、本発明に従う4つの不活性化層のATR分析の結果を示す図である。
【図5】45%のHMDSOの前駆物質濃度で生成された不活性化層のATR測定の結果を示す図である。
【図6】本発明による複合材料の2つのSIMS‐強度‐スパッタ時間特性を示す図である。
【図7】分析を評価するための感度係数を特定の図解をするための概略図であり、層の組成(上)および相対的なSIMS感度係数(下)を示す概略図である。
【図8】第1の実施形態の本発明に従う方法の実行を図解するための概略図である。
【図9】第2の実施形態の本発明に従う方法を図解するための概略図である。
【図10】第3の実施形態の本発明に従う方法の実行を図解するための概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
図1に示されるように、複合材料1は基体2および被覆(コーティング)3を備える。被覆3は、基体2に面する第1の領域31および基体2から離れて面する第2の領域32を有する。被覆3は、保護膜(トップコート)としての不活性化層5及び障壁層4を備える。障壁層は、図1の表示では基体2の下方へ接続する領域に対応する基体2の周囲と、図1の表示に応じて上方で不活性化層と接触して位置付けられているだろう媒体にして複合材料1と接触状態にある媒体との間での、物質交換を抑制する。不活性化層5は、この媒体による腐食に対して障壁層4を保護する。
【0038】
本発明の別の実施形態に従い、被覆3は、基体2上への被覆の付着を改善するために、障壁層4および不活性化層5に加えて接着促進層8を含んでもよい。そのような複合材料が図2に示されている。そのような複合材料は、特に容器の内部被覆に適している。
【0039】
そのような容器6が図3に示されている。容器6は、内部空間15を有する中空体10を含む。開口部12によって、例えば飲料のような媒体を、内部空間15へ充填、或いは、内部空間から取り出すことが出来る。内部空間15は、不活性化層5によって障壁層4から分離される。層系の付着の改善のために、接着促進層8が障壁層4と基体の間に塗布される。
【0040】
図1から図3に示された実施形態のために、SIMSによって関係する被覆が分析された。更にATR測定が行われた。層を形成する際、不活性化層のためには前駆物質HMDSOが使用され、障壁層のためには前駆物質HMDSN(ヘキサメチルジシラゼン)が使用された。不活性化層のためには、気体混合物中の前駆物質の濃度は17%から45%を超えてそして73%その上更に100%まで変えられた。HMDSNためには、1.2%から45%を超えて100%までの変化が実行された。
【0041】
図4には不活性化層のATRスペクトルが、その製造の際の様々な前駆物質濃度と共に、示されている。ある種の結合タイプは、固有の波数で検出され得る。図5には、被覆のための気体混合物中の前駆物質として45%のHMDSOで形成された不活性化層のATRスペクトルが単独で示されている。840cm−1、799cm−1、1253cm−1、1000cm−1および1100cm−1の波数において検出される強度の値から、ATR測定から、有機的な部分及び層内での架橋結合のための特性が、OパラメータおよびNパラメータとして特定された。結果は表1にまとめられている。
【0042】
実験中、前駆物質濃度は変更され、低い値から100%まで増加された。前駆物質濃度のためにどの値が、NパラメータおよびOパラメータのための最適の結果をもたらすかは、各場合にそれぞれ使用されるPICVD設備に依存する。したがって、設備を変えるときには適切な最適化を実行しなければならない。本事例では、HMDSO濃度は、17%から45%を超えそして73%から100%まで増加され、HMDSN濃度は、1.2%から45%を超え100%まで増加された。
【0043】
【表1】

【0044】
図6には、本発明に従う複合材料のSIMS‐強度‐スパッタ時間特性が示されている。図6の左側に示された図は、不活性化層5、障壁層4、及び、PET基体2上の接着促進層8、を有する複合材料で測定されたものであり、上記不活性層は45%のHMDSOの前駆物質濃度で形成され、上記障壁層は1.2%のHMDSNの前駆物質濃度で堆積され、並びに、上記接着促進層は17%のHMDSOの前駆物質濃度で生成された。そのSIMS‐スパッタ時間特性が図6の右側の図に示されている複合材料のためには、不活性層の生成の際の前駆物質濃度は73%のHMDSOとなる。残りのパラメータは変えられていない。
【0045】
そのようなSIMS分析の評価は、表2にまとめられた強度比をもたらす。前駆物質濃度の変化に対して、ここでもまた、表1との関わりで述べたことが当てはまる。
【0046】
【表2】

【0047】
SIMSによって測定されるSiのための信号の強度に対する、SIMSによって測定されるCのための信号の強度比は、「C/Si」の形の記載によって示される。HMDSO濃度或いはHMDSN濃度は、被覆気体中の濃度を体積百分率で示す。その際、残りは酸素である。上記濃度は分析される層の形成の際に投入された。
【0048】
SIMSのC/Si比およびATR分析からのOパラメータが証明する様に、HMDSO濃度およびHMDSN濃度の増加に伴って、層の有機的特性が増加する。MCs+ディーププロファイル分析をベースにして、様々な前駆物質濃度を使用してPICVD法でPET上に堆積された、Si層の組成の特性分析(特性解析)が行われた。
【0049】
評価のために、マトリクス類似のプローブの分析による相対感度係数が提出された。層の組成を定量的に特定するために、5キロ電子ボルトの励起エネルギーでのWDX分析が行われた(層からの信号のみ)。方法条件で検出することが出来ない水素含有量を無視して、C−Astimax(登録商標)‐標準(100%のC)およびHerasil(ヘレウス社製の「光学用石英ガラス」)(=100%のSiO)が評価のために使用された。これに関する結果が図7(上部)にグラフを用いて図示されている。
【0050】
立体情報に基づいて、定量的なWDX分析またはEDX分析は、数百nmの最小厚さを有する層上に限定されている。より薄い層のためには、SIMSの半定量的MCs+バリエーションが適している。図7では、対応する深さプロファイリングからの強度比CsC+/CsSi+およびCsO+/CsSi+が濃度比に対して適用されている(WDX分析からのもの)。
【0051】
CsC+/CsSi+に対して線形の従属性がもたらされる。すなわちSiO‐層のために、相対的な感度係数を特定出来る。上記相対感度計数は、C/Si‐含有量の定量化を可能にする。それに反して、O/Siの割合を検出する場合は、組成のMCs+強度の非線形の従属性を考慮に入れなければならない(図7参照)。
【0052】
【表3】

【0053】
表3では略記「Int」は強度を表す、「Int.CsC/CSi」は、CSiの信号に対するCsCの信号の強度比を意味する、「Int.CsO/CsSi」は、CsSiの信号に対するCsOの信号の強度比に対応する。HMDSO濃度は、被覆気体中での濃度を示し、その際残りは酸素である。上記濃度は分析された不活性化層を形成するときに投入された。前駆物質の濃度を変える場合、表1との関連で述べられたことが当てはまる。
【0054】
図8から10には、上記でさらに詳細に記載された不活性化層を有する複合材料の生成が図解されている。障壁層4を有する基体2が調整チャンバ20内に準備される。図中でこれは基板ホルダ23上に基体2を保持することにより示唆されている。調整チャンバは、真空ポンプ(非図示)によって真空化される。被覆気体(コーティングガス)は、気体ランス22を介して調整チャンバ内へ導かれる。そこで、プラズマ源25を用いてプラズマが点火される。本発明に従いその際、微粒子50が障壁層4の表面上に、不活性化層5を形成しながら、堆積する(図8参照)。
【0055】
図9に示されている別の実施形態の方法では、アースされた調整チャンバ20と気体ランス22の間にHFバイアス9が与えられる。被覆気体51には希ガスイオンなどの重イオンが混合されている。
【0056】
イオンは、プラズマと容器20の間の電界の境界層(シース)内で加速され、出現する複合材料の面上或いは被覆上へ、高エネルギーで衝突する。イオンのエネルギーが十分な場合、これは被覆の圧縮および「ピンホール」のような構造内の損傷の減少を導く。その際、HFバイアスのエネルギーは、強い加熱および/または被覆のスパッタリングさえ起こることのないように、選択される。
【0057】
この方法の特別な利点は、プラスチック基体上の被覆の改善された付着である。その上、調整チャンバ内のプラズマのための励起周波数として、マイクロ波励起と比較してより高いプラズマシース電圧(プラズマ境界層の電圧)を生成する周波数を、使用することも出来る。
【0058】
図10に示されている別の実施形態の方法に従い、基体と気体ランスの間にHFバイアスが与えられてもよい。その際、基体保持具23は基体に対して絶縁されている。次いで、不活性化層の被覆が行われる領域に電界が集中されるので、層を形成する微粒子および混合された重イオンの堆積が特に効果的である。
【0059】
本発明が前述の実施形態に限定されることなく、むしろ様々な方法で変更され得ることは当業者には明白である。特に、個々の実施形態の特徴を互いに組み合わせることもできる。
【符号の説明】
【0060】
1 複合材料
2 基体
3 被覆
31 被覆の第1の領域
32 被覆の第2の領域
4 障壁層
5 不活性化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体(2)と、前記基体(2)上の被覆(3)とを備える複合材料(1)にして、
前記被覆(3)が、前記基体(2)に面する少なくとも1つの第1の領域(31)、及び、前記基体から離れて面する少なくとも1つの第2の領域(32)を有し、上記第1の領域が障壁層(4)を備える複合材料において、
第2の領域が不活性層(5)を備えることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載の複合材料(1)において、
前記不活性化層(5)が、ATR(全反射減衰)で測定される、Oパラメータ
【数1】

を有し、上記Oパラメータが0.4から0.9の範囲、好ましくは0.45から0.55の範囲にあることを特徴とする複合材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合材料(1)において、
前記不活性化層(5)がATR(減衰全反射)で計測されるNパラメータ
【数2】

を有し、上記Nパラメータが0.7から1.6の範囲、好ましくは0.83から1.01の範囲にあることを特徴とする複合材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の複合材料(1)において、
前記不活性層(5)がSixOzCyを含み、
xが18から23の範囲にあり、好ましくはxが21であり、
yが41から58の範囲にあり、好ましくは44から55の範囲にあり、特に好ましくはyが48であり、そして、
zが23から38の範囲にあり、好ましくは25から36の範囲にあり、特に好ましくはzが31であることを特徴とする複合材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の複合材料(1)において、
前記基体(2)が、少なくとも1つのプラスチック、特には少なくとも1つのポリエステル、及び/または、少なくとも1つのポリオレフィン、及び/または、少なくとも1つの感温性で堆肥にすることができるプラスチック材料を含むことを特徴とする複合材料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の複合材料において、
前記基体(2)が、PE及び/またはPP及び/またはPET及び/またはPEN及び/またはLDPE及び/またはHDPE及び/またはPC及び/またはCOC/COP及び/またはPLAを含むことを特徴とする複合材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の複合材料において、
前記基体(2)が紙及び/または少なくとも1つの複合物質を含むことを特徴とする複合材料。
【請求項8】
内部スペース(15)を画成し、少なくとも1つの開口部(12)を有する中空体を含む容器(6)にして、前記開口部が前記内部スペース(15)を中空体(10)の環境とをつなぐ容器(6)において、中空体が少なくとも1つの、請求項1から7のいずれか一項に記載の、複合材料(1)を含むことを特徴とする容器。
【請求項9】
請求項8に記載の容器(6)において、
不活性層(5)が中空体(10)の内部スペース(15)に向けられていることを特徴とする容器。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の複合材料(1)を製造する方法において、以下の工程:
a)調整チャンバ(20)内に、障壁層(4)を有する少なくとも1つの基体(2)を準備する行程、
b)調整チャンバ(20)を真空化する行程、
c)プラズマインパルスCVDコーティングによって不活性層(5)を生成する行程
を有することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、
不活性層(5)の生成の際、前駆物質として主としてHMDSOが用いられることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の方法において、
不活性層(5)の生成の際、調整チャンバ(20)がアースされ、また、気体ランス(22)とアースされた調整チャンバ(20)の間にHFバイアス(9)が与えられることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
不活性層(5)の生成の際、重イオン特に希ガスイオンが、前駆体ガスに混合されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか一項に記載の方法において、
不活性層(5)の生成の際、プラズマを励起するために、MWまたはHFの領域の周波数が使用されることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−507015(P2010−507015A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531716(P2009−531716)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際出願番号】PCT/DE2007/001552
【国際公開番号】WO2008/043325
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(509017365)カーハーエス コーポプラスト ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (15)
【Fターム(参考)】