プラスチック成形品の製造方法及びプラスチック成形品
【課題】 表面を粗面化することなく、より簡易な工程で且つ様々なプラスチック材料に対して広範囲に適用可能なプラスチック成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】 凹部を有し、該凹部により表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、該物質が付加されたプラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、開口を塞いで高圧二酸化炭素を凹部に滞留させ、凹部を画成するプラスチック基材の表面内部に金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法を提供することにより上記課題を解決する。
【解決手段】 凹部を有し、該凹部により表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、該物質が付加されたプラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、開口を塞いで高圧二酸化炭素を凹部に滞留させ、凹部を画成するプラスチック基材の表面内部に金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法を提供することにより上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質されたプラスチック成形品の製造方法及びプラスチック成形品に関し、より詳細には、超臨界流体または高圧ガスを用いて表面改質されたプラスチック成形品の製造方法およびプラスチック成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プラスチック成形品からなる電子機器等の部品の表面に金属導電膜を形成する手段としては、無電解メッキ法が広く利用されている。プラスチック成形品の成形から無電解メッキのプロセスは、成形品の材料などにより多少異なるが、一般には、樹脂成形、成形品の脱脂、エッチング、中和及び湿潤化、触媒付与、触媒活性化、並びに、無電解メッキの工程からなり、この順で行なわれる。
【0003】
プラスチック成形品を成形した後のプロセスをより詳細に説明すると、まず、プラスチック成形品の「脱脂」により成形品表面の油等を取り除き、次いで、「エッチング」によりプラスチック成形品の表面の粗面化を行う。「エッチング」プロセスでは、クロム酸溶液やアルカリ金属水酸化物溶液などを用いるが、これらのエッチング液は「中和」等の後処理が必要なため、コスト高の要因となっている。また、毒性の高いエッチャントを用いるので取り扱い上の問題もある。次いで、プラスチック成形品を界面活性剤水溶液で処理する(「湿潤化」)ことにより、成形品表面の濡れ性を改善した後、「キャタリスト(触媒付与)」プロセスによりプラスチック成形品の表面に触媒を付着させる。「キャタリスト」プロセスでは、例えば、触媒としてパラジウム触媒を用いた場合、塩化スズと塩化パラジウムの塩酸酸性水溶液にプラスチック成形品を含浸させる。「キャタリスト」プロセスの後は、プラスチック成形品を硫酸、塩酸などの酸に接触させてメッキ用触媒を活性化させる(アクセレーター(触媒活性化)プロセス)。以上のプロセスを経た後、はじめて「無電解メッキ」プロセスが可能になる。
【0004】
また、従来、無電解メッキプロセスの前処理方法として、上述したエッチングによる粗面化プロセスを必要しないプロセスが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。これらの特許文献で提案されている方法は、プラスチック成形品の表面に、メッキ触媒の含有する薄膜を有機バインダーや紫外線硬化樹脂により形成する方法である。更には従来、アミン化合物等のガス雰囲気で紫外線レーザをプラスチック成形品の表面に照射して表面改質する技術も提案されており(例えば、特許文献3参照)、これ以外でもコロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線処理等による表面改質技術が提案されている。
【0005】
さらに、従来、超臨界流体を利用したポリマーの表面改質技術を用いて、メッキ触媒核をポリマー表面に浸透させる方法も提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、熱可塑性樹脂からなる成形品を射出成形で成形する際に、金属粒子を成形品の表面近傍に偏析させる技術も提案されている(例えば、特許文献5参照)。特許文献5で開示されている技術では、凹部を有する成形品の全表面近傍に金属粒子を偏析させた後、凸部を研磨して凹部の表面にのみ金属粒子を偏析させる方法が開示されている。
【0006】
プラスチック成形品の表面に金属導電膜を形成する方法としては、従来、プラスチック成形品に立体回路を設ける方法が提案されている(例えば、特許文献6及び7参照)。この形成方法では、まず、立体的なプラスチック製回路基板を樹脂成形により作製し、次いで、回路基板の表面を粗面化および触媒付与する。その後、回路基板表面の全面に無電解メッキを施して金属導電膜を形成する。次いで、フォトレジストを回路基板の全面に塗着する。そして、フォトマスクを被せて露光し、その後現像して回路パターン形成部以外のフォトレジストを除去する。次いで、回路基板の表面に電解メッキによりさらにNiやAuのメッキ膜を形成する。次いで、フォトレジストを剥離するとともにメッキ膜の不要部分をエッチング除去することにより、プラスチック成形品に立体回路を形成する。この技術では、立体構造のプラスチック成形品に均一なフォトレジストを形成するのは困難であるため、電着レジストを用いることが特許文献6で提案されているが、この電着レジストは耐アルカリ性が低いという欠点を有している。
【0007】
さらに、従来、射出成形を利用した回路形成方法も提案されている(例えば、特許文献8参照)。しかしながら、この特許文献では、触媒を金型表面に均一に付着させる方法が具体的に示されてない他、回路部の表面を金型上で粗化する必要がある上、成形後のエッチングも必要である。
【0008】
【特許文献1】特開平9−59778号公報
【特許文献2】特開2001−303255号公報
【特許文献3】特開平6−87964号公報
【特許文献4】特開2005−305945号公報
【特許文献5】特開2004−218062号公報
【特許文献6】特開平4−76985号公報
【特許文献7】特開平1−206692号公報
【特許文献8】特開平6−196840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、従来のプラスチック成形品の製造プロセス及び成形品上に金属導電膜を形成するプロセスは複雑でコスト高であるだけでなく、有害物質を多く使用するため、廃液処理にも問題があった。
【0010】
また、近年、携帯電話等の情報通信機器の信号帯域、コンピューターのCPUクロックタイムはGHz帯に達し、回路基板等においては高周波化が急速に進行している。このような用途では、電気信号の誘電損失をできるだけ抑制する必要がある。電気信号の誘電損失は、回路を形成する絶縁体の比誘電率の平方根、誘電正接および使用される信号の積に比例するため、これを抑制するために絶縁体には誘電率および誘電正接の小さな材料を選定する必要がある。誘電率および誘電正接の小さい絶縁体としては、フッ素樹脂、硬化性ポリオレフィン、シアネートエステル系樹脂等の材料が提案されている。これら材料は一般にエッチング液によって表面が粗化されない材料、すなわち、難メッキ材料として知られており、これらのプラスチック材料に無電解メッキを施すことは困難であるとされている。また、本発明者らの知る限りでは、様々なプラスチック材料からなるプラスチック成形品に対して効率的且つ容易に表面改質できる技術は提案されておらず、特に、様々なプラスチック材料に対して広範囲に適用しうる金属導電膜(電気回路)の形成方法は提案されていない。
【0011】
また、従来のメッキ法では、基材表面を0.5〜数μm粗化する必要があるため、その上に形成されたメッキ膜の表面粗度Raも数μm程度となる。このような表面粗度を有するメッキ膜を高周波回路の配線として用いた場合には、伝送ロスが大きくなる恐れがある。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、より簡易な工程で且つ様々なプラスチック材料に対して広範囲に適用可能なプラスチック成形品の製造方法を提供することであり、特に、様々なプラスチック材料に対して表面を粗面化することなく、無電解メッキプロセスが適用可能になるように表面改質されたプラスチック成形品の製造方法を提供することである。
【0013】
また、携帯電子機器の分野では、小型・薄型化を図るためにプラスチック製のフレキシブル基材が活用する例が増加している。フレキシブル基材は、曲がる、薄い、軽い等の特徴を有し、例えば、折り畳み構造の携帯電話等の機器の連結部に適用されている。このような場合、通常、フレキシブル基材には電気配線が施されており、連結部が高密度・狭小な構造であると、フレキシブル基材上の配線が断線したり、ショートしたり、あるいは、連結部に設けられたデバイスを傷める恐れがある。また、このような電気配線されたフレキシブル基材では、より狭い空間に実装しやすくするため、配線の狭ピッチ化が進められている。
【0014】
そこで、本発明の別の目的は、上述したようなフレキシブル基材における課題も解決することであり、フレキシブル基材を備えるプラスチック成形品に対しても、その表面を選択的に且つ微細に表面改質されたプラスチック成形品及びプラスチック成形品の製造方法を提供することであり、特に、無電解メッキプロセスが適用可能になるように表面改質されたプラスチック成形品及びプラスチック成形品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様に従えば、プラスチック成形品の製造方法であって、凹部を有し、該凹部により表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法が提供される。
【0016】
本発明の第2の態様に従えば、プラスチック成形品の製造方法であって、スルーホールを有し、該スルーホールにより表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記スルーホールに滞留させ、上記スルーホールを画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法が提供される。
【0017】
本発明の第3の態様に従えば、プラスチック成形品の製造方法であって、凹部及びスルーホールを有し、該凹部及びスルーホールにより表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記凹部及びスルーホールに滞留させ、上記凹部及びスルーホールを画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法が提供される。
【0018】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、金属微粒子を含有する物質、具体的には、金属微粒子を溶解した液状物質を塗布したプラスチック基材に高圧二酸化炭素を接触させた状態でプラスチック基材の凹部及び/またはスルーホールにより画成された開口を塞ぎ(凹部及び/またはスルーホールを密閉し)、凹部及び/またはスルーホールに高圧二酸化炭素を滞留させる。この際、高圧二酸化炭素が、プラスチック基材表面に塗布された液状物質を介して、凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材表面に接触する。同時に、プラスチック基材表面に塗布された物質中の金属微粒子が高圧二酸化炭素に溶解して、高圧二酸化炭素とともに凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材の表面内部に浸透する。それゆえ、従来より簡易な方法で、金属微粒子をプラスチック基材表面の一部に選択的に且つ高濃度で浸透させることができる。なお、本発明のプラスチック成形品の製造方法を用いれば、メッキ触媒核となる金属微粒子を高圧二酸化炭素に溶解して、高圧二酸化炭素とともにプラスチック基材に浸透させることができるので、従来のメッキ法が適用可能なプラスチック基材のみならず、従来のメッキ法が適用できなかった材料に対しても容易に金属微粒子を浸透させることができる。
【0019】
なお、本明細書でいう「高圧二酸化炭素」とは、圧力5MPa以上の二酸化炭素であり、亜臨界状態及び超臨界状態の二酸化炭素も含む意味である。本発明の製造方法で用いる高圧二酸化炭素としては、特に、亜臨界状態または超臨界状態の高圧二酸化炭素が好ましく、さらに好ましくは超臨界状態の高圧二酸化炭素が好ましい。また、二酸化炭素以外の超臨界流体としては、超臨界状態にある空気、水、窒素、ブタン、ペンタン等を用いても良い。また、超臨界流体に対する溶質すなわち金属微粒子の溶解度を向上させるために、高圧二酸化炭素にエントレーナー、すなわち助剤としてアセトンやメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを混合させても良い。
【0020】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、さらに、上記金属微粒子が浸透した上記プラスチック基材の表面領域にメッキ膜を形成することを含むことが好ましい。
【0021】
上述のように、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材の表面内部のみに高濃度で金属微粒子を浸透させることができるので、凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材の表面に含浸した金属微粒子をメッキ触媒核として、無電解メッキによりその表面に容易にメッキ膜を形成することができる。また、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、従来のメッキ法が適用可能なプラスチック基材のみならず、従来のメッキ法が適用できなかった材料に対しても容易に金属微粒子を浸透させることができるので、様々なプラスチック材料の基材表面にメッキ膜を形成することができる。
【0022】
また、上記特許文献4で開示されている表面改質技術を用いて、平坦な基板表面に所定のパターン(例えば、配線回路等)で金属微粒子を浸透させ、その上に、メッキ膜を形成すると、メッキ膜の膜厚方向(上面)だけなくメッキ膜の面内方向にもメッキ膜が成長するので、メッキ膜の膜厚の増大とともに、メッキ膜のパターン幅も増大する。それゆえ、例えば、狭ピッチパターンのメッキ膜を形成する場合、その導電性を確保するためにメッキ膜の膜厚を厚くする必要があるので、そのような場合に上記特許文献4で開示されている表面改質技術を用いてメッキ膜を形成すると、狭ピッチパターンを形成することが困難となる恐れもある。
【0023】
しかしながら、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、メッキ膜を形成すべき領域に凹部を設けているので、本発明の製造方法でメッキ膜を形成した場合には、凹部を画成するプラスチック基材の表面に沿ってメッキ膜を形成することができ、メッキ膜のパターン幅は凹部の幅より広くなることはない。それゆえ、狭ピッチパターンのメッキ膜を十分な厚さで形成することができる。その様子を具体的に示したのが、図1である。
【0024】
例えば、凹部の幅が広い(例えば幅が100μm以上)場合またはメッキ膜の膜厚が薄い場合、図1(a)に示すように、プラスチック基材1の凹部2を画成するプラスチック基材1の表面に沿ってメッキ膜4が形成される。なお、図1(a)中の黒丸印3は、プラスチック基材1の表面内部に浸透している金属微粒子である。また、凹部の幅が狭い場合またはメッキ膜の膜厚が厚い場合には、図1(b)に示すように、プラスチック基材1の凹部2にメッキ膜4が埋まるような構造になる。いずれにしても、本発明の製造方法でプラスチック基材上にメッキ膜を形成した場合には、メッキ膜で形成されるパターン幅はプラスチック基材の凹部の幅となり、膜厚が増大してもメッキ膜のパターン幅は広がらない。それゆえ、狭ピッチパターン(狭メッキ膜パターン)をプラスチック基材上に形成する場合に、十分な厚さのメッキ膜を形成してもパターン幅は広がらない。また、本発明の製造方法で、プラスチック基材上にメッキ膜を形成した場合には、図1(a)及び(b)に示すように、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に埋め込まれるようにして形成されるので、摩擦等の物理的接触による膜はがれを抑制することができる。
【0025】
なお、本発明における凹部としては、図1(a)及び(b)に示すように、凹部を画成する底面が平坦で、その底面に対して垂直方向に側面が延在するような断面構造を有するものに限定されない。図1(c)に示すように、断面がV字状の構造にしても良いし、図1(d)に示すように、凹部を画成する底面の断面が平坦でなく円弧状に窪んでいても良い。さらに、摩擦等による物理的接触による膜はがれを一層抑制するためには、図1(e)に示すように、凹部を画成する底面の幅を凹部の開口部(上部)の幅より広く(アンダーカット形状)しても良い。なお、凹部の形成方法としては、例えば、プラスチック基材に熱可塑性樹脂を用いた場合には射出成形により成形することにより、所望の凹部パターン得ることができる。
【0026】
さらに、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗化することなくメッキ膜に形成することができるので、メッキ膜の表面粗度を小さくすることが可能である。それゆえ、本発明の製造方法で形成したメッキ膜を高周波回路の配線として用いた場合でも、伝送ロスを低減することができる。
【0027】
また、本発明のプラスチック成形品の製造方法でスルーホールの表面にメッキ膜を形成した場合には、次のような利点もある。上述のように、従来のメッキ方法では基材の表面を粗化する必要があるので、メッキ可能な樹脂材料としてはエッチングにより表面が粗らされるABS樹脂または各種樹脂にABSを添加したメッキグレード等に限られる。一方、従来、メッキできないプラスチック基材(回路基板)に対してスルーホールを形成する場合には、スパッタ法によりその表面に電解膜を形成する。しかしながら、アスペクト比(深さ/幅)の高い(約1〜2以上)スルーホールに対してスパッタ法により電解膜を形成した場合、スルーホールの中央部分までスパッタ粒子が到達せず、スルーホールに電解膜を形成できないという問題がある。それに対して、本発明の製造方法では、プラスチック基材の形成材料に関係なく、高アスペクト比のスルーホールに対しても、金属微粒子を溶解した高圧二酸化炭素をスルーホールの中央部分に難なく到達させることができ、スルーホールの中央部分の表面に容易に金属微粒子を浸透させることができる。それゆえ、本発明の製造方法を用いれば、プラスチック基材の形成材料に関係なく、スルーホールを画成するプラスチック基材の表面に容易にメッキ膜を形成することができる。
【0028】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、上記プラスチック基材が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれかで形成されていることが好ましい。
【0029】
上述のように、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、従来のようにプラスチック基材表面を粗面化してメッキ膜を形成するのではなく、高圧二酸化炭素を用いて金属微粒子をプラスチック基材の表面内部に浸透させて、金属微粒子が浸透している領域上にメッキ膜を形成するので、プラスチック基材の形成材料としては様々な材料を用いることができる。
【0030】
プラスチック基材を熱可塑性樹脂で形成する場合には、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン、ポリアセタール、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、スチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂等が用い得る。
【0031】
プラスチック基材を熱硬化性樹脂で形成する場合には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂等が用い得る。
【0032】
また、プラスチック基材を光硬化性樹脂で形成する場合には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂等が用い得る。
【0033】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、特に、上記プラスチック基材が、液晶ポリマー、ポリアミド系樹脂、及びシクロオレフィン系樹脂のいずれかで形成されていることが好ましい。
【0034】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面改質処理終了後の減圧方法は任意であるが、高圧二酸化炭素と有機溶媒の浸透した熱可塑性樹脂は(特に非晶質材料の場合)、ガラス転移温度が低下し、発泡により表面荒れが生じやすくなる。そのため、表面改質時の処理温度よりも温度を低下させた後、減圧することが好ましい。
【0035】
また、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック成形品の表面改質に用いる装置の構造(高圧容器もしくは金型の形態)は、成形品の凹部及び/またはスルーホールにより画成された開口を塞ぐ機能を有する装置であれば任意である。例えば、成形品に対応するキャビティを複数有する金型を備え、複数のキャビティを一括して開閉する構造のプレス装置を用いても良いし、また、成形品毎に小型容器を用意して、その小型容器内で成形品を表面改質処理するような構造の装置を用いても良い。
【0036】
なお、本明細書でいう「金属微粒子」とは、有機金属錯体のみならずその変性物も含む意味である。具体的には、以下のようなものが金属微粒子として用い得る。
【0037】
本発明で用いることのできる金属微粒子としては、高圧二酸化炭素にある程度の溶解度を有するものが好ましい。例えば、超臨界二酸化炭素を用いた場合、有機金属錯体としては、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)等を用いることができる。
【0038】
また、本発明の製造方法では、金属微粒子として、有機金属錯体が還元して生成される金属元素等の高圧二酸化炭素に溶解しない材料(無機材料)を用いることもできる。高圧二酸化炭素に溶解しない無機材料(溶質)をポリマー表面(プラスチック基材表面)に塗布して高圧二酸化炭素をポリマー表面に接触すると、ポリマー表面が膨潤等を起こすので、ポリマー上に塗布された溶質が、高圧二酸化炭素の圧力によりポリマー内に浸透する。この場合、無機材料としては任意の材料を用い得るが、ポリマー内に容易に浸透可能な粒子の大きさを考慮すると、特に分子量5000以下の無機材料を用いることが望ましい。このような条件を満足する無機材料としては、金属微粒子、カーボンナノチューブ、フラーレン、ナノホーン等のナノカーボン、酸化チタン等が挙げられる。従来の超臨界流体を用いた表面改質方法では、超臨界状態等の高圧二酸化炭素に溶解する溶質しか使えなかったが、本発明では上記のような作用により、超臨界状態等の高圧二酸化炭素に溶解しない溶質を用いた表面改質も可能となる。
【0039】
本発明の第4の態様に従えば、プラスチック成形品であって、凹部及びスルーホールの少なくとも一方を有するフレキシブル基材と、上記凹部及びスルーホールの少なくとも一方を画成する上記フレキシブル基材の表面領域に形成されたメッキ膜とを備え、上記メッキ膜が形成されている上記フレキシブル基材の表面内部に上記メッキ膜のメッキ触媒核となる金属微粒子が含浸されていることを特徴とするプラスチック成形品が提供される。
【0040】
本明細書でいう「フレキシブル基材」とは、適度な屈曲性を有する基材である。特に、本発明のプラスチック成形品では、電気的絶縁性及び可撓性を考慮して50〜200μmの厚さのプラスチック基材を用いることが好ましい。より好ましくは、50〜150μmの厚さであることが好ましい。なお、本発明のプラスチック成形品では、上記凹部の深さが5〜50μmであることが好ましく、上記凹部の幅が5〜200μmであることが好ましい。凹部の寸法を上記範囲にすることにより、凹部内部に好適なピッチ幅及び厚みの配線(金属導電膜)を形成することができる。なお、ここでいう凹部の深さとは、プラスチック基材の表面から凹部の深さが最も深い位置までのプラスチック基材厚さ方向の距離のことであり、凹部の幅とは、プラスチック基材の表面に平行な方向の幅であり且つ凹部内でその幅が最も広くなる位置の値である。
【0041】
なお、本発明のプラスチック成形品のプラスチック基材としては、適度な屈曲性を有する基材であれば任意の材料を用い得る。例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれかが用い得る。より具体的には、ガラスエポキシ基板、ガラスポリイミド基板、ポリイミドフィルム基板、ポリエチレンフィルム基板等が用い得る。特に、回路基板としては、低比誘電率、低誘電正接という観点から、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、液晶ポリマー等が好ましい。この中でも特に、高周波対応の点で液晶ポリマーが好ましい。
【0042】
また、本発明のプラスチック成形品では、凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材の表面から約100nmの深さ位置までに、金属微粒子がプラスチック基材の材料に対して約0.1〜0.5at%の割合で含有されていることが好ましい。
【0043】
本発明のプラスチック成形品でプラスチック基材の凹部を画成する表面にメッキ膜を形成した場合には、メッキ膜で形成されるパターン幅はプラスチック基材の凹部の幅となる。それゆえ、十分な厚さで(導電性を確保しつつ)且つ狭ピッチパターン(狭メッキ膜パターン)のメッキ膜をプラスチック基材上に形成することができる。また、本発明のプラスチック成形品でプラスチック基材の凹部を画成する表面にメッキ膜を形成した場合には、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので、摩擦等の物理的接触による膜はがれを抑制することができる。
【0044】
本発明のプラスチック成形品の製造方法及びプラスチック成形品では、上記プラスチック基材表面に形成される上記メッキ膜が電気配線であることが好ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、高圧二酸化炭素を用いてプラスチック基材の凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材の表面内部のみに金属微粒子を浸透させることができる。それゆえ、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、従来のメッキ法が適用可能なプラスチック基材のみならず、従来のメッキ法が適用できなかった様々な種類のプラスチック基材に対してもより簡易な方法で、プラスチック基材の所定領域に選択的に且つ高濃度で金属微粒子を浸透させることができる。
【0046】
本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、上述のように、様々な種類のプラスチック基材に対しても、プラスチック基材の所定領域に選択的に且つ高濃度で金属微粒子を浸透させることができるので、その金属微粒子をメッキ触媒核として様々な材料のプラスチック基材表面にメッキ膜を形成することができる。
【0047】
また、本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので、導電性を確保するためにメッキ膜の厚さを厚くしてもメッキ膜のパターン幅は広がらない。また、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に埋め込まれるようにして形成されるので、摩擦等の物理的接触による膜はがれを抑制することができる。
【0048】
さらに、本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、表面を粗面化することなく表面改質を行うことができるので、より簡易な方法で表面改質することができ、毒性の高い処理物質を用いる必要もない。また、本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、特許文献5に開示されている技術のように、金属粒子をプラスチック基材表面近傍に偏析させた後、プラスチック基材に研磨等を施す必要もないので、本発明のプラスチック成形品の製造方法は、特許文献5に開示されている技術と比べてもより簡易な方法である。また、本発明のプラスチック成形品では、機能を発現する溶質(金属微粒子等)はプラスチック成形品の内部に浸透しているのでその機能は持続し、耐候性に優れたプラスチック成形品を製造することができる。
【0049】
また、本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、プラスチック基材の表面を粗面化せずにメッキ膜に形成することができるので、メッキ膜の表面粗度を小さくすることができる。それゆえ、本発明の製造方法で形成したメッキ膜を高周波回路の配線として用いた場合に伝送ロスを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に、本発明のプラスチック成形品の製造方法およびプラスチック成形品の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0051】
実施例1では、図3に示すような断面が略10角形状であり且つ凹部2及びスルーホール5を有するプラスチック基材1に対して、凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面内部に金属微粒子を浸透させるプラスチック成形品の製造方法およびプラスチック成形品について説明する。
【0052】
[プラスチック成形品及び製造装置]
この例のプラスチック基材1としては、熱可塑性樹脂であるシクロオレフィン系樹脂(ゼオネックス:日本ゼオン製)を用いた。プラスチック基材1には、図3に示すように、凹部2およびスルーホール5を形成した。この例のプラスチック基材1は、公知の射出成形法により成形した。この例では、凹部2の幅を0.1mmとし、深さを0.1mmとした。また、スルーホール5の直径は0.3mmとし、高さ(長さ)を1.5mm(アスペクト比1.5/0.3=5.0)とした。また、この例のプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面内部に浸透させる金属微粒子としては、有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0053】
次に、この例のプラスチック成形品の製造方法に用いた製造装置について説明する。この例で用いたプラスチック成形品の製造装置の概略構成を図2に示した。この例の製造装置100は、図2に示すように、主に高圧二酸化炭素の供給部101と、排気部102と、型締め装置(プレスピストン)を備える金型103とから構成される。
【0054】
高圧二酸化炭素の供給部101は、図2に示すように、液体二酸化炭素ボンベ11と、液体二酸化炭素を加圧するための高圧ポンプ12と、高圧二酸化炭素の金型103への供給を制御する逆支弁14及びバルブ15とから構成され、これらの構成要素は配管16により接続されている。また、高圧二酸化炭素の排出部102は、図2に示すように、金型103から排出される高圧二酸化炭素を回収する回収槽22と、高圧二酸化炭素の排出を制御する保圧弁24及びバルブ25,26とから構成され、これらの構成要素は配管27により接続されている。なお、この例の製造装置100の配管の表面すべてには、図示しないヒータが巻かれており、温調可能な構造となっている。
【0055】
金型103は、図2に示すように、主に、可動金型31と、固定金型32とから構成され、プレスピストン(不図示)により開閉される。プレスピストンは電動サーボモータ(不図示)による位置制御により移動可能となっている。また、金型103は、図示しないカートリッジヒータにより温調可能な構造になっている。さらに、この例の金型103は、図示しない冷却回路を流動する冷却水によって冷却可能である。
【0056】
この例の金型103では、図2に示すように、可動金型31と固定金型32との間に複数のプラスチック基材1を挟み込んで保持する構造になっている。可動金型31の固定金型32側の表面には、図2に示すように、プラスチック基材1の上半分の外形と倣った凹部31aが複数形成されており、固定金型32の可動金型31側の表面には、プラスチック基材1の下半分の外形と倣った凹部32aが複数形成されている。そして、可動金型31の凹部31aと固定金型32の凹部32aとは互いに対向する位置に配置されている。すなわち、可動金型31と固定金型32とを閉じた際に、固定金型32と可動金型31との界面に、可動金型31の凹部31aと固定金型32の凹部32aにより、プラスチック基材1の外形寸法及び形状とほぼ同じ寸法及び形状を有する空間(キャビティ)が複数画成されるような構造になっている。それゆえ、図2に示すように、可動金型31及び固定金型32の界面にプラスチック基材1を装着して金型を閉めると、プラスチック基材1の表面に形成されている凹部2及びスルーホール5の開口部(凹部2及びスルーホール5によりプラスチック基材1の表面に画成された開口)は金型により塞がれた状態となる。なお、この例では、100個の成形品を一括で表面改質処理できる構造とした。具体的には、可動金型31及び可動金型32の各表面に凹部をそれぞれ10×10個で配列して形成した。
【0057】
また、金型103には、図2に示すように、可動金型31及び固定金型32間に画成される空間と流通した導入口33及び排出口34が形成されている。そして、導入口33及び排出口34は、図2に示すように、高圧二酸化炭素の供給部101の配管16及び排出部102の配管27にそれぞれ接続されている。それゆえ、高圧二酸化炭素の供給部101は、図3に示すように、導入口33を介して可動金型31及び固定金型32間の空間と流通しており、排出部102は排出口34を介して可動金型31及び固定金型32間の空間と流通している。すなわち、この例の製造装置100では、供給部102で生成された高圧二酸化炭素は配管16から導入口33を通って可動金型31及び固定金型32間に画成された空間に導入され、導入された高圧二酸化炭素は、排出口34から配管27を通って回収槽22に排出される。
【0058】
[プラスチック成形品の製造方法]
次に、この例のプラスチック成形品の製造方法を、図2〜6を参照しながら説明する。なお、図3〜5は、図2中の破線Aで囲まれた領域の拡大図であり、図6は、図3〜5中の破線Bで囲まれた領域の拡大図である。
【0059】
まず、凹部2及びスルーホール5が形成されたプラスチック基材1を公知の射出成形法により成形した(図6(a)の状態)。次いで、プラスチック基材1の表面に金属微粒子(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))の溶解した溶液6(液状物質)を塗布した(図6(b)の状態)。なお、この例では溶液6として、金属微粒子をアセトン(溶媒)に溶解させたものを用いた。この際、塗布した溶液6は、図6(b)に示すように、主にプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5に溜まり、凹部2及びスルーホール5以外のプラスチック基材表面にはほとんど溶液6は溜まらない。
【0060】
次いで、金属微粒子を溶解した溶液6が塗布されたプラスチック基材1を金型103(可動金型31及び固定金型32の界面に画成されるキャビティ)に装着した(図3の状態)。なお、金型103の初期開き量(図3中のt)は1mmとした。また、表面改質処理前の金型103の温度は120℃に設定した。この例の製造装置100の配管ヒータは50℃に設定した。
【0061】
次いで、液体二酸化炭素ボンベ11から液体二酸化炭素を高圧ポンプ12に供給し、高圧ポンプ12で液体二酸化炭素を加圧して高圧二酸化炭素を生成した。なお、高圧ポンプ12では、圧力計13が10MPaになるように液体二酸化炭素を昇圧した。次いで、逆支弁14を介し、バルブ15、25を開放することにより、金型103の内部(可動金型31及び固定金型32間に画成された空間)に10MPaの高圧二酸化炭素を導入した。この工程で、プラスチック基材1の表面全体に渡って高圧二酸化炭素7が接触している状態となる(図6(c)の状態)。
【0062】
次いで、金型103を閉め、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5の開口部を塞いで、高圧二酸化炭素を凹部2及びスルーホール5のみに滞留させた(図4及び図6(d)の状態)。なお、この際、排出部102の保圧弁24の1次側の圧力を10MPaに調節することが望ましい。そして、この状態を5分間保持した。この際、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5のみに高圧二酸化炭素を滞留させることで、高圧二酸化炭素が、プラスチック基材1表面に塗布された溶液6を介して、凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面に接触する。それにより、熱可塑性樹脂であるプラスチック基材1表面が膨潤し、その粘性が低下し軟化する。同時に、プラスチック基材1表面に塗布された溶液6中の金属微粒子が高圧二酸化炭素に溶解して(図4及び図6(d)中の溶液6’)、高圧二酸化炭素とともに凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面内部に浸透する。この方法を用いると、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1表面にのみ均一に且つ高濃度で金属微粒子(図5及び図6(e)中に粒子3)を浸透させることができる。
【0063】
なお、図6(d)の工程は、図6(c)の工程後、短い時間(この例では5〜10秒)内で行なっているので、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5以外の表面にはほとんど金属微粒子は浸透しない。ただし、図6(c)の状態を長時間保持すると、高圧二酸化炭素に溶解した溶液6がプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5以外の表面に高濃度で浸透する恐れがあるので、図6(d)の工程は、図6(c)の工程後、できるだけ短い時間内で行なうことが好ましい。
【0064】
次いで、金型103のヒータの電源を切り、冷却水を流して、金型103を40℃まで冷却した。その後、バルブ15、25を閉じ、次いで、バルブ26を開放して、金型103内部を大気開放した(図5及び図6(e)の状態)。そして、プラスチック基材1を金型103から取り出した。以上のようにして、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面にのみ金属微粒子3が均一に且つ高濃度で浸透したプラスチック成形品を作製した。
【0065】
上述のように、この例のプラスチック成形品の製造方法では、表面を粗面化することなく表面改質を行うことができるので、より簡易な方法で表面改質することができ、毒性の高い処理物質を使用する必要もない。さらに、上記製造方法で作成されたプラスチック成形品では、機能を発現する溶質(この例では金属微粒子)はプラスチック成形品の内部に浸透しているのでその機能は持続し、耐候性に優れたプラスチック成形品を作製することができる。
【0066】
この例では、さらに、上述した方法で作製したプラスチック成形品にメッキ膜を形成した。具体的には、次のようにしてメッキ膜を形成した。
【0067】
まず、上述のようにして表面処理したプラスチック成形品を、80℃に温調したNi無電解メッキ液(奥野製薬工業(株)製)内に5分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行った。次いで、Ni無電解メッキ処理を行ったプラスチック成形品を、60℃に温調したAu無電解メッキ液(奥野製薬工業(株)製)内に5分間浸漬し、Au無電解メッキ処理を行った。この際、この例のプラスチック成形品では、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面にのみ金属微粒子が浸透しているので、凹部2及びスルーホール5を画成する表面上にのみ、浸透した金属微粒子をメッキ触媒核としてメッキ膜が形成される(例えば、図1(a)または(b)の状態)。この例では上述のようにして、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面上にのみメッキ膜が形成されたプラスチック成形品を作製した。
【0068】
この例のプラスチック成形品の製造方法では、上述のようにメッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので、導電性を確保するためにメッキ膜の厚さを厚くしてもメッキ膜のパターン幅は広がらない。また、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので(図1(a)及び(b)参照)、摩擦等の物理的接触による膜はがれを抑制することができる。
【0069】
[メッキ膜の品質評価]
次に、この例でプラスチッキ基材上に形成したメッキ膜の品質を評価した。この例で形成したメッキ膜はふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例で作製したプラスチック成形品の凹部及びスルーホールの断面を光学顕微鏡像で観察した。その結果を図7に示した。図7(a)が凹部の断面の光学顕微鏡像であり、図7(b)がスルーホールの断面の光学顕微鏡像である。図7中の領域1がプラスチック基材1であり、領域4が凹部2及びスルーホール5内部に形成されたメッキ膜である。図7から明らかなように、メッキ膜4がプラスチック成形品の凹部及びスルーホールを画成する内壁に沿って成長していることが確認できた。
【0070】
また、この例で作製されたプラスチック成形品のメッキ膜が形成された凹部表面を、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が約2.8nm、最大高さ(Ry)が約3.3nmであり、従来のメッキ法でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra〜数μm)に比べて非常に小さな値となった。これは、この例のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗面化することなく無電解メッキ膜を形成したためである。それゆえ、この例の製造方法で形成したメッキ膜を高周波回路の配線として用いても伝送ロスを低減することができることが分かった。
【実施例2】
【0071】
実施例2では、実施例1と同様に、図10に示すような断面が略10角形状であり且つ凹部2及びスルーホール5を有するプラスチック基材1に対して、凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面内部に金属微粒子を浸透させるプラスチック成形品の製造方法およびプラスチック成形品について説明する。
【0072】
[プラスチック成形品及び製造装置]
この例のプラスチック基材1としては、熱可塑性樹脂である液晶ポリマー(ベクトラA950:ポリプラスチックス(株)製)を用いた。この例のプラスチック基材1では、図10に示すように、凹部2およびスルーホール5を形成した。この例のプラスチック基材1は、実施例1と同様に、公知の射出成形法により成形し、凹部2およびスルーホール5の寸法及び形状は実施例1と同じとした。また、この例のプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面内部に浸透させる金属微粒子としては、実施例1と同様に、有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0073】
次に、この例のプラスチック成形品の製造方法に用いた製造装置について説明する。この例で用いたプラスチック成形品の製造装置の概略構成を図8に示した。この例の製造装置200は、図8に示すように、主に高圧二酸化炭素の供給部201と、排気部202と、プラスチック基材1の表面改質処理を行なう高圧容器203とから構成される。
【0074】
高圧二酸化炭素の供給部201は、図8に示すように、実施例1と同様の構成とした。それゆえ、ここでは、供給部201の説明は省略する。一方、高圧二酸化炭素の排出部202は、図8に示すように、高圧容器203から排出される高圧二酸化炭素を回収する回収槽22と、高圧二酸化炭素の排出を制御するバルブ25とから構成され、これらの構成要素は配管27により接続されている。なお、この例の製造装置200の配管の表面すべてには、図示しないヒータが巻かれており、温調可能な構造となっている。
【0075】
高圧容器203は、図8に示すように、その内部に複数の小型容器42が収容される構造になっている。また、各小型容器41内には、1つのプラスチック基材1が収容可能になっている。それゆえ、この例の製造装置200では、高圧容器203内に収容可能な小型容器42の数と同じ数のプラスチック基材1を同時に表面改質処理できる構造になっている。なお、この例では、100個の小型容器42が収納可能な高圧容器203を用いた。また、高圧容器203は、カートリッジヒータ(不図示)を備え温調可能である。さらに、高圧容器203は、冷却回路(不図示)を備え、冷却回路に冷却水を流動させることによって冷却可能な構造となっている。また、この例の製造装置200では、1つの小型容器41に1つのプラスチック基材1が収容可能になっているので、プラスチック基材1に対して個別に寸法を合わすことが可能となるため、高圧容器203全体での寸法精度がさほど要求されない。
【0076】
また、高圧容器203の外壁41の上面には、図8に示すように、高圧容器203の内部と流通した高圧二酸化炭素の導入口45及び排出口46が形成されている。そして、導入口45及び排出口46は、図8に示すように、高圧二酸化炭素の供給部201の配管16及び排出部202の配管27にそれぞれ接続されている。すなわち、高圧二酸化炭素の供給部201は、図8に示すように、導入口45を介して高圧容器203内部と流通しており、排出部202は排出口46を介して高圧容器203内部と流通している。それゆえ、この例の製造装置200では、供給部202で生成された高圧二酸化炭素は配管16から高圧容器203の導入口45を通って高圧容器203の内部に導入され、導入された二酸化炭素は、排出口46から配管27を通って回収槽22に排出される。
【0077】
次に、高圧容器203内部に収容される小型容器42の構造について説明する。小型容器42の概略断面図を図9に示した。小型容器42は、図9に示すように、その内部にプラスチック基材1を1つ収容可能な構造になっており、主に、容器本体51と、容器本体51内部に設けられたピストン52と、ピストン52の上部を保持する保持部53と、容器本体51及びピストン52の間に画成された空間に装着されたバネ54とから構成される。
【0078】
容器本体51の内部は、図9に示すように、ピストン52及びバネ54が収容可能な構造になっている。また、容器本体51のピストン52の先端部と対向する底面には、小型容器42に装着されるプラスチック基材1の下半分の外形を倣った凹部51aが形成されている。また、容器本体51の側壁には、図9に示すように、凹部51aと流通する流路51bが形成されており、後述するように、この流路51bを介して高圧二酸化炭素が小型容器42内に導入及び排出される。
【0079】
ピストン52は、容器本体51の内部にその長手方向(図9上では上下方向)に移動可能に取り付けられており、その移動は、後述するように、高圧容器203内に導入される高圧二酸化炭素の圧力とバネ54の弾性力との大小関係で制御される。また、ピストン52の容器本体51側の先端面には、図9に示すように、小型容器42に装着されるプラスチック基材1の上半分の外形と倣った凹部52aが形成されており、容器本体51内の凹部51aと対向する位置設けられている。それゆえ、ピストン52を容器本体51の凹部51aに向かって移動させ、ピストン52の先端面とそれと対向する容器本体51の底面とを重ね合わせると、ピストン52の先端面と容器本体51の底面との間に、プラスチック基材1の外形とほぼ同じ形状及び寸法の空間(キャビティ)が画成される。それゆえ、図9に示すように、小型容器42内にプラスチック基材1を装着してピストン52の先端面とそれと対向する容器本体51の底面とを重ね合わせると、プラスチック基材1の表面に形成されている凹部2及びスルーホール5の開口部は、ピストン52の先端面とそれと対向する容器本体51の底面により塞がれた状態となる。なお、以下の説明では、ピストン52を容器本体51の凹部51aに向かって移動させてピストン52の先端面とそれと対向する容器本体51の底面とを重ね合わせる動作を、キャビティを閉じると称し、逆に、ピストン52を容器本体51の凹部51aから離れる方向に移動させる動作を、キャビティを開くと称する。
【0080】
ここで、小型容器42内のピストン52の開閉動作(キャビティの開閉動作)の原理について説明する。小型容器42内のピストン52の移動は、図9に示すように、バネ54の弾性力によりピストン52に与えられる力A1と、高圧容器203内に導入された高圧二酸化炭素の圧力によりピストン52に与えられる力A2との大小関係で制御される。バネ54の弾性力によりピストン52に与えられる力A1は、図9に示すように、キャビティを開く方向に作用する。一方、高圧容器203内に導入された高圧二酸化炭素の圧力によりピストン52に与えられる力A2は、図9に示すように、ピストン52の上端面(上記凹部52aとは反対側の面)を押す方向に作用するので、キャビティを閉じる方向に作用する。
【0081】
この例では、高圧容器203に高圧二酸化炭素が導入されておらず、高圧容器203内部が大気圧の状態にある場合、バネ54によりピストン52に加えられる力A1の方がピストン52の上端面にかかる力A2より大きくなるように調整されており、ピストン52の先端面とそれと対向する容器本体51の底面とが離れた状態(キャビティが開いた状態)となる。しかしながら、高圧二酸化炭素が高圧容器203内、すなわち、小型容器42の外雰囲気に導入されると、ピストン52の上端面を押す力A2(高圧二酸化炭素の圧力×ピストン上端面の受圧面積)が大きくなる。そして、ピストン52の上端面を押す力A2が、バネ54によりピストン52に加えられる力A1より大きくなると(A2=(圧力×ピストン下面の受圧面積)>バネ力=A1の状態になると)、ピストン52が下降してキャビティが閉じる構造となっている。
【0082】
なお、高圧容器203に高圧二酸化炭素を導入した際、最初は圧力が低い状態であるので、小型容器42内のキャビティが開いた状態であり、小型容器42の流路51bを介して小型容器42の内部にも高圧二酸化炭素が導入される。そして、高圧容器203に導入する二酸化炭素の圧力を上昇させると、徐々にピストン52が下降してキャビティが閉じられる。その結果、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5の開口部が塞がれ、小型容器42の内部に導入された高圧二酸化炭素を、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5内部のみに滞留させることができる。なお、ピストン52を下降させるために必要な圧力A2は小型容器42内に挿入するバネ54のバネ定数により調整することができる。すなわち、キャビティを閉じる圧力をバネ54のバネ定数により選定することができる。本実施例では、キャビティを閉じる圧力が10MPaとなるように調節し、高圧容器203に10MPaの高圧二酸化炭素を導入することにより、小型容器42内のキャビティが閉じる構造にした。
【0083】
[プラスチック成形品の製造方法]
次に、この例のプラスチック成形品の製造方法を、図6、8及び10〜12を参照しながら説明する。なお、図10〜12は、図9中の破線Cで囲まれた領域の拡大図であり、図6は、図10〜12中の破線Dで囲まれた領域の拡大図である。
【0084】
まず、凹部2及びスルーホール5を有するプラスチック基材1を公知の射出成形法により成形した(図6(a)の状態)。次いで、プラスチック基材1の表面に金属微粒子(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))の溶解した溶液6(液状物質)を塗布した(図6(b)の状態)。なお、この例では溶液6として金属微粒子をアセトン(溶媒)に溶解させたものを用いた。
【0085】
次いで、金属微粒子を溶解した溶液6が塗布されたプラスチック基材1を小型容器42内のキャビティ(ピストン52の先端面と容器本体51の底面との間に画成された空間)に装着した(図10の状態)。次いで、プラスチック基材1が装着された小型容器42を100個、高圧容器203内に装着した。なお、表面改質処理前の高圧容器203の温度は120℃に設定した。また、この例の製造装置200の配管ヒータは50℃に設定した。
【0086】
次いで、液体二酸化炭素ボンベ11から液体二酸化炭素を高圧ポンプ12に供給し、高圧ポンプ12で液体二酸化炭素を加圧して高圧二酸化炭素を生成した。なお、高圧ポンプ12では、圧力計13が5MPaになるように液体二酸化炭素参加を昇圧した。次いで、逆支弁14を介し、バルブ15を開放することにより、高圧容器203の内部に5MPaの高圧二酸化炭素を導入した。これにより、5MPaの高圧二酸化炭素を小型容器42の流路51bを介して小型容器42の内部(キャビティ)に導入し、プラスチック基材1の表面に高圧二酸化炭素を接触させた(図6(c)の状態)。
【0087】
次いで、高圧二酸化炭素の圧力を10MPaまで段階的に昇圧し、小型容器42内のピストン52を下降させ、プラスチック基材1の表面に高圧二酸化炭素を接触させた状態で小型容器42内のキャビティを閉じた。この結果、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5の開口部が塞がれ、小型容器42の内部に導入された高圧二酸化炭素がプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5内部のみに滞留した状態となる(図11及び図6(d)の状態)。そして、この状態を5分間保持した。この際、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5のみに高圧二酸化炭素を滞留させることで、高圧二酸化炭素が、プラスチック基材1表面に塗布された溶液6を介して、凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面に接触する。それにより、熱可塑性樹脂であるプラスチック基材表面が膨潤し、その粘性が低下し軟化する。同時に、プラスチック基材1表面に塗布された溶液中の金属微粒子が高圧二酸化炭素に溶解して、高圧二酸化炭素とともに凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面内部に浸透する。それゆえ、この例の製造装置を用いた場合でも、実施例1と同様に、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1表面にのみ均一に且つ高濃度で金属微粒子3(図12及び図6(e)中の粒子3)を浸透させることができる。
【0088】
なお、図6(d)の工程、すなわち、高圧二酸化炭素の圧力を5MPaから10MPaに昇圧する工程は、図6(c)の工程後、短い時間(この例では5〜10秒)内で行なっているので、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5以外の表面にはほとんど金属微粒子は浸透しない。ただし、図6(c)の状態を長時間保持すると、高圧二酸化炭素に溶解した溶液6がプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5以外の表面に高濃度で浸透する恐れがあるので、図6(d)の工程は、図6(c)の工程後、できるだけ短い時間内で行なうことが好ましい。
【0089】
次いで、高圧容器203のヒータの電源を切り、冷却水を流して、高圧容器203を40℃まで冷却した。その後、バルブ15を閉じ、次いで、バルブ25を開放して、高圧容器203内部を大気開放した(図12及び図6(e)の状態)。そして、プラスチック基材1を金型103から取り出した。以上のようにして、この例では、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面にのみ金属微粒子3が均一に且つ高濃度で浸透したプラスチック成形品を作製した。また、上述のように、この例のプラスチック成形品の製造方法では、表面を粗面化することなく表面改質を行うことができるので、より簡易な方法で表面改質することができ、毒性の高い処理物質を使用する必要もない。さらに、機能を発現する溶質(この例では金属微粒子)はプラスチック成形品の内部に浸透しているのでその機能は持続し、耐候性に優れたプラスチック成形品を作製することができる。
【0090】
この例では、さらに、上述した方法で作製したプラスチック成形品にメッキ膜を形成した。具体的には、次のようにしてメッキ膜を形成した。
【0091】
まず、上述のようにして表面処理したプラスチック成形品を、80℃に温調したNi無電解メッキ液(奥野製薬工業(株)製ICP−二コロンDK)内に5分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行った。次いで、Ni無電解メッキ処理を行ったプラスチック成形品を、60℃に温調したAu無電解メッキ液(奥野製薬工業(株)製)内に5分間浸漬し、Au無電解メッキ処理を行った。この際、上述のように、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面にのみ金属微粒子が浸透しているので、凹部2及びスルーホール5を画成する表面上にのみ、浸透した金属微粒子をメッキ触媒核としてメッキ膜が形成される(例えば、図1(a)または(b)の状態)。この例では上述のようにして、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面上にのみメッキ膜が形成されたプラスチック成形品を作製した。
【0092】
この例のプラスチック成形品の製造方法では、上述のようにメッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので、導電性を確保するためにメッキ膜の厚さを厚くしてもメッキ膜のパターン幅は広がらない。また、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので、摩擦等の物理的接触による膜はがれを抑制することができる。
【0093】
[メッキ膜の品質評価]
次に、この例で形成したメッキ膜の品質を評価した。この例で形成したメッキ膜はふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例で作製したプラスチック成形品の凹部及びスルーホールの断面の光学顕微鏡像で観察したところ、実施例1と同様に、メッキ膜4がプラスチック成形品の凹部及びスルーホールを画成する内壁に沿って成長していることが確認できた(図7参照)。
【0094】
また、この例で作製されたプラスチック成形品のメッキ膜が形成された凹部表面を、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が約2.4nm、最大高さ(Ry)が約2.9nmであり、従来のメッキ法でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra〜数μm)に比べて非常に小さな値となった。これは、この例のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗面化することなく無電解メッキ膜を形成したためである。それゆえ、この例の製造方法で形成したメッキ膜を高周波回路の配線として用いても伝送ロスを低減することができることが分かった。
【実施例3】
【0095】
実施例3では、プラスチック基材としてフレキシブル基板(フレキシブル基材)を用いたプラスチック成形品の製造方法について説明する。
【0096】
フレキシブル基板としては、熱可塑性樹脂であるポリアミド系樹脂(ガラス繊維強化ナイロン6)を用いた。フレキシブル基板の厚みは0.15mmとし、その表面には幅50μm、深さ50μmの凹パターン(凹部)を形成した(図14中のフレキシブル基板60)。この例では、フレキシブル基板は、ポリアミド系樹脂を押し出し成形した後、公知のナノインプリントにより成形して作製した。また、この例のフレキシブル基板の凹部を画成する表面内部に浸透させる金属微粒子としては、実施例1と同様に、有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、これをアセトン(溶媒)に溶解してフレキシブル基板上に塗布した。
【0097】
次に、この例で用いたプラスチック成形品の製造装置について説明する。この例では、実施例2と同様の構成の製造装置(図8)を用いた。ただし、この例では、プラスチック成形品の形状及び寸法が実施例2と異なるので、フレキシブル基材を収容する小型容器(図8中の容器42)の内部構造を実施例2とは異なる構造にした。それ以外は、実施例2の製造装置と同じ構造とした。
【0098】
この例の小型容器の概略断面図を図13に示した。また、図13中の破線Eで囲まれた領域の拡大図を図14に示した。小型容器42’は、図13に示すように、その内部にフレキシブル基板60を1つ収容可能な構造になっており、主に、容器本体51’と、容器本体51’内部に設けられたピストン52’と、ピストン52’の上部を保持する保持部53’と、容器本体51’及びピストン52’の間に画成された空間に装着されたバネ54’とから構成される。この例の小型容器42’では、ピストン52’の先端面52a’を平坦とし、容器本体51’のピストン52’の先端面52a’と対向する底面には、小型容器42’に装着されるフレキシブル基板60の外形とほぼ同じ形状及び寸法の凹部51a’を形成した。これ以外の小型容器42’の構造は実施例2(図9)と同じである。また、小型容器42’の動作原理(ピストン52’の移動制御の原理)も実施例2と同様である。
【0099】
この例では、上記製造装置を用い、フレキシブル基板60の凹部に金属微粒子が含浸したプラスチック成形品を作製した。なお、この例のプラスチック成形品の製造方法の手順は実施例2と同様である。
【0100】
さらに、この例においても、実施例1と同様にして、フレキシブル基板60の凹部にメッキ膜を形成し、そのメッキ膜の品質を評価した。この例で形成したメッキ膜もまたふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例で作製したプラスチック成形品の凹部の断面を光学顕微鏡像で観察したところ、実施例1と同様に、メッキ膜がプラスチック成形品の凹部を画成する内壁に沿って成長していることが確認できた(図7(a)参照)。
【0101】
また、この例で作製されたプラスチック成形品のメッキ膜が形成された凹部表面を、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が約7.9nm、最大高さ(Ry)が約8.4nmであり、従来のメッキ法でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra〜数μm)に比べて非常に小さな値となった。これは、この例のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗面化することなく無電解メッキ膜を形成したためである。それゆえ、この例の製造方法で形成したメッキ膜を高周波回路の配線として用いても伝送ロスを低減することができることが分かった。
【実施例4】
【0102】
実施例4では、プラスチック基材に架橋剤を混合した熱硬化性樹脂を用いた。具体的には、熱硬化性樹脂としてシリコン樹脂を用いた。また、この例のプラスチック基材の構造は、実施例2で作製したプラスチック基材の構造(図10参照)とほぼ同じ構造とした。なお、この例では、プラスチック基材の表面には凹部(幅0.1mm、深さ0.1mm)のみを形成した(スルーホールは形成しなかった)。この例のプラスチック基材は、金型を用いて射出成形すること(すなわち、公知の熱硬化性樹脂の成形方法)により作製した。なお、この例では、プラスチック基材に浸透させる金属微粒子として有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、これをアセトン(溶媒)に溶解してプラスチック基材上に塗布した。
【0103】
この例では、製造装置も実施例2と同じ装置(図8参照)を用いた。また、この例では、プラスチック基材の表面改質処理前の高圧容器の温度を80℃にしたこと以外は、実施例2と同様にして、金属微粒子をプラスチック基材の凹部に浸透させ、凹部上にメッキ膜を形成した。
【0104】
また、この例においても実施例1と同様にして、形成したメッキ膜の品質を評価した。この例で形成したメッキ膜はふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例で作製したプラスチック成形品の凹部の断面を光学顕微鏡像で観察したところ、実施例1と同様に、メッキ膜がプラスチック成形品の凹部を画成する内壁に沿って成長していることが確認できた(図7(a)参照)。
【0105】
さらに、この例で作製したプラスチック成形品のメッキ膜が形成された凹部表面を、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が約3.1nm、最大高さ(Ry)が約3.9nmであり、従来のメッキ法でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra〜数μm)に比べて非常に小さな値となった。これは、この例のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗面化することなく無電解メッキ膜を形成したためである。
【実施例5】
【0106】
実施例5では、プラスチック基材に光硬化性樹脂を用いた。具体的には、光硬化性樹脂としてエポキシ樹脂材と硬化剤とを含む紫外線硬化型樹脂を用いた。また、この例のプラスチック基材の構造は、実施例4で作製したプラスチック基材の構造と同じ構造とした。この例のプラスチック基材は、透明金型内に光硬化性樹脂を導入し、紫外線を照射して光硬化性樹脂を硬化させることにより(すなわち、公知の光硬化性樹脂の成形方法)により作製した。なお、この例では、プラスチック基材に浸透させる金属微粒子として有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、これを1ビニル2ピロリドン(溶媒)に溶解してプラスチック基材上に塗布した。
【0107】
この例では、製造装置も実施例2と同じ装置(図8参照)を用いた。なお、プラスチック基材の表面改質処理前の高圧容器の温度を150℃にしたこと以外は、実施例2と同様にして、金属微粒子をプラスチック基材の凹部に浸透させ、凹部上にメッキ膜を形成した。
【0108】
また、この例においても実施例1と同様にして、形成したメッキ膜の品質を評価した。この例で形成したメッキ膜はふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例で作製したプラスチック成形品の凹部の断面を光学顕微鏡像で観察したところ、実施例1と同様に、メッキ膜がプラスチック成形品の凹部を画成する内壁に沿って成長していることが確認できた(図7(a)参照)。
【0109】
また、この例で作製されたプラスチック成形品のメッキ膜が形成された凹部表面を、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が約3.0nm、最大高さ(Ry)が約3.6nmであり、従来のメッキ法でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra〜数μm)に比べて非常に小さな値となった。これは、この例のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗面化することなく無電解メッキ膜を形成したためである。
【0110】
上記実施例1〜5では、プラスチック基材表面にメッキ膜(導電性)パターンを形成したプラスチック成形品について説明したが、メッキ膜を形成する前のプラスチック成形品(金属微粒子がプラスチック基材表面の所望領域に浸透した状態のプラスチック成形品)は、次のような用途に好適なプラスチック成形品である。金属微粒子がプラスチック基材表面の所望領域に浸透した状態のプラスチック成形品では、金属微粒子をプラスチック成形体表面に選択式に配向させることで、局所的に導電性を付与したり、磁力との密着性を高めたりすることができる。それゆえ、このようなプラスチック成形品をバイオチップに適用すると、例えば、簡単にバイオチップの封止を行うことができる。具体的には、流体の流路となる微細な凹凸を有したプラスチック成形品をガラス基板等と貼り合わせ該ガラス基板裏面から磁力を発生させることでガラス基板と該プラスチック成形品の表面の凹部を簡便に封止することが可能となる。
【0111】
上記実施例1〜5では、プラスチック基材表面の凹部に金属微粒子を浸透させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明のプラスチック成形品の製造方法は、例えば、ポリエチレングリコール等のポリアルキルグリコールをポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の疎水性プラスチック基材表面の凹部に選択的に浸透させる方法としても適用可能である。この場合には、疎水性プラスチック基材表面の凹部が選択的に親水化されたプラスチック成形品を作製することができる。この結果、例えば、プラスチックで作製されたバイオッチップにおける流路表面の任意の局所的個所を親水化もしくは撥水化することができ、バイオチップ内における混合流体の層流状態をより高効率化することや、あるいは、タンパク質を該個所にトラップすることにより分析等を行うことが可能となる。また、フッ素化合物を本発明の製造方法を用いてプラスチック成形品の凹部に浸透させた場合には、プラスチック成形品表面の凹部を選択的に撥水処理することや屈折率の低減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、様々な形成材料からなるプラスチック基材表面に、より簡易な方法でメッキ膜を所望のパターン及びサイズで形成することができ、さらに表面粗さの非常に小さいメッキ膜を形成することができる。それゆえ、本発明のプラスチック成形品の製造方法及びプラスチック成形品はあらゆる回路基板の電気配線パターンの形成方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1(a)〜(e)は、本発明のプラスチック成形品における凹部の変形例を示した図である。
【図2】図2は、実施例1で用いた製造装置の概略構成図である。
【図3】図3は、実施例1のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図2中の破線領域Aの拡大図である。
【図4】図4は、実施例1のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図2中の破線領域Aの拡大図である。
【図5】図5は、実施例1のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図2中の破線領域Aの拡大図である。
【図6】図6(a)〜(e)は、実施例1及び2のプラスチック成形品の製造方法の手順を示した図である。
【図7】図7(a)は、実施例1で作製したプラスチック成形品の凹部の断面の光学顕微鏡像であり、図7(b)は、実施例1で作製したプラスチック成形品のスルーホールの断面の光学顕微鏡像である。
【図8】図8は、実施例2で用いた製造装置の概略構成図である。
【図9】図9は、実施例2で用いた小型容器の概略構成図である。
【図10】図10は、実施例2のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図9中の破線領域Cの拡大図である。
【図11】図11は、実施例2のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図9中の破線領域Cの拡大図である。
【図12】図12は、実施例2のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図9中の破線領域Cの拡大図である。
【図13】図13は、実施例3で用いた小型容器の概略構成図である。
【図14】図14は、図13中の破線領域Eの拡大図である。
【符号の説明】
【0114】
1 プラスチック基材
2 凹部
3 金属微粒子
4 メッキ膜
5 スルーホール
6 金属微粒子が溶解した液状物質
7 高圧二酸化炭素
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質されたプラスチック成形品の製造方法及びプラスチック成形品に関し、より詳細には、超臨界流体または高圧ガスを用いて表面改質されたプラスチック成形品の製造方法およびプラスチック成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プラスチック成形品からなる電子機器等の部品の表面に金属導電膜を形成する手段としては、無電解メッキ法が広く利用されている。プラスチック成形品の成形から無電解メッキのプロセスは、成形品の材料などにより多少異なるが、一般には、樹脂成形、成形品の脱脂、エッチング、中和及び湿潤化、触媒付与、触媒活性化、並びに、無電解メッキの工程からなり、この順で行なわれる。
【0003】
プラスチック成形品を成形した後のプロセスをより詳細に説明すると、まず、プラスチック成形品の「脱脂」により成形品表面の油等を取り除き、次いで、「エッチング」によりプラスチック成形品の表面の粗面化を行う。「エッチング」プロセスでは、クロム酸溶液やアルカリ金属水酸化物溶液などを用いるが、これらのエッチング液は「中和」等の後処理が必要なため、コスト高の要因となっている。また、毒性の高いエッチャントを用いるので取り扱い上の問題もある。次いで、プラスチック成形品を界面活性剤水溶液で処理する(「湿潤化」)ことにより、成形品表面の濡れ性を改善した後、「キャタリスト(触媒付与)」プロセスによりプラスチック成形品の表面に触媒を付着させる。「キャタリスト」プロセスでは、例えば、触媒としてパラジウム触媒を用いた場合、塩化スズと塩化パラジウムの塩酸酸性水溶液にプラスチック成形品を含浸させる。「キャタリスト」プロセスの後は、プラスチック成形品を硫酸、塩酸などの酸に接触させてメッキ用触媒を活性化させる(アクセレーター(触媒活性化)プロセス)。以上のプロセスを経た後、はじめて「無電解メッキ」プロセスが可能になる。
【0004】
また、従来、無電解メッキプロセスの前処理方法として、上述したエッチングによる粗面化プロセスを必要しないプロセスが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。これらの特許文献で提案されている方法は、プラスチック成形品の表面に、メッキ触媒の含有する薄膜を有機バインダーや紫外線硬化樹脂により形成する方法である。更には従来、アミン化合物等のガス雰囲気で紫外線レーザをプラスチック成形品の表面に照射して表面改質する技術も提案されており(例えば、特許文献3参照)、これ以外でもコロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線処理等による表面改質技術が提案されている。
【0005】
さらに、従来、超臨界流体を利用したポリマーの表面改質技術を用いて、メッキ触媒核をポリマー表面に浸透させる方法も提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、熱可塑性樹脂からなる成形品を射出成形で成形する際に、金属粒子を成形品の表面近傍に偏析させる技術も提案されている(例えば、特許文献5参照)。特許文献5で開示されている技術では、凹部を有する成形品の全表面近傍に金属粒子を偏析させた後、凸部を研磨して凹部の表面にのみ金属粒子を偏析させる方法が開示されている。
【0006】
プラスチック成形品の表面に金属導電膜を形成する方法としては、従来、プラスチック成形品に立体回路を設ける方法が提案されている(例えば、特許文献6及び7参照)。この形成方法では、まず、立体的なプラスチック製回路基板を樹脂成形により作製し、次いで、回路基板の表面を粗面化および触媒付与する。その後、回路基板表面の全面に無電解メッキを施して金属導電膜を形成する。次いで、フォトレジストを回路基板の全面に塗着する。そして、フォトマスクを被せて露光し、その後現像して回路パターン形成部以外のフォトレジストを除去する。次いで、回路基板の表面に電解メッキによりさらにNiやAuのメッキ膜を形成する。次いで、フォトレジストを剥離するとともにメッキ膜の不要部分をエッチング除去することにより、プラスチック成形品に立体回路を形成する。この技術では、立体構造のプラスチック成形品に均一なフォトレジストを形成するのは困難であるため、電着レジストを用いることが特許文献6で提案されているが、この電着レジストは耐アルカリ性が低いという欠点を有している。
【0007】
さらに、従来、射出成形を利用した回路形成方法も提案されている(例えば、特許文献8参照)。しかしながら、この特許文献では、触媒を金型表面に均一に付着させる方法が具体的に示されてない他、回路部の表面を金型上で粗化する必要がある上、成形後のエッチングも必要である。
【0008】
【特許文献1】特開平9−59778号公報
【特許文献2】特開2001−303255号公報
【特許文献3】特開平6−87964号公報
【特許文献4】特開2005−305945号公報
【特許文献5】特開2004−218062号公報
【特許文献6】特開平4−76985号公報
【特許文献7】特開平1−206692号公報
【特許文献8】特開平6−196840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、従来のプラスチック成形品の製造プロセス及び成形品上に金属導電膜を形成するプロセスは複雑でコスト高であるだけでなく、有害物質を多く使用するため、廃液処理にも問題があった。
【0010】
また、近年、携帯電話等の情報通信機器の信号帯域、コンピューターのCPUクロックタイムはGHz帯に達し、回路基板等においては高周波化が急速に進行している。このような用途では、電気信号の誘電損失をできるだけ抑制する必要がある。電気信号の誘電損失は、回路を形成する絶縁体の比誘電率の平方根、誘電正接および使用される信号の積に比例するため、これを抑制するために絶縁体には誘電率および誘電正接の小さな材料を選定する必要がある。誘電率および誘電正接の小さい絶縁体としては、フッ素樹脂、硬化性ポリオレフィン、シアネートエステル系樹脂等の材料が提案されている。これら材料は一般にエッチング液によって表面が粗化されない材料、すなわち、難メッキ材料として知られており、これらのプラスチック材料に無電解メッキを施すことは困難であるとされている。また、本発明者らの知る限りでは、様々なプラスチック材料からなるプラスチック成形品に対して効率的且つ容易に表面改質できる技術は提案されておらず、特に、様々なプラスチック材料に対して広範囲に適用しうる金属導電膜(電気回路)の形成方法は提案されていない。
【0011】
また、従来のメッキ法では、基材表面を0.5〜数μm粗化する必要があるため、その上に形成されたメッキ膜の表面粗度Raも数μm程度となる。このような表面粗度を有するメッキ膜を高周波回路の配線として用いた場合には、伝送ロスが大きくなる恐れがある。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、より簡易な工程で且つ様々なプラスチック材料に対して広範囲に適用可能なプラスチック成形品の製造方法を提供することであり、特に、様々なプラスチック材料に対して表面を粗面化することなく、無電解メッキプロセスが適用可能になるように表面改質されたプラスチック成形品の製造方法を提供することである。
【0013】
また、携帯電子機器の分野では、小型・薄型化を図るためにプラスチック製のフレキシブル基材が活用する例が増加している。フレキシブル基材は、曲がる、薄い、軽い等の特徴を有し、例えば、折り畳み構造の携帯電話等の機器の連結部に適用されている。このような場合、通常、フレキシブル基材には電気配線が施されており、連結部が高密度・狭小な構造であると、フレキシブル基材上の配線が断線したり、ショートしたり、あるいは、連結部に設けられたデバイスを傷める恐れがある。また、このような電気配線されたフレキシブル基材では、より狭い空間に実装しやすくするため、配線の狭ピッチ化が進められている。
【0014】
そこで、本発明の別の目的は、上述したようなフレキシブル基材における課題も解決することであり、フレキシブル基材を備えるプラスチック成形品に対しても、その表面を選択的に且つ微細に表面改質されたプラスチック成形品及びプラスチック成形品の製造方法を提供することであり、特に、無電解メッキプロセスが適用可能になるように表面改質されたプラスチック成形品及びプラスチック成形品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様に従えば、プラスチック成形品の製造方法であって、凹部を有し、該凹部により表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法が提供される。
【0016】
本発明の第2の態様に従えば、プラスチック成形品の製造方法であって、スルーホールを有し、該スルーホールにより表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記スルーホールに滞留させ、上記スルーホールを画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法が提供される。
【0017】
本発明の第3の態様に従えば、プラスチック成形品の製造方法であって、凹部及びスルーホールを有し、該凹部及びスルーホールにより表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記凹部及びスルーホールに滞留させ、上記凹部及びスルーホールを画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法が提供される。
【0018】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、金属微粒子を含有する物質、具体的には、金属微粒子を溶解した液状物質を塗布したプラスチック基材に高圧二酸化炭素を接触させた状態でプラスチック基材の凹部及び/またはスルーホールにより画成された開口を塞ぎ(凹部及び/またはスルーホールを密閉し)、凹部及び/またはスルーホールに高圧二酸化炭素を滞留させる。この際、高圧二酸化炭素が、プラスチック基材表面に塗布された液状物質を介して、凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材表面に接触する。同時に、プラスチック基材表面に塗布された物質中の金属微粒子が高圧二酸化炭素に溶解して、高圧二酸化炭素とともに凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材の表面内部に浸透する。それゆえ、従来より簡易な方法で、金属微粒子をプラスチック基材表面の一部に選択的に且つ高濃度で浸透させることができる。なお、本発明のプラスチック成形品の製造方法を用いれば、メッキ触媒核となる金属微粒子を高圧二酸化炭素に溶解して、高圧二酸化炭素とともにプラスチック基材に浸透させることができるので、従来のメッキ法が適用可能なプラスチック基材のみならず、従来のメッキ法が適用できなかった材料に対しても容易に金属微粒子を浸透させることができる。
【0019】
なお、本明細書でいう「高圧二酸化炭素」とは、圧力5MPa以上の二酸化炭素であり、亜臨界状態及び超臨界状態の二酸化炭素も含む意味である。本発明の製造方法で用いる高圧二酸化炭素としては、特に、亜臨界状態または超臨界状態の高圧二酸化炭素が好ましく、さらに好ましくは超臨界状態の高圧二酸化炭素が好ましい。また、二酸化炭素以外の超臨界流体としては、超臨界状態にある空気、水、窒素、ブタン、ペンタン等を用いても良い。また、超臨界流体に対する溶質すなわち金属微粒子の溶解度を向上させるために、高圧二酸化炭素にエントレーナー、すなわち助剤としてアセトンやメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを混合させても良い。
【0020】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、さらに、上記金属微粒子が浸透した上記プラスチック基材の表面領域にメッキ膜を形成することを含むことが好ましい。
【0021】
上述のように、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材の表面内部のみに高濃度で金属微粒子を浸透させることができるので、凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材の表面に含浸した金属微粒子をメッキ触媒核として、無電解メッキによりその表面に容易にメッキ膜を形成することができる。また、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、従来のメッキ法が適用可能なプラスチック基材のみならず、従来のメッキ法が適用できなかった材料に対しても容易に金属微粒子を浸透させることができるので、様々なプラスチック材料の基材表面にメッキ膜を形成することができる。
【0022】
また、上記特許文献4で開示されている表面改質技術を用いて、平坦な基板表面に所定のパターン(例えば、配線回路等)で金属微粒子を浸透させ、その上に、メッキ膜を形成すると、メッキ膜の膜厚方向(上面)だけなくメッキ膜の面内方向にもメッキ膜が成長するので、メッキ膜の膜厚の増大とともに、メッキ膜のパターン幅も増大する。それゆえ、例えば、狭ピッチパターンのメッキ膜を形成する場合、その導電性を確保するためにメッキ膜の膜厚を厚くする必要があるので、そのような場合に上記特許文献4で開示されている表面改質技術を用いてメッキ膜を形成すると、狭ピッチパターンを形成することが困難となる恐れもある。
【0023】
しかしながら、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、メッキ膜を形成すべき領域に凹部を設けているので、本発明の製造方法でメッキ膜を形成した場合には、凹部を画成するプラスチック基材の表面に沿ってメッキ膜を形成することができ、メッキ膜のパターン幅は凹部の幅より広くなることはない。それゆえ、狭ピッチパターンのメッキ膜を十分な厚さで形成することができる。その様子を具体的に示したのが、図1である。
【0024】
例えば、凹部の幅が広い(例えば幅が100μm以上)場合またはメッキ膜の膜厚が薄い場合、図1(a)に示すように、プラスチック基材1の凹部2を画成するプラスチック基材1の表面に沿ってメッキ膜4が形成される。なお、図1(a)中の黒丸印3は、プラスチック基材1の表面内部に浸透している金属微粒子である。また、凹部の幅が狭い場合またはメッキ膜の膜厚が厚い場合には、図1(b)に示すように、プラスチック基材1の凹部2にメッキ膜4が埋まるような構造になる。いずれにしても、本発明の製造方法でプラスチック基材上にメッキ膜を形成した場合には、メッキ膜で形成されるパターン幅はプラスチック基材の凹部の幅となり、膜厚が増大してもメッキ膜のパターン幅は広がらない。それゆえ、狭ピッチパターン(狭メッキ膜パターン)をプラスチック基材上に形成する場合に、十分な厚さのメッキ膜を形成してもパターン幅は広がらない。また、本発明の製造方法で、プラスチック基材上にメッキ膜を形成した場合には、図1(a)及び(b)に示すように、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に埋め込まれるようにして形成されるので、摩擦等の物理的接触による膜はがれを抑制することができる。
【0025】
なお、本発明における凹部としては、図1(a)及び(b)に示すように、凹部を画成する底面が平坦で、その底面に対して垂直方向に側面が延在するような断面構造を有するものに限定されない。図1(c)に示すように、断面がV字状の構造にしても良いし、図1(d)に示すように、凹部を画成する底面の断面が平坦でなく円弧状に窪んでいても良い。さらに、摩擦等による物理的接触による膜はがれを一層抑制するためには、図1(e)に示すように、凹部を画成する底面の幅を凹部の開口部(上部)の幅より広く(アンダーカット形状)しても良い。なお、凹部の形成方法としては、例えば、プラスチック基材に熱可塑性樹脂を用いた場合には射出成形により成形することにより、所望の凹部パターン得ることができる。
【0026】
さらに、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗化することなくメッキ膜に形成することができるので、メッキ膜の表面粗度を小さくすることが可能である。それゆえ、本発明の製造方法で形成したメッキ膜を高周波回路の配線として用いた場合でも、伝送ロスを低減することができる。
【0027】
また、本発明のプラスチック成形品の製造方法でスルーホールの表面にメッキ膜を形成した場合には、次のような利点もある。上述のように、従来のメッキ方法では基材の表面を粗化する必要があるので、メッキ可能な樹脂材料としてはエッチングにより表面が粗らされるABS樹脂または各種樹脂にABSを添加したメッキグレード等に限られる。一方、従来、メッキできないプラスチック基材(回路基板)に対してスルーホールを形成する場合には、スパッタ法によりその表面に電解膜を形成する。しかしながら、アスペクト比(深さ/幅)の高い(約1〜2以上)スルーホールに対してスパッタ法により電解膜を形成した場合、スルーホールの中央部分までスパッタ粒子が到達せず、スルーホールに電解膜を形成できないという問題がある。それに対して、本発明の製造方法では、プラスチック基材の形成材料に関係なく、高アスペクト比のスルーホールに対しても、金属微粒子を溶解した高圧二酸化炭素をスルーホールの中央部分に難なく到達させることができ、スルーホールの中央部分の表面に容易に金属微粒子を浸透させることができる。それゆえ、本発明の製造方法を用いれば、プラスチック基材の形成材料に関係なく、スルーホールを画成するプラスチック基材の表面に容易にメッキ膜を形成することができる。
【0028】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、上記プラスチック基材が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれかで形成されていることが好ましい。
【0029】
上述のように、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、従来のようにプラスチック基材表面を粗面化してメッキ膜を形成するのではなく、高圧二酸化炭素を用いて金属微粒子をプラスチック基材の表面内部に浸透させて、金属微粒子が浸透している領域上にメッキ膜を形成するので、プラスチック基材の形成材料としては様々な材料を用いることができる。
【0030】
プラスチック基材を熱可塑性樹脂で形成する場合には、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルペンテン、ポリアセタール、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、スチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂等が用い得る。
【0031】
プラスチック基材を熱硬化性樹脂で形成する場合には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂等が用い得る。
【0032】
また、プラスチック基材を光硬化性樹脂で形成する場合には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂等が用い得る。
【0033】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、特に、上記プラスチック基材が、液晶ポリマー、ポリアミド系樹脂、及びシクロオレフィン系樹脂のいずれかで形成されていることが好ましい。
【0034】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面改質処理終了後の減圧方法は任意であるが、高圧二酸化炭素と有機溶媒の浸透した熱可塑性樹脂は(特に非晶質材料の場合)、ガラス転移温度が低下し、発泡により表面荒れが生じやすくなる。そのため、表面改質時の処理温度よりも温度を低下させた後、減圧することが好ましい。
【0035】
また、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック成形品の表面改質に用いる装置の構造(高圧容器もしくは金型の形態)は、成形品の凹部及び/またはスルーホールにより画成された開口を塞ぐ機能を有する装置であれば任意である。例えば、成形品に対応するキャビティを複数有する金型を備え、複数のキャビティを一括して開閉する構造のプレス装置を用いても良いし、また、成形品毎に小型容器を用意して、その小型容器内で成形品を表面改質処理するような構造の装置を用いても良い。
【0036】
なお、本明細書でいう「金属微粒子」とは、有機金属錯体のみならずその変性物も含む意味である。具体的には、以下のようなものが金属微粒子として用い得る。
【0037】
本発明で用いることのできる金属微粒子としては、高圧二酸化炭素にある程度の溶解度を有するものが好ましい。例えば、超臨界二酸化炭素を用いた場合、有機金属錯体としては、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)等を用いることができる。
【0038】
また、本発明の製造方法では、金属微粒子として、有機金属錯体が還元して生成される金属元素等の高圧二酸化炭素に溶解しない材料(無機材料)を用いることもできる。高圧二酸化炭素に溶解しない無機材料(溶質)をポリマー表面(プラスチック基材表面)に塗布して高圧二酸化炭素をポリマー表面に接触すると、ポリマー表面が膨潤等を起こすので、ポリマー上に塗布された溶質が、高圧二酸化炭素の圧力によりポリマー内に浸透する。この場合、無機材料としては任意の材料を用い得るが、ポリマー内に容易に浸透可能な粒子の大きさを考慮すると、特に分子量5000以下の無機材料を用いることが望ましい。このような条件を満足する無機材料としては、金属微粒子、カーボンナノチューブ、フラーレン、ナノホーン等のナノカーボン、酸化チタン等が挙げられる。従来の超臨界流体を用いた表面改質方法では、超臨界状態等の高圧二酸化炭素に溶解する溶質しか使えなかったが、本発明では上記のような作用により、超臨界状態等の高圧二酸化炭素に溶解しない溶質を用いた表面改質も可能となる。
【0039】
本発明の第4の態様に従えば、プラスチック成形品であって、凹部及びスルーホールの少なくとも一方を有するフレキシブル基材と、上記凹部及びスルーホールの少なくとも一方を画成する上記フレキシブル基材の表面領域に形成されたメッキ膜とを備え、上記メッキ膜が形成されている上記フレキシブル基材の表面内部に上記メッキ膜のメッキ触媒核となる金属微粒子が含浸されていることを特徴とするプラスチック成形品が提供される。
【0040】
本明細書でいう「フレキシブル基材」とは、適度な屈曲性を有する基材である。特に、本発明のプラスチック成形品では、電気的絶縁性及び可撓性を考慮して50〜200μmの厚さのプラスチック基材を用いることが好ましい。より好ましくは、50〜150μmの厚さであることが好ましい。なお、本発明のプラスチック成形品では、上記凹部の深さが5〜50μmであることが好ましく、上記凹部の幅が5〜200μmであることが好ましい。凹部の寸法を上記範囲にすることにより、凹部内部に好適なピッチ幅及び厚みの配線(金属導電膜)を形成することができる。なお、ここでいう凹部の深さとは、プラスチック基材の表面から凹部の深さが最も深い位置までのプラスチック基材厚さ方向の距離のことであり、凹部の幅とは、プラスチック基材の表面に平行な方向の幅であり且つ凹部内でその幅が最も広くなる位置の値である。
【0041】
なお、本発明のプラスチック成形品のプラスチック基材としては、適度な屈曲性を有する基材であれば任意の材料を用い得る。例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれかが用い得る。より具体的には、ガラスエポキシ基板、ガラスポリイミド基板、ポリイミドフィルム基板、ポリエチレンフィルム基板等が用い得る。特に、回路基板としては、低比誘電率、低誘電正接という観点から、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、液晶ポリマー等が好ましい。この中でも特に、高周波対応の点で液晶ポリマーが好ましい。
【0042】
また、本発明のプラスチック成形品では、凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材の表面から約100nmの深さ位置までに、金属微粒子がプラスチック基材の材料に対して約0.1〜0.5at%の割合で含有されていることが好ましい。
【0043】
本発明のプラスチック成形品でプラスチック基材の凹部を画成する表面にメッキ膜を形成した場合には、メッキ膜で形成されるパターン幅はプラスチック基材の凹部の幅となる。それゆえ、十分な厚さで(導電性を確保しつつ)且つ狭ピッチパターン(狭メッキ膜パターン)のメッキ膜をプラスチック基材上に形成することができる。また、本発明のプラスチック成形品でプラスチック基材の凹部を画成する表面にメッキ膜を形成した場合には、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので、摩擦等の物理的接触による膜はがれを抑制することができる。
【0044】
本発明のプラスチック成形品の製造方法及びプラスチック成形品では、上記プラスチック基材表面に形成される上記メッキ膜が電気配線であることが好ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、高圧二酸化炭素を用いてプラスチック基材の凹部及び/またはスルーホールを画成するプラスチック基材の表面内部のみに金属微粒子を浸透させることができる。それゆえ、本発明のプラスチック成形品の製造方法では、従来のメッキ法が適用可能なプラスチック基材のみならず、従来のメッキ法が適用できなかった様々な種類のプラスチック基材に対してもより簡易な方法で、プラスチック基材の所定領域に選択的に且つ高濃度で金属微粒子を浸透させることができる。
【0046】
本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、上述のように、様々な種類のプラスチック基材に対しても、プラスチック基材の所定領域に選択的に且つ高濃度で金属微粒子を浸透させることができるので、その金属微粒子をメッキ触媒核として様々な材料のプラスチック基材表面にメッキ膜を形成することができる。
【0047】
また、本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので、導電性を確保するためにメッキ膜の厚さを厚くしてもメッキ膜のパターン幅は広がらない。また、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に埋め込まれるようにして形成されるので、摩擦等の物理的接触による膜はがれを抑制することができる。
【0048】
さらに、本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、表面を粗面化することなく表面改質を行うことができるので、より簡易な方法で表面改質することができ、毒性の高い処理物質を用いる必要もない。また、本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、特許文献5に開示されている技術のように、金属粒子をプラスチック基材表面近傍に偏析させた後、プラスチック基材に研磨等を施す必要もないので、本発明のプラスチック成形品の製造方法は、特許文献5に開示されている技術と比べてもより簡易な方法である。また、本発明のプラスチック成形品では、機能を発現する溶質(金属微粒子等)はプラスチック成形品の内部に浸透しているのでその機能は持続し、耐候性に優れたプラスチック成形品を製造することができる。
【0049】
また、本発明のプラスチック成形品の製造方法によれば、プラスチック基材の表面を粗面化せずにメッキ膜に形成することができるので、メッキ膜の表面粗度を小さくすることができる。それゆえ、本発明の製造方法で形成したメッキ膜を高周波回路の配線として用いた場合に伝送ロスを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に、本発明のプラスチック成形品の製造方法およびプラスチック成形品の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0051】
実施例1では、図3に示すような断面が略10角形状であり且つ凹部2及びスルーホール5を有するプラスチック基材1に対して、凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面内部に金属微粒子を浸透させるプラスチック成形品の製造方法およびプラスチック成形品について説明する。
【0052】
[プラスチック成形品及び製造装置]
この例のプラスチック基材1としては、熱可塑性樹脂であるシクロオレフィン系樹脂(ゼオネックス:日本ゼオン製)を用いた。プラスチック基材1には、図3に示すように、凹部2およびスルーホール5を形成した。この例のプラスチック基材1は、公知の射出成形法により成形した。この例では、凹部2の幅を0.1mmとし、深さを0.1mmとした。また、スルーホール5の直径は0.3mmとし、高さ(長さ)を1.5mm(アスペクト比1.5/0.3=5.0)とした。また、この例のプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面内部に浸透させる金属微粒子としては、有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0053】
次に、この例のプラスチック成形品の製造方法に用いた製造装置について説明する。この例で用いたプラスチック成形品の製造装置の概略構成を図2に示した。この例の製造装置100は、図2に示すように、主に高圧二酸化炭素の供給部101と、排気部102と、型締め装置(プレスピストン)を備える金型103とから構成される。
【0054】
高圧二酸化炭素の供給部101は、図2に示すように、液体二酸化炭素ボンベ11と、液体二酸化炭素を加圧するための高圧ポンプ12と、高圧二酸化炭素の金型103への供給を制御する逆支弁14及びバルブ15とから構成され、これらの構成要素は配管16により接続されている。また、高圧二酸化炭素の排出部102は、図2に示すように、金型103から排出される高圧二酸化炭素を回収する回収槽22と、高圧二酸化炭素の排出を制御する保圧弁24及びバルブ25,26とから構成され、これらの構成要素は配管27により接続されている。なお、この例の製造装置100の配管の表面すべてには、図示しないヒータが巻かれており、温調可能な構造となっている。
【0055】
金型103は、図2に示すように、主に、可動金型31と、固定金型32とから構成され、プレスピストン(不図示)により開閉される。プレスピストンは電動サーボモータ(不図示)による位置制御により移動可能となっている。また、金型103は、図示しないカートリッジヒータにより温調可能な構造になっている。さらに、この例の金型103は、図示しない冷却回路を流動する冷却水によって冷却可能である。
【0056】
この例の金型103では、図2に示すように、可動金型31と固定金型32との間に複数のプラスチック基材1を挟み込んで保持する構造になっている。可動金型31の固定金型32側の表面には、図2に示すように、プラスチック基材1の上半分の外形と倣った凹部31aが複数形成されており、固定金型32の可動金型31側の表面には、プラスチック基材1の下半分の外形と倣った凹部32aが複数形成されている。そして、可動金型31の凹部31aと固定金型32の凹部32aとは互いに対向する位置に配置されている。すなわち、可動金型31と固定金型32とを閉じた際に、固定金型32と可動金型31との界面に、可動金型31の凹部31aと固定金型32の凹部32aにより、プラスチック基材1の外形寸法及び形状とほぼ同じ寸法及び形状を有する空間(キャビティ)が複数画成されるような構造になっている。それゆえ、図2に示すように、可動金型31及び固定金型32の界面にプラスチック基材1を装着して金型を閉めると、プラスチック基材1の表面に形成されている凹部2及びスルーホール5の開口部(凹部2及びスルーホール5によりプラスチック基材1の表面に画成された開口)は金型により塞がれた状態となる。なお、この例では、100個の成形品を一括で表面改質処理できる構造とした。具体的には、可動金型31及び可動金型32の各表面に凹部をそれぞれ10×10個で配列して形成した。
【0057】
また、金型103には、図2に示すように、可動金型31及び固定金型32間に画成される空間と流通した導入口33及び排出口34が形成されている。そして、導入口33及び排出口34は、図2に示すように、高圧二酸化炭素の供給部101の配管16及び排出部102の配管27にそれぞれ接続されている。それゆえ、高圧二酸化炭素の供給部101は、図3に示すように、導入口33を介して可動金型31及び固定金型32間の空間と流通しており、排出部102は排出口34を介して可動金型31及び固定金型32間の空間と流通している。すなわち、この例の製造装置100では、供給部102で生成された高圧二酸化炭素は配管16から導入口33を通って可動金型31及び固定金型32間に画成された空間に導入され、導入された高圧二酸化炭素は、排出口34から配管27を通って回収槽22に排出される。
【0058】
[プラスチック成形品の製造方法]
次に、この例のプラスチック成形品の製造方法を、図2〜6を参照しながら説明する。なお、図3〜5は、図2中の破線Aで囲まれた領域の拡大図であり、図6は、図3〜5中の破線Bで囲まれた領域の拡大図である。
【0059】
まず、凹部2及びスルーホール5が形成されたプラスチック基材1を公知の射出成形法により成形した(図6(a)の状態)。次いで、プラスチック基材1の表面に金属微粒子(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))の溶解した溶液6(液状物質)を塗布した(図6(b)の状態)。なお、この例では溶液6として、金属微粒子をアセトン(溶媒)に溶解させたものを用いた。この際、塗布した溶液6は、図6(b)に示すように、主にプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5に溜まり、凹部2及びスルーホール5以外のプラスチック基材表面にはほとんど溶液6は溜まらない。
【0060】
次いで、金属微粒子を溶解した溶液6が塗布されたプラスチック基材1を金型103(可動金型31及び固定金型32の界面に画成されるキャビティ)に装着した(図3の状態)。なお、金型103の初期開き量(図3中のt)は1mmとした。また、表面改質処理前の金型103の温度は120℃に設定した。この例の製造装置100の配管ヒータは50℃に設定した。
【0061】
次いで、液体二酸化炭素ボンベ11から液体二酸化炭素を高圧ポンプ12に供給し、高圧ポンプ12で液体二酸化炭素を加圧して高圧二酸化炭素を生成した。なお、高圧ポンプ12では、圧力計13が10MPaになるように液体二酸化炭素を昇圧した。次いで、逆支弁14を介し、バルブ15、25を開放することにより、金型103の内部(可動金型31及び固定金型32間に画成された空間)に10MPaの高圧二酸化炭素を導入した。この工程で、プラスチック基材1の表面全体に渡って高圧二酸化炭素7が接触している状態となる(図6(c)の状態)。
【0062】
次いで、金型103を閉め、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5の開口部を塞いで、高圧二酸化炭素を凹部2及びスルーホール5のみに滞留させた(図4及び図6(d)の状態)。なお、この際、排出部102の保圧弁24の1次側の圧力を10MPaに調節することが望ましい。そして、この状態を5分間保持した。この際、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5のみに高圧二酸化炭素を滞留させることで、高圧二酸化炭素が、プラスチック基材1表面に塗布された溶液6を介して、凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面に接触する。それにより、熱可塑性樹脂であるプラスチック基材1表面が膨潤し、その粘性が低下し軟化する。同時に、プラスチック基材1表面に塗布された溶液6中の金属微粒子が高圧二酸化炭素に溶解して(図4及び図6(d)中の溶液6’)、高圧二酸化炭素とともに凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面内部に浸透する。この方法を用いると、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1表面にのみ均一に且つ高濃度で金属微粒子(図5及び図6(e)中に粒子3)を浸透させることができる。
【0063】
なお、図6(d)の工程は、図6(c)の工程後、短い時間(この例では5〜10秒)内で行なっているので、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5以外の表面にはほとんど金属微粒子は浸透しない。ただし、図6(c)の状態を長時間保持すると、高圧二酸化炭素に溶解した溶液6がプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5以外の表面に高濃度で浸透する恐れがあるので、図6(d)の工程は、図6(c)の工程後、できるだけ短い時間内で行なうことが好ましい。
【0064】
次いで、金型103のヒータの電源を切り、冷却水を流して、金型103を40℃まで冷却した。その後、バルブ15、25を閉じ、次いで、バルブ26を開放して、金型103内部を大気開放した(図5及び図6(e)の状態)。そして、プラスチック基材1を金型103から取り出した。以上のようにして、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面にのみ金属微粒子3が均一に且つ高濃度で浸透したプラスチック成形品を作製した。
【0065】
上述のように、この例のプラスチック成形品の製造方法では、表面を粗面化することなく表面改質を行うことができるので、より簡易な方法で表面改質することができ、毒性の高い処理物質を使用する必要もない。さらに、上記製造方法で作成されたプラスチック成形品では、機能を発現する溶質(この例では金属微粒子)はプラスチック成形品の内部に浸透しているのでその機能は持続し、耐候性に優れたプラスチック成形品を作製することができる。
【0066】
この例では、さらに、上述した方法で作製したプラスチック成形品にメッキ膜を形成した。具体的には、次のようにしてメッキ膜を形成した。
【0067】
まず、上述のようにして表面処理したプラスチック成形品を、80℃に温調したNi無電解メッキ液(奥野製薬工業(株)製)内に5分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行った。次いで、Ni無電解メッキ処理を行ったプラスチック成形品を、60℃に温調したAu無電解メッキ液(奥野製薬工業(株)製)内に5分間浸漬し、Au無電解メッキ処理を行った。この際、この例のプラスチック成形品では、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面にのみ金属微粒子が浸透しているので、凹部2及びスルーホール5を画成する表面上にのみ、浸透した金属微粒子をメッキ触媒核としてメッキ膜が形成される(例えば、図1(a)または(b)の状態)。この例では上述のようにして、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面上にのみメッキ膜が形成されたプラスチック成形品を作製した。
【0068】
この例のプラスチック成形品の製造方法では、上述のようにメッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので、導電性を確保するためにメッキ膜の厚さを厚くしてもメッキ膜のパターン幅は広がらない。また、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので(図1(a)及び(b)参照)、摩擦等の物理的接触による膜はがれを抑制することができる。
【0069】
[メッキ膜の品質評価]
次に、この例でプラスチッキ基材上に形成したメッキ膜の品質を評価した。この例で形成したメッキ膜はふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例で作製したプラスチック成形品の凹部及びスルーホールの断面を光学顕微鏡像で観察した。その結果を図7に示した。図7(a)が凹部の断面の光学顕微鏡像であり、図7(b)がスルーホールの断面の光学顕微鏡像である。図7中の領域1がプラスチック基材1であり、領域4が凹部2及びスルーホール5内部に形成されたメッキ膜である。図7から明らかなように、メッキ膜4がプラスチック成形品の凹部及びスルーホールを画成する内壁に沿って成長していることが確認できた。
【0070】
また、この例で作製されたプラスチック成形品のメッキ膜が形成された凹部表面を、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が約2.8nm、最大高さ(Ry)が約3.3nmであり、従来のメッキ法でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra〜数μm)に比べて非常に小さな値となった。これは、この例のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗面化することなく無電解メッキ膜を形成したためである。それゆえ、この例の製造方法で形成したメッキ膜を高周波回路の配線として用いても伝送ロスを低減することができることが分かった。
【実施例2】
【0071】
実施例2では、実施例1と同様に、図10に示すような断面が略10角形状であり且つ凹部2及びスルーホール5を有するプラスチック基材1に対して、凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面内部に金属微粒子を浸透させるプラスチック成形品の製造方法およびプラスチック成形品について説明する。
【0072】
[プラスチック成形品及び製造装置]
この例のプラスチック基材1としては、熱可塑性樹脂である液晶ポリマー(ベクトラA950:ポリプラスチックス(株)製)を用いた。この例のプラスチック基材1では、図10に示すように、凹部2およびスルーホール5を形成した。この例のプラスチック基材1は、実施例1と同様に、公知の射出成形法により成形し、凹部2およびスルーホール5の寸法及び形状は実施例1と同じとした。また、この例のプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面内部に浸透させる金属微粒子としては、実施例1と同様に、有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0073】
次に、この例のプラスチック成形品の製造方法に用いた製造装置について説明する。この例で用いたプラスチック成形品の製造装置の概略構成を図8に示した。この例の製造装置200は、図8に示すように、主に高圧二酸化炭素の供給部201と、排気部202と、プラスチック基材1の表面改質処理を行なう高圧容器203とから構成される。
【0074】
高圧二酸化炭素の供給部201は、図8に示すように、実施例1と同様の構成とした。それゆえ、ここでは、供給部201の説明は省略する。一方、高圧二酸化炭素の排出部202は、図8に示すように、高圧容器203から排出される高圧二酸化炭素を回収する回収槽22と、高圧二酸化炭素の排出を制御するバルブ25とから構成され、これらの構成要素は配管27により接続されている。なお、この例の製造装置200の配管の表面すべてには、図示しないヒータが巻かれており、温調可能な構造となっている。
【0075】
高圧容器203は、図8に示すように、その内部に複数の小型容器42が収容される構造になっている。また、各小型容器41内には、1つのプラスチック基材1が収容可能になっている。それゆえ、この例の製造装置200では、高圧容器203内に収容可能な小型容器42の数と同じ数のプラスチック基材1を同時に表面改質処理できる構造になっている。なお、この例では、100個の小型容器42が収納可能な高圧容器203を用いた。また、高圧容器203は、カートリッジヒータ(不図示)を備え温調可能である。さらに、高圧容器203は、冷却回路(不図示)を備え、冷却回路に冷却水を流動させることによって冷却可能な構造となっている。また、この例の製造装置200では、1つの小型容器41に1つのプラスチック基材1が収容可能になっているので、プラスチック基材1に対して個別に寸法を合わすことが可能となるため、高圧容器203全体での寸法精度がさほど要求されない。
【0076】
また、高圧容器203の外壁41の上面には、図8に示すように、高圧容器203の内部と流通した高圧二酸化炭素の導入口45及び排出口46が形成されている。そして、導入口45及び排出口46は、図8に示すように、高圧二酸化炭素の供給部201の配管16及び排出部202の配管27にそれぞれ接続されている。すなわち、高圧二酸化炭素の供給部201は、図8に示すように、導入口45を介して高圧容器203内部と流通しており、排出部202は排出口46を介して高圧容器203内部と流通している。それゆえ、この例の製造装置200では、供給部202で生成された高圧二酸化炭素は配管16から高圧容器203の導入口45を通って高圧容器203の内部に導入され、導入された二酸化炭素は、排出口46から配管27を通って回収槽22に排出される。
【0077】
次に、高圧容器203内部に収容される小型容器42の構造について説明する。小型容器42の概略断面図を図9に示した。小型容器42は、図9に示すように、その内部にプラスチック基材1を1つ収容可能な構造になっており、主に、容器本体51と、容器本体51内部に設けられたピストン52と、ピストン52の上部を保持する保持部53と、容器本体51及びピストン52の間に画成された空間に装着されたバネ54とから構成される。
【0078】
容器本体51の内部は、図9に示すように、ピストン52及びバネ54が収容可能な構造になっている。また、容器本体51のピストン52の先端部と対向する底面には、小型容器42に装着されるプラスチック基材1の下半分の外形を倣った凹部51aが形成されている。また、容器本体51の側壁には、図9に示すように、凹部51aと流通する流路51bが形成されており、後述するように、この流路51bを介して高圧二酸化炭素が小型容器42内に導入及び排出される。
【0079】
ピストン52は、容器本体51の内部にその長手方向(図9上では上下方向)に移動可能に取り付けられており、その移動は、後述するように、高圧容器203内に導入される高圧二酸化炭素の圧力とバネ54の弾性力との大小関係で制御される。また、ピストン52の容器本体51側の先端面には、図9に示すように、小型容器42に装着されるプラスチック基材1の上半分の外形と倣った凹部52aが形成されており、容器本体51内の凹部51aと対向する位置設けられている。それゆえ、ピストン52を容器本体51の凹部51aに向かって移動させ、ピストン52の先端面とそれと対向する容器本体51の底面とを重ね合わせると、ピストン52の先端面と容器本体51の底面との間に、プラスチック基材1の外形とほぼ同じ形状及び寸法の空間(キャビティ)が画成される。それゆえ、図9に示すように、小型容器42内にプラスチック基材1を装着してピストン52の先端面とそれと対向する容器本体51の底面とを重ね合わせると、プラスチック基材1の表面に形成されている凹部2及びスルーホール5の開口部は、ピストン52の先端面とそれと対向する容器本体51の底面により塞がれた状態となる。なお、以下の説明では、ピストン52を容器本体51の凹部51aに向かって移動させてピストン52の先端面とそれと対向する容器本体51の底面とを重ね合わせる動作を、キャビティを閉じると称し、逆に、ピストン52を容器本体51の凹部51aから離れる方向に移動させる動作を、キャビティを開くと称する。
【0080】
ここで、小型容器42内のピストン52の開閉動作(キャビティの開閉動作)の原理について説明する。小型容器42内のピストン52の移動は、図9に示すように、バネ54の弾性力によりピストン52に与えられる力A1と、高圧容器203内に導入された高圧二酸化炭素の圧力によりピストン52に与えられる力A2との大小関係で制御される。バネ54の弾性力によりピストン52に与えられる力A1は、図9に示すように、キャビティを開く方向に作用する。一方、高圧容器203内に導入された高圧二酸化炭素の圧力によりピストン52に与えられる力A2は、図9に示すように、ピストン52の上端面(上記凹部52aとは反対側の面)を押す方向に作用するので、キャビティを閉じる方向に作用する。
【0081】
この例では、高圧容器203に高圧二酸化炭素が導入されておらず、高圧容器203内部が大気圧の状態にある場合、バネ54によりピストン52に加えられる力A1の方がピストン52の上端面にかかる力A2より大きくなるように調整されており、ピストン52の先端面とそれと対向する容器本体51の底面とが離れた状態(キャビティが開いた状態)となる。しかしながら、高圧二酸化炭素が高圧容器203内、すなわち、小型容器42の外雰囲気に導入されると、ピストン52の上端面を押す力A2(高圧二酸化炭素の圧力×ピストン上端面の受圧面積)が大きくなる。そして、ピストン52の上端面を押す力A2が、バネ54によりピストン52に加えられる力A1より大きくなると(A2=(圧力×ピストン下面の受圧面積)>バネ力=A1の状態になると)、ピストン52が下降してキャビティが閉じる構造となっている。
【0082】
なお、高圧容器203に高圧二酸化炭素を導入した際、最初は圧力が低い状態であるので、小型容器42内のキャビティが開いた状態であり、小型容器42の流路51bを介して小型容器42の内部にも高圧二酸化炭素が導入される。そして、高圧容器203に導入する二酸化炭素の圧力を上昇させると、徐々にピストン52が下降してキャビティが閉じられる。その結果、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5の開口部が塞がれ、小型容器42の内部に導入された高圧二酸化炭素を、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5内部のみに滞留させることができる。なお、ピストン52を下降させるために必要な圧力A2は小型容器42内に挿入するバネ54のバネ定数により調整することができる。すなわち、キャビティを閉じる圧力をバネ54のバネ定数により選定することができる。本実施例では、キャビティを閉じる圧力が10MPaとなるように調節し、高圧容器203に10MPaの高圧二酸化炭素を導入することにより、小型容器42内のキャビティが閉じる構造にした。
【0083】
[プラスチック成形品の製造方法]
次に、この例のプラスチック成形品の製造方法を、図6、8及び10〜12を参照しながら説明する。なお、図10〜12は、図9中の破線Cで囲まれた領域の拡大図であり、図6は、図10〜12中の破線Dで囲まれた領域の拡大図である。
【0084】
まず、凹部2及びスルーホール5を有するプラスチック基材1を公知の射出成形法により成形した(図6(a)の状態)。次いで、プラスチック基材1の表面に金属微粒子(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))の溶解した溶液6(液状物質)を塗布した(図6(b)の状態)。なお、この例では溶液6として金属微粒子をアセトン(溶媒)に溶解させたものを用いた。
【0085】
次いで、金属微粒子を溶解した溶液6が塗布されたプラスチック基材1を小型容器42内のキャビティ(ピストン52の先端面と容器本体51の底面との間に画成された空間)に装着した(図10の状態)。次いで、プラスチック基材1が装着された小型容器42を100個、高圧容器203内に装着した。なお、表面改質処理前の高圧容器203の温度は120℃に設定した。また、この例の製造装置200の配管ヒータは50℃に設定した。
【0086】
次いで、液体二酸化炭素ボンベ11から液体二酸化炭素を高圧ポンプ12に供給し、高圧ポンプ12で液体二酸化炭素を加圧して高圧二酸化炭素を生成した。なお、高圧ポンプ12では、圧力計13が5MPaになるように液体二酸化炭素参加を昇圧した。次いで、逆支弁14を介し、バルブ15を開放することにより、高圧容器203の内部に5MPaの高圧二酸化炭素を導入した。これにより、5MPaの高圧二酸化炭素を小型容器42の流路51bを介して小型容器42の内部(キャビティ)に導入し、プラスチック基材1の表面に高圧二酸化炭素を接触させた(図6(c)の状態)。
【0087】
次いで、高圧二酸化炭素の圧力を10MPaまで段階的に昇圧し、小型容器42内のピストン52を下降させ、プラスチック基材1の表面に高圧二酸化炭素を接触させた状態で小型容器42内のキャビティを閉じた。この結果、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5の開口部が塞がれ、小型容器42の内部に導入された高圧二酸化炭素がプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5内部のみに滞留した状態となる(図11及び図6(d)の状態)。そして、この状態を5分間保持した。この際、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5のみに高圧二酸化炭素を滞留させることで、高圧二酸化炭素が、プラスチック基材1表面に塗布された溶液6を介して、凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面に接触する。それにより、熱可塑性樹脂であるプラスチック基材表面が膨潤し、その粘性が低下し軟化する。同時に、プラスチック基材1表面に塗布された溶液中の金属微粒子が高圧二酸化炭素に溶解して、高圧二酸化炭素とともに凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1の表面内部に浸透する。それゆえ、この例の製造装置を用いた場合でも、実施例1と同様に、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成するプラスチック基材1表面にのみ均一に且つ高濃度で金属微粒子3(図12及び図6(e)中の粒子3)を浸透させることができる。
【0088】
なお、図6(d)の工程、すなわち、高圧二酸化炭素の圧力を5MPaから10MPaに昇圧する工程は、図6(c)の工程後、短い時間(この例では5〜10秒)内で行なっているので、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5以外の表面にはほとんど金属微粒子は浸透しない。ただし、図6(c)の状態を長時間保持すると、高圧二酸化炭素に溶解した溶液6がプラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5以外の表面に高濃度で浸透する恐れがあるので、図6(d)の工程は、図6(c)の工程後、できるだけ短い時間内で行なうことが好ましい。
【0089】
次いで、高圧容器203のヒータの電源を切り、冷却水を流して、高圧容器203を40℃まで冷却した。その後、バルブ15を閉じ、次いで、バルブ25を開放して、高圧容器203内部を大気開放した(図12及び図6(e)の状態)。そして、プラスチック基材1を金型103から取り出した。以上のようにして、この例では、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面にのみ金属微粒子3が均一に且つ高濃度で浸透したプラスチック成形品を作製した。また、上述のように、この例のプラスチック成形品の製造方法では、表面を粗面化することなく表面改質を行うことができるので、より簡易な方法で表面改質することができ、毒性の高い処理物質を使用する必要もない。さらに、機能を発現する溶質(この例では金属微粒子)はプラスチック成形品の内部に浸透しているのでその機能は持続し、耐候性に優れたプラスチック成形品を作製することができる。
【0090】
この例では、さらに、上述した方法で作製したプラスチック成形品にメッキ膜を形成した。具体的には、次のようにしてメッキ膜を形成した。
【0091】
まず、上述のようにして表面処理したプラスチック成形品を、80℃に温調したNi無電解メッキ液(奥野製薬工業(株)製ICP−二コロンDK)内に5分間浸漬し、Ni無電解メッキ処理を行った。次いで、Ni無電解メッキ処理を行ったプラスチック成形品を、60℃に温調したAu無電解メッキ液(奥野製薬工業(株)製)内に5分間浸漬し、Au無電解メッキ処理を行った。この際、上述のように、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面にのみ金属微粒子が浸透しているので、凹部2及びスルーホール5を画成する表面上にのみ、浸透した金属微粒子をメッキ触媒核としてメッキ膜が形成される(例えば、図1(a)または(b)の状態)。この例では上述のようにして、プラスチック基材1の凹部2及びスルーホール5を画成する表面上にのみメッキ膜が形成されたプラスチック成形品を作製した。
【0092】
この例のプラスチック成形品の製造方法では、上述のようにメッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので、導電性を確保するためにメッキ膜の厚さを厚くしてもメッキ膜のパターン幅は広がらない。また、メッキ膜はプラスチック基材の凹部内部に形成されるので、摩擦等の物理的接触による膜はがれを抑制することができる。
【0093】
[メッキ膜の品質評価]
次に、この例で形成したメッキ膜の品質を評価した。この例で形成したメッキ膜はふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例で作製したプラスチック成形品の凹部及びスルーホールの断面の光学顕微鏡像で観察したところ、実施例1と同様に、メッキ膜4がプラスチック成形品の凹部及びスルーホールを画成する内壁に沿って成長していることが確認できた(図7参照)。
【0094】
また、この例で作製されたプラスチック成形品のメッキ膜が形成された凹部表面を、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が約2.4nm、最大高さ(Ry)が約2.9nmであり、従来のメッキ法でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra〜数μm)に比べて非常に小さな値となった。これは、この例のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗面化することなく無電解メッキ膜を形成したためである。それゆえ、この例の製造方法で形成したメッキ膜を高周波回路の配線として用いても伝送ロスを低減することができることが分かった。
【実施例3】
【0095】
実施例3では、プラスチック基材としてフレキシブル基板(フレキシブル基材)を用いたプラスチック成形品の製造方法について説明する。
【0096】
フレキシブル基板としては、熱可塑性樹脂であるポリアミド系樹脂(ガラス繊維強化ナイロン6)を用いた。フレキシブル基板の厚みは0.15mmとし、その表面には幅50μm、深さ50μmの凹パターン(凹部)を形成した(図14中のフレキシブル基板60)。この例では、フレキシブル基板は、ポリアミド系樹脂を押し出し成形した後、公知のナノインプリントにより成形して作製した。また、この例のフレキシブル基板の凹部を画成する表面内部に浸透させる金属微粒子としては、実施例1と同様に、有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、これをアセトン(溶媒)に溶解してフレキシブル基板上に塗布した。
【0097】
次に、この例で用いたプラスチック成形品の製造装置について説明する。この例では、実施例2と同様の構成の製造装置(図8)を用いた。ただし、この例では、プラスチック成形品の形状及び寸法が実施例2と異なるので、フレキシブル基材を収容する小型容器(図8中の容器42)の内部構造を実施例2とは異なる構造にした。それ以外は、実施例2の製造装置と同じ構造とした。
【0098】
この例の小型容器の概略断面図を図13に示した。また、図13中の破線Eで囲まれた領域の拡大図を図14に示した。小型容器42’は、図13に示すように、その内部にフレキシブル基板60を1つ収容可能な構造になっており、主に、容器本体51’と、容器本体51’内部に設けられたピストン52’と、ピストン52’の上部を保持する保持部53’と、容器本体51’及びピストン52’の間に画成された空間に装着されたバネ54’とから構成される。この例の小型容器42’では、ピストン52’の先端面52a’を平坦とし、容器本体51’のピストン52’の先端面52a’と対向する底面には、小型容器42’に装着されるフレキシブル基板60の外形とほぼ同じ形状及び寸法の凹部51a’を形成した。これ以外の小型容器42’の構造は実施例2(図9)と同じである。また、小型容器42’の動作原理(ピストン52’の移動制御の原理)も実施例2と同様である。
【0099】
この例では、上記製造装置を用い、フレキシブル基板60の凹部に金属微粒子が含浸したプラスチック成形品を作製した。なお、この例のプラスチック成形品の製造方法の手順は実施例2と同様である。
【0100】
さらに、この例においても、実施例1と同様にして、フレキシブル基板60の凹部にメッキ膜を形成し、そのメッキ膜の品質を評価した。この例で形成したメッキ膜もまたふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例で作製したプラスチック成形品の凹部の断面を光学顕微鏡像で観察したところ、実施例1と同様に、メッキ膜がプラスチック成形品の凹部を画成する内壁に沿って成長していることが確認できた(図7(a)参照)。
【0101】
また、この例で作製されたプラスチック成形品のメッキ膜が形成された凹部表面を、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が約7.9nm、最大高さ(Ry)が約8.4nmであり、従来のメッキ法でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra〜数μm)に比べて非常に小さな値となった。これは、この例のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗面化することなく無電解メッキ膜を形成したためである。それゆえ、この例の製造方法で形成したメッキ膜を高周波回路の配線として用いても伝送ロスを低減することができることが分かった。
【実施例4】
【0102】
実施例4では、プラスチック基材に架橋剤を混合した熱硬化性樹脂を用いた。具体的には、熱硬化性樹脂としてシリコン樹脂を用いた。また、この例のプラスチック基材の構造は、実施例2で作製したプラスチック基材の構造(図10参照)とほぼ同じ構造とした。なお、この例では、プラスチック基材の表面には凹部(幅0.1mm、深さ0.1mm)のみを形成した(スルーホールは形成しなかった)。この例のプラスチック基材は、金型を用いて射出成形すること(すなわち、公知の熱硬化性樹脂の成形方法)により作製した。なお、この例では、プラスチック基材に浸透させる金属微粒子として有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、これをアセトン(溶媒)に溶解してプラスチック基材上に塗布した。
【0103】
この例では、製造装置も実施例2と同じ装置(図8参照)を用いた。また、この例では、プラスチック基材の表面改質処理前の高圧容器の温度を80℃にしたこと以外は、実施例2と同様にして、金属微粒子をプラスチック基材の凹部に浸透させ、凹部上にメッキ膜を形成した。
【0104】
また、この例においても実施例1と同様にして、形成したメッキ膜の品質を評価した。この例で形成したメッキ膜はふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例で作製したプラスチック成形品の凹部の断面を光学顕微鏡像で観察したところ、実施例1と同様に、メッキ膜がプラスチック成形品の凹部を画成する内壁に沿って成長していることが確認できた(図7(a)参照)。
【0105】
さらに、この例で作製したプラスチック成形品のメッキ膜が形成された凹部表面を、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が約3.1nm、最大高さ(Ry)が約3.9nmであり、従来のメッキ法でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra〜数μm)に比べて非常に小さな値となった。これは、この例のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗面化することなく無電解メッキ膜を形成したためである。
【実施例5】
【0106】
実施例5では、プラスチック基材に光硬化性樹脂を用いた。具体的には、光硬化性樹脂としてエポキシ樹脂材と硬化剤とを含む紫外線硬化型樹脂を用いた。また、この例のプラスチック基材の構造は、実施例4で作製したプラスチック基材の構造と同じ構造とした。この例のプラスチック基材は、透明金型内に光硬化性樹脂を導入し、紫外線を照射して光硬化性樹脂を硬化させることにより(すなわち、公知の光硬化性樹脂の成形方法)により作製した。なお、この例では、プラスチック基材に浸透させる金属微粒子として有機金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、これを1ビニル2ピロリドン(溶媒)に溶解してプラスチック基材上に塗布した。
【0107】
この例では、製造装置も実施例2と同じ装置(図8参照)を用いた。なお、プラスチック基材の表面改質処理前の高圧容器の温度を150℃にしたこと以外は、実施例2と同様にして、金属微粒子をプラスチック基材の凹部に浸透させ、凹部上にメッキ膜を形成した。
【0108】
また、この例においても実施例1と同様にして、形成したメッキ膜の品質を評価した。この例で形成したメッキ膜はふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。また、この例で作製したプラスチック成形品の凹部の断面を光学顕微鏡像で観察したところ、実施例1と同様に、メッキ膜がプラスチック成形品の凹部を画成する内壁に沿って成長していることが確認できた(図7(a)参照)。
【0109】
また、この例で作製されたプラスチック成形品のメッキ膜が形成された凹部表面を、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が約3.0nm、最大高さ(Ry)が約3.6nmであり、従来のメッキ法でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra〜数μm)に比べて非常に小さな値となった。これは、この例のプラスチック成形品の製造方法では、プラスチック基材の表面を粗面化することなく無電解メッキ膜を形成したためである。
【0110】
上記実施例1〜5では、プラスチック基材表面にメッキ膜(導電性)パターンを形成したプラスチック成形品について説明したが、メッキ膜を形成する前のプラスチック成形品(金属微粒子がプラスチック基材表面の所望領域に浸透した状態のプラスチック成形品)は、次のような用途に好適なプラスチック成形品である。金属微粒子がプラスチック基材表面の所望領域に浸透した状態のプラスチック成形品では、金属微粒子をプラスチック成形体表面に選択式に配向させることで、局所的に導電性を付与したり、磁力との密着性を高めたりすることができる。それゆえ、このようなプラスチック成形品をバイオチップに適用すると、例えば、簡単にバイオチップの封止を行うことができる。具体的には、流体の流路となる微細な凹凸を有したプラスチック成形品をガラス基板等と貼り合わせ該ガラス基板裏面から磁力を発生させることでガラス基板と該プラスチック成形品の表面の凹部を簡便に封止することが可能となる。
【0111】
上記実施例1〜5では、プラスチック基材表面の凹部に金属微粒子を浸透させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明のプラスチック成形品の製造方法は、例えば、ポリエチレングリコール等のポリアルキルグリコールをポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の疎水性プラスチック基材表面の凹部に選択的に浸透させる方法としても適用可能である。この場合には、疎水性プラスチック基材表面の凹部が選択的に親水化されたプラスチック成形品を作製することができる。この結果、例えば、プラスチックで作製されたバイオッチップにおける流路表面の任意の局所的個所を親水化もしくは撥水化することができ、バイオチップ内における混合流体の層流状態をより高効率化することや、あるいは、タンパク質を該個所にトラップすることにより分析等を行うことが可能となる。また、フッ素化合物を本発明の製造方法を用いてプラスチック成形品の凹部に浸透させた場合には、プラスチック成形品表面の凹部を選択的に撥水処理することや屈折率の低減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のプラスチック成形品の製造方法では、様々な形成材料からなるプラスチック基材表面に、より簡易な方法でメッキ膜を所望のパターン及びサイズで形成することができ、さらに表面粗さの非常に小さいメッキ膜を形成することができる。それゆえ、本発明のプラスチック成形品の製造方法及びプラスチック成形品はあらゆる回路基板の電気配線パターンの形成方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1(a)〜(e)は、本発明のプラスチック成形品における凹部の変形例を示した図である。
【図2】図2は、実施例1で用いた製造装置の概略構成図である。
【図3】図3は、実施例1のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図2中の破線領域Aの拡大図である。
【図4】図4は、実施例1のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図2中の破線領域Aの拡大図である。
【図5】図5は、実施例1のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図2中の破線領域Aの拡大図である。
【図6】図6(a)〜(e)は、実施例1及び2のプラスチック成形品の製造方法の手順を示した図である。
【図7】図7(a)は、実施例1で作製したプラスチック成形品の凹部の断面の光学顕微鏡像であり、図7(b)は、実施例1で作製したプラスチック成形品のスルーホールの断面の光学顕微鏡像である。
【図8】図8は、実施例2で用いた製造装置の概略構成図である。
【図9】図9は、実施例2で用いた小型容器の概略構成図である。
【図10】図10は、実施例2のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図9中の破線領域Cの拡大図である。
【図11】図11は、実施例2のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図9中の破線領域Cの拡大図である。
【図12】図12は、実施例2のプラスチック成形品の製造方法の手順を説明するための図であり、図9中の破線領域Cの拡大図である。
【図13】図13は、実施例3で用いた小型容器の概略構成図である。
【図14】図14は、図13中の破線領域Eの拡大図である。
【符号の説明】
【0114】
1 プラスチック基材
2 凹部
3 金属微粒子
4 メッキ膜
5 スルーホール
6 金属微粒子が溶解した液状物質
7 高圧二酸化炭素
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成形品の製造方法であって、
凹部を有し、該凹部により表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、
上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、
上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、
上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法。
【請求項2】
プラスチック成形品の製造方法であって、
スルーホールを有し、該スルーホールにより表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、
上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、
上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、
上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記スルーホールに滞留させ、上記スルーホールを画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法。
【請求項3】
プラスチック成形品の製造方法であって、
凹部及びスルーホールを有し、該凹部及びスルーホールにより表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、
上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、
上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、
上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記凹部及びスルーホールに滞留させ、上記凹部及びスルーホールを画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法。
【請求項4】
さらに、上記金属微粒子が浸透した上記プラスチック基材の表面領域にメッキ膜を形成することを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記プラスチック基材が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれ一項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記プラスチック基材が、液晶ポリマー、ポリアミド系樹脂、及びシクロオレフィン系樹脂のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれ一項に記載の製造方法。
【請求項7】
プラスチック成形品であって、
凹部及びスルーホールの少なくとも一方を有するフレキシブル基材と、
上記凹部及びスルーホールの少なくとも一方を画成する上記フレキシブル基材の表面領域に形成されたメッキ膜とを備え、
上記メッキ膜が形成されている上記フレキシブル基材の表面内部に上記メッキ膜のメッキ触媒核となる金属微粒子が含浸されていることを特徴とするプラスチック成形品。
【請求項8】
上記フレキシブル基材が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項7に記載のプラスチック成形品。
【請求項9】
上記フレキシブル基材の厚さが50〜200μmであることを特徴とする請求項7または8に記載のプラスチック成形品。
【請求項1】
プラスチック成形品の製造方法であって、
凹部を有し、該凹部により表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、
上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、
上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、
上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法。
【請求項2】
プラスチック成形品の製造方法であって、
スルーホールを有し、該スルーホールにより表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、
上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、
上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、
上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記スルーホールに滞留させ、上記スルーホールを画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法。
【請求項3】
プラスチック成形品の製造方法であって、
凹部及びスルーホールを有し、該凹部及びスルーホールにより表面に開口が画成されているプラスチック基材を用意することと、
上記プラスチック基材の表面に金属微粒子を含有する物質を付加することと、
上記物質が付加された上記プラスチック基材の表面に高圧二酸化炭素を接触させることと、
上記開口を塞いで上記高圧二酸化炭素を上記凹部及びスルーホールに滞留させ、上記凹部及びスルーホールを画成する上記プラスチック基材の表面内部に上記金属微粒子を浸透させることとを含む製造方法。
【請求項4】
さらに、上記金属微粒子が浸透した上記プラスチック基材の表面領域にメッキ膜を形成することを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記プラスチック基材が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれ一項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記プラスチック基材が、液晶ポリマー、ポリアミド系樹脂、及びシクロオレフィン系樹脂のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれ一項に記載の製造方法。
【請求項7】
プラスチック成形品であって、
凹部及びスルーホールの少なくとも一方を有するフレキシブル基材と、
上記凹部及びスルーホールの少なくとも一方を画成する上記フレキシブル基材の表面領域に形成されたメッキ膜とを備え、
上記メッキ膜が形成されている上記フレキシブル基材の表面内部に上記メッキ膜のメッキ触媒核となる金属微粒子が含浸されていることを特徴とするプラスチック成形品。
【請求項8】
上記フレキシブル基材が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項7に記載のプラスチック成形品。
【請求項9】
上記フレキシブル基材の厚さが50〜200μmであることを特徴とする請求項7または8に記載のプラスチック成形品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−239081(P2007−239081A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66999(P2006−66999)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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