説明

プラスチック材料の六価クロムの抽出方法

【課題】 プラスチック材料中の六価クロムを効率よく抽出処理でき、六価クロムの定量分析が正確に行なえるようにすることにある。
【解決手段】 平均粒径として100μm以下に粉砕処理したプラスチック材料を、有機酸塩の水溶液中で超音波抽出するプラスチック材料の六価クロムの抽出方法とすることによって、また好ましくは前記有機酸塩が、酒石酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩から選ばれた1種であるプラスチック材料の六価クロムの抽出方法とすることによって、解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック材料中に存在する六価クロムの抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の高まりから六価クロムの排出規制等が設けられるようになってきた。このため、正確な六価クロムの定量分析が求められている。六価クロムを正確に定量分析を行なうには定量分析方法もさることながら、種々の材料から六価クロムを高収率で抽出処理できることが重要である。六価クロムの抽出方法としては、ドイツ連邦規格であるDIN53314「皮革のCr(VI)定量方法」(非特許文献1)や環境庁告示13号「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法」(非特許文献2)が一般的な方法である。すなわち、非特許文献1による方法では、皮革製品に対するリン酸緩衝溶液を用いた六価クロムの振とう抽出方法として、粉砕した試料を三角フラスコ容器入れリン酸緩衝溶液加えた後に、前記容器内をアルゴンガスで置換して密栓し、3時間の振とう抽出を行なう。ついで、抽出した試料にジフェニルカルバジッド溶液を加えて発色させた後、吸光光度測定を行なって六価クロムを定量する方法である。また非特許文献2では、産業廃棄物中の金属類に存在する六価クロムの抽出方法として、試料に純水を加えて6時間振とう抽出する抽出方法が記載されている。なお、環境庁告示13号「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法」には、六価クロムの定量分析方法は定められていないので、他の公定法で定められるジフェニルカルバジッド比色法によって定量される。しかしながら、前記の抽出方法等では十分な抽出ができず、特にプラスチック材料中の六価クロムの正確な定量分析ができないのが実情である。
【非特許文献1】DIN53314「皮革のCr(VI)定量方法」
【非特許文献2】環境庁告示13号「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって本発明が解決しようとする課題は、プラスチック材料中の六価クロムを効率よく抽出処理でき、六価クロムの定量分析が正確に行なえるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前述の課題を解決するためには、請求項1に記載されるように、平均粒径として100μm以下に粉砕処理したプラスチック材料を、有機酸塩の水溶液中で超音波抽出するプラスチック材料の六価クロムの抽出方法とすることによって、解決される。また好ましくは、請求項2に記載されるように、前記有機酸塩が、酒石酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩から選ばれた1種である請求項1に記載するプラスチック材料の六価クロムの抽出方法とすることによって、解決される。
【0005】
さらに、請求項3に記載されるように、前記有機酸塩水溶液の濃度が、0.01〜1.0mol/Lである請求項1または2に記載するプラスチック材料の六価クロムの抽出方法とすることによって、解決される。
【0006】
また、請求項4に記載されるように、前記超音波抽出において、超音波出力周波数を28〜100KHzとした請求項1〜3のいずれかに記載されるプラスチック材料の六価クロムの抽出方法とすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0007】
以上の本発明によれば、平均粒径として100μm以下に粉砕処理したプラスチック材料を、有機酸塩の水溶液中で超音波抽出するプラスチック材料の六価クロムの抽出方法とすることによって、また好ましくは、前記有機酸塩が、酒石酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩から選ばれた1種としたので、プラスチック材料中の六価クロムを効率よく安定して抽出処理でき、六価クロムの定量分析が正確に行なえる。特に前述のような有機酸塩を特定することによって、プラスチック材料中の六価クロムの抽出率を67%以上とすることができる。
【0008】
さらに、前記有機酸塩水溶液の濃度を0.01〜1.0mol/Lとすることによって、さらには前記超音波抽出を、超音波出力周波数が28〜100KHzとすることによって、試料としてのプラスチック材料粉末の凝集を防止し、六価クロムの抽出率を67%以上とすることができる。また、プラスチック材料中の六価クロムの抽出率が高いと共に抽出時間等も適切なものとなり、分析コスト的にも好ましい抽出方法とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳しく説明する。請求項1に記載される発明は、平均粒径として100μm以下に粉砕処理したプラスチック材料を、有機酸塩の水溶液中で超音波抽出するプラスチック材料の六価クロムの抽出方法であり、確実に効率よく六価クロムを抽出することができるので、抽出された六価クロムを吸光光度分析等によって正確な定量分析を行なうことができる。
【0010】
まず、六価クロムを抽出しようとするプラスチック材料からの抽出効率を向上させるために、プラスチック材料を平均粒径として100μm以下に粉砕して試料とする。これは試料の表面積を大きくするためと抽出溶媒が粉砕試料の内部に浸透し易くするためであり、平均粒径が100μmを超える大きさになると比表面積が減少してあまり抽出効果が向上しない。より好ましくは、平均粒径が10μm以下に粉砕するのがよい。また粉砕方法は、プラスチック材料試料の種類によって好ましい手段を講じればよいが、凍結粉砕法が好ましい。なお、このようにして得られたプラスチック粉末の試料としての量は、通常0.5グラム(g)程度であり、特に微量の六価クロムを抽出するためには、少なくとも1.0g程度とされる。
【0011】
ついで、粉末化したプラスチック材料を、蓋付きのポリプロピレン(以下PP)製などの容器中で、有機酸塩の水溶液中に浸漬させる。そして、これに超音波を照射しながら六価クロムの抽出を行なう抽出方法である。超音波の照射は、容器の底面からでも側面からでもよく、また、抽出時間は20分〜1時間程度で十分である。なお対象とするプラスチック材料としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。従来、これらの樹脂中の六価クロムの正確な定量分析が困難であったが、本発明によって樹脂中の六価クロムを正確に定量分析できることになり、実用上好ましいものである。
【0012】
また本発明で使用される有機酸塩としては、基本的には水溶液として使用できるものであればよいが、六価クロムを比較的効率よく抽出する有機酸塩としては、酒石酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、フタル酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩から選ばれた1種が使用できる。特に請求項2に記載する酒石酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩等を用いる場合には、抽出率を67%以上と高くすることができる。またこれらの有機酸塩は、水に対する溶解性が高いので抽出液として調整が容易であり、実用上からも好ましい。そして、好ましい具体的な有機酸塩としては、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等である。これらの1種を含む水溶液として使用される。このような有機酸塩を用いることによって、六価クロムは安定なキレート化合物を形成することになり抽出し易くなる。なお、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酢酸ナトリウム等による六価クロムの抽出率は67%以上と従来の抽出方法と比較して大幅に向上する。特に酒石酸ナトリウムの場合には、抽出率83%が得られ特に好ましい抽出溶媒である。
【0013】
以上のようにして抽出された六価クロムは、例えばJIS規格H8625に定められるジフェニルカルバジッド比色法によって定量分析される。すなわち、抽出溶液にジフェニルカルバジッド溶液を添加して発色させた後に、吸光度を吸光光度分析計によって540nmの波長にて吸光度を測定することによって、簡便に正確な定量分析を行なうことができることになる。また、イオンクロマトグラフによっても六価クロムを定量分析が可能である。このように、プラスチック材料から効率よく六価クロムの抽出処理ができるので実用上好ましく、さらに超音波を照射することによって抽出するので、抽出時間も短時間で済み分析コスト的にも好ましいものである。なお本発明の抽出方法によれば、0.001%程度の濃度までの六価クロムを抽出することができる。
【0014】
さらに、請求項3に記載されるように、前記有機酸塩水溶液の濃度を0.01〜1.0mol/Lとすることによって、六価クロムをより効率よく安定して抽出することができる。これは、プラスチック粉体を膨潤浸漬するのに最適な濃度範囲であって、超音波照射との併用によって抽出率を向上させることができる濃度範囲である。当然、試料となるプラスチック材料の種類によって、その濃度を前記有機酸塩水溶液の濃度0.01〜1.0mol/Lから選定すればよい。すなわち、0.01mol/L未満の濃度では前述のプラスチック材料に対する抽出効率が余りよくなく、また、1.0mol/Lを超えると、高濃度の有機酸塩が六価クロムの定量分析を阻害する恐れがあるため好ましくない。
【0015】
さらに、請求項4に記載されるように、超音波抽出の際の出力周波数を28〜100KHzとすることによって、プラスチック材料の粉末が凝集することがなくなり、また抽出効率を向上させることができる。さらに、実際の抽出作業のコスト的な面からも実用的な範囲である。これは、本発明では市販の超音波洗浄装置を用いて超音波抽出が可能であり、また出力周波数は低周波ほど抽出効果が期待できるが、実用面から市販されている超音波洗浄装置の周波数帯で行なえるようにすることが望ましいためである。このような超音波照射による抽出は、通常20分〜1時間程度行なえば十分である。また超音波照射は、抽出容器の底部からでも側面からでも十分に効果がある。
【実施例】
【0016】
以下に実験例を示して、本発明の効果を説明する。六価クロムを0.1質量%含有するエポキシ樹脂を凍結粉砕法によって粉砕し、平均粒径が100μm(比表面積650cm/g)の試料を作製した。この試料0.1gを用い、蓋付きPP製の抽出器中で、表1に示した各種抽出液を用いて抽出したものである。なお実験例1〜6は、出力周波数28KHzの超音波を照射した場合である。すなわち、実験例1は酒石酸ナトリウム水溶液(0.2mol/L)、実験例2は酒石酸カリウム水溶液(0.2mol/L)、実験例3は酢酸ナトリウム水溶液(0.4mol/L)、実験例4はクエン酸ナトリウム水溶液(0.2mol/L)、実験例5はシュウ酸ナトリウム水溶液(0.2mol/L)および実験例6はコハク酸ナトリウム水溶液(0.2mol/L)を用いた場合である。また実験例7は、DIN53314に記載されるリン酸緩衝液(約0.12mol/Lのリン酸水素二ナトリウム溶液、PH=8.0)を用い、振とうしながら抽出を行なったものである。実験例8は、EPA3060(米国環境保護庁規格である「Cr(VI)定量のためのアルカリ分解法」)に記載される水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムと前記リン酸緩衝液からなる混合液を用い、90℃に加熱して抽出したものである。さらに、実験例9は、環境庁告示第13号に記載される純水を用い、常温で振とうしながら抽出を行なった場合である。そして、得られた抽出物をJIS規格H8625に規定されるジフェニルカルバジッド比色法によって発色させ、吸光光度計を用いて同定並びに定量分析を行ない、抽出率を計算した。結果を表1に示した。
【0017】
【表1】

【0018】
表1から明らかなとおり、本発明に該当する実験例1〜6によれば、六価クロムの抽出率は67%以上と従来の抽出方法に比べて優れたものとなっている。すなわち、実験例1の酒石酸ナトリウムの場合には、83%と最も高い抽出率を示した。また実験例2の酒石酸カリウムを用いた場合にも、79%と優れた抽出率であった。さらに実験例3の酢酸ナトリウムは67%、実験例4のクエン酸ナトリウムでは70%、実験例5のシュウ酸化ナトリウムの場合は67%、実験例6のコハク酸ナトリウムでは68%といずれも高い抽出率であった。これに対して、従来方法に該当する実験例7のリン酸緩衝液を用いて振とうした場合は、22%と抽出率が悪いことが判る。また実験例8の水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムと前記リン酸緩衝液の混合液を用いて加熱した場合も、抽出率は34%と低い値であった。さらに、実験例9として示した純水を用いて振とうを行なった場合には、六価クロムの抽出率は0%であった。この方法では、プラスチック材料中の六価クロムを抽出することはできないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上の本発明による六価クロムの抽出方法によれば、種々のプラスチック材料から六価クロムを高い抽出率で抽出が可能であるから、六価クロムを正確に定量分析することができ実用的な抽出方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径として100μm以下に粉砕処理したプラスチック材料を、有機酸塩の水溶液中で超音波抽出することを特徴とするプラスチック材料の六価クロムの抽出方法。
【請求項2】
前記有機酸塩が、酒石酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩から選ばれた1種であることを特徴とする請求項1に記載するプラスチック材料の六価クロムの抽出方法。
【請求項3】
前記有機酸塩水溶液の濃度が、0.01〜1.0mol/Lであることを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチック材料の六価クロムの抽出方法。
【請求項4】
前記超音波抽出において、超音波出力周波数を28〜100KHzとしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されるプラスチック材料の六価クロムの抽出方法。

【公開番号】特開2006−132979(P2006−132979A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319581(P2004−319581)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】