説明

プラスチック構造物品のための抗菌保護

プラスチックの敷板、張り板、柵材料及びパネルのようなプラスチック構造物品に抗菌保護を提供するための組成物と方法とを開示する。この方法は、水溶性殺生物剤を金属含有構造物品に施用する工程と、該水溶性殺生物剤を、該プラスチック材料の表面に又は該材料の多孔質構造の中に吸着される水不溶性金属塩殺生物剤に転化する工程とを包含する。前記プラスチック構造物品の前記表面から又は該構造物品の細孔内部から該不溶性抗菌剤が徐放出されることによって、該プラスチック構造物品のための抗菌保護が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は概して、プラスチックの敷板(decking)、張り板(planking)及び手すり(rails)、並びに繊維強化パネルのような、押出しプラスチック構造物品又は成形プラスチック構造物品に抗菌保護を与えるための組成物と方法とに関する。この方法は、ピリチオン、2−ヒドロキシピリジンN−オキシド、8−ヒドロキシキノリン、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミン、チオカルバメート及びジチオカルバメートのナトリウム塩並びにカリウム塩のような1種以上の水溶性殺生物剤を、金属含有構造物品に施用する工程と、該水溶性殺生物剤を、該構造物品の表面に又は該構造物品の細孔(pores)の中に吸着される水不溶性殺生物剤の塩又は錯体(complex)に転化する工程とを包含する。
【背景技術】
【0002】
〔発明の背景〕
近年、様々な建築製品用途のための木材代替品としてのプラスチック及びプラスチック複合材料の使用が急速に進展している。例えば、セルロース系材料(例えば、木粉)と、押し出された、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアロマー、ポリアセタール、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、及びポリウレタンのようなポリマーとの混合物は、敷板、手すり、看板及び他の建築製品の用途のための挽材(lumber)に対する優れた代替品を提供する。プラスチック形成用組成物は典型的には、プラスチック樹脂と任意的なセルロース系材料の他に、充填材及び潤滑剤のような任意的な添加物を含有する。それらの充填材、顔料及び潤滑剤の添加物だけでなく他の機能性添加物の多くは、カルシウム、亜鉛、鉄、銅、銀、チタン、マンガン、又はそれらの組み合せのような金属を含有している。木粉/プラスチック複合材料は典型的には、優れた耐久性と低維持費のような魅力的な他の特徴とを提供する。なぜなら、該木粉成分は、耐水性プラスチック材料の中に囲まれ、そのために、該木材成分の腐朽する傾向が低減する。腐朽して構造強度を失う傾向は、未処理挽材と比べて著しく減少するものの、該複合材料の表面に微生物生育(microbial growth)(例えば、菌類又は藻類)に起因すると思われる黒点(dark spots)が生じる傾向は依然として存在する。
【0003】
例示的に言えば、米国特許第5,866,264号明細書には、セルロース系繊維−ポリマー複合材料から作られた押出し合成木材が開示されている。
もう1つの実例として、繊維強化プラスチック(FRP)は、多くの消費者製品として広く用いられ、望ましい表面外観を有する頑丈なプラスチック構造物品を提供している。例えば、FRPは、浴槽、台所の流し及び洗面器のような製品が水及び様々な化学物質に絶えずさらされる家庭環境、ホテル、病院、レストラン並びに他の居住環境又は商業的環境において使用される該製品の中に組み込まれている。もう1つの例で、FRPは、自動車及びレクリエーション用車両に使用されるパネルの中だけでなく、商業的船舶及びレクリエーション用漁船のような船舶の船体、甲板及びインテリヤの中にも組み込まれている。FRPは、ポリメタクリレート又はポリアクリレートのようなポリエステル樹脂で作って、引張り強度、衝撃強さ、耐熱性、耐薬品性、及び高品質表面仕上げを有する複合材料を提供することができる。これらの製品を、広範囲に渡る環境で使用するのに適合させる、望ましい物理的及び機械的特性が存在する。
【0004】
前記用途の如何にかかわらず、これらのプラスチック製品の表面は典型的には、製造され、保管され、分配され及び使用される間、環境中に存在する細菌、菌類及び微生物にさらされる。浴室、台所、病院等のための浴槽及び流しのような幾つかの用途は、とりわけ、病原菌の成長及び増殖と関連している。環境中に湿気又は水分が存在すると、病原菌の成長及び増殖が助長される。同様に、船舶のような海洋用途にこれらのプラスチック製品を使用すれば、藻類だけでなく、藻類、菌類及び細菌生育を包含する水棲繁茂性(aquatic thriving)病原菌にとっても安息の場である塩水環境及び淡水環境への曝露が提供される。これらの細菌、菌類、及び他の病原菌は、該プラスチック製品の表面で成長し増殖することが可能であり、時間が経てば、有意水準の微生物汚染が引き起こされることがある。
【0005】
従来、プラスチック製品及びプラスチック複合材料の中に抗菌剤を組み込むためのやり方には典型的には、押出しの前にプラスチック製品前駆体の中に該抗菌剤を混合して、抗菌剤含有プラスチック製品を提供することが包含された。このやり方を用いて、イソチアゾリノン(isothiazolinone)、トリクロサン(triclosan)、10,10’−オキシビスフェノキシアルシン、銀化合物、ホウ酸亜鉛、又はピリチオン亜鉛のような抗菌剤は、樹脂、又は樹脂と木粉との組合せと混合されて、押し出されている。たとえ該プラスチック製品の表面だけが通常、菌類によって攻撃されるとしても、前記プラスチック形成用組成物の大部分は、この方法を用いて処理されるので、それによって比較的多くの量の抗菌材料が消費される。該プラスチック形成用組成物の重量に基づき、殺生物剤10%以上が使用される場合、結果として表面欠陥が生じることがあり、また、より高い濃度では、その製品の耐変形性が悪影響を受けることがある。更に、有機抗菌剤が押出し機中で高温にさらされると、変色、分解、及び効果損を引き起こすことのある、抗菌剤に対する熱履歴が加えられる。
【0006】
押出しの代わりの方法として、幾種類かのプラスチック製品は、成形によって適切に製造される。米国特許第5,919,554号明細書には、ポリエステル組成物を有するポリエステル含有FRP複合材料を形成するための多段階方法であって、(a)前記ポリエステル樹脂組成物と相溶性の、抗菌剤及び可溶化剤のキャリア系(carrier system)を選定する工程と、(b)前記可溶化剤を、選定された前記抗菌剤と組合せる工程と、(c)前記抗菌剤を前記ポリエステル樹脂組成物の中に組み込む工程と、(d)前記ポリエステル樹脂と高弾性率繊維とを金型の中に堆積させる工程と、(e)高弾性率繊維を含有する前記ポリエステル樹脂を硬化させる工程とを包含する上記多段階方法が開示されている。塩素化フェノールである前記抗菌剤は、このようにして、前記FRP複合材料を含有するポリマー材料の中に組み込まれる。結果として得られる複合材料構造物品は、該ポリマー材料を通って該FRP複合材料の表面まで、制御された移動を示すという。前記抗菌剤のための可溶化剤を使用することの1つの不都合は、後で溶媒だけでなくプロセス流をもを除去する必要があること、並びに、溶媒の処理に関連する環境リスク及び費用である。
【0007】
プラスチック製品の抗菌処理に関する更にもう1つの方法は、米国特許第6,149,927号明細書に開示されている。その米国特許第6,149,927号明細書には、水酸化ジルコニウムと、ピリチオンナトリウム又はピリチオン亜鉛のような殺生物化合物とを含有する固体組成物が開示されており、該固体組成物は、該固体組成物が保護されるべき部位に一旦添えられると、該殺生物化合物の制御放出(controlled release)を提供するという。不都合なことに、そのような固体組成物は、抗菌保護を必要とするバルク材料(bulk material)の中に組み込まれるか、又は、後で表面に施用される塗料若しくは他のコーティングに添加されなければならない。前者の場合、該有機殺生物剤は、押出し又は成形が行われる間、依然として熱分解を受ける。後者の場合、抗菌コーティングは、製造されるプラスチック製品の表面に配合されるか又は施用されなければならない。更なる不都合な点は、該抗菌コーティングを施用することができる前、該表面を調製する必要があることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プラスチック工業においては、プラスチック前駆体に抗菌剤を添加することなく、しかも、抗菌剤組成物を含有する配合コーティングを施用することなく、プラスチック製品の表面に又は該製品の多孔質構造の中に抗菌剤組成物を組み込むための方法を得るための必要性が存在している。該抗菌剤は、一旦該プラスチック製品の表面に又は該製品の多孔質構造の中に組み込まれると、押出し又は成形が行われたの後、該製品が保管され、分配され、使用される間、該製品を保護するための制御放出と十分な効果とを示すことが望ましい。本発明によって、それらのニーズに対する1つの解決策が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は1つの面において、押出しプラスチック製品の表面の上に又は該製品の多孔質構造の中に、殺生物剤の不溶性の金属塩又は金属錯体を組み込むための方法であって、
(a)押出し機を用いて高温で金属含有プラスチック形成用組成物の押出しを行って、金属含有押出し製品を提供する工程と、
(b)水溶性殺生物剤を、温かい前記押出し製品の前記金属の少なくとも一部分と反応させるか又はキレート化させるために、該押出し製品を該水溶性殺生物剤の水溶液と接触させ、そうさせることによって、該製品の前記多孔質構造の中に又は該製品の表面に、殺生物剤の水不溶性の金属塩又は金属錯体を有する抗菌保護されたプラスチック製品を形成する工程と
を包含する、上記方法に関する。不溶性金属塩を形成する水溶性殺生物剤の例は、ジピリチオンマグネシウムスルフェート;ピリチオン、2−ヒドロキシピリジンN−オキシド、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミン、8−ヒドロキシキノリン、チオカルバメート及びジチオカルバメートのナトリウム塩並びにカリウム塩;である。前記殺生物剤のカルシウム錯体、亜鉛錯体、銅錯体及び鉄錯体は概して、0.05mg/リットルから10g/リットルまでの範囲の水溶解度、又は1重量%以下の水溶解度によって特徴付けられる。
【0010】
本発明はもう1つの面において、金属を含有する成形プラスチック製品の表面の上に又は該製品の多孔質構造の中に、殺生物剤の金属塩を組み込むための方法に関する。該方法は、水溶性殺生物剤を、該成形プラスチック製品の中の該金属の少なくとも一部分と反応させるか又はキレート化させるために、該成形プラスチック製品を該水溶性殺生物剤の水溶液と接触させ、そうさせることによって、該製品の該表面に又は該製品の該多孔質構造の中に、殺生物剤の水不溶性金属塩を有する抗菌保護された成形プラスチック製品を形成する工程を包含する。不溶性の金属塩及び錯体を形成する水溶性殺生物剤の例は、ジピリチオンマグネシウムスルフェート;ピリチオン、2−ヒドロキシピリジンN−オキシド、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミン、8−ヒドロキシキノリン、チオカルバメート及びジチオカルバメートのナトリウム塩並びにカリウム塩;である。前記殺生物剤のカルシウム錯体、亜鉛錯体、銅錯体及び鉄錯体は概して、0.05mg/リットルから10g/リットルまでの範囲の水溶解度、又は1重量%以下の水溶解度によって特徴付けられる。
これらの面及び他の面は、次に述べる、本発明の詳細な記述を読むことによって明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると今や、意外にも、前記のプラスチック製品及びプラスチック形成用組成物は、水性抗菌剤溶液中の水溶性抗菌剤(例えば、ピリチオンナトリウム)と適切に接触することが見出だされた。該水溶性抗菌剤は、該プラスチック製品の外部表面に及び/又は該製品の多孔質内部部分の中に存在する金属イオン(例えば、亜鉛イオン)とキレート化することによって、水不溶性抗菌剤(例えば、ピリチオン亜鉛)に適切に転化される。結果として得られる、該抗菌剤の水不溶性金属塩(又は錯体)(例えば、ピリチオン亜鉛)は、該プラスチック製品からの徐放出(slow release)を示し、従って、押出し又は成形の後であって保管、分配及び使用の間、該プラスチック材料に対して抗菌保護を提供する。結果として得られる抗菌剤含有プラスチック製品は、菌類、細菌及び藻類のような表面汚損性微生物の成長に抵抗力があり、しかも、比較的低い濃度(好ましくは、該プラスチック製品の表面積を基準として活性成分0.01g/m〜20g/mの間の濃度)の該抗菌成分を使用することが可能である。使用濃度の範囲がこのように低いので、費用効率の高い抗菌処理であって、該プラスチックの全体に渡って該抗菌剤を組み込む必要性(該抗菌剤のいわゆる「バルク使用(bulk use)」)を排除し、しかも、プラスチック製品を保護するのに水溶性抗菌剤を使用するとき、引き起こされることもある、環境に対する抗菌剤の望ましくない損失の危険性を減少させる上記抗菌処理が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書で用いる用語「水不溶性の(water-insoluble)」は、水への溶解度が約0.05mg/リットル〜約10g/リットル、好ましくは約0.05mg/リットル〜約1000mg/リットル、最も好ましくは約0.05mg/リットル〜約100mg/リットルの範囲である殺生物剤を意味するように意図されている。実例となる水不溶性殺生物剤は、(水への溶解度が6mg/リットルである)ピリチオン亜鉛、及び(水への溶解度が0.1mg/リットルである)ピリチオン銅である。対照的に、「水溶性の(water-soluble)」殺生物剤は、水への溶解度がより大きい。実例として、ピリチオンナトリウムの水への溶解度は、450g/リットルである。
【0013】
本発明によって提供される抗菌保護は、前記のプラスチック形成用組成物及びプラスチック製品が典型的には、ピリチオン酸;ピリチオンナトリウム;ピリチオンカリウム;ジピリチオンマグネシウムスルフェート(dipyrithione magnesium sulfate);2−ヒドロキシピリジンN−オキシド、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミン、8−ヒドロキシキノリン、チオカルバメート及びジチオカルバメートの酸形態並びにナトリウム塩又はカリウム塩;並びにそれらの組み合せ;のような水溶性殺生物剤と反応するか、該殺生物剤と結合するか、又は該殺生物剤と類似的にキレート化する金属を含有しているという事実を利用している。該金属は、充填剤及び/又は顔料によるか又は潤滑剤のような機能性添加剤によるか又は無機の殺生物剤若しくは強化剤によって、該プラスチック形成用組成物の中に組み込まれられることもある。代替的に、該金属は、再生プラスチック成分の一部として存在することもある。典型的な金属には、カルシウム、亜鉛、鉄、銅、銀、チタン、マンガン、及びそれらの組み合せが包含される。これらの金属は典型的には、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硫酸塩、及びそれらの組み合せのような金属塩として、該プラスチックの表面の中に又は該表面の上に存在する。代替的に、該金属は、単体の形態で、又は酸化物若しくは水酸化物として存在することがある。好ましい金属は亜鉛及びカルシウムであり、実例となる塩には、単独又は他の金属塩との組み合せの形態での、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、ホウ酸カルシウム、酸化鉄、酸化銅、及びそれらの組み合せが包含される。該金属塩は、前記のプラスチック形成用組成物又はプラスチック製品の中に、該プラスチック組成物の重量を基準として約0.01%〜約20%以上の量で、約0.01g/m〜約20g/m以上の表面金属濃度を提供するのに十分な濃度で存在するのが好ましい。
【0014】
ピリチオンのような前記水溶性殺生物剤は、噴霧、浸漬、どぶ付け、含浸、等の従来の方法によって、前記プラスチック製品の表面の上に適切に組み込まれる。
前記プラスチック製品を製造するのに押出し(extrusion)を使用する場合、その押出し製品は、ピリチオン;又は、ピリチオンともう1種の水溶性抗菌剤との組み合せ;のような水溶性殺生物剤を含有する浴の中に浸漬するのが好ましい。該浴中における該押出し物品の滞留時間は、およそ1〜10分間の間であるのが適切である。滞留時間がより短ければ、該浴中においてより高い殺生物剤濃度が必要であることがある。該プラスチック表面のコーミング(combing)又は切削加工のような、必要とされるかも知れない更なる表面加工は、該水溶性殺生物剤溶液の存在下で行うのが好ましい。
【0015】
前記プラスチック製品を製造するのに成形(molding)を使用する場合、前記プラスチック形成用組成物は、その成形作業の間又は該成形作業の後、前記水溶性殺生物剤と接触させるのが適切である。
前記水溶性殺生物剤が前記プラスチック製品の表面の適切な金属と反応するか又はキレート化した後、該プラスチック製品の外部表面に、又は該製品の多孔質構造の中に、ピリチオン亜鉛、ピリチオン銅、ピリチオン鉄、ピリチオンカルシウム、ピリチオン銀、ピリチオンチタン、ピリチオンマンガン、ヒドロキシキノリン亜鉛、ヒドロキシキノリン銅、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミン銅(copper N-nitroso-N-cyclohexyl hydroxylamine)、又はそれらの組み合せのような、該殺生物剤の金属塩が形成される。該殺生物剤の抗菌性金属塩は、該プラスチック製品の中に又は該製品の上に一旦組み込まれると、押出し又は成形の後であって、該製品が保管され、分配され、使用されている間、殺生物剤の徐放出によって、該プラスチック製品を微生物汚染(microbial staining)から防護する。
【0016】
前記プラスチック形成用組成物は、ポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)又は高密度ポリエチレン(HDPE))、ポリプロピレン、ポリアロマー、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリウレタン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、エチル・酢酸ビニル共重合体、及びそれらの組合せのような樹脂を包含するのが適切である。該プラスチック樹脂は、未使用樹脂、又は再生樹脂、又はそれらの組み合せであっても良い。樹脂の全量は、該プラスチック形成用組成物の全重量を基準として約10%〜約90%の間を構成するのが好ましい。
【0017】
前記プラスチック形成用組成物は、充填材のような任意的添加物を含有するのが適切である。適切な充填材には、木材チップ、木質繊維、木粉、木材ダスト又は他の木製品が包含される。新聞紙、もみ殻、麦わら、ピーナッツ殻、ムラサキウマゴヤシ(alfalfa)、綿、ジュート(jute)、及びそれらの組合せのような他のセルロース系材料は、充填材として適切に用いられる。該プラスチック形成用組成物の他の任意的成分には、ガラス繊維又は炭素繊維のような強化用添加物が包含される。その充填材又は強化材は、用いる場合、該プラスチック形成用組成物の全重量を基準として約10%から約90%までの全量で用いるのが適切である。発泡剤、潤滑剤、熱安定剤、ろう、タルク、分解促進剤(kickers)、顔料、石鹸、酸化防止剤、架橋剤、及びそれらの組合せのような他の添加剤は、所望により、該プラスチック形成用組成物の全重量を基準として約0.1%〜約10%の間の全量で用いるのが適切である。
【0018】
潤滑剤の例には、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、及びろう、並びにそれらの組み合せが包含される。前記プラスチック形成用組成物の押出しを行うためには、所望により、促進剤、抑制剤、エンハンサー(enhancer)、相溶化剤(compatibilizers)、発泡剤、及びそれらの組合せのような押出し成形助剤を用いるのが適切である。
本発明は、次の諸実施例によって更に例示される。特に明記しない限り、「部(parts)」及び「%」は、それぞれ、「重量部」及び「重量%」である。
【0019】
本発明の特定の諸具体例に言及しながら本発明を上述してきたが、本明細書に開示される本発明の概念を逸脱することなく、多くの置き換え、一部変更及び変形を行い得ることは明らかである。従って、本発明は、特許請求の範囲の趣旨及び広義の範囲内に含まれるそのような置き換え、一部変更及び変形を全て包含するように意図されている。
次の諸実施例は、実例を挙げることを意図しており、決して本発明の範囲を制限しようとするものではない。
【実施例1】
【0020】
パートA−試料の調製
オーク材の粉末、ポリエチレン樹脂、充填材、及び潤滑剤としてのステアリン酸亜鉛2.5%を含有する複合材料を、押出し温度(extrusion temperature)まで加熱し、次いで、ピリチオンナトリウム2%を含有する冷却浴で2分間冷却した。その物品は、該処理浴から取り去って、水で洗浄し、付着しなかった全てのピリチオンナトリウムを除去した。その試料(試料A)は、室温で十分に冷却した後、65℃のオーブンで一定重量になるまで乾燥して、微生物の攻撃にさらした。
【0021】
ピリチオンナトリウム0.8%を含有する冷却浴を使用したことを除き、上記の手順を用いて、試料Bを調製した。
ピリチオンナトリウム0.4%を含有する冷却浴を使用したことを除き、上記の手順を用いて、試料Cを調製した。
ピリチオンナトリウム0.2%を含有する冷却浴を使用したことを除き、上記の手順を用いて、試料Dを調製した。
水のみを含有し、ピリチオンナトリウムは全く含有しない冷却浴を使用したことを除き、上記の手順を用いて、試料Eを調製した。
【0022】
パートB−微生物の攻撃を利用した試料の試験
汚染された敷板から分離された菌類の7種の菌株を、前記の諸試料の上に噴霧した。それらの試料は、4週間培養し、時々菌類の成長を調べた。試料Eは、4日間の培養の後、肉眼で容易に見える成長を示した。試料B〜Dは、1週間後に顕微鏡で検査した時、ごく僅かな成長を示し始めた。試料Aは、2週間目に顕微鏡で検査した時、成長を示した。とは言え、肉眼では成長を見ることは全くできなかった。4週間の終りに、試料A〜Dは、対照試料Eから容易に識別され、後者は著しい微生物生育を示した。
【0023】
パートA−試料の調製
オーク材の粉末、ポリエチレン樹脂、充填材、及び潤滑剤としてのステアリン酸亜鉛2.5%を含有する4種類の複合材料を、押出し温度まで加熱した。それらの試料の2種類は、ピリチオンナトリウム1.9%を含有する冷却浴で5分間冷却したのに対し、残りの2種類の試料は、ピリチオンナトリウム0.19%を含有する浴で、同様に5分間冷却した。それらの物品は、該処理浴から取り去って、水で洗浄し、付着しなかった全てのピリチオンナトリウムを除去した。それらの試料は、室温で十分に冷却した後、一定重量になるまで乾燥した。
【0024】
表面分析及び高速液体クロマトグラフィー分析を用いた、試料の特徴付け
ピリチオンナトリウム0.19%及び1.9%を含有する前記冷却浴のピリチオンナトリウム濃度は、前記の諸複合材料と接触させる前、及び接触させた後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって決定した。表面に組み込まれたピリチオンは、差異によって計算し、次いで、それら試料の表面積で割って、g/m単位のピリチオン亜鉛の吸着率(surface coverage)を提供した。
【0025】
【表1】

【0026】
前記の浸漬された複合材料は、表面分析技術(ESCA)によって更に特徴付け、浸漬されなかった前記複合材料の対照試料と比較した。イオウは、該対照試料の表面で全く検出されなかったのに対し、前記冷却浴に接触させた前記の諸試料の表面にはイオウが存在することが、表面分析技術によって実証された。ピリチオンのイオウは、この場合、特有のマーカー(marker)として作用し、前記表面上にピリチオンが組み込まれたことを明白に実証する。この方法によって、ピリチオン亜鉛の表面濃度は、1〜2重量%であることが確認された。この表面濃度は、従来方法によって配合された抗菌性コーティングによって提供される範囲にある。その範囲は典型的には、殺生物剤約0.1%〜約15%であり、適用分野によって左右される。
【0027】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出しプラスチック製品又は成形プラスチック製品の外部表面に又は該製品の多孔質内部部分の中に、抗菌剤の金属塩を組み込むための方法であって、
(a)押出し機又は金型を用いて高温で金属含有プラスチック形成用組成物の押出し又は成形を行って、金属含有押出し製品又は金属含有成形製品を提供する工程と、
(b)水溶性殺生物剤を、前記の温かい押出し製品又は成形製品の外部表面の前記金属若しくは該製品の多孔質内部部分の中の前記金属の少なくとも一部分と反応させるか又はキレート化させるために、工程(a)からの前記押出し製品又は前記成形製品を該水溶性殺生物剤の水溶液と接触させ、そうさせることによって、該製品の該表面に又は該製品の該多孔質内部部分の中に、殺生物剤の水不溶性金属塩を有する抗菌保護されたプラスチック製品を形成する工程と
を特徴とする、方法。
【請求項2】
前記水溶性殺生物剤は、ピリチオン、2−ヒドロキシピリジンN−オキシド、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミン、8−ヒドロキシキノリン、チオカルバメート、ジチオカルバメート、及びそれらの組み合せからなる群から選ぶ、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶性殺生物剤は、ピリチオン酸、ピリチオンナトリウム、ピリチオンカリウム、ピリチオンジスルフィドマグネシウムスルフェート、及びそれらの組み合せからなる群から選ばれるピリチオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属は、カルシウム、亜鉛、鉄、銅、銀、チタン、マンガン、及びそれらの組み合せからなる群から選ぶ、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記金属は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硫酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、又はそれらの組み合せとして存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金属は、前記押出し製品の表面に及び/又は該押出し製品の多孔質内部部分の中に、前記押出しプラスチック製品若しくは前記成形プラスチック製品の外部表面積又は該製品の多孔質内部部分を基準として約0.01g/mから約20g/mまでの量で存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記金属はカルシウムであり、該カルシウムは、前記押出し製品の表面に又は該押出し製品の多孔質構造の中に、前記押出しプラスチックの表面積を基準として約0.01g/mから100g/mまでの量で存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記金属は亜鉛であり、該亜鉛は、前記成形製品若しくは前記押出し製品の表面に又は該製品の多孔質内部部分の中に、前記のプラスチック構造の表面積を基準として約0.01g/mから約20g/mまでの量で存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記水不溶性金属殺生物剤は、0.05mg/リットル〜10g/リットルの水溶解度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記水不溶性金属殺生物剤は、0.05mg/リットル〜1000mg/リットルの水溶解度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記水不溶性金属殺生物剤は、0.05mg/リットル〜100mg/リットルの水溶解度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記水不溶性金属殺生物剤は、前記の押出しプラスチック製品又は成形プラスチック製品の全表面積を基準として約0.01g/mから約20g/mまでの表面濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記のプラスチック形成用組成物は、未使用又は再生のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアロマー、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリウレタン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチル・酢酸ビニル共重合体、及びそれらの組合せから成る群から選ばれる、押出し又は成形に適した未使用樹脂又は再生樹脂を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリエチレンは、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、及びそれらの組合せから成る群から選ばれる、未使用物又は再生物である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記の成形プラスチック製品、押出しプラスチック製品、又はプラスチック形成用組成物は、木材チップ、木質繊維、木粉、木材ダスト、新聞紙、もみ殻、麦わら、ピーナッツ殻、ムラサキウマゴヤシ、綿、ジュート、及びそれらの組合せから成る群から選ばれる少なくとも1種のセルロース系充填材を更に含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記の成形プラスチック製品、押出しプラスチック製品、又はプラスチック形成用組成物は、ガラス繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維、ナイロン及びアラミド繊維、セルロース繊維、並びにそれらの組合せから選ばれる強化用繊維を更に含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
抗菌保護された金属含有プラスチック構造物品において、該金属の少なくとも一部分を水溶性殺生物剤と反応させるか又はキレート化させて、該物品の外部表面に又は該物品の多孔質内部部分の中に、殺生物剤の水不溶性金属塩を形成することによって製造されたプラスチック構造物品であって、前記殺生物剤の前記水不溶性金属塩は、前記物品の表面又は内部部分から放出される殺生物剤が、前記水溶性殺生物剤の放出速度と比べて徐放出速度を示す、上記プラスチック構造物品。
【請求項18】
前記水溶性殺生物剤は、ピリチオン、2−ヒドロキシピリジンN−オキシド、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミン、8−ヒドロキシキノリン、チオカルバメート、ジチオカルバメート、及びそれらの組み合せからなる群から選ばれている、請求項17に記載のプラスチック構造物品。
【請求項19】
前記水溶性殺生物剤は、ピリチオン酸、ピリチオンナトリウム、ピリチオンカリウム、ピリチオンジスルフィドマグネシウムスルフェート、及びそれらの組み合せからなる群から選ばれているピリチオンである、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項20】
前記金属は、カルシウム、亜鉛、鉄、銅、銀、チタン、マンガン、及びそれらの組み合せからなる群から選ばれている、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項21】
前記金属は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硫酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、又はそれらの組み合せとして存在している、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項22】
前記金属は、押出し製品又は成形製品の表面に、該押出しプラスチックの表面積を基準として約0.01g/mから約20g/m以上までの量で存在している、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項23】
前記金属はカルシウムであり、該カルシウムは、押出し製品の表面に又は該製品の多孔質構造の中に、該押出しプラスチックの表面積を基準として約0.01g/mから100g/mまでの量で存在している、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項24】
前記金属は亜鉛であり、該亜鉛は、成形製品若しくは押出し製品の表面に又は該製品の多孔質内部部分の中に、前記プラスチック構造物品の表面積を基準として約0.01g/mから約20g/mまでの量で存在している、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項25】
前記水不溶性金属殺生物剤は、0.05mg/水1リットル〜10g/水1リットルの水溶解度を有していることを特徴とする、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項26】
前記水不溶性金属殺生物剤は、0.05mg/水1リットル〜1000mg/水1リットルの水溶解度を有している、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項27】
前記水不溶性金属殺生物剤は、前記構造物品の表面において、約0.05mg/リットル〜100mg/リットルの水溶解度を有している、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項28】
前記水不溶性金属殺生物剤は、約0.01g/mから約20g/mまでの表面濃度を有している、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項29】
前記プラスチックは、ポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)若しくは高密度ポリエチレン(HDPE))、ポリプロピレン、ポリアロマー、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリウレタン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチル・酢酸ビニル共重合体、及びそれらの組合せのような、押出し若しくは成形に適した未使用樹脂又は再生樹脂を含有している、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項30】
木材チップ、木質繊維、木粉、木材ダスト又は同種のもの、新聞紙、もみ殻、麦わら、ピーナッツ殻、ムラサキウマゴヤシ、綿、ジュート、及びそれらの組合せから成る群から選ばれた少なくとも1種のセルロース系充填材を更に含有している、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項31】
前記プラスチックは、ポリエステル、ポリアクリレート、及びそれらの組合せから成る群から選ばれた、成形に適した未使用樹脂又は再生樹脂を含有している、請求項17記載のプラスチック構造物品。
【請求項32】
ガラス繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維、ナイロン及びアラミド繊維、セルロース繊維、並びにそれらの組合せから選ばれた強化用繊維を更に含有しており、そうすることによって、強化プラスチック構造物品が与えられている、請求項17記載のプラスチック構造物品。


【公表番号】特表2007−518704(P2007−518704A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541705(P2006−541705)
【出願日】平成16年11月23日(2004.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/039541
【国際公開番号】WO2005/053397
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(500000175)アーチ ケミカルズ,インコーポレイテッド (19)
【Fターム(参考)】