説明

プラスチック用非水系コーティング剤組成物

【課題】各種プラスチックに対する密着性や耐溶剤性等が良好な被膜を形成できる、ポリエステル樹脂系のプラスチック用非水系コーティング剤組成物を提供する。
【解決手段】カルボキシラートアニオン基の含有量が0.3〜1.5mmol/gである分岐状ポリエステル中和物(A)、および、アジリジニル基を少なくとも3つ有するアジリジン化合物(b1)を含むアジリジン系硬化剤(B)を含有する、プラスチック用非水系コーティング剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチック用非水系コーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン、アクリル、ABS、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックは、各種成型品やプラスチックフィルム(製版用フィルム、包装用フィルム、光学部品用フィルム、半導体加工テープ用フィルム等)などの用途に供されている。
【0003】
また、プラスチック用のコーティング剤組成物としては種々あるが、例えばポリエステル樹脂系のコーティング剤組成物は、アクリル樹脂系やエポキシ樹脂系のそれ等と比較して被膜の加工性や柔軟性、プラスチック基材への密着性等が良好なため、斯界において賞用されている。しかし、ポリエステル樹脂の被膜は一般に耐溶剤性に劣るため、いわゆる架橋剤を併用することが多い。
【0004】
架橋剤を併用したポリエステル樹脂系のプラスチック用コーティング剤組成物としては、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂とアジリジン化合物を反応させた変性ポリエステル樹脂をベースとする非水系コーティング剤組成物(プラスチックフィルムと金属板との接着剤)が知られている(特許文献1を参照)。しかし、これを含む従来の非水系コーティング剤組成物は、被膜の耐溶剤性やプラスチック基材に対する密着性等において必ずしも十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−313162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、各種プラスチックに対する密着性や耐溶剤性等が良好な被膜を形成できる、ポリエステル樹脂系のプラスチック用非水系コーティング剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、以下のコーティング剤組成物により前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、カルボキシラートアニオン基の含有量が0.3〜1.5mmol/gである分岐状ポリエステル中和物(A)、および、アジリジニル基を少なくとも3つ有するアジリジン化合物(b1)を含むアジリジン系硬化剤(B)を含有する、プラスチック用非水系コーティング剤組成物、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプラスチック用非水系コーティング剤組成物(以下、単にコーティング剤組成物ということがある)によれば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アクリル、ABS、ポリ塩化ビニル等の各種プラスチック基材への密着性や、耐溶剤性、耐ブロキング性、耐沸水性、透明性等に優れた被膜が得られる。また、被膜の加工性や柔軟性にも優れるので、本発明のコーティング剤組成物は、各種プラスチックフィルム用途、例えば製版用フィルムや包装用フィルム、光学部品用フィルム、半導体加工テープ用フィルム等のコーティング剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るコーティング剤組成物は、非水系であって、カルボキシラートアニオン基の含有量が0.3〜1.5mmol/gである分岐状ポリエステル中和物(A)(以下、(A)成分という)、および、アジリジニル基を少なくとも3つ有するアジリジン化合物(b1)(以下、(b1)成分という)を含むアジリジン系硬化剤(B)(以下、(B)成分という)を含むものである。
【0011】
ここに、「非水系」とは、本コーティング剤組成物がエマルジョンではなく、また、希釈溶媒として水を使用しないことを意味する。また、「カルボキシラートアニオン基」とは、分岐状ポリエステル中和物中のカルボキシル基と後述する中和剤(塩基性化合物)とからなる塩構造のうち、「−COO」に相当する官能基をいう。
【0012】
該(A)成分は、前記量のカルボキシラートアニオン基を含有する分岐状のポリエステル樹脂であれば、各種公知のものを特に制限なく用いうる。具体的には、芳香族ジカルボン酸化合物を含むジカルボン酸類(a1)(以下、(a1)成分という)、ジオール類(a2)(以下、(a2)成分という)、トリオール類(a3)(以下、(a3)成分という)を反応させてなる脱水縮合物に、さらにトリカルボン酸類(a4)(以下、(a4)成分という)を反応させたものを、さらに中和してなるものが好ましい。
【0013】
(a1)成分には、コーティング被膜のプラスチック基材への密着性や耐ブロッキング等の観点より、芳香族ジカルボン化合物を含ませる必要がある。具体的には、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、およびジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ならびにこれらのモノアルキルエステルまたはジアルキルエステル(いずれの場合にもアルキル基の炭素数は1〜3程度)、ならびに、対応するものについてはその無水物などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、プラスチックフィルム(特にポリエチレンテレフタレートフィルム)へのコーティング被膜の密着性や、耐ブロッキング性等の観点より、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、および無水フタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0014】
また、(a1)成分には、芳香族ジカルボン化合物以外のジカルボン酸を含ませることができる。具体的には、例えば、脂肪族ジカルボン酸化合物〔シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸等〕、および脂環族ジカルボン酸化合物〔ヘキサヒドロフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等〕、ならびにこれらのモノアルキルエステルまたはジアルキルエステル(いずれの場合にもアルキル基の炭素数は1〜3程度)、ならびに、対応するものについてはその無水物などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、プラスチックフィルム(特にポリエチレンテレフタレートフィルム)へのコーティング被膜の密着性等の観点より、脂肪族ジカルボン酸類としてはアゼライン酸、アゼライン酸ジメチル、セバシン酸、およびセバチン酸ジメチルからなる群より選ばれる少なくとも1種が、脂環族ジカルボン酸類としてはシクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、ヘキサヒドロ無水フタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0015】
なお、(a1)成分における芳香族ジカルボン化合物の含有量は特に限定されないが、被膜の密着性や耐ブロッキング性等の観点より、通常30〜100モル%程度である。また、芳香族ジカルボン化合物以外のジカルボン酸化合物の含有量は、通常、70〜0モル%程度である。
【0016】
(a2)成分としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、脂肪族ジオール化合物〔エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等〕、脂環族ジオール化合物〔シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物等〕、芳香族ジオール化合物〔カテコール、レゾルシノール、キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、プラスチックフィルム(特にポリエチレンテレフタレートフィルム)へ被膜の密着性等の観点より、前記脂肪族ジオール化合物が好ましく、特に、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールからなる群より選ばれる1種が好ましい。
【0017】
(a3)成分は、(A)成分に分岐構造を導入するために用い、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオールなどが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
なお、(a3)成分とともに、各種公知の4官能以上のポリオールを併用してもよい。具体的には、例えば、エリスリトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等のテトラオールが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
(a4)成分は、(A)成分にカルボキシラートアニオン基を特定量含ませ、かつ、分岐構造を導入するために用いる。(a4)成分としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができるが、具体的には、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、無水トリメリット酸が好ましい。
【0020】
なお、(a4)成分とともに、各種公知の4官能以上のポリカルボン酸を併用してもよい。具体的には、例えば、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等のテトラカルボン酸が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
(A)成分における(a1)成分〜(a4)成分の使用量は特に限定されない。通常、(a1)成分と(a2)成分の合計を100重量部とした場合において、(a1)成分が30〜70重量部程度、(a2)成分が70〜30重量部程度である。また、(a1)成分と(a2)成分の合計100重量部に対して、(a3)成分は0.5〜5重量部程度、および(a4)成分は0.5〜10重量部程度である。
【0022】
(A)成分の製造法は特に限定されず、各種公知の方法を利用できる。具体的には、例えば、(ア):(a1)成分および(a2)成分の脱水縮合反応物に、(a3)成分を反応させ、さらに、(a4)成分で変性(脱縮合反応)したものを、中和剤で中和する方法や、(イ):(a1)成分〜(a4)成分をワンポットにて脱水縮合反応させたものを、中和剤で中和する方法等が挙げられる。
【0023】
脱水縮合反応や変性反応の条件は特に限定されないが、通常、反応温度が160〜250℃程度、反応時間が5〜10時間程度である。また、各反応は常圧下または減圧下で行なうことができる。
【0024】
前記中和剤(塩基性化合物)としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、揮発性アミン類〔モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノブチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、アリールアミン、アルカノールアミン等〕、アンモニア、アルカリ金属化合物〔水酸化ナトリウム、水酸化カリウム塩等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、耐水性等の観点より被膜中に残存することが懸念される場合には、前記揮発性アミン類やアンモニアが好ましく、特に、トリエチルアミンが好ましい。また、当中和剤は、(a1)成分〜(a4)成分からなる分岐状ポリエステル樹脂が有するカルボキシル基に対し、通常80〜300モル%の割合で使用する。
【0025】
また、各反応の際には、各種公知の触媒、例えば、二酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラn−ブトキシド、三酸化アンチモン、酸化ジブチルスズ、酢酸亜鉛(2水和物)、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズオキシド、チタニウムテトラブトキサイド等の1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、後述の有機溶剤も必要に応じて用いることができる。
【0026】
こうして得られた(A)成分は、前記したように、カルボキシラートアニオン基の含有量が通常0.3〜1.5mmol/g程度、好ましくは0.6〜1.0mmol/gである。ここに、「カルボキシラートアニオン基の含有量」とは、(A)成分1g(固形分換算)中に含まれるカルボキシラートアニオン基のミリモル数をいい、計算値である。この値が0.3mmol/g未満であるとコーティング被膜の耐溶剤性等が不十分になり、1.5mmol/gを超えると、プラスチックフィルムに対するコーティング被膜の密着性が不十分になる。
【0027】
(A)成分の他の物性は特に限定されないが、コーティング被膜の耐溶剤性等の観点より、酸価(JIS−0070)が通常10〜100mgKOH/g程度、好ましくは20〜80mgKOH/gであり、水酸基価(JIS−0070)が通常0.1〜50mgKOH/g程度、好ましくは0.5〜20mgKOH/gであり、ガラス転移温度(測定値)が通常5〜70℃程度、好ましくは10〜35℃であり、数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値)が通常7,000〜100,000程度、好ましくは10,000〜50,000である。
【0028】
(B)成分としては、前記(b1)成分を含むものであれば、各種公知のアジリジン類を特に制限なく用いることができる。(b1)成分としては、具体的には、3官能アジリジン化合物〔テトラメチロールメタン−トリ−(β−アジリジニルプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(β−アジリジニルプロピオネート)、グリセリルトリス(β−アジリジニルプロピオネート)、等〕、4官能アジリジン化合物〔テトラアジリジニルメタキシレンジアミン、テトラアジリジニルメチルパラキシレンジアミン、テトラメチルプロパンテトラアジリジニルプロピオネ−ト等〕、6官能アジリジン化合物〔特開2003−104970号に記載のもの〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、入手が容易であること等を考慮すると、3官能アジリジン化合物が好ましい。
【0029】
なお、(b1)成分と併用するのであれば、各種公知の1官能アジリジン化合物および2官能アジリジン化合物(以下、(b2)成分という)を用いることができる。具体的には、該1官能アジリジン化合物としては、アジリジン、2−メチルアジリジン、2−エチルアジリジン、2,2−ジメチルアジリジン、2,3−ジメチルアジリジン、2−フェニルアジリジン等が挙げられ、該2官能アジリジン化合物としては、ネオペンチルグリコールジ(β−アジリジニルプロピオネート)、4,4’−イソプロピリデンジフェノールジ(β−アジリジニルプロピオネート)、4,4’−メチレンジフェノールジ(β−アジリジニルプロピオネート)等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
なお、(B)成分におけるアジリジニル基の含有量は特に制限されないが、コーティング被膜の耐溶剤性等の観点より、通常1〜20mmol/g程度、好ましくは5〜15mmol/gである。ここに、「アジリジニル基の含有量」とは、(B)成分1g中に含まれるアジリジニル基のミリモル数をいい、計算値である。
【0031】
本発明のコーティング剤組成物における、(A)成分と(B)成分の含有量は特に限定されないが、コーティング被膜の耐溶剤性等の観点より、(A)成分に含まれるカルボキシラートアニオン基のモル数(mol)をx、および(B)成分に含まれるアジリジニル基のモル数(mol)をyとした場合において、x/yが通常0.05〜2.5程度、好ましくは0.1〜2.0の範囲の量である。
【0032】
本発明のコーティング剤組成物には、希釈溶剤として各種公知の有機溶剤を含有させることができる。具体的には、例えば、ケトン系有機溶剤〔アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等〕、エステル系有機溶剤〔酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ぎ酸エチル、プロピオン酸ブチル、メトキシプロピルアセテート、メチルセロソルブアセテート、セロソルブアセテート等〕、エーテル系有機溶剤〔ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等〕、非プロトン性極性有機溶剤〔N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等〕、芳香族炭化水素系有機溶剤〔ソルベッソ#100、ソルベッソ#150(いずれもエクソン化学(株)製)、トルエン、キシレン等〕などの1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、コーティング剤組成物を溶液とした場合の安定性が良好であることからケトン系有機溶剤が好ましく、特にメチルエチルケトンが好ましい。また、有機溶剤は、コーティング剤組成物の固形分濃度が通常20〜60重量部程度の範囲となる量で用いればよい。
【0033】
なお、本発明のコーティング剤組成物には、(B)成分のアジリジニル基を開環させるための硬化触媒を含有させることができる。具体的には、例えば、酸触媒〔パラトルエンスルホン酸、塩酸、臭素酸、ヨウ素酸、フッ素酸、硫酸、リン酸等〕や、酸発生剤〔ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、ジアリールホスホニウム塩等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、硬化触媒の使用量は、(A)成分および(B)成分の合計100重量部(固形分換算)に対し、通常0〜10重量部程度、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0034】
また、本発明のコーティング剤組成物には、他にも各種公知の添加剤、例えば架橋剤〔アルキルエーテル化アミノホルムアルデヒド樹脂、ポリイソシアネート類、ブロックイソシアネート類等〕、帯電防止剤〔ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリピロール類、ポリフラン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアセン類ポリチオフェンビニレン類等〕、消泡剤、防滑剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、酸化防止剤、顔料、染料、滑剤などを適宜含有させることもできる。
【0035】
本発明のコーティング剤組成物をプラスチック基材に塗工する方法は特に限定されず、各種公知の手段による。具体的には、例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター等が挙げられる。また、プラスチック基材への塗工量も特に限定されないが、通常は乾燥固形分として0.01〜10g/m程度である。
【0036】
基材をなすプラスチックとしては、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(コロナ放電処理をしたものを含む。)、ABS、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリオレフィン、トリアセチルセルロース、AS等の各種プラスチック基材や、当プラスチック基材からなるプラスチックフィルムが挙げられる。これらの中でも、コーティング被膜の耐溶剤性の観点より、ポリエチレンテレフタレートフィルム、特にコロナ放電処理をしたポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各例中、部及び%は特記無い限り重量基準である。
【0038】
製造例1
撹拌機、冷却器、温度計および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、テレフタル酸479部、イソフタル酸402部、アゼライン酸87部、エチレングリコール256部、1,6−ヘキサンジオール354部およびグリセリン23部を仕込み、撹拌下に反応系を加熱してこれらを溶融した。次いで、反応系を、脱水縮合反応で生成するメタノールと水を除去しながら、160℃から200℃まで3時間かけて徐々に昇温し、更に200℃で1時間保温した。次いで三酸化アンチモンを0.16部加えた。次いで、反応容器に真空減圧装置をつなぎ、235℃、2.8kPaで1時間、減圧重縮合反応を行った。次いで、減圧状態を解除して反応系を150℃まで冷却し、反応系に無水トリメリット酸119部を仕込み、1時間保温した。次いで、メチルイソブチルケトン466部、メチルエチルケトン446部を加え均一に溶解した。こうして、固形分濃度が60%、カルボキシラートアニオン基の含有量(原料の仕込み重量より算出した計算値)が0.89mmol/g、ガラス転移点が18℃、酸価が49.7mgKOH/g、水酸基価が1mgKOH/g、ガラス転移温度((製品名「DSC6200」、セイコーインスツルメンツ(株)製)による測定値)が18℃、および数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置(製品名「HLC−8220GPC」、東ソー(株)製)によるポリスチレン換算値)が10,000の分岐状ポリエステル樹脂(1)の溶液を得た。樹脂(1)の原料種、その使用量、および物性を表1に示す。
【0039】
製造例2〜7
原料および使用量を表1に示すように変えた他は製造例1と同様にして、分岐状ポリエステル樹脂(2)〜(7)の溶液を得た。また、各樹脂の物性を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
比較製造例1〜5
原料および使用量を表2に示すように変えた他は製造例1と同様にして、分岐状ポリエステル樹脂(イ)〜(ホ)の溶液を得た。また、各樹脂の物性を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表1および2中、各記号は以下の意味である。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
Phan:無水フタル酸
AZE:アゼライン酸
SEB:セバシン酸
CHDA:シクロヘキサンジカルボン酸
HHPA:ヘキサヒドロ無水フタル酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
1,6HG:1,6−ヘキサンジオール
CHDM:シクロヘキサンジメタノール
GLy:グリセリン
TMP:トリメチロールプロパン
TMAn:トリメリット酸
C:カルボキシラートアニオン基の含有量
AV:酸価
OHV:水酸基価
Tg:ガラス転移温度
Mn:数平均分子量
【0044】
<コーティング剤組成物の調製>
実施例1
製造例1で得たポリエステル樹脂(1)の溶液100部(固形分濃度60%)に、トリエチルアミン(TEA)5.4部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−1)の溶液を得た。続けて、当該溶液にテトラメチロールメタン−トリ−(β−アジリジニルプロピオネート)(商品名「TAZO」:相互薬工(株)製。以下、同様。)を9.1部添加し、メチルエチルケトン58部で希釈して、固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0045】
実施例2
製造例2で得たポリエステル樹脂(2)の溶液100部(固形分濃度60%)を用い、TEA3.0部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−2)の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを5.0部添加し、メチルエチルケトン55部で希釈して、固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0046】
実施例3
製造例3で得たポリエステル樹脂(3)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA5.4部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−3)の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを9.1部添加し、メチルエチルケトン58部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0047】
実施例4
製造例4で得たポリエステル樹脂(4)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA4.1部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−4)の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを6.9部添加し、メチルエチルケトン56部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0048】
実施例5
製造例5で得たポリエステル樹脂(5)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA4.1部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−5)の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを13.4部添加し、メチルエチルケトン62部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0049】
実施例6
製造例1で得たポリエステル樹脂(1)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA5.4部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−1)の溶液を得た。続けて、当該溶液にトリメチロールプロパントリス(β−アジリジニルプロピオネート)(商品名「TAZM」:相互薬工(株)製)を9.1部添加し、メチルエチルケトン58部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0050】
実施例7
製造例6で得たポリエステル樹脂(6)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA5.4部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−6)の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを9.1部添加し、メチルエチルケトン58部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0051】
実施例8
製造例7で得たポリエステル樹脂(7)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA5.4部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−7)の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを9.1部添加し、メチルエチルケトン58部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0052】
実施例9
製造例1で得たポリエステル樹脂(1)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA5.4部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−1)の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを3.4部添加し、メチルエチルケトン50部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0053】
実施例10
製造例1で得たポリエステル樹脂(1)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA5.4部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−1)の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを45.3部添加し、メチルエチルケトン113部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0054】
実施例11
製造例1で得たポリエステル樹脂(1)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA5.4部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−1)の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを15.1部添加し、メチルエチルケトン67部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0055】
比較例1
比較製造例1で得たポリエステル樹脂(イ)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA1.3部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂(イ)の中和物の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを2.1部添加し、メチルエチルケトン52部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0056】
比較例2
比較製造例2で得たポリエステル樹脂(ロ)の溶液100部g(固形分濃度60%)に、TEA9.7部を添加し中和することにより、ポリエステル樹脂(ロ)の中和物の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを16.3部添加し、メチルエチルケトン65部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0057】
比較例3
比較製造例3で得たポリエステル樹脂(ハ)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA0.43部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂(ハ)の中和物の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを0.6部添加し、メチルエチルケトン51部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0058】
比較例4
比較製造例4で得たポリエステル樹脂(二)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA0.3部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂(二)の中和物の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを0.6部添加し、メチルエチルケトン51部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0059】
比較例5
比較製造例5で得たポリエステル樹脂(ホ)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA1.3部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂(ホ)の中和物の溶液を得た。続けて、当該溶液にTAZOを2.1部添加し、メチルエチルケトン52部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0060】
比較例6
製造例1で得たポリエステル樹脂(1)の溶液100部(固形分濃度60%)に、TEA5.4部を添加して中和することにより、ポリエステル樹脂中和物(A−1)の溶液を得た。続けて、当該溶液にエポキシ系硬化剤(商品名「エポトートYH-300」:東都化成(株)製)を9.3部とジエチルベンジルアミン(DEBA)0.09部を添加し、メチルエチルケトン58部で希釈して固形分濃度が40%のコーティング剤組成物を得た。
【0061】
<密着性試験>
ポリスチレン(PS)板(厚さ2mm)、ポリカーボネート(PC)板(厚さ2mm)、コロナ放電未処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ38μm)、およびコロナ放電処理PETフィルム(厚さ38μm)のそれぞれに、実施例1に係るコーティング剤組成物を乾燥膜厚5μmになるように塗布し、熱処理(80℃で30分間)をして被膜を形成させた後、室温乾燥(23℃、24時間)させた。次いで、JIS 5400に準じ、各被膜に2mmマスを碁盤目状に100マス作成し、粘着テープを貼り付け、これを垂直方向に急速に剥がした時の被膜の残存量により、以下の基準に基づき被膜の密着性を評価した。また、他の実施例および比較例の各コーティング剤組成物についても同様にして評価した。結果を表3および4に示す。
◎:被膜の80%以上が基材に残った
○:被膜の50%以上80%未満が基材に残った
△:被膜の20%以上50%未満しか基材に残らなかった
×:被膜の20%未満しか基材に残らなかった
【0062】
<耐溶剤性試験>
コロナ放電未処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、実施例1に係るコーティング剤組成物を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、熱処理(80℃で30分間)をして被膜を形成した後、室温(23℃)で24時間乾燥させた。その後、メチルエチルケトンを含ませたガーゼで被膜を擦り、フィルム素地が露出するまでの回数(往復を1回とする)に基づき、以下の基準で耐溶剤性を評価した。また、他の実施例および比較例のコーティング剤についても同様にして被膜の耐溶剤性を評価した。結果を表3および4に示す。
◎:50回以上
○:30回以上49回未満
△:10回以上29回未満
×:10回未満
【0063】
<耐ブロッキング性試験>
コロナ放電未処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、実施例1に係るコーティング剤組成物を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、熱処理(80℃で30分間)をして被膜を形成した後、室温(23℃)で24時間乾燥させた。次いで、得られた試験片の被膜に、コロナ放電未処理ポリエチレンテレフタレートPETフィルムを被せて、2kg/cmの荷重をかけて、60℃、65%RHの雰囲気中に24時間放置した。その後、フィルム同士を引き剥がした際のブロッキング(貼り付き)を、以下の基準で評価した。また、他の実施例および比較例のコーティング剤についても同様にして被膜の耐ブロッキング性を評価した。結果を表3および4に示す。
○:ブロッキング無し
△:被膜面の一部にブロッキング有り
×:被膜面の全体にわたり著しいブロッキング有り
【0064】
<耐沸水性試験>
コロナ放電未処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、実施例1に係るコーティング剤組成物を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、熱処理(80℃で30分間)をして被膜を形成した後、室温(23℃)で24時間乾燥させた。次いで、得られた試験片を沸騰水中で60分煮沸処理し、被膜の状態を以下の基準で目視評価した。また、他の実施例および比較例のコーティング剤についても同様にして被膜の耐沸水性を評価した。結果を表3および4に示す。
○:塗膜の白化がなく、かつブリスターも発生していない
△:塗膜が白化しており、かつブリスターが僅かに発生している
×:塗膜が強く白化しており、かつブリスターが著しく発生している
【0065】
<透明性試験>
コロナ放電未処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、実施例1に係るコーティング剤組成物を乾燥膜厚が5μmになるように塗布し、熱処理(80℃で30分間)をして被膜を形成した後、室温(23℃)で24時間乾燥させた。次いで、得られた試験フィルムについて、(株)村上色彩技術研究所製のベース測定器(HM―150型)を使用してヘーズ値を測定し、下記基準で評価した(なお、評価に際し、ベースとなるコロナ放電未処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムそれ自体のヘーズ値による補正を行なった)。また、他の実施例および比較例のコーティング剤についても同様にして被膜の透明性を評価した。結果を表3および4に示す。
◎:1.5%未満
○:1.5%以上3.0%未満
×:3.0%以上
【0066】
【表3】

【0067】
【表4】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシラートアニオン基の含有量が0.3〜1.5mmol/gである分岐状ポリエステル中和物(A)、および、アジリジニル基を少なくとも3つ有するアジリジン化合物(b1)を含むアジリジン系硬化剤(B)を含有する、プラスチック用非水系コーティング剤組成物。
【請求項2】
(A)成分が、芳香族ジカルボン酸化合物を含むジカルボン酸類(a1)、ジオール類(a2)、トリオール類(a3)を反応させてなる脱水縮合物に、トリカルボン酸類(a4)を反応させたものを、さらに中和してなるものである、請求項1に記載のプラスチック用コーティング剤組成物。
【請求項3】
(a1)成分の芳香族ジカルボン酸化合物が、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、および無水フタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1または2に記載のプラスチック用コーティング剤組成物。
【請求項4】
(A)成分のガラス転移温度が5〜70℃である、請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック用コーティング剤組成物。
【請求項5】
(A)成分に含まれるカルボキシラートアニオン基のモル数(mol)をx、および(B)成分に含まれるアジリジニル基のモル数(mol)をyとした場合において、x/yが0.05〜2.5であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック用コーティング剤組成物。
【請求項6】
プラスチックがポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチック用コーティング剤組成物。

【公開番号】特開2009−263657(P2009−263657A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85158(P2009−85158)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】