説明

プラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物

【課題】低粘度で硬化性に優れ、各種プラスチックフィルム等、特に親水性プラスチックフィルム等に対する接着力に優れ、厳しい耐久性が要求される用途においても十分な性能を有し、具体的には、高温及び高湿条件下においても高い接着力を維持することができるプラスチックフィルム等用の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の提供。
【解決手段】(A)ウレタン(メタ)アクリレート、(B)カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を有する化合物、(C)リン酸基及びエチレン性不飽和基を有する化合物、(D)脂肪族基又は脂環式骨格及びエチレン性不飽和基を有する化合物及び(E)光ラジカル重合開始剤を含むプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線又は紫外線等の活性エネルギー線の照射により、種々のプラスチック製フィルム又はシートを接着することが可能な活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に関するものであり、本発明の組成物は、プラスチック製フィルム又はシートを含む薄層被着体の接着に好適に使用され、さらに液晶表示素子等に使用される各種光学フィルム又はシートの製造に好適に使用されるものであり、これら技術分野で賞用され得るものである。
尚、本明細書においては、アクリレート及び/又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。
又、以下において、特に明示する必要がない場合は、プラスチック製フィルム又はシートをまとめて「プラスチックフィルム等」と表し、フィルム又はシートをまとめて「フィルム等」と表す。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックフィルム等の薄層被着体同士、又はプラスチックフィルム等の薄層被着体とこれと他の素材からなる薄層被着体とを貼り合わせるラミネート法においては、エチレン−酢酸ビニル共重合体やポリウレタン系重合体を含む溶剤型接着剤組成物を第1の薄層被着体に塗布して乾燥させた後、これに第2の薄層被着体をニップ・ローラー等にて圧着するドライラミネート法が主に行われている。
この方法で使用される接着剤組成物は、一般に組成物の塗布量を均一にするため溶剤を多く含むものであるが、このため乾燥時に多量の溶剤蒸気が揮散してしまい、毒性、作業安全性及び環境汚染性が問題となっている。又、当該接着剤組成物は、薄層被着体を貼り合わせた直後に、得られたラミネートフィルムを接着するためのヒートシール、溝を刻設する罫線工程等の後加工工程において、薄層被着体同士が剥離してしまうという問題を有している。
これらの問題を解決する接着剤組成物として、無溶剤系の接着剤組成物が検討されている。
【0003】
無溶剤系接着剤組成物としては、2液型接着剤組成物及び紫外線又は電子線等の活性エネルギー線により硬化する接着剤組成物が広く用いられている。
2液型接着剤組成物としては、主に末端に水酸基を有するポリマーを主剤とし、末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物を硬化剤とする、いわゆるポリウレタン系接着剤組成物が用いられている。しかしながら該組成物は、硬化に長時間を要するという欠点があり、このため薄層被着体の貼り合わせ直後に罫線工程等の後加工工程に入ることができない等の生産性上の問題がある。
これに対して、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、硬化速度が速いことから生産性に優れ、最近注目されている。
【0004】
一方、液晶表示装置は、薄型、軽量及び省消費電力等の特長から、自動車用のナビゲーションシステム、携帯電話及びPDA等の小型電子機器から、ワープロやパソコンの画面、さらにはテレビ受像機にも普及している。
近年、当該液晶表示素子に使用される各種光学フィルム等の貼り合わせにも、活性エネルギー線硬化型接着剤が使用されてきている。
【0005】
光学フィルム等としては、偏光板、位相差フィルム、視野角補償フィルム、輝度向上フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、レンズシート及び拡散シート等が挙げられ、これらには様々な種類のプラスチックが用いられている。
【0006】
これらプラスチックの中でも、偏光板用として特に重用されているものとしてポリビニルアルコール、一部に酢酸ビニルを残存させたもの、あるいはこれらの一部をブチラール化したものを含むポリビニルアルコール系樹脂、及びトリアセチルセルロースが挙げられる。これらのプラスチックは水酸基を含有しており、通常のプラスチックと比較して非常に親水性が高いという特徴を持つ。
【0007】
偏光板用の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物としては、光ラジカル重合を利用した組成物、光カチオン重合を利用した組成物及び光ラジカル重合及び光カチオン重合を併用した組成物が知られている。
【0008】
光ラジカル重合を利用した活性エネルギー線硬化型接着剤組成物としては、水酸基等を含有するラジカル重合性化合物及び極性基を含有しないラジカル重合性化合物を特定割合で含む組成物(特許文献1)等が知られている。
しかしながら、当該組成物は、硬化時の収縮が大きく、被着体の種類によっては界面での応力発生により十分な剥離強度を得ることが困難であった。
又、この問題を解決するため、ウレタン(メタ)アクリレートやアクリルアミド誘導体を含む組成物が検討されている(例えば、特許文献2等)。
しかしながら、当該組成物は、親水性プラスチックに対する初期接着力は高いものの、実用上要求される耐水性や耐湿熱性が不十分という問題を有するものであった。又、硬化時の収縮応力を、接着剤組成物の柔軟性を向上させることで緩和することも可能であるが、このような手段は接着剤の耐熱性や耐水性を低下させるため、厳しい耐久性が要求される用途においては、ハガレや発泡、クラックといった不具合が発生するという問題があった。
【0009】
光カチオン重合を利用した活性エネルギー線硬化型接着剤組成物としては、芳香環を含まないエポキシ樹脂を主成分とする組成物(特許文献3)や脂肪族エポキシ化合物と、脂環式エポキシ及び/又はオキセタンを含む組成物(特許文献4)等が知られている。
当該組成物は、光ラジカル重合を利用した前記組成物に対して、硬化時の収縮が比較的小さいため、界面での応力発生を抑制できるという利点がある。
しかしながら、光カチオン重合は、水分や塩基性物質による重合阻害が起こることが一般的に広く知られており、湿度の高い環境や、水分を多く含む基材、表面が塩基性の基材においては十分な剥離強度を得ることが困難であった。又、多官能エポキシ樹脂を主成分として含む組成物とすることで、重合阻害による硬化性低下の影響を小さくすることが可能であるが、このような組成物は、高い架橋密度により接着剤層と基材との間の応力が高くなり、接着力が不十分となる等の問題を有するものであった。
【0010】
光ラジカル重合及び光カチオン重合を併用した活性エネルギー線硬化型接着剤組成物としては、イソシアヌル環骨格を有する(メタ)アクリレート、脂環式エポキシ化合物、水酸基を含有する化合物及び光酸発生剤を含む組成物(特許文献5)、2個以上のエポキシ基を有しこの基のうちの少なくとも1個が脂環式エポキシ基であるエポキシ樹脂、2個以上のエポキシ基を有しかつ脂環式エポキシ基を有さないエポキシ樹脂、光カチオン重合開始剤及び重合性モノマーを含む組成物(特許文献6)、(メタ)アクリル基を2以上有する化合物、水酸基と1個の(メタ)アクリル基を有する化合物、(メタ)アクリル基を有するカチオン重合性化合物、光ラジカル重合開始剤及び光カチオン重合開始剤を含む組成物(特許文献7)等が知られている。
【0011】
これらの組成物は、硬化時の収縮と水分による重合阻害という問題を、光ラジカル重合及び光カチオン重合を併用するハイブリッド化で解決するというものであるが、本発明者らの検討によると以下に示すような問題点があることが判明した。
【0012】
特許文献5で開示されている組成物は、イソシアヌル環骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を必須成分として含むものであるが、本発明者らの検討によると、2官能性の光ラジカル重合性化合物が組成物中に多く含まれると、硬化時の収縮はそれほど小さくならず、界面での応力発生を抑制できず、このため、基材によっては十分な剥離強度を得ることが困難であることが判明した。
【0013】
特許文献6で開示されている組成物は、ハイブリッド化された組成物も概念として含むような記載が明細書内になされているが、実施例においては光カチオン重合性モノマーのみで構成された組成物しか示されておらず、具体性に欠けるものである。
【0014】
特許文献7で開示されている組成物は、(メタ)アクリル基を有するカチオン重合性化合物を必須成分として特定割合で含有するが、本発明者らの検討によると、当該化合物が組成物中に多く含まれると、硬化時の収縮はそれほど小さくならず、界面での応力発生を抑制できず、このため、基材によっては十分な剥離強度を得ることが困難であることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−009329号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−177169号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2004−245925号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2008−134384号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2008−233279号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2008−257199号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開2008−260879号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、低粘度で硬化性に優れ、各種プラスチックフィルム等、特に親水性プラスチックフィルム等に対する接着力に優れ、厳しい耐久性が要求される用途においても十分な性能を有し、具体的には、高温及び高湿条件下においても高い接着力を維持することができるプラスチックフィルム等用の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、種々の研究の結果、ウレタン(メタ)アクリレート、カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を有する化合物、リン酸基及びエチレン性不飽和基を有する化合物、脂肪族又は脂環式骨格及びエチレン性不飽和基を有する化合物、並びに光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化型接着剤組成物が、各種プラスチックフィルム等、中でも親水性プラスチックフィルム等に対する接着力に優れ、厳しい耐久性が要求される用途においても十分な性能を有することを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の組成物は、低粘度で塗工性に優れ、各種プラスチックフィルム等、特に親水性プラスチックフィルム等に対して高温及び高湿条件下においても高い接着力を維持することができ、各種プラスチックフィルム等の薄層被着体の接着に有効であり、特に液晶表示装置等に用いる、光学フィルムの製造に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、下記(A)〜(E)成分を含むプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に関する。
(A)ウレタン(メタ)アクリレート(以下、「(A)成分」という)
(B)カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を有する化合物(以下、「(B)成分」という)
(C)リン酸基及びエチレン性不飽和基を有する化合物(以下、「(C)成分」という)
(D)脂肪族基又は脂環式骨格及びエチレン性不飽和基を有する化合物(以下、「(D)成分」という)
(E)光ラジカル重合開始剤(以下、「(E)成分」という)
以下、必須成分の(A)〜(E)成分について説明する。
【0020】
1.(A)成分
(A)成分は、ウレタン(メタ)アクリレートである。本発明では、(A)成分を含むことにより、得られる硬化物が高温又は高湿のいずれの条件下においても接着力に優れるものとなる。
(A)成分としては、オリゴマー及びポリマーのいずれも使用可能であり、重量平均分子量(以下、「Mw」と略す)が500〜50,000のものが好ましく、より好ましく3,000〜40,000のものである。
尚、本発明において、Mwとは、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィーにより測定した分子量をポリスチレン換算した値を意味する。
【0021】
(A)成分としては、種々の化合物が使用でき、ポリオールと有機ポリイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート基を有する化合物に、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを反応させた化合物等が挙げられる。
さらに、(A)成分としては、2個の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート〔以下、2官能ウレタン(メタ)アクリレートという〕であることが好ましい。
【0022】
ポリオールとしては、ポリエーテル骨格を有するポリオール、ポリエステル骨格を有するポリオール及びポリカーボネート骨格を有するポリオール等が挙げることができる。
ポリエーテル骨格を有するポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
ポリエステル骨格を有するポリオールとしては、低分子量ジオール又はポリカプロラクトンジオール等のジオールと、二塩基酸又はその無水物等の酸成分とのエステル化反応物等が挙げられる。
低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、及び、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
二塩基酸又はその無水物としては、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、テトラヒドルフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等、並びにこれらの無水物等が挙げられる。
ポリカーボネートポリオールとしては、前記低分子量ジオール又は/及びビスフェノールA等のビスフェノールと、エチレンカーボネート及び炭酸ジブチルエステル等の炭酸ジアルキルエステルの反応物等が挙げられる。
【0023】
有機ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート3量体、水素化トリレンジイソシアネート、水素化4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシイレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート2量体、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート相互付加物、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリス(トリレンジイソシアネート)付加物及びイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。又、有機ポリイソシアネートとしては、有機ジイソシアネートが好ましい。
【0024】
ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ、ジ又はモノ(メタ)アクリレート、及びトリメチロールプロパンジ又はモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
(A)成分の製造方法としては、ジブチルスズジラウレート等の付加触媒存在下、ポリオールと有機ポリイソシアネートとを加熱撹拌し付加反応させ、さらにヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを添加し、加熱撹拌し付加反応させることにより得られる。
(A)成分としては、これら化合物を単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
(A)成分としては、高湿度下の接着強度が特に優れ、組成物の経時的な粘度変化や粘度変化に伴う、硬化後の接着剤の経時的な接着力低下が少ないという点で、エステル結合を持たない、ポリオールとしてポリエーテル骨格を有するポリオールを使用して製造されたポリエーテル骨格を有する2官能ウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
さらに、(A)成分としては、ポリエーテル骨格を有する2官能ウレタン(メタ)アクリレートであって、Mwが3,000〜40,000のものがより好ましい。
【0027】
(A)成分の含有割合としては、硬化性成分中に10〜70重量%が好ましく、より好ましくは30〜60重量%である。(A)成分の割合を10重量%以上にすることで、硬化物が耐熱性や耐水性に優れるものとなり、70重量%以下にすることで、組成物の粘度が塗工性に優れたものとなり、硬化物の接着力に優れたものとなる。
尚、硬化性成分とは、組成物が前記(A)〜(E)成分のみを含む場合は、(A)〜(D)成分を意味し、(A)〜(E)成分に加え後記(F)成分を含む場合は、(A)〜(D)及び(F)成分を意味する。
【0028】
2.(B)成分
(B)成分は、カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を有する化合物である。
エチレン性不飽和基としては、ビニル基、ビニルエーテル基及び(メタ)アクリロイル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
(B)成分は、1種のみを使用することも、2種以上を併用することもできる。
(B)成分は、後述する(C)成分と併用することで格段の接着力向上効果が得られる。この理由は不明であるが、親水性プラスチックに含まれる水酸基との部分的なエステル化反応がおこるものと推測している。
【0029】
(B)成分の具体例としては、分子内にそれぞれ1個のカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有する化合物としては、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられ、2個のカルボキシル基と1個のエチレン性不飽和基を有するものとしてはフマル酸及びマレイン酸等が挙げられる。
(B)成分としては、他の成分との共重合性の観点からアクリル酸、又はメタクリル酸が好ましく、取扱い上の安全性からはメタクリル酸がより好ましい。
(B)成分としては、これら化合物を単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
(B)成分の含有割合としては、硬化性成分中に3〜30重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。(B)成分の割合を3重量%以上にすることで、接着力に優れるものとすることができ、30重量%以下にすることで、硬化物を耐湿熱性や耐水性に優れたものとすることができる。
【0031】
3.(C)成分
(C)成分は、リン酸基及びエチレン性不飽和基を有する化合物である。
(C)成分は、オルトリン酸の水素の1個又は2個がエチレン性不飽和基で置換された化合物である。
エチレン性不飽和基としては、ビニル基、ビニルエーテル基及び(メタ)アクリロイル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0032】
(C)成分の好ましい例としては、オルトリン酸の水素の1個又は2個が(メタ)アクリロイル基で置換された化合物であり、組成物への溶解性に優れるため、オルトリン酸の水素が1個の有機基で置換された下記式(1)で表される化合物〔以下(C-1)という〕、又はオルトリン酸の水素2個が有機基で置換された下記式(2)で表される化合物〔以下(C-2)という〕が好ましい。
【0033】
RO−PO−(OH)2 (1)
(RO)2−PO−(OH) (2)
【0034】
式(1)及び(2)において、Rは、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を意味する。
Rにおける(メタ)アクリロイルオキシアルキル基の例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル基及び2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル基等が挙げられる。
【0035】
(C-1)及び(C-2)としては、Rが(メタ)アクリロイルオキシアルキル基である化合物が、せん断接着力や剥離接着力に優れるため好ましい。
より好ましくは、Rがメタクリロイルオキシアルキル基である化合物である。
特に好ましい化合物としては、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートが挙げられる。
(C)成分としては、これら化合物を単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
(C)成分の含有割合としては、接着力及び組成物の保存安定性の観点から、硬化性成分中に0.1〜15重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜7重量%、特に好ましくは1〜5重量%である。(C)成分の含有割合を、0.1重量%以上とすることで、接着性を大幅に向上させることができ、15重量%以下とすることで、硬化性成分が有するエステル結合が切断されることによりもたらされる組成物の経時での粘度低下を防ぐことができる。
本発明の組成物は(B)成分と(C)成分の組み合わせることにより、親水性プラスチック基材に対する接着性が格段に向上する。これは前記した通り、親水性プラスチックが有する水酸基と(B)成分のカルボキシル基のエステル化反応を(C)成分が促進するものと推察している。
【0037】
4.(D)成分
(D)成分は、脂肪族又は脂環式骨格及びエチレン性不飽和基を有する化合物である。
エチレン性不飽和基としては、ビニル基、ビニルエーテル基及び(メタ)アクリロイル基等が挙げられ、他成分との共重合性及び硬化速度に優れる点から(メタ)アクリロイル基とが好ましい。
【0038】
(D)成分の具体例において、脂肪族の(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
又、脂環式骨格を有する(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート及びジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中では、硬化物の耐熱性が特に優れることから脂環式骨格の(メタ)アクリレートが好ましく、これらの中でもイソボルニル(メタ)アクリレートが接着力に優れており好ましい。
(D)成分としては、これら化合物を単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
(D)成分の割合としては、硬化性成分中に5〜45重量%が好ましく、より好ましくは20〜40重量%である。(D)成分の割合を5重量%以上にすることで、硬化物の耐湿熱性や耐水性に優れるものとすることができ、45重量%以下にすることで、親水性プラスチックに対する接着力に優れたものとすることができる。
【0040】
5.(E)成分
(E)成分は、光ラジカル重合開始剤である。
(E)成分は、活性エネルギー線の照射によってラジカルを発生し、エチレン性不飽和基を有する化合物の重合を開始する化合物である。
【0041】
(E)成分の具体例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4-(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−1−(メチルビニル)フェニル]プロパノン、2−ヒドロキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチループロピオニル)−ベンジル]−フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)]フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イルーフェニル)−ブタン−1−オン、アデカオプトマーN−1414(旭電化製)、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、エチルアントラキノン及びフェナントレンキノン等の芳香族ケトン化合物;
ベンゾフェノン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、4−(メチルフェニルチオ)フェニルフェニルメタン、メチル−2−ベンゾフェノン、1−[4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルフォニル)プロパン−1−オン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、N,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、N,N′−テトラエチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン及び4−メトキシ−4′−ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;
ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、エチル−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィネート及びビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド化合物;
チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1−クロロー4−プロピルチオキサントン、3−[3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサントン−2−イル]オキシ]−2−ヒドロキシプロピル−N,N,N―トリメチルアンモニウムクロライド及びフロロチオキサントン等のチオキサントン系化合物等が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、エチルー(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィネート及びビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド化合物が、紫外線吸収剤等を含有し透過性が低いフィルム越しに活性エネルギー線を照射する場合でも硬化性が良好なため、好ましい。
又、これら化合物を用いた場合に、フィルム端面のように酸素による硬化阻害を受けやすい個所の表面硬化性を向上させる目的で、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンのような、吸収波長が短くとも表面硬化性が良好となる光開始剤を組み合わせてもよい。
(E)成分としては、これら化合物を単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
(E)成分の割合は、硬化性成分合計量100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましく、より好ましくは1〜10重量部である。(E)成分の割合が0.1重量部以上とすることにより、組成物の光硬化性が十分にすることができ接着性に優れたものとすることができ、20重量部以下とすることにより、接着層の内部硬化性を優れたものとすることができ、接着性に優れたものとすることができる。
【0044】
6.その他の成分
本発明の組成物は、上記(A)〜(E)成分を必須成分とするものであるが、目的に応じて種々の成分を配合することができる。
耐熱性、耐水性及び接着性等をより向上させるため、前記(A)〜(D)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物〔以下、「(F)成分」という〕、酸化防止剤〔以下、「(G)成分」という〕、シランカップリング剤及び紫外線吸収剤等を配合することができる。
好ましいその他成分である(F)及び(G)成分について、以下、具体的に説明する。
【0045】
6−1.(F)成分
(F)成分としては、(メタ)アクリレートが好ましい。
(メタ)アクリレートの具体例としては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、N−ビニルカプロラクトン、(メタ)アクリロイルモルホリン、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、マレイミド基を有する(メタ)アクリレート及び1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート;1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリブロモフェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、;並びにポリエステルポリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
これら以外にも3官能以上の(メタ)アクリレートも用いることができる。
具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
(F)成分としては、これら化合物を単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0046】
これら以外にも、文献「最新UV硬化技術」[(株)印刷情報協会、1991年発行]の53〜56頁に記載されているような化合物等が挙げられる。
【0047】
これら(メタ)アクリレートは市販品として入手可能であり、東亞合成(株)製、アロニックスM−305、M−309、M−310、M−315、M−320、M−350、M−360、M−402、M−404、M−408、M−450等が挙げられる。
(F)成分の好ましい配合割合は、硬化性成分中に0〜30質量%の範囲である。
【0048】
6−2.(G)成分
(G)成分の酸化防止剤は、硬化物の耐光性を向上させるために配合されるものであり、例えばフェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、たとえば、ジt−ブチルヒドロキシトルエン等のヒンダードフェノール類を挙げることができる。市販されているものとしては、(株)アデカ製のAO−20、AO−30、AO−40、AO−50、AO−60、AO−70、AO−80等が挙げられる。リン系酸化防止剤としては、トリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン等のホスフィン類や、亜リン酸トリアルキルや亜リン酸トリアリール等が挙げられる。これらの誘導体で市販品としては、たとえば(株)アデカ製、アデカスタブPEP−4C、PEP−8、PEP−24G、PEP−36、HP−10、260、522A、329K、1178、1500、135A、3010等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、チオエーテル系化合物が挙げられ、市販品としては(株)アデカ製AO−23、AO−412S、AO−503A等が挙げられる。これらは1種を用いても2種類以上を用いてもよい。
【0049】
(G)成分を用いる時の使用割合は、組成物中に0.01〜5重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜1重量%である。
使用割合が0.1重量%以上にすることにより、組成物の耐久性を向上させることができ、一方、5重量%以下とすることにより、硬化不足や接着力不足を防止することができる。
【0050】
6−3.その他の成分
本発明の組成物には、前記以外にも、接着剤組成物で通常使用されるその他の成分を配合することができる。
シランカップリング剤は、接着剤層と親水性プラスチックとの界面接着強度を改善できるシランカップリング剤、硬化物の耐熱性、耐候性等の耐久性を高めることができる酸化防止剤や紫外線吸収剤である。本発明に用いられるシランカップリング剤としては、基材との接着性向上に寄与できるものであれば特に限定されるものではない。
【0051】
具体的には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル-N-(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0052】
シランカップリング剤を用いる時の使用割合は、組成物中に0.1〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。
使用割合が0.1重量%以上にすることにより、組成物の接着力を向上させることができ、一方、10重量%以下とすることにより、接着力の経時変化を防止することができる。シランカップリング剤は、前記した化合物を使用しても、又は二種以上を使用してもよい。
【0053】
耐光性を向上させる目的で、紫外線吸収剤を用いてもよく、(株)BASF製チヌビン400、チヌビン405、チヌビン460、チヌビン479等のトリアジン系紫外線吸収剤や、チヌビン900、チヌビン928、チヌビン1130等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。
これらは1種を用いても2種類以上を用いてもよい。紫外線吸収剤を用いる時の使用割合は、組成物中に0.01〜5重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜1重量%である。5重量部を超えると組成物の硬化性が大幅に低下する。
【0054】
前記以外のその他の成分としては、具体的には、無機充填剤、軟化剤、酸化防止剤、老化防止剤、安定剤、粘着付与樹脂、レベリング剤、消泡剤、可塑剤、染料、顔料、処理剤及び紫外線遮断剤等を配合することができる。
【0055】
7.プラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物
組成物の製造方法としては、前記(A)〜(E)成分を、必要に応じてさらにその他成分を、常法に従い攪拌・混合することにより製造することができる。
この場合、必要に応じて加熱することもできる。加熱温度としては、使用する組成物、基材及び目的等に応じて適宜設定すれば良いが、30〜80℃が好ましい。
【0056】
本発明の組成物は、プラスチックフィルム等同士の接着、プラスチックフィルム等とこれ以外の種々の基材(以下、その他基材という)の接着に使用することができる。
尚、以下において、単に「基材」と表記した場合は、プラスチックフィルム等及びその他基材の総称を意味する。
その他基材としては、紙及び金属等が挙げられる。
使用方法としては、常法に従えば良く、基材に塗布した後、もう一方の基材と貼り合せ、活性エネルギー線を照射する方法等が挙げられる。
【0057】
プラスチックフィルム等における材質としては、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン、セルロース系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート、アクリル/スチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。
紙としては、模造紙、上質紙、クラフト紙、アートコート紙、キャスターコート紙、純白ロール紙、パーチメント紙、耐水紙、グラシン紙及び段ボール紙等が挙げられる。
金属箔としては、例えばアルミニウム箔等が挙げられる。
【0058】
基材に対する塗工は、従来知られている方法に従えばよく、ナチュラルコーター、ナイフベルトコーター、フローティングナイフ、ナイフオーバーロール、ナイフオンブランケット、スプレー、ディップ、キスロール、スクイーズロール、リバースロール、エアブレード、カーテンフローコーター、コンマコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ダイコーター及びカーテンコーター等の方法が挙げられる。
又、本発明の組成物の塗布厚さは、使用する基材及び用途に応じて選択すればよいが、好ましくは0.1〜100μmであり、より好ましくは1〜25μmである。
【0059】
活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、X線及び電子線等が挙げられるが、安価な装置を使用することができるため、紫外線が好ましい。
紫外線により硬化させる場合の光源としては、様々のものを使用することができ、例えば加圧或いは高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、無電極放電ランプ、カーボンアーク灯及びLED等が挙げられる。
電子線により硬化させる場合には、使用できるEB照射装置としては種々の装置が使用でき、例えばコックロフトワルトシン型、バンデグラフ型及び共振変圧器型の装置等が挙げられ、電子線としては50〜1000eVのエネルギーを持つものが好ましく、より好ましくは100〜300eVである。
【0060】
本発明の組成物は、基材として薄層被着体を接着する場合に好適である。
薄層被着体を接着する場合の使用方法は、ラミネートの製造において通常行われている方法に従えばよい。
例えば、組成物を第1の薄層被着体に塗工し、必要に応じて乾燥させた後、これに第2の薄層被着体を貼り合わせ、活性エネルギー線の照射を行う方法等が挙げられる。
【0061】
薄層被着体としては、プラスチックフィルム等、紙又は金属箔等が挙げられる。
プラスチックフィルム等は、活性エネルギー線を透過できるものである必要があり、膜厚としては使用する薄層被着体及び用途に応じて選択すればよいが、好ましくは厚さが0.5mm以下である。
【0062】
本発明の組成物は、これら薄層被着体の中でも、プラスチックフィルム等同士の接着に好適に用いられ、さらに親水性プラスチックに好適に用いることができる。
親水性プラスチックとしては、具体的には、水酸基やカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、アミノ基及びアミド結合等の親水性部位を含有するポリマーを成形加工して製造されるプラスチックを挙げることができる。親水性部位を含有するポリマーの好ましい例としては、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース、ポリビニルアセタール及びポリアミド等を挙げることができる。ポリビニルアルコールとしては、さらに一部がブチラール化されたものも使用することができる。
又、親水性部位を有しないポリマーを成形加工した後に、親水性処理をしたものも使用することができる。具体的には、親水性部位を有しないポリマーを、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理及び親水性部位含有ポリマーのプライマー処理等により親水性基を導入したプラスチック等が挙げられる。好ましい具体例としては、ポリアミドでプライマー処理されたポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。
親水性プラスチックとしては、親水性部位を含有するポリマーを成形加工して製造されるプラスチックが好ましく、より好ましくは親水性部位を含有するポリマーとしてポリビニルアルコール及びトリアセチルセルロースを使用したものである。
【0063】
又、被着体を接着する前に、層間接着力を大きくするために一方又は両方の表面に活性化処理を行うことができる。表面活性化処理としてはプラズマ処理、コロナ放電処理、薬液処理、粗面化処理及びエッチング処理、火炎処理等が挙げられ、これらを併用してもよい。
【0064】
薄層被着体に対する塗工は、従来知られている方法に従えばよく、前記と同様の方法が挙げられる。
又、本発明の組成物の塗布厚さは、使用する薄層被着体及び用途に応じて選択すればよいが、前記と同様の塗布厚さが好ましい。
【0065】
本発明の組成物から得られたラミネートフィルム等は、高温及び高湿条件下における接着力に優れているため、液晶表示装置等に用いる偏光板及び保護フィルム、位相差フィルム等の光学フィルムに好適に使用できる。
本発明の組成物は、特に偏光板及び位相差フィルム付偏光板の製造に好ましく使用することができる。以下、偏光板の製造方法について説明する。
【0066】
尚、本明細書においては、偏光子とは後述する偏光機能を持つフィルム又は膜のことを表し、偏光板とは偏光子の片側あるいは両側をフィルム又は膜で保護した、保護層付き偏光子のことを表す。又、位相差フィルム付偏光板とは、偏光子又は偏光板に位相差フィルムを貼合するか、あるいはコーティングにより位相差機能を有する膜を形成したものを表す。
【0067】
7−1.偏光板の製造方法
前記した通り、本発明の組成物は、親水性プラスチックの接着に好ましく使用でき、偏光板の製造においては、偏光子として使用するポリビニルアルコール、偏光子の保護フィルムとして使用するトリアセチルセルロースが親水性プラスチックに相当する。
【0068】
本発明の組成物は、偏光子と保護フィルムの接着や偏光板と位相差フィルムの接着に使用することができる。
【0069】
偏光子とは、自然光からある一方向の直線偏光を選択的に透過する機能を有するものである。
偏光子の具体例としては、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着、配向させたヨウ素系偏光子、ポリビニルアルコール系フィルムに二色性の染料を吸着、配向させた染料系偏光子、(リオトロピック)液晶状態の色素をコーティングし、配向、固定化した塗布型偏光子等が挙げられる。
これら、ヨウ素系偏光子、染料系偏光子、塗布型偏光子は、自然光からある一方向の直線偏光を選択的に透過し、他の一方向の直線偏光を吸収する機能を有するもので、吸収型偏光子と呼ばれている。
【0070】
上記ヨウ素系偏光子及び染料系偏光子では、通常、その片面又は両面に保護層を設けるが、本発明の組成物は、偏光子と保護フィルムの接着に使用することができる。
【0071】
保護層で使用する保護フィルムとして、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなセルロースアセテート樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリエステル樹脂フィルム、ポリアリレート樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン樹脂フィルム、ノルボルネンのような環状オレフィンをモノマーとする環状ポリオレフィン樹脂フィルム等が挙げられる。
【0072】
次に、本発明の組成物は、偏光板と位相差フィルムの接着に使用することもできる。
この場合、偏光板としては、その片面又は両面に保護層を有するものを使用することができる。
この場合、保護層としては、前記保護フィルムを貼合したものでも、コーティングによって形成された保護膜であっても良い。
片面にのみ保護層を設けた偏光板は、位相差フィルムと接着する面が、保護層のある面であっても、保護層のない面であっても良い。
【0073】
位相差フィルムとしては、種々のものが使用でき、一軸又は二軸延伸等の加工が施された光学用フィルム、ないしは液晶性の化合物等を基材に塗布し、配向、固定化の加工をした光学用フィルム等が挙げられ、三次元屈折率の大小関係(屈折率楕円体)を使用条件に合わせて制御したものである。主に、液晶ディスプレイの液晶層の着色による補償や視野角による位相差の変化を補償するために用いられる。
【0074】
位相差フィルムの具体例を挙げると、延伸等の加工が施される光学フィルムの素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンのようなポリオレフィンや、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアリレート及びポリアミド等が例示できる。
前記した環状ポリオレフィンは、ノルボルネン、テトラシクロドデセンや、それらの誘導体等の環状オレフィンから得られる樹脂の一般的な総称であり、たとえば、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報等に記載されているものが挙げられる。
具体的には環状オレフィンの開環重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα−オレフィンとのランダム共重合体、又これらを不飽和カルボン酸やその誘導体等で変性したグラフト変性体等が例示できる。さらには、これらの水素化物があげられる。商品としては、日本ゼオン(株)製のゼオネックス、ゼオノア、JSR(株)製のアートン、TICONA社製のトーパス等が挙げられる。
【0075】
又、液晶性の化合物等を基材に塗布し、配向、固定化の加工をした光学用フィルムとしては、“WVフィルム”〔富士写真フイルム(株)〕、“LCフィルム”、“NHフィルム”(いずれも新日本石油(株)製〕等が挙げられる。
【0076】
本発明の組成物を使用して、偏光板又は位相差フィルム付偏光板の製造方法について説明する。
当該製造方法としては、下記工程[1]〜[3]を含む方法が挙げられる。
[1]本発明の組成物を、被着体となる偏光子、偏光板、保護フィルム、保護膜、位相差フィルム、位相差膜のいずれかに塗工する工程
[2]前記組成物を塗工したフィルムに、もう一方の被着体となる偏光子、偏光板、保護フィルム、保護膜、位相差フィルム、位相差膜のいずれかを貼り合わせる工程
[3]フィルムを貼り合わせた後、本発明の組成物の塗布された基材越しに活性エネルギー線を照射する工程
保護フィルム又は位相差フィルムを片側だけに貼合する場合は、上記手順により偏光板又は位相差フィルム付偏光板を製造可能であるが、両側に貼合する場合は、工程[1]及び[2]を2回繰り返した後に工程[3]を実施しても良いし、工程[1]、[2]及び[3]を2回繰り返しても良い。
【0077】
前記工程[1]における塗工方法、前記工程[3]における活性エネルギー線照射方法は、前記と同様の方法で行えば良い。
【0078】
位相差フィルム付偏光板を円偏光板として使用する場合、広帯域に渡り円偏光状態にするためには、位相差フィルム付偏光板の位相差フィルム側に、位相差の異なる位相差フィルムをさらに貼り合せることもできる。
具体的には、偏光フィルムに対して、各波長に対して1/2波長を有する位相差フィルムを貼り合せ、さらに各波長に対して1/4波長を有する位相差フィルムを貼り合せる方法がある。この場合は、工程[1]及び[2]を3回繰り返した後に工程[3]を実施しても良いし、工程[1]、[2]及び[3]を3回繰り返しても良い。
【実施例】
【0079】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。尚、以下の各例における「部」は重量%を意味する。
【0080】
○実施例1〜同8、比較例1〜同8
下記表1に示す(A)〜(G)成分を、60℃で1時間加熱撹拌して溶解させ、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を製造した。
【0081】
得られた組成物を、下記の試験方法に従い評価した。それらの結果を表2に示す。
(25℃粘度)
E型粘度計を用いて、25℃における活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の粘度を測定した。さらに配合から1週間後の粘度を測定し、経時変化を確認した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1における数字は部数を意味する。又、表1における略号は、下記の通りである。
1)(A)成分
・KY−303:ポリエーテル系ウレタンアクリレート、Mw:15,000、根上工業(株)製、商品名アートレジンKY−303
・M−1600:ポリエーテル系ウレタンアクリレート、Mw:3,000、東亞合成(株)製、商品名アロニックスM−1600
・OT−1001:ポリエステル系ウレタンアクリレート、Mw:40,000、東亞合成(株)製、商品名アロニックスOT−1001
【0084】
2)(B)成分
・MAA:メタクリル酸、三菱瓦斯化学(株)製GE−110
【0085】
3)(C)成分
・P−2M:2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、共栄社化学(株)製 ライトエステルP−2M
【0086】
4)(D)成分
・IBXA:イソボルニルアクリレート、共栄社化学(株)製 ライトアクリレートIB−XA
・FA−513AS:ジシクロペンタニルアクリレート、日立化成工業(株)製 FA−513AS
【0087】
5)(E)成分
・Irg819:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、BASF製 IRGACURE819
・TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、BASF製 DAROCUR TPO
・Irg184:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、BASF製 IRGACURE184
6)(F)成分
・HPA:2−ヒドロキシプロピルアクリレート、共栄社化学(株)製ライトエステルHOP−A
・#190:2−(エトキシエトキシ)エチルアクリレート、大阪有機化学工業(株)製 ビスコート190
・HBA:2−ヒドロキシブチルアクリレート、共栄社化学(株)製ライトアクリレートHOB−A
・POA:フェノキシエチルアクリレート、共栄社化学(株)製ライトアクリレートPO−A
・THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート、共栄社化学(株)製ライトアクリレートTHF−A
【0088】
6)(G)成分
・AO−80:3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、(株)アデカ製 アデカスタブAO−80
・3010:亜リン酸トリイソデシル、(株)アデカ製 アデカスタブ3010
【0089】
【表2】

【0090】
(偏光板製造のモデル実験)
偏光板製造のため、親水性プラスチックである偏光子及び保護層を接着することを想定し、接着試験の基材として東レ(株)製 PETフィルム U34(50μm)を用いて、以下のモデル実験を行った。
フィルム上に前記で得られた組成物をバーコーターにより25μmの厚みに塗布した。これに、U34をラミネートした後、160W/cm集光型のメタルハライドランプ(焦点距離から30cm)を用いて、コンベアスピ−ド5m/minで硬化させ、試験体であるラミネートフィルムを製造した。紫外線強度は150mW/cm2、積算光量は400mJ/cm2であった(いずれも365nmでの値)。
【0091】
得られた試験体を、室温で30分以上放置した後、下記の条件で剥離強度を引張試験機(インストロンジャパンカンパニーリミテッド製インストロン5564)により測定した。
・試験片:25mm×100mm
・試験方法:T字剥離
・剥離速度:200mm/min
次に得られた試験体を、下記条件で高温試験及び高湿試験を行った後、上記と同様の方法及び条件で剥離強度を測定した。
・高温試験後:85℃で96時間
・高湿試験後:60℃、90%RHで96時間
以上の結果を表2に示す。
【0092】
本発明の組成物は、初期接着強度に優れ、高温試験後及び高湿試験後の接着強度も優れるものであった。
比較例1〜同4の組成物は、初期接着強度、高湿試験後の接着強度のどちらも低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の組成物は、各種プラスチックフィルム等の接着剤として、中でも親水性プラスチック等の接着剤として使用することができ、特に液晶表示装置等の光学フィルムの製造、特に偏光板の接製造に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(E)成分を含むプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
(A)ウレタン(メタ)アクリレート
(B)カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を有する化合物
(C)リン酸基及びエチレン性不飽和基を有する化合物
(D)脂肪族基又は脂環式骨格及びエチレン性不飽和基を有する化合物
(E)光ラジカル重合開始剤
【請求項2】
前記(A)〜(E)成分を下記の割合で含む請求項1記載のプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
(A)成分:硬化性成分中に10〜70重量%
(B)成分:硬化性成分中に3〜30重量%
(C)成分:硬化性成分中に0.1〜15重量%
(D)成分:硬化性成分中に5〜45重量%
(E)成分:硬化性成分合計量100重量部に対して0.1〜20重量部
尚、硬化性成分とは、組成物が前記(A)〜(E)成分のみを含む場合は、(A)〜(D)成分を意味し、(A)〜(E)成分に加え後記(F)成分を含む場合は、(A)〜(D)及び(F)成分を意味する。
【請求項3】
(A)成分が、2個の(メタ)アクリロイル基を有し、ポリエーテル骨格を有し、さらに重量平均分子量が3,000〜40,000である化合物である請求項1又は請求項2に記載のプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項4】
(B)成分が、1個のエチレン性不飽和基と1個のカルボキシル基を有する化合物を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項5】
(B)成分が、(メタ)アクリル酸である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項6】
(C)成分が、2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェートである請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項7】
(D)成分が、脂環式骨格及びエチレン性不飽和基を有する化合物である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項8】
さらに、前記(A)〜(D)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物(F)を含む請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項9】
プラスチック製フィルム又はシートのいずれか一方又は両方が親水性プラスチックである請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項10】
プラスチック製フィルム又はシートがポリビニルアルコール系樹脂である請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のプラスチック製フィルム又はシート用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の組成物からなる偏光板製造用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。

【公開番号】特開2012−162652(P2012−162652A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24293(P2011−24293)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】