プラスチック製光学素子の反射防止膜及びプラスチック製光学素子
【課題】密着性及び耐候性を向上させたプラスチック製光学素子用の反射防止膜、及びこの反射防止膜をコーティングしたプラスチック製光学素子を提供する。
【解決手段】
反射防止膜12は、プラスチック基材11にコーティングされる反射防止膜であり、低屈折率層14及び高屈折率層15からなる多層薄膜と、緩衝層13とからなる。緩衝層13は、プラスチック基材11の表面に直接接する第1層として、プラスチック基材11と低屈折率層14(及び高屈折率層15からなる多層薄膜)との間に設けられ、プラスチック基材11と低屈折率層14(及び高屈折率層15)の間に生じる熱膨張によるギャップを緩和する。
【解決手段】
反射防止膜12は、プラスチック基材11にコーティングされる反射防止膜であり、低屈折率層14及び高屈折率層15からなる多層薄膜と、緩衝層13とからなる。緩衝層13は、プラスチック基材11の表面に直接接する第1層として、プラスチック基材11と低屈折率層14(及び高屈折率層15からなる多層薄膜)との間に設けられ、プラスチック基材11と低屈折率層14(及び高屈折率層15)の間に生じる熱膨張によるギャップを緩和する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製光学素子に用いる反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズやミラー、プリズム等の光学素子の素材として、ガラス材料の代わりにプラスチック材料が多く用いられている。これは、プラスチック材料がガラス材料より容易に所望形状に成型可能であること、安価であること、軽量であること等が理由である。プラスチック材料にはこうした利点があるものの、表面反射が大きいという欠点はガラス材料と同様である。このため、プラスチック製光学素子はガラス製光学素子と同様に、表面に反射防止膜をコーティングすることにより、表面反射を抑えるようにしている。
【0003】
ガラス製光学素子では様々な物質を用いて反射防止膜を形成する例が知られている。しかし、プラスチック材料はガラス材料に比べて耐熱性が低いので、高温(例えば300〜400℃)での蒸着が要求される材料を用いる場合等、ガラス製光学素子と同様の材料からなる反射防止膜を設けることができない場合がある。
【0004】
低温で蒸着することにより、ガラス製光学素子の反射防止膜と同様の反射防止膜をプラスチック製光学素子にも成膜することも可能である。しかし、低温で成膜されたガラス製光学素子用の反射防止膜は、プラスチック材料への密着性が悪く、剥がれやすい等の問題がある。このため、二酸化ケイ素(SiO2)や、一酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO2)の混合物等、プラスチック基材との密着性を向上させる層をプラスチック基材側の第1層に設けた反射防止膜が知られている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−166901号公報
【特許文献2】特開平2−55302号公報
【特許文献3】特開昭63−220102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、車載カメラ等、温度変化の大きい環境下で使用されるデジタルカメラのレンズ等にもプラスチック材料が用いられるようになっている。また、携帯電話機等、デジタルカメラが搭載された携帯機器も普及しているが、こうしたデジタルカメラ搭載携帯機器も炎天下の自動車内に置き忘れる等によって極めて過酷な温度環境にさらされる可能性がある。
【0007】
こうした厳しい温度環境で使用される可能性がある光学機器の光学素子としてプラスチック製光学素子を用いる場合、基材となるプラスチック材料に耐熱性が要求されるだけでなく、ヒートサイクルが繰り返されても膜剥がれが生じたり、クラックを生じたりせずに安定した光学特性を維持できる反射防止膜をコーティングすることが求められる。
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3等に記載されているように、プラスチック基材に接する第1層として二酸化ケイ素や一酸化ケイ素等を用いることによって密着性を高めた反射防止膜は、前述のような過酷な温度環境に至るヒートサイクルが繰り返されると、膜剥がれやクラックを生じてしまうという問題がある。
【0009】
従来の低解像度のデジタルカメラでは、多少の膜剥がれやクラックが生じても、もともと低解像度であるために画質にはそれほどの影響がなかったが、近年では車載カメラや携帯機器搭載のデジタルカメラも高解像度化が進み、反射防止膜にわずかでも膜剥がれやクラックが生じるとその影響が撮影画像の劣化として顕著に現れるようになってきている。このため、反射防止膜は、より密着性が良く、より高温に至るヒートサイクルを繰り返しても膜剥がれやクラックが生じないような高い耐候性が求められている。
【0010】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、密着性及び耐候性を向上させたプラスチック製光学素子用の反射防止膜、及びこの反射防止膜をコーティングしたプラスチック製光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の反射防止膜は、プラスチック製の基材上に屈折率が異なる複数の材料を積層して形成された多層薄膜と、前記基材の表面に直接接する第1層として前記基材と前記多層薄膜との間に設けられ、前記基材と前記多層薄膜との間に生じる熱膨張によるギャップを緩和する緩衝層と、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記緩衝層は、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化セリウムのうちいずれか1種の材料からなることが好ましい。
【0013】
前記緩衝層は、酸化ビスマスからなることが特に好ましい。
【0014】
使用する光の波長をλとするときに、前記緩衝層の物理膜厚が、10nm以上であり、光学膜厚がλ/2以下の範囲内であることが好ましい。
【0015】
前記緩衝層はイオンアシスト蒸着法によって成膜されたものであることが好ましい。
【0016】
前記基材は、線膨張係数が10−4/℃以下であることが好ましい。
【0017】
前記第1層上に成膜する第2層として二酸化ケイ素からなる低屈折率層と、前記第2層上に成膜される第3層として酸化タンタルからなる高屈折率層と、前記第3層上に成膜される第4層として二酸化ケイ素からなる低屈折率層と、を備えることが好ましい。
【0018】
本発明のプラスチック製光学素子は、上述の反射防止膜を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、密着性及び耐候性を向上させたプラスチック製光学素子用の反射防止膜、及びこの反射防止膜をコーティングしたプラスチック製光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】プラスチック製光学素子用の反射防止膜の構成を示す説明図である。
【図2】イオンアシスト蒸着法によって成膜可能な蒸着装置の構成例を示す説明図である。
【図3】イオンアシスト蒸着法によって作製した緩衝層による吸収率を示すグラフである。
【図4】サンプルの反射率を示すグラフである。
【図5】イオンアシスト蒸着法によらずに作製した緩衝層による吸収率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、プラスチック製レンズ10は、プラスチック基材11と反射防止膜12を備える。
【0022】
プラスチック基材11は、光学素子として使用可能な透明性を有するとともに、100℃程度に加熱しても変質や変形が生じない耐熱性プラスチックである。プラスチック基材11は、例えば、シクロオレフィン系ポリマー樹脂や、ポリカーボネート樹脂からなる。プラスチック基材11の線膨張係数は5〜7×10−5(/℃)であり、典型的なガラス材料の線膨張係数(10−6/℃)よりも1桁程度大きいが、樹脂材料の中では線膨張係数が小さい部類に属する。プラスチック基材11として用いる樹脂材料は任意であるが、ヒートサイクルの繰り返しによる反射防止膜12の膜剥がれやクラックを防止するためには、線膨張係数が1.00×10−5〜9.99×10−5以下であることが好ましい。プラスチック基材11は、レンズ形状に成型されているとともに、レンズとして使用可能な透明性及び表面加工が施されている。
【0023】
反射防止膜12は、緩衝層13と、低屈折率層14、高屈折率層15を有する。
【0024】
緩衝層13は、反射防止膜12を構成する各層の中で最もプラスチック基材11側に位置し、プラスチック基材11の表面上に成膜され、反射防止膜12の第1層である。緩衝層13は、プラスチック基材11への反射防止膜12の密着性を高める。さらに、緩衝層13は、プラスチック製レンズ10の加熱/冷却されるときに、プラスチック基材11と緩衝層13の上に積層される低屈折率層14及び高屈折率層15との間に生じる膨張量/収縮量のギャップを緩和する。したがって、緩衝層13は、プラスチック製レンズ10及び反射防止膜12の耐候性、すなわちヒートサイクルに対する耐久性を向上させる。
【0025】
緩衝層13としては、例えば、酸化ビスマス(Bi2O3)、酸化タングステン(WO3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)等を用いることができる。なかでも、密着性及び耐候性が良く、かつ、良好な反射防止特性を得やすいため、緩衝層13は酸化ビスマスで形成することが特に好ましい。
【0026】
緩衝層13が薄すぎると反射防止特性が良好な反射防止膜12が得られやすいが、緩衝層13による耐候性向上効果が減少し、プラスチック製レンズ10がヒートサイクルにさらされると反射防止膜12に膜剥がれやクラックが生じやすくなる。一方、緩衝層13が厚すぎると、耐候性が良好な反射防止膜12が得られやすくなるが、緩衝層13とそれ以外の層(低屈折率層14及び高屈折率層15)との間での干渉作用が大きくなり過ぎるために、低屈折率層14や高屈折率層15の膜厚を調節しても良好な光学特性が得られなくなる。したがって、密着性、耐候性、反射防止特性をバランス良く良好にするために、緩衝層13として使用する材料や成膜方法、成膜条件等に応じて異なるが、緩衝層13の物理膜厚は概ね以下のように決定すれば良い。
【0027】
緩衝層13の好適な物理膜厚は、少なくとも10nm以上あることが好ましい。干渉層13の厚さが10nm以上あれば、良好な密着性及び耐候性が得られる。また、例えば、プラスチック製レンズ10を可視光の範囲内で使用する場合、可視光の波長帯をλ可視光=380〜750nmとして、その中心波長(550nm程度)を基準とすると、緩衝層13の光学膜厚がλ/2以下であれば良い反射防止特性が得られ、λ/4以下であればより良い反射防止特性が得られ、λ/8以下であれば特に良好な反射防止特性が得られやすい。
【0028】
さらに具体的には、緩衝層13として酸化ビスマスからなる薄膜を用い、かつ、プラスチック製レンズ10を可視光の範囲内で使用する場合、緩衝層13の物理膜厚が10nm以上であり、かつ光学膜厚がλ/2以下であることが好ましく、物理膜厚が10nm以上であり、かつ光学膜厚がλ/4以下の範囲であることがより好ましく、物理膜厚が10nm以上であり、かつ光学膜厚がλ/8以下であることが特に好ましい。
【0029】
低屈折率層14及び高屈折率層15は、緩衝層13上に積層される薄膜であり、緩衝層13を含めて所望の反射防止特性が得られるように、複数交互に積層される。低屈折率層14及び高屈折率層15として用いる材料は、プラスチック製レンズ10を使用する波長帯や、緩衝層13及びプラスチック基材11の材料との相性に応じて任意の材料を用いることができる。例えば、低屈折率層14としては二酸化ケイ素(SiO2)を、高屈折率層15としては酸化タンタル(Ta2O5)を用いることができる。
【0030】
なお、例えば、プラスチック製レンズ11を可視光の波長帯で使用し、第1層の緩衝層13として酸化ビスマスを使用する場合、第2層には二酸化ケイ素からなる低屈折率層14、第3層には酸化タンタルからなる高屈折率層15、第4層には二酸化ケイ素からなる低屈折率層14を設けた4層構造とする。これにより、反射防止膜12として、良好な反射防止特性と、良好な密着性及び耐候性が得られる。
【0031】
上述のように、緩衝層13を設けた反射防止膜12は、プラスチック基材11への密着性及びヒートサイクルに対する耐久性(耐候性)が良好であり、かつ、良好な反射防止特性を兼ね備える。このため、反射防止膜12をコーティングしたプラスチック製レンズ10は、車載カメラ等の過酷な環境下で使用されても、反射防止膜12に膜剥がれやクラックが発生し難い。
【0032】
なお、緩衝層13に好適な前述の材料は、可視光域の一部波長帯の光を吸収することがある。しかし、緩衝層13をイオンアシスト蒸着法により成膜することで、こうした吸収を抑え、より良好な特性の反射防止膜12を製造することができる。
【0033】
図2に示すように、蒸着装置21は、イオンアシスト蒸着法によって薄膜を成膜するための蒸着装置である。蒸着装置21は、真空槽22と、真空槽22内に設けられた基材ホルダ23、坩堝24、イオン源25等から構成される。
【0034】
基材ホルダ23は、プラスチック基材11等、表面に薄膜が成膜される基材を保持する保持部材である。基材ホルダ23は、図示しない移動機構によって坩堝24やイオン源25に対する位置や角度を自在に変更可能になっている。また、基材ホルダ23には、保持したプラスチック基材11を加熱するヒータ27が設けられており、緩衝層13の成膜時にはプラスチック基材11は緩衝層13の成膜に適した所定温度に加熱される。
【0035】
坩堝24は、蒸着材料を保持する保持部材である。坩堝24は複数設けられており、緩衝層13の材料である酸化ビスマスと、低屈折率層14の材料である二酸化ケイ素、高屈折率層15の材料である酸化タンタルがそれぞれ保持される。これらの材料は電子銃(図示しない)から照射される電子ビームによって加熱され、溶融する。溶融された蒸着材料は、坩堝24から飛散し、基材ホルダ23に保持されたプラスチック基材11の表面に堆積される。これにより、プラスチック基材11に飛散させた蒸着材料の薄膜が成膜される。なお、坩堝24から飛散させる蒸着材料は、坩堝24に保持された各材料の中から適宜選択可能である。
【0036】
イオン源25は、イオンビーム26を基材ホルダ23に保持されたプラスチック基材11に向けて照射する。イオンビーム26は、アルゴンや酸素等のガスをイオン化して加速したものであり、坩堝24から飛散する蒸着材料に衝突してエネルギーを供給することにより、プラスチック基材11の表面への蒸着材料の堆積をアシストする。こうしてイオンビーム26を照射しながら成膜する方法がイオンアシスト蒸着法である。
【0037】
イオンビーム26によってアシストしながら蒸着材料を堆積させると、表面がより滑らかな薄膜が成膜される。さらに、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化セリウム等、緩衝層13に好適な蒸着材料をイオンビーム26でアシストしながら成膜する場合、緩衝層13による可視光域の光の吸収が抑えられる。
【0038】
なお、蒸着装置21では、イオン源25からイオンビーム26を照射するか否かは、坩堝23から飛散させる蒸着材料の選択とは別個に、独立して制御可能である。したがって、蒸着装置21では、イオンアシスト蒸着法による成膜と、イオンビーム26の照射を伴わない成膜とを任意に切り替えられる。これにより、イオンアシスト蒸着法によって緩衝層13を成膜した後、続けてイオンビーム26を照射せずに低屈折率層14を成膜することができる。
【0039】
[実施例]
上述の反射防止膜12及びプラスチック製レンズ10の一例として、表1に示す構成の反射防止膜12を、シクロオレフィン系ポリマー樹脂(線膨張率 7×10−5/℃,ガラス転移温度は138℃)からなるプラスチック基材11の表面にコーティングしたサンプルを作製した。
【0040】
【表1】
【0041】
サンプルの反射防止膜12は、プラスチック基材11側から順に第1層〜第4層の順に積層して形成され、第1層は酸化ビスマスからなる緩衝層13であり、第2層及び第4層は低屈折率層14、第3層は高屈折率層15である。また、各層の屈折率nは参照波長λref=505nmに対する屈折率、光学膜厚dは1/4波長光学的厚さ(QWOT)であり、d=4nD/λrefで求められる。Dは物理膜厚(nm)である。なお、第1層の緩衝層13、第2層〜第4層の低屈折率層14及び高屈折率層15は、イオンアシスト蒸着法によって成膜した。
【0042】
図3に示すように、波長500nm以上の波長域において緩衝層13による吸収はほぼ0である。このため、図4に示すように、波長500nm〜700nmの波長域において、反射率が約0.8%以下に低減され、反射防止膜12は良好な反射防止特性を示す。なお、図5に示すように、イオンアシスト蒸着法によらずに緩衝層13を作製した場合、緩衝層13による吸収が大きく、反射防止機能を実現することは難しい。
【0043】
次に、上述のサンプルに対して2種類の耐候性試験を行った。第1の耐候性試験は、まず−40℃雰囲気下に30分置き、次に85℃環境下に30分置くサイクルを1サイクルとして、これを186サイクル繰り返した後に、反射防止膜12の状態を観察する試験である。上述のサンプルでは、第1の耐候性試験によって反射防止膜12に膜剥がれやクラックは生じなかった。
【0044】
第2の耐候性試験は、上述のサンプルを250℃雰囲気下に3時間置いた後、室温(25℃雰囲気)まで自然冷却し、反射防止膜12の状態を観察する試験である。上述のサンプルでは、第2の耐候性試験によって反射防止膜12に膜剥がれやクラックは生じなかった。
【0045】
緩衝層13がない反射防止膜をプラスチック基材11上にコーティングした比較用サンプルAにこれらの耐候性試験を行うと、上述の2種の耐候性試験によっていずれも膜剥がれやクラックを生じた。緩衝層13の代わりに、酸化ケイ素や二酸化ケイ素を第1層とした比較用サンプルBの場合には、比較用サンプルAよりも低減されるものの、上述の2種の耐候性試験によっていずれも膜剥がれやクラックが生じた。これらの結果から、第1層として緩衝層13を設けた反射防止膜12は、比較用サンプルA,Bよりも耐候性が優れていることが分かる。
【0046】
なお、ここではシクロオレフィン系ポリマー樹脂をプラスチック基材11とする上述のサンプルについてのみ反射防止特性及び耐候性試験の結果を示すが、ポリカーボネートをプラスチック基材11とした場合も、上述のサンプルと同様に反射防止膜12は良好な反射防止特性と耐候性を示した。また、緩衝層13の材料として、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化セリウムを用いた場合もほぼ同様の結果であった。さらに、低屈折率層14及び高屈折率層15として他の材料を用いた場合もほぼ同様の結果であった。
【0047】
なお、上述の実施形態では、プラスチック製光学素子としてレンズを例に説明したが、ハーフミラーやプリズム等の他のプラスチック製光学素子にも本発明の反射防止膜を好適に用いることができる。また、プラスチック製レンズ10を車載カメラに搭載することに言及したが、監視カメラや青色光ディスク用の光ピックアップ、プロジェクタの光学系等、耐候性が必要とされる光学機器には本発明の反射防止膜12及びプラスチック製光学素子を好適に用いることができる。
【0048】
なお、上述の実施形態では、反射防止膜12を4層構造とする例を説明したが、低屈折率層14や高屈折率層15の積層数は任意であり、反射防止膜12はさらに多数(少数)の層構造としても良い。
【0049】
なお、上述の実施形態では、プラスチック製光学素子として可視光域で用いるプラスチック製レンズ10を例に挙げたが、プラスチック製レンズ10を用いる波長帯はこれに限らない。より限られた波長帯で用いられる光学素子にも本発明は好適であり、赤外線カメラの反射防止膜に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0050】
10 プラスチック製レンズ
11 プラスチック基材
12 反射防止膜
13 緩衝層
14 低屈折率層
15 高屈折率層
21 蒸着装置
22 真空槽
23 基材ホルダ
24 坩堝
25 イオン源
26 イオンビーム
27 ヒータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製光学素子に用いる反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズやミラー、プリズム等の光学素子の素材として、ガラス材料の代わりにプラスチック材料が多く用いられている。これは、プラスチック材料がガラス材料より容易に所望形状に成型可能であること、安価であること、軽量であること等が理由である。プラスチック材料にはこうした利点があるものの、表面反射が大きいという欠点はガラス材料と同様である。このため、プラスチック製光学素子はガラス製光学素子と同様に、表面に反射防止膜をコーティングすることにより、表面反射を抑えるようにしている。
【0003】
ガラス製光学素子では様々な物質を用いて反射防止膜を形成する例が知られている。しかし、プラスチック材料はガラス材料に比べて耐熱性が低いので、高温(例えば300〜400℃)での蒸着が要求される材料を用いる場合等、ガラス製光学素子と同様の材料からなる反射防止膜を設けることができない場合がある。
【0004】
低温で蒸着することにより、ガラス製光学素子の反射防止膜と同様の反射防止膜をプラスチック製光学素子にも成膜することも可能である。しかし、低温で成膜されたガラス製光学素子用の反射防止膜は、プラスチック材料への密着性が悪く、剥がれやすい等の問題がある。このため、二酸化ケイ素(SiO2)や、一酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO2)の混合物等、プラスチック基材との密着性を向上させる層をプラスチック基材側の第1層に設けた反射防止膜が知られている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−166901号公報
【特許文献2】特開平2−55302号公報
【特許文献3】特開昭63−220102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、車載カメラ等、温度変化の大きい環境下で使用されるデジタルカメラのレンズ等にもプラスチック材料が用いられるようになっている。また、携帯電話機等、デジタルカメラが搭載された携帯機器も普及しているが、こうしたデジタルカメラ搭載携帯機器も炎天下の自動車内に置き忘れる等によって極めて過酷な温度環境にさらされる可能性がある。
【0007】
こうした厳しい温度環境で使用される可能性がある光学機器の光学素子としてプラスチック製光学素子を用いる場合、基材となるプラスチック材料に耐熱性が要求されるだけでなく、ヒートサイクルが繰り返されても膜剥がれが生じたり、クラックを生じたりせずに安定した光学特性を維持できる反射防止膜をコーティングすることが求められる。
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3等に記載されているように、プラスチック基材に接する第1層として二酸化ケイ素や一酸化ケイ素等を用いることによって密着性を高めた反射防止膜は、前述のような過酷な温度環境に至るヒートサイクルが繰り返されると、膜剥がれやクラックを生じてしまうという問題がある。
【0009】
従来の低解像度のデジタルカメラでは、多少の膜剥がれやクラックが生じても、もともと低解像度であるために画質にはそれほどの影響がなかったが、近年では車載カメラや携帯機器搭載のデジタルカメラも高解像度化が進み、反射防止膜にわずかでも膜剥がれやクラックが生じるとその影響が撮影画像の劣化として顕著に現れるようになってきている。このため、反射防止膜は、より密着性が良く、より高温に至るヒートサイクルを繰り返しても膜剥がれやクラックが生じないような高い耐候性が求められている。
【0010】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、密着性及び耐候性を向上させたプラスチック製光学素子用の反射防止膜、及びこの反射防止膜をコーティングしたプラスチック製光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の反射防止膜は、プラスチック製の基材上に屈折率が異なる複数の材料を積層して形成された多層薄膜と、前記基材の表面に直接接する第1層として前記基材と前記多層薄膜との間に設けられ、前記基材と前記多層薄膜との間に生じる熱膨張によるギャップを緩和する緩衝層と、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記緩衝層は、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化セリウムのうちいずれか1種の材料からなることが好ましい。
【0013】
前記緩衝層は、酸化ビスマスからなることが特に好ましい。
【0014】
使用する光の波長をλとするときに、前記緩衝層の物理膜厚が、10nm以上であり、光学膜厚がλ/2以下の範囲内であることが好ましい。
【0015】
前記緩衝層はイオンアシスト蒸着法によって成膜されたものであることが好ましい。
【0016】
前記基材は、線膨張係数が10−4/℃以下であることが好ましい。
【0017】
前記第1層上に成膜する第2層として二酸化ケイ素からなる低屈折率層と、前記第2層上に成膜される第3層として酸化タンタルからなる高屈折率層と、前記第3層上に成膜される第4層として二酸化ケイ素からなる低屈折率層と、を備えることが好ましい。
【0018】
本発明のプラスチック製光学素子は、上述の反射防止膜を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、密着性及び耐候性を向上させたプラスチック製光学素子用の反射防止膜、及びこの反射防止膜をコーティングしたプラスチック製光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】プラスチック製光学素子用の反射防止膜の構成を示す説明図である。
【図2】イオンアシスト蒸着法によって成膜可能な蒸着装置の構成例を示す説明図である。
【図3】イオンアシスト蒸着法によって作製した緩衝層による吸収率を示すグラフである。
【図4】サンプルの反射率を示すグラフである。
【図5】イオンアシスト蒸着法によらずに作製した緩衝層による吸収率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、プラスチック製レンズ10は、プラスチック基材11と反射防止膜12を備える。
【0022】
プラスチック基材11は、光学素子として使用可能な透明性を有するとともに、100℃程度に加熱しても変質や変形が生じない耐熱性プラスチックである。プラスチック基材11は、例えば、シクロオレフィン系ポリマー樹脂や、ポリカーボネート樹脂からなる。プラスチック基材11の線膨張係数は5〜7×10−5(/℃)であり、典型的なガラス材料の線膨張係数(10−6/℃)よりも1桁程度大きいが、樹脂材料の中では線膨張係数が小さい部類に属する。プラスチック基材11として用いる樹脂材料は任意であるが、ヒートサイクルの繰り返しによる反射防止膜12の膜剥がれやクラックを防止するためには、線膨張係数が1.00×10−5〜9.99×10−5以下であることが好ましい。プラスチック基材11は、レンズ形状に成型されているとともに、レンズとして使用可能な透明性及び表面加工が施されている。
【0023】
反射防止膜12は、緩衝層13と、低屈折率層14、高屈折率層15を有する。
【0024】
緩衝層13は、反射防止膜12を構成する各層の中で最もプラスチック基材11側に位置し、プラスチック基材11の表面上に成膜され、反射防止膜12の第1層である。緩衝層13は、プラスチック基材11への反射防止膜12の密着性を高める。さらに、緩衝層13は、プラスチック製レンズ10の加熱/冷却されるときに、プラスチック基材11と緩衝層13の上に積層される低屈折率層14及び高屈折率層15との間に生じる膨張量/収縮量のギャップを緩和する。したがって、緩衝層13は、プラスチック製レンズ10及び反射防止膜12の耐候性、すなわちヒートサイクルに対する耐久性を向上させる。
【0025】
緩衝層13としては、例えば、酸化ビスマス(Bi2O3)、酸化タングステン(WO3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)等を用いることができる。なかでも、密着性及び耐候性が良く、かつ、良好な反射防止特性を得やすいため、緩衝層13は酸化ビスマスで形成することが特に好ましい。
【0026】
緩衝層13が薄すぎると反射防止特性が良好な反射防止膜12が得られやすいが、緩衝層13による耐候性向上効果が減少し、プラスチック製レンズ10がヒートサイクルにさらされると反射防止膜12に膜剥がれやクラックが生じやすくなる。一方、緩衝層13が厚すぎると、耐候性が良好な反射防止膜12が得られやすくなるが、緩衝層13とそれ以外の層(低屈折率層14及び高屈折率層15)との間での干渉作用が大きくなり過ぎるために、低屈折率層14や高屈折率層15の膜厚を調節しても良好な光学特性が得られなくなる。したがって、密着性、耐候性、反射防止特性をバランス良く良好にするために、緩衝層13として使用する材料や成膜方法、成膜条件等に応じて異なるが、緩衝層13の物理膜厚は概ね以下のように決定すれば良い。
【0027】
緩衝層13の好適な物理膜厚は、少なくとも10nm以上あることが好ましい。干渉層13の厚さが10nm以上あれば、良好な密着性及び耐候性が得られる。また、例えば、プラスチック製レンズ10を可視光の範囲内で使用する場合、可視光の波長帯をλ可視光=380〜750nmとして、その中心波長(550nm程度)を基準とすると、緩衝層13の光学膜厚がλ/2以下であれば良い反射防止特性が得られ、λ/4以下であればより良い反射防止特性が得られ、λ/8以下であれば特に良好な反射防止特性が得られやすい。
【0028】
さらに具体的には、緩衝層13として酸化ビスマスからなる薄膜を用い、かつ、プラスチック製レンズ10を可視光の範囲内で使用する場合、緩衝層13の物理膜厚が10nm以上であり、かつ光学膜厚がλ/2以下であることが好ましく、物理膜厚が10nm以上であり、かつ光学膜厚がλ/4以下の範囲であることがより好ましく、物理膜厚が10nm以上であり、かつ光学膜厚がλ/8以下であることが特に好ましい。
【0029】
低屈折率層14及び高屈折率層15は、緩衝層13上に積層される薄膜であり、緩衝層13を含めて所望の反射防止特性が得られるように、複数交互に積層される。低屈折率層14及び高屈折率層15として用いる材料は、プラスチック製レンズ10を使用する波長帯や、緩衝層13及びプラスチック基材11の材料との相性に応じて任意の材料を用いることができる。例えば、低屈折率層14としては二酸化ケイ素(SiO2)を、高屈折率層15としては酸化タンタル(Ta2O5)を用いることができる。
【0030】
なお、例えば、プラスチック製レンズ11を可視光の波長帯で使用し、第1層の緩衝層13として酸化ビスマスを使用する場合、第2層には二酸化ケイ素からなる低屈折率層14、第3層には酸化タンタルからなる高屈折率層15、第4層には二酸化ケイ素からなる低屈折率層14を設けた4層構造とする。これにより、反射防止膜12として、良好な反射防止特性と、良好な密着性及び耐候性が得られる。
【0031】
上述のように、緩衝層13を設けた反射防止膜12は、プラスチック基材11への密着性及びヒートサイクルに対する耐久性(耐候性)が良好であり、かつ、良好な反射防止特性を兼ね備える。このため、反射防止膜12をコーティングしたプラスチック製レンズ10は、車載カメラ等の過酷な環境下で使用されても、反射防止膜12に膜剥がれやクラックが発生し難い。
【0032】
なお、緩衝層13に好適な前述の材料は、可視光域の一部波長帯の光を吸収することがある。しかし、緩衝層13をイオンアシスト蒸着法により成膜することで、こうした吸収を抑え、より良好な特性の反射防止膜12を製造することができる。
【0033】
図2に示すように、蒸着装置21は、イオンアシスト蒸着法によって薄膜を成膜するための蒸着装置である。蒸着装置21は、真空槽22と、真空槽22内に設けられた基材ホルダ23、坩堝24、イオン源25等から構成される。
【0034】
基材ホルダ23は、プラスチック基材11等、表面に薄膜が成膜される基材を保持する保持部材である。基材ホルダ23は、図示しない移動機構によって坩堝24やイオン源25に対する位置や角度を自在に変更可能になっている。また、基材ホルダ23には、保持したプラスチック基材11を加熱するヒータ27が設けられており、緩衝層13の成膜時にはプラスチック基材11は緩衝層13の成膜に適した所定温度に加熱される。
【0035】
坩堝24は、蒸着材料を保持する保持部材である。坩堝24は複数設けられており、緩衝層13の材料である酸化ビスマスと、低屈折率層14の材料である二酸化ケイ素、高屈折率層15の材料である酸化タンタルがそれぞれ保持される。これらの材料は電子銃(図示しない)から照射される電子ビームによって加熱され、溶融する。溶融された蒸着材料は、坩堝24から飛散し、基材ホルダ23に保持されたプラスチック基材11の表面に堆積される。これにより、プラスチック基材11に飛散させた蒸着材料の薄膜が成膜される。なお、坩堝24から飛散させる蒸着材料は、坩堝24に保持された各材料の中から適宜選択可能である。
【0036】
イオン源25は、イオンビーム26を基材ホルダ23に保持されたプラスチック基材11に向けて照射する。イオンビーム26は、アルゴンや酸素等のガスをイオン化して加速したものであり、坩堝24から飛散する蒸着材料に衝突してエネルギーを供給することにより、プラスチック基材11の表面への蒸着材料の堆積をアシストする。こうしてイオンビーム26を照射しながら成膜する方法がイオンアシスト蒸着法である。
【0037】
イオンビーム26によってアシストしながら蒸着材料を堆積させると、表面がより滑らかな薄膜が成膜される。さらに、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化セリウム等、緩衝層13に好適な蒸着材料をイオンビーム26でアシストしながら成膜する場合、緩衝層13による可視光域の光の吸収が抑えられる。
【0038】
なお、蒸着装置21では、イオン源25からイオンビーム26を照射するか否かは、坩堝23から飛散させる蒸着材料の選択とは別個に、独立して制御可能である。したがって、蒸着装置21では、イオンアシスト蒸着法による成膜と、イオンビーム26の照射を伴わない成膜とを任意に切り替えられる。これにより、イオンアシスト蒸着法によって緩衝層13を成膜した後、続けてイオンビーム26を照射せずに低屈折率層14を成膜することができる。
【0039】
[実施例]
上述の反射防止膜12及びプラスチック製レンズ10の一例として、表1に示す構成の反射防止膜12を、シクロオレフィン系ポリマー樹脂(線膨張率 7×10−5/℃,ガラス転移温度は138℃)からなるプラスチック基材11の表面にコーティングしたサンプルを作製した。
【0040】
【表1】
【0041】
サンプルの反射防止膜12は、プラスチック基材11側から順に第1層〜第4層の順に積層して形成され、第1層は酸化ビスマスからなる緩衝層13であり、第2層及び第4層は低屈折率層14、第3層は高屈折率層15である。また、各層の屈折率nは参照波長λref=505nmに対する屈折率、光学膜厚dは1/4波長光学的厚さ(QWOT)であり、d=4nD/λrefで求められる。Dは物理膜厚(nm)である。なお、第1層の緩衝層13、第2層〜第4層の低屈折率層14及び高屈折率層15は、イオンアシスト蒸着法によって成膜した。
【0042】
図3に示すように、波長500nm以上の波長域において緩衝層13による吸収はほぼ0である。このため、図4に示すように、波長500nm〜700nmの波長域において、反射率が約0.8%以下に低減され、反射防止膜12は良好な反射防止特性を示す。なお、図5に示すように、イオンアシスト蒸着法によらずに緩衝層13を作製した場合、緩衝層13による吸収が大きく、反射防止機能を実現することは難しい。
【0043】
次に、上述のサンプルに対して2種類の耐候性試験を行った。第1の耐候性試験は、まず−40℃雰囲気下に30分置き、次に85℃環境下に30分置くサイクルを1サイクルとして、これを186サイクル繰り返した後に、反射防止膜12の状態を観察する試験である。上述のサンプルでは、第1の耐候性試験によって反射防止膜12に膜剥がれやクラックは生じなかった。
【0044】
第2の耐候性試験は、上述のサンプルを250℃雰囲気下に3時間置いた後、室温(25℃雰囲気)まで自然冷却し、反射防止膜12の状態を観察する試験である。上述のサンプルでは、第2の耐候性試験によって反射防止膜12に膜剥がれやクラックは生じなかった。
【0045】
緩衝層13がない反射防止膜をプラスチック基材11上にコーティングした比較用サンプルAにこれらの耐候性試験を行うと、上述の2種の耐候性試験によっていずれも膜剥がれやクラックを生じた。緩衝層13の代わりに、酸化ケイ素や二酸化ケイ素を第1層とした比較用サンプルBの場合には、比較用サンプルAよりも低減されるものの、上述の2種の耐候性試験によっていずれも膜剥がれやクラックが生じた。これらの結果から、第1層として緩衝層13を設けた反射防止膜12は、比較用サンプルA,Bよりも耐候性が優れていることが分かる。
【0046】
なお、ここではシクロオレフィン系ポリマー樹脂をプラスチック基材11とする上述のサンプルについてのみ反射防止特性及び耐候性試験の結果を示すが、ポリカーボネートをプラスチック基材11とした場合も、上述のサンプルと同様に反射防止膜12は良好な反射防止特性と耐候性を示した。また、緩衝層13の材料として、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化セリウムを用いた場合もほぼ同様の結果であった。さらに、低屈折率層14及び高屈折率層15として他の材料を用いた場合もほぼ同様の結果であった。
【0047】
なお、上述の実施形態では、プラスチック製光学素子としてレンズを例に説明したが、ハーフミラーやプリズム等の他のプラスチック製光学素子にも本発明の反射防止膜を好適に用いることができる。また、プラスチック製レンズ10を車載カメラに搭載することに言及したが、監視カメラや青色光ディスク用の光ピックアップ、プロジェクタの光学系等、耐候性が必要とされる光学機器には本発明の反射防止膜12及びプラスチック製光学素子を好適に用いることができる。
【0048】
なお、上述の実施形態では、反射防止膜12を4層構造とする例を説明したが、低屈折率層14や高屈折率層15の積層数は任意であり、反射防止膜12はさらに多数(少数)の層構造としても良い。
【0049】
なお、上述の実施形態では、プラスチック製光学素子として可視光域で用いるプラスチック製レンズ10を例に挙げたが、プラスチック製レンズ10を用いる波長帯はこれに限らない。より限られた波長帯で用いられる光学素子にも本発明は好適であり、赤外線カメラの反射防止膜に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0050】
10 プラスチック製レンズ
11 プラスチック基材
12 反射防止膜
13 緩衝層
14 低屈折率層
15 高屈折率層
21 蒸着装置
22 真空槽
23 基材ホルダ
24 坩堝
25 イオン源
26 イオンビーム
27 ヒータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製の基材上に屈折率が異なる複数の材料を積層して形成された多層薄膜と、
前記基材の表面に直接接する第1層として前記基材と前記多層薄膜との間に設けられ、前記基材と前記多層薄膜との間に生じる熱膨張によるギャップを緩和する緩衝層と、
を備えることを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
前記緩衝層は、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化セリウムのうちいずれか1種の材料からなることを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
前記緩衝層が酸化ビスマスからなることを特徴とする請求項2に記載の反射防止膜。
【請求項4】
使用する光の波長をλとするときに、前記緩衝層の物理膜厚が10nm以上であり、光学膜厚がλ/2以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射防止膜。
【請求項5】
前記緩衝層はイオンアシスト蒸着法によって成膜されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の反射防止膜。
【請求項6】
前記基材は、線膨張係数が10−4/℃以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の反射防止膜。
【請求項7】
前記第1層上に成膜する第2層として二酸化ケイ素からなる低屈折率層と、
前記第2層上に成膜される第3層として酸化タンタルからなる高屈折率層と、
前記第3層上に成膜される第4層として二酸化ケイ素からなる低屈折率層と、
を備えることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の反射防止膜。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の反射防止膜を備えることを特徴とするプラスチック製光学素子。
【請求項1】
プラスチック製の基材上に屈折率が異なる複数の材料を積層して形成された多層薄膜と、
前記基材の表面に直接接する第1層として前記基材と前記多層薄膜との間に設けられ、前記基材と前記多層薄膜との間に生じる熱膨張によるギャップを緩和する緩衝層と、
を備えることを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
前記緩衝層は、酸化ビスマス、酸化タングステン、酸化イットリウム、酸化セリウムのうちいずれか1種の材料からなることを特徴とする請求項1に記載の反射防止膜。
【請求項3】
前記緩衝層が酸化ビスマスからなることを特徴とする請求項2に記載の反射防止膜。
【請求項4】
使用する光の波長をλとするときに、前記緩衝層の物理膜厚が10nm以上であり、光学膜厚がλ/2以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射防止膜。
【請求項5】
前記緩衝層はイオンアシスト蒸着法によって成膜されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の反射防止膜。
【請求項6】
前記基材は、線膨張係数が10−4/℃以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の反射防止膜。
【請求項7】
前記第1層上に成膜する第2層として二酸化ケイ素からなる低屈折率層と、
前記第2層上に成膜される第3層として酸化タンタルからなる高屈折率層と、
前記第3層上に成膜される第4層として二酸化ケイ素からなる低屈折率層と、
を備えることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の反射防止膜。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の反射防止膜を備えることを特徴とするプラスチック製光学素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−141474(P2012−141474A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76(P2011−76)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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