説明

プラスチック調光レンズ及びこの製造方法

プラスチック調光レンズ用コーティング液組成物及びこれによってコートされたプラスチック調光レンズを開示する。このコーティング液組成物は、トルエン中に溶解されたスピロピラン光可変色化合物及び/またはスピロオキサジン光可変色化合物と、アクリル系バインダーとを含む。このコーティング液組成物でコートされたプラスチック調光レンズは、可変時間が短く、ヘイズ現象が発生せず、プラスチックレンズへの前記コーティング液組成物の付着力及び紫外線遮断率に優れるという利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック調光レンズ(photochromic lens)及びこの製造方法に係り、さらに詳しくは、日光または紫外線に晒されて変色した後、日光または紫外線が遮断されると、無色透明な状態に復帰する可変時間の短いプラスチック調光レンズ及びこの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調光レンズは、室内では無色に近い薄色、紫外線と短波長の可視光線照射量が多い屋外では、濃い濃度の色に変わるレンズであって、最初生産した米国のコーニング社の名を取って「コーニングレンズ」とも命名する。ガラスまたはプラスチックレンズの中に感光性塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)、ヨウ化銀(AgI)などの微細な結晶が分散されていると、紫外線の照射量によって色の濃度が変わる。一方、紫外線の照射を受けると着色し、紫外線の照射を遮断すると本来の無色レンズに戻ることを繰り返し行うレンズを調光レンズという。
【0003】
前記調光レンズは、日光から紫外線を遮断して目の疲労を少なくし白内障を起こすものと知られている有害紫外線(UV−B)から目を保護する役割をし、70%〜80%の日光遮断が可能なので、光照射量の多い夏季または室外ではサングラスの役割も可能であってその使用用途が非常に様々である。
【0004】
最近、光可変色化合物が調光レンズに適用されている。光可変色化合物とは、日光や水銀ランプ光などの紫外線を受けると変色し、光線照射が遮断されるか或いは暗所に蓄えられると、元の状態に戻る可逆的色変化を起こす性質の化合物をいう。これまで様々な類型の光可変色化合物が合成されてきたが、これは一般に構造的類似性がない。初期に本分野で多くの関心を引いてきた光可変色化合物は、下記構造式の1,3,3−トリメチル−インドリノベンゾスピロピラン誘導体である:

【0005】
(式中、R1及びR2は様々な置換体である。)
以後、前記誘導体を補完するための光可変色化合物が様々に紹介された。代表的には、米国特許第4,215,010号及び第4,342,668号に開示されたスピロオキサジン化合物である。その他に、スピロピランまたはナフトピランなどのピラン誘導体、フルギド(fulgide)、アクリドン及びナフタセンキノンなどが公知になっている。
【0006】
従来では、光可変色化合物を眼鏡レンズの製造時に単量体に直接混入させて製造した。ところが、その範疇がガラスレンズにのみ局限され、可変時間が長過ぎて消費者のニーズを満足させるには不十分であった。また、プラスチックレンズに適用された事例があるが、マイクロ波を加熱したり真空状態でコーティングが行われたりするため、工程に難しさが伴う。
【発明の開示】
【0007】
そこで、本発明の目的は、製造が簡便で可変時間が短い新規のプラスチック調光レンズを提供することにある。
本発明者は、特定の割合でスピロピラン系化合物またはスピロオキサジン系化合物またはそれらの組み合わせをトルエンに溶解させた後、ここにアクリル系バインダーを混入させて形成された溶液でプラスチックレンズにコートさせ、熱硬化させることにより、可変時間が短く、ヘイズ(haze)現象が発生しないうえ、コートされたレンズ表面の付着力及び紫外線遮断率に優れたプラスチック調光レンズを開発した。
【0008】
本発明のある観点によれば、コーティング液組成物の100重量%に対し、下記化学式1のスピロピラン化合物または下記化学式2のスピロオキサジン化合物またはこれらの組み合わせ1.5〜5重量%、トルエン60〜65重量%、及び残部アクリル系バインダーからなるプラスチック調光レンズ用コーティング液組成物を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Rは炭素数1〜30のアルキルを示し、
R1は炭素数1〜10のアルキル、アルケニルまたはアルコキシであり、あるいは置換又は非置換のフェニルを示し、
R2〜R5はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン、シアノまたはニトロであり、あるいは炭素数1〜6のアルキルまたはアルコキシを示し、
Xはヒドロキシ、グリシドキシ、アミンまたはジクロロトリオキサジンオキシを示す。)
本発明の他の観点によれば、コーティング液組成物の100重量%に対し、前記化学式1のスピロピラン化合物または前記化学式2のスピロオキサジン化合物またはこれらの組み合わせ1.5〜5重量%、トルエン60〜65重量%、及び残部アクリル系バインダーからなる組成物でコートされたプラスチック調光レンズを提供する。
【0012】
本発明の別の観点によれば、コーティング組成物の100重量%に対し、前記化学式1のスピロピラン化合物または前記化学式2のスピロオキサジン化合物またはこれらの組み合わせ1.5〜5重量%、トルエン60〜65重量%、及び残部アクリル系バインダーからなる組成物をレンズの表面にコートした後、熱硬化させることを含むプラスチック調光レンズの製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の様態】
【0013】
この発明の前記及び他の目的、特徴及びその他の利点は、添付図面を参照する次の説明によって明確に理解されるであろう。
本発明では、光可変色化合物として前記化学式1のスピロピラン化合物または前記化学式2のスピロオキサジン化合物またはこれらの組み合わせを使用する。前記光可変色化合物は公知の化合物であり、例えば、化学式1のスピロピラン化合物は米国特許第5,241,075号に開示されており、化学式2のスピロオキサジン化合物は大韓民国特許出願第1994−0023831号で出発物質として用いられており、この物質は米国特許第4,342,668号に開示されたスピロキサジン化合物から誘導できる。
【0014】
本発明に係る化学式1のスピロピラン化合物と化学式2のスピロオキサジン化合物は、光可変色化合物として個別に使用し或いは共に混合して使用することができ、個別に使用し或いは混合して使用することは、光可変色化合物毎に差異はあるが、所望の色に応じて適切に選択することができる。前記スピロピラン系化合物とスピロオキサジン系化合物は、日光中の紫外線を吸収して紫色、黄色、緑色、茶色、赤色、青色などを示し、紫外線遮断の際に無色透明な色に戻る。
【0015】
本発明に係る光可変色化合物は、トルエンに溶解された状態で混合可能であり、混合したコーティング液は本来の色と異なる色を帯びる。例えば、黄色液と青色液を混合して作ったコーティング液を用いてレンズにコートすると、緑色を帯びる。本発明によって使用されるバインダーはアクリル系バインダーであって、これらは有機、無機のいずれも使用可能であり、且つ有無機複合バインダーも使用可能である。これらのバインダーは、市中で購入して使用してもよく、公知の方法によって直接製造して使用してもよい。
【0016】
通常、光可変色化合物を溶解させるために使用可能な溶剤としては、ヘキサン、キシレン、トルエン、塩化メチレン、エチルアセテート、ブチルアセテートなどの有機溶媒が知られている。ところが、本発明によれば、前記光可変色化合物として化学式1のスピロピラン化合物または化学式2のスピロオキサジン化合物またはこれらの組み合わせを前記溶剤に溶解させたとき、トルエンと塩化メチレンが最も優れた溶解度を示し、光可変色化合物を2つの溶剤に溶解させた後アクリル系バインダーと混合してプラスチックレンズにコートした結果、塩化メチレンの場合はヘイズ(haze)現象を起こすものと明らかになった。したがって、本発明のプラスチックレンズでは、前記溶剤としてトルエンを使用することが最も好ましい。
【0017】
本発明に係る化学式1または化学式2の光可変色化合物がトルエンに溶解されて示される色は、下記表1のとおりである。
【0018】
【表1】

【0019】
本発明によれば、プラスチック調光レンズ用コーティング液組成物は、コーティング液組成物の100重量%に対し、化学式1のスピロピラン化合物または化学式2のスピロオキサジン化合物またはこれらの組み合わせ1.5〜5重量%、トルエン60〜65重量%、及び残部アクリル系バインダーからなる。ここで、前記アクリル系バインダーの含量が低くなると、コーティング層が表面に完全に密着しないため付着力及び硬度に問題が生ずる。一方、前記アクリル系バインダーの含量が高くなると粘度が高くなり、コーティング層が厚くなってコーティング層の表面が不均一であるおそれがある。トルエンは、含量が高くなったときに光可変色化合物をさらに添加しなければ、コーティング時の色の濃度は低くなる。言い換えれば、一定のトルエンに光可変色化合物が最大に溶解可能な含量より少なく投入されると、コーティング時の色の濃度が低くなり、光可変色化合物が最大に溶解可能な含量以上投入されると、トルエン溶液に溶解されないため、溶解されない分だけ底部に沈殿する。
【0020】
本発明に係る化学式1及び/または化学式2の光可変色化合物、トルエン及びアクリル系バインダーからなる溶液をプラスチックレンズにコートする方法は、手作業で直接コーティングを行うか或いはスピンコーティング原理を用いてコートすることができるとともに、広く知られたディップコーティング法またはスプレーコーティング法を用いることができる。
【0021】
本発明に係るプラスチック調光レンズは、プラスチックレンズの表面に前述のコーティング液組成物をコートした後、熱硬化させてプラスチック調光レンズを製造する。ここで、前記プラスチック調光レンズにコートするコーティング液組成物、すなわち光可変色化合物は、熱に弱い特性を持っているので、もし硬化温度が高過ぎる場合には、変わる色の度合いに問題が発生するおそれがあり、硬化温度が低過ぎる場合には、徐々に硬化は行われるが、完全な硬化が行われるまで長い時間がかかるおそれがあり、また完全な硬化が行われなければ、硬度にも問題が生じるおそれがある。したがって、本発明に係る熱硬化温度は、30〜80℃が好ましい。
【0022】
本発明は、下記実施例によりさらに具体的に例示される。ところが、これらの実施例は本発明の具現例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
(実施例1)
トルエン64重量%に下記化学式で表わされる光可変色化合物(ユニテック(株)、大韓民国)3重量%を溶解させた。

【0023】
前記混合溶液にアクリル系有・無機複合バインダー(A9540、エキョン化学製、大韓民国)33重量%を添加して混合し、プラスチック調光レンズ用コーティング液組成物を製造した。
【0024】
(実施例2)
トルエン65重量%に下記化学式で表わされる光可変色化合物の混合物(ユニテック(株)製、大韓民国)5重量%を溶解させた。

【0025】
前記混合溶液にアクリル系有・無機複合ハインダー(A9540、エキョン化学製、大韓民国)30重量%を添加して混合し、プラスチック調光レンズ用コーティング液組成物を製造した。
【0026】
(実施例3)
実施例1で製造されたプラスチック調光レンズ用コーティング液でプラスチック眼鏡レンズの表面にスピンコーティングを行い、80℃の温度で加熱し硬化させて目的のプラスチック調光レンズを製造した。
【0027】
(実施例4)
実施例2に製造されたプラスチック調光レンズ用コーティング液でプラスチック眼鏡レンズの表面にディップコーティングを行い、80℃の温度で加熱し硬化させて目的のプラスチック調光レンズを製造した。
【0028】
(実験例1)
可変時間の試験
実施例3で製造されたプラスチック調光レンズを日光に晒した。この際、前記プラスチック調光レンズは茶色を示した。茶色のプラスチック調光レンズを日光の遮断された室内に移してきたとき、約1分内に透明無色に変わった。
【0029】
(実験例2)
紫外線遮断率の測定
UV/Visスペクトルにより、実施例3で製造されたプラスチック調光レンズの紫外線透過率を測定した。その結果は図1に提示されている。
【0030】
図1のグラフより、本発明のプラスチック調光レンズは紫外線遮断率が99%以上であることが分かる。
(実験例3)
付着力の測定
実施例3で製造されたプラスチック調光レンズの付着力をKS D 6711−92の試験方法によって測定したところ、結果が100/100であった。その結果は、本発明に係るプラスチック調光レンズ用コーティング液組成物でコートされたプラスチック調光レンズの表面付着力が優れることを証明する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
上述したように、本発明のプラスチック調光レンズは、可変時間が短く、ヘイズ現象が発生せず、コートされたプラスチックレンズの表面の硬度及び紫外線遮断率に優れる。
以上、本発明を例示的に記述したが、使用した用語は本発明を限定するためのものでなく、本発明の特徴を説明するために意図されたものと理解されるべきである。本発明の様々な変更及び変形は前記開示された内容に照らして可能である。したがって、添付された請求の範囲から外れない範囲内で、本発明は前述した実施例以外の方式で別に実施できるものと理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るプラスチック調光レンズ用コーティング液組成物でコートされたプラスチック調光レンズのUV/Visスペクトル結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング液組成物の100重量%に対し、下記化学式1のスピロピラン化合物及び/または下記化学式2のスピロオキサジン化合物1.5〜5重量%、トルエン60〜65重量%、及び残部アクリル系バインダーからなるプラスチック調光レンズ用コーティング液組成物。
【化1】

【化2】

(式中、Rは炭素数1〜30のアルキルを示し、
R1は炭素数1〜10のアルキル、アルケニルまたはアルコキシであり、あるいは置換又は非置換のフェニルを示し、
R2〜R5はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン、シアノまたはニトロであり、あるいは炭素数1〜6のアルキルまたはアルコキシを示し、
Xはヒドロキシ、グリシドキシ、アミンまたはジクロロトリオキサジンオキシを示す。)
【請求項2】
請求項1のプラスチック調光レンズ用コーティング液組成物でコートされたプラスチック調光レンズ。
【請求項3】
請求項1のプラスチック調光レンズ用コーティング液組成物をプラスチックレンズの表面にコートした後熱硬化させることを含むプラスチック調光レンズの製造方法。
【請求項4】
前記熱硬化温度が30℃〜80℃であることを特徴とする請求項3記載のプラスチック調光レンズの製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング液組成物の100重量%に対し、下記化学式1のスピロピラン化合物及び下記化学式2のスピロオキサジン化合物1.5〜5重量%、トルエン60〜65重量%、及び残部アクリル系バインダーからなるプラスチック調光レンズ用コーティング液組成物。
【化1】

【化2】

(式中、Rは炭素数1〜30のアルキルを示し、
R1は炭素数1〜10のアルキル、アルケニルまたはアルコキシであり、あるいは置換又は非置換のフェニルを示し、
R2〜R5はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン、シアノまたはニトロであり、あるいは炭素数1〜6のアルキルまたはアルコキシを示し、
Xはヒドロキシ、グリシドキシ、アミンまたはジクロロトリオキサジンオキシを示す。)
【請求項2】
請求項1のプラスチック調光レンズ用コーティング液組成物でコートされたプラスチック調光レンズ。
【請求項3】
請求項1のプラスチック調光レンズ用コーティング液組成物をプラスチックレンズの表面にコートした後熱硬化させることを含むプラスチック調光レンズの製造方法。
【請求項4】
前記熱硬化温度が30℃〜80℃であることを特徴とする請求項3記載のプラスチック調光レンズの製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−502423(P2006−502423A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−524337(P2004−524337)
【出願日】平成14年11月29日(2002.11.29)
【国際出願番号】PCT/KR2002/002251
【国際公開番号】WO2004/011965
【国際公開日】平成16年2月5日(2004.2.5)
【出願人】(505036320)ユジンテックトゥウェンティワン株式会社 (1)
【出願人】(505036342)
【Fターム(参考)】