プラスチック部材の表面改質方法、金属膜の形成方法及びプラスチック部材の製造方法
【課題】 表面粗さが良好で且つ密着力の高い金属膜を形成することが可能な加圧流体を用いたプラスチック部材の表面改質方法を提供することである。
【解決手段】 加圧流体を用いたプラスチック部材の表面改質方法であって、加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部を浸透させることと、上記プラスチック部材に浸透した上記浸透物質を溶媒で溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することとを含む表面改質方法を提供することにより上記課題を解決する。
【解決手段】 加圧流体を用いたプラスチック部材の表面改質方法であって、加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部を浸透させることと、上記プラスチック部材に浸透した上記浸透物質を溶媒で溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することとを含む表面改質方法を提供することにより上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧流体を用いたプラスチック部材の表面改質方法、金属膜の形成方法及びプラスチック部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品からなる電子機器等の部品の表面に金属導電膜を形成する手段としては、現在、無電解メッキ法が広く利用されている。プラスチック成形品の成形から無電解メッキのプロセスは、成形品の材料などにより多少異なるが、一般には、樹脂成形、成形品の脱脂、エッチング、中和及び湿潤化、触媒付与、触媒活性化、並びに、無電解メッキの工程からなり、この順で行なわれる。
【0003】
上記従来の無電解メッキプロセスにおけるエッチングでは、クロム酸溶液やアルカリ金属水酸化物溶液などを用いてプラスチック成形品の表面を物理的に粗化し、粗化されたプラスチック表面におけるアンカー効果により成形品とメッキ膜との密着性を確保している。しかしながら、これらのエッチング液は中和等の後処理が必要なため、コスト高の要因となっている。また、毒性の高いエッチング液であるので、その取り扱いが煩雑であるという問題がある。
【0004】
また、無電解メッキ法以外のプラスチック製部材の表面の金属膜を形成する方法として、従来、超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)を用いたプラスチック部材(ポリマー部材)の無電解メッキ法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載された方法によれば、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させ、その超臨界二酸化炭素を各種ポリマー部材に接触させることで、プラスチック部材表面に有機金属錯体を注入する(浸透させる)。次いで、有機金属錯体が浸透したポリマー部材に対して加熱や化学還元処理する等によって有機金属錯体を還元することにより金属微粒子をポリマー部材表面に析出させる。これにより、ポリマー部材の表面全体が無電解メッキ可能になる。このプロセスによれば、廃液処理が不要で、表面粗さが良好な樹脂の無電解メッキプロセスを実現することができるとされている。
【0005】
また、プラスチック部材の表面粗化を抑え且つ良好なアンカー効果を得るプロセスとして、光触媒を用いたメッキ前処理プロセスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、光触媒として酸化チタンを用い、それをプラスチック部材の表面に塗布して紫外線照射を行いプラスチック部材の表面に微細な凹凸を形成する。次いで、形成された凹凸面上にメッキ膜を形成する。
【0006】
また、従来、超臨界二酸化炭素を用いて樹脂組成物を多孔化する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸樹脂及びそれに分散可能な分散性化合物が含有した感光性樹脂組成物から、分散性化合物を除去することにより、多孔化されたポリアミック酸樹脂を形成する。また、特許文献2には、多孔化されたポリアミック酸樹脂上に導電層を形成している。しかしながら、特許文献2には、樹脂材料がポリイミド樹脂に限定されている他、樹脂の最表面における物理的形状は開示されておらず、樹脂と導電層との密着性に関する記載はない。
【0007】
【特許文献1】特開2005−85900号公報
【特許文献2】特開2001−215701号公報
【非特許文献1】堀照夫著「超臨界流体の最新応用技術」株式会社エヌ・ティー・エス出版、p.250−255(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記非特許文献1に記載の超臨界二酸化炭素を用いた表面改質プロセスについて、本発明者らが鋭意検討した結果、次のような課題があることが判明した。超臨界二酸化炭素を用いた表面改質プロセスでは、プラスチック部材の表面を物理的に粗面化するプロセスを経ていないため表面の平滑性は良好であるが、メッキ膜とプラスチック部材との界面においてアンカー効果が得られない。非特許文献1の方法でプラスチック部材の表面にメッキ膜を形成した場合には、メッキ膜は浸透した有機金属錯体により密着が確保される。それゆえ、メッキ膜の密着性は、有機金属錯体の還元性、及び、それに起因するプラスチック部材表面における金属微粒子の密度や凝集状態等に影響されることになり、非特許文献1の方法で、これらの条件をすべて制御することは困難であることが分かった。
【0009】
また、プラスチック部材の表面を粗化するために、特許文献2に記載されている酸化チタンを用いた光触媒プロセスを用いた場合には、紫外線をプラスチック部材の表面に照射して光触媒反応を発生させる必要があるので、2次元形状(例えば、フィルム状)の成形品に対しては適用可能と考えられるが、複雑な3次元形状の成形品に対しては、その表面に均一に紫外線を照射することが困難であると考えられる。また、光触媒の反応時間も数十分と長いので、この反応時間の長さが工業化する際の課題となる恐れがある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、表面粗さが良好で且つ密着力の高い金属膜を形成することが可能なプラスチック部材の表面改質方法、金属膜の形成方法及びプラスチック部材の製造方法を提供することである。
【0011】
また、上述したように、従来、プラスチック部材(ポリマー部材)の表面に安価に金属膜を形成する方法として無電解メッキ法が知られている。しかしながら、この方法では、ポリマー部材の表面をクロム酸等のエッチングで粗化する必要があり、これらのエッチング液で粗化されるポリマーはABS等の樹脂に限定されていた。また、上記エッチング液で粗化され難いポリカーボネート等の他の材料では、無電解メッキ可能にするために、ABSやエラストマーを混合したメッキグレードの樹脂材料が市販されている。しかしながら、このようなメッキグレードの樹脂材料は耐熱性や反射性能の要求を十分に満足するものではなかった。
【0012】
そこで、本発明の別の目的は、様々な種類のプラスチックに対して表面粗さが良好でかつ密着力の高いメッキ膜を形成することが可能なプラスチック部材の表面改質方法及び金属膜の形成方法を提供することである。また、本発明のさらなる別の目的は、様々な種類のプラスチックに対して、表面に微細な凹凸か形成され且つ表面粗さが良好なプラスチック部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様に従えば、プラスチック部材の表面改質方法であって、加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることと、上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することとを含む表面改質方法が提供される。
【0014】
本発明の表面改質方法では、まず、加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させる(図22中のステップS1)。例えば、浸透物質を溶解した加圧流体をプラスチック部材の表面に接触させることによりプラスチック部材の表面を膨潤等させ、浸透物質を加圧流体とともにプラスチック部材の表面内部に浸透させる。その後、浸透物質が溶解する溶媒を用いてプラスチック部材を洗浄等することによりプラスチック部材の表面から浸透物質を除去する(図22中のステップS2)。浸透物質は数十〜数百nmのクラスター状でプラスチック部材の表面近傍に浸透しているため、上記溶媒による除去処理(洗浄処理)により、浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面にはサブミクロンからナノオーダーの微細孔が形成される。すなわち、プラスチック部材の表面にサブミクロンからナノオーダーの微細な凹凸を形成することができる。本発明の表面改質方法を用いると、様々な種類のプラスチック部材に対して、その表面に微細な凹凸を形成することができる。
【0015】
なお、本明細書でいう「加圧流体」とは、加圧された流体のことをいう。ただし、加圧流体の圧力は、浸透材料を十分に溶解する圧力であれば良く、ここでいう「加圧流体」には臨界点(超臨界状態)以上に加圧された流体のみならず、臨界点より低圧力で加圧された流体も含まれる。好ましくは5MPa以上に加圧された流体のことをいう。すなわち、本明細書でいう「加圧流体」には、超臨界流体のみならず、加圧された液状流体(液体)及び加圧不活性ガスも含む意味である。
【0016】
上記本発明の表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面に無電解メッキ等で金属膜を形成すると、プラスチック部材の表面に形成された微細な凹凸によるアンカー効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、密着性の優れた金属膜を形成することができる。また、上記本発明の表面改質方法によりプラスチック部材の表面に形成された凹凸は、上述のように、サブミクロンからナノオーダーのサイズであるので、上記本発明の表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面に金属膜を形成した場合には、非常に平滑性の優れた(表面粗化が抑制された)金属膜を形成することができ、電気特性の優れた金属膜を形成することができる。また、プラスチック部材の表面に形成される微細孔の含有割合を調整することにより、プラスチック部材の誘電率、誘電正接等の電気特性や、低屈折率化等の光学特性を制御することもできる。
【0017】
本発明の表面改質方法では、上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、上記浸透物質を加圧流体に溶解させることと、上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記プラスチック部材に接触させて上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことが好ましい。
【0018】
また、本発明の表面改質方法では、上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、上記浸透物質を溶解した溶液を上記プラスチック部材の表面に塗布することと、上記浸透物質が塗布された上記プラスチック部材に加圧流体を接触させて上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことが好ましい。
【0019】
本発明の表面改質方法では、上記プラスチック部材が凹部を有し、上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させる際に、上記加圧流体を上記プラスチック部材に接触させた状態で、上記凹部により上記プラスチック部材の表面に画成された開口を塞いで上記加圧流体を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック部材の表面内部に上記浸透物質を浸透させることが好ましい。
【0020】
表面に凹部を有するプラスチック部材に対する表面改質方法によれば、プラスチック部材の凹部を画成する表面に微細な凹凸を形成することができ、凹部を画成する表面の物理的形状を選択的に変化させることができる。それゆえ、この表面改質方法で作製したプラスチック部材に無電解メッキ等で金属膜を形成した場合には、プラスチック部材の凹部を画成する表面のみで選択的にナノオーダーでのアンカー効果を得ることができ、凹部を画成する表面のみに密着性及び平滑性の優れた金属膜を形成することができる。
【0021】
本発明の表面改質方法では、上記表面改質方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた表面改質方法であり、上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記加熱シリンダー内の上記溶融樹脂のフローフロント部に導入することと、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填することとを含むことが好ましい。
【0022】
この射出成形機を用いた表面改質方法では、浸透物質が溶解した加圧流体を加熱シリンダー内の溶融樹脂のフローフロント部に導入しているので、加熱シリンダー内の溶融樹脂を金型に射出すると、まず、浸透物質が浸透したフローフロント部の溶融樹脂が射出され、その後、浸透物質がほぼ浸透していない溶融樹脂が金型に射出充填される。浸透物質が浸透したフローフロント部の溶融樹脂が射出された際には、金型内における流動樹脂のファウンテンフロー現象(噴水効果)により、フローフロント部の溶融樹脂は金型表面に引っ張られながら金型に接して表面層(スキン層)を形成する。それゆえ、この表面改質方法では、浸透物質が分散したスキン層と浸透物質がほとんど分散していないコア層とからなるプラスチック成形品が得られる。上記射出成形機を用いた表面改質方法では、成形工程と表面改質工程とを同時に行うことができる。それゆえ、この方法を用いれば、加圧流体にある程度の溶解性を有する浸透物質であれば、様々な種類のプラスチック成形品の表面のみに浸透物質を均一に分散配置することができる。すなわち、この射出成形機を用いた表面改質方法は、様々な種類のプラスチック部材の表面改質技術に応用可能である。
【0023】
本発明の表面改質方法では、上記金型のキャビティ側表面に凹凸パターンが形成されており、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填して、表面に凹部を有し且つ該凹部の表面に浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形し、上記浸透物質を溶媒で溶解してプラスチック部材の表面から除去する際に、該溶媒を上記凹部の表面のみに接触させて上記凹部に浸透した浸透物質を除去することが好ましい。
【0024】
本発明の表面改質方法では、上記表面改質方法が、押し出し成形機を用いた表面改質方法であり、上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、上記浸透物質を溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内のプラスチック部材の溶融樹脂に接触させて、上記浸透材料を該溶融樹脂に浸透させることと、上記溶融樹脂を押し出し成形することとを含むことが好ましい。
【0025】
上記押し出し成形機を用いた表面改質方法においても、浸透物質を溶解した加圧流体を押し出し成形機内の溶融樹脂に注入するので、成形工程と同時に改質処理を行うので、様々な種類のプラスチック部材の表面改質が可能となる。それゆえ、この押し出し成形機を用いた表面改質方法もまた、様々な種類のプラスチック部材の表面改質技術に応用可能である。また、上記押し出し成形機を用いた表面改質方法を用いれば、表面改質したフィルム状のプラスチック成形品を連続して製造することもできる。なお、押し出し成形機内の浸透物質の注入箇所は加熱シリンダーから押し出しダイまでの領域内の位置であれば任意の位置に設け得る。
【0026】
本発明の表面改質方法では、上記加圧流体の圧力が、5〜25MPaであることが好ましい。加圧流体に対する浸透物質の溶解度は圧力の上昇とともに高くなる。圧力が5MPa以下であると浸透物質の溶解度が極めて低くなり、プラスチック部材表面への浸透物質の浸透効果が現れない。また、25MPa以上の高圧になると、プラスチック部材に対する加圧流体の浸透性が高くなり、プラスチック部材の発泡の制御が困難となる恐れがある。
【0027】
本発明の表面改質方法では、上記加圧流体が、二酸化炭素であることが好ましい。本発明の表面改質方法において、加圧流体として二酸化炭素を用いた場合には、超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素、液体二酸化炭素または気体二酸化炭素が加圧流体として用い得る。ただし、本発明はこれに限定されない。加圧流体としては、浸透物質をある程度溶解する媒体であれば任意のものを用い得る。例えば、加圧流体として、空気、水、ブタン、ペンタン、メタノール等を用いても良い。なお、浸透物質を溶解する加圧流体としては、有機材料に対する溶解度がヘキサン並みであり、無公害であり、且つプラスチック部材に対する親和性の高い超臨界二酸化炭素が特に好ましい。また、加圧流体に対する浸透物質の溶解度を向上させるために少量のエタノール等の有機溶剤をエントレーナとして混合しても良い。
【0028】
本発明の表面改質方法では、上記プラスチック部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか1つから形成されていることが好ましい。上述のように、本発明の表面改質方法は様々な種類のプラスチック部材に適用可能であり、例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、非晶質ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、液晶ポリマー、スチレン系樹脂、ポリメチルペンテン、ポリアセタール、シクロオレフィンポリマー等を用い得、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂等を用い得る。また、プラスチック部材として、上記材料を複合種混合したもの、これらを主成分とするポリマーアロイやこれらに各種の充填剤を配合したものを使用してもよい。
【0029】
本発明の表面改質方法では、上記浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることが好ましい。具体的には、浸透物質としては、ポリアルキルグリコールが好ましく、さらに好ましくはポリエチレングリコールが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されず、浸透物質としては、加圧流体にある程度の溶解性を示し且つ水溶性の材料であれば任意のものを用い得る。例えば、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ε−カプロラクタム、ポリオールエステル等を用いてもよい。また、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー、グリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤を浸透物質として用いてもよい。
【0030】
本発明の表面改質方法では、上記浸透物質の分子量が50〜2000であることが好ましい。分子量が2000以上の材料を用いると、加圧流体に対する溶解度が低下し、プラスチック部材表面への浸透物質の浸透効果が低下する。また、浸透物質として分子量が2000以上の材料を用いた場合には、プラスチック部材表面の平坦性が悪化しやすい傾向になり、特に、プラスチック部材から浸透物質を抽出(除去)する際に応力が発生し、プラスチック部材の表面にクラックが生じやすくなる。その他、プラスチック樹脂との相溶性の点を考慮した場合、浸透物質の分子量の範囲は上記範囲が望ましい。
【0031】
本発明の表面改質方法では、上記浸透物質が、第1浸透物質及び第2浸透物質を含み、上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去する際に、第1浸透物質を除去することが好ましい。
【0032】
本発明の第2の態様に従えば、プラスチック部材の表面に金属膜を形成する方法であって、浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することと、上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することと、上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することとを含む金属膜の形成方法が提供される。
【0033】
本発明の金属膜の形成方法では、上述した本発明の表面改質方法によりプラスチック部材の表面を改質し(図23中のステップS1’及びS2’)、その後、得られたプラスチック部材の表面に無電解メッキ等で金属膜を形成する(図23中のステップS3)。それゆえ、プラスチック部材の表面に形成されたサブミクロンからナノオーダーのサイズの微細な凹凸によるアンカー効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成することができる。また、上述したように、本発明の表面改質方法では様々な種類のプラスチック部材の表面に微細な凹凸を形成できるので、本発明の金属膜の形成方法では、様々な種類のプラスチック部材の表面に平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成することができる。
【0034】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することが、上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面にメッキ触媒核を付与することと、無電解メッキ法により、上記メッキ触媒核が付与されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することとを含むこととが好ましい。
【0035】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質を加圧流体に溶解させることと、上記加圧流体をプラスチック部材に接触させて上記浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことが好ましい。
【0036】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質を溶解した溶液をプラスチック部材の表面に塗布することと、上記浸透物質が塗布されたプラスチック部材に加圧流体を接触させて上記浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことが好ましい。
【0037】
本発明の金属膜の形成方法では、上記プラスチック部材が凹部を有し、上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させる際に、上記加圧流体を上記プラスチック部材に接触させた状態で、上記凹部により上記プラスチック部材の表面に画成された開口を塞いで上記加圧流体を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック部材の表面内部に上記浸透物質を浸透させることが好ましい。
【0038】
本発明の金属膜の形成方法では、上記金属膜の形成方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記射出成形機内の溶融樹脂のフローフロント部に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、上記金型内に上記溶融樹脂を射出充填して成形することとを含むことが好ましい。
【0039】
本発明の金属膜の形成方法では、上記金型のキャビティ側表面に凹凸パターンが形成されており、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填して、表面に凹部を有し且つ該凹部の表面に浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形し、上記浸透物質を溶媒で溶解してプラスチック部材の表面から除去する際に、該溶媒を上記凹部の表面のみに接触させて上記凹部に浸透した浸透物質を除去することが好ましい。
【0040】
本発明の金属膜の形成方法では、上記金属膜の形成方法が、押し出し成形機を用いた金属膜の形成方法であり、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内のプラスチック部材の溶融樹脂に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、上記溶融樹脂を押し出し成形することとを含むことが好ましい。
【0041】
本発明の金属膜の形成方法では、上記加圧流体の圧力が、5〜25MPaであることが好ましい。また、本発明の金属膜の形成方法では、上記加圧流体が、二酸化炭素であることが好ましい。
【0042】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材が金型を備えた射出成形機を用いて作製され、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することと、上記プラスチック製シートを上記射出成形機の金型内に保持することと、上記プラスチック製シートが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことが好ましい。すなわち、本発明の金属膜の形成方法では、インサート成形により、浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意しても良い。
【0043】
このインサート成形を用いた金属膜の形成方法では、本発明の表面改質方法で得られた浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用いてインサート成形を行い、プラスチック製シートとインサート成形時に射出されたプラスチック基材とが一体化されたプラスチック成形品を成形する。この方法では、浸透物質が含浸したプラスチック製シートの膜厚等を制御することにより、インサート成形後のプラスチック成形品の浸透物質の浸透量や浸透深さを制御できる。
【0044】
本発明の金属膜の形成方法では、上記プラスチック製シートが押し出し成形機を用いて作製され、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することが、上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内の溶融樹脂に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、上記溶融樹脂を押し出し成形して上記プラスチック製シートを成形することとを含むことが好ましい。
【0045】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することが、プラスチック製フィルムを用意することと、上記浸透物質及びプラスチック樹脂を含む混合溶液を調製することと、上記プラスチック製フィルム上に上記混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記浸透物質が分散した樹脂膜を形成することとを含むことが好ましい。この方法を用いてプラスチック製シートを作製した場合には、浸透物質が分散している層(膜)をより薄くすることができるとともに、浸透物質の浸透量、分布等をより調整し易くなるので、安定したプラスチック部材の製造が可能になる。
【0046】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材が金型を備えた射出成形機を用いて作製され、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、プラスチック製フィルムを用意することと、金属微粒子及び第1プラスチック樹脂を含む第1混合溶液を調製することと、上記浸透物質及び第2プラスチック樹脂を含む第2混合溶液を調製することと、上記プラスチック製フィルム上に上記第1混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記金属微粒子が分散した第1樹脂膜を形成することと、第1樹脂膜上に第2混合溶液を塗布して、第1樹脂膜上に上記浸透物質が分散した第2樹脂膜を形成することと、第1及び第2樹脂膜が形成された上記プラスチック製フィルムを上記射出成形機の金型内に保持することと、上記プラスチック製フィルムが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことが好ましい。
【0047】
また、本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、プラスチック製フィルムを用意することと、上記浸透物質、金属微粒子及びプラスチック樹脂を含む混合溶液を調製することと、上記プラスチック製フィルム上に上記混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記浸透物質及び金属微粒子が分散した樹脂膜を形成することと、を含み、上記金属膜の形成方法が金型を備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、上記金属膜の形成方法が、さらに、上記浸透物質を除去した後に、上記樹脂膜が形成された上記プラスチック製フィルムを上記射出成形機の金型内に保持することと、上記プラスチック製フィルムが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことが好ましい。
【0048】
本発明の金属膜の形成方法では、上記金属膜の形成方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する第1及び第2加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質を含む第1プラスチック樹脂及び上記浸透物質を含まない第2プラスチック樹脂を用意することと、第1プラスチック樹脂を第1加熱シリンダー内で可塑化溶融することと、第2プラスチック樹脂を第2加熱シリンダー内で可塑化溶融することと、溶融した第1プラスチック樹脂を上記金型内に射出することと、第1プラスチック樹脂を射出した後に、溶融した第2プラスチック樹脂を上記金型内に射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことが好ましい。すなわち、本発明の金属膜の形成方法では、サンドイッチ成形により、浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意しても良い。
【0049】
本発明の金属膜の形成方法では、上記プラスチック部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか1つから形成されていることが好ましい。
【0050】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることが好ましい。本発明の金属膜の形成方法では、特に、上記浸透物質がポリエチレングリコールであることが好ましい。また、本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質の分子量が50〜2000であることが好ましい。
【0051】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が、第1浸透物質及び第2浸透物質を含み、上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去する際に、第1浸透物質を除去することが好ましい。この場合、第1浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることが好ましい。また、第1浸透物質の分子量が50〜2000であることが好ましい。
【0052】
本発明の第3の態様に従えば、プラスチック部材の製造方法であって、浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することと、上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することとを含む製造方法が提供される。本発明のプラスチック部材の製造方法では、様々な種類のプラスチックに対して、表面に微細孔(微細な凹凸)を有し且つ平滑性の優れたプラスチック部材をより容易に作製することができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の表面改質方法によれば、様々な種類のプラスチック部材に対して、加圧流体を用いてプラスチック部材の表面にサブミクロンからナノオーダーの微細な凹凸を形成することができる。それゆえ、例えば、本発明の表面改質方法を無電解メッキ前処理プロセスとして用いた場合には、低コストでクリーンな無電解メッキ前処理プロセスを提供することができる。
【0054】
本発明の金属膜の形成方法によれば、本発明の表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面に無電解メッキ等で金属膜を形成するので、プラスチック部材の表面に形成されたサブミクロンからナノオーダーのサイズの微細な凹凸によるアンカー効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、密着性の優れた金属膜を形成することができる。また、プラスチック部材の表面に形成された凹凸は、サブミクロンからナノオーダーのサイズであるので、非常に平滑性の優れた(表面粗化が抑制された)金属膜を形成することができる。また、本発明の金属膜の形成方法によれば、従来のメッキ法のように有害なエッチャント(エッチング液)を用いることなくプラスチック部材の表面を粗化できるので、低コストでクリーンな金属膜の形成方法を提供することができる。
【0055】
本発明のプラスチック部材の製造方法によれば、様々な種類のプラスチックに対して、表面に微細孔(微細な凹凸)を有し且つ平滑性の優れたプラスチック部材を容易に作製することができる。また、プラスチック部材の表面に形成された微細孔の含有割合を調整することにより、プラスチック部材の誘電率、誘電正接等の電気特性や、低屈折率化等の光学特性を制御することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、本発明の表面改質方法、金属膜の形成方法及びプラスチック部材の製造方法の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0057】
実施例1では、熱可塑性樹脂製のプラスチック部材の表面に浸透物質の溶解した超臨界状態の二酸化炭素(加圧流体)を接触させて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う例を説明する。また、実施例1では、表面改質されたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する例についても説明する。この例では、浸透物質にポリエチレングリコール(分子量200)を用い、プラスチック部材にはポリカーボネート基板を用いた。
【0058】
[改質装置]
この例のプラスチック部材の表面改質に用いた装置の概略構成を図1に示した。改質装置100は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)を生成するシリンジポンプ2(ISCO社製 260D)と、浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽3と、プラスチック部材101を収容する高圧容器4と、高圧容器4等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図1に示すように、改質装置100内の加圧流体の流動を制御するための手動ニードルバルブ6〜10、保圧弁11及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。
【0059】
なお、この例で用いた高圧容器4は、カートリッジヒーター(不図示)で温調可能な高圧容器であり、冷却回路(不図示)を流動する冷却水によって冷却可能である。また、この例では、高圧容器4内のプラスチック部材101が装着される空間14の容量は10mlとした。
【0060】
[表面改質方法]
次に、この例のプラスチック部材の表面改質方法について、図1及び3を用いて説明する。なお、以下では、図1中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方法を説明する。
【0061】
まず、表面改質を施すプラスチック部材101(ポリカーボネート基板)を、図1に示すように、所定の温度(120℃)に温調された高圧容器4内に装着した。次に、浸透物質であるポリエチレングリコールを内容積10mlの溶解槽3に仕込んだ。なお、この例では、ポリエチレングリコールの仕込み量は1mlとした。また、ポリエチレングリコールの溶解度は低いため、超臨界二酸化炭素の接触面積を増やすために担持体(ISCO社製ウエットサポート)を用いた。
【0062】
次に、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給して加圧し、圧力計15が15MPaを示すように昇圧した。これにより、超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ6を開き、逆止弁12を介して溶解槽3に超臨界二酸化炭素を導入し、溶解槽3の内部を15MPaに昇圧するとともに、浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図3中のステップS11)。昇圧後、再度ニードルバルブ6を閉鎖した。
【0063】
次に、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2からそのポンプ圧と同圧(15MPa)の浸透物質の溶解していない超臨界二酸化炭素を高圧容器4内に導入して、高圧容器4内部を15MPaに昇圧した。この際、浸透物質の溶解していない超臨界二酸化炭素は高圧容器4を介して手動ニードルバルブ9及び10まで充填されており、圧力計16では15MPaが表示された。この例では、図1に示すように、高圧容器4の排出側に予め1次側の圧力が15MPaになるように調節された保圧弁11を設けて、超臨界二酸化炭素が圧力一定で流動するようにした。次いで、ニードルバルブ8を閉鎖し、高圧容器4内の空間14の圧力を15MPaに保持した。このように、高圧容器4内の圧力を予め15MPaに昇圧することにより、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を高圧容器4に導入する際に圧力損失なく導入することができる。
【0064】
次に、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を溶解槽3から高圧容器4に導入して、プラスチック部材101に浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を接触させた(図3中のステップS12)。具体的には、次のようにして超臨界二酸化炭素を導入した。まず、手動ニードルバルブ6および7を開放し、シリンジポンプ2を圧力制御から流量制御に切り替え、溶解槽3内の浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を高圧容器4に導入した。なお、ポンプの流量の設定は10ml/minとした。さらに、手動ニードルバルブ10を開き、超臨界二酸化炭素を回収槽5に1分間流動させた(排出した)。上記操作により、圧力を一定に保持した状態で高圧容器4内部および高圧容器4に流通する流路(配管等)を浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素で置換した。その後、ニードルバルブ6及び7を閉鎖した。
【0065】
次いで、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2から浸透物質が溶解していない超臨界二酸化炭素を高圧容器4に流通する流路(配管等)に導入し、流量10ml/minで10秒間流動させ、配管等に充填されている浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を所望の位置に輸送した(高圧容器4内に押し込んだ)。これにより、高圧容器4内に装着されたプラスチック部材101の表面付近では、超臨界二酸化炭素中の浸透物質の溶解濃度を高濃度に分布させることができる。この状態で、10分間圧力を保持し、浸透物質をプラスチック部材101の表面に浸透させた。
【0066】
次に、高圧容器4のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、高圧容器4を40℃まで冷却した。冷却中に高圧容器4の内圧が低下すると、プラスチック部材101の表面および内部に発泡を招く恐れがある。それゆえ、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に浸透物質及び二酸化炭素を回収しながら、高圧容器4を大気開放した。その後、浸透物質が表面内部に浸透したプラスチック部材101を高圧容器4から取り出した。
【0067】
次に、ポリエチレングリコール(浸透物質)が表面内部に含浸したプラスチック部材101を純水に浸漬して超音波洗浄を1時間行い、ポリエチレングリコールをプラスチック部材101から除去した(図3中のステップS13)。このプロセスにより、プラスチック部材101の表面に浸透していたポリエチレングリコールが脱離し、そのポリエチレングリコールが離脱した部分には、微細孔が形成される。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材101の表面に微細孔(微細な凹凸)を形成した(表面の物理的形状を変化させた)。その様子を示したのが、図2である。図2(a)は、上記洗浄処理前のプラスチック部材101の表面のAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)観察像であり、図2(b)は、上記洗浄処理後のプラスチック部材101の表面のAFM観察像である。図2(a)及び(b)から明らかなように、この例では洗浄処理後のプラスチック部材101の表面には、100〜300nm程度の微細な孔が形成されて多数形成されていることが分かった。この例では、上述のようにして、プラスチック部材101の表面改質を行い、表面に微細な凹凸(微細孔)が形成されたプラスチック部材101を得た。
【0068】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上述のようにして作製した表面に微細な凹凸が形成されているプラスチック部材101上に、無電解メッキ膜を形成した。具体的には、次のようにして、無電解メッキ膜を形成した。まず、プラスチック部材101を公知のコンディショナー(奥野製薬工業(株)製 OPC−370)を用いて脱脂した。次いで、触媒(奥野製薬工業(株)製 OPC−80キャタリスト)をプラスチック部材101に付与し(図3中のステップS14)、その後、活性剤(奥野製薬工業(株)製 OPC−500アクセレーターMX)を用いて触媒を活性化した。次いで、無電解銅メッキを施した(図3中のステップS15)。なお、メッキ液には奥野製薬工業(株)製 OPC−750無電解銅を用いた。その結果、プラスチック部材101上に形成されたメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例2】
【0069】
実施例2では、熱硬化性樹脂製のプラスチック部材の表面に浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素(加圧流体)を接触させて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う例を説明する。また、実施例2では、表面改質されたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法についても説明する。この例では、浸透物質にポリエチレングリコール(分子量200)、プラスチック部材にはポリイミド基板を用いた。
【0070】
本実施例では、実施例1と同様に、図1に示した改質装置を用いてプラスチック部材の表面改質を行った。なお、本実施例におけるプラスチック部材の表面改質方法および金属膜の形成方法は、図1に示す高圧容器4の温度を80℃としたこと以外は実施例1と同様にして行った。
【0071】
その結果、洗浄処理により浸透物質を除去した後のプラスチック部材の表面には、実施例1と同様に微細な孔が形成されて多数形成されていた。また、プラスチック部材上に無電界メッキにより形成したメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例3】
【0072】
実施例3では、光硬化性樹脂製のプラスチック部材の表面に浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素(加圧流体)を接触させて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う例を説明する。また、実施例3では、表面改質されたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する例についても説明する。この例では、浸透物質にポリエチレングリコール(分子量200)、プラスチック部材にはエポキシ樹脂材と硬化剤とを含む紫外線硬化型樹脂基板を用いた。
【0073】
本実施例では、実施例1と同様に、図1に示した改質装置を用いてプラスチック部材の表面改質を行った。なお、本実施例におけるプラスチック部材の表面改質方法および金属膜の形成方法は、図1に示す高圧容器4の温度を150℃としたこと以外は実施例1と同様にして行った。
【0074】
その結果、洗浄処理により浸透物質を除去した後のプラスチック部材の表面には、実施例1と同様に微細な孔が形成されて多数形成されていた。また、プラスチック部材上に無電界メッキにより形成したメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例4】
【0075】
実施例4では、実施例1と同様に、熱可塑性樹脂製のプラスチック部材の表面に浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素(加圧流体)を接触させて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材の表面に浸透した浸透物質を除去して表面改質を行い、さらに、表面改質されたプラスチック部材の表面に無電解メッキによりメッキ膜(金属膜)を形成する例について説明する。ただし、この例では、浸透物質にポリエチレングリコール(分子量2000)を用い、プラスチック部材にはポリカーボネート基板を用いた。
【0076】
本実施例では、浸透物質としてポリエチレングリコール(分子量2000)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチック部材の表面改質および無電解メッキ膜を形成した。なお、改質装置としては、図1に示した装置を用いた。
【0077】
その結果、洗浄処理により浸透物質を除去した後のプラスチック部材の表面には、実施例1と同様に微細な孔が形成されて多数形成されていた。また、プラスチック部材上に形成したメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0078】
[テープ剥離試験及び表面粗さの測定]
上記実施例1〜4の表面改質方法およびメッキ膜の形成方法により得られたメッキ膜に対して、テープ剥離試験を実施してメッキ膜の密着性を評価した。具体的には、メッキ膜が形成されたプラスチック部材を1mm間隔に100等分の升目を切り、分割された各プラスチック基板(100枚)に対してテープ剥離試験を行い、メッキ膜が剥離した枚数により無電解メッキ特性を評価した。テープにはニチバン(株)製の粘着テープ(No.405)を用いた。その結果を表1に示す。なお、表1中の評価基準は下記の通りである。
◎:剥離枚数が9枚以下の場合
○:剥離枚数が10枚以上29枚以下の場合
△:剥離枚数が30枚以上59枚以下の場合
×:剥離枚数が60枚以上、もしくはメッキ膜形成されなかった場合
【0079】
また、実施例1〜4でプラスチック部材の表面に形成したメッキ膜の表面粗さを触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)を用いて測定した。その結果も表1に示した。なお、表面粗さの測定では、各プラスチック基板の算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)を測定した。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示したテープ剥離試験の結果から明らかなように、実施例1〜4で形成されたメッキ膜は、全て◎評価となり、十分良好な密着強度が得られていることが分かった。これは、プラスチック部材の表面に含浸した浸透物質を洗浄除去して、プラスチック部材の表面に微細な凹凸を形成したことにより、アンカー効果等が増大したためであると考えられる。
【0082】
また、実施例1〜4でプラスチック部材の表面に形成されたメッキ膜の表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で数十nmのオーダーであり、十点平均粗さ(Rz)で数百nmのオーダーであることが分かった。従来のエッチング処理により表面粗化を図った場合には、プラスチック部材の表面粗さが数μm〜数十μmのオーダーになることを考えると、本発明のメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ方法に比べて、表面粗化が抑制され良好な平滑性が得られることが分かる。金属膜の表面粗さが大きい場合には、金属膜の反射率や電気特性(抵抗等)等が劣化するが、本発明のメッキ膜の形成方法は、基板の表面粗さを非常に小さくすることができるので、例えば、高反射率を必要とするリフレクター等の金属膜、良好な電気特性を必要とする高周波電気回路やアンテナ等の金属膜の形成方法として好適である。
【実施例5】
【0083】
実施例5では、表面に凹部を有する熱可塑性樹脂製のプラスチック部材に対して、加圧流体を用いて凹部のみを表面改質し且つメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。この例では、プラスチック部材の形成材料にはシクロオレフィン樹脂(Zeonex)を用い、公知の射出成形により、表面に凹部およびスルーホールを有するプラスチック部材を作製した。この例では、プラスチック部材の表面には幅50μm、深さ50μmの凹パターンおよび直径Φ200μm、高さ1.0mm(アスペクト比1.0/0.2=5.0)のスルーホールを形成した。また、この例では、浸透物質にポリエチレングリコール(分子量200)を用い、加圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0084】
[改質装置]
この例のプラスチック部材の表面改質に用いた装置の概略構成を図4に示した。改質装置200は、図4に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、超臨界二酸化炭素を生成するシリンジポンプ2(ISCO社製 260D)と、浸透物質(ポリエチレングリコール)を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽3と、複数のプラスチック部材201が収容可能な金型4’と、金型4’等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図4に示すように、改質装置200内の加圧流体の流動を制御するための手動ニードルバルブ6〜10、保圧弁11及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。すなわち、この例の改質装置200では、実施例1で用いた改質装置100の高圧容器4の代わりに、金型4’を用いた。
【0085】
金型4’は、図4及び5に示すように、主に、可動金型20と、固定金型21とから構成され、型締め装置(プレスピストン:不図示)により開閉される。なお、図5は、図4中の破線Aで囲まれた領域の拡大図である。プレスピストンは電動サーボモータ(不図示)による位置制御により移動可能となっている。また、金型4’は、図示しないカートリッジヒータにより温調可能な構造になっている。さらに、この例の金型4’は、図示しない冷却回路を流動する冷却水によって冷却可能である。
【0086】
この例の金型4’では、図4及び5に示すように、可動金型20と固定金型21との間に複数のプラスチック部材201を挟み込んで保持する構造になっている。可動金型20の固定金型21側の表面には、図4及び5に示すように、プラスチック部材201の上半分の外形と倣った凹部20aが複数形成されており、固定金型21の可動金型20側の表面には、プラスチック部材201の下半分の外形と倣った凹部21aが複数形成されている。そして、可動金型20の凹部20aと固定金型21の凹部21aとは互いに対向する位置に配置されている。すなわち、可動金型20と固定金型21とを閉じた際に、固定金型21と可動金型20との界面に、可動金型20の凹部20aと固定金型21の凹部21aとにより、プラスチック部材201の外形寸法及び形状とほぼ同じ寸法及び形状を有する空間(以下、キャビティともいう)が複数画成されるような構造になっている。それゆえ、可動金型20及び固定金型21の界面にプラスチック部材201を装着して金型を閉めると、プラスチック部材201の表面に形成されている凹部202及びスルーホール203の開口部(凹部及びスルーホールによりプラスチック部材201の表面に画成された開口)は金型により塞がれた状態となる。
【0087】
また、金型4’には、図4に示すように、超臨界二酸化炭素を可動金型20及び固定金型21間に画成される空間と導入するための導入口23と、金型4’から超臨界二酸化炭素が排出される排出口24が形成されている。また、本実施例におけるプレスピストンの初期型開量22は1mmとなるようにした(図5参照)。
【0088】
[表面改質方法]
実施例5におけるプラスチック部材の表面改質方法について図4〜6を用いて説明する。なお、以下では、図4中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方法を説明する。
【0089】
まず、公知の射出成形によりプラスチック部材201を作製し、そのプラスチック部材201に、波長185nmの低圧水銀ランプによりUV光を1分間照射した。これにより、プラスチック部材201の表面を親水化処理し、浸透物質であるポリエチレングリコールとプラスチック部材201との親和性を高めた。次に、図4に示すように、所定の温度(120℃)に温調された金型4’内に複数のプラスチック部材201を装着した。
【0090】
次に、浸透物質であるポリエチレングリコールを内容積10mlの溶解槽3に仕込んだ。なお、この例では、ポリエチレングリコールの仕込み量は1mlとした。また、ポリエチレングリコールの二酸化炭素に対する溶解度は低いので、超臨界二酸化炭素の接触面積を増やすために担持体(ISCO社製ウエットサポート)を用いた。
【0091】
次に、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給して加圧し、圧力計15が15MPaを示すように昇圧して超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ6を開き、逆止弁12を介して溶解槽3に超臨界二酸化炭素を導入し、溶解槽3の内部を15MPaに昇圧するとともに、浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図6中のステップS51)。昇圧後、再度ニードルバルブ6を閉鎖した。
【0092】
次に、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2からそのポンプ圧と同圧(15MPa)の浸透物質の溶解していない超臨界二酸化炭素を金型4’のキャビティに導入して、金型4’内部を15MPaに昇圧した。この際、浸透物質の溶解していない超臨界二酸化炭素は金型4’を介して手動ニードルバルブ9及び10まで充填されており、圧力計16では15MPaが表示された。この例では、図4に示すように、金型4’の排出側に予め1次側の圧力が15MPaになるように調節された保圧弁11を設けて、超臨界二酸化炭素が圧力一定で流動するようにした。次いで、ニードルバルブ8を閉鎖し、金型4’内のキャビティの圧力を15MPaに保持した。このように、金型4’内の圧力を予め15MPaに昇圧することにより、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’に導入する際に圧力損失なく導入することができる。
【0093】
次に、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を溶解槽3から金型4’に導入して、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素をプラスチック部材201に接触させた(図6中のステップS52)。具体的には、次のようにして浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を導入した。まず、手動ニードルバルブ6および7を開放し、シリンジポンプ2を圧力制御から流量制御に切り替え、溶解槽3内の浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’に導入した。なお、ポンプの流量の設定は10ml/minとした。さらに、手動ニードルバルブ10を開き、回収槽5に超臨界二酸化炭素を1分間流動させた(排出した)。上記操作により、圧力を一定に保持した状態で金型4’内部および金型4’に流通する流路(配管等)を浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素で置換した。その後、ニードルバルブ6及び7を閉鎖した。
【0094】
次いで、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2から浸透物質が溶解していない超臨界二酸化炭素を金型4’に流通する流路(配管等)に導入し、流量10ml/minで10秒間流動させ、配管等に充填されている浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を所望の位置に輸送した(金型4’内部に押し込んだ)。これにより、金型4’内に装着されたプラスチック部材201の表面付近では、超臨界二酸化炭素中の浸透物質の溶解濃度を高濃度に分布させることができる。
【0095】
次いで、超臨界二酸化炭素をプラスチック部材201に接触させた状態で、金型4’を閉め、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の開口部を塞いで、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を凹部202及びスルーホール203のみに滞留させた(図6中のステップS53)。具体的には、プレスピストンを上昇させてプラスチック部材201をプレスすることにより金型4’を閉め、前記凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201の表面にのみ選択的に、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を接触させた。この際、浸透物質が超臨界二酸化炭素とともに凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201の表面内部に浸透する。この例では、この状態を10分間保持して、浸透物質を凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201の表面内部に浸透させた。この方法を用いると、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201表面にのみ均一に且つ高濃度で浸透物質を浸透させることができる。
【0096】
なお、この例では、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めてプラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の開口部を塞ぐまでの工程(図6中のステップS52からS53までの工程)を、短い時間(この例では5〜10秒)で行っているので、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203以外の表面にはほとんど浸透物質は浸透しない。ただし、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの時間を長くすると、超臨界二酸化炭素に溶解した浸透物質が凹部202及びスルーホール203以外の表面にも高濃度で浸透する恐れがあるので、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの工程は、できるだけ短い時間内で行なうことが好ましい。
【0097】
次に、金型4’のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、金型4’を40℃まで冷却した。なお、冷却中に金型4’の内圧を低下させると、プラスチック部材201の表面および内部で発泡が起こる恐れがあるので、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に浸透物質及び二酸化炭素を回収しながら、金型4’を大気開放した。次いで、金型4’からプラスチック部材201を取り出した。
【0098】
次に、上記方法により凹部202及びスルーホール203の表面にポリエチレングリコールが含浸したプラスチック部材201から、該ポリエチレングリコールを除去した(図6中のステップS54)。具体的には、表面にポリエチレングリコールが含浸したプラスチック部材201を純水に浸漬して超音波洗浄を1時間行った。この洗浄処理により、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の表面に浸透していたポリエチレングリコールが脱離して、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の表面に微細な凹凸が形成される。すなわち、この洗浄処理により、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の表面においてのみ、選択的に表面の物理的形状を変化させた。このようにして、この例ではプラスチック部材201の表面改質を行い、凹部202及びスルーホール203を画成する表面のみが改質されたプラスチック部材201を得た。
【0099】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材201に、実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材201の表面にメッキ膜を形成した(図6中のステップS55及びS56)。その結果、この例では、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203を画成する表面上にのみ金属膜が形成された。また、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0100】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が21.0nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が149.3nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の高い無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【実施例6】
【0101】
実施例6では、実施例5と同様に、表面に凹部及びスルーホールを有する熱可塑性樹脂製のプラスチック部材に対して、凹部及びスルーホールのみを表面改質し且つメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、浸透物質を含む溶液をプラスチック部材の表面に塗布した後、超臨界二酸化炭素(加圧流体)を接触させることにより浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解し、超臨界二酸化炭素とともに浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させる例について説明する。
【0102】
この例では、プラスチック部材の形成材料にシクロオレフィン樹脂(Zeonex)を用い、公知の射出成形により、表面に凹部及びスルーホールを有するプラスチック部材を作製した。この例では、プラスチック部材の表面には幅50μm、深さ50μmの凹パターンおよび直径Φ200μm、高さ1.0mm(アスペクト比1.0/0.2=5.0)のスルーホールを形成した。また、この例では、浸透物質にはポリエチレングリコール(分子量600)を用いた。
【0103】
[改質装置]
本実施例でプラスチック部材の表面改質を行うために用いた改質装置の概略構成を図7に示した。この例の改質装置300は、図7に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、超臨界二酸化炭素を生成する高圧ポンプ33と、プラスチック部材301を収容する金型4’と、金型4’等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図7に示すように、改質装置300内の加圧流体の流動を制御するための手動ニードルバルブ8〜10、保圧弁11及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。
【0104】
図7から明らかなように、この例で用いた改質装置300では、実施例5で用いた改質装置200(図4参照)のシリンジポンプ2の代わりに高圧ポンプ33を用いた。また、この例で用いた改質装置300では、実施例5の改質装置200の溶解槽3を設けない構成とした。なお、この例の改質装置300で用いた金型4’は実施例5と同様の構造であり、プレスピストンの初期型開量22は1mmとなるようにした(後述する図8参照)。
【0105】
[表面改質方法]
本実施例におけるプラスチック部材の表面改質方法について、図7〜11を用いて説明する。なお、以下では、図7中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方法を説明する。
【0106】
まず、プラスチック部材301に、波長185nmの低圧水銀ランプによりUV光を1分間照射した。これにより、プラスチック部材301の表面を親水化処理し、浸透物質であるポリエチレングリコールとプラスチック部材301との親和性を高めた。次いで、ポリエチレングリコール(分子量600)を60℃に加熱して溶液の状態にし、その溶液(図8中の304)をプラスチック部材301(プラスチック)の表面に塗布した(図11中のステップS61)。なお、本実施例で用いたポリエチレングリコール(分子量600)は室温で半固体状物質であり、高温下で液状物質となる。
【0107】
次いで、図7及び8に示すように、表面に浸透物質の溶液304が塗布されたプラスチック部材301を所定の温度(120℃)に温調された金型4’内に装着した。次いで、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素を高圧ポンプ33に供給して加圧し、圧力計15が15MPaを示すように昇圧して超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ8及び10を開放することにより、逆支弁12を介して金型4’および配管内に15MPaの超臨界二酸化炭素を導入して、超臨界二酸化炭素をプラスチック部材301に接触させた(図11中のステップS62)。ここで、金型4’の排出側には、本実施例のように予め1次側の圧力を15MPaに調節した保圧弁11を設けておき、圧力一定で超臨界二酸化炭素を流動させることが望ましい。
【0108】
次に、プラスチック部材301の表面に超臨界二酸化炭素を接触させた状態で、金型4’を閉め、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303の開口部を塞いで、超臨界二酸化炭素を凹部302及びスルーホール303のみに滞留させた(図9の状態、図11中のステップS63)。この例では、この状態10分間保持した。
【0109】
この際、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303のみに超臨界二酸化炭素を滞留させることで、超臨界二酸化炭素が、プラスチック部材301表面に塗布された溶液304を介して、凹部302及びスルーホール302を画成するプラスチック部材301の表面に接触する。それにより、熱可塑性樹脂であるプラスチック部材301の表面が膨潤し、その粘性が低下し軟化する。同時に、プラスチック部材301の表面に塗布された液状の浸透物質304(ポリエチレングリコール)が超臨界二酸化炭素に溶解して、超臨界二酸化炭素とともに凹部302及びスルーホール303を画成するプラスチック部材301の表面内部に浸透する。この方法を用いると、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成するプラスチック部材301の表面にのみ均一に且つ高濃度で浸透物質を浸透させることができる。
【0110】
なお、この例では、超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めてプラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303の開口部を塞ぐまでの工程(図11中のステップS62からS63までの工程)を、短い時間(この例では5〜10秒)で行っているので、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303以外の表面にはほとんど浸透物質は浸透しない。ただし、超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの時間を長くすると、超臨界二酸化炭素に溶解した浸透物質が凹部302及びスルーホール303以外の表面にも高濃度で浸透する恐れがあるので、超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの工程は、できるだけ短い時間内で行なうことが好ましい。
【0111】
次に、金型4’のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、金型4’を40℃まで冷却した。なお、冷却中に金型4’の内圧が低下すると、プラスチック部材301の表面および内部で発泡を招く恐れがある。それゆえ、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に浸透物質及び二酸化炭素を回収しながら、金型4’を大気開放した(図10の状態)。その後、浸透物質305が表面に浸透したプラスチック部材301を金型4’から取り出した。
【0112】
次に、上記方法により凹部302及びスルーホール303を画成する表面にのみ浸透物質305(ポリエチレングリコール)が含浸したプラスチック部材301から、該浸透物質305を除去した(図11中のステップS64)。具体的には、プラスチック部材301を純水に浸漬して超音波洗浄を1時間行った。これにより、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成する表面に浸透していたポリエチレングリコールが脱離して、その表面に微細な凹凸(孔)が形成される。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成する表面のみを、選択的にその物理的形状を変化させた。このようにして、この例ではプラスチック部材301の表面改質を行い、凹部302及びスルーホール303を画成する表面のみが改質されたプラスチック部材301を得た。
【0113】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材301に、実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材301の表面にメッキ膜を形成した(図11中のステップS65及びS66)。その結果、この例では、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成する表面上にのみ金属膜が形成された。また、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0114】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が25.6nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が179.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の高い無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【実施例7】
【0115】
実施例7では、プラスチック成形品(プラスチック部材)を射出成形により成形すると同時に加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。
【0116】
なお、この例では、プラスチック部材の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリカーボネートを用い、浸透物質には分子量200のポリエチレングリコールを用いた。また、加圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0117】
[成形装置]
本実施例で用いた成形装置の概略構成を図12に示した。この例で用いた成形装置400は、図12に示すように、射出成形機部401と、超臨界流体発生装置部402とから構成される。
【0118】
射出成形機部401は、図12に示すように、主に、溶融樹脂を射出する可塑性シリンダー40と、可動金型43と、固定金型44とから構成される。金型42内では、可動金型43および固定金型44が突き当たることにより、中心にスプールを有する円盤形状のキャビティ45が形成される。なお、この例では、図12に示すように、可動金型43及び固定金型44のキャビティ45側の表面のうちキャビティ45の中央に対応する部分(スプール等)以外の領域の形状は平面(ミラー面)とした。また、加熱シリンダー40(可塑化シリンダー)内のフローフロント部56の側部には、図12に示すように、ガス導入機構41を設けた。その他の構造は、従来の射出成形機と同様の構造となっている。
【0119】
超臨界流体発生装置部402は、図12に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、公知のシリンジポンプ2台からなる連続フローシステム47(ISCO社製E−260)と、浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽46とから構成され、各構成要素は配管52により繋がれている。また、溶解槽46は、図12に示すように、エアーオペレートバルブ50,51を介して、射出成形機部401のガス導入機構41に繋がれている。
【0120】
[射出成形方法及び表面改質方法]
次に、図12〜14を用いて、この例の成形方法及び表面改質方法について説明する。まず、液体二酸化炭素ボンベ1に蓄えられた5〜7MPaの液体二酸化炭素は連続フローシステム47に導入され、昇圧されて超臨界二酸化炭素(加圧流体)が生成される。なお、連続フローシステム47では、二酸化炭素は、シリンジポンプの少なくとも1台により所定圧力である10MPaに常時昇圧および圧力保持される。次いで、連続フローシステム47から溶解槽46に超臨界二酸化炭素を導入して浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図14中のステップS71)。溶解槽46は40℃に昇温されており、溶解槽46には浸透物質であるポリエチレングリコールが過飽和になるように仕込まれている。それゆえ、溶解槽46内では浸透物質が連続フローシステム47より導入された超臨界二酸化炭素に常時、飽和溶解している。このとき、溶解槽46の圧力計48は10MPaに表示されていた。なお、ポリエチレングリコールの二酸化炭素に対する溶解度は低いので、この例では、超臨界二酸化炭素の接触面積を増やすために担持体(ISCO社製ウエットサポート)を用いた。
【0121】
次に、従来と同様にして加熱シリンダー40内のスクリュー53を回転させ、供給された樹脂のペレット54を可塑化溶融して(図14中のステップS72)、スクリュー53の前方59に溶融樹脂を押し出して計量しながらスクリュー53を後退させ、所定の計量位置で停止させた。次いで、さらに、スクリュー53を後退させ、計量した溶融樹脂の内圧を減圧した。この例では、加熱シリンダー40のフローフロント部56付近に設けたれた溶融樹脂の内圧モニター55では、樹脂内圧が4MPa以下に低下することを確認した。
【0122】
次に、加熱シリンダー40のフローフロント部56の溶融樹脂に、浸透物質を溶解した超臨界二酸化炭素をガス導入機構41を介して導入して、浸透物質を溶解した超臨界二酸化炭素を溶融樹脂に接触させた(図14中のステップS73)。具体的には、次のようにして浸透物質を溶解した超臨界二酸化炭素を導入した。まず、第一のエアーオペレートバルブ50を開き、第二のエアーオペレートバルブ51と第一のエアーオペレートバルブ50との間の配管52内に浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を導入して圧力計49を昇圧させた。次いで、加熱シリンダー40への導入時は、第一のエアーオペレートバルブ50を閉じた状態で第二のエアーオペレートバルブ51を開き、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素をガス導入機構41を介して加熱シリンダー40内の減圧状態にある溶融樹脂内部に導入して浸透させた。本実施例では、配管52aの内容積で超臨界二酸化炭素の導入量を制御した。なお、溶融樹脂に浸透させる超臨界流体はこの例のように単独でもよいし、複数でもよい。
【0123】
次に、スクリュー53を背圧力によって前方に前進させ、充填開始位置までスクリュー53を戻した。この動作によりスクリュー53前方のフローフロント部56にて二酸化炭素及び浸透物質を溶融樹脂内に拡散させた。次いで、エアーピストン57を駆動してシャットオフバルブ58を開き、可動金型43および固定金型44にて画成された金型42のキャビティ45内に溶融樹脂を射出充填した(図14中のステップS74)。
【0124】
射出充填時の金型42内における溶融樹脂の充填の様子を模式的に図13に示した。図13(a)は初期充填時の模式図であり、初期充填時にはフローフロント部56の溶融樹脂56’が充填され、それに浸透している浸透物質及び二酸化炭素は減圧しながらキャビティ45に拡散する。この際、フローフロント部56の溶融樹脂56’は充填時の噴水効果により、金型表面に接しながら流動しスキン層403を形成する。
【0125】
次いで、射出充填が完了すると、図13(b)に示すように、プラスチック部材(成形品)の表面には、浸透物質が含浸したスキン層403が形成され、成形品の内部中央には、浸透物質がほとんど浸透していないコア層404が形成される。それゆえ、この例の成形方法では、成形品内部に浸透した浸透物質は表面機能に寄与しないことから、浸透物質の使用量を削減できる。なお、上述の1次充填後に溶融樹脂圧の保圧を高くした場合には、二酸化炭素のガス化による成形品の発泡を抑制できる。本実施例の成形方法では、可塑化シリンダー内のフローフロント部にのみに超臨界二酸化炭素を浸透させるので、充填樹脂の全体量に対する二酸化炭素の絶対量が少ない。それゆえ、カウンタープレッシャーを金型42のキャビティ45内に付加しなくても、プラスチック部材の表面性は悪化し難い。この例では、上述のようにして、プラスチック部材の成形を行うとともに、その表面に浸透物質を浸透させた。
【0126】
次に、表面に浸透物質(ポリエチレングリコール)が含浸したプラスチック部材を純水中で1時間超音波洗浄を行い、プラスチック部材の表面に含浸している浸透物質を除去した(図14中のステップS75)。この洗浄処理により、プラスチック部材の表面に微細な凹凸(微細孔)を形成した。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材の表面形状を物理的に変化させた。このようにして、この例では、プラスチック部材の表面改質を行った。
【0127】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材の表面にメッキ膜を形成した(図14中のステップS76及びS77)。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0128】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が15.2nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が105.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック部材を得ることができた。
【実施例8】
【0129】
実施例8では、実施例7と同様に、プラスチック部材を射出成形により成形すると同時に加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、表面に凹凸を有するプラスチック部材を成形し、プラスチック部材の凹部のみを表面改質し、凹部上にメッキ膜を形成する方法について説明する。
【0130】
なお、この例では、プラスチック部材の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリカーボネートを用い、浸透物質には分子量200のポリエチレングリコールを用いた。また、加圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0131】
[成形装置]
この例で用いた成形装置には、実施例7で用いた成形装置(図12)とほぼ同じ構成の装置を用いた。この例の成形装置では、固定金型43のキャビティ45側表面に、ラインアンドスペースの凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた。それ以外は、実施例7で用いた成形装置と同じ構造とした。
【0132】
[射出成形方法及び表面改質方法]
まず、実施例7と同様にして、浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を作製した。次いで、プラスチック部材の凹部の開口部を塞いで、80℃に加熱した純水を凹部のみに1時間流動させて、凹部を画成する表面に浸透した浸透物質のみを除去した。この洗浄処理により、プラスチック部材の凹部を画成する表面に浸透していたポリエチレングリコールのみが脱離して、その表面に微細な凹凸(微細孔)が形成された。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材の凹部を画成する表面のみを、選択的にその物理的形状を変化させた。このようにして、この例の表面改質されたプラスチック部材を得た。
【0133】
なお、上記凹部の洗浄処理方法には種々の方法が考えられるが、この例では、次のようにして、凹部の洗浄処理を行った。まず、ラインアンドスペースの凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面とミラー状の金型面の2面を有する金型を用意した。なお、この金型では、キャビティ内部で、成形品が凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面とミラー状の金型面との間を移動可能となるような構造の金型を用いた。次いで、ラインアンドスペースの凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面を使用して表面に凹部を有し且つ浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形した(一次成形)。次いで、プラスチック部材の凹部がミラー状の金型面と対向するようにプラスチック部材を移動させた。次いで、ミラー状の金型面でプラスチック部材をプレスして、プラスチック部材の凹部の開口部を塞いだ。次いで、塞がれた凹部のみに純水を流動させて凹部を画成する表面に浸透した浸透物質のみを除去した。ただし、プラスチック部材の凹部の開口部を塞ぐ方法はこれに限定されず、例えば、次のような方法により開口部を塞いでも良い。まず、凹凸パターンを有するスタンパを取り付ける金型面及びミラー状の金型面の2面を可動金型に設け、凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面を使用して表面に凹部を有し且つ浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形する。次いで、可動金型のミラー状の金型面をプラスチック部材表面と対向する位置に移動させてミラー状の金型面でプラスチック部材をプレスし、プラスチック部材の凹部の開口部を塞いでも良い。また、凹凸パターンを有するスタンパが取り付けられた金型面を有する第1金型と、ミラー状の金型面を有する第2金型を別個用意し、第1金型を使用して表面に凹部を有し且つ浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形した後、プラスチック部材を第2金型に移して、ミラー状の金型面でプラスチック部材の凹部の開口部を塞いでも良い。
【0134】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材の表面にメッキ膜を形成した。この例では、プラスチック部材の凹部を画成する表面のみが表面改質され微細な凹凸が形成されているので、この例では、プラスチック部材の凹部を画成する表面上のみにメッキ膜が形成された。また、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0135】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が15.8nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が120.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック部材を得ることができた。
【実施例9】
【0136】
実施例9では、実施例7と同様に、プラスチック部材を射出成形により成形すると同時に加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、異なる2種類の浸透物質を加圧流体に溶解させて、2種類の浸透物質をプラスチック部材の表面に浸透させた。2つの浸透物質には、水溶性ポリマーである分子量113.16のε−カプロラクタム(第1浸透物質)と、金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)(第2浸透物質)とを用いた。また、プラスチック部材の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリカーボネートを用い、加圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0137】
[成形装置]
本実施例で用いた成形装置には、実施例7で用いた成形装置(図12)とほぼ同じ構成の装置を用いた。この例の成形装置では、溶解槽46に上述した2種類の浸透物質をともに過飽和になるように仕込んだ。それ以外の構成は実施例7と同様である。
【0138】
[射出成形方法及び表面改質方法]
次に、図15を用いて、この例の成形方法及び表面改質方法について説明する。まず、実施例7と同様にして、2種類の浸透物質(第1及び第2浸透物質)が溶解した超臨界二酸化炭素を加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入して、2種類の浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を作製した(図15中のステップS91〜S94)。なお、この成形過程では溶融樹脂の熱により、浸透した金属錯体の多くが金属微粒子に還元される。次いで、プラスチック部材を純水中で1時間超音波洗浄した(図15中のステップS95)。この洗浄処理では、プラスチック部材に浸透している浸透物質のうち、水溶性ポリマーであるε−カプロラクタム(第1浸透物質)がプラスチック部材の表面から脱離して、その表面に微細な凹凸(微細孔)が形成される。もう一方の浸透した浸透物質である金属微粒子は、この洗浄処理によりほとんど除去されることはなく、プラスチック部材の表面内部に浸透した状態を保っていた。この例では、このようにしてプラスチック部材の表面改質を行った。
【0139】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材の表面にメッキ膜を形成した(図15中のステップS96及びS97)。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。なお、この例では、プラスチック部材の表面には微細な凹凸が形成されているだけでなく、メッキ膜の触媒核となる金属微粒子も含浸しているので、微細な凹凸によるアンカー効果とメッキ触媒核の存在により、密着性の一層優れたメッキ膜形成することができた。
【0140】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が18.8nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が129.0nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック部材を得ることができた。
【実施例10】
【0141】
実施例10では、少なくとも表面に浸透物質を有するプラスチック製シートを押し出し成形で作製した後、そのプラスチック製シートを用いてインサート(インモールド)成形してプラスチック部材を作製し、次いで、浸透物質を除去するプラスチック部材の表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。
【0142】
プラスチック製シートに用い得る樹脂材料は、押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意であるが、本実施例では、ポリカーボネートを用いた。また、プラスチック製シートに浸透させる材料もまた任意であるが、本実施例では浸透物質にはポリエチレングリコールを用いた。なお、この例では、加圧流体として液状の高圧二酸化炭素を用いた。
【0143】
[成形装置]
まず、プラスチック製シートを作製するために用いたこの例の成形装置について説明する。この例で用いた成形装置の概略構成図を図16に示した。この例で用いた成形装置600は、図16に示すように、主に、押し出し成形機部601と、二酸化炭素供給部602と、二酸化炭素排出部603とから構成される。
【0144】
押し出し成形機部601は、図16に示すように、主に、可塑化溶融シリンダー70(以下、加熱シリンダーともいう)と、加熱シリンダー70内に樹脂のペレットを供給するホッパー73と、加熱シリンダー70内のスクリュー71を回転させるモーター72と、冷却ジャケット77と、溶融樹脂の肉厚を薄くし且つ溶融樹脂を扇状に拡大させながら押し出すダイ80と、冷却ロール81とから構成される。スクリュー71としては、減圧部となるベント構造部74を有する単軸スクリューを用いた。
【0145】
押し出しダイ80の構造・方式は任意であり、作製する成形品の形状、用途等により適宜設定できるが、この例では押し出しダイ80として、フィルム成形用のTダイを用いた。また、この例の成形装置600では、Tダイ80より押し出されたプラスチック製シート82は冷却ロール81等により巻き取られる。本実施例では、Tダイ80のダイ押し出し口におけるギャップtは0.5mmに設定した。
【0146】
また、この例の成形装置600では、図16に示すように、二酸化炭素の導入口70aを溶融樹脂が減圧される単軸スクリュー71のベント機構部74付近に設けた。また、この例の成形装置600では、図16に示すように、樹脂内圧を測定するためのモニターを加熱シリンダー70と冷却ジャケット77との間の接続部(モニター76)と、冷却ジャケット77内部(モニター79)とに設けた。
【0147】
二酸化炭素供給部602は、図16に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ60と、シリンジポンプ62と、溶解槽61と、背圧弁63と、バルブ64と、圧力計66と、これらの構成要素を繋ぐ配管67とから構成される。また、バルブ64の下流側(2次側)は、図16に示すように、配管67を介して加熱シリンダー70の二酸化炭素の導入口70aに繋がれており、加熱シリンダー70内部の溶融樹脂の流路と流通している。なお、二酸化炭素の導入箇所は、これに限定されず、スクリュー71からTダイ80までの領域であれば、任意の箇所に設け得る。
【0148】
また、二酸化炭素排出部603は、図16に示すように、主に、二酸化炭素を排出するための抽出容器83と、背圧弁84と、圧力計85と、これらの構成要素を繋ぐ配管86とから構成される。また、背圧弁84の上流側(1次側)は、図16に示すように、配管86を介して冷却ジャケット77の二酸化炭素排出口77aと繋がれており、冷却ジャケット77内部の溶融樹脂の流路と流通している。
【0149】
なお、本実施例の押し出し成形機部601において、スクリュー71、加熱シリンダー70、ダイ80等の各機構は、公知の押し出し成形機の各機構と同様な形態を用いることができる。
【0150】
[プラスチック製シートの成形方法]
次に、本実施例におけるプラスチック製シートの成形方法を図16及び20を参照しながら説明する。まず、押し出し成形機部601のホッパー73に樹脂材料(ポリカーボネート)のペレットを充分な量だけ供給し、モーター72によりスクリュー71を回転させて樹脂材料を可塑化溶融し、溶融樹脂を加熱シリンダー70の先端に送った(図20中のステップS101)。この際、バンドヒータ75により加熱シリンダー70を280℃に温度調節した。
【0151】
次いで、予め浸透物質が仕込まれた溶解槽61の内部で加圧二酸化炭素(加圧流体)を流動させることにより浸透物質を加圧二酸化炭素に溶解させた(図20中のステップS102)。具体的には、次のようにして浸透物質を加圧二酸化炭素に溶解させた。まず、二酸化炭素ボンベ60から供給された液体二酸化炭素をシリンジポンプ62で昇圧および圧力調整し、圧力計66が15MPaになるよう圧力調整した。そして、昇圧された二酸化炭素を、40℃に温度制御され、浸透物質が過飽和になるように仕込まれた溶解槽61内部に流動させ、浸透物質を加圧二酸化炭素に溶解させた。
【0152】
次いで、バルブ64を開放して、配管67及び導入口70aを介して、加熱シリンダー70のベント構造部74に浸透物質を溶解した加圧二酸化炭素を導入し、浸透物質を加圧二酸化炭素とともに溶融樹脂に接触させて浸透させた(図20中のステップS103)。この際、シリンジポンプ62により加圧二酸化炭素の流量を制御し、且つ、背圧弁63により加圧二酸化炭素の圧力を制御しながら一定流量で浸透物質を溶解した加圧二酸化炭素を導入した。この際、ベント構造部74の溶融樹脂に注入された加圧二酸化炭素および浸透物質(ポリエチレングリコール)は、スクリュー71の回転により樹脂に混錬される。
【0153】
次いで、加圧二酸化炭素および浸透物質が混錬された溶融樹脂の圧力が樹脂内圧力のモニター76の表示で20MPaに上昇するように調整しながら、溶融樹脂を加熱シリンダー70から押し出した。
【0154】
次いで、加熱シリンダー70から押し出された溶融樹脂を、冷却ジャケット77を通過させた。なお、冷却ジャケット77は、冷却ジャケット77内部に設けられた冷却水路78を流動する温調水により200℃まで冷却されている。また、この例の成形装置600では、図16に示すように、冷却ジャケット77内部の溶融樹脂の流路の断面積が、加熱シリンダー70と冷却ジャケット77との接続部の溶融樹脂の流路の断面積より大きくしているので、溶融樹脂が冷却ジャケット77内を通過した際には、冷却と同時に減圧される。この例では、溶融樹脂が冷却ジャケット77内を通過した際には、減圧部の樹脂内圧力モニター79は10MPaを示した。
【0155】
次いで、冷却ジャケット77から押し出された溶融樹脂は、Tダイ80を通過し、Tダイ80から押し出された樹脂82は冷却ロール81等で巻き取られフィルム状(シート状)に連続成形された(図20中のステップS104)。そして、この例では、図示しない延伸装置で樹脂82を薄肉化して厚み0.1mmのプラスチック製シートを作製した。このようにして、ポリエチレングリコールが表面及び内部に分散したプラスチック製シートを得た。
【0156】
[インサート成形]
次に、上記押し出し成形により作製されたプラスチック製シートを用いて、インサート(インモールド)成形によりプラスチック部材を作製する方法を、図17及び18を参照しながら説明する。なお、この例のインサート成形で用いた射出成形装置900は、従来と同様の構造のものを用いた。
【0157】
まず、図17に示すように、上記押し出し成形により作製されたプラスチック製シート604を、金型90の可動金型91のキャビティ97側の表面に保持した(図20中のステップS105)。なお、この例では、キャビティ97側の表面がミラー曲面形状を有する可動金型91を用い、そのミラー曲面形状の表面にプラスチック製シート604を保持した。なお、金型90内のキャビティ97は固定金型92と可動金型91で画成される空間である。また、この例では、可動金型91のバキューム93回路を用いて、プラスチック製シート604を可動金型91表面に吸着することによりプラスチック製シート604を保持した。なお、この際、プラスチック製シート604は、図17に示すように、可動金型91の表面に完全に密着していなくてもよく、可動金型91の表面とプラスチック製シート604との間の一部に隙間が生じていてもよい。また、本実施例において、プラスチック製シート604と、金型表面やインサート成形時に射出される樹脂材料との密着性を向上させるために、樹脂フィルム604の表面に各種公知の接着層を設けてもよい。
【0158】
次いで、プラスチック製シート604を金型90のキャビティ97内に保持した状態で、射出成形装置900のスクリュー95にて可塑化溶融した樹脂96を射出成形装置900のスプール95を経てキャビティ97に射出充填した(インサート成形:図20中のステップ106)。この際、プラスチック製シート604は、図18に示すように、射出樹脂により金型表面に密着され(プラスチック製シート604と金型表面との隙間が無くなり)、プラスチック製シート604が所定に形状(ミラー形状)に成形される。このようにして、この例では、プラスチック製シート604と成形品基材605とが一体化されたプラスチック部材を得た。
【0159】
なお、この際、溶融樹脂によりプラスチック製シート604が塑性変形もしくは溶融することがあるが、成形品表面の金属膜の品質になんら影響を受けるものではない。また、この例では、ある程度弾力性を有するプラスチック製シート604をインサート成形しているので、従来のように金属フィルムをインサート成形した場合のように、金型内部に保持したフィルムに亀裂が生じることはない。
【0160】
なお、本実施例のプラスチック部材の製造方法では、インサート(インモールド)成形時に射出成形する充填樹脂材料は任意の樹脂材料が用い得る。例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン樹脂等及びそれら複合材料を用いることできる。また、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン等の各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。また、充填樹脂材料はプラスチック製シートの材料と同じでも異種でもよいが、プラスチック製シートの材料との接着性を高めるために同一材料であることが好ましい。本実施例ではプラスチック製シートの材料と同一の材料、すなわち、ポリカーボネートをインサート成形にて射出充填した。ただし、ガラス繊維30%入りで荷重たわみ温度(ISO75−2)が148℃のポリカーボネート材料を用いた。
【0161】
また、この例のプラスチック部材の製造方法では、浸透物質が含浸したプラスチック製シートの膜厚等を制御することにより、インサート成形後のプラスチック部材の浸透物質の浸透量や浸透深さを制御できる。
【0162】
上述したこの例のインサート成形により得られたプラスチック部材の表面粗さを触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)で測定した。算術平均粗さ(Ra)は5nm、十点平均粗さ(Rz)は8nmであった。
【0163】
次に、プラスチック製シート604と成形品基材605とが一体化されたプラスチック部材を射出成形機900から取り出した後、プラスチック部材をエタノール溶媒中にて30分間超音波洗浄して、プラスチック製シートの表面近傍に分散しているポリエチレングリコールを除去した(図20中のステップS107)。この工程により、ポリエチレングリコールが除去された箇所には微細孔が形成され、プラスチック部材の表面に微細な凹凸を形成した。この例では、上述のようにして、プラスチック部材の表面改質を行った。
【0164】
上述のように、本実施例のプラスチック部材の表面改質方法では、プラスチック製シート及び成形品基材の材料とは異なる低分子成分(この例ではポリエチレングリコール)が溶媒によりプラスチック製シートから除去されるので、少なくとも成形品の表面に微細孔が形成された樹脂成形品が得られる。なお、プラスチック製シートから低分子成分を除去するプロセスのタイミングは任意であり、除去プロセスはインサート成形の前後いずれに行ってもよい。また、微細孔のサイズは、低分子成分(浸透物質)の分子量やプラスチック製シートから低分子成分を抽出除去する際の条件により数nmオーダーからミクロンオーダーまでの範囲で制御可能である。
【0165】
上述のようにして作製された表面に微細孔が形成されたプラスチック部材の表面粗さを実施例1と同様にして測定した。その結果、算術平均粗さ(Ra)は15nm、十点平均粗さ(Rz)は130nmとなり、浸透物質を除去する前、すなわち、インサート成形後のプラスチック部材に比べて、表面粗さが大きくなった。これは、プラスチック製シート表面に分散していた低分子成分(ポリエチレングリコール)が除去され微細孔が形成されたことを示している。ただし、従来のメッキ工程で行うクロム酸や過マンガン酸のエッチング処理では成形品表面が数μm〜数十μm程度粗化されることを考えると、本実施例で表面改質されたプラスチック部材では、従来のエッチング処理により粗化された成形品に比べて良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られることが分かった。
【0166】
[メッキ膜の形成方法]
次に、この例では、ポリエチレングリコールが除去されたプラスチック部材に対して、実施例1と同様にして無電解銅メッキ処理を施してメッキ膜を形成した(図20中のステップS108)。なお、コンディショナー及び触媒の付与の工程においては、プラスチック製シート上への触媒核およびメッキ膜の浸漬を助長するため、超音波振動を付与した。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、クロスハッチのテープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0167】
上述のようにして表面にメッキ膜が形成されたプラスチック部材の樹脂フィルム近傍の拡大概略断面図を図19に示した。この例で作製されたプラスチック部材では、プラスチック製シートの表面近傍に分散した浸透物質(ポリエチレングリコール)を除去しているので、成形品基材605上に形成されたプラスチック製シート604の表面には、図19に示すように、一部微細孔604aが形成されている。そして、無電解メッキにより、この微細孔内に触媒核およびメッキ膜607が浸漬し、プラスチック製シート604の表面の微細孔604aによりアンカー効果が得られ、メッキ膜の強固な密着強度が得られたものと考えられる。すなわち、この例のメッキ膜が形成されたプラスチック部材では、表面を極力平滑に維持した状態で強固なアンカー効果を得ることができる。さらに、本実施例のプラスチック部材のメッキ膜の形成方法では、従来のエッチングでは十分に粗化できなかった樹脂材料、例えば、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネートの非メッキグレード、液晶ポリマー等に対しても容易にメッキ膜を形成することができる。また、本実施例のメッキ膜の形成方法では、従来の手法と同様に、パラジウム触媒のコロイドが成形品基材に吸着しやすいように界面活性剤を用いても良い。
【実施例11】
【0168】
実施例11では、加圧流体を用いないで、プラスチック部材の表面を改質する方法及びプラスチック部材の表面にメッキ膜を形成する方法の例について説明する。この例では浸透物質として水溶性ポリマーであるポリエチレングリコール(分子量200)を用い、プラスチック部材の形成材料としてはポリカーボネートを用いた。以下に、この例のプラスチック部材の成形方法及び表面改質方法からメッキ膜の形成方法までの手順を図21を用いて説明する。
【0169】
[成形方法及び表面改質方法]
まず、この例では、プラスチック部材の形成材料であるポリカーボネートと、浸透物質であるポリエチレングリコールとを公知の押し出し成形機内で混練してペレット(第1プラスチック樹脂)を作製した。具体的には、ポリカーボネートに対するポリエチレングリコールの混合比を30%として押し出し成形機に供給し、スクリューにて溶融及び混練しながらノズル先端のダイから樹脂を押出した。得られた成形品を冷却バスにて冷却し、ペレタイザーにて造粒した。この際、ポリカーボネートとポリエチレングリコールとの混練を均一にするために、添加剤により末端基を改質して親和性を向上させる等の改質を施しても良い。また、この例では、公知の押し出し成形機で、ポリエチレングリコールを含まないポリカーボネートからなるペレット(第2プラスチック樹脂)を作製した(図21中のステップS111)。なお、本発明では、プラスチック部材の形成材料は押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意である。
【0170】
次に、上記方法により得られた2種類のペレットを用いて、公知のサンドイッチ成形によりプラスチック部材を成形した。この例で用いたサンドイッチ成形装置は、2つの加熱シリンダーと、それらの先端ノズルと流通した金型とを備え、一方の加熱シリンダー(以下、第1加熱シリンダーともいう)から溶融樹脂を金型内に射出した後、他方の加熱シリンダー(以下、第2加熱シリンダーともいう)から溶融樹脂を射出充填して成形する公知のサンドイッチ成形装置である。この例のサンドイッチ成形では、次のようにしてプラスチック部材を成形した。
【0171】
まず、第1加熱シリンダー内に浸透物質を含むポリカーボネート(第1プラスチック樹脂)のペレットを供給して、可塑化溶融した(図21中のステップS112)。また、第2加熱シリンダー内に浸透物質を含まないポリカーボネート(第2プラスチック樹脂)のペレットを供給して、可塑化溶融した(図21中のステップS113)。次いで、第1加熱シリンダーから浸透物質を含むポリカーボネートの溶融樹脂を金型内に射出した(図21中のステップS114)。次いで、溶融樹脂の射出経路を第2加熱シリンダーに切り替えて、第2加熱シリンダーから浸透物質を含まないポリカーボネートの溶融樹脂を金型内に射出充填した(図21中のステップS115)。この結果、浸透物質を含まないポリカーボネートからなるコア層と、コア層上に形成された浸透物質を含むポリカーボネートからなるスキン層とを有するプラスチック部材が得られた。この例では、このようにして、表面に浸透物質が含浸したプラスチック部材を作製した。なお、プラスチック部材の成形方法としては、サンドイッチ成形に限らず、インサート成形、二色成形等を用いても良い。
【0172】
上記サンドイッチ成形で作製されたプラスチック部材を、純水中で1時間超音波洗浄を行った(図21中のステップS116)。これにより、プラスチック部材の表面(スキン層)に浸透していたポリエチレングリコールが脱離し、プラスチック部材の表面に微細な凹凸(微細孔)が形成された。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材の表面の形状を変化させた。この例では、このようにして、プラスチック部材の表面改質を行った。
【0173】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材の表面にメッキ膜を形成した(図21中のステップS117及びS118)。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0174】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が16.2nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が125.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック部材を得ることができた。
【0175】
上記実施例1〜5及び7〜10では、浸透物質を溶解槽で加圧流体に溶解させた例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、予め浸透物質が溶解した加圧流体を充填したボンベ等の貯蔵器を用い、その貯蔵器から浸透物質が溶解した加圧流体を直接プラスチック部材(または溶融樹脂)に供給(導入)しても良い。
【実施例12】
【0176】
実施例12では、実施例10と同様に、少なくとも表面に浸透物質を有するプラスチック製シートを作製し、そのプラスチック製シートを用いてインサート(インモールド)成形してプラスチック部材を作製し、次いで、浸透物質を除去するプラスチック部材の表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、表面に浸透物質を有するプラスチック製シートの作製方法を実施例10とは異なる方法を用いた。また、この例では、浸透物質の除去する際、浸透物質の抽出溶媒として超臨界二酸化炭素を用いた。
【0177】
[プラスチック製シートの作製方法]
この例のプラスチック製シートの作製方法を図24を参照しながら説明する。まず、浸透物質を含まないフィルム状の樹脂基材(樹脂フィルム)を用意した(図24中のステップS121)。この例では、樹脂フィルムとして厚み100μmのポリカーボネートフィルムを用いた。樹脂フィルムとしては、熱可塑性樹脂であれば任意の材料が用い得る。なお、この例では、後述するようにプラスチック部材をインサート成形により作製するので、インサート成形時に溶融もしくは半溶融する材料を樹脂フィルムとして用いるが望ましい。実施例10で説明したように、金型表面形状が屈曲している等の理由から成形前には樹脂フィルムが金型表面に密着し難くても、インサート成形時には、樹脂フィルムが充填された溶融樹脂に接して溶融もしくは半溶融することにより、樹脂フィルムで金型表面形状を完全にトレースすることができる。
【0178】
次いで、樹脂フィルムと同じ樹脂材料と、浸透物質とが含まれる混合溶液を調製した(図24中のステップS122)。この例では、浸透物質としては、末端にカルボキシル基を有するフッ素化合物である、カルボキシレートパーフルオロポリエーテルを用い、樹脂材料としてポリカーボネートのペレットを用い、そして、混合溶液の溶媒としてはジクロロメタンを用いた。そして、この例では、ポリカーボネート(樹脂材料)が溶解した溶媒中に、樹脂材料に対して10wt%の浸透物質(油状フッ素化合物)を混合して、ポリカーボネートと浸透物質との混合溶液を調製した。
【0179】
次に、キャスティング法により、混合溶液を樹脂フィルムの片面上に塗布して、樹脂フィルム上に浸透物質が内部に分散した樹脂薄膜(樹脂膜)を厚さ約0.5μmで形成した(図24中のステップS123)。なお、浸透物質が分散した樹脂薄膜の膜厚は、0.01〜10μmの膜厚が望ましい。膜厚が0.01μmより薄い場合、膜厚が薄すぎてメッキ膜形成時のアンカー効果が得難くなる。一方、膜厚が10μmより厚い場合(膜厚が厚すぎると)、浸透物質を抽出するのに時間がかかり、不経済である。
【0180】
この例では、上述のようにして、表面近傍に浸透物質が分散したプラスチック製シートを作製した。上述のように、キャスティング法を用いてプラスチック製シートを作製した場合には、浸透物質が分散している樹脂薄膜をより薄くすることができるとともに、浸透物質の浸透量、分布等をより調整し易くなる。
【0181】
[インサート成形]
次に、上述のようにして作製した表面近傍に浸透物質が分散したプラスチック製シートを用い、実施例10と同様にして、インサート成形によりプラスチック部材を成形した。この例では、インサート成形に、実施例10と同様の装置(図17に示す金型および射出成形機)を用いた。
【0182】
この例では、まず、金型内部にプラスチック製シートを挿入した後、固定金型のキャビティ表面形状と同じ曲面を有するテフロン(登録商標)ブロック(不図示)を用いて、可動金型の表面にプラスチック製シートを押し付けて、プラスチック製シートを可動金型に密着させて保持した(図24中のステップS124)。なお、この際、樹脂フィルム上に形成された浸透物質を含む樹脂薄膜が可動金型と対向するようにプラスチック製シートを可動金型に保持した。
【0183】
次いで、ABS含有のポリカーボネート樹脂の溶融樹脂をキャビティに射出充填して、プラスチック部材を成形した(インサート成形、図24中のステップS125)。その後、実施例10と同様にして、金型からプラスチック部材を取り出した。この例では、このようにして、表面近傍に浸透物質が分散したプラスチック製シートと、ABS含有のポリカーボネート樹脂からなる成形基材とが一体化されたポリカーボネート樹脂製のプラスチック部材を得た。
【0184】
[浸透物質の抽出方法及び抽出装置]
次に、上述のようにして成形されたプラスチック部材から、浸透物質を抽出した。なお、この例では、インサート成形後に浸透物質を抽出するが、プラスチック製シート表面に分散した浸透物質をインサート成形する前に溶媒により除去してもよい。ただし、浸透物質を含むプラスチック製シート(又は樹脂薄膜)が熱可塑性樹脂で形成されている場合、インサート成形時に射出充填された溶融樹脂により、プラスチック製シートが溶融および熱変形するので、インサート成形前に予め浸透物質を除去したプラスチック製シートを用いると、浸透物質が抽出された後の微細孔がインサート成形時に変形、消失してしまう恐れがある。それゆえ、この例のように浸透物質を含むプラスチック製シートが熱可塑性樹脂で形成されている場合には、インサート成形した後、浸透物質を除去することが望ましい。
【0185】
ここで、浸透物質の抽出方法を説明する前に、浸透物質を抽出するためにこの例で用いた浸透物質の抽出装置について説明する。この例で用いた浸透物質の抽出装置の概略構成を図25に示した。
【0186】
浸透物質の抽出装置700は、図25に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ701と、バッファータンク702と、高圧ポンプ703と、プラスチック部材を収容する高圧容器704と、循環ポンプ705と、高圧容器704等から排出されるガスを回収する2台の回収槽706及び707と、浸透物質を回収する回収タンク708と、それらの構成要素を繋ぐ配管715とで構成されている。配管715には、図25に示すように、抽出装置700内の抽出溶媒(加圧二酸化炭素)の流動を制御するためのバルブ709〜711、減圧弁712、及び、圧力計713,714が所定の位置に設けられている。また、この例の抽出装置700では、高圧容器704と循環ポンプ705との間で抽出溶媒が循環するように配管715を繋げている(図25中の循環系716)。
【0187】
この例では、図25に示した抽出装置700を用い、次のようにして、プラスチック部材の表面内部に分散した浸透物質を抽出(除去)した。まず、高圧容器704内に、上述の成形方法で作製されたプラスチック部材を複数個入れた。
【0188】
次いで、高圧容器704内部の温度を図示しない温調水で40℃に温調した。すなわち、この例では、浸透物質を抽出する際の温度を40℃に設定した。なお、プラスチック部材またはプラスチック製シートの形成材料の少なくとも一方が非晶性熱可塑性樹脂である場合、後述するように、加圧二酸化炭素により浸透物質を溶解して抽出する際には、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも20℃以上低い温度で抽出することが望ましい。それより高い温度で浸透物質を抽出すると、非晶性熱可塑性樹脂が加圧二酸化炭素の浸透により膨潤するので、プラスチック部材が変形する恐れがある。また、プラスチック部材またはプラスチック製シートの形成材料の少なくとも一方が結晶性熱可塑性樹脂である場合には、加圧二酸化炭素の浸透により樹脂は変形し難いが、樹脂の融点よりも低い温度で浸透物質を抽出することが望ましい。上記いずれの場合においても、浸透物質の抽出温度は−10℃以上であることが望ましい。抽出温度が−10℃より低いと、二酸化炭素が凝固してドライアイスになる恐れがある。
【0189】
本実施例では、プラスチック部材及びプラスチック製シートとも非晶性熱可塑性樹脂のポリカーボネート(ガラス転移温度はともに145℃程度)で形成したが、プラスチック部材の表面に浸透物質が分散した樹脂薄膜を形成しているので、プラスチック部材の表面では、ガラス転移温度が著しく低くなることもある。しかしながら、実際に、本実施例で作製したプラスチック部材及びプラスチック製シートを40℃の加圧二酸化炭素に所定時間曝したところ、プラスチック部材及びプラスチック製シートの表面は変形しないことが確認された。
【0190】
次に、液体二酸化炭素ボンベ701から液体二酸化炭素をバッファータンク702に供給し、バッファータンク702で液体二酸化炭素をガス化させた。次いで、高圧ポンプ703にてガス化した二酸化炭素を昇圧した。この際、減圧弁712により圧力制御された加圧二酸化炭素の圧力が、15MPaになるように昇圧した。その後、バルブ710を開き高圧容器704内部および高圧容器704と流通する循環系716全体に加圧二酸化炭素を導入した。この際、高圧容器704内部は40℃温調されているので、高圧容器704内部に導入された加圧二酸化炭素は超臨界状態(超臨界二酸化炭素)になる。また、この例では、循環系716内の配管715および循環ポンプ705等は温調せずに常温としたので、この常温部では、導入された加圧二酸化炭素は液体状の加圧二酸化炭素となっている。
【0191】
次いで、循環ポンプ705を駆動し、超臨界二酸化炭素および常温部の液体加圧二酸化炭素(以下、単に加圧二酸化炭素(抽出溶媒)ともいう)を循環系716内で循環させた。そして、この循環状態を15分間維持した。この工程により、プラスチック部材のプラスチック製シート側の表面近傍に分散した浸透物質を加圧二酸化炭素に溶解させて除去(抽出)した(図24中のステップS126)。
【0192】
加圧二酸化炭素を循環系716内で15分間循環させた後、バルブ711を開き、高圧容器704内部を減圧した。減圧されガス化した二酸化炭素は2台の回収槽706及び707に排出した。回収槽706及び707に排出された浸透物質を溶解している二酸化炭素は、回収槽706及び707の中で遠心分離の原理で浸透物質と二酸化炭素ガスに分離される。回収槽706及び707で分離された二酸化炭素ガスは配管715を介して外部に排出され、浸透物質は回収槽706及び707の下部に設けられた回収タンク708に回収される。回収タンク708で回収した浸透物質は、再度樹脂との混合溶液を調合するために再利用される。本実施例の加圧二酸化炭素を用いた浸透物質の抽出(除去)方法では、浸透物質の回収及び再利用が容易であるため、経済的な方法である。
【0193】
次いで、表面から浸透物質が抽出されたプラスチック部材を高圧容器から取り出した。取り出したプラスチック部材の表面状態をSEM観察したところ、プラスチック部材のプラスチック製シート側の表面には微細な穴が形成され、且つ、プラスチック部材のプラスチック製シート側の表面内部には、複数の孔が連結した蟻の巣状の連結孔が形成されていること確認された。なお、その連結孔の平均孔径は100nm程度であった。
【0194】
[メッキ膜の形成]
次に、上述のようにして作製したプラスチック部材の複雑な形状の連結孔が形成されている表面にメッキ膜を形成した。具体的には、実施例1と同様に、プラスチック部材に、コンディション(界面活性剤付与)、触媒付与、触媒活性、及び、無電解メッキの処理を施し、プラスチック部材の連結孔が形成されている表面上(プラスチック製シート上)に厚さ1μmの無電解メッキ膜を形成した(図24中のステップS127)。形成されたメッキ膜には光沢があり、このことからプラスチック部材のプラスチック製シート側の表面粗さが良好(小さい)であることが分かった。
【0195】
この例で作製した表面にメッキ膜が形成されたプラスチック部材の概略断面図を図26に示した。この例のプラスチック部材720は、図26に示すように、インサート成形により成形された成形基材721上に、プラスチック製シートの樹脂フィルム722、浸透物質が除去された樹脂薄膜723及びメッキ膜724がこの順で積層された構造を有する。樹脂フィルム722と成形基材721とはインサート成形により一体化されている。そして、樹脂薄膜723の連結孔726の一部に、メッキ膜が入り込んで成長している。すなわち、樹脂薄膜723には、メッキ膜724の一部が浸透したメッキ浸透層725が形成されている。なお、図26には示していないが、上記メッキ処理において、メッキ膜の触媒核となるPdの触媒微粒子がメッキ浸透層725内部(連結孔)に分散しており、このPd触媒微粒子を核にしてメッキ膜が成長するため、この例で形成したメッキ膜724は樹脂薄膜723内部から成長する。なお、連結孔の径が微細である場合には、図26に示すように、メッキ膜が樹脂薄膜723全体に浸透しないが、連結孔の径を適宜調整することにより、メッキ膜の浸透厚さを調整することができる。
【0196】
上述のように、この例で作製したメッキ膜を備えるプラスチック部材では、メッキ膜が、プラスチック部材の内部に一部浸透したような状態で形成されるので、物理的なアンカー効果が得られ、より密着性の優れたメッキ膜が形成される。また、プラスチック部材の表面に形成される孔(凹凸)も非常に小さいサイズであるので、平滑性の優れたメッキ膜が得られる。
【0197】
この例で作製したメッキ膜を備えるプラスチック部材に対して、実際に密着試験を行なった。具体的には、この例で作製したメッキ膜を備えるプラスチック部材に対して、温度−40℃と85℃との間で20サイクルのヒートサイクル試験を行った。その結果、メッキ膜には膜膨れが発生しなかった。このことから、本実施例のプラスチック部材では、メッキ膜が強固なアンカー効果により樹脂表面に密着していることが分かった。
【0198】
この例では、浸透物質として油状フッ素化合物を用いたが、抽出溶媒に溶解する材料であれば任意のものが浸透物質として用い得る。特に、この例のように、プラスチック部材に対する浸透性が高く且つ抽出能力の優れた超臨界二酸化炭素や液体二酸化炭素等の加圧二酸化炭素を抽出溶媒に用いた場合には、浸透物質としては、加圧二酸化炭素に溶解する各種界面活性剤、フッ素系低分子ポリマー、酸に溶解する炭酸カルシウム等の無機フィラー等を用いることができる。
【0199】
また、加圧二酸化炭素を抽出溶媒に用いた場合には、浸透物質として加圧二酸化炭素に溶解する有機物質が用い得る。そのような有機物質としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)−ポリプロピレンオキシド(PPO)のブロックコポリマー、PEO−ポリブチレンオキシド(PBO)のブロックコポリマー、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ペンタエチレングリコールn−オクチルエーテル等を用いることができる。
【0200】
さらに、加圧二酸化炭素を抽出溶媒に用いた場合には、浸透物質として、加圧二酸化炭素に対して溶解度の高いフッ素を含有した界面活性剤を用いてもよい。フッ素を含有した界面活性剤としては、例えば、各種フッソ化ポリアルキレングリコール、カルボキシレートパーフルオロポリエーテル(化学構造式:F−(CF2CF(CF3)O)n−CF2CF2COOH(Dupon社製 商品名Kritox)、ペルフルオロポリエーテルカルボン酸アンモニウム塩((化学構造式:F−(CF(CF3)CF2O)n-CF(CF3)COO−NH4+(ダイキン化学工業社製 C2404アンモニウム塩)、スルファコハク酸エステル塩(AOT)のペルフルオロアナキルアナローグ、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)基を有する各種界面活性剤を用いることができる。また、フッ素系高分子(ヘキサフルオロプロピレンエポキシド、Dupon社製 Kritox GPL207)、シリコーンオイル等を浸透物質として用いても良い。
【実施例13】
【0201】
実施例12では、メッキ処理の段階で、プラスチック製シート(樹脂薄膜)内にメッキ膜の触媒核となる金属微粒子を分散させたが、予めプラスチック製シート内に金属微粒子を分散させていてもよい。その一例を実施例13で説明する。具体的には、この例では、プラスチック製シートを作製する際に、浸透物質が分散した(連結孔が形成される)樹脂薄膜(第1樹脂薄膜)の下部に、パラジウムのメッキ触媒核が分散した樹脂薄膜(第2薄膜)を設けた。以下に、この例におけるプラスチック部材の製造からメッキ膜の形成までの一連の工程を図27を参照しながら説明する。
【0202】
まず、実施例12と同様に、厚み100μmのポリカーボネート製の樹脂フィルムを用意した(図27中のステップS131)。次いで、樹脂フィルムと同じ樹脂材料と、金属錯体とが含まれる混合溶液(第1混合溶液)を調製した(図27中のステップS132)。この例では、金属錯体として、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体を用い、樹脂材料及び混合溶液の溶媒は、実施例12と同様のものを用いた。また、この例では、ポリカーボネート(樹脂材料)が溶解した溶媒中に、樹脂材料に対して1wt%の金属錯体を混合して、ポリカーボネートと金属錯体との第1混合溶液を調合した。なお、この例では、メッキの触媒核となる金属微粒子の金属元素としてPdを用いたが、これ以外では、白金、ニッケル、銅等を用いることができる。
【0203】
次いで、キャスティング法により、第1混合溶液を樹脂フィルムの片面に上に塗布して、金属錯体が内部に分散した第1樹脂薄膜(第1樹脂膜)を厚さ約0.5μmで形成した(図27中のステップS133)。
【0204】
次に、実施例12と同様にして、樹脂フィルムと同じ樹脂材料と、浸透物質とが含まれる混合溶液(第2混合溶液)を調製した(図27中のステップS134)。この例では、浸透物質、樹脂材料及び混合溶液の溶媒は、実施例12と同様のものを用いた。次いで、キャスティング法により、第2混合溶液を第1樹脂薄膜上に塗布して、浸透物質が内部に分散した第2樹脂薄膜(第2樹脂膜)を厚さ約1μmで形成した(図27中のステップS135)。
【0205】
次いで、樹脂フィルム上に第1及び第2樹脂薄膜が形成されたプラスチック製シートを100℃の温度環境で5時間加熱した。この処理により、第1樹脂薄膜内に分布した金属錯体の一部を熱分解して還元し、固定化した(金属錯体の一部を金属微粒子に変質させた)。この例では、この様にして内部に浸透物質及び金属微粒子が分散したプラスチック製シートを作製した。
【0206】
次に、上述のようにして得られたプラスチック製シートを、実施例12と同様にして、射出成形機の金型内に保持し、インサート成形を行なった(図27中のステップS136及びS137)。なお、この例では、インサート成形で金型に射出充填した樹脂(成形基材の形成材料)は実施例12と同じものを用いた。この例では、この様にしてプラスチック部材を成形した。
【0207】
次に、上述のようにして作製されたプラスチック部材に対して、実施例12で用いた抽出装置(図25)を用い、実施例12と同様の方法で、浸透物質を加圧二酸化炭素(溶媒)によりプラスチック部材から抽出した(図27中のステップS138)。この処理により、第1樹脂薄膜中に連結孔を形成した。次いで、プラスチック部材に対してニッケルリンメッキの無電解メッキを施し、プラスチック部材のプラスチック製シート側の表面にメッキ膜を形成した。この際、メッキ液は、第1樹脂薄膜中の連結孔を介して第1樹脂薄膜中に浸透し、第2樹脂薄膜に到達する。そして、メッキ液が第2樹脂薄膜中に分散したPdの金属微粒子に接触し、その金属微粒子を核としてメッキ膜が成長する。それゆえ、この例のメッキ膜の形成方法では、プラスチック製シートの内部から、より具体的には、第1及び第2樹脂薄膜の界面近傍からメッキ膜が成長するので、より大きなアンカー効果が得られ、プラスチック部材とメッキ膜との間の密着性がより大きくなる。この例では、この様にして、表面にメッキ膜が形成されたプラスチック部材を得た。
【0208】
この例のメッキ膜の方法では、実施例12のようにインサート成形後の触媒付与工程が不要となる。それゆえ、この例の方法では、連結孔を有する第1樹脂薄膜を形成した後(浸透物質を抽出した後)、ただちにメッキ膜を形成できるので、プロセスを簡略化でき、量産性が向上する。
【0209】
また、この例の製造方法で作製されたプラスチック部材(プラスチック製シートでは、プラスチック部材のプラスチック製シート側の最表面(連結孔が形成された第1樹脂薄膜の最表面)における触媒核の濃度が低下しており、且つ、内部に十分な量の触媒核を分散しているので、メッキ処理を行った際に、プラスチック部材のプラスチック製シート側の最表面でメッキ膜が成長し難くなり、メッキ膜をプラスチック部材の内部から確実に成長させることできる。また、この例の製造方法では、樹脂とメッキ金属膜が混在した傾斜層(メッキ膜浸透層)を確実に形成することができ、密着性の優れたメッキ膜を効率よく形成することができる。さらに、この例のプラスチック部材の製造方法では、例えば、室温程度の低温でメッキ反応が起こるCuメッキを適用した場合であっても、プラスチック部材のプラスチック製シート側の最表面における触媒核の濃度が低いので、該表面でメッキ反応が起こらず、プラスチック部材内部からメッキ膜を成長させることができる。
【0210】
この例で作製した表面にメッキ膜が形成されたプラスチック部材の概略断面図を図28に示した。この例のプラスチック部材730は、図28に示すように、インサート成形により成形された成形基材731上に、プラスチック製シートの樹脂フィルム732、金属微粒子736が分散した第2樹脂薄膜733、浸透物質が除去されて連結孔737が内部に形成された第1樹脂薄膜734及びメッキ膜735がこの順で積層された構造を有する。樹脂フィルム732と成形基材731とはインサート成形により一体化されている。そして、メッキ膜735は、第2樹脂薄膜733の第1樹脂薄膜734側表面近傍に存在する金属微粒子736から第1樹脂薄膜734の連結孔736を介して成長しており、メッキ膜735の一部がプラスチック部材に浸透した状態になっている。それゆえ、この例では、そのメッキ膜浸透層の厚さは、第1樹脂薄膜734の厚さとほぼ同じになる。
【0211】
上述のようにして作製したメッキ膜を備えるプラスチック部材に対して、実施例12と同様に、メッキ膜の信頼性評価をしたところ、メッキ膜が膨れる等の問題は発生しなかった。
【実施例14】
【0212】
実施例13では、浸透物質の抽出工程と、メッキ液をプラスチック部材の内部に浸透させる工程とを別工程で行ったが、これらの工程を同時に行っても良い。実施例14ではその一例を説明する。
【0213】
この例では、まず、実施例13と同様にして、樹脂フィルム上に、金属微粒子が分散した第2樹脂膜及び浸透物質が分散した第1樹脂薄膜が形成されたプラスチック製シートを作製した。次いで、プラスチック製シートを実施例12と同様にして金型内に保持してインサート成形を行い、プラスチック製シートと成形基材とを一体化してプラスチック部材を作製した。
【0214】
次に、実施例12で用いた抽出装置(図25)を用いて、次のようにして浸透物質の抽出からメッキ膜の形成の工程を行った。まず、上述のように作製したプラスチック部材を40℃に温調された高圧容器704内に装着した。また、同時に、メタノール(アルコール)を40vol%の割合で混合したニッケルリンメッキ液を高圧容器704内に導入し、プラスチック部材をメッキ液中に浸漬した。次いで、実施例12と同様にして、圧力10MPaの加圧二酸化炭素を高圧容器704内に導入し滞留させた。この工程により、メッキ液が加圧二酸化炭素とともにプラスチック部材内部に浸透する。この際、メッキ液と加圧二酸化炭素の混合溶液は、第1樹脂薄膜中の浸透物質を抽出しながらプラスチック部材内部に浸透する。なお、この例で用いたメッキ液の反応温度65℃以上であるので、40℃に温調された高圧容器704内における上記工程では、メッキ反応は起こらない。
【0215】
次いで、高圧容器704の温度を図示しない温調水により80℃(メッキ反応が起こる温度)に上昇させた。この結果、高圧容器704の圧力は15MPaに上昇した。この工程により、第2樹脂薄膜中に分散したPd由来の金属微粒子にメッキ液を接触させ、プラスチック部材の内部からメッキ膜を成長させた。この例では、このようにして、プラスチック部材のプラスチック製シート側の表面にメッキ膜を形成した。その結果、この例においても、実施例12と同様の構造(図28)のプラスチック部材が得られ、メッキ膜はプラスチック部材の内部から、より具体的には、第1及び第2樹脂薄膜の界面近傍からメッキ膜が成長しており、密着性の優れたメッキ膜を形成することができた。
【0216】
この例で作製したメッキ膜を備えるプラスチック部材に対しても、実施例12と同様に、メッキ膜の信頼性評価をしたところ、メッキ膜が膨れる等の問題は発生しなかった。
【0217】
なお、この例のように超臨界状態等の加圧二酸化炭素をメッキ液に混合した場合、メッキ液の表面張力が低下し、プラスチック部材の内部にメッキ液が浸透しやすくなる。それゆえ、微細な連結孔が形成された第1樹脂薄膜内にもメッキ液が浸透し易くなり、金属触媒微粒子が分散した第2樹脂薄膜までメッキ液がより到達し易くなる。その結果、第2樹脂薄膜からメッキ膜が速やかに成長するので、メッキ速度が上昇し高効率である。
【0218】
また、この例のように、超臨界状態等の加圧二酸化炭素をメッキ液に混合すると、二酸化炭素によりメッキ液のpH(水素イオン指数)が低下するため、メッキ液がアルカリメッキ浴の場合にはメッキ液が中和されメッキ反応が起きなくなる恐れがある。それゆえ、この例のように加圧二酸化炭素をメッキ液に混合した場合には、メッキ液として、パラジウムやニッケルリン等の酸性メッキ浴を用いることが望ましい。
【0219】
超臨界状態等の加圧二酸化炭素をメッキ液に混合する場合には、この例のようにメッキ液にアルコール成分を添加することが望ましい。この場合、アルコールが界面活性剤の役割を果たし、メッキ液と二酸化炭素の混合性を高めるとともに、メッキ液の表面張力を低下させて樹脂内部にメッキ液を浸透しやすくする。
【実施例15】
【0220】
実施例12〜14では、インサート成形後に、浸透物質を抽出して、プラスチック部材の表面に微細な連結孔を形成した例を説明したが、実施例15では、インサート成形前に浸透物質を抽出して微細な連結孔を形成する例を説明する。浸透物質を分散させる樹脂薄膜の形成材料を熱変形し難い材料で形成した場合には、浸透物質の抽出処理をインサート成形前に行なうことができる。
【0221】
また、実施例13及び14では、浸透物質が分散した樹脂薄膜と、金属微粒子が分散した樹脂薄膜とを別々に形成したが、この例では、一つの樹脂薄膜中に浸透物質及び金属微粒子を分散させる例を説明する。
【0222】
本実施例では、浸透物質及び金属微粒子を分散させる樹脂薄膜の形成材料としては高耐熱樹脂材料である2液混合硬化型のエポキシ熱硬化性樹脂を用いた。浸透物質としては、平均分子量200で液状のポリエチレングリコールを用いた。また、上記樹脂材料及び浸透物質と混合させる金属錯体には、実施例13と同様に、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体を用いた。以下に、この例のプラスチック部材の製造方法を図29を参照しながら説明する。
【0223】
まず、厚み100μmの長尺状のポリカーボネート製樹脂フィルムを用意した(図29中のステップS141)。次いで、浸透物質、金属錯体及びエポキシ熱硬化性樹脂を含む混合溶液を調製した(図29中のステップS142)。具体的には、ポリエチレングリコール(浸透物質)をエポキシ樹脂接着剤に対して30wt%の割合で混合し、さらに、パラジウム金属錯体を1wt%の割合で混合したエポキシ樹脂接着剤をその溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンとトルエンの混合溶媒に溶解させ、浸透物質、金属錯体及びエポキシ熱硬化性樹脂を含む混合溶液を調製した。
【0224】
次いで、キャスティング法により、混合溶液を、樹脂フィルム上に塗布して、浸透物質及び金属錯体が内部に分散した樹脂薄膜を厚さ1μmで形成した(図29中のステップS143)。次いで、樹脂フィルムを温度120℃で10時間加熱し、エポキシ樹脂接着剤を熱硬化させた。また、この加熱処理により、金属錯体を熱分解して還元し、メッキの触媒核を固定化した。このようにして、高耐熱性の樹脂薄膜内部に浸透物質及び金属微粒子が分散した長尺状のプラスチック製シートを作製した。
【0225】
次いで、長尺状のプラスチック製シートを、アルミメッシュシートをセパレーターとして挟んで巻き取り、図25に示した抽出装置700の高圧容器704内部に仕込んだ。次いで、実施例12及び13と同様にして、加圧二酸化炭素を高圧容器704内に導入し、浸透物質を抽出した(図29中のステップS144)。この工程により、プラスチック製シートの片側表面に形成されたエポキシ樹脂製の樹脂薄膜の厚さ約1μmに渡って連結孔が形成された。
【0226】
次に、表面に連結孔が形成されたプラスチック製シートを、実施例12と同様にして金型に保持してインサート成形(ポリカーボネート樹脂を射出充填)を行ない、プラスチック部材を成形した(図29中のステップS145及びS146)。この際、この例ではプラスチック製シートの樹脂薄膜が高耐熱性の材料で形成されているので、射出充填した溶融樹脂の温度及び圧力により、樹脂薄膜内部の微細な連結孔が熱変形したり塞がったりすることはない。この例では、上述のようにして、表面近傍に微細な連結孔が形成されたプラスチック部材を作製した。
【0227】
次に、上述のように作製されたプラスチック部材のプラスチック製シート側の表面に、実施例14と同様にして加圧二酸化炭素を用いて無電解メッキ膜を形成した(図29中のステップS147)。なお、本実施例では浸透物質をインサート成形前に抽出しているので、メッキ膜形成時には、浸透物質の抽出工程は含まれない。この例では、上述のようにして、メッキ膜を備えたプラスチック部材を得た。
【0228】
この例で作製したプラスチック部材に対しても、メッキ膜の密着性を調べたところ良好な密着性が得られた。すなわち、この例のように、連結孔が形成される樹脂薄膜を高耐熱性材料で形成した場合、インサート成形前に浸透物質を抽出して連結孔を形成しても、インサート成形時に連結孔が変形し難く、プラスチック部材とメッキ膜との密着性を得るためのアンカー効果が得られることが分かった。
【0229】
また、この例のように、インサート成形前に浸透物質を抽出する方法では、次のような利点も得られる。実施例12〜13のように、インサート成形後に超臨界状態等の加圧二酸化炭素を用いて浸透物質の除去を行った場合、成形品自体を高圧容器に挿入しなければならないため、一度に処理できる成形品の数に限界がある。また、大きな成形品を処理する場合には、その処理が困難になるとともに、高圧容器の内容積を大きくする必要があり、高価となる。それに対して、この例のように、インサート成形する前に、フィルム状の形態(プラスチック製シートの状態)で浸透物質を除去した場合には、一度に処理できるプラスチック製シートの数が増大し、上記課題が解決される。また、特に、この例のように、超臨界状態等の加圧二酸化炭素を浸透物質の除去溶媒に用いた場合には、加圧二酸化炭素は拡散性や浸透性に優れているので、長尺のプラスチック製シートを巻き取った状態でも一括に処理することができ、大面積処理が可能となる。よって、スループットやコストに優れたプロセスを提供することができる。
【0230】
この例では、連結孔を内部形成する樹脂薄膜の形成材料としてエポキシ熱硬化型樹脂を用いたが、インサート成形時の熱および加重負荷により大きく塑性変形しない材料であれば、任意の材料が樹脂薄膜の形成材料として用い得、少なくとも100℃以上の耐熱性、望ましくは150℃以上、さらに望ましくは200℃以上の耐熱性(加重熱変形温度)を有することが望ましい。例えば、エポキシ等の光硬化性樹脂、ポリイミド、シリコーン等の熱硬化性樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリフタルアミド等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0231】
プラスチック製シートの樹脂フィルムの形成材料としては、熱可塑性樹脂からなる射出成形溶融樹脂との密着性を向上させ且つ複雑な金型の表面形状をトレースするために、樹脂フィルムの成形溶融樹脂との密着面もしくは樹脂フィルムそのものがインサート成形時に溶融もしくは半溶融するような材料が好ましく、具体的には、熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。なお、樹脂フィルム上に形成される樹脂薄膜が熱変形し難い膜であっても、樹脂薄膜を薄膜化することで、成形時に金型形状をトレースすることができる。
【0232】
また、この例では、樹脂フィルムの片側表面に連結孔を有する高耐熱樹脂製薄膜を形成したが、樹脂フィルムの両面に高耐熱樹脂製薄膜を形成してもよい。樹脂フィルムのインサート成形樹脂材料との密着面に、高温高圧に晒されても塑性変形しにくい連結孔を有する樹脂薄膜を設けることにより、インサート成形時に.該高耐熱樹脂製薄膜の内部に連結孔を介して溶融樹脂が充填され、樹脂フィルムと成形基材との間で密着性が確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0233】
本発明の表面改質方法では、様々な種類のプラスチックに対して、加圧流体を用いてプラスチック部材の表面にサブミクロンからナノオーダーの微細な凹凸を形成することができる。それゆえ、例えば、本発明の表面改質方法を無電解メッキ前処理プロセスとして用いた場合には、低コストでクリーンな無電解メッキ前処理プロセスとして好適である。
【0234】
本発明の金属膜の形成方法では、従来のメッキ法のように有害なエッチャントを用いることなく、平滑性及び密着性の優れた金属膜を様々な種類のプラスチック部材の表面に形成することができる。それゆえ、本発明の金属膜の形成方法は、あらゆる分野に適用可能であり且つ低コストでクリーンな金属膜の形成方法として好適である。また、本発明の金属膜の形成方法は、大面積の複雑な形状を有する成形品にも容易に適用可能である。
【0235】
また、本発明の表面改質方法及びプラスチック部材の製造方法では、プラスチック部材の表面に微細孔を形成することができるので、次のような用途に用いることができる。例えば、プラスチック部材の材料にポリ乳酸等の生分解性プラスチックを用いた場合には、微細孔に細胞を培養する再生医療用デバイスとして適用することができる。また、微細孔のサイズを可視光の波長より十分小さい100nm以下程度にした場合には、空孔率を増やすことで成形品表面の屈折率を低減することができる。さらに、プラスチック部材の表面から内部までの空孔率分布に傾斜をつけることにより、表面反射率を抑制することができる。この場合、表面の空孔率をプラスチック部材内部よりも増大させる必要があるが、本発明の表面改質方法の浸透物質の除去方法では、低分子成分は表面に近いほど多く抽出(除去)されるので、より容易にプラスチック部材の表面から内部までの空孔率分布の傾斜を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0236】
【図1】図1は、実施例1で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図2】図2は、成形されたプラスチック部材の表面のAFM観察像であり、図2(a)は浸透物質除去前のAFM観察像であり、図2(b)は浸透物質除去後のAFM観察像である。
【図3】図3は、実施例1の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】図4は、実施例5で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図5】図5は、図4中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図6】図6は、実施例5の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】図7は、実施例6で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図8】図8は、図7中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図9】図9は、図7中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図10】図10は、図7中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図11】図11は、実施例6の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図12】図12は、実施例7で用いた成形装置の概略構成図である。
【図13】図13は、溶融樹脂の射出充填時の様子を示した図であり、図13(a)は、初期充填時の様子を示した図であり、図13(b)は、充填完了時の様子を示した図である。
【図14】図14は、実施例7の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図15】図15は、実施例9の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図16】図16は、実施例10で用いた成形装置の概略構成図である。
【図17】図17は、インサート成形の方法を説明するための図面であり、溶融樹脂を射出する前の様子を示した図である。
【図18】図18は、インサート成形の方法を説明するための図面であり、溶融樹脂を射出充填した際の様子を示した図である。
【図19】図19は、実施例10で作製されたプラスチック成形品の概略断面図である。
【図20】図20は、実施例10の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図21】図21は、実施例11の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図22】図22は、本発明の表面改質方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図23】図23は、本発明の金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図24】図24は、実施例12の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図25】図25は、実施例12で用いた抽出装置の概略構成図である。
【図26】図26は、実施例12で作製されたプラスチック部材の概略断面図である。
【図27】図27は、実施例13の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図28】図28は、実施例13で作製されたプラスチック部材の概略断面図である。
【図29】図29は、実施例15の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0237】
1 二酸化炭素ボンベ
2 シリンジポンプ
3 溶解槽
4 高圧容器
4’ 金型
5 回収槽
100,200,300 改質装置
101,201 プラスチック部材
202,302 凹部
203,303 スルーホール
305 浸透物質
400,900 射出成形装置
600 押し出し成形装置
604 プラスチック製シート
604a 微細孔
605 成形品基材
606 メッキ触媒核
607 金属膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧流体を用いたプラスチック部材の表面改質方法、金属膜の形成方法及びプラスチック部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品からなる電子機器等の部品の表面に金属導電膜を形成する手段としては、現在、無電解メッキ法が広く利用されている。プラスチック成形品の成形から無電解メッキのプロセスは、成形品の材料などにより多少異なるが、一般には、樹脂成形、成形品の脱脂、エッチング、中和及び湿潤化、触媒付与、触媒活性化、並びに、無電解メッキの工程からなり、この順で行なわれる。
【0003】
上記従来の無電解メッキプロセスにおけるエッチングでは、クロム酸溶液やアルカリ金属水酸化物溶液などを用いてプラスチック成形品の表面を物理的に粗化し、粗化されたプラスチック表面におけるアンカー効果により成形品とメッキ膜との密着性を確保している。しかしながら、これらのエッチング液は中和等の後処理が必要なため、コスト高の要因となっている。また、毒性の高いエッチング液であるので、その取り扱いが煩雑であるという問題がある。
【0004】
また、無電解メッキ法以外のプラスチック製部材の表面の金属膜を形成する方法として、従来、超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)を用いたプラスチック部材(ポリマー部材)の無電解メッキ法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載された方法によれば、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させ、その超臨界二酸化炭素を各種ポリマー部材に接触させることで、プラスチック部材表面に有機金属錯体を注入する(浸透させる)。次いで、有機金属錯体が浸透したポリマー部材に対して加熱や化学還元処理する等によって有機金属錯体を還元することにより金属微粒子をポリマー部材表面に析出させる。これにより、ポリマー部材の表面全体が無電解メッキ可能になる。このプロセスによれば、廃液処理が不要で、表面粗さが良好な樹脂の無電解メッキプロセスを実現することができるとされている。
【0005】
また、プラスチック部材の表面粗化を抑え且つ良好なアンカー効果を得るプロセスとして、光触媒を用いたメッキ前処理プロセスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、光触媒として酸化チタンを用い、それをプラスチック部材の表面に塗布して紫外線照射を行いプラスチック部材の表面に微細な凹凸を形成する。次いで、形成された凹凸面上にメッキ膜を形成する。
【0006】
また、従来、超臨界二酸化炭素を用いて樹脂組成物を多孔化する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸樹脂及びそれに分散可能な分散性化合物が含有した感光性樹脂組成物から、分散性化合物を除去することにより、多孔化されたポリアミック酸樹脂を形成する。また、特許文献2には、多孔化されたポリアミック酸樹脂上に導電層を形成している。しかしながら、特許文献2には、樹脂材料がポリイミド樹脂に限定されている他、樹脂の最表面における物理的形状は開示されておらず、樹脂と導電層との密着性に関する記載はない。
【0007】
【特許文献1】特開2005−85900号公報
【特許文献2】特開2001−215701号公報
【非特許文献1】堀照夫著「超臨界流体の最新応用技術」株式会社エヌ・ティー・エス出版、p.250−255(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記非特許文献1に記載の超臨界二酸化炭素を用いた表面改質プロセスについて、本発明者らが鋭意検討した結果、次のような課題があることが判明した。超臨界二酸化炭素を用いた表面改質プロセスでは、プラスチック部材の表面を物理的に粗面化するプロセスを経ていないため表面の平滑性は良好であるが、メッキ膜とプラスチック部材との界面においてアンカー効果が得られない。非特許文献1の方法でプラスチック部材の表面にメッキ膜を形成した場合には、メッキ膜は浸透した有機金属錯体により密着が確保される。それゆえ、メッキ膜の密着性は、有機金属錯体の還元性、及び、それに起因するプラスチック部材表面における金属微粒子の密度や凝集状態等に影響されることになり、非特許文献1の方法で、これらの条件をすべて制御することは困難であることが分かった。
【0009】
また、プラスチック部材の表面を粗化するために、特許文献2に記載されている酸化チタンを用いた光触媒プロセスを用いた場合には、紫外線をプラスチック部材の表面に照射して光触媒反応を発生させる必要があるので、2次元形状(例えば、フィルム状)の成形品に対しては適用可能と考えられるが、複雑な3次元形状の成形品に対しては、その表面に均一に紫外線を照射することが困難であると考えられる。また、光触媒の反応時間も数十分と長いので、この反応時間の長さが工業化する際の課題となる恐れがある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、表面粗さが良好で且つ密着力の高い金属膜を形成することが可能なプラスチック部材の表面改質方法、金属膜の形成方法及びプラスチック部材の製造方法を提供することである。
【0011】
また、上述したように、従来、プラスチック部材(ポリマー部材)の表面に安価に金属膜を形成する方法として無電解メッキ法が知られている。しかしながら、この方法では、ポリマー部材の表面をクロム酸等のエッチングで粗化する必要があり、これらのエッチング液で粗化されるポリマーはABS等の樹脂に限定されていた。また、上記エッチング液で粗化され難いポリカーボネート等の他の材料では、無電解メッキ可能にするために、ABSやエラストマーを混合したメッキグレードの樹脂材料が市販されている。しかしながら、このようなメッキグレードの樹脂材料は耐熱性や反射性能の要求を十分に満足するものではなかった。
【0012】
そこで、本発明の別の目的は、様々な種類のプラスチックに対して表面粗さが良好でかつ密着力の高いメッキ膜を形成することが可能なプラスチック部材の表面改質方法及び金属膜の形成方法を提供することである。また、本発明のさらなる別の目的は、様々な種類のプラスチックに対して、表面に微細な凹凸か形成され且つ表面粗さが良好なプラスチック部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様に従えば、プラスチック部材の表面改質方法であって、加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることと、上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することとを含む表面改質方法が提供される。
【0014】
本発明の表面改質方法では、まず、加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させる(図22中のステップS1)。例えば、浸透物質を溶解した加圧流体をプラスチック部材の表面に接触させることによりプラスチック部材の表面を膨潤等させ、浸透物質を加圧流体とともにプラスチック部材の表面内部に浸透させる。その後、浸透物質が溶解する溶媒を用いてプラスチック部材を洗浄等することによりプラスチック部材の表面から浸透物質を除去する(図22中のステップS2)。浸透物質は数十〜数百nmのクラスター状でプラスチック部材の表面近傍に浸透しているため、上記溶媒による除去処理(洗浄処理)により、浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面にはサブミクロンからナノオーダーの微細孔が形成される。すなわち、プラスチック部材の表面にサブミクロンからナノオーダーの微細な凹凸を形成することができる。本発明の表面改質方法を用いると、様々な種類のプラスチック部材に対して、その表面に微細な凹凸を形成することができる。
【0015】
なお、本明細書でいう「加圧流体」とは、加圧された流体のことをいう。ただし、加圧流体の圧力は、浸透材料を十分に溶解する圧力であれば良く、ここでいう「加圧流体」には臨界点(超臨界状態)以上に加圧された流体のみならず、臨界点より低圧力で加圧された流体も含まれる。好ましくは5MPa以上に加圧された流体のことをいう。すなわち、本明細書でいう「加圧流体」には、超臨界流体のみならず、加圧された液状流体(液体)及び加圧不活性ガスも含む意味である。
【0016】
上記本発明の表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面に無電解メッキ等で金属膜を形成すると、プラスチック部材の表面に形成された微細な凹凸によるアンカー効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、密着性の優れた金属膜を形成することができる。また、上記本発明の表面改質方法によりプラスチック部材の表面に形成された凹凸は、上述のように、サブミクロンからナノオーダーのサイズであるので、上記本発明の表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面に金属膜を形成した場合には、非常に平滑性の優れた(表面粗化が抑制された)金属膜を形成することができ、電気特性の優れた金属膜を形成することができる。また、プラスチック部材の表面に形成される微細孔の含有割合を調整することにより、プラスチック部材の誘電率、誘電正接等の電気特性や、低屈折率化等の光学特性を制御することもできる。
【0017】
本発明の表面改質方法では、上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、上記浸透物質を加圧流体に溶解させることと、上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記プラスチック部材に接触させて上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことが好ましい。
【0018】
また、本発明の表面改質方法では、上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、上記浸透物質を溶解した溶液を上記プラスチック部材の表面に塗布することと、上記浸透物質が塗布された上記プラスチック部材に加圧流体を接触させて上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことが好ましい。
【0019】
本発明の表面改質方法では、上記プラスチック部材が凹部を有し、上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させる際に、上記加圧流体を上記プラスチック部材に接触させた状態で、上記凹部により上記プラスチック部材の表面に画成された開口を塞いで上記加圧流体を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック部材の表面内部に上記浸透物質を浸透させることが好ましい。
【0020】
表面に凹部を有するプラスチック部材に対する表面改質方法によれば、プラスチック部材の凹部を画成する表面に微細な凹凸を形成することができ、凹部を画成する表面の物理的形状を選択的に変化させることができる。それゆえ、この表面改質方法で作製したプラスチック部材に無電解メッキ等で金属膜を形成した場合には、プラスチック部材の凹部を画成する表面のみで選択的にナノオーダーでのアンカー効果を得ることができ、凹部を画成する表面のみに密着性及び平滑性の優れた金属膜を形成することができる。
【0021】
本発明の表面改質方法では、上記表面改質方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた表面改質方法であり、上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記加熱シリンダー内の上記溶融樹脂のフローフロント部に導入することと、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填することとを含むことが好ましい。
【0022】
この射出成形機を用いた表面改質方法では、浸透物質が溶解した加圧流体を加熱シリンダー内の溶融樹脂のフローフロント部に導入しているので、加熱シリンダー内の溶融樹脂を金型に射出すると、まず、浸透物質が浸透したフローフロント部の溶融樹脂が射出され、その後、浸透物質がほぼ浸透していない溶融樹脂が金型に射出充填される。浸透物質が浸透したフローフロント部の溶融樹脂が射出された際には、金型内における流動樹脂のファウンテンフロー現象(噴水効果)により、フローフロント部の溶融樹脂は金型表面に引っ張られながら金型に接して表面層(スキン層)を形成する。それゆえ、この表面改質方法では、浸透物質が分散したスキン層と浸透物質がほとんど分散していないコア層とからなるプラスチック成形品が得られる。上記射出成形機を用いた表面改質方法では、成形工程と表面改質工程とを同時に行うことができる。それゆえ、この方法を用いれば、加圧流体にある程度の溶解性を有する浸透物質であれば、様々な種類のプラスチック成形品の表面のみに浸透物質を均一に分散配置することができる。すなわち、この射出成形機を用いた表面改質方法は、様々な種類のプラスチック部材の表面改質技術に応用可能である。
【0023】
本発明の表面改質方法では、上記金型のキャビティ側表面に凹凸パターンが形成されており、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填して、表面に凹部を有し且つ該凹部の表面に浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形し、上記浸透物質を溶媒で溶解してプラスチック部材の表面から除去する際に、該溶媒を上記凹部の表面のみに接触させて上記凹部に浸透した浸透物質を除去することが好ましい。
【0024】
本発明の表面改質方法では、上記表面改質方法が、押し出し成形機を用いた表面改質方法であり、上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、上記浸透物質を溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内のプラスチック部材の溶融樹脂に接触させて、上記浸透材料を該溶融樹脂に浸透させることと、上記溶融樹脂を押し出し成形することとを含むことが好ましい。
【0025】
上記押し出し成形機を用いた表面改質方法においても、浸透物質を溶解した加圧流体を押し出し成形機内の溶融樹脂に注入するので、成形工程と同時に改質処理を行うので、様々な種類のプラスチック部材の表面改質が可能となる。それゆえ、この押し出し成形機を用いた表面改質方法もまた、様々な種類のプラスチック部材の表面改質技術に応用可能である。また、上記押し出し成形機を用いた表面改質方法を用いれば、表面改質したフィルム状のプラスチック成形品を連続して製造することもできる。なお、押し出し成形機内の浸透物質の注入箇所は加熱シリンダーから押し出しダイまでの領域内の位置であれば任意の位置に設け得る。
【0026】
本発明の表面改質方法では、上記加圧流体の圧力が、5〜25MPaであることが好ましい。加圧流体に対する浸透物質の溶解度は圧力の上昇とともに高くなる。圧力が5MPa以下であると浸透物質の溶解度が極めて低くなり、プラスチック部材表面への浸透物質の浸透効果が現れない。また、25MPa以上の高圧になると、プラスチック部材に対する加圧流体の浸透性が高くなり、プラスチック部材の発泡の制御が困難となる恐れがある。
【0027】
本発明の表面改質方法では、上記加圧流体が、二酸化炭素であることが好ましい。本発明の表面改質方法において、加圧流体として二酸化炭素を用いた場合には、超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素、液体二酸化炭素または気体二酸化炭素が加圧流体として用い得る。ただし、本発明はこれに限定されない。加圧流体としては、浸透物質をある程度溶解する媒体であれば任意のものを用い得る。例えば、加圧流体として、空気、水、ブタン、ペンタン、メタノール等を用いても良い。なお、浸透物質を溶解する加圧流体としては、有機材料に対する溶解度がヘキサン並みであり、無公害であり、且つプラスチック部材に対する親和性の高い超臨界二酸化炭素が特に好ましい。また、加圧流体に対する浸透物質の溶解度を向上させるために少量のエタノール等の有機溶剤をエントレーナとして混合しても良い。
【0028】
本発明の表面改質方法では、上記プラスチック部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか1つから形成されていることが好ましい。上述のように、本発明の表面改質方法は様々な種類のプラスチック部材に適用可能であり、例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、非晶質ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、液晶ポリマー、スチレン系樹脂、ポリメチルペンテン、ポリアセタール、シクロオレフィンポリマー等を用い得、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂等を用い得る。また、プラスチック部材として、上記材料を複合種混合したもの、これらを主成分とするポリマーアロイやこれらに各種の充填剤を配合したものを使用してもよい。
【0029】
本発明の表面改質方法では、上記浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることが好ましい。具体的には、浸透物質としては、ポリアルキルグリコールが好ましく、さらに好ましくはポリエチレングリコールが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されず、浸透物質としては、加圧流体にある程度の溶解性を示し且つ水溶性の材料であれば任意のものを用い得る。例えば、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ε−カプロラクタム、ポリオールエステル等を用いてもよい。また、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー、グリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤を浸透物質として用いてもよい。
【0030】
本発明の表面改質方法では、上記浸透物質の分子量が50〜2000であることが好ましい。分子量が2000以上の材料を用いると、加圧流体に対する溶解度が低下し、プラスチック部材表面への浸透物質の浸透効果が低下する。また、浸透物質として分子量が2000以上の材料を用いた場合には、プラスチック部材表面の平坦性が悪化しやすい傾向になり、特に、プラスチック部材から浸透物質を抽出(除去)する際に応力が発生し、プラスチック部材の表面にクラックが生じやすくなる。その他、プラスチック樹脂との相溶性の点を考慮した場合、浸透物質の分子量の範囲は上記範囲が望ましい。
【0031】
本発明の表面改質方法では、上記浸透物質が、第1浸透物質及び第2浸透物質を含み、上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去する際に、第1浸透物質を除去することが好ましい。
【0032】
本発明の第2の態様に従えば、プラスチック部材の表面に金属膜を形成する方法であって、浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することと、上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することと、上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することとを含む金属膜の形成方法が提供される。
【0033】
本発明の金属膜の形成方法では、上述した本発明の表面改質方法によりプラスチック部材の表面を改質し(図23中のステップS1’及びS2’)、その後、得られたプラスチック部材の表面に無電解メッキ等で金属膜を形成する(図23中のステップS3)。それゆえ、プラスチック部材の表面に形成されたサブミクロンからナノオーダーのサイズの微細な凹凸によるアンカー効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成することができる。また、上述したように、本発明の表面改質方法では様々な種類のプラスチック部材の表面に微細な凹凸を形成できるので、本発明の金属膜の形成方法では、様々な種類のプラスチック部材の表面に平滑性及び密着性の優れた金属膜を形成することができる。
【0034】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することが、上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面にメッキ触媒核を付与することと、無電解メッキ法により、上記メッキ触媒核が付与されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することとを含むこととが好ましい。
【0035】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質を加圧流体に溶解させることと、上記加圧流体をプラスチック部材に接触させて上記浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことが好ましい。
【0036】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質を溶解した溶液をプラスチック部材の表面に塗布することと、上記浸透物質が塗布されたプラスチック部材に加圧流体を接触させて上記浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことが好ましい。
【0037】
本発明の金属膜の形成方法では、上記プラスチック部材が凹部を有し、上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させる際に、上記加圧流体を上記プラスチック部材に接触させた状態で、上記凹部により上記プラスチック部材の表面に画成された開口を塞いで上記加圧流体を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック部材の表面内部に上記浸透物質を浸透させることが好ましい。
【0038】
本発明の金属膜の形成方法では、上記金属膜の形成方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記射出成形機内の溶融樹脂のフローフロント部に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、上記金型内に上記溶融樹脂を射出充填して成形することとを含むことが好ましい。
【0039】
本発明の金属膜の形成方法では、上記金型のキャビティ側表面に凹凸パターンが形成されており、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填して、表面に凹部を有し且つ該凹部の表面に浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形し、上記浸透物質を溶媒で溶解してプラスチック部材の表面から除去する際に、該溶媒を上記凹部の表面のみに接触させて上記凹部に浸透した浸透物質を除去することが好ましい。
【0040】
本発明の金属膜の形成方法では、上記金属膜の形成方法が、押し出し成形機を用いた金属膜の形成方法であり、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内のプラスチック部材の溶融樹脂に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、上記溶融樹脂を押し出し成形することとを含むことが好ましい。
【0041】
本発明の金属膜の形成方法では、上記加圧流体の圧力が、5〜25MPaであることが好ましい。また、本発明の金属膜の形成方法では、上記加圧流体が、二酸化炭素であることが好ましい。
【0042】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材が金型を備えた射出成形機を用いて作製され、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することと、上記プラスチック製シートを上記射出成形機の金型内に保持することと、上記プラスチック製シートが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことが好ましい。すなわち、本発明の金属膜の形成方法では、インサート成形により、浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意しても良い。
【0043】
このインサート成形を用いた金属膜の形成方法では、本発明の表面改質方法で得られた浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用いてインサート成形を行い、プラスチック製シートとインサート成形時に射出されたプラスチック基材とが一体化されたプラスチック成形品を成形する。この方法では、浸透物質が含浸したプラスチック製シートの膜厚等を制御することにより、インサート成形後のプラスチック成形品の浸透物質の浸透量や浸透深さを制御できる。
【0044】
本発明の金属膜の形成方法では、上記プラスチック製シートが押し出し成形機を用いて作製され、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することが、上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内の溶融樹脂に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、上記溶融樹脂を押し出し成形して上記プラスチック製シートを成形することとを含むことが好ましい。
【0045】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することが、プラスチック製フィルムを用意することと、上記浸透物質及びプラスチック樹脂を含む混合溶液を調製することと、上記プラスチック製フィルム上に上記混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記浸透物質が分散した樹脂膜を形成することとを含むことが好ましい。この方法を用いてプラスチック製シートを作製した場合には、浸透物質が分散している層(膜)をより薄くすることができるとともに、浸透物質の浸透量、分布等をより調整し易くなるので、安定したプラスチック部材の製造が可能になる。
【0046】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材が金型を備えた射出成形機を用いて作製され、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、プラスチック製フィルムを用意することと、金属微粒子及び第1プラスチック樹脂を含む第1混合溶液を調製することと、上記浸透物質及び第2プラスチック樹脂を含む第2混合溶液を調製することと、上記プラスチック製フィルム上に上記第1混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記金属微粒子が分散した第1樹脂膜を形成することと、第1樹脂膜上に第2混合溶液を塗布して、第1樹脂膜上に上記浸透物質が分散した第2樹脂膜を形成することと、第1及び第2樹脂膜が形成された上記プラスチック製フィルムを上記射出成形機の金型内に保持することと、上記プラスチック製フィルムが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことが好ましい。
【0047】
また、本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、プラスチック製フィルムを用意することと、上記浸透物質、金属微粒子及びプラスチック樹脂を含む混合溶液を調製することと、上記プラスチック製フィルム上に上記混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記浸透物質及び金属微粒子が分散した樹脂膜を形成することと、を含み、上記金属膜の形成方法が金型を備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、上記金属膜の形成方法が、さらに、上記浸透物質を除去した後に、上記樹脂膜が形成された上記プラスチック製フィルムを上記射出成形機の金型内に保持することと、上記プラスチック製フィルムが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことが好ましい。
【0048】
本発明の金属膜の形成方法では、上記金属膜の形成方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する第1及び第2加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、上記浸透物質を含む第1プラスチック樹脂及び上記浸透物質を含まない第2プラスチック樹脂を用意することと、第1プラスチック樹脂を第1加熱シリンダー内で可塑化溶融することと、第2プラスチック樹脂を第2加熱シリンダー内で可塑化溶融することと、溶融した第1プラスチック樹脂を上記金型内に射出することと、第1プラスチック樹脂を射出した後に、溶融した第2プラスチック樹脂を上記金型内に射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことが好ましい。すなわち、本発明の金属膜の形成方法では、サンドイッチ成形により、浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意しても良い。
【0049】
本発明の金属膜の形成方法では、上記プラスチック部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか1つから形成されていることが好ましい。
【0050】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることが好ましい。本発明の金属膜の形成方法では、特に、上記浸透物質がポリエチレングリコールであることが好ましい。また、本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質の分子量が50〜2000であることが好ましい。
【0051】
本発明の金属膜の形成方法では、上記浸透物質が、第1浸透物質及び第2浸透物質を含み、上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去する際に、第1浸透物質を除去することが好ましい。この場合、第1浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることが好ましい。また、第1浸透物質の分子量が50〜2000であることが好ましい。
【0052】
本発明の第3の態様に従えば、プラスチック部材の製造方法であって、浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することと、上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することとを含む製造方法が提供される。本発明のプラスチック部材の製造方法では、様々な種類のプラスチックに対して、表面に微細孔(微細な凹凸)を有し且つ平滑性の優れたプラスチック部材をより容易に作製することができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の表面改質方法によれば、様々な種類のプラスチック部材に対して、加圧流体を用いてプラスチック部材の表面にサブミクロンからナノオーダーの微細な凹凸を形成することができる。それゆえ、例えば、本発明の表面改質方法を無電解メッキ前処理プロセスとして用いた場合には、低コストでクリーンな無電解メッキ前処理プロセスを提供することができる。
【0054】
本発明の金属膜の形成方法によれば、本発明の表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面に無電解メッキ等で金属膜を形成するので、プラスチック部材の表面に形成されたサブミクロンからナノオーダーのサイズの微細な凹凸によるアンカー効果や表面積の拡大によるスケールメリット等により、密着性の優れた金属膜を形成することができる。また、プラスチック部材の表面に形成された凹凸は、サブミクロンからナノオーダーのサイズであるので、非常に平滑性の優れた(表面粗化が抑制された)金属膜を形成することができる。また、本発明の金属膜の形成方法によれば、従来のメッキ法のように有害なエッチャント(エッチング液)を用いることなくプラスチック部材の表面を粗化できるので、低コストでクリーンな金属膜の形成方法を提供することができる。
【0055】
本発明のプラスチック部材の製造方法によれば、様々な種類のプラスチックに対して、表面に微細孔(微細な凹凸)を有し且つ平滑性の優れたプラスチック部材を容易に作製することができる。また、プラスチック部材の表面に形成された微細孔の含有割合を調整することにより、プラスチック部材の誘電率、誘電正接等の電気特性や、低屈折率化等の光学特性を制御することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、本発明の表面改質方法、金属膜の形成方法及びプラスチック部材の製造方法の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0057】
実施例1では、熱可塑性樹脂製のプラスチック部材の表面に浸透物質の溶解した超臨界状態の二酸化炭素(加圧流体)を接触させて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う例を説明する。また、実施例1では、表面改質されたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する例についても説明する。この例では、浸透物質にポリエチレングリコール(分子量200)を用い、プラスチック部材にはポリカーボネート基板を用いた。
【0058】
[改質装置]
この例のプラスチック部材の表面改質に用いた装置の概略構成を図1に示した。改質装置100は、図1に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)を生成するシリンジポンプ2(ISCO社製 260D)と、浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽3と、プラスチック部材101を収容する高圧容器4と、高圧容器4等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図1に示すように、改質装置100内の加圧流体の流動を制御するための手動ニードルバルブ6〜10、保圧弁11及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。
【0059】
なお、この例で用いた高圧容器4は、カートリッジヒーター(不図示)で温調可能な高圧容器であり、冷却回路(不図示)を流動する冷却水によって冷却可能である。また、この例では、高圧容器4内のプラスチック部材101が装着される空間14の容量は10mlとした。
【0060】
[表面改質方法]
次に、この例のプラスチック部材の表面改質方法について、図1及び3を用いて説明する。なお、以下では、図1中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方法を説明する。
【0061】
まず、表面改質を施すプラスチック部材101(ポリカーボネート基板)を、図1に示すように、所定の温度(120℃)に温調された高圧容器4内に装着した。次に、浸透物質であるポリエチレングリコールを内容積10mlの溶解槽3に仕込んだ。なお、この例では、ポリエチレングリコールの仕込み量は1mlとした。また、ポリエチレングリコールの溶解度は低いため、超臨界二酸化炭素の接触面積を増やすために担持体(ISCO社製ウエットサポート)を用いた。
【0062】
次に、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給して加圧し、圧力計15が15MPaを示すように昇圧した。これにより、超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ6を開き、逆止弁12を介して溶解槽3に超臨界二酸化炭素を導入し、溶解槽3の内部を15MPaに昇圧するとともに、浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図3中のステップS11)。昇圧後、再度ニードルバルブ6を閉鎖した。
【0063】
次に、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2からそのポンプ圧と同圧(15MPa)の浸透物質の溶解していない超臨界二酸化炭素を高圧容器4内に導入して、高圧容器4内部を15MPaに昇圧した。この際、浸透物質の溶解していない超臨界二酸化炭素は高圧容器4を介して手動ニードルバルブ9及び10まで充填されており、圧力計16では15MPaが表示された。この例では、図1に示すように、高圧容器4の排出側に予め1次側の圧力が15MPaになるように調節された保圧弁11を設けて、超臨界二酸化炭素が圧力一定で流動するようにした。次いで、ニードルバルブ8を閉鎖し、高圧容器4内の空間14の圧力を15MPaに保持した。このように、高圧容器4内の圧力を予め15MPaに昇圧することにより、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を高圧容器4に導入する際に圧力損失なく導入することができる。
【0064】
次に、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を溶解槽3から高圧容器4に導入して、プラスチック部材101に浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を接触させた(図3中のステップS12)。具体的には、次のようにして超臨界二酸化炭素を導入した。まず、手動ニードルバルブ6および7を開放し、シリンジポンプ2を圧力制御から流量制御に切り替え、溶解槽3内の浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を高圧容器4に導入した。なお、ポンプの流量の設定は10ml/minとした。さらに、手動ニードルバルブ10を開き、超臨界二酸化炭素を回収槽5に1分間流動させた(排出した)。上記操作により、圧力を一定に保持した状態で高圧容器4内部および高圧容器4に流通する流路(配管等)を浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素で置換した。その後、ニードルバルブ6及び7を閉鎖した。
【0065】
次いで、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2から浸透物質が溶解していない超臨界二酸化炭素を高圧容器4に流通する流路(配管等)に導入し、流量10ml/minで10秒間流動させ、配管等に充填されている浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を所望の位置に輸送した(高圧容器4内に押し込んだ)。これにより、高圧容器4内に装着されたプラスチック部材101の表面付近では、超臨界二酸化炭素中の浸透物質の溶解濃度を高濃度に分布させることができる。この状態で、10分間圧力を保持し、浸透物質をプラスチック部材101の表面に浸透させた。
【0066】
次に、高圧容器4のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、高圧容器4を40℃まで冷却した。冷却中に高圧容器4の内圧が低下すると、プラスチック部材101の表面および内部に発泡を招く恐れがある。それゆえ、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に浸透物質及び二酸化炭素を回収しながら、高圧容器4を大気開放した。その後、浸透物質が表面内部に浸透したプラスチック部材101を高圧容器4から取り出した。
【0067】
次に、ポリエチレングリコール(浸透物質)が表面内部に含浸したプラスチック部材101を純水に浸漬して超音波洗浄を1時間行い、ポリエチレングリコールをプラスチック部材101から除去した(図3中のステップS13)。このプロセスにより、プラスチック部材101の表面に浸透していたポリエチレングリコールが脱離し、そのポリエチレングリコールが離脱した部分には、微細孔が形成される。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材101の表面に微細孔(微細な凹凸)を形成した(表面の物理的形状を変化させた)。その様子を示したのが、図2である。図2(a)は、上記洗浄処理前のプラスチック部材101の表面のAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)観察像であり、図2(b)は、上記洗浄処理後のプラスチック部材101の表面のAFM観察像である。図2(a)及び(b)から明らかなように、この例では洗浄処理後のプラスチック部材101の表面には、100〜300nm程度の微細な孔が形成されて多数形成されていることが分かった。この例では、上述のようにして、プラスチック部材101の表面改質を行い、表面に微細な凹凸(微細孔)が形成されたプラスチック部材101を得た。
【0068】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上述のようにして作製した表面に微細な凹凸が形成されているプラスチック部材101上に、無電解メッキ膜を形成した。具体的には、次のようにして、無電解メッキ膜を形成した。まず、プラスチック部材101を公知のコンディショナー(奥野製薬工業(株)製 OPC−370)を用いて脱脂した。次いで、触媒(奥野製薬工業(株)製 OPC−80キャタリスト)をプラスチック部材101に付与し(図3中のステップS14)、その後、活性剤(奥野製薬工業(株)製 OPC−500アクセレーターMX)を用いて触媒を活性化した。次いで、無電解銅メッキを施した(図3中のステップS15)。なお、メッキ液には奥野製薬工業(株)製 OPC−750無電解銅を用いた。その結果、プラスチック部材101上に形成されたメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例2】
【0069】
実施例2では、熱硬化性樹脂製のプラスチック部材の表面に浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素(加圧流体)を接触させて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う例を説明する。また、実施例2では、表面改質されたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法についても説明する。この例では、浸透物質にポリエチレングリコール(分子量200)、プラスチック部材にはポリイミド基板を用いた。
【0070】
本実施例では、実施例1と同様に、図1に示した改質装置を用いてプラスチック部材の表面改質を行った。なお、本実施例におけるプラスチック部材の表面改質方法および金属膜の形成方法は、図1に示す高圧容器4の温度を80℃としたこと以外は実施例1と同様にして行った。
【0071】
その結果、洗浄処理により浸透物質を除去した後のプラスチック部材の表面には、実施例1と同様に微細な孔が形成されて多数形成されていた。また、プラスチック部材上に無電界メッキにより形成したメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例3】
【0072】
実施例3では、光硬化性樹脂製のプラスチック部材の表面に浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素(加圧流体)を接触させて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う例を説明する。また、実施例3では、表面改質されたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する例についても説明する。この例では、浸透物質にポリエチレングリコール(分子量200)、プラスチック部材にはエポキシ樹脂材と硬化剤とを含む紫外線硬化型樹脂基板を用いた。
【0073】
本実施例では、実施例1と同様に、図1に示した改質装置を用いてプラスチック部材の表面改質を行った。なお、本実施例におけるプラスチック部材の表面改質方法および金属膜の形成方法は、図1に示す高圧容器4の温度を150℃としたこと以外は実施例1と同様にして行った。
【0074】
その結果、洗浄処理により浸透物質を除去した後のプラスチック部材の表面には、実施例1と同様に微細な孔が形成されて多数形成されていた。また、プラスチック部材上に無電界メッキにより形成したメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【実施例4】
【0075】
実施例4では、実施例1と同様に、熱可塑性樹脂製のプラスチック部材の表面に浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素(加圧流体)を接触させて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材の表面に浸透した浸透物質を除去して表面改質を行い、さらに、表面改質されたプラスチック部材の表面に無電解メッキによりメッキ膜(金属膜)を形成する例について説明する。ただし、この例では、浸透物質にポリエチレングリコール(分子量2000)を用い、プラスチック部材にはポリカーボネート基板を用いた。
【0076】
本実施例では、浸透物質としてポリエチレングリコール(分子量2000)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチック部材の表面改質および無電解メッキ膜を形成した。なお、改質装置としては、図1に示した装置を用いた。
【0077】
その結果、洗浄処理により浸透物質を除去した後のプラスチック部材の表面には、実施例1と同様に微細な孔が形成されて多数形成されていた。また、プラスチック部材上に形成したメッキ膜にはふくれがなく、後述するように、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0078】
[テープ剥離試験及び表面粗さの測定]
上記実施例1〜4の表面改質方法およびメッキ膜の形成方法により得られたメッキ膜に対して、テープ剥離試験を実施してメッキ膜の密着性を評価した。具体的には、メッキ膜が形成されたプラスチック部材を1mm間隔に100等分の升目を切り、分割された各プラスチック基板(100枚)に対してテープ剥離試験を行い、メッキ膜が剥離した枚数により無電解メッキ特性を評価した。テープにはニチバン(株)製の粘着テープ(No.405)を用いた。その結果を表1に示す。なお、表1中の評価基準は下記の通りである。
◎:剥離枚数が9枚以下の場合
○:剥離枚数が10枚以上29枚以下の場合
△:剥離枚数が30枚以上59枚以下の場合
×:剥離枚数が60枚以上、もしくはメッキ膜形成されなかった場合
【0079】
また、実施例1〜4でプラスチック部材の表面に形成したメッキ膜の表面粗さを触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)を用いて測定した。その結果も表1に示した。なお、表面粗さの測定では、各プラスチック基板の算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)を測定した。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示したテープ剥離試験の結果から明らかなように、実施例1〜4で形成されたメッキ膜は、全て◎評価となり、十分良好な密着強度が得られていることが分かった。これは、プラスチック部材の表面に含浸した浸透物質を洗浄除去して、プラスチック部材の表面に微細な凹凸を形成したことにより、アンカー効果等が増大したためであると考えられる。
【0082】
また、実施例1〜4でプラスチック部材の表面に形成されたメッキ膜の表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で数十nmのオーダーであり、十点平均粗さ(Rz)で数百nmのオーダーであることが分かった。従来のエッチング処理により表面粗化を図った場合には、プラスチック部材の表面粗さが数μm〜数十μmのオーダーになることを考えると、本発明のメッキ膜の形成方法では、従来の無電解メッキ方法に比べて、表面粗化が抑制され良好な平滑性が得られることが分かる。金属膜の表面粗さが大きい場合には、金属膜の反射率や電気特性(抵抗等)等が劣化するが、本発明のメッキ膜の形成方法は、基板の表面粗さを非常に小さくすることができるので、例えば、高反射率を必要とするリフレクター等の金属膜、良好な電気特性を必要とする高周波電気回路やアンテナ等の金属膜の形成方法として好適である。
【実施例5】
【0083】
実施例5では、表面に凹部を有する熱可塑性樹脂製のプラスチック部材に対して、加圧流体を用いて凹部のみを表面改質し且つメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。この例では、プラスチック部材の形成材料にはシクロオレフィン樹脂(Zeonex)を用い、公知の射出成形により、表面に凹部およびスルーホールを有するプラスチック部材を作製した。この例では、プラスチック部材の表面には幅50μm、深さ50μmの凹パターンおよび直径Φ200μm、高さ1.0mm(アスペクト比1.0/0.2=5.0)のスルーホールを形成した。また、この例では、浸透物質にポリエチレングリコール(分子量200)を用い、加圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0084】
[改質装置]
この例のプラスチック部材の表面改質に用いた装置の概略構成を図4に示した。改質装置200は、図4に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、超臨界二酸化炭素を生成するシリンジポンプ2(ISCO社製 260D)と、浸透物質(ポリエチレングリコール)を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽3と、複数のプラスチック部材201が収容可能な金型4’と、金型4’等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図4に示すように、改質装置200内の加圧流体の流動を制御するための手動ニードルバルブ6〜10、保圧弁11及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。すなわち、この例の改質装置200では、実施例1で用いた改質装置100の高圧容器4の代わりに、金型4’を用いた。
【0085】
金型4’は、図4及び5に示すように、主に、可動金型20と、固定金型21とから構成され、型締め装置(プレスピストン:不図示)により開閉される。なお、図5は、図4中の破線Aで囲まれた領域の拡大図である。プレスピストンは電動サーボモータ(不図示)による位置制御により移動可能となっている。また、金型4’は、図示しないカートリッジヒータにより温調可能な構造になっている。さらに、この例の金型4’は、図示しない冷却回路を流動する冷却水によって冷却可能である。
【0086】
この例の金型4’では、図4及び5に示すように、可動金型20と固定金型21との間に複数のプラスチック部材201を挟み込んで保持する構造になっている。可動金型20の固定金型21側の表面には、図4及び5に示すように、プラスチック部材201の上半分の外形と倣った凹部20aが複数形成されており、固定金型21の可動金型20側の表面には、プラスチック部材201の下半分の外形と倣った凹部21aが複数形成されている。そして、可動金型20の凹部20aと固定金型21の凹部21aとは互いに対向する位置に配置されている。すなわち、可動金型20と固定金型21とを閉じた際に、固定金型21と可動金型20との界面に、可動金型20の凹部20aと固定金型21の凹部21aとにより、プラスチック部材201の外形寸法及び形状とほぼ同じ寸法及び形状を有する空間(以下、キャビティともいう)が複数画成されるような構造になっている。それゆえ、可動金型20及び固定金型21の界面にプラスチック部材201を装着して金型を閉めると、プラスチック部材201の表面に形成されている凹部202及びスルーホール203の開口部(凹部及びスルーホールによりプラスチック部材201の表面に画成された開口)は金型により塞がれた状態となる。
【0087】
また、金型4’には、図4に示すように、超臨界二酸化炭素を可動金型20及び固定金型21間に画成される空間と導入するための導入口23と、金型4’から超臨界二酸化炭素が排出される排出口24が形成されている。また、本実施例におけるプレスピストンの初期型開量22は1mmとなるようにした(図5参照)。
【0088】
[表面改質方法]
実施例5におけるプラスチック部材の表面改質方法について図4〜6を用いて説明する。なお、以下では、図4中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方法を説明する。
【0089】
まず、公知の射出成形によりプラスチック部材201を作製し、そのプラスチック部材201に、波長185nmの低圧水銀ランプによりUV光を1分間照射した。これにより、プラスチック部材201の表面を親水化処理し、浸透物質であるポリエチレングリコールとプラスチック部材201との親和性を高めた。次に、図4に示すように、所定の温度(120℃)に温調された金型4’内に複数のプラスチック部材201を装着した。
【0090】
次に、浸透物質であるポリエチレングリコールを内容積10mlの溶解槽3に仕込んだ。なお、この例では、ポリエチレングリコールの仕込み量は1mlとした。また、ポリエチレングリコールの二酸化炭素に対する溶解度は低いので、超臨界二酸化炭素の接触面積を増やすために担持体(ISCO社製ウエットサポート)を用いた。
【0091】
次に、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素をシリンジポンプ2に供給して加圧し、圧力計15が15MPaを示すように昇圧して超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ6を開き、逆止弁12を介して溶解槽3に超臨界二酸化炭素を導入し、溶解槽3の内部を15MPaに昇圧するとともに、浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図6中のステップS51)。昇圧後、再度ニードルバルブ6を閉鎖した。
【0092】
次に、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2からそのポンプ圧と同圧(15MPa)の浸透物質の溶解していない超臨界二酸化炭素を金型4’のキャビティに導入して、金型4’内部を15MPaに昇圧した。この際、浸透物質の溶解していない超臨界二酸化炭素は金型4’を介して手動ニードルバルブ9及び10まで充填されており、圧力計16では15MPaが表示された。この例では、図4に示すように、金型4’の排出側に予め1次側の圧力が15MPaになるように調節された保圧弁11を設けて、超臨界二酸化炭素が圧力一定で流動するようにした。次いで、ニードルバルブ8を閉鎖し、金型4’内のキャビティの圧力を15MPaに保持した。このように、金型4’内の圧力を予め15MPaに昇圧することにより、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’に導入する際に圧力損失なく導入することができる。
【0093】
次に、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を溶解槽3から金型4’に導入して、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素をプラスチック部材201に接触させた(図6中のステップS52)。具体的には、次のようにして浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を導入した。まず、手動ニードルバルブ6および7を開放し、シリンジポンプ2を圧力制御から流量制御に切り替え、溶解槽3内の浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’に導入した。なお、ポンプの流量の設定は10ml/minとした。さらに、手動ニードルバルブ10を開き、回収槽5に超臨界二酸化炭素を1分間流動させた(排出した)。上記操作により、圧力を一定に保持した状態で金型4’内部および金型4’に流通する流路(配管等)を浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素で置換した。その後、ニードルバルブ6及び7を閉鎖した。
【0094】
次いで、ニードルバルブ8を開き、シリンジポンプ2から浸透物質が溶解していない超臨界二酸化炭素を金型4’に流通する流路(配管等)に導入し、流量10ml/minで10秒間流動させ、配管等に充填されている浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を所望の位置に輸送した(金型4’内部に押し込んだ)。これにより、金型4’内に装着されたプラスチック部材201の表面付近では、超臨界二酸化炭素中の浸透物質の溶解濃度を高濃度に分布させることができる。
【0095】
次いで、超臨界二酸化炭素をプラスチック部材201に接触させた状態で、金型4’を閉め、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の開口部を塞いで、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を凹部202及びスルーホール203のみに滞留させた(図6中のステップS53)。具体的には、プレスピストンを上昇させてプラスチック部材201をプレスすることにより金型4’を閉め、前記凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201の表面にのみ選択的に、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を接触させた。この際、浸透物質が超臨界二酸化炭素とともに凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201の表面内部に浸透する。この例では、この状態を10分間保持して、浸透物質を凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201の表面内部に浸透させた。この方法を用いると、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203を画成するプラスチック部材201表面にのみ均一に且つ高濃度で浸透物質を浸透させることができる。
【0096】
なお、この例では、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めてプラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の開口部を塞ぐまでの工程(図6中のステップS52からS53までの工程)を、短い時間(この例では5〜10秒)で行っているので、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203以外の表面にはほとんど浸透物質は浸透しない。ただし、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの時間を長くすると、超臨界二酸化炭素に溶解した浸透物質が凹部202及びスルーホール203以外の表面にも高濃度で浸透する恐れがあるので、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの工程は、できるだけ短い時間内で行なうことが好ましい。
【0097】
次に、金型4’のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、金型4’を40℃まで冷却した。なお、冷却中に金型4’の内圧を低下させると、プラスチック部材201の表面および内部で発泡が起こる恐れがあるので、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に浸透物質及び二酸化炭素を回収しながら、金型4’を大気開放した。次いで、金型4’からプラスチック部材201を取り出した。
【0098】
次に、上記方法により凹部202及びスルーホール203の表面にポリエチレングリコールが含浸したプラスチック部材201から、該ポリエチレングリコールを除去した(図6中のステップS54)。具体的には、表面にポリエチレングリコールが含浸したプラスチック部材201を純水に浸漬して超音波洗浄を1時間行った。この洗浄処理により、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の表面に浸透していたポリエチレングリコールが脱離して、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の表面に微細な凹凸が形成される。すなわち、この洗浄処理により、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203の表面においてのみ、選択的に表面の物理的形状を変化させた。このようにして、この例ではプラスチック部材201の表面改質を行い、凹部202及びスルーホール203を画成する表面のみが改質されたプラスチック部材201を得た。
【0099】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材201に、実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材201の表面にメッキ膜を形成した(図6中のステップS55及びS56)。その結果、この例では、プラスチック部材201の凹部202及びスルーホール203を画成する表面上にのみ金属膜が形成された。また、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0100】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が21.0nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が149.3nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の高い無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【実施例6】
【0101】
実施例6では、実施例5と同様に、表面に凹部及びスルーホールを有する熱可塑性樹脂製のプラスチック部材に対して、凹部及びスルーホールのみを表面改質し且つメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、浸透物質を含む溶液をプラスチック部材の表面に塗布した後、超臨界二酸化炭素(加圧流体)を接触させることにより浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解し、超臨界二酸化炭素とともに浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させる例について説明する。
【0102】
この例では、プラスチック部材の形成材料にシクロオレフィン樹脂(Zeonex)を用い、公知の射出成形により、表面に凹部及びスルーホールを有するプラスチック部材を作製した。この例では、プラスチック部材の表面には幅50μm、深さ50μmの凹パターンおよび直径Φ200μm、高さ1.0mm(アスペクト比1.0/0.2=5.0)のスルーホールを形成した。また、この例では、浸透物質にはポリエチレングリコール(分子量600)を用いた。
【0103】
[改質装置]
本実施例でプラスチック部材の表面改質を行うために用いた改質装置の概略構成を図7に示した。この例の改質装置300は、図7に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、超臨界二酸化炭素を生成する高圧ポンプ33と、プラスチック部材301を収容する金型4’と、金型4’等から排出されるガスを回収する回収槽5と、それらの構成要素を繋ぐ配管13とで構成されている。また、配管13には、図7に示すように、改質装置300内の加圧流体の流動を制御するための手動ニードルバルブ8〜10、保圧弁11及び逆止弁12が所定の位置に設けられている。
【0104】
図7から明らかなように、この例で用いた改質装置300では、実施例5で用いた改質装置200(図4参照)のシリンジポンプ2の代わりに高圧ポンプ33を用いた。また、この例で用いた改質装置300では、実施例5の改質装置200の溶解槽3を設けない構成とした。なお、この例の改質装置300で用いた金型4’は実施例5と同様の構造であり、プレスピストンの初期型開量22は1mmとなるようにした(後述する図8参照)。
【0105】
[表面改質方法]
本実施例におけるプラスチック部材の表面改質方法について、図7〜11を用いて説明する。なお、以下では、図7中の各バルブが全て閉じられた状態からこの例の表面改質方法を説明する。
【0106】
まず、プラスチック部材301に、波長185nmの低圧水銀ランプによりUV光を1分間照射した。これにより、プラスチック部材301の表面を親水化処理し、浸透物質であるポリエチレングリコールとプラスチック部材301との親和性を高めた。次いで、ポリエチレングリコール(分子量600)を60℃に加熱して溶液の状態にし、その溶液(図8中の304)をプラスチック部材301(プラスチック)の表面に塗布した(図11中のステップS61)。なお、本実施例で用いたポリエチレングリコール(分子量600)は室温で半固体状物質であり、高温下で液状物質となる。
【0107】
次いで、図7及び8に示すように、表面に浸透物質の溶液304が塗布されたプラスチック部材301を所定の温度(120℃)に温調された金型4’内に装着した。次いで、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素を高圧ポンプ33に供給して加圧し、圧力計15が15MPaを示すように昇圧して超臨界二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ8及び10を開放することにより、逆支弁12を介して金型4’および配管内に15MPaの超臨界二酸化炭素を導入して、超臨界二酸化炭素をプラスチック部材301に接触させた(図11中のステップS62)。ここで、金型4’の排出側には、本実施例のように予め1次側の圧力を15MPaに調節した保圧弁11を設けておき、圧力一定で超臨界二酸化炭素を流動させることが望ましい。
【0108】
次に、プラスチック部材301の表面に超臨界二酸化炭素を接触させた状態で、金型4’を閉め、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303の開口部を塞いで、超臨界二酸化炭素を凹部302及びスルーホール303のみに滞留させた(図9の状態、図11中のステップS63)。この例では、この状態10分間保持した。
【0109】
この際、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303のみに超臨界二酸化炭素を滞留させることで、超臨界二酸化炭素が、プラスチック部材301表面に塗布された溶液304を介して、凹部302及びスルーホール302を画成するプラスチック部材301の表面に接触する。それにより、熱可塑性樹脂であるプラスチック部材301の表面が膨潤し、その粘性が低下し軟化する。同時に、プラスチック部材301の表面に塗布された液状の浸透物質304(ポリエチレングリコール)が超臨界二酸化炭素に溶解して、超臨界二酸化炭素とともに凹部302及びスルーホール303を画成するプラスチック部材301の表面内部に浸透する。この方法を用いると、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成するプラスチック部材301の表面にのみ均一に且つ高濃度で浸透物質を浸透させることができる。
【0110】
なお、この例では、超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めてプラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303の開口部を塞ぐまでの工程(図11中のステップS62からS63までの工程)を、短い時間(この例では5〜10秒)で行っているので、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303以外の表面にはほとんど浸透物質は浸透しない。ただし、超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの時間を長くすると、超臨界二酸化炭素に溶解した浸透物質が凹部302及びスルーホール303以外の表面にも高濃度で浸透する恐れがあるので、超臨界二酸化炭素を金型4’内部に導入してから金型4’を閉めるまでの工程は、できるだけ短い時間内で行なうことが好ましい。
【0111】
次に、金型4’のヒーターの電源を切り、冷却水を流し、金型4’を40℃まで冷却した。なお、冷却中に金型4’の内圧が低下すると、プラスチック部材301の表面および内部で発泡を招く恐れがある。それゆえ、冷却中は外圧保持することが望ましい。その後、手動ニードルバルブ8を閉じ、同時にバルブ9を開放して、回収槽5に浸透物質及び二酸化炭素を回収しながら、金型4’を大気開放した(図10の状態)。その後、浸透物質305が表面に浸透したプラスチック部材301を金型4’から取り出した。
【0112】
次に、上記方法により凹部302及びスルーホール303を画成する表面にのみ浸透物質305(ポリエチレングリコール)が含浸したプラスチック部材301から、該浸透物質305を除去した(図11中のステップS64)。具体的には、プラスチック部材301を純水に浸漬して超音波洗浄を1時間行った。これにより、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成する表面に浸透していたポリエチレングリコールが脱離して、その表面に微細な凹凸(孔)が形成される。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成する表面のみを、選択的にその物理的形状を変化させた。このようにして、この例ではプラスチック部材301の表面改質を行い、凹部302及びスルーホール303を画成する表面のみが改質されたプラスチック部材301を得た。
【0113】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材301に、実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材301の表面にメッキ膜を形成した(図11中のステップS65及びS66)。その結果、この例では、プラスチック部材301の凹部302及びスルーホール303を画成する表面上にのみ金属膜が形成された。また、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0114】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が25.6nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が179.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の高い無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック成形品を得ることができた。
【実施例7】
【0115】
実施例7では、プラスチック成形品(プラスチック部材)を射出成形により成形すると同時に加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。
【0116】
なお、この例では、プラスチック部材の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリカーボネートを用い、浸透物質には分子量200のポリエチレングリコールを用いた。また、加圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0117】
[成形装置]
本実施例で用いた成形装置の概略構成を図12に示した。この例で用いた成形装置400は、図12に示すように、射出成形機部401と、超臨界流体発生装置部402とから構成される。
【0118】
射出成形機部401は、図12に示すように、主に、溶融樹脂を射出する可塑性シリンダー40と、可動金型43と、固定金型44とから構成される。金型42内では、可動金型43および固定金型44が突き当たることにより、中心にスプールを有する円盤形状のキャビティ45が形成される。なお、この例では、図12に示すように、可動金型43及び固定金型44のキャビティ45側の表面のうちキャビティ45の中央に対応する部分(スプール等)以外の領域の形状は平面(ミラー面)とした。また、加熱シリンダー40(可塑化シリンダー)内のフローフロント部56の側部には、図12に示すように、ガス導入機構41を設けた。その他の構造は、従来の射出成形機と同様の構造となっている。
【0119】
超臨界流体発生装置部402は、図12に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ1と、公知のシリンジポンプ2台からなる連続フローシステム47(ISCO社製E−260)と、浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽46とから構成され、各構成要素は配管52により繋がれている。また、溶解槽46は、図12に示すように、エアーオペレートバルブ50,51を介して、射出成形機部401のガス導入機構41に繋がれている。
【0120】
[射出成形方法及び表面改質方法]
次に、図12〜14を用いて、この例の成形方法及び表面改質方法について説明する。まず、液体二酸化炭素ボンベ1に蓄えられた5〜7MPaの液体二酸化炭素は連続フローシステム47に導入され、昇圧されて超臨界二酸化炭素(加圧流体)が生成される。なお、連続フローシステム47では、二酸化炭素は、シリンジポンプの少なくとも1台により所定圧力である10MPaに常時昇圧および圧力保持される。次いで、連続フローシステム47から溶解槽46に超臨界二酸化炭素を導入して浸透物質を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図14中のステップS71)。溶解槽46は40℃に昇温されており、溶解槽46には浸透物質であるポリエチレングリコールが過飽和になるように仕込まれている。それゆえ、溶解槽46内では浸透物質が連続フローシステム47より導入された超臨界二酸化炭素に常時、飽和溶解している。このとき、溶解槽46の圧力計48は10MPaに表示されていた。なお、ポリエチレングリコールの二酸化炭素に対する溶解度は低いので、この例では、超臨界二酸化炭素の接触面積を増やすために担持体(ISCO社製ウエットサポート)を用いた。
【0121】
次に、従来と同様にして加熱シリンダー40内のスクリュー53を回転させ、供給された樹脂のペレット54を可塑化溶融して(図14中のステップS72)、スクリュー53の前方59に溶融樹脂を押し出して計量しながらスクリュー53を後退させ、所定の計量位置で停止させた。次いで、さらに、スクリュー53を後退させ、計量した溶融樹脂の内圧を減圧した。この例では、加熱シリンダー40のフローフロント部56付近に設けたれた溶融樹脂の内圧モニター55では、樹脂内圧が4MPa以下に低下することを確認した。
【0122】
次に、加熱シリンダー40のフローフロント部56の溶融樹脂に、浸透物質を溶解した超臨界二酸化炭素をガス導入機構41を介して導入して、浸透物質を溶解した超臨界二酸化炭素を溶融樹脂に接触させた(図14中のステップS73)。具体的には、次のようにして浸透物質を溶解した超臨界二酸化炭素を導入した。まず、第一のエアーオペレートバルブ50を開き、第二のエアーオペレートバルブ51と第一のエアーオペレートバルブ50との間の配管52内に浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素を導入して圧力計49を昇圧させた。次いで、加熱シリンダー40への導入時は、第一のエアーオペレートバルブ50を閉じた状態で第二のエアーオペレートバルブ51を開き、浸透物質の溶解した超臨界二酸化炭素をガス導入機構41を介して加熱シリンダー40内の減圧状態にある溶融樹脂内部に導入して浸透させた。本実施例では、配管52aの内容積で超臨界二酸化炭素の導入量を制御した。なお、溶融樹脂に浸透させる超臨界流体はこの例のように単独でもよいし、複数でもよい。
【0123】
次に、スクリュー53を背圧力によって前方に前進させ、充填開始位置までスクリュー53を戻した。この動作によりスクリュー53前方のフローフロント部56にて二酸化炭素及び浸透物質を溶融樹脂内に拡散させた。次いで、エアーピストン57を駆動してシャットオフバルブ58を開き、可動金型43および固定金型44にて画成された金型42のキャビティ45内に溶融樹脂を射出充填した(図14中のステップS74)。
【0124】
射出充填時の金型42内における溶融樹脂の充填の様子を模式的に図13に示した。図13(a)は初期充填時の模式図であり、初期充填時にはフローフロント部56の溶融樹脂56’が充填され、それに浸透している浸透物質及び二酸化炭素は減圧しながらキャビティ45に拡散する。この際、フローフロント部56の溶融樹脂56’は充填時の噴水効果により、金型表面に接しながら流動しスキン層403を形成する。
【0125】
次いで、射出充填が完了すると、図13(b)に示すように、プラスチック部材(成形品)の表面には、浸透物質が含浸したスキン層403が形成され、成形品の内部中央には、浸透物質がほとんど浸透していないコア層404が形成される。それゆえ、この例の成形方法では、成形品内部に浸透した浸透物質は表面機能に寄与しないことから、浸透物質の使用量を削減できる。なお、上述の1次充填後に溶融樹脂圧の保圧を高くした場合には、二酸化炭素のガス化による成形品の発泡を抑制できる。本実施例の成形方法では、可塑化シリンダー内のフローフロント部にのみに超臨界二酸化炭素を浸透させるので、充填樹脂の全体量に対する二酸化炭素の絶対量が少ない。それゆえ、カウンタープレッシャーを金型42のキャビティ45内に付加しなくても、プラスチック部材の表面性は悪化し難い。この例では、上述のようにして、プラスチック部材の成形を行うとともに、その表面に浸透物質を浸透させた。
【0126】
次に、表面に浸透物質(ポリエチレングリコール)が含浸したプラスチック部材を純水中で1時間超音波洗浄を行い、プラスチック部材の表面に含浸している浸透物質を除去した(図14中のステップS75)。この洗浄処理により、プラスチック部材の表面に微細な凹凸(微細孔)を形成した。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材の表面形状を物理的に変化させた。このようにして、この例では、プラスチック部材の表面改質を行った。
【0127】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材の表面にメッキ膜を形成した(図14中のステップS76及びS77)。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0128】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が15.2nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が105.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック部材を得ることができた。
【実施例8】
【0129】
実施例8では、実施例7と同様に、プラスチック部材を射出成形により成形すると同時に加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、表面に凹凸を有するプラスチック部材を成形し、プラスチック部材の凹部のみを表面改質し、凹部上にメッキ膜を形成する方法について説明する。
【0130】
なお、この例では、プラスチック部材の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリカーボネートを用い、浸透物質には分子量200のポリエチレングリコールを用いた。また、加圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0131】
[成形装置]
この例で用いた成形装置には、実施例7で用いた成形装置(図12)とほぼ同じ構成の装置を用いた。この例の成形装置では、固定金型43のキャビティ45側表面に、ラインアンドスペースの凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた。それ以外は、実施例7で用いた成形装置と同じ構造とした。
【0132】
[射出成形方法及び表面改質方法]
まず、実施例7と同様にして、浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を作製した。次いで、プラスチック部材の凹部の開口部を塞いで、80℃に加熱した純水を凹部のみに1時間流動させて、凹部を画成する表面に浸透した浸透物質のみを除去した。この洗浄処理により、プラスチック部材の凹部を画成する表面に浸透していたポリエチレングリコールのみが脱離して、その表面に微細な凹凸(微細孔)が形成された。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材の凹部を画成する表面のみを、選択的にその物理的形状を変化させた。このようにして、この例の表面改質されたプラスチック部材を得た。
【0133】
なお、上記凹部の洗浄処理方法には種々の方法が考えられるが、この例では、次のようにして、凹部の洗浄処理を行った。まず、ラインアンドスペースの凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面とミラー状の金型面の2面を有する金型を用意した。なお、この金型では、キャビティ内部で、成形品が凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面とミラー状の金型面との間を移動可能となるような構造の金型を用いた。次いで、ラインアンドスペースの凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面を使用して表面に凹部を有し且つ浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形した(一次成形)。次いで、プラスチック部材の凹部がミラー状の金型面と対向するようにプラスチック部材を移動させた。次いで、ミラー状の金型面でプラスチック部材をプレスして、プラスチック部材の凹部の開口部を塞いだ。次いで、塞がれた凹部のみに純水を流動させて凹部を画成する表面に浸透した浸透物質のみを除去した。ただし、プラスチック部材の凹部の開口部を塞ぐ方法はこれに限定されず、例えば、次のような方法により開口部を塞いでも良い。まず、凹凸パターンを有するスタンパを取り付ける金型面及びミラー状の金型面の2面を可動金型に設け、凹凸パターンを有するスタンパを取り付けた金型面を使用して表面に凹部を有し且つ浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形する。次いで、可動金型のミラー状の金型面をプラスチック部材表面と対向する位置に移動させてミラー状の金型面でプラスチック部材をプレスし、プラスチック部材の凹部の開口部を塞いでも良い。また、凹凸パターンを有するスタンパが取り付けられた金型面を有する第1金型と、ミラー状の金型面を有する第2金型を別個用意し、第1金型を使用して表面に凹部を有し且つ浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形した後、プラスチック部材を第2金型に移して、ミラー状の金型面でプラスチック部材の凹部の開口部を塞いでも良い。
【0134】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材の表面にメッキ膜を形成した。この例では、プラスチック部材の凹部を画成する表面のみが表面改質され微細な凹凸が形成されているので、この例では、プラスチック部材の凹部を画成する表面上のみにメッキ膜が形成された。また、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0135】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が15.8nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が120.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック部材を得ることができた。
【実施例9】
【0136】
実施例9では、実施例7と同様に、プラスチック部材を射出成形により成形すると同時に加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材に浸透させた後、プラスチック部材から浸透物質を除去して表面改質を行う表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、異なる2種類の浸透物質を加圧流体に溶解させて、2種類の浸透物質をプラスチック部材の表面に浸透させた。2つの浸透物質には、水溶性ポリマーである分子量113.16のε−カプロラクタム(第1浸透物質)と、金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)(第2浸透物質)とを用いた。また、プラスチック部材の形成材料として、熱可塑性樹脂であるポリカーボネートを用い、加圧流体としては超臨界二酸化炭素を用いた。
【0137】
[成形装置]
本実施例で用いた成形装置には、実施例7で用いた成形装置(図12)とほぼ同じ構成の装置を用いた。この例の成形装置では、溶解槽46に上述した2種類の浸透物質をともに過飽和になるように仕込んだ。それ以外の構成は実施例7と同様である。
【0138】
[射出成形方法及び表面改質方法]
次に、図15を用いて、この例の成形方法及び表面改質方法について説明する。まず、実施例7と同様にして、2種類の浸透物質(第1及び第2浸透物質)が溶解した超臨界二酸化炭素を加熱シリンダー内の溶融樹脂に導入して、2種類の浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を作製した(図15中のステップS91〜S94)。なお、この成形過程では溶融樹脂の熱により、浸透した金属錯体の多くが金属微粒子に還元される。次いで、プラスチック部材を純水中で1時間超音波洗浄した(図15中のステップS95)。この洗浄処理では、プラスチック部材に浸透している浸透物質のうち、水溶性ポリマーであるε−カプロラクタム(第1浸透物質)がプラスチック部材の表面から脱離して、その表面に微細な凹凸(微細孔)が形成される。もう一方の浸透した浸透物質である金属微粒子は、この洗浄処理によりほとんど除去されることはなく、プラスチック部材の表面内部に浸透した状態を保っていた。この例では、このようにしてプラスチック部材の表面改質を行った。
【0139】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材の表面にメッキ膜を形成した(図15中のステップS96及びS97)。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。なお、この例では、プラスチック部材の表面には微細な凹凸が形成されているだけでなく、メッキ膜の触媒核となる金属微粒子も含浸しているので、微細な凹凸によるアンカー効果とメッキ触媒核の存在により、密着性の一層優れたメッキ膜形成することができた。
【0140】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が18.8nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が129.0nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)で形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック部材を得ることができた。
【実施例10】
【0141】
実施例10では、少なくとも表面に浸透物質を有するプラスチック製シートを押し出し成形で作製した後、そのプラスチック製シートを用いてインサート(インモールド)成形してプラスチック部材を作製し、次いで、浸透物質を除去するプラスチック部材の表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。
【0142】
プラスチック製シートに用い得る樹脂材料は、押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意であるが、本実施例では、ポリカーボネートを用いた。また、プラスチック製シートに浸透させる材料もまた任意であるが、本実施例では浸透物質にはポリエチレングリコールを用いた。なお、この例では、加圧流体として液状の高圧二酸化炭素を用いた。
【0143】
[成形装置]
まず、プラスチック製シートを作製するために用いたこの例の成形装置について説明する。この例で用いた成形装置の概略構成図を図16に示した。この例で用いた成形装置600は、図16に示すように、主に、押し出し成形機部601と、二酸化炭素供給部602と、二酸化炭素排出部603とから構成される。
【0144】
押し出し成形機部601は、図16に示すように、主に、可塑化溶融シリンダー70(以下、加熱シリンダーともいう)と、加熱シリンダー70内に樹脂のペレットを供給するホッパー73と、加熱シリンダー70内のスクリュー71を回転させるモーター72と、冷却ジャケット77と、溶融樹脂の肉厚を薄くし且つ溶融樹脂を扇状に拡大させながら押し出すダイ80と、冷却ロール81とから構成される。スクリュー71としては、減圧部となるベント構造部74を有する単軸スクリューを用いた。
【0145】
押し出しダイ80の構造・方式は任意であり、作製する成形品の形状、用途等により適宜設定できるが、この例では押し出しダイ80として、フィルム成形用のTダイを用いた。また、この例の成形装置600では、Tダイ80より押し出されたプラスチック製シート82は冷却ロール81等により巻き取られる。本実施例では、Tダイ80のダイ押し出し口におけるギャップtは0.5mmに設定した。
【0146】
また、この例の成形装置600では、図16に示すように、二酸化炭素の導入口70aを溶融樹脂が減圧される単軸スクリュー71のベント機構部74付近に設けた。また、この例の成形装置600では、図16に示すように、樹脂内圧を測定するためのモニターを加熱シリンダー70と冷却ジャケット77との間の接続部(モニター76)と、冷却ジャケット77内部(モニター79)とに設けた。
【0147】
二酸化炭素供給部602は、図16に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ60と、シリンジポンプ62と、溶解槽61と、背圧弁63と、バルブ64と、圧力計66と、これらの構成要素を繋ぐ配管67とから構成される。また、バルブ64の下流側(2次側)は、図16に示すように、配管67を介して加熱シリンダー70の二酸化炭素の導入口70aに繋がれており、加熱シリンダー70内部の溶融樹脂の流路と流通している。なお、二酸化炭素の導入箇所は、これに限定されず、スクリュー71からTダイ80までの領域であれば、任意の箇所に設け得る。
【0148】
また、二酸化炭素排出部603は、図16に示すように、主に、二酸化炭素を排出するための抽出容器83と、背圧弁84と、圧力計85と、これらの構成要素を繋ぐ配管86とから構成される。また、背圧弁84の上流側(1次側)は、図16に示すように、配管86を介して冷却ジャケット77の二酸化炭素排出口77aと繋がれており、冷却ジャケット77内部の溶融樹脂の流路と流通している。
【0149】
なお、本実施例の押し出し成形機部601において、スクリュー71、加熱シリンダー70、ダイ80等の各機構は、公知の押し出し成形機の各機構と同様な形態を用いることができる。
【0150】
[プラスチック製シートの成形方法]
次に、本実施例におけるプラスチック製シートの成形方法を図16及び20を参照しながら説明する。まず、押し出し成形機部601のホッパー73に樹脂材料(ポリカーボネート)のペレットを充分な量だけ供給し、モーター72によりスクリュー71を回転させて樹脂材料を可塑化溶融し、溶融樹脂を加熱シリンダー70の先端に送った(図20中のステップS101)。この際、バンドヒータ75により加熱シリンダー70を280℃に温度調節した。
【0151】
次いで、予め浸透物質が仕込まれた溶解槽61の内部で加圧二酸化炭素(加圧流体)を流動させることにより浸透物質を加圧二酸化炭素に溶解させた(図20中のステップS102)。具体的には、次のようにして浸透物質を加圧二酸化炭素に溶解させた。まず、二酸化炭素ボンベ60から供給された液体二酸化炭素をシリンジポンプ62で昇圧および圧力調整し、圧力計66が15MPaになるよう圧力調整した。そして、昇圧された二酸化炭素を、40℃に温度制御され、浸透物質が過飽和になるように仕込まれた溶解槽61内部に流動させ、浸透物質を加圧二酸化炭素に溶解させた。
【0152】
次いで、バルブ64を開放して、配管67及び導入口70aを介して、加熱シリンダー70のベント構造部74に浸透物質を溶解した加圧二酸化炭素を導入し、浸透物質を加圧二酸化炭素とともに溶融樹脂に接触させて浸透させた(図20中のステップS103)。この際、シリンジポンプ62により加圧二酸化炭素の流量を制御し、且つ、背圧弁63により加圧二酸化炭素の圧力を制御しながら一定流量で浸透物質を溶解した加圧二酸化炭素を導入した。この際、ベント構造部74の溶融樹脂に注入された加圧二酸化炭素および浸透物質(ポリエチレングリコール)は、スクリュー71の回転により樹脂に混錬される。
【0153】
次いで、加圧二酸化炭素および浸透物質が混錬された溶融樹脂の圧力が樹脂内圧力のモニター76の表示で20MPaに上昇するように調整しながら、溶融樹脂を加熱シリンダー70から押し出した。
【0154】
次いで、加熱シリンダー70から押し出された溶融樹脂を、冷却ジャケット77を通過させた。なお、冷却ジャケット77は、冷却ジャケット77内部に設けられた冷却水路78を流動する温調水により200℃まで冷却されている。また、この例の成形装置600では、図16に示すように、冷却ジャケット77内部の溶融樹脂の流路の断面積が、加熱シリンダー70と冷却ジャケット77との接続部の溶融樹脂の流路の断面積より大きくしているので、溶融樹脂が冷却ジャケット77内を通過した際には、冷却と同時に減圧される。この例では、溶融樹脂が冷却ジャケット77内を通過した際には、減圧部の樹脂内圧力モニター79は10MPaを示した。
【0155】
次いで、冷却ジャケット77から押し出された溶融樹脂は、Tダイ80を通過し、Tダイ80から押し出された樹脂82は冷却ロール81等で巻き取られフィルム状(シート状)に連続成形された(図20中のステップS104)。そして、この例では、図示しない延伸装置で樹脂82を薄肉化して厚み0.1mmのプラスチック製シートを作製した。このようにして、ポリエチレングリコールが表面及び内部に分散したプラスチック製シートを得た。
【0156】
[インサート成形]
次に、上記押し出し成形により作製されたプラスチック製シートを用いて、インサート(インモールド)成形によりプラスチック部材を作製する方法を、図17及び18を参照しながら説明する。なお、この例のインサート成形で用いた射出成形装置900は、従来と同様の構造のものを用いた。
【0157】
まず、図17に示すように、上記押し出し成形により作製されたプラスチック製シート604を、金型90の可動金型91のキャビティ97側の表面に保持した(図20中のステップS105)。なお、この例では、キャビティ97側の表面がミラー曲面形状を有する可動金型91を用い、そのミラー曲面形状の表面にプラスチック製シート604を保持した。なお、金型90内のキャビティ97は固定金型92と可動金型91で画成される空間である。また、この例では、可動金型91のバキューム93回路を用いて、プラスチック製シート604を可動金型91表面に吸着することによりプラスチック製シート604を保持した。なお、この際、プラスチック製シート604は、図17に示すように、可動金型91の表面に完全に密着していなくてもよく、可動金型91の表面とプラスチック製シート604との間の一部に隙間が生じていてもよい。また、本実施例において、プラスチック製シート604と、金型表面やインサート成形時に射出される樹脂材料との密着性を向上させるために、樹脂フィルム604の表面に各種公知の接着層を設けてもよい。
【0158】
次いで、プラスチック製シート604を金型90のキャビティ97内に保持した状態で、射出成形装置900のスクリュー95にて可塑化溶融した樹脂96を射出成形装置900のスプール95を経てキャビティ97に射出充填した(インサート成形:図20中のステップ106)。この際、プラスチック製シート604は、図18に示すように、射出樹脂により金型表面に密着され(プラスチック製シート604と金型表面との隙間が無くなり)、プラスチック製シート604が所定に形状(ミラー形状)に成形される。このようにして、この例では、プラスチック製シート604と成形品基材605とが一体化されたプラスチック部材を得た。
【0159】
なお、この際、溶融樹脂によりプラスチック製シート604が塑性変形もしくは溶融することがあるが、成形品表面の金属膜の品質になんら影響を受けるものではない。また、この例では、ある程度弾力性を有するプラスチック製シート604をインサート成形しているので、従来のように金属フィルムをインサート成形した場合のように、金型内部に保持したフィルムに亀裂が生じることはない。
【0160】
なお、本実施例のプラスチック部材の製造方法では、インサート(インモールド)成形時に射出成形する充填樹脂材料は任意の樹脂材料が用い得る。例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン樹脂等及びそれら複合材料を用いることできる。また、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン等の各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。また、充填樹脂材料はプラスチック製シートの材料と同じでも異種でもよいが、プラスチック製シートの材料との接着性を高めるために同一材料であることが好ましい。本実施例ではプラスチック製シートの材料と同一の材料、すなわち、ポリカーボネートをインサート成形にて射出充填した。ただし、ガラス繊維30%入りで荷重たわみ温度(ISO75−2)が148℃のポリカーボネート材料を用いた。
【0161】
また、この例のプラスチック部材の製造方法では、浸透物質が含浸したプラスチック製シートの膜厚等を制御することにより、インサート成形後のプラスチック部材の浸透物質の浸透量や浸透深さを制御できる。
【0162】
上述したこの例のインサート成形により得られたプラスチック部材の表面粗さを触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)で測定した。算術平均粗さ(Ra)は5nm、十点平均粗さ(Rz)は8nmであった。
【0163】
次に、プラスチック製シート604と成形品基材605とが一体化されたプラスチック部材を射出成形機900から取り出した後、プラスチック部材をエタノール溶媒中にて30分間超音波洗浄して、プラスチック製シートの表面近傍に分散しているポリエチレングリコールを除去した(図20中のステップS107)。この工程により、ポリエチレングリコールが除去された箇所には微細孔が形成され、プラスチック部材の表面に微細な凹凸を形成した。この例では、上述のようにして、プラスチック部材の表面改質を行った。
【0164】
上述のように、本実施例のプラスチック部材の表面改質方法では、プラスチック製シート及び成形品基材の材料とは異なる低分子成分(この例ではポリエチレングリコール)が溶媒によりプラスチック製シートから除去されるので、少なくとも成形品の表面に微細孔が形成された樹脂成形品が得られる。なお、プラスチック製シートから低分子成分を除去するプロセスのタイミングは任意であり、除去プロセスはインサート成形の前後いずれに行ってもよい。また、微細孔のサイズは、低分子成分(浸透物質)の分子量やプラスチック製シートから低分子成分を抽出除去する際の条件により数nmオーダーからミクロンオーダーまでの範囲で制御可能である。
【0165】
上述のようにして作製された表面に微細孔が形成されたプラスチック部材の表面粗さを実施例1と同様にして測定した。その結果、算術平均粗さ(Ra)は15nm、十点平均粗さ(Rz)は130nmとなり、浸透物質を除去する前、すなわち、インサート成形後のプラスチック部材に比べて、表面粗さが大きくなった。これは、プラスチック製シート表面に分散していた低分子成分(ポリエチレングリコール)が除去され微細孔が形成されたことを示している。ただし、従来のメッキ工程で行うクロム酸や過マンガン酸のエッチング処理では成形品表面が数μm〜数十μm程度粗化されることを考えると、本実施例で表面改質されたプラスチック部材では、従来のエッチング処理により粗化された成形品に比べて良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られることが分かった。
【0166】
[メッキ膜の形成方法]
次に、この例では、ポリエチレングリコールが除去されたプラスチック部材に対して、実施例1と同様にして無電解銅メッキ処理を施してメッキ膜を形成した(図20中のステップS108)。なお、コンディショナー及び触媒の付与の工程においては、プラスチック製シート上への触媒核およびメッキ膜の浸漬を助長するため、超音波振動を付与した。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、クロスハッチのテープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0167】
上述のようにして表面にメッキ膜が形成されたプラスチック部材の樹脂フィルム近傍の拡大概略断面図を図19に示した。この例で作製されたプラスチック部材では、プラスチック製シートの表面近傍に分散した浸透物質(ポリエチレングリコール)を除去しているので、成形品基材605上に形成されたプラスチック製シート604の表面には、図19に示すように、一部微細孔604aが形成されている。そして、無電解メッキにより、この微細孔内に触媒核およびメッキ膜607が浸漬し、プラスチック製シート604の表面の微細孔604aによりアンカー効果が得られ、メッキ膜の強固な密着強度が得られたものと考えられる。すなわち、この例のメッキ膜が形成されたプラスチック部材では、表面を極力平滑に維持した状態で強固なアンカー効果を得ることができる。さらに、本実施例のプラスチック部材のメッキ膜の形成方法では、従来のエッチングでは十分に粗化できなかった樹脂材料、例えば、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネートの非メッキグレード、液晶ポリマー等に対しても容易にメッキ膜を形成することができる。また、本実施例のメッキ膜の形成方法では、従来の手法と同様に、パラジウム触媒のコロイドが成形品基材に吸着しやすいように界面活性剤を用いても良い。
【実施例11】
【0168】
実施例11では、加圧流体を用いないで、プラスチック部材の表面を改質する方法及びプラスチック部材の表面にメッキ膜を形成する方法の例について説明する。この例では浸透物質として水溶性ポリマーであるポリエチレングリコール(分子量200)を用い、プラスチック部材の形成材料としてはポリカーボネートを用いた。以下に、この例のプラスチック部材の成形方法及び表面改質方法からメッキ膜の形成方法までの手順を図21を用いて説明する。
【0169】
[成形方法及び表面改質方法]
まず、この例では、プラスチック部材の形成材料であるポリカーボネートと、浸透物質であるポリエチレングリコールとを公知の押し出し成形機内で混練してペレット(第1プラスチック樹脂)を作製した。具体的には、ポリカーボネートに対するポリエチレングリコールの混合比を30%として押し出し成形機に供給し、スクリューにて溶融及び混練しながらノズル先端のダイから樹脂を押出した。得られた成形品を冷却バスにて冷却し、ペレタイザーにて造粒した。この際、ポリカーボネートとポリエチレングリコールとの混練を均一にするために、添加剤により末端基を改質して親和性を向上させる等の改質を施しても良い。また、この例では、公知の押し出し成形機で、ポリエチレングリコールを含まないポリカーボネートからなるペレット(第2プラスチック樹脂)を作製した(図21中のステップS111)。なお、本発明では、プラスチック部材の形成材料は押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意である。
【0170】
次に、上記方法により得られた2種類のペレットを用いて、公知のサンドイッチ成形によりプラスチック部材を成形した。この例で用いたサンドイッチ成形装置は、2つの加熱シリンダーと、それらの先端ノズルと流通した金型とを備え、一方の加熱シリンダー(以下、第1加熱シリンダーともいう)から溶融樹脂を金型内に射出した後、他方の加熱シリンダー(以下、第2加熱シリンダーともいう)から溶融樹脂を射出充填して成形する公知のサンドイッチ成形装置である。この例のサンドイッチ成形では、次のようにしてプラスチック部材を成形した。
【0171】
まず、第1加熱シリンダー内に浸透物質を含むポリカーボネート(第1プラスチック樹脂)のペレットを供給して、可塑化溶融した(図21中のステップS112)。また、第2加熱シリンダー内に浸透物質を含まないポリカーボネート(第2プラスチック樹脂)のペレットを供給して、可塑化溶融した(図21中のステップS113)。次いで、第1加熱シリンダーから浸透物質を含むポリカーボネートの溶融樹脂を金型内に射出した(図21中のステップS114)。次いで、溶融樹脂の射出経路を第2加熱シリンダーに切り替えて、第2加熱シリンダーから浸透物質を含まないポリカーボネートの溶融樹脂を金型内に射出充填した(図21中のステップS115)。この結果、浸透物質を含まないポリカーボネートからなるコア層と、コア層上に形成された浸透物質を含むポリカーボネートからなるスキン層とを有するプラスチック部材が得られた。この例では、このようにして、表面に浸透物質が含浸したプラスチック部材を作製した。なお、プラスチック部材の成形方法としては、サンドイッチ成形に限らず、インサート成形、二色成形等を用いても良い。
【0172】
上記サンドイッチ成形で作製されたプラスチック部材を、純水中で1時間超音波洗浄を行った(図21中のステップS116)。これにより、プラスチック部材の表面(スキン層)に浸透していたポリエチレングリコールが脱離し、プラスチック部材の表面に微細な凹凸(微細孔)が形成された。すなわち、上記洗浄処理により、プラスチック部材の表面の形状を変化させた。この例では、このようにして、プラスチック部材の表面改質を行った。
【0173】
[メッキ膜の形成方法]
次に、上記表面改質方法により作製されたプラスチック部材に実施例1と同様にして無電解メッキを施し、プラスチック部材の表面にメッキ膜を形成した(図21中のステップS117及びS118)。その結果、実施例1〜4で形成したメッキ膜と同様に、この例で形成されたメッキ膜にはふくれがなく、テープ剥離試験による密着強度も良好であった。
【0174】
また、この例で形成したメッキ膜の表面粗さを、触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)にて測定したところ、算術平均粗さ(Ra)が16.2nmとなり、十点平均粗さ(Rz)が125.8nmとなり、従来のメッキ法(エッチング処理する方法)でプラスチック基材上に形成したメッキ膜(Ra≒数μm〜数十μm)に比べて非常に小さな値となり良好な表面粗さ(良好な平滑性)が得られた。すなわち、この例では、密着性及び平滑性の優れた無電解メッキ膜が表面に形成されたプラスチック部材を得ることができた。
【0175】
上記実施例1〜5及び7〜10では、浸透物質を溶解槽で加圧流体に溶解させた例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、予め浸透物質が溶解した加圧流体を充填したボンベ等の貯蔵器を用い、その貯蔵器から浸透物質が溶解した加圧流体を直接プラスチック部材(または溶融樹脂)に供給(導入)しても良い。
【実施例12】
【0176】
実施例12では、実施例10と同様に、少なくとも表面に浸透物質を有するプラスチック製シートを作製し、そのプラスチック製シートを用いてインサート(インモールド)成形してプラスチック部材を作製し、次いで、浸透物質を除去するプラスチック部材の表面改質方法、及び、その表面改質方法により得られたプラスチック部材の表面にメッキ膜(金属膜)を形成する方法の例について説明する。ただし、この例では、表面に浸透物質を有するプラスチック製シートの作製方法を実施例10とは異なる方法を用いた。また、この例では、浸透物質の除去する際、浸透物質の抽出溶媒として超臨界二酸化炭素を用いた。
【0177】
[プラスチック製シートの作製方法]
この例のプラスチック製シートの作製方法を図24を参照しながら説明する。まず、浸透物質を含まないフィルム状の樹脂基材(樹脂フィルム)を用意した(図24中のステップS121)。この例では、樹脂フィルムとして厚み100μmのポリカーボネートフィルムを用いた。樹脂フィルムとしては、熱可塑性樹脂であれば任意の材料が用い得る。なお、この例では、後述するようにプラスチック部材をインサート成形により作製するので、インサート成形時に溶融もしくは半溶融する材料を樹脂フィルムとして用いるが望ましい。実施例10で説明したように、金型表面形状が屈曲している等の理由から成形前には樹脂フィルムが金型表面に密着し難くても、インサート成形時には、樹脂フィルムが充填された溶融樹脂に接して溶融もしくは半溶融することにより、樹脂フィルムで金型表面形状を完全にトレースすることができる。
【0178】
次いで、樹脂フィルムと同じ樹脂材料と、浸透物質とが含まれる混合溶液を調製した(図24中のステップS122)。この例では、浸透物質としては、末端にカルボキシル基を有するフッ素化合物である、カルボキシレートパーフルオロポリエーテルを用い、樹脂材料としてポリカーボネートのペレットを用い、そして、混合溶液の溶媒としてはジクロロメタンを用いた。そして、この例では、ポリカーボネート(樹脂材料)が溶解した溶媒中に、樹脂材料に対して10wt%の浸透物質(油状フッ素化合物)を混合して、ポリカーボネートと浸透物質との混合溶液を調製した。
【0179】
次に、キャスティング法により、混合溶液を樹脂フィルムの片面上に塗布して、樹脂フィルム上に浸透物質が内部に分散した樹脂薄膜(樹脂膜)を厚さ約0.5μmで形成した(図24中のステップS123)。なお、浸透物質が分散した樹脂薄膜の膜厚は、0.01〜10μmの膜厚が望ましい。膜厚が0.01μmより薄い場合、膜厚が薄すぎてメッキ膜形成時のアンカー効果が得難くなる。一方、膜厚が10μmより厚い場合(膜厚が厚すぎると)、浸透物質を抽出するのに時間がかかり、不経済である。
【0180】
この例では、上述のようにして、表面近傍に浸透物質が分散したプラスチック製シートを作製した。上述のように、キャスティング法を用いてプラスチック製シートを作製した場合には、浸透物質が分散している樹脂薄膜をより薄くすることができるとともに、浸透物質の浸透量、分布等をより調整し易くなる。
【0181】
[インサート成形]
次に、上述のようにして作製した表面近傍に浸透物質が分散したプラスチック製シートを用い、実施例10と同様にして、インサート成形によりプラスチック部材を成形した。この例では、インサート成形に、実施例10と同様の装置(図17に示す金型および射出成形機)を用いた。
【0182】
この例では、まず、金型内部にプラスチック製シートを挿入した後、固定金型のキャビティ表面形状と同じ曲面を有するテフロン(登録商標)ブロック(不図示)を用いて、可動金型の表面にプラスチック製シートを押し付けて、プラスチック製シートを可動金型に密着させて保持した(図24中のステップS124)。なお、この際、樹脂フィルム上に形成された浸透物質を含む樹脂薄膜が可動金型と対向するようにプラスチック製シートを可動金型に保持した。
【0183】
次いで、ABS含有のポリカーボネート樹脂の溶融樹脂をキャビティに射出充填して、プラスチック部材を成形した(インサート成形、図24中のステップS125)。その後、実施例10と同様にして、金型からプラスチック部材を取り出した。この例では、このようにして、表面近傍に浸透物質が分散したプラスチック製シートと、ABS含有のポリカーボネート樹脂からなる成形基材とが一体化されたポリカーボネート樹脂製のプラスチック部材を得た。
【0184】
[浸透物質の抽出方法及び抽出装置]
次に、上述のようにして成形されたプラスチック部材から、浸透物質を抽出した。なお、この例では、インサート成形後に浸透物質を抽出するが、プラスチック製シート表面に分散した浸透物質をインサート成形する前に溶媒により除去してもよい。ただし、浸透物質を含むプラスチック製シート(又は樹脂薄膜)が熱可塑性樹脂で形成されている場合、インサート成形時に射出充填された溶融樹脂により、プラスチック製シートが溶融および熱変形するので、インサート成形前に予め浸透物質を除去したプラスチック製シートを用いると、浸透物質が抽出された後の微細孔がインサート成形時に変形、消失してしまう恐れがある。それゆえ、この例のように浸透物質を含むプラスチック製シートが熱可塑性樹脂で形成されている場合には、インサート成形した後、浸透物質を除去することが望ましい。
【0185】
ここで、浸透物質の抽出方法を説明する前に、浸透物質を抽出するためにこの例で用いた浸透物質の抽出装置について説明する。この例で用いた浸透物質の抽出装置の概略構成を図25に示した。
【0186】
浸透物質の抽出装置700は、図25に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ701と、バッファータンク702と、高圧ポンプ703と、プラスチック部材を収容する高圧容器704と、循環ポンプ705と、高圧容器704等から排出されるガスを回収する2台の回収槽706及び707と、浸透物質を回収する回収タンク708と、それらの構成要素を繋ぐ配管715とで構成されている。配管715には、図25に示すように、抽出装置700内の抽出溶媒(加圧二酸化炭素)の流動を制御するためのバルブ709〜711、減圧弁712、及び、圧力計713,714が所定の位置に設けられている。また、この例の抽出装置700では、高圧容器704と循環ポンプ705との間で抽出溶媒が循環するように配管715を繋げている(図25中の循環系716)。
【0187】
この例では、図25に示した抽出装置700を用い、次のようにして、プラスチック部材の表面内部に分散した浸透物質を抽出(除去)した。まず、高圧容器704内に、上述の成形方法で作製されたプラスチック部材を複数個入れた。
【0188】
次いで、高圧容器704内部の温度を図示しない温調水で40℃に温調した。すなわち、この例では、浸透物質を抽出する際の温度を40℃に設定した。なお、プラスチック部材またはプラスチック製シートの形成材料の少なくとも一方が非晶性熱可塑性樹脂である場合、後述するように、加圧二酸化炭素により浸透物質を溶解して抽出する際には、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも20℃以上低い温度で抽出することが望ましい。それより高い温度で浸透物質を抽出すると、非晶性熱可塑性樹脂が加圧二酸化炭素の浸透により膨潤するので、プラスチック部材が変形する恐れがある。また、プラスチック部材またはプラスチック製シートの形成材料の少なくとも一方が結晶性熱可塑性樹脂である場合には、加圧二酸化炭素の浸透により樹脂は変形し難いが、樹脂の融点よりも低い温度で浸透物質を抽出することが望ましい。上記いずれの場合においても、浸透物質の抽出温度は−10℃以上であることが望ましい。抽出温度が−10℃より低いと、二酸化炭素が凝固してドライアイスになる恐れがある。
【0189】
本実施例では、プラスチック部材及びプラスチック製シートとも非晶性熱可塑性樹脂のポリカーボネート(ガラス転移温度はともに145℃程度)で形成したが、プラスチック部材の表面に浸透物質が分散した樹脂薄膜を形成しているので、プラスチック部材の表面では、ガラス転移温度が著しく低くなることもある。しかしながら、実際に、本実施例で作製したプラスチック部材及びプラスチック製シートを40℃の加圧二酸化炭素に所定時間曝したところ、プラスチック部材及びプラスチック製シートの表面は変形しないことが確認された。
【0190】
次に、液体二酸化炭素ボンベ701から液体二酸化炭素をバッファータンク702に供給し、バッファータンク702で液体二酸化炭素をガス化させた。次いで、高圧ポンプ703にてガス化した二酸化炭素を昇圧した。この際、減圧弁712により圧力制御された加圧二酸化炭素の圧力が、15MPaになるように昇圧した。その後、バルブ710を開き高圧容器704内部および高圧容器704と流通する循環系716全体に加圧二酸化炭素を導入した。この際、高圧容器704内部は40℃温調されているので、高圧容器704内部に導入された加圧二酸化炭素は超臨界状態(超臨界二酸化炭素)になる。また、この例では、循環系716内の配管715および循環ポンプ705等は温調せずに常温としたので、この常温部では、導入された加圧二酸化炭素は液体状の加圧二酸化炭素となっている。
【0191】
次いで、循環ポンプ705を駆動し、超臨界二酸化炭素および常温部の液体加圧二酸化炭素(以下、単に加圧二酸化炭素(抽出溶媒)ともいう)を循環系716内で循環させた。そして、この循環状態を15分間維持した。この工程により、プラスチック部材のプラスチック製シート側の表面近傍に分散した浸透物質を加圧二酸化炭素に溶解させて除去(抽出)した(図24中のステップS126)。
【0192】
加圧二酸化炭素を循環系716内で15分間循環させた後、バルブ711を開き、高圧容器704内部を減圧した。減圧されガス化した二酸化炭素は2台の回収槽706及び707に排出した。回収槽706及び707に排出された浸透物質を溶解している二酸化炭素は、回収槽706及び707の中で遠心分離の原理で浸透物質と二酸化炭素ガスに分離される。回収槽706及び707で分離された二酸化炭素ガスは配管715を介して外部に排出され、浸透物質は回収槽706及び707の下部に設けられた回収タンク708に回収される。回収タンク708で回収した浸透物質は、再度樹脂との混合溶液を調合するために再利用される。本実施例の加圧二酸化炭素を用いた浸透物質の抽出(除去)方法では、浸透物質の回収及び再利用が容易であるため、経済的な方法である。
【0193】
次いで、表面から浸透物質が抽出されたプラスチック部材を高圧容器から取り出した。取り出したプラスチック部材の表面状態をSEM観察したところ、プラスチック部材のプラスチック製シート側の表面には微細な穴が形成され、且つ、プラスチック部材のプラスチック製シート側の表面内部には、複数の孔が連結した蟻の巣状の連結孔が形成されていること確認された。なお、その連結孔の平均孔径は100nm程度であった。
【0194】
[メッキ膜の形成]
次に、上述のようにして作製したプラスチック部材の複雑な形状の連結孔が形成されている表面にメッキ膜を形成した。具体的には、実施例1と同様に、プラスチック部材に、コンディション(界面活性剤付与)、触媒付与、触媒活性、及び、無電解メッキの処理を施し、プラスチック部材の連結孔が形成されている表面上(プラスチック製シート上)に厚さ1μmの無電解メッキ膜を形成した(図24中のステップS127)。形成されたメッキ膜には光沢があり、このことからプラスチック部材のプラスチック製シート側の表面粗さが良好(小さい)であることが分かった。
【0195】
この例で作製した表面にメッキ膜が形成されたプラスチック部材の概略断面図を図26に示した。この例のプラスチック部材720は、図26に示すように、インサート成形により成形された成形基材721上に、プラスチック製シートの樹脂フィルム722、浸透物質が除去された樹脂薄膜723及びメッキ膜724がこの順で積層された構造を有する。樹脂フィルム722と成形基材721とはインサート成形により一体化されている。そして、樹脂薄膜723の連結孔726の一部に、メッキ膜が入り込んで成長している。すなわち、樹脂薄膜723には、メッキ膜724の一部が浸透したメッキ浸透層725が形成されている。なお、図26には示していないが、上記メッキ処理において、メッキ膜の触媒核となるPdの触媒微粒子がメッキ浸透層725内部(連結孔)に分散しており、このPd触媒微粒子を核にしてメッキ膜が成長するため、この例で形成したメッキ膜724は樹脂薄膜723内部から成長する。なお、連結孔の径が微細である場合には、図26に示すように、メッキ膜が樹脂薄膜723全体に浸透しないが、連結孔の径を適宜調整することにより、メッキ膜の浸透厚さを調整することができる。
【0196】
上述のように、この例で作製したメッキ膜を備えるプラスチック部材では、メッキ膜が、プラスチック部材の内部に一部浸透したような状態で形成されるので、物理的なアンカー効果が得られ、より密着性の優れたメッキ膜が形成される。また、プラスチック部材の表面に形成される孔(凹凸)も非常に小さいサイズであるので、平滑性の優れたメッキ膜が得られる。
【0197】
この例で作製したメッキ膜を備えるプラスチック部材に対して、実際に密着試験を行なった。具体的には、この例で作製したメッキ膜を備えるプラスチック部材に対して、温度−40℃と85℃との間で20サイクルのヒートサイクル試験を行った。その結果、メッキ膜には膜膨れが発生しなかった。このことから、本実施例のプラスチック部材では、メッキ膜が強固なアンカー効果により樹脂表面に密着していることが分かった。
【0198】
この例では、浸透物質として油状フッ素化合物を用いたが、抽出溶媒に溶解する材料であれば任意のものが浸透物質として用い得る。特に、この例のように、プラスチック部材に対する浸透性が高く且つ抽出能力の優れた超臨界二酸化炭素や液体二酸化炭素等の加圧二酸化炭素を抽出溶媒に用いた場合には、浸透物質としては、加圧二酸化炭素に溶解する各種界面活性剤、フッ素系低分子ポリマー、酸に溶解する炭酸カルシウム等の無機フィラー等を用いることができる。
【0199】
また、加圧二酸化炭素を抽出溶媒に用いた場合には、浸透物質として加圧二酸化炭素に溶解する有機物質が用い得る。そのような有機物質としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)−ポリプロピレンオキシド(PPO)のブロックコポリマー、PEO−ポリブチレンオキシド(PBO)のブロックコポリマー、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ペンタエチレングリコールn−オクチルエーテル等を用いることができる。
【0200】
さらに、加圧二酸化炭素を抽出溶媒に用いた場合には、浸透物質として、加圧二酸化炭素に対して溶解度の高いフッ素を含有した界面活性剤を用いてもよい。フッ素を含有した界面活性剤としては、例えば、各種フッソ化ポリアルキレングリコール、カルボキシレートパーフルオロポリエーテル(化学構造式:F−(CF2CF(CF3)O)n−CF2CF2COOH(Dupon社製 商品名Kritox)、ペルフルオロポリエーテルカルボン酸アンモニウム塩((化学構造式:F−(CF(CF3)CF2O)n-CF(CF3)COO−NH4+(ダイキン化学工業社製 C2404アンモニウム塩)、スルファコハク酸エステル塩(AOT)のペルフルオロアナキルアナローグ、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)基を有する各種界面活性剤を用いることができる。また、フッ素系高分子(ヘキサフルオロプロピレンエポキシド、Dupon社製 Kritox GPL207)、シリコーンオイル等を浸透物質として用いても良い。
【実施例13】
【0201】
実施例12では、メッキ処理の段階で、プラスチック製シート(樹脂薄膜)内にメッキ膜の触媒核となる金属微粒子を分散させたが、予めプラスチック製シート内に金属微粒子を分散させていてもよい。その一例を実施例13で説明する。具体的には、この例では、プラスチック製シートを作製する際に、浸透物質が分散した(連結孔が形成される)樹脂薄膜(第1樹脂薄膜)の下部に、パラジウムのメッキ触媒核が分散した樹脂薄膜(第2薄膜)を設けた。以下に、この例におけるプラスチック部材の製造からメッキ膜の形成までの一連の工程を図27を参照しながら説明する。
【0202】
まず、実施例12と同様に、厚み100μmのポリカーボネート製の樹脂フィルムを用意した(図27中のステップS131)。次いで、樹脂フィルムと同じ樹脂材料と、金属錯体とが含まれる混合溶液(第1混合溶液)を調製した(図27中のステップS132)。この例では、金属錯体として、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体を用い、樹脂材料及び混合溶液の溶媒は、実施例12と同様のものを用いた。また、この例では、ポリカーボネート(樹脂材料)が溶解した溶媒中に、樹脂材料に対して1wt%の金属錯体を混合して、ポリカーボネートと金属錯体との第1混合溶液を調合した。なお、この例では、メッキの触媒核となる金属微粒子の金属元素としてPdを用いたが、これ以外では、白金、ニッケル、銅等を用いることができる。
【0203】
次いで、キャスティング法により、第1混合溶液を樹脂フィルムの片面に上に塗布して、金属錯体が内部に分散した第1樹脂薄膜(第1樹脂膜)を厚さ約0.5μmで形成した(図27中のステップS133)。
【0204】
次に、実施例12と同様にして、樹脂フィルムと同じ樹脂材料と、浸透物質とが含まれる混合溶液(第2混合溶液)を調製した(図27中のステップS134)。この例では、浸透物質、樹脂材料及び混合溶液の溶媒は、実施例12と同様のものを用いた。次いで、キャスティング法により、第2混合溶液を第1樹脂薄膜上に塗布して、浸透物質が内部に分散した第2樹脂薄膜(第2樹脂膜)を厚さ約1μmで形成した(図27中のステップS135)。
【0205】
次いで、樹脂フィルム上に第1及び第2樹脂薄膜が形成されたプラスチック製シートを100℃の温度環境で5時間加熱した。この処理により、第1樹脂薄膜内に分布した金属錯体の一部を熱分解して還元し、固定化した(金属錯体の一部を金属微粒子に変質させた)。この例では、この様にして内部に浸透物質及び金属微粒子が分散したプラスチック製シートを作製した。
【0206】
次に、上述のようにして得られたプラスチック製シートを、実施例12と同様にして、射出成形機の金型内に保持し、インサート成形を行なった(図27中のステップS136及びS137)。なお、この例では、インサート成形で金型に射出充填した樹脂(成形基材の形成材料)は実施例12と同じものを用いた。この例では、この様にしてプラスチック部材を成形した。
【0207】
次に、上述のようにして作製されたプラスチック部材に対して、実施例12で用いた抽出装置(図25)を用い、実施例12と同様の方法で、浸透物質を加圧二酸化炭素(溶媒)によりプラスチック部材から抽出した(図27中のステップS138)。この処理により、第1樹脂薄膜中に連結孔を形成した。次いで、プラスチック部材に対してニッケルリンメッキの無電解メッキを施し、プラスチック部材のプラスチック製シート側の表面にメッキ膜を形成した。この際、メッキ液は、第1樹脂薄膜中の連結孔を介して第1樹脂薄膜中に浸透し、第2樹脂薄膜に到達する。そして、メッキ液が第2樹脂薄膜中に分散したPdの金属微粒子に接触し、その金属微粒子を核としてメッキ膜が成長する。それゆえ、この例のメッキ膜の形成方法では、プラスチック製シートの内部から、より具体的には、第1及び第2樹脂薄膜の界面近傍からメッキ膜が成長するので、より大きなアンカー効果が得られ、プラスチック部材とメッキ膜との間の密着性がより大きくなる。この例では、この様にして、表面にメッキ膜が形成されたプラスチック部材を得た。
【0208】
この例のメッキ膜の方法では、実施例12のようにインサート成形後の触媒付与工程が不要となる。それゆえ、この例の方法では、連結孔を有する第1樹脂薄膜を形成した後(浸透物質を抽出した後)、ただちにメッキ膜を形成できるので、プロセスを簡略化でき、量産性が向上する。
【0209】
また、この例の製造方法で作製されたプラスチック部材(プラスチック製シートでは、プラスチック部材のプラスチック製シート側の最表面(連結孔が形成された第1樹脂薄膜の最表面)における触媒核の濃度が低下しており、且つ、内部に十分な量の触媒核を分散しているので、メッキ処理を行った際に、プラスチック部材のプラスチック製シート側の最表面でメッキ膜が成長し難くなり、メッキ膜をプラスチック部材の内部から確実に成長させることできる。また、この例の製造方法では、樹脂とメッキ金属膜が混在した傾斜層(メッキ膜浸透層)を確実に形成することができ、密着性の優れたメッキ膜を効率よく形成することができる。さらに、この例のプラスチック部材の製造方法では、例えば、室温程度の低温でメッキ反応が起こるCuメッキを適用した場合であっても、プラスチック部材のプラスチック製シート側の最表面における触媒核の濃度が低いので、該表面でメッキ反応が起こらず、プラスチック部材内部からメッキ膜を成長させることができる。
【0210】
この例で作製した表面にメッキ膜が形成されたプラスチック部材の概略断面図を図28に示した。この例のプラスチック部材730は、図28に示すように、インサート成形により成形された成形基材731上に、プラスチック製シートの樹脂フィルム732、金属微粒子736が分散した第2樹脂薄膜733、浸透物質が除去されて連結孔737が内部に形成された第1樹脂薄膜734及びメッキ膜735がこの順で積層された構造を有する。樹脂フィルム732と成形基材731とはインサート成形により一体化されている。そして、メッキ膜735は、第2樹脂薄膜733の第1樹脂薄膜734側表面近傍に存在する金属微粒子736から第1樹脂薄膜734の連結孔736を介して成長しており、メッキ膜735の一部がプラスチック部材に浸透した状態になっている。それゆえ、この例では、そのメッキ膜浸透層の厚さは、第1樹脂薄膜734の厚さとほぼ同じになる。
【0211】
上述のようにして作製したメッキ膜を備えるプラスチック部材に対して、実施例12と同様に、メッキ膜の信頼性評価をしたところ、メッキ膜が膨れる等の問題は発生しなかった。
【実施例14】
【0212】
実施例13では、浸透物質の抽出工程と、メッキ液をプラスチック部材の内部に浸透させる工程とを別工程で行ったが、これらの工程を同時に行っても良い。実施例14ではその一例を説明する。
【0213】
この例では、まず、実施例13と同様にして、樹脂フィルム上に、金属微粒子が分散した第2樹脂膜及び浸透物質が分散した第1樹脂薄膜が形成されたプラスチック製シートを作製した。次いで、プラスチック製シートを実施例12と同様にして金型内に保持してインサート成形を行い、プラスチック製シートと成形基材とを一体化してプラスチック部材を作製した。
【0214】
次に、実施例12で用いた抽出装置(図25)を用いて、次のようにして浸透物質の抽出からメッキ膜の形成の工程を行った。まず、上述のように作製したプラスチック部材を40℃に温調された高圧容器704内に装着した。また、同時に、メタノール(アルコール)を40vol%の割合で混合したニッケルリンメッキ液を高圧容器704内に導入し、プラスチック部材をメッキ液中に浸漬した。次いで、実施例12と同様にして、圧力10MPaの加圧二酸化炭素を高圧容器704内に導入し滞留させた。この工程により、メッキ液が加圧二酸化炭素とともにプラスチック部材内部に浸透する。この際、メッキ液と加圧二酸化炭素の混合溶液は、第1樹脂薄膜中の浸透物質を抽出しながらプラスチック部材内部に浸透する。なお、この例で用いたメッキ液の反応温度65℃以上であるので、40℃に温調された高圧容器704内における上記工程では、メッキ反応は起こらない。
【0215】
次いで、高圧容器704の温度を図示しない温調水により80℃(メッキ反応が起こる温度)に上昇させた。この結果、高圧容器704の圧力は15MPaに上昇した。この工程により、第2樹脂薄膜中に分散したPd由来の金属微粒子にメッキ液を接触させ、プラスチック部材の内部からメッキ膜を成長させた。この例では、このようにして、プラスチック部材のプラスチック製シート側の表面にメッキ膜を形成した。その結果、この例においても、実施例12と同様の構造(図28)のプラスチック部材が得られ、メッキ膜はプラスチック部材の内部から、より具体的には、第1及び第2樹脂薄膜の界面近傍からメッキ膜が成長しており、密着性の優れたメッキ膜を形成することができた。
【0216】
この例で作製したメッキ膜を備えるプラスチック部材に対しても、実施例12と同様に、メッキ膜の信頼性評価をしたところ、メッキ膜が膨れる等の問題は発生しなかった。
【0217】
なお、この例のように超臨界状態等の加圧二酸化炭素をメッキ液に混合した場合、メッキ液の表面張力が低下し、プラスチック部材の内部にメッキ液が浸透しやすくなる。それゆえ、微細な連結孔が形成された第1樹脂薄膜内にもメッキ液が浸透し易くなり、金属触媒微粒子が分散した第2樹脂薄膜までメッキ液がより到達し易くなる。その結果、第2樹脂薄膜からメッキ膜が速やかに成長するので、メッキ速度が上昇し高効率である。
【0218】
また、この例のように、超臨界状態等の加圧二酸化炭素をメッキ液に混合すると、二酸化炭素によりメッキ液のpH(水素イオン指数)が低下するため、メッキ液がアルカリメッキ浴の場合にはメッキ液が中和されメッキ反応が起きなくなる恐れがある。それゆえ、この例のように加圧二酸化炭素をメッキ液に混合した場合には、メッキ液として、パラジウムやニッケルリン等の酸性メッキ浴を用いることが望ましい。
【0219】
超臨界状態等の加圧二酸化炭素をメッキ液に混合する場合には、この例のようにメッキ液にアルコール成分を添加することが望ましい。この場合、アルコールが界面活性剤の役割を果たし、メッキ液と二酸化炭素の混合性を高めるとともに、メッキ液の表面張力を低下させて樹脂内部にメッキ液を浸透しやすくする。
【実施例15】
【0220】
実施例12〜14では、インサート成形後に、浸透物質を抽出して、プラスチック部材の表面に微細な連結孔を形成した例を説明したが、実施例15では、インサート成形前に浸透物質を抽出して微細な連結孔を形成する例を説明する。浸透物質を分散させる樹脂薄膜の形成材料を熱変形し難い材料で形成した場合には、浸透物質の抽出処理をインサート成形前に行なうことができる。
【0221】
また、実施例13及び14では、浸透物質が分散した樹脂薄膜と、金属微粒子が分散した樹脂薄膜とを別々に形成したが、この例では、一つの樹脂薄膜中に浸透物質及び金属微粒子を分散させる例を説明する。
【0222】
本実施例では、浸透物質及び金属微粒子を分散させる樹脂薄膜の形成材料としては高耐熱樹脂材料である2液混合硬化型のエポキシ熱硬化性樹脂を用いた。浸透物質としては、平均分子量200で液状のポリエチレングリコールを用いた。また、上記樹脂材料及び浸透物質と混合させる金属錯体には、実施例13と同様に、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体を用いた。以下に、この例のプラスチック部材の製造方法を図29を参照しながら説明する。
【0223】
まず、厚み100μmの長尺状のポリカーボネート製樹脂フィルムを用意した(図29中のステップS141)。次いで、浸透物質、金属錯体及びエポキシ熱硬化性樹脂を含む混合溶液を調製した(図29中のステップS142)。具体的には、ポリエチレングリコール(浸透物質)をエポキシ樹脂接着剤に対して30wt%の割合で混合し、さらに、パラジウム金属錯体を1wt%の割合で混合したエポキシ樹脂接着剤をその溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンとトルエンの混合溶媒に溶解させ、浸透物質、金属錯体及びエポキシ熱硬化性樹脂を含む混合溶液を調製した。
【0224】
次いで、キャスティング法により、混合溶液を、樹脂フィルム上に塗布して、浸透物質及び金属錯体が内部に分散した樹脂薄膜を厚さ1μmで形成した(図29中のステップS143)。次いで、樹脂フィルムを温度120℃で10時間加熱し、エポキシ樹脂接着剤を熱硬化させた。また、この加熱処理により、金属錯体を熱分解して還元し、メッキの触媒核を固定化した。このようにして、高耐熱性の樹脂薄膜内部に浸透物質及び金属微粒子が分散した長尺状のプラスチック製シートを作製した。
【0225】
次いで、長尺状のプラスチック製シートを、アルミメッシュシートをセパレーターとして挟んで巻き取り、図25に示した抽出装置700の高圧容器704内部に仕込んだ。次いで、実施例12及び13と同様にして、加圧二酸化炭素を高圧容器704内に導入し、浸透物質を抽出した(図29中のステップS144)。この工程により、プラスチック製シートの片側表面に形成されたエポキシ樹脂製の樹脂薄膜の厚さ約1μmに渡って連結孔が形成された。
【0226】
次に、表面に連結孔が形成されたプラスチック製シートを、実施例12と同様にして金型に保持してインサート成形(ポリカーボネート樹脂を射出充填)を行ない、プラスチック部材を成形した(図29中のステップS145及びS146)。この際、この例ではプラスチック製シートの樹脂薄膜が高耐熱性の材料で形成されているので、射出充填した溶融樹脂の温度及び圧力により、樹脂薄膜内部の微細な連結孔が熱変形したり塞がったりすることはない。この例では、上述のようにして、表面近傍に微細な連結孔が形成されたプラスチック部材を作製した。
【0227】
次に、上述のように作製されたプラスチック部材のプラスチック製シート側の表面に、実施例14と同様にして加圧二酸化炭素を用いて無電解メッキ膜を形成した(図29中のステップS147)。なお、本実施例では浸透物質をインサート成形前に抽出しているので、メッキ膜形成時には、浸透物質の抽出工程は含まれない。この例では、上述のようにして、メッキ膜を備えたプラスチック部材を得た。
【0228】
この例で作製したプラスチック部材に対しても、メッキ膜の密着性を調べたところ良好な密着性が得られた。すなわち、この例のように、連結孔が形成される樹脂薄膜を高耐熱性材料で形成した場合、インサート成形前に浸透物質を抽出して連結孔を形成しても、インサート成形時に連結孔が変形し難く、プラスチック部材とメッキ膜との密着性を得るためのアンカー効果が得られることが分かった。
【0229】
また、この例のように、インサート成形前に浸透物質を抽出する方法では、次のような利点も得られる。実施例12〜13のように、インサート成形後に超臨界状態等の加圧二酸化炭素を用いて浸透物質の除去を行った場合、成形品自体を高圧容器に挿入しなければならないため、一度に処理できる成形品の数に限界がある。また、大きな成形品を処理する場合には、その処理が困難になるとともに、高圧容器の内容積を大きくする必要があり、高価となる。それに対して、この例のように、インサート成形する前に、フィルム状の形態(プラスチック製シートの状態)で浸透物質を除去した場合には、一度に処理できるプラスチック製シートの数が増大し、上記課題が解決される。また、特に、この例のように、超臨界状態等の加圧二酸化炭素を浸透物質の除去溶媒に用いた場合には、加圧二酸化炭素は拡散性や浸透性に優れているので、長尺のプラスチック製シートを巻き取った状態でも一括に処理することができ、大面積処理が可能となる。よって、スループットやコストに優れたプロセスを提供することができる。
【0230】
この例では、連結孔を内部形成する樹脂薄膜の形成材料としてエポキシ熱硬化型樹脂を用いたが、インサート成形時の熱および加重負荷により大きく塑性変形しない材料であれば、任意の材料が樹脂薄膜の形成材料として用い得、少なくとも100℃以上の耐熱性、望ましくは150℃以上、さらに望ましくは200℃以上の耐熱性(加重熱変形温度)を有することが望ましい。例えば、エポキシ等の光硬化性樹脂、ポリイミド、シリコーン等の熱硬化性樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリフタルアミド等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0231】
プラスチック製シートの樹脂フィルムの形成材料としては、熱可塑性樹脂からなる射出成形溶融樹脂との密着性を向上させ且つ複雑な金型の表面形状をトレースするために、樹脂フィルムの成形溶融樹脂との密着面もしくは樹脂フィルムそのものがインサート成形時に溶融もしくは半溶融するような材料が好ましく、具体的には、熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。なお、樹脂フィルム上に形成される樹脂薄膜が熱変形し難い膜であっても、樹脂薄膜を薄膜化することで、成形時に金型形状をトレースすることができる。
【0232】
また、この例では、樹脂フィルムの片側表面に連結孔を有する高耐熱樹脂製薄膜を形成したが、樹脂フィルムの両面に高耐熱樹脂製薄膜を形成してもよい。樹脂フィルムのインサート成形樹脂材料との密着面に、高温高圧に晒されても塑性変形しにくい連結孔を有する樹脂薄膜を設けることにより、インサート成形時に.該高耐熱樹脂製薄膜の内部に連結孔を介して溶融樹脂が充填され、樹脂フィルムと成形基材との間で密着性が確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0233】
本発明の表面改質方法では、様々な種類のプラスチックに対して、加圧流体を用いてプラスチック部材の表面にサブミクロンからナノオーダーの微細な凹凸を形成することができる。それゆえ、例えば、本発明の表面改質方法を無電解メッキ前処理プロセスとして用いた場合には、低コストでクリーンな無電解メッキ前処理プロセスとして好適である。
【0234】
本発明の金属膜の形成方法では、従来のメッキ法のように有害なエッチャントを用いることなく、平滑性及び密着性の優れた金属膜を様々な種類のプラスチック部材の表面に形成することができる。それゆえ、本発明の金属膜の形成方法は、あらゆる分野に適用可能であり且つ低コストでクリーンな金属膜の形成方法として好適である。また、本発明の金属膜の形成方法は、大面積の複雑な形状を有する成形品にも容易に適用可能である。
【0235】
また、本発明の表面改質方法及びプラスチック部材の製造方法では、プラスチック部材の表面に微細孔を形成することができるので、次のような用途に用いることができる。例えば、プラスチック部材の材料にポリ乳酸等の生分解性プラスチックを用いた場合には、微細孔に細胞を培養する再生医療用デバイスとして適用することができる。また、微細孔のサイズを可視光の波長より十分小さい100nm以下程度にした場合には、空孔率を増やすことで成形品表面の屈折率を低減することができる。さらに、プラスチック部材の表面から内部までの空孔率分布に傾斜をつけることにより、表面反射率を抑制することができる。この場合、表面の空孔率をプラスチック部材内部よりも増大させる必要があるが、本発明の表面改質方法の浸透物質の除去方法では、低分子成分は表面に近いほど多く抽出(除去)されるので、より容易にプラスチック部材の表面から内部までの空孔率分布の傾斜を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0236】
【図1】図1は、実施例1で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図2】図2は、成形されたプラスチック部材の表面のAFM観察像であり、図2(a)は浸透物質除去前のAFM観察像であり、図2(b)は浸透物質除去後のAFM観察像である。
【図3】図3は、実施例1の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】図4は、実施例5で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図5】図5は、図4中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図6】図6は、実施例5の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】図7は、実施例6で用いた表面改質装置の概略構成図である。
【図8】図8は、図7中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図9】図9は、図7中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図10】図10は、図7中の破線Aで囲まれた領域の拡大断面図である。
【図11】図11は、実施例6の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図12】図12は、実施例7で用いた成形装置の概略構成図である。
【図13】図13は、溶融樹脂の射出充填時の様子を示した図であり、図13(a)は、初期充填時の様子を示した図であり、図13(b)は、充填完了時の様子を示した図である。
【図14】図14は、実施例7の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図15】図15は、実施例9の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図16】図16は、実施例10で用いた成形装置の概略構成図である。
【図17】図17は、インサート成形の方法を説明するための図面であり、溶融樹脂を射出する前の様子を示した図である。
【図18】図18は、インサート成形の方法を説明するための図面であり、溶融樹脂を射出充填した際の様子を示した図である。
【図19】図19は、実施例10で作製されたプラスチック成形品の概略断面図である。
【図20】図20は、実施例10の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図21】図21は、実施例11の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図22】図22は、本発明の表面改質方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図23】図23は、本発明の金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図24】図24は、実施例12の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図25】図25は、実施例12で用いた抽出装置の概略構成図である。
【図26】図26は、実施例12で作製されたプラスチック部材の概略断面図である。
【図27】図27は、実施例13の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図28】図28は、実施例13で作製されたプラスチック部材の概略断面図である。
【図29】図29は、実施例15の表面改質方法及び金属膜の形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0237】
1 二酸化炭素ボンベ
2 シリンジポンプ
3 溶解槽
4 高圧容器
4’ 金型
5 回収槽
100,200,300 改質装置
101,201 プラスチック部材
202,302 凹部
203,303 スルーホール
305 浸透物質
400,900 射出成形装置
600 押し出し成形装置
604 プラスチック製シート
604a 微細孔
605 成形品基材
606 メッキ触媒核
607 金属膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック部材の表面改質方法であって、
加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることと、
上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することとを含む表面改質方法。
【請求項2】
上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、
上記浸透物質を加圧流体に溶解させることと、
上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記プラスチック部材に接触させて上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、
上記浸透物質を溶解した溶液を上記プラスチック部材の表面に塗布することと、
上記浸透物質が塗布された上記プラスチック部材に加圧流体を接触させて上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項4】
上記プラスチック部材が凹部を有し、上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させる際に、上記加圧流体を上記プラスチック部材に接触させた状態で、上記凹部により上記プラスチック部材の表面に画成された開口を塞いで上記加圧流体を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック部材の表面内部に上記浸透物質を浸透させることを特徴とする請求項2または3に記載の表面改質方法。
【請求項5】
上記表面改質方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた表面改質方法であり、
上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、
上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記加熱シリンダー内の上記溶融樹脂のフローフロント部に導入することと、
上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填することとを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項6】
上記金型のキャビティ側表面に凹凸パターンが形成されており、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填して、表面に凹部を有し且つ該凹部の表面に浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形し、上記浸透物質を溶媒で溶解してプラスチック部材の表面から除去する際に、該溶媒を上記凹部の表面のみに接触させて上記凹部に浸透した浸透物質を除去することを特徴とする請求項5に記載の表面改質方法。
【請求項7】
上記表面改質方法が、押し出し成形機を用いた表面改質方法であり、
上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、
上記浸透物質を溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内のプラスチック部材の溶融樹脂に接触させて、上記浸透材料を該溶融樹脂に浸透させることと、
上記溶融樹脂を押し出し成形することとを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項8】
上記加圧流体の圧力が、5〜25MPaであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項9】
上記加圧流体が、二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項10】
上記プラスチック部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか1つから形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項11】
上記浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項12】
上記浸透物質がポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項13】
上記浸透物質の分子量が50〜2000であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項14】
上記浸透物質が、第1浸透物質及び第2浸透物質を含み、上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去する際に、第1浸透物質を除去することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項15】
プラスチック部材の表面に金属膜を形成する方法であって、
浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することと、
上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することと、
上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することとを含む金属膜の形成方法。
【請求項16】
上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することが、
上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面にメッキ触媒核を付与することと、
無電解メッキ法により、上記メッキ触媒核が付与されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することとを含むことを特徴とする請求項15に記載の金属膜の形成方法。
【請求項17】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質を加圧流体に溶解させることと、
上記加圧流体をプラスチック部材に接触させて上記浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことを特徴とする請求項15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項18】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質を溶解した溶液をプラスチック部材の表面に塗布することと、
上記浸透物質が塗布されたプラスチック部材に加圧流体を接触させて上記浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことを特徴とする請求項15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項19】
上記プラスチック部材が凹部を有し、上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させる際に、上記加圧流体を上記プラスチック部材に接触させた状態で、上記凹部により上記プラスチック部材の表面に画成された開口を塞いで上記加圧流体を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック部材の表面内部に上記浸透物質を浸透させることを特徴とする請求項17または18に記載の金属膜の形成方法。
【請求項20】
上記金属膜の形成方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記射出成形機内の溶融樹脂のフローフロント部に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、
上記金型内に上記溶融樹脂を射出充填して成形することとを含むことを特徴とする請求項15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項21】
上記金型のキャビティ側表面に凹凸パターンが形成されており、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填して、表面に凹部を有し且つ該凹部の表面に浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形し、上記浸透物質を溶媒で溶解してプラスチック部材の表面から除去する際に、該溶媒を上記凹部の表面のみに接触させて上記凹部に浸透した浸透物質を除去することを特徴とする請求項20に記載の金属膜の形成方法。
【請求項22】
上記金属膜の形成方法が、押し出し成形機を用いた金属膜の形成方法であり、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内のプラスチック部材の溶融樹脂に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、
上記溶融樹脂を押し出し成形することとを含むことを特徴とする請求項15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項23】
上記加圧流体の圧力が、5〜25MPaであることを特徴とする請求項17〜22のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項24】
上記加圧流体が、二酸化炭素であることを特徴とする請求項17〜23のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項25】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材が金型を備えた射出成形機を用いて作製され、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することと、
上記プラスチック製シートを上記射出成形機の金型内に保持することと、
上記プラスチック製シートが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことを特徴とする15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項26】
上記プラスチック製シートが押し出し成形機を用いて作製され、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することが、
上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内の溶融樹脂に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、
上記溶融樹脂を押し出し成形して上記プラスチック製シートを成形することとを含むことを特徴とする請求項25に記載の金属膜の形成方法。
【請求項27】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することが、
プラスチック製フィルムを用意することと、
上記浸透物質及びプラスチック樹脂を含む混合溶液を調製することと、
上記プラスチック製フィルム上に上記混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記浸透物質が分散した樹脂膜を形成することとを含むことを特徴とする請求項25に記載の金属膜の形成方法。
【請求項28】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材が金型を備えた射出成形機を用いて作製され、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
プラスチック製フィルムを用意することと、
金属微粒子及び第1プラスチック樹脂を含む第1混合溶液を調製することと、
上記浸透物質及び第2プラスチック樹脂を含む第2混合溶液を調製することと、
上記プラスチック製フィルム上に上記第1混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記金属微粒子が分散した第1樹脂膜を形成することと、
第1樹脂膜上に第2混合溶液を塗布して、第1樹脂膜上に上記浸透物質が分散した第2樹脂膜を形成することと、
第1及び第2樹脂膜が形成された上記プラスチック製フィルムを上記射出成形機の金型内に保持することと、
上記プラスチック製フィルムが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことを特徴とする15に記載の金属膜の形成方法。
【請求項29】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
プラスチック製フィルムを用意することと、
上記浸透物質、金属微粒子及びプラスチック樹脂を含む混合溶液を調製することと、
上記プラスチック製フィルム上に上記混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記浸透物質及び金属微粒子が分散した樹脂膜を形成することと、を含み、
上記金属膜の形成方法が金型を備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、上記金属膜の形成方法が、さらに、上記浸透物質を除去した後に、
上記樹脂膜が形成された上記プラスチック製フィルムを上記射出成形機の金型内に保持することと、
上記プラスチック製フィルムが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含む請求項15に記載の金属膜の形成方法。
【請求項30】
上記金属膜の形成方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する第1及び第2加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質を含む第1プラスチック樹脂及び上記浸透物質を含まない第2プラスチック樹脂を用意することと、
第1プラスチック樹脂を第1加熱シリンダー内で可塑化溶融することと、
第2プラスチック樹脂を第2加熱シリンダー内で可塑化溶融することと、
溶融した第1プラスチック樹脂を上記金型内に射出することと、
第1プラスチック樹脂を射出した後に、溶融した第2プラスチック樹脂を上記金型内に射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことを特徴とする請求項15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項31】
上記プラスチック部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか1つから形成されていることを特徴とする請求項15〜30のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項32】
上記浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることを特徴とする請求項15〜31のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項33】
上記浸透物質がポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項15〜32のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項34】
上記浸透物質の分子量が50〜2000であることを特徴とする請求項15〜33のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項35】
上記浸透物質が、第1浸透物質及び第2浸透物質を含み、上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去する際に、第1浸透物質を除去することを特徴とする請求項15〜32のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項36】
第1浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることを特徴とする請求項35に記載の金属膜の形成方法。
【請求項37】
第1浸透物質の分子量が50〜2000であることを特徴とする請求項35または36に記載の金属膜の形成方法。
【請求項38】
プラスチック部材の製造方法であって、
浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することと、
上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することとを含む製造方法。
【請求項1】
プラスチック部材の表面改質方法であって、
加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることと、
上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することとを含む表面改質方法。
【請求項2】
上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、
上記浸透物質を加圧流体に溶解させることと、
上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記プラスチック部材に接触させて上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、
上記浸透物質を溶解した溶液を上記プラスチック部材の表面に塗布することと、
上記浸透物質が塗布された上記プラスチック部材に加圧流体を接触させて上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項4】
上記プラスチック部材が凹部を有し、上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させる際に、上記加圧流体を上記プラスチック部材に接触させた状態で、上記凹部により上記プラスチック部材の表面に画成された開口を塞いで上記加圧流体を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック部材の表面内部に上記浸透物質を浸透させることを特徴とする請求項2または3に記載の表面改質方法。
【請求項5】
上記表面改質方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた表面改質方法であり、
上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、
上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記加熱シリンダー内の上記溶融樹脂のフローフロント部に導入することと、
上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填することとを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項6】
上記金型のキャビティ側表面に凹凸パターンが形成されており、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填して、表面に凹部を有し且つ該凹部の表面に浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形し、上記浸透物質を溶媒で溶解してプラスチック部材の表面から除去する際に、該溶媒を上記凹部の表面のみに接触させて上記凹部に浸透した浸透物質を除去することを特徴とする請求項5に記載の表面改質方法。
【請求項7】
上記表面改質方法が、押し出し成形機を用いた表面改質方法であり、
上記加圧流体を用いて浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることが、
上記浸透物質を溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内のプラスチック部材の溶融樹脂に接触させて、上記浸透材料を該溶融樹脂に浸透させることと、
上記溶融樹脂を押し出し成形することとを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項8】
上記加圧流体の圧力が、5〜25MPaであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項9】
上記加圧流体が、二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項10】
上記プラスチック部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか1つから形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項11】
上記浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項12】
上記浸透物質がポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項13】
上記浸透物質の分子量が50〜2000であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項14】
上記浸透物質が、第1浸透物質及び第2浸透物質を含み、上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去する際に、第1浸透物質を除去することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の表面改質方法。
【請求項15】
プラスチック部材の表面に金属膜を形成する方法であって、
浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することと、
上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することと、
上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することとを含む金属膜の形成方法。
【請求項16】
上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することが、
上記浸透物質が除去されたプラスチック部材の表面にメッキ触媒核を付与することと、
無電解メッキ法により、上記メッキ触媒核が付与されたプラスチック部材の表面に金属膜を形成することとを含むことを特徴とする請求項15に記載の金属膜の形成方法。
【請求項17】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質を加圧流体に溶解させることと、
上記加圧流体をプラスチック部材に接触させて上記浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことを特徴とする請求項15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項18】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質を溶解した溶液をプラスチック部材の表面に塗布することと、
上記浸透物質が塗布されたプラスチック部材に加圧流体を接触させて上記浸透物質をプラスチック部材の表面内部に浸透させることとを含むことを特徴とする請求項15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項19】
上記プラスチック部材が凹部を有し、上記浸透物質を上記プラスチック部材の表面内部に浸透させる際に、上記加圧流体を上記プラスチック部材に接触させた状態で、上記凹部により上記プラスチック部材の表面に画成された開口を塞いで上記加圧流体を上記凹部に滞留させ、上記凹部を画成する上記プラスチック部材の表面内部に上記浸透物質を浸透させることを特徴とする請求項17または18に記載の金属膜の形成方法。
【請求項20】
上記金属膜の形成方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記射出成形機内の溶融樹脂のフローフロント部に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、
上記金型内に上記溶融樹脂を射出充填して成形することとを含むことを特徴とする請求項15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項21】
上記金型のキャビティ側表面に凹凸パターンが形成されており、上記溶融樹脂を上記金型のキャビティに射出充填して、表面に凹部を有し且つ該凹部の表面に浸透物質が浸透したプラスチック部材を成形し、上記浸透物質を溶媒で溶解してプラスチック部材の表面から除去する際に、該溶媒を上記凹部の表面のみに接触させて上記凹部に浸透した浸透物質を除去することを特徴とする請求項20に記載の金属膜の形成方法。
【請求項22】
上記金属膜の形成方法が、押し出し成形機を用いた金属膜の形成方法であり、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内のプラスチック部材の溶融樹脂に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、
上記溶融樹脂を押し出し成形することとを含むことを特徴とする請求項15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項23】
上記加圧流体の圧力が、5〜25MPaであることを特徴とする請求項17〜22のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項24】
上記加圧流体が、二酸化炭素であることを特徴とする請求項17〜23のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項25】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材が金型を備えた射出成形機を用いて作製され、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することと、
上記プラスチック製シートを上記射出成形機の金型内に保持することと、
上記プラスチック製シートが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことを特徴とする15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項26】
上記プラスチック製シートが押し出し成形機を用いて作製され、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することが、
上記浸透物質が溶解した加圧流体を上記押し出し成形機内の溶融樹脂に接触させて、上記浸透物質を該溶融樹脂に浸透させることと、
上記溶融樹脂を押し出し成形して上記プラスチック製シートを成形することとを含むことを特徴とする請求項25に記載の金属膜の形成方法。
【請求項27】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック製シートを用意することが、
プラスチック製フィルムを用意することと、
上記浸透物質及びプラスチック樹脂を含む混合溶液を調製することと、
上記プラスチック製フィルム上に上記混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記浸透物質が分散した樹脂膜を形成することとを含むことを特徴とする請求項25に記載の金属膜の形成方法。
【請求項28】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材が金型を備えた射出成形機を用いて作製され、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
プラスチック製フィルムを用意することと、
金属微粒子及び第1プラスチック樹脂を含む第1混合溶液を調製することと、
上記浸透物質及び第2プラスチック樹脂を含む第2混合溶液を調製することと、
上記プラスチック製フィルム上に上記第1混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記金属微粒子が分散した第1樹脂膜を形成することと、
第1樹脂膜上に第2混合溶液を塗布して、第1樹脂膜上に上記浸透物質が分散した第2樹脂膜を形成することと、
第1及び第2樹脂膜が形成された上記プラスチック製フィルムを上記射出成形機の金型内に保持することと、
上記プラスチック製フィルムが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことを特徴とする15に記載の金属膜の形成方法。
【請求項29】
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
プラスチック製フィルムを用意することと、
上記浸透物質、金属微粒子及びプラスチック樹脂を含む混合溶液を調製することと、
上記プラスチック製フィルム上に上記混合溶液を塗布して、上記プラスチック製フィルム上に上記浸透物質及び金属微粒子が分散した樹脂膜を形成することと、を含み、
上記金属膜の形成方法が金型を備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、上記金属膜の形成方法が、さらに、上記浸透物質を除去した後に、
上記樹脂膜が形成された上記プラスチック製フィルムを上記射出成形機の金型内に保持することと、
上記プラスチック製フィルムが保持された上記金型内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含む請求項15に記載の金属膜の形成方法。
【請求項30】
上記金属膜の形成方法が、金型とプラスチック部材の溶融樹脂を該金型内に射出する第1及び第2加熱シリンダーとを備えた射出成形機を用いた金属膜の形成方法であり、
上記浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することが、
上記浸透物質を含む第1プラスチック樹脂及び上記浸透物質を含まない第2プラスチック樹脂を用意することと、
第1プラスチック樹脂を第1加熱シリンダー内で可塑化溶融することと、
第2プラスチック樹脂を第2加熱シリンダー内で可塑化溶融することと、
溶融した第1プラスチック樹脂を上記金型内に射出することと、
第1プラスチック樹脂を射出した後に、溶融した第2プラスチック樹脂を上記金型内に射出充填して上記プラスチック部材を成形することとを含むことを特徴とする請求項15または16に記載の金属膜の形成方法。
【請求項31】
上記プラスチック部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか1つから形成されていることを特徴とする請求項15〜30のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項32】
上記浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることを特徴とする請求項15〜31のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項33】
上記浸透物質がポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項15〜32のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項34】
上記浸透物質の分子量が50〜2000であることを特徴とする請求項15〜33のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項35】
上記浸透物質が、第1浸透物質及び第2浸透物質を含み、上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去する際に、第1浸透物質を除去することを特徴とする請求項15〜32のいずれか一項に記載の金属膜の形成方法。
【請求項36】
第1浸透物質が水溶性ポリマーまたは水溶性モノマーであることを特徴とする請求項35に記載の金属膜の形成方法。
【請求項37】
第1浸透物質の分子量が50〜2000であることを特徴とする請求項35または36に記載の金属膜の形成方法。
【請求項38】
プラスチック部材の製造方法であって、
浸透物質が表面に含浸したプラスチック部材を用意することと、
上記プラスチック部材に溶媒を接触させて上記浸透物質を該溶媒に溶解して上記プラスチック部材の表面から上記浸透物質を除去することとを含む製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
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【図16】
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【図18】
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【図28】
【図29】
【公開番号】特開2008−69340(P2008−69340A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178936(P2007−178936)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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