説明

プラスマロゲン欠乏症が媒介する加齢に伴う疾患の診断及びリスク評価のための方法

本発明は、プラスマロゲンの欠乏症が媒介する加齢に伴う疾患の診断及びリスク評価のための方法に関する。本発明は、プラスマロゲン生合成機能障害と、加齢関連障害の生化学的及び臨床的な所見との関係について記載する。具体的には、本発明は、成人発症性プラスマロゲン生合成障害(AO−PBD)に罹患している対象における大腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、認知障害及び認知症の罹患率の増加について記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスマロゲン欠乏症が媒介する加齢に伴う疾患の診断のための方法に関する。本発明は、プラスマロゲン生合成機能障害と、加齢関連障害の生化学的及び臨床的な所見との間の関係について記載する。具体的には、本発明は、プラスマロゲンのレベルが低下した対象における大腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、認知障害及び認知症の罹患率の増加について記載する。
【背景技術】
【0002】
したがって、本願は、ヒトにおける、ペルオキシソーム性の機能障害の遅発性又は成人発症性の形態の発見について記載する。この疾患は、すべての年齢の対象において発症するが、発生率は、50歳を過ぎると加齢と共に増加し、60〜69歳でピークに達し、それ以降は減少する。加齢関連プラスマロゲン欠乏症に罹患している対象においては、血清中の循環プラスマロゲンのレベルが異常に低く、加齢関連プラスマロゲン欠乏症ではない対象と比べて、大腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、認知障害及び認知症の罹患率が増加する。
【0003】
最近になって、プラスマロゲンの生合成が、詳細に総説されている(Nagan N, Zoeller RA. Plasmalogens: biosynthesis and functions. Prog Lipid Res 2001; 40(3): 199-229)。プラスマロゲン生合成経路の最初の2段階は、もっぱらペルオキシソーム中で遂行される(完全な経路については、図1及び22を参照されたい)。最初に、ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP,dihydroxyacetone phosphate)の遊離ヒドロキシル基が、DHAPアシルトランスフェラーゼ(DHAP−AT,DHAP acyltransferase)によってアセチル化される。次いで、アルキル−DHAPシンターゼによりsn−1アシル基を脂肪アルコールで置換することによって、エーテル結合(プラスマニル)が生み出される。点変異による、これらの2つの酵素のいずれかの機能の喪失、ペルオキシソーム性の標的化の障害、又は全般的なペルオキシソーム性の機能障害の結果、重度のプラスマロゲン欠乏症が生じる。残りの主要な合成プロセスは、小胞体(ER,endoplasmic reticulum)中で遂行され、sn−2位がアシル化され、ホスホエタノールアミンが、sn−3位に付加されて、プラスマニルグリセリルホスホエタノールアミン(GPE,glycerlyphosphoethanolamine)を産生する。最後の段階では、1−O−アルキルエーテルを不飽和化して、ビニルエーテル(プラスメニル)GPE種を形成するプラスマニルに特異的な酵素が関与する。このGPE種は通常、PlsEtn又はプラスメニルエタノールアミン(plasmenylethanolamine,PlsEtn)と呼ばれ、また一般的に、エタノールアミンプラスマロゲンとしても知られている。体内のすべての細胞が、これらの分子を合成することができる。
【0004】
ペルオキシソームは、1960年代後半にde Duveによって最初に発見された(de Duve D. The peroxisome: a new cytoplasmic organelle. Proceedings of the Royal Society of London Series B, Containing papers of a Biological character 1969; 173(30): 71-83)。その時以来、50を超える異なる生化学的経路が、ペルオキシソームによって遂行されることが記載されている(van den Bosch H, Schutgens RB, Wanders RJ, Tager JM. Biochemistry of peroxisomes. Annu Rev Biochem 1992; 61: 157-97)。9つの主たる生化学的な系を、表1に列挙する。ヒトの最初のペルオキシソーム性疾患(ツェルウェガー脳肝腎症候群)が、1964年にBowenらによって臨床的に記載された(Bowen P, Lee CS, Zellweger H, Lindenberg R. A Familial Syndrome of Multiple Congenital Defects. Bulletin of the Johns Hopkins Hospital 1964; 114: 402-14)。1973年には、これらの患者は、ミトコンドリアの機能に障害があり、機能性のペルオキシソームを有しないことが発見された(Goldfischer S, Moore CL, Johnson AB, et al. Peroxisomal and mitochondrial defects in the cerebro-hepato-renal syndrome. Science 1973; 182(107): 62-4)。現在、ペルオキシソーム起源として特徴付けられている、17のヒトの疾患がある(Wandersによって概説されている(Wanders RJ. Peroxisomal disorders: clinical, biochemical, and molecular aspects. Neurochem Res 1999; 24(4): 565-80)、表2)。ペルオキシソーム性障害は均一ではない。異なる障害は、大きく異なる生化学的な異常を示し、これらの異常のいくつかは重複する。したがって、これらの疾患は、全般的、総合的なペルオキシソーム性の欠損があるペルオキシソームのバイオジェネシスの障害、又は特定のペルオキシソーム性のタンパク質若しくは酵素系の障害のいずれかとして特徴付けることができる(表3)。
【0005】
現在特徴付けられているペルオキシソーム性障害のうち、肢根型点状軟骨異形成症(RCDP,Rhizomelic Chondrodysplasia Punctata)のみが、プラスマロゲン欠乏症単独で引き起こされるということができる。RDCP障害は、I型、II型又はIII型にさらにグループ化される。すべての3つのRDCPの型が、血漿中のプラスマロゲンのレベルの低下、及び肝臓におけるプラスマロゲン新規合成能力の低下を示す。これらの対象におけるペルオキシソームのそれ以外の機能は、I型RCDPの場合のフィタン酸のα−酸化の減少以外は、正常であると考えられている。
【0006】
RCDPに罹患している対象は、いくつかある異常の中でも特に、重度の精神遅滞及び発育阻止に至る骨の異形成を示す。RCDPの対象は、多数の神経学的な異常を示し、それらのうち、ミエリン形成の遅延が最も顕著である(Alkan A, Kutlu R, Yakinci C, Sigirci A, Aslan M, Sarac K. Delayed myelination in a rhizomelic chondrodysplasia punctata case: MR spectroscopy findings. Magnetic resonance imaging 2003; 21(1): 77-80、Sztriha L, Al-Gazali LI, Wanders RJ, Ofman R, Nork M, Lestringant GG. Abnormal myelin formation in rhizomelic chondrodysplasia punctata type 2 (DHAPAT-deficiency). Developmental medicine and child neurology 2000; 42(7): 492-5)。これは、プラスマロゲン合成の減少の直接的な結果であると考えられている。RCDPの対象の大部分は、誕生から2年以内に死亡する。
【0007】
異形成は、細胞の外観の異常であり、これは、新生物への変質に向かう早期の段階を示す。異形成は、細胞の前新生物状態である。この異常な増殖は、起源である系又は場所に限定され、例えば、上皮層における異形成は、より深い組織中には侵入することはなく、又は赤血求細胞系中の異形成(不応性貧血)は、もっぱら骨髄系及び心血管系内に留まる。異形成の最もよく知られている形態は、子宮頚部上皮内腫瘍(CIN,cervical intraepithelial neoplasia)と呼ばれている、子宮頚癌の前駆体病変である。この病変は通常、ヒトパピローマウイルス(HPV,human papilloma virus)感染によって引き起こされる。ほとんど常に、女性は子宮頚部の異形成に気付かない。これは通常、スクリーニング試験、即ち、Papスメアによって発見される。この試験の目的は、疾患がまだ異形成の段階にあり、治癒が容易である間の早期に、疾患を診断することである。異形成は、細胞が、その正常な形態から外れて、異常な、分化程度の低い形態へと変化し始めた、前癌病変の最も早期の形態である。上皮内癌は、「限局性の癌(cancer in place)」を意味し、異形成細胞の癌への最終的な変質を表すが、癌は、局所に留まり、元の部位からは移動していない。異形成は、癌ではない。
【0008】
癌は、細胞が組織の同一性を失い、迅速に、調節されることなく増殖する原始的な細胞の形態へと元に戻ってしまう状態である。浸潤性細胞腫が、この筋道の最後の段階である。これは、元々の組織層を越えて侵入しており、また、身体のその他の部分へ拡散する(転移する)こともできる癌であり、癌の増殖がそこから始まり、影響を受ける臓器を破壊する。これは、治療することができるが、治療が常に成功するとは限らない。しかし、治療せずに放置すれば、ほとんど常に致命的となる。
【0009】
要約すると、プラスマロゲン生合成の選択的な欠乏は、重度の神経学的な及び細胞増殖の異常の臨床所見に至ることが知られている。さらに、プラスマロゲン生合成の低下の、生存するうえでの不利は、深刻である。
【0010】
癌、認知症又は認知機能の低下等の多くの各種のヒトの疾患の発生率が、加齢と共に増加することはよく知られている。疫学的及び統計学的な見地からは、これらの疾患が非常に類似しているように見えることが多い。しかし、臨床的な見地からは、癌、認知症及び認知機能の低下はそれぞれ、非常に異なる。現在のところ、これらの障害の最も大きなリスク要因は、対象の年齢である。さらに、大部分の癌、認知症及び認知機能の低下は、疾患が存在するが、無症候状態を示す、長期の前駆期(5〜15年)を有することが十分に確立されている。明らかにリスクが上昇している対象を的確且つ正確に同定するための実際に役立つ方法は、たとえあったとしても、ごくわずかに過ぎない。したがって、癌、認知症及び認知機能の低下等の慢性の加齢関連障害の既知の生化学的な病因と因果関係がある生化学的な異常を有する、一般集団の対象のうちのサブセットを的確に同定し、次いで、これらの対象を、生化学的な異常を矯正し、この亜集団における疾患発症のリスクを低下させることができる安全で且つ良好な耐容性を示す治療剤を用いて治療することができるようになることが非常に強く求められている。
【0011】
膜コレステロールの調節、膜の動態、ムスカリン受容体シグナル伝達、及びAPPプロセシングの障害が、様々な程度で、認知症及び認知機能の低下において観察される種々の症状及び病態に関係しているとみなされている。これらの生化学的な系と認知症との間の関連性は十分に確立されている。アセチルコリンエステラーゼ(ACE,acetylcholinesterase)阻害剤は、シナプス間隙におけるAChの滞留時間を延長させ、したがって、ムスカリン受容体伝達を増加させることによって作用する(Behl P, Lanctot KL, Streiner DL, Guimont I, Black SE. Cholinesterase inhibitors slow decline in executive functions, rather than memory, in Alzheimer's disease: a 1-year observational study in the Sunnybrook dementia cohort. Current Alzheimer research 2006; 3(2): 147-56)。スタチンは、コレステロールのレベルを低下させることによって作用する(Sparks DL, Sabbagh M, Connor D, et al. Statin therapy in Alzheimer's disease. Acta Neurol Scand Suppl 2006; 185: 78-86)。現在、アミロイドを低下させる薬物が、開発途上にあり、アミロイド斑の蓄積の除去について、又はアミロイド斑の産生を減少させる目的で、臨床治験中である。したがって、上記で示した直接的な知見は、プラスマロゲン生合成の障害を、認知症及び認知機能の低下の病因と強力に関係付ける。本出願人の同時係属出願国際出願番号PCT/CA2007/000313では、ホスファチジルコリン関連化合物、エタノールアミンプラスマロゲン、内因性脂肪酸、必須脂肪酸、脂質酸化副産物、及びこれらの代謝クラスの代謝産物誘導体から選択される代謝産物が、認知症に罹患している患者からの検体中では低いレベルにあることが見出された。本発明では、プラスマロゲンの減少が、その他の加齢関連疾患に罹患している患者において見出されている。
【0012】
癌細胞について定義する特色の1つは、エネルギーを得るためには、呼吸にほとんど完全に依存する正常細胞とは異なり、癌細胞は、エネルギーを得るために、呼吸及び解糖の両方を活用することができる点である。癌に関しては、現在、多くの仕事が、解糖経路を阻害する薬物の開発に集中している。癌における好気性の解糖を定義する特色の1つが、ミトコンドリアのクエン酸の排出の増強及びアセチルCoAを形成するための細胞質クエン酸の使用である。したがって、プラスマロゲン生合成の障害の結果、膜コレステロールレベルの増加及び細胞質のアセチルCoAの活用の増加の両方が生じるという上記で示した直接的な知見は、プラスマロゲン生合成の障害を、癌の病因と強力に関係付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際出願番号PCT/CA2007/000313
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Nagan N, Zoeller RA. Plasmalogens: biosynthesis and functions. Prog Lipid Res 2001; 40(3): 199-229
【非特許文献2】de Duve D. The peroxisome: a new cytoplasmic organelle. Proceedings of the Royal Society of London Series B, Containing papers of a Biological character 1969; 173(30): 71-83
【非特許文献3】van den Bosch H, Schutgens RB, Wanders RJ, Tager JM. Biochemistry of peroxisomes. Annu Rev Biochem 1992; 61: 157-97
【非特許文献4】Bowen P, Lee CS, Zellweger H, Lindenberg R. A Familial Syndrome of Multiple Congenital Defects. Bulletin of the Johns Hopkins Hospital1964; 114: 402-14
【非特許文献5】Goldfischer S, Moore CL, Johnson AB, et al. Peroxisomal and mitochondrial defects in the cerebro-hepato-renal syndrome. Science 1973; 182(107): 62-4
【非特許文献6】Wanders RJ. Peroxisomal disorders: clinical, biochemical, and molecular aspects. Neurochem Res 1999; 24(4): 565-80
【非特許文献7】Alkan A, Kutlu R, Yakinci C, Sigirci A, Aslan M, Sarac K. Delayed myelination in a rhizomelic chondrodysplasia punctata case: MR spectroscopy findings. Magnetic resonance imaging 2003; 21(1): 77-80
【非特許文献8】Sztriha L, Al-Gazali LI, Wanders RJ, Ofman R, Nork M, Lestringant GG. Abnormal myelin formation in rhizomelic chondrodysplasia punctata type 2 (DHAPAT-deficiency). Developmental medicine and child neurology 2000; 42(7): 492-5
【非特許文献9】Behl P, Lanctot KL, Streiner DL, Guimont I, Black SE. Cholinesterase inhibitors slow decline in executive functions, rather than memory, in Alzheimer's disease: a 1-year observational study in the Sunnybrook dementia cohort. Current Alzheimer research 2006; 3(2): 147-56
【非特許文献10】Sparks DL, Sabbagh M, Connor D, et al. Statin therapy in Alzheimer's disease. Acta Neurol Scand Suppl 2006; 185: 78-86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本出願は、血漿中のプラスマロゲンのレベルが異常に低いヒト成人(40歳を超える)のサブセットについて記載する。この欠乏症は、プラスマロゲン生合成の低下に起因し、酸化的ストレスの増加には起因しないことが決定されている。この障害の対象では、認知障害、認知症及び癌の罹患率が増加する。これらの疾患の早期診断、又はこれらの疾患を発症する前の対象におけるリスク評価により、これらの対象の長期の生活の質が大幅に改善され、既存の医療制度に対する長期のコストが大幅に削減されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、プラスマロゲン欠乏症が媒介する加齢に伴う疾患の診断のための方法に関する。本発明は、プラスマロゲン生合成の機能障害と、加齢関連障害の生化学的及び臨床的な所見との間の関係について記載する。具体的には、本発明は、プラスマロゲンのレベルが低下した対象における大腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、認知障害及び認知症の罹患率の増加について記載する。
【0017】
本発明は、未知の疾患状況の対象から採取した血漿検体中に存在する1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質のレベルを測定し、これらのレベルを「正常」レベル又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症の基準レベルと比較し、この比較を通して、加齢関連プラスマロゲン欠乏症陽性又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症陰性のいずれかの診断に到達することによって、1又は複数の対象における加齢関連プラスマロゲン欠乏症の存在を診断する新規な方法を開示する。
【0018】
本発明は、未知の疾患状況の1又は複数の対象から採取した血漿検体中に存在する1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質の測定によって数学的に決定したプラスマロゲンスコアを比較し、このスコアを「正常」レベル又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症の基準レベルと比較し、この比較を通して、加齢関連プラスマロゲン欠乏症陽性又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症陰性のいずれかの診断に到達することによって、1又は複数の対象における加齢関連プラスマロゲン欠乏症の存在を診断する新規な方法を開示する。
【0019】
本発明は、未知の疾患状況の1又は複数の対象から採取した血漿検体からの、加齢関連プラスマロゲン欠乏症によって影響を受けていない又は最小限にしか影響を受けていない1又は複数の内因性分子に対する、1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質の比を比較し、これらの比を「正常」レベル又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症の基準レベルと比較し、この比較を通して、加齢関連プラスマロゲン欠乏症陽性又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症陰性のいずれかの診断に到達することによって、1又は複数の対象における加齢関連プラスマロゲン欠乏症の存在を診断する新規な方法を開示する。
【0020】
加齢関連プラスマロゲン欠乏症の対象は、癌及び認知症に罹患するリスクが上昇しているので、本発明は、癌又は認知症の発症のリスクが上昇している対象を同定するための新規な方法を開示する。したがって、本発明は、未知の疾患状況の対象から採取した血漿検体中に存在する1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質のレベルを測定し、これらのレベルを「正常」レベル又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症の基準レベルと比較し、この比較を通して、リスクの上昇の有無の決定に到達することによって、1又は複数の対象における癌又は認知症に罹患するリスクの上昇を診断する新規な方法を開示する。
【0021】
加齢関連プラスマロゲン欠乏症の対象は、癌及び認知症に罹患するリスクが上昇しているので、本発明は、癌又は認知症の発症のリスクが上昇している対象を同定するための新規な方法を開示する。したがって、本発明は、未知の疾患状況の1又は複数の対象から採取した血漿検体中に存在する1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質の測定から数学的に決定したプラスマロゲンスコアを比較し、このスコアを「正常」レベル又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症の基準レベルと比較し、この比較を通して、リスクの上昇の有無の決定に到達することによって、1又は複数の対象における癌又は認知症に罹患するリスクの上昇を診断する新規な方法を開示する。
【0022】
加齢関連プラスマロゲン欠乏症の対象は、癌及び認知症に罹患するリスクが上昇しているので、本発明は、未知の疾患状況の1又は複数の対象から採取した血漿検体からの、加齢関連プラスマロゲン欠乏症によって影響を受けていない又は最小限にしか影響を受けていない1又は複数の内因性分子に対する、1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質の比を比較し、これらの比を「正常」レベル又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症の基準レベルと比較し、この比較を通して、リスクの上昇の有無の決定に到達することによって、1又は複数の対象における癌又は認知症に罹患するリスクの上昇を診断する新規な方法を開示する。
【0023】
癌又は認知症に現在罹患している対象においては、加齢関連プラスマロゲン欠乏症の罹患率が増加するので、本発明は、診断未確定の癌又は認知症の対象を同定するための新規な方法を開示する。したがって、本発明は、未知の疾患状況の対象から採取した血漿検体中に存在する1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質のレベルを測定し、これらのレベルを「正常」レベル又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症の基準レベルと比較することによって、1又は複数の対象における診断未確定の癌又は認知症を同定する新規な方法を開示する。加齢関連プラスマロゲン欠乏症について結果が陽性である対象は、次いで、従来の癌及び認知症の診断方法によって試験して、前記対象中に存在する癌の場所並びに/又は認知症の重症度及び型を決定する。
【0024】
癌又は認知症に現在罹患している対象においては、加齢関連プラスマロゲン欠乏症の罹患率が増加するので、本発明は、診断未確定の癌又は認知症の対象を同定するための新規な方法を開示する。したがって、本発明は、未知の疾患状況の1又は複数の対象から採取した血漿検体中に存在する1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質の測定から数学的に決定したプラスマロゲンスコアを比較し、このスコアを「正常」レベル又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症の基準レベルと比較することによって、1又は複数の対象における診断未確定の癌又は認知症を同定する新規な方法を開示する。加齢関連プラスマロゲン欠乏症について結果が陽性である対象は、次いで、従来の癌及び認知症の診断方法によって試験して、前記対象中に存在する癌の場所並びに/又は認知症の重症度及び型を決定する。
【0025】
癌又は認知症に現在罹患している対象においては、加齢関連プラスマロゲン欠乏症の罹患率が増加するので、本発明は、診断未確定の癌又は認知症の対象を同定するための新規な方法を開示する。したがって、本発明は、未知の疾患状況の1又は複数の対象から採取した血漿検体からの、加齢関連プラスマロゲン欠乏症によって影響を受けていない又は最小限にしか影響を受けていない1又は複数の内因性分子に対する、1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質の比を比較し、これらの比を「正常」レベル又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症の基準レベルと比較することによって、1又は複数の対象における診断未確定の癌又は認知症を同定する新規な方法を開示する。加齢関連プラスマロゲン欠乏症について結果が陽性である対象は、次いで、従来の癌及び認知症の診断方法によって試験して、前記対象中に存在する癌の場所並びに/又は認知症の重症度及び型を決定する。
【0026】
本発明は、加齢関連プラスマロゲン欠乏症標的療法が有益であろう個体を同定するための方法を提供し、この方法は、表5に列挙した代謝産物又は密接に関連する実体のすべて又はサブセットに関する定量的データを得るために、試験対象からの血液試料を解析するステップと、前記試験対象における前記代謝産物に関して得たデータを、複数の加齢関連プラスマロゲン欠乏症のヒトの解析から又は複数の非加齢関連プラスマロゲン欠乏症のヒトから得た基準データと比較するステップと、前記比較を使用して、試験対象において加齢関連プラスマロゲン欠乏症標的療法が有益である確率を決定するステップとを含む。
【0027】
本発明は、加齢関連プラスマロゲン欠乏症標的療法の効果をモニターするための方法を提供し、この方法は、表5に列挙した代謝産物又は密接に関連する実体のすべて又はサブセットに関する定量的データを得るために、そのような療法を開始する前、施している間、又は施した後に試験対象からの複数の血液検体を解析するステップと、前記試料中の前記代謝産物について得たデータを、相互に、又は複数の加齢関連プラスマロゲン欠乏症のヒトの解析から若しくは複数の非加齢関連プラスマロゲン欠乏症のヒトから得た基準データと比較するステップと、前記比較を使用して、試験対象において加齢関連プラスマロゲン欠乏症標的療法の継続治療が有益である確率を決定するステップとを含む。
【0028】
文字通り誰もが生涯にわたる長期にスクリーニングを受けて、リスクを評価することができることから、加齢関連プラスマロゲン欠乏症及び加齢関連プラスマロゲン欠乏症が引き起こすであろう疾患の診断に対する本発明の影響力は多大であろう。
【0029】
加齢関連プラスマロゲン欠乏症と、癌及び認知症との間の因果関係が、以前に記載されたいずれの関係よりも強く、本発明に記載する方法の性能の特徴が、一般集団についての代表的なものであることを考慮すると、これらの方法単独でも、癌、認知症及び認知障害についての、いずれかのその他の現在利用可能なスクリーニングの方法よりも優れている場合がある。これは、本発明の方法が、臨床症状が出現する前に疾患の進行を検出する可能性を有し得、これらの疾患に罹患している対象にとっては、より早期の介入及びそれに続くより良好な予後が可能となるからである。
【0030】
本発明のこの概要は、必ずしも本発明のすべての特徴を記載するとは限らない。
【0031】
本発明のこれら及びその他の特徴が、添付の図面を参照する以下の説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】プラスマロゲンの生合成経路を示す図である。
【図2】異なる疾患にわたる、ジアシル16:0/18:0に対するプラスメニル16:0/22:6の比の平均を示すグラフである。
【図3】異なる疾患にわたる、ジアシル16:0/18:0に対するプラスメニル16:0/18:2の比の平均を示すグラフである。
【図4】ジアシル16:0/18:0(M01)、プラスマニル16:0/18:2(M11)、プラスメニル16:0/18:2(M16)、プラスマニル16:0/22:6(M09)及びプラスメニル16:0/22:6(M19)の平均+/−SEMを示すグラフである。
【図5】正常者集団におけるプラスマロゲンの濃度分布を示すグラフである。
【図6】認知機能から確認された正常者におけるプラスマロゲンの濃度分布を示すグラフである。
【図7】ADである可能性が高い患者におけるプラスマロゲンの濃度分布を示すグラフである。
【図8】腎臓癌患者におけるプラスマロゲンの濃度分布を示すグラフである。
【図9】前立腺癌患者におけるプラスマロゲンの濃度分布を示すグラフである。
【図10】卵巣癌患者におけるプラスマロゲンの濃度分布を示すグラフである。
【図11】肺癌患者におけるプラスマロゲンの濃度分布を示すグラフである。
【図12】大腸癌患者におけるプラスマロゲンの濃度分布を示すグラフである。
【図13】乳癌患者におけるプラスマロゲンの濃度分布を示すグラフである。
【図14】血清プラスマロゲンレベルが正常レベルの50%未満である対象のパーセントを示すグラフである。
【図15】認知症の重症度及びSDATの病態の、血清PlsEtnレベルに対する影響を示すグラフである。(図15A)モノ及びジ不飽和PlsEtn。(図15B)ポリ不飽和PlsEtn及び遊離DHA(22:6)。PlsEtnの略語:(脂肪酸炭素:ビニルエーテル二重結合を含まない二重結合)及びグリセロール骨格上の位置(sn−1/sn−2)。22:6は、遊離DHAを示す。値は、平均±SEM(n=19〜112)として表す。
【図16】256人のSDAT対象における、疾患の重症度及び血清PlsEtn16:0/22:6レベルの線形回帰分析を示すグラフである。X=AO−PBD発症の予測される時期。値は、平均±SEM(n=66〜112)として表す。臨床上の進行として、7.5ADAS−cog点/年を想定している。
【図17】認知症の病因を示す図である。
【図18】これから15年のうちに癌を発症すると予測される健常な対象のパーセントを示すグラフである。
【図19】加齢関連プラスマロゲン欠乏症の50〜59歳及び60〜69歳の健常な人のうち、20年以内に認知症又は15年以内に癌を発症すると予測されるパーセント、並びに加齢関連プラスマロゲン欠乏症が原因であると予測される症例のパーセントを示すグラフである。
【図20】アルツハイマー病でないことが剖検により確認された対象における、プラスメニル16:0/22:6の分布を示すグラフである。
【図21】アルツハイマー病であることが剖検により確認された対象における、プラスメニル16:0/22:6の分布を示すグラフである。
【図22】哺乳類におけるプラスマロゲンの生合成経路を示す図である。
【図23】健常なヒトの血清における、PlsEtn16:0/22:6のQ−Trapフローインジェクション分析の検量線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、プラスマロゲン欠乏症が媒介する加齢に伴う疾患の診断のための方法に関する。本発明は、プラスマロゲン生合成の機能障害と、加齢関連障害の生化学的及び臨床的な所見との間の関係について記載する。具体的には、本発明は、プラスマロゲンのレベルが低下した対象における大腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、認知障害及び認知症の罹患率の増加について記載する。
【0034】
したがって、本発明は、ヒトにおける、ペルオキシソーム性の機能障害の遅発性又は成人発症性の形態の発見について記載する。この疾患は、すべての年齢の対象において発症するが、発生率は、50歳を過ぎると加齢と共に増加し、60〜69歳でピークに達し、それ以降は減少する。加齢関連プラスマロゲン欠乏症に罹患している対象においては、血清中の循環プラスマロゲンのレベルが異常に低く、加齢関連プラスマロゲン欠乏症ではない対象と比べて、大腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、認知障害及び認知症の罹患率が増加する。加齢関連プラスマロゲン欠乏症、又は成人発症性プラスマロゲン生合成障害、又はAO−PBD(adult onset plasmalogen biosynthesis disorder)という用語は、この障害を説明するために、本出願を通して使用されている。本発明の実施形態は、大腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、認知障害又は認知症の罹患率の増加について例示しているが、本発明により、その他の加齢関連プラスマロゲン欠乏症障害を診断することができるか、又は前記障害を獲得するリスクを査定することができる。
【0035】
本発明の診断方法は、最小限に侵襲性であり、AO−PBDを示す。この方法の、現在の臨床化学実験室ハードウェアに対応する臨床アッセイへの転換は、商業的に許容でき、有効である。さらに、本発明の方法は、試験を実施し、解釈するために、高度に訓練された人材を必要としない。
【0036】
生物学的試料は、体内の任意の場所を起源としてよく、例として、これらに限定されないが、血液(血清/血漿)、脳脊髄液(CSF,cerebral spinal fluid)、尿、糞便、息、唾液、又は腫瘍、隣接する正常な平滑筋及び骨格筋、脂肪組織、肝臓、皮膚、毛、脳、腎臓、膵臓、肺、大腸、胃を含めた任意の固形組織の生検等が挙げられる。特に興味深いのは、血清又はCSFである試料である。「血清」という用語を本明細書では使用するが、当業者であれば、血漿、又は全血若しくは全血の一部を使用することができることを認識するであろう。
【0037】
患者から血液試料を取り出す場合、試料を処理することができる、いくつかの方法がある。処理の範囲は、手を加えない(即ち、凍結全血)、ほとんど処理しない状態であっても、又は特定の細胞型の単離のように複雑な処理であってもよい。最も一般的且つ日常的な手順は、全血からの血清又は血漿のいずれかの調製である。また、ろ紙又はその他の固定化材料等の固相の支持体上に、血液試料をスポットすることを含めた、すべての血液試料の処理方法も本発明によって企図される。
【0038】
次いで、上記記載の処理済み血液試料をさらに処理して、これを、処理済み血清試料内に含有されている生体化学物質の検出及び測定において利用する順序立った解析技法に適合させる。処理の型は、さらなる処理はしない、ほとんど処理しない状態から、示差的な抽出及び化学的な誘導体化のように複雑な処理に及んでよい。抽出方法として、メタノール、エタノール、アルコールと水の混合液、又は酢酸エチル若しくはヘキサン等の有機溶媒等、通常の溶媒中における超音波処理、ソックスレー抽出、マイクロ波照射抽出(MAE,microwave assisted extraction)、超臨界流体抽出法(SFE,supercritical fluid extraction)、高速溶媒抽出(ASE,accelerated solvent extraction)、加圧液体抽出(PLE,pressurized liquid extraction)、加圧熱水抽出(PHWE,pressurized hot water extraction)、及び/又は界面活性剤支援抽出(PHWE,surfactant assisted extraction)が挙げられるであろう。HTS解析のための代謝産物を抽出する好ましい方法は、非極性の代謝産物を有機溶媒中に溶解させ、極性の代謝産物を水性溶媒中に溶解させる、液体/液体抽出の実施である。
【0039】
本発明の1つの実施形態は、サブセットがAO−PBDと正常な血清との間で統計学的に有意に異なる存在量を有することが見出された、代謝産物のパネルを検出し、測定する。1つの実施形態では、代謝産物のパネルは、表5に列挙する1又は複数の代謝産物である。
【0040】
本発明は、患者におけるAO−PBD又はAO−PBDのリスクを診断するための方法を提供し、この方法は、
a)1又は複数の代謝産物マーカーについての定量的データを得るために、前記患者からの試料を解析するステップと、
b)前記1又は複数の代謝産物マーカーについての定量的データを、1又は複数の基準試料から得た対応するデータと比較するステップとを含み、
前記比較を使用して、AO−PBD又はAO−PBDのリスクを診断することができる。
【0041】
試料を解析するステップは、質量分析計(MS,mass spectrometer)を使用して、試料を解析することを含むことができる。例えば、限定する意図はないが、そのような質量分析計は、FTMS、orbitrap、飛行時間(TOF,time of flight)、又は四極子の型であってよい。代替的に、質量分析計に、追加の質前置検出器質量フィルターが備わっていてもよいであろう。例えば、限定する意図はないが、そのような機器は通常、四極子FTMS(Q−FTMS,quadrupole-FTMS)、四極子TOF(Q−TOF,quadrupole-TOF)、又は三連四重極(TQ,triple quadrupole、又はQQQ)と呼ばれる。さらに、質量分析計は、親イオン検出モード(MS)又はMSnモードのいずれかにおいて運転することができるであろう。但し、n≧2である。MSnは、親イオンが、衝突誘起解離(CID,collision induced dissociation)又はその他の断片化の手順によって断片化されて、断片イオンを生み出し、次いで、前記断片のうちの1又は複数が、質量分析計によって検出される状況を指す。次いで、そのような断片は、さらに断片化されて、さらなる断片を生み出すことができる。代替的に、液体若しくは気体のクロマトグラフシステムを使用して、又は直接的な注入によって、試料を質量分析計に導入することもできるであろう。
【0042】
当技術分野で知られている任意の適切な方法を使用して、抽出した試料を解析することができる。例えば、いずれの場合であっても限定する意図はないが、生物学的試料の抽出物は、本質的には、いずれの質量分析プラットフォーム上においても、直接的な注入又はクロマトグラフ的な分離後のいずれかによって解析することができる。典型的な質量分析計は、試料内の分子をイオン化する源、及びイオン化された分子若しくは分子の断片を検出するための検出器からなる。通常の源の非限定的な例として、電子衝撃、エレクトロスプレーイオン化(ESI,electrospray ionization)、大気圧化学イオン化(APCI,atmospheric pressure chemical ionization)、大気圧光イオン化(APPI,atmospheric pressure photo ionization)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI,matrix assisted laser desorption ionization)、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI、surface enhanced laser desorption ionization)、及びそれらの誘導形態が挙げられる。通常の質量の分離及び検出システムとして、四極子、四重極イオントラップ、線形イオントラップ、飛行時間(TOF)、磁場、イオンサイクロトロン(FTMS)、Orbitrap、並びにそれらの誘導形態及び組合せを挙げることができる。FTMSがその他のMSに基づくプラットフォームを上回る利点は、わずか数百分の1ダルトンだけ異なる代謝産物の分離を可能にする、その高い分解能である。こうした分離の多くは、分解能がより低い機器では達成されないであろう。
【0043】
「代謝産物」という用語は、特異的な小型分子を意味し、そのレベル又は強度を試料中で測定し、この分子を、疾患状況を診断するためのマーカーとして使用することができる。これらの小型分子はまた、本明細書では、「代謝産物マーカー」、「代謝産物構成成分」、「バイオマーカー」又は「生化学的マーカー」とも呼ぶことができる。
【0044】
代謝産物は一般に、上記の方法において使用する質量分析の技法によって測定した、それらの正確な質量によって特徴付けられる。正確な質量はまた、「正確な中性質量」又は「中性質量」と呼ぶこともできる。代謝産物の正確な質量は、本明細書では、ダルトン(Da,Dalton)、又はそれと実質的に同等な質量で示す。「それと実質的に同等な」によって、当業者であれば認識するであろうが、正確な質量の+/−5ppmの差は、同一の代謝産物を示すことを意味する。正確な質量は、中性の代謝産物の質量として示す。当業者であれば認識するであろうが、試料の解析の間に生じる代謝産物のイオン化においては、代謝産物は、1又は複数の水素原子の喪失又は獲得のいずれか、及び電子の喪失又は獲得を引き起こす。これは、正確な質量を「イオン化された質量」に変化させ、「イオン化された質量」は、正確な質量とは、イオン化の間に喪失又は獲得した水素(又はナトリウム、カリウム、アンモニア及び当技術分野で既知のその他等のその他の付加体)並びに電子の質量だけ異なる。別段の指定がない限り、本明細書では、正確な中性質量について言及する。
【0045】
同様に、代謝産物をその分子式によって記載する場合には、中性の代謝産物の分子式を示す。当然ながら、イオン化された代謝産物の分子式は、中性の分子式とは、イオン化の間に喪失又は獲得した水素(又はナトリウム、カリウム、アンモニア及び当技術分野で既知のその他等のその他の付加体)の数だけ異なる。
【0046】
データを、解析の間に収集し、1又は複数の代謝産物についての定量的データを得る。試料中に存在する特異的な代謝産物のレベル又は強度を測定することによって、「定量的データ」を得る。
【0047】
定量的データを、1又は複数の基準試料からの対応するデータと比較する。「基準試料」は、特定の疾患状況についての任意の適切な基準試料である。例えば、いずれの方法においても限定する意図はないが、本発明では、基準試料は、非AO−PBDの対照の個体、即ち、いずれの加齢関連プラスマロゲン欠乏症疾患にも罹患していない人(また、本明細書では「『正常な』対応物」とも呼ぶ)からの試料であってよい。当業者であれば理解するであろうが、2つ以上の基準試料を、定量的データと比較するために使用することができる。
【0048】
本発明のさらに別の実施形態では、患者におけるAO−PBD又はAO−PBDのリスクを診断するための方法を提供する。この方法は、
a)1又は複数の代謝産物マーカーについての定量的データを得るために、前記患者からの試料を解析するステップと、
b)内部対照の代謝産物に対する1又は複数の代謝産物マーカーそれぞれについての比を得るステップと、
c)内部対照の代謝産物に対する前記1又は複数の代謝産物マーカーそれぞれの比を、1又は複数の基準試料から得た対応するデータと比較するステップとを含み、
前記比較を使用して、AO−PBD又はAO−PBDのリスクを診断することができる。
【0049】
試料を解析するステップは、上記の記載に従うことができる。1又は複数の基準試料は、非AO−PBDの対照の個体から得た第1の基準試料であってよい。「内部対照の代謝産物」は、患者内に天然に存在する内因性代謝産物を指す。疾患状況を通じて変動しない任意の適切な内因性代謝産物を、内部対照の代謝産物として使用することができる。例えば、限定する意図はないが、内部対照の代謝産物は、表5に示すように、ホスファチジルエタノールアミン16:0/18:0(PtdEtn(phosphatidylethanolamine)16:0/18:0,M01)であってよく;この内部対照の代謝産物は、C3978NOPの分子式を有し、以下に示す構造によって特徴付けられる。
【0050】
【化1】

【0051】
内部対照の代謝産物に対する代謝産物マーカーの比を使用することによって、代謝産物マーカーの絶対的なレベルの測定よりも、安定で且つ再現性のある測定が得られる。内部対照の代謝産物は、すべての試料中に天然に存在し、疾患状況を通じて顕著に変動するようには見えないので、(取扱い、抽出等による)試料対試料のばらつきが最小限に抑えられる。
【0052】
本発明に記載する分子を、表5に列挙する。分子のこの選択は、ジアシルGPE、プラスマニルGPE及びプラスメニルGPEの代表的なサンプリングを表す。しかし、類似の生化学的経路に関与する類似の構造のその他の分子を類似の目的で以下の記載に従って使用することができるであろうことを認識する当業者も中にはあろう。本発明のすべてのそのような変形形態が、本明細書では企図される。
【0053】
また、本発明は、AO−PBDの診断のための高スループットな方法も提供する。この方法には、親分子の断片化が関与し;非限定的な例では、これは、Q-Trap(商標)システムによって達成することができる。代謝産物の検出は、比色分析化学アッセイ(UV若しくはその他の波長)、抗体に基づいた酵素結合免疫吸着測定アッセイ(ELISA,enzyme-linked immunosorbant assay)、核酸検出アッセイのためのチップに基づいたポリメラーゼ連鎖反応、ビーズに基づいた核酸検出の方法、試験紙による化学アッセイ又はその他の化学反応、磁気共鳴画像法(MRI,magnetic resonance imaging)、陽電子放出断層撮影(PET,positron emission tomography)による走査、コンピュータ断層撮影(CT,computerized tomography)による走査、核磁気共鳴(NMR,nuclear magnetic resonance)等の画像解析、及び種々の質量分析に基づいたシステムを含めた、種々のアッセイプラットフォームのうちの1つを使用して実施することができる。好ましい方法は、高スループットスクリーニングアッセイである。
【0054】
高スループットスクリーニング(HTS,high throughput screening)を、Agilent 1100 LCシステムにつないだ線形イオントラップ質量分析計(Q-trap 4000、Applied Biosystem社製)を用いて実施した。試料を、15μLの内部標準(5μg/mLの(24−13C)−コール酸、メタノール中)を、各試料の120μLの酢酸エチル画分に添加することによって調製した。100μlの試料を、フローインジェクション分析(FIA,flow injection analysis)によって注入し、負のAPCIモード下でモニターした。この方法は、各代謝産物及び1つの内部標準についての1つの親/娘の遷移の複数反応のモニタリング(MRM,multiple reaction monitoring)走査モードに基づいた。各移行を、70ミリ秒間、2.475秒の全サイクル時間にわたり走査した。溶出を、MeOH中、10%EtOAcの均一濃度、360μl/分の流速で1分間実施した。源のパラメータを以下に設定した:CUR:10.0、CAD:8、NC:−4.0、TEM:400、GS1:30、GS2:50、インターフェイスヒーターはスイッチを入れた。化合物のパラメータを以下に設定した:DP:−120.0、EP:−10、NC:−4.0、CE:−40、CXP:−15。図23に、内部標準(24−13C)−コール酸)の一定濃度を維持しながら、正常な血清試料を希釈することによって得たPlsEtn16:0/22:6について、この方法の代表的な検量線を図示する。
【0055】
本発明によると、プラスマロゲンの減少と癌及び/又は認知症との間には診断上の関係がある。加齢関連パルスマロゲン(palsmalogen)欠乏症の対象は、癌又は認知症を発症するリスクが上昇しているので、本発明は、未知の疾患状況の対象から採取した血漿検体中に存在する1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質のレベルを測定し、これらのレベルを「正常」レベル又は加齢関連欠乏症の基準レベルと比較し、この比較を通して、リスクの上昇の有無の決定に到達することによって、対象における癌又は認知症に罹患するリスクの上昇を診断する方法も提供する。本発明のこの態様による試料及び診断方法は、上記の詳細な記載に従う。
【0056】
癌又は認知症に現在罹患している対象においては、加齢関連プラスマロゲン欠乏症の罹患率が増加するので、本発明は、診断未確定の癌又は認知症の対象を同定するための新規な方法も開示する。したがって、本発明は、未知の疾患状況の対象から採取した血漿検体中に存在する1又は複数のプラスメニルエーテル脂質又はプラスマニルエーテル脂質のレベルを測定し、これらのレベルを「正常」レベル又は加齢関連プラスマロゲン欠乏症の基準レベルと比較することによって、1又は複数の対象における診断未確定の癌又は認知症を同定する新規な方法を開示する。本発明のこの態様による試料及び診断方法は、上記の詳細な記載に従う。加齢関連プラスマロゲン欠乏症について結果が陽性である対象は、次いで、従来の癌及び認知症の診断方法によって試験して、前記対象中に存在する癌の場所並びに/又は認知症の重症度及び型を決定する。
【0057】
本発明の実用性を、以下の実施例を使用してさらに例証する。
[実施例]
【実施例1】
【0058】
AO−PBDの個別の独特な疾患状況としての特徴付け
AO−PBDが、本当に個別の疾患状況であるのか、それとも以前に特徴付けられたヒト疾患の単なる症状であるのかを決定するために、以下の実験を実行した。
【0059】
並存疾患の解析
RCDPの症状が、癌及び神経学的な疾患の両方に関係するとみなされていることから、肺癌、乳癌、大腸癌、前立腺癌、卵巣癌及び腎臓癌、3つの型の多発性硬化症(再発寛解型、二次性進行型及び一次性進行型)、可能性が高いアルツハイマー型の認知症、並びに病理学的に確認されたアルツハイマー病における種々のGPEのレベルを調査した。4つのジアシルGPE、8つのプラスマニルGPE及び8つのプラスメニルGPE、並びに遊離DHA及びアラカドン酸の血清レベルを、種々の年齢及び疾患の1369人の対象において解析した(表4及び5)。表6〜11は、研究した分子のそれぞれについての結果を示す。図2及び3は、2つの原型的なプラスメニルGPE(それぞれ16:0/18:2及び16:0/22:6)の平均及びSEMを示す。プラスメニル16:0/18:2は、sn−2において単純なジ不飽和脂肪酸を含有する原型的な白質のプラスマロゲン(リノール酸)であり、プラスメニル16:0/22:6は、sn−2においてポリ不飽和脂肪酸を含有する原型的な灰白質のプラスマロゲン(DHA)である。各分子を、ジアシルGPE16:0/18:0に対する比として表し、観察しやすいように、対照集団の比の平均に対してさらに正規化する。プラスメニル16:0/18:2及び16:0/22:6は、癌の群及び可能性が高いアルツハイマー群のすべてにおいて有意により低いが、多発性硬化症の群ではいずれもがそうではなかった。実際、プラスメニル16:0/22:6は、二次性進行型MS及び一次性進行型MSにおいては、実際に、統計学的に上昇している。これら2つのグラフからのその他の重要な観察は、50〜59歳の年齢群と比較すると、60〜69歳の年齢群では、プラスマロゲンが有意に減少することである。
【0060】
レベルの低下は、プラスマロゲンの酸化的分解の増加に起因するか否かの決定
図1及び22に示すように、
プラスマロゲン合成の最後の段階がERにおいて生じ、1−O−エーテルの1−O−ビニルエーテルへの脱飽和が関与する。この1−O−ビニルエーテルは、プラスマロゲンの特性の多く、特に、抗酸化能力にとって重大な意味をもつ。合成とは関係のない、酸化的ストレスの増加に至る状況はいずれも、プラスメニル種を優先的に消滅させるであろう。このことを調査するために、16:0/18:2及び16:0/22:6についてプラスマニル/プラスメニルの対を測定した(図4)。観察されたのは、血清プラスマロゲンレベルの低下を示した疾患においては、プラスマニル種及びプラスメニル種の両方が、共に低下することであった。このことから、癌及び認知症におけるプラスマロゲンのレベルの低下は、これらの疾患における酸化的ストレスの増加には起因しないことが示されている。
【0061】
異なる年齢群及び疾患におけるAO−PBDの罹患率の決定
AO−PBDの罹患率を決定するために、最初に、すべての対象について、ジアシル16:0/18:0に対するプラスメニル16:0/18:2及びプラスメニル16:0/22:6の比を計算し、次いで、各対象を、正常集団の平均で割り、次いで、各値をlog2に変換して正規化した。次いで、各対象について、それら2つのlog2の値のうちの最も低いものを使用して、図5〜13に示す集団ヒストグラムを生み出した。−1のカットオフ値を使用したが、所望の感度及び特異性をもたらす任意のカット値を使用することができるであろう。log2の値が−1未満である対象は、集団の平均の50%未満の血清プラスマロゲンレベルを有する。このことを広い視野から眺めると、Perichonによって使用されたRDCP細胞系(Perichon R, Moser AB, Wallace WC, Cunningham SC, Roth GS, Moser HW. Peroxisomal disease cell lines with cellular plasmalogen deficiency have impaired muscarinic cholinergic signal transduction activity and amyloid precursor protein secretion. Biochem Biophys Res Commun 1998; 248(1): 57-61)は、対照の約30%のプラスマロゲンレベルを有した。このカットオフを使用すると、癌の罹患率は、前立腺癌のちょうど50%未満から乳癌の100%までに及ぶことが観察された。(図14)。認知症の対象と認知が正常と確認された者との間の差はそれぞれ、39%と6%であった。
【0062】
癌と認知症との間の並存疾患が明らかでないことから(Artaz MA, Boddaert J, Heriche-Taillandier E, Dieudonne B, Verny M. [Medical comorbidity in Alzheimer's disease: baseline characteristics of the REAL.FR Cohort]. La Revue de medecine interne / fondee 2006; 27(2): 91-7)、癌と認知症との間の共通の根底にある生化学的異常はこれまで確立されていない。これらのデータは、AO−PBDは、癌の症状でも、認知症の症状でもなく、したがって、それ自体の病因を有するはずであることを強く示している。
【0063】
AO−PBDの病因についての調査
認知症の病因については、広範に研究がなされていることから、324人の対象(176人の女性、148人の男性)、56〜95歳を使用して、認知症の重症度の作用を決定した。対象には、68人の認知機能から確認された認知症でない対象(簡易知能評価スケール(MMSE,Mini Mental State Examination)(MMSE≧28))、及び認知症と現在診断されている256人の対象(アルツハイマー病評価スコア、認知機能サブセット(ADAS−cog,Alzheimer's Diseases Assessment Score, cognitive sub-set)6〜70、MMSE0〜26))が含まれた。対象を、MMSEスコア[≧28=認知機能上正常]、又はADAS−cogスコア[5〜19=低度の認知障害;20〜39=中等度;40〜70=重度]のいずれかに基づいて、4つの認知症重症度コホートのうちの1つにグループ化した。各グループについて、8つのPlsEtn及び遊離ドコサヘキサエン酸(DHA,docosahexaenoic acid、22:6)の血清レベルの平均を決定した(図15)。すべての認知症のサブグループにおいて、8つのPlsEtnのすべてが、認知機能の対照と比べ、有意に低下していることが観察された(24個の一対比較、t検定p値:2.6e−2〜2.0e−10、平均=3.9e−5)。遊離DHAは、中等度及び重度の認知症の対象においてのみ有意に減少していた(p<0.05)。
【0064】
図15中のデータから、血清PlsEtnの減少は認知症の増悪と相関することが示されている。この概念を詳細に調査するために、これら3つのコホートのそれぞれについて、線形回帰分析を、認知症コホートのそれぞれの血清PlsEtn16:0/22:6レベルの平均(CNに対して正規化)、及びADAS−cogスコアの平均を使用して実施した(図16)。これら3つの認知症コホートの血清PlsEtn16:0/22:6レベルの平均とADAS−cogスコアの平均との間において、非常に高い相関性が観察された(r=0.99)。しかし、この線形の減少は、外挿した場合、CN群から外れた(X対CN)。認知症が1年当たり7.5ADAS−cog単位臨床上進行すると想定すると、この外挿入から、PlsEtn16:0/22:6のレベルは、臨床的な認知障害(ADAS−cog=15)が明らかになる少なくとも7年前には下降し始めることが予測される。これらのデータは、アルツハイマー型の認知症の9年の前駆期を観察した、Amievaらによる最近の知見(Amieva H, Jacqmin-Gadda H, Orgogozo JM, et al. The 9 year cognitive decline before dementia of the Alzheimer type: a prospective population-based study. Brain 2005; 128(Pt 5): 1093-101)と一致する。生化学的変化の作用は、線形であるのは稀であり、より一般的には指数関数的な効果を反映することを考慮すると、生化学的な前駆期は、臨床的な前駆期よりも長いことが予想されるであろう。このことは、アミロイド斑は40〜49歳で蓄積し始める(Esiri MM, Biddolph SC, Morris CS. Prevalence of Alzheimer plaques in AIDS. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1998; 65(1): 29-33)が、アルツハイマー病が臨床的に顕在化するのは、60歳代後半〜70歳代前半になってからであるという事実によって支持されている。これらの2つの研究、及び血清プラスマロゲンが臨床症状の発症前から減少するという我々自身の証拠に基づくと、認知症の病因は、図17によって表現することができる。
【0065】
さらに、大部分の癌は、10〜15年の前駆期間を有することが予測されている。癌の場合、15年の前駆期間があると想定すると、無症状の対象がこれから15年のうちに癌を発症するパーセントを計算することができる(図18)。同様に、認知症についても計算することができる。すべての値は、カナダの癌及び認知症の統計に基づいて計算した。図19は、50〜59歳及び60〜69歳の無症状の集団の対照におけるAO−PBDの実際の罹患率を示す。これらの値を、これから15年のうちに癌又は20年のうちに認知症のいずれかを発症するであろう無症状の対象を、これら2つの集団の合計で割ったパーセントと比較する。最後の列は、これらの疾患におけるAO−PBDの罹患率(認知症の場合、40%、及び癌の場合、70%)に基づいて、AO−PBDを先在疾患として有する結果、癌又は認知症に罹患してしまうことが予想される、これらの対象のパーセントを示す。この解析によって明らかになるのは、これから15〜20年のうちに、50〜59歳のうち20%が癌又は認知症のいずれかを発症し、60〜69歳のうち40%が癌又は認知症のいずれかを発症するであろうことが予測される点である。これらのデータは、50〜59歳(15%)及び60〜69歳(30%)において観察されたAO−PBDの罹患率に著しく近い。
【0066】
認知症の場合、AO−PBDがアルツハイマー病(AD,Alzheimer's Disease)の病態の単なる結果ではない点について確信を得るために、ADを有することが病理学的に確認された20人の対象(10人の男性及び10人の女性)、及びADを有さないことが病理学的に確認された19人の対象から収集した血清試料を調査した。図20及び21に見ることができるように、AO−PBDは、ADの症例のうちわずか55%において存在するに過ぎず、対照では、16%に存在する。このことは、ADの対象のうち45%においては、根底にある原因はAO−PBD以外の何かであることを意味する。明らかに、AO−PBDとADとは、同一の疾患ではない。
【0067】
上記の研究が示すのは、AO−PBDが癌及び認知症のいずれとも関係のない、固有の病因を示す点である。癌及び認知症の罹患率は、少なくとも90歳までは加齢と共に増加し続けるのに対して、AO−PBDの罹患率は60〜69歳でピークに達し、次いで、70歳以降は減少する。さらに、AO−PBDは、RCDPと類似の生化学的プロファイルを示すが、AO−PBDをRCDPと混同してはならない。RDCPの3つの形態はすべて、小児に影響を及ぼす遺伝的な障害である。AO−PBDの根底にある原因は、現時点では分かっていないが、代謝の先天性の異常ではないことは確かである。RCDPとAO−PBDとの間の関係は、ダウン症候群(遺伝的に決定される疾患)とアルツハイマー病(原因の分かっていない成人発症性の疾患)との間の関係に類似する。ダウン症候群及びアルツハイマー病の両方が、類似した生化学的特色(即ち、脳におけるアミロイド斑の蓄積)を示すが、臨床所見は劇的に異なる。
【実施例2】
【0068】
代謝産物の血清レベルを使用する、AO−PBDを有する対象の同定
認知機能が正常で、癌を有しない複数の対象について、上記実施例1に記載したもの等の検証された解析方法を使用して、表5に列挙した全代謝産物のすべて又はサブセットについての血清レベルの平均±SEMを測定した。これは、男性と女性とを分離して又は組み合わせて実施することができる。こうして測定した各代謝産物の平均値が、正常基準値となる。
【0069】
試験対象について、上記に記載したもの等の検証された解析方法を使用して、表5に列挙した全代謝産物のそれぞれ又はサブセットの血清レベルを計算した。
【0070】
次いで、正常集団の血清レベルの平均に対する試験対象の血清レベルの比を決定し、この比をカットオフ値と比較した(例えば、限定する意味はないが、0.5の値を、本出願を通して使用した)。0.5未満の比を有する対象は、AO−PBDであるとみなされる。
【実施例3】
【0071】
内因性基準代謝産物に対する表5に列挙した代謝産物の血清レベルの比の数学的に決定したプラスマロゲンスコアを使用する、AO−PBDの対象の同定
認知機能が正常で、癌を有しない複数の対象について、上記実施例1に記載したもの等の検証された解析方法を使用して、表5に列挙した全代謝産物のすべて又はサブセットについて、血清レベルの平均±SEMを決定した。これは、男性と女性とを分離して又は組み合わせて実施することができる。
【0072】
認知機能が正常なコホート又は既知の認知症コホートからの対応する平均に対するこれらの代謝産物の比を決定した。実施例1の記載に従って、データをlog2に変換した。M16及びM19の最も低いlog2スコアを選択した。次いで、このlog2スコアを、カットオフ値(本出願では−1.0を使用する)と比較して、対象がAO−PBDであるか否かを決定した。
【実施例4】
【0073】
試験対象から得た、内因性基準代謝産物に対する1又は複数の代謝産物の比を、正常な基準集団から得たそのような比の平均と比較することによるAO−PBD対象の同定
患者間の変動を減少させるために、試験している変動要因の間では顕著に変化しない内因性代謝産物を使用することができる。例えば、M01はAO−PBDにおいては顕著に変化しないので、これを使用することができよう。上記に記載したもの等の検証された解析方法を使用して、表5に列挙した全代謝産物のすべて又はサブセットの比を計算した。また、複数の正常な対象について、これらの代謝産物のそれぞれについての血清の比のレベルの平均±SEMも計算した。これは、男性と女性とを分離して又は組み合わせて実施することができる。
【0074】
また、AO−PBDの未知の状況の対象について、表5に列挙した代謝産物のうちの1又は複数の血清の比のレベルも決定した。対応する正常な濃度の平均に対する1又は複数のこれらの代謝産物の比を計算し、カットオフ値と比較した。この比較を使用して、前記対象がAO−PBDであるか否かを決定した。
【0075】
すべての引用は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0076】
本発明を、1又は複数の実施形態に関して説明してきた。しかし、特許請求の範囲において定義する本発明の範囲から逸脱することなく、多くの変形形態及び改変形態を作製することができることが、当業者には明らかであろう。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
【表7】

【0084】
【表8】

【0085】
【表9】




【0086】
【表10】

【0087】
【表11】

【0088】
(参考文献)
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11. Perichon R, Moser AB, Wallace WC, Cunningham SC, Roth GS, Moser HW. Peroxisomal disease cell lines with cellular plasmalogen deficiency have impaired muscarinic cholinergic signal transduction activity and amyloid precursor protein secretion. Biochem Biophys Res Commun 1998;248(1):57-61
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14. Esiri MM, Biddolph SC, Morris CS. Prevalence of Alzheimer plaques in AIDS. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1998;65(1):29-33

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における成人発症性プラスマロゲン生合成障害を診断する方法であって、
a)ジアシルグリセリルホスホエタノールアミン、プラスマニルグリセリルホスホエタノールアミン、プラスメニルグリセリルホスホエタノールアミン、及び遊離脂肪酸からなる群から選択される、1又は複数の代謝産物マーカーについての定量的データを得るために、前記対象からの試料を解析するステップと、
b)前記1又は複数の代謝産物マーカーについての前記定量的データと、1又は複数の基準試料から得た対応するデータとを比較するステップと
を含み、
前記比較を使用して、前記対象における成人発症性プラスマロゲン生合成障害の存在を決定することができる方法。
【請求項2】
対象におけるプラスマロゲン欠乏症関連ヒト健康障害又はプラスマロゲン欠乏症関連ヒト健康障害のリスクを診断する方法であって、
a)ジアシルグリセリルホスホエタノールアミン、プラスマニルグリセリルホスホエタノールアミン、プラスメニルグリセリルホスホエタノールアミン、及び遊離脂肪酸からなる群から選択される、1又は複数の代謝産物マーカーについての定量的データを得るために、前記対象からの試料を解析するステップと、
b)前記1又は複数の代謝産物マーカーについての前記定量的データと、1又は複数の基準試料から得た対応するデータとを比較するステップと
を含み、
前記比較を使用して、前記対象におけるプラスマロゲン欠乏症関連障害又はプラスマロゲン欠乏症関連障害のリスクの存在を決定することができる方法。
【請求項3】
プラスマロゲン欠乏症関連障害が、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、肺癌、卵巣癌、腎臓癌、アルツハイマー病、認知症又は認知障害からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
対象が20歳超である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
対象におけるプラスマロゲン欠乏症関連ヒト健康障害又はプラスマロゲン欠乏症関連ヒト健康障害のリスクを診断する方法であって、
a)ジアシルグリセリルホスホエタノールアミン、プラスマニルグリセリルホスホエタノールアミン、プラスメニルグリセリルホスホエタノールアミン、及び遊離脂肪酸からなる群から選択される、1又は複数の代謝産物マーカーについての定量的データを得るために、前記対象からの試料を解析するステップと、
b)内部対照の代謝産物に対する1又は複数の代謝産物マーカーそれぞれについての比を得るステップと、
c)内部対照の代謝産物に対する前記1又は複数の代謝産物マーカーそれぞれの比と、1又は複数の基準試料から得た対応するデータとを比較するステップとを含み、
前記比較を使用して、前記対象におけるプラスマロゲン欠乏症関連障害又はプラスマロゲン欠乏症関連障害のリスクの存在を決定することができる方法。
【請求項6】
プラスマロゲン欠乏症関連障害が、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、肺癌、卵巣癌、腎臓癌、アルツハイマー病、認知症又は認知障害からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
対象が20歳超である、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2010−523986(P2010−523986A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502394(P2010−502394)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【国際出願番号】PCT/CA2008/000659
【国際公開番号】WO2008/124916
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(504353730)フェノメノーム ディスカバリーズ インク (16)
【Fターム(参考)】