説明

プラスモジウム属原虫検出用プライマー

マラリア流行地域における実地診療に貢献できるヒト検体中の特定のプラスモジウム属原虫、および4種のマラリアの有無について、簡便で、迅速な検出・識別法、さらにはマラリア対策支援システム、マラリア感染予防・治療対策システムを提供する。ヒトに感染する4種類のプラスモジウム属原虫が一度に検出可能な属特異的プライマーセット及び4種の原虫種(熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、および卵形マラリア原虫)特異的プライマーセットを用いれば、これらの感染の有無を簡便、迅速に検出、識別し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マラリア流行地域において、プラスモジウム属のマラリア原虫種を迅速かつ正確に検出・識別することが可能なプライマーセット、検出及び識別方法、検出用キット、マラリア対策支援システム並びにマラリア感染予防・治療対策システムに関する。
【背景技術】
【0002】
マラリア原虫の流行地域の多くの国々では、マラリア原虫の迅速且つ正確な診断の試みがされている。4種のプラスモジウム属、特に致命的である熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum)は、迅速に特定しなければならず、ヒトにおいて疾患を生じる他のプラスモジウム属(Plasmodium)とは区別される(Moody, A., Clin. Microbiol. Rev. (2002) Vol.15: 66-78)。
【0003】
加えて、多くのマラリア流行地域は2若しくは、それ以上の原虫種による混合感染が存在している。これらの混合感染は、しばしば見落とされているか過小評価されているのが現状である(Zimmerman, P.A., et al., Trends Parasitol. (2004) Vol.20: 440-447)。混合感染検出の失敗は、不適切な治療の原因となり、そして重症化を招く可能性が高い(Mayxay, M., et al., Trends Parasitol.(2004) Vol.20: 233-240)。従って、流行地で実施可能な簡便で、迅速、高感度且つ種特異的であるマラリア診断方法の開発が緊急の課題となっている。
【0004】
現在マラリアに対する簡便な診断方法は、血液塗抹標本の顕微鏡観察法である。この顕微鏡法は、原虫密度が高ければ、原虫の発育状況、種別判定を特異性高く検出できるけれども、流行地で一般的な低い原虫密度では、この方法は試験者に負担がかかり、高度な技術のある専門家が必要とされ、結果として治療の遅れを招く可能性がある。
【0005】
設備の整っていないマラリア流行地域におけるマラリア診断のスピードと正確さを改善するために、免疫反応を応用したマラリア迅速診断試験(RDTs)が開発されている(Moody, A. Clin. Microbiol. Rev. (2002) Vol.15: 66-78; Ndao, M., et al., J. Clin. Microbiol., (2004) Vol.42: 2694-2700)。しかしながら、感度は製品間で異なり(Murray, C.K., et al., Trop. Med. Int. Health., (2003)Vol.8: 876-883)、そして種特異的な製品としては熱帯熱マラリアについてのみ入手可能な状況にある。また、原虫寄生率が低いか、混合感染、薬剤治療後、および感染の慢性期のような条件下においては、RDTは機能せず、また顕微鏡法による正しい診断のためには、非常に長い観察時間と高い熟練技術が要求される。故にこのような状況では、疑陰性や原虫種の診断に支障をきたす (Coleman, R., et al., Thailand. Malar. J. (2006) Vol.14:121)。
【0006】
そこで、ネスティッドPCR法やリアルタイム定量PCR法のようなDNA増幅に基づいた分子生物学的マラリア診断法が開発された。顕微鏡法に比較して、これらの方法はより高い感度を示しており、そして混合感染に対しても特異性良く診断できる (Kimura, K., et al., (1997) Parasitol. Int., Vol.46: 91-95; Perandin, F., et al., J. Clin. Microbiol., (2004) Vol. 42: 1214-1219; Rougemont, M., et al., J. Clin. Microbiol. (2004) Vol.42: 5636-5643; Singh, B., et al., Am. J. Trop. Med. Hyg., (1999) Vol. 60: 687-692; Singh, B., et al., Lancet. (2004) Vol. 363: 1017-1024; Snounou, G., et al., Mol. Biochem. Parasitol.,(1993) Vol. 58: 283-292; Snounou, G., et al., Mol. Biochem. Parasitol. (1993) Vol. 61: 315-320)。しかしながら、これらPCR法は、反応時間が長く、コストも高い。また、設備の整った研究所においてのみ実施できるので、これらの技術は一般病院やマラリア流行地域の現場診療所におけるルーチンの診断には適していない(Hanscheid, T., and Grobusch, M.P., Trends Parasitol., (2002) Vol. 18:395-398)。
【0007】
マラリア検出について、血液サンプルからの核酸を抽出して、ネスティッドPCR法によって、4種のプラスモジウムを検出する方法が(特許文献1)の実施例8及び実施例10に開示されている。実施例8にそのフォワードプライマーとリバースプライマー配列がそれぞれ開示されているが、本発明のプライマー配列とは異なる(特許文献1)。
【0008】
また特許文献2及び4には、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)の臨床的な検出のため複数種類のプライマーを単独または複数組み合わせて、固相法、或いはネスティッドPCR法により1種または複数のマラリア感染を検出する方法を開示している、しかしながら本発明のプライマー配列とは異なる。
【0009】
さらに熱帯熱マラリア原虫及び/または三日熱マラリア原虫に対する特定のプライマーを用いて標識体や固相担体に結合させて、熱帯熱マラリア原虫及び/または三日熱マラリア原虫を検出する方法が開示されている(特許文献3)が、これら特定のプライマー配列と本願発明のプライマーセットのオリゴヌクレオチド配列とは異なる配列である。
【0010】
近年、LAMP(loop-mediated isothermal amplification)と呼ばれる新規で、簡便、且つ高感度の技術が開発された(Notomi, T., et al., Nucleic Acids Res., (2000) Vol.28, e63; 国際公開特許WO2000/28082号)。
【0011】
LAMP法は、Bst DNAポリメラーゼによる鎖置換DNA合成を自動サイクル化することによる核酸増幅方法である。増幅産物は、標的の幾つかの繰り返し配列を持つステム・ループ構造であり、複数のループを持つ。
【0012】
この方法の主要な利点は、DNA鋳型の変性が必要ないことであり(Nagamine, K., et al., Clin. Chem.(2001) Vol. 47: 1742-1743)、LAMP反応は、等温(60-65℃)の条件下に実施される。LAMP法では、1の酵素と6の区別化された標的領域を認識する4種のプライマーのみ必要とされる。この方法は、大容量の増幅産物を生産し、濁度の視覚的判断、または反応混合液の蛍光を検出できるような容易な検出法である(Mori, Y., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun.(2001) Vol. 289: 150-154)。フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、X−ローダミン(ROX)などの蛍光物質を用いて反応液の蛍光偏光度を測定するLAMP法及びインターカレーターにグリーン・ダイ(green dye)であるSYBRグリーン2を用いるLAMP法が知られている(特開2002-272475号公報、およびWO2002/103053号)。
【0013】
複数の研究者によるプラスモジウム属、トリパノソーマ属、バベシア属、フザリウム属、リステリア属、レジオネラ属の迅速同定のためのLAMP法が報告されており、LAMP測定の有用性を推奨されている(Ikadai, H., et al., J. Clin. Microbiol. (2004) Vol. 42: 2465-2469; Kuboki, N., et al., J. Clin. Microbiol., (2003) Vol. 41: 5517-5524; Thekisoe, O., et al., Mol. Biochem. Parasitol. (2002) Vol. 122: 223-236; 特開2005-245257号公報、特開2007-61061号公報、特開2003-219878号公報及び非特許文献1)。
【0014】
Poonらは、LAMP測定のランニングコストが熱帯熱マラリア検出のための通常のPCR法のそれに対する約10分の1と評価している(非特許文献1)。価格や時間の最も大きな削減は、予めDNA抽出のない、単純なサンプル調製に由来するものである(Iwasaki, M., et al., Genome Lett.(2003) Vol.2: 119-126)。
【0015】
検体としては、感染した血液を99℃で10分間単純に加熱するだけで、LAMP法のためのDNA鋳型を調製するには充分である(非特許文献1)。一方、臨床の診断におけるマラリア原虫の検出のためのLAMP法としては、急性期の熱帯熱マラリア患者においてのみ評価報告がなされている(非特許文献1)。もちろん熱帯熱マラリア原虫は、重症化の最も重要な原因であるが、その地域的な分布が、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のそれらと重複しているため、ヒトに感染する4種のマラリア全てを迅速に検出し、鑑別をする方法が、所望されている。
近年、マラリア流行地域においては、薬剤耐性株の出現が、適切なマラリア治療のための大きな問題となっており、実地医療者や病院医師たちは、発熱患者が特定のマラリアに感染しているか、複数マラリア感染であるかの情報を得るための、迅速、高感度に鑑別できる鑑別方法の提供が、発熱しているマラリア患者に対する適切な治療のため所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開特許WO2006/88895号公報
【特許文献2】特開平6-261758号公報
【特許文献3】特開平5-227998号公報
【特許文献4】特開2003-250564号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Poon, L., et al., Clin. Chem.(2006) Vol. 52: 303-306
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記の問題点に鑑み、従来技術の手法である顕微鏡法やPCR反応を使用した方法とは別の観点から、簡便で、迅速なプラスモジウム属原虫の4種のマラリア(特に、混合感染の有無)検出および識別法の開発が望まれている。
【0019】
本発明の目的は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)の臨床的な検出と特定のためにLAMP法を用いて迅速且つ高感度の検出および識別法を提供することにある。さらに本発明によるマラリア原虫検出および識別法によれば、マラリア流行地域の診療所から得られた血液サンプルを用いて、顕微鏡法とLAMP法との比較により評価されたプラスモジウム属原虫の4種のマラリア原虫検出用プライマーセット、該プライマーセットを用いるプラスモジウム属原虫の4種のマラリア原虫検出方法、並びに鑑別法、および検出用キットを提供することができる。
【0020】
したがって、本発明の目的は、前記の課題を解決し、マラリア流行地域における実地診療に貢献できるヒト検体中のプラスモジウム属原虫、または特定の4種のマラリア原虫の有無について、簡便で、迅速な検出・識別法、さらにはマラリア対策支援システム、マラリア感染予防・治療対策システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、かかる課題を解決するべく、等温の遺伝子増幅反応であるLoop-mediated isothermal amplification(LAMP)法(国際特許公開WO00/28082号公報)を利用することを着想した。しかし、マラリア原虫遺伝子の核酸配列は一般的に他種生物とは大きく異なり、AT含量が高く、したがって既存のプライマー設計ソフトウエアでは最適プライマーセットが見出せず、試行錯誤を繰り返すしかなく、各種プライマーのデザインに難渋した。最終的には合成を行った多数の組み合わせのプライマーセットの中から、感度・特異性共に実用に耐えるものを見出した。これにより、ヒトに感染する4種類のプラスモジウム属原虫が一度に検出可能な属特異的プライマーセット及び4種の原虫種(熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、および卵形マラリア原虫)特異的プライマーセットを用いれば、これらの感染の有無を簡便、迅速に検出、識別し得ることを見出した。
【0022】
また、これらの結果は、マラリア対策支援システム、マラリア感染予防/治療対策システムに有効に活用できることを見出した。
【0023】
すなわち、本発明よれば、以下に項1〜項27に示されるとおり、
項1. 下記の(a)〜(c)の工程を含む検体中に存在するプラスモジウム属原虫、及び/又は熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか、または混合感染の検出又は識別方法。
a)検体からDNAを抽出する工程、
b)(a)において抽出したDNAを鎖置換型DNAポリメラーゼ及び配列特異的プライマーセットを含む反応液中でプラスモジウム属の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅する工程、
c)(b)で増幅されたプラスモジウム属原虫、及び熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫の増幅産物の有無を検出又は識別する工程、
前記配列特異的プライマーセットが、プラスモジウム属原虫の18S rRNA遺伝子配列を増幅するための配列番号1〜6で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセット、
熱帯熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列を増幅するための配列番号7〜12で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセット、
三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅するための配列番号13〜18、配列番号31〜36、配列番号37〜42のいずれかで表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセット、
四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅するための配列番号19〜24で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセット、
卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅するための配列番号25〜30で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセット
項2.
検体からのDNA抽出が、DNAを含む検体をボイルした後、遠心分離することによってDNA抽出する方法であることを特徴とする項1に記載の検体中に存在するプラスモジウム属原虫、及び/または熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか、または混合感染の検出又は識別方法。
項3.
ボイルする時間が数分から十数分であることを特徴とする項2に記載の検出又は識別方法。
項4.
(b)のプラスモジウム属の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅する工程において、
恒温水槽またはLAMP反応専用増幅装置を用いて、60℃前後で約1時間前後、DNA増幅反応することを特徴とする項1〜3に記載の検体中に存在するプラスモジウム属原虫、及び/または熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか、または混合感染の検出又は識別方法。
項5.
(c)で増幅されたプラスモジウム属原虫、及び/または熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫の増幅産物の有無を検出又は識別する工程において、目視によってか、またはリアルタイム濁度メーターによって増幅された増幅産物の有無を検出または識別することを特徴とする項1〜4に記載の検出又は識別方法。
項6.
マラリア流行地域で行うことを特徴とする項1〜5に記載の検出又は識別方法。
項7.
項1〜6に記載のプラスモジウム属原虫、及び/または熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか、または混合感染の検出又は識別が、同時に又は別々に行われる、検出又は識別方法。
項8.
項1〜6に記載のプラスモジウム属原虫、及び/または熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの検出又は識別において、プラスモジウム属原虫の18S rRNA遺伝子配列を増幅するための配列番号1〜6で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットを配列特異的プライマーセットとして用いるプラスモジウム属原虫の感染検出又は識別方法。
項9.
配列番号13〜18、配列番号31〜36、配列番号37〜42のいずれかで表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な、三日熱マラリア原虫検出用プライマーセットを配列特異的プライマーセットとして用いて三日熱マラリア原虫の感染を検出又は識別する項1〜6のいずれかに記載の検出又は識別方法。
項10.
配列番号19〜24で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な、四日熱マラリア原虫検出用プライマーセットを配列特異的プライマーセットとして用いて四日熱マラリア原虫の感染を検出又は識別する項1〜6のいずれかに記載の検出又は識別方法。
項11.
配列番号25〜30で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な、卵形マラリア原虫用プライマーセットを配列特異的プライマーセットとして用いて卵形マラリア原虫の感染を検出又は識別する項1〜6のいずれかに記載の検出又は識別方法。
項12. 配列番号1〜6で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、プラスモジウム属の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能なプラスモジウム属原虫検出用プライマーセット。
項13. 配列番号13〜18、配列番号31〜36、配列番号37〜42のいずれかで表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な三日熱マラリア原虫検出用プライマーセット。
項14. 配列番号19〜24で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な四日熱マラリア原虫検出用プライマーセット。
項15. 配列番号25〜30で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な卵形マラリア原虫検出用プライマーセット。
項16. 項12から15に記載の核酸配列及び配列番号7〜12で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーセットからなり、熱帯熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を含むプラスモジウム属および各種の18S rRNA遺伝子の特定領域を増幅可能なプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか検出用プライマーセット。
項17. 項12〜16に記載のプライマーセット、鎖置換型DNAポリメラーゼ、dNTPs、反応緩衝液を少なくとも含むことを特徴とする、プラスモジウム属原虫、および/又は熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか検出用キット。
項18. 前記検出用キットが、プラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかを同時に又は別々に検出する、項17に記載の、検出用キット。
項19. マラリア対策支援システムにおいて、
マラリア流行地域におけるマラリアの原因となるプラスモジウム属原虫陽性数とその地域における保有率を含むマラリア感染患者情報を入力記録する手段と、
上記マラリア感染患者情報を基にした、マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策を特定し、該公衆衛生的対策のいずれかを優先的に選択すべきことを示す対策優先度とともに入力されるプラスモジウム属原虫感染地域に対する公衆衛生的対策選択情報が入力されたマラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースと、
被検体のプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報に応じて、上記マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースから該マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策とその公衆衛生的対策の優先度を抽出する公衆衛生的対策抽出部と、
上記公衆衛生的対策抽出部で抽出された公衆衛生的対策を優先度とともに提示する公衆衛生的対策提示部
とを有して構成されることを特徴とするマラリア対策支援システム。
項20. 該マラリア流行地域におけるプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報を項1に記載の検出又は識別方法及び/または項12に記載のプライマーセット、または項17に記載のプラスモジウム属原虫検出用キットを用いてプラスモジウム属原虫の感染の有無を特定することを特徴とする項19に記載のマラリア対策支援システム。
項21. マラリア対策支援システムにおいて、
4種のマラリア原虫単独または複数感染に対して作用するマラリア治療薬特定に関するマラリア原虫治療薬情報を入力記憶する手段と、
該マラリア流行地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、
マラリア流行地域ではない地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、
被検体に検出されるマラリア原虫に対する作用力の指標毎に、上記マラリア原虫に対して上記マラリア治療薬を優先的に選択すべきことを示す優先度とともに入力されるマラリア原虫治療薬選択情報が入力された治療ガイドデータベースと、
被検体のマラリア感染の病原情報に応じて、上記治療ガイドデータベースから被検体に投与すべきマラリア治療薬と優先度を抽出するマラリア治療薬抽出部と、
上記マラリア治療薬抽出部で抽出されたマラリア治療薬を優先度とともに提示するマラリア治療薬提示部とを有して構成されることを特徴とするマラリア対策支援システム。
項22. 発熱患者のマラリア感染の病原情報を項1〜11のいずれかに記載の検出又は識別方法及び/または項12から16のいずれかに記載のプライマーセット、または項17もしくは18に記載の検出キットを用いて4種のマラリア原虫単独または複数感染のいずれかの感染を識別することを特徴とする項21に記載のマラリア対策支援システム。
項23. マラリア対策支援システムにおいて、
マラリア流行地域におけるマラリアの原因となるプラスモジウム属原虫陽性数とその地域における保有率を含むマラリア感染患者情報を入力記録する手段と、上記マラリア感染患者情報を基にした、マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策を特定し、該公衆衛生的対策のいずれかを優先的に選択すべきことを示す対策優先度とともに入力されるプラスモジウム属原虫感染地域に対する公衆衛生的対策選択情報が入力されたマラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースと、被検体のプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報に応じて、上記マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースから該マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策とその公衆衛生的対策の優先度を抽出する公衆衛生的対策抽出部と、上記公衆衛生的対策抽出部で抽出された公衆衛生的対策を優先度とともに提示する公衆衛生的対策提示部とを有して構成されるマラリア対策に関する公衆衛生的対策と、
4種のマラリア原虫単独または複数感染に対して作用するマラリア治療薬特定に関するマラリア原虫治療薬情報を入力記憶する手段と、該マラリア流行地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、マラリア流行地域ではない地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、被検体に検出されるマラリア原虫に対する作用力の指標毎に、上記マラリア原虫に対して上記マラリア治療薬を優先的に選択すべきことを示す優先度とともに入力されるマラリア原虫治療薬選択情報が入力された治療ガイドデータベースと、被検体のマラリア感染の病原情報に応じて、上記治療ガイドデータベースから被検体に投与すべきマラリア治療薬と優先度を抽出するマラリア治療薬抽出部と、上記マラリア治療薬抽出部で抽出されたマラリア治療薬を優先度とともに提示するマラリア治療薬提示部とを有して構成されるマラリア対策に関するマラリア原虫治療対策とを、
組み合わせて実施することを特徴とするマラリア対策支援システム。
項24. 項23のマラリア対策支援システムにおいて、該マラリア流行地域におけるプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報を項1に記載の検出又は識別方法及び/または項12に記載のプライマーセット、または項17もしくは18に記載のプラスモジウム属原虫検出用キットを用いてプラスモジウム属原虫の感染の有無を特定するか、及び/または発熱患者のマラリア感染の病原情報を項1〜11のいずれかに記載の検出又は識別方法及び/または項16に記載のプライマーセット、または項17もしくは18に記載のプラスモジウム種検出キットを用いて4種のマラリア原虫単独または複数感染のいずれかの感染を識別することを特徴とするマラリア対策支援システム。
項25. 項23のマラリア対策支援システムからマラリア流行地域における公衆衛生的対策の実施状況と当該流行地域におけるマラリア感染の病原情報及び感染患者の治療状況を得る手段、マラリア原虫治療ガイドデータベースからマラリア予防・治療薬を選択する手段、さらに選択した薬剤を渡航前から服用する手段からなるマラリア流行地域へ渡航する渡航予定者のマラリア感染予防対策システム。
項26. 項23のマラリア対策支援システムからマラリア流行地域における公衆衛生的対策の実施状況と、当該流行地域におけるマラリア感染の病原情報及び感染患者の治療状況を得る手段とマラリア原虫治療ガイドデータベースからマラリア予防・治療薬を選択する手段、さらに選択した薬剤をマラリア流行地域から帰国後に服用する手段からなるマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システム。
項27. 項26のマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システムにおいて、マラリア流行地域から帰国した帰国者が発熱している場合は、さらに熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの識別を実施して、優先的に選択すべきマラリア治療薬を選択し、服用するマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システム。
を提供することができる。
【0024】
上記の項(1)〜項(5)の所定のプライマー又はプライマーセットをLAMP法に使用すると、プラスモジウム属原虫の18S rRNA遺伝子、熱帯熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子または卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子の特定領域にアニールする。これをLAMP法で定める増幅条件の下で増幅すると、特定の遺伝子領域が増幅される。このような増幅産物の有無を、電気泳動法又は簡易検出法によって確認する。このようにして、特定のプラスモジウム属原虫または4種のマラリア原虫種を同時に、または別々に、感染検出及び鑑別することができる。
【0025】
また、本発明の検出方法を特定の検体(例えば、ヒトの血液)に適用するとき、検体から採取したDNA試料を分離し、このDNA試料に上記の項(1)〜項(5)の所定のプライマーセットを作用させ、同様に増幅されたDNA増幅産物の有無を確認する。このようにして、プラスモジウム属原虫または4種のマラリア原虫種である熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかを同時に或いは別々に検出することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、配列番号1〜6、7〜12、13〜18(31〜36もしくは37〜42)、19〜24、25〜30で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなるプライマーセットをLAMP法に使用して、プラスモジウム属の18S rRNA遺伝子に共通の領域、または4種のヒトマラリア原虫である熱帯熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子の各々の特定領域を同時に、又は別々に増幅して、ヒトマラリア原虫感染の有無または4種のヒトマラリア原虫を同時に、または別々に検出、または識別することを可能にする。
【0027】
また、本発明によるマラリア原虫感染の有無、または4種のヒトマラリア原虫の検出、または鑑別方法は、配列番号1〜6、7〜12、13〜18(31〜36もしくは37〜42)、19〜24、25〜30で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなるプライマーセットを用いて、検体から得られたDNA試料にLAMP法(等温遺伝子増幅)を施して増幅し、増幅産物の有無を確認することからなり、マラリア原虫感染の有無、または熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリアの4種のマラリア原虫の同時、または別々の検出、または識別をマラリア流行地域などにおいて簡易、迅速かつ確実に行なうことができる。また、本発明はそれらヒトマラリア属原虫または4種のマラリア原虫を同時に、または別々に検出、または識別するためのキットを提供する。
【0028】
薬剤耐性株の出現が、適切なマラリア治療のための大きな問題となっており、本発明の熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリアの4種のマラリア原虫の同時の鑑別法によれば、マラリア流行地域における実地医療者や病院医師たちが、発熱患者が特定のマラリアに感染しているか、複数マラリア感染であるかの情報を、迅速、高感度に得ることができ、発熱しているマラリア患者に対して迅速で適切な治療が可能となる。
【0029】
本発明のマラリア原虫の検出・鑑別方法を用いることによって、さらにマラリア感染患者に対するマラリア治療剤投与による治療効果をモニタリングすることができる。
【0030】
本発明のマラリア対策支援システムによれば、実施臨床医や病院医師がPC内で、或いは携帯電話の回線を通じて上記発熱患者のマラリア感染の病原情報とマラリア治療薬ガイドデータベースを照らし合わせて、通常のソフトウェアにより演算させることにより、どのマラリア治療薬を優先的に選択すべきか、或いは併用するべきかの提示を受けることができる。
【0031】
本発明のマラリア感染予防対策システムの利用によれば、予めマラリア流行地域に渡航予定のある渡航者が、その地域に流行しているマラリア感染症、薬剤耐性株の出現状況を予め知り得、かくしてマラリア感染予防目的のため渡航予定者が渡航前から当該流行地域のマラリア感染に対して優先的に選択される好ましいマラリア治療薬を服用することで、万が一マラリアに感染してもマラリア感染による発熱などの症状を早期に軽減するとともに、重症化を抑止でき、渡航者からの血液中マラリア原虫を駆除することが早期に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】プラスモジウム属特異的領域(A)及び4種のプラスモジウム種(B)に特異的な LAMP標的とプライミング・サイトの位置と各18S rRNA遺伝子核酸配列を示す。 (A) 文献配列(GenBank accession no. M19173.1)におけるプラスモジウム属特異的なプライマーによるプライミング・サイトの位置が矢印によって示される。 (B) 種特異的プライマー・アニーリング・サイトに沿った4種のヒトマラリア原虫、熱帯熱マラリア(M19173.1)、三日熱マラリア(U03079)、四日熱マラリア(M54897)、卵形マラリア(L48986)の18S rRNAの部分配列の整列比較図が示される。
【図2】LAMP法を用いたマラリア対策システムの概略図である。
【図3】本発明の原理によるマラリア対策支援システムのプロセス流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0034】
本発明は、病院および研究所や流行地域におけるマラリア診療所の両者においてマラリア原虫のルーチン・スクリーニングのための簡便で信頼性の高い検査法である。例えばヒト血液検体中のプラスモジウム属原虫または4種のマラリアの病原体である熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫の存在を前記プラスモジウム属及び4種のマラリア原虫種に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いたLAMP法により等温遺伝子増幅により判定する。具体的には、本発明は、特定のプラスモジウム属原虫の18S rRNA遺伝子配列、熱帯熱マラリア原虫の18S rRNA遺伝子配列、三日熱マラリア原虫の18S rRNA遺伝子配列、四日熱マラリア原虫の18S rRNA遺伝子配列、卵形マラリア原虫の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を標的とし、項5に記載のプライマーセットで該プラスモジウム属原虫の18S rRNA遺伝子配列、熱帯熱マラリア原虫の18S rRNA遺伝子配列、三日熱マラリア原虫の18S rRNA遺伝子配列、四日熱マラリア原虫の18S rRNA遺伝子配列、卵形マラリア原虫の18S rRNA遺伝子配列の特定領域の増幅し、増幅産物の有無を確認する工程を含む方法を基礎としている。
【0035】
本発明の検出・識別法には、マラリア原虫に感染したヒトの血液中に存在するマラリア原虫を供することができる。
【0036】
なお、本明細書で使用する「検体」とは、プラスモジウム属原虫または特定の4種のマラリア原虫種である熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫を含む可能性があり、本発明の検出・識別法の対象となるヒト血液サンプルを指す。また、本明細書で使用する「検出」とは、例えば検体としてのサンプルである血液中に存在するマラリア原虫が特定のプラスモジウム属のマラリア原虫であるか否かを判定することを指し、判定(determination)と同義に使用されることもある。
【0037】
また、本明細書で使用する「識別」とは、プラスモジウム属原虫の1種以上が存在する検体において、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫などの特定のプラスモジウム属原虫とその他のプラスモジウム属原虫を区別して、同時に、または別々に検出することを特に指す場合もあるが、一般的には複数のマラリア原虫種のなかで検出対象である特定のマラリア原虫を識別することを指す。したがって、「識別」には、マラリア原虫の単独感染と複数(複合)感染の検出も包含する。
【0038】
本発明で使用されるLAMP法は、PCR法と異なり、増幅工程での温度調節(サーマル・
サイクル)を不要とし、一種類のDNA合成酵素を用いて、一定温度(等温)で増幅する遺伝子増幅法である(国際特許公開WO2000/28082号公報及びNotomi, T., et al., Nucleic Acids Res., (2000) Vol.28, e63)。
【0039】
上記、DNA合成酵素は、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素であればいずれで
もよい。当該酵素としては、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント、Vent (Exo-)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、DeepVent(Exo-)DNAポリメラーゼ(DeepVent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、KOD DNAポリメラーゼなどが挙げられる。
【0040】
好ましくはBst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)であり、当酵素を用いる場合、当酵素の反応至適温度である65℃付近で反応を行うのが望ましい。
【0041】
LAMP法による増幅産物の検出には公知の技術が適用できる。たとえば増幅された遺伝子配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドを用いて検出ができる。或いは、反応終了後の反応液をそのままアガロース電気泳動にかけることで、容易に検出できる。LAMP法においては、塩基長の異なる多数のバンドがラダー(はしご)状となる。
【0042】
さらにDNA増幅による副産物として生成されるマグネシウム・ピロリン酸塩の蓄積による白い懸濁は、裸眼によって、または濁度計によって検出させることができる(Mori, Y., et al. Biochem. Biophys. Res. Commun., (2001) vol. 289: 150-154)。
【0043】
別の方法として、増幅したDNAの存在により緑に変わるSYBR Green I(アプライド・バイオシステムズ社製)を使用し、裸眼によって、増幅を簡単に調べることができる。SYBR Green Iの結果は、リアルタイムの濁度計から演算したそれと一致していた(Parida, M., et al., J. Clin. Microbiol., (2005) Vol. 43: 2895-2903および特開2001-242169号公報)。濁度測定は、閉鎖システムにおいて実施することができるので、コンタミネーションのリスクは、アガロース・ゲル電気泳動のそれより低い。これは臨床使用のためには、LAMP法の付加的な利点であるといえる(Enosawa, M., et al. J. Clin. Microbiol., (2003)Vol.41: 4359-4365; Seki, M., et al., J. Clin. Microbiol., (2005) Vol.43: 1581-1586; Poon, L., et al., Clin. Chem. 52 (2006): 303-306)。
【0044】
このようにLAMP診断法は、原則、DNA抽出、濁度計、サーマル・サイクラー、或いは熟練技術者のための高価な試薬を必要としない。鋳型は、時間の消費や商業上のキットによる高価なDNA抽出なしに血液サンプルの直接熱処理によって調製することが出来る(http://loopamp.eiken.co.jp)。
【0045】
例えば、マラリア流行地域の現場においては、被検者の指尖微量血液を煮沸分離するのみで、LAMP反応に充分な所望のDNAサンプルが得られる。
【0046】
さらにLAMP法は、ネスティッドPCR法やリアルタイムPCR法より、より経済的で実務的に作製する、一定温度の60℃を提供するヒートブロックまたはウォーターバスのような一つの簡単なインキュベーターのみ必要とする。
【0047】
本発明の4種のヒトマラリア原虫の18S rRNA遺伝子に共通な属特異的プライマーセット、三日熱マラリア原虫の18S rRNA遺伝子、四日熱マラリア原虫の18S rRNA遺伝子、卵形マラリア原虫の18S rRNA遺伝子に特異的なプライマーセットは、各18S rRNA遺伝子の特定領域を標的として、ループを形成する2種類の内部プライマー(FIP(F1c-F2)、BIP(B1-B2c))と2種類の外部プライマー(F3、B3c)の計4種類のセットとして、設計する。増幅する遺伝子の特定領域は、およそ70〜500塩基長程度である。
【0048】
ここで、内部プライマーは、標的領域の核酸配列を増幅し、(a)第1のセグメントとして、標的遺伝子にアニールしてプライマーとして機能する核酸配列と、(b)第2のセグメントとして、第1のセグメントの3’側の核酸配列に相補的であり、第1のセグメントの5’側に位置する核酸配列と、を含むことを特徴とする。
【0049】
また、増幅反応の起点となるダンベル構造の5’末端側のループの1本鎖部分に相補的な配列を持つループ・プライマー(LPB、LPF)を用いること により、DNA合成の起点を増やすことが可能となる。このため、ループ・プライマーを利用すると、増幅効率が上がり、増幅に要する時間をおよそ1/3〜1/2に短縮することが可能である。そして、外部プライマーは、標的領域3’末端側にある核酸配列を認識し、かつ合成起点を与える核酸配列を有する。
【0050】
本発明者等は、これら、内部プライマー(FIP(F1c-F2)、BIP(B1-B2c))、外部プライマー(F3、B3c)及びループ・プライマー(LPB、LPF)の設計は、LAMPプライマー設計支援ソフトウェア・プライマー・エキスプロァーV3(LAMP Designing Software PrimerExplorer V3 (http://primerexplorer.jp/e/)株式会社富士通社製)を用い、4種のヒトマラリア原虫に共通の18S rRNA遺伝子属特異的核酸配列、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、及び卵形マラリアの18S rRNA遺伝子種特異的核酸配列に基づいてデザインすることを試みた。しかし、マラリア原虫遺伝子の核酸配列は一般的に他種生物とは大きく異なり、AT含量が高く、したがって上記のプライマー設計ソフトウエアでは最適プライマーセットが見出せず、試行錯誤を繰り返すしかなく、各種プライマーのデザインに難渋した。しかし、最終的には合成を行った多数の組み合わせのプライマーセットの中から、感度・特異性共に実用に耐えるものを見出した。これにより、本発明者等は、ヒトに感染する4種類のプラスモジウム属原虫が一度に検出可能な属特異的プライマーセット及び4種の原虫種(熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、および卵形マラリア原虫)特異的プライマーセットをそれぞれ18S rRNA遺伝子からデザインすることに成功した。
【0051】
プライマーのオリゴヌクレオチドの核酸配列が決定されると、オリゴヌクレオチド自身
の合成は、公知の手段、例えば、パーキンエルマー社製の自動DNA合成装置を用いて実施できる。
【0052】
本発明において、4種のヒトマラリア原虫に共通なプラスモジウム属特異的18S rRNA遺伝子核酸配列、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、及び卵形マラリア原虫の各18S rRNA遺伝子配列に特異的なプライマーセットとして、例えば下記の7組のプライマーセット:
プラスモジウム属用プライマーセット[F3(配列番号1)、B3c(配列番号2)、FIP(F1c-F2)(配列番号3)、BIP(B1-B2c)(配列番号4)、LPF(配列番号5)、LPB(配列番号6)];
熱帯熱マラリア用プライマーセット[F3(配列番号7)、B3c(配列番号8)、FIP(F1c-F2)(配列番号9)、BIP(B1-B2c)(配列番号10)、LPF(配列番号11)、LPB(配列番号12)];
三日熱マラリア用プライマーセット[F3(配列番号13)、B3c(配列番号14)、FIP(F1c-F2)(配列番号15)、BIP(B1-B2c)(配列番号16)、LPF(配列番号17)、LPB(配列番号18)];[PvFIP-9(F1c+F2)(配列番号31)、PvBIP-9(B1+B2c)(配列番号32)、PvF3-9(配列番号33)、PvB3c-9(配列番号34)、PvLPF-9(配列番号35)、PvLPB-9(配列番号36)];あるいは[PvFIP-7(F1c+F2)(配列番号37)、PvBIP-7(B1+B2c)(配列番号38)、PvF3-7(配列番号39)、PvB3c-7(配列番号40)、PvLPF-7(配列番号41)、PvLPB-7(配列番号42)];
四日熱マラリア用プライマーセット[F3(配列番号19)、B3c(配列番号20)、FIP(F1c-F2)(配列番号21)、BIP(B1-B2c)(配列番号22)、LPF(配列番号23)、LPB(配列番号24)];および
卵形マラリア用プライマーセット[F3(配列番号25)、B3c(配列番号26)、FIP(F1c-F2)(配列番号27)、BIP(B1-B2c)(配列番号28)、LPF(配列番号29)、LPB(配列番号30)]
のプラスモジウム属用と4種のマラリア原虫用のプライマーセットを挙げることができる。
【0053】
ここで、プラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、及び卵形マラリア原虫に特異的なプライマーとは、そのプラスモジウム属に共通の18S rRNA遺伝子、熱帯熱マラリア18S rRNA遺伝子、三日熱マラリア18S rRNA遺伝子、四日熱マラリア18S rRNA遺伝子、及び卵形マラリアの18S rRNA遺伝子の特定領域を特異的に増幅可能なプライマーである。
【0054】
なお、本発明のLAMP法を用いるマラリア原虫の検出・識別の対象とするプラスモジウム属と4種のマラリア原虫を特徴付ける配列としては、GenBankに寄託された熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum:GenBank Accession No.M19173.1, M19173.2, M19172)、三日熱マラリア(Plasmodium vivax:GenBank Accession No.U03079, U03080 ,X13926)、四日熱マラリア(Plasmodium malariae:GenBank Accession No. M54897)、卵形マラリア(Plasmodium ovale:GenBank Accession No.L48986, L48987)の18S rRNA遺伝子配列を例示することができる。
【0055】
検体中に存在するプラスモジウム属と4種のマラリア原虫の1つの検出、または識別は、上記した5組のプライマーセットの少なくとも1組のセットを用いて、LAMP法に従い、等温遺伝子増幅(通常60〜65℃で15分〜1時間)を行う。すなわち、血液などの検体から採取したDNAを公知の方法によって分離して、このDNAに対して前記プライマーセットを用いて増幅反応を行う。増幅したDNA増幅産物の有無は、LAMP法での簡易検出、又は通常の電気泳動によって検出できる。
【0056】
前者の簡易検出には、1)増幅反応液の白濁による目視確認(国際特許公開WO2001/83817号公報)、2)フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、X−ローダミン(ROX)などの蛍光物質を用いて反応液の蛍光偏光度を測定する方法(特開2002-272475号公報)、これは、ABI Prism 7700 (アプライド・バイオシステムズ社製)などの連続蛍光光度計で、増幅の有無の確認や速度論理解析をすることも可能である。また3)蛍光インターカレーターにグリーン・ダイ(green dye)であるSYBRグリーン2を用いる目視確認がある(国際特許公開WO2002/103053号公報)。これらいずれも、目視により増幅産物(標的18S rRNA遺伝子の存在)の有無を確認することができる。
【0057】
本発明によれば、プラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかを同時に又は別々に検出するマラリア原虫検出用キットを提供することができる。
【0058】
上記マラリア原虫検出用キットは、本発明のプライマーセットを用いて核酸増幅の検出を行う際に必要な各種の試薬類を、あらかじめパッケージングしてキット化する事ができる。具体的には、本発明のプライマーあるいはループプライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド、核酸合成の基質となる4種類のdNTP、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液や塩類、酵素や鋳型を安定化する保護剤、さらに必要に応じて反応生成物の検出に必要な試薬類がキットとして提供される。
【0059】
キットの構成例:
(1)プラスモジウム属用プライマーセット[F3(配列番号1)、B3c(配列番号2)、FIP(F1c-F2)(配列番号3)、BIP(B1-B2c)(配列番号4)、LPF(配列番号5)、LPB(配列番号6)];
を含む反応混合液、
(2)蛍光・目視検出用試薬、
(3)酵素混合液(Bst DNAポリメラーゼを含む)、
(4)陽性コントロール(プラスモジウム属用)、及び
(5)蒸留水
【0060】
さらに、本発明によれば、マラリア対策支援システム、マラリア感染予防ないし治療対策システムが提供される。
【0061】
マラリア感染患者情報は、マラリア流行地域におけるマラリアの原因となるプラスモジウム属原虫陽性数とその地域における保有率を含み、具体的には、流行地域に居住する個々の被検者の氏名、性別、年齢、体重、妊娠の有無、家族構成、居住の住所、出身地、既疾患名、服用されている薬剤名、薬剤の副作用歴などの被検者情報が、プラスモジウム属原虫が陽性であるか、否か、既にマラリア治療剤に対する薬剤耐性を獲得している否かのその地域におけるマラリア原虫の保有率と共に基礎的情報として加えられている。なお、マラリア感染患者情報を入力記憶する手段としては。例えばコンピュータの入力装置と記憶装置が挙げられる。
【0062】
マラリア流行地域におけるマラリアの原因となるプラスモジウム属原虫保有率は、プラスモジウム属原虫陽性者数をプラスモジウム属原虫検出検査を行った被検者の数で割った数値を100倍して、%表示として表示される。
【0063】
本発明のマラリア対策支援システムにおいて使用されるプラスモジウム属原虫の検出法は、特にLAMP法を用いる検出方法がマラリア流行地域では、好ましく使用できる。
【0064】
マラリア流行地域に長く居住し、マラリアに対して免疫(抵抗性)を獲得した被検者は、発熱患者と比較して、該被検者の血液中の原虫数は100-1000分の1程度しかなく、顕微鏡法で感度よく検出することは非常に困難である。また、マラリア感染から潜伏期間を経て、被検者の血液中にマラリア原虫が出現してくることによって発熱が始まる時期の早期においては、原虫数が少ないため顕微鏡法での検出は困難を極める。或いは、マラリア治療薬が既に投与されていて、治療薬による作用効果により、同様に被検者の血液中の原虫数が著しく低下している場合も、顕微鏡法で感度よく検出することは非常に困難である。
一方、マラリア流行地域では、充分なDNA抽出機器もないか、提供されていない地域が多い。
【0065】
PCR法に用いられるDNAの調製は、抽出キットを用いて、純度の高いDNAが得られない場合は、血液中に存在するPCR用DNA増幅酵素の阻害物質のため、PCRがかからないので、PCR法を用いることができない。
本発明のマラリア対策支援システムにおいて使用されるプラスモジウム属原虫検出法の場合は、例えば被検者の指尖微量採血によって得られた血液を沸騰水中で10分間煮沸した後、10000rpm、1分間、遠心分離し、その上澄みをDNAとして用いることができ、このようにDNAサンプル調製が簡単である。従って、本発明のプラスモジウム属の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能なプラスモジウム属原虫検出用プライマーセットを用いて、検体中に存在するプラスモジウム属原虫を検出する方法はマラリア流行地域では、好ましく使用できる。さらにマラリア流行地域の被検者だけではなく、流行地の蚊を採集して、マラリア原虫を保有している蚊がどの程度存在しているかを調査し、これらマラリア原虫を保有している蚊の調査に基づいたマラリアの流行予測のための重要なデータを取得する場合にも、蚊からのDNA抽出もPCR用のそれよりは、簡易な方法で可能であるので、本発明のプラスモジウム属の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能なプラスモジウム属原虫検出用プライマーセットを用いて、検体中プラスモジウム属原虫検出頻度についてもマラリア感染防止公衆衛生的対策データベースにマラリアの流行予測の一情報として記憶装置に格納される。
【0066】
顕微鏡法やPCR法に比べて、簡便、安価、取扱い容易で、高感度・高特異性を有する本発明のプラスモジウム属原虫、または4種のマラリア原虫の検出又は識別法は、流行地域においては、最も好ましく利用できる。
【0067】
マラリア感染患者情報を基にした、マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策としては、以下の(1)〜(4)が挙げられる。(1)地域において蚊の繁殖しそうな場所をなくし、水溜りに発生するボウフラの駆除、蚊の駆除など蚊の発生源をなくすこと。(2)家や納屋などに殺虫剤を噴霧し、戸や窓に網戸を設置する、余裕のある家庭はエアコンの設置が好ましい。(3)寝床には、殺虫剤(ピレスロイド系殺虫剤:ペルメトリン)を染み込ませた蚊帳(長期残効型蚊帳:LLIN:住友化学工業社製)を使用、ヒト肌には、虫よけスプレー剤(ジエチルトルアミド:DEET)を含有している虫よけ剤をつける。日没後の長袖着用、衣服に殺虫剤スプレーをする等の対策を講じる。(4)また、予め流行地域に高頻度のマラリア原虫、薬剤耐性株に関する情報を元に、予防的に治療薬(メフロキンとアーテスネートの合剤、クロロキン、アルテミシニン、キニーネ、ドキシサイクリン等)を服用する対策も講じる。この場合、マラリア治療薬はマラリア予防薬ともなり得る。
【0068】
陽性感染者は、マラリア治療薬によるマラリア原虫の駆除(治療)を考慮する。当該流行地域に高頻度のマラリア原虫や薬剤耐性株に関する情報は、流行地域国の保険省のホームページ上やヒューマンサイエンス振興財団・政策創薬総合研究事業熱帯病治療薬研究班(http://www.miyazaki-med.ac.jp/parasitology/orphan/HTML/page-DL.html)
寄生虫症薬物治療の手引き 改訂(2007年)第6.0版 、およびマラリア予防専門家会議の2005年3月に刊行されたガイドライン(http://jsp.tm.nagasaki-u.ac.jp/modules/tinyd3/index.php?id=2)で入手可能である。マラリア治療薬の特定は、本発明により検出ないし識別されたマラリア原虫の種類により公知の治療薬選択基準の情報に従い容易に行なうことができる。
【0069】
上記公衆衛生的対策、(1)〜(4)のいずれかを優先的に選択すべきことを示す対策優先度は、その地域のマラリアの流行の程度、国の経済状態、居住者の立地環境、経済状態を考慮として、国または地域行政体、自治体により講じることが可能である対策(1)から優先されるべきであるし、次いで被検者などの居住者個人で簡易に講じる対策(2)または(3)が望まれる。
(4)の予防的治療薬の服用は、当該マラリア流行地域における居住者の一般的経済状態を考慮すると優先度は低くなり、小児、妊婦などの特別の居住者に限定されがちとなるが、現状は未だ十分ではない。対策優先度は流行の地域によるが(1)>(2)=(3)>(4)を好ましく例示されるが、実体を考慮すると(2)=(3)>(4)>(1)となろう。このような対策優先度は、マラリアの流行の程度、国の経済状態、居住者の立地環境、経済状態などを考慮して公衆衛生対策抽出部(例えばプログラム)で抽出され、公衆衛生的対策提示部(例えばディスプレイ)に提示される。
【0070】
入力されるプラスモジウム属原虫感染地域に対する公衆衛生的対策選択情報が入力されたマラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースに格納される情報は、上記したように地域において現に流行しているマラリアの種類とその頻度、薬剤耐性株の情報、公衆衛生的な対策情報(1)〜(4)とその啓蒙情報、マラリア流行予測、マラリア診断法、感染マラリア原虫毎の選択薬剤情報をも含んでいてよい。
【0071】
被検体から抽出されたDNAを用いて、本発明のプラスモジウム属原虫の検出方法によって、被検者のマラリア感染の有無に関する感染患者情報の取得し、上記マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースからその公衆衛生的対策の優先度を抽出する公衆衛生的対策抽出部と、公衆衛生的対策抽出部で抽出された公衆衛生的対策を優先度とともに提示する公衆衛生的対策提示部から得られたマラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策、その優先度を照らし合わせて、実際に地域団体、或いは流行地域の被検者、個人が行うべき、公衆衛生的対策を優先度に合わせて、順次実施するか、同時対策を講じるかして実施することができる。さらに公衆衛生的対策の実施効果について、その結果を当該マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースに情報として格納することができる。これにより、当該マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースを更新することもでき、かくしてマラリア流行地域に対して、本発明のマラリア対策支援システムが提供できる。
【0072】
上記の被検者のプラスモジウム属原虫感染の有無を含む被験者情報の管理・取得は、PC(パーソナルコンピュータ)或いは携帯電話、ファクシミリなどを用いて、通常の技術で行うことができるし、マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースに格納される情報の取得は、PCまたは携帯電話を用いてインターネットのウェブサイトから、或いは冊子体を通して、入手することができる。
【0073】
本発明のマラリア対策支援システムにおいて、4種のマラリア原虫単独または複数感染に対して作用するマラリア治療薬特定に関するマラリア治療薬情報を入力記憶する手段とは、マラリア流行地域毎における実際の薬剤耐性株の出現の有無、その程度を考慮して、或いは各マラリアに対する患者の臨床症状、年齢、妊娠の有無を考慮して、薬剤の効果、薬剤名、一般名、好ましい薬剤適応地域、投与期間、投与量、副作用の種類とその発現頻度、副作用の重篤度、禁忌症、小児・妊婦に対する情報、他剤との併用効果情報、薬剤の値段等を含めた情報を「治療ガイドデータベース」に格納することをいう。
【0074】
また、発熱患者においてマラリア感染症、特に熱帯熱マラリア原虫感染症の場合は、治療が遅れると重篤な転帰をとる感染症で、インフルエンザのような他の感染症との診断鑑別が肝要であるので、鑑別診断は、迅速、高感度、高特異性があるものが望まれる。特に、マラリア流行地域では、上記したように充分なDNA抽出機器もないか、提供されていない地域が多く、発熱初期段階では、マラリア原虫の数も少ないので、顕微鏡法ではマラリア原虫の識別も容易ではない。
【0075】
熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫特異的配列からなるプライマーセットを用いた本発明の熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの識別方法によれば、あるいはそれら識別/検出用キットを用いれば、4種のマラリア原虫単独または複数感染のいずれかの感染をPCR法や顕微鏡法のような他の識別方法に比べて、簡便、迅速、高感度、かつ高特異性を持って識別することが可能となる。
【0076】
また、本発明のマラリア原虫の検出・鑑別方法を用いることによって、さらにマラリア感染患者に対するマラリア治療剤投与による治療効果をモニタリングすることができる。
本発明のシステムは、このマラリア原虫の特異的な検出ないし識別技術に基づくものである。
【0077】
「マラリア流行地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段」とは、かくしてマラリア流行地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む、該発熱患者の氏名、年齢、性別、体重、妊娠の有無、家族構成、居住の住所、出身地、既疾患名、服用されている薬剤名、薬剤の副作用歴などの被検者情報をPC(パーソナルコンピュータ)に入力し記憶・格納する手段をいう。これら入力と記憶・格納は、PCまたは携帯電話から、或いは診療施設、病院よりファクシミリ情報として流行地域から得られた情報に基づいて行なわれる。
【0078】
また、「マラリア流行地域ではない地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段」とは、上記「マラリア流行地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段」において、「マラリア流行地域ではない地域における発熱患者」である点で異なるのみである。
【0079】
上記において「被検体に検出されるマラリア原虫に対する作用力の指標毎に、上記マラリア原虫に対して上記マラリア治療薬を優先的に選択すべきことを示す優先度とともに入力されるマラリア治療薬選択情報が入力された治療ガイドデータベースと、被検体のマラリア感染の病原情報に応じて、上記治療ガイドデータベースから被検体に投与すべきマラリア治療薬と優先度を抽出するマラリア治療薬抽出部と、上記マラリア治療薬抽出部で抽出されたマラリア治療薬を優先度とともに提示するマラリア治療薬提示部とを有して構成されること」とは、これらマラリア流行地域、非マラリア流行地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報の取得した、実地臨床者、病院医師は、発熱患者の罹患しているマラリア原虫と患者の臨床症状、他の状況を考慮して、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリア、或いはこれらのマラリアの複合感染に対する作用特異性などの治療薬毎の作用力の指標として、さらに発熱患者のマラリア感染源、発熱患者の他の諸状況を含めた病原情報と「治療ガイドデータベース」に格納されたマラリア治療薬剤情報、例えば、薬剤の効果、薬剤名、一般名、好ましい薬剤適応地域、作用特異性、投与期間、投与量、副作用の種類とその発現頻度、副作用の重篤度、禁忌症、小児・妊婦に対する情報、他剤との併用効果情報、薬剤の値段等を含めた情報とを、照らし合わせて、感染しているマラリア原虫に対して、いずれのマラリア治療薬を優先的に選択すべきかを提示するプロセスを示している。
【0080】
本発明のマラリア対策支援システムによれば、実施臨床医や病院医師がPC内で、或いは携帯電話の回線を通じて上記発熱患者のマラリア感染の病原情報とマラリア治療薬ガイドデータベースを照らし合わせて、通常のソフトウェアにより演算させることにより、どのマラリア治療薬を優先的に選択すべきか、或いは併用するべきかの提示を受けることができる、マラリア対策支援システムを提供できる。
【0081】
上記において、「治療ガイドデータベース」に格納されるマラリア治療薬剤情報は、ヒューマンサイエンス振興財団・政策創薬総合研究事業熱帯病治療薬研究班(
http://www.miyazaki-med.ac.jp/parasitology/orphan/HTML/page-DL.html)
寄生虫症薬物治療の手引き 改訂(2007年)第6.0版 、およびマラリア予防専門家会議の2005年3月に刊行されたガイドライン(http://jsp.tm.nagasaki-u.ac.jp/modules/tinyd3/index.php?id=2)、或いは米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention)のマラリア治療ガイドラインを参照して、これら治療薬情報を格納することができる。
【0082】
例えば、熱帯熱マラリアにはクロロキン耐性原虫が広く広がりつつあるため、先進国、またはタイ国では、メフロキンとアーテスネートの同時投与が優先的に選択されるマラリア治療とされている。一方、薬剤価格が反映される地域においては、ファンシダールの第二世代薬が優先的に選択されるケースもある。三日熱マラリアと卵形マラリアは、発熱等の臨床症状を惹き起こす赤内型については、まずクロロキンが優先的に選択されるが、次いで、完治・再発予防のためにプリマキンを2週間服用する選択となる。また四日熱マラリアに対しては、クロロキンが優先的に選択される。
【0083】
これら情報も「マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベース」に格納される。
【0084】
上記本発明のマラリア対策支援システムを活用し、優先的に選択すべきマラリア治療薬として選択された薬剤の発熱患者に対するマラリア治療の結果情報は、「マラリア原虫治療ガイドデータベース」及び「マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベース」にフィードバックされ、各々更新情報として格納される。
【0085】
かくして、マラリア流行地域の発熱患者、または非流行地域の発熱患者から抽出された検体を本発明の4種のマラリア感染の単独または複数(複合)感染の識別方法を用いることによって、発熱患者のマラリア感染の病原情報を簡便、迅速、高感度、高特異性をもって取得でき、そしてマラリア原虫治療ガイドデータベースに照らし合わせることで、マラリア流行地域、或いは非流行地域のいずれの地域における実地臨床家や病院医師がマラリア感染が原因で発熱している患者に対してより好ましい、優先的な治療薬剤、投薬方法を選択し、マラリア感染している発熱患者の治療に適応することができるマラリア対策支援システムを提供することができる。
【0086】
本発明は、本発明のプラスモジウム属原虫の検出法を用いて得られるマラリア流行地域におけるマラリア感染患者情報の取得と、マラリア感染防止公衆衛生的対策データベースを用いるマラリア流行地域の行政団体、自治体、または居住者のためのマラリア対策支援システムと本発明の4種のマラリア感染の単独または複数(複合)感染識別方法または識別キットを用いて得られるマラリア流行地域、または非流行地域の発熱患者のマラリア感染の病原情報の取得と、マラリア原虫治療ガイドデータベースを用いるマラリア流行地域、或いは非流行地域のいずれの地域における実地臨床家や病院医師がマラリア感染が原因で発熱している患者に対してより好ましい、優先的な治療薬剤、投薬方法を選択し、マラリア感染している発熱患者の治療に適応することができるマラリア対策支援システムを組み合わせて、マラリア流行地域におけるマラリア感染防止公衆衛生的対策とマラリア流行地域、または非流行地域の発熱患者のマラリア感染患者の治療という総合的観点から当該流行地域のマラリア撲滅へのマラリア対策支援システムを提供することもできる。
【0087】
上記の各情報の入力、記憶の格納手段はPCを用いて、情報の提示は、PC及び携帯電話を通して、或いは紙冊子体を通じて、当該地域で実施できる。
【0088】
本発明は、さらにマラリア流行地域以外の地域から、マラリア流行地域へ渡航する渡航者に対するマラリア感染予防対策システムも提供することができる。本発明によれば、上記したマラリア対策支援システムからマラリア流行地域における公衆衛生的対策の実施状況と、当該流行地域におけるマラリア感染の病原情報及び感染患者の治療状況を得る手段とマラリア原虫治療ガイドデータベースからマラリア予防・治療薬を選択する手段、さらに選択した薬剤を渡航前から服用する手段からなるマラリア流行地域へ渡航する渡航予定者のマラリア感染予防対策システムを提供することができる。
【0089】
上記の各情報はPC、或いは携帯電話を用いてインターネットウェブ上から、或いは冊子体情報として、当該マラリア流行地域から、或いは各国政府機関から容易に入手できる。上記マラリア流行地域へ渡航する渡航予定者のマラリア感染予防対策システムの利用によれば、予めマラリア流行地域に渡航予定のある渡航者が、その地域に流行しているマラリア感染症、薬剤耐性株の出現状況を予め知り得、かくしてマラリア感染予防目的のため渡航予定者が渡航前から当該流行地域のマラリア感染に対して優先的に選択される好ましいマラリア治療薬を服用することで、万が一マラリアに感染してもマラリア感染による発熱などの症状を早期に軽減するとともに、重症化を抑止でき、渡航者からの血液中マラリア原虫を駆除することが早期に可能となる。
【0090】
本発明によれば、マラリア対策支援システムからマラリア流行地域における公衆衛生的対策の実施状況と、当該流行地域におけるマラリア感染の病原情報及び感染患者の治療状況を得る手段とマラリア原虫治療ガイドデータベースからマラリア予防・治療薬を選択する手段、さらに選択した薬剤をマラリア流行地域から帰国後に服用する手段からなるマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システムを提供することができる。本発明によれば、マラリア流行地域において、帰国直前にマラリア原虫が感染した場合は、発熱等の臨床症状が出るまでの潜伏期間が1週間から40日と感染したマラリア原虫によって異なるため、マラリア流行地域から帰国した帰国者が、帰国直前に蚊に刺されたことを自覚している場合などのケースにおいて、上記マラリア対策支援システムからの情報を参考にして、感染リスクのあるマラリア原虫に対して好ましいマラリア治療剤を選択し、服用することにより、万が一マラリアに感染した場合であってもマラリア感染による発熱などの症状を早期に軽減するとともに、重症化を抑止でき、マラリア流行地域から帰国した帰国者からの血液中マラリア原虫を駆除することが早期に可能となる。
【0091】
また、本発明によれば、上記のマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システムにおいて、マラリア流行地域から帰国した帰国者が発熱している場合は、さらに熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの識別を実施して、優先的に選択すべきマラリア治療薬を選択し、服用するマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染治療対策システムを提供することができる。
【0092】
さらに、本発明のマラリア感染治療対策システムにある本発明のマラリア原虫の検出・鑑別方法を用いることによって、さらにマラリア感染患者に対するマラリア治療剤投与による治療効果をモニタリングすることができる。
【0093】
上記において、帰国してマラリア治療薬の服用前に発熱した場合は、発熱している帰国患者の被検体を用いて本発明の4種のマラリア原虫識別方法を用いて、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリアのいずれか、または複数(複合)感染かを識別して、当該マラリア原虫に対する優先的に選択すべきマラリア治療薬を選択し、服用する。かくして本発明のマラリア感染治療対策システムによれば、マラリア感染に対する適切な治療法、およびその治療効果のモニタリング法を提供することができる。
なお、図3に示されるように、公衆衛生的対策の結果情報、発熱患者に対するマラリア治療の結果情報、予防・治療薬投与の結果情報は、各データベースにフィードバックされる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0095】
実施例1
【0096】
(材料と方法)
顕微鏡法によってマラリア原虫が陽性であった68のサンプルは、タイ北西部のメーソート(Mae Sod)とマカサ(Mae Kasa)のマラリア診療所に来院した患者から得られた。加えて、顕微鏡法によってマラリア原虫が陰性であった53のサンプルは、タイ西部のカンチャナブリ(Kanchanaburi)のマラリア流行地住民から採集された。
血液サンプルは、顕微鏡法とLAMP法によって試験に供した。各試験は、別々の研究者によって、独立に実施され(顕微鏡法は、タイの軍医科学研究所において、LAMP法は、愛媛大学において)、試供物源と研究結果は、相互に盲検され、最後に試験結果が比較検討された。
【0097】
(顕微鏡法)
末梢血液厚層塗抹標本をマラリア原虫の検出に熟練している顕微鏡観察者によって1000倍の条件で試験した。寄生虫密度は、白血球の500個中の数値をカウントし、次いで7000細胞/μlの白血球カウントを想定することによって、μl中の原虫の数として計算した。もし500個の白血球を観察した後にもマラリア原虫が確認されなかった場合は、陰性とした。
【0098】
(DNA抽出)
LAMP法のためのDNAは、プロウらの記載(Plowe, C., et al. Am. J. Trop. Med. Hyg. (1995)Vol. 52: 565-568)の方法と同様に実施した。
ヒト血液の25〜50μlを1スポットとして濾紙上にて乾燥した。
次いで、各フィルターからの単一血液スポットを切り取り、PBS(リン酸緩衝食塩水)中1mlの0.5%サポニン中で室温で4時間および/または4℃で一晩インキュベートした。
フィルター紙は、4℃のPBS中で30分間洗浄し、200μlの5%Chelex-100(Bio-Rad社製)を含む新しいチューブに移し、30秒間攪拌した。混合液は、56℃で15分間インキュベートし、30秒間攪拌し、DNAを抽出するために15分間、100℃で加熱・攪拌し、遠心分離(10,000 x g、5分間)した。上清を反応後に直ちに用いるか、−20℃で等分して保存するかのいずれかに供した。
【0099】
(LAMP条件)
熱帯熱マラリアに対するLAMPプライマー・セットは、プゥーン(Poon)らによって記載されたものを用いた(非特許文献1)。残りのプラスモジウム属特異的および種特異的LAMPプライマー・セットは、LAMPプライマー設計支援ソフトウェア・プライマー・エキスプロァーV3(LAMP Designing Software PrimerExplorer V3 (http://primerexplorer.jp/e/)株式会社富士通社製)を用いて設計を試みた。しかし、マラリア原虫遺伝子の核酸配列は一般的に他種生物とは大きく異なり、AT含量が高く、したがって上記のプライマー設計ソフトウエアーでは最適プライマーセットが見出せず、試行錯誤を繰り返すしかなく、各種プライマーのデザインに難渋した。しかし、最終的には合成を行った多数の組み合わせのプライマーセットの中から、感度・特異性共に実用に耐えるものを見出した。これにより、ヒトに感染する4種類のプラスモジウム属原虫が一度に検出可能な属特異的プライマーセット及び4種の原虫種(熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、および卵形マラリア原虫)特異的プライマーセットをそれぞれ18S rRNA遺伝子の属及び種特異的核酸配列に基づいてデザインすることに成功した。
【0100】
上記でオリゴヌクレオチドの塩基配列をデザインした後、プライマーの合成は、公知の手段、例えば、パーキンエルマー社製の自動DNA合成装置を用いて行なった。
使用した各プライマーの位置及び各プライマーの塩基配列を図1に示した。
即ち、プラスモジウム属 (Plasmodium Genus)用プライマーセット[F3(配列番号1)、B3c(配列番号2)、FIP(F1c-F2)(配列番号3)、BIP(B1-B2c)(配列番号4)、LPF(配列番号5)、LPB(配列番号6)]、
熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum) 用プライマーセット[F3(配列番号7)、B3c(配列番号8)、FIP(F1c-F2)(配列番号9)、BIP(B1-B2c)(配列番号10)、LPF(配列番号11)、LPB(配列番号12)]、
三日熱マラリア(Plasmodium vivax) 用プライマーセット[F3(配列番号13)、B3c(配列番号14)、FIP(F1c-F2)(配列番号15)、BIP(B1-B2c)(配列番号16)、LPF(配列番号17)、LPB(配列番号18)]、
四日熱マラリア(Plasmodium malariae) 用プライマーセット[F3(配列番号19)、B3c(配列番号20)、FIP(F1c-F2)(配列番号21)、BIP(B1-B2c)(配列番号22)、LPF(配列番号23)、LPB(配列番号24)]、
卵形マラリア (Plasmodium ovale) 用プライマーセット[F3(配列番号25)、B3c(配列番号26)、FIP(F1c-F2)(配列番号27)、BIP(B1-B2c)(配列番号28)、LPF(配列番号29)、LPB(配列番号30)]のプラスモジウム属用と4種のマラリア原虫種用のプライマーセットを使用した。
LAMP反応は、Loopamp DNA 増幅キット(Loopamp DNA amplification kit (栄研化学社製、東京、日本)で実施した。
反応混合液(25μl)は、1.6-2.4μMの各FIP及びBIP、0.2μMの各F3及びB3c、0.8μMの各LPF及びLPB、2 x 反応ミックス(12.5μl)、Bst DNAポリメラーゼ(1μl)、及び1-2μlのDNAサンプル(血液のおよそ0.125〜0.5μlに相当する)を含んでいる。
LAMP反応は、60℃で100分間実施し、それから酵素は80℃で2分間で不活性化させた。
【0101】
(LAMP産物の分析)
LAMP反応は、増幅したDNAの量に比例して反応チューブ内に濁りを生じる。それ故に濁りは、裸眼で観察される。LAMPの感度を確認するために、濁りをさらにLoopampリアルタイム濁度測定装置(RT-160C, 栄研化学社製、東京、日本)によってモニターした。
確認のため、5μlのLAMP産物は、3%アガロース・ゲルを用いて100Vで電気泳動して、MassRulerTMDNA ladder marker (ラダー・マーカー:Ferments Inc.社製、Hanover, MD)を用いてエチジウム・ブロマイドで染色した。LAMPの特異性を増幅した産物の制限酵素消化によって評価した。
各LAMPの標的配列の制限酵素マップに基づいて、制限酵素DdeIをプラスモジウム属特異的LAMP産物の制限酵素分析に対して、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリアに対しては、制限酵素HpyCH4V、卵形マラリアに対しては制限酵素AluIを選択した。
37℃で一晩消化に続いて、消化産物をアガロース・ゲル電気泳動によって分析した。
【0102】
(LAMP結果の診断的閾値)
LAMP反応産物の生成をLoopampリアルタイム濁度測定装置を用いてモニターした。
複数回試験した陽性サンプルの多くは、1時間以内に陽性を示した。それ故に1時間以内に濁度計によって検出できる濁度を持っているサンプルを陽性であると考慮することとした。
【0103】
(陽性コントロール・プラスミドDNAとシーケンシング)
測定感度評価のために、各LAMP反応に対する18S rRNAの標的領域を含むプラスミドを構築した。標的DNA配列は、PCRによって2つのLAMPプライマー(F3及びB3c)で増幅した。その増幅産物を、pCR(登録商標)2.1-TOPO TA クローニング・ベクター (Invitrogen社製, Carlsbad, CA)の中にクローン化した。
それらの塩基配列は、自動DNAシーケンサー(ABI PRISM(登録商標)310 Genetic Analyzer; Applied Biosystems社製)を用いて解析した。
【0104】
(LAMP法の分析的な感度と特異性)
LAMP法によって検出可能な標的遺伝子の最小コピー数(最低検出限界)を確立するために、陽性コントロール・プラスミドDNAを鋳型に用いた。LAMP法のための標準曲線は、各プラスミドDNA(1コピーから106コピーまで)の10倍希釈系列を用いて作製した。
得られたコピー数をそれぞれの閾値時間に対してプロットし、一次回帰によって分析し、そしてγ2値の統計学的有意差をANOVA(Free Statistics and Forecasting Software v1.1.21:http://www.wessa.net/rwasp_kendall.wasp)によって分析した。0.05以下の確率を統計的に有意であると考慮した。属(Genus)と種(Species)特異的なLAMPの特異性は、各コントロールプラスミドDNAとNF54株から精製した熱帯熱マラリア原虫ゲノムDNA(gDNA)、Sal-I株からの三日熱マラリア原虫gDNA、ウガンダ株からの四日熱マラリア原虫gDNA、CDC株からの卵形マラリア原虫CDC型gDNAに関して評価した。
【0105】
(プラスモジウム属及び種特異的LAMPの分析的感度及び特異性の結果)
プラスモジウム属及び熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリアの4種に対するLAMP法の感度は、四日熱マラリア及び卵形マラリアに対して10コピー、プラスモジウム属、熱帯熱マラリア及び三日熱マラリアに対して100コピーであった。
それぞれのLAMP反応の特異性は、LAMP産物の制限酵素消化によってさらに確認した。
生じた消化産物は、予想したサイズとよい一致を示した。
【0106】
(臨床感度と特異性)
121サンプルを用いて、プラスモジウムLAMP法の臨床的な感度と特異性を、標準法と考えられている顕微鏡法を基準に算出した。感度は、(真の陽性数)/(真の陽性数+偽の陰性数)として計算され、特異性は(真の陰性数)/(真の陰性数+偽の陽性数)として計算された。
【0107】
(臨床的感度及び特異性:顕微鏡法、及びLAMP法との比較)
顕微鏡法、及びLAMP法の結果を表2に示す。
マラリア原虫が顕微鏡法で陽性であった68人のうち、12人は熱帯熱マラリア感染、34人は三日熱マラリア感染、12人は四日熱マラリア感染、5人は卵形マラリア感染、そして5人は熱帯熱マラリアと三日熱マラリアの混合感染であった。
53人のサンプルは、顕微鏡法で陰性であった。
【0108】
属特異的プライマーセットを用いるLAMP法では、68検体の顕微鏡的に陽性のサンプルの内、67検体にマラリア原虫を検出した(感度98.5%)。
また、顕微鏡法で陰性であった53サンプルのうち、3サンプルにおいて属特異的LAMP法によりマラリア原虫を検出した(特異性94.3%)。
LAMP法によって陽性であるが、顕微鏡法によって陰性の3サンプルについては属特異的ならびに種特異的LAMP法によって再試験された。
3つのサンプルの全ては、属特異的LAMP法によって再び陽性であり、さらに種特異的LAMP法により、1検体は熱帯熱マラリアと他の2検体は三日熱マラリアと診断された。
したがって、LAMP法は顕微鏡法よりも感度が良く、臨床上見落としの原因となる疑陰性の診断を最小限にとどめることが出来ると考えられた。
【0109】
顕微鏡法において熱帯熱マラリア原虫が陽性であった12サンプルは、全て種特異的LAMP法においても熱帯熱マラリアが陽性であった。一方、三日熱マラリア原虫が顕微鏡法で陽性であった34サンプルの内、LAMP法により2サンプルは卵型マラリア、1サンプルは熱帯熱マラリアと三日熱マラリア原虫の混合感染であった。また、顕微鏡法で四日熱マラリア原虫が陽性であった12サンプルの内、1サンプルは卵型マラリア、もう1サンプルは四日熱マラリアと三日熱マラリアの混合感染であることがLAMP法により判明した。
【0110】
上記結果から、本発明者らによって開発された新しいマラリアLAMP診断法は、顕微鏡法に対して感度も高く、特異性においてより優れており、ヒトマラリア原虫の4種を検出するための良好な方法と考えられた。
【0111】
LAMP法による平均検出時間は、
属特異的LAMP法25.7±4.9分(平均±SD;範囲19.4-52.9分)、
熱帯熱マラリア特異的LAMP法31.7±4.8分(25.8-44.9分)、
三日熱マラリア特異的LAMP法30.6±5.2分(25.4-46.9分)、
四日熱マラリア特異的LAMP法34.8±4.8分(30.5-46.6分)、及び
卵形マラリア特異的LAMP法36.1±6.8分(29.9-49.8分)であった。以上の結果は、nested PCR法の増幅時間と比較して格段に短時間で診断できるものである。
【0112】
実施例2
本願発明のプラスモジウム属原虫及びプラスモジウム属の種の検出用プライマーセット及びそれらを用いたプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか、或いは同時に検出、又は識別する方法とPCR法や顕微鏡診断による方法との比較試験をマラリア流行地域であるタイ北西部のメーソート市のマラリア診療所において実施した。
【0113】
LAMP法に用いる専用機器を用いた上記方法とマラリア流行地域において迅速・簡便に使用できる方法との比較も行った。
【0114】
顕微鏡法によってマラリア原虫が陽性であった18サンプル(マラリア原虫寄生率が0.04%〜0.31%)を対象とした。なお、手技上の問題があると思われた1例は、予め、本実施例から除外した。
【0115】
本発明のマラリア流行地域における迅速・簡便なマラリア原虫(プラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫を同時に検出可能)の検出・識別のための患者検体からのDNAの抽出は、ボイル法を用いた。即ち、血液検体50μlに蒸留水(D.W.)50μlを添加して、99℃で5分間沸騰(boil)させた後、2分間遠心分離(Eppendorf社5415D:16,000 x g)し、上清を得た。
【0116】
次いで、予め1μlのBst DNA polymerase (Epicentre Biotechnologies), 12.5μlの2 x reaction mix、1.6-2.4μMの上記実施例1で得られた各プライマーセットの各FIP及びBIP、0.2μMの各F3及びB3c、0.8μMの各LPF及びLPBを含む23μlの反応混合液に上記で得られたDNAを含む上清2μl添加し、96本x2 (合計192本)使用可能な恒温水槽(water bath, Thermominder SM-05R、TAITEC社製)にて、60℃で約60分反応させた。
【0117】
反応産物を直接目視によって、白濁の有無からプラスモジウム属原虫の感染の有無と熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のどの種の感染であるかの検出・識別を行った。
【0118】
別途上記検体から抽出されたDNAを含む反応混合液をLoopamp real-time turbidity meter(LA-320C、栄研化学社製)を用いて60℃で約60分反応させ、反応産物の生成をリアルタイムにモニターした。
【0119】
また、PCR法とのマラリア種別の診断比較のために同一検体からnested PCRを用いて比較した。PCR反応には、厳密な条件が必要である為、臨床サンプルからボイル法で抽出したDNAをそのまま用いた場合は、PCR反応が阻害される可能性がある。そこで、マラリア診療所で得られた濾紙乾燥血液を実験設備の整ったバンコクの研究所に持ち帰り、DNA抽出キット(QIAamp DNA Mini Kit、QIAGEN社製)を用いてDNAを抽出し、PCR反応に付した。なお、nested PCRは、PCR反応を2時間、2回の合計4時間かけて実施した。その後、得られたサンプルをアガロースゲル電気泳動にかけて、蛍光染色を行い、合計5時間かけて検出した。
【0120】
その結果、顕微鏡診断におけるマラリア原虫陽性を示した18検体について、マラリア原虫共通プライマーを用いたマラリア原虫感染の有無は、LAMP反応専用増幅装置を用いた場合は、18検体が陽性であった。恒温水槽にて反応後、目視した場合は、同様に18検体が陽性となり、両者の結果は100%一致していた。
【0121】
マラリア原虫の種特異的プライマーを使用したマラリア種別診断の顕微鏡診断、nested PCR、およびLAMP法による測定結果比較とLAMP反応専用増幅装置と恒温水槽にて反応後、目視した場合の比較結果を表1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
なお、表1に示されるようにPCRの実施は、熱帯熱マラリア原虫に関しては3検体のみ実施した。表中、Pfは、熱帯熱マラリア原虫を、Pvは、三日熱マラリア原虫を、Poは、卵形マラリア原虫をそれぞれ示す。
【0124】
その結果、顕微鏡診断では、三日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫の混合感染と診断された1例に関しては、PCR及びLAMP法(LAMP反応専用増幅装置と恒温水槽にて反応後、目視した場合とも)ともに三日熱マラリア原虫は検出されたが、卵形マラリア原虫を検出しておらず、顕微鏡診断の誤診と考えられる。
【0125】
したがって、本比較試験ではLAMP法では18反応中17反応は顕微鏡診断と一致した(94%一致)。上記の不一致の1反応結果を除けば、100%一致していることになる。
上記結果から判るように本願発明のプラスモジウム属原虫及びプラスモジウム属の種の検出用プライマーセット及びそれらを用いたプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか、或いは同時に検出、又は識別する方法は、マラリア原虫感染の検出・識別において顕微鏡診断と100%一致し、また、LAMP反応専用増幅装置と恒温水槽にて反応後、目視した場合との比較において100%一致した。またマラリア種別診断においても同じく100%一致し、感度はPCR法と同等であった。
【0126】
本発明のプラスモジウム属原虫及びプラスモジウム属の種の検出用プライマーセット及びそれらを用いたプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの同時検出、又は識別する方法の実施には、特にマラリア流行地域においては、迅速・簡便で且つ経費的に安価な方法であるDNA抽出をボイル法によって行い、DNA増幅反応を恒温水槽を用いることにより、安価で大量検体を取り扱うことができることを証明した。
本発明のプラスモジウム属原虫及びプラスモジウム属の種の検出用プライマーセット及びそれらを用いたプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの同時検出、又は識別する方法は、顕微鏡診断法より、迅速簡便に実施でき、且つ感度はPCR法と同等であるので、特にマラリア流行地の現場におけるマラリア原虫の属・種を同時に迅速・簡便にしかも多数の検体の検出・識別診断に好適に使用できる。
【0127】
実施例3
本発明によれば、マラリア流行地の現場(診療所)において、短時間に得られた検査結果から、上記実施例2において診断識別された熱帯熱マラリア原虫感染患者5名に対しては、「治療ガイドデータベース」に格納されているマラリア治療薬剤情報に基づいた、マラリア治療薬と優先度を基にメフロキン及びアーテスネートを投薬処方することができ、三日熱マラリア原虫感染が判明した13例については、同様にして、クロロキンとプリマキンを投薬処方することができ、マラリア流行地域において迅速な確実なマラリア原虫の感染の有無とマラリア治療が施行できるマラリア対策支援システムを運用できる。
【0128】
実施例4
上記したようにマラリア流行地域おいては、簡便で、迅速なプラスモジウム属原虫の検出(特に、混合感染の有無)が重要である。
【0129】
本発明者らは、さらにプラスモジウム属原虫の種の検出が可能なプライマーについて検討した。
【0130】
その結果、三日熱マラリアの診断用として有用な2種(Pv-7とPv-9)のプライマーセット(Pv-7について配列番号37〜42;Pv-9について配列番号31〜36)について、さらに三日熱マラリアの迅速診断が可能であることを見出した。
【0131】
当該2種のプライマーセットを用いた場合、他の熱帯熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリア原虫DNAのいずれとも反応しないことが確認された。
【0132】
三日熱マラリアの診断用として有用な2種(Pv-7とPv-9)のプライマーセットを用いた場合、先に見出した三日熱マラリア診断用プライマーの31分に比べて、Pv-7が27分、Pv-9が24分とより迅速診断が可能であった、特にPv-9のプライマー・セットを用いる場合が、最も迅速に検出できた。
【0133】
本発明は、さらに以下の発明を提供するものである。
1A、配列番号1〜6で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、プラスモジウム属の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能なプラスモジウム属原虫検出用プライマーセット、
2A、配列番号13〜18で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な三日熱マラリア原虫検出用プライマーセット、
3A、配列番号19〜24で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な四日熱マラリア原虫検出用プライマーセット、
4A、配列番号25〜30で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な卵形マラリア原虫検出用プライマーセット、
5A、請求項1Aから4Aに記載の核酸配列及び配列番号7〜12で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーセットからなり、熱帯熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を含むプラスモジウム属および各種の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能なプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか検出用プライマーセット、
6A、検体中に存在するプラスモジウム属原虫の検出方法であって、プラスモジウム属原虫の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を標的とし、請求項1Aに記載のプライマーセットで該プラスモジウム属原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を選択的に、LAMP法により増幅させ、該増幅産物の有無を確認することを特徴とする、プラスモジウム属原虫の検出方法、
7A、検体中に存在する三日熱マラリア原虫の検出方法であって、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を標的とし、請求項2Aに記載のプライマーセットで該三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を選択的に、LAMP法により増幅させ、該増幅産物の有無を確認することを特徴とする、三日熱マラリア原虫の検出方法、
8A、検体中に存在する四日熱マラリア原虫の検出方法であって、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を標的とし、請求項3Aに記載のプライマーセットで四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を選択的に、LAMP法により増幅させ、該増幅産物の有無を確認することを特徴とする、四日熱マラリア原虫の検出方法、
9A、検体中に存在する卵形マラリア原虫の検出方法であって、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を標的とし、請求項4Aに記載のプライマーセットで該卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を選択的に、LAMP法により増幅させ、該増幅産物の有無を確認することを特徴とする、卵形マラリア原虫の検出方法、
10A、検体中に存在するプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの検出方法であって、プラスモジウム属原虫の18S rRNA遺伝子配列、熱帯熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を標的とし、請求項5Aに記載のプライマーセットで該プラスモジウム属原虫の18S rRNA遺伝子配列、熱帯熱マラリア遺伝子原虫18S rRNA遺伝子配列、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域のそれぞれを選択的に、LAMP法により増幅させ、該増幅産物の有無を確認することを特徴とする、プラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの検出方法、
11A、請求項10Aに記載のプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの検出が、同時に又は別々に行なわれる、検出方法、
12A、検体からDNA試料を分離し、該DNA試料に対して、請求項1Aに記載のプライマーセットを用いて、LAMP法により増幅反応を行い、プラスモジウム属の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅させ、この増幅産物の有無を確認することを特徴とする、プラスモジウム属原虫の識別方法、
13A、検体からDNA試料を分離し、該DNA試料に対して、請求項2Aに記載のプライマーセットを用いて、LAMP法により増幅反応を行い、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅させ、この増幅産物の有無を確認することを特徴とする、三日熱マラリア原虫の識別方法、
14A、検体からDNA試料を分離し、該DNA試料に対して、請求項3Aに記載のプライマーセットを用いて、LAMP法により増幅反応を行い、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅させ、この増幅産物の有無を確認することを特徴とする、四日熱マラリア原虫の識別方法、
15A、検体からDNA試料を分離し、該DNA試料に対して、請求項4Aに記載のプライマーセットを用いて、LAMP法により増幅反応を行い、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅させ、この増幅産物の有無を確認することを特徴とする、卵形マラリア原虫の識別方法、
16A、検体からDNA試料を分離し、該DNA試料に対して、請求項5Aに記載のプライマーセットを用いて、LAMP法により増幅反応を行い、プラスモジウム属原虫18S rRNA遺伝子配列、熱帯熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域のそれぞれを増幅させ、それら増幅産物の有無を確認することを特徴とする、プラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの識別方法、
17A、請求項16Aに記載のプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの識別が、同時に又は別々に行なわれる、識別方法、
18A、請求項1A〜5Aのいずれか一項に記載のプライマーセット、鎖置換型DNAポリメラーゼ、dNTPs、反応緩衝液を少なくとも含むことを特徴とする、プラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの検出用キット、
19A、請求項18Aに記載のプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかを検出用キットが、同時に又は別々に検出される、検出用キット、
20A、マラリア対策支援システムにおいて、
マラリア流行地域におけるマラリアの原因となるプラスモジウム属原虫陽性数とその地域における保有率を含むマラリア感染患者情報を入力記憶する手段と、上記マラリア感染患者情報を基にした、マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策を特定し、該公衆衛生的対策のいずれかを優先的に選択すべきことを示す対策優先度とともに入力されるプラスモジウム属原虫感染地域に対する公衆衛生的対策選択情報が入力されたマラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースと、
被検体のプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報に応じて、上記マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースから該マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策とその公衆衛生的対策の優先度を抽出する公衆衛生的対策抽出部と、上記公衆衛生的対策抽出部で抽出された公衆衛生的対策を優先度とともに提示する公衆衛生的対策提示部とを有して構成されることを特徴とするマラリア対策支援システム、
21A、請求項20Aのマラリア対策支援システムにおいて、該マラリア流行地域におけるプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報が、請求項1Aのプライマーセット、及び/または請求項6Aの検出方法、または請求項19Aのプラスモジウム属原虫検出用キットを用いてプラスモジウム属原虫の感染の有無を特定することによって得られたものであるマラリア対策支援システム、
22A、マラリア対策支援システムにおいて、
4種のマラリア原虫単独または複数感染に対して作用するマラリア治療薬特定に関するマラリア治療薬情報を入力記憶する手段と、
該マラリア流行地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、
マラリア流行地域ではない地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、
被検体に検出されるマラリア原虫に対する作用力の指標毎に、上記マラリア原虫に対して上記マラリア治療薬を優先的に選択すべきことを示す優先度とともに入力されるマラリア治療薬選択情報が入力された治療ガイドデータベースと、
被検体のマラリア感染の病原情報に応じて、上記治療ガイドデータベースから被検体に投与すべきマラリア治療薬と優先度を抽出するマラリア治療薬抽出部と、上記マラリア治療薬抽出部で抽出されたマラリア治療薬を優先度とともに提示するマラリア治療薬提示部とを有して構成されることを特徴とするマラリア対策支援システム。
23A、請求項22Aのマラリア対策支援システムにおいて、発熱患者のマラリア感染の病原情報が、請求項2Aから5Aのいずれかのプライマーセット、及び/または請求項13Aから17Aのいずれかのプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの識別方法、または請求項18A〜19Aのいずれかの検出用キットを用いて4種のマラリア原虫単独または複数感染のいずれかの感染を識別することによって得られる、マラリア対策支援システム、
24A、マラリア対策支援システムにおいて、
マラリア流行地域におけるマラリアの原因となるプラスモジウム属原虫陽性数とその地域における保有率を含むマラリア感染患者情報を入力記憶する手段と、上記マラリア感染患者情報を基にした、マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策を特定し、該公衆衛生的対策のいずれかを優先的に選択すべきことを示す対策優先度とともに入力されるプラスモジウム属原虫感染地域に対する公衆衛生的対策選択情報が入力されたマラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースと、被検体のプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報に応じて、上記マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースから該マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策とその公衆衛生的対策の優先度を抽出する公衆衛生的対策抽出部と、上記公衆衛生的対策抽出部で抽出された公衆衛生的対策を優先度とともに提示する公衆衛生的対策提示部とを有して構成されるマラリア対策に関する公衆衛生的対策と、
4種のマラリア原虫単独または複数感染に対して作用するマラリア治療薬特定に関するマラリア治療薬情報を入力記憶する手段と、該マラリア流行地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、マラリア流行地域ではない地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、被検体に検出されるマラリア原虫に対する作用力の指標毎に、上記マラリア原虫に対して上記マラリア治療薬を優先的に選択すべきことを示す優先度とともに入力されるマラリア治療薬選択情報が入力された治療ガイドデータベースと、被検体のマラリア感染の病原情報に応じて、上記治療ガイドデータベースから被検体に投与すべきマラリア治療薬と優先度を抽出するマラリア治療薬抽出部と、上記マラリア治療薬抽出部で抽出されたマラリア治療薬を優先度とともに提示するマラリア治療薬提示部とを有して構成されるマラリア対策に関するマラリア原虫治療対策とを、
組み合わせて実施することを特徴とするマラリア対策支援システム、
25A、請求項24Aのマラリア対策支援システムにおいて、該マラリア流行地域におけるプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報が、請求項1Aのプライマーセット、及び/または請求項6Aの検出方法、または請求項19Aのプラスモジウム属原虫検出用キットを用いてプラスモジウム属原虫の感染の有無を特定することにより得られるか、及び/または発熱患者のマラリア感染の病原情報が請求項2Aから5Aのいずれかのプライマーセット、及び/または請求項13Aから17Aのいずれかのプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの識別方法、または請求項18A〜19Aのいずれかの検出用キットを用いて4種のマラリア原虫単独または複数感染のいずれかの感染を識別することによって得られる、マラリア対策支援システム、
26A、請求項24Aのマラリア対策支援システムからマラリア流行地域における公衆衛生的対策の実施状況と当該流行地域におけるマラリア感染の病原情報及び感染患者の治療状況を得る手段、マラリア原虫治療ガイドデータベースからマラリア予防・治療薬を選択する手段、さらに選択した薬剤を渡航前から服用する手段からなるマラリア流行地域へ渡航する渡航予定者のマラリア感染予防対策システム、
27A、請求項24Aのマラリア対策支援システムからマラリア流行地域における公衆衛生的対策の実施状況と、当該流行地域におけるマラリア感染の病原情報及び感染患者の治療状況を得る手段とマラリア原虫治療ガイドデータベースからマラリア予防・治療薬を選択する手段、さらに選択した薬剤をマラリア流行地域から帰国後に服用する手段からなるマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システム、および
28A、請求項27Aのマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システムにおいて、マラリア流行地域から帰国した帰国者が発熱している場合は、さらに熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの識別を実施して、優先的に選択すべきマラリア治療薬を選択し、服用するマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システム、
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明者らによって開発されたLAMP法を用いるプラスモジウム属及び4種(スピーシス)のマラリア原虫の検出・識別法は、顕微鏡法より高い感度と特異性を持っており、そして検体からの検出・鑑別が実施においてPCR法より簡便で、短時間で測定でき、高価ではないので、設備が整っていないマラリア流行地域の国々におけるマラリアの臨床的診断とコントロール活動のために非常に有用であるといえる。また、本技術により、新しいマラリア対策システム(図3)を構築できる。
【配列表フリーテキスト】
【0135】
プラスモジウム属の4種、熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum:GenBank Accession No.M19172)、三日熱マラリア(Plasmodium vivax:GenBank Accession No.U03080 or X13926)、四日熱マラリア(Plasmodium malariae:GenBank Accession No.M54897)、卵形マラリア(Plasmodium ovale:GenBank Accession No.L48987)に対する18S rRNA配列を用いて整列比較した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(c)の工程を含む検体中に存在するプラスモジウム属原虫、及び/又は熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか、または混合感染の検出又は識別方法。
a)検体からDNAを抽出する工程、
b)(a)において抽出したDNAを鎖置換型DNAポリメラーゼ及び配列特異的プライマーセットを含む反応液中でプラスモジウム属の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅する工程、
c)(b)で増幅されたプラスモジウム属原虫、及び熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫の増幅産物の有無を検出又は識別する工程、
前記配列特異的プライマーセットが、プラスモジウム属原虫の18S rRNA遺伝子配列を増幅するための配列番号1〜6で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセット、
熱帯熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列を増幅するための配列番号7〜12で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセット、
三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅するための配列番号13〜18、配列番号31〜36、配列番号37〜42のいずれかで表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセット、
四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅するための配列番号19〜24で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセット、
卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅するための配列番号25〜30で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセット
【請求項2】
検体からのDNA抽出が、DNAを含む検体をボイルした後、遠心分離することによってDNA抽出する方法であることを特徴とする請求項1に記載の検体中に存在するプラスモジウム属原虫、及び/または熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか、または混合感染の検出又は識別方法。
【請求項3】
ボイルする時間が数分から十数分であることを特徴とする請求項2に記載の検出又は識別方法。
【請求項4】
(b)のプラスモジウム属の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅する工程において、
恒温水槽またはLAMP反応専用増幅装置を用いて、60℃前後で約1時間前後、DNA増幅反応することを特徴とする請求項1〜3に記載の検体中に存在するプラスモジウム属原虫、及び/または熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか、または混合感染の検出又は識別方法。
【請求項5】
(c)で増幅されたプラスモジウム属原虫、及び/または熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫の増幅産物の有無を検出又は識別する工程において、目視によってか、またはリアルタイム濁度メーターによって増幅された増幅産物の有無を検出または識別することを特徴とする請求項1〜4に記載の検出又は識別方法。
【請求項6】
マラリア流行地域で行うことを特徴とする請求項1〜5に記載の検出又は識別方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のプラスモジウム属原虫、及び/または熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか、または混合感染の検出又は識別が、同時に又は別々に行われる、検出又は識別方法。
【請求項8】
請求項1〜6に記載のプラスモジウム属原虫、及び/または熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの検出又は識別において、プラスモジウム属原虫の18S rRNA遺伝子配列を増幅するための配列番号1〜6で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットを配列特異的プライマーセットとして用いるプラスモジウム属原虫の感染検出又は識別方法。
【請求項9】
配列番号13〜18、配列番号31〜36、配列番号37〜42のいずれかで表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な、三日熱マラリア原虫検出用プライマーセットを配列特異的プライマーセットとして用いて三日熱マラリア原虫の感染を検出又は識別する請求項1〜6のいずれかに記載の検出又は識別方法。
【請求項10】
配列番号19〜24で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な、四日熱マラリア原虫検出用プライマーセットを配列特異的プライマーセットとして用いて四日熱マラリア原虫の感染を検出又は識別する請求項1〜6のいずれかに記載の検出又は識別方法。
【請求項11】
配列番号25〜30で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な、卵形マラリア原虫検出用プライマーセットを配列特異的プライマーセットとして用いて卵形マラリア原虫の感染を検出又は識別する請求項1〜6のいずれかに記載の検出又は識別方法。
【請求項12】
配列番号1〜6で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、プラスモジウム属の18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能なプラスモジウム属原虫検出用プライマーセット。
【請求項13】
配列番号13〜18、配列番号31〜36、配列番号37〜42のいずれかで表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、三日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な三日熱マラリア原虫検出用プライマーセット。
【請求項14】
配列番号19〜24で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、四日熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な四日熱マラリア原虫検出用プライマーセット。
【請求項15】
配列番号25〜30で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドセットからなり、卵形マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を増幅可能な卵形マラリア原虫検出用プライマーセット。
【請求項16】
請求項12から15に記載の核酸配列及び配列番号7〜12で表される核酸配列を含むオリゴヌクレオチドプライマーセットからなり、熱帯熱マラリア原虫18S rRNA遺伝子配列の特定領域を含むプラスモジウム属および各種の18S rRNA遺伝子の特定領域を増幅可能なプラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか検出用プライマーセット。
【請求項17】
請求項12〜16に記載のプライマーセット、鎖置換型DNAポリメラーゼ、dNTPs、反応緩衝液を少なくとも含むことを特徴とする、プラスモジウム属原虫、および/又は熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれか検出用キット。
【請求項18】
前記検出用キットが、プラスモジウム属原虫、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかを同時に又は別々に検出する、請求項17に記載の、検出用キット。
【請求項19】
マラリア対策支援システムにおいて、
マラリア流行地域におけるマラリアの原因となるプラスモジウム属原虫陽性数とその地域における保有率を含むマラリア感染患者情報を入力記録する手段と、
上記マラリア感染患者情報を基にした、マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策を特定し、該公衆衛生的対策のいずれかを優先的に選択すべきことを示す対策優先度とともに入力されるプラスモジウム属原虫感染地域に対する公衆衛生的対策選択情報が入力されたマラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースと、
被検体のプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報に応じて、上記マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースから該マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策とその公衆衛生的対策の優先度を抽出する公衆衛生的対策抽出部と、
上記公衆衛生的対策抽出部で抽出された公衆衛生的対策を優先度とともに提示する公衆衛生的対策提示部
とを有して構成されることを特徴とするマラリア対策支援システム。
【請求項20】
該マラリア流行地域におけるプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報を請求項1に記載の検出又は識別方法及び/または請求項12に記載のプライマーセット、または請求項17に記載のプラスモジウム属原虫検出用キットを用いてプラスモジウム属原虫の感染の有無を特定することを特徴とする請求項19に記載のマラリア対策支援システム。
【請求項21】
マラリア対策支援システムにおいて、
4種のマラリア原虫単独または複数感染に対して作用するマラリア治療薬特定に関するマラリア原虫治療薬情報を入力記憶する手段と、
該マラリア流行地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、
マラリア流行地域ではない地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、
被検体に検出されるマラリア原虫に対する作用力の指標毎に、上記マラリア原虫に対して上記マラリア治療薬を優先的に選択すべきことを示す優先度とともに入力されるマラリア原虫治療薬選択情報が入力された治療ガイドデータベースと、
被検体のマラリア感染の病原情報に応じて、上記治療ガイドデータベースから被検体に投与すべきマラリア治療薬と優先度を抽出するマラリア治療薬抽出部と、
上記マラリア治療薬抽出部で抽出されたマラリア治療薬を優先度とともに提示するマラリア治療薬提示部とを有して構成されることを特徴とするマラリア対策支援システム。
【請求項22】
発熱患者のマラリア感染の病原情報を請求項1〜11のいずれかに記載の検出又は識別方法及び/または請求項12から16のいずれかに記載のプライマーセット、または請求項17もしくは18に記載の検出キットを用いて4種のマラリア原虫単独または複数感染のいずれかの感染を識別することを特徴とする請求項21に記載のマラリア対策支援システム。
【請求項23】
マラリア対策支援システムにおいて、
マラリア流行地域におけるマラリアの原因となるプラスモジウム属原虫陽性数とその地域における保有率を含むマラリア感染患者情報を入力記録する手段と、上記マラリア感染患者情報を基にした、マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策を特定し、該公衆衛生的対策のいずれかを優先的に選択すべきことを示す対策優先度とともに入力されるプラスモジウム属原虫感染地域に対する公衆衛生的対策選択情報が入力されたマラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースと、被検体のプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報に応じて、上記マラリア感染防止公衆衛生的対策ガイドデータベースから該マラリア感染流行地域に対する公衆衛生的対策とその公衆衛生的対策の優先度を抽出する公衆衛生的対策抽出部と、上記公衆衛生的対策抽出部で抽出された公衆衛生的対策を優先度とともに提示する公衆衛生的対策提示部とを有して構成されるマラリア対策に関する公衆衛生的対策と、
4種のマラリア原虫単独または複数感染に対して作用するマラリア治療薬特定に関するマラリア原虫治療薬情報を入力記憶する手段と、該マラリア流行地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、マラリア流行地域ではない地域における発熱患者のマラリア感染の病原情報を含む患者情報が入力され記憶する患者情報入力手段と、被検体に検出されるマラリア原虫に対する作用力の指標毎に、上記マラリア原虫に対して上記マラリア治療薬を優先的に選択すべきことを示す優先度とともに入力されるマラリア原虫治療薬選択情報が入力された治療ガイドデータベースと、被検体のマラリア感染の病原情報に応じて、上記治療ガイドデータベースから被検体に投与すべきマラリア治療薬と優先度を抽出するマラリア治療薬抽出部と、上記マラリア治療薬抽出部で抽出されたマラリア治療薬を優先度とともに提示するマラリア治療薬提示部とを有して構成されるマラリア対策に関するマラリア原虫治療対策とを、
組み合わせて実施することを特徴とするマラリア対策支援システム。
【請求項24】
請求項23のマラリア対策支援システムにおいて、該マラリア流行地域におけるプラスモジウム属原虫に関するマラリア感染患者情報を請求項1に記載の検出又は識別方法及び/または請求項12に記載のプライマーセット、または請求項17もしくは18に記載のプラスモジウム属原虫検出用キットを用いてプラスモジウム属原虫の感染の有無を特定するか、及び/または発熱患者のマラリア感染の病原情報を請求項1〜11のいずれかに記載の検出又は識別方法及び/または請求項16に記載のプライマーセット、または請求項17もしくは18に記載のプラスモジウム種検出キットを用いて4種のマラリア原虫単独または複数感染のいずれかの感染を識別することを特徴とするマラリア対策支援システム。
【請求項25】
請求項23のマラリア対策支援システムからマラリア流行地域における公衆衛生的対策の実施状況と当該流行地域におけるマラリア感染の病原情報及び感染患者の治療状況を得る手段、マラリア原虫治療ガイドデータベースからマラリア予防・治療薬を選択する手段、さらに選択した薬剤を渡航前から服用する手段からなるマラリア流行地域へ渡航する渡航予定者のマラリア感染予防対策システム。
【請求項26】
請求項23のマラリア対策支援システムからマラリア流行地域における公衆衛生的対策の実施状況と、当該流行地域におけるマラリア感染の病原情報及び感染患者の治療状況を得る手段とマラリア原虫治療ガイドデータベースからマラリア予防・治療薬を選択する手段、さらに選択した薬剤をマラリア流行地域から帰国後に服用する手段からなるマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システム。
【請求項27】
請求項26のマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システムにおいて、マラリア流行地域から帰国した帰国者が発熱している場合は、さらに熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫のいずれかの識別を実施して、優先的に選択すべきマラリア治療薬を選択し、服用するマラリア流行地域から帰国した帰国者のマラリア感染予防・治療対策システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−527583(P2010−527583A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550118(P2009−550118)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【国際出願番号】PCT/JP2008/060115
【国際公開番号】WO2008/146938
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】