説明

プラズマエッチング装置における溶射膜の形成方法

【課題】半導体デバイスにエッチング等の処理を施す処理室の内壁からの溶射材料に起因する異物の飛散を抑制する。
【解決手段】真空処理室内部に導入された処理ガスに高周波エネルギを供給してプラズマを生成し、前記真空処理室内部に配置した試料にプラズマエッチングを施すプラズマエッチング装置における前記真空処理室のプラズマと接触する部品に溶射機を用いて溶射膜を形成する溶射膜の形成方法において、前記溶射機は、溶射フレームにより溶射材料を加熱溶融して被覆対象面に吹き付ける溶射機本体107および該本体と前記被覆対象面111間に配置した遮蔽板109を備え、該遮蔽板により溶射フレーム外周部の流れに沿って前記被覆対象面に飛来する溶射粒子を遮蔽する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射膜の形成技術に係り、特にプラズマエッチング装置を構成する真空処理室のプラズマと接触する部分に溶射機を用いて溶射膜を形成する溶射膜の形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスおよび液晶デバイスなどの製造プロセスでは、エッチング処理室内でSFやCFのようなフッ化物、BC1やSIClなどの塩化物、HBrなどの臭化物をはじめとする処理ガスを使用するため、エッチング処理容器内壁材料が著しく腐食損耗する。
【0003】
例えば、半導体製造装置のプラズマ処理容器内壁に使われている材料としては、Al、Al合金あるいはステンレス合金などの金属材料を基材とし、その表面をAlの陽極酸化膜、ボロンカーバイド、アルミナなどの溶射膜、あるいはSiO、SiCなどの材料で被覆したもの、さらにはこれらをフッ素樹脂あるいはエポキシ樹脂などの高分子皮膜で被覆したものが用いられる。
【0004】
これらの材料は、腐食性の強いハロゲンイオンに接すると、化学的損傷を受けてSiOおよびA1などの微粒子を生成する。また、プラズマによって励起されたイオンによってエロージョン損傷を受けることがある。
【0005】
特に、ハロゲン化合物のガスを用いるエッチングプロセスでは、反応のより一層の活性化を図るため、しばしばプラズマが用いられる。しかし、プラズマ環境下では、ハロゲン化合物は解離して非常に腐食性の強い原子状のF、Cl、Brなどを発生する。このとき、前記環境内にSiOやAlなどの微粉末状固形物(微粒子)が存在すると、プラズマ処理容器内に用いられている部材が化学的腐食を受けるとともに、微粒子によるエロージョン損傷、いわゆるエロージョン・コロージョン作用を強く受けることになる。しかも、エッチング処理室内でプラズマが励起されている環境では、Arガスのように腐食性のない気体でもイオン化し、これが固体面に強く衝突する現象(イオンボンバードメント)が発生する。このため上記容器内に配置されている各種部材はより一層強い損傷を受けることになる。
【0006】
耐プラズマ性を向上するために、5%〜10%の気孔率を有するY等の溶射膜でエッチング処理室容器の表面を被覆することが知られている(特許文献1参照)。この方法では、プラズマに接触するエッチング処理室の表面をY等の溶射膜で被覆するため、プラズマによる損傷を低減することが期待できる。なお、基材表面を被覆するアンダーコートには50〜500μmの金属皮膜を用い、溶射膜で表面を被覆する基材表面の粗さに関しては溶射膜が密着すること等を考慮している。
【特許文献1】特開2001−164354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の表面処理方法で製作したエッチング処理室で実際にプラズマを発生させると、生成したプラズマにより、溶射被膜表面に付着している微小異物がプラズマ中に放出され、ウエハ上に堆積することにより半導体デバイスの欠陥の原因となる。
【0008】
プラズマに接触することとなる、エッチング処理室内の溶射膜表面には、未溶融の溶射材料が異物として付着していることがある。また、完全溶融した溶射材料が溶射被膜表面に付着していることがある。
【0009】
これらの異物は、溶射膜表面に付着しても弱い密着力であるために、プラズマに接触するだけで溶射膜表面から離脱し、プラズマ中に飛散してしまう。その結果、エッチング処理室内に、溶射膜材料に起因する化学成分の微粒子を主成分とする汚染が増大する。
【0010】
このように、従来技術では、エッチング処理室内で使用する部品の表面を被覆するA1、Y等のセラミックス材料からなる溶射膜材料に起因する微小異物が増加するという問題に対しては十分な配慮がなされていない。
【0011】
エッチング処理室内で使用される、表面を溶射膜で被覆した部品は、洗浄を施した後にエッチング処理装置に取り付けられている。部品洗浄に際しては、溶液中に浸漬した状態で超音波を印加する洗浄、HOもしくはCO等を吹き付ける洗浄、溶剤もしくは純水等に浸漬する洗浄を組み合わせて行うことが一般的であるが、溶射膜内に存在する溶射膜の材料からなる微小異物のすべてを除去することは困難である。
【0012】
溶射膜に使用する材料からなる微小異物は、溶射部品を製作する溶射工程そのものに起因している場合が多い。例えば、溶射材料が溶射装置から被溶射部品まで飛行する過程で、使用する基材粒子の粒度によって、溶射フレーム内で完全に溶融した後に凝固した状態で被溶射面に達する場合と、最初から溶射フレーム内に入らないで、溶射粒子のまま被溶射面に達する場合がある。通常の溶射プロセスを構築する場合、特定の粒度の粒子が溶融して、被溶射表面に到達する条件を選定しているが、実際に使用する溶射材料の粒度分布では上述のように溶融と半溶融の粒子が存在することになる。
【0013】
すなわち、実際に使用する粒子が最適粒子より大きい場合は、溶射粒子の表面近傍のみが溶融した状態で被溶射面に到達し、最適粒子より小さい場合は溶射フレーム中心の高温領域に入る前に溶射フレームに乗って被溶射面に到達することになる。また、最適粒子より小さい粒子が溶射フレーム内に入った場合、溶射粒子は完全溶融した後に飛散過程で凝固した後に被溶射面に到達することになる。その結果、これら巨大溶射粒子あるいは微小粒子は被溶射面に到達した場合、溶射膜との付着力は小さいことになる。
【0014】
このように付着力の小さい溶射材料で表面を被覆した部品を、エッチング処理室内でプラズマに接触させた場合、あるいはAr等の不活性ガスに晒した場合、表面に付着した溶射材料からなる微小異物はプラズマ中に飛散し、半導体デバイス等を作るウエハ上に達することになる。ウエハ上に達した異物は半導体デバイスの配線不良や電気特性不良のを引き起こすパターン欠陥の原因となり、半導体デバイスの生産性を著しく低下させることになる。
【0015】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、半導体デバイスにエッチング等の処理を施す処理室の内壁からの、溶射材料に起因する異物の飛散を抑制することのできる表面処理技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0017】
真空処理室内部に導入された処理ガスに高周波エネルギを供給してプラズマを生成し、前記真空処理室内部に配置した試料にプラズマエッチングを施すプラズマエッチング装置における前記真空処理室のプラズマと接触する部品に溶射機を用いて溶射膜を形成する溶射膜の形成方法において、前記溶射機は、溶射フレームにより溶射材料を加熱溶融して被覆対象面に吹き付ける溶射機本体および該本体と前記被覆対象面間に配置した遮蔽板を備え、該遮蔽板により溶射フレーム外周部の流れに沿って前記被覆対象面に飛来する溶射粒子を遮蔽する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上の構成を備えるため、半導体デバイスにエッチング等の処理を施す処理室の内壁からの溶射材料に起因する異物の飛散を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態で使用する溶射機本体の構成を説明する図である。
【0020】
図1に示すように、溶射機本体107は、溶射機基台106、溶射機基台106に取り付けた突起部を有する電極(陰極)101、円筒状の電極(陽極)102、および前記基台106(電極101)と円筒状の電極102とを絶縁して結合する例えば円筒状の絶縁筒108を備える。
【0021】
前記絶縁筒108にはガス供給管103を備え、図示しないガス供給源から、Arガス等のプロセスガスを供給する。また、円筒状の陽極102は溶射材料供給管104を備え、該供給管を介してセラミックス等の溶射材料を供給する。
【0022】
被溶射部品112に溶射膜を形成するに際しては、ガス供給管103からAr等のプロセスガスを供給した状態で陰極101と陽極102間に電圧を印加してプラズマ放電を発生する。このプラズマ放電のエネルギによりプロセスガスをプラズマ化して、溶射フレーム105を生成する。また、この溶射フレーム105中に、前記供給管103を介してセラミックス等の溶射材料(粉末)を注入する。注入された溶射材料は溶射フレーム内で溶融され、この状態で被溶射部品112に到達して被溶射部品の表面に溶射膜111を形成する。
【0023】
なお、前記プロセスガスとしては、Arのほかに、He、H、O等のガスを用いることができる。また、溶射材料としては、Al、YAG,Y、Gd、Yb、YFのいずれか1以上を含む材料を用いることができる。
【0024】
前述のように、溶射材料供給管104から溶射材料を供給することにより、溶射機本体107から被溶射部品112側に放出された溶射フレーム105内に溶融された溶射材料を生成することができる。その結果、被溶射部品112の表面には溶射膜111が形成されることになる。
【0025】
このような溶射装置で溶射膜111を形成する場合、溶射膜111表面に溶射材料からなる微粒子が付着することがある。すなわち、溶射材料供給管104から供給された溶射材料の一部が溶射フレーム105内に入り込めず、溶射フレーム105の最外周を通って溶射膜111に到達することがある。この場合には被溶射部品112上に形成した溶射膜111の表面に、微少異物が凝固した状態で付着することになる。
【0026】
このような微小異物が溶射膜表面に付着した状態の溶射部品をエッチング装置に用いた場合には、プラズマプロセス中において、前記微小異物がプラズマ中に放出されることになる。プラズマ中に放出された前記微少異物は半導体デバイスを製作するウエハ上に堆積し、デバイスに欠陥を発生することになり、半導体デバイスの生産性を著しく低減することになる。
【0027】
図2は、本実施形態で使用する溶射装置の構成を説明する図である。なお、図2において図1に示される部分と同一部分については同一符号を付してその説明を省略する。
【0028】
本実施形態においては、図1に示す溶射機を用いて溶射を行うに際して、溶射機本体106と被溶射部品112の間に生成される溶射フレーム105の途中に、遮蔽板109を配置する。なお、遮蔽板109には、溶射フレームの外周部を遮蔽し、内周部のみを通過させることのできる貫通穴13が設けてある。
【0029】
このように、溶射フレームの途中に遮蔽板109を配置すると、溶射フレーム105の外周部の流れに沿って被溶射部品112に飛来する未溶融あるいは一旦溶融して凝固した溶射粒子は、遮蔽版109に阻止されて被溶射部品112に飛来することはなくなる。
【0030】
なお、前記遮蔽板109は、溶射工程で使用する溶射材料より融点の高い、例えばセラミックス材料で形成することが必要である。これにより、被溶射部品112に形成される溶射膜111表面に付着する微小異物の量を抑制することができる。
【0031】
本実施形態では、大気中で溶射膜を形成する際に、溶射機から放出される溶射フレームの外周部をカットするために、溶射材料と同じ組成のセラミックス製の遮蔽板を用いている。この遮蔽板により、溶射フレームに入りきらないで被溶射部品に飛散する溶射材料の微小粒子の飛散量を抑制することができる。
【0032】
なお、溶射材料の粒度分布を制御することにより、すなわち、微小な溶射材料粉あるいは巨大な溶射粉を予め除去することにより、溶射膜111表面に付着する微小異物をより少なくすることができる。溶射材料の粒径は、例えば、中心粒径±20%以内に揃えることが望ましい。
【0033】
粒度が小さい場合は、溶射距離を短くすることで対応可能である。しかしこの場合は、大きい粒度の溶射材料を除去しなければならない。反対に溶射材料の粒度が大きい場合は溶射フレームの出力を上昇することにより対応可能である。しかしこの場合は、小さい粒度の溶射材料を除去しなくてはならない。
【0034】
本実施形態に示すように、溶射フレーム外周部に遮蔽板を設けることにより、溶射によって表面を被覆された部品の表面に付着する微小異物を少なくすることができる。その結果、溶射膜表面がエッチングプロセスにおいてプラズマに接触しても、溶射膜から溶射膜材料起因の微小異物(0.1μm〜1.0μm)が発生することはない。
【0035】
前述のように、溶射膜の溶射工程において、溶射材料を溶射フレーム内に注入することにより、溶射材料は溶融状態で被溶射部品に到達することになる。溶融状態で飛来する溶射材料は、被溶射部品上に堆積し、50〜500μm程度の膜厚の溶射膜を形成する。溶射材料を溶射フレーム内に注入する際、溶射材料の粒径が微少で溶射フレーム内に入り込めない場合は、溶射フレーム外周部のガス流れに沿って被溶射部品に輸送されることになる。この場合は、溶射材料は未溶融状態で被溶射部品の表面に付着する。また、微小な溶射材料粉であっても溶射フレーム内に入り込む場合がある。この場合は、粒径が小さいために溶射フレームの中央部までには至らない。その結果、溶射材料の粒子は溶融するが、溶射フレーム外周の流れに沿って被溶射部品に輸送されるため、溶射装置から被溶射部品に至るまでの時間中に粒子自身も冷却されて凝固してしまう。その結果、被溶射部品に到達する際の溶射粒子は溶融状態ではなくなる。このため、被溶射部品と溶射材料粒子との密着力は少ない状態となる。
【0036】
本実施形態においては、上記溶射フレームの外周部に存在する、未溶融あるいは溶融しても被溶射部品に到達するまでには凝固する粒子を除去するため、被溶射部品の表面に、密着力の弱い溶射材料粒子が付着することを抑制することができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、溶射フレーム105の途中に遮蔽板109を配置した溶射機を用いてエッチング装置部品の表面処理を行い、上記溶射フレームの外周部に存在する未溶融あるいは溶融しても被溶射部品に到達するまでには凝固する粒子を除去する。このため、被溶射部品の表面に形成される溶射膜の表面に、溶射材料起因の異物が付着することがなくなる。
【0038】
この結果、被溶射部品をエッチング処理装置に取り付けて半導体デバイス等の製作を行うプラズマプロセス中において、溶射膜がプラズマに接触しても、溶射膜から溶射膜材料起因の微小異物が発生することはなくなり、半導体デバイスを製作するためにエッチング等の処理を行うウエハ上に、溶射材料起因の異物が飛来することもなくなり、異物および異物起因の汚染による欠陥の少ない半導体デバイスを作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施形態で使用する溶射機本体の構成を説明する図である。
【図2】本実施形態で使用する溶射装置の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0040】
101 電極(陰極)
102 電極(陽極)
103 ガス導入管
104 溶射材料供給管
105 溶射フレーム
106 基台
107 溶射機本体
108 絶縁筒
109 遮蔽板
111 溶射膜
112 被溶射部品
113 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空処理室内部に導入された処理ガスに高周波エネルギを供給してプラズマを生成し、前記真空処理室内部に配置した試料にプラズマエッチングを施すプラズマエッチング装置における前記真空処理室のプラズマと接触する部品に溶射機を用いて溶射膜を形成する溶射膜の形成方法において、
前記溶射機は、溶射フレームにより溶射材料を加熱溶融して被覆対象面に吹き付ける溶射機本体および該本体と前記被覆対象面間に配置した遮蔽板を備え、該遮蔽板により溶射フレーム外周部の流れに沿って前記被覆対象面に飛来する溶射粒子を遮蔽することを特徴とするプラズマエッチング装置における溶射膜の形成方法。
【請求項2】
請求項1記載の溶射膜の形成方法において、
溶射材料は、少なくともAl、YAG,Y、Gd、Yb、YFのいずれか1を含むことを特徴とするプラズマエッチング装置における溶射膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1記載の溶射膜の形成方法において、
溶射材料の粒径は中心粒径±20%以内の粒度に揃えたことを特徴とするプラズマエッチング装置における溶射膜の形成方法。
【請求項4】
真空処理室内部に導入された処理ガスに高周波エネルギを供給してプラズマを生成し、前記真空処理室内部に配置した試料にプラズマエッチングを施すプラズマエッチング装置における前記真空処理室のプラズマと接触する部品に、溶射膜を形成する溶射膜の形成装置において、
溶射材料を加熱溶融して被覆対象面に吹き付ける溶射フレームを形成する溶射機本体および該本体と被覆対象面間に配置した遮蔽板を具備する溶射機を備え、前記遮蔽板により溶射フレーム外周部の流れに沿って被覆対象面である真空処理室のプラズマと接触する部分に飛来する溶射粒子を遮蔽して、前記被覆対象面に溶射膜を形成することを特徴とするプラズマエッチング装置における溶射膜の形成装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−156009(P2010−156009A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334026(P2008−334026)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】