説明

プラズマエッチング装置

【課題】サファイアのエッチングにおいて選択比を高めることの可能なプラズマエッチング装置を提供する。
【解決手段】プラズマエッチング装置は、レジストマスクを有したエッチング対象物であるサファイア基板Sを収容する真空槽10と、三塩化ホウ素を含むガスで真空槽10内にプラズマを生成するプラズマ生成部と、サファイア基板Sが載置されるトレイ20と、サファイア基板Sの端面の周囲に配置される包囲部材としてのトレイカバー21とを備える。トレイカバー21はトレイ20上のうちサファイア基板S以外の部分を覆っており、その表面は、樹脂から形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、プラズマを用いてサファイア基板をエッチングするプラズマエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体を発光層として有する発光ダイオードでは、従来から、発光層をエピタキシャル成長させるための基材としてサファイア基板が広く用いられている。また、こうした発光ダイオードの製造工程においては、発光層からの光の取り出し効率を高めるためにサファイア基板の表面に凹凸が形成され、該凹凸を形成するための技術として、例えば特許文献1に記載のように、プラズマエッチング技術が多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−318441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したサファイア基板のプラズマエッチングでは、通常、エッチングガスとして三塩化ホウ素(BCl)が用いられ、下記式1に示される反応が進行することによりサファイア基板のエッチングが行われる。このとき、サファイア基板と同じ雰囲気に曝されるレジストパターンには、エッチング反応の生成物であるホウ素酸化物やそれの中間生成物である酸化源が接触することになる。その結果、式1に示される反応によって確かにサファイア基板のエッチングは進行するものの、他方では、こうしたエッチングの進行とともに、少なからずレジストマスクのエッチングも進行することとなる。そして、近年では、発光ダイオードの微細化の進行にともない、上記の凹凸形状に高アスペクト化が求められるため、上述したプラズマエッチング技術では、サファイア基板の選択比が上記要請を満たす程度には得られ難いという問題が生じている。結果として、レジストパターンを厚く形成することやメタルマスクを形成すること等の処置が必要となるために、製造工程の非効率化や複雑化を招く要因にもなっていた。
【0005】
Al+BCl → AlCl↑+BCl↑ …(式1)
本開示の技術は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、サファイアのエッチングにおいて選択比を高めることの可能なプラズマエッチング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様は、レジストマスクを有したエッチング対象物であるサファイア基板を収容する真空槽と、三塩化ホウ素を含むガスで前記真空槽内にプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記サファイア基板の端面の周囲に配置される包囲部材とを備え、前記包囲部材の表面が樹脂からなることを要旨とする。
【0007】
上述したように、三塩化ホウ素を含むガスから生成されたプラズマでサファイアがエッチングされる際には、レジストマスクの酸化剤となり得る酸素若しくは酸素含有物質が生成される。この際、本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様によれば、エッチング時に生成される上記酸化剤の一部が、包囲部材の表面との反応によって消費されるため、レジストマスクに供給される酸化剤の量が先の消費量分だけ抑えられるようになる。さらに、プラズマ中の粒子が包囲部材の表面に衝突することによって、包囲部材の表面から樹脂がはじき出され、その後、こうした粒子の一部がレジストマスク上に堆積することによって、レジストマスク上に樹脂が供給される。そして、上述した酸化剤の消費とこの樹脂の供給とによってレジストマスクの酸化が抑制される結果、レジストマスクのエッチングレートを低下させることが可能になる。すなわち、エッチングにおけるサファイア基板の選択比を高めることが可能となる。
【0008】
本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様は、前記樹脂がポリイミドであることを要旨とする。
サファイア基板の端面の周囲に配置される包囲部材は、プラズマに曝されることによって高温となる場合がある。この点、本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様によれば、塩素に対する化学的な耐性を有する樹脂のうちで耐熱性に優れたポリイミドにより包囲部材が形成されるため、他の樹脂と比べて包囲部材の熱的な劣化を抑えることが可能である。
【0009】
本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様は、レジストマスクを有したエッチング対象物であるサファイア基板を収容する真空槽と、三塩化ホウ素を含むガスで前記真空槽内にプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記サファイア基板の端面の周囲に配置される包囲部材とを備え、前記包囲部材の表面が、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、酸化イットリウム、及びアルミニウムの少なくとも1つからなることを要旨とする。
【0010】
従来のように包囲部材の材料として酸化アルミニウムや石英が用いられる場合、プラズマ中の粒子の衝突によって包囲部材の表面から酸素が放出されることにより、レジストマスクの酸化剤となる物質が生じる。これに対し、本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様によれば、酸化アルミニウムや石英と比べて、包囲部材の表面から酸素が放出され難くなる。したがって、レジストマスクの酸化が抑制されるため、レジストマスクのエッチングレートを低下させることが可能になる。すなわち、エッチングにおけるサファイア基板の選択比を高めることが可能となる。
【0011】
本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様は、前記包囲部材が、基材と、該包囲部材の表面を構成して前記基材の表面を被覆する被覆部とを有することを要旨とする。
包囲部材には、例えばプラズマから与えられる熱によって変形しない程度の熱的な耐性が求められ、またサファイア基板の端面を囲む形状に加工され得る程度の加工性が求められる。この点、本発明におけるプラズマエッチング装置の一態様によれば、包囲部材を基材と被覆部とから形成しているため、例えば基材を形成する材料と被覆部を形成する材料とを互いに異ならせるなど、その材料の選択肢を広げることが可能となる。そのため、被覆部の形成材料において熱的な耐性や加工性が不足する場合であっても、基材の形成材料における熱的な耐性や加工性によって包囲部材としての要請が満たされ得ることになる。
【0012】
本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様は、前記包囲部材が、一体形成されたものであることを要旨とする。
本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様によれば、包囲部材を基材と被覆部から形成する場合に比べて、包囲部材を少ない工程数で製造することが可能となる。
【0013】
本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様は、前記包囲部材の表面は、アルミニウムからなり、前記プラズマ生成部は、三塩化ホウ素及び塩素を含むガスから前記プラズマを生成することを要旨とする。
【0014】
包囲部材の表面がアルミニウムから形成される場合、包囲部材の表面は、サファイア基板表面と同様に、塩素を含むエッチャントと反応する。本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様によれば、添加ガスとして塩素ガスが加えられることによってプラズマ中の塩素が増加するため、サファイア基板表面と反応する塩素が減少することでサファイア基板のエッチングレートが低下することを抑制することが可能となる。
【0015】
本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様は、複数の前記サファイア基板が載置されるトレイを備え、前記包囲部材は、前記トレイ上のうち前記サファイア基板以外の部分を覆うトレイカバーであることを要旨とする。
【0016】
本開示におけるプラズマエッチング装置の一態様では、トレイカバーは複数のサファイア基板の間を埋めるように配置されているため、例えば外周リングやクランプリングのように1枚の基板の外周部分に円環状に配置される部材に比べて、サファイア基板の表面積に対する部材の表面積が大きくなる。したがって、上述のようなエッチングにおけるサファイア基板の選択比を高める効果をより顕著に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本開示におけるプラズマエッチング装置を具体化した第1実施形態について、その全体構成を真空槽の断面構造とともに示す装置構成図。
【図2】同第1実施形態におけるトレイ及びトレイカバーの斜視構造を示す斜視図。
【図3】同第1実施形態におけるトレイ及びトレイカバーの断面構造を示す断面図。
【図4】同第1実施形態におけるエッチングのメカニズムを示す概念図。
【図5】本開示におけるプラズマエッチング装置を具体化した第2実施形態について、そのエッチングのメカニズムを示す概念図。
【図6】本開示におけるプラズマエッチング装置の変形例について、その断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下、本開示におけるプラズマエッチング装置の第1実施形態について図1〜図4を参照して説明する。まず、プラズマエッチング装置の全体構成について、図1を参照して説明する。なお、本実施形態のプラズマエッチング装置は、誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)を用いて、発光ダイオードの製造工程におけるサファイア基板のエッチングを行うエッチング装置を想定している。
【0019】
図1に示されるように、円筒状の真空槽10の上面における開口部には、石英からなる誘電窓11が、開口部を封止するように取り付けられている。真空槽10内における誘電窓11の下方には、サファイア基板Sが載置されるトレイ20を支持するステージ12が設置されている。トレイ20には、レジストマスクを有した複数のサファイア基板Sが載置され、トレイ20上におけるサファイア基板S以外の部分は、トレイカバー21によって覆われている。そして、これらトレイ20とトレイカバー21とは、クランプ部材13によって、ステージ12上に固定されている。
【0020】
ステージ12には、サファイア基板Sに負のバイアス電圧を印加するバイアス用高周波電源RF1が、バイアス用整合器MB1を介して接続されている。バイアス用高周波電源RF1は、例えば周波数が13.56MHzである高周波電力を出力する。また、真空槽10の底部には、該真空槽10内を所定の圧力に減圧する排気部14が接続されている。排気部14は、例えば、ターボ分子ポンプと、その後段に接続されたドライポンプと、これらポンプの排気速度を調節するバルブとから構成されている。
【0021】
一方、真空槽10の外側には、誘電窓11と互いに向い合うように渦巻き状の誘導アンテナ15が設置されている。誘導アンテナ15には、アンテナ用高周波電源RF2が、アンテナ用整合器MB2を介して接続されている。アンテナ用高周波電源RF2は、例えば周波数が13.56MHzである高周波電力を誘導アンテナ15に供給する。また、真空槽10には、該真空槽10内における誘電窓11の下部に三塩化ホウ素(BCl)ガスを供給する反応ガス供給部16が接続されている。そして、アンテナ用高周波電源RF2が誘導アンテナ15に高周波電力を供給すると、誘電窓11を介して真空槽10内に高周波エネルギーが伝播されることで、三塩化ホウ素ガスからプラズマが生成される。このように生成されたプラズマによって、サファイア基板Sがレジストマスクの形状に応じた所望の形状にエッチングされる。
【0022】
なお、本実施形態のプラズマエッチング装置では、上述した誘電窓11、排気部14、誘導アンテナ15、アンテナ用高周波電源RF2、及び反応ガス供給部16がプラズマ生成部を構成している。
【0023】
次に、上述のトレイ20及びトレイカバー21の構成について、図2,図3を参照して説明する。
図2に示されるように、トレイ20を構成する円板状のトレイ本体20aの上面には、トレイ本体20aよりも小径の円板状をなす5つの載置部20bが突設されている。載置部20bは、その上面にサファイア基板Sが載置される部分であって、載置部20bの直径はサファイア基板Sの直径よりもやや小さく形成されている。これらトレイ本体20a及び載置部20bは、酸化アルミニウム(Al)もしくは石英(SiO)によって一体的に形成されている。
【0024】
一方、トレイカバー21は、トレイ本体20aと同じ直径を有する円板状に形成され、トレイ20の載置部20bが嵌め込まれる5つの嵌入孔22を有している。図3に示されるように、5つの嵌入孔22の各々は、下段円形孔22aと上段円形孔22bとからなる2段の円形孔である。このうち、下段円形孔22aの直径及び高さは、載置部20bの直径d1及び高さh1と等しい。また、上段円形孔22bの直径d2は、サファイア基板Sの直径と等しく、また上段円形孔22bの高さh2は、サファイア基板Sの厚さの1〜2倍程度である。こうしたトレイカバー21を形成する材料は、従来の酸化アルミニウムや石英とは異なる樹脂の一つであるポリイミドである。
【0025】
そして、トレイカバー21の下段円形孔22aにトレイ20の載置部20bが嵌め込まれることによって、トレイカバー21がトレイ20上に固定される。また、トレイカバーの上段円形孔22bとトレイ20の載置部20bの上面とにより形成される凹部内に、サファイア基板Sが載置される。こうして、サファイア基板Sは、その端面の周囲に配置されるトレイカバー21によってトレイ20上に固定されることとなる。そして、トレイカバー21が上記ポリイミドから形成されることによって、レジストマスクのエッチングレートに対するサファイア基板のエッチングレートの比である選択比が高められる。
【0026】
次に、本実施形態のプラズマエッチング装置の作用について、図4を参照して説明する。なお、図4では、説明の便宜上、サファイア基板S上のレジストマスク30の大きさが、サファイア基板Sやトレイカバー21の大きさに対して誇張されている。
【0027】
図4に示されるように、サファイア基板Sのエッチング時には、三塩化ホウ素ガスから生成されたプラズマ中の正イオンのうち塩素を含む正イオンであるエッチャントP1が、負のバイアス電圧が印加されたサファイア基板Sの表面に引き込まれる。エッチャントP1が引き込まれると、レジストマスク30に覆われていないサファイア基板Sの表面では、サファイアとエッチャントとが反応することによって、揮発性のAlCl粒子P2が生成される。また、サファイア基板Sの表面では、酸素もしくは酸素を含むホウ化物等、酸素を含む揮発性の粒子P3が生成され、これによってサファイア基板Sがその厚さ方向にエッチングされる。この際、酸素を含む粒子P3が樹脂の酸化剤としての性質を有するため、粒子P3の一部がレジストマスク30と反応してCOやCOとなる一方で、同様に粒子P3の一部がポリイミドからなるトレイカバー21表面とも反応してCOやCOとなって排気される。
【0028】
すなわち、従来のように、トレイカバー21が酸化アルミニウムや石英から形成されている場合、酸素を含む粒子P3は、トレイカバー21表面と反応することはなく、専らレジストマスク30と反応する。そのため、サファイア基板のエッチングが進行するにつれて、レジストマスク30のエッチングも進行することとなっていた。これに対して、本実施形態では、酸素を含む粒子P3がトレイカバー21表面とも反応するため、トレイカバー21が酸化アルミニウムや石英から形成されている場合と比べて、レジストマスク30と反応する粒子P3を減少させることができる。これにより、レジストマスク30のエッチングが抑制されてレジストマスク30のエッチングレートが低下することとなる。その結果、レジストマスクのエッチングレートに対するサファイア基板のエッチングレートの比である選択比を高めることが可能となる。
【0029】
また、トレイカバー21にはサファイア基板Sと同様に負のバイアス電圧が印加されているため、トレイカバー21の表面には、プラズマ中における正の電荷を帯びた粒子P4が引き込まれる。そして、正の電荷を帯びた粒子P4がトレイカバー21と衝突することによって、ポリイミド粒子P5がトレイカバー21の表面からはじき出され、はじき出されたポリイミド粒子P5が、サファイア基板S上に堆積する。このとき、サファイア基板Sのうちで露出した部分、すなわちエッチングが進行している部分は、レジストマスク30で囲まれている。そのため、エッチングが進行している部分に堆積するポリイミド粒子P5は、レジストマスク30に堆積するポリイミド粒子P5よりも自ずと少なくなる。すなわち、トレイカバー21から放出されたポリイミド粒子P5がレジストマスク30に堆積するため、レジストマスク30の表面には、エッチングの進行中に樹脂であるポリイミドが供給され続けることとなる。したがって、こうした現象からもレジストマスク30のエッチングレートが低下することとなる。その結果、エッチングにおけるサファイア基板Sの選択比をさらに高めることが可能となる。
【0030】
また、複数のサファイア基板Sの間を埋めるようにトレイカバー21が配置されるため、例えばサファイア基板Sの外周を囲う円環状の外周リングがポリイミドで形成される態様に比べて、ポリイミドの表面積が大きくなる。したがって、上述のような作用による効果をより顕著に得ることができる。
【0031】
なお、トレイカバー21の材料としては、ポリイミドに代えて、例えばポリテトラフルオロチレン(テフロン:登録商標)等の他の樹脂を用いてもよい。これによっても、上述のメカニズムと同様のメカニズムによって、エッチングにおけるサファイア基板の選択比を高めることが可能となる。ただし、ポリイミドは耐熱性に優れた樹脂であるため、プラズマに曝されることによって100℃を超える高温となる場合があるトレイカバーの材料に特に適している。
【0032】
[実施例]
以下、上記実施形態の実施例を詳細に説明する。
まず、直径が6インチのサファイア基板の表面に厚さが3μmのレジストマスクを形成してエッチング用のサファイア基板を作成した。次いで、ポリイミドからなるトレイカバーを有するトレイに3つのサファイア基板を載置し、三塩化ホウ素ガスから生成したプラズマによって、これら3つのサファイア基板のエッチングを行った。その後、レジストマスクの厚さとサファイア基板のレジストマスクで覆われていない部分の厚さとを走査型電子顕微鏡を用いて測定して、レジストマスクのエッチングレート(nm/min)とサファイア基板のエッチングレート(nm/min)を算出した。そして、レジストマスクのエッチングレートに対するサファイア基板のエッチングレートの比([サファイア基板のエッチングレート]/[レジストマスクのエッチングレート])である実施例1の選択比を求めた。なお、サファイア基板のエッチングは、以下の条件にて行われた。
【0033】
・三塩化ホウ素ガスの流量 20〜200sccm
・アンテナ用高周波電源の出力 500〜3000W
・バイアス用高周波電源の出力 50〜2000W
・真空槽内の圧力 0.1〜2Pa
また、酸化アルミニウムからなるトレイカバーを有するトレイにエッチング用のサファイア基板を載置し、その他の条件を実施例1と同じくして、比較例1の選択比を求めた。
【0034】
また、石英からなるトレイカバーを有するトレイにエッチング用のサファイア基板を載置し、その他の条件を実施例1と同じくして、比較例2の選択比を求めた。
その結果、比較例1及び比較例2の選択比は約0.4であった。これに対し、実施例1の選択比は、0.9〜1.0であった。すなわち、従来のように酸化アルミニウム製や石英製のトレイカバーを用いた場合、選択比が0.4程度にとどまることに対し、ポリイミド製のトレイカバーを用いた場合には、1に近い選択比が得られることが確認された。
【0035】
以上説明したように、第1実施形態のプラズマエッチング装置によれば、以下に列記する効果が得られるようになる。
(1)サファイア基板Sの端面の周囲に配置される包囲部材としてのトレイカバー21を、樹脂から形成した。これにより、サファイア基板Sのエッチング時に生成される酸化剤の一部が、トレイカバー21の表面との反応によって消費されるため、レジストマスク30に供給される酸化剤の量が先の消費量分だけ抑えられるようになる。さらに、プラズマ中の粒子がトレイカバー21の表面に衝突することによって、トレイカバー21の表面から樹脂がはじき出され、その後、こうした粒子の一部がレジストマスク30上に堆積することによって、レジストマスク30上に樹脂が供給される。そして、上述した酸化剤の消費とこの樹脂の供給とによってレジストマスク30の酸化が抑制される結果、レジストマスク30のエッチングレートを低下させることが可能になる。すなわち、エッチングにおけるサファイア基板Sの選択比を高めることが可能となる。
【0036】
(2)特に、樹脂としてポリイミドを用いた。これにより、特に高い選択比を得ることが可能となる。また、トレイカバー21は、プラズマに曝されることによって100℃を超える高温となる場合があるが、ポリイミドは耐熱性に優れており、こうしたトレイカバー21の材料として特に適している。
【0037】
(3)トレイカバー21を、一体形成されたものとした。これにより、トレイカバー21を少ない工程数で製造することができる。また、トレイカバー21の表面が酸化により消費されていっても、上記(1)の効果を長く維持することが可能であり、ひいてはトレイカバー21を交換する頻度を少なくすることができる。
[第2実施形態]
以下、本開示におけるプラズマエッチング装置を具体化した第2実施形態について、図5を参照して説明する。なお、本実施形態は、上記第1実施形態と比較して、トレイカバーの材質が異なっている。そのため、以下では、こうした相違点を中心に説明する。
【0038】
本実施形態では、トレイカバーを窒化ホウ素(BN)から一体形成している。そして、これにより、エッチングにおけるサファイア基板の選択比を高めている。
続いて、本実施形態のプラズマエッチング装置の作用について、図5を参照して説明する。なお、図5でも、図4と同様に、説明の便宜上、サファイア基板S上のレジストマスク30の大きさが、サファイア基板Sやトレイカバー23の大きさに対して誇張されている。
【0039】
図5に示されるように、サファイア基板Sのエッチング時には、第1実施形態と同様、三塩化ホウ素ガスから生成されたプラズマ中の正イオンのうち塩素を含む正イオンであるエッチャントP1が、負のバイアス電圧が印加されたサファイア基板Sの表面に引き込まれる。エッチャントP1が引き込まれると、レジストマスク30に覆われていないサファイア基板Sの表面では、サファイアとエッチャントとが反応することによって、揮発性のAlCl粒子P2が生成される。また、サファイア基板Sの表面では、酸素もしくは酸素を含むホウ化物等、酸素を含む揮発性の粒子P3が生成される。そして、粒子P3の一部はレジストマスク30と反応し、COやCOとなって排気される。
【0040】
一方、トレイカバー23にもサファイア基板Sと同様に負のバイアス電圧が印加されているため、トレイカバー23の表面には、プラズマ中における正の電荷を帯びた粒子P4が引き込まれる。従来のように、トレイカバーが酸化アルミニウムや石英から形成されている場合、酸化アルミニウムや石英はその構成原素に酸素を含むため、正の電荷を帯びた粒子P4の衝突によって、トレイカバー表面から酸素が放出される。そして、このトレイカバー表面から放出された酸素やその反応物が、上記粒子P3と同様、レジストマスクの酸化剤として働くために、レジストマスク30のエッチングが進行することとなっていた。
【0041】
しかし、本実施形態では、トレイカバー23が窒化ホウ素から形成されているため、正の電荷を帯びた粒子P4が衝突しても、トレイカバー23の表面から酸素が放出されることがない。したがって、トレイカバー23が酸化アルミニウムや石英から形成されている場合と比べて、レジストマスク30を酸化させる物質を減少させることができる。これにより、レジストマスク30のエッチングが抑制されてレジストマスク30のエッチングレートが低下することとなる。その結果、エッチングにおけるサファイア基板Sの選択比を高めることが可能となる。
【0042】
なお、トレイカバー23の材料としては、窒化ホウ素の他に、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)、酸化イットリウム(Y)、及びアルミニウム(Al)を用いることができる。これらの材料を用いた場合にも、上述のメカニズムと同様のメカニズムによって、エッチングにおけるサファイア基板Sの選択比を高めることが可能となる。ちなみに、酸化イットリウムはその構成元素に酸素を含むものの、原子間の結合が強固であるため、酸素が放出され難い性質を有している。
【0043】
[実施例]
以下、上記実施形態の実施例を詳細に説明する。
まず、直径が6インチのサファイア基板の表面に厚さが6μmのレジストマスクを形成してエッチング用のサファイア基板を作成した。次いで、窒化ホウ素からなるトレイカバーを有するトレイに3つのサファイア基板を載置し、三塩化ホウ素ガスから生成したプラズマによって、これら3つのサファイア基板のエッチングを行った。その後、レジストマスクの厚さとサファイア基板のレジストマスクで覆われていない部分の厚さとを走査型電子顕微鏡を用いて測定して、レジストマスクのエッチングレート(nm/min)とサファイア基板のエッチングレート(nm/min)を算出した。そして、レジストマスクのエッチングレートに対するサファイア基板のエッチングレートの比([サファイア基板のエッチングレート]/[レジストマスクのエッチングレート])である実施例2の選択比を求めた。なお、サファイア基板のエッチングは、以下の条件にて行われた。
【0044】
・三塩化ホウ素ガスの流量 20〜200sccm
・アンテナ用高周波電源の出力 500〜3000W
・バイアス用高周波電源の出力 50〜2000W
・真空槽内の圧力 0.1〜2Pa
また、窒化アルミニウムからなるトレイカバーを有するトレイにエッチング用のサファイア基板を載置し、その他の条件を実施例2と同じくして、実施例3の選択比を求めた。
【0045】
また、炭化珪素からなるトレイカバーを有するトレイにエッチング用のサファイア基板を載置し、その他の条件を実施例2と同じくして、実施例4の選択比を求めた。
また、酸化イットリウムからなるトレイカバーを有するトレイにエッチング用のサファイア基板を載置し、その他の条件を実施例2と同じくして、実施例5の選択比を求めた。
【0046】
また、アルミニウムからなるトレイカバーを有するトレイにエッチング用のサファイア基板を載置し、その他の条件を実施例2と同じくして、実施例6の選択比を求めた。
その結果、実施例2の選択比は約0.7であった。また、実施例3の選択比は約0.6、実施例4の選択比は0.5〜0.6、実施例5の選択比は約0.5、実施例6の選択比は約0.6であった。このように、従来のように酸化アルミニウム製や石英製のトレイカバーを用いた場合、すなわち第1実施形態に記載の比較例1及び比較例2の選択比が0.4程度にとどまることに対し、上記実施例2〜6では0.4よりも高い選択比が得られることが確認された。
【0047】
以上説明したように、第2実施形態のプラズマエッチング装置によれば、以下に列記する効果が得られるようになる。
(4)サファイア基板Sの端面の周囲に配置される包囲部材としてのトレイカバー23を、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、酸化イットリウム、及びアルミニウムのいずれか1つから形成した。従来のように酸化アルミニウム製や石英製のトレイカバーが用いられる場合、プラズマ中の粒子の衝突によってトレイカバー23表面から酸素が放出されることにより、レジストマスク30の酸化剤となる物質が生じていた。これに対し、トレイカバー23の材料として上記の材料を用いた場合には、トレイカバー23の表面から酸素が放出され難くなる。したがって、レジストマスク30の酸化が抑制されるため、レジストマスク30のエッチングレートを低下させることができるようになる。すなわち、エッチングにおけるサファイア基板Sの選択比を高めることが可能となる。
【0048】
(5)トレイカバー23を、一体形成されたものとした。これにより、トレイカバー23を少ない工程数で製造することができる。
なお、上記の各実施形態は、例えば以下のような形態にて実施することもできる。
【0049】
・上記実施形態では、トレイカバーが各材料から一体形成されているものとしたが、図6に示されるように、トレイカバー24を、基材24aと基材24aの表面を被覆する被覆部24bとから構成するようにしてもよい。トレイカバー24には、例えばプラズマから与えられる熱によって変形しない程度の熱的な耐性が求められ、またサファイア基板の端面を囲む形状に加工され得る程度の加工性が求められる。この点、トレイカバー24を基材24aと被覆部24bとから形成するようにすれば、その材料の選択肢も広がることとなる。例えば、基材24aを従来と同様に酸化アルミニウムや石英等から形成し、被覆部24bを、樹脂、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、酸化イットリウム、及びアルミニウムのいずれかから形成するようにすれば、従来の材料の利点を生かしつつ上記(1)、もしくは(2)の効果を得ることができる。この場合、被覆部24bは溶射や各種の膜形成方法を用いて形成するようにすればよい。
【0050】
・上記のようにトレイカバー24を基材24aと樹脂からなる被覆部24bとにより形成する場合、トレイの外周部上のトレイカバーよりトレイの中央部上のトレイカバーの方が、被覆部24bの厚さが大きくなるようにするとよい。トレイの中央部上、すなわちトレイカバーのうち複数のサファイア基板で挟まれる部分では、サファイア基板の枚数分だけサファイアのエッチングによって生じる酸素を含む粒子がトレイカバー表面に供給される一方、トレイの外周部上では、少なくともトレイの外側からは酸素を含む粒子が供給されない。したがって、トレイカバー24の被覆部24bは、トレイの中央部上の方が、外周部上よりも酸化によって多く消費される。この点、トレイの中央部上のトレイカバーの被覆部24bの厚さを大きくして樹脂量を多くすることにより、トレイカバー表面における被覆部24bが局所的に消失することを抑制することが可能となり、ひいては、基材24aの露出によるトレイカバーの交換の頻度を少なくすることができる。
【0051】
・上記実施形態では、プラズマを生成するガスとして三塩化ホウ素ガスを用いたが、添加ガスとして、HBr、Cl、SiCl、CH、C、Ar,N、He、Xe、及びHの少なくとも1つを用いるようにしてもよい。こうした添加ガスを用いる場合、反応ガス全体に対する三塩化ホウ素ガスの割合は、60%〜95%にするとサファイア基板のエッチングを進行させる上で好ましい。
【0052】
・一体形成されたトレイカバー23、もしくは基材24aと被覆部24bとからなるトレイカバー24の被覆部24bをアルミニウムから形成する場合には、特に、上記添加ガスとしてClを加えるようにするとよい。トレイカバー表面の材料としてアルミニウムを用いた場合、このトレイカバー表面は、サファイア基板表面と同様に塩素を含むエッチャントと反応する。したがって、添加ガスとしてClを加えてプラズマ中の塩素を増加させることにより、サファイア基板表面と反応する塩素が減少してサファイア基板のエッチングレートが低下することを抑制することができる。
【0053】
・上記実施形態及び変形例では、トレイカバー21,23、もしくはトレイカバー24の被覆部24bを、樹脂、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、酸化イットリウム、及びアルミニウムのいずれか1つの材料から形成するようにしたが、2つ以上の材料を組み合わせて、トレイカバーを部分的に異なる材料からなるものとしてもよい。また、上記材料から形成する部分は、少なくともトレイカバーの表面、すなわちトレイカバーの被覆部の表面であればよい。
【0054】
・トレイ内に載置されるサファイア基板の数は1枚でも複数枚でもよく、その数は任意である。
・包囲部材として、トレイカバーの他に、基板の外周に配置されて基板の位置ずれを抑制する外周リングや、基板の外周部にて基板をステージ上に固定するクランプリング等を採用してもよい。要は、包囲部材は、サファイア基板の端面の周囲に配置される部材であればよい。
【0055】
・上記実施形態ではプラズマエッチング装置として、誘導結合型プラズマを用いて発光ダイオードの製造工程におけるサファイア基板のエッチングを行うエッチング装置を想定したが、プラズマを用いてサファイア基板のエッチングを行うエッチング装置であれば、プラズマの生成方法やサファイア基板の用途はこれに限られない。
【符号の説明】
【0056】
10…真空槽、11…誘電窓、12…ステージ、13…クランプ部材、14…排気部、15…誘導アンテナ、16…反応ガス供給部、20…トレイ、21,23,24…トレイカバー、24a…基材、24b…被覆部、30…レジストマスク、MB1…バイアス用整合器、MB2…アンテナ用整合器、RF1…バイアス用高周波電源、RF2…アンテナ用高周波電源、S…サファイア基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジストマスクを有したエッチング対象物であるサファイア基板を収容する真空槽と、
三塩化ホウ素を含むガスで前記真空槽内にプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記サファイア基板の端面の周囲に配置される包囲部材とを備え、
前記包囲部材の表面が樹脂からなる
プラズマエッチング装置。
【請求項2】
前記樹脂がポリイミドである
請求項1に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項3】
レジストマスクを有したエッチング対象物であるサファイア基板を収容する真空槽と、
三塩化ホウ素を含むガスで前記真空槽内にプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記サファイア基板の端面の周囲に配置される包囲部材とを備え、
前記包囲部材の表面が、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、酸化イットリウム、及びアルミニウムの少なくとも1つからなる
プラズマエッチング装置。
【請求項4】
前記包囲部材が、
基材と、
該包囲部材の表面を構成して前記基材の表面を被覆する被覆部とを有する
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項5】
前記包囲部材が、一体形成されたものである
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項6】
前記包囲部材の表面は、アルミニウムからなり、
前記プラズマ生成部は、三塩化ホウ素及び塩素を含むガスから前記プラズマを生成する
請求項3に記載のプラズマエッチング装置。
【請求項7】
複数の前記サファイア基板が載置されるトレイを備え、
前記包囲部材は、前記トレイ上のうち前記サファイア基板以外の部分を覆うトレイカバーである
請求項1〜6のいずれか一項に記載のプラズマエッチング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−101992(P2013−101992A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243594(P2011−243594)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】