説明

プラズマディスプレイパネルの製造方法

【課題】高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低消費電力のプラズマディスプレイパネルを実現することを目的とする。
【解決手段】本発明のプラズマディスプレイパネルの製造方法は、前面板に蒸着材を蒸着し保護層を形成するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、前記保護層は、前記保護層面におけるX線回折分析において、酸化マグネシウムの結晶方位面(111)のピークが発生する回折角と、当該ピークと同一方位の前記酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在し、前記保護層のカルシウムの濃度は3atom%以上15atom%以下であり、前記蒸着材は、酸化マグネシウムを主成分とし、さらにカルシウムおよびアルミニウムを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示デバイスなどに用いるプラズマディスプレイパネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと呼ぶ)は、基本的には、前面板と背面板とで構成されている。前面板は、フロート法により製造された硼硅酸ナトリウム系ガラスのガラス基板と、ガラス基板の一方の主面上に形成されたストライプ状の透明電極とバス電極とで構成される表示電極と、表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、誘電体層上に形成された酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層とで構成されている。
【0003】
一方、背面板は、ガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状のアドレス電極と、アドレス電極を覆う下地誘電体層と、下地誘電体層上に形成された隔壁と、各隔壁間に形成された赤色、緑色及び青色それぞれに発光する蛍光体層とで構成されている。前面板と背面板とはその電極形成面側を対向させて気密封着され、隔壁によって仕切られた放電空間に放電ガスが所定の圧力で封入されている。
【0004】
このようなPDPにおいて、前面板の誘電体層上に形成される保護層は、アドレス放電を発生させるための初期電子を放出するという重要な役割がある。
【0005】
保護層からの初期電子の放出数を増加させて画像のちらつきを低減するために、例えば、酸化マグネシウム(MgO)の保護層に不純物を添加する例や、酸化マグネシウム(MgO)粒子を酸化マグネシウム(MgO)の保護層上に形成した例が開示されている(例えば、特許文献1など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−260535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高精細化された画像を表示するためには、1フィールドの時間が一定であるにもかかわらず書き込みを行う画素の数が増えるため、サブフィールド中の書き込み期間において、アドレス電極へ印加するパルスの幅を狭くする必要が生じる。しかしながら、電圧パルスの立ち上がりから放電空間内で放電が発生するまでには放電遅れと呼ばれるタイムラグの存在があるため、パルスの幅が狭くなれば書き込み期間内で放電を終了できる確率が低くなってしまう。その結果、点灯不良が生じ、ちらつきといった画質性能の低下という問題も生じてしまう。
【0008】
また、消費電力低減のために放電による発光効率を向上させることを目的として、蛍光体の発光に寄与する放電ガスの一成分であるキセノン(Xe)の放電ガス全体における含有率をあげると、やはり放電電圧が高くなるとともに、放電遅れが大きくなって点灯不良などの画質低下が発生するという問題が生じてしまう。
【0009】
このようにPDPの高精細化や低消費電力化を進めるにあたっては、放電電圧が高くならないようにすることと、さらに、点灯不良を低減して画質を向上させることを、同時に実現させなければならないという課題があった。
【0010】
保護層に不純物を混在させることで電子放出特性を改善しようとする試みが行われている。しかしながら、保護層に不純物を混在させて電子放出特性を改善した場合には、保護層表面に電荷を蓄積させてメモリー機能として使用しようとする際に、電荷が時間とともに減少する減衰率が大きくなってしまうため、これを抑えるための印加電圧を大きくするなどの対策が必要になる。
【0011】
一方、酸化マグネシウム(MgO)の保護層上に酸化マグネシウム(MgO)結晶粒子を形成する例では、放電遅れを小さくして点灯不良を低減することは可能であるが、放電電圧を低減することができないといった課題を有していた。
【0012】
また、保護層は、一般的に酸化マグネシウム(MgO)といった金属酸化物のペレット状固体を材料として、薄膜成膜方法によって形成されるが、成膜時に、材料の密度が低いと、材料の飛散(スプラッシュ)発生の程度に悪影響を及ぼすことが判明した。つまり、ペレット状固体材料の密度低下に従ってスプラッシュ発生数は増大し、スプラッシュ発生数の増大は点灯不良の原因となるため、点灯不良が発生するといった課題を有していた。
【0013】
さらに、保護層の材料となる金属酸化物のペレット状固体材料は、材料中に不純物ガスを持っており、この不純物ガスは成膜中の雰囲気に影響を与え、真空度悪化、成膜中不純物ガスの増大により、点灯不良の原因となる。またこの不純物ガスは成膜装置の真空排気時間の増大や材料脱ガス時間の増大により、成膜装置稼働率悪化の原因となっていた。そのため、材料中に元素を添加するなどして、材料の密度を増加させて、材料中の不純物ガスを減らす試みが行われているが、保護層形成時に、添加元素が材料中の金属酸化物と結合して複合酸化物を形成するなどして、保護層形成時の成膜レートが低下するといった課題があった。
【0014】
本発明はこのような課題に鑑みなされたもので、高輝度の表示性能を備え、かつ低電圧駆動が可能なPDPを実現し、さらに、歩留まり及び生産性が良好なPDPを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明のPDPの製造方法は、前面板に蒸着材を蒸着し保護層を形成するPDPの製造方法であって、前記保護層は、前記保護層面におけるX線回折分析において、酸化マグネシウムの結晶方位面(111)のピークが発生する回折角と、当該ピークと同一方位の前記酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在し、前記保護層のカルシウムの濃度は3atom%以上15atom%以下であり、前記蒸着材は、酸化マグネシウムを主成分とし、さらにカルシウムおよびアルミニウムを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高輝度の表示性能を備えた低電圧駆動が可能なPDPを実現し、さらには、歩留まり及び、生産性が良好なPDPを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態におけるPDPの構造を示す斜視図
【図2】同PDPの前面板の構成を示す断面図
【図3】同PDPの保護層におけるX線回折結果を示す図
【図4】同PDPの保護層である金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、放電維持電圧との関係を示す図
【図5】同PDPの保護層である金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、放電開始電圧との関係を示す図
【図6】保護層の蒸着材の金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、不純物ガス量比の関係を示す図
【図7】保護層の蒸着材の金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、二酸化炭素量比の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態におけるPDPについて図面を用いて説明する。
【0019】
(実施の形態)
図1は本発明の実施の形態におけるPDP1の構造を示す斜視図である。PDP1の基本構造は、一般的な交流面放電型PDPと同様である。図1に示すように、PDP1は前面ガラス基板3などよりなる前面板2と、背面ガラス基板11などよりなる背面板10とが対向して配置され、その外周部をガラスフリットなどからなる封着材によって気密封着されている。封着されたPDP1内部の放電空間16には、キセノン(Xe)とネオン(Ne)などの放電ガスが所定の圧力で封入されている。
【0020】
前面板2の前面ガラス基板3上には、走査電極4及び維持電極5よりなる一対の帯状の表示電極6とブラックストライプ(遮光層)7が互いに平行にそれぞれ複数列配置されている。前面ガラス基板3上には表示電極6と遮光層7とを覆うように電荷を保持してコンデンサとしての働きをする誘電体層8が形成され、さらにその上に保護層9が形成されている。
【0021】
また、背面板10の背面ガラス基板11上には、前面板2の走査電極4及び維持電極5と直交する方向に、複数の帯状のアドレス電極12が互いに平行に配置され、これを下地誘電体層13が被覆している。さらに、アドレス電極12間の下地誘電体層13上には放電空間16を区切る所定の高さの隔壁14が形成されている。隔壁14間の溝ごとに、紫外線によって赤色、緑色及び青色にそれぞれ発光する蛍光体層15が順次塗布して形成されている。走査電極4及び維持電極5とアドレス電極12とが交差する位置に放電空間が形成され、表示電極6方向に並んだ赤色、緑色、青色の蛍光体層15を有する放電空間がカラー表示のための画素になる。
【0022】
図2は、本発明の実施の形態におけるPDP1の前面板2の構成を示す断面図であり、図2は図1と上下反転させて示している。図2に示すように、フロート法などにより製造された前面ガラス基板3に、走査電極4と維持電極5よりなる表示電極6と遮光層7がパターン形成されている。走査電極4と維持電極5はそれぞれインジウムスズ酸化物(ITO)や酸化スズ(SnO2)などからなる透明電極4a、5aと、透明電極4a、5a上に形成された金属バス電極4b、5bとにより構成されている。金属バス電極4b、5bは透明電極4a、5aの長手方向に導電性を付与する目的として用いられ、銀(Ag)材料を主成分とする導電性材料によって形成されている。
【0023】
誘電体層8は、前面ガラス基板3上に形成されたこれらの透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bと遮光層7を覆って設けた第1誘電体層81と、第1誘電体層81上に形成された第2誘電体層82の少なくとも2層構成とし、さらに第2誘電体層82上に保護層9が形成されている。
【0024】
保護層9は酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)からなる金属酸化物にアルミニウムを含有させた材料により形成している。さらに、その保護層9上に酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aが複数個凝集した凝集粒子92を付着形成してもよい。
【0025】
次に、このようなPDP1の製造方法について説明する。まず、前面ガラス基板3上に、走査電極4及び維持電極5と遮光層7とを形成する。走査電極4と維持電極5とを構成する透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bは、フォトリソグラフィ法などを用いてパターニングして形成される。透明電極4a、5aは薄膜プロセスなどを用いて形成され、金属バス電極4b、5bは銀(Ag)材料を含むペーストを所定の温度で焼成して固化している。また、遮光層7も同様に、黒色顔料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や黒色顔料をガラス基板の全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングし、焼成することにより形成される。
【0026】
次に、走査電極4、維持電極5及び遮光層7を覆うように前面ガラス基板3上に誘電体ペーストをダイコート法などにより塗布して誘電体ペースト(誘電体材料)層を形成する。誘電体ペーストを塗布した後、所定の時間放置することによって塗布された誘電体ペースト表面がレベリングされて平坦な表面になる。その後、誘電体ペースト層を焼成固化することにより、走査電極4、維持電極5及び遮光層7を覆う誘電体層8が形成される。なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料、バインダ及び溶剤を含む塗料である。同図では誘電体層8を第1誘電体層81と第2誘電体層82の二層構造としたがこれに限らず単層構造でも良い。
【0027】
次に、誘電体層8上に保護層9を形成する。本発明の実施の形態においては、保護層9を酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)からなる金属酸化物にアルミニウムを含有させ形成している。
【0028】
保護層9は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)を混合し、アルミニウムを含有させたペレット状の固体の材料を用いて薄膜成膜方法によって形成される。薄膜成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の方法を適用できる。一例として、スパッタリング法では1Pa、蒸着法の一例である電子ビーム蒸着法では0.1Paが実際上取り得る圧力の上限と考えられる。
【0029】
また、保護層9の成膜時の雰囲気としては、水分付着や不純物の吸着を防止するために外部と遮断された密閉状態とし、成膜時の雰囲気を調整することにより、所定の電子放出特性を有する金属酸化物よりなる保護層9を形成することができる。
【0030】
次に、保護層9上に付着形成する酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aの凝集粒子92について述べる。これらの結晶粒子92aは、以下に示す気相合成法または前駆体焼成法のいずれかで製造することができる。
【0031】
気相合成法では、不活性ガスが満たされた雰囲気下で純度が99.9%以上のマグネシウム金属材料を加熱し、さらに、雰囲気に酸素を少量導入することによって、マグネシウムを直接酸化させ、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを作製することができる。
【0032】
一方、前駆体焼成法では、以下の方法によって結晶粒子92aを作製することができる。前駆体焼成法では、酸化マグネシウム(MgO)の前駆体を700℃以上の高温で均一に焼成し、これを徐冷して酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを得ることができる。前駆体としては、例えば、マグネシウムアルコキシド(Mg(OR)2)、マグネシウムアセチルアセトン(Mg(acac)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、硝酸マグネシウム(Mg(NO32)、シュウ酸マグネシウム(MgC24)のうちのいずれか1種以上の化合物を選ぶことができる。なお選択した化合物によっては、通常、水和物の形態をとることもあるがこのような水和物を用いてもよい。
【0033】
これらの化合物は、焼成後に得られる酸化マグネシウム(MgO)の純度が99.95%以上、望ましくは99.98%以上になるように調整する。これらの化合物中に、各種アルカリ金属、硼素(B)、硅素(Si)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)などの不純物元素が一定量以上混じっていると、熱処理時に不要な粒子間癒着や焼結を生じ、高結晶性の酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを得にくいためである。このため、不純物元素を除去することなどにより予め前駆体を調整することが必要となる。
【0034】
上記いずれかの方法で得られた酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを、溶媒に分散させ、その分散液をスプレー法やスクリーン印刷法、静電塗布法などによって保護層9の表面に分散散布させる。その後、乾燥・焼成工程を経て溶媒除去を図り、酸化マグネシウム(MgO)の結晶粒子92aを保護層9の表面に定着させることができる。
【0035】
このような一連の工程により前面ガラス基板3上に所定の構成物(走査電極4、維持電極5、遮光層7、誘電体層8、保護層9)が形成されて前面板2が完成する。
【0036】
一方、背面板10は次のようにして形成される。まず、背面ガラス基板11上に、銀(Ag)材料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や、金属膜を全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングする方法などによりアドレス電極12用の構成物となる材料層を形成する。その後、所定の温度で焼成することによりアドレス電極12を形成する。次に、アドレス電極12が形成された背面ガラス基板11上にダイコート法などにより、アドレス電極12を覆うように誘電体ペーストを塗布して誘電体ペースト層を形成する。その後、誘電体ペースト層を焼成することにより下地誘電体層13を形成する。なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料とバインダ及び溶剤を含んだ塗料である。
【0037】
次に、下地誘電体層13上に隔壁材料を含む隔壁形成用ペーストを塗布し、所定の形状にパターニングすることにより隔壁材料層を形成する。その後、所定の温度で焼成することにより隔壁14を形成する。ここで、下地誘電体層13上に塗布した隔壁用ペーストをパターニングする方法としては、フォトリソグラフィ法やサンドブラスト法を用いることができる。そして、隣接する隔壁14間の下地誘電体層13上及び隔壁14の側面に蛍光体材料を含む蛍光体ペーストを塗布し、焼成することにより蛍光体層15が形成される。以上の工程により、背面ガラス基板11上に所定の構成部材を有する背面板10が完成する。
【0038】
所定の構成部材を備えた前面板2と背面板10とを走査電極4とアドレス電極12とが直交するように対向配置し、その周囲をガラスフリットで封着して放電空間16にキセノン(Xe)とネオン(Ne)などを含む放電ガスを封入してPDP1が完成する。
【0039】
次に本発明の実施の形態における保護層9の詳細について説明する。
【0040】
本発明の実施の形態では、保護層9を、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)にアルミニウムを含有させたペレット状固体を原材料として電子ビーム蒸着法で形成した金属酸化物で構成している。さらに、金属酸化物は、保護層9面におけるX線回折分析において、酸化マグネシウム(MgO)のピークが発生する回折角と、そのピークと同一方位の酸化カルシウム(CaO)のピークが発生する回折角との間にピークが存在するとともに、カルシウム(Ca)の濃度を1atm%以上21atm%以下とし、かつ、結晶方位面(111)のピークを有している。
【0041】
図3は、本発明の実施の形態におけるPDP1の保護層9におけるX線回折結果と、酸化マグネシウム(MgO)単体と酸化カルシウム(CaO)単体のX線回折分析の結果を示す図である。
【0042】
図3において、横軸はブラッグの回折角(2θ)であり、縦軸はX線回折波の強度である。回折角の単位は1周を360度とする度で示し、強度は任意単位(arbitrary unit)で示している。また、図3中にはそれぞれの結晶方位面を括弧付けで示している。図3に示すように、結晶方位面(111)を例にとると、酸化カルシウム(CaO)単体の回折角は32.2度にピークを有し、また、酸化マグネシウム(MgO)単体の回折角は36.9度にピークを有していることがわかる。
【0043】
同様に、結晶方位面(200)では、酸化カルシウム(CaO)単体は37.3度にピークを有し、酸化マグネシウム(MgO)単体は42.8度にピークを有していることがわかる。
【0044】
一方、酸化マグネシウム(MgO)や酸化カルシウム(CaO)の単独材料のペレットや、それらの材料を混合したペレットを用いて薄膜成膜方法によって形成した本発明の実施の形態における保護層9のX線回折結果の特徴は、結晶方位面(111)のA点にそのピークを有しているものである。
【0045】
すなわち、本発明の実施の形態である保護層9を構成する金属酸化物は、少なくとも結晶方位面(111)に配向した金属酸化物であり、そのX線回折結果は、酸化カルシウム(CaO)単体と酸化マグネシウム(MgO)単体の回折角の間の回折角36.1度にピークが存在している。
【0046】
また、図3に示すように、保護層9を構成する金属酸化物のX線回折結果が、ピークとしてA点(36.1度)とB点(41.9度)を有していてもよい。すなわち、金属酸化物が結晶方位面(111)と結晶方位面(200)の両方に配向してもよい。その場合には、金属酸化物としては、結晶方位面(111)のピークA点の強度Daが、結晶方位面(200)のピークB点の強度Dbよりも大きくなるようにしている。
【0047】
すなわち、本発明の実施の形態である保護層9を構成する金属酸化物のX線回折結果は、結晶方位面(111)のそれぞれ単体の回折角の間のA点である回折角36.1度にピークが存在し、結晶方位面(200)では、それぞれ単体の回折角の間のB点である回折角41.9度にピークが存在している。
【0048】
したがって、このような特性を有する金属酸化物のエネルギー準位も酸化マグネシウム(MgO)単体と酸化カルシウム(CaO)単体との間に存在する。その結果、保護層9では、酸化マグネシウム(MgO)単体と比較して、良好な二次電子放出特性を発揮する。そのため、特に輝度を高めるために放電ガスとしてのキセノン(Xe)分圧を高めた場合でも、放電電圧を低減して低電圧で高輝度のPDP1を実現することが可能となる。
【0049】
図4は、本発明の実施の形態におけるPDP1において、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)よりなる保護層9である金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、放電維持電圧との関係を示す図である。なお、カルシウム(Ca)の濃度は、金属酸化物中のカルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)成分をXRDのピークシフト幅から見積もり、それらからカルシウム(Ca)の濃度をatm%で表示している。なお、縦軸の放電維持電圧は、保護層9として酸化マグネシウム(MgO)のみで構成した場合の放電維持電圧を基準として示している。放電維持電圧の測定はキセノン(Xe)とネオン(Ne)の混合ガス中(キセノン(Xe)分圧は15%)で実施した。
【0050】
図4より明らかなように、保護層9中である金属酸化物のカルシウム(Ca)の濃度によって、PDP1の放電維持電圧が変化することがわかる。すなわち、カルシウム(Ca)の濃度を増加させると、酸化マグネシウム(MgO)のみで構成した保護層9の場合に比べて、放電維持電圧は低下する傾向となり、所定の濃度を超えると増加する傾向となる。図4より明らかなように、カルシウム(Ca)濃度を1atm%〜21atm%の範囲となるようにすると、酸化マグネシウム(MgO)単体の保護層9を用いたPDPに比べて、放電維持電圧の値を約5%以上低減することができる。
【0051】
一方、カルシウム(Ca)濃度を3atm%〜15atm%の範囲となるようにすると、放電維持電圧をさらに低減することが可能となり、酸化マグネシウム(MgO)単体の保護層9を用いたPDPに比べて、放電維持電圧の値を約10%以上低くすることができる。
【0052】
したがって、例えば、放電ガスとしてキセノン(Xe)とネオン(Ne)の混合ガスを用いた場合に、キセノン(Xe)の分圧を高めて輝度を上昇させ、その際の放電維持電圧の上昇を本発明の実施の形態における保護層9によって低減することができる。その結果、高輝度で低電圧駆動の可能なPDP1を実現することが可能となる。
【0053】
また、図5は、本発明の実施の形態におけるPDP1において、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)よりなる保護層9である金属酸化物中のカルシウム(Ca)の濃度と、放電開始電圧との関係を示す図である。図5より明らかなように、放電開始電圧も放電維持電圧と同様の傾向を示し、カルシウム(Ca)濃度を1atm%〜21atm%の範囲となるようにすると、酸化マグネシウム(MgO)単体の保護層9を用いたPDPに比べて、放電開始電圧の値を約5%以上低減することができる。また、カルシウム(Ca)濃度を3atm%〜15atm%の範囲となるようにすると、放電開始電圧をさらに低減することが可能となり、酸化マグネシウム(MgO)単体の保護層9を用いたPDPに比べて、約10%以上低くすることができる。
【0054】
次に、一般的に保護層形成前の材料の前処理時に、材料中の不純物ガスを取り除くため、大気雰囲気で材料焼成(以下、大気焼成とする)が行われているのに対して、本発明の実施の形態におけるPDP1において、保護層9は、酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)とを材料として電子ビーム蒸着法で形成しているが、保護層9の形成前に、前記材料の大気焼成を行わない。すなわち室温(27℃)以上120℃以下にて維持した状態において、蒸着装置に配置する。その理由について説明する。
【0055】
図6は、本発明の実施の形態におけるPDP1において、カルシウム(Ca)の濃度を変化させた時の、保護層9形成前の酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)からなる材料の、大気焼成前の材料中の不純物ガス量を基準値1とした場合の、大気焼成後の材料中の不純物ガス量比を表したものである。
【0056】
図6に示すように、カルシウム(Ca)が含有されていない場合は、大気焼成前より大気焼成後の方が、材料中の不純物ガス量が少なくなっているのに対し、カルシウム(Ca)の濃度が、1atm%以上になると、不純物ガス量比が1より大きくなり、大気焼成前より大気焼成後の方が、材料中の不純物ガス量が多くなっていることがわかる。
【0057】
その理由として、図7は、本発明の実施の形態におけるPDP1において、カルシウム(Ca)の濃度を変化させた時の、保護層9形成前の酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)からなる材料の、大気焼成前の材料中の二酸化炭素(CO2)量を基準値1とした場合の、大気焼成後の材料中の二酸化炭素(CO2)量比を表したものであるが、図に示すように、カルシウム(Ca)が含有されていない場合は、大気焼成前より大気焼成後の方が、材料中の二酸化炭素(CO2)量が少なくなっているのに対し、カルシウム(Ca)の濃度が、1atm%以上になると、二酸化炭素(CO2)量比が1より大きくなり、大気焼成前より大気焼成後の方が、材料中の二酸化炭素(CO2)量が多くなっていることがわかる。これは、酸化マグネシウム(MgO)と比べ、酸化カルシウム(CaO)は、非常に炭酸化(二酸化炭素と反応し、化学結合する)しやすく、また、大気雰囲気中に二酸化炭素(CO2)が多く存在するためと考えられる。
【0058】
また、前記保護層9形成前の酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)からなる材料中の不純物ガス量が多くなると、PDPの点灯不良に繋がるため、不純物ガス量は少ない方がよい。
【0059】
以上の結果より、本発明の実施の形態におけるPDP1においては、保護層9形成前の酸化マグネシウム(MgO)と酸化カルシウム(CaO)からなる材料の大気焼成を行わなければ、材料焼成後の成膜装置への材料運搬や、材料焼成炉自体が必要無くなるため、作業の危険性や製造コストを下げることができるとともに、材料中の不純物ガス量が少なくなるため、さらに点灯不良などの発生のしない表示性能に優れたPDPを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように本発明は、高画質の表示性能を備え、低消費電力で、かつ歩留まり及び、生産性の良好なPDPを実現する上で有用な発明である。
【符号の説明】
【0061】
1 PDP
2 前面板
3 前面ガラス基板
4 走査電極
4a、5a 透明電極
4b、5b 金属バス電極
5 維持電極
6 表示電極
7 ブラックストライプ(遮光層)
8 誘電体層
9 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面板に蒸着材を蒸着し保護層を形成するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記保護層は、前記保護層面におけるX線回折分析において、酸化マグネシウムの結晶方位面(111)のピークが発生する回折角と、当該ピークと同一方位の前記酸化カルシウムのピークが発生する回折角との間にピークが存在し、
前記保護層のカルシウムの濃度は3atom%以上15atom%以下であり、
前記蒸着材は、酸化マグネシウムを主成分とし、さらにカルシウムおよびアルミニウムを含み、
前記蒸着する工程では蒸着材を120℃以下に維持し蒸着を行う、プラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−101846(P2013−101846A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245132(P2011−245132)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】