説明

プラズマ付着により成長させた基材構造

基材(6)およびプラズマ成長層(6a)を含む基材構造。得られる基材構造(7)の表面は、相関するスケーリング成分により特徴づけられる。該スケーリング成分は、粗さ指数α、成長指数βおよび動的指数zを含み、該成長指数βは0.2未満の値を有し、該動的指数zは6を超える値を有する。そのような基材構造を提供するための方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材およびプラズマ成長層を含む基材構造であって、得られる基材構造の表面が、相関するスケーリング成分により特徴づけられ、該スケーリング成分が、粗さ指数α、成長指数βおよび動的指数zを含む、前記基材構造に関する。さらなる観点において、本発明は、処理空間に基材を提供し、処理空間にガス混合物を提供し、処理空間でプラズマを施用して、基材の表面上に材料の層を付着させることを含む、基材構造の生産方法であって、得られる基材構造の表面が、相関するスケーリング成分により特徴づけられ、該スケーリング成分が、粗さ指数α、成長指数βおよび動的指数zを含む、前記生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな方法を用いて成長させる基材上の薄皮膜は、表面粗さαなど特定の特性パラメーターにより特徴づけることができる。ほかの特性パラメーターは、成長指数βおよび動的指数zである。これら3つのパラメーターは一般に
【0003】
【数1】

【0004】
として相互に関連づけられる。
このようにして形成した成分(基材上の薄皮膜)は、さまざまな用途、例えば、半導体加工、光学的コーティング、プラズマエッチング、パターニング、マイクロマシニング、研磨、トライボロジーなどに、施用することができる。
【0005】
薄皮膜の成長の具体的な詳細、例えば、基材の性質、原材料、付着圧力および温度、ならびに他の多くの因子は、成長指数βの値に寄与しないことが見いだされている。
この概念は普遍性として知られる。普遍性理論によると、成長指数βと粗さ指数αには、表面緩和メカニズムに応じた厳密な関係がある。これら関連する値は、いわゆる普遍性クラスを形成する。
【発明の概要】
【0006】
本発明に従って、先に定義した序文に従った基材構造であって、成長指数βが0.2未満の値を有し、動的指数zが6を超える値を有する、前記基材構造を提供する。薄皮膜層を有する基材構造表面のこの特性決定は、まだわかっていなかった。非常に低い成長指数β(β≦0.2)と高い動的指数z(z≧6)の組み合わせにより、まだわかっていなかった普遍性クラスが得られる。基材構造(薄層を有する基材)のこれらの特性は、さまざまな用途で利用することができる。
【0007】
他の態様において、動的指数zは約9の値、例えば10を有する。これにより、表面粗さのような他の特性に影響を及ぼすことなく、さまざまな厚さの層を有することが可能になる。さらに、さらに他の態様において、粗さ指数αは約0.9の値を有する。
【0008】
さらに他の態様において、成長指数βは0.1以下の値を有する。成長指数の値は0.01ほどであることさえでき、または実に0であることができる。これにより、表面の粗さが付着した薄層の厚さtによる影響を受けない、さらに良好な性質を有する基材構造が得られる。これにより、広い範囲の基材厚さにわたり構造を意図的に設計することが可能になる。
【0009】
さらなる態様において、基材は、第1の高さhを有する突起をその表面上に備えており、層を、第1の高さhより小さい厚さtまで成長させる。突起の垂直壁の小部分には層が加えられないままなので、これにより、‘開いた’表面を有する基材構造をもたらすことができる。
【0010】
他の態様において、基材は、第1の高さhを有する突起をその表面上に備えており、層を、第1の高さhより大きい厚さtまで成長させる。基材構造の特性の結果として、これにより、層は、確実に、基材上に存在しうるあらゆる突起(不純物または粒子など)を密封し、閉じた表面をもたらす。これは、バリヤーの製造時にとりわけ有利である。
【0011】
さらなる態様において、突起はパターンを含む。これにより、例えば、高い選択性を有する膜の製造が可能になる。
さらなる観点において、上記序文に記載したとおりの方法であって、成長指数βが0.2未満の値を有し、動的指数zが6を超える値を有する方法を提供する。さらなる態様において、該方法はさらに、基材構造であって、さまざまなスケーリング成分α、βおよびzが、基材構造のさまざまな態様に関連して上記した範囲の値を有するものをもたらすように、アレンジされている。
【0012】
本発明のさらなる態様において、基材は、第1の高さhを有する突起をその表面上に備えている。一方向での本付着法を用いると、これにより、突起の形が正確に保たれている層を基材上に成長させることが可能になる。
【0013】
さらなる態様では、開口部のない完全な薄層の形成が可能になるように、層の厚さを、処理空間に存在する可能性がある粒子の最大サイズに適応させる。
さらなる態様において、プラズマは、最大100%のデューティーサイクルを有する交流電源を用いて発生させる大気圧グロー放電プラズマである。そのような電源により、非常に均一で安定なプラズマを生じさせることが可能になり、非常に効率的な層の付着が得られる。
【0014】
さらなる態様において、プラズマは、処理空間に6%〜21%の酸素濃度を含む状態で発生させる大気圧グロー放電プラズマである。
さらに他の観点において、本発明は、基材付着装置であって、
少なくとも2つの電極の間に形成される処理空間、
該少なくとも2つの電極に接続されている電源、ここにおいて、該電源は、処理空間においてプラズマを発生させるように配置されている、
処理空間にガス混合物を提供するためのガス供給源、
を含む前記装置に関し、
ここにおいて、該表面付着装置は、上記方法態様のいずれか一つに従った方法を実行するように配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に従った基材構造の代表的態様の横断面図を示す。
【図2】図2は、本発明の態様に従った基材付着装置の略図を示す。
【図3】図3は、基材表面のいくつかの特性パラメーターを表すグラフを示す。
【図4】図4は、本発明に従った基材構造のいくつかの代表的態様の測定rms粗さのグラフを示す。
【図5】図5は、ベクトルrにより横方向に分離した表面高さの自己相関関数のグラフを示す。
【図6a】図6aは、本発明に従った基材構造の他の代表的態様の横断面図を示す。
【図6b】図6bは、本発明に従った基材構造の他の代表的態様の横断面図を示す。
【図7a】HMDSOを前駆体として用いた本発明の基材構造のさまざまな態様に関する高さ−高さ相関関数を表すグラフを示す。
【図7b】TEOSを前駆体として用いた本発明の基材構造のさまざまな態様に関する高さ−高さ相関関数を表すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を、いくつかの代表的態様を用い、添付図面を参照して、より詳細に以下で論じる。
本発明の態様は、基材フィルム6上での層付着法であって、基材付着装置10の処理空間において大気圧グロー放電プラズマを用いて基材6上に薄皮膜層6aを付着させて、図1の横断面に示すような基材構造7を得る方法に関する。さらに、この方法を用いて得られる基材構造7(層または薄皮膜を備える基材)は、基材構造7の特有の表面特性により特徴づけられる。これら特有の表面特性により、基材構造7は、いくつかの半製品の生産に非常に適したものになる。例えば、ポリマーフィルムを基材6として用いることができ、その上にSiOの層6aを付着させて、基材構造7を、改善された透湿度(WVTR)または酸素透過度(OTR)などの特有の特徴を有するフォイルまたはフィルムの形で得ることができる。その後、これらの半製品を、液晶ディスプレー画面、光電池などの製造に用いることができる。
【0017】
図2は、本発明に従った基材構造7を得ることができるプラズマ処理装置10の略図を示す。包囲物1内の処理空間であることができる処理空間5、または開いた構造を有する処理空間5は、2つの相対する電極2、3を含む。基材6または2つの基材6は、例えば、平坦なシートの形(図2に示す固定処理)か、移動ウェブの形で、処理空間5において処理することができる。
【0018】
処理空間5において、反応性ガスおよび前駆体を含むガスの混合物を、ガス供給機器8を用いて導入する。本発明の製品を作製するためには、反応性ガスとして酸素を、処理空間において約5%より多く(例えば、6%、10%、15%)最大21%の範囲に制御する必要があることが観察された。
【0019】
ガス供給機器8は、当業者に公知のように、貯蔵、供給および混合用の構成部分を備えていることができる。目的は、処理空間5において、前駆体を、基材6上に薄層6aとして付着させる化合物または化学元素に分解することである。
【0020】
プラズマ処理装置10において、電極2、3はプラズマ制御ユニット4に接続されており、該ユニットは、とりわけ電極2、3に電力を供給する、すなわち、電源として機能する。処理空間5でのプラズマ放電は、最大100%のデューティーサイクルであっても大気圧において非常に均一なプラズマ放電が持続されるように、特別な電気回路により制御されている。電極2、3は両方とも、平坦に方向付けられた同じ配列を有することができ(図2に示すように)、または両方ともロール電極であることができる。互いに相対するロール電極2と平坦または円筒形の弧の形状をした電極3を用いて、異なる配列を施用することもできる。ロール電極2、3は、例えば、取り付けシャフトまたはベアリングを用いるなどして操作中の回転が可能になるように取り付けられている円筒形状電極として実現される。ロール電極2、3は、自由に回転させることができ、または、例えば周知の制御装置および駆動ユニットを用いて特定の角速度で駆動させることができる。電極2、3が両方とも誘電体バリヤー層を備えていることができ、または、基材6が誘電体バリヤー層として機能することができる。
【0021】
薄皮膜の形態学は、さまざまな成分および製品を生産するために日々改良されている材料の探索において、十分かつ大規模に調査されてきた。M.PelliconeおよびToh−Ming Luによる書籍‘Evolution of Thin Film Morphology−Modeling and Simulations’,Springer Verlag,2008には、基材6上に薄皮膜6aとして成長させた表面などの表面特性に関する理論およびモデルが記載されている。より具体的には、薄皮膜成長中の形態の漸進的変化が広く論じられている。
【0022】
今回、大気圧グロー放電プラズマを用いて基材6上に薄皮膜層6aを生産すると(例えば、本明細書中で参考として援用する出願人の特許出願WO2009/104957号に記載されているように)、意外にも、今のところまだ他の付着技術では観察されたことのない表面パラメーターを有する基材構造7を場合によってはもたらすことができることを見いだした。特許出願WO2009/104957号には、パラメーターg(間隙距離)およびd(全誘電体距離)を特定の範囲内に制御してAPGプラズマ装置を用いて基材6上に薄皮膜層6aをもたらす例が開示されていることに触れておく。以下に記載する本発明の態様に関し論じているようにして得た基材のパラメーターα、βおよびzの特性決定については開示されていない。WO2009/104957号に記載されている技術を用いると、本発明で特許請求するようなパラメーターβおよびzの範囲内外にある基材構造7を得ることができる。
【0023】
大気圧グロー放電付着法を用いて得られる基材構造7の成長メカニズムを調査するために、処理空間5においてさまざまな酸素濃度下で、対照ポリマーフィルム6、いわゆるAPS−PENまたはPET(Q65FA)の上に、さまざまな厚さを有する数多くの薄皮膜6aを付着させた。厚さは、移動ウェブ6のライン速度を変化させることにより変動させた。PEN−ポリマーフィルム6に、HMDSOを前駆体として用いて付着させた。同様の実験を、前駆体としてTEOSおよびPET(Q65FA)ポリマーフィルム6を用いて行った。ポリマーフィルム6に、HMDSOを前駆体として用いて、厚さ19、24、99、142および310nmのSiO層6aを付着させ(図7a参照)、同様に、前駆体としてTEOSおよびQ65FAポリマーフィルム6を用い、該フィルム上に薄皮膜6aを、9、16、41および54nmのSiOの厚さで付着させた(図7b参照)。
【0024】
つぎに、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、裸のポリマーフィルム6および一連のSiO皮膜6aの表面粗さについて特性決定した。表面の特性決定を2×2ミクロン規模で行って、サブミクロンレベルでの粗さを調査した。
【0025】
Springer Series in Material scienceで出版されているMatthew PelliccioneおよびToh−Ming Luによる“Evolution of Thin Film Morphology Modeling and Simulations”に記載されているような表面粗さの一般的スケーリング理論に基づき、表面の特性を決定した。これに加えて、オープンソース・ソフトウェアの“Gwyddion”を用いて、表面の統計値の特定の計算を実施した。
【0026】
実験的に、以下に詳細に記載するように、薄皮膜6aおよび裸の基材6からの異なる表面の統計値から、3つのスケーリング指数α、βおよびzを測定することができる。
図3に、代表的表面側面の略図を、関連するパラメータλ(表面ピークの波長)、ξ(ピークの横方向の相関長)およびw(界面の幅)とともに示す。
【0027】
平均高さh(t)は、
【0028】
【数2】

【0029】
[式中、xは、図3の表面側面に示すように横方向の寸法であり、tは薄層6aの厚さである]により定義される。界面の幅wはRMS粗さとして定義される:
【0030】
【数3】

【0031】
一般に、界面の幅は、
【0032】
【数4】

【0033】
[式中、βは成長指数である]に従った薄層6aの厚さtの関数である。
皮膜厚tの関数としてのRMS粗さw(t)の解析は、皮膜厚tの関数としての表面粗さの成長がないことを示している。RMS粗さw(t)と皮膜厚tをlog−logプロットとしてプロットすることにより、適合度の勾配は直接的に成長指数βをもたらす。図4に示すプロットでわかるように、代表的な基材構造7(処理空間5においてHMDSOおよび21%の酸素濃度を用いたAPS−PEN上での付着の場合)では、成長指数βは約ゼロ(β=0)である。これは、基材構造7の薄層6aの厚さtが増大したときに、表面粗さが増大しないことを意味する。このことはさまざまな用途で利用することができ、表面粗さをほぼ同じに保ちつつ、基材構造7の薄層6aの厚さを変動させて他の要件を満たすことができる。例えば、バリヤーの機能により最小または最大厚さに対する要件が課せられうるバリヤー基材を、基材構造7のような形で製造することができる。あるいは、選択率の高い膜として働く基材構造7をもたらすことができ、これに関しても、全体的厚さに関し要件が存在することができる。
【0034】
横方向での相関は、自己相関関数(ACF)により特徴づけることができる。上記Pelliccione et al.による書籍の第2章‘Surface Statistics’も参照。ACFは、ベクターrにより横方向に分離した表面高さの相関を測定する。
【0035】
【数5】

【0036】
裸のポリマー表面6ならびに19および140nmのSiOの薄層皮膜6aを有する基材構造7から、自己相関関数(ACF)を決定した。結果を図5のプロットに示す。横方向の相関関数(LCF)(同様にPelliccione et alによる書籍の第2章参照)は、ACFの1/e減少により定義される。1/eでのxの対応値は、値ξ(ピークの横方向の相関長さ)である:
【0037】
【数6】

【0038】
[式中、zは動的指数である]。図5でわかるように、ξの値は薄層6aの厚さtに伴いほとんど変化せず、これは、zの値が大きいことを示している。HMDSOを前駆体として用いて調製した皮膜の全セットの解析(図7a参照)は、6を超える値(すなわち、6.4または実に9.4)を導くことができ、したがって、約9のzの値が達成可能であることを示している。TEOSを前駆体として用いて調製した皮膜の全セットの解析(図7b参照)は、8を超えるzの値を導くことができることを示している。
【0039】
そのように高い値の動的指数zを有する基材構造7は、多くの用途に利用することができる重要な特性を示す。図6aおよび6bは、上記のように付着させた薄皮膜6aを有する基材構造7の2例を横断面の略図で表している。どちらの例も、基材6は、基材6の表面上方に高さhで伸びているピーク11を備えている。そのようなピーク11が表面上に存在する場合、動的因子zは高く(先に示したように約10程度)、薄層6aは基材6の表面上で成長し、ピーク11の形状は層6aの厚さtにほとんど依存しないで維持される。例えば、基材6の表面が、幅l(図6aの横断面図に示すように)を有する長方形の突起の形にあるピーク11を備え、厚さtを有する薄層6aを付着させる場合、形状は維持される。突起11の高さh1が厚さtより大きい場合、これは層6aに開口部を生じさせ、この効果は、例えば、明確な細孔(開口部)サイズを有する膜、フィルターなどの製造に利用することができる。
【0040】
また、突起11の高さhが付着厚さtより小さい場合、薄層6aの表面は閉じたものになるが、薄層6aの表面には全く同じ突起形状が生じる(図6bに図示するように)。この効果は、例えば、基材構造7の表面に明確なパターンが必要な用途、例えば液晶ディスプレー画面用のフォイルに、有利に利用することができる。
【0041】
第3のスケーリング因子パラメーターαは、以下のようにして測定値から導くことができる。高さ−高さ相関関数(HHCF)は以下のように定義される
【0042】
【数7】

【0043】
自己アフィン表面(Pelliccione et al.による書籍の第3章参照)の場合、高さの側面を以下のように表すことができる:
【0044】
【数8】

【0045】
rが小さい場合、以下の方程式を導くことができる
【0046】
【数9】

【0047】
その結果、高さ−高さ相関関数は以下のように挙動するということになる:
【0048】
【数10】

【0049】
この挙動は、図7aに示すように、上記のような基材構造7のさまざまな試料に関するグラフのプロットでも明らかである。高さ−高さ相関関数からαの値を導くことができる。上記のようにHMDSOを前駆体として用いた代表的な基材構造7の場合(図7a)、αの値は約0.9で、薄皮膜層6aの厚さtにあまり依存しないことがわかる。上記のようにTEOSを前駆体として用いた代表的な基材構造7の場合(図7b)、αの値は約0.83で、同様にこの値も薄皮膜層6aの厚さtにあまり依存しないことがわかる。
【0050】
動的スケーリング下でのスケーリング指数間の周知の関係は、z=α/βと定義される。したがって、実験の基材構造7から再び始める(resume)ために、スケーリングパラメーターを以下のように定義することができる基材構造7がもたらされることを見いだした:HMDSO成長層6aではαは約0.9、β<0.1、zは約9、TEOS成長層6aではαは約0.83、β<0.1、zは約8。
【0051】
普遍性理論によれば、表面緩和メカニズムに従って、成長指数βと粗さ指数αの間には厳密な関係が存在する。これら関連する値は、いわゆる普遍性クラスを形成する。以下の表はPelliccione et al.による書籍からの複写であり、いくつかの異なる普遍性クラスが挙げられている。
【0052】
【表1】

【0053】
スケーリングパラメーターとしてそれぞれαは約0.9、β<0.1、zは約9ならびにαは約0.83、β<0.1およびzは約8を有する上記APG−CVDフィルム7は、公知の普遍性クラスのいずれにも該当しない。
【0054】
成長指数β<0.2および動的指数z>6である他の態様も、この今のところわかっていない普遍性クラスに該当する。好都合な特性を示す他の例は、成長指数β<0.1、例えばβ<0.01である基材構造7に関連する。他の例としては、限定されるものではないが、動的指数zが9または実に10の値を有する基材構造7が挙げられる。
【0055】
動的指数の値が非常に高い(z≧6)上記のような一方向での皮膜付着は、基材6が非常に平滑で、粒子または特徴を含有しない場合に、例えば超バリヤーフィルムの形で基材構造7を得るための付着プロセスに利用することができる。さらに、一方向での皮膜付着は、選択性の高い膜として働く基材構造7を得るために利用することもできる。本基材構造7の態様のさらに他の用途は、図6aに示す突起11のようなフォトレジストパターンを含有する基材6上での皮膜付着による無機層のパターニングに見いだすことができる。例えば、図6aの高さh1がフォトレジストパターンを含むと仮定する。その後、パターニングされた基材6の上面上に無機皮膜6aを一方向で付着させることにより、基底基材6およびフォトレジストパターン11上に厚さtの皮膜6aの成長がもたらされ、フォトレジストの側面は覆われずに残る。フォトレジストを溶解すると、フォトレジストパターン11の上面上の部分の皮膜6aが取り除かれ、基材6上に平滑で正角のパターニングされた無機皮膜6aがもたらされる。
【0056】
この例示的説明に用いている基材6は、厚さが少なくとも2つの相対する電極2、3の間の間隙距離gより小さく、20μm〜800μm、例えば50μmまたは100μmまたは200μmであることができ、以下から選択することができる:SiOウェハ、ガラスセラミックス、プラスチックなど。この方法および装置により、化合物または化学元素の層を、比較的低いTgを有する基材上に付着させることができる。これは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、トリアセチルセルロース、PEN、PET、ポリカーボネート(PC)などのような一般的なプラスチックにも、付着層を提供することができることを意味する。選ぶことができる他の基材6、7は、例えば、ETFEもしくはPTFE(フッ素化ポリマーの群から)などの紫外線安定性ポリマーフィルムまたはシリコーンポリマーフォイルである。これらのポリマーは、耐衝撃性を改善するために、ガラス繊維によりさらに強化することもできる。
【0057】
本発明に従った付着を備える基材は、ウェハ製造など幅広い用途で用いることができ、プラスチック用バリヤーや、断路器上の導電層が必要とされる用途などのためのバリヤーとして、用いることができる。本発明の態様は、例えばOLEDデバイスでの施用に適した性質を有する基材を生産するために、あるいは、より一般的に、フィルムまたはフォイルの形にあり、水および/または酸素による劣化から保護するのに使用可能で、平滑な性質を有する基材、例えば、軟質光電池の分野でのバリヤーフィルムに、好都合に用いることができる。
【0058】
一般に、本態様の基材構造7を提供するために施用されるガス混合物は、反応性ガスおよび前駆体を包含する。酸素が反応性ガスとして多くの利点を有するが、例えば、水素、二酸化炭素、アンモニア、窒素酸化物などのような他の反応性ガスも用いてもよい。
【0059】
グロー放電プラズマの形成は、電極2、3に接続されたプラズマ制御ユニット4を用いて変位電流を制御して(動的整合)、処理空間5において基材表面の均一な活性化をもたらすことにより、促進することができる。プラズマ制御ユニット4は、例えば、本明細書中で参考として援用する出願人の係属中の国際特許出願PCT/NL2006/050209号および欧州特許出願EP−A−1381257号、EP−A−1626613号に記載されているように、電源および関連する制御電気回路を含む。
【0060】
さらに、付着は、本明細書中で参考として援用する出願人の国際公開WO2008/147184号に記載されているように、加熱した基材を用いることにより促進することができる。すべての例示的実施例は、ポリマー6基材の温度を90℃にして調製した。
【0061】
本方法では、前駆体を以下から選択することができる(しかし、限定されるものではない):W(CO)、Ni(CO)、Mo(CO)、Co(CO)、Rh(CO)12、Re(CO)10、Cr(CO)、またはRu(CO)12、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン(BDMADMS)、タンタルエトキシド(Ta(OC)、テトラジメチルアミノチタン(またはTDMAT)、SiH、CH、BまたはBCl、WF、TiCl、GeH、GeSi、(GeHSiH、(GeHSiH、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタンシロキサン、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、i−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アミノメチルトリメチルシラン、ジメチルジメチルアミノシラン、ジメチルアミノトリメチルシラン、アリルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノジメチルシラン、1−トリメチルシリルピロール、1−トリメチルシリルピロリジン、イソプロピルアミノメチルトリメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、アニリノトリメチルシラン、2−ピペリジノエチルトリメチルシラン、3−ブチルアミノプロピルトリメチルシラン、3−ピペリジノプロピルトリメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン、1−トリメチルシリルイミダゾール、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ブチルアミノ)ジメチルシラン、2−アミノエチルアミノメチルジメチルフェニルシラン、3−(4−メチルピペラジノプロピル)トリメチルシラン、ジメチルフェニルピペラジノメチルシラン、ブチルジメチル−3−ピペラジノプロピルシラン、ジアニリノジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(クロロメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ジブチルスズジアセテート、アルミニウムイソプロポキシド、トリス(2,4−ペンタジオナト)アルミニウム、ジブチルジエトキシスズ、トリス(2,4−ペンタンジオナト)ブチルスズ、テトラエトキシスズ、メチルトリエトキシスズ、ジエチルジエトキシスズ、トリイソプロピルエトキシスズ、エチルエトキシスズ、メチルメトキシスズ、イソプロピルイソプロポキシスズ、テトラブトキシスズ、ジエトキシスズ、ジメトキシスズ、ジイソプロポキシスズ、ジブトキシスズ、ジブチリルオキシスズ、ジエチルスズ、テトラブチルスズ、ビス(2,4−ペンタンジオナト)スズ、アセトアセトナトエチルスズ、(2,4−ペンタンジオナト)エトキシスズ、(2,4−ペンタンジオナト)ジメチルスズ、ジアセトメチルアセタトスズ、ジアセトキシスズ、ジブトキシジアセトキシスズ、ジアセトアセトナトジアセトキシスズ、水素化スズ、二塩化スズ、四塩化スズ、トリエトキシチタン、トリメトキシチタン、トリイソプロポキシチタン、トリブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、メチルジメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、メチルトリプロポキシチタン、トリエチルチタン、トリイソプロピルチタン、トリブチルチタン、テトラエチルチタン、テトライソプロピルチタン、テトラブチルチタン、テトラジメチルアミノチタン、ジ(2,4−ペンタンジオナト)ジメチルチタン、トリ(2,4−ペンタンジオナト)エチルチタン、トリス(2,4−ペンタンジオナト)チタン、トリス(アセトメチルアセタト)チタン、トリアセトキシチタン、ジプロポキシプロピオニルオキシチタン、ジブチリルオキシチタン、水素化一チタン、水素化二チタン、トリクロロチタン、テトラクロロチタン、テトラエチルシラン、テトラメチルシラン、テトライソプロピルシラン、テトラブチルシラン、テトライソプロポキシシラン、ジ(2,4−ペンタンジオナト)ジエチルシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、四水素化シラン、六水素化ジシラン、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、イソプロポキシアルミニウム、トリス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル、ビス(2,4−ペンタンジオナト)マンガン、イソプロポキシホウ素、トリ−n−ブトキシアンチモン、トリ−n−ブチルアンチモン、ジ−n−ブチルビス(2,4−ペンタンジオナト)スズ、ジ−n−ブチルジアセトキシスズ、ジ−t−ブチルジアセトキシスズ、テトライソプロポキシスズ、ジ(2,4−ペンタンジオン酸)亜鉛、およびそれらの組み合わせ。さらに、例えば欧州出願公開EP−A−1351321号またはEP−A−1371752号に記載されているような前駆体を用いることができる。一般に、前駆体は、全ガス組成の2〜500ppm、例えば約50ppmの濃度で用いられる。
【実施例】
【0062】
デューティーサイクル100%で150kHzの励起エネルギーおよび表面温度90℃の熱制御回転電極2、3を用いて、いくつかの基材6(APS−PEN/PET Q65FA)を処理した(幅17.8cmおよび厚さ100μm)。電極2、3に供給した電力は500Wである。
【0063】
処理空間中のガス組成物は、窒素および酸素およびHMDSO(1000mg/hr)を含んでいた。処理空間中の酸素濃度を変動させた。
【0064】
【表2】

【符号の説明】
【0065】
1 包囲物
2 電極
3 電極
4 プラズマ制御ユニット
5 処理空間
6 基材
6a 薄皮膜層
7 基材構造
8 ガス供給機器
10 基材付着装置
11 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(6)およびプラズマ成長層(6a)を含む基材構造であって、得られる基材構造(7)の表面が、相関するスケーリング成分により特徴づけられ、該スケーリング成分が、粗さ指数α、成長指数βおよび動的指数zを含み、該成長指数βが0.2未満の値を有し、該動的指数zが6を超える値を有する、前記基材構造。
【請求項2】
動的指数zが約9の値を有する、請求項1に記載の基材構造。
【請求項3】
粗さ指数αが約0.9の値を有する、請求項1または2に記載の基材構造。
【請求項4】
成長指数βが0.1以下の値を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基材構造。
【請求項5】
基材(6)が、第1の高さhを有する突起(11)をその表面上に備えており、層(6a)を、第1の高さhより小さい厚さtまで成長させる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基材構造。
【請求項6】
基材(6)が、第1の高さhを有する突起(11)をその表面上に備えており、層(6a)を、第1の高さhより大きい厚さtまで成長させる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基材構造。
【請求項7】
突起(11)がパターンを含む、請求項5または6に記載の基材構造。
【請求項8】
処理空間(5)に基材(6)を提供し、処理空間(5)にガス混合物を提供し、処理空間(5)でプラズマを施用して、基材(6)の表面上に材料の層(6a)を付着させることを含む、基材構造(7)の生産方法であって、得られる基材構造(7)の表面が、相関するスケーリング成分により特徴づけられ、該スケーリング成分が、粗さ指数α、成長指数βおよび動的指数zを含み、該成長指数βが0.2未満の値を有し、該動的指数zが6を超える値を有する、前記生産方法。
【請求項9】
動的指数zが約9の値を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
粗さ指数αが約0.9の値を有する、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
成長指数βが0.1未満の値を有する、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
基材(6)が、第1の高さhを有する突起(11)をその表面上に備えている、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
層の厚さ(6a)を、処理空間(5)に存在する可能性がある粒子の最大サイズに適応させる、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
プラズマが、最大100%のデューティーサイクルを有する交流電源(4)を用いて発生させる大気圧グロー放電プラズマである、請求項8〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
以下を含む基材付着装置:
少なくとも2つの電極(2、3)の間に形成されるの処理空間(5)、
該少なくとも2つの電極(2、3)に接続されている電源(4)、ここにおいて、該電源は、処理空間(5)においてプラズマを発生させるように配置されている、
処理空間(5)にガス混合物を提供するためのガス供給源(8)、
ここにおいて、該表面付着装置(10)は、請求項8〜14のいずれか一項に記載の方法を実行するように配置されている。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7b】
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【図7a】
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【公表番号】特表2012−529765(P2012−529765A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514535(P2012−514535)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050856
【国際公開番号】WO2010/142972
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(509077761)フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ (25)
【Fターム(参考)】