説明

プラズマ光源

【課題】極端紫外光を放射するプラズマを生成するための理想的な面状放電を発生させることが可能なプラズマ光源を提供する。
【解決手段】プラズマ光源であって、互いに対向配置され、極端紫外光を放射するプラズマを発生すると共に前記プラズマを閉じ込める一対の同軸状電極10と、各同軸状電極10に対して極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置30とを備え、各同軸状電極10は、単一の軸線Z−Z上に延びる棒状の中心電極12と、中心電極12の中心軸Zに対して軸対称な面上に設けられた複数の外部電極14と、中心電極12及び各外部電極14の間を絶縁する絶縁体16とを有し、中心電極12と各外部電極14との間隔Gは、相手の同軸状電極10に面する側からその反対側に向かうに連れて増加している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極端紫外光を生成するプラズマ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
プロセスルールを決定する一要因であるフォトリソグラフィは、半導体回路の微細化を進める上で極めて重要な技術である。現在、ArFエキシマレーザー(波長193nm)と液浸技術を組み合わせることで45nm程度のプロセスルールが得られているが、更なる微細化に対応するためには更に波長の短い光が必要である。このような状況の中、上記レーザー光よりも短い光を生成する次世代のフォトリソグラフィ用光源として、極端紫外(EUV)光源(軟X線源とも称される)が最も有力視されている。
【0003】
極端紫外光源による光の生成方式として、高エネルギー密度プラズマを利用したものがある。この方式では、プラズマ光源において高温プラズマを生成し、その輻射光として放射される極端紫外光を露光に用いる。高温プラズマは主に、パルスレーザーの照射を用いるレーザー生成プラズマ(LPP:Laser Produced Plasma)方式、又はパルス放電を用いる放電プラズマ(DPP:Discharge Produced Plasma)方式によって生成される。なお、上記方式の何れにおいても、生成される光はパルス光である。
【0004】
特許文献1は、本願の発明者によって創案されたプラズマ光源及びプラズマ光発生方法を開示している。同文献のプラズマ光源は、対称面に対して対向配置された一対の同軸状電極を備えている。各同軸状電極は、中心電極と、ガイド電極と、絶縁部材とから構成され、両者の同軸状電極の中心軸が同一線上に位置している。ガイド電極は中心電極の周りを囲む円筒電極であり、ガイド電極と中心電極とによって同軸構造が形成される。絶縁部材は、中心電極とガイド電極の間で、且つ対称面から離れた場所に位置し、中心電極及びガイド電極の位置を規定すると共に、両者を支持している。絶縁部材の表面には後述のプラズマ媒体になるLiなどの金属が蒸着されている。
【0005】
一対の同軸状電極には、互いに極性を反転させた高電圧パルスを印加する。この高電圧パルスの印加によって、各同軸状電極の中心電極とガイド電極の間には面状の放電電流(面状放電)が発生する。面状放電は、自己磁場による力を受け、対称面に向かって移動する。さらに、各面状放電が各同軸状電極の先端に達すると、2つの面状放電間に挟まれたプラズマ媒体が高密度且つ高温になり、2つの中心電極の間に単一のプラズマが発生する。
【0006】
一方、対向する一対の中心電極のそれぞれに印加された電圧の極性は互いに逆である。同様に、対向する一対のガイド電極のそれぞれに印加された電圧の極性も互いに逆である。従って、各同軸状電極における中心電極とガイド電極の間の面状放電は、一対の中心電極の間の放電と、一対のガイド電極の間の放電とに置き換えられる。置き換えられた後の放電は、各同軸状電極の中心軸に沿った中空で管状の放電(管状放電)に変わる。
【0007】
管状放電が生成されると、中心電極間に発生したプラズマを閉じ込める磁場(磁気ビン)が形成される。磁気ビン内のプラズマはZピンチされる。即ち、磁気ビン内のプラズマは、自己磁場によって各同軸状電極に共通の中心軸に向けて圧縮される。
【0008】
一方、各同軸状電極には図示しない電圧印加装置が接続されており、この電圧印加装置から、生成されたプラズマの発光エネルギーに相当するエネルギーが供給されている。従って、プラズマから放射される極端紫外光を長時間(μsecオーダーで)安定して得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−147231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記プラズマ光源を露光装置の光源として用いた場合、その光学系の仕様によってプラズマのサイズ(即ち、極端紫外光の発光サイズ)が制限される。この制限下では、中心電極の側面とガイド電極の内面との間隔が2.5mm程度になるため、放電が発生しやすくなる反面、極端紫外光の発生に寄与しない余分なプラズマが発生する可能性がある。余分なプラズマが発生すると、供給された放電電流の一部がこのプラズマに流れてしまう。そのため、2つの同軸状電極の中間に発生した極端紫外光の強度が低下する場合がある。
【0011】
このような懸念を鑑み、本発明は、極端紫外光を放射するプラズマを生成するための理想的な面状放電を発生させることが可能なプラズマ光源の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様はプラズマ光源であって、互いに対向配置され、極端紫外光を放射するプラズマを発生すると共に前記プラズマを閉じ込める一対の同軸状電極と、各前記同軸状電極に対して極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置とを備え、各前記同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、前記中心電極の中心軸に対して軸対称な面上に設けられた複数の外部電極と、前記中心電極及び各前記外部電極の間を絶縁する絶縁体とを有し、前記中心電極と各前記外部電極との間隔は、相手の同軸状電極に面する側からその反対側に向かうに連れて増加していることを要旨とする。
【0013】
本発明の第2の態様はプラズマ光源であって、互いに対向配置され、極端紫外光を放射するプラズマを発生すると共に前記プラズマを閉じ込める一対の同軸状電極と、各前記同軸状電極に対して極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置とを備え、各前記同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、前記中心電極の外周を囲む円筒状の外部電極と、前記中心電極及び前記外部電極の間を絶縁する絶縁体とを有し、前記中心電極の側面と前記外部電極の内面との間隔は、相手の同軸状電極に面する側からその反対側に向かうに連れて増加していることを要旨とする。
【0014】
前記第1の態様に係るプラズマ光源は、前記電圧印加装置からの放電電圧を放電エネルギーとして前記外部電極毎に蓄積するエネルギー蓄積回路をさらに備えてもよい。
【0015】
前記第1の態様に係るプラズマ光源は、放電電流が前記電圧印加装置に帰還することを阻止する放電電流阻止回路をさらに備えてもよい。
【0016】
前記電圧印加装置は、前記一対の同軸状電極のうちの一方の中心電極にその外部電極よりも高い正の放電電圧を印加する正電圧源と、前記一対の同軸状電極のうちの他方の中心電極にそのガイド電極よりも低い負の放電電圧を印加する負電圧源とを有してもよい。
【0017】
前記電圧印加装置は、前記正電圧源及び前記負電圧源をそれぞれの同軸状電極に同時に印加するトリガスイッチを有してもよい。
【0018】
前記プラズマ光源は、前記絶縁体の表面にレーザー光を照射して当該照射領域のアブレーションを行うレーザー装置をさらに備えてもよい。
【0019】
前記プラズマ光源は、各前記同軸状電極の前記中心電極の表面にレーザー光を照射して当該照射領域のアブレーションを行うレーザー装置をさらに備えてもよい。また、前記レーザー光が照射される各前記中心電極の側面には、前記照射領域に前記プラズマ媒体となる金属層が設けられていてもよい。
【0020】
前記プラズマ光源は、前記絶縁体の表面に紫外線を照射する紫外光源をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、極端紫外光を放射するプラズマを生成するための理想的な面状放電を発生させることが可能なプラズマ光源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ光源の概略構成図である。
【図2】図1に示す同軸状電極の要部を示す図である。
【図3】図2のIII−III断面を示す図であり、(A)は外部電極が複数個の例、(B)は外部電極が円錐状に形成された例を示す。
【図4】本発明の一実施形態に係るプラズマ光源の動作説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るプラズマ光源の第1の変形例を示す概略構成図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るプラズマ光源の第2の変形例を示す概略構成図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るプラズマ光源の第3の変形例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0024】
まず、本実施形態のプラズマ光源における同軸状電極について説明する。図1は、本実施形態のプラズマ光源を示す概略構成図である。この図に示すように、本実施形態のプラズマ光源は、一対の同軸状電極10、チャンバー20及び電圧印加装置30を備える。
【0025】
一対の同軸状電極10はチャンバー20内に設置され、対称面1に対して対称に位置している。即ち、各同軸状電極10は対称面1を中心として、一定の間隔を隔てて互いに対向するよう配置される。このとき、チャンバー20は、排気管22を介して真空ポンプ(図示せず)に接続されており、所定の真空度に維持されている。なお、チャンバー20は接地されている。
【0026】
各同軸状電極10は、中心電極12と、複数の外部電極14と、絶縁体16とを備える。 中心電極12と外部電極14の間には極端紫外光を放射するプラズマ媒体が導入される。プラズマ媒体は、例えばLi、Xe、Snの少なくとも1つを含むガスである。
【0027】
図1〜図3に示すように、中心電極12は、各同軸状電極10に共通する単一の軸線Z−Zを中心軸(以下、この軸を中心軸Zと称する)として、この中心軸Z上に延びる棒状の導電体である。中心電極12は、高温プラズマによる損傷に耐え得る金属を用いて形成される。このような金属は、例えばタングステンやモリブデン等の高融点金属が挙げられる。
【0028】
本実施形態において、対称面1に対向する中心電極12の端面は半球状の曲面になっている。ただし、この形状は必須ではなく、端面に図1に示すような凹部を設けてもよく、或いは単なる平面でもよい。
【0029】
図3(A)に示すように、外部電極14は、中心電極12の中心軸Zと平行に延びる棒状の導電体である。外部電極14は、中心電極12の外周を囲むようにその周方向に沿って角度θ毎に複数配置されている。換言すると、複数の外部電極14は、中心軸Zに対して軸対称な面上に設けられている。図3(A)に示す例では、6本の外部電極14が中心電極12の周りで60°毎に配置されている。
【0030】
各外部電極14は、中心電極12の先端部(対称面1に対向する部分)12bに向けて近づくように傾斜している。換言すると、中心電極12と各外部電極14との間隔Gは、相手の同軸状電極10に面する側からその反対側に向かうに連れて増加している。
【0031】
このように、中心電極12の周りに複数の外部電極14を配置することで、図4(A)に示す面状放電2に至る初期放電(例えば沿面放電)を各外部電極14と中心電極12との間で発生させることができる。即ち、中心電極12の全周に亘って初期放電が発生するので、環状の面状放電2の形成が容易になる。なお、面状放電は2次元的に広がる面状の放電電流であり、電流シート又はプラズマシートとも呼ばれる。
【0032】
更に、外部電極14を中心電極12の先端部12bに向けて傾斜させることで、外部電極14と中心電極12との間の電場強度に、先端部12bに向かうほど増加する勾配をもたせることができる。周知のように、放電は電場強度が大きいほど発生しやすく、且つ持続し易い。逆に言えば、電場強度が小さいほど放電は発生しにくくなる。本実施形態では、外部電極14と中心電極12の間隔は、後述の絶縁体16側でより広くなっている。従って、外部電極14と中心電極12の間で面状放電2が発生した場合、これに付随して発生する絶縁体16側の放電の発生を抑制できる。即ち、放電の主電流路となり、所望のプラズマ(放電)の圧縮や加速に悪影響を与える不要なプラズマの発生を抑制できる。
【0033】
また、面状放電2は、その自己磁場による力を受けて対称面1に移動するだけでなく、上述の電場勾配によっても移動する。即ち、この電場勾配が対称面1への面状放電2の移動を促進する。従って、面状放電2を中心軸Zに沿って薄く形成できるため、その単位空間あたりのエネルギー密度を増加させることができる。その結果、最終的に得られる極端紫外光の強度(光出力)を向上させることができる。
【0034】
また、露光装置用光源のように露光用の光のサイズが規定されている場合でも、その規定に関わりなく、後述の絶縁体16側の外部電極14と中心電極12との距離を大きくすることができる。従って、不要な放電の発生を抑制できる。
【0035】
なお、外部電極14は、中心電極12と同じく、高温プラズマによる損傷に耐え得るタングステンやモリブデン等の高融点金属等を用いて形成される。また、対称面1に対向する外部電極14の端面は曲面、平面の何れでもよい。
【0036】
外部電極14は図3(A)に示す断面円形の棒状体に限定されず、少なくとも中心電極12に対向する側が中心電極12に向けて突出する(凸となる)曲面を有していればよい。例えば、外部電極14は半円の断面を有し、その円弧を中心電極12に向けて配置してもよい。
【0037】
各外部電極14は中心電極12の周方向に沿って等間隔に配列することが望ましい。例えば、加工や組み立ての観点から、各外部電極14は中心電極12に対して回転対称な位置に設置することが望ましい。しかしながら、本発明はこのような配列は厳密なものではない。また、外部電極14の本数も6本に限定されず、中心電極12及び外部電極14の大きさや形状、両者の間隔Gなどに応じて適宜設定される。
【0038】
絶縁体16は例えばセラミックを用いて形成され、中心電極12と外部電極14の各基部を支持して間隔Gを規定すると共にその間を電気的に絶縁する。絶縁体16は例えば円盤状に形成される。
【0039】
絶縁体16の表面のうち、中心電極12と外部電極14の間の部分には、Li又はLi化合物等の薄膜17が形成されている。中心電極12と外部電極14との間に面状放電2が発生すると、この薄膜17からプラズマ媒体としてLiを含むガスが発生する。
【0040】
次に、本実施形態のプラズマ光源における電気系統について説明する。図1に示すように、プラズマ光源は各同軸状電極10に接続する電圧印加装置30を備える。電圧印加装置30は、同軸状電極10に極性を反転させた放電電圧を印加する。
【0041】
具体的には、電圧印加装置30は、正電圧源(HV Charging Device)32と、負電圧源(HV Charging Device)34と、トリガスイッチ36とを備える。
【0042】
正電圧源32の出力側は、トリガスイッチ36を介して、一方(例えば図1の左側)の同軸状電極10の中心電極12にその外部電極14より高い正の放電電圧を印加する。
【0043】
負電圧源34の出力側は、トリガスイッチ36を介して、他方(例えば図1の右側)の同軸状電極10の中心電極12にその外部電極14より低い負の放電電圧を印加する。
【0044】
トリガスイッチ36は、ギャップスイッチ38と、高圧パルス発生器(HV Pulser)40と、遅延パルス生成器(Delay Pulse Generator)42とを備え、正電圧源32及び負電圧源34からの高電圧(放電電圧)を、それぞれの同軸状電極10に同時に印加する。
【0045】
ギャップスイッチ38は、電位差の大きい2つの端子間に微小放電を発生させることで、当該端子間の放電を誘発して短期間の電気的接続を得るものである。具体的には、ギャップスイッチ38は正電圧源32の出力側(又は負電圧源34の出力側)と、一方(又は他方)の同軸状電極10の中心電極12との間の短時間の電気的接続を図る。
【0046】
高圧パルス発生器40は、この微小放電を発生させるための高電圧パルスをギャップスイッチ38に印加する。従って、ギャップスイッチ38に正電圧源32および負電圧源34からの高電圧が印加された状態で、高圧パルス発生器40の高電圧パルスが印加された場合、正電圧源32および負電圧源34と各中心電極12との間が電気的に接続される。
【0047】
遅延パルス生成器42は、各高圧パルス発生器40から高電圧パルスを出力するタイミングを適宜調整するものである。各高電圧パルスの出力タイミングが同時である場合、遅延パルス生成器42を省略してもよい。
【0048】
なお、各中心電極12を経由した電流をオシロスコープ(Oscilloscope)で観察するため、正電圧源32および負電圧源34の各コモン側(リターン側)には、ロゴスキーコイル等を用いて誘導結合された線路を設けてもよい。
【0049】
上述の通り、各中心電極12の周囲には複数の外部電極14が設けられている。理想的な面状放電2を得るには、各外部電極14と中心電極12との間で放電が発生する必要がる。このため、本実施形態の各外部電極14は、中心電極12に対向する面を曲面にして、優先的に放電する箇所を固定している。一方、各外部電極14と中心電極12との間の放電を厳密に同時に発生させることは困難である。即ち、各放電の発生タイミングには多少のずれがある。従って、正電圧源32および負電圧源34から供給される放電エネルギーは最初に発生した放電に対して優先的に費やされる可能性がある。この場合、複数の放電を略同時に発生させることが困難になる。
【0050】
そこで、本実施形態のプラズマ光源は、電圧印加装置30からの放電電圧を放電エネルギーとして外部電極14毎に蓄積するエネルギー蓄積回路50を備えている。エネルギー蓄積回路50は、例えば図1に示すように中心電極12と各外部電極14との間を個別に接続する複数のコンデンサCで構成される。各コンデンサCは、正電圧源32または負電圧源34の出力側及びコモン側に接続される。
【0051】
このように、放電エネルギーを蓄積するコンデンサCを外部電極14毎に設けることで、全ての外部電極14において放電を発生させることができる。即ち、最初に発生した放電によって多くの放電エネルギーが消費されることを防止でき、中心電極12の全周に亘って発生する理想的な面状放電2を得ることができる。
【0052】
さらに、本実施形態のプラズマ光源は、電圧印加装置30に放電電流が帰還することを阻止する放電電流阻止回路52を備えてもよい。放電電流阻止回路52は、例えば図1に示すように各外部電極14と電圧印加装置30(具体的には正電圧源32及び負電圧源34のコモン側)との間を接続するインダクタLで構成される。インダクタLは、放電電流に対して十分に高いインピーダンスを有する。従って、中心電極12及び外部電極14を経由した放電電流を、その発生源であるエネルギー蓄積回路50に戻すことができる。
【0053】
つまり、各コンデンサCに蓄積された放電エネルギーが、当該コンデンサCに直結した外部電極14以外の外部電極14に供給されることを防止できるため、中心電極12の周方向における放電の発生分布に偏りが生じることを防止できる。
【0054】
上記の構成により、本発明のプラズマ光源は、一対の同軸状電極10間に管状放電(後述する)を形成してプラズマを軸方向に封じ込めるようになっている。
【0055】
図4は、図1のプラズマ光源の作動説明図である。この図において、(A)は面状放電の発生時、(B)は面状放電の移動中、(C)はプラズマの形成時、(D)は面状放電と管状方円の繋ぎ換え時、(E)はプラズマ封込み磁場の形成時を示している。
【0056】
以下、この図を参照して、本発明のプラズマ光源の動作を説明する。
【0057】
本実施形態のプラズマ光源では、チャンバー20内に上述した一対の同軸状電極10を対向配置され、同軸状電極10内にプラズマ媒体が供給される。チャンバー20内は、プラズマの発生に適した温度及び圧力に保持される。さらに、電圧印加装置30により各同軸状電極10に極性を反転させた放電電圧が印加される。放電電圧の印加について具体的に説明すると、正電圧源32および負電圧源34からの高電圧をギャップスイッチ38に印加した状態で、ギャップスイッチ38に高圧パルス発生器40の高電圧パルスが印加される。これにより、ギャップスイッチ38が導通状態になり、正電圧源32および負電圧源34の放電電圧がそれぞれの同軸状電極10に印加される。
【0058】
図4(A)に示すように、この電圧印加により、一対の同軸状電極10に絶縁体16の表面でそれぞれ面状放電2が発生する。上述したように、複数の外部電極14を設け、それぞれに対して中心電極12との間で放電を生じさせることで、中心電極12の全周に亘って放電が分布する面状放電2が得られる。また、中心電極12に対する外部電極14の傾斜によって、面状放電2は先端部12bに向かう方向(図中のA方向)への移動が促進され、逆に絶縁体16に向かう方向(図中のB方向)への移動が抑制される。さらに、面状放電2の位置よりも絶縁体16側の空間における他の放電の発生も抑制される。
【0059】
このような面状放電2により、各同軸状電極10、10において、絶縁体16表面に形成されたLiまたはLi化合物薄膜17が蒸発し、Liを含むガスを発生する。
【0060】
なおこの際、左側の同軸状電極10の中心電極12は正電圧(+)、その周囲の外部電極14は負電圧(−)に印加されている。一方、右側の同軸状電極10の中心電極12は負電圧(−)、その周囲の外部電極14は正電圧(+)に印加されている。なお、外部電極14は常時接地されているが、放電電圧が印加された直後の短期間では接地のための配線のインダクタンスによって、実質的には接地電位から切り離された状態になる。従って、対向する一対の外部電極14のそれぞれには極性の異なる電圧が印加された状態に等しく、両者の間には電位差が生じている。
【0061】
図4(B)に示すように、面状放電2は、自己磁場によって電極から排出される方向(同図の対称面1に向かう方向)に移動する。
【0062】
図4(C)に示すように、面状放電2が一対の同軸状電極10の先端に達すると、一対の面状放電2の間に挟まれたプラズマ媒体6が高密度、高温となり、各同軸状電極10の対向する中間位置(即ち、中心電極12の対称面1)に単一のプラズマ3が形成される。
【0063】
図4(D)に示すように、各面状放電2がさらに移動して互いが接すると、単一のプラズマ3は、各面状放電2によって軸方向に囲まれ、保持される。
【0064】
対向する一対の中心電極12はそれぞれ、正電圧(+)と負電圧(−)に印加され、且つ、その周囲の外部電極14は、対応する中心電極12とは逆の極性の電圧に印加されている。従って図4(E)に示すように、面状放電2は、対向する一対の中心電極12の間で放電すると共に、対向する外部電極14の間で放電する管状放電4に繋ぎ換えられる。ここで、管状放電4とは、軸線Z−Zを囲む中空円筒状の放電電流を意味する。
【0065】
この管状放電4が形成されると、プラズマ封込み磁場(磁気ビン)5が形成され、その結果、プラズマ3を半径方向及び軸方向に封じ込むことができる。
【0066】
すなわち、磁気ビン5はプラズマ3の圧力により中央部は大きくその両側が小さくなり、プラズマ3に向かう軸方向の磁気圧勾配が形成され、この磁気圧勾配によりプラズマ3は中間位置に拘束される。さらにプラズマ電流の自己磁場によって中心方向にプラズマ3は圧縮(Zピンチ)され、半径方向にも自己磁場による拘束が働く。
【0067】
この状態において、プラズマ3の発光エネルギーに相当するエネルギーを電圧印加装置30から供給し続ければ、高いエネルギー変換効率で、極端紫外光を含むプラズマ光8を長時間安定して発生させることができる。
【0068】
本実施形態によれば、各同軸状電極において、中心電極の全周に亘る放電が得やすくなる。その結果、略環状に分布する面状放電が得られる。つまり、中心電極の周囲における放電の偏在が抑制されるため、各同軸状電極内の面状放電には略等しい自己磁場による力が加わる。従って、各面状放電は各同軸状電極の中間で衝突するため、極端紫外光を含むプラズマを長時間安定して発生することができる。偏在した放電の発生率を抑えられるので、エネルギーの変換効率を向上させることができる。
【0069】
なお、中心電極12の周囲に設けられる外部電極は、中心電極12の中心軸Zを中心とした円筒状の電極15(以下、外部電極15と称する)でもよい。この場合、中心軸Zに直交する断面において、外部電極15の内面15aが形成する直径をDとすると、外部電極15は、この直径Dが対称面1に向かうに連れて徐々に小さくなるように形成される。換言すると、外部電極15の内面15aと中心電極12の側面12aとの間隔Gは、相手の同軸状電極10に面する側からその反対側に向かうに連れて増加している。図3(B)は、このような構造を有する外部電極15の一例であり、中空の円錐状に形成されている。
【0070】
また、中心電極12に対する外部電極14及び外部電極15の傾斜角は、本実施形態では15°程度であるが、本発明はこの値に限定されず、適宜変更可能である。また、この傾斜角は、絶縁体16側から先端部12bに向かって減少するように変化してもよい。即ち、各外部電極14又は外部電極15は、中心軸Zを含む断面において湾曲していてもよい。
【0071】
(変形例)
上述した実施形態の変形例について説明する。図5〜図7は本実施形態のプラズマ光源の変形例であり、図5は第1の変形例に係る概略構成図、図6は第2の変形例に係る概略構成図、図7は第3の変形例に係る概略構成図である。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。また、説明の便宜上、一対の同軸状電極10のうち一方のみを図示し、他方の図示は省略した。
【0072】
各図に示す変形例は、冒頭に説明したプラズマ光源と比較して、面状放電2を発生させる方法及びその構成が異なっている。従って、同軸状電極10の構成は何れの変形例においても同一である。
【0073】
図5に示すように、本実施形態の第1の変形例では、トリガスイッチ36を用いて面状放電2を誘発する代わりに、パルスレーザー装置(レーザー装置)60のレーザー光62を用いて面状放電2を誘発する。具体的には、同軸状電極10に電圧印加装置30の放電電圧を印加した状態で、絶縁体16の表面(例えば薄膜17)にレーザー光62を照射することでアブレーションを行い、面状放電2を誘発する。なお、このときの放電電圧は、それ自身では放電を発生できない程度の値に設定される。つまり、トリガスイッチ36を用いて印加する時の電圧より低い値になる。
【0074】
パルスレーザー装置60は例えばYAGレーザーであり、アブレーションを行うために基本波の二倍波をレーザー光62として出力する。レーザー光62は、外部電極14の間隙から絶縁体16の表面(例えば薄膜17)に照射することが可能である。外部電極15(図3(B)参照)を用いる場合には、その側面にレーザー光62を導入するための貫通孔13を形成してもよい。
【0075】
このアブレーションによって薄膜17の一部がガス(又はプラズマ)18として放出され、中心電極12と各外部電極14間の放電を誘発する。さらにこの放電によって図4(A)に示す面状放電2が形成される。その後は、図4(B)の状態から図4(E)の状態に至り、極端紫外光を含むプラズマ光8が安定に得られる。
【0076】
この変形例では、初期の放電をアブレーションによって発生させていることから、トリガスイッチ36が不要になる。その代わり、誘発される放電の発生箇所がレーザー光62の照射領域近傍に制限される可能性がある。従って、レーザー光62は絶縁体16の複数箇所に同時に照射することが好ましく、その数は少なくとも2箇所である。これは、絶縁体16の1箇所にレーザー光62を照射した場合、誘発された放電の面積が中心電極12からみた開き角の範囲に換算して180度以上であった実験結果に基づいている。この結果を考慮すると、レーザー光62の照射箇所の数が少ないほど、中心電極12に対して回転対称な位置にレーザー光62を照射することが望ましいと言える。なお、複数のレーザー光の同時照射は、ビームスプリッタ及びミラー等の光学素子を用いて光路長を合わせた複数の光路を形成することで容易に達成できる。
【0077】
上記の変形例では、レーザー光62の照射箇所を制御できることから絶縁体16上の沿面放電の発生箇所を制御でき、且つ、その発生回数も制御できる。従って、中心電極12の全周に亘る放電の制御も容易になる。
【0078】
また、レーザー光62の照射タイミングを調整できるので、多数の沿面放電を同時に発生させることも容易になる。さらに、アブレーションによる放電の誘発を利用することで、沿面放電の発生に必要な絶縁破壊電圧を下げること可能になる。たとえば、レーザー光を用いない実施形態と比較して、電圧印加装置30の放電電圧を下げることが可能である。この場合、過剰な放電エネルギーの投入が抑制されるので、例えば熱による同軸状電極10の損傷の進行を抑制することが可能である。
【0079】
図6に示すように、本実施形態の第2の変形例では、トリガスイッチ36を用いて面状放電2を誘発する代わりに、電圧印加装置30による放電電圧を同軸状電極10に印加した状態で、隣接する外部電極14の間隙からパルスレーザー装置(レーザー装置)60のレーザー光62を中心電極12の側面(外部電極14)に照射することで、その照射領域のアブレーションを行う。照射領域となる中心電極12の側面には、予めプラズマ媒体となるLiを含んだ金属層(薄膜)27が設けられている。このアブレーションによって金属層27の一部がガス(又はプラズマ)28として放出され、中心電極12と各外部電極14間の放電を誘発する。さらにこの放電によって図4(A)に示す面状放電2が形成される。その後は、図4(B)の状態から図4(E)の状態に至り、極端紫外光を含むプラズマ光8が更に安定に得られる。
【0080】
この変形例も上述した第1の変形例と同様に、誘発される放電の発生箇所がレーザー光62の照射領域近傍に制限される可能性がある。従って、レーザー光62は金属層27の複数箇所に同時に照射することが好ましく、その数は少なくとも2箇所である。複数箇所にレーザー光62を照射する構成は第1の変形例と同様のものが適用できる。第2の変形例も上述の第1の変形例と同様の効果が得られる。
図7に示すように、本実施形態の第3の変形例では、図1に示すプラズマ光源の構成に加えて、絶縁体16の表面(例えば薄膜17)に紫外線66を照射する紫外光源64が設けられる。紫外線66は、絶縁体16上の沿面放電を発生させるための印加電圧を下げる効果をもつ。換言すると、紫外光源64は、トリガスイッチ36による放電の発生を補助する。その結果、中心電極12の全周に亘る初期放電が得やすくなり、理想的な面状放電2が安定に得られる。その後は、他の実施形態と同じく、図4(B)の状態から図4(E)の状態に至り、極端紫外光を含むプラズマ光8が更に安定に得られる。
【0081】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0082】
1…対称面、2…面状放電、3…プラズマ、4…管状放電、5…磁気ビン、6…プラズマ媒体、8…プラズマ光、10…同軸状電極、12…中心電極、14…(複数の)外部電極、15…(円筒状の)外部電極、16…絶縁体、17…薄膜、20…チャンバー、30…電圧印加装置、32…正電圧源、34…負電圧源、36…トリガスイッチ、38…ギャップスイッチ、40…高圧パルス発生器、42…遅延パルス生成器、50…エネルギー蓄積回路、52…放電電流阻止回路、60…レーザー装置、62…レーザー光、64…紫外光源、66…紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置され、極端紫外光を放射するプラズマを発生すると共に前記プラズマを閉じ込める一対の同軸状電極と、各前記同軸状電極に対して極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置とを備え、
各前記同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、前記中心電極の中心軸に対して軸対称な面上に設けられた複数の外部電極と、前記中心電極及び各前記外部電極の間を絶縁する絶縁体とを有し、
前記中心電極と各前記外部電極との間隔は、相手の同軸状電極に面する側からその反対側に向かうに連れて増加していることを特徴とするプラズマ光源。
【請求項2】
互いに対向配置され、極端紫外光を放射するプラズマを発生すると共に前記プラズマを閉じ込める一対の同軸状電極と、各前記同軸状電極に対して極性を反転させた放電電圧を印加する電圧印加装置とを備え、
各前記同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、前記中心電極の外周を囲む円筒状の外部電極と、前記中心電極及び前記外部電極の間を絶縁する絶縁体とを有し、
前記中心電極の側面と前記外部電極の内面との間隔は、相手の同軸状電極に面する側からその反対側に向かうに連れて増加していることを特徴とするプラズマ光源。
【請求項3】
前記電圧印加装置からの放電電圧を放電エネルギーとして前記外部電極毎に蓄積するエネルギー蓄積回路をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ光源。
【請求項4】
放電電流が前記電圧印加装置に帰還することを阻止する放電電流阻止回路をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のプラズマ光源。
【請求項5】
前記電圧印加装置は、前記一対の同軸状電極のうちの一方の中心電極にその外部電極よりも高い正の放電電圧を印加する正電圧源と、前記一対の同軸状電極のうちの他方の中心電極にその外部電極よりも低い負の放電電圧を印加する負電圧源とを有することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のプラズマ光源。
【請求項6】
前記電圧印加装置は、前記正電圧源及び前記負電圧源をそれぞれの同軸状電極に同時に印加するトリガスイッチを有することを特徴とする請求項5に記載のプラズマ光源。
【請求項7】
前記絶縁体の表面にレーザー光を照射して当該照射領域のアブレーションを行うレーザー装置をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載のプラズマ光源。
【請求項8】
各前記同軸状電極の前記中心電極の表面にレーザー光を照射して当該照射領域のアブレーションを行うレーザー装置をさらに備え、前記レーザー光が照射される各前記中心電極の側面には、前記照射領域に前記プラズマ媒体となる金属層が設けられていることを特徴とする請求項5に記載のプラズマ光源。
【請求項9】
前記絶縁体の表面に紫外線を照射する紫外光源をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載のプラズマ光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−89635(P2013−89635A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225937(P2011−225937)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】