説明

プラズマ処理方法およびプラズマエッチング方法

【課題】地球環境保全およびプラズマプロセスの高性能化を実現するため、非温室効果ガスを用いたプラズマ処理方法を開発し、デバイスへの損傷を抑制することができる高精度のプラズマエッチング方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るプラズマ処理方法は、プラズマ生成室に100容量%のフッ素ガス(F2)である処理ガスを供給し、高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことによりプラズマを生成し、該プラズマを基板に照射して基板処理を行うことを特徴とする。また、前記プラズマから負イオンまたは正イオンを、個別にまたは交互に、あるいは、負イオンのみを選択的に引き出して中性化することにより中性粒子ビームを生成し、該中性粒子ビームを基板に照射して基板処理を行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電界を利用して生成したプラズマを用いて基板の処理を行うプラズマ処理方法、ならびに半導体素子やマイクロマシン(MEMS:Micro Electric Mechanical System)素子の製造等における微細加工に好適なプラズマエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の製造工程におけるドライエッチングに利用されるプラズマプロセスでは、フルオロカーボン系や無機フッ化物系のガス(例えば、四フッ化炭素ガス(CF4)、六フッ化硫黄ガス(SF6)など)が大量に用いられている。しかし、フルオロカーボン系や無機フッ化物系のガスは、地球温暖化係数(GWP)が高い温室効果ガスであり、二酸化炭素と並んで地球温暖化を引き起こす大きな要因となっている。それゆえ、温室効果ガスの環境への放出量を削減するために、フルオロカーボン系や無機フッ化物系の代替ガスを利用した新しいプロセスの開発が急務となっている。
【0003】
また、半導体集積回路の製造工程では、近年、その加工パターンが著しく微細化されていることから、高精度(高選択性・高アスペクト比・高速)のドライエッチング技術の開発が強く求められている。
【0004】
プラズマプロセスを用いたプラズマエッチングのメカニズムとしては、(1)ラジカルによるエッチング、(2)反応性イオンによるエッチング、(3)イオンアシストエッチング(イオンおよびラジカルの両方によるエッチング)の3つに分類されるものがあると考えられている。
【0005】
上記メカニズム(1)においては、ラジカルの反応が純粋な化学反応であることから、各種材料に対するエッチング選択性に優れているという利点を有している。しかしながら、ラジカルは電気的には中性であることから、基板に入射するラジカルは拡散によって到達するものであり、運動方向が基板に対してランダムであるため、基板表面におけるエッチング反応はあらゆる方向に進行する。したがって、ラジカルで基板をエッチングすると、エッチングマスクの下までエッチングされる、すなわち等方性エッチングになるという問題がある。
【0006】
上記メカニズム(2)においては、イオンは電荷を持った粒子であることから、外部からの電界により、基板に対してイオンを加速して方向性を持たせることができる。このような、加速されたイオンによるエッチング過程には、物理的スパッタリングと化学的スパッタリングがある。
【0007】
物理的スパッタリングとは、イオンの持っている運動量が基板原子に与えられることにより、基板原子の結合が切断されて気相中に飛び出すものである。一方、化学的スパッタリングとは、基板表面に入射してきた反応性イオンと基板原子とが入射エネルギーにより化学反応を起こし、反応生成物が気相中に離脱するものである。
【0008】
反応性イオンを用いたエッチング過程では、上記物理的スパッタリングと化学的スパッタリングとが、同時に基板表面で起こっていると考えられる。入射するイオンは基板に対してほぼ垂直であることから、エッチング形状はエッチングマスクに対してほぼ垂直に形成される、すなわち、異方性エッチングを達成できる。ただし、マスク材や下地材とのエッチング選択性はラジカルに比べて著しく低下する。
【0009】
上記メカニズム(3)におけるイオンアシスト反応は、エッチングする基板表面に吸着したラジカルに、加速されたイオンが照射されて起こるため、イオンエネルギーに大きく依存する。反応はイオンが照射されている部分で主に起こるので、エッチング形状は異方性エッチングとなる。
【0010】
プラズマプロセスを用いたプラズマエッチングにおいては、上記メカニズム(1)〜(3)のエッチング過程が、ある割合で同時に起こっていると考えられている。また、実際のエッチング表面では、上記エッチング反応以外にも、反応生成物の堆積やガス由来のポリマリゼーション(重合反応)などが起こっている。これらの表面反応過程のエッチング反応に占める割合は、エッチング中の動作条件(ガス種、圧力、パワー等)により大きく変化し、これによりエッチング速度、エッチング形状、エッチング選択性などのエッチング特性が大幅に変化する。半導体デバイスの高集積化が進むにつれて、このような複雑なエッチング現象を制御し、エッチング反応におけるイオンの寄与を大きくして微細加工性を向上させることが強く求められている。
【0011】
半導体のドライエッチング技術として、プラズマプロセスは必要不可欠であるが、加工パターンの微細化に伴い、プラズマプロセスによって生じるデバイスの損傷が問題になってきている。特に、加工パターンが0.1μm以下の寸法まで微細化される先端プロセスにおいては、プラズマ中に生成する電荷(電子、イオン)および光子(フォトン)などによる照射損傷が、例えば、ゲート絶縁膜の絶縁破壊や加工形状の異常を引き起こし、デバイス特性に重大な影響を与えている。さらに、半導体デバイスの高性能化と低消費電力化を目指して積極的な研究開発が進められているhigh−kやlow−k膜と呼ばれる新規材料は、現行のシリコン酸化物(SiO2)膜に比べて物理的・化学的に不安定であるため、プラズマプロセスに起因する損傷がより顕著になると考えられている。そのため、high−kやlow−k膜の実用化検討を推進する上でも、新しいプラズマプロセスの開発が急務となっている。
【0012】
プラズマプロセスによって生じるデバイスの損傷を回避することを目的として、プラズマ中の粒子(電子、イオン、ラジカル、フォトン)を制御する技術が種々開発されている。例えば、(1)高周波電界の印加と印加の停止とを、数十μ秒オーダーで交互に繰り返して処理ガスをプラズマ化するパルス変調プラズマ生成技術、(2)プラズマ中の正イオンや負イオンを中性化して、方向性の揃ったビームを生成する中性粒子ビーム生成技術などを利用することによって、プラズマの制御が可能となってきている。
【0013】
パルス変調プラズマ生成技術では、特開平6−267900号公報(特許文献1)または特開平8−181125号公報(特許文献2)に示されているように、高周波電界の印加と印加の停止とを、数十μ秒オーダーで交互に繰り返すことによって、印加時間中には正イオンやラジカルが生成し、印加の停止時間中には正イオンとラジカルが維持されたまま負イオンを生成することができる。したがって、パルス変調プラズマ技術は、従来の連続放電プラズマではほとんど生成されない負イオンを多量に生成できることを特徴とする。
【0014】
また、中性粒子ビーム生成技術では、プラズマ中に生成したイオンに電圧を印加してイオンを加速させ、多数の微細孔を有する電極を通過させて中性化することにより、方向性の揃った中性の粒子ビームを生成することができる。
【0015】
さらに、例えば、特開平9−139364号公報(特許文献3)に開示されているような装置を利用して、パルス変調プラズマ生成技術と、中性粒子ビーム生成技術とを組み合わせることによって、パルス変調プラズマ中に多量に生成させた負イオンを選択的に加速して中性化し、方向性の揃った中性粒子ビームを高密度で生成することができる。負イオンの中性化は、ガス原子・分子に付着した電子の離脱によって進行するため、電荷交換による正イオンの中性化と比較して、低エネルギーで高効率な中性粒子ビームを生成することができる。
【0016】
このような方法によって生成された、エッチング反応に必要な中性粒子のみで構成されたビームを利用してエッチングすることにより、プラズマ中の荷電粒子およびフォトンの照射を回避することが可能となり、プラズマプロセスによって生じるデバイスの損傷を抑制できることが報告されている。
【0017】
プラズマプロセスにおけるプラズマ中の粒子(電子、イオン、ラジカル、フォトン)を完全に制御して、デバイスへの損傷を抑制した高精度のプラズマエッチングを実用化するためには、プラズマ生成装置や中性粒子ビーム生成装置の改良などに加えて、動作条件(ガス種、圧力、パワー等)を最適化することが重要な課題のひとつである。プラズマ生成に用いられるガス種については、以下のような課題がある。
【0018】
半導体デバイスにおいては、電極間を絶縁する膜として、シリコン酸化物(SiO2)が用いられているため、電極を素子や下部電極とコンタクトするコンタクトホールの形成が必要不可欠である。このようなコンタクトホールの形成には、下地のSiに対して高い選択性を得ることが重要であることから、従来からフルオロカーボンガスが用いられている。
【0019】
このようなフルオロカーボンガスのプラズマでは、基板表面に重合物の堆積(ポリマリゼーション)が起こる。したがって、ハロゲンをベースとする多くのプラズマプロセスにおいては、Siの方がSiO2よりも速くエッチングされる傾向にあることから、重合物の堆積とエッチング反応とが、SiO2表面およびSi表面の双方の上で競合するようになる。しかし、SiO2層の中にはO(酸素)が存在するため、SiO2エッチング中に酸素が解離し、堆積重合物と結合して揮発性の生成物であるCO、CO2またはCOF2分子を形成し、SiO2上では堆積物の重合が抑制される。一方、酸素のないSi上には重合膜堆積抑制効果がないため、重合物の堆積が生じることとなる。この堆積重合物がSi表面を保護(マスク)する効果により、下地シリコンに対してエッチング選択性を得ることが可能となっている。
【0020】
しかしながら、上述したように、フルオロカーボンガスは地球温暖化係数が高いという問題がある。したがって、このようなフルオロカーボンガスを使用せずに、高選択性のエッチングを達成することが求められている。そのためには、フルオロカーボンガス由来の堆積重合物による保護効果を必要としない新規のプロセス開発が必要である。
【0021】
例えば、非温室効果ガスを用いてプラズマを生成し、プラズマ中のイオンや中性粒子ビームのエネルギーおよび密度を高精度に制御して基板に照射することができれば、エッチングの反応速度や選択性を完全に制御することが可能となり、良好なコンタクトホールを形成するプロセスが実現できると考えられる。同時に、プラズマ中に生成する電荷(電子、イオン)および光子(フォトン)による照射損傷を抑制し、前述したような絶縁膜の絶縁破壊や加工形状の異常を回避することができると考えられる。
【0022】
一方、半導体デバイスの電極等に用いられるシリコン(Si)のエッチングにおいては、F(フッ素)系ガスよりもCl(塩素)系ガスまたはBr(臭素)系ガスを用いることにより、ラジカルによる反応を抑制して、異方性エッチングを達成している。F系ガスを用いたプロセスでは、Si基板に到達したFラジカルは、Si格子内部まで進入していき6原子層程度の吸着層を形成する。これに対して、Cl系またはBr系ガスを用いたプロセスでは、ClラジカルやBrラジカルは、Si格子間隔に比べて大きいため、Si格子内部に侵入しにくく、吸着層は1原子層程度である。このため、ClラジカルやBrラジカルに比べて、FラジカルはSiとの反応性が大きい。結果として、従来のプラズマプロセスを利用してSiのエッチングを行った場合、F系ガスを用いるとエッチング速度は大きいが、異方性エッチングを達成することができないという問題があった。
【0023】
したがって、F系ガスを用いることによって高速のエッチングを可能にし、かつ、異方性エッチングを達成するためには、運動方向が基板に対してランダムなFラジカルの割合を低減するとともに、基板に対して垂直方向に入射するFイオンや中性のFビームを高密度に生成するプロセスを新規に開発する必要性がある。また、そのような新規プロセスでは、前述したような絶縁膜(Siの下地膜であるSiO2やhigh−k等)の絶縁破壊または加工形状の異常を回避することができると考えられる。
【0024】
さらに、近年急速に実用化検討が進められているマイクロマシン(MEMS:Micro Electric Mechanical System)デバイスの製造工程における微細加工では、Si基板に数10μm〜100μm以上の深さでメカニカル構造用の溝などを形成するエッチング加工が要求されている。このようなプロセスでも、プラズマエッチング技術が適用されているが、エッチング特性に対する要求は主に以下の3項目である。
(1)高速のエッチングレートが達成されること。
(2)エッチングプロファイルの垂直性が得られること。
(3)エッチング壁面の平滑さが優れていること。
【0025】
しかしながら、(1)と(2)で要求される2つの特性は、本質的にトレードオフの関係にある。なぜなら、高速のエッチングレートを達成させるためには、一般的にプラズマ中に高濃度のFラジカルを生成させる必要があるが、ラジカル主体によるエッチングではエッチングプロファイルの垂直性(異方性)が得られないためである。
【0026】
この問題を解決するために、等方性エッチング工程および側壁保護用成膜工程を1サイクルとして、それらを繰り返すBoschプロセスと呼ばれる方法が現在広く利用されている。
【0027】
Boschプロセスでは、まず、エッチング工程時間中に、SF6ガスプラズマから生成するFラジカルによるSiの等方性エッチングを引き起こす。次に、成膜工程時間中に、C48ガスなどのフルオロカーボン系のガスプラズマによってフルオロカーボン状のポリマー膜を形成する。その際、ポリマー膜は全ての表面上(トレンチの底部および側壁部)に堆積する。再び繰り返されるエッチング工程では、前段階で成膜されたポリマー膜のうちトレンチの底部にある部分のみ、イオンの突入を受けて選択的に取り除かれる。一方、エッチング工程時間中でも、トレンチの側壁部に堆積したポリマー膜は、イオンの突入を受けないため、エッチングから保護されて残留する。エッチング工程において、トレンチの底部にのみイオンの突入が起こるのは、基板の下部に設置された電極に高周波電界等を印加することによって、プラズマ中のイオン(荷電粒子)が基板に向かって垂直方向に加速されるためである。このような2段階の工程(等方性エッチング工程と側壁保護用成膜工程)から成るプロセスを数秒〜数10秒毎に繰り返すことによって、ある程度の高速のエッチングレートとエッチングプロファイルの垂直性とが実現されている。
【0028】
しかしながら、Boschプロセスでは、成膜工程時間中にはエッチングが全く進行しないため、エッチングレートがどうしても制限されてしまうという問題と、側壁部にスキャロップと呼ばれる段々形状、すなわち表面粗さが形成されてしまうという2つの問題がある。スキャロップの段差は、Siの等方性エッチングに起因している。そのため、各エッチング時間を長くしたり、あるいは、プラズマ中のFラジカルの濃度を高くすることによってエッチングレートを高めようとすると、スキャロップの段差はさらに大きくなってしまう。
【0029】
したがって、Boschプロセスにおいては、壁面部の平滑さとエッチングレートがトレードオフの関係となる。現在、MEMS等のデバイス特性を向上するために、スキャロップの段差を限りなく小さくするための技術開発が進められている。
【0030】
一方、Boschプロセスで行われるような特段の側壁保護膜用成膜工程を行わずに、スキャロップの段差を生じない高速エッチング方法が多数提案されている。例えば、特開2002−93776号公報(特許文献4)および特開2004−87738号公報(特許文献5)に開示されているように、O2ガス、C48ガスまたはSiF4ガスなどを混合したSF6ガスのプラズマを生成して、基板処理を行うプロセスが提案されている。
【0031】
しかしながら、このような混合ガスを用いた方法では、高速のエッチレートとエッチング面の平滑さとを維持しつつ、エッチング形状の垂直性をある程度改善することができるが、Boschプロセスによって得られるような垂直性の高いエッチングプロファイルを達成することは困難であった。
【0032】
つまり、従来の技術では、(1)高速のエッチングレートが達成されること、(2)エッチングプロファイルの垂直性が得られること、および、(3)エッチング壁面の平滑さが優れていること、という加工技術に求められる3点の要求事項を同時に満足することはできなかった。
【0033】
さらに、上述したようにSF6ガスやC48ガスなどのフルオロカーボン系のガスは、地球温暖化係数が高いという問題がある。したがって、これらの温室効果ガスを使用することなく、高性能な微細加工を実現可能な新規プロセスの開発が強く求められている。例えば、非温室効果ガスを用いてプラズマを生成し、プラズマ中のイオンや中性粒子ビームのエネルギーおよび密度を高精度に制御して基板に照射することができれば、(1)高速のエッチングレートが達成されること、(2)エッチングプロファイルの垂直性が得られること、および、(3)エッチング壁面の平滑さが優れていること、という加工技術に求められる3点の要求事項を同時に満足することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】特開平6−267900号公報
【特許文献2】特開平8−181125号公報
【特許文献3】特開平9−139364号公報
【特許文献4】特開2002−93776号公報
【特許文献5】特開2004−87738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明の課題は、地球環境保全およびプラズマプロセスの高性能化を実現するため、非温室効果ガスを用いたプラズマ処理方法を開発し、デバイスへの損傷を抑制することができる高精度のプラズマエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、非温室効果ガスを利用した高精度のプラズマ処理方法を初めて可能とすることに成功した。
すなわち本発明は、以下の事項に関する。
【0037】
(1) フッ素ガス(F2)を含む処理ガスをプラズマ生成室に供給し、
高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことによりプラズマを生成し、
該プラズマを基板に照射して基板処理を行うことを特徴とするプラズマ処理方法。
【0038】
(2) フッ素ガス(F2)を含む処理ガスをプラズマ生成室に供給し、
高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことによりプラズマを生成し、
該プラズマから負イオンまたは正イオンを、個別にあるいは交互に引き出して中性化することにより中性粒子ビームを生成し、
該中性粒子ビームを基板に照射して基板処理を行うことを特徴とするプラズマ処理方法。
【0039】
(3) フッ素ガス(F2)を含む処理ガスをプラズマ生成室に供給し、
高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことによりプラズマを生成し、
該プラズマから負イオンのみを選択的に引き出して中性化することにより中性粒子ビームを生成し、
該中性粒子ビームを基板に照射して基板処理を行うことを特徴とするプラズマ処理方法。
【0040】
(4) 前記処理ガスが100容量%のフッ素ガス(F2)であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
(5) 前記処理ガスがフッ素ガス(F2)と塩素ガス(Cl2)との混合ガスであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【0041】
(6) 前記フッ素ガス(F2)が、固体状の金属フッ化物を加熱分解することにより生じるフッ素ガス(F2)であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【0042】
(7) 前記プラズマを生成する際のプラズマ生成室のガス圧力が、0.1〜100Paであることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
(8) 前記プラズマを生成する際の高周波電界の印加の停止時間が、20〜100μ秒であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【0043】
(9) (1)〜(8)のいずれかに記載のプラズマ処理方法を利用することを特徴とする基板のフッ素化処理方法。
(10) (1)〜(8)のいずれかに記載のプラズマ処理方法を利用することを特徴とする基板のプラズマエッチング方法。
【0044】
(11) (10)に記載のプラズマエッチング方法を利用することを特徴とするシリコンまたはシリコン化合物のプラズマエッチング方法。
(12) 前記シリコン化合物が、酸化珪素、窒化珪素または珪酸塩であることを特徴とする(11)に記載のプラズマエッチング方法。
【0045】
(13) (1)〜(12)のいずれかに記載の方法により製作した半導体デバイス。
(14) (1)〜(12)のいずれかに記載の方法により製作したマイクロマシン(MEMS:Micro Electric Mechanical System)デバイス。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係る非温室効果ガスを用いたプラズマ処理方法を用いれば、半導体デバイスの製造などにおける微細加工に好適な高精度のプラズマエッチング処理を実現することができる。特に、プラズマ中からエッチング反応に必要な中性ビームのみを取り出して基板に照射することによって、加工パターンが0.1μm以下の寸法まで微細化される次世代半導体デバイスの製造プロセスを実現することができる。さらに、近年、開発が進められているMEMSデバイス等の製造における微細加工技術としても有効である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係るプラズマ処理方法およびプラズマエッチング方法を実施可能なパルス変調プラズマ生成装置の一例を示す概略図(例1)である。
【図2】本発明に係るプラズマ処理方法およびプラズマエッチング方法を実施可能なパルス変調プラズマ生成装置の一例を示す概略図(例2)である。
【図3】本発明に係るプラズマ処理方法およびプラズマエッチング方法を実施可能な中性粒子ビーム生成装置の一例を示す概略図である。
【図4】実施例1および比較例1の実験に使用したプラズマ・中性粒子ビーム分析装置の概略図である。
【図5】実施例1において測定した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いた場合の連続プラズマ(RFバイアス=500W)およびパルス変調プラズマ(RFバイアス=2kW(ON時間中))中の負イオンのQMSスペクトルである。
【図6】実施例1において測定した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いた場合の連続プラズマ(RFバイアス=1kW)およびパルス変調プラズマ(RFバイアス=1kW(ON時間中))中の負イオンのQMSスペクトルである。
【図7】実施例1および比較例1において測定した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いた場合および六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた場合の連続プラズマ中の電子密度の測定結果である。
【図8】実施例1および比較例1において測定した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いた場合および六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた場合の連続プラズマ中のFラジカル量の測定結果である。
【図9】実施例2において観察した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いて生成したパルス変調プラズマによりエッチングした基板(アルミパターンの付いたシリコン表面)のSEM観察像である。
【図10】実施例1において測定した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いて生成したパルス変調プラズマ中の負イオン、および、該プラズマ中から負イオンを選択的に引き出して生成した中性粒子ビーム中の残留負イオンのQMSスペクトルである。
【図11】実施例1および比較例1において測定した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いた場合および六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた場合のパルス変調プラズマ中から、負イオンを選択的に引き出して生成した中性粒子ビームの総フラックスの測定結果である。
【図12】実施例3において観察した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いて生成したパルス変調プラズマ中から、カーボン製ビーム引き出し電極を用いて負イオンを選択的に引き出した場合の中性粒子ビームによりエッチングした基板(レジストパターンの付いたポリシリコン表面)のSEM観察像である。
【図13】実施例3において観察した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いて生成したパルス変調プラズマ中から、表面にアルミナを溶射したカーボン製ビーム引き出し電極を用いて負イオンを選択的に引き出した場合の中性粒子ビームによりエッチングした基板(レジストパターンの付いたポリシリコン表面)のSEM観察像である。
【図14】実施例4において観察した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いて生成したパルス変調プラズマ中から、負イオンを選択的に引き出して生成した中性粒子ビームによりエッチングした基板(ライン幅が50nmのレジストパターンの付いたポリシリコン表面)のSEM観察像である。
【図15】実施例1および比較例1において測定した、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いた場合および六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた場合のパルス変調プラズマ中の負イオンのQMSスペクトルである。
【図16】比較例2において観察した、処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いて生成したパルス変調プラズマによりエッチングした基板(アルミパターンの付いたシリコン表面)のSEM観察像である。
【図17】比較例3において観察した、処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いて生成したパルス変調プラズマ中から、カーボン製ビーム引き出し電極を用いて負イオンを選択的に引き出した場合の中性粒子ビームによりエッチングした基板(レジストパターンの付いたポリシリコン表面)のSEM観察像である。
【図18】比較例3おいて観察した、処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いて生成したパルス変調プラズマ中から、表面にアルミナを溶射したカーボン製ビーム引き出し電極を用いて負イオンを選択的に引き出した場合の中性粒子ビームによりエッチングした基板(レジストパターンの付いたポリシリコン表面)のSEM観察像である。
【図19】比較例4において観察した、処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いて生成したパルス変調プラズマ中から、負イオンを選択的に引き出して生成した中性粒子ビームによりエッチングした基板(ライン幅が50nmのレジストパターンの付いたポリシリコン表面)のSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明に係るプラズマ処理方法および該処理方法を利用したプラズマエッチング方法について詳細に説明する。
本発明に係るプラズマ処理方法およびプラズマエッチング方法を実施可能なパルス変調プラズマ生成装置の一例を図1に示す。図1のパルス変調プラズマ生成装置の構成について、以下に説明する。
【0049】
図1のパルス変調プラズマ生成装置は、処理ガス1を供給するポートが設置された石英製プラズマ生成・基板処理室2の外周に、誘導結合プラズマ生成用アンテナ3がコイル状に巻かれており、該アンテナ3にはパルス変調可能なプラズマ生成用高周波電源4が接続されている。
【0050】
処理ガス1を供給したプラズマ生成・基板処理室2の外部から高周波電界を印加すると、プラズマ生成・基板処理室2内にプラズマ5が生成する。高周波電界の印加を連続して行うことにより、通常のプラズマ(以下、「連続プラズマ」という。)を生成し、高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことにより、パルス変調プラズマを生成することができる。高周波電界の印加および印加の停止は、前記高周波電源4から前記アンテナ3に、例えば、放電周波数として13.56MHzのRFバイアスをパルス状に印加することにより行うことができる。なお、高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返す時間(パルス幅)は、任意に設定することができる。
【0051】
また、前記プラズマ生成・基板処理室2内の上下部分には、カーボン製イオン加速用上部電極6およびカーボン製イオン加速用下部電極8が設置されており、それぞれ、電圧印加用電源(上部電極用)7および電圧印加用電源(下部電極用)9が接続されている。
【0052】
前記上部電極6および下部電極8に印加する電圧の電位差を利用することによって、プラズマ5内に生成したイオン(正負に荷電した粒子)が、プラズマ生成・基板処理室2内の基板保持台10の上に設置した基板11の方向に向かってほぼ垂直に加速され、基板11に対してほぼ垂直に照射される。また、前記基板保持台10は冷却装置(図示せず)によって冷却可能である。
【0053】
なお、前記プラズマ生成・基板処理室2内は、排気ポンプ(図示せず)によって排気されており、排気ガス12は排気ガス処理装置(図示せず)によって無害化処理されて系外に排出される。
【0054】
本発明に係るプラズマ処理方法およびプラズマエッチング方法を実施可能なパルス変調プラズマ生成装置の一例を図2に示す。図2のパルス変調プラズマ生成装置の構成について、以下に説明する。
【0055】
図2のパルス変調プラズマ生成装置は、処理ガス61を供給するポートが設置されたプラズマ生成・基板処理室62の上面に、誘導結合プラズマ生成用アンテナ63が渦巻き状に巻かれており、該アンテナ63にはパルス変調可能なプラズマ生成用高周波電源64が接続されている。
【0056】
処理ガス61を供給したプラズマ生成・基板処理室62の外部から高周波電界を印加すると、プラズマ生成・基板処理室62内にプラズマ65が生成する。高周波電界の印加を連続して行うことにより、連続プラズマを生成し、高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことにより、パルス変調プラズマを生成することができる。高周波電界の印加および印加の停止は、前記高周波電源64から前記アンテナ63に、例えば、放電周波数として13.56MHzのRFバイアスをパルス状に印加することにより行うことができる。なお、高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返す時間(パルス幅)は、任意に設定することができる。
【0057】
基板保持台70の下部にはイオン加速用電極68が設置されており、電圧印加用電源69が接続されている。また、前記基板保持時台70は冷却装置(図示せず)によって冷却可能であり、さらに、昇降装置(図示せず)によって基板61の高さ、すなわち基板とプラズマ生成部との距離を変更することができる。
【0058】
なお、前記プラズマ生成・基板処理室62内は、排気ポンプ(図示せず)によって排気されており、排気ガス72は排気ガス処理装置(図示せず)によって無害化処理されて系外に排出される。
【0059】
本発明の第一の方法は、例えば、図1および図2に示したようなパルス変調プラズマ生成装置を用いて、フッ素ガス(F2)を含む処理ガスをプラズマ生成室に供給し、高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことによりプラズマを生成し、該プラズマを基板に照射して基板処理を行うことを特徴とするプラズマ処理方法である。本発明者らは、上記本発明の方法により、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマを生成することに初めて成功した。
【0060】
上記方法により得られたフッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマ中の負イオン(F-)の生成量は、連続プラズマと比較して格段に多い。また、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマ中の負イオン(F-)の生成量は、従来から検討されていた六フッ化硫黄ガス(SF6)を処理ガスとして用いた場合と比較しても格段に多い。
【0061】
また、プラズマの電子密度を計測した結果、フッ素ガス(F2)の連続プラズマの電子密度が、六フッ化硫黄ガス(SF6)の連続プラズマ中の電子密度に比べて極めて大きいことを確認した。プラズマの電子密度が大きいことは、処理ガスのイオン化効率が高いことを示しており、そのようなフッ素ガス(F2)の特性が、パルス変調プラズマ中に多量の負イオン(F-)を生成する原因であると考えられる。すなわち、パルス変調プラズマにおける高周波電界のON時間中に生成した高密度の電子が、続く高周波電解のOFF時間中にフッ素ガス(F2)に解離性付着することによって多量の負イオン(F-)を生成するというスキームが推定される。
【0062】
さらに、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマにおいて、微細加工の障害となる方向性を持たないラジカル(F)の生成量は、従来から検討されていた六フッ化硫黄ガス(SF6)を処理ガスとして用いた場合と比較して格段に少ない。
【0063】
したがって、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いたパルス変調プラズマは、多量に生成した負イオン(F-)を外部からの電界により基板に向かって加速して方向性を持たせることができ、かつ、方向性を持たないラジカル(F)の生成量が少ないため、所望の異方性エッチングを実現することができる。
【0064】
フッ素ガス(F2)は、温暖化係数(GWP)がゼロである非温室効果ガスであるが、従来まで、プラズマ処理技術およびプラズマエッチング処理技術としての実用化検討は、ほとんど行われていなかった。その理由としては、第一に、フッ素ガス(F2)の反応性、腐食性および毒性が極めて高いために、その取扱いが困難であったこと、第二に、フッ素ガス(F2)によるプラズマを従来の方法で生成した場合、重要なエッチング特性である異方性エッチングを実現できないことが従来からよく知られていたことが挙げられる。
【0065】
本発明の方法は、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を含むガスを用いることを特徴としているが、近年の優れた耐食材料の新規開発ならびにガス供給設備の信頼性および安全性の向上に伴って、半導体デバイス等の製造工程において、反応性、腐食性および毒性が高いフッ素ガス(F2)を、プロセスガスとして利用できるようになったという技術的な進歩が背景にある。こうした技術的背景をもとに、本発明者らが、フッ素ガス(F2)を初めてパルス変調プラズマに適用することにより、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマが、微細加工性に優れた特異的な性質、すなわちイオン生成量が多く、かつ、ラジカル生成量が少ないという性質を有していることを初めて見出したことによって、フッ素ガス(F2)を用いたプラズマによる高速の異方性エッチングプロセスを初めて実用可能にした。
【0066】
次に、本発明におけるプラズマ処理方法およびプラズマエッチング方法を実施可能な中性粒子ビーム生成装置の一例を図3に示す。図3の中性粒子ビーム生成装置の構成について、以下に説明する。
【0067】
図3に示した中性粒子ビーム生成装置における石英製プラズマ生成室22は、図1に示したパルス変調プラズマ生成装置における石英製プラズマ生成・基板処理室2と同様の構造を有している。このプラズマ生成室22には、処理ガス21を供給するポートが設置されており、外周には、パルス変調可能なプラズマ生成用高周波電源24が接続された誘導結合プラズマ生成用アンテナ23がコイル状に巻かれている。前記高周波電源24から前記アンテナ23に、例えば、放電周波数として13.56MHzのRFバイアスを印加することによって、プラズマ25(連続プラズマおよびパルス変調プラズマ)を生成することができる。
【0068】
また、前記プラズマ生成室22内の上下部分には、カーボン製イオン加速用上部電極26およびカーボン製イオン加速用下部電極(ビーム引き出し用電極)28が設置されており、それぞれ、電圧印加用電源(上部電極用)27および電圧印加用電源(下部電極用)29が接続されている。
【0069】
前記上部電極26および下部電極28に印加する電圧の電位差を利用することによって、プラズマ25内に生成したイオン(正・負に荷電した粒子)が、ステンレス製基板処理室30内の基板保持台32の上に設置した基板33の方向に向かってほぼ垂直に加速され、基板33に対してほぼ垂直に照射される。
【0070】
プラズマ25内から加速して引き出したイオンを中性化するために、前記下部電極28には、微細孔、例えば、径が1mm、深さが10mmの形状の孔が多数空けられている。前記上部電極26および下部電極28に印加された電圧の電位差によって加速されたイオンは、下部電極28の微細孔を通過する過程で、電荷交換や電子離脱などによって中性化されて中性粒子ビーム31が生成される。中性粒子ビーム31は、基板33に対してほぼ垂直に照射される。また、前記基板保持台32は冷却装置(図示せず)によって冷却可能であり、さらに、昇降装置(図示せず)によって基板33の高さ、すなわち基板とプラズマの生成部との距離を変更可能となっている。
【0071】
なお、前記基板処理室30内は、排気ポンプ(図示せず)によって排気されており、排気ガス34は、排気ガス処理装置(図示せず)によって無害化処理されて系外に排出される。
【0072】
本発明の第二の方法は、例えば、図3に示したような中性粒子ビーム生成装置を用いて、フッ素ガス(F2)を含む処理ガスをプラズマ生成室に供給し、高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことによりプラズマを生成し、該プラズマから負イオンまたは正イオンを、個別にあるいは交互に引き出して中性化することにより中性粒子ビームを生成し、該中性粒子ビームを基板に照射して基板処理を行うことを特徴とするプラズマ処理方法である。
【0073】
上述したように、本発明者らは、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマを初めて生成し、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いたパルス変調プラズマ中には、方向性を持たせることが可能な負イオン(F-)の生成量が格段に多いこと、さらに、方向性を持たないラジカル(F)の生成量が極めて少ないことを見出した。
【0074】
しかしながら、本発明の第一の方法で説明した図1のようなパルス変調プラズマ生成装置では、プラズマ生成室と基板処理室が一体となっているために、異方性エッチングは実現できるものの、プラズマ中に生成する荷電粒子およびフォトンの基板への照射による損傷を回避することができないという問題がある。
【0075】
これに対して、本発明の第二の方法で説明した図3のような中性粒子ビーム生成装置では、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマから、負イオンまたは正イオンを、個別にあるいは交互に引き出して中性化することにより、エッチングプロセスに必要な中性粒子ビームを生成し、これを基板に照射するため、プラズマ中に生成する荷電粒子およびフォトンの基板への照射による損傷を抑制した異方性エッチングを実現することができる。
【0076】
フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマから、負イオンと正イオンとを交互に引き出す方法としては、例えば、図3における下部電極28に交流電圧を印加する方法が挙げられる。具体的には、図3における上部電極26に−50Vの直流電圧を印加し、下部電極28に100Vの交流電圧を印加することにより、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマ中の負イオンと正イオンとが交互に加速され、下部電極28を通過して中性粒子ビーム31が生成される。
【0077】
本発明の第三の方法は、例えば、図3に示したような中性粒子ビーム生成装置を用いて、フッ素ガス(F2)を含む処理ガスをプラズマ生成室に供給し、高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことによりプラズマを生成し、該プラズマから負イオンのみを選択的に引き出して中性化することにより中性粒子ビームを生成し、該中性粒子ビームを基板に照射して基板処理を行うことを特徴とするプラズマ処理方法である。
【0078】
上述したように、負イオンの中性化は、ガス原子・分子に付着した電子の離脱によって進行するため、電荷交換による正イオンの中性化に比べると、低エネルギーで高効率な中性粒子ビームを生成することができる。このように負イオンのみを引き出して中性化した場合、正負両イオンを引き出して中性化する方法と比較して、生成する中性粒子ビームの密度は低下するが、一方で、中性粒子ビームの中性化率が高くなるため、中性粒子ビーム中に残留する荷電粒子が低減される。その結果、プラズマ中に生成している荷電粒子およびフォトンなどの基板への照射による損傷をさらに抑制した異方性エッチングを実現することができる。
【0079】
処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を含むガスを用いてパルス変調プラズマを生成する方法において、処理ガス中のフッ素ガス(F2)の含有濃度は、プラズマ処理方法等の目的に応じて任意に設定することができるが、より高効率で高密度のプラズマおよび中性粒子ビームを得るためには、より高濃度のフッ素ガス(F2)を用いることが好ましく、100容量%のフッ素ガス(F2)を用いることが特に好ましい。
【0080】
また、処理ガスとして、フッ素ガス(F2)と同様に非温室効果ガスである塩素ガス(Cl2)を、フッ素ガス(F2)との混合ガス種として用いることも好ましい。フッ素ガス(F2)と塩素ガス(Cl2)との混合ガスを用いたパルス変調プラズマでは、処理ガス中のフッ素ガス(F2)と塩素ガス(Cl2)との混合比を変化させることによって、F(F-イオンおよび中性Fビーム)とCl(Cl-イオンおよび中性Clビーム)の混合比を容易に変化させることができ、フッ素(F)と塩素(Cl)の化学的性質の違いや粒子サイズの違いを利用したプラズマ処理またはプラズマエッチング処理を行うことができる。
【0081】
例えば、ゲート電極ポリシリコンのエッチングにおいて、より高速エッチングが要求されるエッチング初期の段階では、フッ素ガス(F2)濃度を高めてエッチング反応を高速に進行させ、エッチング反応の最表面がSiO2等の下地膜に近づいて、より選択性の高いエッチングが必要なエッチング後期の段階では、塩素ガス(Cl2)濃度を高めることにより、フッ素(F)と塩素(Cl)の化学的性質の違いを利用したプロセス上の最適化を行なうことができる。また、フッ素(F)は、塩素(Cl)に比べて小さい粒子であることから、より低損傷のエッチングプロセスを構築できる可能性もある。処理ガス中のフッ素ガスと塩素ガスとの混合比は、プラズマ処理方法またはプラズマエッチング方法の目的に応じて、最適に設定することが好ましい。
【0082】
フッ素ガス(F2)の供給源としては、高圧充填されたフッ素ガスシリンダ、あるいはフッ化水素の電気分解反応または金属フッ化物の加熱分解反応を利用したフッ素ガス発生装置などの任意の供給システムを選択して利用することができる。これらの中では、より安全性が高く、かつ、より高純度のフッ素ガス(F2)を供給することができる、固体状の金属フッ化物の加熱分解反応を利用したシステムが特に好ましい。
【0083】
フッ素ガス(F2)を含む処理ガスを用いてプラズマを生成する際のプラズマ生成室のガス圧力は、プラズマ処理方法等の目的に応じて任意に設定することができるが、0.1〜100Pa、好ましくは0.3〜10Pa、特に好ましくは0.5〜5Paの範囲とすることが望ましい。ガス圧力を上記範囲とすることにより、高効率で高密度のプラズマおよび中性粒子ビームを得ることができる。なお、プラズマ生成室のガス圧力が上記範囲よりも低いと、高密度のプラズマを生成することが困難であり、上記範囲を超えると、プラズマおよび中性粒子ビームの生成効率が低下する傾向にある。
【0084】
また、高周波電界の印加(ON)と印加の停止(OFF)とを交互に繰り返すことにより、処理ガスをプラズマ化してパルス変調プラズマを生成する方法において、ON時間とOFF時間の組み合わせは、任意に設定することができ、数十μ秒のオーダーでONとOFFを繰り返す方法が一般的である。本発明のように、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を含むガスを用いる場合には、OFF時間を20〜100μ秒、好ましくは40〜90μ秒、特に好ましくは50〜70μ秒とすることが望ましい。OFF時間が上記範囲よりも短いと負イオンの生成が不十分となる傾向があり、OFF時間が上記範囲を超えるとプラズマ中の電子密度が低下して、続くON時の放電が困難になる現象や、ON時に電子温度が急激に上昇して電子が増殖するなどの現象が生じ、パルス変調の効果が阻害されてしまう傾向にある。
【0085】
上記のような本発明のプラズマ処理方法は、基板表面を高精度にフッ素化(基板表面へのフッ素侵入深さやフッ素濃度勾配などを精密に制御)するためのフッ素化処理方法や、各種基板表面を低損傷で高精度(異方性・選択性・高速)に微細加工するプラズマエッチング方法などに好適に利用することができる。さらに、半導体デバイスやMEMSデバイスの製造工程において重要なシリコンおよびシリコン化合物のプラズマエッチング技術として好適に利用することができる。なお、前記シリコン化合物としては、酸化珪素、窒化珪素、珪酸塩(例えば、ガラス状の珪酸ナトリウム等)などが挙げられる。
【0086】
特に、従来から検討されていた六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いる方法と比較して、本発明の方法は、エッチング反応に対して良好なプラズマおよび中性粒子ビームを生成できるため、次世代のプラズマエッチング技術に適用可能なフッ素(F-イオンおよび中性Fビーム)源として極めて有望な方法である。そのため、本発明は、塩素(Cl-イオンおよび中性Clビーム)源として利用する塩素ガス(Cl2)のパルス変調プラズマと組み合わせることにより、フッ素(F)および塩素(Cl)の化学的性質や粒子サイズの違い等を利用して、最適なプロセスを構築することを初めて可能とした。
【0087】
例えば、各エッチングプロセスのエッチング対象物質やエッチング目的に応じて、中性Fビームと中性Clビームとを使い分けたり、あるいは、これらを混合することによって、エッチング速度や選択性を高めることができる。それゆえ、次世代の新プロセスに利用される新規材料(Hf系のhigh−kや貴金属などを含むあらゆる金属化合物)をエッチングするプロセスへの適用可能性も充分に高いものである。
【0088】
したがって、本発明の微細加工技術を利用することにより、これまでにない超高性能半導体デバイスや新規のMEMSデバイスを製作することができる。
さらに、処理ガスとして、非温室効果ガスであり、かつ、安価なフッ素ガス(F2)を用いることから、環境調和型で実用性も高いプロセスであるため、その技術的な価値は極めて大きいものである。
【実施例】
【0089】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0090】
[実施例1]
図4に示したプラズマ・中性粒子ビーム分析装置を用いて、フッ素ガス(F2)から連続プラズマ、パルス変調プラズマおよび中性粒子ビームを生成し、QMS(四重極質量分析計)、マイクロ波干渉計、発光分光計、ファラデーカップおよびカロリーメーターを用いて、生成した連続プラズマ、パルス変調プラズマおよび中性粒子ビームの分析を行った。
【0091】
まず、図4のプラズマ・中性粒子ビーム分析装置の構成について、以下に説明する。図4に示したプラズマ・中性粒子ビーム分析装置における石英製プラズマ生成室42は、図1に示したパルス変調プラズマ生成装置における石英製プラズマ生成・基板処理室2と同様の構造を有している。前記プラズマ生成室42には、処理ガス41を供給するポートが設置されており、外周には、パルス変調可能なプラズマ生成用高周波電源44が接続された誘導結合プラズマ生成用アンテナ43がコイル状に巻かれている。前記高周波電源44から前記アンテナ43に、例えば、放電周波数として13.56MHzのRFバイアスを印加することによって、プラズマ45(連続プラズマおよびパルス変調プラズマ)を生成することができる。
【0092】
また、前記プラズマ生成室42内の上下部分には、カーボン製イオン加速用上部電極46およびカーボン製イオン加速用下部電極(ビーム引き出し用電極)48が設置されており、それぞれ、電圧印加用電源(上部電極用)47および電圧印加用電源(下部電極用)49が接続されている。
【0093】
前記上部電極46および下部電極48に印加する電圧の電位差を利用することによって、プラズマ45内に生成したイオン(正負に荷電した粒子)が、ステンレス製計測室50内に設置した計測機器52の方向に向かってほぼ垂直に加速され、計測機器52に対してほぼ垂直に照射される。
【0094】
プラズマ45内から加速して引き出したイオンを中性化するために、前記下部電極48には、多数の微細孔(径が1mmで深さが10mmの形状の孔)が電極面積の50%相当空けられている。前記上部電極46および下部電極48に印加された電圧の電位差によって加速されたイオンは、下部電極48の微細孔を通過する過程で、電荷交換や電子離脱等によって中性化されて中性粒子ビーム51が生成される。中性粒子ビーム51は、計測機器52に対してほぼ垂直に照射される。
【0095】
ステンレス製計測室50内は、排気用ターボ分子ポンプ(図示せず)によって排気されており、排気ガス53は排気ガス処理装置(図示せず)によって無害化処理されて系外に排出される。
【0096】
<実験1>
図4に示したプラズマ・中性粒子ビーム分析装置におけるプラズマ生成室42に、処理ガス41として100容量%のフッ素ガス(F2)を30ml/minで導入し、前記高周波電源44から前記アンテナ43に、放電周波数として13.56MHzのRFバイアス(500Wまたは1kW)を連続で印加することにより、連続プラズマを生成した。このとき、前記上部電極46および下部電極48は、電圧を印加せず接地の状態とした。なお、プラズマ生成時におけるプラズマ生成室42内の圧力は1Paとした。また、前記フッ素ガス(F2)としては、金属フッ化物であるK3NiF7を充填した容器を350℃に加熱することによって、K3NiF7の加熱分解反応により発生したフッ素ガス(F2)を用いた。
【0097】
前記計測室50内で、下部電極48の下部約200mmの位置に、QMSのガス取入れ口が配置されるようにQMS(計測機器52)を設置し、プラズマ45の計測を行った。このように、上部電極46および下部電極48に電圧を印加せず接地の状態とした場合、プラズマ生成室42内に生成したプラズマ45は、プラズマ組成を維持したまま、ほとんど中性化されることなく下部電極48を通過してQMSに流入する。前記計測室50内は、排気用ターボ分子ポンプによって高速排気され、排気ガス53は排気ガス処理装置によって無害化処理されて系外に排出した。
【0098】
以上の方法により、フッ素ガス(F2)の連続プラズマ中の負イオンをQMS計測によって分析した。RFバイアス=500Wの分析結果を図5に、RFバイアス=1kWの分析結果を図6に示す。
【0099】
<実験2>
次に、図4に示したプラズマ・中性粒子ビーム分析装置におけるプラズマ生成室42に、処理ガス41として100容量%のフッ素ガス(F2)を30ml/minで導入し、高周波電源44からアンテナ43に、放電周波数として13.56MHzのRFバイアス=2kW(ON時間中)または500W(ON時間中)をパルス状に印加してパルス変調プラズマを生成した。このとき、パルス変調におけるON時間/OFF時間は、50μ秒/50μ秒とした。このようにアンテナ43に印加する電圧をパルス状に変調してパルス変調プラズマを生成した以外は、実施例1の実験1と同様にして、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマ中の負イオンをQMS計測によって分析した。RFバイアス=2kW(ON時間中)の分析結果を図5に、RFバイアス=1kW(ON時間中)の分析結果を図6に示す。
【0100】
図5および図6から明らかなように、フッ素ガス(F2)の連続プラズマでは、F-イオンの生成量が少量であるのに対して、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマでは、F-イオンの生成量が顕著に増大している。
【0101】
<実験3>
図4に示したプラズマ・中性粒子ビーム分析装置におけるプラズマ生成室42に、処理ガス41として100容量%のフッ素ガス(F2)を30ml/minで導入し、前記高周波電源44から前記アンテナ43に、放電周波数として13.56MHzのRFバイアスを連続で印加することにより、連続プラズマを生成した。このとき、前記上部電極46および下部電極48は、電圧を印加せず接地の状態とした。なお、プラズマ生成時におけるプラズマ生成室42内の圧力は1Paとした。また、前記フッ素ガス(F2)としては、金属フッ化物であるK3NiF7を充填した容器を350℃に加熱することによって、K3NiF7の加熱分解反応により発生したフッ素ガス(F2)を用いた。
【0102】
プラズマ生成室42の外部にマイクロ波干渉計(図示せず)を設置して、フッ素ガス(F2)の連続プラズマの電子密度を計測した。アンテナ43に印加する高周波電界の出力を変化させてプラズマを生成し、フッ素ガス(F2)の連続プラズマの電子密度についてRF出力依存性を測定した。分析結果を図7に示す。
【0103】
図7中には、比較のため後述する比較例1の実験2で行った六フッ化硫黄ガス(SF6)の結果についても示してある。図7より、フッ素ガス(F2)の連続プラズマでは、六フッ化硫黄ガス(SF6)と比較して電子密度が大きく、RF出力を400W程度とした場合でも1.0×1011/cm3以上となることがわかった。さらにRF出力の増加に伴い、電子密度は単調に増大することがわかった。連続プラズマの電子密度が高いことは、パルス変調プラズマにおける高周波電界のON時間中の電子密度が高いことを示している。
【0104】
したがって、前述したように、パルス変調プラズマでは、ON時間中に生成した高密度の電子が、続く高周波電界のOFF時間中にフッ素ガス(F2)に解離性付着することによって多量の負イオン(F-)を生成することが期待される。
【0105】
<実験4>
図4に示したプラズマ・中性粒子ビーム分析装置におけるプラズマ生成室42に、処理ガス41として、フッ素ガス(F2)を30ml/minおよびアルゴンガスを1.5ml/minで導入し、前記高周波電源44から前記アンテナ43に、放電周波数として13.56MHzのRFバイアスを連続で印加することにより、連続プラズマを生成した。このとき、前記上部電極46および下部電極48は、電圧を印加せず接地の状態とした。なお、プラズマ生成時におけるプラズマ生成室42内の圧力は1Paとした。また、前記フッ素ガス(F2)としては、金属フッ化物であるK3NiF7を充填した容器を350℃に加熱することによって、K3NiF7の加熱分解反応により発生したフッ素ガス(F2)を用いた。
【0106】
プラズマ生成室42の外部に発光分光計(図示せず)を設置して、フッ素ガス(F2)の連続プラズマの発光スペクトルを計測した。アンテナ43に印加する高周波電界の出力を変化させてプラズマを生成し、フッ素ガス(F2)の連続プラズマの発光スペクトルについてRF出力依存性を測定した。各プラズマ条件で得られた発光スペクトルより、フッ素ラジカル(F)の発光ピーク(703.7nm)に対するアルゴンラジカル(Ar)の発光ピーク(750.4nm)の強度比[IF(703.7nm)/IAr(750.4nm)]を算出した。IF(703.7nm)/IAr(750.4nm)値の相互比較によって、フッ素ラジカル(F)量の相対比較が可能である。以上の方法は、一般に発光アクチノメトリと呼ばれる分析手法である。分析結果を図8に示す。
【0107】
図8には、比較のため後述する比較例1の実験3で行った六フッ化硫黄ガス(SF6)の結果についても示してある。図8より、フッ素ガス(F2)の連続プラズマでは、IF(703.7nm)/IAr(750.4nm)の値は六フッ化硫黄ガス(SF6)に比べて非常に小さく、RF出力を300〜1000Wと増加した場合でも、IF(703.7nm)/IAr(750.4nm)はほぼ一定の値を示すことがわかった。すなわち、フッ素ガス(F2)の連続プラズマでは、計測を行ったRF出力領域において、フッ素(F)ラジカル量が非常に少ないことがわかった。
【0108】
<実験5>
図4に示したプラズマ・中性粒子ビーム分析装置における上部電極46に−100Vの直流電圧を印加し、下部電極48に−50Vの直流電圧を印加した以外は、実施例1の実験2と同様の方法で、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマを生成した。
【0109】
前記上部電極46および下部電極48に、このような電位差を設けることによって、パルス変調プラズマ内に生成している多量の負イオン(F-)が、下部電極48の方向にほぼ垂直に加速され、下部電極48の微細孔を通過する過程で、付着電子の離脱によって中性化されて中性粒子ビーム51が生成され、計測室50内のQMS(計測機器52)に流入する。
【0110】
以上の方法により、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマ中の負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビーム中に残留する(=中性化されなかった)負イオンを、QMS計測により分析した結果を図10に示す。比較のため、実施例1の実験2において分析したフッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマの負イオン分析結果についても図10に示す。
【0111】
図10から明らかなように、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化することにより生成した中性粒子ビームには、中性化されずに残留する負イオン(F-)がほとんど含まれていない。すなわち、この結果は、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマ中の負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームの中性化率が極めて高い(高効率である)ことを示している。
【0112】
<実験6>
図4における計測室50内に設置する計測機器52として、ファラデーカップを用い、ファラデーカップのガス取入れ口の位置が、下部電極48の下部約20mmの位置に配置されるようにファラデーカップ(計測機器52)を設置した以外は、実施例1の実験5と同様の方法により、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマ中の負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビーム中に残留する(=中性化されなかった)負イオンの電流密度をファラデーカップを用いて測定した。その結果、中性粒子ビーム中の残留負イオン電流密度は、検出可能な下限値(0.4μA/cm2)未満であり、極めて低いことが確認された。
【0113】
QMSおよびファラデーカップの計測結果から、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマでは、多量のF-イオンを生成すること、また、プラズマ中に多量に生成されたF-イオンは高効率に中性化することが可能であり、ほぼ100%に近い中性化率を実現していることが明らかとなった。
【0114】
<実験7>
図4における計測室50内に設置する計測機器52として、カロリーメーターを設置したこと以外は、実施例1の実験5と同様の方法により、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマ中の負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームのフラックスをカロリーメーターにより計測した。カロリーメーターに流入したビームの運動エネルギーは、カロリーメーターでほぼ完全に熱変換されると考えられるため、カロリーメーターの出力電圧の変化(ΔV/15秒)を中性粒子ビームのフラックスとした。結果を図11に示す。
【0115】
図11には、比較のため後述する比較例1の実験4で行った六フッ化硫黄ガス(SF6)の結果についても示してある。図11から明らかなように、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマの負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームのフラックスは、六フッ化硫黄ガス(SF6)に比べて5倍以上大きいことがわかった。
【0116】
[実施例2]
フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマによって基板のプラズマエッチングを行い、シリコン(Si)のエッチング速度を測定し、エッチング形状を観察した。
【0117】
<実験1>
図2に示したパルス変調プラズマ生成装置を用いて、プラズマ生成・基板処理室62に、処理ガス61として実施例1で用いたものと同じ100容量%のフッ素ガス(F2)を30ml/minで導入し、高周波電源64からアンテナ63に、放電周波数として13.56MHzのRFバイアス(1kW)を印加して連続プラズマ65を生成した。
【0118】
カーボン製イオン加速用電極68には、電圧印加用電源69より1MHzのRFバイアスを出力50Wで印加した。このようにカーボン製イオン加速用電極68にRFバイアスを印加することによって、プラズマ65内に生成している正負イオンが基板保持台70の方向にほぼ垂直に加速され、基板に照射される。
【0119】
基板保持台70を、プラズマ生成部の下部50mmの位置に配置し、−20℃に冷却した。基板保持台70上には、表面にエッチングマスクとしてアルミニウム薄膜が堆積されたシリコン(Si)基板を設置して、前記プラズマ65によって基板のプラズマエッチングを行った。エッチング速度は、エッチング処理時間のみを変化させて複数回のエッチング処理を行って、段差測定装置を用いてエッチング深さを計測して算出した。実験で得られたエッチング速度を表1に示す。
【0120】
<実験2>
高周波電源64からアンテナ63に、放電周波数として13.56MHzのRFバイアス=1kW(ON時間中)をパルス状に印加してパルス変調プラズマ65を生成した以外は、実施例2の実験1と同様の方法で基板のプラズマエッチングを行った。このとき、パルス変調におけるON時間/OFF時間は、50μ秒/50μ秒とした。実験で得られたエッチング速度を表1に示す。また、エッチング形状を観察したSEM(走査電子顕微鏡)像を図9に示す。
【0121】
【表1】

表1より、フッ素ガス(F2)の連続プラズマ(RF出力=1kw)によるエッチング速度に比べて、パルス変調プラズマ(RF出力=1kW(ON時間中))のエッチング速度が、実質のプラズマパワーが半分(0.5倍)であるにも係わらず約1.5倍も大きくなっていることがわかった。また、図9より、Siのエッチングが、側壁保護膜の形成を必要とせずに垂直に進行できることが実証された。さらに、これらの結果より、フッ素ガス(F2)のプラズマをパルス変調することによりプラズマ中に多量に生成した負イオン(F-)が、Siのエッチングに大きく寄与していることが明らかとなった。フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマによるエッチングでは、良好な垂直加工性を維持しながら、エッチング速度は1μm/minを超過しており、これらの結果は、MEMS等の製造工程で要求される加工条件を満足するものである。
【0122】
[実施例3]
フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームによって、基板のプラズマエッチングを行った。中性粒子ビームの組成を調べるために、Fラジカルの付着係数が異なるビーム引き出し電極を用いて、ポリシリコン(Poly−Si)およびSiO2のエッチング速度を測定し、さらに、Poly−Siのエッチング形状を観察した。
【0123】
<実験1>
図3に示した中性粒子ビーム生成装置を用いて、プラズマ生成室22に、処理ガス21として実施例1で用いたものと同じ100容量%のフッ素ガス(F2)を30ml/minで導入し、高周波電源24からアンテナ23に、放電周波数として13.56MHzのRFバイアス=1kW(ON時間中)をパルス状に印加してパルス変調プラズマを生成した。このとき、パルス変調におけるON時間/OFF時間は、50μ秒/50μ秒とした。
【0124】
前記上部電極26に−100Vの直流電圧を印加し、下部電極28には−50Vの直流電圧を印加した。このような電位差を設けることによって、パルス変調プラズマ内に生成している負イオン(F-)が、下部電極28の方向にほぼ垂直に加速され、下部電極28の微細孔を通過する過程で、付着電子の離脱によって中性化されて中性粒子ビーム31が生成され、ステンレス製基板処理室30内に流入する。
【0125】
前記基板処理室30内の基板保持台32を、下部電極28の下部20mmの位置に配置し、−20℃に冷却した。基板保持台32上に、表面にPoly−Si膜またはSiO2膜が堆積された基板を設置して、前記中性粒子ビーム31によって、基板のプラズマエッチングを行い、Poly−SiおよびSiO2のエッチング速度を測定した。エッチング速度は、エッチング処理時間のみを変化させて複数回のエッチング処理を行って、段差測定装置を用いてエッチング深さを計測することによって計算した。
【0126】
次に、下部電極28の表面にアルミナを溶射してコーティングしたビーム引き出し用電極を用いた以外は、上記と同様の条件でPoly−SiおよびSiO2のエッチング速度を測定した。これらの測定結果を表2にまとめて示す。
【0127】
【表2】

カーボン電極表面にアルミナを溶射することにより、ビーム引き出し用電極表面のFラジカルの付着および反応が抑制される。そのため、ビーム引き出し用電極として、アルミナ溶射電極を用いた場合には、プラズマ中に存在するFラジカルが電極との反応によって消失することがほとんどなく、そのまま中性粒子ビームに混入することとなる。
【0128】
したがって、カーボン製電極を用いた場合およびアルミナ溶射電極を用いた場合のエッチング速度を測定することによって、基板のエッチング特性に対してFラジカルが寄与している割合を推測することが可能となる。つまり、中性粒子ビーム中にラジカルが多い場合には、ラジカルの消失を抑制したアルミナ溶射電極を用いた場合のエッチング速度が、ラジカルを消失するカーボン電極を用いた場合のエッチング速度に比べて、顕著に大きくなると考えられる。
【0129】
また、Poly−Siは、中性Fビームだけではなく拡散するFラジカルによっても自発的にエッチングされるのに対して、SiO2のエッチングは、運動エネルギーの大きな中性Fビームによる寄与が大きいと考えられる。そのため、Poly−SiおよびSiO2の両者のエッチング速度を測定することによって、中性Fビーム中に混入するFラジカルの割合を推測することができる。つまり、中性粒子ビーム中にラジカルが多い場合には、Poly−Siのエッチング速度は大きくなり、一方でSiO2のエッチング速度は小さくなると考えられる。
【0130】
表2の結果から、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームにおいて、ビーム引き出し用電極としてカーボン製電極を用いた場合と、アルミナ溶射電極を用いた場合とを比較すると、Poly−Siのエッチング速度差が大きくないことがわかった。すなわち、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビーム中には、方向性を持たないFラジカルの生成量が少ないことが明らかになった。同時に、この結果は、中性化した中性粒子ビーム中ばかりでなく、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマ自体の中に、Fラジカルの生成量が少ないことを示している。
【0131】
<実験2>
図3に示した中性粒子ビーム生成装置を用いて、実施例3の実験1と同様の方法によりPoly−Siをエッチングし、SEM(走査電子顕微鏡)観察を行って、エッチング形状を評価した。エッチング形状評価のためのサンプルは、Si基板上に熱酸化処理によってSiO2膜(300nm)を形成し、その上に150nmのポリシリコン(Poly−Si)膜を堆積させたものを用いた。エッチングマスクとして、Poly−Siの表面には反射防止膜およびレジストを塗布して露光・現像処理を施した。エッチングの形状評価を目的として、エッチング処理時間は、20%分のオーバーエッチングとなる条件、すなわち、Poly−Siの膜厚150nmの1.2倍である180nmをエッチング可能な時間に設定した。ビーム引き出し用電極として、カーボン電極およびアルミナ溶射電極の双方を用いた結果を、それぞれ図12および図13に示す。
【0132】
図12および図13に示したSEM観察結果から明らかなように、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームでは、高精度な異方性エッチングが実現されており、中性粒子ビーム中には、方向性を持たないFラジカルの生成量が少ないと推測した実施例3の実験1の結果が実証された。
【0133】
[実施例4]
フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームによって、基板のプラズマエッチングを行った。次世代のゲート長である50nmのポリシリコン(Poly−Si)膜を堆積させた基板を用いた。
【0134】
図3に示した中性粒子ビーム生成装置を用いて、下部電極28を接地とした以外は実施例3の実験1と同様の方法によりPoly−Siをエッチングした。SEM(走査電子顕微鏡)観察を行って、エッチング速度およびエッチング形状の評価を行った。ビーム引き出し用電極28はカーボン電極とした。結果を図14に示す。
【0135】
図14から明らかなように、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームによって、50nmのポリシリコン(Poly−Si)パターンの形成に成功することができた。また、エッチング速度は29.4nm/minであり、ゲート電極を加工する上で実用的な速度を得ることができた。
【0136】
[比較例1]
処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いたパルス変調プラズマ、およびパルス変調プラズマ中から引出した中性粒子ビームを生成し、各種計測機器による分析を行った。前述した実施例1との比較を行い、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いた場合の優位性を確認した。
【0137】
<実験1>
処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた以外は、実施例1の実験2と同様の方法により、六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマ中の負イオンを、QMS計測により分析した。分析結果を図15に示す。図15には、比較のため、前述した実施例1の実験2において分析したフッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマの負イオン分析結果についても示す。
【0138】
図15から明らかなように、六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマでは、F-イオンがほとんど生成せず、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマと比較して、F-イオン量が格段に少ない。
【0139】
<実験2>
処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた以外は、実施例1の実験3と同様の方法により、六フッ化硫黄ガス(SF6)の連続プラズマの電子密度を測定した。分析結果を図7に示す。
【0140】
図7中には、比較のため前述した実施例1の実験3で行ったフッ素ガス(F2)の結果についても示してある。図7より、フッ素ガス(F2)の連続プラズマでは、六フッ化硫黄ガス(SF6)と比較して電子密度が大きいこと、すなわちフッ素ガス(F2)のイオン化効率が六フッ化硫黄ガス(SF6)に比べて高いことが確認された。
【0141】
<実験3>
処理ガスとして、六フッ化硫黄ガス(SF6)を30ml/minおよびアルゴンガスを1.5ml/minで用いた以外は、実施例1の実験4と同様の方法により、六フッ化硫黄ガス(SF6)の連続プラズマのフッ素ラジカル(F)量を測定した。分析結果を図8に示す。
【0142】
図8中には、比較のため前述した実施例1の実験4で行ったフッ素ガス(F2)の結果についても示してある。図8より、フッ素ガス(F2)の連続プラズマは六フッ化硫黄ガス(SF6)に比べて、IF(703.7nm)/IAr(750.4nm)の値は非常に小さいこと、すなわちフッ素(F)ラジカル量が少ないことが確認された。
【0143】
<実験4>
処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた以外は、実施例1の実験7と同様の方法にて、六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマ中の負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームのフラックスを計測した。結果を図11に示した。
【0144】
図11には、比較のため前述した比較例1の実験7で行ったフッ素ガス(F2)の結果についても示してある。図11から明らかなように、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマの負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームのフラックスは、六フッ化硫黄ガス(SF6)に比べて5倍以上大きいことが確認された。
【0145】
[比較例2]
処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いたパルス変調プラズマによって基板のプラズマエッチングを行い、シリコン(Si)のエッチング速度を測定し、エッチング形状を観察した。前述した実施例2との比較を行い、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いた場合の優位性を確認した。
【0146】
<実験1>
処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた以外は、実施例2の実験1と同様の方法で、六フッ化硫黄ガス(SF6)の連続プラズマを生成して、シリコン(Si)基板のプラズマエッチングを行った。エッチング速度は、エッチング処理時間のみを変化させて複数回のエッチング処理を行って、段差測定装置を用いてエッチング深さを計測して算出した。得られたエッチング速度を表3に示す。
【0147】
<実験2>
処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた以外は、実施例2の実験2と同様の方法でシリコン(Si)基板のパルス変調プラズマによるエッチングを行った。実験で得られたエッチング速度を表3に示す。また、エッチング形状を観察したSEM(走査電子顕微鏡)像を図16に示す。
【0148】
【表3】

表3より、六フッ化硫黄ガス(SF6)の連続プラズマ(RF出力=1kw)によるエッチング速度に比べて、パルス変調プラズマ(RF出力=1kW(ON時間中))のエッチング速度が小さくなっていることがわかった。このことは、前述した実施例2の実験1および実験2(表1)の結果と大きく異なっている。六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマのエッチング速度が、連続プラズマによるエッチング速度に比べて小さくなるのは、六フッ化硫黄ガス(SF6)プラズマのエッチング反応において主に寄与している反応種がラジカルであって、そのラジカルの生成量が、連続プラズマに比べてパルス変調プラズマでは小さくなっているためであると考えられる。また、図16より、六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマでは、Siのエッチングにおいて大きなアンダーカット(サイドエッチ)を生じること、すなわち等方性のエッチングが進行していることが確認された。
【0149】
[比較例3]
<実験1>
処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた以外は、実施例3の実験1と同様の方法により、六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマを生成し、パルス変調プラズマ中の負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームによるPoly−SiおよびSiO2のエッチング速度を測定した。その結果を表4に示す。
【0150】
【表4】

表4から明らかなように、六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームにおいて、ビーム引き出し用電極としてカーボン製電極を用いた場合と、アルミナ溶射電極を用いた場合とを比較すると、Poly−Siのエッチング速度差が極めて大きい。すなわち、この結果は、従来の六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマは、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマに比べて、プラズマ中のFラジカルの生成量が極めて多いことを示している。
【0151】
また、表2と表4を比較すると、運動エネルギーの大きな中性Fビームによる寄与が大きいと考えられるSiO2のエッチング速度は、カーボン製電極を用いた場合およびアルミナ溶射電極を用いた場合のいずれにおいても、フッ素ガス(F2)を用いた場合のエッチング速度が、六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた場合のエッチング速度を上回っている。この結果は、フッ素ガス(F2)のパルス変調プラズマは、従来の六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマに比べて、中性Fビームの生成効率が格段に優れていることを示している。
【0152】
<実験2>
処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた以外は、実施例3の実験2と同様の方法によりPoly−Siをエッチングし、SEM(走査電子顕微鏡)観察を行って、エッチング形状を評価した。ビーム引き出し用電極として、カーボン電極を用いたときの結果を図17に、アルミナ溶射電極を用いたときの結果を図18に示す。
【0153】
図17および図18に示したSEM像には、エッチングマスクの下に、明らかなサイドエッチングが観察された。このようなサイドエッチングは、中性粒子ビーム中に混入するラジカル(方向性を持たないF原子)量が多いことを示している。特に、アルミナを溶射した電極を使用した場合にサイドエッチングが顕著に表れている。この結果は、カーボン電極を用いた場合に比べて、ラジカル量が多いことを示している。
【0154】
したがって、六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームでは、エッチング形状が等方性となり、異方性エッチングを達成できないことが明らかとなった。すなわち、六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いた中性粒子ビーム中には、方向性を持たないFラジカルの生成量が極めて多いと推測した比較例3の実験1の推測を裏付けるものである。
【0155】
以上の実験結果から、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いたパルス変調プラズマは、従来の六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いたパルス変調プラズマと比較して、F-イオンの生成量が格段に多いこと、また、微細加工の障害となる方向性を持たないFラジカルの生成量が格段に少ないことが明らかになった。さらに、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いたパルス変調プラズマから引き出した中性粒子ビームは、方向性が揃った中性のFビームであり、異方性のエッチングを実現できることが明らかになった。
【0156】
[比較例4]
処理ガスとして六フッ化硫黄ガス(SF6)を用いたパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームによって、基板のプラズマエッチングを行った。次世代のゲート長である50nmのポリシリコン(Poly−Si)膜を堆積させた基板を用いた。前述した実施例4との比較を行い、処理ガスとしてフッ素ガス(F2)を用いた場合の優位性を確認した。結果を図19に示す。
【0157】
図19より、六フッ化硫黄ガス(SF6)のパルス変調プラズマから負イオンを選択的に引き出して、これを中性化して生成した中性粒子ビームでは、明らかに大きなアンダーカット(サイドエッチ)が確認され、50nmレベルのポリシリコン(Poly−Si)パターンの形成はできないことがわかった。また、エッチング速度は18.0nm/minであり、上述したフッ素ガス(F2)を用いた場合(実施例4)のエッチング速度(29.4nm/min)に比べても小さいことがわかった。
【符号の説明】
【0158】
1 処理ガス
2 石英製プラズマ生成・基板処理室
3 誘導結合プラズマ生成用アンテナ
4 パルス変調可能なプラズマ生成用高周波電源
5 プラズマ
6 カーボン製イオン加速用上部電極
7 電圧印加用電源(上部電極用)
8 カーボン製イオン加速用下部電極
9 電圧印加用電源(下部電極用)
10 基板保持台
11 基板
12 排気ガス
21 処理ガス
22 石英製プラズマ生成室
23 誘導結合プラズマ生成用アンテナ
24 パルス変調可能なプラズマ生成用高周波電源
25 プラズマ
26 カーボン製イオン加速用上部電極
27 電圧印加用電源(上部電極用)
28 カーボン製イオン加速用下部電極(ビーム引き出し用電極)
29 電圧印加用電源(下部電極用)
30 ステンレス製基板処理室
31 中性粒子ビーム
32 基板保持台
33 基板
34 排気ガス
41 処理ガス
42 石英製プラズマ生成室
43 誘導結合プラズマ生成用アンテナ
44 パルス変調可能なプラズマ生成用高周波電源
45 プラズマ
46 カーボン製イオン加速用上部電極
47 電圧印加用電源(上部電極用)
48 カーボン製イオン加速用下部電極(ビーム引き出し用電極)
49 電圧印加用電源(下部電極用)
50 ステンレス製計測室
51 中性粒子ビーム
52 計測機器
53 排気ガス
61 処理ガス
62 プラズマ生成・基板処理室
63 誘導結合プラズマ生成用アンテナ
64 パルス変調可能なプラズマ生成用高周波電源
65 プラズマ
68 カーボン製イオン加速用電極
69 電圧印加用電源
70 基板保持台
71 基板
72 排気ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100容量%のフッ素ガス(F2)である処理ガスをプラズマ生成室に供給し、
高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことによりプラズマを生成し、
該プラズマを基板に照射して基板処理を行うことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
100容量%のフッ素ガス(F2)である処理ガスをプラズマ生成室に供給し、
高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことによりプラズマを生成し、
該プラズマから負イオンまたは正イオンを、個別にあるいは交互に引き出して中性化することにより中性粒子ビームを生成し、
該中性粒子ビームを基板に照射して基板処理を行うことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項3】
100容量%のフッ素ガス(F2)である処理ガスをプラズマ生成室に供給し、
高周波電界の印加と印加の停止とを交互に繰り返すことによりプラズマを生成し、
該プラズマから負イオンのみを選択的に引き出して中性化することにより中性粒子ビームを生成し、
該中性粒子ビームを基板に照射して基板処理を行うことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項4】
前記フッ素ガス(F2)が、固体状の金属フッ化物を加熱分解することにより生じるフッ素ガス(F2)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【請求項5】
前記プラズマを生成する際のプラズマ生成室のガス圧力が、0.1〜100Paであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【請求項6】
前記プラズマを生成する際の高周波電界の印加の停止時間が、20〜100μ秒であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のプラズマ処理方法を利用することを特徴とする基板のフッ素化処理方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のプラズマ処理方法を利用することを特徴とする基板のプラズマエッチング方法。
【請求項9】
請求項8に記載のプラズマエッチング方法を利用することを特徴とするシリコンまたはシリコン化合物のプラズマエッチング方法。
【請求項10】
前記シリコン化合物が、酸化珪素、窒化珪素または珪酸塩であることを特徴とする請求項9に記載のプラズマエッチング方法。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図15】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−199297(P2011−199297A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101150(P2011−101150)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【分割の表示】特願2005−91867(P2005−91867)の分割
【原出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】