説明

プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法

【課題】種々の分野で利用可能とするべく、大気圧条件下で、新たなガスの供給を行うことなく、低温で、安定的にプラズマを発生させることが可能なプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】被処理物をプラズマで処理するプラズマ処理装置100であって、電源に接続された第1電極10と、被処理物を設置可能なように、第1電極10から離間させた状態で対向配置された第2電極20と、第1電極10と第2電極20との間に設けられた第3電極30と、を備え、第1電極10と第3電極30との間にプラズマを発生させるための、パルス発生手段80を設け、発生した前記プラズマを引き出す引出電圧が、第2電極20と第3電極30との間に印加されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物をプラズマで処理するプラズマ処理装置、及びプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置は、特に、半導体製造工程、プラズマCVD、エッチング等のエレクトロニクス分野においては、従来から頻繁に利用されてきた。例えば、半導体基板の表面に薄膜を生成し、エッチング処理を行うために使用されるプラズマ処理装置が公知となっている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1のプラズマ処理装置は、真空容器の内部にアノード極とカソード極とを設置し、カソード極側にシャワー電極板を設けている。このプラズマ処理装置は、カソード極とシャワー電極とが実質的に一体となっている二極構造のプラズマ処理装置である。カソード極は中空構造となっており、カソード極の内部に反応ガスが供給される。反応ガスは、カソード極の表面に形成された孔部から流出し、カソード極とアノード電極との間で発生したプラズマによって解離する。解離したガスは、シャワー電極板の孔部を通過し、アノード極上に設置した被処理物(半導体基板)に供給される。これにより、半導体基板の表面に薄膜形成、エッチング、アッシング等のプロセスが実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−291064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、プラズマ処理装置を、エレクトロニクス分野だけでなく、他の分野においても利用するための研究が始まっている。例えば、プラズマ処理装置で発生させたプラズマを、医療、バイオマテリアル、殺菌、化学合成、ナノテクノロジー、微細加工、表面改質、表面洗浄等の分野で利用することが検討されている。とりわけ、プラズマ処理装置を医療分野やバイオマテリアル分野で利用する場合、被処理物は人体等の生体となる。この場合、被処理物である生体にダメージを与えないようにするため、プラズマ処理は、大気圧条件下で、好ましくは新たなガスを供給することなく、且つ低温(常温近傍)で実施される必要がある。
【0006】
この点、特許文献1のプラズマ処理装置は、被処理物が半導体基板であるため、前述したような条件を満たす必要はない。事実、特許文献1のプラズマ処理装置では、減圧条件の下、反応ガスを流通させた状態で、被処理物のプラズマ処理が行われている。
【0007】
仮に、特許文献1のプラズマ処理装置において、大気圧条件下でプラズマ処理を行うと、局所的、瞬間的に強い放電が発生するため、高温状態となったフィラメント状のプラズマが生成し易くなる。このような高温状態のプラズマは、被処理物に対してダメージを与えるおそれがある。従って、医療分野やバイオマテリアル分野においてプラズマ処理を行う場合には、特許文献1のプラズマ処理装置をそのまま転用することはできない。
【0008】
また、被処理物のサイズが大きい場合も、特許文献1のプラズマ処理装置をそのまま転用することは困難である。サイズの大きい被処理物に対応するためには、プラズマを発生させる電極の面積を拡大したり、電極間距離(放電空間長さ)を大きくしたりする必要がある。しかしながら、特許文献1のプラズマ処理装置において、その電極の構造を単純に変更するだけでは、サイズの大きな被処理物の処理に適したプラズマを安定して発生させることはできない。これは、発生するプラズマの特性は、電極の構造だけでなく、電極間に印加する電圧や電源周波数等に大きく依存するからである。特許文献1のような二極構造のプラズマ処理装置では、アノード極とカソード極との間に単一の電圧しか印加することができない。このため、プラズマの特性を被処理物の性状に応じて最適な状態に制御することは困難となる。
【0009】
このように、現状においては、被処理物に対してプラズマ処理を行うに際し、その適用、応用に制限を伴うことなく、種々の分野において、安価で容易に利用することを可能とする装置及び方法は未だ開発されていない。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、種々の分野で利用可能とするべく、大気圧条件下で、新たなガスの供給を行うことなく、低温で、安定的にプラズマを発生させることが可能なプラズマ処理装置、及びプラズマ処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係るプラズマ処理装置の特徴構成は、
被処理物をプラズマで処理するプラズマ処理装置であって、
電源に接続された第1電極と、
前記被処理物を設置可能なように、前記第1電極から離間させた状態で対向配置された第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた第3電極と、
を備え、
前記第1電極と前記第3電極との間にプラズマを発生させるための、パルス発生手段を設け、
発生した前記プラズマを引き出す引出電圧が、前記第2電極と前記第3電極との間に印加されていることにある。
【0012】
上記課題で述べたように、プラズマの性状は、電極間に印加する電圧や電源周波数等に大きく依存する。この点に関し、本構成のプラズマ処理装置は、第1電極、第2電極、及び第3電極を備えた三極構造を有している。このため、第1電極と第3電極との間に印加する電圧と、第2電極と第3電極との間に印加する電圧とを異ならせることができる。従って、各電極間の電圧や電源周波数を適切に調整することにより、発生するプラズマの状態を容易に変化させることができる。その結果、被処理物の種類に応じて、最適なプラズマ処理を実施することが可能となる。
また、本構成のプラズマ処理装置には、第1電極と第3電極との間にプラズマを発生させるための、パルス発生手段を設けており、発生したプラズマを引き出す引出電圧が、第2電極と第3電極との間に印加されている。パルス発生手段によって発生したプラズマはパルス状(すなわち、不連続な状態)となっている。このため、プラズマによるガス温度上昇が抑制され、特に第2電極上では室温程度を保つことは容易であり、マイルドで穏やかな状態となる。従って、被処理物がプラズマによってダメージを受けることはない。また、引き出されたプラズマは、放電空間長さが大きく、均一性が高く、安定した状態となっている。このため、サイズの大きな被処理物に対しても、プラズマが全体に行き渡り、よって、プラズマ処理を確実に実行することができる。
さらに、本構成のプラズマ処理装置は、安定した低温のプラズマを発生させるものであるから、従来から使用されていたエレクトロニクス分野に限られず、例えば、医療やバイオマテリアル等のようなデリケートな被処理物を扱う分野においても利用することが可能である。
【0013】
本発明に係るプラズマ処理装置において、
前記パルス発生手段は、前記電源を交流電源とし、前記第1電極と前記第3電極との間に誘電体を設けて構成されることが好ましい。
【0014】
本構成のプラズマ処理装置によれば、パルス発生手段として、電源を交流電源とし、第1電極と第3電極との間に誘電体を設けることにより、大気圧条件下でも、安定して低温のプラズマを発生させることが可能となる。従って、プラズマ処理装置の適用可能な範囲、応用可能な分野が拡大する。また、プラズマ処理装置に対して真空引きや新たなガスの供給が不要となるので、装置構成が簡単になるとともに、処理にかかるコストを低減することができる。
なお、本構成のプラズマ処理装置では、交流電源の周波数や、誘電体の誘電率を変更することによりプラズマの性状を制御できるので、被処理物の種類に応じて最適なプラズマ処理を実行することが可能となる。
【0015】
本発明に係るプラズマ処理装置において、
前記パルス発生手段は、前記電源を短時間パルス電源として構成されることが好ましい。
【0016】
本構成のプラズマ処理装置によれば、パルス発生手段として、電源を短時間パルス電源として構成したことにより、大気圧条件下でも、安定して低温のプラズマを発生させることが可能となる。従って、プラズマ処理装置の適用可能な範囲、応用可能な分野が拡大する。また、プラズマ処理装置に対して真空引きや新たなガスの供給が不要となるので、装置構成が簡単になるとともに、処理にかかるコストを低減することができる。
なお、本構成のプラズマ処理装置では、短時間パルス電源の出力を変更することによりプラズマの性状を制御できるので、被処理物の種類に応じて最適なプラズマ処理を実行することが可能となる。
【0017】
本発明に係るプラズマ処理装置において、
前記引出電圧の周期と、前記パルス発生手段が発生させるパルスの周期とを同期させる同期手段を設けることが好ましい。
【0018】
本構成のプラズマ処理装置によれば、同期手段によって、引出電圧の周期と、パルス発生手段が発生させるパルスの周期とを同期させることができる。このため、引出電圧の連続印加による電力の無駄がなくなり、効率よく低温の安定したプラズマを発生させることができる。
【0019】
本発明に係るプラズマ処理装置において、
前記第2電極は、基準電位点となるグラウンドに含まれていることが好ましい。
【0020】
本構成のプラズマ処理装置によれば、第2電極が基準電位点となるグラウンドに含まれているので、被測定物が接地(グラウンド)されているものについても、上記と同様のプラズマ処理が可能となる。
【0021】
本発明に係るプラズマ処理装置において、
前記第3電極は、メッシュ電極又は有孔電極であることが好ましい。
【0022】
本構成のプラズマ処理装置によれば、第3電極をメッシュ電極又は有孔電極とすることにより、第1電極と第3電極との間で発生したプラズマを、引出電圧によって第2電極の側にスムーズに引き出すことができる。
【0023】
本発明に係るプラズマ処理装置において、
前記被処理物は、外部解放雰囲気で処理されることが好ましい。
【0024】
本構成のプラズマ処理装置によれば、被処理物は、外部解放雰囲気で処理されるので、減圧設備やガス供給設備はもちろんのこと、プラズマ処理室等の専用空間も不要となる。その結果、安価な設備コストでプラズマ処理装置を実現することができる。
【0025】
本発明に係るプラズマ処理装置において、
前記第1電極、前記第2電極、及び前記第3電極は、ガスを導入可能な処理室の内部に配置されることが好ましい。
【0026】
本構成のプラズマ処理装置によれば、第1電極、第2電極、及び第3電極は、ガスを導入可能な処理室の内部に配置されるので、処理室を所定のガスで満たした状態にすれば、被処理物をガスとともにプラズマ処理することも可能となる。
【0027】
本発明に係るプラズマ処理装置において、
前記第1電極と前記第2電極との間にガスを供給するガス供給手段を設けることが好ましい。
【0028】
本構成のプラズマ処理装置によれば、ガス供給手段により第1電極と第2電極との間にガスを供給することが可能となる。これにより、例えば、外部解放雰囲気を維持しながら(すなわち、大気圧条件下で)、被処理物をガスとともにプラズマ処理することも可能となる。
【0029】
本発明に係るプラズマ処理装置において、
前記被処理物は、生体であることが好ましい。
【0030】
本構成のプラズマ処理装置によれば、生体をプラズマ処理することができるので、従来はその適用、応用が困難であった医療やバイオマテリアル等の分野においても、好適にプラズマ処理を実施することができる。
【0031】
上記課題を解決するための本発明に係るプラズマ処理方法の特徴構成は、
被処理物をプラズマで処理するプラズマ処理方法であって、
大気圧条件下でプラズマを発生させるプラズマ発生工程と、
発生した前記プラズマを、前記大気圧条件下を維持したまま、前記被処理物の位置まで引き出す引出工程と、
を包含することにある。
【0032】
本構成のプラズマ処理方法は、上述したプラズマ処理装置と同様に、被処理物の種類に応じて、最適なプラズマ処理を実施することが可能となる。すなわち、大気圧条件下で発生したプラズマは、大気圧条件下を維持したまま、被処理物の位置まで引き出され、室温程度のマイルドで穏やかな状態となる。このため、被処理物がプラズマによってダメージを受けることはない。また、引き出されたプラズマは、放電空間長さが大きく、均一性が高く、安定した状態となっている。このため、サイズの大きな被処理物に対しても、プラズマが全体に行き渡り、よって、プラズマ処理を確実に実行することができる。
また、本構成のプラズマ処理方法は、大気圧条件下で実施可能であることから、真空引きや新たなガスの供給が不要となる。従って、処理にかかるコストを低減することができる。
さらに、本構成のプラズマ処理方法は、大気圧条件下で、安定した低温のプラズマを発生させるものであるから、従来から使用されていたエレクトロニクス分野に限られず、例えば、医療やバイオマテリアル等のようなデリケートな被処理物を扱う分野においても利用することが可能である。
【0033】
本発明に係るプラズマ処理方法において、
前記プラズマ発生工程において、パルス状のプラズマを発生させることが好ましい。
【0034】
本構成のプラズマ処理方法によれば、プラズマ発生工程において、パルス状のプラズマを発生させているので、プラズマによる過熱を抑制できるとともに、雰囲気ガスの冷却期間をもたらし、低温を保ち易い。このようにして得られた低温のプラズマは、マイルドで穏やかな状態となっているため、適用範囲、応用範囲が広く、特に、医療やバイオマテリアル等の分野において好適に利用することができる。
なお、本構成のプラズマ処理方法では、発生させるパルス状のプラズマのパルス周期を変更することによりプラズマの性状を制御できるので、被処理物の種類に応じて最適なプラズマ処理を実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態によるプラズマ処理装置を概略的に示したブロック図である。
【図2】引出電圧を徐々に上げていった場合において、引き出されたプラズマの状態を示した写真である。
【図3】本発明の第2実施形態によるプラズマ処理装置を概略的に示したブロック図である。
【図4】本発明の第3実施形態によるプラズマ処理装置を概略的に示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のプラズマ処理装置、及びプラズマ処理方法に関する実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図せず、それらと均等な構成も含む。
【0037】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態によるプラズマ処理装置100を概略的に示したブロック図である。プラズマ処理装置100は、第1電極10、第2電極20、及び第3電極30を備えた三極構造を有している。
【0038】
第1電極10は、導電性材料からなるプレート電極であり、交流電源40に接続されている。また、交流電源40の接続側から見て第1電極10の反対側には、絶縁性材料からなる誘電体50が取り付けられている。第2電極20は、導電性材料からなるプレート電極であり、過電流防止のために設けられた抵抗60を挟んで直流電源70に接続されている。第2電極20は、第1電極10に対して対向配置されている。第3電極30は、導電性材料からなるメッシュ電極又は有孔電極であり、第1電極10と第2電極20との間に設けられる。本実施形態では、第3電極30は、第1電極10に取り付けられた誘電体50の表面に取り付けられており、第1電極10及び誘電体50と協同して誘電体バリア放電を発生させる。この誘電体バリア放電は、第1電極10と第3電極30との間に設置された被処理物に対して行う、後述するプラズマ処理における初期の荷電粒子発生源となる。なお、第3電極30は、交流電源40及び直流電源70の両方に同時接続されている。このため、第1電極10と第3電極30との間に印加する電圧(交流電圧)と、第2電極20と第3電極30との間に印加する電圧(直流電圧)とを、それぞれ異なる値に調整することが可能となる。
【0039】
交流電源40、第1電極10、誘電体50、及び第3電極30から構成される電気回路では、第1電極10と第3電極30との間において、前述した誘電体バリア放電に起因してプラズマが発生する。このプラズマは、交流電源40の周期と同じ周期を有するパルス状の(すなわち、不連続な状態の)プラズマである。従って、本実施形態では、交流電源40及び誘電体50は、パルス状のプラズマを発生させるパルス発生手段80として機能する。パルス発生手段80によって発生したパルス状のプラズマは、大気圧条件下でも安定しており、また、プラズマによる過熱を抑制できるとともに、雰囲気ガスの冷却期間をもたらし、低温を保ち易いという特徴を有する。
【0040】
第2電極20と第3電極30との間に印加する電圧(直流電圧)は、第1電極10と第3電極30との間に発生したパルス状のプラズマを第2電極20の側に引き出す引出電圧となる。ここで、第3電極30には、金属製の網からなるメッシュ電極、又は金属板に複数の孔を設けた有孔電極とすることができる。このような電極構造とすることにより、発生したパルス状のプラズマは、第3電極30をスムーズに通過する。図2は、第1電極10と第3電極30との間に発生した誘電体バリア放電が引き出されて、第3電極30と第2電極20との間の領域にプラズマが形成される状態を示した写真である。ここでは、第3電極30として、メッシュ電極を採用している。図2では、引出電圧を0kVから6kVまで徐々に上昇させているが、引出電圧が5kVに達すると、プラズマ処理を行うに十分な状態にまでプラズマが引き出されることが目視により確認された。
【0041】
ところで、このプラズマ処理装置100においては、引出電圧の周期と、パルス発生手段80が発生させるパルスの周期(本実施形態では、交流電源40の周期となる)とを同期させる同期手段(図示せず)を設けることも有効である。この場合、引出電圧の連続印加による電力の無駄をなくすことができるので、効率よく低温の安定したプラズマを発生させることができる。同期手段は、例えば、プラズマ処理装置100の動作制御を行うコンピュータのクロック機能を利用して実現することができる。
【0042】
本実施形態によれば、パルス状のプラズマが引出電圧によって第2電極20の側に引き出された結果、パルスにより過熱が抑制され、さらに主な熱源である第1電極10と第3電極30との間の領域から空間的に隔離されるので、第2電極20の近傍において常温程度の温度を直ちに実現することができる。従って、パルス状のプラズマは、マイルドで穏やかな低温プラズマとなる。この低温プラズマは、被処理物に対してダメージを与えることが少ない。このため、被処理物がデリケートな物体(例えば、生体やバイオマテリアル等)であっても、プラズマ処理を良好に行うことができる。また、引き出されたプラズマは、放電空間長さが大きく、均一性が高く、安定した状態となっている。このため、被処理物のサイズが大きい場合でも、プラズマが全体に行き渡ることになる。その結果、被処理物に対してプラズマ処理を確実に実行することができる。なお、本実施形態のプラズマ処理装置100は、誘電体バリア放電からプラズマを引き出しているため、第1電極10、第2電極20、及び第3電極30の面積(放電面積)を拡大することにより、プラズマ処理を行う放電空間をさらに大きくすることも可能である。
【0043】
また、本実施形態のプラズマ処理装置100では、第1電極10と第3電極30との間に印加する交流電圧の値、第2電極20と第3電極30との間に印加する直流電圧の値、及び交流電源40の周波数の値を変更することができる。これにより、発生するプラズマの状態を種々変化させることができる。従って、被処理物の種類に応じて、上記の値を夫々適切に調整すれば、最適なプラズマ処理を容易に実行することが可能となる。
【0044】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明の第2実施形態によるプラズマ処理装置200を概略的に示したブロック図である。本実施形態のプラズマ処理装置200も、上記第1実施形態と同様に、第1電極10、第2電極20、及び第3電極30を備えた三極構造を有している。一方、第1実施形態では、パルス発生手段80を、交流電源40及び誘電体50で構成していたが、本実施形態では、誘電体50は設けていない。また、本実施形態では、交流電源40の代わりに短時間パルス電源41を設けている。この短時間パルス電源41が、パルス発生手段80として機能する。
【0045】
この第2実施形態においては、短時間パルス電源41によりパルス状のプラズマを発生させることができるので、第1実施形態と同様に、大気圧条件下で、安定して低温のプラズマを発生させることが可能となる。従って、プラズマ処理装置200の適用可能な範囲、応用可能な分野が拡大する。また、プラズマ処理装置に対して真空引きや新たなガスの供給が不要となるので、装置構成が簡単になるとともに、処理にかかるコストを低減することができる。
【0046】
なお、本実施形態においても、引出電圧の周期と、パルス発生手段80が発生させるパルスの周期(本実施形態では、短時間パルス電源41のパルス周期となる)とを同期させる同期手段(図示せず)を設けることができる。そして、短時間パルス電源41の出力を変更することによりプラズマの性状を制御することができる。このように、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、被処理物の種類に応じて最適なプラズマ処理を実行することが可能となる。
【0047】
〔第3実施形態〕
本発明は、医療やバイオマテリアル等の分野において好適に利用することができる。そこで、本実施形態では、その一例として、プラズマ処理装置を用いて生体(人体)を処置するケースについて説明する。
【0048】
図4は、本発明の第3実施形態によるプラズマ処理装置300を概略的に示したブロック図である。第1電極10、第3電極30、交流電源40、誘電体50、抵抗60、直流電源70、及びパルス発生手段80の構成は、第1実施形態で説明した構成と同様であるため、詳細な説明は省略する。プラズマ処理装置300は、第1実施形態と同様に、第1電極10、第2電極20、及び第3電極30を備えた三極構造を有している。ただし、本実施形態では、第2電極20は、基準電位点となるグラウンド90に含まれている。グラウンド90は、被験者Xを載せたベッド91に接続されている。従って、被験者Xは、第2電極20と一体化した状態となっている。
【0049】
本実施形態においては、被験者Xが生体(人体)であることから、プラズマ処理は、大気圧条件下で、あるいは少なくとも大気圧に近い減圧条件下で実行する必要がある。そして、より好ましくは、被験者Xが外部解放雰囲気に晒されるような環境とする必要がある。さらに、プラズマ処理は低温(常温付近)で実行する必要がある。このような処理環境であれば、生体である被験者Xにダメージは及ばない。また、外部解放雰囲気でプラズマ処理を行えば、減圧設備やガス供給設備はもちろんのこと、プラズマ処理室等の専用空間も不要となる。このため、プラズマ処理装置300を安価な設備コストで実現することが可能となる。
【0050】
プラズマ処理の工程としては、(1)大気圧条件下でプラズマを発生させるプラズマ発生工程、及び(2)発生したプラズマを、大気圧条件下を維持したまま、被験者Xの位置まで引き出す引出工程、の二工程を実施する。ここで、(1)のプラズマ発生工程では、低温プラズマを発生させるため、パルス状のプラズマを発生させることが好ましい。プラズマが被験者Xに付与されると、例えば、消毒作用、治癒作用、組織の癒着防止作用等の効果が得られる。このプラズマ処理は、マイルドで穏やかな状態で行われるものであるから、被験者Xにダメージを与えることはない。
【0051】
なお、本実施形態においても、引出電圧の周期と、パルス発生手段80が発生させるパルスの周期(本実施形態では、交流電源40の周期となる)とを同期させる同期手段(図示せず)を設けることができる。また、第1電極10と第3電極30との間に印加する交流電圧の値、グラウンド90と第3電極30との間に印加する直流電圧の値、及び交流電源40の周波数の値を変更することにより、被験者Xに付与するプラズマの状態を種々変化させることができる。従って、被験者Xの状態に応じて、上記の値を夫々適切に調整すれば、最適なプラズマ処理による処置を容易に実施することが可能となる。
【0052】
〔別実施形態〕
<1>上記実施形態では、第1電極10が交流電源40に接続され、第2電極20(又はグラウンド90)が直流電源70に接続されていたが、第1電極10と第2電極20(又はグラウンド90)とを入れ替えても構わない。すなわち、第1電極10が直流電源70に接続され、第2電極20(又はグラウンド90)が交流電源40に接続された構成とすることも可能である。また、二つの電源を両方とも交流電源とすること、あるいは直流電源とすることも可能である。本発明のプラズマ処理装置にあっては、パルス状のプラズマを発生し得る構成であれば、どのような電源を採用しても構わない。
【0053】
<2>上記実施形態では、主に、被処理物が大気圧条件下(外部解放雰囲気)、あるいはそれに近い状態で処理されることを想定しているが、第1電極10、第2電極20、及び第3電極30を、ガスを導入可能な処理室(図示せず)の内部に配置し、ガスの存在下でプラズマ処理を行うことも可能である。この場合、ガスの種類を適宜選択することにより、被処理物に対して様々なプラズマ処理が可能となる。
【0054】
<3>被処理物をガスとともにプラズマ処理する場合、外部解放雰囲気を維持したままの状態で実行することも可能である。これは、第1電極10と第2電極20との間にガスを供給するガス供給手段(図示せず)を設けることにより実現できる。例えば、第1電極10の後方から第2電極20の側に向けて処理ガスを噴出させる。このとき、第1電極10と第2電極20との間の領域は処理ガスにより一部又は全部が置換される。また、前記領域は、外部解放雰囲気であるため略大気圧となっている。従って、本別実施形態の構成によれば、大気圧条件下でのガスを用いたプラズマ処理を容易に実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法は、従来から広く実施されてきたエレクトロニクス分野での利用の他に、医療、人体に対する処置、殺菌、バイオマテリアル合成、バイオナノ粒子合成、タンパク質改変、高分子材料の微細加工及び表面改質、液体や気体の浄化、基板上でのナノ構造物質合成等の新たな分野においても利用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 第1電極
20 第2電極
30 第3電極
40 交流電源
41 短時間パルス電源
50 誘電体
80 パルス発生手段
90 グラウンド
100 プラズマ処理装置
200 プラズマ処理装置
300 プラズマ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物をプラズマで処理するプラズマ処理装置であって、
電源に接続された第1電極と、
前記被処理物を設置可能なように、前記第1電極から離間させた状態で対向配置された第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた第3電極と、
を備え、
前記第1電極と前記第3電極との間にプラズマを発生させるための、パルス発生手段を設け、
発生した前記プラズマを引き出す引出電圧が、前記第2電極と前記第3電極との間に印加されているプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記パルス発生手段は、前記電源を交流電源とし、前記第1電極と前記第3電極との間に誘電体を設けて構成される請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記パルス発生手段は、前記電源を短時間パルス電源として構成される請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記引出電圧の周期と、前記パルス発生手段が発生させるパルスの周期とを同期させる同期手段を設けた請求項1〜3の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記第2電極は、基準電位点となるグラウンドに含まれている請求項1〜4の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記第3電極は、メッシュ電極又は有孔電極である請求項1〜5の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記被処理物は、外部解放雰囲気で処理される請求項1〜6の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記第1電極、前記第2電極、及び前記第3電極は、ガスを導入可能な処理室の内部に配置される請求項1〜7の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記第1電極と前記第2電極との間にガスを供給するガス供給手段を設けた請求項1〜8の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記被処理物は、生体である請求項1〜9の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
被処理物をプラズマで処理するプラズマ処理方法であって、
大気圧条件下でプラズマを発生させるプラズマ発生工程と、
発生した前記プラズマを、前記大気圧条件下を維持したまま、前記被処理物の位置まで引き出す引出工程と、
を包含するプラズマ処理方法。
【請求項12】
前記プラズマ発生工程において、パルス状のプラズマを発生させる請求項11に記載のプラズマ処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−251024(P2010−251024A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97385(P2009−97385)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】