説明

プラズマ処理装置及び処理方法

【課題】熱非平衡大気圧プラズマ装置内で、溶液状の液体の有害物質を分解できる、簡単な構成の分解処理装置を提供する。
【解決手段】支持部5を上下、左右、前後に移動、回転させて、支持部5上の接触部位7がプラズマフレームに晒される位置に配置されるように調整する。接触部位7は熱非平衡大気圧プラズマフレームに晒される。この状態で溶液供給ポンプ10から難分解性物質などの被分解物質を含む溶液を支持部5の内部を介して接触部位7の表面上に供給し、液膜6を形成させる。溶液中の被分解物質はプラズマ中のヒドロキシルラジカルや酸素ラジカルなどの活性酸素種で酸化分解され、無害化処理が実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱非平衡大気圧プラズマにより有害物質を分解するようにした分解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃水中のカルボン酸などの有害物質を分解し、二酸化炭素など環境に比較的影響の少ない物質に分解処理することが行われている。このためにはオゾン酸化や生物処理が用いられてきた。また近年ヒドロキシルラジカルの強力な酸化活性が知られたことにより、過酸化水素と鉄などの遷移金属によるフェントン反応や、溶液中で放電生成する溶液プラズマ酸化処理が用いられてきた。
【0003】
廃水処理ではオゾン酸化、生物酸化、フェントン酸化などが用いられているが、これらの既存の手法は、特許文献1に見られるようにオゾンの有毒性、処理槽内での生物の維持や薬剤の注入管理が必要であるなど、労力を要するという問題がある。
【特許文献1】特願2008−264366(特開2010−89054)
【0004】
プラズマ処理は強力な酸化能力を持つことから分解処理に利用されている。気相で生じさせる熱非平衡大気圧プラズマは生成が容易であるため排ガス処理に使用されている。また、熱平衡大気圧プラズマは固体有機廃棄物の無害化処理に使用されている。
【0005】
溶液中で発生させるプラズマ酸化処理は、非特許文献1に示されるように溶液内で気泡を作り、その中でプラズマを発生させる例があるが、溶液内でのプラズマの生成が非常に困難であり、安定的に、安価に処理を行うには技術的に困難で、装置も複雑になるという多々の課題を有していた。
【非特許文献1】T. Ishijima, H. Hotta, H. Sugai, M. Sato, Appl. Phys. Lett., 91, 121501(2007).
【0006】
また気相で生じさせる熱非平衡大気圧プラズマフレーム方式の装置は生成が容易で低価格で実現できるが、プラズマフレームを溶液内に導入すると、フレームは成立しないばかりか、ショート、不正放電により装置の停止に陥り、処理を行うことができなかった。
【0007】
一般的な、この類似のプラズマ分解法としては、特許文献2に見られるように分析機器内で高周波誘導熱プラズマを発生させて、有機物を分解し分析に利用する方法が古くから知られていた。これは熱平衡大気圧プラズマであり熱非平衡大気圧プラズマとは異なる処理である。また分析計に必要な、微小な装置内で試料分解を目的とするものであった。
【特許文献2】特願平6−268942(特開平8−131757公報)
【0008】
熱非平衡大気圧プラズマのプラズマフレームを溶液に晒し、殺菌を行う方法が非特許文献2に開示されている。
【非特許文献2】現代化学、7、25(2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2のプラズマ分解法は廃水処理などの大規模処理を想定したものではなく、実際の廃水処理には使えないという問題点を有している。また、非特許文献2のプラズマ分解法は、溶液の容量が大きく、プラズマフレームのエネルギーが液体の加温に使われ効率的ではないという課題を有していた。
【0010】
本発明は、このような点の改善のためなされたもので、その目的は、容易に生成できる、気相で生じさせる、熱非平衡大気圧プラズマ装置を使用して、溶液状の有害物質を分解できる、簡単な構成の廃水処理用の分解処理装置の実現にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に基づく有害物質の分解処理装置は、熱非平衡大気圧プラズマで発生させたプラズマフレームに晒される位置に配置される接触部位と、そこに溶液状の被分解物質を供給するための手段とを有することを特徴としている。
【0012】
本発明ではプラズマフレームに晒される位置に配置される接触部位の位置が重要で、フレームに近づきすぎるとフレームの安定生成を妨害する。このためフレームの元から数ミリ離れたところからフレームの先端までの間に位置するのが好ましい。また先端より若干外側でも効果が期待できる。
【0013】
溶液が電極に触れないことも重要で、飛沫もかからない位置がよい。
【0014】
フレーム内あるいは先端からやや離れたところに位置すれば、接触部位に供給される溶液にフレームあるいは近傍中に存在するラジカル種が気液界面を経て溶液内に効率よく浸透し、溶液中の有機物を酸化分解することができる。
【0015】
フレームの元にある電極に接近しすぎない理由は、放電方式によっては水のような誘電率を持つ物質は放電電極の電気的定数に影響し、安定的な放電を妨害することがあるためである。
【0016】
溶液は水が好ましい。またバルクの有機溶媒でも全量分解する目的なら処理できる。この場合は廃有機物の処理である。
【0017】
また、溶液に含まれるものとしては被分解有機物があげられるが、これ以外に無機塩、金属、及びそれらのイオンなどが含まれていても良い。無機塩で還元性を示す物質を含む場合には負荷が増すため処理時間が延びるが、共存していても処理可能である。金属などはラジカルの生成を促進することがあり、存在により妨害しないばかりか、促進効果がある場合もあるためである。
【0018】
接触部位の構造は、多孔質の構造がよい。
【0019】
また、多孔質でなくても接触部位で溶液が界面を形成し、プラズマフレームに接することができるような構造ならよい。
【0020】
接触部位の材質は特に問わないが、金属やガラス、セラミックスのような材質が好ましい。
【0021】
接触部位近傍の構造は大気に開放が好ましい。これはフレームに酸素が供給されヒドロキシルラジカルなどの活性種の生成を制限しないからである。また閉鎖系にしてもよいが、その場合は供給ガスにより生成する活性種を使用して有機物の分解をすることができる。
【0022】
プラズマガス種はプラズマが成立するものなら特に問わず使用できる。例えば空気であれば空気に含まれる酸素でラジカル活性種が生成され、有機物の分解反応に用いることができる。またアルゴンなどの不活性種でも解離して生成したラジカルによる分解反応ができる。
【0023】
プラズマ発生方式は熱非平衡大気圧プラズマであればよく、電源の周波数、電圧、電流などはプラズマフレームが成立していれば使用できる。
【0024】
熱非平衡大気圧プラズマ装置の選定が自由な理由は、非特許文献1に示されるように、生成する活性種はヒドロキシルラジカルであり、これによる酸化分解を利用する処理であることが共通しているからである。
【0025】
本発明に使用するフレームは単独で用いることも複数多連にして構成することもできる。多連フレームを使用する場合は送液部及び電源は共通で、接触部位6をフレーム数だけ設置すればより効率的な処理が可能となる。
【0026】
処理対象物質は、下水処理場で排出される、フミン酸やタンニンなどのポリフェノール類があげられる。これらは下水処理において難分解性であるために廃水に着色やBODの増加をきたすものである。特に胆汁酸やプロゲステロン、テストステロンのようなステロイドは分解が困難であり、このため下水処理では三次処理による分解の必要に迫られているものである。
【0027】
また、めっき液に多量に使用されるサッカリンやクエン酸、光沢剤などの有機物やそれらの分解生成物であるギ酸などのカルボン酸もあげられる。これらの分解処理も前項と同様の問題を抱えている。
【0028】
ここで、本発明に係る処理装置によって処理される難分解性化合物は、特に限定されないが、例えば、有機フッ素化合物、フミン酸、タンニン、カテキン、フラボノイド、キノン類、胆汁酸やプロゲステロン、テストステロンのようなステロイドや、これらの構成ユニットとなるようなフェノール、フェノール誘導体、フェノール誘導体から分解で生成したカルボン酸やその誘導体などが含まれる。例えば、フェノールやプロトカテク酸、クエン酸やギ酸などのカルボン酸誘導体などを例示することができる。
【0029】
フェノール誘導体ではフミン酸やポリフェノール誘導体が好ましい。
【0030】
更に好ましくは置換基としてヒドロキシ基を二つもつプロトカテク酸のような芳香族カルボン酸やヒドロキシ基一つのフェノールがよい。
【0031】
本発明の処理装置によって処理する難分解性化合物が上述の化合物であれば、効率よく処理することができる。上記難分解性化合物であれば、炭素、酸素、水素間の強固な結合を効率よく切断し、分解することができる。
【0032】
溶液中の有機物の濃度は特に問わないが、装置の処理能力で決まるため、高濃度では処理時間が延びる。また、温度は常温でよいが加温しても良い。また、鉄などの金属あるいはそのイオンはラジカル反応を促進するため添加しても良い。この場合、反応容器表面からの金属の溶出も添加と考えて良い。pH値は特に問わない。pHは有機物の酸化電位に影響する。また、分解してできた二酸化炭素の装置からの速やかな放出のために適正値に設定すべきである。
【0033】
一般に、液中でのプラズマ酸化反応は主にヒドロキシルラジカルによるものであり、このラジカルの反応性は非常に高いことが知られている。また、分解対象の有機物が酸化分解するか否かは、ラジカルの持つ酸化電位の値に依存することが知られている。ラジカル酸化の場合、被酸化物の酸化電位が当該ラジカルのそれより高い場合は分解しない。
【0034】
また、ヒドロキシルラジカルでは分解し難い有機物であっても、非特許文献3に示されるように、パーフルオロオクタン酸(PFOA)のような難分解性のフッ素誘導体が分解可能であることが報告されている。
【非特許文献3】佐々木 ほか 電気学会論文誌A Vol. 130 (2010) , No. 10 pp.985-986
【0035】
このように液中でのプラズマ酸化分解能力が非常に強力なことは公知の事実である。本特許で例示したカルボン酸誘導体は難分解性ではあるが、PFOAよりは易分解である。また、これ以外の一般の有機物もカルボン酸誘導体よりは易分解性なため、ヒドロキシルラジカルで同様に分解できる。
【0036】
従って当該機器で被分解物が実用的に処理可能かどうかは、機器の持つ処理速度によるもので、処理機の装置効率に依って決まると考えられる。
【0037】
すなわち本発明品に係る処理装置を、さらに投入電力の増加、接触部位とフレームの組み合わせであるプラズマフレーム反応部位の複数化、プラズマと溶液の接触面積の増大、反応時間、温度などの増加など、一般的な化学装置の効率化を図ることによって、本発明の処理装置でPFOAのような更なる難分解性物質の分解が可能となることは明らかである。
【発明の効果】
【0038】
本発明に基づく有害物質の分解処理装置は、プラズマフレームに晒された部材に溶液状の被分解物質を供給し、プラズマフレームと接触させ、寿命の短いヒドロキシルラジカルなどの活性種と溶液と効率よく接触させ溶液に含まれる被分解物質を酸化分解除去することができる。
【0039】
すなわち、本発明に基づく有害物質の分解処理装置は、熱非平衡大気圧プラズマを用いてプラズマフレームに晒された部位に、被分解物質を含む溶液を供給し、分解処理するように構成した。その結果、プラズマ電極のショートや漏電は回避でき、安定な熱非平衡大気圧プラズマの成立を保持したまま、溶液の分解処理が可能となった。また、高い分解能力を持つヒドロキシルラジカルは、難分解性のカルボン酸すら分解できる。さらに高価で技術的に困難な溶液内でのプラズマ処理を用いないため、安価で安定な市販の熱非平衡大気圧プラズマ装置が使用できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0041】
〔第1の実施形態〕
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施形態を示す模式図である。これは難分解性有機物を含む溶液を処理するためのものであり、図1に示すように、プラズマ電極3にはプラズマ電源1、及びガス供給源2からエアーなどのプラズマガスが供給されて、熱非平衡大気圧プラズマフレーム4が生成される。またフレームに接する位置にガラス焼結体のような多孔質で間隙部を持つフレームと接触する接触部位7があり、それに接続する管のような中空構造を持つ支持部5に溶液供給ポンプ10から受器9の難分解性有機化合物を含む溶液が供給され、接触部位7の表面に形成される液膜6で溶液とプラズマフレームが接触し、ここで分解処理が起こる。分解物を含む液滴8は受器9に移動し、処理が完了する。
【0042】
すなわち本実施形態では溶液を薄膜状にして気液界面を形成する。ここにフレームをあてて、界面を介して活性種を液体に供給することで処理を行う。
【0043】
(溶液)
溶液の種類は特に問わない。水などが例示できる。有機溶媒でも処理できる。
【0044】
(水)
水を使う場合は水の種類は特に問わない。水道水、蒸留水、工業用水、純水などが例示できる。
【0045】
(プラズマ発生装置)
プラズマ電極と電源からなるプラズマ発生装置は市販の熱非平衡大気圧プラズマ生成装置であれば使用可能で、特に形式は問わないがフレーム状のプラズマを発生させるものである。
【0046】
(プラズマ電極)
熱非平衡大気圧プラズマ生成装置の電極が使用できる。材質、形状、大きさは特に問わない。
【0047】
(プラズマ電源)
熱非平衡大気圧プラズマ生成装置の電源が使用できる。
【0048】
(ガス供給源)
プラズマ発生装置指定のガスである。ボンベ、あるいはガス発生器などプラズマが発生するようにガスが供給できるものであればよい。
【0049】
(ガスの種類)
プラズマガスとして熱非平衡大気圧プラズマが成立するようなガスなら、ガスの種類は特に問わない。エアー、アルゴン(Ar)が例示できる。アルゴン及び空気は 0以上10L / min以下で以下の実施例の流量に設定した。
【0050】
(熱非平衡大気圧プラズマフレーム)
フレームの長さ、大きさは特に問わない。液膜がフレームに曝される状態にあり、かつ液体が直接、電極に接触しない条件であればよい。
【0051】
(フレームの数)
本発明に使用するフレームは単独で用いることも複数多連にして構成することもできる。多連フレームを使用する場合は送液部及び電源は共通で、接触部位6をフレーム数だけ設置すればより効率的な処理が可能となる。
【0052】
(フレームの位置)
プラズマフレームと接触部位の位置関係は液膜がフレームに曝され、液膜中に活性種を供給できる条件であればよい。しかし、接触部位が電極に近すぎるとフレームの安定生成を妨害する。このため、電極面の位置から数ミリ離れたところからフレームの先端までの間に位置するのが好ましい。また先端より若干外側でも効果が期待できる。
【0053】
より好ましくは接触部位を電極面から2ミリ離れたところからフレームの先端までの間に位置することである。
【0054】
溶液が電極に触れないことも重要で、飛沫もかからない位置がよい。
【0055】
(接触部位の材質)
接触部位の材質は特に問わないが、金属やガラス、セラミックスのような材質が好ましい。
【0056】
(接触部位の構造)
接触部位の構造は、多孔質の構造がよい。
【0057】
また、多孔質でなくても接触部位で溶液が気液界面を形成し、プラズマフレームに接することができるような構造ならよい。
【0058】
(液膜)
液膜についてはその膜厚や面積、表面形態や立体構造は特に問わない。液膜が形成されていることが重要で、プラズマフレームと界面を形成して接触していることが必要である
【0059】
(支持部)
接触部位に溶液を送液できる構造を有すること。すなわち管状など例示できる。材質は特に問わない。
【0060】
(溶液供給ポンプ)
溶液供給ポンプは液体を送液できるものであれば使用できるが、例えばレシプロタイプあるいはチューブポンプ等があげられる。本実施例ではレシプロタイプを使用した。流量はフレーム流量に対して過大であると処理効果が低減する。1フレームに対して見かけ上のプラズマフレームの接触面積1 cm2あたり0から10mL/minが好ましい。
【0061】
(受器)
受器は特に問わない。ガラス、ステンレス、鉄、形状も問わない。
【0062】
ここで本発明に係る処理装置で処理される難分解性有機物は、例えば有機フッ素化合物、フミン酸、タンニン、カテキン、フラボノイド、キノン類、胆汁酸やプロゲステロン、テストステロンのようなステロイドや、これらの構成ユニットとなるようなフェノール、フェノール誘導体、フェノール誘導体から分解で生成したカルボン酸やその誘導体などが含まれる。例えばフェノールやプロトカテク酸、ギ酸などのカルボン酸誘導体などを例示することができる。
【0063】
上述の化合物であれば効率よく処理することができる。本実施形態および実施例においては、難分解性化合物としてフェノールとその誘導体ならびにカルボン酸、すなわち、フェノールやプロトカテク酸を含む水溶液ならびにクエン酸水溶液を例として説明する。
【0064】
(濃度)
水中の有機物の濃度は特に問わないが、装置の処理能力で決まるため、高濃度では処理時間が延びる。
【0065】
(温度)
温度は常温でよいが処理効率の向上のために加温しても良い。
【0066】
(装置接液部の材質)
装置の接液部の材質は特に問わないが、特に鉄などの金属あるいはそのイオンはラジカル反応を促進するため材質としての選択は好ましい。また、金属イオンを無機塩や有機塩の形で添加することも好ましい。金属を接液部として使用した場合、金属が溶出するが、この場合接液部材からの金属の溶出も添加と考えて良い。
【0067】
(pH値)
pH値は特に問わない。pHは有機物の酸化電位に影響するためフェノール性物質などは高いpHで分解が促進されるため、このような物質では高い値を選択できる。また脱炭酸反応では分解してできた二酸化炭素の装置からの速やかな放出のために適正値に設定することもできる。
【0068】
(連続反応)
受器からポンプで更に接触部位に送液して、連続反応させることも、一度送液した後処理を終了する、バッチ反応でもよい。
【0069】
〔実施例1〕
図1に基づいて、廃水を処理する処理装置を作製した。
【0070】
本実施例において用いた処理装置では、溶液供給ポンプは、レシプロタイプのもので流量0から10mL / minを用いた。プラズマガスはアルゴン及び空気を 0以上10L / min以下で供給した。また容器は500mlガラス製を使用した。熱非平衡大気圧プラズマ装置はNUエコ・エンジニアリング株式会社、型番μ-AP(11kV、20mA以下)を使い、装置を構成した。水は純水を用いた。プロトカテク酸、フェノール、クエン酸は市販の試薬を使用した。
【0071】
〔実施例2〕
プラズマガスとして アルゴン 4L / minで熱非平衡大気圧プラズマフレームを生成させた。また、廃水処理における難分解性物質として選定したプロトカテク酸 100 mg / L溶液、220mLを送液速度5.35mL / minで送液し、室温下でプラズマ分解させた。所定の時間ごとにサンプリングを行い、基質の濃度を高速液体クロマトグラフ(HPLC)(島津製作所 LC-20AD,SPD-20A)ODSカラム 移動相10mMりん酸バッファー: MeOH = 85 : 15の条件で分析定量した。なお、溶液とガスが接触することで若干の溶液の蒸発が起こる。そのため、分解の評価において濃度の測定値は蒸発分の液量を考慮して補正した。
【0072】
図2は本発明装置の分解程度を示す図である。すなわち試料のプロトカテク酸は4時間後に42%まで減少した。これから本装置が安定に稼働し、かつ効果的な分解能力を示すことが分かる。
【0073】
図2
【0074】
〔実施例3〕
同様の装置でフェノール 50 mg / L水溶液 200 mL プラズマ生成ガス種Ar 4L/min、室温で、電圧目盛130目盛で4時間反応させた。
【0075】
HPLCによる分解の程度の評価を図3に示す。基質は4時間後に53%に分解減少した。
【0076】
図3
【0077】
〔実施例4〕
同装置でフェノール 100 mg / L水溶液 250mL プラズマ生成ガス種空気 4L/min、室温下、電圧目盛130目盛で4時間反応させた。また全有機体炭素計(島津製作所 TOC-VCPH)により全有機体炭素(TOC)を測定して、分解により溶液の有機物の減少を評価した。
【0078】
HPLCによる分解の程度の評価を図4に示す。基質は4時間後に76%に分解減少した。またTOCによる評価を図5に示す。有機物は4時間後に68%に減少した。
【0079】
図4
【0080】
図5
【0081】
図2、3、4に示すように、基質は大幅に減少し、それに伴って図5に示すように水溶液中の全有機炭素も大幅に減少することが明らかになった。本実施例の結果から、本装置を用いる処理によって、難分解性のフェノール類を確実に処理できることが明らかになった。
【0082】
[実施例5]
クエン酸 100 mg / L水溶液 250mL プラズマ生成ガス種 Ar 4 L/min、室温下、電圧目盛130目盛で4時間反応させた。
【0083】
HPLCによる分解の程度の評価を図6に示す。基質は4時間後に88%に分解減少した。
【0084】
図6
【0085】
従って、本発明に係る装置とその使用により、難分解性物質を分解し、更に脱炭酸を起こさせ溶液中から除去し、処理することができる。
【0086】
以上本発明の実施例を説明したが、本発明はこの実施例に限定されない。例えば、溶液として有機化合物を含む廃水溶液を例に挙げたが、他の有害物質、例えば、バルク状の有機物液体の分解に本発明を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、工場や下水処理場等から排出される廃水を処理するための廃水処理を行う分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施例1である有害物質の分解処理装置を示す図である。プラズマ電源1ガス供給源2プラズマ電極3プラズマフレーム4支持部5液膜6接触部位7液滴8受器9溶液供給ポンプ10
【図2】本発明の一実施例1である有害物質の分解処理の程度を示す図である。
【図3】本発明の一実施例2である有害物質の分解処理の程度を示す図である。
【図4】本発明の一実施例3である有害物質の分解処理の程度を示す図である。
【図5】本発明の一実施例4である有害物質の分解処理の程度を示す図である。
【図6】本発明の一実施例5である有害物質の分解処理の程度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱非平衡大気圧プラズマ装置により、発生したプラズマフレームに晒される位置に配置される接触部位と、接触部位に被分解物質を含む溶液を供給するための手段とを有した廃水処理用の有害物質の分解処理装置。
【請求項2】
同装置を用いた酸化処理方法。
【請求項3】
接触部位に溶液を薄膜状にして供給することを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の処理。
【請求項4】
上記の被分解物質はフェノール誘導体を含むことを特徴とする請求項1から2のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項5】
上記の被分解物質はフェノールを含むことを特徴とする請求項1から2のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項6】
上記の被分解物質がカルボン酸を含むことを特徴とする請求項1から2のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項7】
上記の被分解物質がクエン酸を含むことを特徴とする請求項1から2のいずれか1項に記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−13874(P2013−13874A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149950(P2011−149950)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(510223874)公益財団法人名古屋産業振興公社 (4)
【Fターム(参考)】