説明

プラズマ処理装置用アンテナ及び該アンテナを用いたプラズマ処理装置

【課題】薄膜の材料が表面に付着しても、高周波誘導電界の遮蔽や強度の減衰を抑えることができる高周波アンテナを提供する。
【解決手段】高周波アンテナ10は、線状のアンテナ導体13と、アンテナ導体13の周囲に設けられた誘電体製保護管14と、誘電体製保護管14の周囲に設けられたシールドであってアンテナ導体13の長手方向の任意の線上において誘電体製保護管14を少なくとも1箇所覆うと共に少なくとも1個の開口153を有する堆積物シールド15とを備える。薄膜材料は保護管及び堆積物シールドの表面に付着するが、アンテナ導体の長手方向の少なくとも1箇所で途切れる。そのため、薄膜材料が導電性のものである場合には高周波誘導電界が遮蔽されることを防ぐことができ、導電性以外のものの場合には高周波誘導電界の強度が減衰することを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを利用したCVD装置やスパッタ装置あるいはエッチング装置等のプラズマ処理装置に用いられる高周波アンテナに関する。本発明は併せて、その高周波アンテナを用いたプラズマ処理装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、真空容器内に高周波アンテナを配置した内部アンテナ方式のプラズマ処理装置が開発され、実用化されている。このプラズマ処理装置では、真空容器内にプラズマを生成するためのガスを導入し、高周波アンテナに高周波電流を流してその周囲に高周波誘導電界を生成することにより、電子を加速し、ガスの分子を電離してプラズマを生成する。このプラズマを用いて、原料のターゲットをスパッタしたもの、あるいは原料のガスを分解したものを基板の表面に供給することにより、薄膜を作製したり、エッチングを行うことができる。
【0003】
特許文献1には、U字形の導体から成る高周波アンテナを複数、真空容器内に配置したプラズマ処理装置が開示されている。この装置は、高周波アンテナを複数用いることにより、真空容器内のプラズマ密度の均一性を高めたものである。また、U字形の高周波アンテナは巻数が1回未満の誘導結合アンテナに相当し、巻数が1回以上の誘導結合アンテナよりもインダクタンスが低いため、高周波アンテナの両端に発生する高周波電圧が低減され、生成するプラズマへの静電結合に伴うプラズマ電位の高周波揺動が抑制される。このため、対地電位へのプラズマ電位揺動に伴う過剰な電子損失が低減され、プラズマ電位が低減される。これにより、基板上での低イオンダメージの薄膜形成プロセスが可能となる。
【0004】
高周波アンテナが直接プラズマに接触すると、アンテナに発生する高周波電圧のためにアンテナにはプラズマから電子が過剰に流入し、プラズマの電位はアンテナの電位よりも高くなる。このため、アンテナに用いる材料はプラズマによってスパッタされ、それにより高周波アンテナの材料が薄膜に不純物として混入するおそれがある。そのため、特許文献1に記載の装置では、高周波アンテナは、直接プラズマに接触しないように、絶縁体(誘電体)製の保護管で被覆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-035697号公報([0050], [0052], [0053], 図1, 図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のプラズマ処理装置を薄膜の製造やエッチングプロセスのために継続的に使用すると、徐々に保護管の表面に薄膜の材料あるいはエッチングプロセスで用いるガス分子の解離種やバイプロダクトが付着してゆき、やがてその表面全体が堆積物の層で覆われる。このようになると、堆積物が導電性のものである場合には、高周波アンテナに高周波電流を流した時に、それとは逆向きの電流が堆積物層に生成され、それにより高周波誘導電界が遮蔽されてしまう。また、堆積物が導電性を持たないものである場合にも、高周波誘導電界が堆積物層を通過する際にその強度が減衰してしまう。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、堆積物がアンテナ保護管の表面に付着しても、高周波誘導電界の遮蔽や強度の減衰が生じることを抑えることができる高周波アンテナを提供することである。併せて、この高周波アンテナを用いたプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る高周波アンテナは、真空容器内に配置され、高周波電流を流すことにより該真空容器内に高周波誘導電界を形成し、該真空容器内に導入されたプラズマ生成ガスをプラズマ化するための高周波アンテナであって、
a) 線状のアンテナ導体と、
b) 前記アンテナ導体の周囲に設けられた誘電体製の保護管と、
c) 前記保護管の周囲に設けられたシールドであって、前記アンテナ導体の長手方向の任意の線上において、前記保護管を少なくとも1箇所覆うと共に少なくとも1箇所開口を有する堆積物シールドと、
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る高周波アンテナでは、薄膜の製造やエッチングプロセスの際に堆積物が、保護管の表面において長手方向に連続して付着するということがなく、また、シールドの表面においても長手方向に連続して堆積するということがないため、堆積物が導電性である場合には、アンテナ導体に高周波電流を流した時に、それとは逆向きの電流が堆積物層に流れるということが妨げられ、高周波誘導電界が遮蔽されることがない。また、導電性を持たない堆積物の場合には、連続した堆積物層により高周波誘導電界が遮蔽されるということがないため、プラズマ生成能の低下を抑えることができる。
【0010】
このような堆積物シールドには、例えば保護管の長手方向に関して一部が途切れているものを用いることができる。この場合、シールドが途切れた部分が前記開口に相当する。また、帯状の部材を保護管の長手方向に沿って螺旋状に、帯と帯の間に間隔を空けて設けたものを用いることもできる。この場合、帯と帯の間の空間が前記開口に相当する。あるいは、管状の部材に、その管の周方向に長い形状の孔を多数、周方向の位置をずらして長手方向に並べたものを用いることもできる。
【0011】
堆積物シールドと保護管の間には、保護管から突出し、該保護管の周囲を1周するか又は該保護管の長手方向に沿って螺旋状に延びる区切り部を設けることが望ましい。区切り部により、薄膜の材料が保護管の表面において長手方向に連続して堆積することをより確実に防ぐことができる。
【0012】
本発明に係るプラズマ処理装置の第1の態様のものは、
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられたターゲット保持手段と、
c) 前記ターゲット保持手段に対向して設けられた基板保持手段と、
d) 前記真空容器内にプラズマ生成ガスを導入するプラズマ生成ガス導入手段と、
e) 前記ターゲット保持手段に保持されるターゲットの表面を含む領域にスパッタ用の直流電界又は高周波電界を生成する電界生成手段と、
f) 前記真空容器内に配置され、前記ターゲット保持手段に保持されたターゲットの表面を含む領域に高周波誘導電界を形成する、請求項1〜8のいずれかに記載の高周波アンテナと、
を備えることを特徴とする。
【0013】
第1の態様のプラズマ処理装置は、従来のスパッタ装置の構成に加えて、ターゲットの表面付近に高周波誘導電界を形成するために、本発明に係る高周波アンテナを設けたものである。
従来のスパッタ装置では、電界生成手段によりプラズマ生成ガスの分子を電離させてプラズマを生成すると共に、それにより生じたイオンをターゲットに衝突させることによってターゲットをスパッタしたうえで、ターゲットの材料を基板上に堆積させることにより薄膜を形成する。それに対して第1の態様のプラズマ処理装置では、真空容器内に配置された高周波アンテナによって形成される高周波誘導電界により、ターゲットの表面付近におけるプラズマの密度を更に高めることができるため、ターゲットをより高速にスパッタすることができる。但し、この装置では高周波アンテナが真空容器内に配置されるため、ターゲットがスパッタされて成る薄膜原料が高周波アンテナの表面に付着する。そのため、第1の態様のプラズマ処理装置では、本発明に係る高周波アンテナを用いることにより、高周波誘導電界の強度が弱まることを防いでいる。
【0014】
第1の態様のプラズマ処理装置(スパッタ装置)において、前記直流電界又は高周波電界と直交する成分を持つ磁界を前記ターゲットの表面を含む領域に生成する磁界生成手段を設けることが望ましい。これは、従来のマグネトロンスパッタ装置の構成に加えて、本発明に係る高周波アンテナを設けたものである。
【0015】
本発明に係るプラズマ処理装置の第2の態様のものは、
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられた基板保持手段と、
c) 前記真空容器内に設けられた複数の、本発明に係る高周波アンテナと、
d) 前記真空容器内にプラズマ生成ガスを導入するプラズマ生成ガス導入手段と、
e) 前記真空容器内に薄膜の原料となるガスを導入する原料ガス導入手段と、
を備えることを特徴とする。このプラズマ処理装置は、特許文献1に記載のプラズマ処理装置における高周波アンテナに、本発明に係る高周波アンテナを用いたものである。
【0016】
また、本発明に係るプラズマ処理装置の第3の態様のものは、
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられた基板保持手段と、
c) 前記真空容器内に設けられた複数の、本発明に係る高周波アンテナと、
d) 前記真空容器内にプラズマ生成ガスを導入するプラズマ生成ガス導入手段と、
e) 前記真空容器内にエッチングプロセスに用いるガスを導入するエッチングプロセスガスガス導入手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る高周波アンテナによれば、薄膜の材料あるいはエッチングに用いる材料ガスが付着することにより保護管及び堆積物シールドの表面に形成される堆積物層が、アンテナ導体の長手方向の任意の線上で少なくとも1箇所途切れる。そのため、堆積物が導電性のものである場合には高周波誘導電界が遮蔽されることを防ぐことができ、導電性以外のものの場合には高周波誘導電界の強度が減衰することを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る高周波アンテナの第1実施例を示す縦断面図(a)及び該高周波アンテナの一部の側面図(b)。
【図2】第1実施例の高周波アンテナにおける堆積物シールドの作用を説明するための図。
【図3】本発明に係る高周波アンテナが用いられるプラズマ処理装置の一実施例であるスパッタ装置を示す縦断面図。
【図4】本発明に係る高周波アンテナが用いられるプラズマ処理装置の一実施例であるプラズマCVD装置又はプラズマエッチング装置を示す縦断面図(a)及び平面図(b)。
【図5】第2実施例の高周波アンテナを示す縦断面図。
【図6】第2実施例の高周波アンテナにおける堆積物シールドの作用を説明するための図。
【図7】第3実施例の高周波アンテナを示す縦断面図。
【図8】第3実施例の高周波アンテナにおける堆積物シールドの作用を説明するための図。
【図9】第3実施例の変形例におけるフィン及び誘電体製パイプの一部を示す正面図。
【図10】第4実施例の高周波アンテナを示す、線状導体に垂直な面での断面図(a)及び展開図(b), (c)。
【図11】第4実施例の高周波アンテナにおける堆積物シールドの作用を説明するための長手方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜図11を用いて、本発明に係るプラズマ処理装置用高周波アンテナ(以下、「高周波アンテナ」とする)、及びその高周波アンテナを用いたプラズマ処理装置の実施例を説明する。
【実施例1】
【0020】
図1〜図4を用いて、本発明に係る高周波アンテナの第1の実施例を説明する。この高周波アンテナ10は、線状の導体をU字形に曲げたアンテナ導体13と、アンテナ導体13を覆うようにU字形に曲げられた、断面が円形の誘電体製パイプ14と、誘電体製パイプ14の外表面に設けられた堆積物シールド15とを有する。堆積物シールド15の詳細は後述する。なお、図1(a)は、アンテナ導体13に平行な断面における断面図である。高周波アンテナ10はフィードスルー12を介して、プラズマ処理装置が有する真空容器11の壁面に取り付けられる。また、アンテナ導体13にはインピーダンス整合器17を介して高周波電源16が接続される。なお、このU字形のアンテナ導体13は巻数が1回未満の誘導結合アンテナに相当し、巻数が1回以上の誘導結合アンテナよりもインダクタンスが低いため、高周波アンテナの両端に発生する高周波電圧が低減され、生成するプラズマへの静電結合に伴うプラズマ電位の高周波揺動が抑制される。このため、対地電位へのプラズマ電位揺動に伴う過剰な電子損失が低減され、プラズマ電位が低減される。これにより、基板上での低イオンダメージの薄膜形成プロセスが可能となる。
【0021】
堆積物シールド15は、誘電体製パイプ14の外表面から外側に向かって延びる脚部(区切り部)151と、脚部151の上端から誘電体製パイプ14の長手方向の両側に延びる庇部152を有する。従って、図1(a)の縦断面図では、脚部151と庇部152は、両者を合わせてT字状の形状を呈している。脚部151及び庇部152は共に、誘電体製パイプ14の周囲を一周するように形成されている。そして、これら脚部151及び庇部152は誘電体製パイプ14の長手方向に多数、庇部152同士の間が空くように並べて配置されている。即ち、堆積物シールド15を構成する物は、庇部と庇部の間で途切れている。この途切れている部分を開口153と呼ぶ。なお、堆積物シールド15の材料は導体でも誘電体でもよい。
【0022】
本実施例の高周波アンテナ10は、図3や図4に示すプラズマ処理装置(スパッタ装置、プラズマCVD装置、プラズマエッチング装置)等で用いられる。それらのプラズマ処理装置の詳細は後述するが、いずれも基板上に薄膜を作製するための装置であり、高周波アンテナ10が生成する高周波誘導電界によりプラズマを形成したうえで、薄膜の原料から成るターゲットをプラズマ中のイオンでスパッタしたり、あるいは薄膜の原料のガスを分解したりするものである。その際、薄膜の原料やエッチングプロセスガスが高周波アンテナ10の表面に付着することから、その堆積物が高周波アンテナ10の特性に悪影響を与えるかという点が問題となる。特に、アンテナ導体13に高周波電流を流すことによって時間変動する磁界がアンテナ導体13の周りに生じることから、導電性の堆積物が線状導体の長手方向に繋がるように付着すると、この磁界を打ち消すように付着物に電流が流れ、その結果、高周波誘導電界が遮蔽されるおそれがある。
【0023】
本実施例では以下に述べるように、堆積物シールド15が存在することにより堆積物が高周波アンテナ10の特性に悪影響を与えることはほとんどない。即ち、図2に示すように、高周波アンテナ10に向かって(図2中の矢印)飛来する堆積の原料は、一部は庇部152の外側に堆積し(外側堆積物M1)、それ以外は開口153を通って誘電体製パイプ14の外表面に堆積する(内側堆積物M2)。隣り合う庇部152同士の間に開口153が存在するため、各庇部152に付着した外側堆積物M1は互いに繋がることがないか、少なくともプラズマ処理装置の運転を開始してから相当時間経過するまでは外側堆積物M1が互いに繋がることがない。
【0024】
また、誘電体製パイプ14の外表面がその長手方向に関して脚部(区切り部)151によって区切られているため、(装置の使用時間に関わらず)内側堆積物M2が長手方向に繋がることもない。
【0025】
以上のように、堆積物シールド15により、外側堆積物M1や内側堆積物M2が誘電体製パイプ14の長手方向に連続して繋がることを(少なくとも相当時間)防ぐことができる。従って、特に堆積物が導電性を持つ場合に、高周波誘導電界が遮蔽されるという問題が生じない。また、堆積物が導電性を持たない場合にも、高周波誘導電界の強度が弱められることを(少なくとも相当時間)抑えることができる。また、定期的に堆積物を除去するというメンテナンス作業が不要になるか、又はその作業の周期を長くすることができるため、装置のランニングコストを下げることができる。
【0026】
更に、庇部152の先端と脚部151の距離がある程度以上長いと、開口153を通過した薄膜原料は、庇部152の先端から脚部151に向かって途中までは侵入するが、それ以上奥までは侵入しない。その場合には、誘電体製パイプ14の外表面の少なくとも一部が庇部の影の位置に該当し、その位置においては内側堆積物M2によって覆われないため、高周波誘導電界の強度が弱められることをより確実に防ぐことができる。このような効果を奏するために、庇部152の先端と脚部151の距離は、庇部152と誘電体製パイプ14の隙間の大きさの2倍以上とすることが望ましい。
【0027】
次に、本実施例の高周波アンテナ10を用いたプラズマ処理装置(スパッタ装置)20について説明する。プラズマ処理装置20は、真空容器11の底部に設けられたマグネトロンスパッタ用磁石21と、マグネトロンスパッタ用磁石21の上面に設けられたターゲットホルダ22と、ターゲットホルダ22に対向して設けられた基板ホルダ23とを有し、更にマグネトロンスパッタ用磁石21の側方に本実施例の高周波アンテナ10を備えるものである。ターゲットホルダ22の上面には板状のターゲットTを、基板ホルダ23の下面には基板Sを、それぞれ取り付けることができる。また、このプラズマ処理装置20には、前述のように高周波アンテナ10にインピーダンス整合器17を介して高周波電源16が接続されると共に、ターゲットホルダ22と基板ホルダ23の間にターゲットホルダ22側を正とする直流電圧を印加するための直流電源24が設けられている。その他、真空容器11の側壁に、プラズマを生成するためのガス(プラズマ生成ガス)を真空容器11内に導入するガス導入口27が設けられている。
【0028】
プラズマ処理装置20の動作を説明する。まず、ターゲットTをターゲットホルダ22に、基板Sを基板ホルダ23に、それぞれ取り付ける。次に、真空容器11内を真空にした後、プラズマ生成ガスをガス導入口27から真空容器11内に導入する。続いて、マグネトロンスパッタ用磁石21の電磁石に直流電流を流すことにより、ターゲットTの近傍に磁界を形成する。それと共に、ターゲットホルダ22と基板ホルダ23を電極として両者の間に直流電源24により直流電界を形成する。更に、高周波電源16からアンテナ導体13に高周波電力を投入することにより、ターゲットTの近傍を含む高周波アンテナ10の周囲に高周波誘導電界を形成する。これら磁界、直流電界及び高周波誘導電界によりプラズマが生成される。そして、プラズマから供給される電子が磁界及び直流電界によりサイクロイド運動又はトロコイド運動をすることにより、プラズマ生成ガスの電離が促進され、多量の陽イオンが生成される。これら陽イオンがターゲットTの表面に衝突することにより、ターゲットTの表面からスパッタ粒子が飛び出し、そのスパッタ粒子がターゲットTと基板Sの間の空間を飛行して基板Sの表面に付着する。こうして基板Sの表面にスパッタ粒子が堆積することにより、薄膜が生成される。
【0029】
この装置では、スパッタ粒子が高周波アンテナ10に付着するが、堆積物シールド15の存在により、高周波アンテナ10が生成する高周波誘導電界が遮蔽されたり弱められたりすることを防ぐことができる。
【0030】
なお、ここではマグネトロンスパッタ装置を例として説明したが、プラズマ処理装置20からマグネトロンスパッタ用磁石21を除いた二極スパッタ装置においても同様に、ターゲットホルダ22の側方に本実施例の高周波アンテナ10を設けることができる。
【0031】
次に、本実施例の高周波アンテナ10を用いたプラズマ処理装置30について説明する。プラズマ処理装置30は、真空容器11の底部に設けられた基板ホルダ33と、真空容器11の側壁に、基板ホルダ33上の基板Sに平行に並べられた複数の高周波アンテナ10を備えるものである。これら複数の高周波アンテナ10は3個又は4個を1組として、1組につき1個の高周波電源16に並列に接続されている。また、真空容器11の側壁には、プラズマ生成ガスを真空容器11内に導入する第1ガス導入口371と、薄膜の原料となるガス(薄膜原料ガス)あるいはエッチングプロセスガスを真空容器11内であってプラズマ生成ガスが供給された領域よりも基板ホルダ33側に導入する第2ガス導入口372が設けられている。
【0032】
プラズマ処理装置30の動作を説明する。まず、基板ホルダ33に基板Sを取り付けた後、真空容器11内を真空にする。次に、プラズマ生成ガスを第1ガス導入口371から、薄膜原料ガスを第2ガス導入口372から、それぞれ真空容器11内に導入する。そして、高周波電源16からアンテナ導体13に高周波電流を供給する。これにより、真空容器11内に高周波誘導電界が形成され、この高周波誘導電界で電子を加速し、プラズマ生成ガスが電離してプラズマが形成される。そして、薄膜原料ガスあるいはエッチングプロセスガスはプラズマ中の電子衝突によって分解され、基板S上で薄膜形成やエッチングプロセスが行われる。
【0033】
プラズマ処理装置30においても、分解した薄膜の原料あるいはエッチングプロセスガスが高周波アンテナ10に付着するが、堆積物シールド15の存在により、その付着物によって高周波誘導電界が遮蔽されたり弱められたりすることを防ぐことができる。
【0034】
ここまでに述べたプラズマ処理装置20及び30においては、第1実施例の高周波アンテナ10の代わりに、以下に述べる第2実施例以降の実施例に係る高周波アンテナを用いることもできる。
【実施例2】
【0035】
図5及び図6を用いて、本発明に係る高周波アンテナの第2の実施例を説明する。本実施例の高周波アンテナ10Aは、第1実施例の高周波アンテナ10と同様のアンテナ導体13及び誘電体製パイプ14を有すると共に、誘電体製パイプ14の外表面に堆積物シールド15Aが設けられている(図5)。堆積物シールド15Aは、誘電体製パイプ14の外表面から外側に向かって延びる脚部151Aと、脚部151Aの上端から誘電体製パイプ14の長手方向の片側に延びる庇部152Aを有する。従って、図5(a)の縦断面図では、脚部151Aと庇部152Aは、両者を合わせてL字状の形状を呈している。
【0036】
本実施例の高周波アンテナ10Aは、図6に示すように、第1実施例の高周波アンテナ10と同様に、隣り合う庇部152A同士の間に開口153Aが存在するため、(少なくともプラズマ処理装置の運転を開始してから相当時間経過するまでは)各庇部152Aに付着した外側堆積物M1は互いに繋がることがない。また、誘電体製パイプ14の外表面がその長手方向に関して脚部(区切り部)151Aによって区切られているため、内側堆積物M2が長手方向に繋がることもない。更に、薄膜原料が庇部152Aの先端から脚部151Aに向かって途中までしか侵入しないため、誘電体製パイプ14の外表面の少なくとも一部は内側堆積物M2で覆われない。これらにより、特に付着物が導電性である場合に、高周波誘導電界が遮蔽されることを防ぐと共に、付着物が導電性のもの以外である場合にも、高周波誘導電界の強度が弱められることを抑えることができる。
【実施例3】
【0037】
図7及び図8を用いて、本発明に係る高周波アンテナの第3の実施例を説明する。本実施例の高周波アンテナ10Bは、第1及び第2実施例の高周波アンテナと同様のアンテナ導体13及び誘電体製パイプ14を有すると共に、誘電体製パイプ14の外表面に堆積物シールド(フィン15B)が設けられている(図7)。1個のフィン15Bは、誘電体製パイプ14の外表面から外側に向かって延び、誘電体製パイプ14の周囲を一周するように形成されている。そして、フィン15Bは誘電体製パイプ14の長手方向に多数、その厚みよりも十分に大きい間隔で並べられている。
【0038】
本実施例の高周波アンテナ10Bは、図8に示すように、アンテナ導体13の長手方向に関するフィン15Bの先端の幅がフィン同士の間隔よりも十分に狭いため、この先端に付着する堆積物M1はこの方向にはほとんど延びない。そのため、この方向に堆積物M1が繋がることがない。また、誘電体製パイプ14の外表面はフィン15Bによって区切られているため、やはり上記方向に堆積物M2が繋がることがない。従って、第1及び第2実施例の場合と同様に、高周波誘導電界が遮蔽されることを防ぐと共に、高周波誘導電界の強度が弱められることを抑えることができる。
【0039】
なお、フィン15Bの側面においても、薄膜の材料は付着するが、単位面積当たりの量はフィン15Bの先端や誘電体製パイプ14の外表面よりも十分に少ないため、薄膜材料の層が形成されにくい。また、仮にそのような層が形成されても、その厚さが薄いうえに、フィン15Bが無い場合よりも電流の経路が長くなるため、電磁界をシールドする電流を小さくすることができる。
【0040】
第3実施例では誘電体製パイプ14の周囲を一周するフィンを多数並べたが、その代わりに、1本のフィン15B’を、誘電体製パイプ14の長手方向に螺旋状に進むように形成しても(図9)、同様の効果を奏する。
【実施例4】
【0041】
図10及び図11を用いて、本発明に係る高周波アンテナの第4の実施例を説明する。本実施例の高周波アンテナ10Cは、図10(a)に示すように、第1〜第3実施例の高周波アンテナと同様のアンテナ導体13及び誘電体製パイプ14を有すると共に、誘電体製パイプ14の外側に堆積物シールド15Cを有する。堆積物シールド15Cは、誘電体製のパイプに多数の孔41A又は孔41Bを設けたものである。なお、堆積物シールド15Cのパイプの材料は誘電体製パイプ14と同じであってもよいし、それとは異なるものであってもよい。誘電体製パイプ14と堆積物シールド15Cの間は空洞になっており、第1及び第2実施例における脚部に相当するものは存在しない。この空洞の高さ(誘電体製パイプ14の外表面と堆積物シールド15Cの内表面の間の距離)は、誘電体製パイプ14と堆積物シールド15Cを共にフィードスルー12に固定することにより一定に保たれている。
【0042】
図10(b)に孔41Aの、(c)に孔41Bの、形状及び位置をそれぞれ示す。これら(b), (c)はいずれも、堆積物シールド15Cを長手方向に切り開いて展開した図である。孔41Aは、堆積物シールド15Cの周方向に長い楕円形を呈しており、この方向に複数個、同じ周期aで1列に並んでいる。そして、この列が堆積物シールド15Cの長手方向に多数配置されている。また、孔41Aは、隣接する列同士では互いに周方向にa/2だけずれるように配置され、その長径bはa/2よりも大きい。これにより、堆積物シールド15Cの表面ではどの位置においても、そこから長手方向に孔41Aが存在することとなる。孔41Bは形状が堆積物シールド15Cの周方向に長い長方形である点を除いて、孔41Aと同様である。
【0043】
このように堆積物シールド15Cの表面のどの位置においてもそこから長手方向に孔41A又は41Bが存在することにより、図11に示すように、堆積物シールド15Cの表面に付着する外側堆積物M1は少なくとも長手方向に真っ直ぐ延びるように形成されることがない。そのため、アンテナ導体13に高周波電流を流した際に、長手方向に電流が流れて高周波誘導電界が遮蔽されることを防ぐことができる。また、堆積物シールド15Cでは孔41A又は孔41Bの間に存在する壁面が第1及び第2実施例における庇部と同じ役割を果たすため、その影の位置に相当する誘電体製パイプ14の外表面において、内側堆積物M2が繋がることを防ぐことができ、それにより高周波誘導電界が遮蔽されることを防ぐことができる。この効果を奏するために、隣接する孔の列同士では、孔と孔の間で誘電体製パイプ14を覆う部分の幅は、誘電体製パイプ14と堆積物シールド15Cの隙間の大きさの2倍以上とすることが望ましい。
【符号の説明】
【0044】
10、10A、10B、10C…高周波アンテナ
11…真空容器
12…フィードスルー
13…アンテナ導体
14…誘電体製パイプ
15、15A、15C…堆積物シールド
151、151A…脚部
152、152A…庇部
153、153A…開口
15A…堆積物シールド
15B…フィン
16…高周波電源
17…インピーダンス整合器
20…プラズマ処理装置(スパッタ装置)
21…マグネトロンスパッタ用磁石
22…ターゲットホルダ
23、33…基板ホルダ
24…直流電源
27…ガス導入口
30…プラズマ処理装置(プラズマCVD装置、プラズマエッチング装置)
371…第1ガス導入口
372…第2ガス導入口
41A、41B…孔
S…基板
T…ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に配置され、高周波電流を流すことにより該真空容器内に高周波誘導電界を形成し、該真空容器内に導入されたプラズマ生成ガスをプラズマ化するための高周波アンテナであって、
a) 線状のアンテナ導体と、
b) 前記アンテナ導体の周囲に設けられた誘電体製の保護管と、
c) 前記保護管の周囲に設けられたシールドであって、前記アンテナ導体の長手方向の任意の線上において、前記保護管を少なくとも1箇所覆うと共に少なくとも1箇所開口を有する堆積物シールドと、
を備えることを特徴とする高周波アンテナ。
【請求項2】
前記堆積物シールドが、前記保護管の長手方向に関して一部が途切れていることを特徴とする請求項1に記載の高周波アンテナ。
【請求項3】
前記堆積物シールドが、帯状の部材を前記保護管の長手方向に沿って螺旋状に、帯と帯の間に間隔を空けて設けたものであることを特徴とする請求項1に記載の高周波アンテナ。
【請求項4】
前記堆積物シールドが、管状の部材に、該管の周方向に長い形状の孔を多数、周方向の位置をずらして長手方向に並べたものであることを特徴とする請求項1に記載の高周波アンテナ。
【請求項5】
前記堆積物シールドと前記保護管の間に、該保護管から突出し、該保護管の周囲を1周する区切り部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高周波アンテナ。
【請求項6】
前記堆積物シールドと前記保護管の間に、該保護管から突出し、該保護管の長手方向に沿って螺旋状に延びる区切り部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高周波アンテナ。
【請求項7】
前記アンテナ導体が、巻数が1周未満の誘導結合アンテナであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高周波アンテナ。
【請求項8】
前記アンテナ導体がU字形であることを特徴とする請求項7に記載の高周波アンテナ。
【請求項9】
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられたターゲット保持手段と、
c) 前記ターゲット保持手段に対向して設けられた基板保持手段と、
d) 前記真空容器内にプラズマ生成ガスを導入するプラズマ生成ガス導入手段と、
e) 前記ターゲット保持手段に保持されるターゲットの表面を含む領域にスパッタ用の直流電界又は高周波電界を生成する電界生成手段と、
f) 前記真空容器内に配置され、前記ターゲット保持手段に保持されたターゲットの表面を含む領域に高周波誘導電界を形成する、請求項1〜8のいずれかに記載の高周波アンテナと、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記直流電界又は高周波電界と直交する成分を持つ磁界を前記ターゲットの表面を含む領域に生成する磁界生成手段を備えることを特徴とする請求項9に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられた基板保持手段と、
c) 前記真空容器内に設けられた複数の、請求項1〜8のいずれかに記載の高周波アンテナと、
d) 前記真空容器内にプラズマ生成ガスを導入するプラズマ生成ガス導入手段と、
e) 前記真空容器内に薄膜の原料となるガスを導入する原料ガス導入手段と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項12】
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器内に設けられた基板保持手段と、
c) 前記真空容器内に設けられた複数の、請求項1〜8のいずれかに記載の高周波アンテナと、
d) 前記真空容器内にプラズマ生成ガスを導入するプラズマ生成ガス導入手段と、
e) 前記真空容器内にエッチングプロセスに用いるガスを導入するエッチングプロセスガス導入手段と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−181292(P2011−181292A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43538(P2010−43538)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(505402581)株式会社イー・エム・ディー (16)
【Fターム(参考)】