説明

プラズマ処理装置用電極板

【課題】プラズマの逆流を抑制して冷却板の損傷を防ぐことができるとともに、被処理基板に面内均一なプラズマ処理を行わせることができるプラズマ処理装置用電極板を提供する。
【解決手段】電極板3は、プラズマ処理装置1内においてウエハ8(被処理基板)と対向配置されるプラズマ処理装置用電極板であって、厚さ方向に貫通する通気孔11が複数設けられてなり、その通気孔11は、ウエハ8と対向する放電面30a側に、厚さ方向に対して斜めに形成された傾斜孔部21を有し、放電面30aには、傾斜孔部21の開口端部を切り欠く凹部23が形成されており、傾斜孔部21の傾斜方向に沿う断面において、その傾斜孔部21の180°対向する二つの周縁21A,21Bと傾斜孔部21に交差する凹部23の切欠面24とのなす角度が、両周縁部で同じ角度に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置においてプラズマ生成用ガスを厚さ方向に通過させながら放電するプラズマ処理装置用電極板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等のプラズマ処理装置は、チャンバー内に、高周波電源に接続される上部電極と下部電極とを、例えば、上下方向に対向配置し、下部電極の上に被処理基板を配置した状態として、上部電極に形成した通気孔からエッチングガスを被処理基板に向かって流通させながら高周波電圧を印加することによりプラズマを発生させ、被処理基板にエッチング等の処理を行う構成とされている。
【0003】
このプラズマ処理装置で使用される上部電極として、一般に、シリコン製の電極板を冷却板に固定し重ね合わせた積層電極板が用いられており、プラズマ処理中に上昇する電極板の熱は、冷却板を通して放熱されるように構成されている。
電極板に設けられる通気孔(貫通細孔)は、通常は、その厚さ方向に平行に形成されているが(特許文献1参照)、プラズマ処理を繰り返し行うことにより、プラズマにさらされる部分が削られて消耗するため、通気孔の径が大きく変化する。特に通気孔のプラズマ発生領域側の被処理基板に対向する開口部は、侵食される。これに伴って、プラズマの一部がエッチングガスの流れに逆らって逆流し、通気孔から電極板の背面に向けてプラズマが入り込むと、冷却板の一部がスパッタされて、被処理基板が汚染されるおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献2及び特許文献3には、通気孔を屈曲させた状態に形成した電極板が提案されている。特許文献2では、電極板の表側と裏側とで異なる方向に孔加工して、両方の孔を電極板の内部で接続することにより屈曲した通気孔(貫通細孔)を形成している。また、特許文献3では、電極板本体の取付孔に緊密に嵌合するガス孔部材を備え、そのガス孔部材に、屈曲部が少なくとも2箇所以上形成された通気孔(貫通孔)を形成している。
【0005】
このように、通気孔の途中に屈曲部を設けた場合、エッチングガスの流れに逆らって逆流するプラズマが、そのまま電極板の背面に通過することを防止できるので、冷却板の損傷を抑制できるとされている。
また、通気孔から噴出されたエッチングガスは、徐々に流速を弱めながら周囲に拡散するが、エッチングガス流れを、電極板の厚み方向に対して傾斜させることで、そのエッチングガスを周囲に均一に拡散させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003‐289064号公報
【特許文献2】特開2008‐60197号公報
【特許文献3】特開2010‐103225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、通気孔の被処理基板側に位置する孔部を電極板の厚み方向に対して傾斜させて設けた場合、通気孔から噴出されるエッチングガスの流れは、電極板の表面に引き寄せられるように流れる。この場合、傾斜孔に沿ってエッチングガスを供給することができず、目標とするエッチングガスの拡散効果を得ることが難しい。したがって、エッチングガスの密度が不均一となり、被処理基板全体に均一なエッチング処理ができなくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、プラズマの逆流を抑制して冷却板の損傷を防ぐことができるとともに、被処理基板に面内均一なプラズマ処理を行わせることができるプラズマ処理装置用電極板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電極板は、プラズマ処理装置内において被処理基板と対向配置されるプラズマ処理装置用電極板であって、厚さ方向に貫通する通気孔が複数設けられてなり、前記通気孔は、前記被処理基板と対向する放電面側に、厚さ方向に対して斜めに形成された傾斜孔部を有し、前記放電面には、前記傾斜孔部の開口端部を切り欠く凹部が形成されており、前記傾斜孔部の傾斜方向に沿う断面において、該傾斜孔部の180°対向する二つの周縁と該傾斜孔部に交差する凹部の切欠面とのなす角度が、両周縁部で同じ角度に設定されていることを特徴とする。
【0010】
傾斜孔部の開口端部に上記のように設定された凹部を形成することで、通気孔から噴出されるエッチングガスの流れに影響を与えることなく、エッチングガスを傾斜孔部の軸方向(傾斜方向)に沿って流すことができる。これにより、エッチングガスを所望の方向に沿って噴出させることができ、エッチングガスを均一に拡散させることができるので、被処理基板に面内均一なプラズマ処理を行わせることができる。
また、通気孔が電極板の厚さ方向に対して傾斜して設けられているため、凹部を形成しない場合には、開口端部において、傾斜孔部の内周面の一部がプラズマ発生領域に向けられ、その内周面にプラズマが反射してエッチングガスの流れに逆らって逆流する現象が生じるおそれがある。しかし、開口端部に凹部を設けることにより、傾斜孔部の内周面の一部が切り欠かれるので、プラズマ発生領域に対向する面が減少し、プラズマが傾斜孔部の内周面に反射して通気孔に侵入することを防止できる。したがって、プラズマの逆流を抑制でき、プラズマによる冷却板の損傷を防ぐことができる。
【0011】
本発明の電極板において、前記凹部は、前記傾斜孔部の開口端部がその軸方向と直角に交差する平面に開口するように形成されているとよい。
このような凹部を形成することで、エッチングガスを傾斜孔部の軸方向に沿って確実に流すことができるので、エッチングガスを円滑に拡散させることができる。また、この場合、凹部を平面で切り欠いて形成しているので、加工が容易である。
【0012】
本発明の電極板において、前記通気孔は、前記放電面の反対側に位置する反対面から該放電面に向けて厚さ方向途中まで形成された入口側孔部を有し、該入口側孔部と前記傾斜孔部とが連通することにより屈曲して設けられているとよい。
通気孔を電極板の厚さ方向の途中で屈曲して設けることで、プラズマが傾斜孔部に侵入し、エッチングガスの流れに逆らって逆流した場合でも、プラズマがそのまま電極板の背面に通過することを防止でき、プラズマによる冷却板の損傷をより確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プラズマの逆流を防止して冷却板の損傷を防ぐことができるとともに、エッチングガスの流れを均一に保ち、被処理基板に面内均一なプラズマ処理を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プラズマ処理装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態の電極板の通気孔部分の要部縦断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の電極板の通気孔部分の要部縦断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態の電極板の通気孔部分の要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の電極板の第1実施形態を、図面を参照しながら説明する。
まず、この電極板が用いられるプラズマ処理装置としてプラズマエッチング装置1について説明する。
このプラズマエッチング装置1は、図1の概略断面図に示されるように、真空チャンバー2内の上部に電極板(上部電極)3が設けられるとともに、下部に上下動可能な架台(下部電極)4が電極板3と相互間隔をおいて平行に設けられている。この場合、上部の電極板3は絶縁体5により真空チャンバー2の壁に対して絶縁状態に支持されているとともに、架台4の上には、静電チャック6と、その周りを囲むシリコン製の支持リング7とが設けられており、静電チャック6の上に、支持リング7により周縁部を支持した状態でウエハ(被処理基板)8を載置するようになっている。また、真空チャンバー2の上部にはエッチングガス供給管9が設けられ、このエッチングガス供給管9から送られてきたエッチングガスは拡散部材10を経由した後、電極板3に設けられた通気孔11を通してウエハ8に向かって流され、真空チャンバー2の側部の排出口12から外部に排出される構成とされている。一方、電極板3と架台4との間には高周波電源13により高周波電圧が印加されるようになっている。
【0016】
また、電極板3は、シリコンによって円板状に形成されており、その背面には熱伝導性に優れるアルミニウム等からなる冷却板14が固定され、この冷却板14にも電極板3の通気孔11に連通するように、この通気孔11と同じピッチで貫通孔15が形成されている。そして、電極板3は、背面が冷却板に接触した状態でねじ止め等によってプラズマ処理装置1内に固定される。電極板3の詳細構造については後述する。
【0017】
プラズマエッチング装置1では、高周波電源13から高周波電圧を印加してエッチングガスを供給すると、このエッチングガスは拡散部材10を経由して、電極板3に設けられた通気孔11を通って電極板3と架台4との間の空間に放出され、この空間内でプラズマとなってウエハ8に当り、このプラズマによるスパッタリングすなわち物理反応と、エッチングガスの化学反応とにより、ウエハ8の表面がエッチングされる。
また、ウエハ8の均一なエッチングを行う目的で、発生したプラズマをウエハ8の中央部に集中させ、外周部へ拡散するのを阻止して電極板3とウエハ8との間に均一なプラズマを発生させるために、通常、プラズマ発生領域16がシリコン製のシールドリング17で囲われた状態とされている。
【0018】
次に、本発明の第1実施形態の電極板3の詳細構造について図2を参照しながら説明する。
第1実施形態の電極板3には、厚さ方向に平行に貫通する通気孔11が複数設けられている。この通気孔11は、プラズマエッチングを行う際に、電極板3とウエハ8との間にエッチングガスを供給するために用いられる。なお、電極板3は、単結晶シリコン、柱状晶シリコン、又は多結晶シリコンにより円板状に形成されている。
【0019】
通気孔11は、図2に示すように、ウエハ8と対向する放電面30a側に、電極板3の厚さ方向に対して斜めに形成された傾斜孔部21と、放電面30aと反対側の反対面30b側に、厚さ方向と平行に形成された垂直な入口側孔部22とが互いに連通して形成されている。そして、これら傾斜孔部21と入口側孔部22との間には、屈曲部25が形成され、通気孔11は屈曲して設けられている。また、傾斜孔部21の先端は、入口側孔部22よりも延長され、延長部26が設けられている。
電極板3の放電面30aには、傾斜孔部21の開口端部を切り欠く凹部23が形成されており、開口端部における内周面が切り欠かれている。この凹部23は、傾斜孔部21の開口端部が、その軸方向と直角に交差する平面(切欠面24)に開口するように形成されている。なお、図中符号21Oは、傾斜孔部21の軸線を示しており、符号22Oは、入口側孔部22の軸線を示している。
また、凹部23は、図2に示すように、傾斜孔部21の傾斜方向に沿う断面において、傾斜孔部21の180°対向する二つの周縁21A,21Bと、その傾斜孔部21に交差する凹部23の切欠面24とのなす角度α,βが、両周縁部で同じ角度(図2では、略90°)に設定されている。
【0020】
なお、本実施形態においては、通気孔11は、ドリルにより加工している。例えば、板厚tが5mm以上20mm以下の電極板3に対して、傾斜孔部21の孔径及び入口側孔部22の孔径が0.3mm以上0.8mm以下に形成され、通気孔11が構成されている。
【0021】
このように構成した電極板3においては、傾斜孔部21の開口端部の角度α,βが同じ角度で形成されていることから、通気孔11から噴出されるエッチングガスの流れに影響を与えることなく、エッチングガスを傾斜孔部21の傾斜方向に沿って流すことができる。これにより、エッチングガスを所望の方向に沿って噴出させることができ、エッチングガスを均一に拡散させることができるので、ウエハに面内均一なプラズマ処理を行わせることができる。
また、傾斜孔部21の開口端部には凹部23が設けられており、その開口端部における内周面が切り欠かれているので、プラズマ発生領域に対向する面が減少し、プラズマが傾斜孔部21の内周面に反射して通気孔11に侵入することを防止できる。また、通気孔11に屈曲部25を設けることで、直進性の高いプラズマの逆流を抑制することができ、プラズマによる冷却板の損傷を防ぐことができる。さらに、この実施形態の電極板3においては、傾斜孔部21に沿ってプラズマが侵入したとしても、延長部26で塞き止められるので、入口側孔部22への侵入を確実に防止することができる。
【0022】
図3は、本発明の第2実施形態を示している。この第2実施形態の電極板31においては、通気孔41は、電極板31の厚さ方向に対して斜めに形成された傾斜孔部21と、この傾斜孔部21の傾斜方向と異なる方向に斜めに形成された入口側孔部27とが連通するように形成されている。そして、傾斜孔部21と入口側孔部27との間には、屈曲部29が形成され、傾斜孔部21の先端は、入口側孔部27よりも延長して設けられている。
【0023】
電極板31の放電面30aには、傾斜孔部21の開口端部を一部切り欠くように凹部28が形成されている。この実施形態では、凹部28は、ドリルにより加工されており、その孔径は、傾斜孔部21の孔径と同じか、それより大きく形成されている。また、この凹部28は、傾斜孔部21の傾斜方向に沿う面内に延びて形成されており、図3に示すように、傾斜孔部21の傾斜方向に沿う断面において、傾斜孔部21の180°対向する二つの周縁21A,21Bのうち、周縁21A側を切り欠いて形成されている。そして、これら周縁21A,21Bと、その傾斜孔部21に交差する凹部28の切欠面24とのなす角度α,βは、両周縁部で同じ角度に設定されている。なお、図3に示す電極板31においては、角度α,βは、鋭角に設けられている。また、図中符号27Oは、入口側孔部27の軸線を示しており、符号28Oは、凹部28を形成する孔の軸線を示している。
このように構成された電極板31においても、第1実施形態の電極板3と同様に、凹部28を設けることにより、エッチングガスを傾斜孔部21の傾斜方向に沿って流すことができ、プラズマの逆流を抑制することができる。
【0024】
また、図4は、本発明の第3実施形態を示している。上述した実施形態においては、通気孔を、傾斜孔部と入口側孔部とを連通させて設けることにより屈曲させて設けたが、この第3実施形態の電極板32においては、図4に示すように、通気孔51が、電極板32の放電面30aから反対面30bにかけて貫通する傾斜孔部21により形成されている。そして、放電面30aに、傾斜孔部21の傾斜孔部21の開口端部を切り欠く凹部23が形成されている。その他の構成は、第1実施形態のものと同じであり、共通部分に同一符号を付して説明を省略する。
第3実施形態の電極板32においても、傾斜孔部21の開口端部を切り欠く凹部23を設けることにより、エッチングガスを傾斜孔部21の傾斜方向に沿って流すことができ、プラズマの逆流を抑制することができる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、傾斜孔部の傾斜方向に沿う断面において、その傾斜孔部の180°対向する二つの周縁と傾斜孔部に交差する凹部の切欠面とのなす角度を、両周縁部で同じ角度となるように設定することが好ましいが、両周縁部の角度が必ずしも厳密に同一に設定されるものでなくてもよい。また同様に、凹部は、傾斜孔部の開口端部が、その軸方向と直角に交差する平面に開口するように形成されることが好ましいが、必ずしも厳密な意味で90°に交差する平面に形成されるものでなくてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 プラズマエッチング装置
2 真空チャンバー
3,31,32 電極板(上部電極)
4 架台(下部電極)
5 絶縁体
6 静電チャック
7 支持リング
8 ウエハ(被処理基板)
9 エッチングガス供給管
10 拡散部材
11,41,51 通気孔
12 排出口
13 高周波電源
14 冷却板
15 貫通孔
16 プラズマ発生領域
17 シールドリング
21 傾斜孔部
21O,22O,27O,28O 軸線
21A,21B 周縁
22,27 入口側孔部
23,28 凹部
24 切欠面
25,29 屈曲部
30a 放電面
30b 反対面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置内において被処理基板と対向配置されるプラズマ処理装置用電極板であって、厚さ方向に貫通する通気孔が複数設けられてなり、前記通気孔は、前記被処理基板と対向する放電面側に、厚さ方向に対して斜めに形成された傾斜孔部を有し、前記放電面には、前記傾斜孔部の開口端部を切り欠く凹部が形成されており、前記傾斜孔部の傾斜方向に沿う断面において、該傾斜孔部の180°対向する二つの周縁と該傾斜孔部に交差する凹部の切欠面とのなす角度が、両周縁部で同じ角度に設定されていることを特徴とするプラズマ処理装置用電極板。
【請求項2】
前記凹部は、前記傾斜孔部の開口端部がその軸方向と直角に交差する平面に開口するように形成されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置用電極板。
【請求項3】
前記通気孔は、前記放電面の反対側に位置する反対面から該放電面に向けて厚さ方向途中まで形成された入口側孔部を有し、該入口側孔部と前記傾斜孔部とが連通することにより屈曲して設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置用電極板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−110277(P2013−110277A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254243(P2011−254243)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】