説明

プラズマ処理装置

【課題】プラズマ処理の均一性及び効率が向上し、電極の絶縁が容易になるプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】走査ヘッドにおいては、処理ガスが流れる流路を有する構造物と、棒形状を有し表面が固体誘電体からなる被覆電極と、が結合される。被処理ワークは、支持電極の支持面に支持される。流路の入口には処理ガスが供給される。被覆電極と支持電極との間にはパルス電圧が印加される。流路及び被覆電極は、少なくとも出口寄りの部分が支持面に平行な方向以外の方向に延在する。被覆電極は、流路の中に配置され、流路の内表面との間に間隙を有し、被覆電極の放電先端は、流路の出口に露出する。走査ヘッドの先端は、支持面との間に間隙を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2は、プラズマ処理装置に関する。
【0003】
特許文献1のプラズマ処理装置においては、構造体(筒状固体誘電体容器4)が有する流路の中に棒形状を有する第1の電極(内側電極3)が配置され、第1の電極と流路の外に配置された第2の電極との間にパルス電圧が印加される。処理ガスは、流路の入口(ガス導入口5)へ供給される。流路の中でプラズマ化された処理ガスは、流路の出口(ガス吹き出し口6)から支持面(搬送ベルト11のベルト面)に支持される被処理物(被処理体10)へ吹きつけられる。
【0004】
特許文献2のプラズマ処理装置においては、構造体(固体誘電体容器4)が有する流路の外に第1の電極(一の電極2)が配置され、第1の電極と被処理物(基材5)を支持する支持面を有する第2の電極(他の電極3)との間にパルス電圧が印加される。処理ガス(処理用ガス)は、流路の入口(ガス導入口6)へ供給される。処理ガスは、流路の出口(ガス吹き出し口7)から支持面に支持された被処理物へ吹きつけられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−163207号公報
【特許文献2】特開平9−49083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のプラズマ処理装置には、処理ガスがプラズマ化されてから被処理物に吹きつけられるまでに処理ガスの活性が低下し、プラズマ処理の均一性及び効率が不十分になるという問題がある。また、特許文献2のプラズマ処理装置には、第1の電極から沿面放電が起こりやすく、第1の電極の絶縁が困難であるという問題がある。
【0007】
本発明は、これらの問題を解決するためになされ、プラズマ処理の均一性及び効率が向上し、電極の絶縁が容易になるプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための手段を以下に示す。
【0009】
(1)プラズマ処理装置が、流路を有する構造物と、棒形状を有し表面が固体誘電体からなる被覆電極と、を結合した走査ヘッドと、被処理物を支持する支持面を有する支持電極と、前記流路の入口に処理ガスを供給する処理ガス供給機構と、第1の極と第2の極との間にパルス電圧を繰り返し発生するパルス電源と、前記被覆電極と前記第1の極とを接続し、前記支持電極と前記第2の極とを接続するパルス伝送線路と、被処理物を前記走査ヘッドに走査させる走査機構と、を備え、前記流路は、少なくとも出口寄りの部分が前記支持面に平行な方向以外の方向に延在し、前記被覆電極は、前記流路の中に配置され、前記流路の内表面との間に間隙を有し、少なくとも放電先端寄りの部分が前記支持面に平行な方向以外の方向に延在し、前記流路の出口に前記放電先端が露出し、前記走査ヘッドは、前記支持面との間に間隙を有する。
【0010】
(2)上記(1)のプラズマ処理装置において、前記流路の出口が先すぼみ構造を有する。
【0011】
(3)上記(1)又は上記(2)のプラズマ処理装置において、前記被覆電極の先端が先細り形状を有する。
【0012】
(4)上記(1)から上記(3)までのいずれかのプラズマ処理装置において、前記パルス電源が誘導エネルギー蓄積型の電源である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被処理物の近くで処理ガスがプラズマ化され、プラズマ処理の均一性及び効率が向上する。また、電極の絶縁が容易になる。
【0014】
請求項2及び請求項3の発明によれば、処理ガスが放電の中心に導かれ、プラズマ処理の効率が向上する。
【0015】
請求項4の発明によれば、投入されるエネルギーが増加し、処理の効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態のプラズマ処理装置の模式図である。
【図2】被処理ワークの平面図である。
【図3】ストリーマ放電の模式図である。
【図4】ストリーマ放電の模式図である。
【図5】第1実施形態のIES電源の回路図である。
【図6】走査ヘッドの走査速度と改質後の水接触角との関係を示す図である。
【図7】第2実施形態のIES電源の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
第1実施形態は、プラズマ処理装置に関する。
【0018】
(概略)
図1は、プラズマ処理装置1002の模式図である。図1は、プラズマ処理装置1002のリアクタ1004の断面及びリアクタ1004の付属物を示す。図2は、被処理ワークWの模式図である。図2は、平面図である。
【0019】
図1に示すように、リアクタ1004は、チャンバ1008と、走査ヘッド1012と、支持テーブル1016と、走査ヘッド搬送機構1020と、支持テーブル搬送機構1024と、を備える。走査ヘッド1012、支持テーブル1016、走査ヘッド搬送機構1020及び支持テーブル搬送機構1024は、チャンバ1008の内部に収容される。
【0020】
走査ヘッド1012は、構造物1104と、被覆電極1128と、を備える。被覆電極1128は、導電体棒1108と、固体誘電体層1112と、を備える。
【0021】
支持テーブル1016は、被覆電極1216と、収容フレーム1212と、を備える。被覆電極1216は、導電体板1204と、固体誘電体層1208と、を備える。被覆電極1216は、支持面1220が固体誘電体からなる支持電極である。被処理ワークWがガラス基板等の固体誘電体からなる場合は、導電体板1204を被覆する固体誘電体層1208が省かれてもよく、被覆電極1216に代えて支持面が導電体からなる支持電極が採用されてもよい。
【0022】
導電体棒1108及び導電体板1204は、同軸ケーブル等のパルス伝送線路1028を介してパルス電源1032が接続される。また、走査ヘッド1012には、処理ガス供給機構1036が接続される。
【0023】
被処理ワークWは、支持テーブル1016に支持される。また、走査ヘッド1012から被処理ワークWへ処理ガスが吹きつけられ、導電体棒1108と導電体板1204との間にパルス電圧が印加される。これにより、走査ヘッド1012と支持テーブル1016との間でプラズマ化された処理ガスが被処理ワークWに吹きつけられる。さらに、走査ヘッド1012で被処理ワークWが走査される。これにより、図2に示すように、プラズマ化された処理ガスが吹きつけられる処理スポットTSが被処理面WSの上を移動し、プラズマ化された処理ガスで被処理パターンTPが処理される。
【0024】
(構造体1104)
構造体1104は、処理ガスが流れる流路1116を有する。流路1116は、丸孔形状を有してもよいし、角孔形状を有してもよい。
【0025】
流路1116の入口1120には、処理ガス供給機構1036が接続され、処理ガスが供給される。入口1120に供給された処理ガスは、流路1116を流れ、流路1116の出口1124から出る。
【0026】
流路1116は、支持テーブル1016の支持面1220に平行な方向以外の方向に延在すべきであるが、支持面1220と30〜90°をなす方向に延在することが望ましく、支持面1220に垂直な方向に延在することがさらに望ましい。これにより、処理ガスが均一にプラズマ化され、プラズマ化された処理ガスが均一に吹きつけられ、処理の均一性が向上する。処理ガスが向かう方向は、概ね、流路1116の出口寄りの部分が延在する方向によって決まる。したがって、流路1116の出口寄りの部分のみが上記の望ましい方向に延在し、流路1116の残余の部分がそれ以外の方向に延在してもよい。「出口寄りの部分」は、流路1116の一部を占める連続する部分であって、出口1124に至る部分である。
【0027】
出口1124は、先すぼみ構造を有する。これにより、処理ガスが放電の中心に導かれ、処理の効率が向上する。ただし、処理の効率がわずかに低下する可能性はあるが、先すぼみ構造が省略されてもよい。「先すぼみ構造」とは、流路1116の出口寄りの部分において、出口1124に近づくにつれて流路1116の内表面が流路1116の中心軸に近づき、出口1124に近づくにつれて流路1116の径が細くなる構造である。
【0028】
構造体1104は、絶縁体からなる。これにより、構造体1104と導電体棒1108との間の不要な放電が抑制される。
【0029】
(被覆電極1128)
被覆電極1128は、導電体棒1108と固体誘電体層1112との複合体である。導電体棒1108は、固体誘電体層1112で被覆される。導電体棒1108は、アルミニウム等の金属、ステンレス鋼等の合金等の導電体からなる。固体誘電体層1112は、石英ガラス、セラミックス等の固体誘電体からなる。
【0030】
導電体棒1108及び被覆電極1128は、棒形状を有する。導電体棒1108及び被覆電極1128は、丸棒形状を有してもよいし、角棒形状を有してもよいが、丸棒形状を有することが望ましい。また、固体誘電体層1112の層厚は均一であることが望ましい。さらに、導電体棒1108及び固体誘電体層1112は、同軸配置されることが望ましい。これにより、放電が均一になり、処理の均一性が向上する。導電体棒1108が円棒形状を有することは、鋭利な部分を減らし、不要な放電を抑制することにも寄与する。
【0031】
導電体棒1108及び被覆電極1128は、支持面1220に平行な方向以外の方向に延在すべきであるが、支持面1220と30〜90°をなす方向に延在することが望ましく、支持面1220に垂直な方向に延在することがさらに望ましい。これにより、放電が均一になり、処理の均一性が向上する。放電の状態に支配的な影響を与えるのは、導電体棒1108及び被覆電極1128の放電先端寄りの部分である。したがって、導電体棒1108及び被覆電極1128の放電先端寄りの部分のみが望ましい方向に延在し、導電体棒1108及び被覆電極1128の残余の部分がそれ以外の方向に延在してもよい。「放電先端寄りの部分」とは、導電体棒1108及び被覆電極1128の一部を占める連続する部分であって、放電先端1136,1132に至る部分である。
【0032】
被覆電極1128の表面は、固体誘電体からなり、導電体棒1108は、パルス伝送線路1028に接続される非放電先端を除いて表面に露出しない。これにより、不要な放電が抑制され、導電体棒1108及び被処理ワークWの損傷が抑制される。
【0033】
被覆電極1128の放電先端1132は、鋭利な部分を有さないことが望ましく、半球形状等の表面が曲面からなる先細り形状を有することが望ましい。これにより、処理ガスが放電の中心に導かれ、処理の効率が向上する。また、不要な放電が抑制される。「先細り形状」とは、被覆電極1128の放電先端寄りの部分において、放電先端1132に近づくにつれて被覆電極1128の外表面が被覆電極1128の中心軸に近づき、放電先端1132に近づくにつれて被覆電極1128の径が細くなる形状である。
【0034】
導電体棒1108の放電先端1136も、鋭利な部分を有さないことが望ましく、半球形状等の表面が曲面からなる先細り形状を有することが望ましい。これにより、不要な放電が抑制される。
【0035】
導電体棒1108は、パルス伝送線路1028により、パルス電源1032の正極に接続される。
【0036】
(走査ヘッド1012)
走査ヘッド1012においては、構造体1104と被覆電極1128とが結合される。「結合」とは、構造体1104と被覆電極1128とが一体的に移動するように構造体1104と被覆電極1128との相対的な位置を固定することをいう。
【0037】
走査ヘッド1012の先端1140と支持面1220との間には、間隙がある。すなわち、放電先端1132と支持面1220との間には間隙があり、構造体1104の先端と支持面1220との間にも間隙がある。間隙は、被処理ワークWが支持面1220に支持されたときに、先端1140と被処理ワークWとが接触しないように決められる。
【0038】
被覆電極1128は、流路1116の中に配置される。被覆電極1128の放電先端1132は、出口1124から突出し、出口1124に露出する。被覆電極1128の放電先端1132が出口1124に達するに過ぎない場合も、被覆電極1128の放電先端1132が出口1124に露出するとみなしてよい。
【0039】
被覆電極1128は、流路1116と同じ方向に延在することが望ましい。また、被覆電極1128は、流路1116と同軸配置されることが望ましい。さらに、被覆電極1128及び流路1116の横断面形状がいずれも円形であることが望ましい。これにより、被覆電極1128の外表面と流路1116の内表面との間の間隙が均一になり、処理ガスが均一に流れ、処理の均一性が向上する。
【0040】
被覆電極1128の外表面と流路1116の内表面との間には横断面形状が環形状を有する間隙があり、処理ガスは当該間隙を流れる。
【0041】
(被覆電極1216)
被覆電極1216は、導電体板1204と固体誘電体層1208との複合体である。導電体板1204の一方の主面は、固体誘電体層1208で被覆される。導電体板1204は、アルミニウム等の金属、ステンレス鋼等の合金等の導電体からなる。固体誘電体層1208は、石英ガラス、セラミックス等の固体電解質からなる。導電体板1204が導電体膜に置き換えられてもよい。
【0042】
被覆電極1216は、被処理ワークWを支持する支持面1220を有する。支持面1220は、固体誘電体からなり、導電体板1204の走査ヘッド1012に対向する側の主面は表面に露出しない。これにより、アーク放電が抑制され、導電体板1204及び被処理ワークWの損傷が抑制される。
【0043】
固体誘電体層1208の層厚は均一であることが望ましい。これにより、放電が均一になり、処理の均一性が向上する。
【0044】
支持面1220は、典型的には、平面であるが、支持面1220が湾曲面であってもよい。
【0045】
導電体板1204及び固体誘電体層1208は、収容フレーム1212に収容される。導電体板1204は、パルス伝送線路1028により、パルス電源1032の負極に接続される。
【0046】
(走査ヘッド搬送機構1020及び支持テーブル搬送機構1024)
走査ヘッド搬送機構1020及び支持テーブル搬送機構1024は、それぞれ、走査ヘッド1012及び支持テーブル1016を支持面1220に平行に1次元運動させる。支持テーブル搬送機構1024が支持テーブル1016を移動させると、支持面1220に支持される被処理ワークWも支持テーブル1016と一緒に移動する。
【0047】
走査ヘッド搬送機構1020が走査ヘッド1012を1次元運動させる方向Aと、支持テーブル搬送機構1024が支持テーブル1016を1次元運動させる方向Bとは、異なる方向であり、望ましくは、垂直をなす。これにより、走査ヘッド搬送機構1020及び支持テーブル搬送機構1024は、走査ヘッド1012に被処理ワークWを2次元的に走査させる走査機構として機能し、被処理ラインが2次元的に延在する被処理パターンTPがプラズマ化された処理ガスで処理される。ただし、被処理ラインが1次元的に延在する被処理パターンがプラズマ化された処理ガスで処理されてもよい。
【0048】
走査ヘッド搬送機構1020及び支持テーブル搬送機構1024としては、リニアモータ、ボールネジ、直動ガイド等を組み合わせた公知の搬送機構が採用される。
【0049】
走査ヘッド搬送機構1020を省略し、支持テーブル搬送機構1024が支持テーブル1016を支持面1220に平行に2次元運動させてもよい。又は、支持テーブル搬送機構1024を省略し、走査ヘッド搬送機構1020が走査ヘッド1012を支持面1220に平行に2次元運動させてもよい。
【0050】
(パルス電源1032)
パルス電源1032は、正極と負極との間にパルス電圧を繰り返し発生する。これにより、導電体棒1108と導電体板1204との間にパルス電圧が繰り返し印加され、被覆電極1128と被覆電極1216との間にパルス放電が発生し、被覆電極1128と被覆電極1216との間で処理ガスがプラズマ化される。
【0051】
(ストリーマ放電)
被覆電極1128と被覆電極1216との間に発生させるパルス放電は、ストリーマ放電であることが望ましい。
【0052】
図3及び図4は、ストリーマ放電の模式図である。
【0053】
被覆電極1128と被覆電極1216との間にストリーマ放電が発生しているときには、図3に示すように、被覆電極1128から被覆電極1216へ向かうが被覆電極1216には達しないストリーマST1が成長し、図1に示すように、被覆電極1128から被覆電極1216へ向かって末広がりになる薄紫色の発光1304が観察される。被覆電極1128と被覆電極1216との間にグロー放電が発生しているときは、薄紫色の発光1304は観察されない。
【0054】
図3に示す枝分かれした長いストリーマST1が成長する前、すなわち、図4に示す短いストリーマST2が散点する状態で、ストリーマの成長を停止させることも望ましい。この微細なストリーマ放電は、処理の均一性を向上することに寄与する。
【0055】
(処理ガス)
処理ガスは、窒素ガスを主成分とするガスであることが望ましく、窒素ガスのみからなる単体ガス又は窒素ガス及び酸素ガスからなる混合物ガスであることが望ましい。窒素ガス及び酸素ガスからなる混合物ガスを処理ガスとする場合、処理ガスに占める酸素ガスの含有量が体積百分率で1〜4%であることが望ましい。酸素ガスの含有量がこの範囲内であれば、処理の効率が向上するからである。
【0056】
(被処理ワークW)
被処理ワークWは、主に、半導体基板、ガラス基板等の板形状物の被処理物である。ただし、被処理物がポリエチレンシート、ポリプロピレンシート等のシート形状物であってもよい。
【0057】
(窒素ラジカル及び短波長紫外線の作用)
被処理面WSが処理されるのは、主に、窒素ラジカル及び短波長紫外線が被処理面WSに複合的に作用することによる。ただし、ストリーマ放電の状態等によっては、窒素ラジカル及び短波長紫外線のいずれかが処理に支配的に寄与する場合もある。
【0058】
被覆電極1128と被覆電極1216との間にストリーマ放電を発生させると、活性が極めて高い窒素ラジカルを含むプラズマが被覆電極1128と被覆電極1216との間に発生する。したがって、ストリーマ放電が発生している被覆電極1128と被覆電極1216との間に被処理ワークWを配置し、窒素ラジカルを被処理面WSに化学的に作用させると、被処理面WSが処理される。
【0059】
被処理面WSに作用させる化学種として窒素ラジカルを選択した理由、すなわち、窒素ガスを主成分とする処理ガスを選択した理由は、窒素ラジカルの活性が極めて高いことによる。このことは、窒素分子の解離エネルギーが9.76eVと極めて高いことからも明らかである。また、3重項窒素(3Σu)のラジカルの寿命が10ミリ秒に達することも、処理の効率を向上することに寄与する。
【0060】
窒素ガスは、低価格で容易に入手することができ取り扱いも容易であることも、被処理面WSに作用させる化学種として窒素ラジカルを選択した理由のひとつである。
【0061】
また、被覆電極1128と被覆電極1216との間にストリーマ放電を発生させると、処理ガスが短波長紫外線を発する。したがって、ストリーマ放電が発生している被覆電極1128と被覆電極1216との間に被処理ワークWを配置し、短波長紫外線を被処理面WSに照射すると、被処理面WSが処理される。
【0062】
「短波長紫外線」とは、100〜280nmの波長成分を主に含む紫外線である。「短波長紫外線」は、「遠赤外線」又は「UV−C」とも呼ばれる。短波長紫外線を照射するのは、短波長紫外線は被処理ワークWの奥深くまで浸透せず、被処理面WSの近傍のみに集中して光化学的な作用を与えるからである。
【0063】
(パルス電圧のパルス幅等)
パルス電源1032が発生するパルス電圧のパルス幅等は、被覆電極1128と被覆電極1216との間にアーク放電を発生させないでストリーマ放電を発生させるように決められる。ピーク電圧は、概ね、10〜100kV、半値幅FWHM(Full Width at Half Maximum)は、概ね、100〜50000ns、立ち上がり時の電圧の時間上昇率dV/dtは、概ね、1〜500kV/μs、周波数は、概ね、1〜50kHz、出力は、概ね10〜1000Wであることが望ましい。半値幅等の範囲を「概ね」としているのは、被覆電極1128,1216の構造及び材質、被覆電極1128と被覆電極1216との間隙の幅、処理ガスの圧力等によっては、ストリーマ放電が発生する半値幅等の範囲が上述の範囲よりも広くなる場合があるからである。したがって、パルス放電がストリーマ放電になっているか否かは、実際のパルス放電を観察して判断することが望ましい。
【0064】
パルス電圧は、極性が変化しない単極性であってもよいし、極性が交互に変化する両極性であってもよい。
【0065】
(パルス電源1032の形式)
パルス電源1032は、アーク放電を発生させることなくストリーマ放電を発生させるパルス電圧を導電体棒1108と導電体板1204との間に印加することができればどのような形式の電源であってもよいが、誘導性素子に磁界の形で蓄積した誘導エネルギーを短時間で放出する誘導エネルギー蓄積型(IES;Inductive Energy Storage)の電源(以下では「IES電源」という。)であることが望ましい。これは、IES電源は、容量性素子に電界の形で蓄積したエネルギーを短時間で放出する静電エネルギー蓄積型(CES;Capacitive Energy Storage)の電源(以下では「CES電源」という)と比較して、著しく大きいエネルギーをリアクタ1004に投入することができるからである。典型的には、電極構造が同じならば、IES電源を採用した場合、プラズマを生成する反応に使われる1パルスあたりのエネルギー(以下では「1パルスエネルギー」という。)は、CES電源を採用した場合よりも概ね1桁大きくなる。IES電源とCES電源とのこの相違は、IES電源が発生するパルス電圧は電圧の上昇が急激であるのに対して、CES電源が発生するパルス電圧は電圧の上昇が緩慢であることにより生じる。すなわち、IES電源を採用した場合、電圧が十分に上昇してから放電が始まり、1パルスエネルギーが十分に大きくなるのに対して、CES電源を採用した場合、電圧が十分に上昇しないうちに放電が始まり、1パルスエネルギーが十分に大きくならないことにより生じる。
【0066】
(スイッチング素子)
IES電源において誘導性素子への電流の供給を制御するスイッチング素子としては、静電誘導型サイリスタ(以下では「SI(Static Induction)サイリスタ」という。)が選択されることが望ましい。スイッチング素子としてSIサイリスタが選択されると、IES電源が立ち上がりの速いパルス電圧を発生することができ、ストリーマ放電が容易に発生するからである。
【0067】
スイッチング素子としてSIサイリスタを選択することにより立ち上がりの速いパルス電圧が発生するのは、SIサイリスタは、ゲートが絶縁されておらずゲートから高速にキャリアを引き抜くことができ、高速にターンオフさせることができるからである。IES電源の動作原理等の詳細は、例えば、飯田克二、佐久間健:「SIサイリスタによる極短パルス電源1032(IES回路)」、SIデバイスシンポジウム講演論文集、Vol.15,Page.40−45(2002年6月14日発行)に記載されている。
【0068】
(IES電源1404の回路図)
図5は、パルス電源1032に好適に用いられるIES電源1404の回路図である。ただし、図5に示す回路図は一例にすぎず、必要に応じて様々に変形される。
【0069】
図5に示すように、IES電源1404は、直流電源1408と、キャパシタ1412と、昇圧トランス1416と、SIサイリスタ1420と、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)1424と、ゲート駆動回路1428と、ダイオード1432と、を備える。
【0070】
IES電源1404においては、直流電源1408から昇圧トランス1416の1次側巻線1436への電流の供給経路1452が、SIサイリスタ1420、MOSFET1424、ゲート駆動回路1428及びダイオード1432からなるスイッチング用素子群により開閉される。供給経路1452が閉じられ、1次側巻線1436へ電流が供給され、昇圧トランス1416に誘導エネルギーが蓄積された後に、供給経路1452が開かれると、昇圧トランス1416の2次側巻線1440に誘導起電力が発生し、正極1444と負極1448との間にパルス電圧が発生する。直流電源1408からの電流の供給は、キャパシタ1412により安定化される。
【0071】
IES電源1404においては、直流電源1408と、1次側巻線1436と、SIサイリスタ1420のアノード(A)・カソード(K)間と、MOSFET1424のドレイン(D)・ソース(S)間とが直列接続される。すなわち、1次側巻線1436の一端が直流電源1408の正極に、1次側巻線1436の他端がSIサイリスタ1420のアノードに、SIサイリスタ1420のカソード(K)がMOSFET1424のドレイン(D)に、MOSFET1424のソース(S)が直流電源1408の負極に接続される。
【0072】
また、IES電源1404においては、SIサイリスタ1420のゲート(G)がダイオード1432を介して1次側巻線1436の一端と接続される。すなわち、SIサイリスタ1420のゲート(G)がダイオード1432のアノード(A)に、ダイオード1432のカソード(K)が1次側巻線1436の一端に接続される。ダイオード1432は、SIサイリスタ1420のゲート(G)に正バイアスを与えた場合に電流が流れることを阻止する、すなわち、SIサイリスタ1420のゲート(G)に正バイアスを与えた場合にSIサイリスタ1420が電流駆動とならないようにする。
【0073】
MOSFET1424のゲート(G)・ソース(S)間には、ゲート駆動回路1428が接続される。
【0074】
キャパシタ1412は、直流電源1408に並列接続される。すなわち、キャパシタ1412の一端が直流電源1408の正極に接続され、キャパシタ1412の他端が直流電源1408の負極に接続される。
【0075】
2次側巻線1440は、IES電源1404の出力に接続される。すなわち、2次側巻線1440の一端が正極1444に接続され、2次側巻線1440の他端が負極1448に接続される。
【0076】
昇圧トランス1416に代えてインダクタを誘導性素子として選択し、1次側巻線1436が挿入されている位置に当該インダクタを挿入し、当該インダクタの両端からパルス電圧を出力してもよい。
【0077】
(IES電源1404の動作)
ゲート駆動回路1428からMOSFET1424のゲートへのオン信号の入力が始まり、MOSFET1424のドレイン(D)・ソース(S)間が導通状態になる。すると、SIサイリスタ1420は、ノーマリオン型のスイッチング素子であってアノード(A)・カソード(K)間が導通状態になっているので、供給経路1452が閉じられ、1次側巻線1436への電流の供給が始まる。このとき、SIサイリスタ1420のゲート(G)に正バイアスが与えられ、SIサイリスタ1420のアノード(A)・カソード(K)間の導通状態が維持される。
【0078】
続いて、ゲート駆動回路1428からMOSFET1424へのオン信号の入力が終わり、MOSFET1424のドレイン(D)・ソース(S)間が非導通状態になる。すると、SIサイリスタ1420のゲート(G)からキャリアが電流駆動により高速に排出され、SIサイリスタ1420のアノード(A)・カソード(K)間が非導通状態になり、供給経路1452が開かれ、1次側巻線1436への電流の供給が終わる。これにより、2次側巻線1440に誘導起電力が発生する。
【0079】
(処理の内容)
被覆電極1128と被覆電極1216との間にパルス放電が発生すると、被覆電極1128と被覆電極1216との間で処理ガスがプラズマ化され、プラズマ化された処理ガスが被処理面WSに作用し、被処理面WSが処理される。「処理」には、被処理面WSに付着した汚染を除去するクリーニング、被処理面WSを侵食するエッチング、被処理面WSに形成されたフッ素化合物膜その他の膜を灰化するアッシング、被処理面WSのぬれ性を向上する改質等の被処理面WSの状態を変更する処理がある。
【0080】
(利点)
第1実施形態のプラズマ処理装置1002によれば、被処理ワークWSの近くで処理ガスがプラズマ化され、プラズマ処理の均一性及び効率が向上する。また、電極の絶縁が容易になる。
【0081】
(実験)
第1実施形態のプラズマ処理装置1002を用いてガラス基板の表面を改質した。ガラス基板は、30mm角で板厚が0.3mmの正方形板とした。ガラス基板の初期水接触角は54°であった。導電体棒1108及び導電体板1204の材質はSUS304とした。導電体棒1108は、直径が5mmで棒長が120mmの丸棒とした。導電体板1208は、300mm角で板厚が3mmの正方形板とした。固体誘電体層1112,1208の材質は石英ガラスとした。固体誘電体層1112は、内径が5.5mmで外径が7.5mmの丸管とした。固体誘電体層1208は、340mm角で板厚が1mmの正方形板とした。処理ガスは、20リットル/分の窒素ガスと0.6リットル/分の酸素ガスとの混合物ガスとした。パルス電源1032には、誘導エネルギー蓄積型のパルス電源を用いた。出力は150Wとし、周波数は5kHzとした。被覆電極1128と被覆電極1216との間の間隙の幅は3mmとした。
【0082】
走査ヘッド1012の走査速度と改質後の水接触角との関係を図にしめす。
【0083】
<第2実施形態>
第2実施形態は、第1実施形態のIES電源に変えて採用されるIES電源に関する。第2実施形態のIES電源においては、スイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が選択される。
【0084】
(IES電源2404の回路図)
図7は、第2実施形態のIES電源2404の回路図である。ただし、図7に示す回路図は一例にすぎず、必要に応じて様々に変形される。
【0085】
図7に示すように、IES電源2404は、直流電源2408と、キャパシタ2412と、昇圧トランス2416と、IGBT2420と、ゲート駆動回路2428と、を備える。
【0086】
IES電源2404においては、直流電源2408から昇圧トランス2416の1次側巻線2436への電流の供給経路2452が、IGBT2420及びゲート駆動回路2428からなるスイッチング用素子群により開閉される。供給経路2452が閉じられ、1次側巻線2436へ電流が供給され、昇圧トランス2416に誘導エネルギーが蓄積された後に、供給経路2452が開かれると、昇圧トランス2416の2次側巻線2440に誘導起電力が発生し、正極2444と負極2448との間にパルス電圧が発生する。直流電源2408からの電流の供給は、キャパシタ2412により安定化される。
【0087】
IES電源2404においては、直流電源2408と、1次側巻線2436と、IGBT2420のコレクタ(C)・エミッタ(E)間と、が直列接続される。すなわち、1次側巻線2436の一端が直流電源2408の正極に、1次側巻線2436の他端がIGBT2420のコレクタ(C)に、IGBT2420のエミッタ(E)が直流電源1408の負極に接続される。
【0088】
キャパシタ2412は、直流電源2408に並列接続される。すなわち、キャパシタ2412の一端が直流電源2408の正極に接続され、キャパシタ2412の他端が直流電源2408の負極に接続される。
【0089】
2次側巻線2440は、IES電源2404の出力に接続される。すなわち、2次側巻線2440の一端が正極2444に接続され、2次側巻線2440の他端が負極2448に接続される。
【0090】
(IES電源2404の動作)
ゲート駆動回路2428からIGBT2420のゲート(G)へのオン信号の入力が始まり、IGBT2420のコレクタ(C)・エミッタ(E)間が導通状態になる。すると、供給経路2452が閉じられ、1次側巻線2436への電流の供給が始まる。
【0091】
続いて、ゲート駆動回路2428からIGBT2420のゲート(G)へのオン信号の入力が終わり、IGBT2420のコレクタ(C)・エミッタ(E)間が非導通状態になる。すると、供給経路2452が開かれ、1次側巻線2436への電流の供給が終わる。これにより、2次側巻線2449に誘導起電力が発生する。
【0092】
<その他>
上記の説明は、全ての局面において例示であって、この発明は上記の説明に限定されない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定されうる。
【符号の説明】
【0093】
1002 プラズマ処理装置
1012 走査ヘッド
1028 パルス伝送線路
1032 パルス電源
1104 構造物
1116 流路
1128 被覆電極
1204 導電体板
1212 支持面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を有する構造物と、棒形状を有し表面が固体誘電体からなる被覆電極と、を結合した走査ヘッドと、
被処理物を支持する支持面を有する支持電極と、
前記流路の入口に処理ガスを供給する処理ガス供給機構と、
第1の極と第2の極との間にパルス電圧を繰り返し発生するパルス電源と、
前記被覆電極と前記第1の極とを接続し、前記支持電極と前記第2の極とを接続するパルス伝送線路と、
被処理物を前記走査ヘッドに走査させる走査機構と、
を備え、
前記流路は、
少なくとも出口寄りの部分が前記支持面に平行な方向以外の方向に延在し、
前記被覆電極は、
前記流路の中に配置され、前記流路の内表面との間に間隙を有し、少なくとも放電先端寄りの部分が前記支持面に平行な方向以外の方向に延在し、前記流路の出口に前記放電先端が露出し、
前記走査ヘッドは、
前記支持面との間に間隙を有する、
プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記流路の出口が先すぼみ構造を有する請求項1のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記被覆電極の先端が先細り形状を有する請求項1又は請求項2のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記パルス電源が誘導エネルギー蓄積型の電源である請求項1から請求項3までのいずれかのプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−181238(P2011−181238A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42237(P2010−42237)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】