説明

プラズマ処理装置

【課題】真空槽に導入されるプラズマと基板との間でプラズマに接する部材がプラズマ中の活性種を失活させることを抑えることのできるプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】プラズマが導入される導入口12aを有する真空槽10と、導入口12aと処理の対象物との間でプラズマに接する中間部材と、を備えるプラズマ処理装置について、中間部材を、導入口12aの周囲に吊り下げられた金属製の支柱30と、支柱30に連結されて導入口12aと互いに向かい合う金属製の対向板31と、から構成する。そして、支柱30及び対向板31を、シリコン酸化膜35により被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置、特に真空槽に導入されるプラズマと処理の対象物との間にプラズマに接する部材を有するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特許文献1に記載のように、マイクロ波を用いて生成された表面波プラズマを半導体基板に曝して半導体基板に対するドライエッチング、表面改質、アッシング等を行うプラズマ処理装置が知られている。プラズマ処理装置の一例として、半導体基板上に形成されたレジスト膜に対し、反応性ガスのプラズマを用いてアッシングを行う装置の概略構成を図3に示す。
【0003】
図3に示されるように、2段筒状をなすチャンバ本体10のうち、上側の筒部11における上側端面には、左右方向に延びる矩形管状の導波管20が連結されている。この導波管20を構成する下側板のうち、筒部11の貫通穴11aと互いに向い合う部位には、貫通穴11aよりも左右方向に広がる連結穴20aが貫通している。この導波管20の連結穴20aには、AlN(窒化アルミ)からなる誘電体透過窓であるマイクロ波透過窓21が嵌め込まれ、これにより筒部11の貫通穴11aが塞がれている。そして、マイクロ波発振器22が導波管20内にマイクロ波を出力すると、該マイクロ波が導波管20を伝播し、その後、マイクロ波透過窓21を透過して貫通穴11a内に伝播するようになる。
【0004】
一方、筒部11の下側端面には、筒部11における下側の開口の一部を塞ぐ円環状のフランジ部12が連結されている。このフランジ部12は、マイクロ波透過窓21と互いに向かい合うように配置され、フランジ部12の上面とマイクロ波透過窓21の下面とに挟まれた空間であるプラズマ生成室13をチャンバ本体10内に区画している。そして、筒部11の下側端面とフランジ部12の上側端面との間に形成されたガス導入路14からプラズマ生成室13に反応性ガスが導入されると、マイクロ波透過窓21を透過したマイクロ波によって反応性ガスからなるプラズマが生成される。
【0005】
また、フランジ部12の下側には、下方に延びる複数の支柱30が連結され、また、複数の支柱30の下端には、フランジ部12の下側開口をその下方で覆う円板状の対向板31が吊り下げられている。この対向板31には、該対向板31を上下方向に貫通する多数の孔が形成されている。そして、プラズマ生成室13にてプラズマが生成されると、プラズマ生成室13の直下における対向板31の孔から、上記プラズマの一部が矢印で示されるように下方に供給され、残りのプラズマがこれもまた矢印で示されるように対向板31の広がる方向に流動する。これにより、チャンバ本体10内のステージ15に載置された基板Sの表面に対し、プラズマが均一に曝されるようになる結果、基板S上に形成されたレジスト膜がプラズマによって均一にアッシングされることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−117373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、マイクロ波透過窓21の表面で生成されたプラズマが基板Sの表面に至るまでの間にその流路上の対向板31等に触れると、該プラズマ中に含まれるラジカルや励起元素である活性種が失活する。本発明者らは、こうした活性種の失活に関し、下記(a)(b)の傾向が認められることを見出した。
(a)流路の表面における導電性が低い方が失活の程度が低い。
(b)流路の表面における温度が低い方が失活の程度が低い。
【0008】
ここで、上述した対向板31が石英から形成される場合、上記傾向(a)に基づけば、確かに、対向板31が金属から形成される場合と比べて、活性種の失活が抑えられることになる。しかしながら、上述した対向板31とは、プラズマ生成室13と互いに向い合うように配置されているために昇温しやすく、且つ、支柱30により吊り下げられる態様でフランジ部12に固定されているために、対向板31の有する熱が放出され難い構造にもなっている。そのため、熱伝導率の低い石英製の対向板31が採用されるとなると、熱伝導率の高い金属製の対向板と比べて、対向板31の表面における温度が高くなり、結局のところ、上記傾向(b)に基づく失活が避けられないこととなる。
【0009】
これに対し、上述した対向板31が金属から形成される場合、上記傾向(b)に基づけば、確かに、対向板31が石英から形成される場合と比べて、活性種の失活が抑えられることになる。しかしながら、こうした構成では、結局のところ、上記傾向(a)に基づく失活が避けられないこととなる。
【0010】
それゆえに、上述したプラズマ処理装置は、活性種の失活を抑えるうえで、依然として改善の余地が残されたものとなっており、上記傾向(a)(b)に即した対向板が強く望まれている。なお、上述のような対向板に対する要請は、マイクロ波を用いた表面波プラズマ処理装置に限られず、プラズマが導入される部位と処理の対象物との間に該プラズマと接する中間部材が配設されたプラズマ処理装置であれば、概ね共通する要請である。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、真空槽に導入されるプラズマと処理の対象物との間でプラズマに接する部材がプラズマ中の活性種を失活させることを抑えることのできるプラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
本発明におけるプラズマ処理装置の一態様は、プラズマが導入される導入口を有する真空槽と、前記導入口と処理の対象物との間でプラズマに接する中間部材と、を備えるプラズマ処理装置であって、前記中間部材は、前記真空槽内にて前記導入口の周囲に吊り下げられた金属製の支柱と、前記支柱に連結されて前記導入口と互いに向かい合う金属製の対向板と、を備え、前記支柱及び前記対向板は、シリコン系絶縁膜により被覆されていることを要旨とする。
【0013】
本発明におけるプラズマ処理装置の一態様では、処理の対象物の前段でプラズマに接する中間部材が、プラズマの導入口の周囲に吊り下げられ、且つ導入口と向かい合うように配置されている。そのため、真空槽内の他の部位と比べて、中間部材が自ずと昇温しやすくなる。この点、上述した一態様であれば、中間部材における支柱及び対向板の双方が金属製であるから、こうした中間部材における熱が支柱を介して真空槽の全体に分散されることになる。それゆえに、中間部材の冷却効率が高められる結果、中間部材の表面温度に起因した活性種の失活を抑制することが可能となる。また同時に、支柱及び対向板がシリコン系絶縁膜によって被覆されることにより、その表面の導電性に起因して活性種が失活することを抑制することが可能にもなる。
【0014】
本発明におけるプラズマ処理装置の一態様は、前記対向板は該対向板を貫通する複数の孔を有し、前記複数の孔の内側面の全面が前記シリコン系絶縁膜により被覆されていることを要旨とする。
【0015】
本発明におけるプラズマ処理装置の一態様では、プラズマの流路のより多くの部分がシリコン系絶縁膜で被覆されることになるため、中間部材の表面の導電性に起因してプラズマ中の活性種が失活することをより適切に抑制することができるようになる。
【0016】
本発明におけるプラズマ処理装置の一態様は、前記支柱及び前記対向板が、陽極酸化被膜を表面とするアルミニウムの基材と、前記基材を被覆する前記シリコン系絶縁膜とを有し、前記シリコン系絶縁膜の表面粗さが、前記陽極酸化被膜の表面粗さよりも小さいことを要旨とする。
【0017】
本発明におけるプラズマ処理装置の一態様は、前記シリコン系絶縁膜の表面粗さが、前記支柱及び前記対向板を構成する基材のうち金属表面の表面粗さよりも小さいことを要旨とする。
【0018】
真空槽内におけるプラズマの流動態様とは、通常、中間部材の位置により大きく左右されるものであって、中間部材の表面の粗さに対する依存とは、こうした配置に比べて非常に小さい。本発明におけるプラズマ処理装置の一態様では、中間部材を構成する基材の表面である陽極酸化被膜やその下地となる金属表面、あるいは基材の表面である金属表面よりも、それを被覆しているシリコン系絶縁膜の表面の方が滑らかで表面積が小さくなる。そのため、中間部材とプラズマとの接触を起こりにくくすることができるようになる。したがって、中間部材におけるプラズマの流動制御機能が失われることを抑え、且つプラズマ中の活性種が失活することをより適切に抑制することが可能となる。
【0019】
本発明におけるプラズマ処理装置の一態様は、前記シリコン系絶縁膜の膜厚が、10nm〜100nmであることを要旨とする。
本発明におけるプラズマ処理装置の一態様では、シリコン系絶縁膜が基材から剥離することを適切に抑えつつ、中間部材の表面の導電性に起因してプラズマ中の活性種が失活することを抑制することが可能となる。また、対向板の複数の孔の内側面の全面がシリコン系絶縁膜により被覆される場合には、被覆によって孔が塞がりプラズマの流動制御等が阻害されることを抑えることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明におけるプラズマ処理装置を具体化した一実施形態について、その全体構成を示す断面図。
【図2】同実施の形態における支柱及び対向板の断面構造を示す断面図、及びその一部を拡大して示す部分拡大図。
【図3】従来のプラズマ処理装置における全体構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明におけるプラズマ処理装置を具体化した一実施形態について、図1,図2を参照して説明する。まず、本実施形態のプラズマ処理装置の全体構成について説明する。なお、以下では、先に説明された図3の装置構成と同様の構成に対して同じ符号を付し、該構成に関する説明を割愛する。
【0022】
図1に示されるように、チャンバ本体10内の底部には、チャンバ本体10内を排気する排気口10aが形成され、またチャンバ本体10の上部外側には、チャンバ本体10内の各部を冷却するための冷却ブロック10bが連結されている。チャンバ本体10の上端部である筒部11の上側は、導波管20の下側壁を構成する円板状のマイクロ波透過窓21で閉塞され、また筒部11の下側には、マイクロ波透過窓21と互いに向かい合う環状のフランジ部12が連結されている。このフランジ部12の中央には、マイクロ波透過窓21の直下で生成されたプラズマの導入口12aが形成され、またフランジ部12の下側には、導入口12aの周囲に等配された複数の支柱30が吊り下げられている。そして、複数の支柱30の各々の下端には、導入口12aと互いに向かい合う円板状の対向板31が連結されている。
【0023】
フランジ部12、支柱30、及び対向板31の各々は、基材がアルミニウムから構成される部材であって、これらフランジ部12のうちプラズマ生成室13を形成する上面部を除いた部分、支柱30、及び対向板31の各々の表面は、シリコン酸化膜35によって被覆されている。また、これらフランジ部12、支柱30、及び対向板31の各々は、チャンバ本体10を介して上記冷却ブロック10bにより冷却される。
【0024】
対向板31の下方に配設されたステージ15内には、該ステージ15に載置された基板Sを加熱する抵抗加熱ヒーターや上方及び下方に移動するリフトピン16が配設されている。そして、リフトピン16が上方及び下方に移動することにより、リフトピン16に対して基板Sの受け渡しが行われる。
【0025】
次に、上記シリコン酸化膜35による支柱30及び対向板31の被覆の態様について、図2を参照して詳しく説明する。
図2に示されるように、支柱30及び対向板31の各々の外表面は、シリコン酸化膜35によって被覆されている。また、対向板31の略全体にわたり形成された複数の貫通孔31hの内表面も、同じくシリコン酸化膜35により被覆されている。シリコン酸化膜35は、10nm〜100nmの厚さを有し、支柱30及び対向板31の各々の表面が基材であるアルミニウムの表面よりも平坦になるように成膜されている。こうしたシリコン酸化膜35は、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成されている。
【0026】
対向板31に形成される貫通孔31hの直径とは、対向板31の上方で生成されたプラズマが下方に流れる程度のサイズであり、通常、0.1mm〜5mmの範囲の中からチャンバ本体10内のプロセス圧力に応じて適宜選択される。そして、上述したシリコン酸化膜35の厚さであれば、このようにして対向板31に形成された複数の貫通孔31hの各々が塞がれることはない。例えば、本実施形態では、対向板31に形成された複数の貫通孔31hの深さTが約3mm、貫通孔31hの内径Rが約1mmであるから、上述したシリコン酸化膜35の被覆によって貫通孔31hが塞がれることはなく、中間部材におけるプラズマの流動制御機能を概ね維持することが可能である。
【0027】
また、チャンバ本体10内におけるプラズマの流動態様とは、通常、対向板31の位置や形状により大きく左右されるものであって、対向板31の表面の粗さに対する依存とは、こうした配置に比べて非常に小さい。上述したように、対向板31を構成する基材の表面よりも、それを被覆しているシリコン酸化膜35の表面の方が滑らかである構成であれば、プラズマと接触し得る対向板31の表面積が小さくなるため、対向板31とプラズマとの接触が起こり難くなる。そのため、対向板31におけるプラズマの流動制御機能が失われることを抑え、且つプラズマ中の活性種と対向板31とが接触する機会を抑えることが可能となる。そして、プラズマCVD法により形成されたシリコン酸化膜35であれば、支柱30及び対向板31の各々の基材であるアルミニウムの表面粗さよりもシリコン酸化膜35の表面粗さを小さくすることが容易となる。あるいは、プラズマCVD法により形成されたシリコン酸化膜35であれば、支柱30及び対向板31の各々の基材であるアルミニウムの表面に形成された陽極酸化被膜であるアルマイト層の表面粗さや当該アルマイト層の下地となるアルミニウムの表面粗さよりもシリコン酸化膜35の表面粗さを小さくすることが容易となる。
【0028】
次に、上述した構成からなるプラズマ処理装置の作用について説明する。
支柱30及び対向板31の各々の基材がアルミニウムから形成されることにより、支柱30及び対向板31の熱伝導率が高くなる。そのため、対向板31が支柱30に吊り下げられてプラズマの導入口12aと互いに向い合うように配置されているという昇温しやすい構成であっても、冷却ブロック10bによる冷却効率を高めることが可能となる。したがって、支柱30及び対向板31の表面温度が高温になることを抑制することができる。これにより、上述のプラズマ中の活性種の失活に関する傾向、
(a)流路の表面における導電性が低い方が失活の程度が低い
(b)流路の表面における温度が低い方が失活の程度が低い
のうち、傾向(b)に基づいて活性種の失活を抑制することができる。
【0029】
一方で、支柱30及び対向板31がシリコン酸化膜35で被覆されることにより、中間部材の表面における導電性が抑えられ、こうした中間部材と接触するプラズマ中の活性種が失活し難い状態になる。これにより、上記傾向(a)に基づいて活性種の失活を抑制することができる。すなわち、上記傾向(a)(b)の両方に即して、支柱30及び対向板31によって活性種が失活することを抑制することが可能となる。しかも、中間部材を構成する基材の表面よりも、それを被覆しているシリコン酸化膜35の表面の方が滑らかであるため、中間部材とプラズマとの接触が起こり難くなる結果、上述した効果がより顕著なものとなる。
【0030】
また、対向板31を貫通する複数の貫通孔31hの内側面の全面がシリコン酸化膜35によって被覆されることにより、プラズマの流路のより多くの部分がシリコン酸化膜35で被覆されることとなる。したがって、上記傾向(a)に基づく活性種の失活の抑制がより適切になされるようになる。
【0031】
次に、支柱30及び対向板31の基材、被覆材、被覆材の形成方法を各種変更した実施例及び比較例を参照して、上述の作用について検証する。
[実施例1]
支柱30及び対向板31の基材にアルミニウムを用い、その表面にシリコン酸化膜をプラズマCVD法によって形成して実施例1の中間部材を得た。そして、実施例1の中間部材を備えたプラズマ処理装置を用い、基板Sに形成されたポリイミド膜を下記条件の酸素プラズマに曝し、そのアッシング速度を計測した。
・酸素流量:5000sccm
・プロセス圧力:150Pa
・基板温度:250℃
・マイクロ波出力:2000W
[実施例2]
支柱30及び対向板31の基材にアルミニウムを用い、その表面にシリコン酸化膜を溶射によって形成して実施例2の中間部材を得た。そして、実施例2の中間部材を備えたプラズマ処理装置を用い、実施例1と同じアッシング条件でのアッシング速度を計測した。
【0032】
[比較例1]
支柱30及び対向板31の基材にアルミニウムを用い、その表面には被覆材を形成しないものとして比較例1の中間部材を得た。そして、比較例1の中間部材を備えたプラズマ処理装置を用い、実施例1と同じアッシング条件でのアッシング速度を計測した。
【0033】
[比較例2]
支柱30及び対向板31の基材にアルミニウムを用い、その表面に酸化アルミニウムからなる膜を陽極酸化処理によって形成して比較例2の中間部材を得た。そして、比較例2の中間部材を備えたプラズマ処理装置を用い、実施例1と同じアッシング条件でのアッシング速度を計測した。
【0034】
[比較例3]
支柱30及び対向板31の基材にアルミニウムを用い、その表面に酸化アルミニウムからなる膜を溶射によって形成して比較例3の中間部材を得た。そして、比較例3の中間部材を備えたプラズマ処理装置を用い、実施例1と同じアッシング条件でのアッシング速度を計測した。
【0035】
[比較例4]
支柱30及び対向板31の基材に石英を用い、その表面には被覆材を形成しないものとして比較例4の中間部材を得た。そして、比較例4の中間部材を備えたプラズマ処理装置を用い、実施例1と同じアッシング条件でのアッシング速度を計測した。
【0036】
【表1】

表1に示されるように、実施例1と比較例1を比較すると、被覆材を設けない比較例1に対し、被覆材としてプラズマCVD法によってシリコン酸化膜を形成した実施例1は、約3.5倍の優れたアッシング速度を示すことがわかる。これは、比較例1と比べて、実施例1においては、上記傾向(a)に基づいて活性種の失活が抑えられているためであると考えられる。
【0037】
また、実施例1と実施例2を比較すると、同様に被覆材としてシリコン酸化膜を形成した場合でも、その形成方法として溶射を用いる実施例2に対し、プラズマCVD法を用いる実施例1の方が、優れたアッシング速度を示すことがわかる。溶射によって形成されるシリコン酸化膜は、基材の表面における凹部をシリコン酸化物で埋めることが可能ではあるが、基材の表面とは異なるピッチや大きさで新たな凹凸を形成してしまう。これに対し、プラズマCVD法によって形成されるシリコン酸化膜は、基材の表面と同程度のピッチで若干の凹凸を有するが、その凹凸における段差そのものを基材の表面よりも小さくする。それゆえに、溶射によって形成されるシリコン酸化膜は、その表面粗さがプラズマCVD法によって形成されるシリコン酸化膜よりも大きくなるため、プラズマ中の活性種が支柱30や対向板31と接触しやすくなり失活が起こりやすくなっていると考えられる。
【0038】
また、実施例1,2と比較例2,3を比較すると、被覆材を形成した場合でも、被覆材として陽極酸化による酸化アルミニウム膜(アルマイト層)や溶射による酸化アルミニウム膜を形成した比較例2,3よりも、被覆材としてシリコン酸化膜を形成した実施例1,2の方が、優れたアッシング速度を示すことがわかる。
【0039】
また、実施例1,2と比較例4を比較すると、基材として石英を用い、被覆材を設けない比較例4に対し、基材にアルミニウムを用い、被覆材としてシリコン酸化膜を形成した実施例1,2の方が、優れたアッシング速度を示すことがわかる。これは、比較例4においては、基材として石英を用いることによりその表面温度の高温化が避けられず、上記傾向(b)に基づいて活性種の失活が起こりやすくなっているためであると考えられる。
【0040】
以上説明したように、上記の実施形態におけるプラズマ処理装置によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)プラズマが導入される導入口12aの周囲に吊り下げられたアルミニウム製の支柱30と、支柱30に連結されて導入口12aと互いに向かい合う金属製の対向板31を、シリコン酸化膜35により被覆するようにした。これにより、支柱30及び対向板31をアルミニウム製とすることで中間部材の冷却効率を高め、その表面温度に起因したプラズマ中の活性種の失活を抑制することができるようになる。また同時に、支柱30及び対向板31をシリコン酸化膜35によって被覆することにより、その表面の導電性に起因してプラズマ中の活性種が失活することも抑制することができるようになる。
【0041】
(2)対向板31を貫通する複数の貫通孔31hの内側面の全面をシリコン酸化膜35により被覆するようにした。これにより、プラズマの流路のより多くの部分をシリコン酸化膜35で被覆することとなり、対向板31の表面の導電性に起因してプラズマ中の活性種が失活することをより適切に抑制することができるようになる。
【0042】
(3)プラズマCVD法を用いることによって、シリコン酸化膜35の表面粗さが、支柱30及び対向板31を構成する基材(アルミニウム)の表面粗さよりも小さくなるようにした。これにより、支柱30及び対向板31を構成する基材の表面よりも、それらを被覆しているシリコン酸化膜35の表面の方が滑らかで表面積が小さくなるため、支柱30及び対向板31とプラズマとの接触を起こりにくくすることができるようになる。したがって、プラズマ中の活性種が失活することをより適切に抑制することが可能となる。
【0043】
(4)シリコン酸化膜35の膜厚を、10nm〜100nmにするようにした。これにより、対向板31の貫通孔31hの内側面の全面をシリコン酸化膜35により被覆する場合であっても、被覆によって貫通孔31hが塞がりプラズマの流動制御が阻害されることを抑えられる。また、上記の厚さにシリコン酸化膜35を成膜することで、支柱30及び対向板31の基材からシリコン酸化膜35が剥離することを抑制することが可能となる。
【0044】
なお、上記各実施の形態は、以下のように適宜変更して実施することも可能である。
・上記の実施形態では、フランジ部12についても、プラズマの流路を形成する部分をシリコン酸化膜35で被覆するようにしたが、フランジ部12についてはシリコン酸化膜による被覆を行わなくてもよい。フランジ部12をシリコン酸化膜で被覆した場合、プラズマの流路のより多くの部分をシリコン酸化膜で被覆することとなり、プラズマ中の活性種が失活することをより適切に抑制することができる。一方で、フランジ部12をシリコン酸化膜で被覆しない場合には、より簡易な構成でプラズマ中の活性種が失活することを抑制することができる。
【0045】
・上記の実施形態では、支柱30及び対向板31をアルミニウム製としたが、他の金属から形成するようにしてもよい。
・上記の実施形態では、被覆材をシリコン酸化膜としたが、例えばシリコン酸窒化膜、シリコン酸化炭化膜、シリコン窒化膜など、シリコン系の絶縁膜であればよい。
【0046】
・シリコン系絶縁膜の膜厚は、10nm〜2μmであればよく、基材に対する耐剥離性を高めるうえでは、上述した10nm〜100nmがより好ましい。
・上記の実施形態では、本発明におけるプラズマ処理装置を、表面波プラズマを用いてアッシングを行うアッシング装置に適用したが、ドライエッチングや表面改質等の処理を行う装置に適用してもよい。また、表面波プラズマ以外の各種のプラズマを用いる装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
S…基板、10…チャンバ本体、10b…冷却ブロック、11a…貫通穴、12…フランジ部、12a…導入口、13…プラズマ生成室、14…ガス導入路、20…導波管、20a…連結穴、21…マイクロ波透過窓、30…支柱、31…対向板、31h…貫通孔、35…シリコン酸化膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマが導入される導入口を有する真空槽と、
前記導入口と処理の対象物との間でプラズマに接する中間部材と、
を備えるプラズマ処理装置であって、
前記中間部材は、
前記真空槽内にて前記導入口の周囲に吊り下げられた金属製の支柱と、
前記支柱に連結されて前記導入口と互いに向かい合う金属製の対向板と、
を備え、
前記支柱及び前記対向板は、シリコン系絶縁膜により被覆されている
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記対向板は該対向板を貫通する複数の孔を有し、前記複数の孔の内側面の全面が前記シリコン系絶縁膜により被覆されている
請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記支柱及び前記対向板が、
陽極酸化被膜を表面とするアルミニウムの基材と、
前記基材を被覆する前記シリコン系絶縁膜とを有し、
前記シリコン系絶縁膜の表面粗さが、前記陽極酸化被膜の表面粗さよりも小さい
請求項1または2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記シリコン系絶縁膜の表面粗さが、前記支柱及び前記対向板を構成する基材のうち金属表面の表面粗さよりも小さい
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記シリコン系絶縁膜の膜厚が、10nm〜100nmである
請求項1〜4のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−110302(P2013−110302A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254978(P2011−254978)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】