説明

プラズマ処理装置

【課題】導電性の筒状部材を真空容器内に配置すると共に、筒状部材での微小放電を抑制するプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】内周面にアルマイト層31aが形成されたアルミニウムからなる筒状部材31を、金属製の真空容器12の内壁面に沿って配置すると共に、真空容器12の内部の支持台21、22上に処理対象の基板Wを静電吸着して、プラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、真空容器12の内壁面の全周に渡って形成され、当該内壁面から突設された段差部12aと、段差部12aの上面の全周に渡って配置された弾性変形可能な金属製のチューブリング32とを有し、チューブリング32を介して、筒状部材31を段差部12a上に載置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器の内部に導電性の筒状部材を有するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマに曝される領域の真空容器の内側に筒状部材(インナーシェルとも呼ばれる。)を設けたプラズマ処理装置が知られている。この筒状部材は、真空容器へのプラズマからのイオン衝突を防ぐ役割を果たしており、その表面が劣化したり、堆積した膜が除去できなくなったりした場合には、筒状部材のみを交換できるようにしている。筒状部材としては、アルマイト処理したアルミニウムを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−182081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7及び図8を用いて、真空容器の内側に筒状部材を設けたプラズマ処理装置の問題について説明する。なお、図7(a)は、従来のプラズマ処理装置の概略構成図であり、図7(b)は、図7(a)中の領域B1の拡大図であり、図7(c)は、図7(a)中の領域B2の拡大図であり、図8は、図7(a)中の経路Cに沿う電位の変化を説明する図である。又、符号50はプラズマ処理装置、符号51は真空容器、符号52は天井板、符号53は高周波アンテナ、符号61は支持台、符号62は静電チャック板、符号63は静電吸着用の単極型のチャック電極、符号64は静電吸着電源、符号65は筒状部材、符号Pはプラズマ、符号Wは基板を示している。
【0005】
プラズマ処理装置50において、プラズマ処理を行う際には、基板Wを静電吸着板62上に載置し、静電吸着電源64によりチャック電極63に静電吸着電圧を印加することで、基板Wを静電吸着板62上に保持し、真空容器51内に所望のガスを供給し、高周波電源(図示省略)により高周波アンテナ53に高周波電圧を印加することで、絶縁材料からなる天井板52を透過して、高周波アンテナ53からの電磁波を真空容器51内に供給し、所望のプラズマPを生成している。
【0006】
生成されたプラズマPから真空容器51へのイオン衝突を防ぐため、真空容器51の内側に筒状部材65が配置されており、例えば、図7(c)に示すように、真空容器51の内壁面に段差部51aを設け、この段差部51a上に筒状部材65を載置している。この筒状部材65は、導電性のあるアルミニウムからなり、その表面にはアルマイト層65aが形成されている。従来は、交換性を考慮して、筒状部材65を真空容器51に内部に載置しているだけであった。この場合、筒状部材65と真空容器51との間は、電気的接触はあるが不安定であり、接触抵抗が発生しやすい状況であった。
【0007】
このような構成のプラズマ処理装置50において、チャック電極63に静電吸着電圧を印加しないで、つまり、基板Wの静電吸着を行わないで、プラズマ処理を行うと、経路Cに沿う電位の変化は、図8中の点線のグラフ(DC印加無)のようになる。この場合、真空容器51がアース(電位0V)となっており、又、チャック電極63に静電吸着電圧が印加されていないので、同じく、チャック電極63が電位0Vとなり、プラズマPを生成すると、プラズマPのみにより、プラズマPの電位が上昇し、それに伴い、他の部位の電位も上昇することになる。プラズマPは高周波電磁波により生成されるため、その電位の実質的な上昇は大きくなく、真空容器51と筒状部材65との電気的接触が不安定であったとしても、その部位での電位差は大きくなく、後述するような微小放電が発生する可能性は小さい。
【0008】
ここで、経路Cは、チャック電極63からの電気的回路を考慮したものであり、チャック電極63〜静電チャック板62の絶縁層(抵抗Re)〜基板W〜プラズマP及びそのシース領域〜筒状部材65のプラズマ暴露面S1〜アルマイト層65a(抵抗Ra)〜筒状部材65〜接触部D(抵抗Rc)〜真空容器51となる。
【0009】
チャック電極63に静電吸着電圧を印加して、つまり、基板Wの静電吸着を行って、プラズマ処理を行うと、正常時には、経路Cに沿う電位の変化は、図8中の実線のグラフ(DC印加有:正常時)のようになる。この場合、真空容器51がアース(電位0V)であり、チャック電極63に静電吸着電圧(通常、数百VのDC電圧)が印加されており、プラズマPを生成すると、チャック電極63の静電吸着電圧とプラズマPにより、プラズマPの電位の上昇ΔVoが発生し、それに伴い、他の部位の電位も上昇することになる。このとき、接触部Dにおいて、真空容器51と筒状部材65との電気的接触が取れている場合には(抵抗Rcが低い場合には)、その部位での電位差は大きくなく、後述するような微小放電が発生する可能性は小さい。なお、このときのチャック電極63と基板Wとの電位差Veが静電吸着力となる。
【0010】
一方、同じく、チャック電極63に静電吸着電圧を印加し、基板Wの静電吸着を行って、プラズマ処理を行っても、異常時には、経路Cに沿う電位の変化は、図8中の一点鎖線のグラフ(DC印加有:異常時)のようになる。この場合、真空容器51がアース(電位0V)であり、チャック電極63に静電吸着電圧(通常、数百VのDC電圧)が印加されており、プラズマPを生成すると、チャック電極63の静電吸着電圧とプラズマPにより、プラズマPの電位の上昇ΔVnが発生し、それに伴い、他の部位の電位も上昇することになる。このとき、接触部Dにおいて、真空容器51と筒状部材65との電気的接触が取れていない場合には(抵抗Rcが高い場合には)、接触部D(筒状部材65側)の電位がアースから浮いてしまうため、プラズマPの電位の上昇ΔVnも上記ΔVoより大きくなる。そして、真空容器51と筒状部材65との間の電位差が大きくなってしまい、微小放電Eが発生する可能性が高くなる。
【0011】
特に、筒状部材65のプラズマ暴露面S1と真空容器51の内壁面S2との間は、その距離が近いにもかかわらず、大きな電位差Vpが生じており、この間において、微小放電Eが発生し易くなっていた。
【0012】
筒状部材65は、上述したように、真空容器51へのプラズマPからのイオン衝突を防ぐ役割を果たしているが、プラズマ処理に伴う生成物が、その表面に堆積する。そのため、筒状部材65の表面に堆積した膜が、プラズマ処理中に剥がれ落ちて、パーティクルとならないように、筒状部材65の温度を一定に保つようにしているが、上述した微小放電Eが発生すると、その電気的衝撃及びそれに伴う局所的温度上昇により、堆積した膜が剥がれ落ちてしまい、パーティクルとなっていた。このような、状況になってしまうと、筒状部材65の交換及び真空容器51のクリーニングが必要となり、生産効率の低下を招いていた。
【0013】
本発明者等の知見によれば、上述した微小放電Eの問題は、上記電位差Vpが大きくなるとき、例えば、RFパワーが大きいとき、静電吸着電圧が大きいときに生じ易かった。更に、微小放電Eの電流が大きくなるとき、例えば、真空容器51の全圧が高いとき、プラズマ処理に使用する特定のガスの分圧が高いときに生じ易いこともわかった。例えば、プラズマCVD装置により窒化珪素膜を成膜する場合には、図9〜図12に示すように、RFパワーが400W以上になるとき(図9)、単極型のチャック電極63への静電吸着電圧が400V以上になるとき(図10)、全圧が4Pa以上となるとき(図11)、そして、NH3(アンモニア)の分圧が2Pa以上となるとき(図12)であって、これらの条件が同時に成り立つとき、微小放電Eが発生し、その結果、パーティクルの発生が顕著になっていた。ここで、図中の"Over"は、計測上限を越えたことを意味する。
【0014】
なお、同様のプラズマ処理装置でも、特許文献1では、導電性の筒状部材を用いず、真空容器の内壁面自体に絶縁性の保護膜を形成しており、そのままでは、微小放電が発生するため、真空容器の内壁面の一部に環状導体を設け、この環状導体に電圧を印加することで、プラズマ電位と容器壁の電位によるプラズマ不安定性を防ぎ、容器壁で生じる微小放電を抑制している。これに対し、本発明では、導電性の筒状部材を用いた上で、微小放電の抑制を可能とする。
【0015】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、導電性の筒状部材を真空容器内に配置すると共に、筒状部材での微小放電を抑制するプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する第1の発明に係るプラズマ処理装置は、
内周面に絶縁層が形成された導電材料からなる筒状部材を、金属製の真空容器の内壁面に沿って配置すると共に、前記真空容器の内部の支持台上に処理対象の基板を静電吸着して、プラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、
前記内壁面の全周に渡って形成され、前記内壁面から突設された段差部と、
前記段差部の上面の全周に渡って配置された金属製の弾性部材とを有し、
前記弾性部材を介して、前記筒状部材を前記段差部上に載置したことを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する第2の発明に係るプラズマ処理装置は、
内周面に絶縁層が形成された導電材料からなる筒状部材を、金属製の真空容器の内壁面に沿って配置すると共に、前記真空容器の内部の支持台上に処理対象の基板を静電吸着して、プラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、
前記筒状部材の下端の全周に渡って形成され、外周側又は内周側の少なくとも一方の全周に傾斜面を備える傾斜部と、
前記内壁面の全周に渡って形成され、前記内壁面から突設された段差部と、
前記段差部の上面の全周に渡って形成され、前記傾斜部を内側に挿入したとき、外周側又は内周側の少なくとも一方の側壁の上端が前記傾斜面と周方向に渡って接する溝部とを有し、
前記筒状部材の下端の前記傾斜部を前記溝部の内側に挿入したことを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する第3の発明に係るプラズマ処理装置は、
上記第1又は第2の発明に記載のプラズマ処理装置において、
前記筒状部材の上端の全周に渡って形成され、前記筒状部材の上端から外周方向に延設されたフランジ部と、
前記フランジ部の下部の全周に渡って形成され、外周側又は内周側の少なくとも一方の全周に他の傾斜面を備える他の傾斜部と、
前記真空容器の上面の全周に渡って形成され、前記他の傾斜部を内側に挿入したとき、外周側又は内周側の少なくとも一方の側壁の上端が前記他の傾斜面と周方向に渡って接する他の溝部とを更に有し、
前記筒状部材の上端の前記他の傾斜部を前記他の溝部の内側に挿入したことを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する第4の発明に係るプラズマ処理装置は、
上記第1又は第2の発明に記載のプラズマ処理装置において、
前記筒状部材の上端の全周に渡って形成され、前記筒状部材の上端から外周方向に延設されたフランジ部と、
前記真空容器の上面の全周に渡って形成された他の段差部とを更に有し、
前記筒状部材の上端の前記フランジ部を前記他の段差部上に載置すると共に、前記フランジ部を前記他の段差部に固定したことを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決する第5の発明に係るプラズマ処理装置は、
内周面に絶縁層が形成された導電材料からなる筒状部材を、金属製の真空容器の内壁面に沿って配置すると共に、前記真空容器の内部の支持台上に処理対象の基板を静電吸着して、プラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、
前記筒状部材の上端の全周に渡って形成され、前記筒状部材の上端から外周方向に延設されたフランジ部と、
前記フランジ部の下部の全周に渡って形成され、外周側又は内周側の少なくとも一方の全周に傾斜面を備える傾斜部と、
前記真空容器の上端の全周に渡って形成され、前記傾斜部を内側に挿入したとき、外周側又は内周側の少なくとも一方の側壁の上端が前記傾斜面と周方向に渡って接する溝部とを有し、
前記筒状部材の上端の前記傾斜部を前記溝部の内側に挿入したことを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決する第6の発明に係るプラズマ処理装置は、
内周面に絶縁層が形成された導電材料からなる筒状部材を、金属製の真空容器の内壁面に沿って配置すると共に、前記真空容器の内部の支持台上に処理対象の基板を静電吸着して、プラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、
前記筒状部材の上端の全周に渡って形成され、前記筒状部材の上端から外周方向に延設されたフランジ部と、
前記真空容器の上面の全周に渡って形成された段差部とを有し、
前記筒状部材の上端の前記フランジ部を前記段差部上に載置すると共に、前記フランジ部を前記段差部に固定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、導電性の筒状部材と真空容器側との接触抵抗を低下させる構造としたので、筒状部材と真空容器との間の微小放電を抑制することができる。その結果、筒状部材からのパーティクルの発生を低減することができ、プラズマ処理装置の性能向上及び信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は、本発明に係るプラズマ処理装置の実施形態の一例を説明する概略構成図であり、(b)は、(a)の領域A1の拡大図である。
【図2】本発明に係るプラズマ処理装置の実施形態の他の一例(実施例2)を説明する図であり、図1(a)の領域A1の拡大図に相当する図である。
【図3】(a)〜(d)は、図2の変形例を説明する断面図である。
【図4】(a)〜(b)は、図2の変形例を説明する断面図である。
【図5】本発明に係るプラズマ処理装置の実施形態の他の一例(実施例3)を説明する断面図であり、図1(a)の領域A2の拡大図に相当する図である。
【図6】図5の変形例を説明する断面図である。
【図7】(a)は、従来のプラズマ処理装置を説明する概略構成図であり、(b)は、(a)の領域B1の拡大図であり、(c)は、(a)の領域B2の拡大図である。
【図8】図7(a)の経路Cに沿う電位の変化について、DC印加無、DC印加有(正常時)及びDC印加有(異常時)を示すグラフである。
【図9】プラズマCVD装置により窒化珪素膜を成膜する場合において、RFパワーとパーティクルとの関係を示すグラフである。
【図10】プラズマCVD装置により窒化珪素膜を成膜する場合において、静電吸着電圧とパーティクルとの関係を示すグラフである。
【図11】プラズマCVD装置により窒化珪素膜を成膜する場合において、全圧とパーティクルとの関係を示すグラフである。
【図12】プラズマCVD装置により窒化珪素膜を成膜する場合において、NH3分圧とパーティクルとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るプラズマ処理装置の実施形態のいくつかを、図1〜図6を参照して、詳細に説明する。
【0025】
(実施例1)
図1(a)は、本実施例のプラズマ処理装置を説明する概略構成図であり、図1(b)は、図1(a)の領域A1の拡大図である。
【0026】
本実施例のプラズマ処理装置10は、処理室11となる真空容器12と天井板13とを有しており、アルミニウムなどの金属材料からなる円筒状の真空容器12の上部開口部を塞ぐように、セラミクスなどの絶縁材料からなる円板状の天井板13が配設されている。真空容器12には、内部を真空状態にする真空装置(図示省略)が接続されており、処理室11の内部を高い真空度に維持可能である。この真空容器12がアースに接続されて、電位0Vとなっている。
【0027】
天井板13の上方(直上)には、複数の円形リングからなる高周波アンテナ15が配置されており、高周波アンテナ15には整合器16を介して高周波電源17が接続されている。この高周波電源17は、高い発振周波数(例えば、13.56MHz)を高周波アンテナ15に給電可能となっており、入射窓となる天井板13を透過して、プラズマPを生成するための高周波電磁波(RF)を処理室11内へ入射可能となっている。これは、所謂、ICP型のプラズマ発生機構の構成である。
【0028】
又、真空容器12の内部には、プラズマ処理対象となる半導体の基板Wを保持する基板支持台21が設置されており、この基板支持台21の上部に基板Wを保持する静電吸着台22が設けられている。静電吸着台22には、単極型のチャック電極23が設けられており、チャック電極23には、直流の静電吸着電源24が接続されており、静電吸着電圧を印加することにより、静電吸着台22上に基板Wを静電吸着可能としている。
【0029】
なお、図示は省略しているが、真空容器12の側壁部分(天井板13より低く、後述する静電吸着台22より高い位置)には、複数のガスノズルが設けられており、ガスノズルから処理室11の内部に、所望の流量の所望のガスを供給可能となっている。供給されるガスは、プロセスに応じて変更され、例えば、絶縁膜(例えば、酸化珪素膜、窒化珪素膜)のプロセスには、不活性ガス、希ガスとなるAr、Heなどと共に原料ガスとなるSiH4、N2、O2、NH3などが使用される。
【0030】
又、静電吸着台22の内部には加熱のためのヒータ(図示省略)が設置されており、制御装置(図示省略)により温度が調整されている。これにより、プラズマ処理中の基板Wを所望の温度(例えば、150〜700℃)に制御することができる。
【0031】
更に、チャック電極23に他の高周波電源(図示省略)を接続し、高周波電源17より低い発振周波数(例えば、4MHz)をチャック電極23に印加し、基板Wにバイアスパワー(LFパワー)を印加できるようにしてもよい。
【0032】
上述した構成により、プラズマ処理装置10は、処理室11内にプラズマPを生成し、例えば、成膜(CVD;Chemical Vapor Deposition)やエッチング等のプラズマ処理が可能となる。このような構成のプラズマ処理装置10において、真空容器12へのプラズマPからのイオン衝突を防ぐため、プラズマPに曝される領域の真空容器12の内壁面に沿って筒状部材31を配置している。
【0033】
具体的には、真空容器12の内壁面の全周に渡って、当該内壁面から突設された段差形状の段差部12aが設けられており、この段差部12aを利用し、この段差部12a上に筒状部材31が載置されている。このようにして、筒状部材31は、処理室11の内部に交換可能に設置されており、表面が劣化したり、プラズマ処理時に堆積した膜が除去できなくなったりした場合には、筒状部材31自体を交換することで、簡単にメンテナンスできるようになっている。
【0034】
この筒状部材31は、導電性のあるアルミニウムからなり、その内周側の表面、つまり、プラズマPに曝される面には、アルマイト処理によりアルマイト層31a(絶縁層)が形成されているが、その端部、例えば、下端の端面にはアルマイト層31aは形成されていない。なお、筒状部材31は、導電材料となる金属であれば、アルミニウム以外の金属でもよく、又、その内周面に絶縁層を形成できれば、アルマイト層以外のものでもよい。
【0035】
筒状部材31の表面には、プラズマ処理に伴う生成物が付着、堆積するが、堆積した膜がプラズマ処理中に剥がれ落ちないように、プラズマPからの入熱と真空容器12からの冷却により一定温度に熱的に安定するように、筒状部材31と真空容器12との間を一定の間隔、例えば、0.5mmとしている。従って、筒状部材31は、真空容器12に沿った形状となっており、真空容器12が円筒形状であれば、筒状部材31も円筒形状となり、真空容器12が多角形の筒状形状であれば、筒状部材31も同じ多角形の筒状形状となっている。
【0036】
ところで、段差部12a上に筒状部材31を載置しただけでは、前述したように、電気的接触が安定しない。そこで、本実施例では、段差部12aの上面と筒状部材31の下端との間に、段差部12aの上面の全周に渡って、バネ性のある金属製(例えば、アルミニウム)のチューブ形状のチューブリング32(弾性部材)を挿入している。なお、チューブリング32に代えて、バネ性のある金属製(例えば、アルミニウム)の板バネ形状の板バネリングを用いてもよい。
【0037】
このように、段差部12aの上面と筒状部材31の下端との間にチューブリング32を挿入することにより、チューブリング32を介して、筒状部材31が段差部12a上に載置される。そして、筒状部材31の自重による鉛直下方向の力F、又は、ガスノズルの取付構造による筒状部材31の鉛直下方向の力Fを利用して、筒状部材31の下端と段差部12a(アースされた真空容器12側)との間の接触を周方向に渡って確実にし、その接触抵抗を低くすること、例えば、接触抵抗を0.1Ω以下にすることができる。更に、チューブリング32にはバネ性があるため、筒状部材31が熱膨張しても、その熱膨張に応じて、チューブリング32が弾性変形するので、筒状部材31と段差部12aとの接触抵抗を低く保つことができる。
【0038】
従って、チャック電極23に静電吸着電圧(例えば、400V以上のDC電圧)を印加し、基板Wの静電吸着を行って、プラズマ処理を行うと、チャック電極23の静電吸着電圧及びプラズマPにより、プラズマPの電位の上昇が発生するが、チューブリング32により、真空容器12と筒状部材31との電気的接触が取れているので(接触抵抗が低いので)、その部位での電位差は大きくなく(図8中に示した実線のグラフ参照)、微小放電の発生を抑制することができる。従来は、特に、筒状部材31のプラズマ暴露面S1と真空容器12の内壁面S2との間で微小放電が発生し易くなっていたが、真空容器12と筒状部材31との電気的接触が取れているので(接触抵抗が低いので)、このような微小放電の発生を抑制することができる。
【0039】
このようにして、微小放電の発生を抑制できるので、微小放電に起因するパーティクルの発生も抑制することができる。本実施例は、RFパワーが400W以上になるとき(図9参照)、チャック電極への静電吸着電圧が400V以上になるとき(図10参照)、全圧が4Pa以上となるとき(図11参照)、NH3(アンモニア)の分圧が2Pa以上となるとき(図12参照)であって、これらの条件が同時に成り立つときに、その効果が顕著に発揮され、パーティクルを大幅に抑制できることが確認できた。
【0040】
(実施例2)
図2は、本実施例を説明する図であり、図1(a)の領域A1の拡大図に相当する図である。本実施例は、プラズマ処理装置としては、図1(a)に示したプラズマ処理装置に適用可能であるので、ここでは、重複する説明を省略する。
【0041】
実施例1では、段差部12aの上面と筒状部材31の下端との間にチューブリング32を挿入することで、段差部12aと筒状部材31との間の接触抵抗を低くしているが、本実施例では、チューブリング32などの金属製の弾性部材を用いずに、段差部12aと筒状部材31の形状を工夫することにより、段差部12aと筒状部材31との間の接触抵抗を低くするようにしている。
【0042】
具体的には、段差部12aの上面全周に渡って溝部12bを形成すると共に、筒状部材31の下端の内周面を全周に渡って研削してくさび状に加工し、その内周側の全周に傾斜面31cを備える傾斜部31bを形成している。この傾斜部31bの傾斜面31cには、アルマイト層31aは無い。そして、傾斜部31bを溝部12bの内側に挿入したとき、溝部12bの内周側の側壁の上端(角部)が傾斜部31bの傾斜面31cと周方向に渡って接するようにしている。そのため、溝部12bの内周側の側壁は、筒状部材31の内径より大きく、外径より小さい位置となるように配置される。
【0043】
このような構造を用い、段差部12aの溝部12bの内側に筒状部材31の下端の傾斜部31bを挿入することにより、筒状部材31の自重による鉛直下方向の力F、又は、ガスノズルの取付構造による筒状部材31の鉛直下方向の力Fを利用して、筒状部材31の傾斜部31bと溝部12b(アースされた真空容器12側)との間の接触を周方向に渡って確実にし、その接触抵抗を低くすること、例えば、接触抵抗を0.1Ω以下にすることができる。
【0044】
従って、チャック電極23に静電吸着電圧(例えば、400V以上のDC電圧)を印加し、基板Wの静電吸着を行って、プラズマ処理を行うと、チャック電極23の静電吸着電圧及びプラズマPにより、プラズマPの電位の上昇が発生するが、上記構造より、真空容器12と筒状部材31との電気的接触が取れているので(接触抵抗が低いので)、その部位での電位差は大きくなく(図8中に示した実線のグラフ参照)、微小放電の発生を抑制することができる。特に、本実施例の場合、筒状部材31の下端に傾斜部31bを形成しているので、筒状部材31のプラズマ暴露面S1と真空容器12の内壁面S2との間の物理的距離を離すことができ、真空容器12と筒状部材31との接触抵抗が低いこともあって、筒状部材31のプラズマ暴露面S1と真空容器12の内壁面S2との間での微小放電の発生を抑制し、各表面での絶縁破壊を抑制することができる。
【0045】
このようにして、微小放電の発生を抑制できるので、実施例1と同様に、微小放電に起因するパーティクルの発生も抑制することができる。
【0046】
なお、本実施例では、段差部12aの上面に溝部12bを形成したが、例えば、真空容器12の内壁面から突設する突設部12cを設け、この突設部12cに溝部12bに相当する構造を設けてもよい(図3(a)〜図3(b)参照)。又、筒状部材31の下端の内周側全周に傾斜部31bの傾斜面31cを形成したが、外周側全周に傾斜面31dを形成したり(図3(b)〜図3(c)参照)、或いは、内周側及び外周側両方の全周に傾斜面31c、31dを形成したり(図3(d)参照)してもよい。外周側全周に傾斜面31dを備える場合には、溝部12bの外周側の側壁の上端(角部)が傾斜部31bの外周側の傾斜面31dと周方向に渡って接するように、溝部12bの外周側の側壁が、筒状部材31の内径より大きく、外径より小さい位置となるように配置すればよい(図3(b)〜図3(c)参照)。又、内周側及び外周側両方の全周に傾斜面31c、31dを備える場合には、溝部12bの内周側及び外周側の側壁の上端(角部)が傾斜部31bの内周側及び外周側の傾斜面31c、31dと周方向に渡って接するように、溝部12bの内周側の側壁及び外周側の側壁が、筒状部材31の内径より大きく、外径より小さい位置となるように配置すればよい(図3(d)参照)。
【0047】
更に、溝部の上端の角部と筒状部材の傾斜部の傾斜面とを逆の関係にしてもよい。例えば、段差部12aの外周側全周に、段差部12aから真空容器12の内壁に渡って傾斜面12dを形成したり(図4(a))、段差部12aの内周側全周に真空容器12の内壁に向かって傾斜する傾斜面12eを設けたり(図4(b))してもよい。この場合、筒状部材31側に傾斜部を設ける必要はなく、筒状部材31の端部の角部が傾斜面12d、12eと周方向に渡って接することになる。なお、図4(b)の場合、接触抵抗を低くするため、筒状部材31の端部の内周側の角部には、アルマイト層31aを形成していない。
【0048】
(実施例3)
図5は、本実施例を説明する断面図であり、又、図6は、本実施例の変形例を説明する断面図であり、共に、図1(a)の領域A2の拡大図に相当する図である。本実施例も、プラズマ処理装置としては、図1(a)に示したプラズマ処理装置に適用可能であるので、ここでも、重複する説明を省略する。
【0049】
実施例1、2では、筒状部材31の下端において、真空容器12との間の接触抵抗を低くしているが、本実施例では、筒状部材31の上端において、真空容器12との間の接触抵抗を低くするようにしている。
【0050】
具体的には、筒状部材31の上端の全周に渡って、当該上端から外周方向に延設したフランジ部31eを設け、このフランジ部31eと真空容器12との接触を確実にすることで、真空容器12と筒状部材31との間の接触抵抗を低くするようにしている。
【0051】
例えば、図5では、真空容器12の上端面全周には、真空容器12と天井板13との間をシールするOリング40を挿入するための溝部12fを形成しているが、その溝部12fの内周側に、真空容器12の上端面全周に渡って溝部12gを形成している。そして、この溝部12gに対応して、筒状部材31のフランジ部31eの下部の全周に渡って、内周側の全周に傾斜面を備える傾斜部31fを形成している。この傾斜部31fを溝部12gの内側に挿入したとき、傾斜部31fの内周側の傾斜面が溝部12gの内周側の側壁の上端と周方向に渡って接するようにしている。
【0052】
なお、本実施例でも、実施例2と同様に、傾斜部31fの外周側全周に、或いは、内周側及び外周側両方の全周に傾斜面を形成してもよい。例えば、外周側全周に傾斜面を備える場合には、溝部12gの外周側の側壁の上端が傾斜部31fの外周側の傾斜面と周方向に渡って接するようにすればよい。
【0053】
このような構造を用い、筒状部材31の上端のフランジ部31eの傾斜部31fを真空容器12の上端の溝部12gの内側に挿入することにより、筒状部材31の自重による鉛直下方向の力F、又は、ガスノズルの取付構造による筒状部材31の鉛直下方向の力Fを利用して、真空容器12側と筒状部材31との間の接触を周方向に渡って確実にし、その接触抵抗を低くすること、例えば、接触抵抗を0.1Ω以下にすることができる。
【0054】
又、図6では、真空容器12の溝部12fの内周側に、真空容器12の上端面全周に渡って段差部12hを形成している。この段差部12h上に筒状部材31の上端のフランジ部31eを載置すると共に、ボルト41によりフランジ部31eを段差部12hに固定し、真空容器12側へ押し付けるようにしている。なお、筒状部材31のフランジ部31eを真空容器12側へ押し付けるものであれば、ボルト41に限らず、他の部材を用いてもよく、例えば、自重によりフランジ部31eを押し付けるリング形状のものをフランジ部31e上面に配置してもよい。
【0055】
このような構造を用い、真空容器12の上端の段差部12hに筒状部材31の上端のフランジ部31eを押し付けることにより、真空容器12側と筒状部材31との間の接触を周方向に渡って確実にし、その接触抵抗を低くすること、例えば、接触抵抗を0.1Ω以下にすることができる。
【0056】
従って、チャック電極23に静電吸着電圧(例えば、400V以上のDC電圧)を印加し、基板Wの静電吸着を行って、プラズマ処理を行うと、チャック電極23の静電吸着電圧及びプラズマPにより、プラズマPの電位の上昇が発生するが、上記構造より、真空容器12側と筒状部材31との電気的接触が取れているので(接触抵抗が低いので)、その部位での電位差は大きくなく(図8中に示した実線のグラフ参照)、微小放電の発生を抑制することができる。
【0057】
このようにして、微小放電の発生を抑制できるので、実施例1と同様に、微小放電に起因するパーティクルの発生も抑制することができる。
【0058】
なお、本実施例の場合、筒状部材31の下端の直下に、図1(b)に示すような段差部12aがない場合には、そのままでよいが、段差部12aがある場合には、筒状部材31の熱膨張を考慮し、筒状部材31が熱膨張しても、その下端と段差部12aとの間に少なくとも0.5mm以上の隙間ができるようにすることが望ましい。
【0059】
一方、本実施例は、上述した実施例1、2と組み合わせても、つまり、筒状部材31の上端及び下端において、共に、接触抵抗を下げる構造とするようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、真空容器の形状に沿った導電性の筒状部材を真空容器の内部に持つプラズマ処理装置、例えば、プラズマCVD装置やプラズマエッチング装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 プラズマ処理装置
12 真空容器
12a 段差部
12b 溝部
12g 溝部
12h 段差部
13 天井板
15 高周波アンテナ
22 静電吸着台
23 チャック電極
24 静電吸着電源
31 筒状部材
31a アルマイト層(絶縁層)
31b 傾斜部
31e フランジ部
31f 傾斜部
32 チューブリング(弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に絶縁層が形成された導電材料からなる筒状部材を、金属製の真空容器の内壁面に沿って配置すると共に、前記真空容器の内部の支持台上に処理対象の基板を静電吸着して、プラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、
前記内壁面の全周に渡って形成され、前記内壁面から突設された段差部と、
前記段差部の上面の全周に渡って配置された金属製の弾性部材とを有し、
前記弾性部材を介して、前記筒状部材を前記段差部上に載置したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
内周面に絶縁層が形成された導電材料からなる筒状部材を、金属製の真空容器の内壁面に沿って配置すると共に、前記真空容器の内部の支持台上に処理対象の基板を静電吸着して、プラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、
前記筒状部材の下端の全周に渡って形成され、外周側又は内周側の少なくとも一方の全周に傾斜面を備える傾斜部と、
前記内壁面の全周に渡って形成され、前記内壁面から突設された段差部と、
前記段差部の上面の全周に渡って形成され、前記傾斜部を内側に挿入したとき、外周側又は内周側の少なくとも一方の側壁の上端が前記傾斜面と周方向に渡って接する溝部とを有し、
前記筒状部材の下端の前記傾斜部を前記溝部の内側に挿入したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプラズマ処理装置において、
前記筒状部材の上端の全周に渡って形成され、前記筒状部材の上端から外周方向に延設されたフランジ部と、
前記フランジ部の下部の全周に渡って形成され、外周側又は内周側の少なくとも一方の全周に他の傾斜面を備える他の傾斜部と、
前記真空容器の上面の全周に渡って形成され、前記他の傾斜部を内側に挿入したとき、外周側又は内周側の少なくとも一方の側壁の上端が前記他の傾斜面と周方向に渡って接する他の溝部とを更に有し、
前記筒状部材の上端の前記他の傾斜部を前記他の溝部の内側に挿入したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のプラズマ処理装置において、
前記筒状部材の上端の全周に渡って形成され、前記筒状部材の上端から外周方向に延設されたフランジ部と、
前記真空容器の上面の全周に渡って形成された他の段差部とを更に有し、
前記筒状部材の上端の前記フランジ部を前記他の段差部上に載置すると共に、前記フランジ部を前記他の段差部に固定したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
内周面に絶縁層が形成された導電材料からなる筒状部材を、金属製の真空容器の内壁面に沿って配置すると共に、前記真空容器の内部の支持台上に処理対象の基板を静電吸着して、プラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、
前記筒状部材の上端の全周に渡って形成され、前記筒状部材の上端から外周方向に延設されたフランジ部と、
前記フランジ部の下部の全周に渡って形成され、外周側又は内周側の少なくとも一方の全周に傾斜面を備える傾斜部と、
前記真空容器の上端の全周に渡って形成され、前記傾斜部を内側に挿入したとき、外周側又は内周側の少なくとも一方の側壁の上端が前記傾斜面と周方向に渡って接する溝部とを有し、
前記筒状部材の上端の前記傾斜部を前記溝部の内側に挿入したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
内周面に絶縁層が形成された導電材料からなる筒状部材を、金属製の真空容器の内壁面に沿って配置すると共に、前記真空容器の内部の支持台上に処理対象の基板を静電吸着して、プラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、
前記筒状部材の上端の全周に渡って形成され、前記筒状部材の上端から外周方向に延設されたフランジ部と、
前記真空容器の上面の全周に渡って形成された段差部とを有し、
前記筒状部材の上端の前記フランジ部を前記段差部上に載置すると共に、前記フランジ部を前記段差部に固定したことを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−93480(P2013−93480A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235600(P2011−235600)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】