説明

プラズマ照射装置及び表面改質方法

【課題】大気圧下でプラズマ励起して被処理体のうちの表面処理が必要な領域にのみ、局所的に短時間で表面処理を行うことができるプラズマ照射装置及び表面改質方法を提供する。
【解決手段】板状の誘電体3を密着させたプレート電極4と誘電体3を介しての表面近傍に対向設置されたメッシュ電極5とが絶縁性の筐体10内に格納され、プレート電極4及びメッシュ電極5が交流電源6に接続されたプラズマ生成装置100であって、筐体10の一方にガス導入部8を、筐体10の他方にプラズマ照射部9をそれぞれ具備する。プラズマ生成装置100によりプラズマ7を被処理体1に照射することで表面改質を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ照射装置及びこの装置を用いたプラズマ照射方法に関し、より詳しくは、プリント配線基板やガラス基板等の被処理体をプラズマに晒して表面処理を行うためのプラズマ表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、パソコン、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイなどの電子機器では、多くのプリント配線基板やガラス基板が使用され、これらの基板表面には、インクや接着剤や薄膜など様々な材料がコーティングされる。
【0003】
基板表面の状態は、コーティングの品質に影響を及ぼす。例えば、基板表面の濡れ性が悪い場合、或いは有機物で汚染されている場合には、接着やコーティングの品質を維持できない。そこで、プラズマ生成用ガスをプラズマ励起し、生成した活性種により基板(被処理体)の表面処理を行って表面を改質する方法が試みられている。
【0004】
例えば、大気圧下で、対向配置した誘電体被覆電極間に高電圧を印加し、放電によりプラズマ生成用ガスをプラズマ励起し、生成した活性種を基板表面に移送して表面処理を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようなプラズマ生成装置によると、大気圧下で安定なグロー放電と大面積基板の表面処理が可能となり、基板が金属又は合金の場合でも、安定なグロー放電が得られ、また大面積板の場合にも、表面処理を確実に行うことができる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許平4−358076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のプラズマ生成装置の場合、対向配置した誘電体被覆電極の距離の調整が困難であり、安定放電が容易ではない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、最適な距離を多数設けられ、安定放電可能なプラズマ照射装置を提供することを主たる技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るプラズマ照射装置は、板状の誘電体を密着させたプレート電極と前記誘電体を介しての表面近傍に対向設置されたメッシュ電極とが絶縁性の筐体内に格納され、前記プレート電極及び前記メッシュ電極が交流電源に接続されたプラズマ照射装置であって、前記筐体の一方にガス導入部を前記筐体の他方にプラズマ照射部をそれぞれ具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るプラズマ照射装置は、電極の一方がメッシュ電極で構成されるため、最適な距離を多数設けられ、誘電体の表面近傍に対向設置された場合にも、プラズマ生成ガスが流通する隙間が形成され、大気圧下でも安定してプラズマを生成することが可能である。被処理体の所定の表面処理面を、プラズマで表面処理することができるので、表面処理面に付着した有機汚染物質の除去、官能基の付与及び濡れ性の向上等が短時間で可能となり、表面処理面への材料の接着、インクや薄膜によるコーティング等の品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態のプラズマ照射装置の基本原理を説明する概念図
【図2】第2の実施形態のプラズマ照射装置の基本原理を説明する概念図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る照射装置及び処理方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定的に解釈されるものではない。また、同一又は同等の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明のプラズマ照射装置の第1の実施形態を示す平面図である。
【0013】
図1に示すように、第1の実施形態のプラズマ照射装置100は、絶縁性の筐体10内に、板状の誘電体3を表面に密着させたプレート電極4と誘電体3を介してプレート電極の対向電極となるメッシュ電極5とが、格納されている。一対の電極(4,5)は、交流電源6に接続されている。筐体10は、さらに、プラズマ7を生成するためのガスを導入するためのガス導入部8とプラズマ化されたガスを被処理体1に照射するためのプラズマ照射部9とを、有する。すなわち、本実施形態のプラズマ処理装置100は、プラズマが生成する電極が外部環境と連通しており、大気圧下でプラズマを生成するように設計されている。なお、交流電源の周波数はプラズマ生成に必要な周波数であり、条件により変わりうるが、例えば100Hz以上である。
【0014】
プレート電極4は板状又はシート状の電極であり、表面に密着して誘電体3が設けられている。誘電体3は、セラミックなどプラズマ放電による高電圧印加に対して充分な耐性を有する部材であれば、材質や厚さは限定されない。
【0015】
メッシュ電極5は、誘電体3の表面に近傍に設けらるか、或いは誘電体3とメッシュ電極5とが完全に接触していてもよい。メッシュ電極5には、例えば格子状に多数の微細な空隙が設けられている。このため、誘電体3と完全に接触したとしても、メッシュ電極5の空隙は確保される。そして、この空隙でプラズマ放電が励起される。
【0016】
前記メッシュ電極は、1cmあたり2〜236メッシュ(1インチ当り5〜600メッシュ)であることが好ましい。
【0017】
メッシュ電極5の材質は、電極材が溶射材とならないよう、高融点金属或いは遷移金属の金属部材が好ましい。但し、プラズマ耐性を有する導電体であれば、特に限定されない。プレート電極4はプラズマに晒されないが耐久性やコスト等、種々の要素を考慮して適切に選択される。実験装置ではステンレスシートを用いた。
【0018】
ガス導入部8からメッシュ電極5の近傍にガスを導入しつつ、一対の電極(4、5)間に高電圧を印加すると誘電体3とメッシュ電極5の間に形成される隙間にプラズマ7が生成される。このプラズマ7はプラズマ生成条件を適切に調節することで大気圧でも長期間放電が持続する。そして、ガスは主にメッシュ電極5の外側を通り抜け、プラズマ照射部9より噴出し、プラズマ化されたガスが被処理体1の表面に照射される。本実施形態のプラズマ照射装置100は後述するように様々な用途が考えられるが、一例として表面改質装置として用いることができる。表面改質の具体的な用途としては、例えば、被処理体の親水性の付与、清浄化、表面官能基の活性化、などが挙げられる。詳細については後述する。
【0019】
プラズマ照射装置100は、被処理体1を載置するステージ2の上方に、設置される。プラズマ照射装置100及び被処理体1を載置するステージ2の少なくとも一方を、図示しない搬送装置で移動可能に構成することで距離や照射位置を調節できるようにしてもよい。被処理体1の形状は、図1のような平板状乃至フィルム状に限られず、棒状、或いは湾曲した三次元形状など、どのような形状でもよい。
【0020】
下流側であるプラズマ照射部9の近傍ではその全てがグロー放電でありプラズマ放電の状態が一層安定するため、被処理体1の表面処理面に安定してプラズマを照射でき、表面処理の均一性が一層高められる。また、プラズマ照射部から局所的にプラズマを照射するため、プラズマ照射部の出口を狭くしておくことで必要な領域にのみ、短時間で表面処理を行うことができる。
【0021】
プラズマの照射時間は被処理体1の面積或いは表面処理の目的等に応じて例えば0.1〜600秒間程度とする。メッシュ電極の周囲に通過させるガスは、プラズマが生成されるものであれば特に限定されないが、コストの点を重視するのであれば、安価な窒素ガス又は窒素を含むガスを用いることが好ましい。窒素以外では、例えば酸素、アルゴン、ヘリウム等のプラズマ励起に適したガスを用いることができる。
【0022】
ガスが流通する通路の容積を制限することで音速或いは音速付近にまで高めると、大気中の酸素などによる減衰を考慮しても、電極の端部から約数センチメートル下流側に設置した被処理体に安定して低温プラズマを照射することができる。
【0023】
プラズマ7を生成するための電圧は、100[V]〜30[kV]とするのが望ましい。プレート電極4、メッシュ電極5の間隔に印加する電圧は1[kV/mm]以上であることが望ましい。但し、プラズマ放電が開始及び持続する条件を満たすものであればこの条件に限られない。
【0024】
被処理体1の例としては、フレキシブルプリント配線基板、異方性導電フィルム(ACF)の接着面や、ワイヤーボンディング面の表面処理に利用することができる。近年、製品の微細化に伴って異方性導電フィルムの接着面積が小さくなっているが、第1の実施形態のプラズマ照射装置100を用いれば、所定の領域のみを短時間で表面処理することができる。そのため、LSIなどの電子デバイスにダメージを与えることなく大気圧プラズマによる表面改質ができ、実装の信頼性が高い。
【0025】
以上説明した第1の実施形態のプラズマ照射装置100及び表面処理方法によれば、被処理体1の所定の表面処理面を、プラズマ7で表面処理することができるので、表面処理面に付着した有機汚染物質の除去、官能基の付与及び濡れ性の向上等が短時間で可能となり、表面処理面への材料の接着、インクや薄膜によるコーティング等の品質を向上することができる。
【0026】
また、被処理体1の表面処理面がプレート電極4、メッシュ電極5と接触しないので、表面処理面に傷をつけることもなく、汚染物質を付着させることもない。しかも、プラズマを照射する領域を被処理体1の表面処理面及びその周辺のみに限定できるため、被処理体全面を処理する場合よりも、消費電力を大幅に低減できる利点もある。
【0027】
誘電体3、メッシュ電極5の間に流すプラズマ生成用のガスの0℃1気圧における単位面積当りの流速は、例えば1[l/min]以上、300[l/min]以下とすることが好ましい。これは、プラズマ照射による処理対象物の温度を75℃以下にするためである。
【0028】
また、プラズマ照射部9を局所的に筐体の幅よりも狭くしておくことによってプラズマ生成用のガスの流速を速くし、アーク放電のない安定したプラズマ7だけを被処理体2に照射することが可能である。そのため、被処理体1の表面処理面へのダメージを抑制することができる。プリント配線基板のように、被処理体に金属箔膜が塗布されているような被処理体であっても、異常放電の発生が抑制され、異常放電による表面処理面へのダメージを抑制することができる。
【0029】
また、プレート電極4とメッシュ電極5の間での異常放電を防ぐために、プレート電極4はプラズマ生成ガスとは分離された空間内に設置することが好ましい。
【0030】
(第2の実施形態)
図2は、本発明のプラズマ照射装置の第2の実施形態を示す図である。
【0031】
図2に示すように、第2の実施形態のプラズマ照射装置200は、第1の実施形態に示したプラズマ照射装置100を複数個備えている。
【0032】
図2に示すように、第2の実施形態のプラズマ照射装置100は、平板状、又は、フィルム状、又は、棒状の被処理体1を載置するステージ2に対向するように設置されている。プラズマ照射装置200、及び、被処理体1を載置するステージ2の少なくとも片方を図示しない昇降装置で昇降させるようにすればよい。
【0033】
誘電体3、メッシュ電極5の周囲にプラズマ生成用のガスを通過させている状態において、プレート電極4、メッシュ電極5に高電圧を印加すると、アーク放電のない安定したプラズマが生成され被処理体1の表面処理面に効率よくプラズマ7を照射することができ、0.1〜600秒で表面処理が行われる
【0034】
プラズマ7を生成するための条件は、第1の実施形態で例示したものを用いることができる。
【0035】
第2の実施形態のプラズマ照射装置200は、第1の実施形態のプラズマ照射装置100を複数個並べるため、並べた分だけ、被処理体2の処理領域を増加することができる。
【0036】
(その他の実施形態)
本発明の大気圧プラズマ方法を適用した各種の応用分野としては、以下のようなものが考えられる。
(1)材料の貼り合わせ
マイクロ流路を製造する際、Polydimethylsiloxane(PDMS)に流路となる溝を形成したのちガラスと貼り合わせる。しかし、PDMS、及び、ガラスの表面が活性でなければ接合されない。本大気圧プラズマ方法によってPDMS、及び、ガラスの表面を活性化することによって接合を実現している。その他、シリコンとシリコン、若しくは、シリコンとガラスなどの接合前に本プラズマ方法によって表面改質を行い、接合エネルギーの低減をも実現する。
(2)接着性の向上
ポリプロピレンなど、接着剤やテープの接着性が悪い材料が種々存在するが、材料の表面を本大気圧プラズマ方法によって活性化することによって接着性を向上する。例えば、ポリプロピレンにシリコン系の接着剤を塗れるようにできる。
(3)水溶性インクの塗装
はっ水性である各種材料は、環境問題を配慮した親水性インクを塗装しようとしてもはっ水性であるため、塗装できない。そこで、本大気圧プラズマ法によって表面を改質することによって、塗装できなかったものを塗装できるようにする。
(4)細胞培養前のシャーレの処理
細胞培養を行うシャーレは、表面状態を最適化されたものではない。本大気圧プラズマ方法によって、最適な表面状態を実現することによって、細胞培養の効率を飛躍する。
(5)粉体の濡れ性の向上
水に分散しない粉体を水中に分散させるには、通常界面活性剤を用いるが、界面活性剤はコスト面や環境面での影響が大きい。本実施形態で示す大気圧プラズマ照射装置を用いて粉体表面を親水化することで濡れ性を向上し、界面活性剤を用いることなく水中に粉体を分散させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るプラズマ照射装置によると、プラズマ化されたガスを被処理体に照射することで親水性を高めるなど従来親和性の低かった材料を馴染みやすくしたり表面を活性化することによって、液体によるプライマリー処理を省き、特性の向上や製造コストの低下を実現できる。
【0038】
以上のように、本発明に係るプラズマ生成装置及びこれを用いた表面処理方法は、プリント配線基板やガラス基板の表面処理に有用であり、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0039】
100,200 大気圧プラズマ生成装置
1 被処理体
2 ステージ
3 誘電体
4 プレート電極
5 メッシュ電極
6 電源
7 プラズマ
8 ガス導入部
9 プラズマ照射部
10 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の誘電体を密着させたプレート電極と前記誘電体を介しての表面近傍に対向設置されたメッシュ電極とが絶縁性の筐体内に格納され、前記プレート電極及び前記メッシュ電極が交流電源に接続されたプラズマ生成装置であって、前記筐体の一方にガス導入部を前記筐体の他方にプラズマ照射部をそれぞれ具備することを特徴とするプラズマ照射装置。
【請求項2】
前記誘電体と前記メッシュ電極とは接触していることを特徴とする請求項1記載のプラズマ照射装置。
【請求項3】
前記メッシュ電極は、1cmあたり2〜236メッシュであることを特徴とする請求項1記載のプラズマ照射装置。
【請求項4】
前記プラズマ照射部は、前記筐体の幅よりも狭いことを特徴とする請求項1記載のプラズマ照射装置。
【請求項5】
前記メッシュ電極は、高融点金属又は遷移金属元素で構成されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ照射装置。
【請求項6】
前記被処理体はプリント配線基板であり、前記表面処理面は、フィルムの接着面又はワイヤーボンディング面であることを特徴とする請求項1記載のプラズマ照射装置。
【請求項7】
請求項1記載のプラズマ処理装置を複数備えたプラズマ照射装置。
【請求項8】
被処理体を移動させる搬送装置を備えることを特徴とする請求項1又は7記載のプラズマ照射装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のプラズマ照射装置において、前記プラズマ照射部から被処理体にプラズマ化されたガスを照射することを特徴とする表面改質方法。
【請求項10】
前記ガス導入部から照射されるガスの、0℃1気圧における単位面積当りの流速は、1[l/min]以上、300[l/min]以下であることを特徴とする請求項9記載の表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−65433(P2013−65433A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202885(P2011−202885)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504119424)株式会社魁半導体 (4)
【Fターム(参考)】