説明

プラズマ生成ガスおよびこれを用いて生成されたプラズマ

【課題】本発明は、生成されるプラズマの状態を調整可能なプラズマ生成ガスを提供し、プラズマを生成する際に大量の電力を印加しても安定なグロー放電を得ることを可能とするとともに、このプラズマ生成ガスを用いて、高密度で伸張距離の長いプラズマを提供することを目的とする。
【解決手段】放電することによってプラズマを生成するためのプラズマ生成ガスであって、前記プラズマの主成分となる物質を含んでいるプラズマ用ガスと、前記プラズマの状態を調整するプラズマ状態調整用ガスとの混合ガスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生成されるプラズマの状態を調整可能としたプラズマ生成ガスおよびこれを用いて生成されたプラズマに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマは、光源、分析、ガス製造、スパッタリング加工、被膜形成、表面処理などの様々な用途に用いられている。
【0003】
これらの用途に用いられる際には、強い発光や分析感度の増大や、処理能力向上のために密度の高いプラズマが求められ、様々な方法でプラズマの高密度化が図られている。
【0004】
高密度のプラズマを得るための1つの方法として、プラズマを生成する際に大量の電力を投入することが挙げられる。ところが、この方法は、アーク放電になりやすく、安定なグロー放電を得られないという問題を有していた。
【0005】
例えば、プラズマを光源用途として用いる場合(特許文献1参照)、安定なグロー放電が得られないと、放電中に元素を投入して発光させた際に、発光成分に熱的な要素としての黒体放射成分が増加し、発光色が白色となって元素特有の発光色を得ることができなくなってしまう。
【0006】
また、プラズマを分析用途として用いる場合においては(特許文献2参照)、被測定物をグロー放電中に投入し、その際に発せられる発光色を観察することにより分析を行うので、高密度のグロー放電プラズマが得られることが分析感度を向上するための重要な要素となる。
【0007】
同様に、プラズマを表面処理用途として用いる場合(特許文献3参照)、特に、リモートプラズマによる処理は、プラズマ源から離れた位置に被処理物を配置し、ガス流などの流れによって搬送されてくるプラズマを接触させることによってプラズマ処理を施すものであり、プラズマ源に密度の薄いプラズマを用いると、プラズマの伸張距離が短くなり、被処理物までプラズマが到達せずに所望の処理を高速に行うことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−194723号公報
【特許文献2】特開2011−038961号公報
【特許文献3】特開平08−323873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、生成されるプラズマの状態を容易に調整することができる技術が求められている。
【0010】
上記課題を解決するべく、本発明においては、生成されるプラズマの状態を調整可能なプラズマ生成ガスを提供し、プラズマを生成する際に大量の電力を印加しても安定なグロー放電を容易に得られるようにし、また、このプラズマ生成ガスを用いることにより、高密度で伸張距離の長いプラズマを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1のプラズマ生成ガスは、放電することによってプラズマを生成するためのプラズマ生成ガスであって、前記プラズマの主成分となる物質を含んでいるプラズマ用ガスと、前記プラズマの状態を調整するプラズマ状態調整用ガスとの混合ガスからなることを特徴とする。
【0012】
このような、第1のプラズマ生成ガスとすることにより、生成されるプラズマを所望の状態とすることができ、例えば安定なグロー放電プラズマの生成や、伸張距離の長いプラズマを生成することを可能とする。
【0013】
本発明の第2のプラズマ生成ガスは、前記プラズマ状態調整用ガスがヘリウムガスとされることを特徴とする。
【0014】
このような、本発明の第2のプラズマ生成ガスとすることにより、大量の電力を印加してプラズマを生成する際においても、アーク放電になることを抑制して、安定なグロー放電を得ることができ、高密度のプラズマを生成することを可能とする。
【0015】
本発明の第3のプラズマ生成ガスは、前記プラズマ状態調整用ガスが窒素ガスとされることを特徴とする。
【0016】
このような、第3のプラズマ生成ガスとすることにより、生成されたプラズマの寿命が延びて、伸張距離を伸ばすことができる。
【0017】
本発明の第4のプラズマ生成ガスは、前記プラズマを表面処理用途として用いる際に、前記プラズマ用ガスが、生成されるプラズマの主な成分となるベースガスと、前記プラズマの処理効果を向上させるための処理効果向上ガスとの混合物からなることを特徴とする。
【0018】
このような、第4のプラズマ生成ガスとすることにより、生成されたプラズマを表面処理用途として用いる際に、高い処理効果を得ることができ、所望の処理を高速に施すことを可能とする。
【0019】
本発明のプラズマは、本発明の第1乃至第4のプラズマ生成ガスをプラズマ源に導入し、電界を印加することにより放電を発生させて生成することを特徴とする。
【0020】
このような、本発明のプラズマとすることにより、例えば、光源用途および分析用途に用いる際には、投入する電力量を増加した場合においても、安定なグロー放電を容易かつ確実に維持することができるので、投入される元素に応じた発光色が高い輝度で得られる。また、表面処理用途として用いる際には、被処理物まで高密度のプラズマが確実に到達するので所望の処理を高速に施すことを可能とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のプラズマ生成ガスとすることにより、生成されるプラズマの状態を所望の状態に調整することができる。
【0022】
詳しくは、プラズマ状態調整用ガスをヘリウムガスとすることにより、大量の電力を印加してプラズマを生成する際にも、安定なグロー放電の維持を可能とし、高密度のプラズマを生成することを可能とする。
【0023】
また、プラズマ状態調整用ガスを窒素ガスとすることにより、プラズマの伸張距離を伸ばすことを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のプラズマを生成するプラズマ生成装置の実施形態の概略断面図である。
【図2】プラズマ用ガスとしてアルゴンガスおよび酸素ガスを用い、プラズマ状態調整用ガスとしてヘリウムガスを用いた際のヘリウムガスの混合率とアーク放電開始電力との関係を示すグラフである。
【図3】プラズマ用ガスとしてアルゴンガスおよび水素ガスを用い、プラズマ状態調整用ガスとしてヘリウムガスを用いた際のヘリウムガスの混合率とアーク放電開始電力との関係を示すグラフである。
【図4】プラズマ用ガスとしてのアルゴンガス100%の場合のプラズマ生成ガスを用いて生成されたプラズマの明部の観察図および観察図の要部を示す模式図であり、(a)は、プラズマの明部の観察図であり、(b)は、(a)に示す観察図の模式図であり、(c)は、(a)に示す明部を拡大した観察図であり、(d)は、(c)に示す観察図の模式図である。
【図5】プラズマ用ガスをアルゴンガスとし、プラズマ状態調整用ガスを窒素ガス(0.1%)とした場合のプラズマ生成ガスを用いて生成されたプラズマの明部の観察図および観察図の要部を示す模式図であり、(a)は、プラズマの明部の観察図であり、(b)は、(a)に示す観察図の模式図であり、(c)は、(a)に示す明部を拡大した観察図であり、(d)は、(c)に示す観察図の模式図である。
【図6】プラズマ用ガスをアルゴンガスとし、プラズマ状態調整用ガスを窒素ガス(0.5%)とした場合のプラズマ生成ガスを用いて生成されたプラズマの明部の観察図および観察図の要部を示す模式図であり、(a)は、プラズマの明部の観察図であり、(b)は、(a)に示す観察図の模式図であり、(c)は、(a)に示す明部を拡大した観察図であり、(d)は、(c)に示す観察図の模式図である。
【図7】プラズマ用ガスをアルゴンガスとし、プラズマ状態調整用ガスをヘリウムガス(10%)および窒素ガス(0.5%)の混合物とした場合のプラズマ生成ガスを用いて生成されたプラズマの明部の観察図および観察図の要部を示す模式図であり、(a)は、プラズマの明部の観察図であり、(b)は、(a)に示す観察図の模式図であり、(c)は、(a)に示す明部を拡大した観察図であり、(d)は、(c)に示す観察図の模式図である。
【図8】本発明のプラズマを生成するその他のプラズマ生成装置の実施形態の概略断面図である。
【図9】プラズマ源から噴射するプラズマの明部の観察図および観察図の要部を示す模式図であり、(a)は、プラズマの明部の観察図であり、(b)は、(a)に示す観察図の模式図である。
【図10】プラズマ用ガスとしてアルゴンガス、酸素ガスまたは空気を用い、プラズマ状態調整用ガスとして窒素ガスを用いた際の窒素ガスの添加率とプラズマの明部の長さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明のプラズマ生成ガスおよび本発明のプラズマ生成ガスを用いて生成されたプラズマの実施形態について、図1乃至図7を用いて詳しく説明する。
【0026】
本発明のプラズマ生成ガスは、放電することによってプラズマを生成するために用いられ、少なくとも1つの物質からなるプラズマ用ガスと、生成されるプラズマの状態を調整するためのプラズマ状態調整用ガスとの混合ガスからなる。
【0027】
前記プラズマ用ガスは、本発明のプラズマ生成ガスを用いて生成されたプラズマの主要成分となる物質を含んでいるガスからなり、ヘリウムガス、アルゴンガス、キセノンガス、酸素ガス、水素ガスおよび水蒸気など1つの物質からなるガスを用いても良く、空気のような複数の物質からなるガスやこれらの混合物としてもよい。
【0028】
また、前記プラズマ用ガスは、用途に応じて種々の選択が可能であり、例えば、本発明のプラズマ生成ガスを表面処理用途として用いる際には、プラズマ用ガスを生成されるプラズマの主な成分となるベースガスと、処理効果を向上させるための処理効果向上ガスとの混合物としたものを用いてもよい。
【0029】
前記プラズマ状態調整用ガスは、生成されるプラズマの状態を調整するためのガスであり、例えば、安定なグロー放電プラズマの生成や、プラズマの伸張距離を伸ばすことなどを可能とする。
【0030】
具体的には、プラズマ状態調整用ガスをヘリウムガスとすることにより、プラズマを生成する際に、プラズマ生成ガスに対して大量の電力を印加しても、アーク放電の発生を抑制し、安定なグロー放電を容易かつ確実に維持することができるので、高密度のプラズマの生成を可能とする。この時、プラズマ用ガスとしては、ヘリウムガスを含まないガスを選択する。
【0031】
また、プラズマ状態調整用ガスを窒素ガスとすることにより、生成されたプラズマと空気との密度の差が小さくなるとともに、窒素のラジカルの寿命は非常に長いので、プラズマの活性が失われるのを抑制してプラズマの伸張距離を伸ばすことができる。
【0032】
このような、本発明のプラズマ生成ガスを用いて生成された本発明のプラズマを用いることにより、例えば、光源用途および分析用途とされた際には、安定なグロー放電プラズマとされているので、光源に用いる元素または検出した元素に応じた発光色を高い光感度で得ることを可能とする。また、本発明のプラズマを表面処理用途として用いる際には、高密度かつ伸長距離の長いプラズマとされているので、被処理物がプラズマ源から離れた位置に配置されている場合や、被処理物の表面に大きな凹凸を有し、プラズマ源から凹部までが離れている場合においても、確実にプラズマが到達するので、所望の処理を高速に施すことを可能とする。
【0033】
本発明の具体的な実施例を以下に説明する。
【0034】
プラズマ生成ガスを導入し、放電を起こすことによりプラズマを生成するための本実施形態のプラズマ生成装置1を図1に示す。
【0035】
プラズマ生成装置1は、中空直方体の筐体と、前記筐体2の内部に収容された直方体の内部電極3と、フラズマを噴出するための細幅のライン状の噴出口4aが形成された外部電極4と、前記筐体2の内部にプラズマ生成ガスを導入するためのプラズマ生成ガス供給部5および電源6とを備えている。
【0036】
電源6は、内部電極3および外部電極4とに接続され、外部電極4は接地されている。
【0037】
このような、プラズマ生成装置1におけるプラズマ生成方法は、プラズマ生成ガス供給部5からプラズマ生成ガスが供給されると共に、電源6を用いて、1kHz〜40MHzの周波数の高周波電圧を印加することにより、内部電極3と外部電極4との間に電界を設け、間隙部7に放電を発生させることによりプラズマを生成し噴出口4aから均一に噴出するようにされている。
【0038】
<実施例1>
ここで、本発明のプラズマ生成ガスを上記プラズマ生成装置1に供給し、安定なグロー放電プラズマが得られるかを検討した。
【0039】
なお、検討に用いたプラズマ生成ガスは、プラズマ用ガスとしてアルゴンガス(ベースガス)および酸素ガス(処理効果向上ガス)の混合物を用い、プラズマ状態調整用ガスとしてヘリウムガスを用いた混合ガスとした。
【0040】
実験は、プラズマ生成ガスの全流量を30L/minとし、ヘリウムガスの添加率を全流量に対してを0〜30%の間で変化させ、その際のアーク放電開始電力を測定した。測定結果を図2に示す。なお、酸素ガスの添加率を全流量に対して、0%、0.1%、0.2%および0.3%とした4パターンについて実験を行った。
【0041】
図2に示すように、プラズマ状態調整用ガスとしてのへリムガスを混合することによって、酸素ガスの添加の有無に関わらず、生成されるプラズマのアーク放電開始電力が高くなっていることが分かり、大量の電力を増加してもアーク放電に移行せずに安定なグロー放電を生成できていることが分かる。
【0042】
特に、処理効果向上ガスとして酸素ガスを添加した時には、プラズマ状態調整用ガスとしてのヘリウムガスを混合することによる、アーク放電開始電力の向上が顕著であり、大量の電力を印加することが可能であることが分かる。
【0043】
特に、ヘリウムガスを添加率30%で混合した時に最もアーク放電開始電力が高くなり、ヘリウムガスの添加率0%の場合のアーク放電開始電力と比較すると、酸素ガスの添加率0.1%の場合において約20%増加し、酸素ガスの添加率0.2%の場合において約28.5%増加し、酸素ガスの添加率0.3%の場合において約33%増加する結果となった。
【0044】
なお、コスト面および用途に適正なプラズマの状態を考慮すると、プラズマ状態調整用ガスとしてのヘリウムガスの添加率は、5%程度が好ましい。
【0045】
この結果から、プラズマ状態調整用ガスとしてのヘリウムガスを混合したプラズマ生成ガスとすることにより、従来のプラズマ生成ガスによって生成されたグロー放電プラズマと比較すると、大量の電力を印加した際においても、アーク放電の発生が抑制されて安定なグロー放電を維持することができ、大量の電力を印加して高密度のプラズマを生成することが可能であることが明らかとなった。
【0046】
<実施例2>
また、プラズマ用ガスとしてアルゴンガス(ベースガス)と水素ガス(処理効果向上ガス)との混合物を用い、プラズマ状態調整用ガスとしてヘリウムガスを用いて混合ガスとしたプラズマ生成ガスを用いて、実施例1と同様の実験を行った結果を図3に示す。
【0047】
実験は、プラズマ生成ガスの全流量を30L/minとし、ヘリウムガスの添加率を全流量に対して0〜30%の間で変化させ、その際のアーク放電開始電力を測定した。なお、水素ガスの添加率を全流量に対して0%、0.1%、0.3%、0.5%、1%、2%および3%とした7パターンについて実験を行った。
【0048】
図3に示すように、プラズマ状態調整用ガスとしてのヘリウムガスを混合することによって、水素ガスの添加の有無に関わらず、生成されるプラズマのアーク放電開始電力が高くなっていることが分かり、印加する電力を増加してもアーク放電に移行せずに安定なグロー放電を生成できていることが分かる。
【0049】
特に、水素ガスを0.1%、0.3%および0.5%添加した時には、ヘリウムガスの添加率3%まで急激に増加しており、ヘリウムガスの添加率0%の場合のアーク放電開始電力と比較すると、水素ガスの添加率0.1%の場合において27.8%増加し、水素ガスの添加率0.3%の場合において8.0%増加し、水素ガスの添加率0.5%の場合において6.5%増加する結果となった。
【0050】
また、水素ガスを1%添加した時には、ヘリウムガスの添加率7%まではアーク放電開始電力に殆ど変化がみられず、ヘリウムガスの添加率10%とされた場合に急激な増加が認められ、ヘリウムガスの添加率0%の場合のアーク放電開始電力と比較して5.6%増加する結果となった。
【0051】
水素ガスを2%および3%添加した時には、アーク放電開始電力に多少の変動が認められるものの、大きな増加は認められなかった。
【0052】
また、水素ガスを3%を超える添加率で添加すると、プラズマを安定に生成することができず、プラズマが消えるという結果となった。
【0053】
この結果から、水素ガスを0.1〜1%とされた場合において、プラズマ状態調整用ガスとしてのヘリウムガスを添加することによるアンチアーキング効果が特に高いことが明らかとなり、大量の電力を印加してもアーク放電に移行せずに安定なグロー放電を生成し、高密度のプラズマを生成することを可能とする。
【0054】
また、プラズマ状態調整用ガスとしてのヘリウムガスを添加することにより、水素ガスを2%〜3%という高い添加率で添加した際にも、安定なグロー放電を生成することを可能とする。
【0055】
<実施例3>
次に、本発明のプラズマ生成ガスをプラズマ生成装置1に供給し、得られたプラズマの伸張距離の変化について検討した。
【0056】
なお、検討に用いたプラズマ生成ガスは、プラズマ状態調整用ガスを含まないプラズマ用ガスとしてのアルゴンガス100%のものと、プラズマ用ガスとしてアルゴンガスを用い、プラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスをプラズマ生成装置1に供給するプラズマ生成ガスの全流量に対して0.1%および0.5%としたものを用いて行った。なお、前記プラズマ用ガスには、処理効果向上ガスは含まれていない。
【0057】
また、プラズマの伸張距離の検討は、噴出するプラズマの発光部をデジタルカメラで撮影し、得られた画像の明部8をプラズマと判断し、この明部8の長さおよびプラズマ生成装置1の高さを測定し、プラズマ生成装置1に対する割合で明部8の長さを算出し行った。この時、プラズマ生成装置1は、高さ70mm、幅310mm、奥行き50mmとされ、外部電極4に形成された噴出口4aは、長さ250mmとされている。
【0058】
生成されたプラズマの明部8を撮影した観察図を図4乃至図6に示す。なお、図4乃至図6において、(b)および(d)は、それぞれ(a)および(c)模式図であり、これは、明部8の様子を明確とするべく示すものであり、明部8の長さの測定は、(a)および(c)に示す観察図を用いて行った。
【0059】
図4に示すように、プラズマ状態調整用ガスを含まないプラズマ用ガスとしてのアルゴンガスのみの場合、明部8は非常に短かく、(b)および(d)に示すように、プラズマは噴出口4aから極わずかに噴出していた。また、図4(c)に示すように、明部8の長さは、約0.5mm程度であった。
【0060】
図5に示すように、プラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスを0.1%混合した場合、明部8の長さはわずかに伸び、(b)に示すように、ライン状の噴出口4aの両端部において、大きな伸張距離の増加が認められ、(d)に示すように、明部8を拡大すると、プラズマが噴出している様子が明確にみることができる。また、(c)に示すように、。明部8の長さは、約3mmとなり、プラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスを混合しない場合と比較して、伸張距離が6倍に増加した。
【0061】
また、図6に示すように、プラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスを0.5%混合した場合、明部8の長さは大幅に増加し、(b)および(d)に示すように、ライン状の両端部だけでなく一様にプラズマが噴出していることが分か。また、(c)に示すように、明部8の長さは約12mmとなり、プラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスを混合しない場合と比較して、伸張距離が24倍に増加した。
【0062】
これは、プラズマ状態調整用ガスとして窒素ガスを混合することにより、生成されるプラズマ中において、空気中で寿命の長い窒素プラズマを存在させるので、プラズマが空気中に噴出された際に、プラズマの活性が失われるのを抑制して寿命を延ばすので、プラズマの明部8の長さを伸長させることができると考えられる。
【0063】
この結果から、プラズマ状態調整用ガスとして窒素ガスを用いたプラズマ生成ガスとすることにより、プラズマの伸張距離を飛躍的に伸ばすことが可能であることが明らかとなった。
【0064】
<実施例4>
さらに、プラズマ状態調整用ガスとしてヘリウムガスおよび窒素ガスの混合物を用いた際のプラズマの明部8の伸張距離について検討を行った。
【0065】
プラズマ生成ガスには、プラズマ用ガスとしてアルゴンガスを用い、プラズマ状態調整用ガスとしてヘリウムガスおよび窒素ガスの混合物を用いた。なお、プラズマ生成装置1に供給されるプラズマ生成ガスの全流量に対して、ヘリウムガスを10%、窒素ガスを0.5%の添加率で添加した。
【0066】
実験に用いたプラズマ生成装置1の寸法および明部8の測定方法は、実施例3に記載した装置および方法で行った。生成されたプラズマの明部8を撮影した観察図を図7に示す。なお、図7において、(b)および(d)は、それぞれ(a)および(c)模式図であり、これは、明部8の様子を明確とするべく示すものであり、明部8の長さの測定は、(a)および(c)に示す観察図を用いて行った。
【0067】
図7(a)および(c)に示すように、明部8の長さは約10mmとなり、プラズマ状態調整用ガスを混合しない場合(図4参照)と比較して、伸張距離が20倍に増加した。
【0068】
また、プラズマ状態調整用ガスとして窒素ガスを0.5%の添加率で混合した場合(図6参照)の明部8と比較すると、(b)および(d)に示すように、伸張距離は劣るものの、ライン状の長手方向において明部8の長さにバラツキが少なく均一なプラズマが生成されていることが分かる。
【0069】
この結果から、プラズマ状態調整用ガスとしてヘリウムガスおよび窒素ガスの混合物を用いたプラズマ生成ガスとすることにより、プラズマの伸張距離を伸ばすことができるとともに、安定なグロー放電プラズマを容易かつ確実に維持することが可能であることが明らかとなった。
【0070】
なお、プラズマ生成ガスに対するプラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスの添加率は、プラズマ生成装置1のような細幅のライン状の噴出口4aを有する装置を用いる場合、0.5%程度されることが好ましい。
【0071】
<実施例5>
さらに、ジェット型プラズマ生成装置11を用い、プラズマ状態調整用ガスとして窒素ガスを混合したプラズマ生成ガスを用いてプラズマを生成した際のプラズマの明部8の伸張距離の変化について検討した。
【0072】
本実施例で用いたジェット型プラズマ生成装置11は、図8に示すように、中空ののハウジング12と、ハウジング12の先端部に連結され、内部にドーム状の空隙部13aが設けられているとともに、ドーム状の頂部にはプラズマを噴射させるための噴射口13bが形成された外側電極13と、ハウジング12および外側電極13内に収容され、前記空隙部13aとの間に間隙部15を設けるように収容可能な球状部14aを有する内側電極14と、ハウジング12に接続されプラズマ生成ガスを供給するためのプラズマ生成ガス供給部16と、外側電極13および内側電極14とに高周波電圧を印加するための電源17とからなる。
【0073】
このような、ジェット型プラズマ生成装置11におけるプラズマ生成方法は、プラズマ生成ガス供給部16から供給される共に、電源17を用いて、直流〜1MHzの周波数の高周波電圧を印加することにより、内部電極14の球状部14aと外側電極13空隙部13aとの間の間隙部15に放電を発生させることによりプラズマを生成し、噴射口13bから噴射するようにされている。実験においは、50Hzの周波数に設定し行った。
【0074】
なお、検討に用いたプラズマ生成ガスは、プラズマ用ガスとしてアルゴンガス、酸素ガスおよび空気の各単体のガスを用い、プラズマ状態調整用ガスとして窒素ガスを用いた混合ガスとし、窒素ガスの混合率をジェット型プラズマ生成装置11に供給するプラズマ生成ガスの全流量に対して0〜100%の範囲で徐々に増加させたものを用いた。なお、前記プラズマ用ガスには、処理効果向上ガスは含まれていない。
【0075】
また、プラズマの伸張距離の測定は、実施例3および実施例4と同様に、噴射口13bから噴射するプラズマの発光部をデジタルカメラで撮影した観察図(図9(a)参照)の明部8をプラズマと判断して、この明部8の長さを測った。図9(a)の明部8の長さを測定した測定結果を図10に示す。なお、図9(b)は、(a)の要部を示す模式図である。
【0076】
図9(b)に示すように、プラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスの添加率が増加するに従って、噴射口13bから噴射するプラズマの明部8が長くなっていることが分かる。
【0077】
また、具体的には、図10に示すように、プラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスの添加率が1〜5%の時に非常に高い効果が得られ、プラズマの長さが伸びていることが分かる。
【0078】
特に、プラズマ用ガスをアルゴンガスまたは酸素ガスとした時には、プラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスの添加無しにおいて、2mmおよび2.7mmであったものが、窒素ガスを1%添加することによって5.2mmおよび4.4mmとなり、窒素ガスを5%添加することによって7mmおよび5.3mmとなり、伸張距離が2〜3倍以上増加する結果となった。
【0079】
また、プラズマ用ガスを空気とした時には、空気には予め窒素ガスが含まれているため、大幅な伸張距離の増加は認められなかったものの、プラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスを20%添加することにより、約1mmの伸張距離の増加となった。
【0080】
プラズマ用ガスをヘリウムガスとした時には、ヘリウムガス100%における伸長距離は殆ど0mmであるのに対して、プラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスを20%添加することによって伸張距離が7mmとなり、大幅に明部8の長さが増加する結果となった。
【0081】
このように、ジェット型プラズマ生成装置11を用いた場合においても、プラズマ状態調整用ガスとして窒素ガスを用いたプラズマ生成ガスとすることにより、プラズマの伸長距離を伸ばすことが可能であることが明らかとなった。
【0082】
なお、プラズマ生成ガスに対するプラズマ状態調整用ガスとしての窒素ガスの添加率は、ジェット型プラズマ生成装置11のような噴射口13bを有する装置を用いる場合、5%程度されることが好ましい。
【0083】
上記、本発明の実施例から、本発明のプラズマ生成ガスを用いることにより、生成されるプラズマの状態を調整することが可能であるとともに、本発明のプラズマを用いることにより、例えば、光源用途および分析用途とされた際には、プラズマ状態調整用ガスとしてヘリウムガスを用いることにより、大量の電力を印加しても安定なグロー放電プラズマを容易かつ確実に維持することができるので、高密度のプラズマを生成することを可能とし、光源に用いる元素または検出したい元素に応じた発光色を効果的に得ることができる。
【0084】
さらに、本発明のプラズマを表面処理用途として用いる際には、プラズマ状態調整用ガスとしてヘリウムガスおよび/または窒素ガスを用いることにより、大量の電力を印加した状態で安定なグロー放電プラズマを生成し、高密度のプラズマを被処理物に対して照射することができると共に、プラズマが消滅するのを抑制して伸張距離の長いプラズマを生成することができるので、被処理物がプラズマ源から離れた位置に配置されている場合や、被処理物の表面に大きな凹凸を有し、プラズマ源から凹部までが離れている場合においても、確実にプラズマが到達するので、所望の処理を高速に施すことを可能とする。
【0085】
なお、本発明の実施形態は、上記の実施例に限定されるものではなく種々の変更が可能であり、例えば、表面処理用途として用いる際に、プラズマ生成装置1と処理を施す対象物との間にバイアス電圧を印加することにより、プラズマの明部8の伸張距離をさらに長くすることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 プラズマ生成装置
2 筐体
3 内部電極
4 外部電極
4a 噴出口
5 プラズマ生成ガス供給部
6 電源
7 間隙部
8 明部
11 ジェット型プラズマ生成装置
12 ハウジング
13 外側電極
13a 空隙部
13b 噴射口
14 内側電極
14a 球状部
15 間隙部
16 プラズマ生成ガス供給部
17 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電することによってプラズマを生成するためのプラズマ生成ガスであって、
前記プラズマの主成分となる物質を含んでいるプラズマ用ガスと、
前記プラズマの状態を調整するプラズマ状態調整用ガスとの混合ガスからなることを特徴とするプラズマ生成ガス。
【請求項2】
前記プラズマ状態調整ガスがヘリウムガスとされることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ生成ガス。
【請求項3】
前記プラズマ状態調整用ガスが窒素ガスとされることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマ生成ガス。
【請求項4】
前記プラズマを表面処理用途として用いる際には、
前記プラズマ用ガスが、生成されるプラズマの主な成分となるベースガスと、
前記プラズマの処理効果を向上させるための処理効果向上ガスとの混合物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ生成ガス。
【請求項5】
前記請求項1乃至請求項4に記載のプラズマ生成ガスをプラズマ源に導入し、電界を印加することにより放電を発生させて生成されることを特徴とするプラズマ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−19791(P2013−19791A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153823(P2011−153823)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(308024018)
【出願人】(308024029)
【Fターム(参考)】