プラズマ生成装置及びこれを用いた表面改質装置
【課題】大気圧下で長時間プラズマを生成することができるプラズマ生成装置を提供する。
【解決手段】プラズマ生成装置は、第1導電体と、第2導電体と、第1導電体と第2導電体との間に備えられた少なくとも1層の絶縁層とを備えたプラズマ生成部を有し、第1導電体と第2導電体との間に電圧を印加することによってプラズマを生成するプラズマ生成装置であって、プラズマ生成部は、第1導電体と第2導電体とは絶縁層を介して互いに接触する接触部を有するとともに、接触部の周囲における、第1導電体と絶縁層との間、第2導電体と絶縁層との間、絶縁層同士の間のいずれか1つ以上に、プラズマを生成するための流体に晒された隙間を有し、絶縁層はセラミック層からなる。このプラズマ生成装置は、絶縁層をセラミック層とするため、長時間プラズマを生成させることができる。
【解決手段】プラズマ生成装置は、第1導電体と、第2導電体と、第1導電体と第2導電体との間に備えられた少なくとも1層の絶縁層とを備えたプラズマ生成部を有し、第1導電体と第2導電体との間に電圧を印加することによってプラズマを生成するプラズマ生成装置であって、プラズマ生成部は、第1導電体と第2導電体とは絶縁層を介して互いに接触する接触部を有するとともに、接触部の周囲における、第1導電体と絶縁層との間、第2導電体と絶縁層との間、絶縁層同士の間のいずれか1つ以上に、プラズマを生成するための流体に晒された隙間を有し、絶縁層はセラミック層からなる。このプラズマ生成装置は、絶縁層をセラミック層とするため、長時間プラズマを生成させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ生成装置、及びこのプラズマ生成装置を用いた表面改質装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧下でプラズマを生成するプラズマ生成装置の一例として、アーク放電、熱プラズマジェット、誘電体バリア放電などを利用したプラズマ生成装置が提案されている。
【0003】
これらのプラズマ生成装置は、通常、2枚の導体板が互いに離間して対向配置され、その両方あるいはどちらか一方の表面に絶縁性の誘電体層が配置されている。そして、両導体板の間に交流電圧を印加すると、パッシェンの法則(気体中に置いた2枚の平板間の放電電圧は、気体密度(圧力)と放電距離との積の関数となるという法則)の放電開始条件を満たしたときに、プラズマ放電が開始される。プラズマが生成されると両導体板間の電位差によりプラズマ中の荷電粒子が絶縁層の表面に蓄積され、プラズマの生成が終了する。次に、電圧を前回のプラズマの生成時と反対極性で印加すると、前回のプラズマの生成時に絶縁層の表面に蓄積された荷電粒子が作る電界と両導体板間に印加された電圧による電界とによって再びプラズマの生成が開始される。このように印加電圧の極性を変化させることでプラズマの生成が繰り返される。
【0004】
一般に、大気圧下でプラズマを生成する場合、安定してかつ均一に長時間放電を持続することが難しい。例えば、誘電体バリア放電を用いたプラズマ生成装置においてプラズマ放電ガスにヘリウムを用いた場合、電極間に比較的均一なプラズマが生成されることが知られている。しかし、放電ガスが窒素や酸素や空気の場合には、いずれも電極間に多数のフィラメント状放電が発生し、均一で安定なプラズマ放電を長時間に亘り持続させることは極めて困難である。定性的には他のプラズマ生成装置でも同様である。
【0005】
本件発明者たちのグループは、従来の平行平板電極に代えて、2本の線状の電極材を織り合わせた平織構造(ファブリック構造)と呼ばれるメッシュ状の電極をプラズマ生成部に用いた新たなプラズマ生成装置を提案している(特許文献1)。ファブリック構造電極によれば、従来よりも放電開始条件が緩和され、低電圧でも安定してプラズマを生成することができることが判明している。
【0006】
しかし、一般に、大気圧下におけるプラズマ放電の持続時間は高々数分間程度であった。この理由の一つは、導体線が絶縁層によって被覆された絶縁被覆線を用いていたためと考えられる。樹脂は一般に長時間の高電圧印加に対して耐性が小さいため、電圧印加時間の経過に伴って急速に絶縁性が劣化するからである。
【0007】
一方、特許文献2には、一対の電極がいずれも平板状の絶縁基材に埋設された特殊な形状の反応器を有するプラズマ処理装置が開示されている。この装置は「ガス貯留室11内の圧力が大気圧あるいはその近傍の圧力(好ましくは100〜300kPa)」で放電が可能である(第93段落)。また、絶縁基材は、「セラミックスにて形成されていることが好まし」いとされ、これにより、絶縁基材に「高い耐熱性と強度とを付与」できるとしている(第20段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−130343号公報
【特許文献2】特開2010−50106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、放電開始条件など理論的な検討がなされ、種々のプラズマ生成装置が提案されているにもかかわらず、大気圧下において極めて長時間プラズマ放電を持続できるプラズマ生成装置は、未だ開発されていない。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、大気圧下で極めて長時間プラズマ放電を持続できる新規なプラズマ生成装置を提供することを主たる技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るプラズマ生成装置は、線状又は長尺形状の第1導電体と、線状又は長尺形状の第2導電体と、第1導電体と第2導電体との間に備えられた少なくとも1層の絶縁層とを備えたプラズマ生成部を有し、第1導電体と第2導電体との間に電圧を印加することによってプラズマを生成するプラズマ生成装置であって、プラズマ生成部は、第1導電体と第2導電体とは絶縁層を介して互いに接触する接触部を有するとともに、接触部の周囲における、第1導電体と絶縁層との間、第2導電体と絶縁層との間、絶縁層同士の間のいずれか1つ以上に、プラズマを生成するための流体に晒された隙間を有し、絶縁層はセラミック層からなることを特徴とする。
【0011】
セラミックには、石英や硼珪酸ガラス等のほか、ボロンナイトライドやアルミナ・サファイアなどを含む。これにより、絶縁層を樹脂等の有機材料で構成するよりも長時間、プラズマ生成部でプラズマを生成することができる。なお、プラズマ生成部はセラミック管内に第1導電体又は第2導電体を挿入したものであってもよい。この場合、第1導電体又は第2導電体のいずれか一方はセラミック管で被覆されていなくてもよい。一方が被覆されていない場合には、放電電圧を下げることができる利点がある。さらに、従来のように板状でないことで、フレキシブル性を確保できる。例えば、セラミックをガラスとする場合、線状又は長尺形状の第1又は第2導電体に沿った方向にも熱的な可塑性で必要な形状に曲げることができる。導電体と垂直方向すなわち被覆のない銅線方向に曲げられることは当然である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るプラズマ生成装置は、大気圧下、低電圧のような放電持続に適さない環境でもプラズマを放電を安定して持続できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態のプラズマ生成装置を示す図
【図2】第1の実施形態のプラズマ生成装置の変形例を示す図
【図3】プラズマ放電の原理を説明する図、(a)はセラミック管の内部でプラズマを生成する構成を示す図であり、(b)セラミック管の外部でプラズマを生成する構成を示す図
【図4】プラズマ分光測定の結果を示す図
【図5】プラズマ分光測定の結果を示す図
【図6】プラズマ分光測定の結果を示す図
【図7】プラズマ生成装置を用いて被処理材の表面を改質させた結果を示す図
【図8】プラズマ放電の様子を説明する図
【図9】被処理材の表面の写真を示す図、(a)はプラズマ生成装置を用いて表面を改質する前を示す図であり、(b)はプラズマ生成装置を用いて表面を改質した後を示す図
【図10】プラズマ放電の写真を示す図
【図11】第2の実施形態のプラズマ生成装置を示す図
【図12】第3の実施形態のプラズマ生成装置を示す図
【図13】プラズマ生成装置を用いた表面改質装置の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、同一又は同種の機能を発揮する構成部分については同じ符号を用いて説明を省略する場合がある。また、各実施形態はいずれも例示であり、本発明について限定的な解釈を与えるものではない。
【0015】
(第1の実施形態)
<プラズマ生成装置の基本構成>
図1は、第1の実施形態のプラズマ生成装置を示す図である。図1に示すように、プラズマ生成装置10は、セラミック管1と、導電体2a及び2bと、電源3とを有する。導電体2aは大部分がセラミック管1に被覆されている。セラミック管1に被覆された導電体2aと、セラミック管によっては被覆されていない導電体2bとによりファブリック構造のプラズマ生成部4を構成する。具体的には、セラミック管1に被覆された導電体2aを経糸(縦糸)とし、線状の導電体2bを緯糸(横糸)として、経糸と緯糸とを交互に上下に交差させて織り合せ、セラミック管1を介して導電体2aと導電体2bとが互いに接触する部分の周囲にプラズマ生成部4として微小な隙間が形成される。ファブリック構造とは、布地状の構造を総称するものであり、例えば、2本以上の線状部材を織り合わせた織物構造、2本以上の線状部材を編み合わせた編物構造、2本以上の線状部材を組み合わせた組物構造、網状部材あるいは多数の穴部が設けられた板状部材に線状部材を編み合わせた(あるいは組み合わせた)構造などを含む。
【0016】
セラミック管1は、石英等のガラスや硼珪酸ガラス等、ボロンナイトライド及びアルミナ・サファイア等を含む。セラミック管1は、表面に切り込みを入れてもよく、表面をサンドブラスト等により粗くしてもよい。これにより、セラミック管1の表面は滑りやすいため、表面の粗度を上げることでセラミック管1と導電体2a及び2bとの滑りを抑え、セラミック管1と導電体2a及び2bとの距離を一定に保つことができる。或いは、図2の領域Aに示すように、セラミック管を織り込む際に別の導電体2cを一緒に織り込むことで導電体を滑りにくくしてもよい。
【0017】
セラミック管1と導電体2aとの隙間Sは、水又はアルコール類、銀を含むペースト、インジウム(In)を含む低温で溶解し流し込める材料その他固体や液体で満たす、又は、導電体2aとセラミック管1を密着させ隙間Sをなくしてもよい。このようにすると、セラミック管1内部での放電を抑え、管外部で効率良く放電することができる。
【0018】
導電体2a及び2bは、酸化(錆び)防止のために、酸化防止膜として、メッキされた銅線を用いることができる。窒素雰囲気中のプラズマ放電で導電体2a及び2bの表面を窒化させてもよい。さらに、プラズマ生成ガスに晒される導電体2bにおいては表面がフッ素系樹脂などの樹脂素材でコーティングされていてもよい。導電体2bの周囲にはガスが流れているため樹脂に損傷を与える熱等の影響は少ないからである。導電体2a及び2bは、2本以上の導電体を撚り合わせてなる撚り線構造であってもよい。このようにすると、導電体2a及び2bの強度を向上させるだけでなく、セラミック管1と導電体2a及び2bとの滑りを抑えることができる。
【0019】
図1の例では、導電体2aと導電体2bとが、セラミック管1の両端部で放電しないように、管上端部から上端部に配置された導電体2bまでの距離L1及び管下端部から下端部に配置された導電体2bまでの距離L2は、いずれも放電電圧1[kV]当たり概ね1[cm]以上に設定している。
【0020】
電源3は、一端を導電体2a(第1の電極)に接続され、他端を導電体2b(第2の電極)に接続されており、これら両導電体2a、2b間に交流電圧を印加するものである。電源3によって両導電体2a、2b間に100[Hz]以上の高周波電圧が印加されると、導電体2aと導電体2bとがセラミック管1を介して互いに接触する接触部近傍における隙間にプラズマが生成される。両導電体2a、2b間に印加する電圧の波形及び電圧値は特に限定されるものではなく、プラズマを生成する流体の種類、圧力等に応じて適宜設定することができる。
【0021】
図3は、プラズマ放電の原理を説明する図である。図3(a)は、セラミック管の内部でプラズマを生成する構成を示し、(b)セラミック管の外部でプラズマを生成する構成を示している。図3(a)に示すように、導電体2bを地面Eに接地して導電体2aに電圧を印加すると、セラミック管1の内部で導電体2aと導電体2bとの間にプラズマが生成される。また、図3(b)に示すように、地面Eに導電体2aを接地して導電体2bに電圧を印加すると、セラミック管1の外部で導電体2aと導電体2bとの間にプラズマが生成される。
【0022】
ここで、セラミック管にガラス管を導電体に銅線を用いて図1に示す構造のプラズマ生成部の大きさが縦3[cm]×横3[cm]のファブリック構造のプラズマ生成装置を製造し、そのプラズマ生成装置に大気圧下で空気を60[l/min]で吹き付けながら7[kV]の交流電圧を印加して、寿命試験を実施した。
【0023】
また、樹脂で被覆された導電体2aを用いたプラズマ生成装置を比較例とした。なお、実施例のプラズマ生成装置10と比較例のプラズマ生成装置とは導電体2aの被覆材料が異なるだけであり、それ以外の構成は同じである。その結果、比較例のプラズマ生成装置は、7分程で被覆による電極間の絶縁が破壊されショートしプラズマを生成することができなくなったが、実施例のプラズマ生成装置10は、セラミックによる絶縁が破壊されることなく、又その他の部分の破損もなく、30日経ってもプラズマを生成することができた。
【0024】
図4は、プラズマ分光測定の結果を示す図である。プラズマ生成装置10のセラミック管1(ガラス)の肉厚を一定値1[mm]として、プラズマ放電の単位電力及び単位半径当たりの発光強度を測定した。なお、グラフの横軸は、セラミック管1の外形/内径の値を、常用対数で表している。図4に示すように、グラフは一次関数で近似することができ、セラミック管1の肉厚を一定とする場合、セラミック管1が細いほど効率良くプラズマを生成することができることがわかる。
【0025】
図5は、プラズマ分光測定の結果を示す図である。プラズマ生成装置10のセラミック管1(ガラス)の内径を一定値1.5[mm]として、プラズマ放電の単位電力及び単位半径当たりの発光強度を測定した。なお、グラフの横軸は、セラミック管1の外形/内径の値を、常用対数で表している。図5に示すように、グラフは一次関数で近似することができ、プラズマ生成装置10のセラミック管1の内径が一定でも、セラミック管1が細いほど効率良くプラズマを生成することができることがわかる。
【0026】
図6は、プラズマ分光測定の結果を示す図である。図6は、プラズマ生成装置10のセラミック管1(ガラス)の外径を一定値6[mm]として、プラズマ放電の単位電力及び単位半径当たりの発光強度を測定した。なお、グラフの横軸は、セラミック管1の外形/内径の値を、常用対数で表している。図6に示すように、グラフは一次関数で近似することができ、プラズマ生成装置10のセラミック管1の外径を一定すると、セラミック管1の内径が小さく、セラミック管1の肉厚が厚い方が効率良くプラズマを生成することができることがわかる。
【0027】
<プラズマ生成装置の適用例>
図7は、プラズマ生成装置を用いて被処理材の表面を改質させた結果を示す図である。空気雰囲気中及び窒素雰囲気中で、所定時間プラズマに晒して被処理材の表面を改質させ、その後その表面に水を滴下して水の接触角を調べた結果を示している。図7に示すように、窒素雰囲気中の方が空気雰囲気よりも短時間に親水性を向上させるが、処理時間を充分とることにより、低コストの空気雰囲気でも充分に親水性の向上を見込むことができる。そのためプロセスやコスト等の観点から自由度の高い選択が可能である。
【0028】
図9は、被処理材の表面の写真を示す図である。図9(a)は、プラズマ生成装置を用いて表面を改質する前を示す図であり、被処理材の表面に水滴ができているのがわかる。図9(b)は、プラズマ生成装置を用いて表面を改質した後を示す図であり、この図から被処理材表面に水膜が広がっており、水に対する接触角が減少していることが分かる。
【0029】
図8は、プラズマ放電の様子を説明する図である。プラズマ生成装置20は、セラミック管1に被覆された導電体2aとセラミック管1に被覆された導電体2bとからファブリック構造のプラズマ生成部4を形成している。図8に示すように、電源3で導電体2a、2b間に交流電圧(高周波電圧)を印加すると、プラズマ生成装置10と同様にプラズマ生成部4にプラズマPを生成することができる。
【0030】
図10は、プラズマ放電の写真を示す図である。図9に示すように、プラズマ生成装置10は、プラズマ生成部4にプラズマPを生成していることがわかる。
【0031】
図1に示す第1の実施形態のプラズマ生成装置10は、セラミック管1と導電体2a及び2bとの接触部近傍において両導電体2a、2b間にプラズマ放電するための流体に晒された微小な隙間を設けるため、流体圧力を低くすることなく、流体圧力と両導電体2a、2b間の距離との積を小さくすることができる。このため、両導体線2a、2b間に交流電圧を印加することでパッシェンの法則と略同様の放電開始条件を満たしてプラズマを生成させることができ、大気圧のような高圧力下においても低電圧でプラズマを安定して生成することができる。また、プラズマを生成するための流体の種類によらず、同一の電極形状を用いて容易にプラズマを生成することができる。例えば、短距離でプラズマを生成しやすい窒素、酸素等、長距離でプラズマを生成しやすい希ガスなど、プラズマを生成するための流体の種類によらず単一の電極形状でプラズマを生成することができる。さらに、第1の実施形態のプラズマ生成装置10は、導電体2aをセラミック管1で被覆しているため、導電体2aを樹脂で被覆するよりも長時間プラズマを生成することができる。
【0032】
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態のプラズマ生成装置を示す図である。プラズマ生成装置30は、プラズマ生成装置10を有し、プラズマ生成装置10を筒状に丸めて、例えば、導電体2bのC部分をD部分に接続している。これにより、プラズマ生成部4を3次元構造とすることができる。このようにすると、プラズマ生成部4が2次元構造では難しい曲面や凹凸部を有する被処理対象物に対してもプラズマ放電による改質等の処理を効率良く均一に実施することができる。さらに、被処理対象物に応じてプラズマ生成部4を構成することでプラズマ放電による改質等の処理の効率を向上させることができる。
【0033】
セラミック管1は、加熱することで様々な三次元の形状に加工することができる。そのため、これらに用いる導電体2a及び2bは、タングステンやモリブデン等の高温融点材料を用いることが好ましい。
【0034】
第2の実施形態のプラズマ生成装置は、曲面や凹凸部等の様々な構造を有する被処理対象物に対してプラズマ放電による改質等の処理を効率良く均一に実施することができる。さらに、被処理対象物に応じてプラズマ生成部4を構成することでプラズマ放電による改質等の処理の効率を向上させることができる。
【0035】
(第3の実施形態)
図12は、三次元構造のプラズマ生成装置を示す図である。但し、電源は図示を省略している。図12(a)は、三次元構造のプラズマ生成装置の斜視図であり、図12(b)は、図12(a)の側面図である。図12(a)及び図12(b)に示すように、三次元構造のプラズマ生成装置40は、略円筒形ないしカップ型に加工した誘電体41の周りにファブリック電極を形成した様子を示している。放電が不要な面、ファブリック電極のうち被処理体と反対側の面は金属シート等の導電性シートで被覆してもよい。導電性シートに代えて、金属蒸着膜等を形成してもよい。このように金属シート等を設けた面では隙間がなくなるためプラズマが生成しないからである。
【0036】
ペットボトルなど湾曲した表面の外面側を改質する場合は、プラズマ電極の外周側に金属シート等を設ける。逆に、自動車のヘッドライトなどのように、湾曲した処理対象物の内面側を改質する場合は、プラズマ電極の内周側に金属シート等を設ければよい
【0037】
三次元構造のプラズマ生成装置40の内側にガスを送り込むことで内側の加熱を抑えるとともに、内側のプラズマを効率良く生成することができる。
することができる。
【0038】
図13は、三次元構造のプラズマ生成装置40による表面改質システムの一例を示す図である。矢印F1はプラズマ生成装置の移動方向を、矢印F2はコンベアの移動方向を示す。コンベア12は、ペットボトルや缶等の被処理対象物11aを矢印F2の方向に搬送する。被処理対象物11aは三次元構造のプラズマ生成装置40が下降して表面改質がなされる。
【0039】
プラズマ生成装置による表面改質とは、親水性を向上させることのほか、被処理対象物から有機物を気化(COやCO2等)させて除去すること、水酸(OH)基やカルボキシル(COOH)基等の官能基からなる分子を被処理対象物の材料表面に形成して活性化すること、被処理対象物を除電すること等、表面の活性化或いは有機物等の除去による清浄化などの効果もある。上述のように、第1の実施形態のプラズマ生成装置はプラズマ生成部を任意の形状に加工することができ、しかも、大気圧下、かつ空気雰囲気下でも長時間連続してプラズマを生成し続けることができる。
【0040】
そのため、適用分野としては例えば以下(1)〜(9)のような処理にも用いることができる。
(1)水溶性塗料、有機溶剤系の塗料等を塗布するプライマリー処理
(2)細胞培養前のシャーレの処理
(3)フロントガラスやポリカーボネート等の強化ガラスを塗布するプライマリー処理
(4)ワイヤーボンディングの前処理
(5)基板に付着した有機物の除去
(6)蒸着前の密着性向上処理
(7)接着剤の前処理
(8)テープを張り付ける前処理
(9)除電システム
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、プラズマ技術を利用した種々の製品の製造工程に適用されることが期待され、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0042】
1 セラミック管
2a、2b 導電体
3 電源
4 プラズマ生成部
5、6 ファブリック電極
10、20、30、40 プラズマ生成装置
50、60 表面改質装置
S 隙間
E 地面
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ生成装置、及びこのプラズマ生成装置を用いた表面改質装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧下でプラズマを生成するプラズマ生成装置の一例として、アーク放電、熱プラズマジェット、誘電体バリア放電などを利用したプラズマ生成装置が提案されている。
【0003】
これらのプラズマ生成装置は、通常、2枚の導体板が互いに離間して対向配置され、その両方あるいはどちらか一方の表面に絶縁性の誘電体層が配置されている。そして、両導体板の間に交流電圧を印加すると、パッシェンの法則(気体中に置いた2枚の平板間の放電電圧は、気体密度(圧力)と放電距離との積の関数となるという法則)の放電開始条件を満たしたときに、プラズマ放電が開始される。プラズマが生成されると両導体板間の電位差によりプラズマ中の荷電粒子が絶縁層の表面に蓄積され、プラズマの生成が終了する。次に、電圧を前回のプラズマの生成時と反対極性で印加すると、前回のプラズマの生成時に絶縁層の表面に蓄積された荷電粒子が作る電界と両導体板間に印加された電圧による電界とによって再びプラズマの生成が開始される。このように印加電圧の極性を変化させることでプラズマの生成が繰り返される。
【0004】
一般に、大気圧下でプラズマを生成する場合、安定してかつ均一に長時間放電を持続することが難しい。例えば、誘電体バリア放電を用いたプラズマ生成装置においてプラズマ放電ガスにヘリウムを用いた場合、電極間に比較的均一なプラズマが生成されることが知られている。しかし、放電ガスが窒素や酸素や空気の場合には、いずれも電極間に多数のフィラメント状放電が発生し、均一で安定なプラズマ放電を長時間に亘り持続させることは極めて困難である。定性的には他のプラズマ生成装置でも同様である。
【0005】
本件発明者たちのグループは、従来の平行平板電極に代えて、2本の線状の電極材を織り合わせた平織構造(ファブリック構造)と呼ばれるメッシュ状の電極をプラズマ生成部に用いた新たなプラズマ生成装置を提案している(特許文献1)。ファブリック構造電極によれば、従来よりも放電開始条件が緩和され、低電圧でも安定してプラズマを生成することができることが判明している。
【0006】
しかし、一般に、大気圧下におけるプラズマ放電の持続時間は高々数分間程度であった。この理由の一つは、導体線が絶縁層によって被覆された絶縁被覆線を用いていたためと考えられる。樹脂は一般に長時間の高電圧印加に対して耐性が小さいため、電圧印加時間の経過に伴って急速に絶縁性が劣化するからである。
【0007】
一方、特許文献2には、一対の電極がいずれも平板状の絶縁基材に埋設された特殊な形状の反応器を有するプラズマ処理装置が開示されている。この装置は「ガス貯留室11内の圧力が大気圧あるいはその近傍の圧力(好ましくは100〜300kPa)」で放電が可能である(第93段落)。また、絶縁基材は、「セラミックスにて形成されていることが好まし」いとされ、これにより、絶縁基材に「高い耐熱性と強度とを付与」できるとしている(第20段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−130343号公報
【特許文献2】特開2010−50106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、放電開始条件など理論的な検討がなされ、種々のプラズマ生成装置が提案されているにもかかわらず、大気圧下において極めて長時間プラズマ放電を持続できるプラズマ生成装置は、未だ開発されていない。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、大気圧下で極めて長時間プラズマ放電を持続できる新規なプラズマ生成装置を提供することを主たる技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るプラズマ生成装置は、線状又は長尺形状の第1導電体と、線状又は長尺形状の第2導電体と、第1導電体と第2導電体との間に備えられた少なくとも1層の絶縁層とを備えたプラズマ生成部を有し、第1導電体と第2導電体との間に電圧を印加することによってプラズマを生成するプラズマ生成装置であって、プラズマ生成部は、第1導電体と第2導電体とは絶縁層を介して互いに接触する接触部を有するとともに、接触部の周囲における、第1導電体と絶縁層との間、第2導電体と絶縁層との間、絶縁層同士の間のいずれか1つ以上に、プラズマを生成するための流体に晒された隙間を有し、絶縁層はセラミック層からなることを特徴とする。
【0011】
セラミックには、石英や硼珪酸ガラス等のほか、ボロンナイトライドやアルミナ・サファイアなどを含む。これにより、絶縁層を樹脂等の有機材料で構成するよりも長時間、プラズマ生成部でプラズマを生成することができる。なお、プラズマ生成部はセラミック管内に第1導電体又は第2導電体を挿入したものであってもよい。この場合、第1導電体又は第2導電体のいずれか一方はセラミック管で被覆されていなくてもよい。一方が被覆されていない場合には、放電電圧を下げることができる利点がある。さらに、従来のように板状でないことで、フレキシブル性を確保できる。例えば、セラミックをガラスとする場合、線状又は長尺形状の第1又は第2導電体に沿った方向にも熱的な可塑性で必要な形状に曲げることができる。導電体と垂直方向すなわち被覆のない銅線方向に曲げられることは当然である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るプラズマ生成装置は、大気圧下、低電圧のような放電持続に適さない環境でもプラズマを放電を安定して持続できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態のプラズマ生成装置を示す図
【図2】第1の実施形態のプラズマ生成装置の変形例を示す図
【図3】プラズマ放電の原理を説明する図、(a)はセラミック管の内部でプラズマを生成する構成を示す図であり、(b)セラミック管の外部でプラズマを生成する構成を示す図
【図4】プラズマ分光測定の結果を示す図
【図5】プラズマ分光測定の結果を示す図
【図6】プラズマ分光測定の結果を示す図
【図7】プラズマ生成装置を用いて被処理材の表面を改質させた結果を示す図
【図8】プラズマ放電の様子を説明する図
【図9】被処理材の表面の写真を示す図、(a)はプラズマ生成装置を用いて表面を改質する前を示す図であり、(b)はプラズマ生成装置を用いて表面を改質した後を示す図
【図10】プラズマ放電の写真を示す図
【図11】第2の実施形態のプラズマ生成装置を示す図
【図12】第3の実施形態のプラズマ生成装置を示す図
【図13】プラズマ生成装置を用いた表面改質装置の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、同一又は同種の機能を発揮する構成部分については同じ符号を用いて説明を省略する場合がある。また、各実施形態はいずれも例示であり、本発明について限定的な解釈を与えるものではない。
【0015】
(第1の実施形態)
<プラズマ生成装置の基本構成>
図1は、第1の実施形態のプラズマ生成装置を示す図である。図1に示すように、プラズマ生成装置10は、セラミック管1と、導電体2a及び2bと、電源3とを有する。導電体2aは大部分がセラミック管1に被覆されている。セラミック管1に被覆された導電体2aと、セラミック管によっては被覆されていない導電体2bとによりファブリック構造のプラズマ生成部4を構成する。具体的には、セラミック管1に被覆された導電体2aを経糸(縦糸)とし、線状の導電体2bを緯糸(横糸)として、経糸と緯糸とを交互に上下に交差させて織り合せ、セラミック管1を介して導電体2aと導電体2bとが互いに接触する部分の周囲にプラズマ生成部4として微小な隙間が形成される。ファブリック構造とは、布地状の構造を総称するものであり、例えば、2本以上の線状部材を織り合わせた織物構造、2本以上の線状部材を編み合わせた編物構造、2本以上の線状部材を組み合わせた組物構造、網状部材あるいは多数の穴部が設けられた板状部材に線状部材を編み合わせた(あるいは組み合わせた)構造などを含む。
【0016】
セラミック管1は、石英等のガラスや硼珪酸ガラス等、ボロンナイトライド及びアルミナ・サファイア等を含む。セラミック管1は、表面に切り込みを入れてもよく、表面をサンドブラスト等により粗くしてもよい。これにより、セラミック管1の表面は滑りやすいため、表面の粗度を上げることでセラミック管1と導電体2a及び2bとの滑りを抑え、セラミック管1と導電体2a及び2bとの距離を一定に保つことができる。或いは、図2の領域Aに示すように、セラミック管を織り込む際に別の導電体2cを一緒に織り込むことで導電体を滑りにくくしてもよい。
【0017】
セラミック管1と導電体2aとの隙間Sは、水又はアルコール類、銀を含むペースト、インジウム(In)を含む低温で溶解し流し込める材料その他固体や液体で満たす、又は、導電体2aとセラミック管1を密着させ隙間Sをなくしてもよい。このようにすると、セラミック管1内部での放電を抑え、管外部で効率良く放電することができる。
【0018】
導電体2a及び2bは、酸化(錆び)防止のために、酸化防止膜として、メッキされた銅線を用いることができる。窒素雰囲気中のプラズマ放電で導電体2a及び2bの表面を窒化させてもよい。さらに、プラズマ生成ガスに晒される導電体2bにおいては表面がフッ素系樹脂などの樹脂素材でコーティングされていてもよい。導電体2bの周囲にはガスが流れているため樹脂に損傷を与える熱等の影響は少ないからである。導電体2a及び2bは、2本以上の導電体を撚り合わせてなる撚り線構造であってもよい。このようにすると、導電体2a及び2bの強度を向上させるだけでなく、セラミック管1と導電体2a及び2bとの滑りを抑えることができる。
【0019】
図1の例では、導電体2aと導電体2bとが、セラミック管1の両端部で放電しないように、管上端部から上端部に配置された導電体2bまでの距離L1及び管下端部から下端部に配置された導電体2bまでの距離L2は、いずれも放電電圧1[kV]当たり概ね1[cm]以上に設定している。
【0020】
電源3は、一端を導電体2a(第1の電極)に接続され、他端を導電体2b(第2の電極)に接続されており、これら両導電体2a、2b間に交流電圧を印加するものである。電源3によって両導電体2a、2b間に100[Hz]以上の高周波電圧が印加されると、導電体2aと導電体2bとがセラミック管1を介して互いに接触する接触部近傍における隙間にプラズマが生成される。両導電体2a、2b間に印加する電圧の波形及び電圧値は特に限定されるものではなく、プラズマを生成する流体の種類、圧力等に応じて適宜設定することができる。
【0021】
図3は、プラズマ放電の原理を説明する図である。図3(a)は、セラミック管の内部でプラズマを生成する構成を示し、(b)セラミック管の外部でプラズマを生成する構成を示している。図3(a)に示すように、導電体2bを地面Eに接地して導電体2aに電圧を印加すると、セラミック管1の内部で導電体2aと導電体2bとの間にプラズマが生成される。また、図3(b)に示すように、地面Eに導電体2aを接地して導電体2bに電圧を印加すると、セラミック管1の外部で導電体2aと導電体2bとの間にプラズマが生成される。
【0022】
ここで、セラミック管にガラス管を導電体に銅線を用いて図1に示す構造のプラズマ生成部の大きさが縦3[cm]×横3[cm]のファブリック構造のプラズマ生成装置を製造し、そのプラズマ生成装置に大気圧下で空気を60[l/min]で吹き付けながら7[kV]の交流電圧を印加して、寿命試験を実施した。
【0023】
また、樹脂で被覆された導電体2aを用いたプラズマ生成装置を比較例とした。なお、実施例のプラズマ生成装置10と比較例のプラズマ生成装置とは導電体2aの被覆材料が異なるだけであり、それ以外の構成は同じである。その結果、比較例のプラズマ生成装置は、7分程で被覆による電極間の絶縁が破壊されショートしプラズマを生成することができなくなったが、実施例のプラズマ生成装置10は、セラミックによる絶縁が破壊されることなく、又その他の部分の破損もなく、30日経ってもプラズマを生成することができた。
【0024】
図4は、プラズマ分光測定の結果を示す図である。プラズマ生成装置10のセラミック管1(ガラス)の肉厚を一定値1[mm]として、プラズマ放電の単位電力及び単位半径当たりの発光強度を測定した。なお、グラフの横軸は、セラミック管1の外形/内径の値を、常用対数で表している。図4に示すように、グラフは一次関数で近似することができ、セラミック管1の肉厚を一定とする場合、セラミック管1が細いほど効率良くプラズマを生成することができることがわかる。
【0025】
図5は、プラズマ分光測定の結果を示す図である。プラズマ生成装置10のセラミック管1(ガラス)の内径を一定値1.5[mm]として、プラズマ放電の単位電力及び単位半径当たりの発光強度を測定した。なお、グラフの横軸は、セラミック管1の外形/内径の値を、常用対数で表している。図5に示すように、グラフは一次関数で近似することができ、プラズマ生成装置10のセラミック管1の内径が一定でも、セラミック管1が細いほど効率良くプラズマを生成することができることがわかる。
【0026】
図6は、プラズマ分光測定の結果を示す図である。図6は、プラズマ生成装置10のセラミック管1(ガラス)の外径を一定値6[mm]として、プラズマ放電の単位電力及び単位半径当たりの発光強度を測定した。なお、グラフの横軸は、セラミック管1の外形/内径の値を、常用対数で表している。図6に示すように、グラフは一次関数で近似することができ、プラズマ生成装置10のセラミック管1の外径を一定すると、セラミック管1の内径が小さく、セラミック管1の肉厚が厚い方が効率良くプラズマを生成することができることがわかる。
【0027】
<プラズマ生成装置の適用例>
図7は、プラズマ生成装置を用いて被処理材の表面を改質させた結果を示す図である。空気雰囲気中及び窒素雰囲気中で、所定時間プラズマに晒して被処理材の表面を改質させ、その後その表面に水を滴下して水の接触角を調べた結果を示している。図7に示すように、窒素雰囲気中の方が空気雰囲気よりも短時間に親水性を向上させるが、処理時間を充分とることにより、低コストの空気雰囲気でも充分に親水性の向上を見込むことができる。そのためプロセスやコスト等の観点から自由度の高い選択が可能である。
【0028】
図9は、被処理材の表面の写真を示す図である。図9(a)は、プラズマ生成装置を用いて表面を改質する前を示す図であり、被処理材の表面に水滴ができているのがわかる。図9(b)は、プラズマ生成装置を用いて表面を改質した後を示す図であり、この図から被処理材表面に水膜が広がっており、水に対する接触角が減少していることが分かる。
【0029】
図8は、プラズマ放電の様子を説明する図である。プラズマ生成装置20は、セラミック管1に被覆された導電体2aとセラミック管1に被覆された導電体2bとからファブリック構造のプラズマ生成部4を形成している。図8に示すように、電源3で導電体2a、2b間に交流電圧(高周波電圧)を印加すると、プラズマ生成装置10と同様にプラズマ生成部4にプラズマPを生成することができる。
【0030】
図10は、プラズマ放電の写真を示す図である。図9に示すように、プラズマ生成装置10は、プラズマ生成部4にプラズマPを生成していることがわかる。
【0031】
図1に示す第1の実施形態のプラズマ生成装置10は、セラミック管1と導電体2a及び2bとの接触部近傍において両導電体2a、2b間にプラズマ放電するための流体に晒された微小な隙間を設けるため、流体圧力を低くすることなく、流体圧力と両導電体2a、2b間の距離との積を小さくすることができる。このため、両導体線2a、2b間に交流電圧を印加することでパッシェンの法則と略同様の放電開始条件を満たしてプラズマを生成させることができ、大気圧のような高圧力下においても低電圧でプラズマを安定して生成することができる。また、プラズマを生成するための流体の種類によらず、同一の電極形状を用いて容易にプラズマを生成することができる。例えば、短距離でプラズマを生成しやすい窒素、酸素等、長距離でプラズマを生成しやすい希ガスなど、プラズマを生成するための流体の種類によらず単一の電極形状でプラズマを生成することができる。さらに、第1の実施形態のプラズマ生成装置10は、導電体2aをセラミック管1で被覆しているため、導電体2aを樹脂で被覆するよりも長時間プラズマを生成することができる。
【0032】
(第2の実施形態)
図11は、第2の実施形態のプラズマ生成装置を示す図である。プラズマ生成装置30は、プラズマ生成装置10を有し、プラズマ生成装置10を筒状に丸めて、例えば、導電体2bのC部分をD部分に接続している。これにより、プラズマ生成部4を3次元構造とすることができる。このようにすると、プラズマ生成部4が2次元構造では難しい曲面や凹凸部を有する被処理対象物に対してもプラズマ放電による改質等の処理を効率良く均一に実施することができる。さらに、被処理対象物に応じてプラズマ生成部4を構成することでプラズマ放電による改質等の処理の効率を向上させることができる。
【0033】
セラミック管1は、加熱することで様々な三次元の形状に加工することができる。そのため、これらに用いる導電体2a及び2bは、タングステンやモリブデン等の高温融点材料を用いることが好ましい。
【0034】
第2の実施形態のプラズマ生成装置は、曲面や凹凸部等の様々な構造を有する被処理対象物に対してプラズマ放電による改質等の処理を効率良く均一に実施することができる。さらに、被処理対象物に応じてプラズマ生成部4を構成することでプラズマ放電による改質等の処理の効率を向上させることができる。
【0035】
(第3の実施形態)
図12は、三次元構造のプラズマ生成装置を示す図である。但し、電源は図示を省略している。図12(a)は、三次元構造のプラズマ生成装置の斜視図であり、図12(b)は、図12(a)の側面図である。図12(a)及び図12(b)に示すように、三次元構造のプラズマ生成装置40は、略円筒形ないしカップ型に加工した誘電体41の周りにファブリック電極を形成した様子を示している。放電が不要な面、ファブリック電極のうち被処理体と反対側の面は金属シート等の導電性シートで被覆してもよい。導電性シートに代えて、金属蒸着膜等を形成してもよい。このように金属シート等を設けた面では隙間がなくなるためプラズマが生成しないからである。
【0036】
ペットボトルなど湾曲した表面の外面側を改質する場合は、プラズマ電極の外周側に金属シート等を設ける。逆に、自動車のヘッドライトなどのように、湾曲した処理対象物の内面側を改質する場合は、プラズマ電極の内周側に金属シート等を設ければよい
【0037】
三次元構造のプラズマ生成装置40の内側にガスを送り込むことで内側の加熱を抑えるとともに、内側のプラズマを効率良く生成することができる。
することができる。
【0038】
図13は、三次元構造のプラズマ生成装置40による表面改質システムの一例を示す図である。矢印F1はプラズマ生成装置の移動方向を、矢印F2はコンベアの移動方向を示す。コンベア12は、ペットボトルや缶等の被処理対象物11aを矢印F2の方向に搬送する。被処理対象物11aは三次元構造のプラズマ生成装置40が下降して表面改質がなされる。
【0039】
プラズマ生成装置による表面改質とは、親水性を向上させることのほか、被処理対象物から有機物を気化(COやCO2等)させて除去すること、水酸(OH)基やカルボキシル(COOH)基等の官能基からなる分子を被処理対象物の材料表面に形成して活性化すること、被処理対象物を除電すること等、表面の活性化或いは有機物等の除去による清浄化などの効果もある。上述のように、第1の実施形態のプラズマ生成装置はプラズマ生成部を任意の形状に加工することができ、しかも、大気圧下、かつ空気雰囲気下でも長時間連続してプラズマを生成し続けることができる。
【0040】
そのため、適用分野としては例えば以下(1)〜(9)のような処理にも用いることができる。
(1)水溶性塗料、有機溶剤系の塗料等を塗布するプライマリー処理
(2)細胞培養前のシャーレの処理
(3)フロントガラスやポリカーボネート等の強化ガラスを塗布するプライマリー処理
(4)ワイヤーボンディングの前処理
(5)基板に付着した有機物の除去
(6)蒸着前の密着性向上処理
(7)接着剤の前処理
(8)テープを張り付ける前処理
(9)除電システム
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、プラズマ技術を利用した種々の製品の製造工程に適用されることが期待され、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0042】
1 セラミック管
2a、2b 導電体
3 電源
4 プラズマ生成部
5、6 ファブリック電極
10、20、30、40 プラズマ生成装置
50、60 表面改質装置
S 隙間
E 地面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状又は長尺形状の第1導電体と、線状又は長尺形状の第2導電体と、前記第1導電体と前記第2導電体との間に備えられた少なくとも1層の絶縁層とを備えたプラズマ生成部を有し、前記第1導電体と前記第2導電体との間に電圧を印加することによってプラズマを生成するプラズマ生成装置であって、
前記プラズマ生成部は、
前記第1導電体と前記第2導電体とは前記絶縁層を介して互いに接触する接触部を有するとともに、
前記接触部の周囲における、前記第1導電体と前記絶縁層との間、前記第2導電体と前記絶縁層との間、前記絶縁層同士の間のいずれか1つ以上に、プラズマを生成するための流体に晒された隙間を有し、
前記絶縁層はセラミック層からなる
ことを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項2】
前記セラミック層は、一部又は全部に石英、硼珪酸ガラス、ボロンナイトライド及びアルミナ・サファイアの少なくともいずれか1つを含む
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ生成装置。
【請求項3】
前記第1導電体と前記セラミック層との間は、固体及び液体の少なくともいずれかで満たされている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラズマ生成装置。
【請求項4】
前記固体は、銀及びインジウムの少なくともいずれか1つを含み、また前記液体は水又はアルコール類を含む
ことを特徴とする請求項3記載のプラズマ生成装置。
【請求項5】
前記第1導電体及び前記第2導電体のうち流体に晒される方の表面は、フッ素系樹脂素材又は酸化防止膜で被覆されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項6】
前記第1導電体及び前記第2導電体の少なくとも一方は、2本以上の導電体を撚り合わせてなる撚り線構造である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項7】
前記セラミック層の表面は、切り込みを有する及び/又は粗く加工されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項8】
前記プラズマ生成部は、前記第1導電体を縦方向に前記第2導電体を横方向に交互に織り込んでなるファブリック構造を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項9】
前記セラミック層同士が隣接する間には、第3導電体が織り込まれる
ことを特徴とする請求項8項記載のプラズマ生成装置。
【請求項10】
前記プラズマ生成部は、3次元方向に分布した構成である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項11】
前記プラズマ生成部では、プラズマが大気圧下で生成される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項12】
前記プラズマ生成部は、さらに、金属シートを積層されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置を用いて被処理材を改質させることを特徴とする表面改質装置。
【請求項1】
線状又は長尺形状の第1導電体と、線状又は長尺形状の第2導電体と、前記第1導電体と前記第2導電体との間に備えられた少なくとも1層の絶縁層とを備えたプラズマ生成部を有し、前記第1導電体と前記第2導電体との間に電圧を印加することによってプラズマを生成するプラズマ生成装置であって、
前記プラズマ生成部は、
前記第1導電体と前記第2導電体とは前記絶縁層を介して互いに接触する接触部を有するとともに、
前記接触部の周囲における、前記第1導電体と前記絶縁層との間、前記第2導電体と前記絶縁層との間、前記絶縁層同士の間のいずれか1つ以上に、プラズマを生成するための流体に晒された隙間を有し、
前記絶縁層はセラミック層からなる
ことを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項2】
前記セラミック層は、一部又は全部に石英、硼珪酸ガラス、ボロンナイトライド及びアルミナ・サファイアの少なくともいずれか1つを含む
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ生成装置。
【請求項3】
前記第1導電体と前記セラミック層との間は、固体及び液体の少なくともいずれかで満たされている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラズマ生成装置。
【請求項4】
前記固体は、銀及びインジウムの少なくともいずれか1つを含み、また前記液体は水又はアルコール類を含む
ことを特徴とする請求項3記載のプラズマ生成装置。
【請求項5】
前記第1導電体及び前記第2導電体のうち流体に晒される方の表面は、フッ素系樹脂素材又は酸化防止膜で被覆されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項6】
前記第1導電体及び前記第2導電体の少なくとも一方は、2本以上の導電体を撚り合わせてなる撚り線構造である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項7】
前記セラミック層の表面は、切り込みを有する及び/又は粗く加工されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項8】
前記プラズマ生成部は、前記第1導電体を縦方向に前記第2導電体を横方向に交互に織り込んでなるファブリック構造を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項9】
前記セラミック層同士が隣接する間には、第3導電体が織り込まれる
ことを特徴とする請求項8項記載のプラズマ生成装置。
【請求項10】
前記プラズマ生成部は、3次元方向に分布した構成である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項11】
前記プラズマ生成部では、プラズマが大気圧下で生成される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項12】
前記プラズマ生成部は、さらに、金属シートを積層されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載のプラズマ生成装置を用いて被処理材を改質させることを特徴とする表面改質装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−65430(P2013−65430A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202877(P2011−202877)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504119424)株式会社魁半導体 (4)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504119424)株式会社魁半導体 (4)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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