説明

プラズマ生成装置

【課題】空間的に均一な密度のプラズマを生成することができるプラズマ生成装置を提供する。
【解決手段】真空容器11内に複数個の高周波アンテナ16を配置し、各高周波アンテナ16にインピーダンス素子17を接続する。高周波電源20に、銅板18を介して複数の高周波アンテナ16を並列に接続する。各インピーダンス素子17をそれぞれ適切な値に調節することにより、高周波電源20から各高周波アンテナ16に供給される高周波電力を制御する。これにより、真空容器11内のプラズマ密度の均一性を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラズマを用いて被処理基板の表面に堆積処理又はエッチング処理を行い半導体などの基板を製造するためのプラズマ生成装置に関する。特に、大面積に亘って均一にプラズマを発生させることにより、大面積の基板を製造する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、アモルファスシリコン膜を用いたTFT(薄膜トランジスタ)−LCDよりも高輝度の画像を表示することができるポリシリコンTFT−LCDが注目されている。ポリシリコンTFT−LCDでは、まず、ガラス基板上にポリシリコン薄膜を形成したポリシリコン基板を製造する。このポリシリコン基板上を多数の2次元配列された画素領域に区分し、各画素領域に薄膜トランジスタ(TFT)を形成してLCD用基板とする。大画面のポリシリコンTFT−LCDを製造するためには、高い品質、特に高い平坦性を有するポリシリコン基板が必要となる。
【0003】
ポリシリコン基板は高効率の太陽電池用基板としても注目されており、需要及び応用の拡大に伴ってその大面積化が求められている。また、一般の半導体デバイス用基板についても、単結晶サイズを超える大面積のものについては、堆積による基板を使用せざるを得ない。
【0004】
これらの分野で用いられる基板を製造するために、プラズマを用いた処理が行われる。プラズマを用いた処理には、土台となる被処理基板の表面に基板の原料を堆積させる処理、及び、被処理基板表面をエッチングする処理等が含まれる。基板の大型化に伴い、プラズマ処理を行う装置も大型化する必要があるが、その際の最も大きな問題は、プラズマ処理の不均一性である。これを解消するためには、基板全面に亘ってプラズマ密度をできるだけ均一にする必要がある。一方、生産性の観点からは、プラズマ密度を高め、それにより堆積速度やエッチングレートを高めることが求められる。
【0005】
プラズマを生成する方法には、ECR(電子サイクロトン共鳴)プラズマ方式、マイクロ波プラズマ方式、誘導結合型プラズマ方式、容量結合型プラズマ方式等がある。このうち誘導結合型プラズマ方式は、アンテナとなる誘導コイルに高周波電圧を印加し、プラズマ生成装置の内部に誘導電磁界を生成して、それによりプラズマを生成するものである。この構成によれば、前記のプラズマ装置に求められる要件の1つである高密度のプラズマを生成することができる。一方、プラズマ密度はアンテナからの距離に依存するため、前記のもう1つの要件であるプラズマ密度の均一性についてはアンテナの形状や位置等の構成を工夫することにより向上することが図られている。例えば、特許文献1には、プラズマ生成室の天井の外側に設けた平板状のコイルから高周波を導入し、プラズマ密度の均一性を向上させることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−58297号公報([0026]〜[0027]、図1)
【0007】
このような構成において基板の大面積化を図ろうとすると、プラズマ生成室天井の機械的強度を確保するために天井の壁を十分に厚くしなければならない。しかし、特許文献1の装置ではプラズマ生成室の外側にアンテナが配置されているため、アンテナから放射される誘導電磁界が壁において減衰し、プラズマ生成室内の誘導電磁界の強度を十分に得ることが困難である。即ち、特許文献1に記載の方法では、プラズマ密度の均一性については一定の向上が見られるものの、プラズマ密度を十分に高くすることは困難である。
【0008】
それに対して本願発明者らは特許文献2において、高周波アンテナをプラズマ生成室内部に設けること([0008]〜[0010])、更に複数のアンテナを設けること([0050])を提案している。
【0009】
【特許文献2】
特開2001−35697号公報([0008]〜[0010]、[0050]、図11)
【0010】
この構成によれば、プラズマ生成室の壁が障害とならないため、誘導電磁界が減衰することなくプラズマ生成室内に放射され、プラズマ密度を十分に高くすることができる。また、均等に配置された複数のアンテナから誘導電磁界が放射されるため、その均一性が向上し、それによりプラズマ密度の均一性を向上させることができる。これらの効果により、大面積の被処理基板に対する堆積処理やエッチング処理が可能になる。以下、特許文献2に記載の複数のアンテナを設ける構成を「マルチアンテナ方式」と呼ぶ。
【0011】
マルチアンテナ方式において、低コスト化のためには、1個の高周波アンテナに1個の高周波電源を接続するのではなく、1個の高周波電源に複数個の高周波アンテナを並列に接続することが望ましい。本願発明者らは特願2002−191829号出願において、十分に幅の広い板状導体を用いてこの接続を行い、各高周波アンテナ−高周波電源間のインピーダンス値を低減することにより、高周波アンテナに供給される電力を増加させることを提案している。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような場合、高周波電源と高周波アンテナとを結ぶ前記板状導体に温度分布が生じ、各高周波アンテナと高周波電源の間のインピーダンス値がアンテナ毎に異なるようになる。そのため、各高周波アンテナに印加される電圧もアンテナ毎に異なり、生成されるプラズマ密度に不均一性が生じる。これは平坦な大面積基板を製造するためには望ましくない。
【0013】
また、各高周波アンテナが生成するプラズマが、高周波アンテナが並ぶ方向にも拡散するため、このアンテナの列の中央付近におけるプラズマ密度が端付近のそれよりも高くなる。このこともプラズマ密度の不均一性に悪影響を及ぼす。
【0014】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは空間的に均一な密度のプラズマを生成することができるプラズマ生成装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために成された本発明に係るプラズマ生成装置は、
a)真空容器と、
b)前記真空容器内に設けた複数の高周波アンテナと、
c)各々の高周波アンテナに接続したインピーダンス素子と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るプラズマ生成装置において、1個の高周波アンテナが1個の高周波電源に接続されていてもよく、複数個の高周波アンテナが1個の高周波電源に並列に接続されていてもよい。後者の場合、真空容器内に設けた全ての高周波アンテナのうちの一部が並列に接続されていてもよい。
【0017】
また、本発明に係るプラズマ生成装置において、前記インピーダンス素子のインピーダンス値を可変としてもよい。
【0018】
本発明に係るプラズマ制御方法は、真空容器内に複数の高周波アンテナを備えたプラズマ生成装置において、各々の高周波アンテナにインピーダンス素子を接続し、各インピーダンス素子のインピーダンス値を調節することによって該真空容器内のプラズマ密度分布を制御することを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明に係るプラズマ生成装置は、その内部がプラズマ生成室となる真空容器を有する。真空容器内に複数の高周波アンテナを設け、各高周波アンテナに、高周波アンテナの電圧又は電流を制御するためのインピーダンス素子を接続する。各高周波アンテナを高周波電源に接続する際には、典型的には、前記のコスト上の理由により高周波電源1個あたりに複数個の高周波アンテナを並列に接続するが、各高周波アンテナの電圧又は電流をより広いレンジで制御する必要がある場合には1個の高周波電源に高周波アンテナを1個接続してもよい。後者の場合には、高周波電源自体の出力を調節するよりも、本発明のようにインピーダンス素子のインピーダンス値を調節する方が容易である。
【0020】
真空容器内に原料ガスを導入し、各高周波アンテナの電極間に高周波電圧を印加する。これにより高周波アンテナの周囲に誘導電磁界が生成され、真空容器内の原料ガスが電離してプラズマが生成される。
【0021】
1個の高周波電源から複数個の高周波アンテナに高周波電力を供給する場合、高周波電源と高周波アンテナとを接続する導体の形状や長さ、あるいは温度分布等により、各高周波アンテナに供給される高周波電力がアンテナ毎に異なるようになる。前記導体が板状導体の場合には、特に温度分布の影響が顕著になる。そこで、本発明のプラズマ生成装置では、各インピーダンス素子のインピーダンス値を調節することにより、各アンテナに供給される高周波電力の差が小さくなるように制御する。これにより、真空容器内に生成されるプラズマの密度の均一性が向上する。
【0022】
例えば、板状導体を用いて複数個の高周波アンテナを高周波電源に並列に接続した場合、表面からの放熱の影響により、板状導体の温度は中央付近よりも端付近の方が低くなる。そのため、板状導体の端付近に接続した高周波アンテナと高周波電源の間のインピーダンス値が、中央付近に接続した高周波アンテナ−高周波電源間のそれよりも小さくなる。そこで、板状導体の端付近の高周波アンテナに接続したインピーダンス素子のインピーダンス値を大きくする。これにより、各高周波アンテナ−高周波電源間のインピーダンス値の差が小さくなり、各高周波アンテナに供給される高周波電力を平準化することができる。
【0023】
また、前記の高周波アンテナの列の方向にプラズマが拡散する等の、何らかの要因により真空領域内の一部領域のプラズマ密度が上昇又は下降した場合に、その領域に対向する高周波アンテナのインピーダンス素子のインピーダンス値を調節することにより、その領域のプラズマ密度を他の領域の値に近づけることができる。これは、複数個の高周波アンテナを1個の高周波電源に並列に接続した場合に限らず、1個の高周波電源に高周波アンテナを1個のみ接続した場合にも適用可能である。
【0024】
一部の高周波アンテナにのみインピーダンス素子を接続して電圧又は電流を制御してもよい。例えば、複数の高周波アンテナのうち、一部のアンテナにはインピーダンス素子を設けずに常に最大の電力を供給し、他のアンテナに対してはインピーダンス素子を設けてその値を調節することにより電力供給を制限する。
【0025】
アンテナに接続するインピーダンス素子には、インピーダンス値が固定のものと可変のもののいずれを用いてもよい。固定インピーダンス素子は、例えば各高周波アンテナと高周波電源の間のインピーダンス値が予め明らかであり、その値に再現性がある場合に用いることができる。一方、可変インピーダンス素子は、上記の場合に加えて、高周波アンテナ−高周波電源間のインピーダンス値が未知である場合、温度等の条件により異なる場合、時間変化する場合等にも用いることができる。様々な条件及びそれらの変化に応じて可変インピーダンス素子のインピーダンス値を調節することにより、生成されるプラズマの密度を均一にすることができる。
【0026】
この可変インピーダンス素子のインピーダンス値の調節は、真空容器内部のプラズマの状態をモニターし、それをフィードバックして行うことが望ましい。これにより、板状導体の温度変化に伴う、プラズマ密度の時間変化に対応することができる。そのために、本発明のプラズマ生成装置に、更に、プラズマの状態を知ることができるパラメータを測定する測定部と、そのパラメータを元に各可変インピーダンス素子のインピーダンス値を制御する制御部とを設けることが望ましい。測定部はプラズマ密度を直接測定するものでもよいが、より測定が容易な、各高周波アンテナの電流又は電圧を測定することにより、生成されるプラズマの密度を間接的に測定するものでもよい。
【0027】
高周波アンテナの近傍にピックアップコイルを配置して、このピックアップコイルに誘起される誘導起電力を測定することにより、各高周波アンテナの電流を容易に測定することができる。
【0028】
また、高周波アンテナの近傍にキャパシタを配置して、このキャパシタに流出入する電流を測定することにより、各高周波アンテナの電圧を容易に測定することができる。
【0029】
高周波アンテナを構成する導体の端部を真空容器の外部に突出させることにより、その端部の近傍、即ち真空容器の外側にピックアップコイルやキャパシタを配置することができる。これにより、ピックアップコイルやキャパシタがプラズマに侵食されることなく高周波アンテナの電流や電圧を測定することができる。
【0030】
これらのセンサによって得られる高周波アンテナの電流又は電圧の信号は交流である。可変インピーダンス素子を制御する際には、これらの交流信号を直接用いて制御するよりも、取り扱いが容易な直流に変換した信号を用いて制御する方が望ましい。例えば、交流信号をダイオードブリッジ回路に入力して直流に変換した信号が適用可能である。
【0031】
生成されるプラズマの密度は高周波アンテナに投入される電力に比例するため、プラズマ密度をより正確に測定するためには、高周波アンテナの電流又は電圧の一方のみを測定するよりも、その両方、即ち高周波アンテナに投入される電力を測定することがより望ましい。そのためには、上記の方法で得られるアンテナ電流の信号とアンテナ電圧の信号とを乗算すればよい。この乗算は、例えば両者を合成する信号合成器(ミキサー)を用いて行うことができる。信号合成器で得られた信号には高周波成分が含まれるため、ローパスフィルタにより高周波成分を除去することが望ましい。こうして得られた信号は高周波アンテナに投入される電力に比例する。
【0032】
【発明の効果】
本発明のプラズマ生成装置では、マルチアンテナ方式における各高周波アンテナにインピーダンス素子を設けてそのインピーダンス値を調節することにより、各高周波アンテナに供給される高周波電力を制御することが可能になる。この制御を適切に行うことにより、空間的に均一な密度のプラズマを生成することができる。特に、板状導体に生じる温度分布に起因して各高周波アンテナ−高周波電源間に生じるインピーダンス値の差異を低減することができ、それによってプラズマ密度の不均一性を低減することが可能となる。このようにプラズマ密度が均一化されるマルチアンテナ方式のプラズマ生成装置を用いて被処理基板にエッチング又は堆積処理を行うことにより、従来よりも平坦な大面積基板を製造することができる。
【0033】
更に、各高周波アンテナに供給される電流、電圧又は電力を測定し、それらの値を用いて可変インピーダンス素子のインピーダンス値を制御することにより、プラズマ密度の均一性をより高めることができる。
【0034】
【実施例】
図1及び図2に、本発明に係るプラズマ生成装置の一実施例の構成を示す。図1は鉛直方向の断面図であり、図2は平面図である。真空容器11の内部が本プラズマ生成装置のプラズマ生成室となる。真空容器11内部の水平方向の断面は、長辺130cm、短辺100cmの矩形である。真空容器11には真空ポンプ(図示せず)を接続する。真空容器11内に、被処理基板13を載置するための長辺94cm、短辺76cmの矩形の平面状の基板台14を設ける。基板台14は、その下部に設けた昇降部141により昇降可能となっている。また、真空容器11の下側部には被処理基板13を出し入れするための基板出入口12を設ける。真空容器11内上部には、内壁に沿って水平に真空容器11内を1周分周回する周回部と、真空容器11外部に接続する接続部から成るガスパイプ15を設ける。このガスパイプ15の周回部の表面には、多数の孔を、真空容器11内に均等にガスを導入するための適切な分布で配置する。
【0035】
真空容器11の4つの側壁のうちその水平方向に長い方の2面には4個ずつ、短い方の2面には3個ずつ、等間隔に高周波アンテナ16を設ける。各高周波アンテナ16の2つの電極のうち、一方は接地し、他方はインピーダンス素子17を介して、真空容器11の各面に対して1枚ずつ設けた銅板18に接続する。インピーダンス素子17として、例えば図3に示すような可変インダクタンスコイル31を用いることができる。なお、可変インダクタンスコイル31のインダクタンス値の調節は手動で行ってもよいが、後述のフィードバック制御を行う場合にはドライバ32を設けて自動で行うことが望ましい。各銅板18はインピーダンス整合器19を介して高周波電源20に接続する(図2)。これにより、3個又は4個を1組とした高周波アンテナ16が、インピーダンス素子17、銅板18、インピーダンス整合器19を介して、1個の高周波電源20に並列に接続される。なお、本実施例ではインピーダンス素子17をアンテナ16の高周波電源20側の電極に接続したが、インピーダンス素子17を接地側の電極に接続してもよい。
【0036】
図1に示すように、高周波アンテナ16は、その一部が真空容器11の外部に突出するように設ける。個々の高周波アンテナ16に対して、そのRF導入部にピックアップコイル21及びキャパシタ22を設ける。これらは真空容器11の外部に設けられるため、プラズマにより侵食されることがない。なお、電流測定用のピックアップコイル21は高周波アンテナ16の接地側に設けてもよい。各ピックアップコイル21及びキャパシタ22にはそれぞれ、ピックアップコイル21又はキャパシタ22からの交流信号を直流信号に変換するブリッジ回路を接続する。図4に、ピックアップコイル21を接続したダイオードブリッジ回路41を示す。更に、これらの信号を入力してインピーダンス素子17のインピーダンス値を調節する信号を出力する制御部23を設ける(図2)。
【0037】
本実施例のプラズマ生成装置の動作を説明する。昇降部141を動作させて基板台14を降下させる。被処理基板13を基板出入口12から真空容器11内に入れ、基板台14上に載置した後、基板台14を所定の位置まで上昇させる。プラズマの原料ガスを所定のガス圧でガスパイプ15に導入し、4台の高周波電源20から所定の高周波電力を各高周波アンテナ16に供給する。これにより、各高周波アンテナ16が誘導電界を生成する。等間隔に設置された複数個の高周波アンテナ16からそれぞれ生成される誘導電界により、プラズマが生成される。
【0038】
しかし、銅板18に温度分布が生じる等の原因により、プラズマ密度に分布が生じる。そこで、各インピーダンス素子17のインピーダンス値を調節して各高周波アンテナに供給される電力を適切な値に制御することにより、プラズマの密度を均一化する。ここで、生じるプラズマ密度分布に再現性があり、各インピーダンス素子において設定すべきインピーダンス値が実験等により明らかである場合には、固定インピーダンス素子を用いればよい。また、プラズマ密度分布が、使用するガスや供給する電力等の条件により異なるが同一条件下では再現性がある場合には、可変インピーダンス素子を用いてその条件に応じたインピーダンス値を設定すればよい。更に、条件によるプラズマ密度分布の差異や再現性が明らかではない場合には、プラズマ密度分布をフィードバックして可変インピーダンス素子のインピーダンス値の制御を行う。
【0039】
前記のフィードバック制御は、以下のように行う。各アンテナに設けたピックアップコイル21からの電流の信号及び/又はキャパシタ22からの電圧の信号を制御部23に入力する。或るアンテナにおけるこれらの信号のいずれか、あるいはこれらの積から成る電力の信号が所定の値以上になった時、即ちそのアンテナの周囲のプラズマ密度が所定の値以上になった時、制御部23はインピーダンス素子17に設けたドライバ32に、その素子のインピーダンス値を大きくするための信号を出力する。一方、アンテナにおける電流等の信号が所定の値以下の場合には、制御部23はドライバ32にインピーダンス値を小さくする信号を出力する。制御部23からのこれらの信号を受けたドライバ32は、そのインピーダンス素子のインピーダンス値を所定の値に設定する。これにより、そのインピーダンス素子の周囲のプラズマ密度を所定の範囲内に制御することができる。
【0040】
以下に、本実施例のプラズマ生成装置を用いて生成したプラズマの密度分布を測定した実験について説明する。この実験においては、図2において破線で囲んだ3個のアンテナA,B,Cのみに高周波電力を供給し、これらのアンテナを設けた真空容器側面から13cm離れた直線上のプラズマ密度分布を、ラングミュアプローブ法を用いて測定した。
【0041】
この実験の際のプラズマ生成条件は以下の通りである。生成するプラズマはArプラズマとする。あらかじめ真空容器11内を5×10−5Paまで排気した後、原料ガスであるArガスを1.33Paのガス圧まで供給する。その後、3個のアンテナA,B,Cに接続した1個の高周波電源から2000W、13.56MHzの高周波電力を供給する。
【0042】
ピックアップコイル21からの信号に応じてインピーダンス素子のインピーダンス値を制御することにより、3個のアンテナA,B,Cを流れる電流の大きさの比が1:1.2:1、2:1:2及び3:1:3の3通りの状態をつくり、それぞれの場合についてプラズマ密度分布を測定した。
【0043】
これらの測定結果を図5に示す。3個の高周波アンテナの各電流がほぼ等しい、電流比1:1.2:1の場合には、中央付近のプラズマ密度が高く、外縁部のそれが低くなっている。これに対して、両端の高周波アンテナの電流を大きくした電流比2:1:2の場合には、中央付近のプラズマ密度が低下する一方、外縁部のそれが上昇し、プラズマ密度の均一性が改善していることがわかる。更に両端の高周波アンテナの電流を大きくして電流比3:1:3とした場合には、電流比1:1.2:1の場合とは逆に、中央付近のプラズマ密度が低くなってしまう。
【0044】
なお、このプラズマ密度分布を最適にする電流比は、プラズマガスの種類や圧力、高周波電源の供給電力等の条件により異なる。そのため、インピーダンス素子のインピーダンス値は、この電流比がそれらの条件に応じた最適な値となるように適宜調節する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るプラズマ生成装置の実施例の鉛直方向の断面図。
【図2】本実施例のプラズマ生成装置の水平方向の断面図。
【図3】本実施例のインピーダンス素子の一例を示す図。
【図4】本実施例のダイオードブリッジ回路の回路図。
【図5】本実施例のプラズマ生成装置により生成されるプラズマ密度の空間分布を示すグラフ。
【符号の説明】
11…真空容器
12…基板搬出入口
13…被処理基板
14…基板台
141…昇降部
15…ガスパイプ
16…高周波アンテナ
17…インピーダンス素子
18…銅板
19…インピーダンス整合器
20…高周波電源
21…ピックアップコイル
22…キャパシタ
24…制御部
31…可変インダクタンスコイル
32…ドライバ
41…ダイオードブリッジ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)真空容器と、
b)前記真空容器内に設けた複数の高周波アンテナと、
c)各々の高周波アンテナに接続したインピーダンス素子と、
を備えることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項2】
複数個の高周波アンテナが1個の高周波電源に並列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ生成装置。
【請求項3】
1個の高周波アンテナが1個の高周波電源に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ生成装置。
【請求項4】
前記インピーダンス素子のインピーダンス値が可変であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項5】
前記インピーダンス素子が可変インダクタンスコイルであることを特徴とする請求項4に記載のプラズマ生成装置。
【請求項6】
各々の高周波アンテナの電圧又は電流を測定する測定部と、該測定部で得られた電圧又は電流の値により前記可変インピーダンス値を制御する制御部と、を備えることを特徴とする請求項4又は5に記載のプラズマ生成装置。
【請求項7】
前記測定部が、高周波アンテナの近傍に配置され該高周波アンテナの電流を検出するピックアップコイルを備えることを特徴とする請求項6に記載のプラズマ生成装置。
【請求項8】
前記測定部が、高周波アンテナの近傍に配置され該高周波アンテナに印加される電圧を検出するキャパシタを備えることを特徴とする請求項6又は7に記載のプラズマ生成装置。
【請求項9】
前記測定部が、検出された高周波電流又は電圧の信号を直流電流又は電圧の信号に変換するブリッジ回路を備えることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項10】
前記測定部が、高周波アンテナの電流の信号と電圧の信号とを合成する信号合成器と、前記合成信号の高周波成分を除去するローパスフィルタとを備えることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項11】
真空容器内に複数の高周波アンテナを備えたプラズマ生成装置において、各々の高周波アンテナにインピーダンス素子を接続し、各インピーダンス素子のインピーダンス値を調節することによって該真空容器内のプラズマ密度分布を制御することを特徴とするプラズマ制御方法。
【請求項12】
前記インピーダンス素子のインピーダンス値が可変であり、各々の高周波アンテナの電圧、電流又はその双方を測定し、得られた電圧、電流又はそれらの積の値により該可変インピーダンス値を制御することを特徴とする請求項11に記載のプラズマ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2004−228354(P2004−228354A)
【公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−14718(P2003−14718)
【出願日】平成15年1月23日(2003.1.23)
【出願人】(503360115)独立行政法人 科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(502237515)
【出願人】(502236437)
【Fターム(参考)】