プラズマ薄膜堆積方法
対象物の表面上に薄膜を堆積させるプラズマ薄膜堆積方法であって、1つまたは複数の不活性プラズマ発生ガスおよび前駆ガス中でプラズマを発生させ、このプラズマを処理表面上に噴射させる方法。1つまたは複数の前駆ガスは、少なくとも2つの成分、すなわち、飽和有機物質を含む第1の成分と、不飽和有機物質を含む第2の成分とを含み、第1の成分は、プラズマ・ゾーン内で実行されるプラズマ化学プロセスの後に単フリー結合を有する軽ラジカル源であり、第2の成分は、2つ以上のフリー結合を有する重ラジカル源である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理表面(surface to be treated)上に薄膜をプラズマ堆積させる方法に関する。詳細には、本発明は、有機膜またはポリマー膜の堆積に関し、特に、処理表面に不浸透性を与えることに関する。
【背景技術】
【0002】
処理対象物の表面上に薄膜を堆積させるプラズマ方法、例えば米国特許第5569502号に記載のような半導体上に薄層を堆積させる方法、国際出願PCT/IB02/01001号に記載のようなPETボトルの表面上に不浸透性の層またはバリアを堆積させる方法、欧州特許第1024222号に記載のような布(fabric)上に膜を堆積させる方法、国際公開WO96/22030号に記載のような食料品上に食用不浸透性膜を堆積させる方法などが、様々な分野において既に周知であり、使用されている。
【0003】
これらの応用分野の多くでは、その可撓性、透明性、多層形成を可能とする点、処理対象物の全般的な特徴(general characteristic)に影響を与えない点など、非常に薄い層がもたらすこれらの利点、またはその他の特性から、こうした薄層を堆積させることが求められている。
【0004】
食料品や医薬品などの摂取可能な製品では、非常に薄い層は、消費者に知覚されないという利点がある。
【0005】
繊維(textile)分野では、非常に薄い層は、極めて可撓性であり、衣類などの布で作成された対象物は大きな変形を受けるにもかかわらず、こうした層は一体性(integrity)を維持することが可能であるという利点を有する。しかし、処理表面全体にわたってその不浸透性またはその他の所望の特性を確保するには、この薄層は均質でなければならないことが重要である。
【0006】
プラズマ薄膜堆積方法は、しばしば、前駆ガス、またはプラズマによって活性化された前駆ガスの混合物に由来する粒子(イオン、原子、ラジカル、活性粒子)のプラズマ化学反応により得られる無機膜を堆積させることに関する。提案されている方法のほとんどは、プラズマ・パラメータおよび薄層の成長状態に対してより優れた制御性を得るために、部分真空中で実施される。しかし、真空方法は、工業的応用および大量生産には極めてコストがかかる。さらに、真空の存在は、処理対象物の特性に悪影響を及ぼすという欠点(例えば、処理対象物の脱水)を有する。周知のプラズマ方法を用いて薄層を形成する際に生じるさらなる問題に、処理済表面上に望ましくない粉末が形成されることがある。
【0007】
数多くの応用分野において無機膜が求められているが、それだけには限らないが、特に有機材料またはポリマー材料で薄膜を形成することを可能とすることもまた、食用品や医薬品などの摂取可能な製品分野において利点となる。無機材料のいくつかは、食品に少量で許可されており、例えば国際出願公開WO9622030号によって提案されているものの、一般に、こうした無機材料の使用は可能な限り避けたいという願望がある。様々な金属を酸化物の形で含む無機膜の残骸(debris)などの成分(element)が人体に存在すると、有害な結果をもたらす恐れがある。さらに、上記出願に記載の方法は、コストのかかる方法である真空プラズマを使用しており、大量生産にはとても適さない。また、食品、布、紙、または他の品目など、その幾何形状および表面特性が極めて大幅に変化し得るものの処理表面上に無機膜を堆積させる方法では、信頼性高く制御することは極めて困難であることが経験的に示されてきている。
【0008】
食料品分野に関しては、酸化に対する保護層(酸素バリア)、または水分損失または水分吸収に対する保護層(水および水蒸気バリア)の需要が高く、セルロース製、ポリデキストロース製、脂質製、またはタンパク質製の層などの有機膜を堆積させる様々な方法が、従来技術において提案されてきている。食用品上に有機膜を堆積させる周知の方法は、プラズマを使用しないが、十分に知覚されないほどには薄くない厚さの層、またはバリア特性がそれほど良好でない、または信頼性が高くない層が形成される。
【0009】
例えば、特許出願国際公開WO87/03453号は、食用品を保護するのにセルロース層や脂質層などの有機堆積物を使用することを提案している。こうした層は、溶液または懸濁液の形で堆積され、次いで乾燥される。この方法を用いては、良好なバリアを形成する非常に薄い膜を堆積させることが困難であることに加えて、乾燥プロセスにはコストがかかり、処理対象物に悪影響を与える恐れがある。
【0010】
米国特許第6312740号は、食料品表面上に帯電(electrostatically charged)させた食用粉末の形の層を堆積させることを提案しており、コロナ放電を用いて粉末粒子を帯電させている。理想的な粒径は120μm程度であると言われているが、かかる粒径では、消費者になおも知覚されてしまう。
【0011】
堆積層の有効性は、それらの厚さ、濃度、および処理表面への接着性によって決まることを指摘しておきたい。食用品上に膜を堆積させる際に、層の厚さが増大すると、保護された製品の味が変化することになる。
【0012】
1μmを超える寸法を有する粒子では知覚され得ることが経験的に示されている。すなわち、保護層は極薄でなければならず、可能であれば0.5μm未満でなければならない。食料品に関しては、どんな毒性物(toxic product)も含まず、製品の味に影響を及ぼさず、且つ、ほとんどの用途において、水溶性でない層を得ることもまた求められている。
【0013】
これまでに提案されてきた方法は、これらの要件を十分には満たしていない。
これらの薄層の特性はまた、他の分野における用途、例えば布または紙を防水加工する(proofing)、特に食品または医薬品用のボトルやパッケージ上に膜を堆積させる、またはその他の用途においても求められている。
【0014】
【特許文献1】米国特許第5569502号
【特許文献2】国際出願PCT/IB02/01001号
【特許文献3】欧州特許第1024222号
【特許文献4】国際公開WO96/22030号
【特許文献5】国際公開WO87/03453号
【特許文献6】米国特許第6312740号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記に鑑みて、本発明の一目的は、処理表面上に膜を堆積させる方法を提供することであり、この膜は非常に薄く、均質且つ有効であり、この方法は、工業生産、特に大量生産された対象物の処理に適している。
【0016】
この方法を実施する方法および装置は、コストがかかるべきものではないことが利点である。
【0017】
様々な形状および寸法の対象物、または複雑な表面を有する対象物の上に、薄層を確実に堆積させることを可能とする方法を実施するための方法および装置を提供することが利点である。
【0018】
特に食品および製薬分野(sector)において、どんな無機成分も全く、またはほとんど含まない薄膜を堆積させる方法を提供することが利点である。
【0019】
生産ライン上で妥当なコストで実施することができ、様々な食品もしくは医薬品、または他の摂取製品上に膜を堆積させる方法を提供することが利点である。
【0020】
いくつかの応用分野において、極く薄い、具体的には1μm未満の有機素材(matter)またはポリマー素材の層を、様々な材料の処理表面上に堆積させる方法を提供することが利点である。
【0021】
本発明の別の目的は、食品、医薬品、または他の摂取可能製品用の、有効で信頼性が高く、且つ無害な不浸透性膜を提供することである。
【0022】
本発明のさらなる目的は、極く薄く、均質且つ有効な有機被覆またはポリマー被覆、特に液体または気体に対するバリアを形成する被覆を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の目的のいくつかは、請求項1に記載の方法を用いて達成される。
【0024】
本発明では、膜堆積プロセスは、不活性プラズマ発生(prasmagenic)ガスおよび前駆ガスの混合物中でプラズマを発生させ、次いで得られたガス(プラズマ)を、処理表面上に噴射させることに基づく。この前駆ガスは、少なくとも2つの成分を含む。
【0025】
第1の成分は、飽和有機物質、または飽和有機物質の混合物を含む。
【0026】
第2の成分は、不飽和有機物質、または不飽和有機物質の混合物を含む。
【0027】
前駆ガスの組成物には、炭素元素および/または水素元素および/またはハロゲン元素が含まれる。
【0028】
不飽和有機物質は、重く(heavy)、フリーな(free)多価ラジカルの主要な源である。これらの物質は、主にポリマー鎖製のビルディング・ブロックを形成する。
【0029】
飽和有機物質は、プラズマ・ゾーン内でのプラズマ化学プロセスの後で、軽く(light)、単フリー結合を有するフリー・ラジカルの主要な源になる。これらのラジカルによって、ポリマー鎖の成長が停止することになる。
【0030】
重い多価ラジカルは、表面側でより吸収される。これはすなわち、ビルディング・ブロック量と単結合ラジカル量との比率が、処理表面とその容積(volume)内とで異なることを意味する。第1に、このためポリマー鎖が短くなり、したがって、容積内における粉末の形成が制限され、第2に、表面上への膜堆積が強化される。
【0031】
膜堆積は、先の表面活性化によって促進(stimulate)される。
【0032】
この方法の別の大きな利点は、この方法は大気圧下で実施することができ、したがって、どんなポンプや真空外囲器(vacuum enclosure)も必要とせず、したがって、特に大量生産された対象物を処理する工業環境において、この方法を実施するのに必要な装置が簡易になることである。また、本発明に従って、2つの前駆ガス、または前駆ガスの混合物を使用することによって、真空プラズマ方法を使用したときの堆積速度よりも高い膜堆積速度を実現することが可能となる。
【0033】
本発明の方法はまた、プラズマを発生させる放電を処理表面から比較的長く間隔を置いて配置し、それによって、この方法の歩留りを最適化するとともに、処理対象物の過熱問題を回避するという利点も有する。少なくとも2つの前駆ガスまたは前駆ガスの混合物に由来するラジカルは、プラズマに入り、そのラジカルがプラズマ化学反応する処理表面まで達する最大移動時間に対応する時間存在する。また、その最適距離は、イオン化粒子および紫外放射線、ならびにプラズマによって形成された活性原子を用いて処理表面を活性化させる必要に応じて決まる。
【0034】
製品表面上、例えば食品表面上に保護ポリマー膜を設けるには、CkHl、CmFn、もしくはCsHpFr、またはそれらの混合物からなるガスを前駆体として使用するのが有利である。保護膜の形成は、容積および表面のプラズマ化学プロセスによって決まる。
【0035】
表面プロセスは、処理対象物表面上で、以下のいくつかのステップで生じる。
・プラズマによる活性化前の、処理表面上における成長センター(development centre)の形成。この表面は、平滑でも粗くてもよく、さらには極めて不均質(uneven)でもよい。というのは、大気圧下では、表面上に作用する活性化媒体は、特に熱力学的平衡から、表面の凹凸(irregularity)間での活性成分の浸透を決定する非常に低い粘性(viscosity)を有し得るからである。
・重い前駆ガスまたは混合ガスに由来する活性多価フリー・ラジカルを処理表面上に堆積させることによる鎖の発生(genesis)(誘導(initiation))
成長センター +M’→M1’
・鎖成長(Chain development):
M1’+M’→M2’
M2’+M’→M3’
M3’+M’→M4’等
・軽い前駆ガスまたは混合ガスから由来する一価ラジカルによる鎖の破壊(rupture)
Mn’→Pn、但しPnは非活性ポリマーである。
【0036】
このように、処理製品表面上でのポリマー層の形成は、プラズマ・ゾーン内での「ビルディング・ブロック」の形成と、これらのブロックの表面の方への移動と、表面上でのフリー・ラジカルを含まないポリマー層の形成とを含むことが分かる。
【0037】
容積内でのポリマー粉末の形成と表面上でのポリマー層の形成とが互いに競合する(compete)ことは明らかである。この競合は、具体的には前駆体有機ガスの混合物の成分を選択することによって解消される。
【0038】
例えば、ヘキサフルオロプロピレン(C3F6)などの不飽和成分の混合物や、テトラフルオロメタン(CF4)などの飽和成分を使用すると有利である。
【0039】
CF4は、プラズマに入ると、具体的には、軽ラジカルCF3’を形成する。こうしたラジカルが、ポリマー鎖の形成を停止させる。
【0040】
C3F6は、重ビラジカル(CF3−CF−CF2)”を形成し、これがポリマー・ビルディング・ブロックとなる。
【0041】
原則として、これらの反応は、容積内および処理表面上で生じる。ポリマーの容積内での形成と表面での形成との競合は、重ラジカルの濃度と軽ラジカルの濃度の比率によって決まる。表面では、重ビラジカルの濃度は、軽ラジカルの濃度に勝り、したがって、処理表面上でのポリマー膜形成が促進される。
【0042】
容積内では、CF3’軽ラジカルの濃度が重ラジカルの濃度に勝る。このため、その容積内でのポリマー粉末の形成は減速する。
【0043】
本発明に基づいて実施した実験は、これらの成分の比率を経験的に変動させることによって、容積内での粉末形成を事実上阻止することが可能であることを示している。
【0044】
上記の例などのフッ素系有機前駆体を使用することにより、処理表面上にポリテトラフルオロエチレン(−CF2−CF2−)n製の膜を形成することが可能となる。
【0045】
このポリテトラフルオロエチレン膜(一般に「テフロン(登録商標)」としても知られる)は、非常に優れた水分バリア特性および酸素バリア特性を有する膜であるとともに、無害な材料であり、したがって、食用品分野での使用に良く適しており、食品上に膜を堆積させる場合にも、または食品または飲料のパッケージ用包装上に堆積させる場合にも適している。
【0046】
また、処理表面上にポリマー層を形成するのに他のハロゲン系有機前駆体を使用することもできる。しかし、摂取可能製品中に塩素が存在するのは一般に望ましくないので、塩素を含んだポリマー層は、食品以外の分野において使用すべきである。
【0047】
本発明では、炭化水素を前駆ガスとして使用して、処理表面上にポリマー膜、具体的には分岐ポリエチレン(−CH2−CH2−)nを形成することも可能である。
【0048】
前駆体製品が炭素、フッ素(または別のハロゲン)、および水素を含んだ混合物である場合、共重合反応が得られる。
【0049】
本発明の方法の重要な利点の1つは、容積成長を阻止しながら、処理対象物の表面上でのポリマー層形成を適切に制御し、それによって極めて均質な厚さの層が得られることである。堆積層が高い均質性を有するということは、極く薄い層を意味し、単分子、すなわち0.5ナノメートル程度でさえも、処理表面上に良く分布することになる。処理表面上における層成長は、容積内ではなく、表面上で生じ、より厚い層も、広範囲にわたって均質に堆積させることができ、こうした層の厚さは、例えば処理時間を変動させることによって制御することが可能である。本発明では、プラズマ処理の間に、様々な前駆ガスを順次注入することによって、多層膜、すなわち、様々な組成物からなる層で形成された膜を形成することも可能である。表面上におけるポリマー層の成長を可能とするこの機構は、フリー・ラジカルが不要となるという利点も有し、したがって、食用品にこの方法を使用することが可能となる。結論として、本発明の方法によって形成されるポリマー膜は、化学的に安定で、生物学的適合性があり、気体および水に対して不浸透性であり、高弾性および機械的剛性(mechanical solidity)を有するとともに、優れた誘電特質(dielectric quality)を有する。それらの厚さは、用途の制約に応じて0.5nm(単分子層)から0.5μmの間で変動させることができ、これよりも厚くなると、堆積させた膜が崩壊(disintegrate)し、処理表面から分離する恐れがある。
【0050】
発生プラズマは、用途に応じて連続させるかまたはパルス化させる。このプラズマは、直流源、交流源もしくは高周波電流源、またはマイクロ波によって供給される。発生プラズマは、パルス化動作下で特に有効である。
【0051】
この方法は、有利にはプラズマを大気圧下で使用して実施することができ、したがって、処理装置を工業生産ラインに比較的容易に組み込むこと、および工業生産規模(industrial production rate)で膜堆積を実施することが可能となる。
【0052】
本発明の方法を用いると、好ましくは熱力学的に平衡でないプラズマを発生させ、このプラズマは、大気圧における処理表面上への効率的な層形成に適しており、非常に微細な層の形成にも適している。有利には、衝撃波が発生するように放電パルスを制御することが可能であり、この衝撃波によって、プラズマ化学反応を向上させるとともに、処理表面上の流体力学的境界層を破壊する超音波振動が発生する。これらの要素は全て、膜堆積プロセスを加速させるとともにその有効性を増大させる一助となる。
【0053】
膜を形成する元素を搬送する複数の前駆ガスは、膜堆積ゾーンに、特に1つの混合物の形で同時に導入されるか、または様々なガスの混合物の一部分の形で連続して導入される。
【0054】
前者の場合、様々な前駆ガスの最適な組成量は、経験的に得ることができる。
【0055】
後者の場合、粉末を全く、またはほとんど含まない最適組成物の膜を堆積させる機会(opportunity)を維持しながら、膜の不浸透性を確保するだけでなく、膜の可撓性、剛性、および他の特性(機械的、光学的、化学的)をも確保する多層膜を形成することが可能である。この場合、得られる膜の組成物は、その厚さにわたって異なっている。具体的には、この膜は多重層であると考えることができる。
【0056】
膜堆積プロセスのパラメータ、特にプラズマ発生パラメータおよび処理表面の活性化は、処理時に処理表面上に存在する微生物を殺菌するように適合させることができる。本発明のこの特性は、食品を処理するときに特に有用である。かかる処理の間、これらの製品は、気体(特に酸素)、蒸気(特に水蒸気)、および液相状態の水の移入(migration)を阻止するだけでなく、周囲雰囲気または外部接触によってもたらされるカビやイーストなどの微生物の移入をも阻止する保護膜で覆われることになる。
本方法を実施するための装置および処理例を、図面を参照しながら以下で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
図1〜5を参照すると、本発明の方法を実施するためのプラズマ表面処理装置は、処理表面8に付着させるプラズマ4を発生する1つまたは複数のプラズマ発生器15を含み、この処理表面8は、コンベヤ10などの運動学的(kinematical)システム9(図2、3および5)を用いて、または、重力下で、リアクタ14(図4)中を、例えば処理対象物がリアクタ中を通って流れるのを確実に制御するように振動を加えて移動させることによって、プラズマ発生器に対して移動させる。
【0058】
特に図1および2を参照すると、プラズマ発生器15は、電流源1、例えば公称電圧1000Vを有する50Hzの交流電源を含み、この電源は、管の形の電極2a、2bに接続され、これらの電極の一方の端部からはプラズマ形成ガスQ3が供給され、もう一方の端部には、発生したプラズマ4を送るとともにその形状に影響を及ぼすノズル3a、3bがある。このプラズマ発生器15はまた、前駆ガスQ1、Q2を供給する供給システム6も含み、このシステムは、入口ダクト6a、6b、ミキサ6c、および出口ダクト6dを含む。この前駆ガス供給システムは、プラズマ発生器とは別の装置でもよいが、この装置を発生器または発生器ブロックに組み込み、それによって、プラズマに入る前駆ガスの通過および処理表面8a上に得られる成分をより良く制御するのが有利である。
【0059】
前駆ガス用の出口ダクト6d、およびプラズマ形成ガス用のノズル3a、3bを用いて、処理対象物を搬送しているキャリヤ9上にプラズマ4の流れを送るとともにその幾何形状を制御する。
【0060】
キャリヤ9および/または発生器12は、1つまたは複数の方向への相対移動を行う運動学的システムに取り付けることができ、それによって、プラズマ4の流れが処理対象物を走査することになる。この運動学的システムは、図2ならびに図3および5に示されるような、処理対象物8が、コンベヤ表面に向けて噴射されたプラズマ4中を通過する工業生産ラインのコンベヤでよい。
【0061】
図2に示された装置では、基本的に、処理対象物がその上に配置されるコンベヤの幅を有する、プラズマ4製の線形カーテン(linear curtain)を形成するように、発生器12のブロック内にいくつかのプラズマ発生器を並べて取り付けてもよい。発生器ブロックは、プラズマ形成ガスおよび前駆ガスを送るダクトと、電流源と、プラズマ発生器の電気エネルギー供給パラメータを制御するように電流源に結合されたマイクロプロセッサ制御装置13とを有する。
【0062】
図3を参照すると、プラズマ発生器をプラズモトロン(plasmotron)の形で、コンベヤ・ベルト23の両側にコンベヤに沿って配置することも可能であり、プラズマは、壁21によって区切られるとともに、残留ガス用の排気ダクト22を含むリアクタ内に収容されている。この場合、コンベヤ・ベルト23は、ベルト23の両側で発生させたプラズマによって、処理対象物周辺全体にわたって処理することを可能とする格子または金属メッシュの形でよい。図5に示されるような比較的小さい、または軽い対象物の表面処理では、プラズマ発生器15は、処理対象物の下に配置し、プラズマ噴流の流体力を用いて処理対象物を持ち上げ撹拌し、それによって対象物の表面全体にわたって確実にプラズマ表面処理を施すこともできる。
【0063】
また、コンベヤ上で搬送される対象物の撹拌および回転は、コンベヤ・ベルトを振動させることによって行うこともでき、その場合には、ベルトの上側にプラズマ発生器を設けるだけでよい。
【0064】
処理対象物を移動させるのに運動学的システムを使用する代わりに、重力または流体力(例えば送風)下で、対象物をリアクタ14内に収容されたプラズマ流中で移動させることも可能である。リアクタ14には、プラズマ発生器15によって噴射されたプラズマ流中に、処理対象物8を順次送るように、ガイド要素を例えば壁24の形で設けることができる。リアクタ14による収容は、好ましくは、処理対象物の流れが、ガイド要素によって形成されたオリフィス25を確実に通り抜けるように振動させ、このガイド要素もまた、収容部14中を流れる処理対象物の流れを制御する。処理製品の排出は、運動学的システムに取り付けられた包装システム17に向けて送ることができる。
【0065】
プラズマ発生器は、好ましくは、プラズマを外部環境から流体力学的に隔離する筐体からなるリアクタ内に収容して配置され、したがって、処理対象物へのプラズマ流がより良く制御されることになる。
【0066】
プラズマ発生器は、直流発生器、交流発生器、高周波発生器、またはマイクロ波発生器でもよい。好ましくは、この発生器は、その放電に電気パルスを与えるように設計される。この場合、発生器は、好ましくはマイクロプロセッサ13内にチョッパ装置を含み、これを用いて、方法の制約ごとに、振幅および所用時間(duration)の異なるパルスを形成する。
【0067】
本発明の方法を使用した、対象物、特に食用品の表面処理の実施例について以下に説明する。
【実施例1】
【0068】
処理食品は、「プチ・ブール」の名前で一般に知られる甘いビスケットである。この製品を、図1に相当する装置のリアクタ内に配置した。大気圧下で処理を実施した。
パラメータは以下の通りであった。
1.プラズマ発生ガス:アルゴン
2.前駆ガス:テトラフルオロメタン(50%)およびヘキサフルオロプロピレン(50%)
3.放電供給は高圧交流源を用いて行う。プラズモトロンは、ノズルの形の2つの電極からなるプラズマ発生器であり、ガスはそのノズル形電極を通ってプラズマ・ゾーンに到達する。
4.放電開始電圧:10kV
5.放電中電圧:1÷25kV
6.電流:100mA
7.プラズマ発生ガスおよび前駆ガスを電極ノズルから放電ゾーンに噴射させる。
8.総ガス流量は、≦5リットル(l)/分である。
9.電極と処理表面との間隔は、約4cmである。
10.プラズマに対する処理表面の直線速度(linear speed)は、約1m/分である。
11.走査速度は、10cm/分である。
12.処理時間は、30秒である。
【0069】
(結果)
赤外分光法によって確認(verify)された堆積膜の組成物は、テトラフルオロエチレン(テノン)であり、この層の平均厚さは30nmである。
【0070】
常磁性電子分光法を用いたところ、処理表面上には残留フリー・ラジカルの痕跡(trace)がないことが分かった。
【0071】
処理済ビスケットを、水に対する不浸透性について試験した。非処理ビスケットの表面上に堆積させた水滴は、直ちに吸収される。処理済ビスケットの表面上に堆積させた水滴は、吸収されない。それらの水滴は、図6に示すように、吸収されずに表面上を転がる。
【0072】
処理済ビスケットおよび非処理ビスケットを水に浸漬させた。非処理ビスケットは、図7に示すように、直ちに水を吸収した。処理済ビスケットは、図8に示すように、30分後にゆっくりと水を吸収し始めただけであった。
【0073】
5秒間水に浸漬させたビスケットの重量の増大は、以下の通りであった
・非処理:88%
・処理済:0.7%
【実施例2】
【0074】
処理製品は、図10に示すような「パイ状バター・スナック」であった。
図1に示すような装置を使用してそれらの製品を処理した。
使用したパラメータは、実施例1のものと同じであった。
前駆ガス:メタン60%、アセチレン40%
【0075】
(結果)
得られた膜の厚さは、100nmであった。得られた膜は、ポリエチレンからなっていた。水不浸透性試験では、非処理製品は1分で水を吸収した。処理済製品は、図10に示すように、浸漬から40分後に水を吸収したにすぎなかった。
【0076】
30秒間水に浸漬させた非処理製品および処理済製品の重量の増大は、以下の通りであった
・非処理:91%
・処理済:0.8%
【実施例3】
【0077】
処理製品は、図11に示すような「コーン・フレーク」であった。プラズマ処理に使用した装置は、図4に相当するタイプの装置であった。
【0078】
処理パラメータは、以下の通りであった。
1.プラズマ形成ガス:アルゴン
2.前駆ガス:テトラフルオロメタン70%+tetrafluoroethylene30%
3.プラズマ発生器は、高周波電流(f=13.56MHz)を有する発生器であった。
4.プラズマ発生器電力:20kW
5.処理時間:30秒
【0079】
(結果)
処理済「コーン・フレーク」は、厚さ30〜40nmのテフロン膜で被覆されていた。水に浸漬させた非処理「コーン・フレーク」は、5分後には図11aに示すように、それらの形状および特性を失った。
【0080】
処理済「コーン・フレーク」は、図11bに示すように、1時間水に浸漬させた後も、それらの形状および特性を失わなかった。
【実施例4】
【0081】
処理済製品は、平均直径5mmのシリアル製品であった。図5に示すタイプの「沸騰層(boiling layer)」を用いて処理を実施した。
【0082】
プラズマ形成ガス(Ar)を、前駆ガス(メタン60%およびヘキサフルオロプロピレン40%の混合物)と混合してコンベヤ・スクリーン上に送って、反応ガスを製品と適切に混合することを可能にする「沸騰層」を形成した。
処理は、45秒間続けた。
【0083】
処理済製品および非処理製品に、吸水性試験を行った。非処理製品は、浸漬5分後にはそれらの特性を失った。処理済製品は、水に1時間浸漬させた後もそれら特性を失わなかった。
【実施例5】
【0084】
処理製品は、医薬品であり、500mgの錠剤の形のシメトロール(Cimetrol)500LPCI(メトロニダゾール(Metronidazole))であった。これらの錠剤は、湿度に極めて敏感である。
図5に示すタイプの「沸騰層」を備えた装置を用いて処理を実施した。
【0085】
条件は、実施例4のものと同一であった。
処理は、20秒間続けた。
処理済錠剤に、吸水性試験を行った。非処理錠剤は、2分で水を吸収した。処理済錠剤は、浸漬10時間後もそのまま変化しなかった(intact)。
【0086】
この処理を用いると、ブリスター(blister)包装されたこの医薬品の貯蔵寿命を、2ヶ月から2年以上まで増大させることが可能となる。
【実施例6】
【0087】
処理製品は、亜硫酸塩紙であった(樹脂膠0.5%、アルミナ0.5%、冷却充填剤25%)。
図1に相当する装置のリアクタ内に試料(150×150mm)を配置した。
【0088】
使用したパラメータは、実施例1と同じものであった。
プラズマ発生ガス:アルゴン
前駆ガス:メタン(50%)およびヘキサフルオロプロピレン(50%)の混合物
【0089】
(結果)
30日間の熱老化(T=100±3°C)および60分間のUVランプ下での両面への紫外線照射の間の、この紙の機械的特性の安定性を利用してその抵抗を推定した。
【0090】
試験は、試料の堅牢性(solidity)および変形特性が実際に変化しないままであったことを示した。
【0091】
毛管現象(capillarity)による含浸は、非処理試料では、36mm/10分であったが、処理済試料では、0まで下がった。処理済試料の濡れ性接触角は、125度であった。
【実施例7】
【0092】
処理製品は、布であった(密度:540g/m2)。試料(150×150mm)を、図1に相当する装置のリアクタ内に配置した。
使用したパラメータは、実施例1のものと同じであった。
プラズマ発生ガス:アルゴン
前駆ガス:テトラフルオロメタン(75%)およびヘキサフルオロプロピレン(25%)の混合物
【0093】
(結果)
処理済試料に対する撥油測定値は120であった。
表面に堆積させた水滴は、布に含浸せずに乾燥した。
【0094】
処理後の水柱(column of water)に対する抵抗は、0から190cmまで増大した。
言い換えれば、この処理済試料は、極めて疎水性且つ疎油性であった。
【0095】
その疎水性および疎油性は、標準の石鹸水中で1時間試料を沸騰させた後も低下しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】処理表面を2次元走査することによって局所処理するための、2つのノズルを備えたプラズマ装置の簡略化した概略図である。
【図2】工業生産ラインに組み込まれる(insert)ことになる本発明のプラズマ装置の簡略化した概略図である。
【図3】工業生産ラインに組み込まれるプラズマ装置の別の変形例を示す簡略化した概略図である。
【図4】工業生産ラインに組み込まれるプラズマ装置の別の変形例を示す簡略化した概略図である。
【図5】工業生産ラインに組み込まれるプラズマ装置の別の変形例を示す簡略化した概略図である。
【図6】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。ビスケット上の着色水の水滴を示す。
【図7a】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたビスケットの、浸漬直後に撮影した写真である。
【図7b】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたビスケットの、浸漬20秒後に撮影した写真である。
【図8】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたビスケットの、浸漬30分後に撮影した写真である。
【図9a】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたクラッカーの、浸漬直後に撮影した写真である。
【図9b】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたクラッカーの、浸漬20秒後に撮影した写真である。
【図10a】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたパイ状バター・スナックの、浸漬直後に撮影した写真である
【図10b】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたパイ状バター・スナックの、浸漬40分後に撮影した写真である。
【図11a】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたコーン・フレークの、浸漬直後に撮影した写真である。
【図11b】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたコーン・フレークの、浸漬1時間後に撮影した写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理表面(surface to be treated)上に薄膜をプラズマ堆積させる方法に関する。詳細には、本発明は、有機膜またはポリマー膜の堆積に関し、特に、処理表面に不浸透性を与えることに関する。
【背景技術】
【0002】
処理対象物の表面上に薄膜を堆積させるプラズマ方法、例えば米国特許第5569502号に記載のような半導体上に薄層を堆積させる方法、国際出願PCT/IB02/01001号に記載のようなPETボトルの表面上に不浸透性の層またはバリアを堆積させる方法、欧州特許第1024222号に記載のような布(fabric)上に膜を堆積させる方法、国際公開WO96/22030号に記載のような食料品上に食用不浸透性膜を堆積させる方法などが、様々な分野において既に周知であり、使用されている。
【0003】
これらの応用分野の多くでは、その可撓性、透明性、多層形成を可能とする点、処理対象物の全般的な特徴(general characteristic)に影響を与えない点など、非常に薄い層がもたらすこれらの利点、またはその他の特性から、こうした薄層を堆積させることが求められている。
【0004】
食料品や医薬品などの摂取可能な製品では、非常に薄い層は、消費者に知覚されないという利点がある。
【0005】
繊維(textile)分野では、非常に薄い層は、極めて可撓性であり、衣類などの布で作成された対象物は大きな変形を受けるにもかかわらず、こうした層は一体性(integrity)を維持することが可能であるという利点を有する。しかし、処理表面全体にわたってその不浸透性またはその他の所望の特性を確保するには、この薄層は均質でなければならないことが重要である。
【0006】
プラズマ薄膜堆積方法は、しばしば、前駆ガス、またはプラズマによって活性化された前駆ガスの混合物に由来する粒子(イオン、原子、ラジカル、活性粒子)のプラズマ化学反応により得られる無機膜を堆積させることに関する。提案されている方法のほとんどは、プラズマ・パラメータおよび薄層の成長状態に対してより優れた制御性を得るために、部分真空中で実施される。しかし、真空方法は、工業的応用および大量生産には極めてコストがかかる。さらに、真空の存在は、処理対象物の特性に悪影響を及ぼすという欠点(例えば、処理対象物の脱水)を有する。周知のプラズマ方法を用いて薄層を形成する際に生じるさらなる問題に、処理済表面上に望ましくない粉末が形成されることがある。
【0007】
数多くの応用分野において無機膜が求められているが、それだけには限らないが、特に有機材料またはポリマー材料で薄膜を形成することを可能とすることもまた、食用品や医薬品などの摂取可能な製品分野において利点となる。無機材料のいくつかは、食品に少量で許可されており、例えば国際出願公開WO9622030号によって提案されているものの、一般に、こうした無機材料の使用は可能な限り避けたいという願望がある。様々な金属を酸化物の形で含む無機膜の残骸(debris)などの成分(element)が人体に存在すると、有害な結果をもたらす恐れがある。さらに、上記出願に記載の方法は、コストのかかる方法である真空プラズマを使用しており、大量生産にはとても適さない。また、食品、布、紙、または他の品目など、その幾何形状および表面特性が極めて大幅に変化し得るものの処理表面上に無機膜を堆積させる方法では、信頼性高く制御することは極めて困難であることが経験的に示されてきている。
【0008】
食料品分野に関しては、酸化に対する保護層(酸素バリア)、または水分損失または水分吸収に対する保護層(水および水蒸気バリア)の需要が高く、セルロース製、ポリデキストロース製、脂質製、またはタンパク質製の層などの有機膜を堆積させる様々な方法が、従来技術において提案されてきている。食用品上に有機膜を堆積させる周知の方法は、プラズマを使用しないが、十分に知覚されないほどには薄くない厚さの層、またはバリア特性がそれほど良好でない、または信頼性が高くない層が形成される。
【0009】
例えば、特許出願国際公開WO87/03453号は、食用品を保護するのにセルロース層や脂質層などの有機堆積物を使用することを提案している。こうした層は、溶液または懸濁液の形で堆積され、次いで乾燥される。この方法を用いては、良好なバリアを形成する非常に薄い膜を堆積させることが困難であることに加えて、乾燥プロセスにはコストがかかり、処理対象物に悪影響を与える恐れがある。
【0010】
米国特許第6312740号は、食料品表面上に帯電(electrostatically charged)させた食用粉末の形の層を堆積させることを提案しており、コロナ放電を用いて粉末粒子を帯電させている。理想的な粒径は120μm程度であると言われているが、かかる粒径では、消費者になおも知覚されてしまう。
【0011】
堆積層の有効性は、それらの厚さ、濃度、および処理表面への接着性によって決まることを指摘しておきたい。食用品上に膜を堆積させる際に、層の厚さが増大すると、保護された製品の味が変化することになる。
【0012】
1μmを超える寸法を有する粒子では知覚され得ることが経験的に示されている。すなわち、保護層は極薄でなければならず、可能であれば0.5μm未満でなければならない。食料品に関しては、どんな毒性物(toxic product)も含まず、製品の味に影響を及ぼさず、且つ、ほとんどの用途において、水溶性でない層を得ることもまた求められている。
【0013】
これまでに提案されてきた方法は、これらの要件を十分には満たしていない。
これらの薄層の特性はまた、他の分野における用途、例えば布または紙を防水加工する(proofing)、特に食品または医薬品用のボトルやパッケージ上に膜を堆積させる、またはその他の用途においても求められている。
【0014】
【特許文献1】米国特許第5569502号
【特許文献2】国際出願PCT/IB02/01001号
【特許文献3】欧州特許第1024222号
【特許文献4】国際公開WO96/22030号
【特許文献5】国際公開WO87/03453号
【特許文献6】米国特許第6312740号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記に鑑みて、本発明の一目的は、処理表面上に膜を堆積させる方法を提供することであり、この膜は非常に薄く、均質且つ有効であり、この方法は、工業生産、特に大量生産された対象物の処理に適している。
【0016】
この方法を実施する方法および装置は、コストがかかるべきものではないことが利点である。
【0017】
様々な形状および寸法の対象物、または複雑な表面を有する対象物の上に、薄層を確実に堆積させることを可能とする方法を実施するための方法および装置を提供することが利点である。
【0018】
特に食品および製薬分野(sector)において、どんな無機成分も全く、またはほとんど含まない薄膜を堆積させる方法を提供することが利点である。
【0019】
生産ライン上で妥当なコストで実施することができ、様々な食品もしくは医薬品、または他の摂取製品上に膜を堆積させる方法を提供することが利点である。
【0020】
いくつかの応用分野において、極く薄い、具体的には1μm未満の有機素材(matter)またはポリマー素材の層を、様々な材料の処理表面上に堆積させる方法を提供することが利点である。
【0021】
本発明の別の目的は、食品、医薬品、または他の摂取可能製品用の、有効で信頼性が高く、且つ無害な不浸透性膜を提供することである。
【0022】
本発明のさらなる目的は、極く薄く、均質且つ有効な有機被覆またはポリマー被覆、特に液体または気体に対するバリアを形成する被覆を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の目的のいくつかは、請求項1に記載の方法を用いて達成される。
【0024】
本発明では、膜堆積プロセスは、不活性プラズマ発生(prasmagenic)ガスおよび前駆ガスの混合物中でプラズマを発生させ、次いで得られたガス(プラズマ)を、処理表面上に噴射させることに基づく。この前駆ガスは、少なくとも2つの成分を含む。
【0025】
第1の成分は、飽和有機物質、または飽和有機物質の混合物を含む。
【0026】
第2の成分は、不飽和有機物質、または不飽和有機物質の混合物を含む。
【0027】
前駆ガスの組成物には、炭素元素および/または水素元素および/またはハロゲン元素が含まれる。
【0028】
不飽和有機物質は、重く(heavy)、フリーな(free)多価ラジカルの主要な源である。これらの物質は、主にポリマー鎖製のビルディング・ブロックを形成する。
【0029】
飽和有機物質は、プラズマ・ゾーン内でのプラズマ化学プロセスの後で、軽く(light)、単フリー結合を有するフリー・ラジカルの主要な源になる。これらのラジカルによって、ポリマー鎖の成長が停止することになる。
【0030】
重い多価ラジカルは、表面側でより吸収される。これはすなわち、ビルディング・ブロック量と単結合ラジカル量との比率が、処理表面とその容積(volume)内とで異なることを意味する。第1に、このためポリマー鎖が短くなり、したがって、容積内における粉末の形成が制限され、第2に、表面上への膜堆積が強化される。
【0031】
膜堆積は、先の表面活性化によって促進(stimulate)される。
【0032】
この方法の別の大きな利点は、この方法は大気圧下で実施することができ、したがって、どんなポンプや真空外囲器(vacuum enclosure)も必要とせず、したがって、特に大量生産された対象物を処理する工業環境において、この方法を実施するのに必要な装置が簡易になることである。また、本発明に従って、2つの前駆ガス、または前駆ガスの混合物を使用することによって、真空プラズマ方法を使用したときの堆積速度よりも高い膜堆積速度を実現することが可能となる。
【0033】
本発明の方法はまた、プラズマを発生させる放電を処理表面から比較的長く間隔を置いて配置し、それによって、この方法の歩留りを最適化するとともに、処理対象物の過熱問題を回避するという利点も有する。少なくとも2つの前駆ガスまたは前駆ガスの混合物に由来するラジカルは、プラズマに入り、そのラジカルがプラズマ化学反応する処理表面まで達する最大移動時間に対応する時間存在する。また、その最適距離は、イオン化粒子および紫外放射線、ならびにプラズマによって形成された活性原子を用いて処理表面を活性化させる必要に応じて決まる。
【0034】
製品表面上、例えば食品表面上に保護ポリマー膜を設けるには、CkHl、CmFn、もしくはCsHpFr、またはそれらの混合物からなるガスを前駆体として使用するのが有利である。保護膜の形成は、容積および表面のプラズマ化学プロセスによって決まる。
【0035】
表面プロセスは、処理対象物表面上で、以下のいくつかのステップで生じる。
・プラズマによる活性化前の、処理表面上における成長センター(development centre)の形成。この表面は、平滑でも粗くてもよく、さらには極めて不均質(uneven)でもよい。というのは、大気圧下では、表面上に作用する活性化媒体は、特に熱力学的平衡から、表面の凹凸(irregularity)間での活性成分の浸透を決定する非常に低い粘性(viscosity)を有し得るからである。
・重い前駆ガスまたは混合ガスに由来する活性多価フリー・ラジカルを処理表面上に堆積させることによる鎖の発生(genesis)(誘導(initiation))
成長センター +M’→M1’
・鎖成長(Chain development):
M1’+M’→M2’
M2’+M’→M3’
M3’+M’→M4’等
・軽い前駆ガスまたは混合ガスから由来する一価ラジカルによる鎖の破壊(rupture)
Mn’→Pn、但しPnは非活性ポリマーである。
【0036】
このように、処理製品表面上でのポリマー層の形成は、プラズマ・ゾーン内での「ビルディング・ブロック」の形成と、これらのブロックの表面の方への移動と、表面上でのフリー・ラジカルを含まないポリマー層の形成とを含むことが分かる。
【0037】
容積内でのポリマー粉末の形成と表面上でのポリマー層の形成とが互いに競合する(compete)ことは明らかである。この競合は、具体的には前駆体有機ガスの混合物の成分を選択することによって解消される。
【0038】
例えば、ヘキサフルオロプロピレン(C3F6)などの不飽和成分の混合物や、テトラフルオロメタン(CF4)などの飽和成分を使用すると有利である。
【0039】
CF4は、プラズマに入ると、具体的には、軽ラジカルCF3’を形成する。こうしたラジカルが、ポリマー鎖の形成を停止させる。
【0040】
C3F6は、重ビラジカル(CF3−CF−CF2)”を形成し、これがポリマー・ビルディング・ブロックとなる。
【0041】
原則として、これらの反応は、容積内および処理表面上で生じる。ポリマーの容積内での形成と表面での形成との競合は、重ラジカルの濃度と軽ラジカルの濃度の比率によって決まる。表面では、重ビラジカルの濃度は、軽ラジカルの濃度に勝り、したがって、処理表面上でのポリマー膜形成が促進される。
【0042】
容積内では、CF3’軽ラジカルの濃度が重ラジカルの濃度に勝る。このため、その容積内でのポリマー粉末の形成は減速する。
【0043】
本発明に基づいて実施した実験は、これらの成分の比率を経験的に変動させることによって、容積内での粉末形成を事実上阻止することが可能であることを示している。
【0044】
上記の例などのフッ素系有機前駆体を使用することにより、処理表面上にポリテトラフルオロエチレン(−CF2−CF2−)n製の膜を形成することが可能となる。
【0045】
このポリテトラフルオロエチレン膜(一般に「テフロン(登録商標)」としても知られる)は、非常に優れた水分バリア特性および酸素バリア特性を有する膜であるとともに、無害な材料であり、したがって、食用品分野での使用に良く適しており、食品上に膜を堆積させる場合にも、または食品または飲料のパッケージ用包装上に堆積させる場合にも適している。
【0046】
また、処理表面上にポリマー層を形成するのに他のハロゲン系有機前駆体を使用することもできる。しかし、摂取可能製品中に塩素が存在するのは一般に望ましくないので、塩素を含んだポリマー層は、食品以外の分野において使用すべきである。
【0047】
本発明では、炭化水素を前駆ガスとして使用して、処理表面上にポリマー膜、具体的には分岐ポリエチレン(−CH2−CH2−)nを形成することも可能である。
【0048】
前駆体製品が炭素、フッ素(または別のハロゲン)、および水素を含んだ混合物である場合、共重合反応が得られる。
【0049】
本発明の方法の重要な利点の1つは、容積成長を阻止しながら、処理対象物の表面上でのポリマー層形成を適切に制御し、それによって極めて均質な厚さの層が得られることである。堆積層が高い均質性を有するということは、極く薄い層を意味し、単分子、すなわち0.5ナノメートル程度でさえも、処理表面上に良く分布することになる。処理表面上における層成長は、容積内ではなく、表面上で生じ、より厚い層も、広範囲にわたって均質に堆積させることができ、こうした層の厚さは、例えば処理時間を変動させることによって制御することが可能である。本発明では、プラズマ処理の間に、様々な前駆ガスを順次注入することによって、多層膜、すなわち、様々な組成物からなる層で形成された膜を形成することも可能である。表面上におけるポリマー層の成長を可能とするこの機構は、フリー・ラジカルが不要となるという利点も有し、したがって、食用品にこの方法を使用することが可能となる。結論として、本発明の方法によって形成されるポリマー膜は、化学的に安定で、生物学的適合性があり、気体および水に対して不浸透性であり、高弾性および機械的剛性(mechanical solidity)を有するとともに、優れた誘電特質(dielectric quality)を有する。それらの厚さは、用途の制約に応じて0.5nm(単分子層)から0.5μmの間で変動させることができ、これよりも厚くなると、堆積させた膜が崩壊(disintegrate)し、処理表面から分離する恐れがある。
【0050】
発生プラズマは、用途に応じて連続させるかまたはパルス化させる。このプラズマは、直流源、交流源もしくは高周波電流源、またはマイクロ波によって供給される。発生プラズマは、パルス化動作下で特に有効である。
【0051】
この方法は、有利にはプラズマを大気圧下で使用して実施することができ、したがって、処理装置を工業生産ラインに比較的容易に組み込むこと、および工業生産規模(industrial production rate)で膜堆積を実施することが可能となる。
【0052】
本発明の方法を用いると、好ましくは熱力学的に平衡でないプラズマを発生させ、このプラズマは、大気圧における処理表面上への効率的な層形成に適しており、非常に微細な層の形成にも適している。有利には、衝撃波が発生するように放電パルスを制御することが可能であり、この衝撃波によって、プラズマ化学反応を向上させるとともに、処理表面上の流体力学的境界層を破壊する超音波振動が発生する。これらの要素は全て、膜堆積プロセスを加速させるとともにその有効性を増大させる一助となる。
【0053】
膜を形成する元素を搬送する複数の前駆ガスは、膜堆積ゾーンに、特に1つの混合物の形で同時に導入されるか、または様々なガスの混合物の一部分の形で連続して導入される。
【0054】
前者の場合、様々な前駆ガスの最適な組成量は、経験的に得ることができる。
【0055】
後者の場合、粉末を全く、またはほとんど含まない最適組成物の膜を堆積させる機会(opportunity)を維持しながら、膜の不浸透性を確保するだけでなく、膜の可撓性、剛性、および他の特性(機械的、光学的、化学的)をも確保する多層膜を形成することが可能である。この場合、得られる膜の組成物は、その厚さにわたって異なっている。具体的には、この膜は多重層であると考えることができる。
【0056】
膜堆積プロセスのパラメータ、特にプラズマ発生パラメータおよび処理表面の活性化は、処理時に処理表面上に存在する微生物を殺菌するように適合させることができる。本発明のこの特性は、食品を処理するときに特に有用である。かかる処理の間、これらの製品は、気体(特に酸素)、蒸気(特に水蒸気)、および液相状態の水の移入(migration)を阻止するだけでなく、周囲雰囲気または外部接触によってもたらされるカビやイーストなどの微生物の移入をも阻止する保護膜で覆われることになる。
本方法を実施するための装置および処理例を、図面を参照しながら以下で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
図1〜5を参照すると、本発明の方法を実施するためのプラズマ表面処理装置は、処理表面8に付着させるプラズマ4を発生する1つまたは複数のプラズマ発生器15を含み、この処理表面8は、コンベヤ10などの運動学的(kinematical)システム9(図2、3および5)を用いて、または、重力下で、リアクタ14(図4)中を、例えば処理対象物がリアクタ中を通って流れるのを確実に制御するように振動を加えて移動させることによって、プラズマ発生器に対して移動させる。
【0058】
特に図1および2を参照すると、プラズマ発生器15は、電流源1、例えば公称電圧1000Vを有する50Hzの交流電源を含み、この電源は、管の形の電極2a、2bに接続され、これらの電極の一方の端部からはプラズマ形成ガスQ3が供給され、もう一方の端部には、発生したプラズマ4を送るとともにその形状に影響を及ぼすノズル3a、3bがある。このプラズマ発生器15はまた、前駆ガスQ1、Q2を供給する供給システム6も含み、このシステムは、入口ダクト6a、6b、ミキサ6c、および出口ダクト6dを含む。この前駆ガス供給システムは、プラズマ発生器とは別の装置でもよいが、この装置を発生器または発生器ブロックに組み込み、それによって、プラズマに入る前駆ガスの通過および処理表面8a上に得られる成分をより良く制御するのが有利である。
【0059】
前駆ガス用の出口ダクト6d、およびプラズマ形成ガス用のノズル3a、3bを用いて、処理対象物を搬送しているキャリヤ9上にプラズマ4の流れを送るとともにその幾何形状を制御する。
【0060】
キャリヤ9および/または発生器12は、1つまたは複数の方向への相対移動を行う運動学的システムに取り付けることができ、それによって、プラズマ4の流れが処理対象物を走査することになる。この運動学的システムは、図2ならびに図3および5に示されるような、処理対象物8が、コンベヤ表面に向けて噴射されたプラズマ4中を通過する工業生産ラインのコンベヤでよい。
【0061】
図2に示された装置では、基本的に、処理対象物がその上に配置されるコンベヤの幅を有する、プラズマ4製の線形カーテン(linear curtain)を形成するように、発生器12のブロック内にいくつかのプラズマ発生器を並べて取り付けてもよい。発生器ブロックは、プラズマ形成ガスおよび前駆ガスを送るダクトと、電流源と、プラズマ発生器の電気エネルギー供給パラメータを制御するように電流源に結合されたマイクロプロセッサ制御装置13とを有する。
【0062】
図3を参照すると、プラズマ発生器をプラズモトロン(plasmotron)の形で、コンベヤ・ベルト23の両側にコンベヤに沿って配置することも可能であり、プラズマは、壁21によって区切られるとともに、残留ガス用の排気ダクト22を含むリアクタ内に収容されている。この場合、コンベヤ・ベルト23は、ベルト23の両側で発生させたプラズマによって、処理対象物周辺全体にわたって処理することを可能とする格子または金属メッシュの形でよい。図5に示されるような比較的小さい、または軽い対象物の表面処理では、プラズマ発生器15は、処理対象物の下に配置し、プラズマ噴流の流体力を用いて処理対象物を持ち上げ撹拌し、それによって対象物の表面全体にわたって確実にプラズマ表面処理を施すこともできる。
【0063】
また、コンベヤ上で搬送される対象物の撹拌および回転は、コンベヤ・ベルトを振動させることによって行うこともでき、その場合には、ベルトの上側にプラズマ発生器を設けるだけでよい。
【0064】
処理対象物を移動させるのに運動学的システムを使用する代わりに、重力または流体力(例えば送風)下で、対象物をリアクタ14内に収容されたプラズマ流中で移動させることも可能である。リアクタ14には、プラズマ発生器15によって噴射されたプラズマ流中に、処理対象物8を順次送るように、ガイド要素を例えば壁24の形で設けることができる。リアクタ14による収容は、好ましくは、処理対象物の流れが、ガイド要素によって形成されたオリフィス25を確実に通り抜けるように振動させ、このガイド要素もまた、収容部14中を流れる処理対象物の流れを制御する。処理製品の排出は、運動学的システムに取り付けられた包装システム17に向けて送ることができる。
【0065】
プラズマ発生器は、好ましくは、プラズマを外部環境から流体力学的に隔離する筐体からなるリアクタ内に収容して配置され、したがって、処理対象物へのプラズマ流がより良く制御されることになる。
【0066】
プラズマ発生器は、直流発生器、交流発生器、高周波発生器、またはマイクロ波発生器でもよい。好ましくは、この発生器は、その放電に電気パルスを与えるように設計される。この場合、発生器は、好ましくはマイクロプロセッサ13内にチョッパ装置を含み、これを用いて、方法の制約ごとに、振幅および所用時間(duration)の異なるパルスを形成する。
【0067】
本発明の方法を使用した、対象物、特に食用品の表面処理の実施例について以下に説明する。
【実施例1】
【0068】
処理食品は、「プチ・ブール」の名前で一般に知られる甘いビスケットである。この製品を、図1に相当する装置のリアクタ内に配置した。大気圧下で処理を実施した。
パラメータは以下の通りであった。
1.プラズマ発生ガス:アルゴン
2.前駆ガス:テトラフルオロメタン(50%)およびヘキサフルオロプロピレン(50%)
3.放電供給は高圧交流源を用いて行う。プラズモトロンは、ノズルの形の2つの電極からなるプラズマ発生器であり、ガスはそのノズル形電極を通ってプラズマ・ゾーンに到達する。
4.放電開始電圧:10kV
5.放電中電圧:1÷25kV
6.電流:100mA
7.プラズマ発生ガスおよび前駆ガスを電極ノズルから放電ゾーンに噴射させる。
8.総ガス流量は、≦5リットル(l)/分である。
9.電極と処理表面との間隔は、約4cmである。
10.プラズマに対する処理表面の直線速度(linear speed)は、約1m/分である。
11.走査速度は、10cm/分である。
12.処理時間は、30秒である。
【0069】
(結果)
赤外分光法によって確認(verify)された堆積膜の組成物は、テトラフルオロエチレン(テノン)であり、この層の平均厚さは30nmである。
【0070】
常磁性電子分光法を用いたところ、処理表面上には残留フリー・ラジカルの痕跡(trace)がないことが分かった。
【0071】
処理済ビスケットを、水に対する不浸透性について試験した。非処理ビスケットの表面上に堆積させた水滴は、直ちに吸収される。処理済ビスケットの表面上に堆積させた水滴は、吸収されない。それらの水滴は、図6に示すように、吸収されずに表面上を転がる。
【0072】
処理済ビスケットおよび非処理ビスケットを水に浸漬させた。非処理ビスケットは、図7に示すように、直ちに水を吸収した。処理済ビスケットは、図8に示すように、30分後にゆっくりと水を吸収し始めただけであった。
【0073】
5秒間水に浸漬させたビスケットの重量の増大は、以下の通りであった
・非処理:88%
・処理済:0.7%
【実施例2】
【0074】
処理製品は、図10に示すような「パイ状バター・スナック」であった。
図1に示すような装置を使用してそれらの製品を処理した。
使用したパラメータは、実施例1のものと同じであった。
前駆ガス:メタン60%、アセチレン40%
【0075】
(結果)
得られた膜の厚さは、100nmであった。得られた膜は、ポリエチレンからなっていた。水不浸透性試験では、非処理製品は1分で水を吸収した。処理済製品は、図10に示すように、浸漬から40分後に水を吸収したにすぎなかった。
【0076】
30秒間水に浸漬させた非処理製品および処理済製品の重量の増大は、以下の通りであった
・非処理:91%
・処理済:0.8%
【実施例3】
【0077】
処理製品は、図11に示すような「コーン・フレーク」であった。プラズマ処理に使用した装置は、図4に相当するタイプの装置であった。
【0078】
処理パラメータは、以下の通りであった。
1.プラズマ形成ガス:アルゴン
2.前駆ガス:テトラフルオロメタン70%+tetrafluoroethylene30%
3.プラズマ発生器は、高周波電流(f=13.56MHz)を有する発生器であった。
4.プラズマ発生器電力:20kW
5.処理時間:30秒
【0079】
(結果)
処理済「コーン・フレーク」は、厚さ30〜40nmのテフロン膜で被覆されていた。水に浸漬させた非処理「コーン・フレーク」は、5分後には図11aに示すように、それらの形状および特性を失った。
【0080】
処理済「コーン・フレーク」は、図11bに示すように、1時間水に浸漬させた後も、それらの形状および特性を失わなかった。
【実施例4】
【0081】
処理済製品は、平均直径5mmのシリアル製品であった。図5に示すタイプの「沸騰層(boiling layer)」を用いて処理を実施した。
【0082】
プラズマ形成ガス(Ar)を、前駆ガス(メタン60%およびヘキサフルオロプロピレン40%の混合物)と混合してコンベヤ・スクリーン上に送って、反応ガスを製品と適切に混合することを可能にする「沸騰層」を形成した。
処理は、45秒間続けた。
【0083】
処理済製品および非処理製品に、吸水性試験を行った。非処理製品は、浸漬5分後にはそれらの特性を失った。処理済製品は、水に1時間浸漬させた後もそれら特性を失わなかった。
【実施例5】
【0084】
処理製品は、医薬品であり、500mgの錠剤の形のシメトロール(Cimetrol)500LPCI(メトロニダゾール(Metronidazole))であった。これらの錠剤は、湿度に極めて敏感である。
図5に示すタイプの「沸騰層」を備えた装置を用いて処理を実施した。
【0085】
条件は、実施例4のものと同一であった。
処理は、20秒間続けた。
処理済錠剤に、吸水性試験を行った。非処理錠剤は、2分で水を吸収した。処理済錠剤は、浸漬10時間後もそのまま変化しなかった(intact)。
【0086】
この処理を用いると、ブリスター(blister)包装されたこの医薬品の貯蔵寿命を、2ヶ月から2年以上まで増大させることが可能となる。
【実施例6】
【0087】
処理製品は、亜硫酸塩紙であった(樹脂膠0.5%、アルミナ0.5%、冷却充填剤25%)。
図1に相当する装置のリアクタ内に試料(150×150mm)を配置した。
【0088】
使用したパラメータは、実施例1と同じものであった。
プラズマ発生ガス:アルゴン
前駆ガス:メタン(50%)およびヘキサフルオロプロピレン(50%)の混合物
【0089】
(結果)
30日間の熱老化(T=100±3°C)および60分間のUVランプ下での両面への紫外線照射の間の、この紙の機械的特性の安定性を利用してその抵抗を推定した。
【0090】
試験は、試料の堅牢性(solidity)および変形特性が実際に変化しないままであったことを示した。
【0091】
毛管現象(capillarity)による含浸は、非処理試料では、36mm/10分であったが、処理済試料では、0まで下がった。処理済試料の濡れ性接触角は、125度であった。
【実施例7】
【0092】
処理製品は、布であった(密度:540g/m2)。試料(150×150mm)を、図1に相当する装置のリアクタ内に配置した。
使用したパラメータは、実施例1のものと同じであった。
プラズマ発生ガス:アルゴン
前駆ガス:テトラフルオロメタン(75%)およびヘキサフルオロプロピレン(25%)の混合物
【0093】
(結果)
処理済試料に対する撥油測定値は120であった。
表面に堆積させた水滴は、布に含浸せずに乾燥した。
【0094】
処理後の水柱(column of water)に対する抵抗は、0から190cmまで増大した。
言い換えれば、この処理済試料は、極めて疎水性且つ疎油性であった。
【0095】
その疎水性および疎油性は、標準の石鹸水中で1時間試料を沸騰させた後も低下しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】処理表面を2次元走査することによって局所処理するための、2つのノズルを備えたプラズマ装置の簡略化した概略図である。
【図2】工業生産ラインに組み込まれる(insert)ことになる本発明のプラズマ装置の簡略化した概略図である。
【図3】工業生産ラインに組み込まれるプラズマ装置の別の変形例を示す簡略化した概略図である。
【図4】工業生産ラインに組み込まれるプラズマ装置の別の変形例を示す簡略化した概略図である。
【図5】工業生産ラインに組み込まれるプラズマ装置の別の変形例を示す簡略化した概略図である。
【図6】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。ビスケット上の着色水の水滴を示す。
【図7a】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたビスケットの、浸漬直後に撮影した写真である。
【図7b】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたビスケットの、浸漬20秒後に撮影した写真である。
【図8】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたビスケットの、浸漬30分後に撮影した写真である。
【図9a】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたクラッカーの、浸漬直後に撮影した写真である。
【図9b】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたクラッカーの、浸漬20秒後に撮影した写真である。
【図10a】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたパイ状バター・スナックの、浸漬直後に撮影した写真である
【図10b】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたパイ状バター・スナックの、浸漬40分後に撮影した写真である。
【図11a】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたコーン・フレークの、浸漬直後に撮影した写真である。
【図11b】本発明のプラズマ方法によって処理された製品の水不浸透性を、非処理の製品と比較して示す、非処理食品および処理済食品の写真である。水に入れたコーン・フレークの、浸漬1時間後に撮影した写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の不活性プラズマ発生ガスおよび前駆ガス中でのプラズマ発生と、処理表面上への前記プラズマの放射(projection)とを含む、処理対象物表面上へのプラズマによる薄膜堆積方法であって、前記1つまたは複数の前駆ガスが少なくとも2つの成分を含み、第1の前記成分が飽和有機物質を含み、第2の前記成分が不飽和有機物質を含み、前記第1の成分が、プラズマ・ゾーン内でのプラズマ化学プロセスの後で単フリー結合(single free bond)を有する軽ラジカル源であり、前記第2の成分が2つ以上のフリー結合を有する重ラジカル源となることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記前駆ガスが、炭素、水素、およびハロゲンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロゲンがフッ素であること、および、テフロン製の層を堆積させることを特徴とする、請求項1乃至2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆ガスが、炭素および水素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ポリエチレン製の層を堆積させることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記プラズマを大気圧で発生させることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記プラズマを電流パルスによって発生させ、熱力学的に平衡でない放電を発生させるように、成長前線(growth front)およびパルス持続時間を制御することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
組成物がその厚さにわたって異なる多層膜を堆積させるように、前記プラズマに、様々な前駆ガスを順次供給することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記前駆ガスの流量を制御して、膜堆積速度、ならびに前記膜の気体バリア強度および液体バリア強度を最適化することを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
電源から供給される放電を発生する電極を含むプラズマ発生器と、少なくとも2つの前駆ガスを供給するシステムとを含み、前記発生器がリアクタ(14)内に収容して配置され、また、前記処理対象物を、前記発生器によって発生させたプラズマ流中を通して搬送する運動学的システムも含み、大気圧で動作することを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法を実施するための装置であって、前記処理対象物を搬送する前記運動学的システムが、前記処理対象物周辺全体にわたる表面処理を可能とする格子またはメッシュの形のコンベヤ・ベルト(23)を含むことを特徴とする装置。
【請求項11】
電源から供給される放電を発生する電極を含むプラズマ発生器と、少なくとも2つの前駆ガスを供給するシステムとを含み、前記発生器がリアクタ(14)内に収容して配置され、また、前記処理対象物を、前記発生器によって発生させたプラズマ流中を通して搬送する運動学的システムも含み、大気圧で動作することを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法を実施するための装置であって、前記処理対象物の流れを、前記リアクタに沿って配置された前記プラズマ発生器の前記プラズマ流中を通して案内するガイド要素(24)を含み、前記処理対象物の前記搬送が、重力または流体力学流の下で行われることを特徴とする装置。
【請求項12】
前記処理が、容器内に蓄積させた小型寸法の対象物表面に施され、前記プラズマ由来ガスが前記容器中を底部から頂部へと流れ、それによって前記対象物それぞれの前記表面全体を確実に処理する沸騰層を形成することを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項1】
1つまたは複数の不活性プラズマ発生ガスおよび前駆ガス中でのプラズマ発生と、処理表面上への前記プラズマの放射(projection)とを含む、処理対象物表面上へのプラズマによる薄膜堆積方法であって、前記1つまたは複数の前駆ガスが少なくとも2つの成分を含み、第1の前記成分が飽和有機物質を含み、第2の前記成分が不飽和有機物質を含み、前記第1の成分が、プラズマ・ゾーン内でのプラズマ化学プロセスの後で単フリー結合(single free bond)を有する軽ラジカル源であり、前記第2の成分が2つ以上のフリー結合を有する重ラジカル源となることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記前駆ガスが、炭素、水素、およびハロゲンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロゲンがフッ素であること、および、テフロン製の層を堆積させることを特徴とする、請求項1乃至2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆ガスが、炭素および水素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ポリエチレン製の層を堆積させることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記プラズマを大気圧で発生させることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記プラズマを電流パルスによって発生させ、熱力学的に平衡でない放電を発生させるように、成長前線(growth front)およびパルス持続時間を制御することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
組成物がその厚さにわたって異なる多層膜を堆積させるように、前記プラズマに、様々な前駆ガスを順次供給することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記前駆ガスの流量を制御して、膜堆積速度、ならびに前記膜の気体バリア強度および液体バリア強度を最適化することを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
電源から供給される放電を発生する電極を含むプラズマ発生器と、少なくとも2つの前駆ガスを供給するシステムとを含み、前記発生器がリアクタ(14)内に収容して配置され、また、前記処理対象物を、前記発生器によって発生させたプラズマ流中を通して搬送する運動学的システムも含み、大気圧で動作することを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法を実施するための装置であって、前記処理対象物を搬送する前記運動学的システムが、前記処理対象物周辺全体にわたる表面処理を可能とする格子またはメッシュの形のコンベヤ・ベルト(23)を含むことを特徴とする装置。
【請求項11】
電源から供給される放電を発生する電極を含むプラズマ発生器と、少なくとも2つの前駆ガスを供給するシステムとを含み、前記発生器がリアクタ(14)内に収容して配置され、また、前記処理対象物を、前記発生器によって発生させたプラズマ流中を通して搬送する運動学的システムも含み、大気圧で動作することを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法を実施するための装置であって、前記処理対象物の流れを、前記リアクタに沿って配置された前記プラズマ発生器の前記プラズマ流中を通して案内するガイド要素(24)を含み、前記処理対象物の前記搬送が、重力または流体力学流の下で行われることを特徴とする装置。
【請求項12】
前記処理が、容器内に蓄積させた小型寸法の対象物表面に施され、前記プラズマ由来ガスが前記容器中を底部から頂部へと流れ、それによって前記対象物それぞれの前記表面全体を確実に処理する沸騰層を形成することを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【公表番号】特表2007−512436(P2007−512436A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540657(P2006−540657)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003795
【国際公開番号】WO2005/049886
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(503169666)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003795
【国際公開番号】WO2005/049886
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(503169666)
【Fターム(参考)】
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