説明

プラズマ装置

【課題】誘電体隔壁の耐圧力強度、靭性強度を増して破断を防止すると共に、強度向上による誘電体隔壁の板厚低減を可能とし、大形の誘電体隔壁を備え、プラズマの均一な発生を可能とする大形プラズマ装置を提供すること。
【解決手段】アンテナ4から誘電体隔壁6を通して処理容器7内に放射された電磁波によってプラズマを生成し、被処理基板11の処理を行うプラズマ装置1において、前記誘電体隔壁6を、母材、及び強化相からなる複合材とすることによって耐圧力強度、靱性強度が優れた前記誘電体隔壁6とすることができ、これによって大型基板に均一なプラズマ処理を施すことが可能なプラズマ装置1を提供することができる。さらに前記誘電体隔壁6を、樹脂材料及び無機材料からなる積層構成材にすることにより、脆性破壊が防止された耐圧力強度、靱性強度に優れた前記誘電体隔壁6を得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体集積回路装置のような半導体装置、液晶表示装置のような表示装置の製造プロセスそして薄膜トランジスタの製造プロセスにおいて、大形の基板に成膜、エッチング、表面処理などのプラズマ処理を行うのに好適なプラズマ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路装置を構成する半導体装置、および液晶表示装置のような表示回路装置を構成する薄膜トランジスタの製造プロセスにおいて、プラズマを用いた工程は、必要不可欠な工程である。その一方でプラズマを用いた処理により、被処理物表面に損傷が発生する場合があり、低損傷なプラズマ工程が求められている。その低損傷なプラズマ工程を実現する一方法として、電磁波を用いて励起した高密度なプラズマを用いれば被処理物への損傷が低減できることが知られている。電磁波を用いてガスを励起して発生したプラズマは、液晶表示装置のような例えばメータ角の大きな被処理基板を均一にプラズマ処理するのにも有効な方法とされている。
【0003】
このプラズマ処理方法を実現するためのプラズマ処理装置としては、プロセスチャンバ、プロセスチャンバの一壁面を構成し電磁波を透過する誘電体隔壁、プラズマ励起ガス用シャワープレート、プロセスガス用シャワープレート、ラジアルラインスロットアンテナ、及び、2.45GHzのマイクロ波を発生するマグネトロンを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来のプラズマ装置において、誘電体隔壁は、ラジアルラインスロットアンテナの下方に設けられている。プラズマ励起ガス用シャワープレートは、誘電体隔壁の下方に設けられている。プロセスガス用シャワープレートは、プラズマ励起ガス用シャワープレートの下方に設けられている。
【0005】
このプラズマ装置を用いた処理方法は、以下のようにして行う。プラズマ励起ガス用シャワープレートに形成された複数の開口部を介して、プラズマ励起ガスとしての希ガスをプロセスチャンバ内に導入する。ラジアルラインスロットアンテナから放射されたマイクロ波を、誘電体隔壁を透過させてプロセスチャンバ内に入射させる。この結果、入射したマイクロ波により、希ガスが励振されて、チャンバ内にプラズマが発生する。プロセスガス用シャワープレートに形成された複数の開口部を介して、プロセスチャンバ内にプロセスガスを導入する。発生したプラズマは、プロセスガス用シャワープレートの開口部分を通過して、プロセスガスがプラズマと反応し、被処理基板に処理が施される。
【0006】
【特許文献1】特開2002-299241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のプラズマ装置の誘電体隔壁は、電磁波を透過する材料である誘電体で形成されている。誘電体隔壁は、処理容器の一部分を構成しており、その部分で真空保持(封止)しているため、単位面積あたり約1kg/cmの大気圧がかかる。従って、誘電体隔壁は、耐圧力構造材料としても安定な材料特性を必要とする。一辺が1m角の正方形の誘電体隔壁を想定すると、その誘電体隔壁には10トンの力がかかることになる。誘電体隔壁の材料である例えばセラミックスやガラスは脆性破壊を起こすので強度に充分な余裕が必要である。即ち、誘電体隔壁には、10トンの圧力に耐え得る材料およびその厚さが要求される。
【0008】
更に、近年、液晶表示装置などの製造プロセスでは、被処理基板の大面積化に伴って処理装置の大型化が進んでいる。電磁波でプラズマを励起するプラズマ装置を大型化する場合には誘電体隔壁の大型化を伴う。その理由は、装置のサイズに適合した大きさの誘電体隔壁を用いる方がプラズマの均一性を高める点で有利であるからである。しかし、反面、誘電体隔壁の大型化は大気圧による応力の増大を伴う。材料を同じものとした場合、誘電体隔壁の大型化は板厚の増大を必要とする。たとえば、機械強度の安全率を約10として1m角の正方形の誘電体隔壁で必要とされる板厚を計算すると、酸化珪素(SiO)で作製するには約200mm、酸化アルミニウム(Al:アルミナ)では約50mmの厚さが必要となる。板厚の増加による重量の増加は、プラズマ装置の構成部材として用いる上で課題を生じる。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、強度向上による誘電体隔壁の板厚低減を可能とすると共に、誘電体隔壁の靭性を増して破断に対する安全性の向上をはかり、大形の誘電体隔壁を備え、均一なプラズマ処理を可能とする大形プラズマ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かくして、本発明の一態様に係わるプラズマ装置は、内部に被処理基板が配設される処理容器と、電磁波を出力する電磁波源と、前記電磁波が伝播する電磁波伝播路と、前記電磁波伝播路に設けられ、前記電磁波を放射するアンテナと、前記アンテナに対応し、前記処理容器の少なくとも一面に封止面として設けられた誘電体隔壁とを具備し、前記アンテナから前記誘電体隔壁を通して前記処理容器内に放射された電磁波によってプラズマを生成し、前記被処理基板の処理を行うプラズマ装置であって、前記誘電体隔壁は、母材と前記母材に分散して添加された強化相とからなる複合材料であることを特徴とする。
【0011】
上記のような方法によれば、従来の欠点が解決され、例えば、誘電体隔壁の強度向上による板厚低減、靭性の向上による破断に対する安全性の増大をはかり、大形の誘電体隔壁を備え、均一なプラズマ処理を可能とする大形プラズマ装置を提供することができる。
【0012】
前記強化相は、好ましくは前記母材と同じ材料であり、かつウィスカの形態を有する。
このようにすることにより、前記強化相の効果を失うことなく、前記強化相による電磁波の散乱を防止し、電磁波の伝播損失を低減できる。
【0013】
前記母材は、好ましくは酸化アルミニウム、もしくは窒化アルミニウムである。前記セラミックス基複合材料の母材の誘電正接が小さい方が誘電損失を低減するためには望ましい。
前記強化相は、好ましくは、ウィスカの形態、及び長繊維の形態のうちの少なくとも1つの形態を有する。脆性破壊の進行を防止するためにはウィスカ形態及び長繊維の形態のうちの少なくとも1つの形態を有することが望ましいのである。
【0014】
前記母材は、好ましくは酸化珪素である。前記母材として、酸化珪素は、熱膨張係数が少なく望ましい。
本発明の他の態様に係わるプラズマ装置は、内部に被処理基板が配設される処理容器と、電磁波を出力する電磁波源と、前記電磁波が伝播する電磁波伝播路と、前記電磁波伝播路に設けられ、前記電磁波を放射するアンテナと、前記アンテナに対応し、前記処理容器の少なくとも一面に封止面として設けられた誘電体隔壁を具備し、前記アンテナから前記誘電体隔壁を通して前記処理容器内に放射された電磁波によってプラズマを生成し、前記被処理基板の処理を行うプラズマ装置であって、前記誘電体隔壁は、樹脂層と無機材料層とを接合した構造を少なくとも1つ有することを特徴とする。
【0015】
前記無機材料層は、好ましくはセラミックスコーティングによって形成される。前記誘電体隔壁の前記被処理基板に対向する内壁面は、好ましくは前記無機材料層である。
上記のような方法によれば、例えば、前記誘電体隔壁の軽量化、および破断防止の効果が得られ、大形の誘電体隔壁を備え、均一なプラズマ処理を可能とする大形プラズマ装置を提供することが出来る。
【0016】
前記誘電体隔壁と近接して配置され、前記誘電体隔壁の前記被処理基板に対向する内壁面をプラズマから遮蔽する、無機材料によって形成されたシャワープレートを、好ましくは更に具備する。
前記シャワープレートと前記誘電体隔壁とでシャワーヘッドを構成する。この様な構成とすることにより前記シャワーヘッドに適切な流量のガスを流した場合に、前記誘電体隔壁と前記遮蔽板との間でプラズマ放電が起こることを防止し、前記誘電体隔壁とプラズマとを効果的に分離し、プラズマによる前記誘電体隔壁の損傷を防止することができる。
【0017】
前記樹脂層は、好ましくはウィスカの形態及び長繊維の形態のうちの少なくとも1つの形態を有するフィラーを混合して形成される。これにより前記誘電体隔壁の機械的強度を向上させることができる。前記フィラーは、好ましくは前記母材よりも高い熱伝導率を有する。これにより、前記誘電体隔壁の熱伝導率を高め、電磁波の伝播時に発生する誘電損失による熱を効果的に前記誘電体隔壁外へ放出することができ、前記誘電体隔壁の過熱を防止することができる。前記誘電体隔壁を構成する前記樹脂としては、比較的、誘電正接が小さく、機械的強度の高いスチレン系の樹脂が好ましい。
【0018】
前記誘電体隔壁の前記被処理基板に対向する面の大きさは、好ましくは、この面に対向する前記被処理基板の面の大きさよりも大きい。これにより、前記被処理基板に対向する面全体でより均一なプラズマ放電を実現することが容易になり、プラズマ処理の均一性が改善される。
【発明の効果】
【0019】
本願発明によれば、大型基板に均一なプラズマ処理を施すことが可能なプラズマ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
第1の実施形態
以下、本発明装置の第1の実施の形態を図1ないし図3を参照して説明する。図1は、本実施形態のプラズマ処理を行うためのプラズマ装置1の斜視図である。このプラズマ装置1は、例えば成膜を行うプラズマ成膜装置である。プラズマ装置1は、電磁波源2を有している。この電磁波源2としては、例えば2.45GHzのマイクロ波発振器を第1の実施形態では使用する。このマイクロ波発振器には、複数の導波管に均一にマイクロ波を分配するための例えば直線状分配導波管3が接続されている。
【0021】
この分配導波管3には、直交して例えば複数の導波管スロットアンテナ4が並列接続されている。この結果、電磁波源2例えば高周波電源には、分配導波管3を介して各導波管スロットアンテナ4が接続されている。これら導波管スロットアンテナ4は、前記電磁波を処理容器7内に導入するように、処理容器7の一壁面、例えば上蓋7aの一部を構成する誘電体隔壁6に近接し、誘電体隔壁6の外面と夫々対向するように互いに並べて配設されている。
【0022】
導波管スロットアンテナ4は、例えば矩形型の空洞部を有した金属板で構成されており(矩形型導波管)、誘電体を介した同軸状のケーブルで伝路線が形成されたアンテナと比べて誘電損失が少なく、大電力に対する耐性が高いという特長がある。また、これら導波管スロットアンテナ4は、並設された構造での放射特性の設計が比較的正確に行えるため、大型基板用のプラズマ装置に好適である。
【0023】
特に、本実施形態のプラズマ装置1は、例えば1m程度の大型で、液晶表示装置等に用いる角型で面積の大きい基板にプラズマ処理を行う場合に好適である。
しかし本実施形態において、電磁波を伝播させる電磁波伝播路として、分配導波管3と導波管スロットアンテナ4とを採用したが、必ずしも導波管で形成されるものに限られず、例えば同軸状のケーブルでも良い。また図1には導波管としては、矩形型導波管を記載したが、矩形型に限るものではなく、例えば円形導波管を使用することも出来る。
【0024】
各導波管スロットアンテナ4の誘電体隔壁6との対向面には、電磁波を放射するための複数の開口部であるスロット5が設けられている。複数の導波管スロットアンテナ4は、スロット5近傍で起きる電磁界結合を利用して電磁波を放射することで、導波管スロットアンテナ4に分配された電磁波を放射するアンテナとして機能する。電磁波源2で発振された電磁波は、分配導波管3によって、複数の導波管スロットアンテナ4に分配される。並列された複数の導波管スロットアンテナ4に電磁波を導入し、各導波管スロットアンテナ4は、均一なプラズマの生成を可能とするために、導入された電磁波の処理容器7内への放射が均一になるように設計されたスロットアンテナを有する。処理容器7の前記上蓋7aの中央部には、電磁波を通過させ、処理容器7の容器壁例えば上蓋7aとして真空封止する誘電体隔壁6が設けられている。誘電体隔壁6は、例えば大型の誘電体隔壁6を1枚で構成した例である。
【0025】
このように構成されたプラズマ装置1において電磁波電源2で発生した電磁波は、分配導波管3を介して、各導波管スロットアンテナ4に導かれ、各導波管スロットアンテナ4に設けられた複数のスロット5から放射され、誘電体隔壁6の内部を広がりながら伝播し、そして処理容器7内に放射される。
【0026】
一方、誘電体隔壁6の強度の問題から、誘電体隔壁6の厚さを薄くするため複数の小さな誘電体隔壁6とし、金属製の梁で構成された枠にはめ込むという方法もある(図示せず)。この方法では、金属製の梁の部分で電磁波が反射され、この金属製の梁が処理容器7内への電磁波の放射を妨げ、電磁波の影となり電磁波の放射が不均一になるため、プラズマ励起の均一化が困難になる。すなわち、プラズマプロセスの均一性が損なわれることになる。しかし、本発明により、その誘電体隔壁6の強度を増強すれば、誘電体隔壁6の枚数を減らすことが出来、結果として金属製の梁を減らす又は皆無にすることが出来、均一性の向上が図られる。従って、本発明の実施形態に係るプラズマ処理装置の誘電体隔壁6は、1枚で構成すもののみではなく、誘電体隔壁6を分割して複数枚で構成するものも含む。
【0027】
図2は、処理容器7の底壁7b側から見た場合の各導波管スロットアンテナ4に設けられたスロット5の開口状態を示す図である。図2は、例えば複数の導波管スロットアンテナ4として9本の導波管スロットアンテナ4を使用した場合の、スロット5の配列状態を示す図である。導波管スロットアンテナ4は、スロット5が開口された導波管スロットアンテナ4を並べて配列したものでもよく、また1枚の金属板に複数の導波管に相当する導波路を穿設加工して構成したものでもよい。
【0028】
各導波管スロットアンテナ4に設けられているスロット5は、例えば図2に示されているように、各導波管スロットアンテナ4に略均等に分布して配列されている。しかし、スロット5の配列状態は、この略均等の配列に限定されるものではない。このスロット5の配列状態は、そこから放射される電磁波強度分布に影響を与えるため、例えば周辺部の電磁波強度分布が低い場合には、スロット5の開口密度を増加させたもの(例えば中心部に較べ周辺部のスロット5の開口面積を大きくしたり、スロット5の単位面積あたりの開口数を増加させたり)でもよい。また、逆に、スロット5の配列構造は、周辺部の電磁波強度分布が高い場合には、スロット5の開口密度を低下させたもの(例えば中心部に較べ周辺部のスロット5の開口面積を小さくしたり、スロット5の単位面積あたりの開口数を減少させたり)でもよい。
【0029】
図3は、図1で示したプラズマ装置1において、導波管スロットアンテナ4と、スロット5と、誘電体隔壁6と、処理容器7等との位置関係を説明するための断面図である。更に詳細には、このプラズマ処理装置1は、電磁波源2、直線状分配導波管3、1つ以上例えば9つの導波管スロットアンテナ4、スロット5、処理容器7の一部を成す誘電体隔壁6、処理容器7、ガス供給部8、ガス排出部9、及び基板支持台10等を備えている。
【0030】
処理容器7は、上壁としての上蓋7a、底壁7b、及び、上蓋7aの周縁と底壁7bの周縁とを気密に繋ぐ筒状例えば角筒状の周壁7cを有して、内部を真空状態或いはその近傍にまで減圧することが可能な強度を有するように形成されている。上蓋7a、底壁7b、及び周壁7cを形成する材料としては、気密性を有し、ガス放出しない材料例えばステンレス、Ni合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金等の金属材料を用いることができる。
【0031】
上蓋7aには、処理容器7の壁の一部を構成するように、誘電体隔壁6が設けられている。この誘電体隔壁6もまた、処理容器7の内部を真空状態或いはその近傍にまで減圧することが可能な強度を必要とする。誘電体隔壁6の材料及び構成については後述する。
【0032】
前記処理容器7は、上蓋7aと誘電体隔壁6との間を封止する封止機構を有しており、誘電体隔壁6は、前記処理容器7の封止面を構成する。封止機構は、例えば、上蓋7aの開口部を規定する周面に、その周方向に沿って設けられた溝と、この溝に挿入されたO−リングとを有している。この封止機構により、上蓋7aの開口部を規定する周面と誘電体隔壁6との間がシールされている。
【0033】
処理容器7の内部には、被処理体としての被処理基板11を支持する前記基板支持台10が設けられている。この基板支持台10は、例えば、誘電体隔壁6の下方例えば50mmの位置に保持されるように、その位置が設定されている。
また、処理容器7は、ガス排出部9と、ガス供給部8とを有している。ガス排出部9は、処理容器7の内部と連通するようにこの処理容器7に設けられている。ガス排出部9は、真空排気システム(図示せず)に繋がり、処理容器7内のガスを排出するように構成されている。ガス排出部9と真空排気システムとを併せてガス排出系という。真空排気システムは、例えば、ターボ分子ポンプを用いることができる。この真空排気システムを稼動させることにより、処理容器7内を所定の真空度に達するまで排気することができる。
【0034】
ガス供給部8は、処理容器7内にガスを供給する。ガス供給部8から供給されるガスとしては、たとえば、アッシング、酸化、成膜、エッチングなど、目的に応じて選択すればよい。
処理容器7内に電磁波入射面Fから電磁波を入射させると、ガスが励振されてプラズマが生じ、電磁波入射面F近傍のプラズマ内の電子密度が増加する。ここで電磁波入射面Fとは、電磁波が導波管スロットアンテナ4から放射され、処理容器7に入り、プラズマを生じさせる最初の面をいい、誘電体隔壁6の下面に位置する。
【0035】
電磁波は、導波管スロットアンテナ4および誘電体隔壁6により、効率よく処理容器7に放射されることにより、電磁波入射面Fの近傍においてプラズマ内の電子密度が増加し、電磁波は、このプラズマ内を伝播することが困難になり、このプラズマ内で減衰する。したがって、電磁波入射面Fから離れた領域には電磁波が届かなくなり、供給されたガスが電磁波によって励振される領域は、電磁波入射面Fの近傍に限られるようになる。この状態が、表面波プラズマ12が生じている状態である。すなわち、このプラズマ装置1によれば、プラズマは電磁波の入射した領域で発生し、表面波プラズマ12への移行に伴い、高密度、大面積で均一な表面波プラズマ12を生成することが可能となる。
【0036】
表面波プラズマ12が生じている状態においては、電磁波によるエネルギーが与えられて供給されたガスの電離が生じる領域が電磁波入射面Fの近傍に局在する。生成された表面波プラズマ12は、プラズマ発生領域に局在化するため、被処理基板11へのプラズマダメージも大幅に低減される。つまり、表面波プラズマ12は、電磁波入射面Fからの距離によってその状態が異なり、又、表面波プラズマ12が生じている状態においては、被処理基板11の表面近傍に生じるシースの電界が小さい。そのため、被処理基板11へのイオンの入射エネルギーが低く、イオンによる被処理基板11の損傷が少ないのである。
【0037】
本実施形態の1つであるプラズマ装置1では、被処理基板よりも大きな誘電体隔壁6を用いている。これは、表面波プラズマ12による被処理基板11の処理均一性は、電磁波入射面F、すなわち、誘電体隔壁6の処理容器7の内壁をなす面での電磁波のエネルギー分布の均一性に大きく影響されることから、電磁波のエネルギー分布を乱す要因となる、金属部材(誘電体隔壁6を支える金属の梁など)が被処理基板の上方に存在しないか、少なく設けるようにしたものである。
【0038】
このようにすることによって、図1に示すプラズマ装置1において、スロットから放射された電磁波は、誘電体隔壁6の処理容器7の内壁をなす面に達するまで金属部材で遮られることが無いか少ないため、導波管スロットアンテナ4の放射特性を損なうことなく、誘電体隔壁6の処理容器7の内壁をなす面において、均一な電磁波の放射分布が得られ、プラズマを均一に生成することができる。
【0039】
被処理基板11よりも大きな誘電体隔壁6を用いることは、均一な表面波プラズマの生成に寄与するが、一方で、誘電体隔壁6の大型化は、大気圧によって誘電体隔壁6に加えられる力の増加を伴うため、誘電体隔壁6には構造材料としての充分な強度が必要とされる。特に、誘電体隔壁6内に存在する微小欠陥に起因する破断を防止するために靭性の向上が求められる。
【0040】
また他の実施形態において、誘電体隔壁6が被処理基板11よりも小さな場合であっても、誘電体隔壁6の構造材料としての強度を上げることは、より大きい面積の誘電体隔壁6を使用することができ、電磁波が金属製梁部材で遮られる部分の削減が可能であるので、電磁波の放射分布の均一化に有効である。
【0041】
本発明の第1の実施形態に係るプラズマ装置1では、誘電体隔壁6を、酸化アルミニウム(Al:アルミナ)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)、ムライト(AlSi13)、ガラス(石英ガラス(SiO)、珪酸塩ガラス、ソーダ石灰ガラス、又はホウケイ酸ガラス)のうちの少なくとも1つを母材として、その母材中に少なくとも1種類の強化相を分散したセラミックス基複合材料およびガラス複合材料で形成している。強化相とは、靱性強度や破壊強度等の向上を目的として、母材中に分散される添加剤のことをいう。
【0042】
強化相には、ウィスカ(whisker)、繊維、及び、粒子のうちの少なくとも1つの形態を有するものを使用した。ウィスカとは、針状単結晶をいう。繊維とは、長繊維(数十μm以上)と短繊維(数十μm以下)の両方を含むものをいい、結晶化しているもの(単結晶化(繊維状単結晶)しているものも含む)、一部のみ結晶化しているもの、もしくは結晶化していないものをも含む繊維状形態を有する素材を意味する。また板状結晶構造を有する繊維状素材も、繊維の中に含む。例えばガラスを材料とした繊維であるガラス繊維は、溶融ガラスを繊維状に加工したガラスをいい、アルミノホウケイ酸系無アルカリガラスを多数のノズルが付いた白金性容器から流下させ、回転ドラムに巻き取ったものである(長繊維に該当)。
母材中に分散した強化相による材料の強化機構は、母材と強化相との境界領域における破壊エネルギーの分散または吸収による。すなわち、強化相が粒子状をなしている場合には、その粒子による亀裂のピン止め、あるいは亀裂方向の変化によって破壊エネルギーが吸収あるいは分散されることにより破壊の進展が防止される。また、強化相が繊維状をなしている場合には、亀裂面における母材からの繊維の引き抜きによって破壊のエネルギーが吸収されることにより破壊の進展が防止される。
【0043】
誘電体隔壁6は、電磁波の伝播路の一部をなしているので、誘電体損の少ない材質であることが望ましい。そのためには、母材が酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、石英ガラスなど、誘電体損が低い(tanδ<3×10-4)材料からなることが望ましい。また、強化相も同様の理由から、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどのウィスカが望ましい。さらに、誘電体隔壁6内での電磁波の散乱を防止するには、母材と強化相の材料が同じであることが好ましい。
【0044】
破壊靱性試験は、JIS R 1607に準拠した。その結果を図4に示す。母材としては、ムライト、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素を選び、強化相の添加が有る場合と無い場合の破壊靱性試験を示したものである。強化相の材質は、母材に対して融点が高い窒化アルミニウムのウィスカとし、添加量は20%(体積%)とした。なお、母材と、強化相としてのウィスカとに同種の窒化アルミニウムを用いた場合でも、単結晶であるウィスカは多結晶の母材に対して、より高い融点を有するため、適切な温度で焼結すれば、焼結時にウィスカが母材に溶け込むことはない。
上記形態は、実施例として示すものであって、必ずしもこの形態に限定されるものではない。
【0045】
図4の結果より、強化相例えばウィスカを添加することにより30〜90%程度、破壊靱性が向上していることが判る。この様に強化相を添加した母材により破壊靱性が向上した複合材を誘電体隔壁6に用いることにより、亀裂の発生と進行が抑制され、誘電体隔壁6の大形化や薄厚化が可能となり、均一なプラズマ密度分布を得ることが可能なプラズマ処理装置1を提供することができる。
【0046】
第2の実施形態
以下、本発明の第2の態様に係わるプラズマ装置の一実施形態を図5を用いて説明する。図3と同一機能を有する同一部分には同一符号を付し、重複説明は省略する。装置の基本的構成は第1の態様に係わるプラズマ装置1とほぼ同様である。以下では、特徴部分である誘電体隔壁6、及びその近傍の構成について説明する。
【0047】
第2の実施形態に係る誘電体隔壁6は、樹脂材料、もしくは一部を樹脂材料とする材料で構成されている。誘電体隔壁6は、処理容器7の一部分を成すと共に、電磁波の伝播路の一部を成している。そのため、構造材料としての高い強度、真空隔壁としての低いガス透過性、電磁波伝播路としての低い誘電損失が求められる。
【0048】
樹脂材料には、様々な分子構造のものがあり、多様な特性を備えているため、用途に応じた選択が可能である。たとえば、ポリスチレン(52〜74 MPa)やポリプロピレン(35〜39 MPa)は石英ガラス(39〜59 MPa)に相当する曲げ強さを備えており、更に1MHzにおける誘電正接(tanδ)がポリスチレンで1×10−4〜5×10−4、ポリプロピレンで5×10−4と、石英ガラス(1×10−4)に近いので、誘電損失は少ない。しかし、樹脂材料は無機材料に比べて低いガス透過性を実現することが困難であり、真空容器の部材としては、比較的真空度が低い用途で用いられている。樹脂材料を母材として、ガス透過性の低い部材を構成するには、樹脂材料と無機材料の積層材料化が有効である。無機材料層の形成方法としては、セラミックス、たとえば酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどの薄膜コーティングが考えられるが、セラミックスの薄板と樹脂層とを接着しても良い。セラミックス層が一層でもガス透過性の改善効果はあるが、積層数を増やしてセラミックス層の層数を増やすことで、ガス透過性をさらに向上させることができる。その様にして構成した積層材料からなる誘電体隔壁の表面および裏面は無機材料層にすることが好ましい。
【0049】
表面および裏面を無機材料層にすることで、処理容器7の内壁面で発生する、プラズマおよび原子活性種による誘電体隔壁6の損傷が防止され、さらに耐火性が向上する。また、セラミックス層は、誘電体隔壁6内で発生する誘電体損に起因した熱を誘電体隔壁6外に放出する熱伝導層としての機能も果たし、樹脂材料の熱伝導率の低さを補う効果を有する。
【0050】
さらに、構成する母材である樹脂の強度を向上させるために、ウィスカまたは長繊維の形態をもつ強化相をフィラーとして混合してもよい。そのフィラーとして、母材よりも高い熱伝導率を有する材質のフィラーを用いれば、複合化された樹脂材料の熱伝導率は母材よりも高まり、熱を誘電体隔壁6外に放出する機能が高まる。
【0051】
以上のような構成の誘電体隔壁6を用いることにより、誘電体隔壁6の脆性破壊が防止されるため、誘電体隔壁6の大形化が可能となり、均一な密度分布のプラズマを形成することが可能なプラズマ装置1を提供することができる。
誘電体隔壁6の下方には、シャワープレート13が配設されている。シャワープレート13と、誘電体隔壁6とにより囲まれた空間には、シャワープレート13と略平行に複数の開口部を有する拡散板15が配設されている。第2の態様に係わるプラズマ処理装置1の誘電体隔壁6は樹脂、拡散板15は樹脂または無機材料、そしてシャワープレート13は無機材料からなる。 シャワープレート13と、誘電体隔壁6とにより囲まれた空間には、ガス供給部8よりガスが導入される。導入されたガスは、拡散板15によって分散された後、シャワープレート13に設けられたガス噴出孔14より処理容器内に放出される。すなわち、シャワープレート13と拡散板15と誘電体隔壁6でシャワーヘッドを構成している。
【0052】
シャワーヘッド内にプラズマ放電が起こらないように、プラズマ発生圧力以上となるようにガスの流量を調節する。この様に、シャワーヘッド内にプラズマを発生させないことにより、誘電体隔壁6が直接プラズマに接することを防止できる。誘電体隔壁6は、樹脂材料、もしくは一部を樹脂材料とする材料で構成されているため、直接プラズマに曝されることにより、プラズマによる加熱、プラズマの化学的反応性による、変形、変質する可能性がある。そのため、前記シャワープレート13を設けることは、樹脂材料、もしくは一部を樹脂材料とする材料で構成されている誘電体隔壁6に対しては、非常に有効な手段である。
【0053】
本発明のプラズマ装置は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲において種々に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明を説明するためのプラズマ装置の斜視図である。
【図2】導波管スロットアンテナ下面のスロット開口状態を示す図である。
【図3】電磁波導入部と、プラズマと、被処理基板と、処理容器との位置関係を示す断面図である。
【図4】強化相の有無、および母材の材料の違いによる破壊靱性試験結果を示す図である。
【図5】電磁波導入部と、プラズマと、遮蔽板と、被処理基板と、処理容器との位置関係を示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1…プラズマ装置、2…電磁波源、3…電磁波分配導波管、4…導波管スロットアンテナ、6…誘電体隔壁、7…処理容器、8…ガス供給部、9…ガス排出部、10…基板支持台、11…被処理基板、13…遮蔽板、14…ガス噴出孔、15…拡散板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に被処理基板が配設される処理容器と、
電磁波を出力する電磁波源と、
前記電磁波が伝播する電磁波伝播路と、
前記電磁波伝播路に設けられ、前記電磁波を放射するアンテナと、
前記アンテナに対応し、前記処理容器の少なくとも一面に封止面として設けられた誘電体隔壁とを具備し、
前記アンテナから前記誘電体隔壁を通して前記処理容器内に放射された電磁波によってプラズマを生成し、前記被処理基板の処理を行うプラズマ装置であって、
前記誘電体隔壁は、母材と、前記母材に分散して添加された強化相とからなる複合材料であることを特徴とするプラズマ装置。
【請求項2】
前記強化相は、前記母材と同じ材料であり、かつウィスカの形態を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ装置。
【請求項3】
前記母材は、酸化アルミニウム、もしくは窒化アルミニウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ装置。
【請求項4】
前記強化相は、ウィスカの形態、及び長繊維の形態のうちの少なくとも1つの形態を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ装置。
【請求項5】
前記母材は、酸化珪素であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ装置。
【請求項6】
内部に被処理基板が配設される処理容器と、
電磁波を出力する電磁波源と、
前記電磁波が伝播する電磁波伝播路と、
前記電磁波伝播路に設けられ、前記電磁波を放射するアンテナと、
前記アンテナに対応し、前記処理容器の少なくとも一面に封止面として設けられた誘電体隔壁を具備し、
前記アンテナから前記誘電体隔壁を通して前記処理容器内に放射された電磁波によってプラズマを生成し、前記被処理基板の処理を行うプラズマ装置であって、
前記誘電体隔壁は、樹脂層と、無機材料層とを接合した構造を少なくとも1つ有することを特徴とするプラズマ装置。
【請求項7】
前記無機材料層は、セラミックスコーティングによって形成されたことを特徴とする請求項6に記載のプラズマ装置。
【請求項8】
前記誘電体隔壁の前記被処理基板に対向する内壁面は、前記無機材料層であることを特徴とする請求項6に記載のプラズマ装置。
【請求項9】
前記誘電体隔壁と近接して配置され、前記誘電体隔壁の前記被処理基板に対向する内壁面をプラズマから遮蔽する、無機材料によって形成されたシャワープレートを、更に具備し、
前記シャワープレートと、前記誘電体隔壁とでシャワーヘッドを構成することを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載のプラズマ装置。
【請求項10】
前記樹脂層は、ウィスカの形態及び長繊維の形態のうちの少なくとも1つの形態を有するフィラーを混合して形成されたことを特徴とする請求項6ないし9のいずれか1項に記載のプラズマ装置。
【請求項11】
前記フィラーは、前記母材よりも高い熱伝導率を有することを特徴とする請求項10に記載のプラズマ装置。
【請求項12】
前記誘電体隔壁の前記被処理基板に対向する面の大きさは、この面に対向する前記被処理基板の面の大きさよりも大きいことを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のプラズマ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−26778(P2007−26778A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204718(P2005−204718)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(501286657)株式会社 液晶先端技術開発センター (161)
【Fターム(参考)】