説明

プラズマ重合による基体表面コーティング法

【発明の詳細な説明】
発明の技術分野 本発明は、合成樹脂などの基体表面に優れた親水性および防曇性を付与しうるような、プラズマ重合による基体表面コーティング法に関する。
発明の技術的背景ならびにその問題点 防曇性フィルムあるいは親水性フィルムは、かなり大きな市場を形成しているが、防曇性処理がなされたフィルムの防曇効果はまだ十分なものとは言えない。したがってもし性能面の改良がなされれば今後とも市場の拡大が期待できる。
またフィルム用途以外においても親水性および防曇性の向上が要望されている多くの分野がある。たとえば親水性および防曇性が向上された基体は、光学用、医療用、理化学用などの各種のレンズ、ウインドウ用ガラス、ミラーなどの用途に用いられる。
ところで従来、フィルムなどに親水性および防曇性を付与する方法としては、親水性樹脂あるいは界面活性剤などをその表面に設ける方法が知られている。しかしながら親水性樹脂をフィルム表面上に設ける方法では、表面上に数ミクロンから数十ミクロンの膜厚でコーティング膜を設ける必要があり、このため透明性が低下するなどの新たな問題点が生じていた。また界面活性剤をフィルム表面上に設ける方法では、親水性効果および防曇性効果の持久性が悪いなどの問題点があった。
また一方基体表面をプラズマ処理することにより親水性および防曇性を基体表面に付与する方法がいくつか提案されている。たとえば基体表面を酸素プラズマによって処理する方法が提案されている。しかし、この方法では、親水性の付与効果が十分でなく、しかも親水性が経時的に変化して親水性が急速に消失してしまうという問題点がある。また有機ガスを用いてプラズマ重合により基体表面処理を行う方法が知られている。たとえば特開昭62−243617号公報および特開昭62−260836号公報には、ニトロ化合物を用いてプラズマ重合を行なうことにより基体表面に薄膜を設ける方法が提案されている。しかし、これらの方法はいずれも処理時間が長くかかるなどの問題点があり十分満足しうるものとは言えない。
発明の目的 本発明は、上記のような従来技術における問題点を解決しようとするものであって、基体表面に優れた親水性および防曇性を付与し、かつそれらの効果の持久性が良好であるような基体表面コーティング法を提供することを目的とする。
発明の概要 本発明に係るプラズマ重合による基体表面コーティング法は、一般式:R1−ONOまたはR2R3NNOまたはR4−NO(式中、R1、R2、R3およびR4は炭素原子数1〜10の炭化水素基である)で表わされるニトロシル化合物を用いてプラズマ重合により基体表面上に薄膜を形成することを特徴としている。
本発明によれば、基体の材質にかゝわらず、その表面に、優れた親水性および防曇性を有しかつその持久性が優れた薄膜を設けることができる。さらに本発明によれば、一段階で短時間の処理により基体との密着性が良好な薄膜を基体上に設けることができ、工業的にも有用である。
発明の具体的な説明 以下、本発明に係るプラズマ重合による基体表面コーティング法について具体的に説明する。
本発明では、一般式R1−ONOまたはR2R3NNOまたはR4−NOで表わされるニトロシル化合物を用いてプラズマ重合により基体表面上に薄膜を形成するが、上記一般式中、Rで表わされる基は炭化水素基であり、飽和あるいは不飽和、直鎖状あるいは分枝状、脂肪族あるいは芳香族のいずれをも用いることができる。さらにそれらの基に水酸基、アミノ基、スルホン基などの各種官能基が結合したものも用いられるが、炭素原子数は10以下のものが作業性およびコーティング膜の性能面から望ましい。特にR1は炭素原子数1〜5であることが好ましく、またR2、R3およびR4は炭素数1〜6であることが好ましい。
このようなニトロシル化合物としては、具体的には、亜硝酸ブチル、N−ニトロソジメチルアミン、N−ニトロソジブチルアミン、N−ニトロソ−N−メチルアニリ、ニトロベンゼンなどが用いられる。これらのうち、亜硝酸ブチルあるいはN−ニトロソジメチルアミンは作業性および得られる薄膜の性能が優れるので特に好ましい。またこれらのニトロシル化合物は単独または2種以上を混合しても使用することができる。
本発明において用いられる基体は、材質および形状について特に限定されず、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂、また、SBR、NBR、IR、天然ゴム、またはこれらの変性ゴムなどのゴム類が用いられる。さらにガラス、セラミックス、炭素繊維などの無機材質、およびアルミニウム、銅、鉄などの金属類も用いることができる。このように本発明では広範囲の基体に適用でき、本発明によれば、特に合成樹脂およびゴムに適用した場合に優れた効果を与えうる。
プラズマ重合法自体はすでに公知であり、プラズマ発生のためにはいずれの公知の方法も本発明に適用しうる。従来、プラズマ発生用電極には容量結合型(有極放電方式)と誘導結合型(無極放電方式)の2つの方式が知られているがそのいずれの方式をも本発明では用いることができる。また電源の周波数は一般には13.56MKzのラジオ波が利用される。
以下、本発明に係るプラズマ重合による基体の処理方法について具体的に述べる。まず処理を行う基体を装入した反応器を1torr以下の減圧にする一方、基体状の原料モノマーであるニトロシル化合物に放電による電気エネルギーを与えプラズマ重合し、この操作を30秒から60分間行なうと基体表面に薄膜が形成される。この際処理時間は所望の膜厚に応じて適宜調節する。
本発明を実施するために具体的に用いられた装置を第1図1図に示す。この装置は、プラズマ重合のための反応系、原料モノマー供給系、ガス供給系および排気系の4つのブロックからなっており、プラズマの発生は容量結合型方式による。第1図において、反応器3は回転真空ポンプ5により減圧され、圧力は真空計7によりモニターされている。反応器3内では、電極10と対向するように基体支持台が設けられており、この基体支持台11上には被処理基体が置かれている。プラズマ発生のためのRF電源1はマッチングユニット2を介して、電極10に接続されている。ついで容器9からのモノマー原料基体(ニトロシル化合物)がキャリアガスとともにモノマー導入口14から反応器3に供給されるようになっている。ボンベ8には窒素ガスが入っている。
次に実施方法について説明する。まず反応器3内の圧力を10-3torrまで減圧にする。次にボンベ8を開口して窒素ガスをモノマー9とともにモノマー導入口14から反応器3に供給し所要の圧力にする。このときの圧力はモノマー導入口14に取り付けられているニードルバルブの操作とガス流量とによって調節する。そしてモノマーの供給量は調節された真空度により変えることができる。RF電源1を入力して反応器3内にプラズマを発生させる。そこでたとえば出力50ワットで5分間キャリアガスプラズマおよびモノマープラズマに被処理基体をさらす。次いでRF電源1を切ってプラズマを消滅させ、キャリアガスおよびモノマーの導入を止め、圧力を再び10-3torrとする。回転ポンプ5を停止し反応器3内の圧力を大気圧に戻した後に被処理基体を取り出す。
なお、上記方法において各種ガス(アルゴン、窒素、酸素)プラズマによる基体の前処理を行ってもよい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1 コーティング処理を行う基体としてポリエステルフィルム(以後PETと記す)(縦5cm、横5cm、厚さ50μm)を用い、またモノマーとして亜硝酸ブチルを用いた。第1図1図に示すような装置により、処理条件を、出力50ワット、反応時間1分、圧力1.1torrおよび0.45torrとしてプラズマ重合を行った。処理をしたPET表面の親水性を調べるため水に対する接触角を液滴法により測定した。結果を表1に示す。
また接触角の経時変化を試験した結果、少なくとも1ケ月間は変化がなかった。さらに防曇性試験を行った。
その結果を表2に示す。
実施例2 モノマーとしてN−ニトロソジメチルアミンを用い、圧力条件0.45torrおよび0.3とした以外は実施例1と同様にしてプラズマ重合処理を行った。このようにして得たPET表面の水に対する接触角の測定結果を表1に示す。
実施例3 モノマーとしてN−ニトロソ−N−メチルアニリンを用い、圧力を0.45torr、反応時間を3分とした以外は実施例1と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定経過を表1に示す。
実施例4 モノマーとしてN−ニトロソジブチルアミンを用い、圧力を0.45torr、反応時間2分とした以外は実施例1と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定結果を表1に示す。
比較例1 実施例1で用いたと同じ基体のPETについて、プラズマ重合処理を行なわずに、水に対する接触角を測定した。結果を表1に示す。
比較例2 モノマーとしてジエチルアミンを用い、圧力を0.6torrとした以外は実施例1と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定結果を表1に示す。さらに防曇性試験を行った結果を表2に示す。
比較例3 モノマーとしてトリエチルアミンを用い、圧力を0.6torrとした以外は実施例1と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定結果を表1に示す。


表1より明らかなように、ニトロシル化合物を用いてプラズマ重合により表面処理をしたものは処理なしのものおよびモノアミン処理のものに比較し、水に対する接触角が小さい値を示す。すなわちニトロシル化合物を用いてプラズマ重合処理された基体には高度の親水性が付与されたことが認められる。


防曇性試験方法: 試料を通常の環境下(温度20〜25℃、湿度60〜65%)に24時間放置した後、所定温度に設定した恒温試験器に10分間入れる。その後取り出して曇り度を次のように判定する。
○:曇らない △:やゝ曇る ×:曇る 上表の結果より、亜硝酸ブチルを用いてプラズマ重合処理された基体は高度の防曇性が付与されるが、未処理の基体はほとんど防曇性を有していない。
実施例5 処理をする基体としてポリエチレン樹脂(以後PEと記す)を用いた。その他の条件は実施例1と同様にしてプラズマ重合処理を行った。処理を終ったPE表面の水に対する接触角を測定した。
結果を表3に示す。
比較例4 実施例5で用いたと同じ基体のPEについてのプラズマ重合処理を行なわずに水に対する接触角を測定した。
結果を表3に示す。
実施例6 基体としてポリ塩化ビニル樹脂(以後PVCと記す)を用い、反応時間を2分とした以外は、実施例2と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定結果を表3に示す。
比較例5 実施例6で用いたと同じ基体のPVCについて、プラズマ重合処理を行なわずに接触角を測定した。
結果を表3に示す。
実施例7 基体としてABS樹脂(以後ABSと記す)を用い、反応時間を2分とした以外は、実施例2と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定結果を表3に示す。
比較例6 実施例7で用いたと同じ基体のABSについて、プラズマ重合処理行なわずに接触角を測定した。
結果を表3に示す。
実施例8 基体としてポリメチルメタアクリレート樹脂(以後PMMAと記す)を用い、反応時間2分とした以外は、実施例2と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定結果を表3に示す。
比較例7 実施例8で用いたと同じ基体のPMMAについて、プラズマ重合処理を行なわずに接触角を測定した。
結果を表3に示す。
実施例9 基体としてポリプロピレン樹脂(以後PPと記す)を用い、反応時間を2分とした以外は、実施例2と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定結果を表3に示す。
比較例8 実施例9で用いたと同じ基体のPPについて、プラズマ重合処理を行なわずに接触角を測定した。
結果を表3に示す。
実施例10 基体としてポリスチレン樹脂(以後PSと記す)を用い、反応時間を2分とした以外は、実施例2と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定結果を表3に示す。
比較例9 実施例10で用いたと同じ基体のPSについて、プラズマ重合処理を行なわずに接触角を測定した。
結果を表3に示す。
実施例11 基体としてベークライト樹脂(以後BKLと記す)を用い、反応時間を2分とした以外は実施例2と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定結果を表3に示す。
比較例10 実施例11で用いたと同じ基体のBKLについて、プラズマ重合処理を行なわずに接触角を測定した。
結果を表3に示す。
実施例12 基体としてウレタンゴム(以後PUと記す)を用い、反応時間を2分とした以外は実施例2と同様にしてプラズマ重合処理を行った。
接触角の測定結果を表3に示す。
比較例11 実施例12で用いたと同じ基体のPUについて、プラズマ重合処理を行なわずに接触角を測定した。
結果を表3に示す。




上表より、PE等の合成樹脂およびゴムにN−ニトロソジメチルアミンを用い、プラズマ重合による表面処理をほどこすことによって、水に対する接触角の減少が顕著である。すなわち親水性の付与効果が優れていることがわかる。
発明の効果 本発明は、ニトロシル化合物を用いてプラズマ重合により基体表面に薄膜を形成しているので、次のような優れた効果が得られる。
(1)基体の材質にかかわらずその表面に優れた親水性および防曇性を付与することができ、かつその持久性に優れる。
(2)モノマーの重合による薄膜の形成を一段階で、かつ短時間に行うことができる。
(3)基体と薄膜の密着性が良い。
(4)基体上に設けられる薄膜の膜圧は、プラズマ重合処理時間を変化させることにより簡単に調節できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明を実施するための装置の構成図である。図中の数字は、
1……RF電源、2……マッチング機構
3……反応器、4……トラップ
5……回転ポンプ、6……基体加熱用電源
7……真空計、8……ボンベ
9……モノマー、10……電極
11……基体支持台、12……ガスボンベ
13……流量計、14……モノマー導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式:R1−ONOまたはR2R3NNOまたはR4−NO(式中、R1、R2、R3およびR4は炭素原子数1〜10の炭化水素基である)で表わされるニトロシル化合物を用いてプラズマ重合により基体表面上に薄膜を形成することを特徴とするプラズマ重合による基体表面コーティング法。
【請求項2】ニトロシル化合物が亜硝酸ブチルまたはN−ニトロソジメチルアミンであることを特徴とする請求項第1項に記載の方法。

【第1図】
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【特許番号】第2625154号
【登録日】平成9年(1997)4月11日
【発行日】平成9年(1997)7月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−134130
【出願日】昭和63年(1988)5月31日
【公開番号】特開平2−70767
【公開日】平成2年(1990)3月9日
【出願人】(999999999)リンテック株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭64−14247(JP,A)
【文献】特開 昭55−141563(JP,A)
【文献】特開 昭62−177071(JP,A)
【文献】特開 昭62−243617(JP,A)
【文献】特開 昭63−207567(JP,A)