プラズマCVD装置
【課題】電力における包絡線の波形のパルス周波数を高くし、かつ高いパワーにて低周波電力をプロセスチャンバーの電極に伝達させ、異常放電を抑制して従来と同様の速度により成膜するプラズマCVD装置を提供する。
【解決手段】本発明のプラズマ発生装置は、それぞれ異なった基本周波数の電力を出力する複数の交流電源と、前記交流電源各々の出力に設けられた複数の整合回路と、2つの電極が対向して設けられたプラズマ反応器の対向電極と、該対向電極のいずれか一方の電極と、前記整合回路各々との間に設けられ、それぞれ対応する前記交流電源の前記基本周波数を通過帯域の中心周波数とする複数のバンドパスフィルタとを有する。
【解決手段】本発明のプラズマ発生装置は、それぞれ異なった基本周波数の電力を出力する複数の交流電源と、前記交流電源各々の出力に設けられた複数の整合回路と、2つの電極が対向して設けられたプラズマ反応器の対向電極と、該対向電極のいずれか一方の電極と、前記整合回路各々との間に設けられ、それぞれ対応する前記交流電源の前記基本周波数を通過帯域の中心周波数とする複数のバンドパスフィルタとを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置における層間絶縁膜や素子保護膜を堆積する際、系内におけるガスの衝突により相互に活性化されラジカルとなり、低温下での膜の堆積が可能なプラズマCVD(Chemical vapor deposition)法が用いられることが多い(例えば、特許文献1参照)。
特に、半導体基板の大面積化に伴い、大面積にて均一の膜質で膜の堆積を行う必要性が多くなってきている。そのため、成膜を行うための交流電力を、大面積において均一な成膜が可能な低周波(1MHz近傍)により供給することが行われている。
【0003】
しかしながら、低周波電力によるプラズマ発生の際、成膜面内における放電の偏りや、異常放電状態が発生する問題がある。
成膜面内における放電の偏りに関しては、最終的に製造された半導体装置の品質がばらつくこととなり、安定した半導体装置の製造が行えなくなる。
また、異常放電に関しては、半導体装置に形成される膜が不良状態となり、また低周波電力が印加されている電極自体にも損傷を与え、以後の成膜が良好な状態にて行えなくなるため、損傷が生じた電極を交換する必要がある。
【0004】
異常放電は上述した放電の局所的な偏りが大きくなった場合に発生すると考えられる。
そのため、この異常放電の発生を抑制するため、交流波信号である電力を間欠的に、すなわち電力波形の包絡線をパルス形状として供給することにより、放電を間欠的に発生させて、局所的な偏りの増大を抑制させている。
図7に示す回路により、電力波形の包絡線形状をパルス形状とし、プラズマCVD装置の電極に供給する構成とすることにより、異常放電を抑制することができる。
この図7において、低周波電源100とFET101のゲートとの間に、スイッチ手段102を介挿し、このスイッチ手段102を一定の周期にてオン/オフ制御することにより、FET101のゲートに対して、上記一定の周期にて間欠的に低周波電力(800kHz)のパルスを供給する構成としている。この図7におけるスイッチ手段102をオンオフする周期と、そのディユーティ比により、図8に示すように任意の周期及びデューティ比の包絡線形状を有する電力を供給することができる。
【0005】
上述したように、プラズマ発生に対して間欠放電とした結果、連続放電にて15kWにて異常放電が発生していた条件にて、電力を25kWの放電においても異常放電が発生しないことが確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−273038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7の構成による間欠放電において、パルスのオン/オフ比(すなわち、デューティ比)が高く、あるいは上記包絡線のパルス周波数(ここでは、スイッチをオンオフする周波数)が高くなるに従い、連続放電状態と同等に成膜速度を上昇させることができる。
しかしながら、連続放電状態の場合と同様に、放電面内における放電の偏り(異常放電)が発生する。
上述した異常放電は、放電が行われる環境により異なると考えられるが、パルスがオン状態、すなわち放電が行われている時間が一定以上となると連続放電に近い状態となる。
【0008】
また、パルス放電は間欠的にプラズマを発生しているため、連続放電に比較してガスの分解効率が悪くなり、成膜速度が遅くなるために生産効率が低下する。
このガスの分解効率を向上させるため、連続放電の場合に比較して高いパワーにより放電し、かつ異常放電の発生を抑制させるため、放電状態とするパルスのオン時間を短く、すなわちパルス周波数を高くする必要がある。
しかしながら、間欠放電を制御するパルス周波数を高くして放電を行うと、低周波電源(RF電源)の反射波Prが増大し、プラズマ発生に寄与するパワーを増加させることができない。
【0009】
この要因としては、低周波の連続波形をフーリエ変換すると、図9(a)に示すようにほぼ単一の周波数にピークが生じるが、パルス状にて低周波電力を供給する場合、図9(b)に示すように、低周波の周波数のピークの両側にパルス波形の側波(サイドバンド)が生じており、この側波が供給するパワーを低下させている。図9(a)及び(b)のグラフにおいて、横軸が周波数であり、縦軸が強度である。
すなわち、側波が反射波となり低周波電源に対するフィードバック信号となり、低周波電源は反射波が入力されると出力するパワーを低下させることとなる。
そして、パルス周波数を高くするほど側波成分が多くなり、これに伴って反射波のパワーが大きくなり、低周波電源が出力するパワーを低下させるので、プラズマを発生させる十分なパワーを供給できなくなる。
【0010】
上記側波成分による反射波を、低周波の周波数帯に対応したバンドパスフィルタを用いることで抑制させることができる。
しかしながら、低周波電源とプロセスチャンバーに設けられた電極(上部側)との間には、図11に示すように、インピーダンスの整合調整を行うマッチング回路(マッチングネットワーク)が設けられている。
このマッチング回路は、伝送周波数特性を有し、すなわち整合用に調整された周波数のみを通過させる特性を有している。
したがって、例えば、800kHzの低周波に対応してインピーダンス整合されたマッチング回路は、その800kHz近傍以外の前後における周波数の信号を伝達することができず、反射波としてしまう。
【0011】
また、すでに述べたように、低周波電源から図7の回路を介し、電力波形の包絡線をパルス波形にて伝達する成分には、基本周波数以外の周波数の側波成分を有している。
このため、上記側波成分の多くは、マッチング回路を通過せずに熱としてエネルギが損失されるか、または低周波電源に対する反射波となる。
したがって、マッチング回路を通過する波形は、低周波電源から図7の回路を介して出力される矩形形状が歪んだ波形形状に変化され、上記プロセスチャンバーに設けられた電極へ伝達される。
上述した伝達状態は、低周波の周波数である基本周波数と、パルス周波数とが近い数値ほど顕著になり、結果的に約75%程度のエネルギがマッチング回路を通過することができず、高いパワーがプロセスチャンバーの電極に対して伝達されない。
【0012】
また、矩形上のパルスにより変調するのではなく、図10に示すように交流波形、例えばサイン波により変調(AM変調)する構成もある。プラズマを発生させない状態とするためには、ゼロクロス点を設ける必要があり、サイン波によってもゼロクロス点は存在してプラズマが間欠して生成されることになる。
しかしながら、電力波形の包絡線が矩形波の場合のように多くの側波ではないが、この変調に用いた交流波形の周波数に対応した側波が生じ、理論上において基本周波数以外に2本の側波が存在することになる。
この交流波形による側波成分に対するマッチング回路の伝達特性の問題は、すでに述べた矩形状パルスによる側波成分の場合と同様であり、通過後の波形は歪んでしまい、十分なパワーをプロセスチャンバーの電極に対して伝達することができない。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、電力波形の包絡線の波形のパルス周波数を高くし、かつ高いパワーにて低周波電力をプロセスチャンバーの電極に伝達させ、異常放電を抑制して従来と同様の速度により成膜するプラズマCVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のプラズマ発生装置は、異なる基本周波数の電力を出力する複数の交流電源と、
前記交流電源各々の出力に設けられた複数の整合回路と、2つの電極が対向して設けられたプラズマ反応器の対向電極と、該対向電極のいずれか一方の電極と、前記整合回路各々との間に設けられ、それぞれ対応する前記交流電源の前記基本周波数を通過帯域の中心周波数とする複数のバンドパスフィルタとを有し、複数の前記交流電源の出力するそれぞれの電力を、前記対向電極のいずれか一方の電極に対して同時に印加し、複数の異なる基本周波数を合成した合成電力により、間欠的にプラズマを発生させる。
上述した構成により、本発明のプラズマ発生装置は、各交流電源から連続した電力を出力するため、整合回路からの反射が無く、交流電源が反射波により出力を低下させるフィードバック制御を行わなくなるため、成膜速度の向上に対し、十分なパワーをプロセスチャンバーの電極に対して出力することができる。
また、本発明のプラズマ発生装置は、整合回路に交流電源から連続波として電力が入力されるため、側波が入力されたときのように、反射波及び内部による熱エネルギへの変換が起こらず、十分なパワーをプロセスチャンバーの電極に対して出力することができる。
また、本発明のプラズマ発生装置は、整合回路(マッチング回路)と、各交流電源の出力する電力を合成する電極との間にバンドパスフィルタを設けたため、整合回路に対し、自身以外の周波数成分が入ることがなく、整合回路が連続波として制御を行うことが可能なため、十分なパワーをプロセスチャンバーの電極に対して出力することができる。
【0015】
本発明のプラズマ発生装置は、使用する前記交流電源の出力する電力のパワーを調整することにより、前記電極に対して供給する合成電力の波形及びパワーを制御することを特徴とする。
【0016】
本発明のプラズマ発生装置は、使用する前記交流電源の出力する電力の振幅値を調整することにより、前記電極に対して供給する合成電力の波形及びパワーを制御することを特徴とする。
【0017】
本発明のプラズマ発生装置は、前記合成電力の波形の包絡線は、サイン波の波形形状となることを特徴とする。
【0018】
本発明のプラズマ発生装置は、前記交流電源を3個以上用いる場合、
前記交流電源のそれぞれの基本周波数を1MHz以下とし、
それぞれの基本周波数の差を1〜100kHzの範囲内とすることを特徴とする。
【0019】
本発明のプラズマCVD装置は、上記いずれかに記載のプラズマ発生装置を用い、前記対向電極の他方を、薄膜を形成する基板を配置する基板配置電極とし、
前記薄膜を成膜する原料ガスを、前記対向電極間に供給するガス供給部を有することを特徴とする。
【0020】
本発明のプラズマCVD装置は、前記ガス供給部が原料ガスとしてSiH4(モノシラン)と、NH3(アンモニア)とを供給し、前記基板にシリコン窒化膜を成膜することを特徴とする。
【0021】
本発明のプラズマCVD装置は、前記ガス供給部が原料ガスとしてSiH4(モノシラン)を供給し、前記基板にシリコン膜を成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、各交流電源の基本周波数と、各交流電源の電力のパワーの数値とを調整することにより、対応電極の一方の電極に与える合成電力波形の包絡線を任意の形状とすることができ、プラズマの発生周期を異常放電が発生しないように可変することが可能である。
また、本発明によれば、電極にて複数の周波数の交流波形を合成するため、各マッチング回路に対し、基本周波数のみの交流波を供給するため、マッチング回路から交流電源に対する反射波が基本的に存在しないため、交流電源が設定された高いパワーの電力を出力することが可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、マッチング回路と電極との間にバンドパスフィルタを介挿しているため、他の交流電源からの基本周波数が、各交流電源に対応したマッチング回路に入力されることがなく、マッチング回路が誤った整合動作を起こすことがないため、交流電源に設定された高いパワーの電力を出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態によるプラズマ発生装置を用いたプラズマCVD装置の構成例を示す概念図である。
【図2】図1のプラズマ発生装置における上部電極4aに印加する合成電力波形を示す波形図である。
【図3】図1のプラズマ発生装置における上部電極4aに印加する合成電力波形を示す波形図である。
【図4】図1のプラズマ発生装置における上部電極4aに印加する合成電力波形を示す波形図である。
【図5】図1のプラズマ発生装置における上部電極4aに印加する合成電力波形を示す波形図である。
【図6】図1のプラズマ発生装置における上部電極4aに印加する合成電力波形を示す波形図である。
【図7】電力波形の包絡線をパルス形状とする従来回路の構成を示す概念図である。
【図8】図7の回路により生成された電力波形を示す波形図である。
【図9】図8に示す波形に含まれる側波について説明するため、電力波形をフーリエ変換した図である。
【図10】マッチングボックス(マッチング回路)における電力からの電力ロスにより、電力波形の歪みを説明する概念図である。
【図11】従来のプラズマ発生装置の構成を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態によるプラズマ発生装置を用いたプラズマCVD装置を図面を参照して説明する。図1は同実施形態によるプラズマCVD装置の構成例を示すブロック図である。
この図において、プラズマ発生装置は、交流電源11、12、13、…、1nと、マッチング回路21、22、23、…、2nと、バンドパスフィルタ31、32、33、…、3nと、上部電極4a及び下部電極4bからなる対向電極4とから構成されている。
また、プラズマCVD装置は、上記プラズマ発生装置に加えて、プロセスチャンバー5、真空ポンプ6、排気部7、ガス供給部8から構成されている。ここで、上記上部電極4aは中空構造となっており、ガス供給部8から供給される原料ガスがこの中空部に入り、上部電極4aの底部に複数明けられた穴Hから、下部電極4bの上面に対して面内均一に原料ガスがシャワー状に供給される。
【0026】
交流電源11、12、13、…、1n各々は、それぞれ異なった基本周波数F1、F2、F3、…、Fnの電力S1、S2、S3、…、Snを出力する。また、交流電源11、12、13、…、1n各々は、例えば、低周波電力源であり1MHz以下の交流周波数にて電力S1、S2、S3、…、Snを出力する。
マッチング回路21、22、23、…、2n各々は、それぞれ交流電源11、12、13、…、1nに接続され、基本周波数F1、F2、F3、…、Fnにおける対向電極4との整合用に設定されている。
バンドパスフィルタ31、32、33、…、3n各々は、一端がそれぞれ対応するマッチング回路21、22、23、…、2nに接続され、他端が全て同一の上部電極4aに接続されている。
【0027】
上述した構成により、交流電源11、12、13、…、1n各々から出力された電力S1、S2、S3、…、Sn各々は、それぞれマッチング回路21、22、23、…、2n及びバンドパスフィルタ31、32、33、…、3nを経由して、上部電極4aにおいて合成され合成電力となり、この合成電力のパワーに応じて対向電極4において、プラズマを発生させる。
マッチング回路21、22、23、…、2n各々に対して、それぞれ対応する交流電源11、12、13、…、1nが基本周波数の電力を連続波として出力している。このため、従来例のように、電力波形の包絡波がパルス状としてマッチング回路に供給されていないので、本実施形態においては、パルス周波数に対応した側波が生じることがなく、マッチング回路21、22、23、…、2nから、各交流電源11、12、13、…、1nに反射波が戻ることがなく、マッチング回路におけるパワーのロスが無く、任意のパワーを対向電極4に供給することができる。
【0028】
ここで、バンドパスフィルタ31、32、33、…、3n各々は、対応する交流電源11、12、13、…、1nそれぞれの基本周波数F1、F2、F3、…、Fnを通過帯域の中心周波数とするバンド幅の周波数成分しか伝達させないため、他の基本周波数を各対応するマッチング回路に対して伝達させることがない。このバンド幅は、他の基本周波数と重ならない範囲に設定されている。
すなわち、バンドパスフィルタ31、32、33、…、3n各々は、対応するマッチング回路に対して整合用に調整された基本周波数以外の周波数が入力され、誤った整合処理が行われないように、他の対応していない基本周波数の信号が、逆流としてマッチング回路に入力されないようにガードとして設けられている。
【0029】
また、プラズマCVD装置において、真空ポンプ6はプロセスチャンバー5内部の圧力を、原料ガスの特性及び流量に対応させ、プラズマ放電に必要な値に制御する。
上部電極4aには上記プラズマ発生装置から電力が印加され、下部電極4bは接地されている。上部電極4aに印加された電力により、上部電極4a及び下部電極4bとの対向する空間内に供給された原料ガスの原子、あるいは分子が電離され、プラズマ化した後、下部電極4b上面に配置された基板の表面にて反応し、成膜が行われる。
ガス供給部8は、設定された種類の原料ガスを、それぞれ設定された流量値にて、上部電極4a及び下部電極4bとの対向する空間内に供給する。
また、下部電極4bの内部には、ヒータ9が設けられており、成膜条件のひとつである基板温度の調整を行う。
排気部7は、ガス供給部8から供給される余分な原料ガスの排気を行う。
【0030】
次に、図2〜図4を用いて、本実施形態のプラズマ発生装置の動作として、交流電源11及び12の2つからの電力S1、S2を合成した合成電力の生成について説明する。図2〜図4は、基本周波数F1及びF2の電力S1、S2を合成した合成電力波形を示す波形図であり、横軸が時刻であり、縦軸がパワー(ピーク値で各波形値を除算して正規化している)を示している。
図2は、電力S1、S2を同一の振幅値(パワー値)とし、基本周波数F1=800kHz、基本周波数F2=900kHzとして、合成した合成電力の波形を示す波形図である。
図2に示す合成電力の波形の包絡線は、ほぼ100kHzのサイン波の波形形状となり、ゼロクロスをしていることから、プラズマ発生に必要な振幅以下の状態において、プラズマは発生しないため、間欠的にプラズマを発生させることができる。
【0031】
また、図3は、電力S1、S2を同一の振幅値とし、基本周波数F1=800kHz、基本周波数F2=1100kHzとして、合成した合成電力の波形を示す波形図である。
図3に示す合成電力波形の包絡線は、合成する周波数が離れすぎると、図2の場合と異なり、サイン波形とはならず、乱れた波形となる。
このことから、合成する2つの周波数の差は、1MHz以下の場合、1kH〜100kHzの範囲内とすることが適当であることがわかる。
この条件は、後に述べるように、合成する電力の周波数が3つ以上の場合にも同様であり、合成に用いる電力の基本周波数が1MHz以下の場合、それぞれの電力の基本周波数の差が1kHzから100kHzの範囲内とする必要がある。
【0032】
また、図4は、図2と同様に、電力S1、S2を、基本周波数F1=800kHz、基本周波数F2=900kHzとして、合成した合成電力の波形を示す波形図である。異なる点は、電力S1の振幅値:電力S2の振幅値=1:0.5、すなわち、電力S1の振幅値に対して、電力S2の振幅値を半分としており、位相は合わせてある。
図4からわかるように、合成電力波形の包絡線の周波数が図2の波形に比較して低下し、一方、ピーク値のパワーが上昇している。このため、合成する各電力の振幅比を調整することにより、波形の形状を変化させることができることがわかる。
このため、例えば、合成電力の振幅のピーク値を少し低下させたい場合、一方の電力波形の振幅のピーク値を「0」となるまで低下させなくとも、合成する各電力各々の振幅値の比を代えることにより、波形を任意に低下させることができる。
【0033】
例えば、図5は、電力S1(F1=700kHz)、S2(F1=800kHz)及びS3(F3=900kHz)の3つの電力を合成した合成電力の波形を示しており、縦軸がパワー(ピーク値で各波形値を除算して正規化している)を示している。
ここで、電力S1、S2及びS3の振幅として、電力S2の振幅を「1」とした場合、電力S1及び電力S3の振幅を「0.5」としている。これにより、図5の合成電力は、図2及び図4に示すサイン波形状の包絡線でなく、振幅が「0」である時間が発生し、パルス形状に近い包絡線となり、図7により発生される電力波形の包絡線形状に近くなる。
【0034】
また、図6は、電力S1(F1=600kHz)、S2(F1=700kHz)、S3(F3=800kHz)、S4(F4=900kHz)及びS5(F5=1000kHz)の5つの電力を合成した合成電力の波形を示しており、縦軸がパワー(ピーク値で各波形値を除算して正規化している)を示している。ここで、電力S1、S2、S3、S4及びS5の振幅として、電力S3の振幅を「1」とした場合、電力S1の振幅が「0.2」であり、電力S2の振幅が「0.7」であり、電力S4の振幅が「0.7」であり、電力S5の振幅が「0.2」と設定している。これにより、図5の合成電力は、図2及び図4に示すサイン波形状の包絡線でなく、図5と同様に包絡線がパルス形状となり、振幅が「0」である時間が図5に比較してより長く、かつピーク値が大きくなる。この結果から、合成する電力の振幅及び基本周波数を変化させることにより、ディユーティや振幅値を任意に調整できることがわかる。
【0035】
図5及び図6において説明したように、放電を行わない状態(振幅値が「0」近傍の状態)と、放電を行う状態との周期、及び放電のパワーを変化させるため、合成電力における波形の包絡線のパルス周期を制御する場合、合成する電力を多くし、それぞれの振幅値を変化させることにより実現できる。
すなわち、パルス波形は多くの異なる周波数のサイン波が合成されたものであるため、任意のパルス形状の包絡線を有する合成電力の形成は、複数の異なる基本周波数の電力の波形を合成することにより実現でき、放電オフ(放電が行われない)の状態にある時間幅を容易に制御することができる。
したがって、本実施形態のプラズマ発生装置は、上部電極4aに対して供給する合成電力の波形を調整する際、交流電源11、12、13、…、1nから必要な波形を合成するために必要な複数の交流電源の組合せを選択し、選択した交流電源各々の電力のパワーを制御することにより、必要な合成電力波形の包絡線の波形(周期及びデューティ)及びピーク値のパワーを有する合成電力を生成する。
【0036】
また、合成電力波形の包絡線は、上述したように、複数の電力の波形の合成により、矩形パルスに近くなるが、本実施形態において、マッチング回路21、22、23、…、2nと上部電極4aとの間に、それぞれバンドパスフィルタ31、32、33、…、3nを介挿しているため、従来例と異なり、マッチング回路における反射波の発生や、電力のパワーが熱エネルギに変換されるロスなどが発生しないため、交流電源11、12、13、…、1nから上部電極4aに対して、無駄なくパワーを伝達させ、異常放電を起こさずに成膜速度を向上させることができる。
【0037】
<応用例>
次に、応用例として、図1のプラズマCVD装置において、交流電源11及12の2つの交流電源を用いて、それぞれの電力S1及びS2を合成した合成電力により、ガラス基板100上にシリコン窒化膜の成膜を行った。
成膜条件としては、図2に示す合成電力と同様に、電力S1及びS2のピーク値の振幅を同様とし、基本周波数F1=800kHz、基本周波数F2=900kHzとし、合成電力波形の包絡線が100kHzの理想的なサイン波形となるよう変調してプラズマを発生させて、成膜処理を行った。
このとき、電力S1、S2及びS3の合成ポイントの上部電極4aにおける電圧値と、マッチング回路21、22及び23それぞれから読み取ったインピーダンス値とから計算した電力値は、交流電源11、12、13それぞれの出力電力合計値とほぼ同一となり、電力ロスが非常に少ないことが測定結果として得られた。
【0038】
成膜処理は2100×2400mmの寸法の上記ガラス基板100上に行った。ここで、上部電極4aと下部電極4bとの離間距離(=E/S)を50mmとし、下部基板4bを内部のヒータ9により250℃に加熱し、ガス供給部8から原料ガスとしてSiH4を5slm(standard liter (リットル)/min)、NH3を28slmにて供給し、プロセスチャンバー5内圧力を真空ポンプ6により200Paとした条件により成膜処理を行った。
また、合成ポイントにおける合成電力のパワーは25kWであり、通常の連続放電において異常放電を発生させる電力値であるが、本実施形態の場合には異常放電を生じずに、成膜速度を電力に対応して向上させることができた。
【0039】
上記成膜条件において、成膜速度は約200nm/minであり、膜質は連続放電にて成膜した場合と同様であった。
上述したように、基本周波数が1MHz以下と低いため、上記ガラス基板のような大型基板であったとしても、電力の定在波の影響を受けずに、基板面内の成膜速度分布が±5%範囲内に収まり、良好な膜厚分布の膜を形成することができた。
したがって、本発明は、シリコン窒化膜の成膜のように比較的大電力が必要なプロセスでの異常放電を抑制することに対しても、またアモルファスシリコンの成膜のように比較的小電力のプロセスにも、成膜処理における膜へのダメージ(損傷)を低減させ、このダメージによるパーティクル発生を抑制するためにに有効である。
【符号の説明】
【0040】
11,12,13,1n…交流電源
21,22,23,2n…マッチング回路
31,32,33,3n…バンドパスフィルタ
4…対向電極
4a…上部電極
4b…下部電極
5…プロセスチャンバー
6…真空ポンプ
7…排気部
8…ガス供給部
9…ヒータ
H…穴。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置における層間絶縁膜や素子保護膜を堆積する際、系内におけるガスの衝突により相互に活性化されラジカルとなり、低温下での膜の堆積が可能なプラズマCVD(Chemical vapor deposition)法が用いられることが多い(例えば、特許文献1参照)。
特に、半導体基板の大面積化に伴い、大面積にて均一の膜質で膜の堆積を行う必要性が多くなってきている。そのため、成膜を行うための交流電力を、大面積において均一な成膜が可能な低周波(1MHz近傍)により供給することが行われている。
【0003】
しかしながら、低周波電力によるプラズマ発生の際、成膜面内における放電の偏りや、異常放電状態が発生する問題がある。
成膜面内における放電の偏りに関しては、最終的に製造された半導体装置の品質がばらつくこととなり、安定した半導体装置の製造が行えなくなる。
また、異常放電に関しては、半導体装置に形成される膜が不良状態となり、また低周波電力が印加されている電極自体にも損傷を与え、以後の成膜が良好な状態にて行えなくなるため、損傷が生じた電極を交換する必要がある。
【0004】
異常放電は上述した放電の局所的な偏りが大きくなった場合に発生すると考えられる。
そのため、この異常放電の発生を抑制するため、交流波信号である電力を間欠的に、すなわち電力波形の包絡線をパルス形状として供給することにより、放電を間欠的に発生させて、局所的な偏りの増大を抑制させている。
図7に示す回路により、電力波形の包絡線形状をパルス形状とし、プラズマCVD装置の電極に供給する構成とすることにより、異常放電を抑制することができる。
この図7において、低周波電源100とFET101のゲートとの間に、スイッチ手段102を介挿し、このスイッチ手段102を一定の周期にてオン/オフ制御することにより、FET101のゲートに対して、上記一定の周期にて間欠的に低周波電力(800kHz)のパルスを供給する構成としている。この図7におけるスイッチ手段102をオンオフする周期と、そのディユーティ比により、図8に示すように任意の周期及びデューティ比の包絡線形状を有する電力を供給することができる。
【0005】
上述したように、プラズマ発生に対して間欠放電とした結果、連続放電にて15kWにて異常放電が発生していた条件にて、電力を25kWの放電においても異常放電が発生しないことが確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−273038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7の構成による間欠放電において、パルスのオン/オフ比(すなわち、デューティ比)が高く、あるいは上記包絡線のパルス周波数(ここでは、スイッチをオンオフする周波数)が高くなるに従い、連続放電状態と同等に成膜速度を上昇させることができる。
しかしながら、連続放電状態の場合と同様に、放電面内における放電の偏り(異常放電)が発生する。
上述した異常放電は、放電が行われる環境により異なると考えられるが、パルスがオン状態、すなわち放電が行われている時間が一定以上となると連続放電に近い状態となる。
【0008】
また、パルス放電は間欠的にプラズマを発生しているため、連続放電に比較してガスの分解効率が悪くなり、成膜速度が遅くなるために生産効率が低下する。
このガスの分解効率を向上させるため、連続放電の場合に比較して高いパワーにより放電し、かつ異常放電の発生を抑制させるため、放電状態とするパルスのオン時間を短く、すなわちパルス周波数を高くする必要がある。
しかしながら、間欠放電を制御するパルス周波数を高くして放電を行うと、低周波電源(RF電源)の反射波Prが増大し、プラズマ発生に寄与するパワーを増加させることができない。
【0009】
この要因としては、低周波の連続波形をフーリエ変換すると、図9(a)に示すようにほぼ単一の周波数にピークが生じるが、パルス状にて低周波電力を供給する場合、図9(b)に示すように、低周波の周波数のピークの両側にパルス波形の側波(サイドバンド)が生じており、この側波が供給するパワーを低下させている。図9(a)及び(b)のグラフにおいて、横軸が周波数であり、縦軸が強度である。
すなわち、側波が反射波となり低周波電源に対するフィードバック信号となり、低周波電源は反射波が入力されると出力するパワーを低下させることとなる。
そして、パルス周波数を高くするほど側波成分が多くなり、これに伴って反射波のパワーが大きくなり、低周波電源が出力するパワーを低下させるので、プラズマを発生させる十分なパワーを供給できなくなる。
【0010】
上記側波成分による反射波を、低周波の周波数帯に対応したバンドパスフィルタを用いることで抑制させることができる。
しかしながら、低周波電源とプロセスチャンバーに設けられた電極(上部側)との間には、図11に示すように、インピーダンスの整合調整を行うマッチング回路(マッチングネットワーク)が設けられている。
このマッチング回路は、伝送周波数特性を有し、すなわち整合用に調整された周波数のみを通過させる特性を有している。
したがって、例えば、800kHzの低周波に対応してインピーダンス整合されたマッチング回路は、その800kHz近傍以外の前後における周波数の信号を伝達することができず、反射波としてしまう。
【0011】
また、すでに述べたように、低周波電源から図7の回路を介し、電力波形の包絡線をパルス波形にて伝達する成分には、基本周波数以外の周波数の側波成分を有している。
このため、上記側波成分の多くは、マッチング回路を通過せずに熱としてエネルギが損失されるか、または低周波電源に対する反射波となる。
したがって、マッチング回路を通過する波形は、低周波電源から図7の回路を介して出力される矩形形状が歪んだ波形形状に変化され、上記プロセスチャンバーに設けられた電極へ伝達される。
上述した伝達状態は、低周波の周波数である基本周波数と、パルス周波数とが近い数値ほど顕著になり、結果的に約75%程度のエネルギがマッチング回路を通過することができず、高いパワーがプロセスチャンバーの電極に対して伝達されない。
【0012】
また、矩形上のパルスにより変調するのではなく、図10に示すように交流波形、例えばサイン波により変調(AM変調)する構成もある。プラズマを発生させない状態とするためには、ゼロクロス点を設ける必要があり、サイン波によってもゼロクロス点は存在してプラズマが間欠して生成されることになる。
しかしながら、電力波形の包絡線が矩形波の場合のように多くの側波ではないが、この変調に用いた交流波形の周波数に対応した側波が生じ、理論上において基本周波数以外に2本の側波が存在することになる。
この交流波形による側波成分に対するマッチング回路の伝達特性の問題は、すでに述べた矩形状パルスによる側波成分の場合と同様であり、通過後の波形は歪んでしまい、十分なパワーをプロセスチャンバーの電極に対して伝達することができない。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、電力波形の包絡線の波形のパルス周波数を高くし、かつ高いパワーにて低周波電力をプロセスチャンバーの電極に伝達させ、異常放電を抑制して従来と同様の速度により成膜するプラズマCVD装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のプラズマ発生装置は、異なる基本周波数の電力を出力する複数の交流電源と、
前記交流電源各々の出力に設けられた複数の整合回路と、2つの電極が対向して設けられたプラズマ反応器の対向電極と、該対向電極のいずれか一方の電極と、前記整合回路各々との間に設けられ、それぞれ対応する前記交流電源の前記基本周波数を通過帯域の中心周波数とする複数のバンドパスフィルタとを有し、複数の前記交流電源の出力するそれぞれの電力を、前記対向電極のいずれか一方の電極に対して同時に印加し、複数の異なる基本周波数を合成した合成電力により、間欠的にプラズマを発生させる。
上述した構成により、本発明のプラズマ発生装置は、各交流電源から連続した電力を出力するため、整合回路からの反射が無く、交流電源が反射波により出力を低下させるフィードバック制御を行わなくなるため、成膜速度の向上に対し、十分なパワーをプロセスチャンバーの電極に対して出力することができる。
また、本発明のプラズマ発生装置は、整合回路に交流電源から連続波として電力が入力されるため、側波が入力されたときのように、反射波及び内部による熱エネルギへの変換が起こらず、十分なパワーをプロセスチャンバーの電極に対して出力することができる。
また、本発明のプラズマ発生装置は、整合回路(マッチング回路)と、各交流電源の出力する電力を合成する電極との間にバンドパスフィルタを設けたため、整合回路に対し、自身以外の周波数成分が入ることがなく、整合回路が連続波として制御を行うことが可能なため、十分なパワーをプロセスチャンバーの電極に対して出力することができる。
【0015】
本発明のプラズマ発生装置は、使用する前記交流電源の出力する電力のパワーを調整することにより、前記電極に対して供給する合成電力の波形及びパワーを制御することを特徴とする。
【0016】
本発明のプラズマ発生装置は、使用する前記交流電源の出力する電力の振幅値を調整することにより、前記電極に対して供給する合成電力の波形及びパワーを制御することを特徴とする。
【0017】
本発明のプラズマ発生装置は、前記合成電力の波形の包絡線は、サイン波の波形形状となることを特徴とする。
【0018】
本発明のプラズマ発生装置は、前記交流電源を3個以上用いる場合、
前記交流電源のそれぞれの基本周波数を1MHz以下とし、
それぞれの基本周波数の差を1〜100kHzの範囲内とすることを特徴とする。
【0019】
本発明のプラズマCVD装置は、上記いずれかに記載のプラズマ発生装置を用い、前記対向電極の他方を、薄膜を形成する基板を配置する基板配置電極とし、
前記薄膜を成膜する原料ガスを、前記対向電極間に供給するガス供給部を有することを特徴とする。
【0020】
本発明のプラズマCVD装置は、前記ガス供給部が原料ガスとしてSiH4(モノシラン)と、NH3(アンモニア)とを供給し、前記基板にシリコン窒化膜を成膜することを特徴とする。
【0021】
本発明のプラズマCVD装置は、前記ガス供給部が原料ガスとしてSiH4(モノシラン)を供給し、前記基板にシリコン膜を成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、各交流電源の基本周波数と、各交流電源の電力のパワーの数値とを調整することにより、対応電極の一方の電極に与える合成電力波形の包絡線を任意の形状とすることができ、プラズマの発生周期を異常放電が発生しないように可変することが可能である。
また、本発明によれば、電極にて複数の周波数の交流波形を合成するため、各マッチング回路に対し、基本周波数のみの交流波を供給するため、マッチング回路から交流電源に対する反射波が基本的に存在しないため、交流電源が設定された高いパワーの電力を出力することが可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、マッチング回路と電極との間にバンドパスフィルタを介挿しているため、他の交流電源からの基本周波数が、各交流電源に対応したマッチング回路に入力されることがなく、マッチング回路が誤った整合動作を起こすことがないため、交流電源に設定された高いパワーの電力を出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態によるプラズマ発生装置を用いたプラズマCVD装置の構成例を示す概念図である。
【図2】図1のプラズマ発生装置における上部電極4aに印加する合成電力波形を示す波形図である。
【図3】図1のプラズマ発生装置における上部電極4aに印加する合成電力波形を示す波形図である。
【図4】図1のプラズマ発生装置における上部電極4aに印加する合成電力波形を示す波形図である。
【図5】図1のプラズマ発生装置における上部電極4aに印加する合成電力波形を示す波形図である。
【図6】図1のプラズマ発生装置における上部電極4aに印加する合成電力波形を示す波形図である。
【図7】電力波形の包絡線をパルス形状とする従来回路の構成を示す概念図である。
【図8】図7の回路により生成された電力波形を示す波形図である。
【図9】図8に示す波形に含まれる側波について説明するため、電力波形をフーリエ変換した図である。
【図10】マッチングボックス(マッチング回路)における電力からの電力ロスにより、電力波形の歪みを説明する概念図である。
【図11】従来のプラズマ発生装置の構成を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態によるプラズマ発生装置を用いたプラズマCVD装置を図面を参照して説明する。図1は同実施形態によるプラズマCVD装置の構成例を示すブロック図である。
この図において、プラズマ発生装置は、交流電源11、12、13、…、1nと、マッチング回路21、22、23、…、2nと、バンドパスフィルタ31、32、33、…、3nと、上部電極4a及び下部電極4bからなる対向電極4とから構成されている。
また、プラズマCVD装置は、上記プラズマ発生装置に加えて、プロセスチャンバー5、真空ポンプ6、排気部7、ガス供給部8から構成されている。ここで、上記上部電極4aは中空構造となっており、ガス供給部8から供給される原料ガスがこの中空部に入り、上部電極4aの底部に複数明けられた穴Hから、下部電極4bの上面に対して面内均一に原料ガスがシャワー状に供給される。
【0026】
交流電源11、12、13、…、1n各々は、それぞれ異なった基本周波数F1、F2、F3、…、Fnの電力S1、S2、S3、…、Snを出力する。また、交流電源11、12、13、…、1n各々は、例えば、低周波電力源であり1MHz以下の交流周波数にて電力S1、S2、S3、…、Snを出力する。
マッチング回路21、22、23、…、2n各々は、それぞれ交流電源11、12、13、…、1nに接続され、基本周波数F1、F2、F3、…、Fnにおける対向電極4との整合用に設定されている。
バンドパスフィルタ31、32、33、…、3n各々は、一端がそれぞれ対応するマッチング回路21、22、23、…、2nに接続され、他端が全て同一の上部電極4aに接続されている。
【0027】
上述した構成により、交流電源11、12、13、…、1n各々から出力された電力S1、S2、S3、…、Sn各々は、それぞれマッチング回路21、22、23、…、2n及びバンドパスフィルタ31、32、33、…、3nを経由して、上部電極4aにおいて合成され合成電力となり、この合成電力のパワーに応じて対向電極4において、プラズマを発生させる。
マッチング回路21、22、23、…、2n各々に対して、それぞれ対応する交流電源11、12、13、…、1nが基本周波数の電力を連続波として出力している。このため、従来例のように、電力波形の包絡波がパルス状としてマッチング回路に供給されていないので、本実施形態においては、パルス周波数に対応した側波が生じることがなく、マッチング回路21、22、23、…、2nから、各交流電源11、12、13、…、1nに反射波が戻ることがなく、マッチング回路におけるパワーのロスが無く、任意のパワーを対向電極4に供給することができる。
【0028】
ここで、バンドパスフィルタ31、32、33、…、3n各々は、対応する交流電源11、12、13、…、1nそれぞれの基本周波数F1、F2、F3、…、Fnを通過帯域の中心周波数とするバンド幅の周波数成分しか伝達させないため、他の基本周波数を各対応するマッチング回路に対して伝達させることがない。このバンド幅は、他の基本周波数と重ならない範囲に設定されている。
すなわち、バンドパスフィルタ31、32、33、…、3n各々は、対応するマッチング回路に対して整合用に調整された基本周波数以外の周波数が入力され、誤った整合処理が行われないように、他の対応していない基本周波数の信号が、逆流としてマッチング回路に入力されないようにガードとして設けられている。
【0029】
また、プラズマCVD装置において、真空ポンプ6はプロセスチャンバー5内部の圧力を、原料ガスの特性及び流量に対応させ、プラズマ放電に必要な値に制御する。
上部電極4aには上記プラズマ発生装置から電力が印加され、下部電極4bは接地されている。上部電極4aに印加された電力により、上部電極4a及び下部電極4bとの対向する空間内に供給された原料ガスの原子、あるいは分子が電離され、プラズマ化した後、下部電極4b上面に配置された基板の表面にて反応し、成膜が行われる。
ガス供給部8は、設定された種類の原料ガスを、それぞれ設定された流量値にて、上部電極4a及び下部電極4bとの対向する空間内に供給する。
また、下部電極4bの内部には、ヒータ9が設けられており、成膜条件のひとつである基板温度の調整を行う。
排気部7は、ガス供給部8から供給される余分な原料ガスの排気を行う。
【0030】
次に、図2〜図4を用いて、本実施形態のプラズマ発生装置の動作として、交流電源11及び12の2つからの電力S1、S2を合成した合成電力の生成について説明する。図2〜図4は、基本周波数F1及びF2の電力S1、S2を合成した合成電力波形を示す波形図であり、横軸が時刻であり、縦軸がパワー(ピーク値で各波形値を除算して正規化している)を示している。
図2は、電力S1、S2を同一の振幅値(パワー値)とし、基本周波数F1=800kHz、基本周波数F2=900kHzとして、合成した合成電力の波形を示す波形図である。
図2に示す合成電力の波形の包絡線は、ほぼ100kHzのサイン波の波形形状となり、ゼロクロスをしていることから、プラズマ発生に必要な振幅以下の状態において、プラズマは発生しないため、間欠的にプラズマを発生させることができる。
【0031】
また、図3は、電力S1、S2を同一の振幅値とし、基本周波数F1=800kHz、基本周波数F2=1100kHzとして、合成した合成電力の波形を示す波形図である。
図3に示す合成電力波形の包絡線は、合成する周波数が離れすぎると、図2の場合と異なり、サイン波形とはならず、乱れた波形となる。
このことから、合成する2つの周波数の差は、1MHz以下の場合、1kH〜100kHzの範囲内とすることが適当であることがわかる。
この条件は、後に述べるように、合成する電力の周波数が3つ以上の場合にも同様であり、合成に用いる電力の基本周波数が1MHz以下の場合、それぞれの電力の基本周波数の差が1kHzから100kHzの範囲内とする必要がある。
【0032】
また、図4は、図2と同様に、電力S1、S2を、基本周波数F1=800kHz、基本周波数F2=900kHzとして、合成した合成電力の波形を示す波形図である。異なる点は、電力S1の振幅値:電力S2の振幅値=1:0.5、すなわち、電力S1の振幅値に対して、電力S2の振幅値を半分としており、位相は合わせてある。
図4からわかるように、合成電力波形の包絡線の周波数が図2の波形に比較して低下し、一方、ピーク値のパワーが上昇している。このため、合成する各電力の振幅比を調整することにより、波形の形状を変化させることができることがわかる。
このため、例えば、合成電力の振幅のピーク値を少し低下させたい場合、一方の電力波形の振幅のピーク値を「0」となるまで低下させなくとも、合成する各電力各々の振幅値の比を代えることにより、波形を任意に低下させることができる。
【0033】
例えば、図5は、電力S1(F1=700kHz)、S2(F1=800kHz)及びS3(F3=900kHz)の3つの電力を合成した合成電力の波形を示しており、縦軸がパワー(ピーク値で各波形値を除算して正規化している)を示している。
ここで、電力S1、S2及びS3の振幅として、電力S2の振幅を「1」とした場合、電力S1及び電力S3の振幅を「0.5」としている。これにより、図5の合成電力は、図2及び図4に示すサイン波形状の包絡線でなく、振幅が「0」である時間が発生し、パルス形状に近い包絡線となり、図7により発生される電力波形の包絡線形状に近くなる。
【0034】
また、図6は、電力S1(F1=600kHz)、S2(F1=700kHz)、S3(F3=800kHz)、S4(F4=900kHz)及びS5(F5=1000kHz)の5つの電力を合成した合成電力の波形を示しており、縦軸がパワー(ピーク値で各波形値を除算して正規化している)を示している。ここで、電力S1、S2、S3、S4及びS5の振幅として、電力S3の振幅を「1」とした場合、電力S1の振幅が「0.2」であり、電力S2の振幅が「0.7」であり、電力S4の振幅が「0.7」であり、電力S5の振幅が「0.2」と設定している。これにより、図5の合成電力は、図2及び図4に示すサイン波形状の包絡線でなく、図5と同様に包絡線がパルス形状となり、振幅が「0」である時間が図5に比較してより長く、かつピーク値が大きくなる。この結果から、合成する電力の振幅及び基本周波数を変化させることにより、ディユーティや振幅値を任意に調整できることがわかる。
【0035】
図5及び図6において説明したように、放電を行わない状態(振幅値が「0」近傍の状態)と、放電を行う状態との周期、及び放電のパワーを変化させるため、合成電力における波形の包絡線のパルス周期を制御する場合、合成する電力を多くし、それぞれの振幅値を変化させることにより実現できる。
すなわち、パルス波形は多くの異なる周波数のサイン波が合成されたものであるため、任意のパルス形状の包絡線を有する合成電力の形成は、複数の異なる基本周波数の電力の波形を合成することにより実現でき、放電オフ(放電が行われない)の状態にある時間幅を容易に制御することができる。
したがって、本実施形態のプラズマ発生装置は、上部電極4aに対して供給する合成電力の波形を調整する際、交流電源11、12、13、…、1nから必要な波形を合成するために必要な複数の交流電源の組合せを選択し、選択した交流電源各々の電力のパワーを制御することにより、必要な合成電力波形の包絡線の波形(周期及びデューティ)及びピーク値のパワーを有する合成電力を生成する。
【0036】
また、合成電力波形の包絡線は、上述したように、複数の電力の波形の合成により、矩形パルスに近くなるが、本実施形態において、マッチング回路21、22、23、…、2nと上部電極4aとの間に、それぞれバンドパスフィルタ31、32、33、…、3nを介挿しているため、従来例と異なり、マッチング回路における反射波の発生や、電力のパワーが熱エネルギに変換されるロスなどが発生しないため、交流電源11、12、13、…、1nから上部電極4aに対して、無駄なくパワーを伝達させ、異常放電を起こさずに成膜速度を向上させることができる。
【0037】
<応用例>
次に、応用例として、図1のプラズマCVD装置において、交流電源11及12の2つの交流電源を用いて、それぞれの電力S1及びS2を合成した合成電力により、ガラス基板100上にシリコン窒化膜の成膜を行った。
成膜条件としては、図2に示す合成電力と同様に、電力S1及びS2のピーク値の振幅を同様とし、基本周波数F1=800kHz、基本周波数F2=900kHzとし、合成電力波形の包絡線が100kHzの理想的なサイン波形となるよう変調してプラズマを発生させて、成膜処理を行った。
このとき、電力S1、S2及びS3の合成ポイントの上部電極4aにおける電圧値と、マッチング回路21、22及び23それぞれから読み取ったインピーダンス値とから計算した電力値は、交流電源11、12、13それぞれの出力電力合計値とほぼ同一となり、電力ロスが非常に少ないことが測定結果として得られた。
【0038】
成膜処理は2100×2400mmの寸法の上記ガラス基板100上に行った。ここで、上部電極4aと下部電極4bとの離間距離(=E/S)を50mmとし、下部基板4bを内部のヒータ9により250℃に加熱し、ガス供給部8から原料ガスとしてSiH4を5slm(standard liter (リットル)/min)、NH3を28slmにて供給し、プロセスチャンバー5内圧力を真空ポンプ6により200Paとした条件により成膜処理を行った。
また、合成ポイントにおける合成電力のパワーは25kWであり、通常の連続放電において異常放電を発生させる電力値であるが、本実施形態の場合には異常放電を生じずに、成膜速度を電力に対応して向上させることができた。
【0039】
上記成膜条件において、成膜速度は約200nm/minであり、膜質は連続放電にて成膜した場合と同様であった。
上述したように、基本周波数が1MHz以下と低いため、上記ガラス基板のような大型基板であったとしても、電力の定在波の影響を受けずに、基板面内の成膜速度分布が±5%範囲内に収まり、良好な膜厚分布の膜を形成することができた。
したがって、本発明は、シリコン窒化膜の成膜のように比較的大電力が必要なプロセスでの異常放電を抑制することに対しても、またアモルファスシリコンの成膜のように比較的小電力のプロセスにも、成膜処理における膜へのダメージ(損傷)を低減させ、このダメージによるパーティクル発生を抑制するためにに有効である。
【符号の説明】
【0040】
11,12,13,1n…交流電源
21,22,23,2n…マッチング回路
31,32,33,3n…バンドパスフィルタ
4…対向電極
4a…上部電極
4b…下部電極
5…プロセスチャンバー
6…真空ポンプ
7…排気部
8…ガス供給部
9…ヒータ
H…穴。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる基本周波数の電力を出力する複数の交流電源と、
前記交流電源各々の出力に設けられた複数の整合回路と、
2つの電極が対向して設けられたプラズマ反応器の対向電極と、
該対向電極のいずれか一方の電極と、前記整合回路各々との間に設けられ、それぞれ対応する前記交流電源の前記基本周波数を通過帯域の中心周波数とする複数のバンドパスフィルタとを有し、
複数の前記交流電源の出力するそれぞれの電力を、前記対向電極のいずれか一方の電極に対して同時に印加し、複数の異なる基本周波数を合成した合成電力により、間欠的にプラズマを発生させるプラズマ発生装置。
【請求項2】
使用する前記交流電源の出力する電力のパワーを調整することにより、前記電極に対して供給する合成電力の波形及びパワーを制御することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
使用する前記交流電源の出力する電力の振幅値を調整することにより、前記電極に対して供給する合成電力の波形及びパワーを制御することを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ発生装置。
【請求項4】
前記合成電力の波形の包絡線は、サイン波の波形形状となることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のプラズマ発生装置。
【請求項5】
前記交流電源を3個以上用いる場合、
前記交流電源のそれぞれの基本周波数を1MHz以下とし、
それぞれの基本周波数の差を1〜100kHzの範囲内とすることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のプラズマ発生装置。
【請求項6】
前記交流電源を3個以上用いる場合、
前記合成電力の波形の包絡線を矩形状とし、周期的に前記対向電極間にプラズマを発生させることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のプラズマ発生装置。
【請求項7】
前記請求項1から請求項6のいずれかに記載のプラズマ発生装置を用い、
前記対向電極の他方を、薄膜を形成する基板を配置する基板配置電極とし、
前記薄膜を成膜する原料ガスを、前記対向電極間に供給するガス供給部を有することを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項8】
前記ガス供給部が原料ガスとしてSiH4(モノシラン)と、NH3(アンモニア)とを供給し、前記基板にシリコン窒化膜を成膜することを特徴とする請求項7に記載のプラズマCVD装置。
【請求項9】
前記ガス供給部が原料ガスとしてSiH4(モノシラン)を供給し、前記基板にシリコン膜を成膜することを特徴とする請求項7に記載のプラズマCVD装置。
【請求項1】
異なる基本周波数の電力を出力する複数の交流電源と、
前記交流電源各々の出力に設けられた複数の整合回路と、
2つの電極が対向して設けられたプラズマ反応器の対向電極と、
該対向電極のいずれか一方の電極と、前記整合回路各々との間に設けられ、それぞれ対応する前記交流電源の前記基本周波数を通過帯域の中心周波数とする複数のバンドパスフィルタとを有し、
複数の前記交流電源の出力するそれぞれの電力を、前記対向電極のいずれか一方の電極に対して同時に印加し、複数の異なる基本周波数を合成した合成電力により、間欠的にプラズマを発生させるプラズマ発生装置。
【請求項2】
使用する前記交流電源の出力する電力のパワーを調整することにより、前記電極に対して供給する合成電力の波形及びパワーを制御することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
使用する前記交流電源の出力する電力の振幅値を調整することにより、前記電極に対して供給する合成電力の波形及びパワーを制御することを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマ発生装置。
【請求項4】
前記合成電力の波形の包絡線は、サイン波の波形形状となることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のプラズマ発生装置。
【請求項5】
前記交流電源を3個以上用いる場合、
前記交流電源のそれぞれの基本周波数を1MHz以下とし、
それぞれの基本周波数の差を1〜100kHzの範囲内とすることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のプラズマ発生装置。
【請求項6】
前記交流電源を3個以上用いる場合、
前記合成電力の波形の包絡線を矩形状とし、周期的に前記対向電極間にプラズマを発生させることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のプラズマ発生装置。
【請求項7】
前記請求項1から請求項6のいずれかに記載のプラズマ発生装置を用い、
前記対向電極の他方を、薄膜を形成する基板を配置する基板配置電極とし、
前記薄膜を成膜する原料ガスを、前記対向電極間に供給するガス供給部を有することを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項8】
前記ガス供給部が原料ガスとしてSiH4(モノシラン)と、NH3(アンモニア)とを供給し、前記基板にシリコン窒化膜を成膜することを特徴とする請求項7に記載のプラズマCVD装置。
【請求項9】
前記ガス供給部が原料ガスとしてSiH4(モノシラン)を供給し、前記基板にシリコン膜を成膜することを特徴とする請求項7に記載のプラズマCVD装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−109605(P2012−109605A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−28802(P2012−28802)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2008−44594(P2008−44594)の分割
【原出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2008−44594(P2008−44594)の分割
【原出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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