説明

プラズマGMA溶接トーチおよびプラズマGMA溶接方法

【課題】プラズマGMA溶接をスムーズに開始するとともに、良好な溶接ビードを形成することが可能なプラズマGMA溶接トーチおよびプラズマGMA溶接方法を提供すること。
【解決手段】ワイヤ供給手段7によって中心軸に沿って送り出されるワイヤWを支持するコンタクトチップ1と、コンタクトチップ1を囲うように同心軸上に配置されたプラズマ電極2と、プラズマ電極2を囲うように同心軸上に配置されたシールドノズル4と、を備えるプラズマGMA溶接トーチA1であって、プラズマ電極2の先端は、コンタクトチップ1の先端よりもワイヤWの送給方向前方に位置しており、かつプラズマ電極2の先端とコンタクトチップ1の先端との距離hは、ワイヤWの直径の4.1〜7.5倍である。このような構成により、ワイヤWの曲がりに起因する溶接ビードの乱れを解消するとともに、プラズマアークの点弧確率をきわめて高いものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマGMA溶接トーチおよびプラズマGMA溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来のプラズマGMA溶接に用いられる溶接装置の一例を示している(たとえば、特許文献1参照)。同図に示す溶接装置Yは、溶接トーチX、プラズマ電源94、GMA電源95、ワイヤ供給手段96、およびガスボンベ97を備えている。ワイヤ供給手段96からは、ワイヤWが供給される。ワイヤWは、溶接トーチXの中心軸に沿って送り出される。溶接トーチXは、コンタクトチップ91、プラズマ電極92、およびシールドノズル93を有している。
【0003】
コンタクトチップ91は、ワイヤWを支持している。プラズマ電極92は、コンタクトチップ91を囲っており、コンタクトチップ91と同心軸上に配置されている。コンタクトチップ91とプラズマ電極92との隙間には、ガスボンベ97から不活性ガスがプラズマガスとして供給されている。シールドノズル93は、プラズマ電極92を囲っており、プラズマ電極92と同心軸上に配置されている。プラズマ電極92とシールドノズル93との隙間には、ガスボンベ97から不活性ガスがシールドガスとして供給されている。
【0004】
プラズマ電源94は、プラズマ電極92と溶接対象材Pとの間に電圧を印加することにより、プラズマアークを発生させるための電源である。GMA電源95は、ワイヤWからアークを発生させるための電圧を印加することによりGMAアークを発生させるためのものである。
【0005】
溶接装置Yによる溶接の利点は、溶接対象材Pの同一箇所に対してプラズマ溶接とGMA溶接とを同時に行うことにある。すなわち、プラズマガスをプラズマ化することにより生じさせたプラズマアークを噴出することにより、溶接対象材Pの一部が溶融状態となる。この溶融状態となった部分に、ワイヤWの溶滴が供給される。これにより、溶接対象材PをたとえばGMA溶接のみによって溶接する場合と比べてより確実に溶接することができる。また、GMA電源95からの電圧印加によって生じたGMAアークは、プラズマ化されたプラズマガスに内包されることとなる。これにより、GMAアークの挙動を安定させるのに有利である。この他にも、溶接装置Yによる溶接の利点として、以下の事項が挙げられる。プラズマアークの存在により、ワイヤW先端の溶滴の表面張力が低下する。このため、ワイヤWからの溶滴切れがよくなる。また、プラズマアークによってワイヤWの溶融が促進される。これにより、GMA電源95からの電流を大きくすること無く、より多くのワイヤWを溶融させることが可能であり、高能率溶接に適している。また、シールドガスGsに加えて、プラズマアークによってGMAアークおよび溶接箇所をシールドする格好となる。これにより、溶接部に不純物が取り込まれることを防止することができる。さらに、プラズマアークによってGMAアークを拘束する効果が期待できる。
【0006】
しかしながら、溶接装置Yによる溶接には、以下のような問題があった。
【0007】
まず、ワイヤWの曲がりに起因する溶接不良が発生する点である。すなわち、ワイヤWは一般的に巻き取られた状態から伸ばされて溶接トーチXに送給される。このワイヤWに残存する曲がりの程度によっては、プラズマ電極92やシールドノズル93の中心軸からワイヤWが大きくずれてしまう。このため、プラズマアークの中心からGMAアークが外れてしまうこととなる。この結果、溶接ビードの最深部がビード中央に対して片寄ってしまったり、アンダカットが生じたりするなど、溶接不良となるおそれがあった。
【0008】
一方、ワイヤWからGMAアークが発生するGMAアーク発生箇所は、ワイヤWの送給速度やGMA電源95からの電流値が釣り合うように位置する。このため、これらの条件が一定であれば、GMAアーク発生箇所とコンタクトチップ91の先端との距離は、大きく変化することはない。ここで、溶接対象材Pおよびプラズマ電極92の位置関係が一定である場合に、コンタクトチップ91のみが溶接対象材Pに近づけられた構成を考える。コンタクトチップ91が近づけられる分だけ、GMAアーク発生箇所が溶接対象材P側に移動する。このため、プラズマ電極92とGMAアーク発生箇所との距離が相対的に大きくなってしまう。GMAアークはプラズマアークを誘発するものであるため、このような構成では、プラズマアークを確実に点弧させることができないという不具合があった。
【0009】
さらに、溶接トーチXにおいては、シールドノズル93がプラズマアークを絞る役割を果たす。シールドノズル93は、一般的に水冷構造とはされていないため、高温となることがある。このようなシールドノズル93によっては、プラズマアークを十分に絞ることができず、溶け込み深さが不足する原因となっていた。また、シールドノズル93によってプラズマアークを絞るためには、シールドノズル93の先端開口の直径を小さくすることが有利である。しかし、先端開口を小さくし過ぎると、プラズマガスの動圧が不当に高くなる。これは、GMAアークを点弧させるのに不利である。さらに、プラズマガスおよびシールドガスの流量が十分でないと溶け込み深さ不足の原因となる。
【0010】
【特許文献1】特開昭63−168283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、プラズマGMA溶接をスムーズに開始するとともに、良好な溶接ビードを形成することが可能なプラズマGMA溶接トーチおよびプラズマGMA溶接方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の側面によって提供される溶接トーチは、ワイヤ供給手段によって中心軸に沿って送り出されるワイヤを支持するコンタクトチップと、上記コンタクトチップを囲うように同心軸上に配置されたプラズマ電極と、上記プラズマ電極を囲うように同心軸上に配置されたシールドノズルと、を備えるプラズマGMA溶接トーチであって、上記プラズマ電極の先端は、上記コンタクトチップの先端よりも上記ワイヤの送給方向前方に位置しており、かつ上記プラズマ電極の先端と上記コンタクトチップの先端との距離は、上記ワイヤの直径の4.1〜7.5倍であることを特徴としている。
【0013】
このような構成によれば、上記距離が上記ワイヤの直径の7.5倍以下であることにより、上記ワイヤを上記溶接トーチの中心軸上に適切に配置することができる。これにより、最深部が中央に位置する良好な溶接ビードを形成することができる。また、上記距離が上記ワイヤの直径の4.1倍以上であることにより、プラズマアークの点弧確率をほぼ100%とすることが可能であり、プラズマGMA溶接をスムーズにスタートすることができる。
【0014】
本発明の第2の側面によって提供されるプラズマGMA溶接方法は、ワイヤ供給手段によって中心軸に沿って送り出されるワイヤを支持するコンタクトチップと、上記コンタクトチップを囲うように同心軸上に配置されたプラズマ電極と、上記プラズマ電極を囲うように同心軸上に配置されたシールドノズルと、を備えるプラズマGMA溶接トーチと、上記プラズマGMA溶接トーチにガスを供給するガス供給手段と、上記コンタクトチップと溶接対象材との間に電圧を印加するGMA電源と、上記プラズマ電極と溶接対象材との間に電圧を印加するプラズマ電源と、を用いるプラズマGMA溶接方法であって、上記プラズマ電極と上記シールドノズルとの間に同心軸上に配置されたプラズマノズルをさらに備えており、上記プラズマ電極の先端開口は、直径が上記ワイヤの直径の3.3〜5.9倍とされており、上記プラズマノズルの先端開口は、直径が上記プラズマ電極の先端開口の直径以上であり、かつ上記ワイヤの直径の5.8〜7.5倍とされており、上記ガス供給手段は、上記コンタクトチップおよび上記プラズマ電極の隙間にセンターガスとして、上記プラズマ電極および上記プラズマノズルの隙間にプラズマガスとして、上記プラズマノズルと上記シールドノズルの隙間にシールドガスとして、それぞれ不活性ガスを供給し、かつ、上記センターガスおよび上記プラズマガスを合計した流量を上記プラズマノズルの先端開口面積で除した流量密度が、0.39L/(mm2・min)以上であることを特徴としている。
【0015】
このような構成によれば、上記プラズマ電極と上記プラズマノズルにより、上記センターガスおよび上記プラズマガスを不当に広がらせることなく、十分に絞った状態で吐出させることができる。また、上記プラズマノズルにより、プラズマアークを適切に緊縮させることが可能である。さらに、上記センターガスおよび上記プラズマガスの流量密度を上記範囲とすることにより、上記センターガスおよび上記プラズマガスが吐出されるときの動圧を高めることが可能であり、溶け込み深さを深くするのに好適である。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1の側面に係るGMA溶接トーチが用いられた溶接装置の一例を示している。本実施形態の溶接装置B1は、溶接トーチA1、プラズマ電源5、GMA電源6、ワイヤ供給手段7、およびガスボンベ8を備えている。溶接装置B1は、溶接対象材Pの同一箇所に対してプラズマ溶接とGMA溶接とを同時に行うことが可能に構成されている。
【0019】
溶接トーチA1は、コンタクトチップ1、プラズマ電極2、およびシールドノズル4を備えており、その中心軸に沿ってワイヤWを送り出すように構成されている。
【0020】
コンタクトチップ1は、ワイヤWを支持するとともに、ワイヤWとGMA電源6とを導通させるためのものである。コンタクトチップ1は、CuまたはCu合金などからなり、溶接トーチA1の中心軸を規定する略円筒形状とされている。コンタクトチップ1の内径は、ワイヤWを挿通可能としつつ、十分に導通させることが可能なサイズとされている。本実施形態においては、ワイヤWの直径は、1.2mmとされている。
【0021】
プラズマ電極2は、プラズマ電源5からの電圧を印加するためのものであり、たとえばCuまたはCu合金製である。プラズマ電極2は、コンタクトチップ1を囲うように同心軸上に配置されており、略円筒形状とされている。プラズマ電極2とコンタクトチップ1との間には、隙間が設けられている。また、プラズマ電極2は、図外に設けられた冷却水を通すためのチャネルにより、間接的に水冷されている。
【0022】
コンタクトチップ1とプラズマ電極2との隙間には、ガスボンベ8からプラズマガスGpが供給される。プラズマガスGpは、たとえばArガスなどの不活性ガスである。コンタクトチップ1とプラズマ電極2との隙間に供給されたプラズマガスGpは、溶接トーチA1の先端から噴出される。
【0023】
シールドノズル4は、シールドガスGsの噴出方向を規定するためのものである。シールドノズル4は、プラズマ電極2を囲うように同心軸上に配置されており、略円筒形状とされている。シールドノズル4とプラズマ電極2との間には、隙間が設けられている。
【0024】
プラズマ電極2とシールドノズル4との隙間には、ガスボンベ8からシールドガスGsとしてたとえばArガスなどの不活性ガスが供給される。このシールドガスGsは、溶接箇所が酸化されることを防止するためのものである。プラズマ電極2とシールドノズル4との隙間に供給されたシールドガスGsは、シールドノズル4によって、溶接トーチA1の中心軸から大きく広がらないように噴出される。
【0025】
本実施形態においては、コンタクトチップ1の先端とプラズマ電極2の先端との距離hが、5〜9mmとされている。これは、後述する本発明の作用を奏することを意図したものであり、距離hをワイヤWの直径の4.1〜7.5倍とすることに意義がある。
【0026】
プラズマ電源5は、プラズマガスGpをプラズマ化することによりプラズマアークを生じさせるために必要な電力を供給するための電源である。プラズマ電源5は直流電源であり、たとえばその陽極がプラズマ電極2に、その陰極が溶接対象材Pに、それぞれ接続されている。
【0027】
GMA電源6は、ワイヤWと溶接対象材Pとの間にGMAアークを発生させるために必要な電力を供給するための電源である。GMA電源6は直流電源であり、たとえばその陽極がコンタクトチップ1に、その陰極が溶接対象材Pに、それぞれ接続されている。
【0028】
ワイヤ供給手段7は、溶接トーチA1に向けてワイヤWを供給するためのものである。本実施形態においては、ワイヤ供給手段7は、モータ(図示略)と、このモータによって駆動される1対のローラとによって構成されている。ワイヤ供給手段7によるワイヤWの供給速度は、プラズマ電源5およびGMA電源6による投入電力に応じて制御可能とされている。ワイヤWの材質としては、たとえばFe、Alなどを用いればよい。
【0029】
次に、溶接トーチA1の作用について説明する。
【0030】
本実施形態によれば、ワイヤWの曲がりに起因する溶接不良の発生を防止することができる。溶接トーチA1においては、コンタクトチップ1の先端とプラズマ電極2の先端との距離hが、5〜9mmとされている。図2に示すように、距離hが9mmを越える範囲においては、ワイヤWの曲がりによるワイヤWの芯ずれが顕著となる。このため、溶接ビードの最深部が溶接ビードの中央から外れてしまう。これに対し、距離hが9mm以下であれば、ワイヤWを溶接トーチA1の中心軸上に適切に配置することができる。これにより、最深部が中央に位置する良好な溶接ビードを形成することができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、プラズマアークを確実に点弧させることができる。図2に示すように、距離hが5mm未満の範囲においては、プラズマアークの点弧確率Prが、おおむね50%未満となっている。これは、従来技術の説明で述べたように、コンタクトチップ1の先端が溶接対象材Pに相対的に近づけられると、プラズマ電極2の先端とワイヤWのGMAアーク発生箇所との距離が相対的に大きくなりすぎてしまうことに起因すると考えられる。プラズマアークの点弧を失敗すると、プラズマGMA溶接を適切に開始することができない。これに対し、距離hが5mm以上の範囲においては、コンタクトチップ1がプラズマ電極2に対して溶接対象材Pから遠ざけられた位置とされる。このため、ワイヤWのGMAアーク発生箇所がプラズマ電極2に対して適切な位置となるように近づけられる。この結果、点弧確率Prがほぼ100%となっている。したがって、プラズマアークの点弧を確実に行うことが可能であり、プラズマGMA溶接をスムーズにスタートすることができる。
【0032】
以上述べたように、距離hを5〜9mmとすることにより、良好な溶接ビードを形成しつつ、プラズマアークの点弧を確実に行うことができる。このような作用を奏するための条件としては、ワイヤWの直径に対して距離hを適切な範囲に設定することが有効であるという知見が、発明者らの実験によって得られた。具体的には、距離hをワイヤWの直径の4.1〜7.5倍とすれば、上述した作用を奏することができる。
【0033】
図3は、本発明の第2の側面に係るGMA溶接方法に用いられる溶接装置の一例を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0034】
本実施形態の溶接装置B2は、溶接トーチA2、プラズマ電源5、GMA電源6、ワイヤ供給手段7、およびガスボンベ8を備えている。溶接装置B2は、溶接対象材Pの同一箇所に対してプラズマ溶接とGMA溶接とを同時に行うことが可能に構成されている。後述するように、ガスボンベ8からArガスなどの不活性ガスを供給する構成とすることにより、本実施形態のプラズマGMA溶接方法は、プラズマMIG溶接方法に分類されるものとなっている。
【0035】
溶接トーチA2は、コンタクトチップ1、プラズマ電極2、プラズマノズル3、およびシールドノズル4を備えており、その中心軸に沿ってワイヤWを送り出すように構成されている。
【0036】
コンタクトチップ1は、ワイヤWを支持するとともに、ワイヤWとGMA電源6とを導通させるためのものである。コンタクトチップ1は、CuまたはCu合金などからなり、溶接トーチAの中心軸を規定する略円筒形状とされている。コンタクトチップ1の内径は、ワイヤWを挿通可能としつつ、十分に導通させることが可能なサイズとされている。本実施形態においては、ワイヤWの直径は、1.2mmとされている。
【0037】
プラズマ電極2は、プラズマ電源5からの電圧を印加するためのものであり、たとえばCuまたはCu合金製である。プラズマ電極2は、コンタクトチップ1を囲うように同心軸上に配置されており、略円筒形状とされている。プラズマ電極2とコンタクトチップ1との間には、隙間が設けられている。また、プラズマ電極2は、図外に設けられた冷却水を通すためのチャネルにより、間接的に水冷されている。本実施形態においては、プラズマ電極2の先端開口2aの直径d1が、4〜7mmとされている。これは、後述する本発明の作用を奏することを意図したものであり、直径d1をワイヤWの直径の3.3〜5.9倍とすることに意義がある。
【0038】
コンタクトチップ1とプラズマ電極2との隙間には、ガスボンベ8からセンターガスGcが供給される。センターガスGcは、たとえばArガスなどの不活性ガスである。コンタクトチップ1とプラズマ電極2との隙間に供給されたセンターガスGcは、先端開口2aを経て、溶接トーチAの先端から噴出される。
【0039】
プラズマノズル3は、GMAアークおよびプラズマアークを絞るためのものであり、たとえばCuまたはCu合金製である。プラズマノズル3は、プラズマ電極2を囲うように同心軸上に配置されており、略円筒形状とされている。プラズマノズル3には、冷却水を通すためのチャネルが形成されており、直接水冷される構造となっている。プラズマノズル3の先端は、プラズマ電極2の先端に対してワイヤWの送給方向前方に位置している。本実施形態においては、プラズマノズル3の先端開口3aの直径d2が、7〜9mmとされている。これは、後述する本発明の作用を奏することを意図したものであり、直径d2をワイヤWの直径の5.8〜7.5倍とすることに意義がある。
【0040】
プラズマ電極2とプラズマノズル3との隙間には、ガスボンベ8からプラズマガスGpとしてたとえばArガスなどの不活性ガスが供給される。このプラズマガスGpは、プラズマアークを絞るためのものである。プラズマ電極2とプラズマノズル3との隙間に供給されたプラズマガスGpは、先端開口3aを経て、溶接トーチA2の先端から噴出される。
【0041】
シールドノズル4は、シールドガスGsの噴出方向を規定するためのものである。シールドノズル4は、プラズマノズル3を囲うように同心軸上に配置されており、略円筒形状とされている。シールドノズル4とプラズマノズル3との間には、隙間が設けられている。
【0042】
プラズマノズル3とシールドノズル4との隙間には、ガスボンベ8からシールドガスGsとしてたとえばArガスなどの不活性ガスが供給される。このシールドガスGsは、溶接箇所が酸化されることを防止するためのものである。プラズマノズル3とシールドノズル4との隙間に供給されたシールドガスGsは、シールドノズル4によって、溶接トーチA2の中心軸から大きく広がらないように噴出される。
【0043】
プラズマ電源5は、センターガスGcをプラズマ化することによりプラズマアークを生じさせるために必要な電力を供給するための電源である。プラズマ電源5は直流電源であり、たとえばその陽極がプラズマ電極2に、その陰極が溶接対象材Pに、それぞれ接続されている。
【0044】
GMA電源6は、ワイヤWと溶接対象材Pとの間にGMAアークを発生させるために必要な電力を供給するための電源である。GMA電源6は直流電源であり、たとえばその陽極がコンタクトチップ1に、その陰極が溶接対象材Pに、それぞれ接続されている。
【0045】
ワイヤ供給手段7は、溶接トーチA2に向けてワイヤWを供給するためのものである。本実施形態においては、ワイヤ供給手段7は、モータ(図示略)と、このモータによって駆動される1対のローラとによって構成されている。ワイヤ供給手段7によるワイヤWの供給速度は、プラズマ電源5およびGMA電源6による投入電力に応じて制御可能とされている。ワイヤWの材質としては、たとえばFe、Alなどを用いればよい。
【0046】
溶接装置B2を用いたGMA溶接方法においては、センターガスGcとプラズマガスGpとを合計した流量が25L/min以上とされる。これは、後述する本発明の作用を奏することを意図したものであり、プラズマノズル3の先端開口3aの面積で上記流量を除した流量密度が、0.39L/(mm2・min)以上であることに意義がある。このような流量密度とするために、ガスボンベ8からArガスなどの不活性ガスを供給する経路には、流量調整手段FCとして、たとえばニードル弁付きのフロート式流量計やマスフローコントローラが設けられている。
【0047】
次に、本発明の第2の側面に係るGMA溶接方法の作用について説明する。
【0048】
図4は、プラズマ電源5からのプラズマ電流を150Aとし、GMA電源6からの消耗電極電流を平均250A程度となるパルス電流として、溶接速度60cm/minの条件で、センターガスGcとプラズマガスGpとを合計した流量Qを変えた場合の溶け込み深さdpを示している。同図から理解されるように、流量Qが25L/min未満の範囲においては、溶け込み深さdpが5mmを大きく下回っている。これに対し、流量Qが25L/min以上の範囲においては、溶け込み深さdpが5mm以上となっており、流量Qの増加に伴い溶け込み深さdpが深くなる傾向を示している。
【0049】
この理由として、発明者らは、流量Qの大きさと、プラズマ電極2の先端開口2aおよびプラズマノズル3の先端開口3aの直径との関連を見出した。まず、プラズマ電極2の先端開口2aの直径d1を、4〜7mmとすることにより、センターガスGcをワイヤWを囲いつつ、ワイヤWから大きく広がらないように吐出することができる。次にプラズマノズル3の先端開口3aの直径d2を7〜9mmとすることにより、プラズマガスGpが、ワイヤWに沿って吐出されるセンターガスGcを不当に乱すことなく、センターガスGcを適度に絞るように吐出される。さらに、チャネル内の冷却水によって直接水冷されたプラズマノズル3は、溶接中において顕著に低い温度で保たれるため、プラズマアークを適切に緊縮させることができる。このような効果を奏するには、直径d1をワイヤWの直径の3.3〜5.9倍とし、直径d2をワイヤWの直径の5.8〜7.5倍とすることが好適である。
【0050】
これに加えてセンターガスGcとプラズマガスGpとの動圧を高めることにより、適切な溶け込み深さが得られる。この動圧を高めるためには、流量Qをプラズマノズル3の先端開口3aの面積で除した流量密度が、0.39L/(mm2・min)以上であることが好適であることが発明者らの研究によって判明した。
【0051】
本発明に係るプラズマGMA溶接トーチおよびプラズマGMA溶接方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るプラズマGMA溶接トーチおよびプラズマGMA溶接方法の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の側面に係る溶接トーチが用いられる溶接装置の一例を示すシステム構成図である。
【図2】GMA溶接におけるプラズマアーク点弧確率、および溶接ビード断面を示すグラフである。
【図3】本発明の第2の側面に係る溶接方法に用いられる溶接装置の一例を示すシステム構成図である。
【図4】GMA溶接における流量密度と溶け込み深さとの関係を示すグラフである。
【図5】従来のGMA溶接装置の一例を示すシステム構成図である。
【符号の説明】
【0053】
A1,A2 (GMA)溶接トーチ
B1,B2 溶接装置
d2,d3 開口径
Gc センターガス
Gp プラズマガス
Gs シールドガス
h 先端間距離
P 溶接対象材
W ワイヤ
1 コンタクトチップ
2 プラズマ電極
2a 先端開口
3 プラズマノズル
3a 先端開口
4 シールドノズル
5 プラズマ電源
6 MGA電源
7 ワイヤ供給手段
8 ガスボンベ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ供給手段によって中心軸に沿って送り出されるワイヤを支持するコンタクトチップと、
上記コンタクトチップを囲うように同心軸上に配置されたプラズマ電極と、
上記プラズマ電極を囲うように同心軸上に配置されたシールドノズルと、
を備えるプラズマGMA溶接トーチであって、
上記プラズマ電極の先端は、上記コンタクトチップの先端よりも上記ワイヤの送給方向前方に位置しており、かつ上記プラズマ電極の先端と上記コンタクトチップの先端との距離は、上記ワイヤの直径の4.1〜7.5倍であることを特徴とする、溶接装置。
【請求項2】
ワイヤ供給手段によって中心軸に沿って送り出されるワイヤを支持するコンタクトチップと、
上記コンタクトチップを囲うように同心軸上に配置されたプラズマ電極と、
上記プラズマ電極を囲うように同心軸上に配置されたシールドノズルと、
を備えるプラズマGMA溶接トーチと、
上記プラズマGMA溶接トーチにガスを供給するガス供給手段と、
上記コンタクトチップと溶接対象材との間に電圧を印加するGMA電源と、
上記プラズマ電極と溶接対象材との間に電圧を印加するプラズマ電源と、
を用いるプラズマGMA溶接方法であって、
上記プラズマ電極と上記シールドノズルとの間に同心軸上に配置されたプラズマノズルをさらに備えており、
上記プラズマ電極の先端開口は、直径が上記ワイヤの直径の3.3〜5.9倍とされており、
上記プラズマノズルの先端開口は、直径が上記プラズマ電極の先端開口の直径以上であり、かつ上記ワイヤの直径の5.8〜7.5倍とされており、
上記ガス供給手段は、上記コンタクトチップおよび上記プラズマ電極の隙間にセンターガスとして、上記プラズマ電極および上記プラズマノズルの隙間にプラズマガスとして、上記プラズマノズルと上記シールドノズルの隙間にシールドガスとして、それぞれ不活性ガスを供給し、かつ、上記センターガスおよび上記プラズマガスを合計した流量を上記プラズマノズルの先端開口面積で除した流量密度が、0.39L/(mm2・min)以上であることを特徴とする、プラズマGMA溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−229705(P2008−229705A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76462(P2007−76462)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】