説明

プランクトン計数方法およびプランクトン計数装置

【課題】プランクトンの計数に使用されるプランクトン計数方法において、精度よくプランクトンの生死判断および生きているプランクトンを計数することを目的とする。
【解決手段】プランクトンの大きさを事前に区分けさせるプランクトン選別工程を設けたという構成にしたことにより、プランクトンの大きさが揃うことで、プランクトン染色した後の発光点の光量、発光面積の設定もある程度狭い範囲で設定することが可能であり、また励起光の照射時間や発光画像を撮影する撮影時間も一定の時間で安定した発光の光量を得ることができることとなるので、プランクトンとして認識する判断が容易にでき、精度良くプランクトンの個体数を計数できるプランクトン計数方法を得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水、清水などに生殖するプランクトンの個体数の計測、生死判断に使用されるプランクトン計数方法およびプランクトン計数装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のプラントン計数装置は、顕微鏡あるいは蛍光顕微鏡で目視で確認し、生きているプランクトンをカウントするプランクトン計数方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
以下、そのプランクトン計数方法について説明する。
【0004】
プラクトンには、数多くの種類があり、その種類によって、生死の判断が難しい。その生死の判断として、増殖可能な能力の有無を判断する方法がプランクトンの種類によって、大きく異なる。以下に主な生死の判断方法を示す。(1)形態の変化:顕微鏡観察によって、個体の形状、例えば鞭毛の消失や細胞組織の不明瞭の有無の確認。(2)運動性の有無:運動性をもつ種については、運動性の有無を顕微鏡観察で確認。(3)染色法による細胞内活性状態の判定:試薬で生細胞を染色し、蛍光顕微鏡で発光した細胞の有無を確認。(4)再成長試験:培養液に対象の個体をいれ、細胞の生死、増殖を確認。前記4つの方法から1つあるいは4つ全ての方法を用いて、対象の検体中(たとえばサンプリングした海水など)に生きている、即ち増殖可能なプラントンの生死を判断し、生きていると判断したプランクトンのみを目視で判断し、計数している。
【0005】
また、従来のこの種のプラクトン計数装置は、光遮断式の粒子検出手段と蛍光検出方式の組合せによりプランクトンを計数する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
以下、そのプランクトン計数方法について説明する。
【0007】
光遮断式の粒子検出手段によって粒子と判断した粒子に蛍光照射手段によって、励起光を照射し、クロロフィルを有したプラクントンは蛍光を発光するため、その発光量を蛍光検知手段によって検出し、蛍光量と予め既知で1種類のプランクトンの個体数との検量線から算出し、プラクントン個体数として計数するものである。
【0008】
また、プランクトンの計数装置ではないが、細菌の計数方法として、蛍光染色法を用いた細菌の計数方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
以下、その細菌の計測方法について説明する。
【0010】
生菌のみに反応して生菌のみを蛍光発色させる試薬と、その試薬で染色された生菌に光源から照射光を照射して、蛍光発光した光の波長差、光強度および大きさから生菌を判断して、生菌数を計数している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−254891号公報
【特許文献2】特開2001−286296号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】福代康夫他著「バラスト水規制とバラスト水処理装置の開発事例」(株)エヌ・ティー・エス出版、2008年9月3日発行、29−47頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような従来のプラクントン計数方法においては、前記(1)から(4)の方法について、顕微鏡あるいは蛍光顕微鏡を用いて目視で計数する方法であるため、個体数の数がある程度多くないと(たとえば、1000個以上)、顕微鏡の視野の範囲が全体の一部しか計測できず、また、視野の中である程度の個数がないと全体の割合が均一とは限らないため、個体数を精度よく計数できない。また、目視での判断であるため、個人の技能、経験に大きく影響する。形態の変化や運動性の有無は、プランクトンの形態、種類などを熟知していないと生死の判断ができないため、個人の技能の差によって精度良く計数できない。また、染色法を用いた方法については、プランクトンの種類に対応して、試薬の種類や染色時間などを十分に検討する必要があり、未だに確立した方法がない。また、再成長試験の方法については、最低でも5日間培養することが必要であり、結果が判明するのに長時間かかり、また、増殖した場合には、最初の個体数が何個だったのか見極めるのが難しい。従来のプラクトン計数方法に関しては、上記のような課題を有していた。
【0014】
また、光遮断式の粒子検出手段と蛍光検出方式による従来のプラクントン計数方法においては、プラクントンが死んだ場合でも、その殺菌方法によって、クロロフィルが細胞内に残存している場合には、検知するため、生死の判断が難しい。また、光遮断式によって、粒子を測定する方法との組合せでの検知であるため、検体(海水など)を通過させる検知の部分は、非常に狭い流路となり、多量の検体を測定することが難しい。更に、プランクトンの大きさは、数μm〜数百μmと広範囲であるため、異なる大きさのプランクトンが含まれる検体を測定すると、大きなプランクトンと重なって小さなプランクトンを精度良く測定できない。従来のプラクントン計数方法に関しては、上記のような課題を有していた。
【0015】
また、蛍光染色法を用いた従来の細菌の計数方法においても、細菌の大きさは、せいぜい0.2μm〜1μmであり、範囲が狭いため、通常は、1μm以下の大きさの発光点を検知するだけで、細菌の測定が可能である。プランクトンは、数μm〜数100μmの大きさであり、かつ、形状も円形から細長いものやつながっているものなど多岐に亘っており、この従来の計数方法の応用として、大きさからプランクトンと判別するのが非常に難しい。従来の細菌の計数方法に関しては、上記のような課題を有していた。
【0016】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、個人の技量に依存せず、かつ自動的に計測できるものであって、生死の判断および個体数を精度良く計数でき、また大きさが大きく異なる多種類のプランクトンを含む検体であっても、精度良く計数できるようにしたプランクトン計数方法およぶプランクトン計数装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そして、この目的を達成するために、本発明は、検体中のプランクトンにプランクトンの生理活性と反応する染色試薬でプランクトンを染色した後、プランクトンを計数するプランクトン計数方法であって、プランクトンの大きさを事前に区分けさせるプランクトン選別工程を有したものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【0018】
さらに、この目的を達成するために、本発明は、検体中のプランクトンにプランクトンの生理活性と反応する染色試薬でプランクトンを染色した後、プランクトンを計数するプランクトン計数装置において、プランクトンの大きさを事前に区分けさせるプランクトン選別手段と、予め定められた波長域で励起光を照射する光源と、前記励起光によって発光する予め定められた波長域の光を画像として撮影する画像撮影手段と、前記光源によって照射された励起光により発光した光を一定の時間内に撮影し、その撮影した撮影画像の発光点の光量および面積が設定した範囲内であるときにプランクトン1個と判断してプランクトンを計数するプランクトン計数手段とからなるとしたものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プランクトンの大きさを事前に区分けさせるプランクトン選別工程を設けたという構成にしたことにより、プランクトンの大きさが揃うことで、プランクトン染色した後の発光点の光量、発光面積の設定もある程度狭い範囲で設定することが可能であり、また励起光の照射時間や発光画像を撮影する撮影時間も一定の時間で安定した発光の光量を得ることができることとなるので、プランクトンとして認識する判断が容易にでき、精度良くプランクトンの生死および個体数を計数できるという効果を得ることができる。
【0020】
また本発明によれば、プランクトンの大きさを事前に区分けさせるプランクトン選別手段を設けたという構成にしたことにより、プランクトンの大きさ毎に励起光の照射時間、発光点の光量を計測するための画像撮影時間を一定にすることができることとなるため、発光したプランクトンの発光点を撮影した撮影画像の発光点の光量、面積を設定しやすくなることになり、撮影した画像をもとに自動的にプランクトンと判断し、計数できるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態2のプランクトン計数方法のプランクトンろ過後に染色試薬で染色状態を示す模式図
【図2】同計測検体の模式図
【図3】本発明の実施の形態3のプランクトン計数装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の請求項1記載のプランクトン計数方法は、検体中のプランクトンにプランクトンの生理活性と反応する染色試薬でプランクトンを染色した後、プランクトンを計数するプランクトン計数方法であって、プランクトンの大きさを事前に区分けさせるプランクトン選別工程を有したという構成を有する。
【0023】
これにより、プランクトンの大きさが揃うことで、プランクトン染色した後の発光点の光量、発光面積の設定もある程度狭い範囲で設定することが可能であり、また励起光の照射時間や発光画像を撮影する撮影時間も一定の時間で安定した発光の光量を得ることができることとなるので、精度良くプランクトンの生死および個体数を計数できるという効果を得ることができるという効果を奏する。
【0024】
また、前記染色試薬を細胞内のエステラーゼと反応する試薬としたという構成にしてもよい。これにより、プランクトンの生死の判断を細胞内のエステラーゼの有無で判断できることとなるので、プランクトンの生死の判断が容易に行うことができ、エステラーゼと反応して発光した発光点を生きているプランクトンと判断し、その発光点を計数することで精度良く生きているプランクトンを計数できるという効果を奏する。
【0025】
また、前記染色試薬を細胞内のエステラーゼと反応する試薬とエステラーゼ以外の生理活性と反応する試薬1種類また複数種類の試薬とからなるという構成にしてもよい。これにより、1種類の波長域の発光だけでは、プランクトン以外のゴミや異物などによる発光に関してもプランクトンとして判断することになるので、エステラーゼ以外の生理活性とも反応する試薬と組合せて使用することにより、プランクトンの生死や生きているプランクトンの判断が確実にできるという効果を奏する。
【0026】
また、前記プランクトン選別工程によって大きさを区分けした後、前記染色試薬で染色されたプランクトンをフィルタにろ過し、フィルタ上のプランクトンを計測するという構成にしてもよい。これにより、染色されたプランクトンは、フィルタ表面上、つまり一定の高さで並べられているため、発光点ごとにピントの調整が不要で計測できるようになり、プランクトンの生死や生きているプランクトンの判断が確実にできるという効果を奏する。
【0027】
また本発明の請求項5記載のプランクトン計数装置は、検体中のプランクトンにプランクトンの生理活性と反応する染色試薬でプランクトンを染色した後、プランクトンを計数するプランクトン計数装置において、プランクトンの大きさを事前に区分けさせるプランクトン選別手段と、予め定められた波長域で励起光を照射する光源と、前記励起光によって発光する予め定められた波長域の光を画像として撮影する画像撮影手段と、前記光源によって照射された励起光により発光した光を一定の時間内に撮影し、その撮影した撮影画像の発光点の光量および面積が設定した範囲内であるときにプランクトン1個と判断してプランクトンを計数するプランクトン計数手段とからなるプランクトン計数装置とからなるという構成を有する。
【0028】
これにより、プランクトンの大きさ毎に励起光の照射時間、発光点の光量を計測するための画像撮影時間を一定にすることができることとなるため、発光したプランクトンの発光点を撮影した撮影画像の発光点の光量、面積を設定しやすくなることになり、撮影した画像をもとに自動的にプランクトンと判断し、計数できるという効果を奏する。
【0029】
また、前記プランクトン選別手段によって区分けされたプランクトンの大きさに応じて、前記光源からの照射時間および撮影時間を予め設定した値として、その設定した条件で前記撮影された発光点の光量および面積が設定した範囲内でプランクトン1個と判断し、判断したプランクトンを計数するという構成にしてもよい。これにより、大きさ毎で染色されたプランクトンを発光させる条件、発光した画像を撮影する条件、プランクトンの生死やプランクトンとして判断させる条件を一定にできるために、撮影画像の発光点の光量、大きさから判断しやすく、プランクトンの計数が自動的に行うことができるという効果を奏する。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0031】
(実施の形態1)
プランクトンの計数方法は、蛍光染色試薬で染色し、染色されたプラクントンに蛍光染色試薬に対応した波長の照射光を照射し、発光した蛍光の波長域の光強度、大きさなどから、プランクトンの計数を行うことができる。
【0032】
蛍光染色試薬は、核酸と反応するもの(例えばDAPI、AO、PIなど)、細胞が有している特定の酵素と反応するもの、呼吸活性と反応するもの(例えば、CTC)、基質を取り込みされて反応するもの(例えば、2−NBDG)などがあるが、いずれの染色試薬あるいは複数の染色試薬との組合せでも良い。その中でも、プランクトンの生死を簡単に測定する染色試薬としては、特定の酵素と反応する染色試薬が適している。この特定酵素とは、例えば、生きている細胞のみが細胞内に有しているエステラーゼと反応して、蛍光染色する試薬が代表例である。代表的な試薬は、5−カルボキシフルオレセインジアセテートアセトキシメチルエステル、5−(6−)カルボキシフルオレセインジアセテート、2‘,7’ビス−(2−カルボキシエチル)−5−(6−)カルボキシフルオレセインアセトキシメチルエステル、5−(6−)スルホフルオレセインジアセテート、フルオレセインジアセテート、5−クロロメチルフルオレセインジアセテート、5−(6−)カルボキシフルオレセインジアセテートスクシニミジルエステル、フルオレセイン−5−カルボニルアジドアセテートなどがあり、少なくともこの中から1種類あるいは複数種類を選んで、プランクトンの染色に用いる。
【0033】
また、染色試薬の種類によって、照射する励起光の波長域および蛍光の波長域が異なるため、試薬に対応した波長域の励起光および染色された細胞に励起光を照射した際に発光する蛍光の波長域に対応した受光フィルタを用いて、その波長域の蛍光を有しているか、および光量などを計測することが必要である。つまり、前記生きている細胞のみを染色する染色試薬をプランクトンに直接滴下あるいはプランクトンを含む溶液上の検体に滴下することによって、プランクトンの細胞内部に入り込み、細胞内のエステラーゼ酵素により加水分解し、加水分解した試薬は、励起光を照射すると蛍光を発する。
【0034】
この際に、プランクトンを染色および計数する際に大きく2つの方法がある。1つはプランクトンを含む検体に染色する試薬を染色に最適な濃度になるように量を調整して滴下する方法であり、もう1つはプランクトンを含む検体を一旦目的のプランクトンを捕集するために最適な孔径を有したフィルタでろ過し、フィルタ上のプランクトンを捕集して、そのフィルタ上のプラクントンに最適な濃度に調整した前記試薬を適切な量を滴下して、染色するのに適した時間フィルタ上に試薬をのせたままで染色し、染色されたあと、試薬をろ過する方法である。
【0035】
1つめの方法は、溶液のままスライドガラスなどに滴下してそのまま計測は可能であるが、溶液のまま計測を行うと溶液の厚みがあるため、計測するプランクトンの位置に合わせて焦点を合わせることや動いている場合には、動きに合わせて観察することが必要である。
【0036】
したがって、1つめの方法であっても、染色したあと、フィルタでろ過し、フィルタ上に捕集したプランクトンを計測する方が望ましい。フィルタ上に染色されたプランクトンを計測するため、フィルタを一定の高さで、かつ平滑な面にすることで、プランクトン毎に焦点を合わせることなく、一定の焦点でプランクトンの計測が可能である。
【0037】
このフィルタ上に染色されたプランクトンに励起光を照射して発光した蛍光を受光フィルタで試薬に対応した目的の波長域の光だけを通過させる受光フィルタを通して、その波長域の光量を光電素子などを用いて計測し、さらに設定した光量の範囲で発光している面積を光電素子などの面積から発光面積を算出し、生きているプランクトンであるかを判別し、生きているプランクトンと判別された発光体の個数を計数して、生きているプランクトン数を計数するものである。
【0038】
死んだプランクトンは細胞内からこのエステラーゼが減少し、プランクトンの種類によって異なるが速やかになくなり、そのため前記生きている細胞とのみ反応する試薬で染色されても蛍光を発しないので、生きているプランクトンとして計数しない。
【0039】
従って、例えばプランクトンを殺滅する装置などによって、プラクントンを殺滅した際に、殺滅する前と後の生きているプラクントン数を計測することで、プラクントンの殺滅効果などを計測することが可能である。
【0040】
ところで、プランクトンは、水中を浮遊する生物の総称であり、甲殻類、クラゲ、魚類の幼生などの動物プランクトンと珪藻類、藍藻類などの植物プランクトンに大きく分類され、その種類によって大きさや形態などは様々であり、大きさは、数μm〜数百μmと広範囲に亘る。
【0041】
一般的に、大きいプラクントンは、染色される試薬の取り込み量が多いなどによって、発光強度も大きい。蛍光発光した発光点を目視で観察する場合には、プランクトンの大きさに応じて、観察する時間などを調整することで対応することができるが、発光点を光電素子あるいはイメージセンサーなどにより、画像として取り込み、その画像から画像処理などを行って、プランクトンと判別する際には、大きさによって発光強度などが大きく異なると判別が難しい。つまり、発光強度が大きいと光電素子の容量がオーバーすることがあるため、画像がハレーション(真っ白な画像)を起こす可能性がある。
【0042】
通常、小さなプランクトンは発光強度が小さいため、励起光の光量を大きくして、具体的には、励起光の照射時間を長くし、蛍光発光している時間を長くして、蛍光発光している時間分を光電素子で受光し、積算された光量を発光点として画像として撮影する。
【0043】
大きなプラクトンに対しては、短い照射時間であっても、発光した画像を撮影するのに十分な発光の光量を得ることができる。
【0044】
つまり、プランクトンの大きさによって、小さなプランクトンには励起光の照射時間を長く、大きなプラクントンには照射時間を短くすることで、最適な発光点の画像を撮影することができる。これをどちらかに合わせると、短い照射時間では小さなプランクトンを測定するには十分な蛍光発光した光量を得ることが難しく、長い照射時間では、大きなプランクトンではハレーションなどを起こし、プランクトンを計測するための適切な画像をえることは難しい。
【0045】
これを防止するためにある程度の大きさのプランクトン毎にまず分類して、大きさ毎に最適な照射時間を設定することでプランクトンの計測することが必要である。
【0046】
具体的なプランクトンをある程度の大きさに分ける方法(プランクトン選別工程)としては、プランクトンを含んだ溶液を孔径の異なるプレフィルタを用いてろ過する。
【0047】
例えば、500μm以上、100μm以上、50μm以上、10μm以上をろ過できる4種類のプレフィルタを用意して、まず500μm以上のプレフィルタで検体をろ過することで、計測目的のプランクトン以外の大きなゴミなどをこのプレフィルタで除去する。
【0048】
このろ過されたろ液には、500μm以下のプランクトンが含まれる。このろ液の一部を孔径0.4μmのフィルタでろ過する。このフィルタは、セルロース系、ナイロン系などの種類はあり、どのフィルタでも孔径がある程度揃っているものであれば良いが、フィルタ表面の凹凸が少なく、孔径が一定で、蛍光を測定するのに最適な黒色のポリカーボネートのアイソポアメンブレンフィルタが好ましい。
【0049】
フィルタ上には、数μm〜500μm以下のプランクトンが捕集されているが、染色試薬の濃度、励起光の照射時間、受光時間は、100μm〜500μmのプランクトンの蛍光発光の画像を撮影するのに最適な濃度、時間を設定して、蛍光発光した画像をイメージセンサーなどで撮影する。
【0050】
この撮影された画像には、100μm以下のプランクトンの発光画像も撮影されるが、発光画像の面積から100μm〜500μmのプランクトンと判断された発光点のみを計数する。発光点の発光画像の面積と実際のプランクトンの大きさとは合致しない場合がある。発光面積の設定は、計測した各種プランクトンを長さの目盛がついた計数板に検体をいれ、顕微鏡を用いて実際の大きさを確認し、蛍光画像の面積との検証、評価確認を行い、蛍光画像の面積の設定値を決定する。
【0051】
なお、発光面積は、染色試薬の濃度、照射時間、受光時間によって異なるため、これらに応じて面積を設定する必要がある。
【0052】
同様に100μm以上のプレフィルタでろ過したろ液に関しては、50μm〜100μmのプランクトン、50μm以上のプレフィルタでろ過したろ液に関しては、10μm〜50μmのプランクトン、10μm以上のプレフィルタでろ過したろ液に関しては、10μm以下のプランクトンとして、それぞれに最適な染色濃度、照射時間、受光時間を設定し、その発光点の発光画像の面積からそれぞれの大きさでプランクトンと判別したプランクトン数を計数する。
【0053】
なお、プランクトンを大きさ毎に分ける方法として、プレフィルタを用いたが、それ以外の例えば、電気的な誘導を用いて分ける方法や遠心分離を用いて分ける方法などがあり、いずれの方法を用いても良い。
【0054】
また、大きさの区分として、4種類のプレフィルタを用いて4段階に分けたが、もっと細かく区分しても、荒く区分しても良く、大きさを設定した範囲で精度良く、プランクトンの発光を得ることができ、発光点の発光面積からプラクントンと判別できる発光画像を得ることができれば良い。
【0055】
但し、少なくとも、50μm以上と未満などの2段階に分けないと精度良く計測することができない。
【0056】
また、励起光を照射する光源は所定の波長が得られる光源であれば良いが、照射時間、受光時間は、光源の種類によって異なる。
【0057】
水銀ランプを用いた場合は、励起光の光強度が高いため、0.1秒以下の短い時間で十分に蛍光発光が可能であるが、光強度が弱いLEDなどを用いた場合には、照射時間を数秒の長い時間に設定することが必要である。
【0058】
照射時間は光源によって変わるので、光源の光強度に合わせて設定するが、同じ光源を用いて行う場合には、大きいプランクトンの時の照射時間は、小さいプランクトンを計測するときの照射時間よりも短い時間になる。受光時間については、照射時間と同じ時間である。蛍光染色試薬で染色されたプランクトンは、光源によって励起光を照射されている間、蛍光を発する。その蛍光を発する時間のみを受光すれば良いので、照射時間と受光時間は同じで良い。但し、どちらかが長い時間など異なる時間に設定しても、受光する時間によって積算される光量で、発光画像を撮影するので、特に問題はないが、長い時間照射すると、染色試薬によって発光したプランクトンが消光するので、長時間照射したあとに蛍光を受光すると、消光して発光画像を得るのみ必要な光量を得られないこともある。
【0059】
フィルタ上の染色されたプランクトンの発光画像を撮影する計測の視野は、小さいとフィルタ全面積を測定するためにスキャンニングする回数が増え、大きいと光電素子やイメージセンサーの解像度(ピクセル数)によって、小さな発光点をプランクトンと判別するのが難しいので、一辺が数百μmから数mmが望ましい。
【0060】
大きなプランクトンは、視野の面積からはみでると測定できないため、一辺が数mm以上が望ましく、小さなプランクトンは一辺が数mm以下が望ましい。50μm以下のプランクトンについては一辺が1mm程度であれば十分測定ができる。
【0061】
実用的には、30万画素のイメージセンサーを用いて、数倍の拡大レンズを用いて、一辺が1mmの視野のフィルタ表面の発光画像を撮影するとプランクトンの発光画像が精度良く撮影できる。その撮影する個所を移動させて、フィルタ表面をスキャンニングすることで、フィルタの全面積あるいは一部の面積を測定して、フィルタ上のプランクトンを計数する。
【0062】
1つの発光画像で発光した光量と面積から設定した範囲にある光量と面積の発光点を画像処理で認識し、その認識された発光点をプランクトン1個として認識していき、その発光点を積算することで、プランクトンの個数として算出し、生きているプランクトンとして計数する。このような方法で、プランクトンを自動的にかつ精度良く測定できるものである。
【0063】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0064】
(実施の形態2)
プランクトンを含んだ検体(海水などの溶液、以下検体という)をプランクトン選別手段によって、設定した大きさ毎に選別する。プランクトン選別手段は、100μm以上をろ過するプレフィルタAと50μm以上をろ過するプレフィルタBを用いる。プレフィルタAでろ過したろ液Aには、100μm以下のプラクントンが存在する。プレフィルタBでろ過したろ液Bには、50μm以下のプランクトンが存在する。
【0065】
図1に示すようにろ液Bをプランクトン捕集手段である孔径0.4μmのメンブレンフィルタ1でろ過することで、メンブレンフィルタ1上に50μm以下(物理的には、0.4μm以上)のプランクトン2が捕集された状態にある。ろ液Aも同様に別のメンブレンフィルタ1でろ過することで、メンブレンフィルタ1上には、100μm以下のプランクトンが捕集された状態になる。
【0066】
プランクトン選別工程あるいはプランクトン選別手段は、プレフィルタを用いたが、プランクトンを大きさ毎に分ける手段であれば良く、例えば、電気誘導を用いて電気に引き寄せられる力の差で分離する方法や、遠心分離器を用いて、重量の違いによって区分けする密度勾配分離法を用いて大きさ毎に分離させる方法でも良い。
【0067】
メンブレンフィルタ上に捕集したプランクトン2を染色するために、最適な濃度に調製した染色試薬3をメンブレンフィルタ1上に滴下する。染色試薬3は、0.15mg/mlの6CFDA(6−カルボキシフルオレセインジアセテート)溶液を用い、直径9mmのメンブレンフィルタ1にろ液Bを1mlろ過し、このメンブレンフィルタ1上に染色試薬3を0.1ml滴下して、その状態のまま室温で10分間放置し、プランクトンを染色試薬3で染色する。
【0068】
その後、前記染色試薬3をろ過し、PBS0.1mlを滴下して、すぐにろ過を行うことで、メンブレンフィルタ1表面を洗浄する。この状態のものを図2に示す計測検体4として、メンブレンフィルタ1上の生きているプランクトン2を計数する。
【0069】
プランクトン2の計数方法としては、計測検体4を蛍光顕微鏡にセットして、染色試薬3に対応した波長の励起光(青色光)を計測検体4表面に照射して、黄緑色光の蛍光を発したものを生きているプランクトン2と目視で判断して計数する。その際、発光だけでなく、目視で観察するために発光の形態(大きさ、形など)を考慮してプランクトンと判断して、判断したものを計数する。
【0070】
また、1回の測定の視野は狭いため、メンブレンフィルタ表面をスキャンニングし、各視野でプランクトンを計数し、その個体数を積算する。メンブレンフィルタの面積全体ではなく、一部の面積しか測定できない場合には、測定した面積とメンブレンフィルタ全体の面積の比から、メンブレンフィルタ全体の個体数として算出し、メンブレンフィルタにろ過した検体の量、仮に1mlとすると、1ml当たりの生きているプランクトンの個体数として、計数することができる。
【0071】
プレフィルタを用いて、プランクトンをある程度の大きさに事前に区分けすることができているため、目視での観察であっても、大きさが揃っているので、発光の程度も同じであり、照射時間もほぼ一定でよく、レンズの倍率も一定のまま、プランクトンの判断が容易にできる。
【0072】
なお、染色試薬3は、細胞内のエスラーゼと反応して染色する6CFDAを溶媒のDMSOに溶かした溶液であるが、必要に応じて、水、PBS、EDTAなどの溶媒を混合した溶液を用い、エステラーゼを反応する試薬だけではなく、他の細胞の生理活性と反応する染色試薬を用いても良い。
【0073】
具体的には、核酸と染色する試薬DAPIと上記6CFDAを組合せて用いる。DAPIはUV光を照射して、青色に蛍光発光したものがプ生きているおよび死んでいるランクトンと仮に判断し、6CFDAは、青色光を照射して、黄緑色の蛍光発光したものが生きているプランクトンと判断する。
【0074】
つまり、両方の試薬で蛍光発光した点を生きているプランクトンと判断することで、プランクトン以外で発行している点を計数することで、より精度良く計数することができる。染色条件(染色試薬濃度、染色試薬量、染色時間、染色方法(フィルタ上での染色あるいは検体に滴下して染色など)など)に関しては、測定する対象、蛍光を検知する装置などによって、最適化を行い、決定する。
【0075】
(実施の形態3)
図3に計測検体4のプランクトンを自動的に測定するプランクトン計数装置の模式図を示す。
【0076】
図に示すように、LEDあるいは水銀灯などの光源5と光源から照射される光路に光源からの光を分光するための励起光分光フィルタ6と光路を変化させるためのプリズム7とレンズ8を通して、計測検体4表面に励起光を照射する。計測検体4は、台座9の検査台10に設置させ、台座は、X−Y方向に自動的に動くことで、計測検体4を移動させて、計測検体4のメンブレンフィルタ表面の励起光を照射させる部分を動かし、表面全体をスキャンニングすることができる構造になっている。
【0077】
計測検体4の染色させたプランクトンは励起光を照射されると蛍光を発する。この蛍光発光は、レンズ8によって集光され、プリズム7を通過し、所定の波長のみを通過させる蛍光分光フィルタ11によって、通過した波長の光のみ通し、イメージセンサーなどの画像撮影手段12によって、発光画像を撮影する。
【0078】
発光画像の各発光点の光強度と面積から画像処理によって得られた画像により、プランクトン計数手段13によってプランクトンと判断させた発光点をプランクトン1個の個体として計数し、全ての発光点に対してこの作業を実施し、プランクトンと判断された発光点を積算し、個体数を計数する。
【0079】
これは1つの撮影された撮影画像に対しての処理方法であり、メンブレンフィルタ1の面積に応じて、スキャンニングした場合には、そのスキャンニングした回数に応じた撮影画像が得られるため、この撮影画像全てに対して行い、プランクトンと判断した発光点を積算し、計数する。撮影画像の合計の面積とメンブレンフィルタの面積の比から、積算したプランクトンの個体数をメンブレンフィルタ面積全体の個体数として算出し、検体をろ過した量当たりのプランクトン個体数として、計数する。
【0080】
なお、1つ撮影画像の面積は、数100μm〜数10mm角の面積が好ましく、計測するプランクトンの大きさが数10μmであれば、数100μm〜数mm角、数100μmの大きさであれば、数mm〜数10mm角の面積が好ましい。発光点の面積とプランクトンの実際の大きさは必ずしも一致はしない。
【0081】
これは、励起光の光強度が大きいと発光した光強度も大きくなり、受光する際の受光時間を長くすることで、光強度も大きくなり、実際の大きさとは異なった発光面積を得られることになる。
【0082】
そのため、実際のプランクトンの大きさは、顕微鏡などを用いて大きさを計り、そのプランクトンを用いて、任意の値で設定した励起光の照射時間、光強度、受光時間などの条件で、発光点の面積と光量を確認し、その値での発光点の光強度と面積の範囲を事前に決める。その範囲から撮影画像の発光点をプランクトン計数手段13によって、プランクトンとして判断させ、計数する。
【0083】
また、通常の蛍光顕微鏡で目視で計数する場合には、発光点の大きさ(プランクトンの大きさ)によって、小さい発光点の場合には、レンズの倍率を高くし、大きい発光点の場合には倍率を小さくして、観察することができるが、自動的に行うことは難しい。ある範囲でプランクトンの大きさを揃えることで、照射光の光強度、照射時間、受光時間、撮影の視野面積を一定の値に設定できるため、発光画像の発光点の光強度、面積の範囲を設定しやすくなり、プランクトンの判断が簡単にできる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明にかかるプランクトン計数方法およびプランクトン計数装置は、プランクトンの大きさを揃えることで、プランクトンの個体数および生死判断は簡単に計測できることを可能とするものであるので、海水、汽水、淡水中のプランクトンの個体数の計数やプランクトンを殺滅する装置の効果の検証などに使用されるプランクトン計数方法およびプランクトン計数装置等として有用である。
【符号の説明】
【0085】
1 メンブレンフィルタ
2 プランクトン
3 染色試薬
4 計測検体
12 画像撮影手段
13 プランクトン計数手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中のプランクトンにプランクトンの生理活性と反応する染色試薬でプランクトンを染色した後、プランクトンを計数するプランクトン計数方法であって、プランクトンの大きさを事前に区分けさせるプランクトン選別工程を有したプランクトン計数方法。
【請求項2】
前記染色試薬を細胞内のエステラーゼと反応する試薬とした請求項1記載のプランクトン計数方法。
【請求項3】
前記染色試薬を細胞内のエステラーゼと反応する試薬とエステラーゼ以外の生理活性と反応する試薬1種類または複数種類の試薬とからなる請求項1のプランクトン計数方法。
【請求項4】
前記プランクトン選別工程によって大きさを区分けした後、前記染色試薬で染色されたプランクトンをフィルタにろ過し、フィルタ上のプランクトンを計数する請求項1から3いずれか記載のプランクトン計数方法。
【請求項5】
検体中のプランクトンにプランクトンの生理活性と反応する染色試薬でプランクトンを染色した後、プランクトンを計数するプランクトン計数装置において、プランクトンの大きさを事前に区分けさせるプランクトン選別手段と、予め定められた波長域で励起光を照射する光源と、前記励起光によって発光する予め定められた波長域の光を画像として撮影する画像撮影手段と、前記光源によって照射された励起光により発光した光を一定の時間内に撮影し、その撮影した撮影画像の発光点の光量および面積が設定した範囲内であるときにプランクトン1個と判断してプランクトンを計数するプランクトン計数手段とからなるプランクトン計数装置。
【請求項6】
プランクトン計数手段は、前記プランクトン選別手段によって区分けされたプランクトンの大きさに応じて、前記光源からの照射時間および撮影時間を予め設定した値として、その設定した条件で前記撮影された発光点の光量および面積が設定した範囲内であるときにプランクトン1個と判断してプランクトンを計数する請求項5記載のプランクトン計数装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−223924(P2011−223924A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96782(P2010−96782)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】