プラント保安管理システム
【課題】プラントの安全と信頼性を一層向上させるため、保安管理上の有益な情報提供を行い、その出力をオペレータや設備管理要員に、迅速且つ容易に提供することができるプラントの保安管理システムおよびそれを用いた方法を提供する。
【解決手段】 プラントの安全確保や事故防止、所謂、保安管理を支援するためのシステムであって、プロセス流体に対し、正常から逸脱した状態を組み合わせプロセス異常事象データとし、且つ、プラントを構成する機器に対して、正常から逸脱した状態とを組み合わせ機器損傷事象データとし、更に、これら個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間で要因と結果の関係を因果関係データとして保持する機能を具備する、プラント保安管理システムおよびそれを用いた方法を用いる。
【解決手段】 プラントの安全確保や事故防止、所謂、保安管理を支援するためのシステムであって、プロセス流体に対し、正常から逸脱した状態を組み合わせプロセス異常事象データとし、且つ、プラントを構成する機器に対して、正常から逸脱した状態とを組み合わせ機器損傷事象データとし、更に、これら個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間で要因と結果の関係を因果関係データとして保持する機能を具備する、プラント保安管理システムおよびそれを用いた方法を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラントの安全、且つ、安定的な運転を確保するための保安面の情報を管理するシステム、特に化学製品や石油製品の製造プラントや発電プラントの運転操作や設備管理に関する保安管理情報を提供するためのプラントの保安管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国では多くの石油化学プラントや発電所が稼働し、これらは、消防法、労働安全関連法令、高圧ガス保安法などの各種法令や自ら定めた保安に係わる規程に則り、その安全や設備の健全性の維持、確保が図られている。
【0003】
このような各種製造プラント(以下、プラントと記す。)は、通常、数多くの配管やケーブル、計装機器、電気機器、単位操作機器などの部位で構成されており、それらの物理的関係が相互に複雑に結び付けられて運転されている。
【0004】
この為、これまでにも、プラントの安全や設備の健全性の維持、確保については、設計及び建設段階に、プラントの重大な事故に繋がる可能性のあるプロセス異常や機器の損傷を特定し、各種計器による監視システムやインターロックシステムなどの防護回路の設置、機器仕様上でより安全な材料や構造の採用などの保安上の設備対策を行ってきている。
【0005】
また、実際に稼動を開始し既に運転しているプラントに対しては、プラントを構成する全ての部位を正常な状態に維持する為の監視と変異を許容範囲内に留める操作、更には、仮に何れかの部位に異常が生じた場合でも、これが他の部分に伝播、波及することを最小限度に留めること、その原因となった部分の排除もしくは軽減するなどの正常状態に復帰させるため処置を迅速かつ適切に施すといった、所謂、保安運転管理を適切に実施することが要求される。
【0006】
しかしながら、この保安運転管理については、プラントが数多くの部位(機器や部材)で構成されており、これら全ての部位が正常に維持されているかの判別と、仮に異常が発生していたとしても、その異常の度合いや緊急性、原因の特定、更には正常復帰するためのアクションは、必ずしも画一的では無く、これらを全て的確、且つ、迅速に行うことは極めて困難である。また、これを実施するオペレータについても、プラントや設備への理解度の不足などの人的な要素が加わり、このプラントの保安管理をより困難にしている。
【0007】
この為、操業中のプラントについても、その稼動状態に係わる安全性や信頼性の確保を目的とした情報を運転員に提供することを目的とした、各種の運転支援システムの提案と導入例が報告されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0008】
これらは、何れも運転中における、安全や保安に関する情報の提供に特化し、別途に運転支援システムとして構築し運転員に保安運転管理に係わる情報を提供する方式が採られている。
【0009】
これら運転支援システムは、事前に想定し得るプラントの異常状態と、その原因を予め計算機に登録し、実際のプラントから計測された値から、異常状態を推論し、運転員にガイダンスとして表示するものである(例えば、特許文献3,4,5参照)。
【0010】
この為、重要な異常や過去既に起きた事象を中心に登録した限定的なシステムとなり、当然登録された知識データの範囲外の推論やガイダンスの表示はできないことから、プラントの異常状態と、その原因となり得る要素を全て正確に登録し、更に実際のプラントの計測値を用い正確に判別するといった推論を達成することは極めて困難なものとなっており、常に登録したデータの見直しや、新規のデータの追加などのメインテナンスが必要とされ、実際の運用では、極めて煩わしいものとなっている。
【0011】
一方、プラント自体を構成する機器、設備の健全性の維持、確保に関しては、近年、各種の安全評価手法を用い、事前にプラントの潜在危険性の抽出からこの結果に基づく各種の保安上の安全策や冗長化を採用する試みがなされてきている(例えば、特許文献6,7,8参照)。
【0012】
即ち、HazOp解析(Hazard and Operability Study)、FMEA(Failure Modes and Effects Analysis)、FTA(Fault Tree Analysis)等の各種安全評価手法を用い、設備状況やプラントへ与える影響度に応じ、リスクに基づく点検や保守の計画を作成し、より効率的且つ信頼性を確保した設備管理方式の導入が推進されてきつつある。
【0013】
これら各種の安全評価手法は、その目的により各種方法が提案されているが、各々の安全評価を行うためには、かなり専門的な知識と労力を要求されることとなり、プラント全体を網羅し、且つ、全ての手法で各方面からの安全評価を実施されることが困難な為、その適応性を判断した上で、1つもしくは複数を選択し別個に実施しすることとなっている。
【0014】
又、刻一刻と設備の運転状態や性能が変化していく中、その都度、安全評価や運転支援システムに重要な知識データを登録や誤った知識の修正を行うといったメインテナンス作業を実施しなければ、有用システムとして維持できないだけで無く、これら安全評価や運転支援システムのメインテナンスをプラントのオペレータが実施するためには、ある程度の設備に関する知識や安全評価手法に関する知識が必要であり、同時に、膨大な労力や時間を費やすこととなり、結果的に日常の保安管理に活用できているとは言いがたい状況となっている。
【0015】
このように、プラントの保安管理に関しては、設備面の正常状態の維持と適切な運転操作面の何れをも対象とし、これらを同時且つ適切に維持管理すべき最重要課題であるにも拘らず、日常の運転操作に於いては、運転支援システムと設備の安全評価とは別途にシステムを構築し運用しているのみならず、運転操作面の運転支援システムが、直接設備保全に必要な情報を遅滞無く提供するものにはなっていない。
【0016】
当然、プラント設計時や建設時に検討した安全評価の結果や、保全計画の策定の為の安全評価手法に基づくリスク評価が、プラントを実際に運転しているオペレータへの有用な情報源として充分に活用もされているとは言いがたい状況となっている。
【0017】
特許文献1には、プラントからの入力データを貯えるプラントデータベースと、将来のプラント状態の定性的な進展予測を行うための知識を有する知識ベースと、前記プラントデータベースおよび知識ベースを用いてプラント状態の定性的な予測を行う推論エンジンと、前記推論エンジンの推論結果に基づいてプラント状態の定量的な予測解析を高速で行う簡易シミュレーターと、前記推論エンジンの推論結果を運転員に提供するためのユーザーインターフェースとを備え、前記プラントからの入力データに基づいてプラント状態の進展を迅速かつ定量的に予測するプラント状態予測支援装置が開示されている。
【0018】
特許文献2には、表示装置に表示されている警報情報のうち、特定の情報をオペレータが指定すると、検索条件指定部は、幾つかの検索条件を表示装置に表示し、前記オペレータが、ある検索条件を指定すると、運転マニュアルを運転マニュアルデータベースから検索して、該当するデータを表示装置に表示させるプラント運転支援装置が開示されている。
【0019】
特許文献3には、プロセスデータ入力手段と、これを保存するプロセスデータベースと、事象の因果関係ツリーと診断ロジックからなる診断知識を保存しておく知識ベースと、推論エンジンと、経路判定手段と、ガイダンスデータベースと、判定された事象発生経路の末端事象を異常原因として表示装置に表示するとともに、その原因に対応したガイダンスメッセージをガイダンスデータベースから取り出し表示する表示手段とを備えたプラント運転支援装置が開示されている。
【0020】
特許文献4には、診断知識および各事象の関連する系統図IDおよびトレンドグラフIDを保存する知識ベースと、この知識ベースおよびプロセスデータベースを参照して異常の診断を行う推論エンジンと、この推論エンジンによる診断結果から異常に至る事象発生経路を判定し、表示すべきトレンドグラフIDおよび系統図IDを選定する経路判定・関連データ選定手段と、前記トレンドグラフIDごとに対応するプロセスデータを収集し、履歴保存する履歴データベースと、ガイダンスメッセージを保存するガイダンスデータベースと、系統図情報を保存する系統図データベースと、判定・選定結果に基づき各データベースから表示情報を取り出し、表示装置へ表示する表示制御手段とを備えるプラント運転支援装置が開示されている。
【0021】
特許文献5には、プロセスデータ状態検知手段を備え、状態入力手段と、ユニット状態定義手段と、このユニット状態定義手段により定義された基準パターンを記憶させる空間的パターンデータベースと、前記状態入力手段が出力したユニットの状態データの特徴と空間的パターンデータベースに記憶させた基準パターンとを照合して、ユニットの状態が正常かどうかを判別するユニット状態関係抽出手段とを設けたプロセスユニットの状態検知装置が開示されている。
【0022】
特許文献6には、異常事象とその原因となる複数要因の関係、および該要因とその派生事象の関係を示すフォールトツリー図、前記派生事象の発生度合を示す事象評価値を用いて、前記要因の内のある要因が上記異常事象の原因であれば発生し得ない他の要因の派生事象について、この発生し得ない他の要因の派生事象を否定した否定形の派生事象を、上記ある要因の派生事象として上記フォールトツリー図に追加するプラント運転支援用異常事象原因究明方法が開示されている。
【0023】
特許文献7には、予防保全の対象となる機器すべてについてその機器の装置、系統またはプラントにおける機器の信頼度指標を計算し、更にこれに保全指標を表示させる予防保全機器ランキング表示装置が開示されている。
【0024】
特許文献8には、破損確率関数算出手段と、破損確率関数変更手段と、供用年数に応じて前記修正破損確率関数から得られる修正破損確率と予め設定された判定値とを比較して前記修正確率が前記判定値を越えると当該機器の取替えを判定する判定手段とを有し、前記修正破損確率に応じて前記プラント設備のリスクを管理するリスクマネージメント装置が開示されている。
【0025】
【特許文献1】特開平3−21822号公報
【特許文献2】特開平5−307692号公報
【特許文献3】特開平5−151484号公報
【特許文献4】特開平6−309584号公報
【特許文献5】特開平7−261826号公報
【特許文献6】特開平8−234833号公報
【特許文献7】特開平8−115108号公報
【特許文献8】特開2004−191359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
特許文献1においては、プラントからの入力データに基づいてプラント状態の進展を迅速かつ定量的に予測するだけで、予測も単層予測のみなので、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結しているものではなく、迅速且つ適切な対処ができない。
【0027】
特許文献2においては、各イベントの発生原因候補のうちオペレータが指示したものに対応した運転マニュアルデータベースから検索し、検索された運転マニュアルを表示装置に表示させるだけで特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0028】
特許文献3においては、最終的な原因が特定されても特定されなくても、診断により得られた情報をもとに、異常に対処する何らかの操作ガイダンスを表示するものであり、診断も単層予測のみなので、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0029】
特許文献4においては、推論エンジンによる診断結果に基づいて、経路判定・関連データ選定手段が事象発生経路を検索し、事象発生経路の末端事象である異常の原因および原因に対応する操作ガイドを求めているが、推論にはプロセスデータベースのみを使った単層推論なので、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0030】
特許文献5においては、ユニット状態定義手段とユニット状態検出手段を使ってユニットの状態を検出しているが、状態検出は単層検出のみで、プロセスについては何ら検出手段を持たず、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0031】
特許文献6においては、異常事象原因究明に原因究明用知識ベースと、対応処置検索用ベースと、対応処置チェック用知識ベースを使って一方通行的に単層による単純な原因究明を行う方法であり、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0032】
特許文献7においては、機器保全指標とコスト、信頼度指標とコストとの関係の視覚化により保全・検査のコスト的な最適化を図っているが、異常事象に対する原因究明には役立たない。
【0033】
特許文献8においては、修正破損確率に応じてプラント設備のリスク管理を目的としているので、供用年数に応じた修正破損確率関数で計算するだけのものであり、各プラント個別の不具合発生履歴などは加味していない一般的なデータしか使っていないので、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0034】
本発明は斯かる課題を解決するためになされたもので、プラントの安全と信頼性を一層向上させるため、機器損傷事象データベースとプロセス異常事象データベースを併用し、因果関係データベースで紐付けすることにより、運転員にプロセスの事象や機器の状態に関する保安管理上の情報として、想定される原因と、波及するであろう事象、この事象に係わる設備情報、運転操作情報、トラブル情報、プラントへの影響度と発生頻度等、保安管理上の有益な情報提供を行い、その出力をオペレータや設備管理要員に、迅速且つ容易に提供することができるプラントの保安管理システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
請求項1に記載の発明に係るプラント保安管理システムは、プラントを構成する機器の特定の箇所を流れるプロセス流体とこのプロセス流体の正常から逸脱した異常モードとを組み合わせたプロセス異常事象データを記憶するプロセス異常事象データ記憶部と、プラントを構成する機器と当該機器の正常から逸脱した機器損傷モードとを組み合わせた機器損傷事象データを記憶する機器損傷事象データ記憶部と、前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間での要因と結果の関係を因果関係データとして保持する因果関係記憶部とを具備するプラント保安管理システムである。
【0036】
前記プロセス異常事象とは、配管やケーブルなどの特定の箇所と、当該特定の箇所を流れる流体や電気などのプロセス流体の流量、温度、圧力、組成や混入物などの物理的要素が本来正常とされる領域から逸脱した異常な状態とを、一対一で組み合わせ表現しすることで、プロセス流体の異常状態を定義したものである。
【0037】
一方、機器損傷事象とは、プラントを構成する単位操作機器、計装機器、電気機器と、これらの機器の破損、閉塞、停止、性能・機能低下などの正常な状態から逸脱した損傷状態を組み合わせて定義したものである。
【0038】
各々のプロセス異常事象と機器損傷事象は、プロセス事象が他のプロセス事象に直接関連する場合、プロセス事象が機器損傷事象に直接影響する場合、機器損傷事象がプロセス事象に影響する場合、機器損傷事象が他の機器損傷事象に直接影響する場合に、これらの相互の状態的な繋がりを因果関係データとして関連付けを行うものである。
【0039】
直接的に影響するとは、仮にあるプロセス異常事象が起きたとした際に、プロセス的に直結した機器やプロセス流体への異常に直接波及することが明らかな場合を意味し、その後、他のプロセス異常事象や機器損傷事象と複合し発生する場合や、発生したプロセス異常事象が必ずしも直接的な要因とならない場合は、あえて因果関係として関連付けが必要でないことを意味する。
【0040】
但し、あるプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないプロセス異常事象や機器損傷事象であった場合でも、明らかに、その事象の要因であり、これにより影響を受けるプロセス異常事象や機器損傷事象がある場合は、直接的に影響するに該当し、因果関係データとして関連付けを行うことが可能であり、必ずしも実際の設備の接続状況に制限されること無く、状態の因果関係で連結することを可能にする。
【0041】
更に、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象は、他の複数のプロセス異常事象や機器損傷事象に関連付けができることから、複雑に絡み合ったプロセス異常事象や機器損傷事象の関係が漏れ無く表現できるだけで無く、また直接的としたことで、因果関係の登録が容易になり、更に幾つものプロセス異常事象や機器損傷事象が絡み合い必ずしも直接的に関連していない事象間の関係が登録されることを回避できる。
【0042】
また機器と機器を連結している配管やケーブルを個別にプロセス流体に組み合わせ、この組み合わせにおける温度、圧力、性状、組成などの状態要素に高、低、停止、変動、逆流などの本来の正常の値に対する逸脱の状態を掛け合わせてプロセス異常状態モードと定義し、一つのプロセス流体に対し、複数のプロセス異常状態モードを割付ることで、一つのプロセス流体であっても複数のプロセス異常事象として登録できるだけでなく、個々のプロセス異常事象の追加や削除、内容の修正などのメインテナンスが極めて容易となり、このことは、常にプロセス異常事象を最新且つ適正な状態に維持することが可能となる。
【0043】
又、機器損傷事象に対しても、プラントを構成する単位操作機器、計装機器、電気機器の個々に対し、その機器の種別に内在する破損、停止、性能劣化、機能不全、閉塞など正常な状態から逸脱した状態である複数の機器損傷モードを機器損傷事象を定義することで、プロセス異常事象と同様にメインテナンスを極めて容易にした。
【0044】
一つのプロセス異常事象が仮に起きて、これが他のプロセス異常事象を誘発させる場合、これは例えば同一プロセス流体であっても、温度が高くなると圧力も高くなるといった関係も、当然、後流側の他のプロセス流体のプロセス異常事象を誘発させる場合、更には、直接、機器の異常状態である機器損傷事象を引き起こす場合などといった、要因と結果の関係で、プロセス異常事象と誘発される他のプロセス異常事象や機器損傷事象の繋がりの関係を自身のプロセス異常事象のデータとして記憶させるようにした。
【0045】
当然、一つのプロセス異常事象に対し複数のプロセス異常事象や機器損傷事象の関連付けができることになっている。
【0046】
機器損傷事象に対しても同様に、自身の機器に内在する他の機器損傷事象を含め、他の機器の機器損傷事象やプロセス異常事象との、要因と結果の関係データを自身の機器損傷事象の因果関係データとして登録し保持できるようにした。
【0047】
プロセス異常事象及び機器損傷事象と、更にこれらが保持している因果関係データを、計算機内で連結する処理を実行することにより、対象としたプラント全体の異常状態間の関連が計算機内で構築され、プラントの変調の因果関係を整理したネットワークの形成が可能となることで、プラントの運転状態での挙動や特性を計算機内に保持することができるようになる。
【0048】
このプラントの計算機へのプロセス異常事象や機器損傷事象と、これら事象の因果関係の登録方法と、これらデータから構築された因果関係のネットワークを構築することで、仮に何れかのプロセス異常事象もしくは機器損傷事象を選択した場合に、これを要因として影響を受けるプロセス異常事象もしくは機器損傷事象を参照することができ、更にこの影響を受けたプロセス異常事象や機器損傷事象が要因となるプロセス異常事象もしくは機器損傷事象を参照するといった表示をできるようにすることで、プロセス内で起きた変調の波及や拡大する状態の追跡が可能となる。
【0049】
逆に、何れかのプロセス異常事象か機器損傷事象の要因となり得るプロセス異常事象もしくは機器損傷事象として登録されたものを遡り表示する機能を持たせることで、プロセス内で起きた変調の要因の抽出やプロセス異常事象や機器損傷事象に至った経路を検索することが可能となる。
【0050】
しかも、それぞれのプロセス異常事象や機器損傷事象は実際にはプロセス全体で複雑に絡み合った関係であるにも拘らず、単に、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象に直接の影響するプロセス異常事象や機器損傷事象を指定することのみで、このプロセス全体での変調の要因や波及、更にはこれら変調の進展する経路を容易に表現することができる。
【0051】
従来のような、予め一つの異常にその原因の事象から波及するであろうプロセスへの影響を表記する方法では、その内容の修正が発生した場合や、新たに追加したり削除する場合、その異常の内容の記載内容のみならず、それ以外の登録されている異常の内容も整合性を確認し、必要な場合、内容の書き換えを行うなどの膨大な作業が必要となっていたが、個々のプロセス異常事象と機器損傷事象とこれらの直接関連する因果関係を別途のデータとして個別に登録する方法では、単に、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象に登録されている因果関係のデータのみを修正するか、追加もしくは削除することのみで容易に適正状態に維持することが可能となる。
【0052】
個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象それぞれに対し、想定される発生頻度と、仮にプロセス異常事象もしくは機器損傷事象が起きた場合のプロセス全体に与える危険性や損失を影響度として、それぞれ最低でも2階層以上のランク付けを行いその結果を保持させることで、プロセス異常事象と機器損傷事象のプラントに対する重み付けができる。
【0053】
これにより、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象の対象としているプラントに於ける優先度が認識でき、この指標は日常の運転操作に於ける、重要な指標として利用できる。
【0054】
また、機器損傷事象の発生頻度と影響度のランク付けは、プラントを構成する個々の設備やそれに内在する損傷の維持管理の重要性の指標としても活用できる。
【0055】
実際のプラントの状態が個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象のそれぞれに対し、該当しているか否かを判別するために取り付けられた計測機器、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の発生を防止するための保安システムを登録し、これらの内容を参照することができる機能を具備することで、保安管理上で有用な情報を容易に参照することも可能となる。
【0056】
更に、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象それぞれに対し、直接関連する情報として、設計及び設備関連情報、運転管理・操作上のガイダンス、トラブル事象を登録し、これを保持する機能を持った保安関連データベースと関連付けする機能を持たせ、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象から、保安関連データベースの中から関連付けされた情報を検索し出力することで、更に高度な情報を運転員に提供することも可能となる。
【0057】
これら事象に関連する情報は直接事象にその内容を保持させるのでは無く、各々別のデータベースに記憶させ、個々の事象から参照できるようにインデックスを設け、このインデックスから情報を引き出せる方式を取ることで、その後の追加や削除、内容の修正や引用の変更や追加などのメインテナンスが極めて容易できる。
【0058】
実際のプラントの状態が個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象それぞれに対し、該当しているか否かを判別するために取り付けられた計測機器が指定されている場合にあって、プラントの実際のデータを取り込み、プロセス異常事象や機器損傷事象が現時点で該当するか否かを判別し、その結果を出力する機能を具備することで、運転支援用ツールとしても活用することができる。
【0059】
個々のプロセス異常事象は、他のプロセス異常事象および/または機器損傷事象とを要因と結果の関係で連結し、個々の機器損傷事象は他の機器損傷事象および/またはプロセス異常事象とを要因と結果の関係で連結した因果関係データを保持していることから、HazOp解析で必要な、ずれの原因、プロセスへの波及、防護手段の有無と内容が出力でき、そのまま、HazOp解析に利用できるものにならず、個々の機器損傷事象についても、同様に、損傷の原因、プロセスへの波及、防護手段の有無と内容を表形式で出力できることから、直接、FMEAの検討に利用できる。
【0060】
個々のプロセス異常事象や機器損傷事象とそれらの因果関係に、管理用計装機器や防護設備データと発生確率の情報を保持している場合は、FTA作成も可能であり、更に、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象で想定されるプロセス影響度が登録されている場合は、横軸に発生頻度、縦軸に影響度とした図表にプロットする等の、所謂、プラントの保安状態の評価結果の提供も可能となる。
【0061】
これら従前の各種の安全評価手法を一元的に提供することが可能となることにより、対象とするプラントの安定化や保安管理の達成の為の検討や設備改善の実施が容易になると同時に、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象、これらの事象の因果関係のデータを個別に、最新の状態に維持することで、各種の安全評価の見直し作業を容易に実施できることとなる。
【発明の効果】
【0062】
以上説明したように、本発明によれば、プラント保安管理システムの因果関係データ処理において最低でも2階層以上のランク付けを行い、対象とするプラントの直接携わるオペレータや設備管理要員に、プロセスの事象や機器の状態に関する保安管理上の情報として、想定される原因と波及するであろう事象、この事象に係わる、設備情報、運転操作情報、トラブル情報、プラントへの影響度と発生頻度等、保安管理上の有益な情報提供を、迅速且つ容易に提供することが可能となり、よりプラントの安全と信頼性を一層向上させた。
【0063】
また同時に、対象とするプラントの安定化や保安管理の達成の為の検討に必要となる安全評価手法を一元的に提供することが可能となった。
【0064】
併せて、本発明が、オペレータの知識の蓄積、共有化、更には、教育訓練の教材として活用できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下実施例につき本発明を詳細に説明するが、本実施例は、当該発明の一形態を記載したものであって、当該発明の方法を制限するものではない。
【実施例1】
【0066】
図1は本発明を実際のプラントの保安管理用として実施した際の、システムの要部を表わしたものであり、このシステムには、プロセス異常事象記憶部1、機器損傷事象記憶部2および因果関係記憶部3が設けられている。
【0067】
プロセス異常事象記憶部1は、配管やケーブルなどの特定の箇所と、当該特定の箇所を流れる流体や電気の、流量、温度、圧力、組成や混入物などの物理的要素が本来正常とされる領域から逸脱した異常な状態とを、一対一で組み合わせ表現したプロセス異常事象を保存できる領域を有する。
【0068】
また、機器損傷事象記憶部2は、プラントを構成する単位操作機器、計装機器、電気機器と、これら機器の破損、閉塞、停止、性能・機能低下などの正常な状態から逸脱した損傷状態を組み合わせて定義した機器損傷事象を保存する領域を有する。
【0069】
また、因果関係記憶部3は、プロセス異常事象記憶部1及び機器損傷事象記憶部2に登録されている個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間で要因と結果の関連がある場合、この関係を因果関係データとして保持する領域を有する。
【0070】
更に本システムは、前記プロセス異常事象記憶部1、機器損傷事象記憶部2、因果関係記憶部3に内容を登録もしくは削除したり修正する為の入力部4、因果関係記憶部3に登録されたデータに基づき、個々のプロセス異常事象や個々の機器損傷事象と間の因果関係を、計算機内で連結する処理を実行する処理部5、プロセス異常事象記憶部1、機器損傷事象記憶部2、因果関係記憶部3の内容と連結処理の実行した結果を表示する表示部6を備える。
【0071】
図2は、プロセス異常事象記憶部1に登録されているプロセス異常事象の基本構成を表している。
プロセス異常事象は機器と機器を連結している配管を通して物質が流れるプロセス流体毎に、温度、圧力、性状、組成などの状態要素が、高、低、停止、変動、逆流などが本来の正常な値に対して逸脱していることをプロセス異常モードとして、プロセス流体と最低でも一つ以上のプロセス異常モードとを、一対一で組み合わせたものを最小の単位として、その単位毎に符号が割り付けられ保存されている。
【0072】
図3は、機器損傷記憶部2に登録されている機器損傷事象の基本構成を表している。プラントを構成する単位操作機器、計装機器、電気機器の個々の機器に対し、その機器に起こり得る、破損、停止、性能劣化、機能不全、閉塞など正常な状態から逸脱した状態を機器損傷モードとして、個々の機器と最低でも一つ以上の機器損傷モードと一対一で組み合わせたものを最小単位として、その単位毎に符号が割り付けられ保存されている。
【0073】
更に、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間で要因と結果の関連を因果関係データとして保持している因果関係記憶部3の基本構成を図4に示す。
【0074】
個々のプロセス異常事象は、他のプロセス異常事象と要因となる場合と、機器損傷事象の要因となる場合、同じく、個々の機器損傷事象についてもプロセス異常事象の要因となる場合と、他の機器損傷事象の要因となる場合、全てのケース因果関係を保持させた。
【0075】
図5は、実施例1におけるプロセス異常事象データ、機器損傷事象データ、及び因果関係データを基に、計算機内で連結処理を実行し、その結果、作成されたネットワークの一部を切り取った概念図である。
【0076】
実際のプラントの状態が、図5の中央の位置に示されたプロセス流体識別符号F−257で、プロセス異常モードが6、即ち、蒸留塔Cに供給する液の温度が低くなるプロセス異常事象は、因果関係データから、機器識別符号U−48の損傷モード1の熱交換器E−8の性能低下と、機器識別符号U−24の損傷モード6の分離装置Sの分離性能不調、及び、プロセス流体識別符号F−109でプロセス異常モード5である反応器Rに供給する液の温度が高くなることに波及することが確認できる。
【0077】
更に、機器識別符号U−48の損傷モード1は、同じく因果関係データから、同じ機器であるU−48の損傷モード3、即ち、閉塞に波及していくことが分かる。
【0078】
同様に、機器識別符号U−24で損傷モード6は、機器識別符号U−25であるポンプBの損傷モード1の性能低下と、機器識別符号U−26の反応器Rの損傷モード8である反応不十分にも波及する可能性があることが確認できる。
【0079】
このように、プロセス異常事象と機器損傷事象を因果関係データを1階層から2階層、更に3階層と辿っていくことにより、複雑に絡み合ったプロセスの変調を追跡することが可能となった。
【0080】
図2及び図3に示すように、重要度として、発生確率と影響度とが、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象に登録されている場合、これら波及する可能性のある事象の起き易さや、影響度から判断できる緊急性についての順位付けが可能となり、より有効な情報が提供できるようになった。
【0081】
一方、プロセス流体識別符号F−257で、プロセス異常モードが6は、因果関係データから、プロセス流体識別符号F−110のプロセス異常モード4、即ち、反応器Rから流出する液の圧力が過小となることや、反応器Rから流出するガスの温度が高くなる、更には、プロセス流体識別符号F−108のプロセス異常モード1である、熱交換器E−1から流出する液の流量が過大になることがその要因と確認できる。
【0082】
プロセス流体識別符号F−110でプロセス異常モード4は、更に、一階層上流に遡ると、機器識別符号U−23である熱交換器E−3の機器損傷モード1の性能低下が原因であることが分かる。
【0083】
同じく、プロセス流体識別符号F−108でプロセス異常モード1は、その要因として、機器識別符号U−16の熱交換器E−1が機器損傷モード1である性能低下が原因となっていることも確認できる。
【0084】
波及側と同様に、上流にプロセス異常事象や機器損傷事象をそれらの因果関係で一階層、2階層と辿っていくことで、現にプロセスの変調となった場合に原因の抽出と、それに至ったシナリオを確認できるようになった。
【0085】
この原因側の追跡も、図2及び図3に示す重要度としての発生確率と影響度が割り付けられている場合には、更に、有用な情報としての提供が可能となる。
【実施例2】
【0086】
図6は、実施例1の基本構成に更に、対象としたプラントに関連する各種の情報を保存する関連情報記憶部7、実際のプラントで計測されたデータを当該システムに取り込むインターフェイス8、個々のプロセス異常事象や個々の機器損傷事象に該当するかを判別する判定処理部9等を追加した場合のシステムの基本構成を示す。
【0087】
この関連情報記憶部7に保存された各種の情報は、個々のプロセス異常事象や個々の機器損傷事象に関連付けされ、プロセス異常事象や機器損傷事象からこれら関連付けされた情報、又、逆に外部記憶装置に保存された情報から、関連するプロセス異常事象もしくは機器損傷事象が参照できるようにし、その結果を表示部6で表示する。
【0088】
個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象それぞれに対し、当該事象の発生頻度とプロセスへの影響度を想定し、データとして保持させた。
【0089】
図7は、発生確率を横軸、プラントへの影響度を縦軸に取り、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象をプロットした結果の一例である。
【0090】
更に、実際のプラントで計測された、流量、温度、圧力、その他の測定値はインターフェイス8を経由し、当該システムに取り込み、個々のプロセス異常事象や個々の機器損傷事象に該当するかを判別する判定処理部9とその結果を表示部6に出力するようにした。
【0091】
これにより、プラントの実際の計測値から、直接、今該当するであろうプロセス異常事象もしくは機器損傷事象が表示されることにより、オペレータに即座に操作上の有益な情報を提供することが可能となった。
【0092】
更に、プロセス異常事象記憶部1、機器損傷事象記憶部2、因果関係記憶部3、及び、関連情報記憶部7に保存された各種の情報を基に作成したHazOp解析シート形式、FMEAの出力形式等の書式に出力した。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係るプラント保安管理システムの要部を示すブロック図
【図2】プロセス異常事象記憶部に登録されているプロセス異常事象の基本構成を表した図
【図3】機器損傷記憶部に登録されている機器損傷事象の基本構成を表した図
【図4】個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間で要因と結果の関連を因果関係データとして保持している因果関係記憶部の基本構成図
【図5】プロセス異常事象データ、機器損傷事象データ、因果関係データを基に作成された、プラントの変調の因果関係を整理したネットワークの概念図
【図6】実施例2におけるプラント保安管理システムの要部を示すブロック図
【図7】縦軸に影響度、横軸に発生頻度として、プロセス異常事象及び機器損傷事象をプロットしたグラフ
【符号の説明】
【0094】
1…プロセス異常事象記憶部
2…機器損傷事象記憶部
3…因果関係記憶部
4…入力部
5…処理部
6…表示部
7…関連情報記憶部
8…インターフェイス
9…判定処理部
【技術分野】
【0001】
本発明はプラントの安全、且つ、安定的な運転を確保するための保安面の情報を管理するシステム、特に化学製品や石油製品の製造プラントや発電プラントの運転操作や設備管理に関する保安管理情報を提供するためのプラントの保安管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国では多くの石油化学プラントや発電所が稼働し、これらは、消防法、労働安全関連法令、高圧ガス保安法などの各種法令や自ら定めた保安に係わる規程に則り、その安全や設備の健全性の維持、確保が図られている。
【0003】
このような各種製造プラント(以下、プラントと記す。)は、通常、数多くの配管やケーブル、計装機器、電気機器、単位操作機器などの部位で構成されており、それらの物理的関係が相互に複雑に結び付けられて運転されている。
【0004】
この為、これまでにも、プラントの安全や設備の健全性の維持、確保については、設計及び建設段階に、プラントの重大な事故に繋がる可能性のあるプロセス異常や機器の損傷を特定し、各種計器による監視システムやインターロックシステムなどの防護回路の設置、機器仕様上でより安全な材料や構造の採用などの保安上の設備対策を行ってきている。
【0005】
また、実際に稼動を開始し既に運転しているプラントに対しては、プラントを構成する全ての部位を正常な状態に維持する為の監視と変異を許容範囲内に留める操作、更には、仮に何れかの部位に異常が生じた場合でも、これが他の部分に伝播、波及することを最小限度に留めること、その原因となった部分の排除もしくは軽減するなどの正常状態に復帰させるため処置を迅速かつ適切に施すといった、所謂、保安運転管理を適切に実施することが要求される。
【0006】
しかしながら、この保安運転管理については、プラントが数多くの部位(機器や部材)で構成されており、これら全ての部位が正常に維持されているかの判別と、仮に異常が発生していたとしても、その異常の度合いや緊急性、原因の特定、更には正常復帰するためのアクションは、必ずしも画一的では無く、これらを全て的確、且つ、迅速に行うことは極めて困難である。また、これを実施するオペレータについても、プラントや設備への理解度の不足などの人的な要素が加わり、このプラントの保安管理をより困難にしている。
【0007】
この為、操業中のプラントについても、その稼動状態に係わる安全性や信頼性の確保を目的とした情報を運転員に提供することを目的とした、各種の運転支援システムの提案と導入例が報告されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0008】
これらは、何れも運転中における、安全や保安に関する情報の提供に特化し、別途に運転支援システムとして構築し運転員に保安運転管理に係わる情報を提供する方式が採られている。
【0009】
これら運転支援システムは、事前に想定し得るプラントの異常状態と、その原因を予め計算機に登録し、実際のプラントから計測された値から、異常状態を推論し、運転員にガイダンスとして表示するものである(例えば、特許文献3,4,5参照)。
【0010】
この為、重要な異常や過去既に起きた事象を中心に登録した限定的なシステムとなり、当然登録された知識データの範囲外の推論やガイダンスの表示はできないことから、プラントの異常状態と、その原因となり得る要素を全て正確に登録し、更に実際のプラントの計測値を用い正確に判別するといった推論を達成することは極めて困難なものとなっており、常に登録したデータの見直しや、新規のデータの追加などのメインテナンスが必要とされ、実際の運用では、極めて煩わしいものとなっている。
【0011】
一方、プラント自体を構成する機器、設備の健全性の維持、確保に関しては、近年、各種の安全評価手法を用い、事前にプラントの潜在危険性の抽出からこの結果に基づく各種の保安上の安全策や冗長化を採用する試みがなされてきている(例えば、特許文献6,7,8参照)。
【0012】
即ち、HazOp解析(Hazard and Operability Study)、FMEA(Failure Modes and Effects Analysis)、FTA(Fault Tree Analysis)等の各種安全評価手法を用い、設備状況やプラントへ与える影響度に応じ、リスクに基づく点検や保守の計画を作成し、より効率的且つ信頼性を確保した設備管理方式の導入が推進されてきつつある。
【0013】
これら各種の安全評価手法は、その目的により各種方法が提案されているが、各々の安全評価を行うためには、かなり専門的な知識と労力を要求されることとなり、プラント全体を網羅し、且つ、全ての手法で各方面からの安全評価を実施されることが困難な為、その適応性を判断した上で、1つもしくは複数を選択し別個に実施しすることとなっている。
【0014】
又、刻一刻と設備の運転状態や性能が変化していく中、その都度、安全評価や運転支援システムに重要な知識データを登録や誤った知識の修正を行うといったメインテナンス作業を実施しなければ、有用システムとして維持できないだけで無く、これら安全評価や運転支援システムのメインテナンスをプラントのオペレータが実施するためには、ある程度の設備に関する知識や安全評価手法に関する知識が必要であり、同時に、膨大な労力や時間を費やすこととなり、結果的に日常の保安管理に活用できているとは言いがたい状況となっている。
【0015】
このように、プラントの保安管理に関しては、設備面の正常状態の維持と適切な運転操作面の何れをも対象とし、これらを同時且つ適切に維持管理すべき最重要課題であるにも拘らず、日常の運転操作に於いては、運転支援システムと設備の安全評価とは別途にシステムを構築し運用しているのみならず、運転操作面の運転支援システムが、直接設備保全に必要な情報を遅滞無く提供するものにはなっていない。
【0016】
当然、プラント設計時や建設時に検討した安全評価の結果や、保全計画の策定の為の安全評価手法に基づくリスク評価が、プラントを実際に運転しているオペレータへの有用な情報源として充分に活用もされているとは言いがたい状況となっている。
【0017】
特許文献1には、プラントからの入力データを貯えるプラントデータベースと、将来のプラント状態の定性的な進展予測を行うための知識を有する知識ベースと、前記プラントデータベースおよび知識ベースを用いてプラント状態の定性的な予測を行う推論エンジンと、前記推論エンジンの推論結果に基づいてプラント状態の定量的な予測解析を高速で行う簡易シミュレーターと、前記推論エンジンの推論結果を運転員に提供するためのユーザーインターフェースとを備え、前記プラントからの入力データに基づいてプラント状態の進展を迅速かつ定量的に予測するプラント状態予測支援装置が開示されている。
【0018】
特許文献2には、表示装置に表示されている警報情報のうち、特定の情報をオペレータが指定すると、検索条件指定部は、幾つかの検索条件を表示装置に表示し、前記オペレータが、ある検索条件を指定すると、運転マニュアルを運転マニュアルデータベースから検索して、該当するデータを表示装置に表示させるプラント運転支援装置が開示されている。
【0019】
特許文献3には、プロセスデータ入力手段と、これを保存するプロセスデータベースと、事象の因果関係ツリーと診断ロジックからなる診断知識を保存しておく知識ベースと、推論エンジンと、経路判定手段と、ガイダンスデータベースと、判定された事象発生経路の末端事象を異常原因として表示装置に表示するとともに、その原因に対応したガイダンスメッセージをガイダンスデータベースから取り出し表示する表示手段とを備えたプラント運転支援装置が開示されている。
【0020】
特許文献4には、診断知識および各事象の関連する系統図IDおよびトレンドグラフIDを保存する知識ベースと、この知識ベースおよびプロセスデータベースを参照して異常の診断を行う推論エンジンと、この推論エンジンによる診断結果から異常に至る事象発生経路を判定し、表示すべきトレンドグラフIDおよび系統図IDを選定する経路判定・関連データ選定手段と、前記トレンドグラフIDごとに対応するプロセスデータを収集し、履歴保存する履歴データベースと、ガイダンスメッセージを保存するガイダンスデータベースと、系統図情報を保存する系統図データベースと、判定・選定結果に基づき各データベースから表示情報を取り出し、表示装置へ表示する表示制御手段とを備えるプラント運転支援装置が開示されている。
【0021】
特許文献5には、プロセスデータ状態検知手段を備え、状態入力手段と、ユニット状態定義手段と、このユニット状態定義手段により定義された基準パターンを記憶させる空間的パターンデータベースと、前記状態入力手段が出力したユニットの状態データの特徴と空間的パターンデータベースに記憶させた基準パターンとを照合して、ユニットの状態が正常かどうかを判別するユニット状態関係抽出手段とを設けたプロセスユニットの状態検知装置が開示されている。
【0022】
特許文献6には、異常事象とその原因となる複数要因の関係、および該要因とその派生事象の関係を示すフォールトツリー図、前記派生事象の発生度合を示す事象評価値を用いて、前記要因の内のある要因が上記異常事象の原因であれば発生し得ない他の要因の派生事象について、この発生し得ない他の要因の派生事象を否定した否定形の派生事象を、上記ある要因の派生事象として上記フォールトツリー図に追加するプラント運転支援用異常事象原因究明方法が開示されている。
【0023】
特許文献7には、予防保全の対象となる機器すべてについてその機器の装置、系統またはプラントにおける機器の信頼度指標を計算し、更にこれに保全指標を表示させる予防保全機器ランキング表示装置が開示されている。
【0024】
特許文献8には、破損確率関数算出手段と、破損確率関数変更手段と、供用年数に応じて前記修正破損確率関数から得られる修正破損確率と予め設定された判定値とを比較して前記修正確率が前記判定値を越えると当該機器の取替えを判定する判定手段とを有し、前記修正破損確率に応じて前記プラント設備のリスクを管理するリスクマネージメント装置が開示されている。
【0025】
【特許文献1】特開平3−21822号公報
【特許文献2】特開平5−307692号公報
【特許文献3】特開平5−151484号公報
【特許文献4】特開平6−309584号公報
【特許文献5】特開平7−261826号公報
【特許文献6】特開平8−234833号公報
【特許文献7】特開平8−115108号公報
【特許文献8】特開2004−191359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
特許文献1においては、プラントからの入力データに基づいてプラント状態の進展を迅速かつ定量的に予測するだけで、予測も単層予測のみなので、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結しているものではなく、迅速且つ適切な対処ができない。
【0027】
特許文献2においては、各イベントの発生原因候補のうちオペレータが指示したものに対応した運転マニュアルデータベースから検索し、検索された運転マニュアルを表示装置に表示させるだけで特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0028】
特許文献3においては、最終的な原因が特定されても特定されなくても、診断により得られた情報をもとに、異常に対処する何らかの操作ガイダンスを表示するものであり、診断も単層予測のみなので、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0029】
特許文献4においては、推論エンジンによる診断結果に基づいて、経路判定・関連データ選定手段が事象発生経路を検索し、事象発生経路の末端事象である異常の原因および原因に対応する操作ガイドを求めているが、推論にはプロセスデータベースのみを使った単層推論なので、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0030】
特許文献5においては、ユニット状態定義手段とユニット状態検出手段を使ってユニットの状態を検出しているが、状態検出は単層検出のみで、プロセスについては何ら検出手段を持たず、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0031】
特許文献6においては、異常事象原因究明に原因究明用知識ベースと、対応処置検索用ベースと、対応処置チェック用知識ベースを使って一方通行的に単層による単純な原因究明を行う方法であり、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0032】
特許文献7においては、機器保全指標とコスト、信頼度指標とコストとの関係の視覚化により保全・検査のコスト的な最適化を図っているが、異常事象に対する原因究明には役立たない。
【0033】
特許文献8においては、修正破損確率に応じてプラント設備のリスク管理を目的としているので、供用年数に応じた修正破損確率関数で計算するだけのものであり、各プラント個別の不具合発生履歴などは加味していない一般的なデータしか使っていないので、特定のプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないので、前記同様の問題がある。
【0034】
本発明は斯かる課題を解決するためになされたもので、プラントの安全と信頼性を一層向上させるため、機器損傷事象データベースとプロセス異常事象データベースを併用し、因果関係データベースで紐付けすることにより、運転員にプロセスの事象や機器の状態に関する保安管理上の情報として、想定される原因と、波及するであろう事象、この事象に係わる設備情報、運転操作情報、トラブル情報、プラントへの影響度と発生頻度等、保安管理上の有益な情報提供を行い、その出力をオペレータや設備管理要員に、迅速且つ容易に提供することができるプラントの保安管理システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
請求項1に記載の発明に係るプラント保安管理システムは、プラントを構成する機器の特定の箇所を流れるプロセス流体とこのプロセス流体の正常から逸脱した異常モードとを組み合わせたプロセス異常事象データを記憶するプロセス異常事象データ記憶部と、プラントを構成する機器と当該機器の正常から逸脱した機器損傷モードとを組み合わせた機器損傷事象データを記憶する機器損傷事象データ記憶部と、前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間での要因と結果の関係を因果関係データとして保持する因果関係記憶部とを具備するプラント保安管理システムである。
【0036】
前記プロセス異常事象とは、配管やケーブルなどの特定の箇所と、当該特定の箇所を流れる流体や電気などのプロセス流体の流量、温度、圧力、組成や混入物などの物理的要素が本来正常とされる領域から逸脱した異常な状態とを、一対一で組み合わせ表現しすることで、プロセス流体の異常状態を定義したものである。
【0037】
一方、機器損傷事象とは、プラントを構成する単位操作機器、計装機器、電気機器と、これらの機器の破損、閉塞、停止、性能・機能低下などの正常な状態から逸脱した損傷状態を組み合わせて定義したものである。
【0038】
各々のプロセス異常事象と機器損傷事象は、プロセス事象が他のプロセス事象に直接関連する場合、プロセス事象が機器損傷事象に直接影響する場合、機器損傷事象がプロセス事象に影響する場合、機器損傷事象が他の機器損傷事象に直接影響する場合に、これらの相互の状態的な繋がりを因果関係データとして関連付けを行うものである。
【0039】
直接的に影響するとは、仮にあるプロセス異常事象が起きたとした際に、プロセス的に直結した機器やプロセス流体への異常に直接波及することが明らかな場合を意味し、その後、他のプロセス異常事象や機器損傷事象と複合し発生する場合や、発生したプロセス異常事象が必ずしも直接的な要因とならない場合は、あえて因果関係として関連付けが必要でないことを意味する。
【0040】
但し、あるプロセス異常事象なり機器損傷事象が、設備上で直結していないプロセス異常事象や機器損傷事象であった場合でも、明らかに、その事象の要因であり、これにより影響を受けるプロセス異常事象や機器損傷事象がある場合は、直接的に影響するに該当し、因果関係データとして関連付けを行うことが可能であり、必ずしも実際の設備の接続状況に制限されること無く、状態の因果関係で連結することを可能にする。
【0041】
更に、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象は、他の複数のプロセス異常事象や機器損傷事象に関連付けができることから、複雑に絡み合ったプロセス異常事象や機器損傷事象の関係が漏れ無く表現できるだけで無く、また直接的としたことで、因果関係の登録が容易になり、更に幾つものプロセス異常事象や機器損傷事象が絡み合い必ずしも直接的に関連していない事象間の関係が登録されることを回避できる。
【0042】
また機器と機器を連結している配管やケーブルを個別にプロセス流体に組み合わせ、この組み合わせにおける温度、圧力、性状、組成などの状態要素に高、低、停止、変動、逆流などの本来の正常の値に対する逸脱の状態を掛け合わせてプロセス異常状態モードと定義し、一つのプロセス流体に対し、複数のプロセス異常状態モードを割付ることで、一つのプロセス流体であっても複数のプロセス異常事象として登録できるだけでなく、個々のプロセス異常事象の追加や削除、内容の修正などのメインテナンスが極めて容易となり、このことは、常にプロセス異常事象を最新且つ適正な状態に維持することが可能となる。
【0043】
又、機器損傷事象に対しても、プラントを構成する単位操作機器、計装機器、電気機器の個々に対し、その機器の種別に内在する破損、停止、性能劣化、機能不全、閉塞など正常な状態から逸脱した状態である複数の機器損傷モードを機器損傷事象を定義することで、プロセス異常事象と同様にメインテナンスを極めて容易にした。
【0044】
一つのプロセス異常事象が仮に起きて、これが他のプロセス異常事象を誘発させる場合、これは例えば同一プロセス流体であっても、温度が高くなると圧力も高くなるといった関係も、当然、後流側の他のプロセス流体のプロセス異常事象を誘発させる場合、更には、直接、機器の異常状態である機器損傷事象を引き起こす場合などといった、要因と結果の関係で、プロセス異常事象と誘発される他のプロセス異常事象や機器損傷事象の繋がりの関係を自身のプロセス異常事象のデータとして記憶させるようにした。
【0045】
当然、一つのプロセス異常事象に対し複数のプロセス異常事象や機器損傷事象の関連付けができることになっている。
【0046】
機器損傷事象に対しても同様に、自身の機器に内在する他の機器損傷事象を含め、他の機器の機器損傷事象やプロセス異常事象との、要因と結果の関係データを自身の機器損傷事象の因果関係データとして登録し保持できるようにした。
【0047】
プロセス異常事象及び機器損傷事象と、更にこれらが保持している因果関係データを、計算機内で連結する処理を実行することにより、対象としたプラント全体の異常状態間の関連が計算機内で構築され、プラントの変調の因果関係を整理したネットワークの形成が可能となることで、プラントの運転状態での挙動や特性を計算機内に保持することができるようになる。
【0048】
このプラントの計算機へのプロセス異常事象や機器損傷事象と、これら事象の因果関係の登録方法と、これらデータから構築された因果関係のネットワークを構築することで、仮に何れかのプロセス異常事象もしくは機器損傷事象を選択した場合に、これを要因として影響を受けるプロセス異常事象もしくは機器損傷事象を参照することができ、更にこの影響を受けたプロセス異常事象や機器損傷事象が要因となるプロセス異常事象もしくは機器損傷事象を参照するといった表示をできるようにすることで、プロセス内で起きた変調の波及や拡大する状態の追跡が可能となる。
【0049】
逆に、何れかのプロセス異常事象か機器損傷事象の要因となり得るプロセス異常事象もしくは機器損傷事象として登録されたものを遡り表示する機能を持たせることで、プロセス内で起きた変調の要因の抽出やプロセス異常事象や機器損傷事象に至った経路を検索することが可能となる。
【0050】
しかも、それぞれのプロセス異常事象や機器損傷事象は実際にはプロセス全体で複雑に絡み合った関係であるにも拘らず、単に、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象に直接の影響するプロセス異常事象や機器損傷事象を指定することのみで、このプロセス全体での変調の要因や波及、更にはこれら変調の進展する経路を容易に表現することができる。
【0051】
従来のような、予め一つの異常にその原因の事象から波及するであろうプロセスへの影響を表記する方法では、その内容の修正が発生した場合や、新たに追加したり削除する場合、その異常の内容の記載内容のみならず、それ以外の登録されている異常の内容も整合性を確認し、必要な場合、内容の書き換えを行うなどの膨大な作業が必要となっていたが、個々のプロセス異常事象と機器損傷事象とこれらの直接関連する因果関係を別途のデータとして個別に登録する方法では、単に、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象に登録されている因果関係のデータのみを修正するか、追加もしくは削除することのみで容易に適正状態に維持することが可能となる。
【0052】
個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象それぞれに対し、想定される発生頻度と、仮にプロセス異常事象もしくは機器損傷事象が起きた場合のプロセス全体に与える危険性や損失を影響度として、それぞれ最低でも2階層以上のランク付けを行いその結果を保持させることで、プロセス異常事象と機器損傷事象のプラントに対する重み付けができる。
【0053】
これにより、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象の対象としているプラントに於ける優先度が認識でき、この指標は日常の運転操作に於ける、重要な指標として利用できる。
【0054】
また、機器損傷事象の発生頻度と影響度のランク付けは、プラントを構成する個々の設備やそれに内在する損傷の維持管理の重要性の指標としても活用できる。
【0055】
実際のプラントの状態が個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象のそれぞれに対し、該当しているか否かを判別するために取り付けられた計測機器、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の発生を防止するための保安システムを登録し、これらの内容を参照することができる機能を具備することで、保安管理上で有用な情報を容易に参照することも可能となる。
【0056】
更に、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象それぞれに対し、直接関連する情報として、設計及び設備関連情報、運転管理・操作上のガイダンス、トラブル事象を登録し、これを保持する機能を持った保安関連データベースと関連付けする機能を持たせ、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象から、保安関連データベースの中から関連付けされた情報を検索し出力することで、更に高度な情報を運転員に提供することも可能となる。
【0057】
これら事象に関連する情報は直接事象にその内容を保持させるのでは無く、各々別のデータベースに記憶させ、個々の事象から参照できるようにインデックスを設け、このインデックスから情報を引き出せる方式を取ることで、その後の追加や削除、内容の修正や引用の変更や追加などのメインテナンスが極めて容易できる。
【0058】
実際のプラントの状態が個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象それぞれに対し、該当しているか否かを判別するために取り付けられた計測機器が指定されている場合にあって、プラントの実際のデータを取り込み、プロセス異常事象や機器損傷事象が現時点で該当するか否かを判別し、その結果を出力する機能を具備することで、運転支援用ツールとしても活用することができる。
【0059】
個々のプロセス異常事象は、他のプロセス異常事象および/または機器損傷事象とを要因と結果の関係で連結し、個々の機器損傷事象は他の機器損傷事象および/またはプロセス異常事象とを要因と結果の関係で連結した因果関係データを保持していることから、HazOp解析で必要な、ずれの原因、プロセスへの波及、防護手段の有無と内容が出力でき、そのまま、HazOp解析に利用できるものにならず、個々の機器損傷事象についても、同様に、損傷の原因、プロセスへの波及、防護手段の有無と内容を表形式で出力できることから、直接、FMEAの検討に利用できる。
【0060】
個々のプロセス異常事象や機器損傷事象とそれらの因果関係に、管理用計装機器や防護設備データと発生確率の情報を保持している場合は、FTA作成も可能であり、更に、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象で想定されるプロセス影響度が登録されている場合は、横軸に発生頻度、縦軸に影響度とした図表にプロットする等の、所謂、プラントの保安状態の評価結果の提供も可能となる。
【0061】
これら従前の各種の安全評価手法を一元的に提供することが可能となることにより、対象とするプラントの安定化や保安管理の達成の為の検討や設備改善の実施が容易になると同時に、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象、これらの事象の因果関係のデータを個別に、最新の状態に維持することで、各種の安全評価の見直し作業を容易に実施できることとなる。
【発明の効果】
【0062】
以上説明したように、本発明によれば、プラント保安管理システムの因果関係データ処理において最低でも2階層以上のランク付けを行い、対象とするプラントの直接携わるオペレータや設備管理要員に、プロセスの事象や機器の状態に関する保安管理上の情報として、想定される原因と波及するであろう事象、この事象に係わる、設備情報、運転操作情報、トラブル情報、プラントへの影響度と発生頻度等、保安管理上の有益な情報提供を、迅速且つ容易に提供することが可能となり、よりプラントの安全と信頼性を一層向上させた。
【0063】
また同時に、対象とするプラントの安定化や保安管理の達成の為の検討に必要となる安全評価手法を一元的に提供することが可能となった。
【0064】
併せて、本発明が、オペレータの知識の蓄積、共有化、更には、教育訓練の教材として活用できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下実施例につき本発明を詳細に説明するが、本実施例は、当該発明の一形態を記載したものであって、当該発明の方法を制限するものではない。
【実施例1】
【0066】
図1は本発明を実際のプラントの保安管理用として実施した際の、システムの要部を表わしたものであり、このシステムには、プロセス異常事象記憶部1、機器損傷事象記憶部2および因果関係記憶部3が設けられている。
【0067】
プロセス異常事象記憶部1は、配管やケーブルなどの特定の箇所と、当該特定の箇所を流れる流体や電気の、流量、温度、圧力、組成や混入物などの物理的要素が本来正常とされる領域から逸脱した異常な状態とを、一対一で組み合わせ表現したプロセス異常事象を保存できる領域を有する。
【0068】
また、機器損傷事象記憶部2は、プラントを構成する単位操作機器、計装機器、電気機器と、これら機器の破損、閉塞、停止、性能・機能低下などの正常な状態から逸脱した損傷状態を組み合わせて定義した機器損傷事象を保存する領域を有する。
【0069】
また、因果関係記憶部3は、プロセス異常事象記憶部1及び機器損傷事象記憶部2に登録されている個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間で要因と結果の関連がある場合、この関係を因果関係データとして保持する領域を有する。
【0070】
更に本システムは、前記プロセス異常事象記憶部1、機器損傷事象記憶部2、因果関係記憶部3に内容を登録もしくは削除したり修正する為の入力部4、因果関係記憶部3に登録されたデータに基づき、個々のプロセス異常事象や個々の機器損傷事象と間の因果関係を、計算機内で連結する処理を実行する処理部5、プロセス異常事象記憶部1、機器損傷事象記憶部2、因果関係記憶部3の内容と連結処理の実行した結果を表示する表示部6を備える。
【0071】
図2は、プロセス異常事象記憶部1に登録されているプロセス異常事象の基本構成を表している。
プロセス異常事象は機器と機器を連結している配管を通して物質が流れるプロセス流体毎に、温度、圧力、性状、組成などの状態要素が、高、低、停止、変動、逆流などが本来の正常な値に対して逸脱していることをプロセス異常モードとして、プロセス流体と最低でも一つ以上のプロセス異常モードとを、一対一で組み合わせたものを最小の単位として、その単位毎に符号が割り付けられ保存されている。
【0072】
図3は、機器損傷記憶部2に登録されている機器損傷事象の基本構成を表している。プラントを構成する単位操作機器、計装機器、電気機器の個々の機器に対し、その機器に起こり得る、破損、停止、性能劣化、機能不全、閉塞など正常な状態から逸脱した状態を機器損傷モードとして、個々の機器と最低でも一つ以上の機器損傷モードと一対一で組み合わせたものを最小単位として、その単位毎に符号が割り付けられ保存されている。
【0073】
更に、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間で要因と結果の関連を因果関係データとして保持している因果関係記憶部3の基本構成を図4に示す。
【0074】
個々のプロセス異常事象は、他のプロセス異常事象と要因となる場合と、機器損傷事象の要因となる場合、同じく、個々の機器損傷事象についてもプロセス異常事象の要因となる場合と、他の機器損傷事象の要因となる場合、全てのケース因果関係を保持させた。
【0075】
図5は、実施例1におけるプロセス異常事象データ、機器損傷事象データ、及び因果関係データを基に、計算機内で連結処理を実行し、その結果、作成されたネットワークの一部を切り取った概念図である。
【0076】
実際のプラントの状態が、図5の中央の位置に示されたプロセス流体識別符号F−257で、プロセス異常モードが6、即ち、蒸留塔Cに供給する液の温度が低くなるプロセス異常事象は、因果関係データから、機器識別符号U−48の損傷モード1の熱交換器E−8の性能低下と、機器識別符号U−24の損傷モード6の分離装置Sの分離性能不調、及び、プロセス流体識別符号F−109でプロセス異常モード5である反応器Rに供給する液の温度が高くなることに波及することが確認できる。
【0077】
更に、機器識別符号U−48の損傷モード1は、同じく因果関係データから、同じ機器であるU−48の損傷モード3、即ち、閉塞に波及していくことが分かる。
【0078】
同様に、機器識別符号U−24で損傷モード6は、機器識別符号U−25であるポンプBの損傷モード1の性能低下と、機器識別符号U−26の反応器Rの損傷モード8である反応不十分にも波及する可能性があることが確認できる。
【0079】
このように、プロセス異常事象と機器損傷事象を因果関係データを1階層から2階層、更に3階層と辿っていくことにより、複雑に絡み合ったプロセスの変調を追跡することが可能となった。
【0080】
図2及び図3に示すように、重要度として、発生確率と影響度とが、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象に登録されている場合、これら波及する可能性のある事象の起き易さや、影響度から判断できる緊急性についての順位付けが可能となり、より有効な情報が提供できるようになった。
【0081】
一方、プロセス流体識別符号F−257で、プロセス異常モードが6は、因果関係データから、プロセス流体識別符号F−110のプロセス異常モード4、即ち、反応器Rから流出する液の圧力が過小となることや、反応器Rから流出するガスの温度が高くなる、更には、プロセス流体識別符号F−108のプロセス異常モード1である、熱交換器E−1から流出する液の流量が過大になることがその要因と確認できる。
【0082】
プロセス流体識別符号F−110でプロセス異常モード4は、更に、一階層上流に遡ると、機器識別符号U−23である熱交換器E−3の機器損傷モード1の性能低下が原因であることが分かる。
【0083】
同じく、プロセス流体識別符号F−108でプロセス異常モード1は、その要因として、機器識別符号U−16の熱交換器E−1が機器損傷モード1である性能低下が原因となっていることも確認できる。
【0084】
波及側と同様に、上流にプロセス異常事象や機器損傷事象をそれらの因果関係で一階層、2階層と辿っていくことで、現にプロセスの変調となった場合に原因の抽出と、それに至ったシナリオを確認できるようになった。
【0085】
この原因側の追跡も、図2及び図3に示す重要度としての発生確率と影響度が割り付けられている場合には、更に、有用な情報としての提供が可能となる。
【実施例2】
【0086】
図6は、実施例1の基本構成に更に、対象としたプラントに関連する各種の情報を保存する関連情報記憶部7、実際のプラントで計測されたデータを当該システムに取り込むインターフェイス8、個々のプロセス異常事象や個々の機器損傷事象に該当するかを判別する判定処理部9等を追加した場合のシステムの基本構成を示す。
【0087】
この関連情報記憶部7に保存された各種の情報は、個々のプロセス異常事象や個々の機器損傷事象に関連付けされ、プロセス異常事象や機器損傷事象からこれら関連付けされた情報、又、逆に外部記憶装置に保存された情報から、関連するプロセス異常事象もしくは機器損傷事象が参照できるようにし、その結果を表示部6で表示する。
【0088】
個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象それぞれに対し、当該事象の発生頻度とプロセスへの影響度を想定し、データとして保持させた。
【0089】
図7は、発生確率を横軸、プラントへの影響度を縦軸に取り、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象をプロットした結果の一例である。
【0090】
更に、実際のプラントで計測された、流量、温度、圧力、その他の測定値はインターフェイス8を経由し、当該システムに取り込み、個々のプロセス異常事象や個々の機器損傷事象に該当するかを判別する判定処理部9とその結果を表示部6に出力するようにした。
【0091】
これにより、プラントの実際の計測値から、直接、今該当するであろうプロセス異常事象もしくは機器損傷事象が表示されることにより、オペレータに即座に操作上の有益な情報を提供することが可能となった。
【0092】
更に、プロセス異常事象記憶部1、機器損傷事象記憶部2、因果関係記憶部3、及び、関連情報記憶部7に保存された各種の情報を基に作成したHazOp解析シート形式、FMEAの出力形式等の書式に出力した。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係るプラント保安管理システムの要部を示すブロック図
【図2】プロセス異常事象記憶部に登録されているプロセス異常事象の基本構成を表した図
【図3】機器損傷記憶部に登録されている機器損傷事象の基本構成を表した図
【図4】個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間で要因と結果の関連を因果関係データとして保持している因果関係記憶部の基本構成図
【図5】プロセス異常事象データ、機器損傷事象データ、因果関係データを基に作成された、プラントの変調の因果関係を整理したネットワークの概念図
【図6】実施例2におけるプラント保安管理システムの要部を示すブロック図
【図7】縦軸に影響度、横軸に発生頻度として、プロセス異常事象及び機器損傷事象をプロットしたグラフ
【符号の説明】
【0094】
1…プロセス異常事象記憶部
2…機器損傷事象記憶部
3…因果関係記憶部
4…入力部
5…処理部
6…表示部
7…関連情報記憶部
8…インターフェイス
9…判定処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの安全確保や事故防止などの保安管理を支援するためのシステムであって、プラントを構成する機器の特定の箇所を流れるプロセス流体とこのプロセス流体の正常から逸脱した異常モードとを組み合わせたプロセス異常事象データを記憶するプロセス異常事象データ記憶部と、プラントを構成する機器と当該機器の正常から逸脱した機器損傷モードとを組み合わせた機器損傷事象データを記憶する機器損傷事象データ記憶部と、前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間での要因と結果の関係を因果関係データとして保持する因果関係記憶部とを具備することを特徴とするプラント保安管理システム。
【請求項2】
前記プロセス流体は液体、ガスまたは電気であり、このプロセス流体の異常モードは温度、圧力、性状、組成などの状態要素が、高、低、停止、変動、逆流など本来の正常な値に対して逸脱している状態とし、特定箇所のプロセス流体と当該特定箇所での異常モードとを一対一で組み合わせて最小単位のプロセス異常事象とし、また前記機器損傷モードは、プラントを構成する単位操作機器、計装機器、電気機器の個々の機器に対し、その機器に起こり得る破損、停止、性能劣化、機能不全、閉塞など正常な状態から逸脱していた状態とし、特定の機器と当該特定の機器の機器損傷モードとを一対一で組み合わせて最小単位の機器損傷事象とし、前記因果関係記憶部では異なるプロセス異常事象とプロセス異常事象、プロセス異常事象と機器損傷事象、機器損傷事象とプロセス異常事象、異なる機器損傷事象と機器損傷事象との因果関係をデータとして保持することを特徴とする特許請求項1に記載のプラント保安管理システム。
【請求項3】
前記個々のプロセス異常事象は、他のプロセス異常事象および/または機器損傷事象と要因と結果の関係で連結でき、前記個々の機器損傷事象は他の機器損傷事象および/またはプロセス異常事象と要因と結果の関係で連結でき、これらプロセス異常事象と個々の機器損傷事象を因果関係データとして保持することにより、プラント全体のプロセス異常及び機器損傷の因果関係をネットワークとして記憶する機能を具備することを特徴とする特許請求項1又は請求項2に記載のプラント保安管理システム。
【請求項4】
前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象とを、要因と結果の関係で記憶した因果関係データにて連結することで回路を作成し、当該回路を結果側から要因側に遡る事で原因を抽出し出力する機能と、前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象とを因果関係データで連結した回路を、要因側から結果側に進行させることで波及する事象を推論し出力する機能を具備することを特徴とする請求項3に記載のプラント保安管理システム。
【請求項5】
前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象のそれぞれに対し、想定される発生頻度およびプロセスへの影響度を割り付け、前記プロセス異常事象データ記憶部及び機器損傷事象データ記憶部に保持させることで、プロセス異常事象と機器損傷事象にプラントに対する重要度を表現する機能を具備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラント保安管理システム。
【請求項6】
実際のプラントの状態が個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象のそれぞれに対し、該当しているか否かを判別するために取り付けられた計測機器、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象を発生させない為の防護設備、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象が発生した際の波及の拡大を防御するための設備などの保安上の設備の内容が登録されているデータと関連付けする機能を有し、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象から、関連する計測計器や防護設備、拡大防止の為の設備などの保安上の設備を参照できる機能を具備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラント保安管理システム。
【請求項7】
前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象のそれぞれに対し、直接関連する情報として、設計及び設備関連情報、運転管理・操作上のガイダンス、トラブル事象をデータとして登録し記憶した保安関連データベースと関連付けする機能を持たせ、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象から、保安関連データベースの中から関連付けされた情報を検索し出力する機能を具備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラント保安管理システム。
【請求項8】
前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象とを因果関係データで連結した回路を作成し、この回路から原因の抽出及び想定される波及を推論する機能、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象に割り付けられた発生頻度、プロセスへの影響度から設定されたプラントに対する重要度、運転操作関連情報、設備関連情報を出力する機能を保持し、且つ、これらプロセス異常事象と機器損傷事象に関連付けられたデータの追加、削除及び修正する入力機能を具備することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のプラント保安管理システム。
【請求項9】
前記実際のプラントの状態が個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象に対し、該当しているか否かを判別するために取り付けられた計測機器が指定され、プラントからの実際のデータを参照し、プロセス異常事象や機器損傷事象が現時点で該当するか否かを判別する機能と、その結果を出力する機能を具備する請求項6に記載のプラント保安管理システム。
【請求項1】
プラントの安全確保や事故防止などの保安管理を支援するためのシステムであって、プラントを構成する機器の特定の箇所を流れるプロセス流体とこのプロセス流体の正常から逸脱した異常モードとを組み合わせたプロセス異常事象データを記憶するプロセス異常事象データ記憶部と、プラントを構成する機器と当該機器の正常から逸脱した機器損傷モードとを組み合わせた機器損傷事象データを記憶する機器損傷事象データ記憶部と、前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象の間での要因と結果の関係を因果関係データとして保持する因果関係記憶部とを具備することを特徴とするプラント保安管理システム。
【請求項2】
前記プロセス流体は液体、ガスまたは電気であり、このプロセス流体の異常モードは温度、圧力、性状、組成などの状態要素が、高、低、停止、変動、逆流など本来の正常な値に対して逸脱している状態とし、特定箇所のプロセス流体と当該特定箇所での異常モードとを一対一で組み合わせて最小単位のプロセス異常事象とし、また前記機器損傷モードは、プラントを構成する単位操作機器、計装機器、電気機器の個々の機器に対し、その機器に起こり得る破損、停止、性能劣化、機能不全、閉塞など正常な状態から逸脱していた状態とし、特定の機器と当該特定の機器の機器損傷モードとを一対一で組み合わせて最小単位の機器損傷事象とし、前記因果関係記憶部では異なるプロセス異常事象とプロセス異常事象、プロセス異常事象と機器損傷事象、機器損傷事象とプロセス異常事象、異なる機器損傷事象と機器損傷事象との因果関係をデータとして保持することを特徴とする特許請求項1に記載のプラント保安管理システム。
【請求項3】
前記個々のプロセス異常事象は、他のプロセス異常事象および/または機器損傷事象と要因と結果の関係で連結でき、前記個々の機器損傷事象は他の機器損傷事象および/またはプロセス異常事象と要因と結果の関係で連結でき、これらプロセス異常事象と個々の機器損傷事象を因果関係データとして保持することにより、プラント全体のプロセス異常及び機器損傷の因果関係をネットワークとして記憶する機能を具備することを特徴とする特許請求項1又は請求項2に記載のプラント保安管理システム。
【請求項4】
前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象とを、要因と結果の関係で記憶した因果関係データにて連結することで回路を作成し、当該回路を結果側から要因側に遡る事で原因を抽出し出力する機能と、前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象とを因果関係データで連結した回路を、要因側から結果側に進行させることで波及する事象を推論し出力する機能を具備することを特徴とする請求項3に記載のプラント保安管理システム。
【請求項5】
前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象のそれぞれに対し、想定される発生頻度およびプロセスへの影響度を割り付け、前記プロセス異常事象データ記憶部及び機器損傷事象データ記憶部に保持させることで、プロセス異常事象と機器損傷事象にプラントに対する重要度を表現する機能を具備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラント保安管理システム。
【請求項6】
実際のプラントの状態が個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象のそれぞれに対し、該当しているか否かを判別するために取り付けられた計測機器、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象を発生させない為の防護設備、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象が発生した際の波及の拡大を防御するための設備などの保安上の設備の内容が登録されているデータと関連付けする機能を有し、個々のプロセス異常事象や機器損傷事象から、関連する計測計器や防護設備、拡大防止の為の設備などの保安上の設備を参照できる機能を具備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラント保安管理システム。
【請求項7】
前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象のそれぞれに対し、直接関連する情報として、設計及び設備関連情報、運転管理・操作上のガイダンス、トラブル事象をデータとして登録し記憶した保安関連データベースと関連付けする機能を持たせ、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象から、保安関連データベースの中から関連付けされた情報を検索し出力する機能を具備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラント保安管理システム。
【請求項8】
前記個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象とを因果関係データで連結した回路を作成し、この回路から原因の抽出及び想定される波及を推論する機能、個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象に割り付けられた発生頻度、プロセスへの影響度から設定されたプラントに対する重要度、運転操作関連情報、設備関連情報を出力する機能を保持し、且つ、これらプロセス異常事象と機器損傷事象に関連付けられたデータの追加、削除及び修正する入力機能を具備することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のプラント保安管理システム。
【請求項9】
前記実際のプラントの状態が個々のプロセス異常事象と個々の機器損傷事象に対し、該当しているか否かを判別するために取り付けられた計測機器が指定され、プラントからの実際のデータを参照し、プロセス異常事象や機器損傷事象が現時点で該当するか否かを判別する機能と、その結果を出力する機能を具備する請求項6に記載のプラント保安管理システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2009−20787(P2009−20787A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184126(P2007−184126)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
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