説明

プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法及びフェライト皮膜形成装置

【課題】フェライト皮膜形成作業が終了するまでに要する時間を短縮できるプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法を提供する。
【解決手段】プラント構成部材であるBWRプラントの再循環系配管に皮膜形成装置を接続する(S1)。皮膜形成装置から、pH調整剤、鉄(II)イオンを含む薬剤及び酸化剤を含む皮膜形成水溶液を再循環系配管に供給する(S4〜S6)。再循環系配管の皮膜形成水溶液と接触する内面にフェライト皮膜が形成される。皮膜形成装置の皮膜形成水溶液を供給する皮膜形成液配管内に配置された水晶振動子電極装置によって、フェライト皮膜の形成量を計測する(S7)。計測されたフェライト皮膜量に基づいて皮膜形成速度を求め、この皮膜形成速度に基づいて各薬剤の注入量を制御する(S10)。計測されたフェライト皮膜量に基づいて得られたフェライト皮膜の厚みが設定厚みになったかを判定する(S8)。皮膜の厚みが設定厚みになったとき、フェライト皮膜形成作業を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法及びフェライト皮膜形成装置に係り、特に、沸騰水型原子力発電プラントに適用するのに好適なプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法及びフェライト皮膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントとして、例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)及び加圧水型原子力発電プラント(以下、PWRプラントという)が知られている。例えば、BWRプラントは、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された冷却水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された冷却水の一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉からタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。給水は、原子炉内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。
【0003】
BWRプラント及びPWRプラント等の発電プラントでは、原子炉圧力容器などの主要な構成部は、腐食を抑制するために、水が接触する接水部にステンレス鋼及びニッケル基合金などを用いている。また、原子炉冷却材浄化系、余熱除去系、原子炉隔離時冷却系、炉心スプレイ系、給水系及び復水系などの構成部は、プラントの製造所要コストを低減する観点、あるいは給水系及び復水系を流れる高温水に起因するステンレス鋼の応力腐食割れを避ける観点などから、主として炭素鋼部材が用いられる。
【0004】
しかし、原子炉冷却材浄化系、余熱除去系、原子炉隔離時冷却系、炉心スプレイ系、給水系及び復水系などを構成する炭素鋼部材も、水が接触する接水部を有するので、その接水部が腐食するおそれがある。この場合において、炭素鋼部材が浄化装置の下流側に配置されていると、炭素鋼部材の腐食生成物は、原子炉の放射性腐食生成物の元になることがある。また、炭素鋼部材の腐食生成物に起因してPWRプラントの二次系の熱交換効率が低下する原因になる場合がある。
【0005】
そこで、原子力発電プラントの構成部材である炭素鋼部材の腐食を抑制するために、その炭素鋼部材の水と接する表面に緻密なフェライト皮膜(例えば、マグネタイト皮膜、ニッケルフェライト皮膜)を形成することが提案されている(例えば、特開2007−182604号公報参照)。フェライト皮膜の形成において、鉄(II)イオンを第1薬剤、鉄(II)イオンを鉄(II)イオンに酸化する第2薬剤(酸化剤)、及びpHを調整する第3薬剤(pH調整剤)を含む皮膜形成液を用いている。そのフェライト皮膜は、炭素鋼部材に冷却水が接触するのを遮断する保護膜になるので、原子力発電プラントに適用するのに好適な部材の冷却水と接する表面の腐食が抑制される。
【0006】
原子力発電プラントの構成部材であるステンレス鋼部材の水と接する表面への放射性核種の付着を抑制するために、そのステンレス鋼部材の水と接する表面(例えば、BWRプラントの再循環系配管の内面)に緻密なフェライト皮膜を形成する方法が、特開2006−38483号公報に記載されている。このフェライト皮膜の形成にも、前述した鉄(II)イオンを含む第1薬剤、鉄(II)イオンを鉄(II)イオンに酸化する第2薬剤、及びpHを調整する第3薬剤を含む皮膜形成液が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−182604号公報
【特許文献2】特開2006−38483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炭素鋼部材及びステンレス鋼部材の冷却水に接する表面に緻密なフェライト皮膜を形成する際、各々の表面に所定厚みのフェライト皮膜が形成されていることを確認することは、原子力プラントの炭素鋼部材の腐食及びステンレス鋼部材への放射性核種の付着抑制の観点から重要なことである。特開2007−182604号公報及び特開2006−38483号公報は、形成されたフェライト皮膜の厚みの確認については何も言及していない。
【0009】
原子力プラントの構成部材、例えば配管の内面に形成されたフェライト皮膜の厚みを確認するために、その配管の材質と同じ試験片を用いることが考えられる。このフェライト皮膜の厚みを確認する方法を説明する。その試験片を、例えば、分岐管を通して、フェライト皮膜を形成すべき配管に接続されるフェライト皮膜形成装置の処理液供給管内に配置する。その後、第1薬剤、第2薬剤及び第3薬剤を含む皮膜形成液が、処理液供給管を通してフェライト皮膜を形成すべき配管に供給される。この皮膜形成液がフェライト皮膜を形成すべき配管の内面だけでなく試験片の表面にも接触するので、試験片の表面にもフェライト皮膜が形成される。所定厚みのフェライト皮膜の形成のために経験的に知り得た、皮膜形成液の供給開始後の経過時間が、所定厚みのフェライト皮膜の形成のために経験的に知り得た時間になったとき、皮膜処理液の供給を停止して分岐管から試験片を取り出す。試験片の重量を計測し、分岐管内に初めて配置した時点での重量との変化量に基づいて配管内面に形成されたフェライト皮膜の厚みを推定する。
【0010】
しかしながら、発明者らは、試験片の重量変化に基づいて、原子力プラントの構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜の厚みを推定する場合には、以下の2つの課題が生じることを見出した。(1)フェライト皮膜の形成が失敗した場合及びフェライト皮膜の形成量が所定量を満たさない場合には、その試験片を、再度、皮膜形成液に浸漬させ、フェライト皮膜形成のために皮膜形成液の供給を再開する必要がある。このため、フェライト皮膜形成の一連の手順を繰り返す必要がり、所定厚みのフェライト皮膜の形成に時間が掛かる。(2)短時間で目標とする所定厚みのフェライト皮膜が形成できた場合でも、経験的に知り得た時間だけは皮膜形成液を、フェライト皮膜を形成すべき配管に供給する必要がある。この場合には、所定厚みのフェライト皮膜が形成された後の時間が無駄な時間になる。
【0011】
上記の課題に基づいて、発明者らは、フェライト皮膜の形成に要する時間を短縮する必要があるとの思いに至った。
【0012】
本発明の目的は、フェライト皮膜形成作業が終了するまでに要する時間を短縮できるプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法及びフェライト皮膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、フェライト皮膜の形成量を計測し、鉄(II)イオンを含む薬液及び酸化剤の皮膜形成液への注入量を、計測されたフェライト皮膜の形成量に基づいて得られた皮膜形成速度が設定形成速度になるように制御し、計測されたフェライト皮膜の形成量に基づいて鉄(II)イオンを含む薬液及び酸化剤の皮膜形成液への注入を停止することにある。
【0014】
計測されたフェライト皮膜の形成量に基づいて鉄(II)イオンを含む薬液及び酸化剤の皮膜形成液への注入量を制御する。これによって、設定量のマグネタイト皮膜をより短時間に形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フェライト皮膜形成作業が終了するまでに要する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好適な一実施例である、BWRプラントの再循環系配管に適用した実施例1の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】図1に示すフェライト皮膜の形成方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置をBWRプラントの再循環系配管に接続した状態を示す説明図である。
【図3】図2に示す皮膜形成装置の詳細構成図である。
【図4】図3に示す水晶振動子電極装置の図3に示す皮膜形成液配管への詳細な取り付け状態を示す説明図である。
【図5】既製品の水晶振動子電極装置を温度90℃の純水に浸漬した状態でその水晶振動子電極装置により測定した重量変化の測定結果を示す特性図である。
【図6】既製品の水晶振動子電極装置の縦断面図である。
【図7】改良した水晶振動子電極装置の縦断面図である。
【図8】図7に示す水晶振動子電極装置を温度90℃の純水に浸漬した状態でその水晶振動子電極装置により測定した重量変化の測定結果を示す特性図である。
【図9】フェライト皮膜形成時において、図7に示す水晶振動子電極装置を用いて測定した皮膜の重量増加の変化を示す特性図である。
【図10】フェライト皮膜を形成した構成部材表面のレーザーラマンスペクトルを示す特性図である。
【図11】本発明の他の実施例である、BWRプラントの再循環系配管に適用した実施例2の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法に用いられる皮膜形成装置の詳細構成図である。
【図12】本発明の他の実施例である、BWRプラントの再循環系配管に適用した実施例3の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法に用いられる皮膜形成装置の詳細構成図である。
【図13】図12に示す皮膜形成装置を用いて行われる実施例3の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法の手順を示すフローチャートである。
【図14】本発明の他の実施例である、BWRプラントの浄化系配管に適用した実施例4の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法において皮膜形成装置を浄化系配管に接続した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者らは、フェライト皮膜形成作業が終了するまでに要する時間を短縮できる、原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法を見出すために、検討を行った。この検討結果を以下に説明する。
【0018】
発明者らは、フェライト皮膜を形成すべき配管に皮膜形成液を供給しながらその配管の内面に形成されたフェライト皮膜の厚みを測定できないかという課題に取り組んだ。そこで、発明者らが着目した技術が、水晶振動子マイクロバランス法(以下、QCMという)である。QCMは、60℃以下の水溶液中で微小重量を連続的に測定する技術である。
【0019】
原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法では、フェライト皮膜を形成すべき配管に供給する皮膜形成液の温度を、60℃から100℃にしなければならない。好ましくは、皮膜形成液の温度を90℃にすることが望ましい。このような高温の液体に対してQCMを適用した例がない。
【0020】
そこで、発明者らは、原子力プラントの構成部材表面へのフェライト皮膜の形成におけるQCMの適用の可否を検討した。60℃以下で使用されるQCMを適用した既製品の水晶振動子電極装置を、90℃の純水に浸漬させて、ノイズの大きさを測定により確認した。この測定には、60℃以下ではフェライト皮膜形成初期の重量変化を詳細に測定するために必要な分解能である0.15(μg/cm)を保障する既製品の水晶振動子電極装置を用いた。この水晶振動子電極装置による測定結果を図5に示す。しかしながら、既製品の水晶振動子電極装置では、ノイズが大きく必要分解能を満足できなかった。
【0021】
発明者らは、既製品の水晶振動子電極装置が90℃の純水において図5に示す測定結果を生じた原因を詳細に検討した。既製品の水晶振動子電極装置16Aは、図6に示すように、水晶17、金属部材18及び電極ホルダ19を有する。水晶17が電極ホルダ19の窪み内に設置され、金属部材18が水晶17の電極ホルダ19と接触しない一面に取り付けられる。金属部材18は、原子力プラントの構成部材と同じ材質の金属部材(例えば、ステンレス鋼部材または炭素鋼部材等)である。シール部材20Aが水晶18のこの一面の周辺部で電極ホルダ19の内面に沿って設置されている。このシール部材20Aは、金属部材18に接触する水(または水溶液)が水晶18の側面と電極ホルダ19の間に侵入することを防止している。シール部材20Aと金属部材18の間には、環状の開口部52が形成されている。
【0022】
発明者らは、上記の構成を有する既製品の水晶振動子電極装置16Aが開口部52を形成しているので、水晶振動子電極装置16Aが90℃の純水中において図5に示す特性を生じることを突き止めた。すなわち、水晶振動子電極装置16Aでは、開口部52が形成されていることによって純水が水晶17及び金属部材18の両者に接触するので、90℃の純水中においてノイズが増加したのである。この結果を踏まえて、発明者らは、図7に示す新しい構造の水晶振動子電極装置16を考え出した。この改良品の水晶振動子電極装置16では、シール部材20が、電極ホルダ19の窪み内に設置された水晶17の方面のうち金属部材18及び電極ホルダ19に接触する表面以外の表面を全面に亘って覆っている。水晶振動子電極装置16は水晶振動子電極装置16Aのように開口部52が形成されていないので、水晶17は、シール部材20によって、金属部材18の一面に接触する水(または水溶液)に接触することがない。
【0023】
90℃の純水に浸漬させた水晶振動子電極装置16によって重量の変化を測定した。この測定結果を図8に示す。水晶振動子電極装置16の測定結果は、金属部材18の表面に付着する不純物がほとんど存在しない純水中で重量変化が実質的に0であり、必要な分解能内に納まっている。水晶振動子電極装置16は、水晶振動子電極装置16Aに比べてノイズが著しく低減され、高温の90℃の純水中での測定が可能になった。
【0024】
発明者らが考え出した水晶振動子電極装置16を用いてフェライト皮膜形成量を連続的に測定する実験を行った。この実験に用いた水晶振動子電極装置16の金属部材18としてステンレス鋼部材を用いた。原子力プラントの構成部材であるステンレス鋼の表面に形成されるフェライト皮膜の量との比較を行うため、ステンレス鋼試験片(参照試験片)を水晶振動子電極装置16と共に、前述の第1薬剤、第2薬剤、及び第3薬剤を含む皮膜形成液に浸漬させた。この実験における水晶振動子電極装置16での測定結果を図9に示す。水晶振動子電極装置16の金属部材(ステンレス鋼)18の皮膜形成液と接触する表面にフェライト皮膜が形成され、金属部材18の重量が増加した。金属部材18の重量は、図9に示すように、初期において急激に増加し、その後、直線的に増加した。水晶振動子電極装置16及びステンレス鋼試験片を皮膜形成液に同時に浸漬させてから3時間を経過したとき、ステンレス鋼試験片を皮膜形成液から取り出し、ステンレス鋼試験片の重量を測定した。測定したステンレス鋼試験片の重量を、図9に黒丸で示した。ステンレス鋼試験片の測定された重量は、皮膜形成液に浸漬させてから3時間を経過したときに水晶振動子電極装置16で計測した金属部材18の重量にほぼ一致した。両者の重量は15%以内で一致しており、水晶振動子電極装置16の測定結果から、原子力プラントの構成部材であるステンレス鋼部材の皮膜形成液に接触する表面でのフェライト皮膜量の計測が可能であることが分かった。水晶振動子電極装置16を用いて形成されたフェライト皮膜量の計測を行うことによって、原子力プラントの構成部材の表面に所定量(所定厚み)のフェライト皮膜が形成されたことを効率よく確認することができ、フェライト皮膜の形成作業の終了時期を適切に判断することが可能になった。
【0025】
金属部材18を大きくして皮膜形成液と接触する表面積を大きくすると、皮膜形成液の流動によって逆に金属部材18を介して水晶17を振動させることになる。このため、水晶17の振動数が増大し、あたかも、フェライト皮膜の金属部材18の表面での形成量が増大したかのように計測される。このようなノイズの増大を避けるために、金属部材18の大きさは適切に設定する必要がある。
【0026】
金属部材18の表面に形成されたフェライト皮膜のラマンスペクトルを測定した。図10がそのラマンスペクトルの測定結果を示している。図10に示すように、本発明によって金属部材18の表面に形成されたフェライト皮膜のラマンスペクトルは、マグネタイト(Fe)の標準スペクトルと一致した。以上に述べた結果から、水晶振動子電極装置16の金属部材18の表面に形成された皮膜は、マグネタイト(Fe)皮膜であることを確認することができた。
【0027】
一般的な水溶液内での皮膜形成理論では、構成部材表面における皮膜の形成速度は(1)式のように表される。
【0028】
V=KN(α) ……(1)
ここで、Kは水溶液の不純物係数、Nは物質移動係数及びαは過飽和度を示している。つまり、計測された重量変化に基づいてフェライト皮膜の形成速度を求めることによって、原子力プラントの構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜の厚みを推定することができる。過飽和度αはフェライト皮膜形成時における皮膜形成液への薬剤の注入量で決まる。このため、フェライト皮膜の形成速度が遅い場合には、過飽和度αが上昇するように皮膜形成液内への薬剤の注入量を調節することによって、フェライト皮膜の形成速度を増大させることができる。
【0029】
水晶振動子電極装置16は、原子力プラントのフェライト皮膜を形成する配管に接続される皮膜形成装置の皮膜形成液配管内に配置することが望ましい。フェライト皮膜を形成する配管がBWRプラントの再循環系配管である場合には金属部材18に再循環系配管を構成するステンレス鋼部材を用い、フェライト皮膜を形成する配管がBWRプラントの原子炉冷却材浄化系配管である場合には金属部材18に原子炉冷却材浄化系配管を構成する炭素鋼部材を用いる。水晶振動子電極装置16は、PWRプラントの配管の内面にフェライト皮膜を形成するときにも用いることができる。
【0030】
以上に述べた発明者らの検討結果を反映した、本発明の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法の実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0031】
本発明の好適な一実施例である、BWRプラントの再循環系配管に適用した実施例1の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法を、図1、図2及び図3を用いて以下に説明する。
【0032】
原子力発電プラントであるBWRプラントは、原子炉1、タービン3、復水器4、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉1は、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)12を有し、RPV12内にジェットポンプ14を設置している。炉心13には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。再循環系は、再循環系配管22、及び再循環系配管22に設置された再循環ポンプ21を有している。給水系は、復水器4とRPV12を連絡する給水配管10に、復水ポンプ5、復水浄化装置6、給水ポンプ7、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9をこの順に設置している。原子炉浄化系は、再循環系配管22と給水配管10を連絡する浄化系配管20に、浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27をこの順に設置している。浄化系配管20は、再循環ポンプ21の上流で再循環系配管22に接続される。原子炉1は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器11内に設置されている。
【0033】
RPV12内の冷却水は、再循環ポンプ21で昇圧され、再循環系配管22を通ってジェットポンプ14内に噴出される。ジェットポンプ14のノズルの周囲に存在する冷却水も、ジェットポンプ14内に吸引されて炉心13に供給される。炉心13に供給された冷却水は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された一部の冷却水が蒸気になる。この蒸気は、RPV12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管10を通りRPV12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧される。給水ポンプ7で昇圧された給水は、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱されてRPV12内に導かれる。抽気配管15で主蒸気配管2、タービン3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
【0034】
再循環系配管22内を流れる冷却水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって浄化系配管20内に流入し、再生熱交換器25及び非再生熱交換器26で冷却された後、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された冷却水は、再生熱交換器25で加熱されて浄化系配管20及び給水配管10を経てRPV12内に戻される。
【0035】
BWRプラントの定期検査を実施するためにBWRプラントの運転が停止された後、仮設設備である皮膜形成装置30の皮膜形成液配管(循環配管)35の一端が浄化系配管20に接続され、皮膜形成液配管35の他端が再循環系配管22に接続される。具体的には、再循環系配管22に接続された浄化系配管20のバルブ23のボンネットを開放してボンネットの炉水浄化装置27側を閉止する。皮膜形成液配管35の一端がバルブ23のフランジに接続される。このような作業によって、皮膜形成液配管35が浄化系配管20の一部を介して再循環ポンプ21の下流で再循環系配管22に接続される。再循環ポンプ21の下流で再循環系配管22に接続されたドレン配管(または計装配管)に皮膜形成液配管35の他端を接続する。皮膜形成装置30が内面にフェライト皮膜を形成すべき配管である再循環系配管22に接続される。上記のような皮膜形成液配管35の接続によって、皮膜形成液配管35、浄化系配管20の一部、再循環系配管22及び皮膜形成液配管35と繋がる、皮膜形成液の循環流路が形成される。
【0036】
皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3により説明する。皮膜形成装置30は、サージタンク31、皮膜形成液配管35、薬液タンク40,45,46、フィルタ51、分解装置64及びカチオン交換樹脂塔60を備えている。開閉弁47、循環ポンプ48、弁49、加熱器53、弁55,56,57、サージタンク31、循環ポンプ32、弁33及び開閉弁34が、上流よりこの順に皮膜形成液配管35に設けられている。弁49をバイパスして皮膜形成液配管35に接続される配管71に、弁50及びフィルタ51が設置される。加熱器53及び弁55をバイパスする配管66が皮膜形成液配管35に接続される。冷却器58及び弁59が配管66に設置される。両端が皮膜形成液配管35に接続されて弁56をバイパスする配管67に、カチオン交換樹脂塔60及び弁61が設置される。両端が配管67に接続されてカチオン交換樹脂塔60及び弁61をバイパスする配管68に、混床樹脂塔62及び弁63が設置される。
【0037】
弁65及び分解装置64が設置される配管69が弁57をバイパスして皮膜形成液配管35に接続される。分解装置64は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。サージタンク31が弁57と循環ポンプ32の間で皮膜形成液配管35に設置される。弁36及びエゼクタ37が設けられる配管70が、弁33と循環ポンプ32の間で皮膜形成液配管35に接続され、さらに、サージタンク31に接続されている。フェライト皮膜を形成する再循環系配管22の内面の汚染物を酸化溶解するために用いる過マンガン酸カリウム(酸化除染剤)、さらには再循環系配管22内の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ37に設けられている。
【0038】
鉄(II)イオン注入装置が、薬液タンク45、注入ポンプ43及び注入配管72を有する。薬液タンク45は、注入ポンプ43及び弁41を有する注入配管72によって皮膜形成液配管35に接続される。薬液タンク45は、鉄をギ酸で溶解して調製した2価の鉄(II)イオンを含む薬剤が充填されている。この薬剤はギ酸を含んでいる。なお、鉄を溶解させる薬剤としては、ギ酸に限らず、鉄(II)イオンの対アニオンとなる有機酸又は炭酸を用いることができる。酸化剤注入装置が、薬液タンク46、注入ポンプ44及び注入配管73を有する。薬液タンク46は、注入ポンプ44及び弁42を有する注入配管73によって皮膜形成液配管35に接続される。薬液タンク46は、酸化剤である過酸化水素が充填されている。pH調整剤注入装置が、薬液タンク40、注入ポンプ39及び注入配管74を有する。薬液タンク40は、注入ポンプ39及び弁38を有する注入配管74によって皮膜形成液配管35に接続される。薬液タンク40はpH調整剤であるヒドラジンを充填する。
【0039】
本実施例では、pH調整剤注入装置の皮膜形成液配管35への第1接続点(注入配管74と皮膜形成液配管35の接続点)77、鉄(II)イオン注入装置の皮膜形成液配管35への第2接続点(注入配管72と皮膜形成液配管35の接続点)78、及び酸化剤注入装置の皮膜形成液配管35への第3接続点(注入配管73と皮膜形成液配管35の接続点)79のうち、第1接続点77が最も上流に位置している。第2接続点78は第1接続点77よりも下流に位置し、第3接続点79は第2接続点78よりも下流に位置している。第3接続点78は、皮膜形成液配管35において、化学除染及びフェライト皮膜形成の対象部位にできるだけ近くに位置させることが好ましい。弁54を設けた配管75が配管73と配管69を連絡する。サージタンク31は、処理に用いられる水が充填されている。皮膜形成液に含まれる酸素を除去するために、薬液タンク45及びサージタンク31内に窒素又はアルゴンなどの不活性ガスをバブリングすることが好ましい。
【0040】
分解装置64は、鉄(II)イオンの対アニオンとして使用する有機酸(例えば、ギ酸)、及びpH調整剤のヒドラジンを分解できるようになっている。つまり、鉄(II)イオンの対アニオンとしては、廃棄物量の低減化を考慮して水や二酸化炭素に分解できる有機酸、又は気体として放出可能で廃棄物を増やさない炭酸を用いている。分解装置64は、還元除染に用いた有機酸(例えば、シュウ酸)も分解する。
【0041】
皮膜厚み計測装置(皮膜形成量計測装置)は、前述の水晶振動子電極装置16、及び皮膜厚み算出装置(皮膜形成量算出装置)29を有する。水晶振動子電極装置16の金属部材18は、BWRプラントの構成部材である再循環系配管22を構成するステンレス鋼で作られている。水晶振動子電極装置16の皮膜形成液配管35への取り付け構造を、図4を用いて詳細に説明する。弁体を取り外した弁ボンネット28が第3接続点79の下流で皮膜形成液配管35に取り付けられる。具体的には、弁ボンネット28のフランジ80A,80Bが皮膜形成液配管35に接続される。水晶振動子電極装置16は弁ボンネット28内に配置される。水晶振動子電極装置16の長く伸びた電極ホルダ19が、弁ボンネット28に取り付けられたフランジ81にフィードスルー82を用いて取り付けられている。電極ホルダ19内を貫通する2本の配線83が水晶17に接続される。これらの配線83は皮膜厚み算出装置29に接続される。
【0042】
水晶振動子電極装置16は、水晶17に金属部材18を直接取り付けている。しかしながら、水晶17の表面に、酸化チタンなどの酸化物を取り付け、取り付けられた酸化物上に金属部材18を蒸着により設置してもよい。また、ステンレス鋼などの合金で水晶17に取り付け困難な金属部材の場合には、金、白金などを代用品として水晶17に取り付けて用いてもよい。
【0043】
本実施例におけるフェライト皮膜形成方法を、図1を用いて詳細に説明する。まず、皮膜形成装置30を皮膜形成対象の配管系に接続する(ステップS1)。BWRプラントの運転がBWRプラントの定期検査のために停止された後、皮膜形成液配管35が皮膜形成対象の配管系である再循環系配管22に前述したように接続される。
【0044】
皮膜形成対象箇所に対する化学除染を実施する(ステップS2)。RPV12内の冷却水と接触する再循環系配管22の内面には、放射性核種を含む酸化皮膜が形成されている。再循環系配管22の内面へのフェライト皮膜の形成は、その内面の放射性核種の付着抑制を目的とするものであるが、その形成に際しては再循環系配管22の内面に対して予め化学除染を実施しておくことが好ましい。
【0045】
ステップS2で適用する化学除染は、公知の方法(特開2000−105295号公報参照)を用い、特開2007−182604号公報に記載されているように実施される。弁34,33,57,56,55,49,47をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ32,48を駆動する。これにより、再循環系配管22内にサージタンク31内の水を循環させる。加熱器53により循環する水の温度を約90℃まで昇温させ、弁36を開く。エゼクタ37につながっているホッパから供給される必要量の過マンガン酸カリウムが、配管70を通してサージタンク31内に導かれ、そこで水に溶解する。サージタンク31内で生成された酸化除染液(過マンガン酸カリウム水溶液)が、循環ポンプ32の駆動によって再循環系配管22内に供給される。酸化除染液は、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜などの汚染物を酸化して溶解する。
【0046】
酸化除染が終了した後、上記のホッパからシュウ酸をサージタンク31内に注入する。このシュウ酸によって過マンガン酸カリウムが分解される。その後、サージタンク31内で生成されてpHが調整された還元除染液(シュウ酸水溶液)は、循環ポンプ32によって再循環系配管22内に供給される。再循環系配管22の内面に存在する腐食生成物が還元除染液によって除去される。還元除染液のpHが、薬液タンク40から皮膜形成液配管35内に供給されるヒドラジンによって調整される。再循環系配管22から排出された還元除染液の一部が、金属陽イオンを除去するために、カチオン交換樹脂塔60に導かれる。
【0047】
還元除染の終了後、皮膜形成液配管35内を流れる還元除染液の一部を分解装置64に供給する。この還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、薬液タンク46から配管75を通して分解装置64に導かれた過酸化水素、及び分解装置64内の活性炭触媒の作用によって分解される。シュウ酸及びヒドラジンの分解後、弁55を閉じて加熱器53による加熱を停止させ、同時に、弁59を開いて除染液を冷却器58で冷却する。冷却された除染液(例えば、60℃)が、不純物を除去するために、混床樹脂塔62に供給される。
【0048】
新設のプラント、例えば、新設のBWRプラントの配管(再循環系配管及び給水配管等)内にフェライト皮膜を形成する場合には、ステップS2の化学除染工程を実施する必要がない。
【0049】
再循環系配管22の化学除染が終了した後、フェライト皮膜の形成処理が実行される。
【0050】
皮膜形成対象箇所の除染が終了した後、皮膜形成水溶液の温度調整を行う(ステップS3)。皮膜形成対象箇所の除染終了後、すなわち、皮膜形成装置30による最後の浄化運転が終了した後、以下の弁操作が行われる。弁50を開いて弁49を閉じ、フィルタ51への通水を開始する。弁56を開いて弁63を閉じることにより、混床樹脂塔62への通水を停止する。さらに、弁55を開いて加熱器53によって皮膜形成液配管35内の水を所定温度まで加熱する。弁47,57,33,34は開いており、弁36,59,61,65,38,41,42,54は閉じている。フィルタ51への通水は水中に残留している微細な固形物を除去するためである。この固形物が残留していると、皮膜形成対象箇所でのフェライト皮膜の形成の際に、その固形物の表面にもフェライト皮膜が形成され、薬剤が無駄に使用されることになる。上記の固形物の除去によって、皮膜形成水溶液に含まれる薬剤を有効に使用できる。また、フィルタ51への皮膜形成水溶液の供給を化学洗浄中に実施した場合には、溶解によって生じた高濃度の鉄に起因する水酸化物でフィルタの圧力損失が高くなるおそれがあるため適切ではない。また、弁56を開放すると共に弁63を閉止することにより、浄化系運転で使用していた混床樹脂塔62への通水を停止する。
【0051】
皮膜形成水溶液の所定温度は、90℃程度が好ましいが、これに限られない。要は、原子炉の運転時においてステンレス鋼製の再循環系配管22の内面への放射性核種の付着を抑制できる程度に、形成されたフェライト皮膜の結晶等の膜構造が緻密に形成できればよいのである。したがって、皮膜形成水溶液の温度は200℃以下が好ましい。皮膜形成水溶液の温度の下限は20℃でもよいが、フェライト皮膜の生成速度が実用範囲になる60℃以上が好ましい。100℃よりも高い温度では皮膜形成水溶液の沸騰を抑制するため、加圧しなければならず仮設設備の耐圧性が要求されるようになり設備が大型化するため好ましくない。したがって、皮膜形成処理における皮膜形成水溶液の温度は、60℃以上100℃以下がより好ましい。
【0052】
第1薬剤に含まれる鉄(II)イオンを酸化させて水酸化第二鉄を生成させないために、皮膜形成水溶液内の溶存酸素を除去することが必要である。このため、サージタンク31及び薬液タンク45内で、不活性ガスのバブリング又は真空脱気を行うことが好ましい。
【0053】
pH調整剤(第3薬剤)を皮膜形成水溶液に注入する(ステップS4)。弁38を開いて注入ポンプ39を駆動することにより、pH調整剤(例えば、ヒドラジン)を、薬液タンク40から、皮膜形成液配管35内を流れている所定温度(例えば、90℃)の皮膜形成水溶液(pH調整剤が初めて注入されるときは水)に注入する。pH計(pH計測装置)76が、第3接続点79より下流で皮膜形成液配管35に設置される。pH計76は、皮膜形成液配管35を流れる皮膜形成水溶液のpHを計測する。制御装置(図示せず)が、このpH計測値に基づいて、注入ポンプ39の回転速度(またはバルブ38の開度)を調節し、皮膜形成水溶液のpHを6.0乃至9.0の範囲内で、例えば、7.0に調節する。
【0054】
鉄(II)イオンを含む薬液(第1薬剤)を皮膜形成水溶液に注入する(ステップS5)。弁41を開いて注入ポンプ43を駆動し、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液(第1薬剤)を、薬液タンク45から、皮膜形成液配管35内を流れてヒドラジンが含まれている皮膜形成水溶液に注入する。ここで注入される第1薬剤は、例えば、鉄をギ酸で溶解して調製した鉄(II)イオンを含んでいる。注入された鉄(II)イオンの一部が、皮膜形成水溶液内で水酸化第一鉄となる。
【0055】
酸化剤を皮膜形成水溶液に注入する(ステップS6)。弁42を開いて注入ポンプ44を駆動し、酸化剤である過酸化水素を、薬液タンク46から皮膜形成液配管35内を流れてヒドラジン、鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄を含む皮膜形成水溶液に注入する。酸化剤としては、過酸化水素以外に、オゾンまたは酸素を溶解した薬剤を用いてもよい。
【0056】
ヒドラジン、鉄(II)イオン、水酸化第一鉄及び過酸化水素を含むpH7.0の皮膜形成水溶液が、循環ポンプ32,48が駆動されているので、皮膜形成液配管35により、バルブ34を介して再循環系配管22内に供給される。この皮膜形成水溶液は、再循環系配管22内を流れ、皮膜形成液配管35の弁47側へと戻され、ヒドラジン、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液及び過酸化水素が供給されて再び再循環系配管22内に導かれる。皮膜形成水溶液(皮膜形成液)が再循環系配管22の内面に接触することによって、鉄(II)イオンがステンレス鋼部材である再循環系配管22の内面に吸着される。吸着された鉄(II)イオンが過酸化水素の作用によってフェライト化される。皮膜形成水溶液内の水酸化第一鉄は過酸化水素と反応してマグネタイトを生成する。このマグネタイトは再循環系配管22の内面に界面反応を介して吸着される。以上のようにして、マグネタイトを主成分とするフェライト皮膜(以下、マグネタイト皮膜という。)が、再循環系配管22の皮膜形成水溶液と接触する内面に形成される。すなわち、再循環系配管22の皮膜形成水溶液と接触する内面がマグネタイト皮膜によって覆われる。
【0057】
ステップS4、S5及びS6は連続的に実施されることが好ましい。より具体的には、第1接続点77でpH調整剤が注入された皮膜形成水溶液が第2接続点78に達したときに、鉄(II)イオンを含む薬液の皮膜形成水溶液への注入を開始することが好ましい。pH調整剤及び鉄(II)イオンを含む皮膜形成水溶液が第3接続点79に達したときに、酸化剤の皮膜形成水溶液への注入を直ちに実施することが好ましい。
【0058】
鉄(II)イオンを含む皮膜形成水溶液に酸化剤が供給されると、鉄(II)イオンの酸化反応が開始されるので、皮膜形成水溶液内における鉄(II)イオンと鉄(III)イオンの存在比率が、フェライト皮膜の生成反応に適した条件となる。皮膜形成水溶液内では、鉄(II)イオンと水酸化第一鉄は平衡定数状態を保って存在する。このため、皮膜形成水溶液内の鉄(II)イオンが減少すれば、皮膜形成水溶液内の水酸化第一鉄から鉄(II)イオンが供給される。皮膜形成液配管35の内面での無駄なマグネタイト皮膜の形成を防止するため、酸化剤の皮膜形成液配管35への注入ポイントは、皮膜形成箇所である再循環系配管22に近い位置、すなわち、バルブ34と皮膜形成液配管35の接続点に近い位置にすることが好ましい。
【0059】
皮膜形成対象箇所に形成されたフェライト皮膜の形成量を測定する(ステップS7)。皮膜形成水溶液が皮膜形成液配管35を通して再循環系配管22に供給されて再循環系配管22の内面にマグネタイト皮膜が形成されている間、弁ボンネット28内に配置された水晶振動子電極装置16の金属部材18の表面も、鉄(II)イオン、過酸化水素及びヒドラジンを含む皮膜形成水溶液に接触している。このため、再循環系配管22と同じ材質である金属部材18の表面にも、再循環系配管22の内面と同様に、マグネタイト皮膜が形成される。金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みは、再循環系配管22の内面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みと実質的に同じである。金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みを測定することによって、再循環系配管22の内面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みを知ることができる。
【0060】
水晶振動子電極装置16の金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みの測定を、詳細に説明する。再循環系配管22に皮膜形成水溶液を供給している間、皮膜厚み算出装置29から一本の配線83を通して水晶17に電圧を印加する。この電圧の印加によって水晶17が振動される。金属部材18も水晶17と一緒に振動する。水晶17及び金属部材18の振動数が、水晶17に接続されたもう一本の配線83を通して皮膜厚み算出装置29に伝えられる。金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みが厚くなるにつれて金属部材18が重くなるので、金属部材18を含む水晶17の振動数は、金属部材18が皮膜形成水溶液に接触していないときの金属部材18を含む水晶17の振動数、すなわち、金属部材18の表面にマグネタイト皮膜が形成されていないときの金属部材18を含む水晶17の振動数よりも減少する。これらの振動数の差が、金属部材18の表面にマグネタイト皮膜が形成されることによって増加した金属部材18の重量を表している。皮膜厚み算出装置29は、入力した振動数に基づいて、その振動数の差、すなわち、マグネタイト皮膜の形成による金属部材18の重量の増加分を算出する。この重量の増加分が金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の重量である。
【0061】
皮膜厚み算出装置29は、算出されたマグネタイト皮膜の重量に基づいて金属部材18の表面におけるマグネタイト皮膜の厚みを求める。このマグネタイト皮膜の厚みは、皮膜厚み算出装置29によって以下のように算出される。皮膜厚み算出装置29は、算出されたマグネタイト皮膜の重量をマグネタイト皮膜の密度で割ることによって金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の体積を算出する。皮膜厚み算出装置29は、求められたマグネタイト皮膜の体積を金属部材18の面積で割ることによって金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みを算出する。金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みは、再循環系配管22に皮膜形成水溶液を供給している間、以上に述べたように、皮膜厚み算出装置29によって継続して計測される。
【0062】
フェライト皮膜の形成処理が完了したかが判定される(ステップS8)。制御装置84は、皮膜厚み算出装置29で求めた、金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みを入力し、マグネタイト皮膜の設定厚みと比較する。マグネタイト皮膜の設定厚みは、再循環系配管22の内面に形成すべき、マグネタイト皮膜の厚みである。前者の算出されたマグネタイト皮膜の厚みが後者のマグネタイト皮膜の設定厚みより薄いと制御装置84が判定した場合(ステップS8の判定結果が「NO」)には、ステップS3〜S8の処理が繰り返される。前者の算出されたマグネタイト皮膜の厚みが後者のマグネタイト皮膜の設定厚みになったとき、制御装置84は注入ポンプ39,43及び44を停止する。これによって、皮膜形成液配管35内への鉄(II)イオンを含む薬液、酸化剤及びpH調整剤への供給が停止され、マグネタイト皮膜の形成作業が終了する。注入ポンプ39,43及び44を停止する替りに、制御装置84によって弁38,41及び42を閉じてもよい。
【0063】
皮膜厚み算出装置29で求めた、金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みが、マグネタイト皮膜の設定厚みになったとき、作業員が注入ポンプ39,43及び44の駆動を停止してもよい。この場合には制御装置が不要である。皮膜厚み算出装置29で求めた、金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みを表示装置に表示し、作業員が表示装置に表示されたその厚みを見て注入ポンプ39,43及び44の駆動停止の可否を判断する。表示されたその厚みが設定厚みになったとき、作業員が上記のように注入ポンプ39,43及び44を停止する。
【0064】
再循環系配管22の内面へのマグネタイト皮膜の形成を中止するためには、注入ポンプ43及び44の駆動を停止して鉄(II)イオンを含む薬液及び酸化剤の皮膜形成水溶液への注入を停止すればよい。注入ポンプ43及び44の停止の替りに、弁41及び42を閉じても良い。マグネタイト皮膜形成作業終了時に注入ポンプ39を停止することは、皮膜形成水溶液に余分なヒドラジンが注入されることを防止でき、後述のステップS9におけるヒドラジンの分解に要する時間を短縮することができる。
【0065】
マグネタイト皮膜の形成作業が終了した後、皮膜形成水溶液に含まれている薬剤の分解が実施される(ステップS9)。再循環系配管22の内面へのマグネタイト皮膜の形成に使用された皮膜形成水溶液は、マグネタイト皮膜の形成が終了した後においても、ヒドラジン及び有機酸であるギ酸を含んでいる。皮膜形成水溶液に含まれたヒドラジン及びギ酸は、還元除染剤であるシュウ酸の分解と同様に、分解装置64で分解される。薬剤の分解処理では、弁57,65の開度を調整し、皮膜形成液配管35内の皮膜形成水溶液の一部を分解装置64に供給する。弁54を開くことにより、過酸化水素が、薬液タンク46から配管75を通して分解装置64に供給される。ヒドラジン及びギ酸は、分解装置64内で過酸化水素及び活性炭触媒の作用により分解される。ヒドラジンは窒素と水に、ギ酸は二酸化炭素と水にそれぞれ分解する。触媒を用いた分解処理装置64の替りに紫外線照射装置を用いることも可能である。紫外線照射装置も、酸化剤の存在下でヒドラジン、ギ酸及びシュウ酸を分解することができる。
【0066】
ヒドラジン及びギ酸を分解装置64において上記のように気体及び水に分解することによって、カチオン交換樹脂塔60によるヒドラジン及び混床樹脂塔62によるギ酸の除去を回避できるので、カチオン交換樹脂塔60内の使用済イオン交換樹脂の廃棄量を著しく低減できる。
【0067】
本実施例は、水晶振動子電極装置16を皮膜形成液配管35内に配置し皮膜形成対象箇所である再循環系配管22の内面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みを検出しているので、その厚みを、再循環系配管22に皮膜形成水溶液を供給しながら計測することができる。しかも、皮膜形成水溶液の供給期間中、その厚みの測定結果を継続して得ることができる。このため、本実施例は、再循環系配管22に皮膜形成水溶液を供給している期間において、水晶振動子電極装置16で計測しているマグネタイト皮膜の厚みが設定の厚みになったとき、少なくとも鉄(II)イオンを含む薬液及び酸化剤の皮膜形成液配管35内への供給を停止することができる。これによって、再循環系配管22の内面へのマグネタイト皮膜の形成作業が終了する。このような本実施例は、フェライト皮膜形成作業の開始からこの作業の終了するまでに要する時間を短縮することができる。さらに、本実施例は、皮膜形成対象である再循環系配管22の内面に所定厚みのマグネタイト皮膜が形成されたことを確認することができる。
【0068】
本実施例は、鉄(II)イオンを含む薬液及び酸化剤を含む、pHが6.0乃至9.0の範囲内にある皮膜形成水溶液を再循環系配管22内に供給しているので、皮膜形成水溶液が接触した、再循環系配管22の内面の前面に緻密なフェライト皮膜を形成することができる。このため、再循環系配管22の冷却水と接触する内面に放射性核種が付着することを抑制することができる。
【0069】
本実施例ではフェライト皮膜形成量の連続測定に水晶振動子電極装置16を用いたが、水晶振動子電極装置16の替りに、形成されたフェライト皮膜量の連続測定が可能な計測方法、例えば交流インピーダンス法などの電気化学的手法を用いてもよい。
【実施例2】
【0070】
本発明の他の実施例である、BWRプラントの再循環系配管に適用した実施例2の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法を、図11を用いて以下に説明する。本実施例のフェライト皮膜の形成方法に用いられる皮膜形成装置30Aは、皮膜形成装置30と異なり、水晶振動子電極装置16を取り付けた弁ボンネット28を開閉弁47の上流で皮膜形成液配管35に設けた構成を有する。皮膜形成装置30Aの他の構成は皮膜形成装置30と同じである。本実施例では、皮膜形成装置30Aを用いて実施例1と同様に再循環系配管22の内面にマグネタイト皮膜が形成される。
【0071】
水晶振動子電極装置16の金属部材18の皮膜形成水溶液と接触する表面にマグネタイト皮膜が形成される。再循環系配管22から皮膜形成配管35に戻される皮膜形成水溶液は、再循環系配管22に供給される皮膜形成水溶液における各濃度よりも低下した鉄(II)イオン、過酸化水素及びヒドラジンを含んでいる。これらの物質による作用により、金属部材18の表面にマグネタイト皮膜が形成される。
【0072】
本実施例において皮膜厚み算出装置29で求めたマグネタイト皮膜の厚みが設定厚みになったとき、制御装置84は、注入ポンプ39,43及び44を停止する。皮膜厚み算出装置29で求めたマグネタイト皮膜の厚みが設定厚みになったときには、皮膜形成対象である再循環系配管22の内面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みは設定厚み以上になっている。このような本実施例でも実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0073】
本実施例において、水晶振動子電極装置16を取り付けた別の弁ボンネット28を、実施例1のように、第3接続点79の下流で皮膜形成液配管35にさらに設置してもよい。この場合には、上記の皮膜厚み算出装置29が、別の弁ボンネット28に設けられた水晶振動子電極装置16の水晶17等の振動数を入力してこの水晶振動子電極装置16の金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みを算出する。
【実施例3】
【0074】
本発明の他の実施例である、BWRプラントの再循環系配管に適用した実施例3の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法を、図12及び図13を用いて以下に説明する。本実施例に用いられる皮膜形成装置30Bは、皮膜形成装置30の制御装置84を制御装置84Aに替えた構成を有する(図12参照)。皮膜形成装置30Bの他の構成は、皮膜形成装置30と同じである。皮膜形成装置30BはpH制御装置85を有する。このpH制御装置85は皮膜形成装置30及び30Aにも設けられている。
【0075】
本実施例の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法は、実施例1で実行されるステップS1〜S9の各作業及び処理を実行する。本実施例は、ステップS7とステップS8の間で、薬液の注入量の制御を行う(ステップS10)。この薬液の注入量の制御は以下のように行われる。
【0076】
ステップS7において、前述したように、フェライト皮膜の形成量を測定する。すなわち、皮膜厚み算出装置29が、水晶振動子電極装置16の水晶17及び金属部材18の振動数に基づいて、皮膜形成水溶液に接触したこの金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みを算出する。算出されたマグネタイト皮膜の厚みが制御装置84Aに入力される。制御装置84Aは、皮膜厚み算出装置29から継続して入力したマグネタイト皮膜の厚みに基づいてマグネタイト皮膜の形成速度を算出し、得られたこの皮膜形成速度の、目標皮膜形成速度からのずれの有無を判定する。
【0077】
制御装置84Aは、算出された皮膜形成速度が目標皮膜形成速度からずれているとき、注入ポンプ43及び44の回転速度を制御し、鉄(II)イオンを含む薬剤及び過酸化水素の皮膜形成液配管35内への注入量を調節する。例えば、算出された皮膜形成速度が目標皮膜形成速度よりも小さい場合には、注入ポンプ43及び44の回転速度が増大され、皮膜形成液配管35内への鉄(II)イオンを含む薬剤及び過酸化水素の注入量が増加される。これらの注入量の増加は、皮膜形成液配管35内を流れる皮膜形成水溶液のpHを低下させることになる。pH計76で計測された皮膜形成水溶液のpHが設定pHから低下したとき、pH制御装置(他の制御装置)85は、注入ポンプ39の回転数を増大させてヒドラジンの注入量を増加させ、皮膜形成水溶液のpHを設定pH(6.0乃至9.0の範囲内で、例えば、7.0)に維持する。以上に述べた注入ポンプ43及び44の制御によって、再循環系配管22の内面に形成されるマグネタイト皮膜の形成速度が増大し、目標皮膜形成速度が維持される。
【0078】
算出された皮膜形成速度が目標皮膜形成速度よりも大きい場合には、逆に、注入ポンプ43及び44の回転速度が制御装置84Aによって低下され、皮膜形成液配管35内への鉄(II)イオンを含む薬剤及び過酸化水素の注入量が減少する。皮膜形成水溶液のpHが上昇するので、pH制御装置85は、注入ポンプ39の回転数を低下させてヒドラジンの注入量を減少させ、皮膜形成水溶液のpHを設定pHに維持する。このような注入ポンプ43及び44の制御によって、再循環系配管22の内面に形成されるマグネタイト皮膜の形成速度が低下し、目標皮膜形成速度が維持される。
【0079】
制御装置84Aが、皮膜厚み算出装置29で求めた、金属部材18の表面に形成されたマグネタイト皮膜の厚みが設定厚みになったと判定したとき(ステップS8)、制御装置84Aは、実施例1と同様に、注入ポンプ39,43及び44を停止する。
【0080】
本実施例においても、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0081】
さらに、本実施例は、計測したマグネタイト皮膜の厚みに基づいてマグネタイト皮膜の形成量を制御することができるので、設定厚みのマグネタイト皮膜をより短時間に形成することができる。算出された皮膜形成速度が目標皮膜形成速度よりも小さいときには、鉄(II)イオンを含む薬剤及び酸化剤、例えば、過酸化水素の皮膜形成液配管35内への注入量が増加される。これによって、皮膜形成速度が、目標皮膜形成速度になるように増大され、設定厚みのマグネタイト皮膜の形成をより短時間に行うことができる。また、算出された皮膜形成速度が目標皮膜形成速度よりも大きいときには、皮膜形成速度が目標皮膜形成速度になるように減少され、設定厚みのマグネタイト皮膜の形成をより短時間に行うことができる。
【0082】
鉄(II)イオンを含む薬剤及び酸化剤の皮膜形成液配管35内への注入量が多くなり過ぎると、再循環系配管22の内面にマグネタイト皮膜が形成される以外に、皮膜形成水溶液内にマグネタイトに成長する核が発生し、この核を中心にごみとなるマグネタイトの粒子が皮膜形成水溶液内に形成される。このため、再循環系配管22の内面におけるマグネタイト皮膜の形成速度が抑制され、その内面へのマグネタイト皮膜の形成に時間を要することになる。目標皮膜形成速度は、鉄(II)イオンを含む薬剤及び酸化剤の皮膜形成液配管35内への注入量が多くなり過ぎて皮膜形成速度が抑制されること避けるように設定されている。したがって、算出された皮膜形成速度が目標皮膜形成速度よりも大きいときに、皮膜形成速度を目標皮膜形成速度になるように減少することによって、設定厚みのマグネタイト皮膜の形成をより短時間に行うことができる。
【0083】
本実施例は、水晶振動子電極装置16を、皮膜形成液配管35の、再循環系配管22への皮膜形成水溶液の供給側に配置しているので、再循環系配管22の内面での皮膜形成よりも早い段階で皮膜形成速度を早く求めることができる。このため、鉄(II)イオンを含む薬剤及び酸化剤の注入量を早目に制御することができ、再循環系配管22の内面での皮膜形成速度をより早く調節することができる。
【0084】
本実施例において、水晶振動子電極装置16を取り付けた弁ボンネット28を、開閉弁41の下流ではなく、実施例2のように、開閉弁47の上流で皮膜形成液配管35に設けてもよい。また、水晶振動子電極装置16を取り付けた弁ボンネット28を、開閉弁47の上流及び開閉弁41の下流の二箇所に設置してもよい。
【実施例4】
【0085】
本発明の他の実施例である、BWRプラントの浄化系配管20に適用した実施例4の原子力プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法を、図14を用いて以下に説明する。冷却材浄化系で腐食が問題になるのは、RPV12からの高温の冷却水が流入する再生熱交換器25及びこの周辺の浄化系配管20である。浄化系配管20は炭素鋼製である。再生熱交換器25の上流及び下流で弁86及び87が浄化系配管20に設けられている。
【0086】
弁86のボンネットを開放して皮膜形成装置30の皮膜形成液配管35の一端を弁86の開放されたボンネットのフランジに接続する。バルブ23は閉じられている。弁87のボンネットを開放して非再生熱交換器26側のフランジを封鎖する。皮膜形成装置30の皮膜形成液配管35の他端を弁87の開放されたボンネットのフランジに接続する。このようにして、皮膜形成装置30が浄化系配管20に接続され、浄化系配管20及び皮膜形成液配管35による皮膜形成水溶液の循環経路が形成される。
【0087】
本実施例でも、実施例1におけるステップS1〜S9の各作業及び処理を実行する。本実施例では、水晶振動子電極装置16の金属部材18は、浄化系配管20と同じ炭素鋼部材である。本実施例においても、皮膜形成水溶液と接触する浄化系配管20の内面及び非再生熱交換器26の内面にマグネタイト皮膜が形成される。原子炉浄化系の構成部材のうち皮膜形成水溶液と接触する構造部材の表面がマグネタイト皮膜で覆われる。
【0088】
本実施例も、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、炭素鋼部材の冷却水と接触する表面を緻密なマグネタイト皮膜で覆うことができるので、原子力プラントの炭素鋼部材の腐食を抑制することができる。
【0089】
再生熱交換器25と非再生熱交換器26の間に弁87が存在しない場合は、非再生熱交換器26と炉水浄化装置27の間で浄化系配管20に設けられている隔離弁に皮膜形成装置30の皮膜形成液配管35の他端を接続すればよい。
【0090】
本実施例において、皮膜形成装置30の替りに、前述した皮膜形成装置30Aまたは30Bを用いてもよい。皮膜形成装置30Bが用いられる場合には、図13に示すステップS1〜S10の各作業及び処理が実行される。
【0091】
実施例1,2及び3の各プラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法は、BWRプラントの炭素鋼製の給水配管、PWRプラントの炭素鋼製の給水配管、火力プラントの炭素鋼製の給水配管及びPWRプラントのステンレス鋼製の一次冷却材配管に適用することができる。PWRプラントの一次冷却材配管は、原子炉圧力容器内で発生した高温の冷却水を蒸気発生器に供給し、温度が低下して蒸気発生器から排出された冷却水を原子炉圧力容器に戻す機能を有している。
【0092】
BWRプラントの炭素鋼製の給水配管10の給水に接触する内面にフェライト皮膜を形成する場合には、特開2007−182604号公報の図4に示すように、皮膜形成装置30、30A及び30Bのいずれかの皮膜形成液配管35の両端部を給水配管10にそれぞれ接続すればよい。さらに、PWRプラントの給水配管の給水に接触する内面にフェライト皮膜を形成する場合には、特開2007−182604号公報の図8に示すように、皮膜形成装置30、30A及び30Bのいずれかの皮膜形成液配管35の両端部をその給水配管にそれぞれ接続すればよい。火力プラントの給水配管の給水に接触する内面にフェライト皮膜を形成する場合には、特開2007−182604号公報の図9に示すように、皮膜形成装置30、30A及び30Bのいずれかの皮膜形成液配管35の両端部をその給水配管にそれぞれ接続すればよい。PWRプラントの一次冷却材配管の冷却水に接触する内面にフェライト皮膜を形成する場合には、一次冷却材配管の原子炉圧力容器近傍に設けられた隔離弁を閉じて皮膜形成水溶液が原子炉圧力容器内に流入しないようにして、皮膜形成装置30、30A及び30Bのいずれかを用いてその一次冷却材配管内に皮膜形成水溶液を供給すればよい。
【符号の説明】
【0093】
1…原子炉、3…タービン、10…給水配管、12…原子炉圧力容器、13…炉心、16…水晶振動子電極装置、17…水晶、18…金属部材、19…電極ホルダ、20…浄化系配管、22…再循環系配管、29…皮膜厚み算出装置、30,30A,30B…皮膜形成装置、35…皮膜形成液配管、39,43,44…注入ポンプ、40,45,46…薬液タンク、72,73,74…注入配管、64…分解装置、84,84A…制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄(II)イオン、前記鉄(II)イオンを酸化させる酸化剤及びpH調整剤を含む皮膜形成液をプラント構成部材の水と接触する表面に接触させてこの表面にフェライト皮膜を形成し、
前記フェライト皮膜の形成量を計測し、
前記鉄(II)イオンを含む薬液及び前記酸化剤の前記皮膜形成液への注入量を、計測された前記フェライト皮膜の形成量に基づいて得られた皮膜形成速度が設定形成速度になるように制御し、
計測された前記フェライト皮膜の形成量に基づいて前記鉄(II)イオンを含む薬液及び前記酸化剤の前記皮膜形成液への注入を停止することを特徴とするプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項2】
計測された前記フェライト皮膜の形成量に基づいて前記pH調整剤の前記皮膜形成液への注入を停止する請求項1に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記鉄(II)イオンを含む薬液及び前記酸化剤の注入停止は、前記計測されたフェライト皮膜の形成量に基づいて得られた前記フェライト皮膜の厚みが設定厚みになったときに行われる請求項1に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記計測されたフェライト皮膜の形成量は、前記皮膜形成液に浸漬された水晶振動子電極装置の前記皮膜形成液に接触する金属部材の表面に形成されたフェライト皮膜の形成量である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項5】
前記金属部材は前記プラント構成部材と同じ材質である請求項4に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項6】
鉄(II)イオン、前記鉄(II)イオンを酸化させる酸化剤及びpH調整剤を含む皮膜形成液を供給する皮膜形成液配管を、皮膜形成対象の前記プラント構成部材であるプラントの対象配管に接続し、
前記フェライト皮膜の形成が、前記皮膜形成液配管を通して前記皮膜形成液を前記対象配管に供給することにより前記皮膜形成液と接触する前記対象配管の内面に対して行われ、
前記フェライト皮膜の形成量を計測が、前記皮膜形成液配管に取り付けられた皮膜形成量計測装置に設けられて前記皮膜形成液に接触する金属部材に形成されるフェライト皮膜の形成量を前記皮膜形成量計測装置によって計測することであり、
前記鉄(II)イオンを含む薬液及び前記酸化剤の前記皮膜形成液への注入を停止が、前記皮膜形成量計測装置によって計測された前記フェライト皮膜の形成量に基づいて、前記鉄(II)イオンを含む薬液及び前記酸化剤の、前記皮膜形成液配管内の前記皮膜形成液への注入を停止することである請求項1に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項7】
前記皮膜形成液配管の両端を前記対象配管に接続して前記皮膜形成液配管及び前記対象配管を含む閉ループを形成し、
前記皮膜形成量計測装置による前記フェライト皮膜の形成量の計測が、前記対象配管に供給する前記皮膜形成液及び前記対象配管から戻ってきた前記皮膜形成液の少なくとも一方を前記金属部材に接触させることによって行われる請求項6に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項8】
前記皮膜形成量計測装置の前記金属部材として水晶振動子電極装置に設けられた金属部材を用いる請求項6または7に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項9】
前記対象配管がプラントの給水配管である請求項6ないし8のいずれか1項に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項10】
前記対象配管が原子力プラントの原子炉に接続されて前記原子炉内の冷却材が流れる配管である請求項6ないし8のいずれか1項に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項11】
前記皮膜形成液のpHを計測し、計測されたpHに基づいて前記pH調整剤の前記皮膜形成液への注入量を制御する請求項1に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項12】
前記金属部材は前記プラント構成部材と同じ材質である請求項6または8に記載のプラント構成部材の表面へのフェライト皮膜の形成方法。
【請求項13】
プラントの皮膜形成対象である配管に接続される皮膜形成液配管と、前記皮膜形成液配管に供給される鉄(II)イオンを含む薬液を貯留する第1の薬液タンクと、前記皮膜形成液配管に供給される酸化剤を貯留する第2の薬液タンクと、前記皮膜形成液配管に供給されるpH調整剤を貯留する第3の薬液タンクと、前記皮膜形成液配管に設置された加熱装置と、前記皮膜形成液配管内を流れる、前記鉄(II)イオン、前記酸化剤及び前記pH調整剤を含む皮膜形成液と接触する金属部材を有し、前記金属部材の表面に形成されるフェライト皮膜の形成量を計測する皮膜形成量計測装置と、前記鉄(II)イオンを含む薬液及び前記酸化剤の前記皮膜形成液配管への注入量を、前記皮膜形成量計測装置によって計測される前記フェライト皮膜の形成量に基づいて得られた皮膜形成速度が設定形成速度になるように制御し、計測される前記フェライト皮膜の形成量に基づいて前記鉄(II)イオンを含む薬液及び前記酸化剤の前記皮膜形成液配管内への供給を停止する制御装置とを備えたことを特徴とする皮膜形成装置。
【請求項14】
前記皮膜形成装置は、前記金属部材が設けられた水晶を有する水晶振動子電極装置、及び前記水晶の振動数に基づいてフェライト皮膜の形成量を算出する皮膜形成量算出装置を有する請求項13に記載の皮膜形成装置。
【請求項15】
前記水晶振動子電極装置が、前記金属部材、前記水晶、前記水晶を保持する保持部材及び前記シール部材を有し、
前記シール部材が、前記水晶の表面のうち、前記金属部材及び前記保持部材に接触している表面以外の表面の全面を覆っている請求項14に記載の皮膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−47394(P2013−47394A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−243444(P2012−243444)
【出願日】平成24年11月5日(2012.11.5)
【分割の表示】特願2008−303323(P2008−303323)の分割
【原出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】