説明

プラント運転熟練度評価装置および方法

【課題】運転熟練度の客観的な評価が容易なプラント運転熟練度評価装置を提供する。
【解決手段】プラント運転熟練度評価装置10は、時系列的に記録された一連のステップを含む運転手順ファイルから、グループ化辞書を参照して、階層運転手順ファイルを生成する階層運転手順ファイル生成手段12と、評価対象の階層運転手順ファイルと、お手本の階層運転手順ファイルとを比較して双方のファイルの類似度を算出する類似度算出手段13と、算出された類似度に従って、評価対象の運転操作の熟練度を評価する熟練度評価手段14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント運転熟練度評価装置および方法に関し、更に詳しくは、プラント運転員(オペレータ)のプラント操作における熟練度を評価するプラント運転熟練度評価装置および方法に関する。本発明は、更に、プラント運転熟練度評価装置を含むオペレータ訓練用シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
プラント運転の現場において、各オペレータの運転操作の熟練度を客観的に評価・解析することは、従来から重要な課題である。オペレータの運転操作における熟練度を客観的に評価できるようになれば、プラント内における人員の適切な配置が可能になる。また、オペレータ訓練用シミュレータ(訓練シミュレータ)などを用いてオペレータを訓練する際に、その訓練結果が容易に評価できるので、オペレータの訓練を効果的に行うことが可能になる。特に、若年オペレータや中堅オペレータの技術・技能を、短期間でより高いレベルに引き上げ、かつベテランのオペレータの技術・技能を高いレベルに維持することができる。このため、オペレータの運転熟練度を適切に評価することは、プラントを安全かつ高効率で運転するのに役立つものと期待できる。
【0003】
特許文献1は、プラント運転熟練度の評価手法として、操作手順およびプラントの安定度という二つの観点から、オペレータの熟練度を評価する手法を開示している。この評価手法では、評価対象者であるオペレータの訓練シミュレータにおける操作手順およびそのときに発生する警報を、お手本となるベテラン・オペレータの操作手順および警報と比較し、その間の類似性(類似度)を計算し、これにもとづいて熟練度を評価する。類似度の計算に先立って、まず、評価対象者による操作で発生した操作信号および警報信号の組合せを、メッセージ(シンボル)として時系列的に抽出し、抽出したメッセージ列を含む運転手順ファイルを作成する。その後、抽出した運転手順ファイルのメッセージ列を、予め記録した熟練者によるお手本のメッセージ列と比較し、それらメッセージ列間の類似度を計算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2009−86542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の手法によると、比較的に小規模のプラントや訓練シミュレータでは、評価対象者の熟練度が容易に判定可能である。しかし、この手法は、複数のプラントが組み合わされたような大規模プラントになると、熟練度の評価が容易ではなくなる。例えば、大規模な化学プラントのスタート・アップ操作などでは、長時間にわたって膨大な手数の操作手順があるので、評価対象のオペレータの操作が、大きな流れとしてはお手本とよく似た操作手順を踏んでいても、多くの箇所でお手本の操作手順との間で小さな相違が生じ易い。小さな相違が積み重なると、全体的にはお手本と似た操作手順であっても、お手本との類似度が低く計算され、熟練度が低いと評価されてしまうことになる。つまり、上記技術では、単に各手順ごとの類似度の判定を積み重ねるため、得られた類似度の高低が、必ずしも運転操作技術の高低と一致しないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、評価対象者による操作と、熟練者による操作または標準的な操作であるお手本の操作との間で熟練度を評価・判定するにあたり、より客観性が高い評価・判定が可能なプラント運転熟練度評価装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、第1の態様において、時系列的に記録された一連のステップを含む運転手順ファイルを入力し、各ステップとステップのグループ名とを対応つけたグループ化辞書を参照して、前記一連のステップのそれぞれにグループ名を付与するグループ名付与手段と、
前記グループ名付与手段によって付与されたグループ名を参照し、前記運転手順ファイルから、グループ化されたステップを含む階層運転手順ファイルを生成する階層運転手順ファイル生成手段と、
評価対象の運転操作から前記階層運転手順ファイル生成手段によって得られた階層運転手順ファイルと、お手本の運転操作から前記階層運転手順ファイル生成手段によって得られた階層運転手順ファイルとを比較して、双方の階層運転手順ファイルの類似度を算出する類似度算出手段と、
前記類似度算出手段によって算出された類似度に従って、評価対象の運転操作の熟練度を評価する熟練度評価手段と、を備えることを特徴とするプラント運転熟練度評価装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、第2の態様において、オペレータのプラント運転熟練度を評価する方法であって、
コンピュータが、時系列的に記録された一連のステップを含む運転手順ファイルを入力し、各ステップとステップのグループ名とを対応つけたグループ化辞書を参照して、前記一連のステップのそれぞれにグループ名を付与する段階と、
コンピュータが、前記グループ名付与手段によって付与されたグループ名を参照し、前記運転手順ファイルから、グループ化されたステップを含む階層運転手順ファイルを生成する階層化段階と、
コンピュータが、評価対象の運転操作から得られた階層運転手順ファイルと、お手本の運転操作から得られた階層運転手順ファイルとを比較して、双方の階層運転手順ファイルの類似度を算出する段階と、
コンピュータが、前記類似度算出手段によって算出された類似度に従って、評価対象の運転操作の熟練度を評価する段階と、を有することを特徴とするプラント運転熟練度評価方法を提供する。
【0009】
更に、本発明は、第3の態様において、プラント操作の熟練度評価を行うコンピュータのためのプログラムであって、前記コンピュータに、
時系列的に記録された一連のステップを含む運転手順ファイルを入力し、各ステップとステップのグループ名とを対応つけたグループ化辞書を参照して、前記一連のステップのそれぞれにグループ名を付与する処理と、
前記グループ名付与処理によって付与されたグループ名を参照し、前記運転手順ファイルから、グループ化されたステップを含む階層運転手順ファイルを生成する階層化処理と、
評価対象の運転操作から得られた階層運転手順ファイルと、お手本の運転操作から得られた階層運転手順ファイルとを比較して、双方の階層運転手順ファイルの類似度を算出する処理と、
前記類似度算出処理によって算出された類似度に従って、評価対象の運転操作の熟練度を評価する処理と、を実行させることを特徴とするプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプラント運転熟練度評価装置および方法によると、評価対象者による操作と、熟練者による操作または標準的な操作を示すお手本の操作との類似度を評価・判定するにあたり、階層化された運転操作手順ファイルを用いて類似度を評価することにより、熟練度のより正確でかつ客観的な評価・判定が可能となる。
【0011】
本発明の好ましい態様のプラント運転熟練度評価装置では、前記グループ化辞書が、前記グループと該グループよりも上位の上位グループとを対応つけ、または、前記グループと該グループよりも上位の上位グループとを対応つけると共に、該上位グループと該上位グループよりも更に上位の上位グループとを対応つけた、n次(nは2以上の整数)に階層化された階層化グループ構造を記憶しており、
前記階層運転手順ファイル生成手段は、前記階層化されたグループ構造に従って、第1〜第n階層の運転手順ファイルを含む階層運転手順ファイルを生成して、前記記憶装置に記憶し、
前記類似度算出手段は、評価対象から得られた階層運転手順ファイルと、お手本から得られた階層運転手順ファイルとの間の類似度の算出にあたり、第1〜第n階層の運転手順ファイルのそれぞれについて類似度を算出する構成を採用する。この実施態様によると、より複雑な構成を持つプラントについても、更に正確でより客観的な熟練度評価が可能になる。
【0012】
本発明の好ましい態様のプラント運転熟練度評価装置では、前記一連のステップのそれぞれが、操作対象の機器に関する情報と、該機器に与えられる操作種別に関する情報とを含むメッセージである構成を採用する。この構成を採用すると、一連のステップを容易にメッセージ化できる。更に、この実施態様では、前記一連のステップのそれぞれに、プラントから出力される警報を含む状態信号を付加することが出来る。この構成によると、操作の適否の判定が容易になる。このため、プラントの運転操作手順の改善が期待できる。
【0013】
本発明の上記態様のプラント運転熟練度評価装置は、訓練シミュレータに組み込むことができる。訓練シミュレータは、このプラント運転熟練度評価装置に加えて、例えば、オペレータからの入力を受け付けて、一連のステップを発生させる入力装置と、入力装置からの入力に応答するプラントの状態を模擬するプラント模擬装置と、入力装置を経由した入力および/または入力に応答するプラント模擬装置の出力に基づいて、一連のステップを抽出するステップ抽出手段とを備える。訓練シミュレータに本発明のプラント運転熟練度評価装置を組み込むことで、訓練シミュレータによる訓練の効率化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラント運転熟練度評価装置のブロック図。
【図2】実施形態のプラント運転熟練度評価装置を含む訓練シミュレータのブロック図。
【図3】グループ化辞書の構成を例示する図。
【図4】図3に示すグループ化辞書におけるグループ名称を例示する図。
【図5】階層運転手順ファイルを例示する線図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態のプラント運転熟練度評価装置(以下、単に熟練度評価装置とも呼ぶ)、および、プラント運転熟練度評価方法(以下、単に熟練度評価方法とも呼ぶ)の手順について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る熟練度評価装置のブロック図である。熟練度評価装置10は、例えばプラントの運転操作をするオペレータの訓練を行うために用いられる訓練シミュレータに付属しており、シンボル名付与手段(グループ名付与手段)11と、階層運転手順ファイル生成手段12と、類似度算出手段13と、熟練度評価手段14とを含む。
【0016】
シンボル名付与手段11は、グループ化辞書15を参照し、入力される運転手順ファイルの各操作ステップについて、そのシンボル名またはその操作ステップが属するグループのシンボル名(グループ名)を、複数のグループ階層にわたって付与する機能を有する。グループ化辞書15には、プラントの訓練シミュレータに対してオペレータから与えられる一連の操作手順の全てについて、各操作ステップと、その操作ステップに対応するシンボル名、および、そのシンボルが属するグループのシンボル名とについての対応関係が記述されている。グループ化辞書15には、更に、そのグループのシンボル名とそのグループを含む更に上位のループのシンボル名との対応関係が、最上位の階層のグループまで、複数階層にわたって記述されている。
【0017】
階層運転手順ファイル生成手段12は、各ステップに対してシンボル名付与手段11が付与したシンボル名を参照して、入力された運転手順ファイルから、その各ステップをシンボル名で置き換えた1次〜n次(nは2以上の整数)の各階層毎の運転手順ファイルを生成する。階層運転手順ファイル生成手段12は、予め、熟練者が行った一連の操作手順を記録した運転手順ファイルや、標準化された運転手順(SOP)ファイルから成るお手本の運転手順ファイルから、第1〜第n階層の運転手順ファイルを生成し、これら階層の運転手順ファイルをお手本の階層運転手順ファイルとして記憶装置16に記憶している。
【0018】
階層運転手順ファイル生成手段12は、熟練度評価対象のオペレータが訓練シミュレータに与えた一連の操作ステップを含む操作履歴から、評価対象の第1〜第n階層の運転手順ファイルを生成し、これらを類似度算出手段13に与える。類似度算出手段13は、入力される第1〜第n階層の運転手順ファイルを、記憶装置16から読み出した対応する階層の標準の運転手順ファイルとそれぞれ比較して、その類似度を算出する。算出した類似度は、類似度算出手段13から熟練度評価手段14に与えられる。熟練度評価手段14は、第1〜第n階層の運転手順ファイルから得られた各類似度をそれぞれ重み付けし、最終的な類似度を算出し、これを熟練度として評価する。最終的な熟練度は、例えば、第1階層の運転手順ファイルの比較から得られた類似度には最小の重みを付け、上位の階層の運転手順ファイルから得られた類似度には、上位になるほど順次に大きな重みを付け、これら重み付けした類似度の和を求めることで得られる。
【0019】
図2は、上記実施形態のプラント運転熟練度評価装置10を含む訓練シミュレータを示すブロック図である。訓練シミュレータ20は、オペレータの入力を受け付ける入力装置21と、入力装置21からの入力を受けて、プラントの運転を模擬するプラント模擬装置22と、プラント模擬装置22からの出力を受け付けて、その出力から評価対象の運転手順ファイルを生成する運転手順ファイル生成装置23と、プラント運転熟練度評価装置10と、プラント運転熟練度評価装置10に付属する記憶装置16およびグループ化辞書15と、システム管理者からグループ構成に関する入力を受け付けて、グループ化辞書15内にグループ構成を登録するグループ構成登録手段24とを備える。
【0020】
上記訓練シミュレータ20では、運転手順ファイル生成装置23で生成される運転手順ファイルの各操作ステップに、オペレータが入力する一連の操作に加えて、プラント模擬装置22が出力する警報信号を含むプラントの状態信号を含めている。一連のステップに、警報信号などの状態信号を含めることで、類似度の評価の際に警報の発生の有無などを加味して評価することが可能になり、熟練度の評価精度を更に高めている。また、運転手順そのものの適否をも示すことが出来る。なお、操作ステップとしては、図1を参照して説明したように、単に操作対象および操作種別の情報のみを含むことで足りる。
【0021】
図2の訓練シミュレータ20は、一般にコンピュータによって実現され、内部の各装置はプログラムによって構成できる。訓練シミュレータ20のプラント模擬装置22は、電子的手段によるトレンドデータや、操作履歴、アラーム履歴を、運転手順ファイル生成装置23に与えると共に、これらを保存、表示、エクスポートする。訓練シミュレータ20では、運転者名および運転操作名を定義し、操作履歴および運転データを蓄積し、保存しており、例えばシステム管理者の指示を受け付けて、保存された運転履歴を評価することも出来る。
【0022】
プラント運転熟練度評価装置10は、例えば保存した運転履歴から階層化された運転手順ファイルの解析を行い、お手本操作に対する類似度を判定し、数値化する。判定結果も運転履歴と同様に保存する。保存した運転履歴および熟練度の判定結果は、レポート機能により、運転開始時刻、終了時刻などを含めて閲覧することが可能であり、任意の時点で判定結果のデータを外部へ出力する。また、インストラクターは、運転者の運転履歴および判定結果を確認し考察した後に、操作に対するコメントを任意に入力することが出来る。
【0023】
以下、本発明の具体的な実施例の熟練度評価方法について説明する。本発明の熟練度評価方法の特徴は、評価・解析したい運転手順ファイルの一連の操作ステップを示すメッセージ列(シンボル列)を、複数の小作業にグループ分けし、その小作業の実行順序を新たなメッセージ列とみなしてさらに大きなグループに分けることを繰り返しながら、評価・解析を行うという手法にある。具体的な手順としては、以下に述べるように、手順1:辞書およびお手本の階層運転手順ファイルの作成、手順2:評価対象の階層運転手順ファイルの生成、手順3:評価対象の熟練度の評価・解析を含む。
【0024】
手順1:グループ化辞書およびお手本の階層運転手順ファイルの作成
評価対象のオペレータの運転操作の評価に先立って、標準作業手順書(SOP)や熟練者の運転手順ファイル(以下、運転手順ファイルと呼ぶ)などに基づいて、グループ化辞書15を作成する。グループ化辞書15の構成の一例を図3に示す。また、図4にはそのグループ化辞書15のシンボルおよびグループ名の具体例を示す。先ず、元の運転手順ファイルに含まれる一連のステップのそれぞれを抽出する。抽出したステップを、例えば「a1:バルブ1の開操作」、「a2:ポンプ1の起動」といった操作対象および操作種類の情報を含む基本メッセージ(シンボル)として、辞書の見出しに登録する。この辞書の見出しを、図3に示すように、第1階層の辞書データとする。
【0025】
次いで、各シンボルのステップが属するグループ名(上位階層のシンボル)を、見出しのシンボルに対応させて登録する。これを第2階層の辞書データとする。登録するグループとしては、見出しの操作ステップが特定の操作グループに属する場合には、その操作グループを登録する。例えば、抽出した操作ステップが、「A:原料フィード開始」、「B:炊き上げ開始」、「C:塔底液レベル調整」といった操作グループに属するステップの場合には、その操作グループを第1階層の見出しと共に登録する。或いは、これに代えて、抽出した操作ステップが、例えば「原料タンクフィード系の原料フィード」など特定系統の操作に属する場合には、そのような系統の操作をグループとして第2階層辞書に登録してもよい。
【0026】

図3および図4に示すように、第2階層辞書では、ステップ「a1:バルブ1の開操作」に対して登録したグループが、「A:原料フィード開始」であれば、グループ化辞書15内に保存されているグループ構造を参照し、その「A:原料フィード開始」に含まれる一連のステップである、「a2:ポンプ1の起動」、「a3:バルブ2の開操作」、「a4:ポンプ2の起動」などのステップも、「A:原料フィード開始」のグループに登録する。このとき、運転手順ファイルにおける操作順序が、「a1:バルブ1の開操作」→「a2:ポンプ1の起動」→「a3:バルブ2の開操作」→[a4:ポンプ2の起動]であり、その順序に意味があれば、図3に示すように、その順序関係も登録する。
【0027】
次いで、第3階層のグループを、見出しのステップが属する第2階層辞書のグループに対応させて、第3階層の辞書として登録すると共に、更に上位の階層のグループについても、同様に辞書登録する。この場合、先に登録した階層辞書のグループの1階層上位の上位グループを、その上位の階層辞書のグループとする。例えば、先に登録した第2階層辞書のグループが「A:原料フィード開始」であれば、その「A:原料フィード開始」が属する上位のグループである「α:蒸留塔1の立上げ」といった上位グループを第3階層辞書のグループに登録する。登録した「α:蒸留塔1の立ち上げ」に属する一連の操作ステップA、B、C、Dを、グループ構造を参照して、または、別に現れるステップに対応させて登録する。更に上位のグループがあれば、その上位グループも、直近下位の辞書のグループに対応させて登録する。図3に示すように、例えば「α:原料フィード開始」が特定のプラント(プラント1)における操作に属するならば、その「OPE1:プラント1の操作」を更に上位のグループとして登録する。なお、辞書の作成は、操作履歴が残されている運転操作の全て、或いは、主要なものについて行ってもよい。
【0028】
なお、本実施例の構成では、上記記述において、例えばa1とb2とが同一内容のステップであること、或いは、例えばa1とa4とが同一内容のステップであることなどを除外するものではない。換言すると、同じグループ内に同一内容のステップが複数回発生すること、および/または、異なる複数のグループ内に同一内容のステップが発生することを妨げるものではない。これら同一内容のステップ、つまり、同じ操作対象および同じ操作内容のステップであっても、異なる時点で発生するステップは、互いに異なるステップとして記述される。ここで、各階層の辞書には、同一内容のステップが同じ階層に出現すること、および、その間の関連付けがなされている。関連付けの一例としては、同じ操作対象および同じ操作内容を含むステップが2度以上発生したときには、そのステップを記述するメッセージに例えば連番を付してそれらの間を区別する。
【0029】

辞書の作成が終了したら、お手本の運転手順ファイルから、階層化された運転手順ファイルを作成する。なお、お手本の運転手順ファイルは、必ずしも辞書の作成に用いたものでなくともよい。先ず、お手本の運転手順に含まれる一連のステップを1つずつ抽出する。次いで、抽出したステップ(例えばa1)が辞書の見出しとして登録されている各階層のグループ名(A、α、OPE1)を順次に検索する。運転手順ファイルの一連のステップの全てについて、最上位までの階層についてシンボル名およびグループ名の抽出が終了したら、お手本の運転手順ファイルから各階層毎の運転手順ファイルを作成する。この場合、元のお手本の運転手順ファイルの各ステップをシンボル化した運転手順ファイルを第1階層の運転手順ファイルとして、それから上位の階層の運転手順ファイル、つまりn次(nは2以上)までの階層運転手順ファイルを作成する。各階層の運転手順ファイルは、運転手順ファイルのステップを同階層のシンボル名またはグループ名で置き換え、その置き換えたシンボル名またはグループ名で記述したものである。
【0030】
なお、階層化辞書の作成とお手本の階層運転手順ファイルの作成とは、同一の運転手順ファイルから作成できる。このように、辞書および階層運転手順ファイルを同一の運転手順ファイルから作成する場合には、辞書の作成と階層運転手順ファイルとが同時に作成できる。ここで、同一内容のステップであっても、つまり、同一の操作対象および同一の操作内容を含むステップを記述するメッセージであっても、異なる時点で発生する各ステップ、グループについては、それぞれのステップやグループに対して辞書が作成され、同一内容の各ステップやグループは、発生順序を規定する連番などによって区別される。
【0031】
手順2:評価対象の階層運転手順ファイルの生成
(2.1)操作履歴データの収集
評価対象の操作履歴のデータとして、DCS(分散制御システム)のメッセージ・サマリー(メッセージリスト)のデータや、トレンドグラフのデータを収集する。運転訓練シミュレータで評価を行う場合には、図2に示すように、運転訓練シミュレータ20のプラント模擬装置22からデータを収集する。
【0032】
(2.2)第1階層のシンボル化
操作履歴データを第1階層の辞書と照合してシンボル化する。この場合、各操作ステップを、図3に示したシンボルa1〜a4、b1〜b3、c(1)〜c(4)などに置き換える。なお、c(1)〜c(4)は、順序に意味がないステップのシンボル名を示している。ここで、順序に意味があるか否かは、その上位の階層のグループから決定される。
【0033】
(2.3)第1階層の運転手順ファイルのグループ化
操作履歴データから、シンボル化したステップを含む第1階層の運転手順ファイル(シンボル列)を作成する。作成した第1階層の運転手順ファイルを図5(a)の第1列に示した。各ステップは、第1階層の辞書に含まれるシンボル名に置き換えられている。
【0034】
第1階層の運転手順ファイルのステップのグループ化は、第2階層の辞書、お手本の運転手順ファイル、および、辞書内における同一内容のステップの出現を参照し、各ステップ(a1、a2、....、b1、...)をグループ名(A、B、...)で置き換えて得られる。また、各ステップの継続時間は、お手本の同じ階層の運転手順ファイルを参照して同定する。このグループ化およびその継続時間の同定にあたっては、対象グループ内の各ステップの順序に意味があるか否かを考慮する。お手本の運転手順ファイルと評価対象の運転手順ファイルとの照合に際し、対象グループの継続時間の幅を種々変更しながらその幅内の運転手順ファイルを相互に照合する。グループの継続時間とみなせるかどうかは、お手本の運転手順ファイルのグループを構成するシンボル列、例えば、グループAのシンボル列a1→a2→a3→a4と、評価対象の運転手順ファイルの対応するグループ内のシンボル列との間で、切り出し区間内におけるシンボル列の類似度によって判定する。類似度の指標は、例えば以下の式:
【数1】

で計算する。上式で、LDはレーベンシュタイン距離、n,nは比較する二つのシンボル列各々の長さであり、nは二つのシンボル列に共通に含まれているシンボルの個数である。レーベンシュタイン距離とは、一方のシンボル列から「削除」、「挿入」または「置換」によって他方のシンボル列へ変換する場合の最小の手数である。これらの類似度の指標が、所定の閾値を超えた場合に、その切り出し区間において対象作業グループが実施されているものとみなす。なお、類似度の指標は、この例に限るものではない。
【0035】
(2.4)第2階層の運転手順ファイルの作成
上記手順(2.3)において同定された継続時間を含むグループ作業に従って、第2階層の運転手順ファイル(シンボル列)が作成される。第2階層の運転手順ファイルを図5(a)の第2列に示した。第2階層の運転手順ファイルは、第1階層の運転手順ファイルの各ステップをグループ名に置き換え、かつ、そのグループ作業の継続時間を示している。
【0036】
(2.5)第k階層の運転手順ファイルの作成
第2階層の運転手順ファイルから、上記手順(2.3)および(2.4)を繰り返しながら、順次に上位の階層の運転手順ファイルを作成する。この様子を図5(b)および(c)に示した。このように、それぞれが操作順序(グループ間順序)および操作継続時間を含むk階層の運転手順ファイル(2≦k≦n)が作成される。
【0037】
手順3:熟練度の評価・解析
(3.1)総体評価
評価対象の最高位の階層(第n階層)のシンボル列(運転手順ファイル)を、お手本の同階層の運転手順ファイルと照合して類似度を計算する。この最高位の階層の運転手順ファイルの照合で得られた類似度は、全体的な運転操作の流れ(運転操作方針)についての熟練度を示す。最高位の階層の運転手順ファイルを評価することにより、熟練度の高いベテラン・オペレータと、経験が少ない若いオペレータなどとの間の相違が、客観的に示される。
【0038】
(3.2)熟練度の解析
手順(3.1)の総体評価において、第n階層の運転手順ファイルのグループに含まれるシンボル、つまり、第(n−1)階層辞書に登録されているグループのどの部分で、お手本の運転手順ファイルとの相違があるかを調べる。相違点は、第n階層のR1、R2計算時のLDやnを求める際に、お手本の同階層の運転手順ファイルと比較したシンボルの過不足として記録されている。
【0039】
(3.3)詳細評価
次いで、各下位のグループについて、問題が生じていると予想される箇所を解析する。この場合、予想される箇所は、グループ作業の継続時間の同定に際して類似度が低い位置に対応する。このような箇所についてはその下位の階層に戻って、つまり第n階層の場合には第(n−1)階層に戻って第n階層の運転手順ファイルを構成する各グループに対して、手順3.1および3.2と同様な解析(計算)を行う。この解析は、類似度にもとづいて行われ、類似度は、上記手順(2.3)(2.4)(2.5)において各階層の運転手順ファイルに対して計算されたものが記録されている。ここで、上位階層の運転手順ファイルから得られる類似度ほど高く評価される。例えば、2つの評価対象の類似度の相対評価に際しては、最高位の階層、または、一定以上の高位の階層の運転手順ファイルの類似度が比較される。
(3.4)評価点数
類似度を数値で表す場合には、各階層毎の類似度が計算されたならば、最高位の運転手順ファイルにおける類似度には最も大きな重みを付け、下位の階層には下位に行くに従って順次に小さな重みを付け、最下位の階層の類似度には最も小さな重みを付けて、これら重み付き類似度を加算する。この計算によって、評価対象の運転手順ファイルについて、数値化された熟練度が得られる。熟練度を数値化することにより、多数の評価対象のオペレータの運転に対して客観的な評価が可能になる。
【0040】
上記実施形態のプラント運転熟練度評価装置および方法では、階層化された評価対象の運転手順ファイルと階層化されたお手本の運転手順ファイルとを比較する手法を採用したことにより、以下の利点が得られる。
【0041】
化学プラントのスタート・アップのように、長期間に渡って膨大な手数の操作手順が必要となる運転操作に対しても、評価対象の運転操作の熟練度の評価が容易になる。
【0042】
熟練度の評価を、最上位の階層の運転手順ファイルから行うことで、まず、運転操作の大きな流れ(運転操作方針)の評価を出発点とすることができ、総体的な評価が先ず得られる。更に、問題が生じていると予想される箇所については、順次に下位の階層の運転手順ファイルを解析することで、操作指針や手順の正しさなどを詳細に解析することが可能になる。全ての階層の運転手順ファイルの類似度を評価することで、多数の評価対象について客観的な評価が可能になる。
【0043】
また、評価対象のオペレータの運転操作における弱点や癖が明らかになる。このため、若年者や、中堅のオペレータについては、特に技術・技能の改善が期待できる。また、ベテランのオペレータについては、そのオペレータが有するコツなどを抽出できる可能性も期待できる。その結果、プラントの運転手順について、より適切な運転手順が得られるような改善が期待できる。
【0044】
上記では、本発明を特別に示し且つ例示的な実施形態を参照して説明したが、本発明は、その実施形態及びその変形に限定されるものではない。当業者に明らかなように、本発明は、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
10:プラント運転熟練度評価装置
11:シンボル名付与手段
12:階層運転手順ファイル生成手段
13:類似度算出手段
14:熟練度評価手段
15:グループ化辞書
16:記憶装置
20:訓練シミュレータ
21:入力装置
22:プラント模擬装置
23:運転手順ファイル生成装置
24:グループ構成登録手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列的に記録された一連のステップを含む運転手順ファイルを入力し、各ステップとステップのグループ名とを対応つけたグループ化辞書を参照して、前記一連のステップのそれぞれにグループ名を付与するグループ名付与手段と、
前記グループ名付与手段によって付与されたグループ名を参照し、前記運転手順ファイルから、グループ化されたステップを含む階層運転手順ファイルを生成する階層運転手順ファイル生成手段と、
評価対象の運転操作から前記階層運転手順ファイル生成手段によって得られた階層運転手順ファイルと、お手本の運転操作から前記階層運転手順ファイル生成手段によって得られたお階層運転手順ファイルとを比較して、双方の階層運転手順ファイルの類似度を算出する類似度算出手段と、
前記類似度算出手段によって算出された類似度に従って、評価対象の運転操作の熟練度を評価する熟練度評価手段と、を備えることを特徴とするプラント運転熟練度評価装置。
【請求項2】
前記グループ化辞書が、更に前記各ステップとグループ名とを対応つけた2次階層グループ構造、または、前記各ステップとグループ名とを対応つけると共に、該グループ名のグループと該グループよりも更に1階層以上にわたって上位の上位グループとを対応つけた、n次(nは3以上の整数)の階層グループ構造についての辞書を記憶しており、
前記階層運転手順ファイル生成手段は、前記グループ化辞書の階層グループ構造に従って、第1〜第n階層の運転手順ファイルを含む階層運転手順ファイルを生成し、
前記類似度算出手段は、評価対象の運転手順ファイルから得られた階層運転手順ファイルと、お手本の運転手順ファイルから得られた階層運転手順ファイルとの間の類似度の算出にあたり、第1〜第n階層の運転手順ファイルのそれぞれについて類似度を算出する、請求項1に記載のプラント運転熟練度評価装置。
【請求項3】
前記一連のステップのそれぞれが、操作対象の機器に関する情報と、該機器に与えられる操作種別に関する情報とを含むメッセージである、請求項1または2に記載のプラント運転熟練度評価装置。
【請求項4】
前記運転手順ファイルは、前記一連のステップのそれぞれに付与された、各ステップの発生後におけるプラントの状態信号および/または警報信号を含む、請求項4に記載のプラント運転熟練度評価装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一に記載のプラント運転熟練度評価装置と、オペレータからの入力を受け付けて、前記一連のステップを発生させる入力装置と、該入力装置からの入力に応答するプラントの状態を模擬するプラント模擬装置と、前記入力装置を経由した入力および/または該入力に応答する前記プラント模擬装置の出力に基づいて、前記一連のステップを抽出するステップ抽出手段と、を備えることを特徴とする訓練シミュレータ。
【請求項6】
オペレータのプラント運転熟練度を評価する方法であって、
コンピュータが、時系列的に記録された一連のステップを含む運転手順ファイルを入力し、各ステップとステップのグループ名とを対応つけたグループ化辞書を参照して、前記一連のステップのそれぞれにグループ名を付与する段階と、
コンピュータが、前記グループ名付与手段によって付与されたグループ名を参照し、前記運転手順ファイルから、グループ化されたステップを含む階層運転手順ファイルを生成する階層化段階と、
コンピュータが、評価対象の運転操作から得られた階層運転手順ファイルと、お手本の運転操作から得られた階層運転手順ファイルとを比較して、双方の階層運転手順ファイルの類似度を算出する段階と、
コンピュータが、前記類似度算出手段によって算出された類似度に従って、評価対象の運転操作の熟練度を評価する段階と、有することを特徴とするプラント運転熟練度評価方法。
【請求項7】
プラント操作の熟練度評価を行うコンピュータのためのプログラムであって、前記コンピュータに、
時系列的に記録された一連のステップを含む運転手順ファイルを入力し、各ステップとステップのグループ名とを対応つけたグループ化辞書を参照して、前記一連のステップのそれぞれにグループ名を付与する処理と、
前記グループ名付与処理によって付与されたグループ名を参照し、前記運転手順ファイルから、グループ化されたステップを含む階層運転手順ファイルを生成する階層化処理と、
評価対象の運転操作から得られた階層運転手順ファイルと、お手本の運転操作から得られた階層運転手順ファイルとを比較して、双方の階層運転手順ファイルの類似度を算出する処理と、
前記類似度算出処理によって算出された類似度に従って、評価対象の運転操作の熟練度を評価する処理と、を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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