説明

プラント運転監視装置、プラント運転監視システム、およびプラント運転監視プログラム

【課題】複数設備におけるプロセス量の相互の関連性から異常発生前の予兆を捉え、報知することにより、プラントの安定運用を図る。
【解決手段】設備のプロセス量を測定する複数の現場機器10が通信ネットワーク(WAN50)経由で接続されるプラント運転監視装置30は、複数の現場機器10からプロセス量を取得するプロセス情報取得部311と、プロセス情報取得部が取得した複数のプロセス量の相互の関連性からプラントの異常予兆を検知する異常予兆検知部314と、異常予兆検知部314で異常予兆が検知されたときに警報を出力する報知情報出力部315と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント運転監視装置、プラント運転監視システム、およびプラント運転監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、浄水場プラントの一構成例を示す。図8に示されるように、浄水場プラントは、川からの水を取水ポンプ2で取水して貯留する着水井3と、処理原水へ凝集剤を注入して混和させ、緩速攪拌により処理原水中にフロックを形成させるフロック形成池4と、懸濁物質やフロックを沈殿させる沈殿池5と、処理水をろ過する急速ろ過池6と、を備えている。なお、浄水場プラントは、浄水池7や配水池8も備えているが、ここでは、これらを設備として説明する。
【0003】
各設備には、水位センサ等のセンサ類やバルブ調整器等、所謂、現場機器が備え付けられている。現場機器によって測定されたプロセス量は、DCS(Distributed Control System)やGSA(Gadget Service Adapter)等のデータ収集蓄積装置によって収集され、各種サーバからなるプラント運転監視システムが、データ収集蓄積装置によって収集されたプロセス量に基づいて各設備の運転状態を監視する。
【0004】
具体的には、各現場機器で測定されるプロセス量は、設備毎に割り当てられ設置されるDCSやGSAに、測定のサンプリング時刻毎リアルタイムにバッファリングされる。そのバッファリングされたプロセス量は、LAN(Local Area Network)等によりネットワーク接続される不図示のDBサーバにファイル又はデータベースの形式で蓄積され、中央監視サーバ又はクライアントによりLAN経由で適宜アクセスされる。
【0005】
上記したプラント運転監視システムによれば、各現場機器から取得される、例えば、原水水質、混和条件、フロック形成池運転条件、沈殿池水質データ等のプロセス量が、予め設定された上下限値から外れた場合に「異常」と判定され、異常警報がオペレータに通知される。また、このプラント運転監視システムでは、その異常警報に対して原因や対応をガイダンスすることも行われている。
【0006】
特許文献1には、収集したデータの瞬時値または統計量の少なくとも一方を含む監視対象量と基準値とを比較してプロセス量の変化状態を検知し、この検知データを含む監視情報を画面に表示することにより、プラントの異常をその兆候段階で的確に検知する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−29513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来技術によれば、プロセス量が上下限値から外れない限り異常警報は通知されず、また、異常警報が通知されてから異常警報に対するガイダンスが表示されても、それは、オペレータに異常の対応の仕方を知らせているだけである。一方、特許文献1に開示された技術によれば、各種プロセス量の瞬時値データを基に統計処理を行なうことにより統計値データとして蓄積し、監視対象の長期的な傾向からその特性を考慮した基準値を自動生成するため、人手をかけずに監視基準の設定が可能である。しかしながら、異常判定は、依然としてその基準値との比較によりなされるため、基準値から外れない限り異常警報は通知されない。このため、異常発生前の予兆を捉え報知することによりプラントの安定運用を可能にする技術の提供が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、その目的は、異常発生前の予兆を捉え報知することによりプラントの安定運用を可能にするプラント運転監視装置、プラント運転監視システム、およびプラント運転監視プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のプラント運転監視装置は、プラントを構成する設備のプロセス量を測定する複数の現場機器が通信ネットワーク経由で接続されるプラント運転監視装置であって、前記複数の現場機器からプロセス量を取得するプロセス情報取得部と、前記プロセス情報取得部が取得した複数のプロセス量の相互の関連性からプラントの異常予兆を検知する異常予兆検知部と、前記異常予兆検知部で異常予兆が検知されたときに警報を出力する報知情報出力部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、異常予兆検知部は、設備のプロセス量の相互の関連性からプラントの異常予兆を検知して警報を出力する。このように、単一の設備は勿論のこと、複数設備のプロセス量の相互の関連性からプラントの異常予兆を検知するため、熟練オペレータと同じ思考で異常予兆の自動判定が可能となる。従って、スキルの低いオペレータでも異常発生前の対応が可能になり、プラントの信頼性が向上すると共にプラントの安定運用がはかれる。
【0012】
本発明のプラント運転監視装置は、上記発明において、前記プラントの異常予兆を示すプロセス量の警報条件値を前記設備毎に記憶する警報条件値記憶部を備え、前記異常予兆検知部は、前記プロセス情報取得部が取得した最新のプロセス量と前記警報条件値記憶部に記憶されている警報条件値とを比較し、前記最新のプロセス量が警報条件値から所定量以上逸脱していた場合に前記報知情報出力部による警報出力を有効とすることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、異常予兆検知部が、複数設備の最新のプロセス量と警報条件値とを比較して最新のプロセス量が警告条件値から所定量以上逸脱していた場合に警報を自動的に出力するため、オペレータの負荷軽減が図れる。
【0014】
本発明のプラント運転監視装置は、上記発明において、前記プラントは、川からの水を貯留する着水井と、処理原水へ凝集剤を注入して混和させ、緩速攪拌により処理原水中にフロックを形成させるフロック形成池と、懸濁物質や前記フロックを沈殿させる沈殿池と、処理水をろ過するろ過池とを備える浄水処理場施設であり、前記異常予兆検知部は、前記プロセス情報取得部が取得したプロセス量が示す、原水水質と、混和池運転条件と、フロック形成池運転条件と、沈殿池水質データと、前記プラントの運用コストの重み付けにより示される目的関数との相互の関連性を分析することにより、前記プラントの異常予兆を検知することを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、異常予兆検知部が、プロセス量が示す、原水水質と、混和池運転条件と、フロック形成池運転条件と、沈殿池水質データと、プラントの運用コストの重み付けにより示される目的関数との相互の関連性を分析することでプラントの異常予兆を検知するため、熟練オペレータと同じ思考で異常予兆の自動判定が可能となり、従って、スキルの低いオペレータでも異常発生前の対応が可能になり、プラントの信頼性が向上すると共にプラントの安定運用がはかれる。
【0016】
本発明のプラント運転監視システムは、浄水処理場施設の運転状態を監視するプラント運転監視システムであって、前記浄水場処理施設を構成する設備のプロセス量を測定する複数の現場機器と、前記複数の現場機器によって測定された複数のプロセス量の相互の関連性から前記浄水場処理施設の異常予兆を検知し、異常予兆が検知されたときに警報を出力するプラント運転監視装置と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明のプラント運転監視プログラムは、浄水処理場施設の運転状態を監視するプラント運転監視プログラムであって、前記浄水場処理施設を構成する設備のプロセス量を測定する複数の現場機器からプロセス量を取得する処理と、前記複数の現場機器によって測定された複数のプロセス量の相互の関連性から前記浄水場処理施設の異常予兆を検知する処理と、前記異常予兆が検知されたときに警報を出力する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数設備におけるプロセス量の相互の関連性から異常発生前の予兆を捉え報知することにより、プラントの安定運用が可能な、プラント運転監視装置、プラント運転監視システムおよびプラント運転監視プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るプラント運転監視システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係るプラント運転監視装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係るプラント運転監視装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係るプラント運転監視装置の相関分析を説明するための説明図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態に係るプラント運転監視装置の相関分析による異常予兆検知の監視事例(1)を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の実施形態に係るプラント運転監視装置の相関分析による異常予兆検知の監視事例(2)を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の実施形態に係るプラント運転監視装置の相関分析による異常予兆検知の監視事例(3)を示すグラフである。
【図8】図8は、浄水場プラントの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0021】
(実施形態の構成)
図1は、本発明の実施形態に係るプラント運転監視システム1の構成を示すブロック図である。本発明の実施形態に係るプラント運転監視システム1は、プラントの保守、維持管理業務を支援するシステムであり、設備#1〜#n毎に設置される現場機器10と、管理者端末20と、プラント運転監視装置30と、クライアント端末40とを備えている。
【0022】
設備#1〜#nには、それぞれ、フィールドサーバ11とプロセス機器12とからなる現場機器10が備え付けられている。これら現場機器10とWAN(Wide Area Network)50経由で接続されるプラント運転監視装置30は、監視対象毎に取得されるプロセス量の相互の関連性からプラントの異常予兆を検知し、プラントの異常予兆が検知されたときに自身が持つ表示モニタ又はLAN60経由で接続されるクライアント端末40に警報出力する機能を有する。
【0023】
現場機器10は、フィールドサーバ11とプロセス機器12とを含む。フィールドサーバ11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等、サーバとしての基本構成の他に、周辺装置として、ハードディスク、表示モニタ等を備えている。プロセス機器12は、水位センサ等のセンサ類を含むバルブ調整器等であり、ここで測定されるフィールドデータは、フィールドサーバ11により収集され、プラント運転監視装置30により取り込まれる。
【0024】
図2は、図1に示すプラント運転監視装置30の構成を示すブロック図である。図2に示されるように、プラント運転監視装置30は、制御部31と、操作部32と、記憶部33と、表示部34と、を備えている。
【0025】
操作部32は、例えば、電源キー、通話キー、数字キー、文字キー、方向キー、決定キー、ファンクションキーなど、各種の機能が割り当てられたキー、あるいはマウス等のポインティングデバイスを有している。これらキー、あるいはマウスがユーザによって操作された場合に、操作部32は、その操作内容に対応する信号を発生し、これをユーザの指示として制御部31に出力する。
【0026】
記憶部33には、その所定の領域に、過去データ記憶部(過去データDB330)と、警報条件値記憶部(警報条件値テーブル331)とが割り付けられ記憶されている。過去データDB330は、図1に示した現場機器10から取得されるフィールドデータ(プロセス量)が所定期間分時系列に蓄積されるデータベースである。警報条件値テーブル331は、予め、設備毎にプラントの異常予兆を示すプロセス量の警報条件値が設定登録されたテーブルである。
【0027】
記憶部33は、例えば、不揮発性の記憶デバイス(不揮発性半導体メモリ、ハードディスク装置、光ディスク装置など)やランダムアクセス可能な記憶デバイス(例えばSRAM、DRAM)などによって構成される。
【0028】
表示部34は、多数の画素(複数色の発光素子の組み合わせ)を縦横に配して構成される、例えばLCD(Liquid Crystal Display Device)や有機EL(Electro-Luminescence)を用いて構成される。表示部34は、制御部31により生成され、制御部31が内蔵する、又は外付けされるメモリの所定の領域(VRAM領域)に描画された表示対象データに応じた画像を表示する。
【0029】
制御部31は、例えば、メモリを内蔵し、あるいは外付けのメモリを有するマイクロプロセッサにより構成される。このメモリには、本発明のプラント運転監視プログラムが記憶されており、複数の現場機器10からプロセス量を取得する処理と、設備毎に取得される監視対象毎のプロセス量の相互の関連性から異常予兆を検知する処理と、異常予兆が検知されたときに警報を出力する処理と、がプログラムされ記憶されている。
【0030】
このため、制御部31は、メモリから逐次読み出され実行されるプラント運転監視プログラムの構造が機能展開され示されているように、主制御部310と、プロセス情報取得部311と、通信インタフェース部312と、操作情報取得部313と、異常予兆検知部314と、報知情報出力部315とを備えている。
【0031】
プロセス情報取得部311は、WAN50経由で接続される現場機器10から各設備における監視対象毎の、例えば、原水水質と、混和池運転条件と、フロック形成池運転条件と、沈殿池水質データ等の多量で多変数のプロセス量を取り込んで、異常予兆検知部314へ出力する。プロセス情報取得部311は、実質的にはWAN50とのインタフェースを司り、WAN50の通信プロトコルに基づき、接続される設備毎に設置された複数の現場機器10との間で通信を行うことにより、必要なプロセス量を順次取得する。
【0032】
通信インタフェース部312は、LAN60経由で接続される管理者端末20、クライアント端末40と間の通信インタフェースを司り、LAN60で使用する、例えば、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)等のプロトコルに従い、管理者端末20により設定入力される目的関数に関するデータを取り込んで異常予兆検知部314に出力し、あるいは、クライアント端末40からの要求に基づき、プラント運転監視装置30により生成出力される警報を含む運転状況等のデータを出力する。
【0033】
なお、ここでいう「目的関数」とは、運用コストの重み付けによって示される、例えば、薬品費、電力量等に関するデータであり、このデータは目的関数として設定される。この目的関数は、管理者端末20によらず、プラント運転監視装置30に直結される操作部32から設定入力しても良い。この場合、その目的関数は、操作情報取得部313によって取り込まれ、異常予兆検知部314へ出力される。
【0034】
異常予兆検知部314は、設備毎に取得される監視対象毎のプロセス量の相互の関連性からプラントの異常予兆を検知する。具体的には、異常予兆検知部314は、プロセス情報取得部311が取得したプロセス量が示す、原水水質と、混和池運転条件と、フロック形成池運転条件と、沈殿池水質データと、前記プラントの運用コストの重み付けにより示される目的関数との相互の関連性を分析することにより、異常発生前のプラントの異常予兆を検知する。また、異常予兆検知部314は、プロセス情報取得部311が取得した各設備における最新のプロセス量に基づき記憶部33(警報条件値テーブル331)を参照し、最新のプロセス量が警報条件値から所定量以上逸脱していた場合に報知情報出力部315による警報出力を有効とする。
【0035】
報知情報出力部315は、異常予兆検知部314で異常予兆が検知されたときに警報を出力する機能を有する。表示部34への表示によって異常予兆を報知する場合、報知情報出力部315は、警報を示す表示画面情報を不図示のメモリ(VRAM:Video RAM)に描画し、これを表示部34の表示タイミングに同期して読み出し、表示部34にその表示画面情報を表示する。なお、VRAMは、ここでは、制御部31が内蔵するものとするが、記憶部33の一部領域に割り当ててもいい。また、報知は、表示部34によらず、音声等により代替してもよく、又、電子メール等により管理者の携帯電話へ報知することも考えられる。
【0036】
なお、主制御部310は、制御部31が、設備毎に取得される監視対象毎のプロセス量の相互の関連性からプラントの異常予兆を検知し、警報を出力する機能を実現するために、上記した、プロセス情報取得部311、通信インタフェース部312、操作情報取得部313、異常予兆検知部314、および報知情報出力部315のシーケンス制御を行う。
【0037】
(実施形態の動作)
図3は、本発明の実施形態の動作を示すフローチャートであり、図4は本実施の形態の相関分析を説明するための図である。以下、図3および図4を参照しながら、図2に示すプラント運転監視装置30の動作について詳細に説明する。
【0038】
制御部31では、まず、プロセス情報取得部311が、各設備#1〜#nに設置された現場機器10(フィールドサーバ11)と通信を行い、プロセス機器12により測定されるプロセス量の収集、および蓄積を設備単位で順次行ない、収集した多量で多変数のプロセス量を異常予兆検知部314へ入力する(ステップS11)。異常予兆検知部314へは、他に、目的関数データが管理者端末20から、あるいは操作情報取得部313から入力される。
【0039】
なお、ここでいう「プロセス量」とは、原水水質、混和池運転条件、フロック形成池運転条件、沈殿池水質データ等の多次元データである。原水水質データは、原水Tb、原水pH、原水色度、原水アルカリ度、原水水温等のデータを含み、混和池運転条件データ、フロック形成池運転条件は共に、攪拌強度、攪拌時間等データを含み、沈殿池水質データは、表面負荷率、TbやpH等の沈殿水水質データを含む。また、目的関数とは、運用コストの重み付けによって示される、例えば、薬品費、電力量等に関する管理データである。
【0040】
異常予兆検知部314は、プロセス情報取得部311が取得したプロセス量が示す、原水水質と、混和池運転条件と、フロック形成池運転条件と、沈殿池水質データと、プラントの運用コストの重み付けにより示される目的関数との相互の関連性を分析(相関分析)することにより、異常発生前にプラントの異常予兆を検知する(ステップS12)。異常予兆検知部314は、たとえば、図4に示すように、上記のプロセス量や目的関数について、同一設備内でのデータ相互の相関係数、あるいは各データの設備間での相関係数や各データの所定時間経過の前後の相関係数などを算出し、算出された相関係数を予め設定された基準値と比較することにより、正常か異常かを判定する。すなわち、異常予兆検知部314は、算出された相関係数が基準値より所定量以上逸脱している場合に、「異常予兆あり」と判定する。この基準値(警報条件値)は、例えば時間帯毎や設備毎、設備間毎に変えて設定可能であり、警報条件値テーブル331に記憶されている。
【0041】
ここで、「異常予兆有り」と判定された場合は(ステップS13“YES”)、報知情報出力部315が異常予兆報知を行なう(ステップS14)。そして、異常予兆検知部314は、記憶部33の所定の領域に格納された過去データDB330を更新して傾向分析を行い(ステップS15)、その結果を報知情報出力部315が表示部34に表示する(ステップS16)。
【0042】
なお、異常予兆を検知するにあたり、異常予兆検知部314は、プロセス情報取得部311が取得した各設備における最新のプロセス量に基づき記憶部33の所定の領域に割り当てられ記憶された警報条件値テーブル331を参照する。そして、最新のプロセス量が警報条件値から所定量以上逸脱していた場合に、異常予兆検知部314が異常予兆ありと判定し、報知情報出力部315が異常予兆を報知する。
【0043】
ここで、図5〜図7を参照しながら、異常予兆検知部314の相関分析による異常予兆検知事例(1)〜(3)について説明する。
【0044】
まず、図5の異常予兆検知事例(1)から説明する。異常予兆検知事例(1)は、プロセス量としての水位データについて、一定時間前後の相互の関連性を分析する例を示す。図5(a)、(b)、(c)、(d)、(e)には、配水池8の水位監視(事例1)が例示されており、いずれも、時間軸T上に、プロセス情報取得部311で取得された水位データHを目盛ったグラフが示されている。
【0045】
図5(a)は、水位データの無変動監視事例を示すグラフである。図5(a)中、点線で示す水位データHThとLThは、警告条件値テーブル331に記憶されている、水位データ無変化監視のための上下限閾値である。図5(a)によれば、異常予兆検知部314は、双方向の矢印で示す一定時間内に水位データが上下限閾値範囲内にあって変動がなければ、異常予兆有りと判定する。この異常予兆検知により、槽内の凍結による水位データのホールドが想定され、断水の回避、あるいはオーバフローの回避につながる。但し、夜間配水量が少ないときは水位変動が少なくなることを考慮して、時間帯によっては監視時間(一定時間)及び閾値を変更する配慮が必要である。
【0046】
図5(b)は、水位データの監視事例を示すグラフである。図5(b)によれば、異常予兆検知部314は、一定時間内に水位の上下降の繰り返しを検知したときに異常予兆有りと判定する。この場合、投げ込み式水位計の大気開放管の詰まりによる異常変動が考えられる。このような監視は、他のプロセス量の監視への適用も可能である。例えば、濁度計や油分計等の汚れを検知できる。
【0047】
図5(c)は、配水池水位異常降下監視事例を示すグラフである。図5(c)によれば、異常予兆検知部314は、送水ポンプ停止中の水位降下状況を監視し、通常より一定時間内での下げ幅が大きい場合に異常予兆ありと判定し、上下限閾値HTh、LThに到達する前に異常予兆を報知することで、断水や出水不良を回避することができる。この場合、漏水、火災時の消化による大量配水が想定される。なお、図5(c)中、“下降異常幅”は、警告条件値テーブル331に予め記憶されている、配水水位異常降下監視のための上下限閾値である。
【0048】
図5(d)は、配水池水位上昇(鈍化)監視事例を示すグラフである。図5(d)によれば、異常予兆検知部314は、送水ポンプ運転中の水位上昇状況を監視し、通常より一定時間内での上げ幅(傾き)が大きい場合に異常予兆ありと判定する。この場合、漏水、火災時の消化による大量配水、ポンプ異常等が想定される。なお、図5(d)中、“上昇異常幅”は、警告条件値テーブル331に予め記憶されている、配水池水位上昇監視のための上下限閾値である。
【0049】
図5(e)は、“配水池水位・ポンプ連動監視”事例を示すグラフである。図5(e)によれば、異常予兆検知部314は、送水ポンプ停止中の実水位が、図中、点線表記されているように、ポンプ停止設定水位P−OFF±閾値範囲にあるか、送水ポンプ運転中の実水位が、ポンプ運転設定水位P−ON±閾値範囲にあるかを監視し、いずれかが範囲外であれば、異常予兆ありと判定する。この場合、水位計の異常、あるいはポンプまわりの異常によりポンプが緊急停止したことが想定される。なお、図5(e)中、P−OFF±閾値、P−ON±閾値は、警告条件値テーブル331に予め記憶されている、“配水池水位・ポンプ連動監視”のための上下限閾値である。
【0050】
次に、図6の異常予兆検知事例(2)について説明する。異常予兆検知事例(2)は、ポンプ自動運転に連動する動作を監視する例を示す。図6(a)はプロセス量としての流量について、ポンプ運転開始前後の相互の関連性を分析する例を示す。図6(a)は、配水池におけるポンプの適正流量監視事例を示すグラフであり、時間軸(横軸T)上に、時間当たりの流量(m3/h)が目盛られている。ここでは3台のポンプによる運転が例示されている。異常予兆検知部314は、運転台数に応じた流量の監視を行い、図中、破線表記された台数毎にそれぞれ決められる上下限閾値範囲を逸脱したときに異常予兆ありと判定する。この場合、ポンプ自体の故障、あるいは、一次圧力の低下、ポンプエア混入等、ポンプまわりの異常によるポンプ送水能力の低下が想定される。
【0051】
図6(b)は、ポンプ自動運転時のローテーション運転監視事例を示すグラフであり、時間軸(横軸T)上に、運転中のポンプ(1号機P、2号機P、3号機P)が示されている。異常予兆検知部314は、本来、ポンプP、P、Pと号機番号順にローテーション運転されるところを、時刻Tの時点で3号機Pのポンプにより運転がなされていることを検知したときに、異常予兆ありと判定する。
【0052】
図6(c)は、ポンプ自動運転時の連動動作監視事例を示すグラフである。図6(c)のケースにおいて、異常予兆検知部314は、本来、ポンプ1号機(P)に時間Tdだけ送れてポンプ2号機(P)が連動して動作するところを、ポンプPが時間Td(Td<Td)だけ遅れて動作したことを検知したときに、ポンプPに異常予兆ありと判定する。図6(d)は、機器(ポンプ)運転継続時間監視事例を示すグラフである。異常予兆検知部314は、本来、ポンプPが時間Toの間だけ継続運転するのに対し、時間Toを越えて継続運転(ここではTo)していることを検知したときにポンプ1号機(P)に異常予兆ありと判定する。
【0053】
次に、図7の異常予兆検知事例(3)について説明する。図7は、運用水位の適正監視事例を示すグラフであり、時間軸(横軸T)上に、配水区Aの流量(m3)、ポンプ流量(m3)、水位(H1)が示されている。図7のケースにおいて、異常予兆検知部314は、運転ポンプが切り替わる時刻t1のタイミングで配水検定を行い、結果、現在の配水池水位H1から水位を確保しなければ、この先の需要量(配水量)により配水池が空になって断水する危険性を警報により報知する。
【0054】
異常予兆検知部314は、更に、流量調整弁や圧力調整弁に関するPID(比例・積分・微分)制御に関して相関分析による監視も行う。例えば、異常予兆検知部314は、流量調整弁のPID制御の場合には流量と弁開度の相互の関連性を、圧力調整弁のPID制御の場合には圧力と弁開度の相互の関連性を、それぞれ警告条件値テーブル331に予め記憶されている警報条件値に基づき分析する。更に、異常予兆検知部314は、流量と圧力との相互の関連性についても、相関分析による監視を行なって異常予兆の有無の判定を行う。
【0055】
(実施例の効果)
以上説明のように、本実施形態のプラント運転監視装置30によれば、制御部31(異常予兆検知部314)が、設備毎に取得される監視対象毎のプロセス量の相互の関連性からプラントの異常予兆を検知して警報を出力するため、単一の設備は勿論のこと、複数設備のプロセス量の相互の関連性から異常予兆の検知を行なう。その結果、熟練オペレータと同じ思考でプラントの異常予兆の自動判定が可能となり、従って、スキルの低いオペレータでも異常発生前の対応が可能になり、プラントの信頼性が向上すると共にプラントの安定運用がはかれる。このため、例えば、水質データ等、多量で多変数のデータが複雑に組み合わさっている場合でも、相関分析により、原水水質、混和池運転条件、フロック形成池運転条件、沈殿池水質データの変化点とその異常要因を解析できる。また、異常発生前に予兆を報知するため、事前に適正な運転条件を設定することができ、且つ、水質リスクの可視化が可能になる。
【0056】
また、本実施形態のプラント運転監視装置30によれば、異常予兆検知部314が、各設備における最新のプロセス量に基づき記憶部33の所定の領域に割り当てられ記憶される警報条件値テーブル331を参照して最新のプロセス量が警報条件値から所定量以上逸脱していた場合に警報を自動的に出力するため、異常発生前の対応が可能であり、オペレータの負荷軽減が図れると共に安定したプラント運転が可能になる。
【0057】
(プラント運転監視プログラム)
尚、本発明のプラント運転監視プログラムは、例えば、図1、図2に示されるように、設備の監視対象毎のプロセス量を測定する、複数の現場機器10が通信ネットワーク(WAN50)経由で接続されたプラント運転監視装置30上のコンピュータ(制御部31が内蔵するマイクロプロセッサ)で実行される、プラント運転監視プログラムである。
【0058】
そして、そのコンピュータに、図3のフローチャートに示されるように、複数の現場機器10からプロセス量を取得する処理(ステップS11)と、設備毎に取得される監視対象毎のプロセス量の相互の関連性からプラントの異常予兆を検知する処理(ステップS12)と、異常予兆が検知されたときに警報を出力する処理(ステップS13、S14)と、を実行させるものである。
【0059】
本発明のプラント運転監視プログラムによれば、当該プログラムをプラント運転監視装置30のコンピュータ上で実行させることにより、複数設備におけるプロセス量の相互の関連性から異常発生前の予兆を捉え、報知することが出来る。このため、熟練オペレータと同じ思考でプラントの異常予兆の自動判定が可能となり、従って、スキルの低いオペレータでも異常発生前の対応が可能になり、信頼性が向上すると共にプラントの安定運用がはかれる。
【0060】
尚、上記した実施形態によれば、浄水場プラントに適用した場合についてのみ例示したが、他に、水道の取水、導水、送水、配水、給水、あるいは下水処理等にも同様に適用が可能である。
【0061】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0062】
1 プラント運転監視システム
10 現場装置
11 フィールドサーバ
12 プロセス機器
20 管理者端末
30 プラント運転監視装置
40 クライアント端末
50 WAN
60 LAN
31 制御部
32 操作部
33 記憶部
34 表示部
310 主制御部
311 プロセス情報取得部
312 通信インタフェース部
313 操作情報取得部
314 異常予兆検知部
315 報知情報出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントを構成する設備のプロセス量を測定する複数の現場機器が通信ネットワーク経由で接続されるプラント運転監視装置であって、
前記複数の現場機器からプロセス量を取得するプロセス情報取得部と、
前記プロセス情報取得部が取得した複数のプロセス量の相互の関連性からプラントの異常予兆を検知する異常予兆検知部と、
前記異常予兆検知部で異常予兆が検知されたときに警報を出力する報知情報出力部と、
を備えたことを特徴とするプラント運転監視装置。
【請求項2】
前記プラントの異常予兆を示すプロセス量の警報条件値を前記設備毎に記憶する警報条件値記憶部を備え、前記異常予兆検知部は、前記プロセス情報取得部が取得した最新のプロセス量と前記警報条件値記憶部に記憶されている警報条件値とを比較し、前記最新のプロセス量が警報条件値から所定量以上逸脱していた場合に前記報知情報出力部による警報出力を有効とすることを特徴とする請求項1に記載のプラント運転監視装置。
【請求項3】
前記プラントは、川からの水を貯留する着水井と、処理原水へ凝集剤を注入して混和させ、緩速攪拌により処理原水中にフロックを形成させるフロック形成池と、懸濁物質や前記フロックを沈殿させる沈殿池と、処理水をろ過するろ過池とを備える浄水処理場施設であり、前記異常予兆検知部は、前記プロセス情報取得部が取得したプロセス量が示す、原水水質と、混和池運転条件と、フロック形成池運転条件と、沈殿池水質データと、前記プラントの運用コストの重み付けにより示される目的関数との相互の関連性を分析することにより、前記プラントの異常予兆を検知することを特徴とする請求項1または2に記載のプラント運転監視装置。
【請求項4】
浄水処理場施設の運転状態を監視するプラント運転監視システムであって、
前記浄水場処理施設を構成する設備のプロセス量を測定する複数の現場機器と、
前記複数の現場機器によって測定された複数のプロセス量の相互の関連性から前記浄水場処理施設の異常予兆を検知し、異常予兆が検知されたときに警報を出力するプラント運転監視装置と、
を備えたことを特徴とするプラント運転監視システム。
【請求項5】
浄水処理場施設の運転状態を監視するプラント運転監視プログラムであって、
前記浄水場処理施設を構成する設備のプロセス量を測定する複数の現場機器からプロセス量を取得する処理と、
前記複数の現場機器によって測定された複数のプロセス量の相互の関連性から前記浄水場処理施設の異常予兆を検知する処理と、
前記異常予兆が検知されたときに警報を出力する処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするプラント運転監視プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−38298(P2012−38298A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154099(P2011−154099)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】