説明

プラーク形成抑制剤、または抗う蝕菌剤

【課題】植物抽出物を利用した新規なプラーク形成抑制剤、抗う蝕菌剤、口腔用組成物およびう触予防用飲食物を提供する。
【解決手段】明日葉のアルコール抽出画分に含まれる、一般式(1)


(式中、Rは水素原子または低級アルキル基、nは1または2を示す。)
で示される化合物またはその塩を有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラーク形成抑制剤および抗う蝕菌剤、ならびにこれらを有効成分とするう蝕又は口腔疾患予防のための口腔用組成物および飲食物に関する。より詳細には、植物に由来する成分を有効成分とするプラーク形成抑制剤および抗う蝕菌剤、ならびにこれらを含有する上記口腔用組成物およびう蝕予防用飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕(虫歯)とは、口腔内のう蝕菌がショ糖を栄養源として酸を発生させ、この酸によって歯が溶ける現象である。当該う蝕の詳細な原因については、諸説あるが、現在では、う蝕細菌(例えば、ストレプトコッカス・ミュータンス[Streptococcus mutans])によって生成される粘着性、不溶性の多糖(これを、「不溶性グルカン」ともいう)が歯表面に結合し、これが歯垢(プラーク)となって歯表面に蓄積することによって、う蝕(虫歯)が始まるといわれている。そして、この歯垢中で上記う蝕細菌をはじめとする多くの細菌が共生、繁殖し、これらの細菌の代謝によって産生された有機酸の作用で歯表面のエナメル質が脱灰し、う蝕が進行する。歯垢は、こうしたう蝕(虫歯)の他、口臭の原因となったり、またその進行によって歯周病、歯周炎、さらには歯槽膿漏などの各種の口腔疾患にまで発展する。
【0003】
このため、う蝕を防止し、またう蝕の進行による歯周病、歯周炎、および歯槽膿漏を予防するためには、歯の表面に付着した歯垢(プラーク)を歯磨きによって除去するだけでなく、口腔内でのう蝕細菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)の増殖を抑制することなどによって不溶性グルカンの生成を防止し、歯垢(プラーク)が生じないようにすることが有効である。
【0004】
こうした観点から、近年、う蝕細菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)の増殖を抑制する作用を有する物質やプラーク形成を抑制する物質を有効成分として配合することによって、う蝕予防効果を有する、口腔用組成物や飲食物が複数提案されている(例えば、特許文献1〜4など参照)。
【0005】
一方、明日葉は、セリ科の植物で、古くから強精、強壮、延寿及び長命の薬草として珍重されている野菜である。明日葉は、従来からビタミン、ミネラル、良質なタンパク質および食物繊維を豊富に含むことが知られていたが、近年、医学的にも、明日葉の黄汁中の主成分であるカルコン類に、グラム陽性菌に対する殺菌作用(非特許文献1)、抗潰瘍と胃酸分泌抑制作用(非特許文献2)、トロンボキサンA2生成阻害作用(非特許文献3)、血管弛緩作用(非特許文献4)、抗アレルギー作用(非特許文献5)、抗HIV作用(非特許文献6)、発がんプロモーター抑制作用と抗腫瘍作用(非特許文献7〜9)などといった有用な薬理作用があることが証明されている。しかしながら、明日葉およびそれに含まれるカルコン成分に、う蝕細菌の増殖抑制作用やプラーク形成抑制作用があることは知られていない。
【特許文献1】特開平04−221308号公報
【特許文献2】特開2001−114694号公報
【特許文献3】特開2003−81847号公報
【特許文献4】特開2005−82568号公報
【非特許文献1】Y.Inamoriら, Chem. Pharm. Bull., 39, 1604(1991)
【非特許文献2】S.Murakamiら, J. Pharm. Pharmacol., 42, 723(1990)
【非特許文献3】T.Fujitaら research Communication in Chemical Pathology and Pharmacology, 77, 227(1992)
【非特許文献4】M.Matsuuraら, Planta Med., 67, 320(2001)
【非特許文献5】田中功二,馬場きみ江, Natural Medicines, 55, 32 (2001)
【非特許文献6】遊佐敬介ら, 日本薬学会第113年会講演要旨集3, 6(1993)
【非特許文献7】T.Okuyamaら,Planta Med., 57, 242(1991)
【非特許文献8】T.Akihisaら, Cancer Letter, 201, 133(2003)
【非特許文献9】Y.kimuraら,Planta Med., 70, 211(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的の1つは、人体に安全な物質を有効成分とするプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤を提供することである。より詳細には、洗口液や歯磨剤などの口腔用組成物に安全に配合できるだけでなく飲食物にも配合可能な物質を有効成分とするプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤を提供することを目的とする。また、本発明の目的は、抗う蝕菌の増殖や歯垢の生成を抑制することによって、う蝕、ならびに歯周病、歯肉炎および歯槽膿漏などの口腔疾患を予防するのに有用な口腔用組成物ならびに飲食物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討をしていたところ、セリ科の植物で、古くから薬草として使用され、また近年では多くの有用な薬理作用(グラム陽性菌に対する殺菌作用、抗潰瘍作用、胃酸分泌抑制作用、トロンボキサンA2生成阻害作用、血管弛緩作用、抗アレルギー作用、抗HIV作用、発がんプロモーター抑制作用など)が知られている明日葉の樹液や溶媒抽出物に、優れたプラーク形成抑制作用、およびう蝕細菌であるストレプトコッカス・ミュータンスの生育や増殖を抑制する作用があることを見出し、その有効成分が、一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは水素原子または低級アルキル基、nは1または2を示す。)
で示される化合物であることを確認した。
【0010】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を含むものである:
(1)プラーク形成抑制剤および抗う蝕菌剤
項1.一般式(1)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Rは水素原子または低級アルキル基、nは1または2を示す。)
で示される化合物またはその塩を有効成分として含有するプラーク形成抑制剤。
項2.化合物(1)またはその塩を含有する植物成分またはその加工物を含有する項1記載のプラーク形成抑制剤。
項3.植物成分またはその加工物が、明日葉の根,茎および樹液の溶媒抽出物、明日葉樹液、ならびに明日葉樹液の濃縮物からなる群から選択されるいずれかである、項2に記載するプラーク形成抑制剤。
【0013】
項4.一般式(1)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Rは水素原子または低級アルキル基、nは1または2を示す。)
で示される化合物またはその塩を有効成分として含有する抗う蝕菌剤。
項5.化合物(1)またはその塩を含有する植物成分またはその加工物を含有する項4に記載する抗う蝕菌剤。
項6.植物成分またはその加工物が、明日葉の根,茎および樹液の溶媒抽出物、明日葉樹液、ならびに明日葉樹液の濃縮物からなる群から選択されるいずれかである、項5に記載する抗う蝕菌剤。
【0016】
(2)口腔用組成物
項7.項1〜3に記載するプラーク形成抑制剤ならびに項4〜6に記載する抗う蝕菌剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを、う蝕または口腔疾患の予防の有効成分として含有することを特徴とする口腔用組成物。
項8.項1〜3に記載するプラーク形成抑制剤ならびに項4〜6に記載する抗う蝕菌剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを、う蝕または口腔疾患を予防するための口腔用組成物を製造するために使用する方法。
【0017】
(3)飲食物
項9.項1〜3に記載するプラーク形成抑制剤ならびに項4〜6に記載する抗う蝕菌剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを、う蝕または口腔疾患の予防の有効成分として含有することを特徴とする飲食物。
項10.項1〜3に記載するプラーク形成抑制剤ならびに項4〜6に記載する抗う蝕菌剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを、う蝕または口腔疾患を予防するための飲食物を製造するために使用する方法。
【0018】
なお、本明細書において、飲食物には、ヒトが飲食する物だけでなく、う蝕や歯周病、歯肉炎並びに歯槽膿漏といった口腔疾患を起こすことがある動物(例えば、家畜やペット)の飼料または餌をも含むものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプラーク形成抑制剤および抗う蝕菌剤は、優れた薬理作用を有し古来より食用されている明日葉に含まれる化合物(1)を有効成分とするものであり、安全性に優れると同時に、塩化セチルピリジニウムやチモールなどの公知のプラーク形成抑制剤や抗う蝕菌剤に匹敵するか、またはそれよりも優れたプラーク形成抑制作用および抗う蝕菌作用(抗う蝕細菌に対する抗菌作用)を備えていることを特長とする。ゆえに、本発明によれば、本発明のプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤を有効成分として配合することによって、優れたう蝕予防作用を有しながらも安全性の高い口腔用組成物を提供することができる。さらに、本発明のプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤は、上記の点から飲食物に配合することも可能であり、その結果、優れたう蝕予防作用を有する飲食物を提供することができる。
【0020】
また、本発明に係るプラーク形成抑制剤、抗う蝕菌剤、う蝕予防用口腔用組成物または飲食物によれば、プラークの形成を抑制し、またう蝕原因菌の繁殖を抑制することによって、う蝕のみならず、それに伴う口臭や、歯周病、歯肉炎並びに歯槽膿漏といった口腔疾患を効果的に予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(1)プラーク形成抑制剤および抗う蝕菌剤
本発明に係るプラーク形成抑制剤および抗う蝕菌剤は、一般式(1)
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、Rは水素原子または低級アルキル基、nは1または2を示す。)
で示される化合物またはその塩を有効成分とすることを特徴とする。
【0024】
ここで、Rで示される低級アルキル基としては、制限されないが、通常炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルキル基を挙げることができる。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ter−ブチル基、ペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、2−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1−メチル−2−エチルプロピル基などを挙げることができる。好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分枝鎖状のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0025】
化合物(1)の具体例としては、Rが水素原子でnが2のキサントアンゲロール(xanthoangelol)、Rがメチル基でnが1の4−ヒドロキシデリシン(4-hydroxyderricin)を挙げることができる。
【0026】
これらの化合物は、遊離または塩の形態を有するもののいずれであってもよい。塩としては、通常、医薬上許容される塩、たとえば無機塩基または有機塩基との塩、あるいは無機酸、有機酸、または塩基性若しくは酸性アミノ酸などの酸付加塩等を挙げることができる。無機塩基としては、たとえば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属;カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属;アルミニウムやアンモニウム等を挙げることができる。有機塩基としては、たとえば、エタノールアミン等の第一級アミン;ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミン等の第二級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、トリエタノールアミン等の第三級アミン等を挙げることができる。
【0027】
酸付加塩を形成する無機酸としては、たとえば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等を挙げることができる。有機酸としては、たとえば、ギ酸、酢酸、乳酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、安息香酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等を挙げることができる。塩基性アミノ酸としては、たとえば、アルギニン、リジン、オルニチン等を挙げることができる。酸性アミノ酸としては、たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸等を挙げることができる。
【0028】
また、溶解度、安定性の増加、生理活性機能の増強のために、これらの化合物に、単糖、オリゴ糖、糖アルコールなどを配糖化してもよい。好ましい糖の個数は1〜20個であり、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、マルトース、スクロース等を挙げることができる。
【0029】
本発明のプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤は、上記化合物(1)またはその塩を有効成分として含有するものであればよく、配合する化合物(1)の純度は特に制限されない。例えば、化合物(1)の粗精製物として、化合物(1)またはその塩を含む植物成分またはその加工物を、精製の程度を問わず含むものであってもよい。ここで植物成分とは、植物そのものや樹液などの植物に含まれる液体を意味し、加工物とは植物の全草若しくはその一部、または植物に含まれる液体(例えば樹液など)を任意の加工処理(乾燥、抽出、搾汁、加熱、精製処理など)に供したものを意味する。
【0030】
植物の種類は、化合物(1)またはその塩を含むものであれば特に制限されないが、好ましくは明日葉を挙げることができる。明日葉は、八丈島や伊豆諸島などの暖地に原生する、学名「Angelica keiskei koidz.」のセリ科の植物である。近年では日本国内だけでなくインドネシアや韓国など、様々な地域で八丈島産の種を用いた明日葉が栽培されるようになっている。なお、本発明で用いる明日葉はその起源を特に制限するものではない。
【0031】
明日葉は全草を使用してもよいし、また一部(例えば、根、茎、葉、果実(種子)、花蕾、花、樹皮など)を使用することもできる。かかる明日葉の部位としては、プラーク形成抑制作用または抗う蝕菌作用を有する部位(化合物(1)またはその塩を含む部位)であれば特に制限なく使用することができる。好ましくは、明日葉の樹液、明日葉の根および茎を挙げることができる。
【0032】
なお、樹液は、植物組織(例えば葉、茎、根など)に傷を付け、あるいは切断することにより、当該傷口或いは切断面から滲出してくるため、当該滲出液を採集して用いることができる。また、明日葉の全草或いはその一部を破砕して水や溶媒で樹液を採集することもできる。
【0033】
明日葉の全草若しくはその一部または明日葉の樹液は、そのままでも使用できるが、通常は任意の加工処理(粉砕、乾燥、濃縮、抽出など)を施した状態で使用される。例えば、明日葉の樹液については濃縮または溶媒抽出を、明日葉の全草若しくはその一部(例えば根および茎など)については溶媒抽出を好適に挙げることができる。
【0034】
溶媒抽出は、明日葉の全草またはその一部をそのまま若しくはその破砕物として供してもよいし、また乾燥後、必要に応じて破砕した後に抽出操作に供してもよい。また明日葉の樹液もそのまま抽出操作に供してもよいし、また濃縮または乾燥後、必要に応じて破砕した後に、抽出操作に供してもよい。
【0035】
上記抽出に用いられる溶媒としては、プラーク形成抑制作用または抗う蝕菌作用を有する成分(化合物(1)またはその塩)を抽出することのできる溶媒であれば特に制限されず、低級アルコール、多価アルコール、精油などの油脂、非極性溶媒および極性溶媒、ならびに超臨界または亜超臨界流体を広く用いることができる。より具体的には低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1〜4のアルコール;多価アルコールとしては、グリセリン、ポリエチレングリコール等;非極性溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の飽和炭化水素あるいはヘキセン、ヘプテン等の不飽和炭化水素等;極性溶媒としては、アセトン、酢酸エチル、酢酸メチル等;超臨界または亜超臨界流体としては二酸化炭素、エタン、エチレン等が使用される。これら溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。例えば脂肪分の多い原料などの場合は、非極性溶媒で脱脂抽出処理した後、各種任意の溶媒で抽出処理してもよいし、また含水有機溶媒を用いて抽出処理することもできる。好ましくは低級アルコール、特にエタノールである。当該低級アルコールは、水と混合して含水アルコール(好ましくは含水エタノール)として使用することもでき、この場合のアルコール濃度としては、1〜99.9容量%を例示することができる。好ましくは70容量%以上である。
【0036】
抽出方法としては、一般に用いられる方法を採用することができる。制限はされないが、例えば溶媒中に明日葉の樹液または全草若しくは部分(そのまま若しくは粗末、細切物)、又はそれらの乾燥破砕物(粉末など)を冷浸、温浸等によって浸漬する方法、加温し攪拌しながら抽出を行い、濾過して抽出液を得る方法、上記超臨界または亜超臨界抽出流体を使用した超臨界または亜超臨界抽出方法、またはパーコレーション法等を挙げることができる。
【0037】
得られた抽出液は、必要に応じてろ過または遠心分離によって固形物を除去した後、使用の態様に応じて、そのまま用いるか、または溶媒を留去して一部濃縮若しくは乾燥して用いてもよい。また濃縮乃至は乾燥後、該濃縮乃至は乾燥物を非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いても、またこれを更に適当な溶剤に溶解もしくは懸濁して用いることもできる。また、抽出液を、慣用されている精製法、例えば向流分配法や液体クロマトグラフィー等を用いて、プラーク形成抑制作用または抗う蝕菌作用を有する画分(化合物(1)またはその塩を含む画分)を取得、精製して使用することも可能である。更に、本発明においては、例えば、上記のようにして得られた溶媒抽出液を、減圧乾燥、凍結乾燥等の通常の手段により明日葉エキス乾燥物として使用することもできる。
【0038】
斯くして得られた明日葉の溶媒抽出物または明日葉樹液は、優れたプラーク形成抑制作用ならびにう蝕細菌に対して増殖抑制作用(抗う蝕菌作用)を示すため、そのままでもプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤として使用することができるが、所望により、常法に従って任意の助剤や賦形剤などの成分を配合して製剤化してもよい。また、後述するように、う蝕並びに歯周病、歯肉炎および歯槽膿漏といった口腔疾患を予防するための各種口腔用組成物(医薬部外品、医薬品、化粧品)や飲食物の有効成分として使用することもできる。
【0039】
(2)口腔用組成物
上記するように、本発明のプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤は、医薬部外品、医薬品又は化粧品などの各種口腔用組成物の有効成分として用いることができ、斯くして口腔内のプラーク(歯垢)形成を防止し、またう蝕菌の繁殖を抑制することによって、う蝕や、歯周病、歯肉炎および歯槽膿漏といった口腔疾患を有効に予防する効果を有する口腔用組成物を調製することができる。
【0040】
なお、本発明において、口腔用組成物とは、医薬部外品、医薬品および化粧品の別を問わず、口腔内で用いられるものを意味する。具体的には、例えば歯磨剤(練り状、液体状、粉末状),マウススプレー、マウスウォッシュやマウスリンス等の洗口剤、咀嚼剤、トローチ剤、口腔用パスタ剤、歯肉マッサージクリーム、うがい剤、シロップ剤等を挙げることができる。好ましくは、歯磨剤、マウスウォッシュやマウスリンスなどの洗口剤を挙げることができる。これらの形態並びに剤形は、特に制限されず、種類に応じて任意に定めることができる。
【0041】
本発明のプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤の適用濃度は、口腔用組成物の種類、プラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤中に含まれる有効成分の割合、口中における希釈度などの各種因子を考慮して適宜選択決定することができる。特に制限はされないが、口腔用組成物100重量%あたりに配合されるプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤の具体的な配合割合としては、化合物(1)の量に換算して、0.001〜50重量%、好ましくは0.001〜10重量%、より好ましくは0.005〜1重量%を挙げることができる。
【0042】
また、プラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤が明日葉の溶媒抽出物または樹液を有効成分として含有するものである場合、口腔用組成物100重量%あたりに配合されるプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤の具体的な配合割合として、明日葉の溶媒抽出物または樹液の乾燥物の量に換算して、0.001〜99.9重量%、好ましくは0.005〜50重量%を例示することができる。
【0043】
本発明の口腔用組成物は、本発明の効果を妨げない限り、他の成分として、公知のプラーク形成抑制剤、ストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗菌剤(抗う蝕菌剤)などの口腔用抗菌剤、グルコシルトランスフェラーゼ阻害剤、消炎剤、動植物成分、動植物抽出エキス、または、その他の口腔用剤、吸入噴霧剤若しくは含嗽(そう)剤等に使用される成分と組み合わせて配合することもできる。また、本発明の口腔用組成物剤は、適用する口腔用組成物の種類に応じて、該口腔用組成物に通常配合される成分と併用することができる。
【0044】
ここでプラーク形成抑制剤としては、制限はされないが、フッ素、フッ化ナトリウム、フッ化第1スズ、キシリトール、パラチノース、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、塩化リゾチーム等の溶菌酵素、およびトレハルロースを例示することができる。
【0045】
口腔用抗菌剤としては、制限されないが、塩化セチルピリジニウム、1,8-シネオール、トリクロサン、ヒノキチオール、塩酸セフカペン、塩酸クロルヘキシジン、ポビドンヨード、アクリノール、イソプロピルメチルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン、クレオソート、チモール、ヒノキチオール、フェノール、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、塩酸ベンザルコニウム、および塩化デカリニウムを例示することができる。
【0046】
グルコシルトランスフェラーゼ阻害剤としては、制限されないが、茶抽出物、カテキン、エピガロカテキンガレート(EGCG)、およびプロトアントシアニジンを例示することができる。
【0047】
動植物成分または動植物抽出エキスとしては、ハーブ抽出物、海藻抽出物、酵母抽出物、茶抽出物、クマザサエキス、パール末(真珠末)、りんご抽出物、ローズオイル、マリーゴールド花エキス(ルテイン)、プロポリスエキス、メロン抽出物、オリーブ葉エキス、ムクナエキス、バラ花びら抽出物、エルカンプーレエキス末、冬虫夏草エキス、セージ抽出物、ボダイジュ抽出物、オトギリソウ抽出物、エンメイソウ抽出物、ラカンカ抽出物、高麗人参エキス、蜂の子末、ノニエキス、青パパイヤ酵素末、ホワイトマッシュルーム抽出物、ブドウ種子抽出物、ユッカ抽出物、ライチ種子抽出物、紫蘇の葉抽出物、紫蘇の種子抽出物、トマト色素抽出物、ザクロエキス、鶏冠抽出物(ヒアルロン酸・コラーゲン含有)、ラズベリーエキス、カモミールエキス、スターフルーツエキス、フェヌグリークエキス、ハス胚芽エキス、月桃葉エキス、米抽出物(セラミド含有)、米ぬか抽出物、ヘマトコッカス抽出物藻色素(アスタキサンチン)、黒こしょう抽出物、ビール酵母(亜鉛含有)、ゼラチン、ミツロウ、ローズマリー抽出物、イチョウの葉抽出物、甜茶抽出物、ダイズ抽出物、ダイズ胚芽抽出物、水溶性コラーゲン、コエンザイムQ10、コーヒー豆抽出物、ウコンエキス、チェリーエキス、ビルベリーエキス、カシスエキス、柿タンニン抽出物、ルイボス茶抽出物、アップルファイバー、ムクロジエキス、甘草エキス、舞茸エキス、サイリウムハスク末(オオバコの一種であるプランタゴ・オバタ)、ギムネマシルベスタ末、グァバ葉抽出物、クロム酵母、大麦若葉末、およびカニ殻粉末を例示することができる。
【0048】
その他、口腔用剤、吸入噴霧剤または含嗽(そう)剤に使用される成分としては、アセチルサリチル酸、アミノ安息香酸エチル、エタノール、エーテル、塩化ナトリウム、塩酸エピロカイン、塩酸エフエドリン、塩素酸カリウム、オイゲノール、カミツレ、甘硝石精、カンゾウ、カンフル、キキヨウ、グアイアズレン、グアイアズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸ジカリウム、β−グリチルレチン酸、クロルフエニラミン、クロロフイリン、サリチル酸フェニル、サリチル酸メチル、シコン、ジブカイン、硝酸銀、スルフアジアジン、セネガ、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、チョウジ、テトラデシルアミノエチルグリシン、銅クロロフイリンナトリウム、ドデシルジアミノエチルグリシン、ニンジン、ハチミツ、ハツカ、プロカイン、2−ヘキソキシ−4−アミノチオ安息香酸ジエチルアミノエチル、ホモスルフアミン、マレイン酸クロルフエニラミン、ミルラ、メントール、ユーカリ油、ヨウ化カリウム、ヨウ素、ヨードグリセリン、硫酸アルミニウムカリウム、リドカイン、リユウノウ、ソルビン酸、アレキシジン、アルキルグリシン、アルキルジアミノエチルグリシン塩、モノフルオロリン酸ナトリウム、水溶性第一若しくは第二リン酸塩、第四級アンモニウム化合物およびこれらに類似の薬理作用を有する成分を挙げることができる。
【0049】
より具体的には、例えば練歯磨剤の場合、配合できる成分として、第2リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、非晶質シリカ、酸化アルミニウム等の研磨剤;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸塩、カラゲナン、アラビアゴム、ポリビニルアルコール等の粘結剤;ポリエチレングリコール、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール等の粘稠剤;ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグイセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、N−アシルグルタミン酸塩、ショ糖脂肪酸エステル等の発泡剤等を挙げることができ、更にこれに通常用いられるメントール等の香料並びに矯味剤又は甘味剤、防腐剤等を配合することができる。
【0050】
マウスウォッシュやマウスリンス等の洗口剤の場合も、常法の成分を配合することができる。なお、併用配合される甘味剤としては、う蝕性が低いか又はないものが好ましく、例えばD−キシロース、キシリトール、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、トレハロースなどを好適に挙げることができる。
【0051】
(3)飲食物
前述する本発明のプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤は、う蝕や歯周病等の予防を目的とした飲食物の有効成分として用いることができ、斯くして口腔内のプラーク(歯垢)形成を防止し、またう蝕菌の繁殖を抑制することによって、う蝕、歯周病、歯肉炎並びに歯槽膿漏といった口腔疾患を有効に予防する効果を有する飲食物を調製することができる。
【0052】
ここで飲食物としては、制限されないが、好ましくはトローチ、チューインガム、キャンディー(ハード、ソフト)、グミキャンディーなどの飴類;チョコレート;ゼリー、ヨーグルト、プリンなどのデザート類;クッキーやケーキなどの焼き菓子類;パン;錠菓;冷凍食品;麺類;ジュースや清涼飲料水;スープなどの飲料を挙げることができる。
【0053】
プラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤の適用濃度は、飲食物の種類、プラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤中に含まれる有効成分の割合、口中における希釈度などの各種因子を考慮して適宜選択決定することができる。特に制限はされないが、飲食物100重量%あたりに配合されるプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤の具体的な配合割合としては、化合物(1)の量に換算して、0.001〜50重量%、好ましくは0.001〜10重量%、より好ましくは0.005〜1重量%を挙げることができる。
【0054】
また、プラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤が明日葉の溶媒抽出物または樹液を有効成分として含有するものである場合、飲食物100重量%あたりに配合されるプラーク形成抑制剤または抗う蝕菌剤の具体的な配合割合として、明日葉の溶媒抽出物または樹液の乾燥物の量に換算して、0.001〜99.9重量%、好ましくは0.005〜50重量%を例示することができる。
【0055】
本発明の飲食物は、本発明の効果を妨げない限り、他の成分として、公知のプラーク形成抑制剤、ストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗菌剤(抗う蝕菌剤)などの口腔抗菌剤、グルコシルトランスフェラーゼ阻害剤、または動植物成分、動植物抽出エキスなどと組み合わせて配合することもできる。また、本発明の飲食物は、飲食物の種類に応じて、当該飲食物に通常配合される成分と併用することができる。例えば、併用配合される甘味剤としては、う蝕性が低いか又はないものが好ましく、例えばD−キシロース、キシリトール、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、トレハロースなどを好適に挙げることができる。
【実施例】
【0056】
以下、調製例、試験例および配合例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の各例に何ら限定されるものではない。なお、下記の調製例において「95容量%含水エタノール」とは、95容量%の割合でエタノールを含有する水溶液を意味する。
<調製例>
製造例1 明日葉樹液濃縮物
市販の明日葉の樹液(50g)をナスフラスコに入れ、エバポレーターで真空濃縮し、明日葉樹液濃縮物(4g)を得た。かかる濃縮物を精密に量り、5mg/mLおよび10mg/mLとなるようにDMSO(Dimethyl Sulfoxide:ジメチルスルフォキサイド)に溶解した。
【0057】
製造例2 明日葉樹液の95容量%含水エタノール抽出物
市販の明日葉の樹液(100g)をナスフラスコに入れ、エバポレーターで真空濃縮し、明日葉樹液濃縮物を得た。かかる濃縮物を5倍量の95容量%含水エタノールに加温溶解し、No.2の濾紙で不溶物を除去した後、エバポレーターで真空濃縮し、明日葉樹液の95容量%含水エタノール抽出物(95容量%含水エタノール可溶物)(22g)を得た。これを精密に量り、5mg/mLおよび10mg/mLとなるようにDMSOに溶解した。
【0058】
製造例3 明日葉樹液の水抽出物
市販の明日葉樹液(50g)を分液漏斗に入れ、これと同量の酢酸エチルを加え、液液分配を行った。水層についてかかる操作(液液分配)を3回繰り返した後、回収した水槽をエバポレーターで真空濃縮し、明日葉樹液の水抽出物の濃縮物(水可溶物)(1.8g)を得た。これを精密に量り、5mg/mLおよび10mg/mLとなるようにDMSOに溶解した。
【0059】
製造例4 明日葉の根抽出物
新鮮な明日葉の根(1kg)を粉砕し、3倍量の95容量%含水エタノールを用いて、室温で1時間抽出を行った。抽出を終えた明日葉の根の粉砕物(抽出残渣)に、再度、3倍量の95容量%含水エタノールを用いて、室温で1時間抽出を行った。この操作を計3回行った。得られた抽出液を合わせて、エバポレーターで真空濃縮し、明日葉根抽出物の濃縮物(89g)を得た。これを精密に量り、5mg/mLおよび10mg/mLとなるようにDMSOに溶解した。
【0060】
製造例5 明日葉の茎抽出物
新鮮な明日葉の茎(790g)を粉砕し、3倍量の95容量%含水エタノールを用いて、室温で1時間抽出を行った。抽出を終えた明日葉の茎の粉砕物(抽出残渣)に、再度、3倍量の95容量%含水エタノールを用いて、室温で1時間抽出を行った。この操作を計3回行った。得られた抽出液を合わせて、エバポレーターで真空濃縮し、明日葉茎抽出物の濃縮物(49g)を得た。これを精密に量り、5mg/mLおよび10mg/mLとなるようにDMSOに溶解した。
【0061】
製造例6 明日葉の葉抽出物
新鮮な明日葉の葉(500g)を粉砕し、3倍量の95容量%含水エタノールを用いて、室温で1時間抽出を行った。抽出を終えた明日葉の葉の粉砕物(抽出残渣)に、再度、3倍量の95容量%含水エタノールを用いて、室温で1時間抽出を行った。この操作を計3回行った。得られた抽出液を合わせて、エバポレーターで真空濃縮し、明日葉の葉抽出物の濃縮物(72g)を得た。これを精密に量り、5mg/mLおよび10mg/mLとなるようにDMSOに溶解した。
【0062】
製造例7 明日葉の花抽出物
新鮮な明日葉の花(190g)を粉砕し、3倍量の95容量%含水エタノールを用いて、室温で1時間抽出を行った。抽出を終えた明日葉の花の粉砕物(抽出残渣)に、再度、3倍量の95容量%含水エタノールを用いて、室温で1時間抽出を行った。この操作を計3回行った。得られた抽出液をエバポレーターで真空濃縮し、明日葉の花抽出物の濃縮物(12g)を得た。これを精密に量り、5mg/mLおよび10mg/mLとなるようにDMSOに溶解した。
【0063】
製造例8 4−ヒドロキシデリシン、キサントアンゲロールの単離精製
(1) 明日葉樹液から95容量%含水エタノールで抽出したエタノール可溶化物 (22g)をシリカゲルカラムに供し、溶離液としてCHL3:EtOAc(20:1)混合溶媒を用いて溶出し、各フラクションに分画した。分画したフラクションから、TLCを用いて黄色い両成分を確認しながら、4−ヒドロキシデリシン含有フラクション、およびキサントアンゲロール含有フラクションを選抜し、得られた4−ヒドロキシデリシン含有フラクション、およびキサントアンゲロール含有フラクションを濃縮した。さらに各フラクション濃縮物を、ゲル濾過カラム(Sephadex LH20、200mL)(溶離液:90容量%含水メタノール)、シリカゲルカラム(溶離液:CHL3:EtOAc=20:1)にて繰り返して精製し、各々4−ヒドロキシデリシン(2.9g)とキサントアンゲロール(1g)の純品を得た。
【0064】
4−ヒドロキシデリシンおよびキサントアンゲロールを、各々1H- NMRスペクトルおよび 13C-NMRスペクトルに供して、得られた純品が下式(2)で示される4−ヒドロキシデリシン:
【0065】
【化5】

【0066】
および下式(3)で示されるキサントアンゲロール
【0067】
【化6】

【0068】
であることを確認した。
【0069】
JNM-ECA600NMR装置を用いて、精製した4-Hydroxyderricin(4−ヒドロキシデリシン)とXanthoangelol(キサントアンゲロール)を測定、確認した。4−ヒドロキシデリシンの1H- NMRおよび13C-NMRの結果、ならびにキサントアンゲロールの1H- NMRおよび13C-NMRの結果を下記に示す。
【0070】
(1)4−ヒドロキシデリシンの1H- NMRおよび13C-NMR
【0071】
【表1】

【0072】
(2)キサントアンゲロールの1H- NMRおよび13C-NMR
【0073】
【表2】

【0074】
(2)4−ヒドロキシデリシン
上記で調製した4−ヒドロキシデリシンを精密に量り、5mg/mLおよび10mg/mLとなるようにDMSOに溶解した。
【0075】
(3)キサントアンゲロール
上記で調製したキサントアンゲロールを精密に量り、5mg/mLおよび10mg/mLとなるようにDMSOに溶解した。
【0076】
<試験例>
試験例1 プラーク生成抑制作用
製造例1〜8で調製した下記試料1〜9、および陽性コントロールとして下記試料10〜12について、下記の方法に従ってプラーク生成抑制作用を評価した。また、対照(コントロール)として、試料無添加で同様にして試験してプラーク生成抑制作用を評価した。
【0077】
(1)試料
試料1:明日葉樹液
試料2:明日葉樹液の95容量%含水エタノール抽出物
試料3:明日葉樹液の水抽出物
試料4:明日葉根の95容量%含水エタノール抽出物
試料5:明日葉の葉の95容量%含水エタノール抽出物
試料6:明日葉茎の95容量%含水エタノール抽出物
試料7:明日葉花の95容量%含水エタノール抽出物
試料8:4−ハイドロキシデリシン(4-hydroxyderricin)
試料9:キサントアンゲロール(xanthoangelol)
試料10:チモール
試料11:塩化セチルピリジニウム
試料12:エピガロカテキンガレート
対照コントロール:試料無添加。
【0078】
(2)試験方法
ストレプトコッカス・ミュータンス(GTC218)をBHIブロス(Brain-Heart Infusion broth)液体培地で、37℃で48時間インキュベートし、これを1000倍希釈(約104個細胞/mL)して菌原液とした。無菌処理された試験管に2.4mLのBHI培地を入れ、これに0.45μmフィルターで濾過滅菌した各試料を最終濃度50または100μg/mLとなるように加え、さらに50μLの菌原液を混合し、最後スクロースを1%になるように加えて、37℃で48時間嫌気培養する。その後、培養液を静かに除去し、蒸留水とアセトンで洗浄後、真空乾燥し、ガラス平滑面付着したプラークの重量を測定する。
【0079】
各試料の添加によってプラークの生成の有無を示す結果を図1に示す。また上記で得られたプラークの重量から、下式によってプラーク生成抑制率(%)を求めた結果を図2(Aは試料50μg/mLの結果、Bは試料100μg/mLの結果)に示す。
【0080】
【数1】

【0081】
この結果から、明日葉の樹液、その95容量%含水エタノール抽出物、明日葉の根の95容量%含水エタノール抽出物は、塩化セチルピリジニウムに匹敵するほど優れたプラーク生成抑制作用を有することがわかった。なお、明日葉の樹液から含水エタノールで抽出して単離精製した4−ハイドロキシデリシンおよびキサントアンゲロールにも同様に強いプラーク生成抑制作用が認められたことから、上記明日葉のプラーク生成抑制作用の有効成分は、4−ハイドロキシデリシンまたはキサントアンゲロールであると考えられる。
【0082】
試験例2 う蝕菌(S.mutans)の増殖抑制作用
上記と同様に製造例1〜8で調製した試料1〜9、および陽性コントロールとして試料10〜12について、下記の方法に従ってう蝕菌の増殖抑制作用を評価した。対照(コントロール)として、試料無添加について同様に試験してう蝕菌の増殖抑制作用を評価した。
【0083】
(1)試験方法
ストレプトコッカス・ミュータンス(GTC218)をBHIブロス(Brain-Heart Infusion broth)液体培地で、37℃で48時間インキュベートし、これを1000倍希釈(約104個細胞/mL)して菌原液とした。無菌処理された試験管に4.9mLのBHI培地を入れ、これに0.45μmフィルターで濾過滅菌した各試料を最終濃度50、100、200μg/mLとなるように加え、さらに100μLの菌原液を混合して37℃で24時間嫌気培養する。その後、菌の増殖を600nmの濁度で測定する。得られた600nmの濁度から、下式によってう蝕菌増殖抑制率(%)を求めた結果を図3に示す。
【0084】
【数2】

【0085】
この結果から、明日葉の樹液、その95容量%含水エタノール抽出物、明日葉の根の95容量%含水エタノール抽出物、および明日葉の茎の95容量%含水エタノール抽出物は、塩化セチルピリジニウムやチモールに匹敵するほど優れた抗う蝕菌作用(う蝕細菌の増殖抑制作用)を有することがわかった。なお、明日葉の樹液から含水エタノールで抽出して単離精製した4−ハイドロキシデリシンおよびキサントアンゲロールにも同様に強い抗う蝕菌作用(う蝕細菌の増殖抑制作用)が認められ、一方、明日葉の水可溶物にはその作用が認められなかったことから、上記明日葉の抗う蝕菌作用(う蝕細菌の増殖抑制作用)の有効成分は、4−ハイドロキシデリシンまたはキサントアンゲロールであると考えられる。
【0086】
試験例3 う蝕細菌(S.mutans)の最小発育阻止濃度
上記と同様に製造例1〜8で調製した試料1〜9、および陽性コントロールとして試料10〜12について、下記に示すペーパーディスク法に従ってう蝕菌の最小発育阻止濃度を測定した。対照(コントロール)として、試料無添加で同様に試験してう蝕菌の最小発育阻止濃度を求めた。
【0087】
(1)試験方法
ストレプトコッカス・ミュータンス(GTC218)をBHIブロス(Brain-Heart Infusion broth)液体培地(マイクロバイオ)にて前培養し、この前培養液400μLをBHI寒天培地(栄研化学)に塗布した。これに0.45μmフィルターで濾過滅菌した各試料(最終濃度25、50、100、200μg/mL)を50μL含浸させたペーパーディスク(ADVANTEC TOYO PAPERDISK Thick, 直径8mm)を寒天培地の表面に静置して、チモール、塩化セチルピリジウム(CPC)、エピガロカテキンガレート(EGCG)を対照薬剤として、う蝕細菌(S.mutans)については嫌気的に37℃で3日間培養した。ペーパーディスク周辺の生育阻止円から、抗菌活性を評価した。
【0088】
結果を表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
〔配合例1〕
下記の原料を歯磨き製造の常法により処理して、口腔用組成物の一種である歯磨きを製造した。
明日葉樹液濃縮物(製造例1) 0.1 (g)
炭酸カルシウム 35.0
ソルビトール 20.0
カルボキシメチルセルロース 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
サッカリン 0.1
香料 1.0
アラントイン 0.01
グリチルリチン酸ジカリウム 0.01
精製水 残部(全量を100gとする)。
【0091】
〔配合例1〕
下記の原料を口中清涼剤製造の常法により処理して、口腔用組成物の一種である口中清涼剤を製造した。
明日葉樹液抽出物(製造例2) 0.05 (g)
l−メントール 0.1
ハッカ油 0.1
ポリグリセリン脂肪酸エステル 4.0
エタノール 45.0
サッカリンナトリウム 0.01
pH調整剤 適 量
精製水 残部(全量を100gとする)。
【0092】
〔配合例3〕
下記の原料を使用して、常法に従ってキャンディーを製造した。
明日葉樹液濃縮物(製造例1) 0.05 (g)
グラニュー糖 45.0
酵素糖化水飴 43.0
サイクロデキストリン 0.6
香料 0.1
アズレン 0.1
水 残部(全量を100gとする)。
【0093】
〔配合例4〕
下記の原料を使用して、常法に従ってチューインガムを製造した。
明日葉樹液濃縮物(製造例1) 0.5(g)
チューインガムベース 24.0
グラニュー糖 55.3
水飴 15.0
軟化剤 5.0
クロロフィル 0.1
香料 0.1
合 計 100.0g。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】試験例1におけるプラーク生成の有無の結果を示す画像である。左から、1:対照コントロール(試料無添加)、2:試料1(明日葉樹液)、3:試料2(明日葉樹液の95容量%含水エタノール抽出物)、4:試料3(明日葉樹液の水抽出物)、5:試料4(明日葉根の95容量%含水エタノール抽出物)、6:試料5(明日葉の葉の95容量%含水エタノール抽出物)、7:試料6(明日葉茎の95容量%含水エタノール抽出物)、8:試料7(明日葉花の95容量%含水エタノール抽出物)、9:試料8(4−ハイドロキシデリシン)、10:試料9(キサントアンゲロール)、11:試料10(チモール)、12:試料11(塩化セチルピリジニウム)、13:試料12(エピガロカテキンガレート)の結果を示す。
【図2】試験例1においてプラーク生成抑制率(%)を求めた結果を示す。
【図3】試験例2においてう蝕菌増殖抑制率(%)を求めた結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子または低級アルキル基、nは1または2を示す。)
で示される化合物またはその塩を有効成分として含有するプラーク形成抑制剤。
【請求項2】
化合物(1)またはその塩を含有する植物成分またはその加工物を含有する請求項1記載のプラーク形成抑制剤。
【請求項3】
植物成分またはその加工物が、明日葉の根,茎および樹液の溶媒抽出物、明日葉樹液、ならびに明日葉樹液の濃縮物からなる群から選択されるいずれかである、請求項2に記載するプラーク形成抑制剤。
【請求項4】
一般式(1)
【化2】

(式中、Rは水素原子または低級アルキル基、nは1または2を示す。)
で示される化合物またはその塩を有効成分として含有する、抗う蝕菌剤。
【請求項5】
化合物(1)またはその塩を含有する植物成分またはその加工物を含有する請求項4に記載する、抗う蝕菌剤。
【請求項6】
植物成分またはその加工物が、明日葉の根,茎および樹液の溶媒抽出物、明日葉樹液、ならびに明日葉樹液の濃縮物からなる群から選択されるいずれかである、請求項5に記載する抗う蝕菌剤。
【請求項7】
請求項1〜3に記載するプラーク形成抑制剤ならびに請求項4〜6に記載する抗う蝕菌剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを、う蝕または口腔疾患の予防の有効成分として含有することを特徴とする口腔用組成物。
【請求項8】
請求項1〜3に記載するプラーク形成抑制剤ならびに請求項4〜6に記載する抗う蝕菌剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを、う蝕または口腔疾患を予防するための口腔用組成物を製造するために使用する方法。
【請求項9】
請求項1〜3に記載するプラーク形成抑制剤ならびに請求項4〜6に記載する抗う蝕菌剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを、う蝕または口腔疾患の予防の有効成分として含有することを特徴とする飲食物。
【請求項10】
請求項1〜3に記載するプラーク形成抑制剤ならびに請求項4〜6に記載する抗う蝕菌剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを、う蝕または口腔疾患を予防するための飲食物を製造するために使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−320926(P2007−320926A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154514(P2006−154514)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】