説明

プリオシダル活性のためのインビトロモデル

【課題】プリオシダル活性の評価についての新たなかつ改良した方法を提供する。
【解決手段】プリオンまたはプリオン関連疾患に対する活性の潜在的な処理を評価する方法であって、この方法は、以下:この処理にプリオンモデルを供する工程であって、このプリオンモデルは、プリオンを攻撃するように設計された処理に対して、プリオンの応答と類似した応答を示すことが示されているモデルである、工程:およびプリオンまたはプリオン関連疾患の処理効果の指標として、このプリオンモデルにおけるこの処理効果を評価する工程、により特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、感染症の分野に関連する。本発明は、様々な処理に対するプリオン(タンパク性感染因子)の応答を評価する方法として特別な適用を見出し、そして本明細書に対する特定の参照と共に記述される。しかしながら、本発明がまた、他のプリオン活性の研究にも適用可能であることが、理解されるべきである。
【背景技術】
【0002】
用語「プリオン」は、ヒトおよび/または動物において比較的類似の脳疾患(これらの脳疾患は常に致命的である)を引き起こすタンパク質性感染因子を記載するために用いられる。これらの疾患は、一般的に伝達性海綿状脳症(TSE)と呼ばれる。TSEは、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)および変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)、ウシのウシ海綿状脳症(BSE)(「狂牛病]としても知られる)、ヒツジのスクレーピー、およびヘラジカの慢性消耗症が挙げられる。これら全ての疾患は、動物の神経器官または特定の疾患に対して感受性である動物を攻撃する。これらの疾患は、初期の長い潜伏時間とそれに続く短期間の神経症状(痴呆および協調運動障害を含む)、および最終的には死によって特徴付けられる。
【0003】
これらの疾患の原因である感染因子は、核酸とは関連のない、単純タンパク質であると考えられている。このようなプリオン疾患の病原体の構造は、初期の正常な宿主コードタンパク質を含むと提唱されている。タンパク質は、自己増殖能を有する異常型(プリオン)への構造変化を起こす。この変化の正確な理由は、現在のところ不明である。異常型タンパク質は体内で効率的に分解されず、特定の組織(特に神経組織)内の異常型タンパク質の蓄積は、最終的に細胞死のような組織の損傷を引き起こす。一度深刻な神経組織損傷が生じると、臨床的兆候が観察される。
【0004】
従って、プリオン疾患は、いくつかの他の致命的な疾患(例えば、アルツハイマー病およびアミロイド症)も含むタンパク質凝集疾患として分類され得る。ヒトで最も流行しているプリオン疾患である(1,000,000の人口に対して約1で発症)CJDの場合、症例の約85%が散発的に生じたと考えられ、約10%が遺伝的であると考えられ、そして約5%が医原性に生じる。
【0005】
現在、動物またはヒトにおける、プリオン疾患に対する既知の有効な処理はなく、従って、死は、神経症状の発症に続いて起こる。インビトロにおいて試験を行うことができないため、標的処理薬物の同定における進歩は遅い。現在のところ、研究室で、培地中でプリオンを培養する方法は開発されなかった。インビボ研究は、試験動物にプリオンを接種する工程、および計画した処理体制に対する動物の反応を検査する工程を包含する。疾患の進行が遅いため、これらのインビボ研究は必然的に長期に渡り、従って多くの潜在性薬物のスクリーニングに容易に従わない。インビボマウスモデルまたはインビボハムスターモデルは、プリオンに対してより感受性になるよう操作されており、一般的には評価のために用いられる。加えて、これらの疾患が動物特異的な傾向があるため、動物で行われた試験がヒトに容易に適用され得るか否か分からない。
【0006】
いくつかの調査グループが、薬物評価のための酵母プリオンモデルを使用することを示唆しており、プリオン折りたたみを研究するためのインビトロモデルの報告がいくつかある。しかしながら、これらの提唱されたモデルのふるまいとプリオン活性との間の関連を確立する研究はない。
【0007】
1980年代初め、新しい複製薬剤がヒトの腸管より単離された(非特許文献1および非特許文献2)。この薬剤は、クローン病を有する二人の患者の回腸造瘻術流動体(0.2μフィルターを通して濾過された)から単離され、そしてインビトロで培養することができた。この薬剤は、回腸流動体依存性生物(Ileal Fluid Dependent Organism)(IFDO)という名を与えられたが、他の培地中(例えば、パンクレアチンの存在下)で生き残ることがその後、見出されている。分離した褐色コロニーは、特異的な、選択培養培地上で観察された。この薬剤の検査において、この薬剤は天然のウイルス、細菌または真菌であるとは明らかではなかったが、対数的に増殖し、様々な抗生物質ならびに物理的因子および化学的因子に対して異常な抵抗性を有していることは明らかであった。またこの薬剤は、湿式加熱に対しても高い抵抗性を有することが見出されている。この薬剤は、以前はプリオンと直接結び付けられもプリオン調査に使用されもしなかった。
【0008】
プリオン疾患は、一般的に高い伝染性であると考えられていないが、ある種において、および、特定の条件下で、ある種から別の種へ伝染し得る。プリオン疾患が、危険性の高い組織(脳、脊髄、および眼を含む)を通じて伝染され得ることが近年明らかにされた。硬膜移植、角膜移植、心膜同種移植、ヒト性腺刺激ホルモン、およびヒト成長ホルモンの汚染を通じた伝染を含む、医原性伝染もまた報告されている。神経外科的器具、深部電極、および中枢神経系に密接しての外科手術の間に使用される他のデバイスの再利用を通じた伝染も含む、医療デバイスを通じた伝染もまた報告されている。
【0009】
プリオンの破壊のための従来の汚染除去方法および滅菌方法の効果について、現在多くの推測がある。プリオンは、周知のことだが非常に強く、日常的な汚染除去方法および滅菌方法に対して抵抗性を示す。いくつかの推奨される方法としては、焼却、長期の蒸気高圧滅菌、高濃度での水酸化ナトリウムおよび次亜塩素酸ナトリウム処理(例えば、2%の有効なClにおいて1M NaOHまたは1M NaHClOナトリウムで1時間)が挙げられる。これらの攻撃的な処理は、しばしば医療デバイス(特に可撓性内視鏡およびプラスチック、真鍮、またはアルミニウムの部品を有する他のデバイス)に適合しない。多くのデバイスが、高温にさらすことで損傷を受ける。強アルカリのような、化学的処理は、一般に医療デバイスの材料または表面に損傷を与える。グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、過酸化水素、大部分のフェノール類、アルコール、並びに例えば乾熱、煮沸、凍結、UV、電離放射線およびマイクロ波放射といった処理が一般的に効果がないと報告されている。プリオンに対して効果的であるが表面に適合する製品および処理に対して明らかな必要性が存在する。
【0010】
プリオンに対して効果的になるために研究され、そしてプリオンに対して効果的であることが示されている、一つのあまり攻撃的ではない処理は、STERIS Corporation、Mentor、Ohioにより、商品名STERIS 20TMとして処方される過酢酸処方物である。この処方物は、室温を越えた温度で、無菌処理のために希釈して使用するよう調整された緩衝液、防食剤、界面活性剤、およびキレート剤の混合物の中に過酢酸を含んでいる。
【0011】
しかしながら、現在、抗プリオン(「プリオシダル(priocidal)」)処理を評価する容易な方法はない。提唱されたプリオシダル処理後、プリオンを扱ったデバイスの培養は、動物にデバイスからの洗浄液を接種し、プリオシダル処理が効果がない場合、疾患の発症を観察することを含む。これは、デバイス上に残っているプリオンの数が比較的小規模であり得るため、長期の過程となり、誤る傾向にある。加えて、プリオシダル処理によって破壊されなかったプリオンが、研究者に対し事故を引き起こし得る危険がある。
【0012】
従って、プリオン疾患を有していると同定された患者の適切な治療という点で医療関係者間の増加した懸念がある。感染した患者の死より前の病状決定の失敗により、器具などの再利用を通じて、この疾患が伝染し得るという懸念もある。加えて、高い危険性、中間の危険性、または低い危険性の組織に関連する危険性はまだ確立されていない。例えば、扁桃摘出術および歯科処理はプリオン感染の可能性に対し危険の低い手段であると考えられている。しかしながら、現在の証拠は、プリオン感染組織が脳の外側に見出されているという知見に起因して、危険性が高まり得ることを示唆している。また、プリオン関連疾患と類似の疾患状態(例えば、パーキンソン病およびアルツハイマー病)との間に関係があり得ることも示唆される。
【非特許文献1】Burdon、J.Med.Micro.、1989年、第29巻、p.145〜157
【非特許文献2】Burdon、The Lancet、1999年4月10日、第353巻
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、プリオシダル活性の評価についての新たなかつ改良した方法を提供し、この方法は上記で言及した問題などを克服する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
(項目1) プリオンまたはプリオン関連疾患に対する活性の潜在的な処理を評価する方法であって、該方法は、以下:
該処理にプリオンモデルを供する工程であって、該プリオンモデルは、プリオンを攻撃するように設計された処理に対して、プリオンの応答と類似した応答を示すことが示されているモデルである、工程:および
プリオンまたはプリオン関連疾患の処理効果の指標として、該プリオンモデルにおける該処理効果を評価する、工程、
により特徴付けられる、方法。
(項目2) 前記プリオンモデルが、回腸流動体依存性生物(IFDO)を含むことによってさらに特徴付けられる、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記処理が、汚染除去プロセスを含むことによってさらに特徴付けられる、項目1および項目2のいずれか一項に記載の方法。
(項目4) 前記処理が、50〜58℃の温度での、過酢酸溶液によるプリオンモデルの処理を含むことでさらに特徴付けられる、項目1〜3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5) 項目3および4のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
血管中に含まれるプリオンモデルであって、該血管は、経路を含み、該経路によって汚染除去剤が該プリオンモデルと接触し、該経路は、該汚染除去剤のアクセスに対するチャレンジを提供し、該チャレンジは、該汚染除去剤によって汚染除去されるデバイスによって与えられるのと少なくとも同じくらいのチャレンジである、プリオンモデル
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目6) 前記処理が、微生物を粉砕する際に有効であることが知られているプロセスに、プリオンモデルを供することを包含することによりさらに特徴付けられる、項目1〜5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7) 前記プロセスが、過酸化水素および過酸からなる群のうち、少なくとも一つと前記プリオンモデルとを接触させることを包含することにより、さらに特徴付けられる、項目5および6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8) 前記処理が、プリオンモデルで汚染された医療用デバイスまたは薬学的デバイスを、ナイシン、マンガン、および硝酸銀のうち少なくとも一つを含む組成物で処理することを包含することによりさらに特徴付けられる、項目1〜7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9) 前記プリオンモデルが基質に塗布されており、そして前記処理が以下:
該基質を、タンパク質除去する洗浄組成物で洗浄する、工程:および、
該洗浄された基質を酸化剤と接触させる、工程、
を包含することによりさらに特徴付けられる、項目1〜8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10) 前記評価する工程が、以下:
増殖培地中で残存のプリオンモデルを培養する工程;および
プリオンモデルの増殖を検出する、工程、
を包含することによりさらに特徴付けられる、項目1〜9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11) 前記検出する工程が、培養されたプリオンモデルを、タンパク質を検出する手段に供することを含むことにより、さらに特徴付けられる、項目10に記載の方法。
(項目12) プリオンによって汚染され得るアイテムを処理する方法であって、該方法は、該アイテム上で生存可能なプリオンのレベルを減らすために、ナイシン、マンガン、および硝酸銀のうち少なくとも一つを含む組成物で該アイテムを処理する工程により特徴付けられる、方法。
(項目13) 前記アイテムが、動物の消費または人間の消費用の食品を含むことにより、さらに特徴付けられる、項目12に記載の方法。
(項目14) 前記アイテムが、医療用デバイスまたは歯科用デバイスを含むことにより、さらに特徴付けられる、項目12に記載の方法。
(項目15) 前記組成物が、IFDOを攻撃する際有効であることが見出されている組成物により、さらに特徴付けられる、項目12〜14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16) プリオン関連疾患に対する活性用に提唱された薬物またはプリオシダル活性用に提唱された処理方法または化学物質をスクリーニングする方法であって、該方法は、以下:
プリオンモデルを、提唱された薬物、化学物質またはプロセスにさらす、工程;および
インビトロで任意の残存プリオンモデルを培養する工程であって、該プリオンモデルは、薬物、化学物質、またはプロセスに対してプリオンと類似した応答を示すことが示されている、工程
によって特徴付けられる、方法。
(項目17) 前記培養する工程が、以下:
ヘモグロビンを含む培地中で前記残存プリオンモデルを増殖させること、および、
残存するプリオンモデルの量の指標として該培地の色の変化を観察すること、
を包含することによりさらに特徴付けられる、項目16に記載の方法。
(項目18) 前記培養されたプリオンモデルを、タンパク質を検出する手段に供する工程により、さらに特徴付けられる、項目16および項目17のいずれか一項に記載の方法。
(項目19) 前記手順がタンパク質フラグメントを検出することにより、さらに特徴付けられる、項目18に記載の方法。
(項目20) プリオンに汚染された対象物またはプリオン関連疾患を有する対象物を処理する方法であって、該方法は、以下:
IFDOに汚染されたサンプルを、提唱された処理剤で処理する工程であって、該IFDOは、プリオンに対すると類似の様式で、他の処理剤に対して応答することが示されている、工程:および
該処理剤がIFDOを攻撃する際に効果がある場合、該対象物を、有効量の処理剤で処理する、工程
により特徴付けられる、方法。
【0015】
本発明の一つの局面に従って、プリオンまたはプリオン関連疾患に対する活性の潜在的な処理を評価する方法が提供される。この方法は、処理にプリオンモデルを供する工程(このプリオンモデルは、プリオンを攻撃するように設計された処理に対するプリオンの応答と類似した応答を示すことが示されている)、およびこのプリオンまたはプリオン関連疾患の処理効果の指標として、このプリオンモデルにおける処理効果を評価する工程を包含する。
【0016】
本発明の別の局面に従って、プリオンに汚染され得るアイテムを処理する方法が提供される。この方法は、このアイテム上の生存可能なプリオンのレベルを減少させるために、ナイシン、マンガン、硝酸銀のうちの少なくとも一つを含む組成物でこのアイテムを処理する工程を包含する。
【0017】
本発明の別の局面に従って、プリオン関連疾患に対する活性に対して提唱された薬物あるいはプリオシダル活性に対して提唱された処理プロセスまたは化学物質のスクリーニング方法が提供される。この方法は、プリオンモデルを、提唱された薬物、化学物質、またはプロセスに曝露する工程、およびインビトロにおいて任意の残存プリオンを培養する工程を包含する。このプリオンモデルは、薬物、化学物質、またはプロセスに対して、プリオンと類似した応答を示すことが示されている。
【0018】
本発明の別の局面に従って、プリオンに汚染されたかまたはプリオン関連疾患を有する対象物の処理方法が提供される。この方法は、提唱された処理剤で、IFDOに汚染されたサンプルを処理する工程を包含する。このIFDOは、プリオンと類似の様式で他の処理剤に対し応答を示す。処理剤がIFDOに対する攻撃に有効な場合、有効量の処理剤により対象物を処理する。
【0019】
本発明の一つの利点は、提唱されたプリオン疾患の処理、薬品、およびプリオシダル薬剤が、大規模なインビボ研究の必要性なしにインビトロでスクリーニングされ得ることである。
【0020】
本発明の別の利点は、提唱されたプリオン疾患処理およびプリオシダル薬剤が迅速に評価され得ることである。
【0021】
本発明の別の利点は、プリオンに汚染された器具、硬表面、および食品が使用のために安全にされることである。
【0022】
本発明のなおさらなる利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明を読み理解することによって、当業者に明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本明細書中で「試験タンパク質」または「プリオンモデル」と呼ばれる異常なタンパク性実体は、プリオン活性と関連することが見出されており、従ってシミュレートされたプリオンモデルとして有用である。プリオンモデルは、プリオン阻害/不活性化の指標として開発され、インビトロおよびインビボにおいてプリオン不活性化との関連が示された。
【0024】
好ましい試験タンパク質は、D.W.Burdon、Department of Microbiology、Queen Elizabeth Hospital、Birmingham、Englandにより最初に単離された。それは、クローン病に罹患している患者の回腸流動体から最初に抽出され、天然状態ではタンパク性である。それは、鉄と結合するようであり、RNA構成成分を有し得る。100倍での顕微鏡検査は、プリオンモデルが均一の大きさまたは形のない多形粒子を含むことを示している。本発明者らは、この薬剤が血液サンプルおよび血清サンプルに存在することを実質的に示した。
【0025】
しかしながら、他の類似したタンパク質(破壊的な処理に対して、本試験モデルと同じあるいは類似した抵抗性を示す)は、プリオンモデルとして代わりに使用され得る。
【0026】
この試験タンパク質は、寒天ベース培地または液体培地のような人工培地中で、容易に培養される。それは、培地中で使用され得るか、または水もしくは他の流体中で懸濁され得る。このタンパク質は、溶解した赤血球が存在する場合、効果的に増殖すると考えられ、従って培地は、ヒトもしくは他の動物由来の赤血球、またはそれらの抽出物(例えば、ヘモグロビン)を含むことが好ましい。プリオンモデルは、血液サンプルのかなり高い割合において見出されるので、インビトロの任意の競合反応およびインビボで培養された後のサンプルの汚染を防ぐため、血液は、増殖培地中で使用する前にスクリーニングされることが好ましい。
【0027】
ごくわずかな活性が、培養培地中のプリオンモデルの増殖を阻害する際に、有効であるとデータに対して示される。有効性を有すると見出されたもののうち多くが、vCJDを含むプリオンに対するいくつかの活性を有することが以前に示され、このことは、モデルと実際のプリオン活性との相関を示している。これらの有効な活性は、水酸化ナトリウム(約1M NaOH)およびSTERIS Corporation、Mentor、Ohioにより商品名LpHTMとして販売されているフェノールベースの処方物を含む。過酢酸ベースの処方物である、STERIS 20TMは、プリオンに対して活性を有することが以前に見出されており、そして現在プリオンモデルに対して活性を有することが見出されている。プリオンモデルを使用して現在同定された、測定可能な活性を有する他の活性物質として、ナイシン、硫酸ネオマイシン、硝酸銀、およびマンガンが挙げられる。
【0028】
様々な処理に対するプリオンの反応と本試験タンパク質の対応する反応との間に見出される強い相関のために、試験タンパク質は、プリオンおよびプリオン疾患に対する潜在的な効果について、多数の可能性のある薬剤、プリオシダル薬剤、プロセスなど(すべて一般的に「処理」として称される)をスクリーニングするためのモデルとしてインビトロで使用され得る。プリオンモデルを使用したインビトロ研究で有効であると示された処理は、次にインビボ試験(例えば、プリオンを動物に接種し、その動物を処理レジメン(例えば、プリオン疾患の処理のために提唱された薬物の場合)を供することによるか、または選択された処理(例えば、医療器具における使用のために提唱されたプリオシダル薬剤)にプリオンサンプルをさらし、次いでプリオンが選択された処理により破壊されたか否かを決定するため、さらしたサンプルをインビボで培養することによる)に進み得る。
【0029】
プリオンモデルを使用することによって、従来の抗微生物処理(例えば、過酢酸、水蒸気、または過酸化水素蒸気)は、プリオンに対するそれらの有効性について評価され得る。従来の抗微生物処理に対する改変は、抗微生物処理を至適化するという観点で成され得るので、プリオンを破壊するかまたはそうでなければ不活性化し、そしてまた、典型的にはこのようなプロセスによって破壊される他の微生物を破壊するかまたはそうでなければ不活性化する。改変されたプロセスは次いで、プリオンおよび微生物の両方で汚染されたデバイスを処理するため使用され得る。新たな活性、特にプリオンの処理のために設計された活性もまた、評価され得る。
【0030】
プリオンモデルの別の使用は、一般的にプリオンに汚染され得る動物産物を含む、食品に対する処理の開発のためである。このような製品としては、例えば、生肉、挽き肉、またはを細切れ肉を含む未加工の肉、および例えば、ソ−セージ、ハム、食肉加工品等の調理された肉製品が挙げられる。プリオンモデルを用いることで、様々な処理が確認された。従って、動物またはヒト消費の、プリオンに汚染され得る食品の処理方法が、開発された。その方法としては、食品をナイシン、マンガン、および硝酸銀のうち少なくとも1つを効果的な濃度で含む組成物で、食品上のプリオンレベルを減少させるまたはプリオンの存在を不活化するのに十分な時間処理することが挙げられる。動物の供給原料として使用されるために与えられるかそうでなければ調製された動物産物はまた、与えられる前もしくは後いずれかにその組成物により処理され得る。
【0031】
別の実施形態において、プリオンに汚染され得るアイテム、例えば医療用器具または歯科用器具の処理方法が開発されている。その方法は、アイテム上のプリオンレベルを減少させるために、ナイシン、マンガン、および硝酸銀のうちの少なくとも1つを含む組成物で、そのアイテムを処理する工程を包含する。組成物中の活性物質の濃度および処理の長さは、活性の型および求められる減少の程度に依存する。処理は、プリオンを減少することが知られている他の処理(例えば、蒸気高圧滅菌処理および/または水酸化ナトリウム処理もしくは次亜塩素酸ナトリウム処理)と組み合わされ得る。
【0032】
食品処理または器具処理用の組成物は、乾燥組成物および非水性組成物もまた企図されているが、好ましくは液体形態、例えば、活性物質の水溶液である。処理は、例えば処理溶液中での処理されるアイテムの液浸、噴霧するかもしくはそうでなければアイテムを溶液と接触させること、または活性物質を含む蒸気にアイテムをさらす方法が含まれる。
【0033】
プリオンモデルを用いて開発された別の処理方法は、プリオンに汚染されたアイテムを酸化剤ベースガスプロセシングまたは液体状プロセシングで処理することである。例として、過酢酸ベース溶液が使用される。この方法は、特に脳に使用されたまたは手術に関係した医療用器具および歯科用器具等の処理に有用である。温度は、プリオシダル活性に有意な影響を有することが見出されている。過酢酸溶液は、好ましくは45〜60℃の温度、より好ましくは。53〜57℃である。より高い温度における活性の減少は、タンパク質の凝集に起因し得、このことがプリオンを過酢酸に近づきにくくすることが仮定されている。この温度範囲はまた、他の汚染物(例えば微生物)の駆除にも有効である。これは、同じプロセスが滅菌とプリオンの減少または除去の両方に使用されることを可能にする。過酢酸溶液は、好ましくは緩衝液、界面活性剤、キレート剤を含み、そして器具または処理システムへの損傷を減少させる防食剤もまた含み得る。界面活性剤は、プリオンモデルタンパク質の高次構造に作用し得、過酢酸をより効果的にすることを可能にし得るため、処方物において特に重要であると考えられる。少なくとも2000ppmの過酢酸濃度は、迅速なプリオン処理に好ましく、より好ましくは、約2500ppmである。2000から2500ppmの範囲の濃度の過酢酸は、タンパク質を不活性の形態(小さなペプチドまたはアミノ酸)に分解すると見出されている。より低い温度および濃度は、一般的にほとんど効果がない。より高い温度は、温度感受性デバイスに損害を与え得、また過酢酸の半減期を減少させ得る。
【0034】
過酢酸処理は、従来的な、積極的なプリオン処理、例えば水蒸気/NaOH処理の代わりに使用され得る。または、過酢酸処理は、他の処理と組み合わせて使用され得る。一つの提唱された処理レジメンは、以下の工程を含む:
1 タンパク性の物質(特にプリオン)の除去に有効であると見出されている洗浄剤で器具を洗浄する、工程;
2 水蒸気での加熱処理または高温(例えば、180℃)の熱リンス(必要に応じて、または工程3の後で行われ得る)の工程;
3 滅菌処理(例えば、2000ppm、またはそれ以上の過酢酸処方法を用いて、55〜57℃の温度で10〜30分間)の工程。
【0035】
洗浄剤は、好ましくはアルカリ性洗浄剤または酵素性洗浄剤である。プリオンモデルを用いた試験は、洗浄製品のアルカリ度により処理プロセスの有効性が増加することを示している。高アルカリ製品(例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムベースの製品(例えば、CIPTM100(STERIS Corp.、Mentor、OHより得た)))は、特に効果的であると見出されている。「高アルカリ」といわれているが、これらの製品は、現在プリオン処理として薦められている1N NaOHよりも非常に低いアルカリ濃度(2 oz/galのCIPTM100は0.07M KOHを含む)を有している。従って、約0.02M〜約0.1Mのアルカリ濃度で洗浄され次に過酢酸処理されたアルカリ性洗浄製品の組み合わせは、1N NaOHを用いる処理に代わって効果的であり、医療器具または処理される他のアイテムに損傷をほとんど与えない。
【0036】
別の実施形態において、プリオン関連疾患に対する活性について提唱された薬物またはプリオシダル活性について提唱された処理プロセスもしくは化学物質をスクリーニングする方法が、開発された。この方法は、プリオンモデルを提唱された薬物、化学物質、またはプロセスにさらす工程、およびインビトロで任意の残存プリオンモデルを培養する工程を包含する。プリオンモデルは、プリオンの、他の活性物資およびプロセスに対する反応と類似した反応を示すことが示されている。
【0037】
別の実施形態において、提唱された処理、薬物、またはプリオンに対する他の活性物質の効果を評価する方法は、プリオンモデルを、提唱された処理、薬物、および他の活性物質にさらす工程を包含する。さらした後、プリオンモデル(または、どんな生存可能な残存物でも)は適切な増殖培地中で増殖される。
【0038】
例えば、処理プロセス(例えば、滅菌プロセスのような)の場合、クーポンまたは器具はプリオンモデルにより汚染され、滅菌処理または洗浄処理にさらされる。塗布、サンプリング、または抽出は、処理後に行われ、増殖培地内に置かれる。プリオンモデルの増殖が観察される場合、その滅菌処理または洗浄処理は、プリオンの破壊または除去に十分に効果的ではない。
【0039】
潜在的活性物質の評価の場合、薬物または他の活性物質の溶液が、プリオンモデルと混合される。選択された露出時間後、溶液のアリコートが取られ、増殖培地中で培養される。培養する前に、アリコートを、試験用薬物または他の活性物質を不活性化するための適切な中和剤を用いて中和することが好ましい。薬剤または活性物質がプリオンモデルに対して効果を提供する場合、対象物(例えば、汚染された表面またはプリオン関連疾患にかかったヒトもしくは動物)を処理するために有効な量で使用され得る。
【0040】
一つの実施形態において、増殖培地上の効果は残存プリオンモデル(および今後、推測により、プリオンの)活性の指標として使用される。増殖培地は、好ましくは純粋かもしくは比較的純粋な形態のいずれかでヘモグロビンを含むか、または他の血液関連産物と混合される。例えば、増殖培地は、溶解した全血または溶解した赤血球を含み得る。任意のプリオンモデルが、処理プロセスまたは選択された活性物質の露出を生き残った場合、増殖培地のヘモグロビン含有量は、プリオンモデルの「増殖」につれて減少する。このことは、培地の深紅色の減少、または他の検出技術(例えば、化学的分析、比色分析、分光分析等)によって観察され得る。培地が固形培地(例えば、寒天ゲル)の場合、色の変化は、長時間のサイズが増加する、プリオンモデルの周りのリングとして観察され得る。従って、モデルの破壊/不活性化は、培養プロセス開始後の特定の時間におけるヘモグロビンリングの大きさという点で測定され得る。あるいは、液体培地のように、培地の色の変化は、プリオンモデル残存量の指標として使用され得る。
【0041】
提唱された処理プロセス(例えば、酸化剤ベースのプロセス(例えば、過酸化水素あるいは過酢酸単独または液体もしくは蒸気形態の組み合わせの過酢酸を使用するプロセス)の、医療用器具または他のデバイス上のプリオンを破壊するために使用する過酢酸について試験するための一つの実施形態において、プリオンモデルは、選択された、通常殺すことが比較的困難な微生物に対する活性の滅菌プロセスまたは消毒プロセスを試験するために従来使用される型の生物学的指示器に含まれる。他の公知の生物学的指示器デザインは、代替的に使用され得るが、一つのこのような指示器が図1に例示されている。この指示器は、プリオンモデルのサンプル12を含む容器10に備える。このサンプル12は、処理プロセスの間容器から容易に洗浄または除去されないように、容器内に含まれることが好ましい。汚染の正確な様式は、処理プロセスの型に依存する。過酢酸のような液体滅菌剤の場合、プリオンモデルは、液体滅菌剤に対して浸透性であるタンパク質不浸透性障壁内に含まれる。例えば、過酸化水素蒸気または過酢酸蒸気のようなガス状の滅菌剤に対し、プリオンモデルは、コンテナ壁の内部表面14上に単に堆積され得るか、またはキャリヤ16(例えば、紙、ステンレス鋼、またはポリフレックス(polyflex)のディスク)上に支持される。適切な増殖培地は、指示器を、提唱された処理プロセスに供する直前に指示器に添加され得る。より好ましくは、このプリオンモデルは、試験後に適切な増殖培地と混合される。一つの実施形態において、増殖培地18は、容器内の貫通部分または壊れやすいアンプル20に含まれ、次いで処理プロセスからの指示器の除去後、プリオンモデルと混合される。増殖培地とプリオンモデルを混合する一つの方法は、アンプルを壊すかまたは図1(ここでは、滅菌剤は、開口部26を通って容器にアクセスする)に示される開口位置から図2(ここではキャップは容器を密封し、流体の出入りが妨げられる)に示される閉鎖位置へのキャップ24の移動により壁22部分を貫通することである。図1および図2の実施形態において、キャップは、壁22を貫く突起28を有する。残存プリオンモデルの増殖は、例えば、培地の色の変化または培地の物理的もしくは化学的特性の他の検出可能な変化によって、観察される。色の変化は、例えば、プリオンモデルの生成(黒っぽく見える)、培地のヘモグロビン含量の減少のためであり得るか、またはプリオンモデルと培地内に存在する化学的指標との間の相互作用の結果であり得る。観察された色の変化は、提唱された処理プロセスが、プリオン汚染デバイスまたは他のアイテムの処理プロセスとして有効ではないことを示している。
【0042】
一つの実施形態において、指示器は、プリオンモデルのサンプルと研究における処理プロセスの型に高い抵抗性を有すると公知である微生物のサンプルの両方を含む。指示器を提唱した処理プロセスに供した後、その指示器は、残存プリオンおよび/または残存微生物について評価される。従って、プリオンおよび微生物の両方に対して有効な処理プロセスが、開発され得るかまたは至適化され得る。
(増殖培地)
適切な増殖培地が、プリオンモデルの培養のために開発された。増殖培地は、寒天またはブロスベース(broth base)、例えばOxoidから入手されるMycoplasmaTM寒天またはブロスベースを含む。ヘモグロビンの供給源、例えば洗浄および溶解したヒトまたは他の動物由来の赤血球もまた存在する。上で議論したように、赤血球は、使用前にプリオンが増殖培地中に存在しないことを確認するため、好ましくは試験される。培地はまた、プロテアーゼの供給源も好ましくは含む。プロテアーゼの供給源は、単離されたプロテアーゼ、他の酵素(例えば、リパーゼ)も含み得る酵素抽出物、または粉砕動物組織(例えば、膵臓組織をホモジェナイズすることで得られるパンクレアチン)であり得る。Tween 80のような分散剤が、好ましくは存在する。酢酸タリウムは、培地汚染を少なくするための任意の成分である。これらの成分は、水(好ましくは蒸留したあるいは他の精製水)とブレンドされる。
【0043】
以下の例示的な増殖培地は、試験タンパク質と共に使用するために開発された:
蒸留水 1000mL
寒天またはブロスベース
(例えば、Oxoid MycoplasmaTM) 10〜100g
分散剤(例えば、Tween 80) 0〜5mL
洗浄および溶解したウマ赤血球 10〜40mL
ウマ血清 0〜10mL
0.1g/mLパンクレアチン 10〜40mL
2%酢酸タリウム 2〜20mL
プリオンモデルの(例えば、提唱された処理プロセス後の)「生存度」を試験するため、プリオンモデルを含む培養物または希釈物のアリコートは、既知量の上記培養培地に接種され、そして約37℃で約48〜72時間インキュベートされる。試験タンパク質は、液体培地中に黒い沈殿物としてまたは培養培地プレートの表面下で個々の「コロニー」として「増殖」する。プリオンモデルは、従来理解されていたような生物ではないが、プリオンモデルは培養により量が増加し、それ故、用語「増殖」および類似の用語がプリオンモデルの増殖を示すために本明細書中で使用される。用語「生存度」は、増殖(すなわち、プリオンモデルが破壊されないか、またはそうでなければ不活化されない)を示すプリオンモデルの能力を示すために使用される。
【0044】
インビトロ試験の調製のため、本試験タンパク質の液体培養物は、約5000×gで約5分間、急速に遠心沈殿され、水または新しい培地で洗浄される。
【0045】
シミュレートしたプリオシダル活性の試験は、細菌または真菌を用いた典型的な試験と類似して行われ得る。これらの方法は、以下を含む:
1)最小阻害濃度(Minimum inhibitory concentrations)(MIC):この方法は、試験タンパク質の培養を阻害するための、広範な種々の活性物質の迅速な評価を可能にする。マイクロウェルプレートの簡易設置において、活性の段階希釈が行われ、そして増殖培地中のプリオンモデルの標準低濃度(例えば、<10実体形成単位(efu’s))が、各々の希釈液に加えられる。37℃で48〜72時間インキュベートされた後、増殖があることが、ウェルの底の黒い沈殿物により示され、増殖を阻害するための活性物質の最も低い濃度が、MICとして記録される。この方法は、抗プリオン活性に対する可能な薬物標的または殺生剤の同定に使用され得る。
2)タイムキル実験(Time kill experiments):この方法は、長時間にわたる活性効率または処方効率の決定を可能にする。試験材料(例えば、液体処方物、生成物、または活性物質)は、様々な濃度および様々な環境条件下(例えば、pH、温度、固体の存在等)で調製される。次いで、既知の濃度でのプリオンモデルの培養は、試験液体および評価のための時間にわたって除去されたアリコートに直接加えられる。このアリコートは、試験材料の活性をさらに阻害するため、好ましくは中和される。評価は、アリコートの段階希釈および選択された試験条件下での長時間にわたる試験タンパク質の減少を測定するための選択培地上へのプレーティングを含み得る。
【0046】
別の試験において、試験タンパク質を含む培養物は、基質上に接種され得、そして選択された露出時間の間、液体またはガス相の活性物質にさらされ得る。修復可能な試験タンパク質は、段階希釈およびプレーティングにより測定される。
【0047】
3)タンパク質分解研究。タンパク質を含む培地(試験タンパク質または例えば高い割合のβシート構造を有するような、プリオンタンパク質に類似した別のタンパク質のいずれか)は、処理手順(例えば、過酢酸処理)に供され、そして次にアリコートが、ゲル電気泳動または小さなフラグメントから完全なタンパク質を分離することができる他の技術により評価される。いくつかの有効なプリオシダル薬剤が、プリオンタンパク質をより小さなフラグメントに破壊することが見出されている。従って、試験タンパク質または他のタンパク質を破壊する薬剤は、潜在的なプリオン処理薬剤として見なされ得る。
【0048】
このような試験は、試験タンパク質に対して与えられた処方物、活性物質、またはプロセスの有効性を至適化するため有益である。これは、プリオンに対する活性物質/殺生剤の活性における処方物および環境因子の効果を理解する際に特に重要である。好ましくは、1より多い試験が行われる(例えば、プリオン自身において提唱された処理の評価を進める前に、タイムキル実験およびタンパク質分解研究が、提唱された処理のために行われる)。
【0049】
以下の実施例は、実際のプリオンに対するモデルとしてのプリオンモデルの有効性および様々な提唱された抗プリオン処理の有効性におけるプリオンモデルの有効性を示している。
【実施例】
【0050】
(実施例1:増殖培地)
以下の増殖培地を調製した:
蒸留水 1000mL
Oxoid MycoplasmaTM寒天またはブロスベース 35.5g
Tween 80 2mL
洗浄および溶解したウマ赤血球 20mL
ウマ血清 1.4mL
0.1/mLパンクレアチン 20mL
2%酢酸タリウム 7mL
試験タンパク質を、上記の処方を有する、補充Mycoplasmaブロスベースをプレーとした培地皿上に接種し、そして37℃で培養し、接種したスポットは、48時間後に、好気性、微好気性または嫌気性条件下で分離した褐色コロニーを生じる。4℃では増殖は観察されない。
【0051】
(実施例2:試験タンパク質の組成)
試験タンパク質を分析して、アミノ酸(以下に記述される)、および少なくとも2つのペプチドを含むことを決定した。
【0052】
ICPに供された場合、最初に鉄が観察された(バックグラウンドカルシウムが見られたが、おそらく全て培地由来である)。
【0053】
(総アミノ酸分析)
プリオンモデルの培養物を、ブロス中で増殖し、(生理食塩水中で5回ボルテックスすることで)勢いよく洗浄し、そして乾かした。サンプルを、総アミノ酸分析に供した。サンプルを、6N HCl中で26時間110℃にて加水分解し、0.01N HCl中に溶解し、そしてクロマトグラフィーにより分析した。
【0054】
その結果は以下の割合を有するアミノ酸の存在を示した。
【0055】
【表1】

(タンパク質分析)
プリオンモデルタンパク質を、可溶化し、そしてタンパク質ゲルを、上清上で動かした。SDS−PAGEを、タンパク質を分離するために使用した。拡散したタンパク質のバンドの存在が、色素領域上(<10kDa)で観察された。このバンドを、ウエスタンブロッティングによってメンブラン上に移し、そしてCCF(N末端配列分析の分子生物学コア)にかけた。シグナルは弱かったが、以下のとおりの二つのペプチド配列を示した:
【0056】
【表2】

(実施例3:関連研究)
タイムキル試験の有効性を示すため、および試験タンパク質の反応と公知のプリオンの反応との間の相関を確立するため、試験タンパク質の対数減少を、プリオンに対し有効であることが知られている活性物質を用いて測定した。対数減少は、存在する生物の元の数の対数(この場合、試験タンパク質の数、あるいは、サンプル中の試験タンパク質の濃度)と残存している生物の数の対数との間で異なる。良好な相関関係が、そのような活性物質について見出された。実施例は以下に与えられる:
a)過酢酸研究
以前に有効なプリオシダル薬剤として提唱された、特定の過酢酸処方物(STERIS
Corp.、Mentor、Ohioから入手されるSTERIS 20TM)は、プリオンモデルに対して有効であることが見出された。STERIS 20TMは、緩衝液、界面活性剤、キレート剤、および防食剤を含む過酢酸ベースの滅菌剤である。これらの試験の結果は、処方物の温度が重要な因子であることを示している。温度および活性物質濃度は、タンパク質およびプリオン両方の不活化において驚くべきかつ有意な効果を有することが見出された。
【0057】
i)タンパク質分解研究
タンパク質分解研究を、プリオンモデルのサンプルを滅菌剤(例えば過酢酸)およびコントロール溶液(例えば、水またはトリス緩衝生理食塩水、TBS)にさらすことにより行った。さらした後、過酢酸を、チオ硫酸ナトリウム(STS)を用いて直ちに中和し、そしてサンプルは、ゲル電気泳動により分離する。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)は、タンパク質を培地と分離する場合に有効である。さらに、HLC分析は、モデルの主成分はコラーゲンの単純アミノ酸構造に類似した短いペプチド構造であることを示している。分離したタンパク質を、ウエスタンブロット法によりニトロセルロースに移した。プリオンモデルのような特定のタンパク質の存在を、タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用いた免疫ブロッティングにより検出し、そして免疫染色されたタンパク質の強度の割合により定量した。過酢酸は、試験された特定の処方物(STERIS 20TM)中で使用する場合、全タンパク質の量を減少させ、より小さなペプチドを生成した。このことは、プリオンモデルの目的に対して不活化であると見なされる。
【0058】
ii)プレーティング研究
異なる温度および濃度下における、過酢酸処方物の効果をプリオンモデルを使用し、懸濁液を試験することにより研究した。過酢酸処方物を、1000、1500、および2000mg/L過酢酸で調製し、そして約50℃に維持した。試験タンパク質懸濁液のアリコートを、直接各処方物に添加し、そしてサンプルを除去および段階希釈により定量し、改変マイコプラズマ寒天にプレーティングした。
【0059】
タイムキル実験を、プリオンモデル上の時間および過酢酸濃度の効果を示すために行った。例として、50℃での過酢酸濃度の効果は、有意であると示された(図3)。次の37℃で48時間のインキュベーションでは、プレートは数えられそして対数減少が測定された。図3は、STERIS 20TM処方中のの50℃12分間における過酢酸濃度(mg/L中)の効果を示す。2000mg/Lにおいて、9ログ(最初の濃度)から2ログへの対数減少が、6分後に観察された。
【0060】
これらの試験のため、過酢酸を、使用した過酢酸の量のみが異なる、STERIS 20TM処方中で用いられる緩衝システムと組み合わせた。
【0061】
これらの結果は、同じSTERIS 20TM過酢酸処方物を用いたウエスタンブロットに関して報告されたvCJDの減少と類似している(Antlogaら、Prion Diseases and Medical Devices、ASAIO J.、S69〜S72(2000)。これらの結果は、インビボにおいて確認されている。
【0062】
b)フェノール処方物研究
LpHTMは、STERIS Corporation、Mentor、OHにより販売されるフェノール処方物である。この組成物は、以前にインビボ研究においてスクレーピーに対して有効であると記載された(Ernst&Race、Comparative
Analysis of Scrapie Agent Inactivation Methods、J.Virological Methods、41、pp.193〜202(1993))。著者は、濃度および露出時間に依存したスクレーピー感染性の減少を記述した。例えば、0.9%の濃度で、感染性が除去され、対数減少により測定した時、0.5時間後には5ログ、16時間では7ログを越えた。同様に9%では、7ログを越える減少が、0.5時間で観察された。
【0063】
LpHTM生成物の活性を、5%LpHTM濃度で試験タンパク質のサンプルに関して試験した。その結果は、1時間で5.2ログの減少および3時間で5.8ログの減少を示した。さらに、この生成物は、類似のLpHseTM生成物より有効であることが示された。Raceによってもプリオンに対するLpHTMとLpHseTMとの間の同一の相違点が示された(非公開結果)。
【0064】
(実施例4:プリオンモデルサンプルの過酢酸処理の至適化)
スクリーニングツールとしてタンパク質分解を使用する試験は、約2000mg/Lまたはそれ以上の過酢酸濃度が、試験タンパク質に対する効果に好ましいことを示している(図3)。これらの試験を、STERIS 20TMを用いて行った。
【0065】
試験タンパク質処方物に関する温度の効果(1000mg/L過酢酸で研究した)は、劇的であることが見出された。この結果は、過酢酸処方物は、本研究における試験時間において、50〜57℃の範囲内でタンパク質を破壊する際に高度に有効であることを予備的に示す。50℃以下の温度では、破壊はほとんど観察されなかった。約60℃、またはそれ以上では、活性において同様の減少が観察された。約55〜57℃の温度は、特別に有効性が見出された。
【0066】
(実施例5:MIC研究)
プリオンモデルのMIC(増殖阻害)試験における様々な活性物質(多くがプリオンに対する可能な効果のこれまでの報告を有する)の効果を研究した。
【0067】
以下の活性物質は、プリオンモデルの増殖特徴(すなわち、プリオンモデルの増殖における減少)に関して少なくともいくつかの効果を示した:
ナイシン (約1000mg/L)
KlenzymeTM(5%) (STERIS Corp.より入手された。)
RenuklenzTM(5%) (STERIS Corp.より入手された。)
NaOH (約0.01N)
HCl (約0.1N)
過酢酸 (約600mg/L)
硫酸ネオマイシン (約125mg/L)、
LpHTM (STERIS Corp.、Mentor、OHより入手された)
(1〜5%)
LpHseTM (STERIS Corp.、Mentor、OHより入手された)
(1〜5%)
マンガン (約100mg/L)
硝酸銀(約30mg/L)
(実施例6:除去試験)
様々な洗浄剤を評価した。器具を、ウシ血清アルブミン(BSA−タンパク質)で汚染した。タンパク質の除去をより困難にするため、器具を、タンパク質を変成させるために110℃で1時間加熱した。次いで、器具を、自動洗浄機内で、1オンス/ガルの洗浄剤および高い洗浄温度(150℃)を用いて洗浄した。洗浄サイクル後、残存固体の視覚的実験を行った。評価した洗浄剤は、有効性が減少する順に以下に列挙した。全ての洗浄生成物は、STERIS Corp.、Mentor、OHより入手された。
【0068】
CIP 100TM (水酸化ナトリウムベースの洗浄剤) −最も有効
CIP 150TM (水酸化カリウムベースの洗浄剤)
Process KlenzTM
Criti−KlenzTM
Renu−KlenzTM (中性生成物)
CIP 220TM (酸ベースの洗浄剤)
水 −最も有効性がない
上記の有効性順序はまた、一般的に生成物のアルカリ度に伴う(水は除外して)。最も有効な洗浄生成物、CIP 100TMもまた最も高いアルカリ度を有する。最も効果のない、CIP 220TMは、酸生である。
【0069】
同じ有効性順序が、BSAの代わりにプリオンモデルを使用した場合も見出された。
【0070】
(実施例7:赤血球生存度アッセイ)
プリオンモデルは、増殖培地中のヘモグロビンまたは赤血球(RBC)成分を吸着/使用するために見出された。全赤血球に関するプリオンモデルの効果の研究を行った。RBCを、生理食塩水中で3回洗浄し、そして40×(約100/視野)のペトロフハウザー(Petroff Hauser)下で細胞を数えるための濃度で再懸濁した。総赤血球およびまだインタクトな(形態学において変化していない)細胞の割合を、プリオンモデル(IFDO)とともに、または水(RBC)もしくはパンクレアチン(Panc−これは、RBCを溶解する予備実験において示されている)とともにインキュベーションした後に長時間にわたってモニタリングした。
【0071】
その結果(図4および図5に示される)は、コントロール(RBCおよびPanc)と比較した場合、プリオンモデルは、長時間にわたって細胞損傷および細胞溶解を引き起こしたことを示す。プリオンモデルにより赤血球が溶解される前に時間のずれがあると思われる。
【0072】
(実施例8:タイムキル実験)
予備的なタイムキル実験を、プリオンモデルを用いて行った。結果は、ログ数字(log10)として表され、ログ数字が低くなるにつれて、残存するプリオンが少なり、従って、有効な処理となる。
【0073】
タイムキル実験を、生理食塩水溶液中121℃でプリオンモデルを高圧滅菌する効果を示すために行った。プリオン数は、15分後、初めの8.0ログから5.5ログまで落ちた。
【0074】
134℃で1時間の重力排出サイクル(gravity drain cycle)における予備研究は、その処理が有効であることを示した。
【0075】
タイムキル実験を、プリオンモデルで処理したクーポン上のエチレンオキシドの効果を示すため行った。クーポンを、600mg/Lで18分間さらした。
【0076】
対数でのプリオン数
最初の数 8.5
70℃で、100% RH露出 5.0
54℃で、40% RH露出 4.7
過酢酸を用いた場合、同様の温度効果が見出され、エチレンオキシドは70℃より54℃でより有効であった。
【0077】
液体の殺菌剤/滅菌剤を、プリオンモデルに対するこれらの有効性のタイムキル研究において評価した。全ての生成物を、STERIS Corp.より入手した。液体懸濁液中のプリオンモデルのサンプルを、直接各生成物中に接種した。その結果が以下に示される。
【0078】
【表3】

(実施例9:内在汚染の研究)
血液産物を、プリオンによる汚染のためスクリーニングした。以下の汚染レベルが、見出された:
ウマ血液(1ロット)汚染
ウマ血清(1ロット)汚染
ウシ血清(3ロット)1ロット汚染
ヒツジの血液(2ロット)汚染なし
この結果は、血液産物のプリオン汚染が一般的であり、従ってプリオンに関連した作業に使用されるすべての血液産物は、使用前にプリオンのスクリーニングをすべきであることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0079】
本発明は、多様な成分および成分の組み合わせ、ならびに多様な工程および工程の組み合わせの形態をとり得る。図面は、好ましい実施形態を説明する目的のみであり、本発明を制限するように解釈されるものではない。
【図1】図1は、本発明に従う、プリオンモデルを含む生物学的指示器の概略側面図である。
【図2】図2は、指示器を密封し、プリオンモデルと増殖培地を混合するためにキャップを閉じた後の、図1の生物学的指示器の概略側面図である。
【図3】図3は、過酢酸の異なる初期濃度レベルでの、過酢酸処理プロセスについての時間に対するプリオンモデルの計数プロットである。
【図4】図4は、第1コントロールサンプル(水−RBC)、第2コントロールサンプル(パンクレアチン−Panc)およびプリオンモデルのサンプル(IFD0標識した)についての長時間にわたる、赤血球の総数を示すプロットである。
【図5】図5は、第1コントロールサンプル(水−RBC)、第2コントロールサンプル(パンクレアチン−Panc)およびプリオンモデルのサンプル(IFD0標識した)についての長時間にわたる、正常構造(すなわち、異常構造または異常性を有さない)を有する赤血球割合のプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリオンによって汚染され得るアイテムを処理する方法であって、該方法は、該アイテム上で生存可能なプリオンのレベルを減らすために、ナイシン、マンガン、および硝酸銀のうち少なくとも一つを含む組成物で該アイテムを処理する工程により特徴付けられる、方法。
【請求項2】
前記アイテムが、動物の消費または人間の消費用の食品を含むことにより、さらに特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アイテムが、医療用デバイスまたは歯科用デバイスを含むことにより、さらに特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、IFDOを攻撃する際有効であることが見出されている組成物により、さらに特徴付けられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
プリオン関連疾患に対する活性用に提唱された薬物またはプリオシダル活性用に提唱された処理方法または化学物質をスクリーニングする方法であって、該方法は、以下:
プリオンモデルを、提唱された薬物、化学物質またはプロセスにさらす、工程;および
インビトロで任意の残存プリオンモデルを培養する工程であって、該プリオンモデルは、薬物、化学物質、またはプロセスに対してプリオンと類似した応答を示すことが示されている、工程
によって特徴付けられる、方法。
【請求項6】
実施例に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−277229(P2007−277229A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65918(P2007−65918)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【分割の表示】特願2003−534919(P2003−534919)の分割
【原出願日】平成14年10月4日(2002.10.4)
【出願人】(502042506)ステリス インコーポレイテッド (22)
【Fターム(参考)】