プリオンを不活性化するための方法およびそれに使用される組成物
【課題】プリオンを不活性化するための方法およびそれに使用する組成物を提供する。
【解決手段】PrPScプリオン蛋白またはその代用物で汚染された表面、懸濁液または溶液を(1)プリオン蛋白を、非感染性分子量を有するフラグメントに開裂するのに有効な1種以上の酵素と、(2)前記PrPScプリオン蛋白を高次構造変性するが、1種以上の前記酵素を変性しないように選択される1以上の作用因子との組み合わせを用いて処理する工程を含む方法、およびこの方法に使用される前記(1)および(2)の組み合わせを含有する組成物。
【解決手段】PrPScプリオン蛋白またはその代用物で汚染された表面、懸濁液または溶液を(1)プリオン蛋白を、非感染性分子量を有するフラグメントに開裂するのに有効な1種以上の酵素と、(2)前記PrPScプリオン蛋白を高次構造変性するが、1種以上の前記酵素を変性しないように選択される1以上の作用因子との組み合わせを用いて処理する工程を含む方法、およびこの方法に使用される前記(1)および(2)の組み合わせを含有する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、プリオンを不活性化するための組成物および方法、並びにプリオンまたは同様の高次構造変性タンパク質で汚染された材料の消毒手段に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
歴史上、バクテリア、真菌、寄生虫およびウィロイドなどの感染性作用因子には、種々の消毒および滅菌形態を伴う上手く確立された制御方法がある(例えば、蒸気滅菌法、乾燥滅菌法、低温殺菌法、細菌濾過法、エチレンオキサイド、グルタルアルデヒド、フェノールまたは他の消毒薬による処理、放射線照射など)。ウィルスの場合、pHを4.0またはそれ以下に低下させる方法、60℃で長期間加熱する方法、または高濃度の有機溶媒の使用も確立されている。更に、UV処理、ホルムアルデヒドおよび特定の抗ウィルス剤が使用されている。
【0003】
ここ数年間で、新らしく今まで知られていなかった種類の病原性作用因子が見つけられて、科学系の刊行物に報告されている。これはプリオンと呼ばれ、今日のヘルスケア産業が直面している最大の難題の一つである。プリオンは、バクテリアや他の既知の感染性作因とは異なる感染性粒子である。プリオンの正確な構造に対する確固たる証拠はないが、最近、プリオンに起因するものと思われる多数の疾病がヒトや動物の両者において確認されている。国際特許出願PCT/US00/14353号(特許文献1)(この出願の内容をここに参照として挿入する)に詳述されているように、プリオンに起因するヒトの疾病としては、クールー、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)および家族性致死性不眠症(FFI)が挙げられる。
【0004】
ヒトのプリオン病に加えて、動物の病気が、公知のプリオン病群に包含される。ヒツジやヤギのスクレイピーは恐らく、最も多く研究されている動物プリオン病である。幾つかの調査ラインでは、異型CJDと先に流行したウシ海綿状脳症(BSE)との関連を提唱している。成功した治療処置は展開されなかったため、結果として、これらの疾病は常に致死性である。前記問題を大きくしているのは、潜伏期がヒトで30年までであり得るということであって、これが科学者に重大な難題をもたらしており、「進行中の」流行病であるとも予測される。
【0005】
感染の恐れのある群としては、手術中に感染した医療用装置に接触し得る患者や、感染物質を分析する医療スタッフ、そして清掃および滅菌装置に携わるヘルスケア作業者が挙げられる。恐れのある群は広がっており、獣医、屠殺場の作業者、欧州で最初にウシまたは牛肉に接触する精肉業者、そして最近では、プリオン病潜伏期中のドナーから輸血または器官を譲り受けた人々も包含されると考えられている。
【0006】
プリオンの構造は、重大な研究課題であり、様々な見地が示されている。プリオンが極めて小さなウィルスであると考えている科学者もいるが、大抵の専門家は、プリオンが実際は、DNAまたはRNAコアを持たない感染性タンパク質であると考えている。特にこの見解は、哺乳類のPrP遺伝子が、溶解性の(非疾病)細胞型PrPcまたは不溶性の疾病型PrPSCであり得るタンパク質を表すというものである。多数の調査結果は、プリオン病が正常な細胞型から異常なPrPSc型への形質変換に由来することを示している。この2つの形態のアミノ酸配列には検出できるほどの差がない。PrPc型は、高度にメンブラン結合した33〜35kDaタンパク質から構成されており、これは消化時にタンパク質分解酵素Kによって分解する。しかし、PrPSc型は、変質された高次構造形態、特にハイレベルのβシート構造を有する。感染性の変質された高次構造形態と診断するのに有用なPrPSc型の特性は、27〜30kDaのタンパク質分解酵素耐性を有するコアである。感染性の変質された高次構造形態のもう一つの特有の特徴は、それが疎水性コアを獲得することである。
【0007】
汎用の消毒剤や滅菌剤は、容認できる時間ではプリオンにほとんど効果を発揮しない。プリオンを不活性化しようという試み、および/またはプリオンが通過するかもしれない表面を殺菌しようという試みに、驚くべき妨害が現われた。要求される条件が一般に厳しすぎるために、時間とコストの点のみならず、材料への損傷や伴われる職業上の健康の危険の点でも従来の消毒では実施できない。例えば、ある研究では、感染性PrPSc粒子は600℃で5〜15分の乾燥加熱後に試料中に検出されるが、その完全な崩壊は1000℃で15分間および200℃超で1〜10時間で達成される。IM.苛性ソーダ(pH14)で2時間処理することが提案されていたが、この処理は極めて腐食性が高く、スタッフに危険で、しかも材料に攻撃的である。米国特許第5633349号公報(特許文献2)には、尿素6〜8モルまたはチオシアン酸ナトリウム1〜2モルで最低12時間(好ましくは18時間)の処理を伴う生物材料の処理手順が記載されているが、これも同様の不利益を抱えている。
【0008】
除染し難いために、脳外科で用いられる手術用装置は1回だけ使用することが好ましいとして提案されたが、これは、高価であることに加えて廃棄のリスクを包含しており、また装置によっては実用的ではない。国際特許出願PCT/US00/14353号(特許文献3)には、ポリカチオン性デンドリマーを用いてプリオンを非感染性にする方法が記載されているが、この方法が可逆性であるか、持続性であるか、または産業上実行可能かどうかが明白ではない。
【0009】
PrPc型とPrPSc型が注目されていたが、前記タンパク質は、PrPc型の主要なαヘリックス構造とPrPSc型の主要なβシート構造との間のβシート含有中間体を表す中間形態であって、しかも変性剤(denaturant)の不存在下で溶解性を保持する中間体の中に存在し得ると提唱された。
【0010】
高次構造変性された不溶性タンパク質中への通常の溶解性タンパク質の構築または分解(misassembly)は、種々のほかの病気の原因となるかまたはそれと関連するものと考えられる。本発明は、プリオンとの関連について記載しているが、病気に関連する、他の不溶性または酵素耐性のコンフォーメーション変質されたタンパク質へ適用できると考えられよう。
【0011】
前記先行技術の論点は、オーストラリアで周知の事柄に関する容認されたものと解されるべきではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際特許出願PCT/US00/14353号
【特許文献2】米国特許第5633349号公報
【特許文献3】国際特許出願PCT/US00/14353号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、プリオンで感染された表面を消毒するための、改良された手段または少なくとも代替手段を提供することである。特に好ましい態様において、本発明は、プリオンをより有効に、すなわち従来技術の方法よりも与えられた時間内でより有効にまたはより短時間で有効に、不活性化させる。本発明の更に好ましい態様は、60℃以下で60分以内に4対数(4 log)以上の低下を達成する。場合により、本発明は、表面上以外の状態のプリオン、例えば、懸濁液中、または固体、液体もしくは気体媒体中または生物学系中のプリオンにも適用でき、またそうではなく、in vitroまたはin vivoでの使用を有していてもよい。本発明の幾つかの態様の目的は、改良された診断ツールを提供することであり、また他の態様は、抗体を調製するための新規エピマーを提供することである。
【0014】
本明細書で使用される「プリオン蛋白」という用語は、プリオン蛋白配列の全長と実質上同一の、他の相互作用または活性を有する変異種、フラグメント、融合物および類似体を包含するが、より簡便に使用でき、そして全ての二次構造形態を包含する。前記用語は、プリオン代用物、すなわちそれ自体はプリオンではないが、プリオンと同じ構造を有するかまたは同じ特性を示すタンパク質を包含するのにも使用され、プリオンが特定条件下でどのように機能するかを模擬または予想するのに使用できる。「PrPScプリオン蛋白」という用語も同様に広い意味を有するものとするが、その二次もしくは三次構造によって酵素耐性を示すプリオン蛋白に限定され、同様に酵素耐性を有する構造物を包含する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の開示
第一の態様によれば、本発明は、PrPScプリオン蛋白またはその代用物で汚染された表面を、
(1)プリオン蛋白を、非感染性分子量を有するフラグメントに開裂するのに有効な1種以上の酵素と、
(2)前記PrPScプリオン蛋白を高次構造変性(conformational unfolding)するが1種以上の前記酵素を変性(denaturing)しないように選択される1以上の作用因子と
の組み合わせを包含する処方を用いて同時に処理する工程を含む不活性化方法を提供する。
【0016】
第二の態様によれば、本発明は、
(3)プリオン蛋白の開裂を妨げることなく、1種以上の前記酵素の折り畳み(folding)を促進または保護するように選択された1以上の作用因子
を更に含む前記第一の態様の方法を提供する。好ましくは、条件は再生(refolding)より変性(unfolding)が有利になるように選択される。
【0017】
27kDa以下の分子量を有するタンパク質が非感染性でかつ安全であることが現在認められていることから、本発明の方法は、プリオンをその少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%が27kDa以下、好ましくは25kDa以下、より好ましくは23kDa以下のフラグメントへ消化または開裂することを予想している。とはいえ、将来、27kDa以下のプリオンが感染性であることが分かれば、本発明の方法は、タンパク質を安全な寸法のフラグメントに断片化するのに有用であろう。
【0018】
本明細書において「プリオン代用物(prion surrogate)」はFDAの定義に従い、即ちβ−フォールディング(folding)の存在による同様のタンパク質分解酵素耐性を有するタンパク質である。ここで、「作用因子」は、アニオン性界面活性剤、pH調節剤などの化学試薬と、圧力、温度、照射などの物理的および/または熱力学的条件、および本発明で要求されるような折りたたみ(folding)または変性(unfolding)を促進する、他のエネルギー的な影響に有効な非化学的因子の両者を包含する。折りたたみ作用因子(folding agent)は、「再生」作用因子(refolding agent)とも呼ばれる。変性作用因子(unfolding agent)は、「変性」因子(denaturing agent)とも呼ばれる。
【0019】
第三の態様によれば、本発明は、高次構造変性(conformational unfolding)するように選択された1以上の前記作用因子が、放射線照射、電界、磁界、エネルギー性の振動およびこれらの組み合わせから成る群より選択される1以上の作用因子を包含する第一および第二の方法を提供する。
【0020】
本発明の更に好ましい態様では、化学的および物理的な作用因子の組み合わせが用いられ、例えば、前記工程(2)の作用因子は、超音波による超音波処理と組み合わせたアニオン界面活性剤を包含する。
【0021】
好ましくは、プリオンは、処理中、超音波領域の音波に付される。しかし、変性(unfolding)は、マイクロ波、無線周波数域の放射線、赤外線、可視光または紫外線スペクトルなどの別のタイプの放射線、聞き取れるほどのまたはより低い周波数の音波、磁気攪拌もしくはボルテックス攪拌などの機械的な手段からのエネルギー性振動によって誘導または促進されてもよい。エネルギー性入力の他の形態は、電子線照射、レーザ照射または電気分解からのものを包含し得る。
【0022】
他の態様によれば、本発明は、前記方法を行うのに使用するための組成物、前記方法で製造される新規プリオンフラグメント、および前記フラグメントから産生される新規抗体にまで及ぶ。
【0023】
本発明によれば、汚染された表面、例えばPrPSc蛋白で汚染された手術用装置を、
(1)プリオン蛋白を、非感染性分子量(現今では27kDa以下)のフラグメントに開裂するのに有効な1種以上の酵素と、
(2)前記プリオン蛋白を高次構造変性(conformational unfolding)するように選択される1以上の作用因子と
の組み合わせを用いて処理する。
【発明の効果】
【0024】
PrPSc蛋白は、特徴として、タンパク質分解酵素を包含する酵素による攻撃に対する耐性を有する。理論に縛られたくはないが、本発明者らは、前記酵素による攻撃に対するPrPSc蛋白の耐性が、(βシート二次構造とαヘリックス構造との高い比率を有する)折りたたまれたコンフォメーションの結果であると仮定した。本発明は、接近して(gain access)PrPSc蛋白を開裂する酵素にとって十分なPrPSc蛋白の変性(unfolding)を選択された条件で促進するように1以上の作用因子を選択することができるという構想を用いている。
【0025】
多くのタンパク質は、その本来の立体的な折りたたみパターン(「二次および三次構造」)を緩めて「変性」(denature)される傾向がある。変性(denaturation)は、分子内相互作用、特に水素とジスルフィド結合との間の分子内相互作用の崩壊と、それによる、実質的には全ての天然タンパク質が分子の少なくとも一部に有しかつタンパク質の活性に対して通常は明確に応答し得る前記二次構造の損失とを包含する。
【0026】
当業者は、酵素自体がタンパク質であり、かつタンパク質の変性(unfolding)を促進する作用因子によって容易に変性(denature)され易いことを認知している。変性作用因子(unfolding agent)が酵素と結合するために、酵素が目標物質と結合するのを妨げるかどうか、あるいは酵素の高次構造の変性(unfolding)を促進するために、変性作用因子が酵素を不活性化もしくは「変性」(denature)させるかまたはこれら効果の組み合わせを生じさせるかどうかは明白ではない。これに反して、PrPSc蛋白は、高い変性(unfolding)耐性を有する。従来は、含まれる酵素が、PrPScのように処理し難いタンパク質に影響を及ぼすのに有効な変性作用因子の存在下で活性を保持する系を処方するのは不可能であると考えられていた。驚くことに、本発明者らは、(i)特定の変性作用因子がPrPSc蛋白を選択的に変性(unfold)または緩和(relax)するが、選択された酵素を変性(unfolding/denaturing)しないこと、または(ii)折りたたみ作用因子が酵素の活性を選択的に促進または保持すると同時に、変性作用因子がプリオンを選択的かつ十分に変性(unfold)してプリオン切断用酵素とのアクセスを提供するように、折りたたみ作用因子(folding agent)と変性作用因子(unfolding agent)を組み合わせられることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
前記の本質的に相反する要求(desiderata)は、本発明では、作用因子を「折りたたみ」(folding)または「変性」(unfolding)を促進するものとして分類し、その後、酵素やPrPSc蛋白またはこれらの代用物への相対的な効果を決定することによって満たされる。
【0028】
(処理しようとする)前記表面は、最初、1以上の作用因子で処理され、そしてその後、1種以上の酵素を添加してもよいが、好ましい態様では、処理しようとする前記表面はこれらに同時に付される。
【0029】
前記酵素は、好ましくはタンパク質分解酵素である。好適な酵素は、
―非特定のタンパク質分解酵素、例えば、セリン-、アスパラギン酸-、メタロプロテイナーゼ、
―より具体的なタンパク質分解酵素、例えば、ケラチナーゼ、コラゲナーゼなど、
―タンパク質分解活性を有する前記以外の酵素
である。
【0030】
プリオン蛋白を高次構造変性するように選択される1以上の作用因子は、酵素によってプリオン蛋白へのアクセスを与えるのに有効であるように選択される。
【0031】
一般に、ポリペプチド鎖の折りたたみ(folding)−変性(unfolding)は、熱力学的に可逆性の平衡プロセスであっても不可逆性のものであってもよい。
【0032】
変性(unfolding/denaturation)を促進する作用因子の例としては、以下のものが挙げられる。
(1)熱は、約150℃まで昇温する。
(2)pHは、3以下でかつ9を超えるか(溶媒に近づき易い多数の側鎖残基のイオン化から得られる包括的な効果)、またはある分子では、特定の基のイオン化に起因して局所的な効果に帰することがある(例えば、セリンプロテアーゼは、カルボキシレートのN-末端アミノ基をイオン化する)。
(3)選択された有機溶媒は、タンパク質を変性(denature)、溶解または膨潤し易い。一般に、前記生成物は、完全に変性(unfold)されずに、本来の状態とは異なって整列された構造を有する。ヘリカル構造(すなわち、変性(unfolding))を与える溶媒は、例えば、N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、m-クレゾール、ジオキサン、CHCl3、ピリジン、ジクロロエチレンおよび2-クロロエタノールである。この群は、アルコール、エタノール、n-プロパノール、メタノール(特に0.01%HClとの混合物)のように、水素結合を形成する傾向の弱い溶媒も包含する。前記構造を破壊し易い溶媒、例えば、高濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)、ジクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸並びに他の求核性溶媒も包含される。
(4)特定の有機溶質およびカオトロピック剤。例えば、尿素、グアニジン塩酸塩(GuHCl)など。6〜8M GuHClの場合、ランダムなコイル巻き(coiled)ポリペプチドへの転移は、例外的に安定なタンパク質を除いて、室温で完了する。これら作用因子は、温度、pH、他の試薬や条件に著しく影響され得る。
【0033】
(5)特定の界面活性剤。イオン界面活性剤は、タンパク質を結合させる傾向があり、しかも三次構造の変性(unfolding)を開始する。アニオン性洗剤は、非常に強力な変性剤(denaturant)である。例えば、ナトリウムドデシルスルフェート(SDS)は、多数の(だが全てではない)タンパク質を、臨界ミセル濃度に近い濃度で完全に変性(unfold)できる。ドデシルベンゼンスルホネートも変性剤(denaturant)である。これらの洗剤は、洗剤の疎水性部がタンパク質の整列された構造と相互作用してミセル状領域を形成することがあると考えられるため、必ずしも完全な変性(unfolding)をもたらさない。カチオン性界面活性剤は通常、アニオン性界面活性剤よりも有効性の低い変性剤(unfolding agent)である。ドデシルエトキシスルフェートの、ウシ血清アルブミン(BSA)変性傾向は、エトキシ基の増加と共に低下して、エトキシ基が6個以上になると消失する。
(6)無機塩は、タンパク質中での高次構造転移を誘導することがある。LiBr、CaCl2、KSCN、NaI、NaBr、ナトリウムアジドなどは、強力な変性剤である。これらの塩は、タンパク質を必ずしも完全に変性(unfold)しないが、残渣の整列構造は、昇温などのエネルギー入力によって破壊され得る。CNS−>I−>Br−>NO3−>Cl−>CH3COO−>SO4−などのアニオンは、グアニジン塩やテトラアルキルアンモニウム塩と同様の特性を示す。しかし、(GuH)2SO4は、変性(denaturation)に対して特定のタンパク質を保護することが分かった。
(7)チオグリコールなどのS−S結合の切断を引き起こす作用因子。
(8)アミノ酸の親水性または疎水性残基に強い親和性を有する他の物質。
【0034】
(9)特定の表面、および空気/液体界面などのように、ゼオライトを含む界面への吸着。これらは、限定的ではないが、例えば微分割アルミナ、シリカおよび他のクロマトグラフおよび静止相を包含する。
(10)超音波エネルギー、赤外線およびマイクロ波照射、高い圧力、そして電界および/または磁界の作用にプロトンを付す事は、変性(unfolding)(再生(refolding))を促進することができ、しかも浸透または攪拌が有効なことがある。
【0035】
本発明の好ましい形態では、作用因子の組み合わせを使用する。例えば、界面活性剤および/または好適な溶媒と超音波との組み合わせを用いる。超音波などからのエネルギーの入力が、酵素を変性(denaturing)するときよりも大きな速度でPrPSc蛋白を変性(unfolding)するために、折りたたみ(folding)/変性(unfolding)の平衡を進めるのに役立つかどうか、あるいはそれが単に、試薬または酵素のプリオンへのアクセスを提供するのに役立つかどうか、あるいは酵素を不活性化するのに有効であるかどうかは不確かである。エネルギーを提供する他の方法は、音速以下の領域の音波の適用を包含する。しかし、エネルギー性振動が、別の形態の電気機械的な放射線または磁気もしくはボルテックス攪拌などの機械手段からのエネルギー性の振動によって誘導されてもよい。電子線照射、レーザまたは電気分解からの別の形態のエネルギー入力も包含され得る。
【0036】
前述のように、大抵の前記変性剤(unfolding agent)は、酵素を変性(denature)するのに有効であると予想される。変性剤(unfolding agent)やその使用条件は、酵素を変性(denature)せずにPrPSc蛋白またはその代用物を消化させるように注意深く選択しなければならず、あるいは変性剤(unfolding agent)を折りたたみ剤(folding agent)と組み合わせなければならない。
【0037】
好適な折りたたみ剤は、以下のものを包含する。
(1)求核性溶媒および高度に水素結合した有機溶媒。ペプチド水素結合のエネルギーと、溶媒分子間の水素結合の強度とは競合関係にある。溶媒分子が強い水素結合によって結合されていれば、平衡はペプチド水素結合の安定化に向かってシフトする。ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ピリジンなどの溶媒、低濃度では、良好なプロトンアクセプターであるが弱いプロトンドナーであるジメチルスルホキシド(DMSO)が、ペプチド水素結合を崩壊する非常に弱い傾向を有し、そして特に球状タンパク質に、整列された構造を誘導し易い。
(2)多価アルコールなどの安定化溶媒(例えば、グリセロール、エチレングリコールおよびプロピレングリコール、蔗糖など)は弱いプロトン性である。安定化試薬の存在下では、タンパク質が高次構造的に安定に残され易く、安定化剤としても使用され得る。
(3)アルキル、フェニルまたはアルキルエトキシレート、プロポキシレートまたはこれらのコポリマー、アルキルポリグルコシドなどの非イオン性界面活性剤やサルコシナート(例えば、ナトリウム-(N-ラウロイル)サルコシナート)はタンパク質の三次構造を変更せず、しかも非特定共同的な相互作用による界面活性剤結合のかなり増加が開始する等温線領域で変性(unfolding)が生じる。SDSの効果は、非イオン性または両性界面活性剤の添加によって低下し得る。
(4)両性イオンおよび両性界面活性剤、
(5)高濃度のバッファー(例えば、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩)、
【0038】
(6)弱い疎水性領域と弱い親水性領域を交互に配置して含有する界面活性なホモ-、コ-またはブロック-ポリマー、
(7)保護剤、例えば、硫酸化物、デオキシコール酸エステル、グリコサミノグリカンなど。折りたたみ剤(folding agent)を変性剤(unfolding/denaturing agent)と組み合わせれば、前記作用因子と条件は、酵素を保護または再生すると同時に、酵素によるアクセスにとって十分にプリオンを不可逆的に変性(unfolding)するかまたは少なくとも開環するように選択されなければならない。例えば、pHおよび/または温度は、折りたたみ剤が酵素に選択的に作用すると同時に、変性剤(unfolding agent)がPrPSc蛋白に選択的に作用するように選択されてよい。
【実施例】
【0039】
発明を実施するための最良の形態
高含量のグロブリンを含有するウシアルブミン(シグマ(Sigma)社の製品A7906)、β-ガラクトシダーゼ(G7279)およびウサギ筋肉ミオシン(M0163)を、低溶解性でかつ高含量のβ-シートを含むタンパク質モデルとして使用した。前記タンパク質の分子量は、プリオンよりもかなり大きい。実験に使用した大抵のプロテアーゼがプリオンと同等の分子量(20〜35KDa)を有することから、酵素消化後のペプチドフラグメントの分子量の確認がより容易である。
【0040】
SDS-PAGEは、ラエムリ・ユーケイー(Laemmli U. K.)著、ネイチャー、227、680〜685頁(1970年)に記載の方法を用いて行った。タンパク質溶液を、2%SDSを含有する試料バッファー中で2分間煮沸した。1.5mmのポリアクリルアミドスラブゲル(8〜12%)1レーンにつきタンパク質10ミリリットルを添加して、非還元条件に付した(すなわち、試料バッファー中にはβ-メルカプトエタノールがなかった)。染料前面がゲルの底部に達するまで、電気泳動を150Vで1時間行った。次に、ゲルを取り出して、クーマシーブリリアントブルー(Coomassie brilliant blue)R-250(シグマ社製)または銀染料(バイオ-ラッド(Bio-Rad)社製)を用いた染色によってタンパク質バンドを可視化した。タンパク質の分子量は、予備染色した低分子量マーカー(バイオ-ラッドマーカー161−0318)を用いて得られた較正曲線を使用することにより求めた。
【0041】
変性剤(unfolding agent)と酵素の組み合わせ作用後に14.4KDa(リソザイムの分子量)以上の分子量を有するフラグメントが検出されなければ、タンパク質の開裂は十分であると考えられた。これは、処理が代用物に有効であったことを示している。
【0042】
14.4KDa以上の分子量を有するペプチドフラグメントがあれば、結果は陽性と記録された。
【0043】
本発明の方法が、プリオンを不活性化にするのに使用できるが代用物を開裂しないことを明らかにするため、プリオニクス・アクチエンゲゼルシャフト(Prionics AG)で開発されたプリオン検出試験を用いた。
「プリオニクス-チェック」は、動物組織内のプリオンを検出するための免疫学的な試験であって、プリオニクス・アクチエンゲゼルシャフトで開発された新規抗体を使用する。反応混合物中に残っているPrPScを抗体と結合させて、抗体と結合した酵素を用いて検出する。
【0044】
表1に示す前記溶液のアリコート100mLに、組換えプリオン蛋白約1μgを添加し、付録1に記載の手順に従ってプリオニクス-チェックを行った。
【0045】
酵素消化後にPrPScが検出されれば、結果は陽性であると記録した。
【0046】
表1は、対象実験1−1〜6−1において、分子量14.4kDa以上のフラグメントが検出され、同様にPrPScが検出されたことを示している。しかし、実験1−2〜6−2では、分子量14.4kDa以上のフラグメントが検出されず、またPrPScが検出されなかった。
1−1は、1−2が変性剤(unfolding agent)(3%DOBS)を含んで70℃、30分で有効であったことから、1−2とは異なる。
2−2および3−2はそれぞれ超音波処理を包含する点で、2−1および3−1と異なる。2−2では、変性剤(unfolding agent)3%DOBSを25%Terric164(折りたたみ剤(folding agent))と組み合わせることにより、40kHzで超音波処理しながら25℃で有効であった。3−2では、変性剤(unfolding agent)としての10%SDSと折りたたみ剤(folding agent)としての両性イオン界面活性剤を用いることにより、2.6mHzで同様の結果が得られた。
4−2は、ホウ砂をSDSと組み合わせて、より高温で行った点で、4−1とは異なる。
5−2は、ホウ素を用いずにDOBSとTritonX-100を組み合わせた点で、5−1とは異なる。
6−2は、DMSOの濃度を可逆的な変性(unfolding)(0.05%)から不可逆性の変性(unfolding)(0.5%)へ増加させた点で、6−1とは異なる。
【0047】
本明細書の記載から当業者には明白なように、本発明は、本明細書に記載した本発明の概念を逸脱することなく、作用因子の他の組み合わせを用いて行ってよい。
【0048】
【表1】
【表2】
【0049】
DOBS=ドデシルベンゼンスルホン酸(シグマ社製No.D2525)
DMSO=ジメチルスルホキシド(シグマ社製No.D5879)
タンパク質分解酵素=サブチリシン・カールスバーグ(Subtilisin Carlsberg)(シグマ社製No.P5380)
40kHzでの超音波処理は、ユニソニックス・プライアトリー・リミテッド(UNISONICS Pty Ltd.)製の超音波浴を用いて行った。
2.6mHzでの超音波処理は、ディソニックス・プライアトリー・リミテッド(Disonics Pty Ltd.)製の超音波噴霧器を用いて行った。
【0050】
付録 1
プリオニクス-チェック試験法
以下のプロトコルは、代表的な天然起源感染作用因子として公知の組換え源からのタンパク質分解酵素耐性コアPrPSCを用いて表している。プリオンのタンパク質分解酵素耐性コアは感染性ではないが、感染性作用因子の存在を表示することが実験から分かった。
1.PrPScを1μgまたはPrPScを1μg含有するBSE感染した動物の脳ホモジネートを秤量し、脱イオン水1mLを加えて再構成する。
2.試験溶液10mLに添加して、適当な不活性化プロトコルに付す。
3.試験溶液のアリコート10μLを採取して、それを試料バッファー10μLに添加する。
4.内標準法のために使用される未処理のPrPSC溶液(陽性コントロール)と試験すべきの溶液についてSDS−PAGEを行う。
タンパク質またはタンパク質フラグメントを全て、その寸法に応じて電界中で分離する。小さなタンパク質は大きなタンパク質よりも速く移動する。ある時間後、分解プリオン蛋白の最も小さなフラグメントがゲルから移動すると同時に、耐性PrPScフラグメントがゲルの半分より下側に現われるであろう。プリオン蛋白がタンパク質分解酵素耐性を残している対照試料では、非分裂PrPSc分子がゲルのより高い位置まで残っているであろう。
【0051】
1.タンパク質をウェスタンブロット法によってゲルからニトロセルロースメンブランへ移し取る。
2.モノクローナル抗体(プリオニクス製品No.01-020)を加える。
3.タンパク質と結合させて、その後、非結合抗体を洗い流す。
4.最初の抗体と結合した西洋わさびペルオキシダーゼを化学発光物質(アマーシャム・ライフ・サイエンス(AMERSHAM Life Science)社製のECL製品No.RPN2209)と反応させる。
5.メンブランをX線フィルムに焼き付けて、フィルムを現像する。
6.プリオン蛋白が含まれているかどうか、10回評価する。抗体がプリオン蛋白の分子量に対応する位置で保持されていれば、その結果を陽性と記録する。
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、プリオンを不活性化するための組成物および方法、並びにプリオンまたは同様の高次構造変性タンパク質で汚染された材料の消毒手段に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
歴史上、バクテリア、真菌、寄生虫およびウィロイドなどの感染性作用因子には、種々の消毒および滅菌形態を伴う上手く確立された制御方法がある(例えば、蒸気滅菌法、乾燥滅菌法、低温殺菌法、細菌濾過法、エチレンオキサイド、グルタルアルデヒド、フェノールまたは他の消毒薬による処理、放射線照射など)。ウィルスの場合、pHを4.0またはそれ以下に低下させる方法、60℃で長期間加熱する方法、または高濃度の有機溶媒の使用も確立されている。更に、UV処理、ホルムアルデヒドおよび特定の抗ウィルス剤が使用されている。
【0003】
ここ数年間で、新らしく今まで知られていなかった種類の病原性作用因子が見つけられて、科学系の刊行物に報告されている。これはプリオンと呼ばれ、今日のヘルスケア産業が直面している最大の難題の一つである。プリオンは、バクテリアや他の既知の感染性作因とは異なる感染性粒子である。プリオンの正確な構造に対する確固たる証拠はないが、最近、プリオンに起因するものと思われる多数の疾病がヒトや動物の両者において確認されている。国際特許出願PCT/US00/14353号(特許文献1)(この出願の内容をここに参照として挿入する)に詳述されているように、プリオンに起因するヒトの疾病としては、クールー、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)および家族性致死性不眠症(FFI)が挙げられる。
【0004】
ヒトのプリオン病に加えて、動物の病気が、公知のプリオン病群に包含される。ヒツジやヤギのスクレイピーは恐らく、最も多く研究されている動物プリオン病である。幾つかの調査ラインでは、異型CJDと先に流行したウシ海綿状脳症(BSE)との関連を提唱している。成功した治療処置は展開されなかったため、結果として、これらの疾病は常に致死性である。前記問題を大きくしているのは、潜伏期がヒトで30年までであり得るということであって、これが科学者に重大な難題をもたらしており、「進行中の」流行病であるとも予測される。
【0005】
感染の恐れのある群としては、手術中に感染した医療用装置に接触し得る患者や、感染物質を分析する医療スタッフ、そして清掃および滅菌装置に携わるヘルスケア作業者が挙げられる。恐れのある群は広がっており、獣医、屠殺場の作業者、欧州で最初にウシまたは牛肉に接触する精肉業者、そして最近では、プリオン病潜伏期中のドナーから輸血または器官を譲り受けた人々も包含されると考えられている。
【0006】
プリオンの構造は、重大な研究課題であり、様々な見地が示されている。プリオンが極めて小さなウィルスであると考えている科学者もいるが、大抵の専門家は、プリオンが実際は、DNAまたはRNAコアを持たない感染性タンパク質であると考えている。特にこの見解は、哺乳類のPrP遺伝子が、溶解性の(非疾病)細胞型PrPcまたは不溶性の疾病型PrPSCであり得るタンパク質を表すというものである。多数の調査結果は、プリオン病が正常な細胞型から異常なPrPSc型への形質変換に由来することを示している。この2つの形態のアミノ酸配列には検出できるほどの差がない。PrPc型は、高度にメンブラン結合した33〜35kDaタンパク質から構成されており、これは消化時にタンパク質分解酵素Kによって分解する。しかし、PrPSc型は、変質された高次構造形態、特にハイレベルのβシート構造を有する。感染性の変質された高次構造形態と診断するのに有用なPrPSc型の特性は、27〜30kDaのタンパク質分解酵素耐性を有するコアである。感染性の変質された高次構造形態のもう一つの特有の特徴は、それが疎水性コアを獲得することである。
【0007】
汎用の消毒剤や滅菌剤は、容認できる時間ではプリオンにほとんど効果を発揮しない。プリオンを不活性化しようという試み、および/またはプリオンが通過するかもしれない表面を殺菌しようという試みに、驚くべき妨害が現われた。要求される条件が一般に厳しすぎるために、時間とコストの点のみならず、材料への損傷や伴われる職業上の健康の危険の点でも従来の消毒では実施できない。例えば、ある研究では、感染性PrPSc粒子は600℃で5〜15分の乾燥加熱後に試料中に検出されるが、その完全な崩壊は1000℃で15分間および200℃超で1〜10時間で達成される。IM.苛性ソーダ(pH14)で2時間処理することが提案されていたが、この処理は極めて腐食性が高く、スタッフに危険で、しかも材料に攻撃的である。米国特許第5633349号公報(特許文献2)には、尿素6〜8モルまたはチオシアン酸ナトリウム1〜2モルで最低12時間(好ましくは18時間)の処理を伴う生物材料の処理手順が記載されているが、これも同様の不利益を抱えている。
【0008】
除染し難いために、脳外科で用いられる手術用装置は1回だけ使用することが好ましいとして提案されたが、これは、高価であることに加えて廃棄のリスクを包含しており、また装置によっては実用的ではない。国際特許出願PCT/US00/14353号(特許文献3)には、ポリカチオン性デンドリマーを用いてプリオンを非感染性にする方法が記載されているが、この方法が可逆性であるか、持続性であるか、または産業上実行可能かどうかが明白ではない。
【0009】
PrPc型とPrPSc型が注目されていたが、前記タンパク質は、PrPc型の主要なαヘリックス構造とPrPSc型の主要なβシート構造との間のβシート含有中間体を表す中間形態であって、しかも変性剤(denaturant)の不存在下で溶解性を保持する中間体の中に存在し得ると提唱された。
【0010】
高次構造変性された不溶性タンパク質中への通常の溶解性タンパク質の構築または分解(misassembly)は、種々のほかの病気の原因となるかまたはそれと関連するものと考えられる。本発明は、プリオンとの関連について記載しているが、病気に関連する、他の不溶性または酵素耐性のコンフォーメーション変質されたタンパク質へ適用できると考えられよう。
【0011】
前記先行技術の論点は、オーストラリアで周知の事柄に関する容認されたものと解されるべきではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際特許出願PCT/US00/14353号
【特許文献2】米国特許第5633349号公報
【特許文献3】国際特許出願PCT/US00/14353号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、プリオンで感染された表面を消毒するための、改良された手段または少なくとも代替手段を提供することである。特に好ましい態様において、本発明は、プリオンをより有効に、すなわち従来技術の方法よりも与えられた時間内でより有効にまたはより短時間で有効に、不活性化させる。本発明の更に好ましい態様は、60℃以下で60分以内に4対数(4 log)以上の低下を達成する。場合により、本発明は、表面上以外の状態のプリオン、例えば、懸濁液中、または固体、液体もしくは気体媒体中または生物学系中のプリオンにも適用でき、またそうではなく、in vitroまたはin vivoでの使用を有していてもよい。本発明の幾つかの態様の目的は、改良された診断ツールを提供することであり、また他の態様は、抗体を調製するための新規エピマーを提供することである。
【0014】
本明細書で使用される「プリオン蛋白」という用語は、プリオン蛋白配列の全長と実質上同一の、他の相互作用または活性を有する変異種、フラグメント、融合物および類似体を包含するが、より簡便に使用でき、そして全ての二次構造形態を包含する。前記用語は、プリオン代用物、すなわちそれ自体はプリオンではないが、プリオンと同じ構造を有するかまたは同じ特性を示すタンパク質を包含するのにも使用され、プリオンが特定条件下でどのように機能するかを模擬または予想するのに使用できる。「PrPScプリオン蛋白」という用語も同様に広い意味を有するものとするが、その二次もしくは三次構造によって酵素耐性を示すプリオン蛋白に限定され、同様に酵素耐性を有する構造物を包含する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の開示
第一の態様によれば、本発明は、PrPScプリオン蛋白またはその代用物で汚染された表面を、
(1)プリオン蛋白を、非感染性分子量を有するフラグメントに開裂するのに有効な1種以上の酵素と、
(2)前記PrPScプリオン蛋白を高次構造変性(conformational unfolding)するが1種以上の前記酵素を変性(denaturing)しないように選択される1以上の作用因子と
の組み合わせを包含する処方を用いて同時に処理する工程を含む不活性化方法を提供する。
【0016】
第二の態様によれば、本発明は、
(3)プリオン蛋白の開裂を妨げることなく、1種以上の前記酵素の折り畳み(folding)を促進または保護するように選択された1以上の作用因子
を更に含む前記第一の態様の方法を提供する。好ましくは、条件は再生(refolding)より変性(unfolding)が有利になるように選択される。
【0017】
27kDa以下の分子量を有するタンパク質が非感染性でかつ安全であることが現在認められていることから、本発明の方法は、プリオンをその少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%が27kDa以下、好ましくは25kDa以下、より好ましくは23kDa以下のフラグメントへ消化または開裂することを予想している。とはいえ、将来、27kDa以下のプリオンが感染性であることが分かれば、本発明の方法は、タンパク質を安全な寸法のフラグメントに断片化するのに有用であろう。
【0018】
本明細書において「プリオン代用物(prion surrogate)」はFDAの定義に従い、即ちβ−フォールディング(folding)の存在による同様のタンパク質分解酵素耐性を有するタンパク質である。ここで、「作用因子」は、アニオン性界面活性剤、pH調節剤などの化学試薬と、圧力、温度、照射などの物理的および/または熱力学的条件、および本発明で要求されるような折りたたみ(folding)または変性(unfolding)を促進する、他のエネルギー的な影響に有効な非化学的因子の両者を包含する。折りたたみ作用因子(folding agent)は、「再生」作用因子(refolding agent)とも呼ばれる。変性作用因子(unfolding agent)は、「変性」因子(denaturing agent)とも呼ばれる。
【0019】
第三の態様によれば、本発明は、高次構造変性(conformational unfolding)するように選択された1以上の前記作用因子が、放射線照射、電界、磁界、エネルギー性の振動およびこれらの組み合わせから成る群より選択される1以上の作用因子を包含する第一および第二の方法を提供する。
【0020】
本発明の更に好ましい態様では、化学的および物理的な作用因子の組み合わせが用いられ、例えば、前記工程(2)の作用因子は、超音波による超音波処理と組み合わせたアニオン界面活性剤を包含する。
【0021】
好ましくは、プリオンは、処理中、超音波領域の音波に付される。しかし、変性(unfolding)は、マイクロ波、無線周波数域の放射線、赤外線、可視光または紫外線スペクトルなどの別のタイプの放射線、聞き取れるほどのまたはより低い周波数の音波、磁気攪拌もしくはボルテックス攪拌などの機械的な手段からのエネルギー性振動によって誘導または促進されてもよい。エネルギー性入力の他の形態は、電子線照射、レーザ照射または電気分解からのものを包含し得る。
【0022】
他の態様によれば、本発明は、前記方法を行うのに使用するための組成物、前記方法で製造される新規プリオンフラグメント、および前記フラグメントから産生される新規抗体にまで及ぶ。
【0023】
本発明によれば、汚染された表面、例えばPrPSc蛋白で汚染された手術用装置を、
(1)プリオン蛋白を、非感染性分子量(現今では27kDa以下)のフラグメントに開裂するのに有効な1種以上の酵素と、
(2)前記プリオン蛋白を高次構造変性(conformational unfolding)するように選択される1以上の作用因子と
の組み合わせを用いて処理する。
【発明の効果】
【0024】
PrPSc蛋白は、特徴として、タンパク質分解酵素を包含する酵素による攻撃に対する耐性を有する。理論に縛られたくはないが、本発明者らは、前記酵素による攻撃に対するPrPSc蛋白の耐性が、(βシート二次構造とαヘリックス構造との高い比率を有する)折りたたまれたコンフォメーションの結果であると仮定した。本発明は、接近して(gain access)PrPSc蛋白を開裂する酵素にとって十分なPrPSc蛋白の変性(unfolding)を選択された条件で促進するように1以上の作用因子を選択することができるという構想を用いている。
【0025】
多くのタンパク質は、その本来の立体的な折りたたみパターン(「二次および三次構造」)を緩めて「変性」(denature)される傾向がある。変性(denaturation)は、分子内相互作用、特に水素とジスルフィド結合との間の分子内相互作用の崩壊と、それによる、実質的には全ての天然タンパク質が分子の少なくとも一部に有しかつタンパク質の活性に対して通常は明確に応答し得る前記二次構造の損失とを包含する。
【0026】
当業者は、酵素自体がタンパク質であり、かつタンパク質の変性(unfolding)を促進する作用因子によって容易に変性(denature)され易いことを認知している。変性作用因子(unfolding agent)が酵素と結合するために、酵素が目標物質と結合するのを妨げるかどうか、あるいは酵素の高次構造の変性(unfolding)を促進するために、変性作用因子が酵素を不活性化もしくは「変性」(denature)させるかまたはこれら効果の組み合わせを生じさせるかどうかは明白ではない。これに反して、PrPSc蛋白は、高い変性(unfolding)耐性を有する。従来は、含まれる酵素が、PrPScのように処理し難いタンパク質に影響を及ぼすのに有効な変性作用因子の存在下で活性を保持する系を処方するのは不可能であると考えられていた。驚くことに、本発明者らは、(i)特定の変性作用因子がPrPSc蛋白を選択的に変性(unfold)または緩和(relax)するが、選択された酵素を変性(unfolding/denaturing)しないこと、または(ii)折りたたみ作用因子が酵素の活性を選択的に促進または保持すると同時に、変性作用因子がプリオンを選択的かつ十分に変性(unfold)してプリオン切断用酵素とのアクセスを提供するように、折りたたみ作用因子(folding agent)と変性作用因子(unfolding agent)を組み合わせられることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
前記の本質的に相反する要求(desiderata)は、本発明では、作用因子を「折りたたみ」(folding)または「変性」(unfolding)を促進するものとして分類し、その後、酵素やPrPSc蛋白またはこれらの代用物への相対的な効果を決定することによって満たされる。
【0028】
(処理しようとする)前記表面は、最初、1以上の作用因子で処理され、そしてその後、1種以上の酵素を添加してもよいが、好ましい態様では、処理しようとする前記表面はこれらに同時に付される。
【0029】
前記酵素は、好ましくはタンパク質分解酵素である。好適な酵素は、
―非特定のタンパク質分解酵素、例えば、セリン-、アスパラギン酸-、メタロプロテイナーゼ、
―より具体的なタンパク質分解酵素、例えば、ケラチナーゼ、コラゲナーゼなど、
―タンパク質分解活性を有する前記以外の酵素
である。
【0030】
プリオン蛋白を高次構造変性するように選択される1以上の作用因子は、酵素によってプリオン蛋白へのアクセスを与えるのに有効であるように選択される。
【0031】
一般に、ポリペプチド鎖の折りたたみ(folding)−変性(unfolding)は、熱力学的に可逆性の平衡プロセスであっても不可逆性のものであってもよい。
【0032】
変性(unfolding/denaturation)を促進する作用因子の例としては、以下のものが挙げられる。
(1)熱は、約150℃まで昇温する。
(2)pHは、3以下でかつ9を超えるか(溶媒に近づき易い多数の側鎖残基のイオン化から得られる包括的な効果)、またはある分子では、特定の基のイオン化に起因して局所的な効果に帰することがある(例えば、セリンプロテアーゼは、カルボキシレートのN-末端アミノ基をイオン化する)。
(3)選択された有機溶媒は、タンパク質を変性(denature)、溶解または膨潤し易い。一般に、前記生成物は、完全に変性(unfold)されずに、本来の状態とは異なって整列された構造を有する。ヘリカル構造(すなわち、変性(unfolding))を与える溶媒は、例えば、N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、m-クレゾール、ジオキサン、CHCl3、ピリジン、ジクロロエチレンおよび2-クロロエタノールである。この群は、アルコール、エタノール、n-プロパノール、メタノール(特に0.01%HClとの混合物)のように、水素結合を形成する傾向の弱い溶媒も包含する。前記構造を破壊し易い溶媒、例えば、高濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)、ジクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸並びに他の求核性溶媒も包含される。
(4)特定の有機溶質およびカオトロピック剤。例えば、尿素、グアニジン塩酸塩(GuHCl)など。6〜8M GuHClの場合、ランダムなコイル巻き(coiled)ポリペプチドへの転移は、例外的に安定なタンパク質を除いて、室温で完了する。これら作用因子は、温度、pH、他の試薬や条件に著しく影響され得る。
【0033】
(5)特定の界面活性剤。イオン界面活性剤は、タンパク質を結合させる傾向があり、しかも三次構造の変性(unfolding)を開始する。アニオン性洗剤は、非常に強力な変性剤(denaturant)である。例えば、ナトリウムドデシルスルフェート(SDS)は、多数の(だが全てではない)タンパク質を、臨界ミセル濃度に近い濃度で完全に変性(unfold)できる。ドデシルベンゼンスルホネートも変性剤(denaturant)である。これらの洗剤は、洗剤の疎水性部がタンパク質の整列された構造と相互作用してミセル状領域を形成することがあると考えられるため、必ずしも完全な変性(unfolding)をもたらさない。カチオン性界面活性剤は通常、アニオン性界面活性剤よりも有効性の低い変性剤(unfolding agent)である。ドデシルエトキシスルフェートの、ウシ血清アルブミン(BSA)変性傾向は、エトキシ基の増加と共に低下して、エトキシ基が6個以上になると消失する。
(6)無機塩は、タンパク質中での高次構造転移を誘導することがある。LiBr、CaCl2、KSCN、NaI、NaBr、ナトリウムアジドなどは、強力な変性剤である。これらの塩は、タンパク質を必ずしも完全に変性(unfold)しないが、残渣の整列構造は、昇温などのエネルギー入力によって破壊され得る。CNS−>I−>Br−>NO3−>Cl−>CH3COO−>SO4−などのアニオンは、グアニジン塩やテトラアルキルアンモニウム塩と同様の特性を示す。しかし、(GuH)2SO4は、変性(denaturation)に対して特定のタンパク質を保護することが分かった。
(7)チオグリコールなどのS−S結合の切断を引き起こす作用因子。
(8)アミノ酸の親水性または疎水性残基に強い親和性を有する他の物質。
【0034】
(9)特定の表面、および空気/液体界面などのように、ゼオライトを含む界面への吸着。これらは、限定的ではないが、例えば微分割アルミナ、シリカおよび他のクロマトグラフおよび静止相を包含する。
(10)超音波エネルギー、赤外線およびマイクロ波照射、高い圧力、そして電界および/または磁界の作用にプロトンを付す事は、変性(unfolding)(再生(refolding))を促進することができ、しかも浸透または攪拌が有効なことがある。
【0035】
本発明の好ましい形態では、作用因子の組み合わせを使用する。例えば、界面活性剤および/または好適な溶媒と超音波との組み合わせを用いる。超音波などからのエネルギーの入力が、酵素を変性(denaturing)するときよりも大きな速度でPrPSc蛋白を変性(unfolding)するために、折りたたみ(folding)/変性(unfolding)の平衡を進めるのに役立つかどうか、あるいはそれが単に、試薬または酵素のプリオンへのアクセスを提供するのに役立つかどうか、あるいは酵素を不活性化するのに有効であるかどうかは不確かである。エネルギーを提供する他の方法は、音速以下の領域の音波の適用を包含する。しかし、エネルギー性振動が、別の形態の電気機械的な放射線または磁気もしくはボルテックス攪拌などの機械手段からのエネルギー性の振動によって誘導されてもよい。電子線照射、レーザまたは電気分解からの別の形態のエネルギー入力も包含され得る。
【0036】
前述のように、大抵の前記変性剤(unfolding agent)は、酵素を変性(denature)するのに有効であると予想される。変性剤(unfolding agent)やその使用条件は、酵素を変性(denature)せずにPrPSc蛋白またはその代用物を消化させるように注意深く選択しなければならず、あるいは変性剤(unfolding agent)を折りたたみ剤(folding agent)と組み合わせなければならない。
【0037】
好適な折りたたみ剤は、以下のものを包含する。
(1)求核性溶媒および高度に水素結合した有機溶媒。ペプチド水素結合のエネルギーと、溶媒分子間の水素結合の強度とは競合関係にある。溶媒分子が強い水素結合によって結合されていれば、平衡はペプチド水素結合の安定化に向かってシフトする。ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ピリジンなどの溶媒、低濃度では、良好なプロトンアクセプターであるが弱いプロトンドナーであるジメチルスルホキシド(DMSO)が、ペプチド水素結合を崩壊する非常に弱い傾向を有し、そして特に球状タンパク質に、整列された構造を誘導し易い。
(2)多価アルコールなどの安定化溶媒(例えば、グリセロール、エチレングリコールおよびプロピレングリコール、蔗糖など)は弱いプロトン性である。安定化試薬の存在下では、タンパク質が高次構造的に安定に残され易く、安定化剤としても使用され得る。
(3)アルキル、フェニルまたはアルキルエトキシレート、プロポキシレートまたはこれらのコポリマー、アルキルポリグルコシドなどの非イオン性界面活性剤やサルコシナート(例えば、ナトリウム-(N-ラウロイル)サルコシナート)はタンパク質の三次構造を変更せず、しかも非特定共同的な相互作用による界面活性剤結合のかなり増加が開始する等温線領域で変性(unfolding)が生じる。SDSの効果は、非イオン性または両性界面活性剤の添加によって低下し得る。
(4)両性イオンおよび両性界面活性剤、
(5)高濃度のバッファー(例えば、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩)、
【0038】
(6)弱い疎水性領域と弱い親水性領域を交互に配置して含有する界面活性なホモ-、コ-またはブロック-ポリマー、
(7)保護剤、例えば、硫酸化物、デオキシコール酸エステル、グリコサミノグリカンなど。折りたたみ剤(folding agent)を変性剤(unfolding/denaturing agent)と組み合わせれば、前記作用因子と条件は、酵素を保護または再生すると同時に、酵素によるアクセスにとって十分にプリオンを不可逆的に変性(unfolding)するかまたは少なくとも開環するように選択されなければならない。例えば、pHおよび/または温度は、折りたたみ剤が酵素に選択的に作用すると同時に、変性剤(unfolding agent)がPrPSc蛋白に選択的に作用するように選択されてよい。
【実施例】
【0039】
発明を実施するための最良の形態
高含量のグロブリンを含有するウシアルブミン(シグマ(Sigma)社の製品A7906)、β-ガラクトシダーゼ(G7279)およびウサギ筋肉ミオシン(M0163)を、低溶解性でかつ高含量のβ-シートを含むタンパク質モデルとして使用した。前記タンパク質の分子量は、プリオンよりもかなり大きい。実験に使用した大抵のプロテアーゼがプリオンと同等の分子量(20〜35KDa)を有することから、酵素消化後のペプチドフラグメントの分子量の確認がより容易である。
【0040】
SDS-PAGEは、ラエムリ・ユーケイー(Laemmli U. K.)著、ネイチャー、227、680〜685頁(1970年)に記載の方法を用いて行った。タンパク質溶液を、2%SDSを含有する試料バッファー中で2分間煮沸した。1.5mmのポリアクリルアミドスラブゲル(8〜12%)1レーンにつきタンパク質10ミリリットルを添加して、非還元条件に付した(すなわち、試料バッファー中にはβ-メルカプトエタノールがなかった)。染料前面がゲルの底部に達するまで、電気泳動を150Vで1時間行った。次に、ゲルを取り出して、クーマシーブリリアントブルー(Coomassie brilliant blue)R-250(シグマ社製)または銀染料(バイオ-ラッド(Bio-Rad)社製)を用いた染色によってタンパク質バンドを可視化した。タンパク質の分子量は、予備染色した低分子量マーカー(バイオ-ラッドマーカー161−0318)を用いて得られた較正曲線を使用することにより求めた。
【0041】
変性剤(unfolding agent)と酵素の組み合わせ作用後に14.4KDa(リソザイムの分子量)以上の分子量を有するフラグメントが検出されなければ、タンパク質の開裂は十分であると考えられた。これは、処理が代用物に有効であったことを示している。
【0042】
14.4KDa以上の分子量を有するペプチドフラグメントがあれば、結果は陽性と記録された。
【0043】
本発明の方法が、プリオンを不活性化にするのに使用できるが代用物を開裂しないことを明らかにするため、プリオニクス・アクチエンゲゼルシャフト(Prionics AG)で開発されたプリオン検出試験を用いた。
「プリオニクス-チェック」は、動物組織内のプリオンを検出するための免疫学的な試験であって、プリオニクス・アクチエンゲゼルシャフトで開発された新規抗体を使用する。反応混合物中に残っているPrPScを抗体と結合させて、抗体と結合した酵素を用いて検出する。
【0044】
表1に示す前記溶液のアリコート100mLに、組換えプリオン蛋白約1μgを添加し、付録1に記載の手順に従ってプリオニクス-チェックを行った。
【0045】
酵素消化後にPrPScが検出されれば、結果は陽性であると記録した。
【0046】
表1は、対象実験1−1〜6−1において、分子量14.4kDa以上のフラグメントが検出され、同様にPrPScが検出されたことを示している。しかし、実験1−2〜6−2では、分子量14.4kDa以上のフラグメントが検出されず、またPrPScが検出されなかった。
1−1は、1−2が変性剤(unfolding agent)(3%DOBS)を含んで70℃、30分で有効であったことから、1−2とは異なる。
2−2および3−2はそれぞれ超音波処理を包含する点で、2−1および3−1と異なる。2−2では、変性剤(unfolding agent)3%DOBSを25%Terric164(折りたたみ剤(folding agent))と組み合わせることにより、40kHzで超音波処理しながら25℃で有効であった。3−2では、変性剤(unfolding agent)としての10%SDSと折りたたみ剤(folding agent)としての両性イオン界面活性剤を用いることにより、2.6mHzで同様の結果が得られた。
4−2は、ホウ砂をSDSと組み合わせて、より高温で行った点で、4−1とは異なる。
5−2は、ホウ素を用いずにDOBSとTritonX-100を組み合わせた点で、5−1とは異なる。
6−2は、DMSOの濃度を可逆的な変性(unfolding)(0.05%)から不可逆性の変性(unfolding)(0.5%)へ増加させた点で、6−1とは異なる。
【0047】
本明細書の記載から当業者には明白なように、本発明は、本明細書に記載した本発明の概念を逸脱することなく、作用因子の他の組み合わせを用いて行ってよい。
【0048】
【表1】
【表2】
【0049】
DOBS=ドデシルベンゼンスルホン酸(シグマ社製No.D2525)
DMSO=ジメチルスルホキシド(シグマ社製No.D5879)
タンパク質分解酵素=サブチリシン・カールスバーグ(Subtilisin Carlsberg)(シグマ社製No.P5380)
40kHzでの超音波処理は、ユニソニックス・プライアトリー・リミテッド(UNISONICS Pty Ltd.)製の超音波浴を用いて行った。
2.6mHzでの超音波処理は、ディソニックス・プライアトリー・リミテッド(Disonics Pty Ltd.)製の超音波噴霧器を用いて行った。
【0050】
付録 1
プリオニクス-チェック試験法
以下のプロトコルは、代表的な天然起源感染作用因子として公知の組換え源からのタンパク質分解酵素耐性コアPrPSCを用いて表している。プリオンのタンパク質分解酵素耐性コアは感染性ではないが、感染性作用因子の存在を表示することが実験から分かった。
1.PrPScを1μgまたはPrPScを1μg含有するBSE感染した動物の脳ホモジネートを秤量し、脱イオン水1mLを加えて再構成する。
2.試験溶液10mLに添加して、適当な不活性化プロトコルに付す。
3.試験溶液のアリコート10μLを採取して、それを試料バッファー10μLに添加する。
4.内標準法のために使用される未処理のPrPSC溶液(陽性コントロール)と試験すべきの溶液についてSDS−PAGEを行う。
タンパク質またはタンパク質フラグメントを全て、その寸法に応じて電界中で分離する。小さなタンパク質は大きなタンパク質よりも速く移動する。ある時間後、分解プリオン蛋白の最も小さなフラグメントがゲルから移動すると同時に、耐性PrPScフラグメントがゲルの半分より下側に現われるであろう。プリオン蛋白がタンパク質分解酵素耐性を残している対照試料では、非分裂PrPSc分子がゲルのより高い位置まで残っているであろう。
【0051】
1.タンパク質をウェスタンブロット法によってゲルからニトロセルロースメンブランへ移し取る。
2.モノクローナル抗体(プリオニクス製品No.01-020)を加える。
3.タンパク質と結合させて、その後、非結合抗体を洗い流す。
4.最初の抗体と結合した西洋わさびペルオキシダーゼを化学発光物質(アマーシャム・ライフ・サイエンス(AMERSHAM Life Science)社製のECL製品No.RPN2209)と反応させる。
5.メンブランをX線フィルムに焼き付けて、フィルムを現像する。
6.プリオン蛋白が含まれているかどうか、10回評価する。抗体がプリオン蛋白の分子量に対応する位置で保持されていれば、その結果を陽性と記録する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PrPScプリオン蛋白またはその代用物で汚染された表面、懸濁液または溶液を
(1)プリオン蛋白を、非感染性分子量を有するフラグメントに開裂するのに有効な1種以上の酵素と、
(2)前記PrPScプリオン蛋白を高次構造変性(conformational unfolding)するが、1種以上の前記酵素を変性(denaturing)しないように選択される1以上の作用因子と
の組み合わせを用いて処理する工程を含む方法。
【請求項2】
前記処理が、開裂後に、予め決められた分子量よりも小さな分子量を有するタンパク質フラグメントの予め決められた割合をもたらすように選択される請求項1記載の方法。
【請求項3】
開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が27kDa以下の分子量を有する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が25kDa以下の分子量を有する請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が23kDa以下の分子量を有する請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
前記組み合わせに
(3)プリオン蛋白の開裂を妨げることなく、1種以上の前記酵素の折り畳み(folding)を促進または保護するように選択された1以上の作用因子
が更に含まれている請求項1記載の方法。
【請求項7】
高次構造変性するように選択された1以上の前記作用因子が、照射、電界、磁界、エネルギー性の振動およびこれらの組み合わせから成る群より選択される1以上の作用因子を包含する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
エネルギー性の振動が、超音波、電磁波または機械的な振動のうち1以上である請求項7記載の方法。
【請求項9】
1種以上の前記酵素が、タンパク質分解酵素およびタンパク質分解活性を有する酵素から選択される請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
変性(unfolding)を促進するように選択される1以上の前記作用因子が、熱、pH、タンパク質を変性させ易い有機溶媒、カオトロピック剤、タンパク質を結合させ易い界面活性剤、強いタンパク質変性剤である無機塩、S−S結合を切断させる試薬、アミノ酸の親水性残渣に対して強い親和性を有する物質、アミノ酸の疎水性残渣に対して強い親和性を有する物質、表面での吸着を促進する物質、アニオン性界面活性剤およびこれらの組み合わせから成る群より選択される請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記折り畳み作用因子(folding agent)が、求核性溶媒、弱いプロトン性安定化溶媒、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、両性イオンおよび両性界面活性剤、バッファー、界面活性なホモ-コポリマーまたはブロック-コポリマー、硫酸化物、デオキシコール酸エステル(deoxycholate)、グリコサミノグリカンおよびこれらの組み合わせから成る群より選択される請求項6および請求項6に従属する請求項7〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
(1)プリオン蛋白を、非感染性分子量を有するフラグメントに開裂するために有効に選択される1種以上の酵素と、
(2)PrPScプリオン蛋白を高次構造変性するが、1種以上の前記酵素を変性(denaturing)しないように選択される1以上の作用因子と
を含有する、PrPScプリオン蛋白またはその代用物で汚染された表面を処理するための組成物。
【請求項13】
1以上の前記作用因子が、開裂後に、予め決められた分子量よりも小さな分子量を有するタンパク質フラグメントの予め決められた割合をもたらすように選択される請求項12記載の組成物。
【請求項14】
1以上の前記作用因子が、開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が27kDa以下の分子量を有するように選択される請求項12記載の組成物。
【請求項15】
1以上の前記作用因子が、開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が25kDa以下の分子量を有するように選択される請求項12記載の組成物。
【請求項16】
1以上の前記作用因子が、開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が23kDa以下の分子量を有するように選択される請求項12記載の組成物。
【請求項17】
プリオン蛋白の開裂を妨げることなく、1種以上の前記酵素の折り畳み(folding)を促進または保護するように選択される1以上の作用因子
を更に含有する請求項12記載の組成物。
【請求項18】
PrPScプリオン蛋白またはその代用物で汚染された表面を、請求項12〜17のいずれかに記載の組成物を用いて処理する方法。
【請求項19】
表面が、医療用または手術用装置の表面である請求項18記載の方法。
【請求項20】
表面が、食品調製用または病院の作業面である請求項18記載の方法。
【請求項21】
本出願明細書の実施例に実質上記載の方法。
【請求項1】
PrPScプリオン蛋白またはその代用物で汚染された表面、懸濁液または溶液を
(1)プリオン蛋白を、非感染性分子量を有するフラグメントに開裂するのに有効な1種以上の酵素と、
(2)前記PrPScプリオン蛋白を高次構造変性(conformational unfolding)するが、1種以上の前記酵素を変性(denaturing)しないように選択される1以上の作用因子と
の組み合わせを用いて処理する工程を含む方法。
【請求項2】
前記処理が、開裂後に、予め決められた分子量よりも小さな分子量を有するタンパク質フラグメントの予め決められた割合をもたらすように選択される請求項1記載の方法。
【請求項3】
開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が27kDa以下の分子量を有する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が25kDa以下の分子量を有する請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が23kDa以下の分子量を有する請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
前記組み合わせに
(3)プリオン蛋白の開裂を妨げることなく、1種以上の前記酵素の折り畳み(folding)を促進または保護するように選択された1以上の作用因子
が更に含まれている請求項1記載の方法。
【請求項7】
高次構造変性するように選択された1以上の前記作用因子が、照射、電界、磁界、エネルギー性の振動およびこれらの組み合わせから成る群より選択される1以上の作用因子を包含する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
エネルギー性の振動が、超音波、電磁波または機械的な振動のうち1以上である請求項7記載の方法。
【請求項9】
1種以上の前記酵素が、タンパク質分解酵素およびタンパク質分解活性を有する酵素から選択される請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
変性(unfolding)を促進するように選択される1以上の前記作用因子が、熱、pH、タンパク質を変性させ易い有機溶媒、カオトロピック剤、タンパク質を結合させ易い界面活性剤、強いタンパク質変性剤である無機塩、S−S結合を切断させる試薬、アミノ酸の親水性残渣に対して強い親和性を有する物質、アミノ酸の疎水性残渣に対して強い親和性を有する物質、表面での吸着を促進する物質、アニオン性界面活性剤およびこれらの組み合わせから成る群より選択される請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記折り畳み作用因子(folding agent)が、求核性溶媒、弱いプロトン性安定化溶媒、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、両性イオンおよび両性界面活性剤、バッファー、界面活性なホモ-コポリマーまたはブロック-コポリマー、硫酸化物、デオキシコール酸エステル(deoxycholate)、グリコサミノグリカンおよびこれらの組み合わせから成る群より選択される請求項6および請求項6に従属する請求項7〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
(1)プリオン蛋白を、非感染性分子量を有するフラグメントに開裂するために有効に選択される1種以上の酵素と、
(2)PrPScプリオン蛋白を高次構造変性するが、1種以上の前記酵素を変性(denaturing)しないように選択される1以上の作用因子と
を含有する、PrPScプリオン蛋白またはその代用物で汚染された表面を処理するための組成物。
【請求項13】
1以上の前記作用因子が、開裂後に、予め決められた分子量よりも小さな分子量を有するタンパク質フラグメントの予め決められた割合をもたらすように選択される請求項12記載の組成物。
【請求項14】
1以上の前記作用因子が、開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が27kDa以下の分子量を有するように選択される請求項12記載の組成物。
【請求項15】
1以上の前記作用因子が、開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が25kDa以下の分子量を有するように選択される請求項12記載の組成物。
【請求項16】
1以上の前記作用因子が、開裂後のタンパク質フラグメントのうち少なくとも90%が23kDa以下の分子量を有するように選択される請求項12記載の組成物。
【請求項17】
プリオン蛋白の開裂を妨げることなく、1種以上の前記酵素の折り畳み(folding)を促進または保護するように選択される1以上の作用因子
を更に含有する請求項12記載の組成物。
【請求項18】
PrPScプリオン蛋白またはその代用物で汚染された表面を、請求項12〜17のいずれかに記載の組成物を用いて処理する方法。
【請求項19】
表面が、医療用または手術用装置の表面である請求項18記載の方法。
【請求項20】
表面が、食品調製用または病院の作業面である請求項18記載の方法。
【請求項21】
本出願明細書の実施例に実質上記載の方法。
【公開番号】特開2011−432(P2011−432A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126859(P2010−126859)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願2002−562405(P2002−562405)の分割
【原出願日】平成14年1月31日(2002.1.31)
【出願人】(500247091)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願2002−562405(P2002−562405)の分割
【原出願日】平成14年1月31日(2002.1.31)
【出願人】(500247091)
【Fターム(参考)】
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