説明

プリオン感染物質で汚染された表面を洗浄および除染する処方物

【課題】タンパク質関連疾患で汚染された医療機器の表面を処理すること。
【解決手段】タンパク質関連疾患(プリオンなど)で汚染された医療機器の表面を処理する方法は、この表面と過酸化物イオン源を含む組成物(例えば、少なくとも1.5M過酸化物のモル濃度の過酸化水素(約5%過酸化水素と等価である)および好ましくは、約2M過酸化物(約7%過酸化水素))とを接触する工程を含む。上記組成物は必要に応じてゲル状である。上記組成物は上記表面との接触において、全てのタンパク質関連疾患汚染または実質的に全てのタンパク質関連疾患汚染が除去されるまで、約2時間保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は生物学的除染の分野に関する。本発明は、医療機器、歯科用機器、および薬学的機器からの有害な生物学的物質(例えば、プリオン(タンパク質性感染性因子))の洗浄ならびに除去および/または破壊に関連する特定の適用を見出し、そしてそれに対する特定の参照とともに記載される。しかしながら、本発明の方法およびシステムはプリオン感染物質に汚染された幅広い範囲の装置、機器および他の表面(例えば、製剤施設、食品加工施設、床を含む実験動物研究設備、作業台、装置、ケージ、発酵タンク、流体ラインなど)の生物学的除染において利用され得るこが認識される。
【背景技術】
【0002】
用語「プリオン」は、ヒトおよび/または動物において、比較的に類似する脳疾患を引き起こすタンパク質性感染性因子の記載に使用され、ここでこの脳疾患は常に致死的である。これらの脳疾患は概して、伝染性海綿状脳症(TSE)と言われる。TSEとしては、ヒトにおけるCreutzfeldt−Jakob病(CJD)および変種のCJD(vCJD)、ウシにおけるウシ海綿状脳症(「狂牛病」としても知られる)、ヒツジにおけるスクラピー、およびオオジカにおける消耗病が挙げられる。これら疾患の全ては、上記動物または上記特定の疾患に感受性である動物の、神経学的器官を攻撃する。これらの疾患は、最初の長い潜伏期間に続き、短期間の神経学的症状(痴呆および協調運動障害、そして最終的に死を含む)によって特徴付けられる。
【0003】
これらの疾患を引き起こす感染性因子は、核酸に関連しない単純タンパク質であると考えられる。そのようなプリオン疾患についての病原性機構は、最初に正常な宿主コード化タンパク質が関係することが提唱される。上記タンパク質は、異常な形態(プリオン)へのコンホメーションの変化を起こし、これは、自己伝播の能力を有する。この変化の正確な原因は、現在は不明である。上記タンパク質の異常な形態は、体内で有効に破壊されず、また特定の組織(特に、神経細胞)中への蓄積が、最終的に、細胞死のような組織の損傷を引き起こす。一旦、有意な神経組織の損傷が起こると、臨床症状が観察される。
【0004】
プリオン疾患は、従って、タンパク質凝集疾患(これらとしてはまた、いくつかの他の致死的疾患(例えば、アルツハイマー病およびアミロイドーシス)が挙げられる)に分類され得る。ヒトにおける流行性プリオン疾患の大部分(人口の約1:1,000,000に起こる)であるCJDの場合は、事例の約85%は散発的に起こると考えられ、約10%は遺伝したと考えられ、そして約5%は医原性に起こると考えられる。
【0005】
高い伝染性であるとは考えられないが、プリオン疾患は、特定の危険性の高い組織(脳、脊髄、大脳髄液、および眼を含む)から感染され得る。プリオンに感染した患者の外科手術の手順の後に、残留物を含むプリオンは、外科手術の機器(特に、神経外科的機器および眼科学的機器)に残存し得る。上記長い潜伏期間中に、外科手術の候補者がプリオンの保有者であるかどうかを判断することは非常に難しい。
【0006】
微生物の除染の種々のレベルが、当業者によって認識される。例えば、衛生的にすることは、洗浄によってゴミまたは病原体が無いことを意味する。消毒は、有害な微生物を破壊するための洗浄を要求する。生物学的な汚染の制御の最も高いレベルである滅菌は、生存している全ての微生物の破壊を意味する。
【0007】
従来の意味で、生きていないかまたは複製しない特定の生物学的物質(例えば、プリオン)は、それにもかかわらず、複製および/または有害な存在への転換の能力があることが、現在公知である。本明細書中において、用語「不活化」を、そのような有害な生物学的物質(例えば、プリオン)、および/またはその複製する能力もしくは有害な種へのコンホメーションの変化を起こす能力の破壊を含んで、使用する。
【0008】
液体滅菌システム(例えば、過酢酸および過酸化水素を利用する液体滅菌システム)は、微生物の除染において広く使用されている。しかしながら、プリオンは、周知のことであるが非常に強く、そして慣用的な除染および滅菌の方法に対して抵抗を示す。微生物とは異なり、プリオンは、破壊するもしくは分裂させるDNAまたはRNAを持たない。プリオンは、その疎水性の性質のため、凝集して不溶性の塊になる傾向がある。微生物に功を奏する滅菌をもたらす多くの条件下で、プリオンはより堅固な塊を形成しこの塊は塊自体およびその中にあるプリオンを滅菌プロセスから保護する。プリオン不活化についての世界保健機関(1997)協約は、高濃度の水酸化ナトリウムまたは次亜塩素酸塩中に2時間機器を浸漬し、続いて、1時間のオートクレーブを提唱している。他に提案される方法としては、長時間の蒸気滅菌が挙げられる。これらの攻撃的な処理は、医療用デバイス、特に可撓性のある内視鏡およびプラスチック部品、真鍮部品、またはアルミニウム部品を有する他のデバイスに、しばしば不適合である。多くのデバイスは、高温への曝露によって損傷を受ける。強アルカリのような化学的処理は、一般的に、医療用デバイス材料または医療用デバイス表面に損傷を与える。グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、エチレンオキシド、過酸化水素水、ほとんどのフェノール類、アルコール、ならびに乾熱、煮沸、冷凍、UV、電離、およびマイクロ波放射のようなプロセスは一般的に、無効であると報告されている。例えば、水における3%過酸化水素溶液はプリオンに対して無効であることが見出されている(非特許文献1)。プリオンに対して効果的であり、さらに表面に適合性のある製品およびプロセスの明確な必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Brownら,J.Infectious Diseases,1982,May,Vol.145,No.5,pp.683−687
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、プリオン感染物質によって汚染された表面の処理の新規でありかつ改良された組成物および方法であって、上に参照された問題などを克服する組成物および方法を提供する。
【0011】
(発明の要旨)
本発明の1つの局面に従って、プリオンに汚染された表面の処理の方法を提供する。上記方法は、上記表面と少なくとも5重量%の過酸化水素を含む水溶性組成物とを、上記表面上でプリオンが少なくとも実質的に減少するのに十分な時間接触する工程を含む。
【0012】
本発明の別の局面に従って、プリオンによって汚染されたデバイスの処理の方法を提供する。上記方法は、ゲル状組成物で上記デバイスの表面をコーティングする工程を含み、ここでこのゲル状組成物は、少なくとも1.5Mのモル濃度である過酸化物および湿潤剤を含む。上記ゲルは、上記表面と少なくとも1時間接触を維持される。
【0013】
本発明の別の局面に従って、プリオンに汚染された表面の処理のための組成物を提供する。上記組成物は5重量%〜30重量%の過酸化水素、700cps〜4000cpsの粘度を提供するのに十分な量の増粘剤、5重量%〜30重量%の湿潤剤、少なくとも0.1重量%の腐食防止剤、および過酸化水素安定剤を含む。
【0014】
本発明の少なくとも1つの実施形態の利点の1つは、機器に対して温和なことである。
【0015】
本発明の少なくとも1つの実施形態の別の利点は、プリオンを迅速にかつ有効に不活化することである。
【0016】
本発明の少なくとも1つの実施形態の別の利点は、広範囲の物質および広範囲のデバイスに適合することである。
【0017】
本発明の少なくとも1つの実施形態の別の利点は、洗浄および除染を単一工程において実施することが可能なことである。
【0018】
本発明の少なくとも1つの実施形態の別の利点は、洗浄プロセス中の、医療用機器および洗浄装置の二次汚染ならびに医療従事者に対する危険な因子を減少させることである。
【0019】
本発明は、さらに以下を提供する。
(項目1)
プリオンで汚染された表面を処理する方法であって、以下:
該表面と少なくとも1.5Mのモル濃度である過酸化物を含む水溶性組成物とを該表面上のプリオンが少なくとも実質的に減少するのに十分な時間接触させる工程
によって特徴付けられる、方法。
(項目2)
前記接触工程が、以下:
プリオンで汚染された機器の表面を、少なくとも1.5Mのモル濃度である過酸化物、および湿潤剤を含むゲル状組成物でコーティングする工程;および
該表面との接触において、該ゲルを少なくとも1時間保持する工程、
によってさらに特徴付けられる、項目1に記載の方法。
(項目3)
項目1または項目2に記載の方法であって、以下:
前記過酸化物が過酸化水素を含むこと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目4)
項目1〜項目3のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記過酸化物濃度が前記組成物の6重量%〜8重量%であること、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目5)
項目1〜項目4のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記接触工程が前記表面と前記組成物とが少なくとも約1時間接触する工程を含むこと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目6)
項目5に記載の方法であって、以下:
前記接触工程が前記表面と前記組成物とが少なくとも約2時間接触する工程を含むこと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目7)
項目1〜項目6のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物が少なくとも500cpsの粘度を有すること、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目8)
項目7に記載の方法であって、以下:
前記組成物が700cps〜4000cpsの粘度を有すること、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目9)
項目7および項目8のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物がセルロース誘導体、アクリル酸ベースのポリマー、ゴム、例えばグアー、グアー誘導体、アルギネート、アルギン酸誘導体、非イオン性界面活性剤、非イオン性ポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される増粘剤を含むこと、
によってさらに特徴付けられる方法。
(項目10)
項目9に記載の方法であって、以下:
前記増粘剤がヒドロキシエチルセルロースまたはこれらの疎水的改変誘導体を含むこと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目11)
項目1〜項目10のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物が約4〜8のpHを有すること、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目12)
項目11に記載の方法であって、以下:
前記組成物が約5〜6のpHを有すること、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目13)
項目1〜項目12のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物が前記表面上で水分を保持するための湿潤剤をさらに含むこと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目14)
項目13に記載の方法であって、以下:
前記湿潤剤がソルビトール、グリセリン、グルシトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、およびこれらの混合物からなる群より選択されること、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目15)
項目14に記載の方法であって、以下:
前記湿潤剤がソルビトールを含むこと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目16)
項目14および項目15のいずれかに記載の方法であって、以下:
前記湿潤剤が前記組成物の約5重量%から30重量%で存在すること、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目17)
項目1〜項目16のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物が腐食防止剤、過酸化水素安定剤、および界面活性剤からなる群の少なくとも1つをさらに含むこと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
(項目18)
項目1〜項目17のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記表面が医療機器の表面であること、
によって特徴付けられる、方法。
(項目19)
プリオンで汚染された表面を処理するための組成物であって、以下:
5重量%〜30重量%の過酸化水素;
700cps〜4000cpsの粘度を提供するのに十分な量の増粘剤;
5重量%〜30重量%の湿潤剤;
少なくとも0.1重量%の腐食防止剤;および
過酸化水素安定剤
によって特徴付けられる、組成物。
(項目20)
項目19に記載の組成物であって、以下:
該組成物のpHが5〜6であること、
によってさらに特徴付けられる、組成物。
(項目21)
項目19および項目20のいずれか1項に記載の組成物であって、以下:
前記過酸化水素が6重量%〜8重量%の濃度であること、
によって特徴付けられる、組成物。
本発明のさらなる利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な記述を読み、そして理解することによって、当業者に明らかになる。
本発明は、種々の成分および成分の配列の形態をとり得、ならびに種々の工程および工程の配列の形態をとり得る。これらの図面は、好ましい実施形態を例証する目的のためのみであり、そして本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明による組成物およびコントロール処方物に曝露した時間に対する、残存する回腸流体依存生物(IFDO)の数のプロットである。
【図2】1重量%〜7重量%の過酸化水素を含む組成物に曝露した時間に対する、残存するIFDOの数のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
プリオンによって汚染された表面を除染する方法は、上記処理される表面と過酸化水素を含む組成物とを接触する工程を含み、ここで上記表面からプリオンを排除するおよび/または上記表面上でプリオンを破壊するために、この組成物は、十分な濃度の過酸化水素を含みおよび上記表面と十分な時間接触する。予想外に、プリオンを水溶性組成物における比較的に高い濃度の過酸化水素(すなわち、上記組成物の約5重量%を超える過酸化水素、またはこれと等価のモルパーセントの過酸化物)で処理することによって、多くのプリオン(すなわち、99%より大きい破壊)が、比較的に短い時間(約1時間、またはそれ未満)で処理が達成されることが見出された。3時間で、より好ましくは約2時間またはそれ未満で6対数減少(最初に存在する100万個のプリオン毎に1以下)が達成される。
【0022】
上記処理は、ヒトプリオン(すなわち、ヒトの間で複製可能なプリオン)、ならびに他の動物種(例えば、ウシ、ヒツジ、およびマウス)において見出されるプリオンに対して有効である。例えば、ヒトにおけるCJDおよびvCJD、ウシにおけるBSE、およびヒツジにおけるスクラピーを引き起こすプリオンを除去する。上記プリオンは代表的に、生物体液および動物組織(例えば、血液、脳および神経系組織)に存在する。従って、汚染された表面を、過酸化水素が表面に残るプリオンに容易に近づきそしてプリオンを不活化することで、生物体液または生物組織からプリオンを除去するために処方された洗浄組成物によって処理することが好ましい。
【0023】
組成物は、アイテム(item)(例えば、医療施設、製剤施設、遺体安置施設、食肉加工施設、食品取り扱い施設など)を処理するために提供される。これは特に、外科手術で利用され(例えば、メス、剪刀、内視鏡、ピンセット、カテーテル、開創器、クランプ、スパーテルなど)、およびそこに特定の参照とともに記載される、医療機器およびその他の医療用デバイスの処理に適している。
【0024】
上記組成物は、好ましくは液体組成物または濃縮された組成物の形態(例えば、ゲルまたは泡状物)であり、これは処理される上記アイテムに適用される。適切な適用方法としては、上記組成物を除染される上記アイテム上に噴霧する工程、塗布器(例えば、ブラシまたはローラー)を用いて上記組成物を塗布する工程、または上記組成物中に上記アイテムを浸漬あるいは沈める工程が挙げられる。上記接触工程は、上記組成物の浸透を増加しおよび生物学的物体の除去を支援するために、攪拌または洗浄こすり洗いを伴い得る。
【0025】
医療機器において、好ましい組成物はゲルまたは濃縮された組成物に類似する形態である。上記ゲルは、上記組成物を上記機器上に長期間維持し、その結果、プリオンが感染した体液または組織により汚染された機器は洗浄が完了する前に乾かない。汚染された機器が完全に乾燥された場合、体液は固まり、そしてその除去が難しくなる。上記乾燥した残留物は、過酸化水素の浸透がより困難であり、そして残留しているプリオンの破壊がより困難である。過酸化水素を含む上記濃縮された組成物は、長期間(例えば、2時間以上、さらに好ましくは少なくとも4時間、そして8時間以上に至るまで、すなわち、上記アイテムが再処理区域に移され、そしてさらなる処理を受けるために十分な長さである)、上記機器が乾ききることを防ぐ。
【0026】
上記ゲル組成物または液体組成物は、上記機器を手術室または上記機器が使用された他の場所から、さらなる除染プロセス(例えば、さらなる洗浄、滅菌、消毒など)が行われる再処理区域に、安全に移動させることを可能にする。
【0027】
広範囲(例えば、壁、作業台、および大きな装置)の処理において、液体組成物は適している。
【0028】
上記汚染されたデバイス上でのプリオンの破壊に加え、上記組成物はまた、有害なウイルス(例えば、HIB、HIV、HBV、およびMRSA)の低いレベルの消毒を提供するのに有効である。上記デバイス上の他のタンパク質はまた、破壊されまたは不活化され、上記デバイスから、このタンパク質はより容易に除去される。
【0029】
上記組成物は、好ましくは水溶性であるが、他の溶媒(例えば、上記組製物中の有機溶媒)の使用もまた、検討される。水に加え、上記組成物は、過酸化物源を含む。上記過酸化物源は、好ましくは少なくとも5重量%、そして約30重量%に至り得る濃度の過酸化水素を含み、さらに好ましくは約6重量%〜8重量%の濃度、そして最も好ましくは約7重量%の濃度の過酸化水素を含む。より高濃度の過酸化水素が検討される一方で、約7重量%の濃度の過酸化水素を含む組成物は、約2時間以下での、あらゆる痕跡のプリオンの除去(少なくとも6対数減少)において有効であることが見出された。約99%の上記プリオンは、約1時間で破壊される。
【0030】
過酸化水素は、約3%〜55%(代表的には、約35%)の水溶液として市販され、ここでこの過酸化水素水は、その後、水および上記組成物の他の成分により、所望のレベルに希釈される。
【0031】
等価のモル量の過酸化物イオンを産生する他の過酸化物源もまた、検討される。例えば、上記組成物は、混合によって、過酸化物イオンを形成する試薬を含み得る。好ましくは、上記組成物中の上記過酸化物は、少なくとも1.75M(モル/リットル)のモル濃度で、5重量%の過酸化水素濃度と等価であり、さらに好ましくは少なくとも約2.18Mのモル濃度で、6重量%の過酸化水素濃度と等価であり、そして最も好ましくは約2.64Mのモル濃度(7%過酸化水素溶液と等価)である。
【0032】
上記組成物は必要に応じて、上記組成物に約500センチポイズ(centipoise)(cps)、またはそれより高い粘度を与える増粘剤を含む。上記組成物は、上記機器をコートし、そして血液および体液の乾燥を防ぐような十分な粘度を有し、一方で、噴霧、浸漬、塗布または他の選択された適用方法による上記ゲル組成物の適用を可能にする。粘度は、送達方法および適用方法に影響する特性である。
【0033】
粘度は、物質の流動性を示す。粘度が増加すると物質の流動性は、減少または制限される。特に、上記ゲル組成物が非常に高い粘度を有する場合、この組成物は、流動性の減少を現し、この流動性の減少は、上記ゲルの送達または適用を妨げる可能性がある。過度の粘度は、ゲルの、表面の湿潤ならびに接触する部分の隙間および領域へ浸透する能力に悪く影響する。上記粘度が非常に低い場合、上記ゲルは、上記機器をただ薄くコートするだけで上記機器から流れ去る。上記ゲル組成物の粘度は、好ましくは約700〜約4000センチポイズ(cps)であり、さらに好ましくは約1000〜約3500cpsであり、そして最も好ましくは約1500〜3000cpsである。4000cpsを超える粘度を有する組成物は、流動性の減少を示し、これは特定の、適用方法および送達方法を制限し得る。
【0034】
上記所望の粘度は、好ましくは増粘剤(例えば、ポリマーシステム)によって与えられる。上記ポリマーシステムは、ポリマーおよびこのポリマーを活性化するために必要な任意の付加的成分を含む。1つの実施形態において、上記ポリマーシステムは、ポリマーおよび中和剤を含む。例えば、ポリマーの遊離形態において酸性であるポリマーは、僅かなゲルコンシステンシーを示すか、またはゲルコンシステンシーを示さない。上記中和剤は、上記酸性ポリマー中和し、そしてゲル様の性質を有するポリマーシステムを創出する。
【0035】
上記ポリマーシステムにおける使用に適したポリマーは、粘度を改変してゲルを形成するポリマーであり、ここでこのポリマーとしてはセルロース誘導体、アクリル酸ベースのポリマー、ゴム、例えばグアー、グアー誘導体、アルギネート、アルギン酸誘導体、非イオン性界面活性剤、非イオン性ポリマー、およびこれらの混合物が挙げられるが、これに限られない。
【0036】
適切なセルロース誘導体の非制限的な例としては、カルボキシアルキルセルロースポリマー、ヒドロキシアルキルセルロースポリマー、およびこれらの疎水性改変誘導体が挙げられる。市販されているいくつかのセルロース誘導体としてはNatrosolTM Plus CS Grade 330(疎水性改変ヒドロキシエチルセルロース)NatrosolTM 250(ヒドキシセルロース)およびKlucelTM(ヒドロキシプロピルセルロース)が挙げられ、これら全てはAqualonから市販される。
【0037】
適切なアクリル酸ベースのポリマーの例としては、商品名CarbopolTMでB.F.Goodrichから販売されるものが挙げられ、ここでこれはCarbopolTMETD.TM2001、CarbopolTMETD.TM2020、CarbopolTMETD.TM2050、CarbopolTMETD.TM2623を含むが、これに限られない。他の例示的な市販のアクリル酸ベースのポリマーとしては、B.F.Goodrichから入手可能な、CarbopolTMAqua 30およびCarbopolTM934、CarbopolTM940、CarbopolTM941およびCarbopolTM1342を含むCarbomerシリーズが挙げられる。
【0038】
適切な非イオン性ポリマーとしては、ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタアクリルアミド、アルキルアクリレートもしくはアリールアクリレートまたはアルキルメタクリレートもしくはアリールメタクリレート、アルキルマレエートまたはアリールマレエート、アクリロニトリル、ビニルピロリドン、ポリアルケン(例えば、スチレン、エチレンまたはプロピレンのポリマー)、および多官能性酸が挙げられる。例示的な非イオン性ポリマーは、Southern Clay Productsから入手可能な、合成ナトリウムマグネシウムシリケートポリマーであるLaponiteTMXLSおよびLaponiteTMRDSTMである。
【0039】
2つ以上の適切なポリマーの組み合わせは、ゲル組成物を形成するために必要に応じて利用される。
【0040】
アルギネートは、例えば、好ましくは他のポリマーシステムとの組み合わせにおいて使用される。
【0041】
上記中和剤は、ゲルを形成する上記ポリマーを十分に中和する任意の化学薬品である。酸性ポリマーにおいて、中和剤は概して、トリエタノールアミン(TEA)のような塩基物質およびアルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、および水酸化アンモニウム(NHOH))である。アルカリ性ポリマーにおいて、クエン酸のような酸性中和剤が使用される。
【0042】
例えば、疎水性改変ヒドロキシアルキルセルロースの場合において、上記ポリマーを最初に、約pH4のクエン酸溶液のような酸性媒体中に分散する。一旦分散すると、上記組成物のpHは、プリオンの破壊においてより最適なpH(pH4〜8)に調整され得る。例えば、上記pHは、KOHのようなアルカリで、約pH5.0〜5.5に調整される。
【0043】
上記ポリマーシステムの成分は上記ゲルに所望の粘度を与えるために十分な濃度で存在する。上記処方物中に存在するポリマーの最適な量は、上記ゲルが不活性であるかまたは活性であるかに依存し、そして使用されるポリマーの型に依存する。多くのポリマーシステムにおいて、上記ゲル組成物は、約0.05%〜約14%のポリマー濃度、より好ましくは約0.5%〜約3%のポリマー濃度、そして最も好ましくは約1%のポリマー濃度を有する。全てのパーセントは、他に規定しない限りは、重量パーセントを示す。
【0044】
上記中和剤の濃度は、上記ポリマーの型および上記ポリマーの濃度に依存する。例えば、約0.022%の疎水性改変ヒドロキシエチルセルロールと併せて、45% KOHが使用され得る。
【0045】
処理される上記アイテム上に上記処方物を維持することを助ける粘度の提供に加えて、上記ポリマーはまた、上記汚染物質(例えば、タンパク質、特にプリオンタンパク質)の、可溶化および/または固着の防止を支援する。
【0046】
上記組成物は、好ましくは1つ以上の過酸化物安定剤を含み、これは酸性溶液における過酸化物の分解を遅らせる。適切な過酸化水素安定剤としては、キレート剤またはフリーラジカル阻害剤として記載される、無機物質または有機物質が挙げられる。この型の適切な安定剤としては、アルコール、カルボン酸(例えば、ヒドロキシ安息香酸);ホスホン酸(例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、アミノ(メチルホスホン酸)、またはそれらの可溶性塩(例えば、アミノ−トリ−(メチルホスホン酸))、フェニルホスホン酸またはそれらの塩(例えば、フェニルホスホン酸);グリコールエーテル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル);およびスルホン酸(例えば、p−トルエンスルホン酸およびドデシルベンゼンスルホン酸);およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0047】
酸性溶液における例示的な安定剤としては、Solutia、Rhodia、またはMayo Chemicalから入手可能な1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸が挙げられ、ここでこれは、特にキレート遷移金属イオン(例えば、鉄)による、過酸化水素安定剤として有効である。他の安定剤としては、流動学的な安定剤として機能し、B.F.Goodrichから入手可能なOxyrite 100、およびp−ヒドロキシ安息香酸(単独または向水性(hydrotropic)アリールスルホン酸および/または向水性アルキルアリールスルホン酸との組み合わせ)が挙げられる。
【0048】
上記安定剤は、上記組成物が使用されるまで、過酸化水素が少なくとも5重量%であるような上記組成物中での過酸化水素の安定性、および上記過酸化水素にプリオンを破壊させるのに十分な濃度を有する汚染物(soil)の存在下での安定性を維持するのに十分な量で存在する。上記存在する安定剤の量は、使用される安定剤の型、および上記組成物が使用直前に形成されるのか、または数週間または数ヶ月間保管されるのかに依存している。さらに、上記組成物において脱イオン水でない水道水を使用した場合、若干、より高い安定剤の濃度が適切であり得る。例えば、脱イオン水を使用する安定な過酸化水素処方物は、0.1重量%〜3重量%のOxyrite 100、より好ましくは約0.15重量%のOxyrite 100と0.005重量%〜0.02重量%のHEDP、より好ましくは約0.008重量%〜0.01重量%のHEDPとの組み合わせを使用して容易に形成される。
【0049】
水、血液、または腐食性の流体の存在下において、金属基板は、即座に腐食し始める傾向にある。従って、上記組成物は、好ましくは1つ以上の腐食防止剤を含む。腐食防止剤は、上記金属基板における材料の性質に従って選択される。従って、上記組成物が多くの金属基板に適用され得るように、上記組成物中に1つ以上の腐食防止剤を有することが好ましい。腐食防止剤は、上記組成物に曝露されている間、上記医療機器または他のデバイスの腐食を防ぐために十分な濃度で存在する。
【0050】
例示的な、銅腐食防止剤および真鍮腐食防止剤は概して、窒素または酸素を含む有機化合物(例えば、アミン、ニトロ化合物、安息香酸塩、アゾール、イミダゾール、ジアゾール、トリアゾール、カルボン酸など)である。アゾール(例えば、メルカプトベンゾチアゾール、ならびに芳香族トリアゾールおよびそれらの塩(例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、およびトリルトリアゾールナトリウム))は、銅腐食防止剤および真鍮腐食防止剤として特に適切である。アゾールベースの腐食防止剤の組み合わせは、例えば、CobratecTM 939としてPMCから入手可能である。
【0051】
上記銅腐食防止剤および真鍮腐食防止剤の濃度は、好ましくは約0.002%〜約1.0%であり、そして最も好ましくは約0.1%〜約0.5%である。
【0052】
鋼鉄基板に対する適切な腐食防止剤としては、ホスフェート、ホスホン酸、スルフェートおよびボレートが挙げられる。適切なホスフェートとしては、アルカリ金属リン酸塩(例えば、ナトリウムおよびカリウムのホスフェート)が挙げられる。適切なホスフェートの他の例としては、 リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、およびこれらのカリウム等価物が挙げられる。ヘキサメタリン酸ナトリウムはまた、硬水塩(water hardness salt)などにおけるキレート剤として働く。Solutia Inc.により商品名DequestTM 2016で販売されるヒドロキシエチリジンジホスホン酸は、例示的な鋼鉄腐食防止剤である。上記組成物において使用される鋼鉄に対する腐食防止剤は、好ましくは約0.005%〜約1%の濃度で、より好ましくは約0.0065%〜約0.1%の濃度で、そして最も好ましくは約0.007%〜約0.01%の濃度で存在する。
【0053】
例示的なアルミニウム腐食防止剤としては、8−ヒドロキシキノリンおよびオルトフェニルフェノールが挙げられる。
【0054】
上記組成物は好ましくは、湿潤剤を含む。これは、上記ゲルを機器に適用した場合に、上記ゲル組成物の水分を保持を支援する。適切な湿潤剤としては、ポリヒドロキシ化合物(例えば、ソルビトール、グリセリン、グルシトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、およびこれらの混合物が挙げられる。ソルビトールは、Roquette Corp.,ADM(Ashland)から入手可能である。
【0055】
上記湿潤剤は、好ましくは上記組成物の約5重量%〜約30重量%で、さらに好ましくは約10重量%で存在する。
【0056】
完全には理解されていないが、上記ソルビトール、または他の湿潤剤は、汚染物質(例えば、タンパク質であり、特にプリオンタンパク質)を可溶化すること、および/または上記処理されるアイテムの表面上の汚染物質の固着を防ぐことを支援するものと考えられる。
【0057】
上記組成物は必要に応じて、過酸化水素に加えて、活性な抗菌剤を含み、ここでこの抗菌剤は、抗菌機能(例えば、衛生的にすること、消毒すること、または滅菌すること)を示す。衛生化は、真菌の生育の阻害およびいくつかの型の細菌に対する活発な働きを意味する。消毒は、病原微生物を、殺すことまたは除去することを意味する。滅菌は、細菌性内生胞子を含むあらゆる微生物を殺すことを意味し、ここでこの細菌性内生胞子は、公知の滅菌剤に対してほとんど耐性を示す、生きている生物体である。
【0058】
上記組成物における上記抗菌剤は、接触時間の間に、完全な滅菌または完全な消毒を提供する必要は無い。どちらかと言えば、上記抗菌剤は、上記洗浄工程の間の、ヒトの微生物に対する曝露の減少を支援する。適切な抗菌剤としては、ヒドロキシ酢酸、ペルヒドロキシ酢酸、ペルオキシ酢酸、二酸化塩素、オゾン、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限られない。適切なペルオキシ酢酸としては、過酢酸および過ギ酸が挙げられる。好ましい活性成分の組み合わせは、過酸化水素と過酢酸との組み合わせである。使用され得る他の活性成分としては、4級アンモニウム化合物(洗浄を補助する)、フェノール、TriclosanTM、およびグルコン酸クロルヘキシジンが挙げられる。
【0059】
上記抗菌剤は、所望のレベルの上記機器の抗菌処理を達成するために十分な量で存在する。例えば、滅菌を提供するためにより高い濃度が使用され、一方で、衛生的にすることまたは消毒ついては、より低い濃度が適切である。
【0060】
上記組成物は必要に応じて、処理されるアイテムの間隙への浸透を増加するための、表面エネルギー減少剤または加湿剤(「界面活性剤」)を含む。これは、間隙、接合部、および管腔における微生物汚染を含み得る複雑な医療機器を、洗浄および除染する場合に特に重要である。上記ゲル組成物中の界面活性剤は、上記汚れた機器をコートする際に、ゴミおよび破片の表面に浸透し、そして上記汚れの離散および汚れの除去を支援する。
【0061】
例示的な界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、および/または双イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤の例としては、脂肪アルコールポリグリコールエーテル非イオン性界面活性剤、ノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール非イオン性界面活性剤、およびエトキシル化ポリオキシプロピレン非イオン性界面活性剤が挙げられる。特定の例としては、Genapol UD−50TM、IgepalTM(ノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール)、FluowetTM、AntaroxTM(エトキシル化ポリオキシプロピレン)、およびPegolTMが挙げられる。上記で述べた界面活性剤または他の界面活性剤は、単独または互いに組み合わせて使用され得る。
【0062】
上記機器が、その後、自動洗浄機(automated washer)中で洗浄される場合には、上記組成物において使用される界面活性剤は、好ましくは低起泡性界面活性剤(例えば、非イオン性界面活性剤、および混合C両性カルボキシレートのような両性界面活性剤)である。
【0063】
界面活性剤は、好ましくは約0%〜約1.0%の濃度で、より好ましくは約0.05%〜約0.5%の濃度で、そして最も好ましくは約0.08%〜約0.2%の濃度で上記ゲル組成物中に存在する。
【0064】
上記組成物はまた、当業者に公知である他の成分(水溶性色素(例えば、上記機器上で上記組成物をより容易に目視できるようにするため)、香水および芳香(例えば、汚れた機器または汚染された機器に関する不快な臭いを遮断するための)など)を含み得る。
【0065】
上記組成物のバランスは、好ましくは約50%〜約93%の範囲内の水を含む。好ましくは、脱イオン水または他の精製した水が、上記ゲル組成物において使用されるが、水道水もまた利用され得る。
【0066】
プリオン破壊において、上記組成物は、好ましくは約4〜8のpHを、より好ましくは約5.0〜6.0のpHを有する。上記pHは、例えば、酸またはアルカリの添加によって、上記所望のpHに達するように調整され得る。
【0067】
例示的な組成物としては、以下:
【0068】
【化1】

が挙げられる。
【0069】
特に好ましい処方物としては、以下:
【0070】
【化2−1】

【0071】
【化2−2】

が挙げられる。
【0072】
上記組成物は、本明細書中において前述された量の所望の成分の混合によって形成される。形成されると上記組成物は直ちに使用され得るか、または後の使用のために保管され得る。
【0073】
上記組成物は、医療用、歯科用、死体用および薬学的機器および/またはデバイスにおいて、洗浄および除染に先立つ使用後処理工程について特に適している。上記ゲル組成物は、外科手術後の汚れた医療機器上に存在する上記血液および他のタンパク質が豊富な体液の湿った状態を長時間維持し、ならびに上記表面上でプリオンを破壊するための手段を提供する。
【0074】
上記ゲル組成物は、血液または他の体液を数時間(代表的には3時間から4時間、そしていくつかの場合においては8時間に至るまで)湿った状態にし続け、ここでほとんどの場合、この時間は、上記機器を洗浄システムに移動するために十分なものである。上記ゲル組成物中の水は、上記機器上の上記流体と相互に作用して、可溶化し、そして上記血液および他の生物体液を湿った状態に保つ。上記ゲルによって、流体が湿った状態を保たれる時間の長さは、上記適用されたゲル被膜の厚さに依存している。より厚いゲル被膜は、乾燥前により長い時間を生じる。代表的な適用において、しばしば約2時間〜約4時間でゲル被膜の露出した表面は、最初に、皮状のものを張るか、または乾燥し始め、一方で上記残りのゲルは湿潤状態を保つ。好ましくは、上記ゲル組成物は、完全に乾ききるまでに、8時間以上掛かる。
【0075】
代替的な実施形態において、上記組成物は、液体組成物の形態である。この実施形態において、上記デバイスは、好ましくは完全に上記組成物中に沈められるか、または所望の曝露期間で、上記組成物の噴霧に供される。
【0076】
上記組成物は、液体組成物、ゲル組成物、または泡状組成物を分配するための任意の適切なディスペンサー(dispenser)によって、上記機器に適用される。例示的なディスペンサーとしては、引き金式噴霧瓶(trigger spray bottle)、ポンプ式噴霧容器(pump spray container)、加圧型噴霧缶(pressurized spray can)、スクイーズボトル(squeeze bottle)、および圧縮空気ポンプを利用する噴霧デバイスが挙げられる。上記機器に上記ゲル組成物を適用するための例示的な方法としては、噴霧することが挙げられる。他の適用方法としては、上記機器を上記ゲル組成物中に浸漬すること、または上記ゲル組成物を、ブラシまたは他の塗布用具を用いて塗布することが挙げられる。上記方法は、存在するプリオンを不活化し、および外科手術後の機器に残留する、血液または体液を乾燥させないような、外科手術用機器の処理を含む。
【0077】
例えば、プリオンに汚染された外科手術後の医療機器は、上記機器に対するゲル形態の上記組成物の適用によって処理され、上記ゲルは上記機器に、上記機器の表面上の実質的に全てのプリオンを破壊するのに十分な時間保持され、適用されたゲル組成物によってコートされた、上記処理された機器を洗浄ステーション(cleaning station)へ輸送し、そして上記処理された医療機器を洗浄および好ましくは滅菌する。
【0078】
十分な量のゲル組成物は、好ましくは上記機器の全ての汚染された領域が上記ゲル組成物によって十分にコートされ、プリオン除染の間および洗浄が行われるまで、その領域が上記流体を含み、ならびにその流体を湿った状態に保つように適用される。
【0079】
必要に応じて、他の使用後の洗浄プロセスは、上記組成物の使用前または使用後に、使用される。例えば、液体洗浄剤は、機器の内部通路を処理するために使用され得るか、または上記機器は、液体洗浄剤(例えば、酵素的洗浄剤)中に浸潤され得る。
【0080】
必要に応じて、付加的なゲルは所望される場合に、汚染された領域に適用され得る。例えば、上記機器を、洗浄または滅菌するための、洗浄器または滅菌器を入手できないところでは、流体が乾ききらないような、付加的なゲルを適用して、その後の洗浄前に経過し得る流体が乾くまでの時間を延長する。
【0081】
好ましくは、上記組成物は、上記洗浄プロセスおよび/または微生物除染プロセスまで、ゲル状態で、上記処理された機器上に存在する。洗浄の間に、上記ゲルおよび任意の汚染物、血液、または他の流体は、上記機器表面から除去される。上記ゲル組成物は、特に、その中に上記界面活性剤を含み、洗浄プロセスの間における、破片の洗浄および除去を促進する。
【0082】
洗浄および滅菌は、当業者にとって任意の公知の方法によって成される。洗浄は、例えば、適切な洗剤を使用する自動洗浄器中で完了し得る。滅菌は、上記洗浄サイクル後に、上記機器を、例えば、液体の過酢酸または蒸気の過酢酸、蒸気の過酸化水素などのような滅菌剤に曝露することによって完了し得る。滅菌はまた、蒸気滅菌法によって適切に完了し得る。
【0083】
プリオンの有効な破壊に加えて、本明細書に記載される上記過酸化水素を含む処方物は、細菌、真菌およびウイルス、そしてこれらの微生物の死として形成されるマイコトキシンを含む他の多くの微生物学的な種の、殺滅またはその他の無害化において有効であることが見出されている。
【0084】
本発明の組成物によって消毒され得る、代表的な、細菌および細菌胞子としては、バシラス属(Bacillus)、例えば、炭疽菌(Bacillus anthracis)、枯草菌(Bacillus subtilis)、シュードモナス(Pseudomonas)、例えば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)、サルモネラ属(Salmonella)、例えば、雛白痢菌(Salmonella pullorum)、腸チフス菌(Salmonella typhosa)、エンテロバクター属(Enterobacter)、例えば、エンテロバクタークロアカ(Enterobacter cloacae)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、例えば、エンテロコッカスフェカリス(Enterococcus faecalis)、モラクセラ属(Moraxella)、例えば、カタハラス菌(Moraxella catarrhalis)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、例えば、インフルエンザ菌(Haemophilus influenza)、クレブシエラ属(Klebsiella)、例えば、Klebsiella edwardsii、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、連鎖球菌属(Streptococcus)、例えば、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカスデュランス(Streptococcus durans)、大便連鎖球菌(Streptococcus faecium)、および化膿連鎖球菌(Streptococcus
pyogenes)、ブドウ球菌属(Staphylococcus)、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、Staphylococcus pyogenes、エシェリキア属(Escherichia)、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、プロテウス属(Proteus)、例えば、プロテウスミラビリス(Proteus mirabilis)、およびリステリア属(Listera)、例えばリステリア菌(Listeria monocytogenes)などが挙げられる。
【0085】
本発明の組成物によって消毒され得る、真菌および真菌胞子としては、アスペルギルス(Aspergillus)、例えば、アスペルギルスフミガーツス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルスグラカス(Aspergillus glacus)、黒色アスペルギルス(Aspergillus niger)、フサリウム属(Fusarium)、例えば、フサリウムソラニー(Fusarium solani)、ペニシリウム属(Penicillium)、例えば、Penicillium
variable、スタキボトリス(Stachybotrys)などが挙げられる。
【0086】
細菌胞子および真菌胞子は、消毒され得る。
【0087】
この組成物によって消毒されるウイルスとしては、AIDS、鳥類伝染性気管支炎、イヌコロナウイルス、ヘルペトウイルス科(Herpetoviridae)(ウシ伝染性ウイルス)、鼻気管炎、ジステンパー、ネコヘルペス、イリドウイルス科(アフリカ豚コレラ)、パルボウイルス科(イヌパルボウイルス)、Poxviridae Pseudo(牛痘)、コロナウイルス科(感染性胃腸炎)、オルトミクソウイルス科(トリインフルエンザ)、パラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科(豚水胞症)、口蹄疫、レトロウイルス科などが挙げられる。
【0088】
本発明の分野を制限することを意図せずに、以下の実施例は、プリオン類似種に対する上記組成物の有効性を示す。
【実施例】
【0089】
(実施例1:IFDOにおける過酸化水素の効果)
表1に示される、以下の処方物を調製する。処方物1は、7%の過酸化水素を含む。コントロールとして用いるために、処方物2を過酸化水素を用いずに調製した。
【0090】
【表1】

上記2つの処方物を、回腸流体依存生物(IFDO)に対して試験する。この生物は、ヒトおよび他のプリオンについての有効なモデルであることを示している。なぜなら、種々の環境(例えば、消毒および滅菌)に曝露された場合に、それはプリオンと比較できる挙動パターンを示すからである。上記生物を最初に、Burdon(Burdon,J.Med.Micro.,29:145−157(1989))によって回腸流体(その名称ゆえに)から抽出した。上記生物を直ちに培養し、そして実験室において検出した。例えば、上記生物を、改変マイコプラズマベースのブロスで培養し、段階希釈および単純寒天培地上にプレーティングすることによって定量した。
【0091】
本実施例において、2つの処方物の効力を、室温において懸濁試験によって研究し、ここで上記IFDOの懸濁液を上記洗浄溶液中で懸濁し、そして試料に評価のための間隔をとらせた。上記試料を、段階希釈および改変マイコプラズマ寒天にプレーティングすることによって定量した。上記プレーティングした試料を37℃で48時間インキュベートし、そして検出可能なコロニー(黒い点として目視できる)を数えた。図1は、上記2つの処方物のそれぞれにおいて0および5時間の間の間隔に対する、残留したIFDOの数(残留した数のLog10として表す)のプロットを示す。
【0092】
図1から読み取れることとして、曝露の2時間後には、検出可能なコロニーが観察されないことから、上記7%組成物(処方物1)は、上記IFDOを容易に破壊することが挙げられる。処方物2は、上記IFDOにおいて検出可能な影響を有さない。
【0093】
上記試験を、懸濁液において行われ、従って、体液および組織によって汚染された機器に対する上記組成物の洗浄能力に関する上記組成物における他の成分の利点は明確ではないことが理解されるべきである。
(実施例2:IFDOにおける過酸化水素濃度の効果)
処方物を、実施例1の処方物1のように調製したが、処方物は異なる過酸化水素濃度(水の量に従って調整した)を有する。
【0094】
上記異なる処方物におけるIFDOの懸濁液を、実施例1のように試験する。図2は、時間にわたる過酸化水素濃度の効果を示す。1重量%、2重量%、3重量%、および4重量%の過酸化水素を含む上記処方物は、それぞれ、全てが曝露の3時間後に、IFDOの測定可能なレベルを示す。5%過酸化水素またはそれを超える過酸化物濃度の上記処方物は、曝露の3時間後に、検出可能なIFDOを示さない。上記7%過酸化水素処方物だけは、試験の2時間後に、検出可能なIFDOを示さなかった。
(実施例3:プリオン汚染物質における過酸化水素の効果)
ステンレス鋼ワイヤーを、スクラピー(ヒツジ)プリオンタンパク質によって汚染された脳物質に接種した。上記ワイヤーを一晩、空気乾燥した。上記ワイヤーのセットを、以下:脱イオン水;実施例1の処方物1(7%過酸化水素および界面活性剤などを含む);および脱イオン水中の7%過酸化水素の1つに、1時間浸漬する。上記ワイヤーを上記液体から取り除き、ワイヤーを脱イオン水でリンスし、そして残留するタンパク質および生物学的材料を除去するために抽出した。上記抽出した試料を、SDSPAGEによって分離し、そして上記処理後のスクラピーの存在または欠如を検出するために、抗スクラピータンパク質抗体を用いてウェスタンブロッティングした。コントロールサンプル(浸漬なし)もまた抽出および試験する。その結果を表2に示す。
【0095】
【表2】

表1に示される結果は、上記7%過酸化水素単独では、試験の期間において、プリオンの存在を示す試料のパーセントに対して、効果を現さないことを示唆した。
【0096】
処方物1の付加的な成分は明らかに、例えば、可溶化することおよび/または上記処理したワイヤーの表面上に対する、上記汚染された生物学的物質の固着を防ぐことによってプリオン濃度の減少を支援する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質関連疾患で汚染された表面を処理する方法であって、以下:
該表面と少なくとも1.5Mのモル濃度である過酸化物を含む水溶性組成物とを該表面上のタンパク質が少なくとも実質的に減少するのに十分な時間接触させる工程
によって特徴付けられる、方法。
【請求項2】
前記接触工程が、以下:
前記疾患に関連するタンパク質で汚染された機器の表面を、少なくとも1.5Mのモル濃度である過酸化物、および湿潤剤を含むゲル状組成物でコーティングする工程;および
該表面との接触において、該ゲルを少なくとも1時間保持する工程、
によってさらに特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記過酸化物濃度が前記組成物の6重量%〜8重量%であること、
によってさらに特徴付けられる、方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記接触工程が前記表面と前記組成物とが少なくとも約1時間接触する工程を含むこと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物がセルロース誘導体、アクリル酸ベースのポリマー、ゴム、例えばグアー、グアー誘導体、アルギネート、アルギン酸誘導体、非イオン性界面活性剤、非イオン性ポリマー、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される増粘剤を含むこと、
によってさらに特徴付けられる方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物が約4〜8のpHを有すること、
によってさらに特徴付けられる、方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物が前記表面上で水分を保持するための湿潤剤をさらに含むこと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
【請求項8】
請求項に記載の方法であって、以下:
前記湿潤剤がソルビトール、グリセリン、グルシトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、およびこれらの混合物からなる群より選択されること、
によってさらに特徴付けられる、方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の方法であって、以下:
前記組成物が腐食防止剤、過酸化水素安定剤、および界面活性剤からなる群の少なくとも1つをさらに含むこと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
【請求項10】
タンパク質関連疾患で汚染された表面を処理するための組成物であって、以下:
5重量%〜30重量%の過酸化水素;
700cps〜4000cpsの粘度を提供するのに十分な量の増粘剤;
5重量%〜30重量%の湿潤剤;
少なくとも0.1重量%の腐食防止剤;および
過酸化水素安定剤
によって特徴付けられる、組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−160445(P2009−160445A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102511(P2009−102511)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【分割の表示】特願2006−533532(P2006−533532)の分割
【原出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【出願人】(502042506)ステリス インコーポレイテッド (22)
【Fターム(参考)】