説明

プリプレグおよびその用途

【目的】 布状基材に焼結されたフッ素樹脂から成るプリプレグを金属層と接合させて積層板を得ると、布状基材に微小ボイドが残存し、これが高温、高湿条件下で絶縁抵抗の悪化の原因となるので、この微小ボイドを残存せずに積層板を製造し得るプリプレグを提供する。
【構成】 ガラスクロスのような布状基材にフッ素樹脂を含浸すると共に薄層形成するが、このフッ素樹脂を未焼結あるいは半焼結の状態とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電子機器、通信機器、コンピュータ等の高周波域を利用する各種機器の製造に好適なプリプレグ、このプリプレグを用いる積層板、回路板および多層回路板の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、高周波域を利用する各種機器には、例えば、ガラスクロスをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン中に浸漬してPTFEを含浸せしめた後、PTFEの融点以上の温度に加熱することにより、ガラスクロス表面に焼結されたPTFE薄層を形成したプリプレグを得、次いでこのプリプレグ表面に銅箔を配置し、加熱加圧によりこれらを一体化して積層板とし、その後該積層板における銅箔をパターン化した回路板が用いられている。そして、かような積層板は例えば、特開昭60−248346号公報に記載されている。
【0003】また、回路板を内層として用い、該内層用回路板の表面に上記と同様な焼結PTFE薄層を有するプリプレグを介して銅箔を配置し、これを加熱加圧することにより一体化し、更に該銅箔をパターン化することにより多層回路板とすることも知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、かようにして得られる回路板や多層回路板は高温且つ高湿度の環境下で用いると絶縁抵抗が悪化するという問題があり、この解決が望まれているが、未だ現実的な解決策は提案されていない。
【0005】本発明者の検討により、従来の回路板や多層回路板を高温且つ高湿度で用いた場合における絶縁抵抗の悪化の原因は、主としてこれらの製造に用いるプリプレグにあることが判明した。前記したように従来の回路板や多層回路板には、ガラスクロスをPTFEディスパージョン中に浸漬して引上げ、次いでPTFEの融点以上の温度に加熱することにより、PTFEを焼結したプリプレグが用いられている。
【0006】しかし、このようにして得られる従来のプリプレグはガラスクロスを構成する繊維へのPTFEの浸透が不十分であり、PTFEが浸透していない部分が空気を抱き込んで微小ボイドとなり、このボイドを含む状態でガラスクロス表面に焼結されたPTFE層が形成されたものとなり易いものである。
【0007】そして、この微小ボイドを含むプリプレグの表面に金属層を配置し加熱加圧して積層板とし、これを更に加工して回路板や多層回路板を製造した場合、プリプレグに発生した微小ボイドがそのまま残存し、それにより高温且つ高湿度環境での絶縁抵抗が低下するのである。積層板あるいは多層回路板の製造に際し加圧が行なわれるので、プリプレグに微小ボイドが発生していても該圧力によりPTFEが流動してこれを埋めボイドは消滅すると考えられたが、実際に作業してみると、焼結されたPTFEの流動は殆ど生ぜず、ボイドの消滅は期待できないことが判った。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は従来技術の有する上記問題を解決するため鋭意研究の結果、プリプレグにおける布状基材を構成する繊維に含浸し、また該基材の表面に薄層を形成するフッ素樹脂を未焼結または半焼結の状態としておくことにより所期の目的が達成できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】即ち、本発明に係るプリプレグは布状基材にフッ素樹脂が含浸されると共に薄層を形成しており、且つこのフッ素樹脂が未焼結または半焼結であることを特徴とするものである。
【0010】本発明には従来からプリプレグの材料として使用されている布状基材をそのまま用いることができる。かような布状基材の具体例としてはガラス繊維、アスベスト繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、窒化ホウ素繊維、シリコンカーバイト繊維、チタニア繊維等の無機繊維、あるいは芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、PTFE繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、芳香族ポリエステル繊維等の有機繊維の単独糸またはこれらの2種以上を用いた複合糸から成る織布、不織布あるいは網目状体を挙げることができる。この布状基材の厚さは適宜選択するが、通常、約50〜200μmである。
【0011】そして、この布状基材にはこれを構成する繊維にフッ素樹脂が含浸されると共に該基材表面にフッ素樹脂薄層が形成されるが、これらフッ素樹脂は未焼結または半焼結の状態とする必要がある。プリプレグにおけるフッ素樹脂を未焼結または半焼結の状態としておくのは、フッ素樹脂の流動性を確保し、このプリプレグを用いて積層板等を製造する際の加圧により、フッ素樹脂を流動させて布状基材への含浸浸透を更に進行させて微小ボイドを埋めることにより、これを消滅させるためである。
【0012】本発明に係るプリプレグは、例えば、布状基材をフッ素樹脂ディスパージョン中に浸漬して引上げ、次いで加熱して分散媒を除去する方法により得ることができる。これにより、布状基材を構成する繊維にフッ素樹脂が含浸されると共に該基材表面にフッ素樹脂薄層が形成される。この浸漬と加熱は所定回繰り返し行なうこともできる。
【0013】そして、加熱温度をフッ素樹脂の融点未満に設定すれば、フッ素樹脂は未焼結状態となる。また、加熱温度をフッ素樹脂の融点以上とすれば、フッ素樹脂を半焼結状態にし得る。ただし、後者の場合のようにフッ素樹脂の融点以上の温度に設定するときは加熱時間に留意し焼結状態とならないようにする必要がある。
【0014】本発明において、「半焼結」とは、未焼結フッ素樹脂を焼結に至らない程度の時間該フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱したことを意味する。未焼結のフッ素樹脂をその融点以上の温度で加熱すると、時間の経過と共に未焼結状態から焼結状態へと除々に推移することはよく知られている。また、未焼結状態から焼結状態へと変化する場合には、その融点(DSC測定における吸熱ピーク点)が347 ℃から327℃に低下してきたときが焼結に至ったことを示すことも知られている。そして、焼結に至るまでに要する時間はフッ素樹脂が同じならば加熱温度に依存する。従って、この「半焼結」状態は融点がほぼ350℃より低く且つ330℃より高い値になるような時間だけフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱したことと、言い換えることができる。
【0015】上記浸漬と加熱により、布状基材を構成する繊維にフッ素樹脂が含浸(浸透)されると共に該基材表面にフッ素樹脂の薄層が形成される。布状基材に含浸したフッ素樹脂および該基材表面に層形成したフッ素樹脂の量は「含浸率」として表すことができる。布状基材へのフッ素樹脂の含浸率は種々の要因に応じて設定するが、通常、約55〜85%である。この含浸率は布状基材に含浸あるいは層形成により付着したフッ素樹脂の重量をプリプレグの重量で除した値に100を乗じて算出される。含浸率はフッ素樹脂ディスパージョンにおけるフッ素樹脂濃度を変えたり、浸漬と加熱の回数を変えたりして調整できる。
【0016】布状基材に含浸させるフッ素樹脂としては、PTFE、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等を単独であるいは混合して用いることができる。
【0017】図1は本発明に係るプリプレグの実例を示し、布状基材1を構成する繊維にはフッ素樹脂が含浸(この含浸状態は図示省略)されており、また該基材1の表面にはフッ素樹脂薄層2が形成されている。そして、繊維に含浸されたフッ素樹脂および布状基材表面に薄層を形成しているフッ素樹脂はいずれも未焼結か半焼結のものである。
【0018】このプリプレグは積層板の製造に用いることができる。例えば、プリプレグの両面に銅箔等の金属層を配置し、次いで加圧しながらフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱し、フッ素樹脂を焼結すると共にプリプレグと金属層を接合することにより積層板を得ることができる。この加圧により布状基材に含浸および薄層形成しているフッ素樹脂が未焼結または半焼結状態であるため容易に流動し、布状基材を構成する繊維に更に浸透するので微小ボイドを消滅させ得る。。ただし、過大な圧力を作用させてフッ素樹脂を布状基材外へ流出させないため、圧力を30kg/cm2 以下好ましくは5〜25kg/cm2 の低圧とする。
【0019】かようにして得られた積層板の金属層をパターン化すれば、図2に示すように布状基材1に焼結されたフッ素樹脂薄層3を介して金属パターン4を設けた構造の回路板を得ることができる。
【0020】積層板から回路板を製造する際の金属層のパターン化は従来からのプリント回路板の製造と同様に剥離現像型フォトレジスト、溶剤現像型フォトレジストあるいはアルカリ現像型フォトレジストを用いる方法で行なうことができる。例えば、積層板の金属層表面にアルカリ現像型フォトレジスト層を形成し、その上からフォトマスクを介してパターン状に露光せしめ、次いでフォトレジストの未露光部を溶解除去して金属層を部分的に露出せしめ、その後金属層の露出部をエッチングにより除去し、更に、フォトレジストの露光部を溶解除去すれば、フォトレジストの露光パターンに対応する金属パターンを有する回路板を得ることができる。
【0021】本発明は多層回路板の製造法にも関する。この製造法は基板表面に金属パターンを有する回路板にプリプレグおよび金属層を重ね合わせ、次いで加熱加圧することにより回路板、プリプレグおよび金属層を一体化することを特徴とするものである。
【0022】この多層回路板の製造に用いるプリプレグは上記図1に示すように布状基材にフッ素樹脂が含浸されると共に薄層を形成しており、且つこのフッ素樹脂が未焼結または半焼結であるものを用いる。また、回路板としてはフッ素樹脂含浸布状基材(基板)の表面に金属パターンを設けたもの、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂含浸布状基材(基板)の表面に金属パターンを設けたもの等を用い得る。
【0023】そして、回路板、プリプレグおよび金属層を重ね合わせた後の加熱温度はプリプレグにおけるフッ素樹脂の融点以上とする。また、圧力は上記積層板製造の際と同じ理由により、40kg/cm2 以下好ましくは5〜35kg/cm2 とする。
【0024】図3は多層回路板の製造法における重ね合わせ工程を示し、表面に金属パターン4を有する基板5の両面にプリプレグ6および金属層7が重ね合わされている。なお、プリプレグ6は図1に示すのと同構造品を用いている。かように重ね合わせた後、加熱加圧を行なうことによりこれらを一体化し、更に金属層7をパターン化すれば多層回路板を得ることができる。
【0025】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0026】実施例1(プリプレグの製造)厚さ50μmのガラスクロスをPTFE粉末濃度60重量%の水性ディスパージョン中に浸漬して引上げ、温度220℃で2分間加熱する。この浸漬および加熱を更に2回繰り返し行い、未焼結PTFEが含浸され且つ表面に薄層形成した図1と同構造のプリプレグを得る。このプリプレグにおけるPTFE含浸率は65%であった。
【0027】(積層板の製造)上記のプリプレグを8枚重ね合わせ、この重ね合わせ物の両面上に厚さ18μmの銅箔を配置し、温度385℃、圧力15kg/cm2 の条件で30分間加熱加圧することにより、プリプレグ相互およびプリプレグと銅箔をPTFE薄層を介して接合すると共にPTFEを焼結して積層板を得る。
【0028】(回路板の製造)上記積層板における両銅箔をアルカリ現像型フォトレジストを用いてパターン加工することにより、回路板を得る。この回路板の絶縁抵抗値をJIS C 6481に規定される方法により測定したところ、8.9×1012Ωであり、これを100℃の熱水中で2時間煮沸した後の値は8.6×1012Ωであり、殆ど変化しなかった。
【0029】(多層回路板の製造)上記回路板の両面に上記プリプレグおよび厚さ18μmの銅箔を各々配置し、温度385℃、圧力25kg/cm2 の条件で30分間加熱加圧し、次いで両銅箔をパターン加工することにより多層回路板を得た。
【0030】実施例2プリプレグ製造時における温度を340℃とし、ガラスクロスに含浸および薄層形成したPTFEを半焼結状態とすること以外は実施例1と同様に作業して、プリプレグ、積層板、回路板および多層回路板を得た。回路板の絶縁抵抗は7.3×1012Ωであり、煮沸後のそれは7.0×1012Ωであり、これまた殆ど変化は認められなかった。
【0031】比較例プリプレグ製造時における加熱温度を380℃とし、ガラスクロスに含浸および薄層形成するPTFEを焼結状態とすること以外は実施例1と同様に作業して、プリプレグ、積層板、回路板および多層回路板を得た。回路板の絶縁抵抗は8.5×1012Ωであるが、煮沸後には3.0×109 Ωまで悪化した。
【0032】
【発明の効果】本発明は上記のように構成されており、布状基材に含浸および薄層形成したフッ素樹脂が未焼結または半焼結とされているので、これを用いて積層板等を製造する際の加圧によりフッ素樹脂を流動させて該基材への浸透を充分にでき、これにより微小ボイドを無くして絶縁性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るプリプレグの実例を示す正面図である。
【図2】本発明に係る方法により得られる積層板の実例を示す正面図である。
【図3】本発明に係る多層回路板の製造法における重ね合わせ工程の実例を示す正面図である。
【符号の説明】
1 布状基材
2 フッ素樹脂薄層
3 フッ素樹脂薄層
4 金属パターン
5 基板
6 プリプレグ
7 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 布状基材にフッ素樹脂が含浸されると共に薄層を形成しており、且つこのフッ素樹脂が未焼結または半焼結であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】 請求項1記載のプリプレグ表面に金属層を配置し、次いで加熱加圧することにより、フッ素樹脂を焼結すると共にプリプレグと金属層を接合することを特徴とする積層板の製造法。
【請求項3】 請求項1記載のプリプレグ表面に金属層を配置して加熱加圧することにより、プリプレグと金属層を接合して積層板を得、次いで該積層板の金属層をパターン化することを特徴とする回路板の製造法。
【請求項4】 基板表面に金属パターンを有する回路板に請求項1記載のプリプレグおよび金属層を重ね合わせ、次いで加熱加圧することにより回路板、プリプレグおよび金属層を一体化することを特徴とする多層回路板の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平5−69442
【公開日】平成5年(1993)3月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−262984
【出願日】平成3年(1991)9月12日
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)