説明

プリプレグの製造方法、プリプレグ、金属張り積層板及び印刷配線板

【課題】ハロゲン化合物を含まず、難燃性、耐熱性、金属箔引き剥がし強度に優れた樹脂組成物およびそれを用いたプリプレグ、金属箔張積層板、印刷配線板を提供する。
【解決手段】(a)(1)ホスフィン酸塩または(2)ジホスフィン酸塩、(b)熱硬化性樹脂、(c)該熱硬化性樹脂の硬化剤、を必須成分とする樹脂組成物であって、(a)(1)で示されるホスフィン酸塩又は(2)で示されるジホスフィン酸塩の粒子の平均粒径が2〜7マイクロメートルであり、かつ該粒子の長径と短径の比(長径短径)の比が1〜3である樹脂化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物およびそれを用いたプリプレグ、金属箔張積層板、印刷配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、電子機器等に使用されるプリプレグ、金属箔張積層板、印刷配線板は、廃棄等の焼却時におけるダイオキシン等の有害ガス発生のおそれがない、すなわちハロゲン系化合物を含まない製品の導入が進んでいる。
【0003】
ハロゲン系化合物を含まずに難燃性を付与するには、樹脂組成物にリン系難燃剤や無機充填材を添加する等の方法が行われている。リン系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル系や、レゾルシノールジホスフェート等の縮合リン酸エステル等が広く用いられている。これらの難燃剤を用いる場合、そのリン含有率が7〜10重量%程度と低く、樹脂組成物中に多量に難燃剤を添加しなければならないため、樹脂の硬化阻害が生じたり、金属箔張積層板、印刷配線板の耐熱性が低下するという問題を抱えていた(特許文献1参照)。
【0004】
このような状況の中、特許文献2に示されているように、難燃剤としてホスフィン酸塩やジホスフィン酸塩を用いる技術が導入されている。しかし、ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩を用いる場合、その粒径や粒子の形状によっては、金属箔張積層板の金属箔引き剥がし強度や耐アルカリ性が劣ることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−206392号公報
【特許文献2】特開2002−284963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解消し、ハロゲン系化合物を含まず、難燃性、耐熱性、金属箔引き剥がし強度に優れた樹脂組成物およびそれを用いたプリプレグ、金属箔張積層板、印刷配線板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次のものに関する。
(1)(a)一般式(1)で示されるホスフィン酸塩または一般式(2)で示されるジホスフィン酸塩、(b)熱硬化性樹脂、(c)該熱硬化性樹脂の硬化剤を必須成分とする樹脂組成物であって、(a)一般式(1)で示されるホスフィン酸塩又は一般式(2)で示されるジホスフィン酸塩の粒子の平均粒径が2〜7μmであり、かつ該粒子の長径と短径の比(長径/短径)が1〜3である樹脂組成物。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

(一般式(1)又は一般式(2)中のR1、R2は互いに同一でも異なっていてもよく、一価の直鎖状のまたは枝分かれした炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり、R3は二価の直鎖状のまたは枝分かれした炭素数1〜10のアルキレン基、又は炭素数6〜10のアリーレン基、又はアルキルアリーレン基、又はアリールアルキレン基であり、MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kからなる群の少なくとも1種より選択される金属類であり、mは1〜4の整数であり、nは1〜4の整数であり、そしてxは1〜4の整数である。)
(2)項(1)に記載の樹脂組成物を基材に含浸・乾燥させて得られるプリプレグ。
(3)項(2)に記載のプリプレグ、又は該プリプレグを複数枚積層した積層体の片面または両面に金属箔を積層し加熱加圧して得られる金属箔張積層板。
(4)項(3)に記載の金属箔張積層板に回路加工を施して得られる印刷配線板。
【発明の効果】
【0010】
本発明における樹脂組成物およびプリプレグで得られる金属箔張積層板、印刷配線板は、ハロゲン系化合物を含まず、難燃性、耐熱性、金属箔引き剥がし強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、(a)前記一般式(1)で示されるホスフィン酸塩または前記一般式(2)で示されるジホスフィン酸塩、(b)熱硬化性樹脂、(c)該熱硬化性樹脂の硬化剤を必須成分としている。なお本発明において(a)前記一般式(1)で示されるホスフィン酸塩と前記一般式(2)で示されるジホスフィン酸塩は、単独で使用してもよく、また併用してもよい。そして本発明において使用される(a)ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩の粒子の平均粒径は2〜7μmであり、好ましくは3〜5μmのものが用いられる。平均粒径が2μm未満の場合、金属箔引き剥がし強度が劣ることがあり、7μmを超える場合、樹脂組成物に有機溶剤を加えワニスとした場合に沈降しやすくなる。
【0012】
本発明において使用される(a)ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩の粒子の長径と短径の比(長径/短径)は1〜3である。長径と短径の比(長径/短径)が3を超える場合、金属箔張積層板の金属箔引き剥がし強度や耐アルカリ性が劣ることがある。なお、長径と短径の比(長径/短径)については、走査型電子顕微鏡により観察した粒子の中から無作為に抽出した100個の粒子について、粒子毎に計測した最大径および最小径をそれぞれ長径および短径として[長径/短径]を算出し、100標本分の平均値を長径と短径の比とした。
【0013】
また、本発明において使用される(a)ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩の粒子の最大粒径は20μm以下であることが好ましい。最大粒径が20μmを超えると、金属箔張積層板の板厚が薄い場合や金属箔張積層板に形成する回路パターンが微細な場合に電気的特性等において信頼性に劣る場合がある。なお本発明において使用される(a)ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩を添加する際、必要に応じて各種表面処理剤を添加しても良い。また(a)ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩の配合量についても、特に制限されないが、樹脂組成物中の(b)熱硬化性樹脂と(c)硬化剤の合計の固形分総量100重量部に対して5〜40重量部が好ましい。
【0014】
本発明において使用される(b)熱硬化性樹脂としては、特に制限されないが、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、トリアジン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シアネート類化合物等が挙げられ、これらを単独で、または、2種以上使用することができる。この中で、例えば、エポキシ樹脂を例に挙げると、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールビフェニレンノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジリエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジリエーテル化物、フェノール類のジグリシジリエーテル化物、アルコール類のジグリシジリエーテル化物、および、これらのアルキル置換体、水素添加物等が用いられ、これらから単独で、または、2種以上を使用することができる。
【0015】
本発明において使用される(c)硬化剤としては、特に制限されないが、(b)熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合の硬化剤を例に挙げると、アミン化合物、多官能性フェノール化合物、酸無水物化合物等が挙げられ、これらから単独または2種以上選択される。(c)硬化剤の配合量は、特に制限されないが、(b)熱硬化性樹脂の主材の官能基に対して0.01〜5.0当量が好ましい。
【0016】
いずれの(b)熱硬化性樹脂を用いる場合でも、硬化促進剤を使用しても良い。この場合の硬化促進剤としては、特に制限されないが、例えばイミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が用いられ、これらから単独または2種以上選択される。硬化促進剤の配合量についても、特に制限されないが、樹脂組成物中の有機成分の固形分総量100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましい。また、本発明において使用される樹脂組成物は、必要に応じて充填材、触媒、可とう剤等を適宜加えても良い。
【0017】
本発明の樹脂組成物のワニスは、上記の配合材料(樹脂組成物)に必要に応じて有機溶剤を加え、混合することにより得られる。本発明に用いられる有機溶剤としては、特に制限されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ジメチルスルホキシド等の硫黄化合物系溶剤、N−メチルピロリドン、N−メチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ系溶剤等が使用可能であり、これらから単独または2種以上選択される。
【0018】
本発明の樹脂組成物のワニスを基材に含浸させ、さらに乾燥させてプリプレグを製造する。本発明に用いられる基材としては、特に制限されないが、通常織布や不織布等が用いられる。基材の材質としては、特に制限されないが、ガラス、アルミナ、シリカアルミナガラス、シリカガラス、炭化ケイ素、ジルコニア等の無機繊維や、アラミド、ポリエーテルイミド、カーボン、セルロース等の有機繊維等が用いられる。
【0019】
本発明の金属箔張積層板は、本発明のプリプレグ、または、それを複数枚積層した積層体の片面または両面に金属箔を重ね加熱加圧成形することにより得られる。本発明に用いられる金属箔は、特に制限されないが、銅箔やアルミニウム箔などが用いられる。加熱加圧成形する際の条件は、熱硬化性樹脂と硬化剤との反応性に依存するため、用いられる樹脂材料により選択され、通常130〜250℃、好ましくは150〜200℃の範囲の温度、通常0.5〜20MPa、好ましくは1〜8MPaの範囲の圧力、通常10〜200分、好ましくは30〜120分の範囲の加熱加圧時間が選ばれる。
【0020】
本発明の印刷配線板は、本発明の金属箔張積層板の金属箔表面もしくは金属箔エッチング面に対して回路加工を施すことにより得られる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1〜2、比較例1〜3)
表1に実施例1、2及び比較例1〜3の樹脂組成物の配合を示した。表1の配合量の材料と、有機溶剤としてメチルエチルケトンを配合し、60分間撹拌し樹脂組成物のワニスを得た。なお、一般式(1)で示されるホスフィン酸塩として、OP930(クラリアントジャパン株式会社製商品名)リン系難燃剤を使用した。またメチルエチルケトンは樹脂組成物のワニスの固形分が50重量%となるよう配合した。作製した樹脂組成物のワニスを厚さ0.1mmのガラスクロス(2116:旭シュエーベル株式会社製、商品名)に含浸後、160℃で5分間加熱、乾燥して樹脂分50重量%のプリプレグを得た。このプリプレグを4枚重ね、その両側に厚さ18μmの銅箔(GTS−18:古河サーキットフォイル株式会社製、商品名)を配置し、180℃、3MPa、60分間、真空下で加温加圧成形することにより銅張積層板を作製した。
【0022】
【表1】

【0023】
(はんだ耐熱性の評価)
はんだ耐熱性は、作製した銅張積層板の銅箔をエッチングにより除去し50mm×50mmの大きさに切断した試験片を、プレッシャークッカーテスター中(121℃、0.22MPa)に1時間保持した後、288℃のはんだ中に20秒間浸漬して、外観を目視により評価した。その結果を前記表1に示した。表中のOKとは、ミーズリング(ガラス繊維の織り目の重なり部分の熱ひずみに伴う樹脂の剥離)および、ふくれの発生がないことを意味し、NGは、ミーズリングまたはふくれが発生したことを示した。
【0024】
(難燃性の評価)
難燃性は、UL94−V法に準拠して測定した。結果を前記表1に示した。
【0025】
(銅箔引き剥がし強度)
JIS C 6481に準拠して測定した。結果を前記表1に示した。
【0026】
表1から明らかなように、本発明の実施例1および2は、リン系難燃剤として平均粒径3.2μm、長径/短径=1.8の一般式(1)で示されるホスフィン酸塩を用いることにより、比較例1〜3と比較して難燃性、はんだ耐熱性、銅箔引き剥がし強度のすべてにおいて優れている。これに対し、比較例1は、長径/短径=7.7のホスフィン酸塩を用いているために銅箔引き剥がし強度に劣り、比較例2は平均粒径1.5μmのホスフィン酸塩を用いているために銅箔引き剥がし強度に劣り、比較例3はリン系難燃剤としてトリフェニルホスフェートを用いているために難燃性が低く、さらに耐熱性も劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式(1)で示されるホスフィン酸塩または一般式(2)で示されるジホスフィン酸塩、(b)熱硬化性樹脂、(c)該熱硬化性樹脂の硬化剤を必須成分とする樹脂組成物であって、(a)一般式(1)で示されるホスフィン酸塩又は一般式(2)で示されるジホスフィン酸塩の粒子の平均粒径が2〜7μmであり、かつ該粒子の長径と短径の比(長径/短径)が1〜3である樹脂組成物。
【化1】

【化2】

(一般式(1)又は一般式(2)中のR1、R2は互いに同一でも異なっていてもよく、一価の直鎖状のまたは枝分かれした炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基であり、R3は二価の直鎖状のまたは枝分かれした炭素数1〜10のアルキレン基、又は炭素数6〜10のアリーレン基、又はアルキルアリーレン基、又はアリールアルキレン基であり、MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kからなる群の少なくとも1種より選択される金属類であり、mは1〜4の整数であり、nは1〜4の整数であり、そしてxは1〜4の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物を基材に含浸・乾燥させて得られるプリプレグ。
【請求項3】
請求項2に記載のプリプレグ、又は該プリプレグを複数枚積層した積層体の片面または両面に金属箔を積層し加熱加圧して得られる金属箔張積層板。
【請求項4】
請求項3に記載の金属箔張積層板に回路加工を施して得られる印刷配線板。

【公開番号】特開2011−12271(P2011−12271A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181215(P2010−181215)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【分割の表示】特願2004−205955(P2004−205955)の分割
【原出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】