説明

プリプレグシートの製造方法及び積層板

【課題】 高品質のプリプレグシートを容易に製造することができるプリプレグシートの製造方法を提供する。
【解決手段】 溶剤に溶解した熱硬化性樹脂と共に硬化剤及び無機充填材を含む樹脂組成物6を離型シート2に塗布する塗布工程と、離型シート2に塗布された樹脂組成物6を加熱することにより、樹脂組成物中の溶剤を蒸発させると共に、熱硬化性樹脂をBステージ状態とする加熱工程と、Bステージ状態の熱硬化性樹脂22をシート状の基材の両面に押圧することにより、熱硬化性樹脂の少なくとも一部を基材に含浸させる加圧工程とを備えるプリプレグシートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグシートの製造方法及び積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚のプリプレグシートを重ねて加熱加圧することにより、プリント配線板等に用いられる積層板を形成することが従来から行われている。従来のプリプレグシートの製造方法として、溶剤によって希釈された低粘度のエポキシ樹脂ワニスを基材に含浸した後、溶剤を加熱蒸発させることが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところが、この製造方法においては、プリプレグの厚み(樹脂の含有率)の調整が、専らワニスの粘度調整によって行われるために多量の溶剤が必要になり、環境面や経済面での負荷が大きくなるという問題があった。
【0004】
これに対し、特許文献2には、硬化剤等を含む熱硬化性樹脂からなる原料樹脂を静止型混合器により混合した後、混合樹脂を離型紙に塗布し、この離型紙を補強繊維材料の両面に重ね合わせ、加熱、加圧することにより、離型紙上の混合樹脂を補強繊維材料に転移、含浸させるプリプレグの製造方法が開示されており、無溶剤の原料を用いる製造方法も知られている。
【0005】
ところが、特許文献2の製造方法は、混合樹脂の均一な混合や混合樹脂を離型紙に塗布する際の温度管理が困難になり易く、生産効率を高める点から更に改良の余地があった。
【特許文献1】特開平4−103306号公報
【特許文献2】特開平8−267449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、高品質のプリプレグシートを容易に製造することができるプリプレグシートの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、溶剤に溶解した熱硬化性樹脂と共に硬化剤及び無機充填材を含む樹脂組成物を離型シートに塗布する塗布工程と、離型シートに塗布された樹脂組成物を加熱することにより、樹脂組成物中の溶剤を蒸発させると共に、熱硬化性樹脂をBステージ状態とする加熱工程と、Bステージ状態の熱硬化性樹脂をシート状の基材の両面に押圧することにより、熱硬化性樹脂の少なくとも一部を基材に含浸させる加圧工程とを備えるプリプレグシートの製造方法により達成される。
【0008】
このプリプレグシートの製造方法において、前記塗布工程は、前記加熱工程後に所望の樹脂厚みが得られるように、離型シートに塗布された樹脂組成物の厚みをブレードにより一定にする工程を備えることが好ましい。
【0009】
また、前記加熱工程は、樹脂組成物の加熱温度を、常温より高く溶剤の沸点より低い温度で一旦維持した後に、溶剤の沸点より高い温度まで上昇させることが好ましい。
【0010】
上記のプリプレグシートの製造方法により得られたプリプレグシートは、複数積層し、真空下で加熱加圧成形することにより、積層板を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプリプレグシートの製造方法によれば、高品質のプリプレグシートを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るプリプレグシートの製造方法を説明するための工程図である。
【0013】
図1に示すように、ロール(図示せず)から繰り出される離型シート2の表面に供給された樹脂組成物6は、離型シート2の進行に伴い、離型シート2とブレード4との間に形成された隙間を通過し、予め設定された一定の厚みに調整されることで、塗布工程が行われる。
【0014】
樹脂組成物6は、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、キシレン等の溶剤に、熱硬化性樹脂を溶解させた常温で液状のものである。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができるが、特にエポキシ樹脂を好ましく用いることができる。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、ビスフェノール型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、ナフタレン型などを使用可能であり、常温で固形のものを溶剤に溶解させて使用することができる。更に、常温固形のエポキシ樹脂を溶剤に溶解させたものと、常温液状のエポキシ樹脂とを混合して、後述するBステージ状態での脆性を改善したものを使用してもよい。また、ガラス転移温度(Tg)や耐熱性を向上させるために、剛直な骨格を持つエポキシ樹脂を組み合わせることも可能である。
【0015】
溶剤の使用量を抑制する観点から、熱硬化性樹脂が確実に溶解する範囲で溶剤の配合割合をなるべく小さくすることが好ましく、例えば、後述する硬化剤や充填材も含めた全体に対する溶剤の配合割を、5〜20重量%に設定することが好ましい。
【0016】
また、樹脂組成物6は、硬化剤及び無機充填材を含む。エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、ジシアンジアミドの他、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどが挙げられる。また、硬化促進剤としてイミダゾール化合物などを用いることができる。硬化剤は、分散型、溶解型のいずれであってもよい。
【0017】
無機充填材は、硬化後の強度向上、熱膨張の低減、熱伝導率の向上などの特性改善を図るものであり、例えば、シリカの粒子を配合して線膨張係数を下げたり、アルミナや金属の窒化物を配合して熱伝導率を上げることが可能である。或いは、難燃化を目的として、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの微細粒子(平均粒径2〜30μm)を、樹脂組成物6全体に対して50〜80重量%程度配合することも可能であり、樹脂組成物6を含浸する基材が紙であっても良好な難燃性を得ることができる。これらの無機充填材は、1種または2種以上を配合してもよい。
【0018】
本実施形態のプリプレグシートの製造方法は、熱硬化性樹脂を溶剤で希釈する従来の方法と比較して、溶剤の使用量を少なくすることができるので、樹脂組成物6の粘度が比較的高い(例えば、23℃における粘度が2〜20Pa・s)。このため、比重の大きい無機充填材を使用する場合であっても樹脂組成物6の全体に均一な分散を促すことができるので、使用可能な無機充填材の制約が少なく、ノンハロゲン化の要望や耐湿特性の維持などの課題に対して容易に対応可能である。
【0019】
また、離型シート2は、紙製または合成樹脂製のシート体からなり、樹脂組成物6が塗布される面に、シリコーン系などの離型剤が塗布されている。離型シート2に対する樹脂組成物6の塗布は、ブレードコーター、ロールコーター、バーコーター、エアナイフコーターなど公知の各種コーターを使用可能であるが、離型シート2とブレード4との間に樹脂組成物6を通過させて、樹脂組成物6の厚みを強制的に一定にする構成のものを特に好ましく用いることができる。
【0020】
離型シート2に塗布された樹脂組成物6は、乾燥炉10に搬送されて加熱される。乾燥炉10は、温風乾燥炉や遠赤外線乾燥炉などの公知の乾燥炉を使用可能であり、本実施形態においては、樹脂組成物6が塗布された離型シート2が一定の速度で通過するように、横長型のものを使用している。乾燥炉10は、中温室12及び高温室14を備えており、導入された樹脂組成物6は、中温室12で加熱された後、中温室12よりも高温の高温室14で更に加熱される。
【0021】
中温室12及び高温室14における加熱温度及び加熱時間(通過時間)は、樹脂組成物6中の溶剤の沸点を基準に定められており、中温室12は、常温(25℃)よりも高く、且つ溶剤の沸点よりも低い温度及び時間に設定される。また、高温室14は、溶剤の沸点よりも高く、樹脂組成物6に含まれる熱硬化性樹脂をBステージ状態に維持可能な温度及び時間に設定される。一例を挙げると、樹脂組成物6の溶剤がメチルエチルケトン(沸点:約80℃)で、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、中温室12の加熱温度及び時間を、それぞれ50〜70℃、2〜10分に設定し、高温室14の加熱温度及び時間を、それぞれ90〜120℃、2〜10分に設定することが好ましい。このように、樹脂組成物6の加熱温度を、まず中温室12において、常温より高く溶剤の沸点より低い温度で一旦維持した後に、高温室14において、溶剤の沸点より高い温度まで上昇させることにより、溶剤が徐々に蒸発することを促すと共に、溶剤の急激な加熱に伴う発泡現象が生じて樹脂膜に凹凸が形成されることを効果的に防止することができる。この結果、高品質の熱硬化性樹脂膜を短時間で得ることができる。本実施形態においては、加熱工程を、中温室12及び高温室14の2段階の温度変化で行っているが、加熱温度を3段階以上で上昇させることも可能であり、更には、加熱温度を連続的に上昇させることも可能である。
【0022】
このような加熱工程により、Bステージ状態の熱硬化性樹脂は、溶剤の蒸発により厚みを減じて離型シート2上に残留する。熱硬化性樹脂には無機充填材が配合されているため、乾燥炉10からは、熱硬化性樹脂の膜厚が比較的大きい(例えば、50〜200μm)シート体が排出される。この膜厚は、塗布工程におけるコーターによる樹脂組成物6の厚み調整や、樹脂組成物及び溶剤の比重や配合割合の調整により、所望の値に設定することができる。
【0023】
こうして、離型シート2にBステージ状態の熱硬化性樹脂膜22が形成されたシート体20が得られる。このシート体20は、通常は室温により自然冷却された後にロールに巻き取られ、後述する加圧工程を行うために搬送されるが、冷却せずにそのまま加圧工程を行うことも可能である。
【0024】
加圧工程は、図2に示すように、ロール(図示せず)から繰り出された基材30の上下両面に対して、シート体20の熱硬化性樹脂膜22が形成された面をそれぞれ押し当てるようにして行われ、進行する一対のシート体20,20及び基材30を、一対の熱ロール16,16間に積層状態で挟持する。熱ロール16,16の温度は、熱硬化性樹脂膜22をプリプレグ状態に維持するための温度であり、例えばエポキシ樹脂の場合、80〜120℃である。
【0025】
基材30は、パルプやコットンなどの天然繊維の他、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、紙などの繊維基材からなり、織布や不織布としたものを例示することができる。基材30には、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂膜22との結合強度を増すために、フェノール樹脂やシランカップリング剤等による表面処理を行ってもよい。
【0026】
一対の熱ロール16,16によるシート体20,20の基材30への押圧力は、熱硬化性樹脂膜22の少なくとも一部が基材30の内部に含浸されて、基材30に確実に保持される程度であればよい。こうして、基材30両面にBステージ状態の熱硬化性樹脂膜22,22を有するプリプレグシート40が得られる。
【0027】
本実施形態のプリプレグシートの製造方法によれば、溶剤に溶解した熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を、基材に対して直接含浸させるのではなく、予め剥離シートに所定の厚みで塗布してから基材に転写するようにしているので、溶剤の量によらずに、プリプレグシートの厚み調整を行うことができる。したがって、溶剤の量を極力減らして環境負荷を軽減できると共に、高品質のプリプレグシートを容易に得ることができる。
【0028】
また、加熱工程において、樹脂組成物に含まれる溶剤の蒸発と共に、熱硬化性樹脂のBステージ化を行うことができるので、温度管理が容易であり、プリプレグシート全体の均一なBステージ状態を得ることができる。
【0029】
こうして得られるプリプレグシートは、剥離シートを除去して複数枚を積層し、必要に応じて両面または片面に銅箔等の金属箔を重ね合わせた後、真空プレス成形機などを用いて真空下で加熱加圧成型することにより、高品質の積層板を容易に製造することができる。例えば、無機充填材として、シリカやアルミナを配合した場合には、プリプレグシートが十分な膜厚の熱硬化性樹脂を有することから、主として厚み方向の線膨張係数の抑制や、熱伝導率の向上を図ることができる。
【0030】
また、図3に示すように、プリプレグシート40と銅箔42との間に、ガラス基材エポキシ樹脂基板用のプリプレグであるFR−4プリプレグ44を介在させることにより、CEM−1やCEM−3(ANSIグレード)相当の積層板50を作成することも可能である。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
表1に示す配合割合の樹脂組成物を離型シート上にコーターを用いて塗布し、乾燥炉を通過させて溶剤を蒸発させることにより、Bステージ状態のエポキシ樹脂膜を有するシート体を作成した。乾燥後のエポキシ樹脂膜の厚みは100μmであり、このような膜厚が得られるように、コーターのブレードギャップを110 μmに設定した。乾燥炉は、中温室での加熱温度及び時間を60℃/5分とし、高温室での加熱温度及び時間を100℃/10分とした。
【0033】
【表1】


次に、このシート体を、リンター紙からなる基材(厚み:約250μm)の上下から熱ロール(温度:約80℃)で挟むことにより、基材に樹脂が含浸したプリプレグシートを作成した。そして、このプリプレグシートを6枚積み上げ、上下に銅箔を載せて真空プレス成形機で加熱加圧成形を行い、厚みが1.6mmの紙基材/エポキシ樹脂積層板を得た。この積層板は、ハロゲン化難燃剤やリン、リン化合物、アンチモンといった環境への懸念物質を使用することなく、UL−94に基づく難燃性の評価でV−0の等級が達成された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係るプリプレグシートの製造方法における塗布工程及び加熱工程を説明するための工程図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るプリプレグシートの製造方法における加圧工程を説明するための工程図である。
【図3】積層板の一例を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0035】
2 離型シート
4 ブレード
6 樹脂組成物
10 乾燥炉
12 中温室
14 高温室
16 熱ロール
20 シート体
22 熱硬化性樹脂膜
30 基材
40 プリプレグシート
42 銅箔
50 積層板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤に溶解した熱硬化性樹脂と共に硬化剤及び無機充填材を含む樹脂組成物を離型シートに塗布する塗布工程と、
離型シートに塗布された樹脂組成物を加熱することにより、樹脂組成物中の溶剤を蒸発させると共に、熱硬化性樹脂をBステージ状態とする加熱工程と、
Bステージ状態の熱硬化性樹脂をシート状の基材の両面に押圧することにより、熱硬化性樹脂の少なくとも一部を基材に含浸させる加圧工程とを備えるプリプレグシートの製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程は、前記加熱工程後に所望の樹脂厚みが得られるように、離型シートに塗布された樹脂組成物の厚みをブレードにより一定にする工程を備える請求項1に記載のプリプレグシートの製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、樹脂組成物の加熱温度を、常温より高く溶剤の沸点より低い温度で一旦維持した後に、溶剤の沸点より高い温度まで上昇させる請求項1または2に記載のプリプレグシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のプリプレグシートの製造方法により得られたプリプレグシートを複数積層し、真空下で加熱加圧成形することにより得られる積層板。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−126683(P2010−126683A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304829(P2008−304829)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(391003624)サンユレック株式会社 (28)
【Fターム(参考)】