プリプレグシート材及びその製造方法
【課題】本発明は、積層された複数の補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂に異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域を形成することで高品質で優れた特性を備えるプリプレグシート材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】プリプレグシート材は、補強繊維を引き揃えシート状に形成した補強繊維シート層1A〜1Cが層状に配列され、これらの補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂を備えている。マトリックス樹脂は、異なる熱可塑性樹脂材料からなる樹脂領域2及び3を備え、樹脂領域2及び3は層状に形成されている。補強繊維シート層1A及び1B並びに補強繊維シート層1B及び1Cの層間に熱可塑性樹脂材料からなる樹脂層2a及び2bが形成され、補強繊維シート層1A及び1Cの外側に樹脂層3a及び3bが形成され、各樹脂領域の境界部分が補強繊維シート層の内部に入り込んだ状態となっている。
【解決手段】プリプレグシート材は、補強繊維を引き揃えシート状に形成した補強繊維シート層1A〜1Cが層状に配列され、これらの補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂を備えている。マトリックス樹脂は、異なる熱可塑性樹脂材料からなる樹脂領域2及び3を備え、樹脂領域2及び3は層状に形成されている。補強繊維シート層1A及び1B並びに補強繊維シート層1B及び1Cの層間に熱可塑性樹脂材料からなる樹脂層2a及び2bが形成され、補強繊維シート層1A及び1Cの外側に樹脂層3a及び3bが形成され、各樹脂領域の境界部分が補強繊維シート層の内部に入り込んだ状態となっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された複数の補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維補強複合材料は、繊維材料とマトリックス材料を組み合せたもので、軽量で剛性が高く多様な機能設計が可能な材料であり、航空宇宙分野、輸送分野、土木建築分野、運動器具分野等の幅広い分野で用いられている。現在、炭素繊維又はガラス繊維といった補強繊維材料を熱硬化性樹脂材料と組み合せた繊維強化プラスチック(FRP)が主流となっている。しかし、リサイクル性、短時間成型性、成型品の耐衝撃特性の向上等の利点から、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂材料を用いた成型品開発が今後増加すると考えられている。
【0003】
補強繊維材料と熱可塑性樹脂材料と組み合わせたシート材については、例えば、特許文献1では、熱可塑性樹脂シート及び炭素繊維からなる強化繊維束を交互に積層するように搬送し、積層されたシートを加熱及び加圧してプリプレグシート材を製造する点が記載されている。また、特許文献2では、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられてシート状に形成された補強繊維シート材及び補強繊維シート材の片面に付着した熱可塑性樹脂シート材により構成されている熱可塑性樹脂補強シート材を積層して形成された熱可塑性樹脂多層補強シート材を用いて熱可塑性樹脂多層補強成形品を製造する点が記載されている。
【0004】
また、特許文献3では、複数の補強繊維を集束した補強繊維束を幅方向に複数本引き揃えシート状とした補強繊維シート材の片面に、熱可塑性樹脂シート材を、当該熱可塑性樹脂シート材の溶融温度より低い温度で溶融又は軟化する接着用熱可塑性樹脂材によって付着させて熱可塑性樹脂補強シート材を構成し、熱可塑性樹脂補強シート材を積層して接着用熱可塑性樹脂材により各層の熱可塑性樹脂補強シート材を接着一体化させて熱可塑性樹脂多層補強シート材を製造する点が記載されている。
【0005】
また、特許文献4では、開繊糸シートの片面又は両面に、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が付着した樹脂付着離型シートを密着させて加熱加圧することで、開繊糸シートに樹脂を付着又は含浸させた繊維補強シートを製造する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−181832号公報
【特許文献2】特開2008−149708号公報
【特許文献3】特表2008−221833号公報
【特許文献4】特開2010―270420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献では、熱可塑性樹脂材料を補強繊維材料の間に含浸させた繊維補強シート材又は成形品を製造しているが、熱可塑性樹脂材料は、溶融時の樹脂粘度が高く流動特性が悪いため、補強繊維材料の間に熱可塑性樹脂材料の未含浸部分つまりボイド(空隙)が発生しやすく力学的特性が悪くなる。プリプレグシートを積層して得られる積層成形品の場合、層間の強度や靭性が成形品の力学特性に影響を与える。特に、耐衝撃性については、層間樹脂の靭性が支配的となる。
【0008】
マトリクス樹脂材料にエポキシ樹脂材料等の熱硬化性樹脂材料を使用する場合、マトリクス樹脂材料に不溶である熱可塑性樹脂材料の微粒子を分布させ、層間に樹脂層を形成し、耐衝撃性を向上させている。この場合、靭性のある熱可塑性樹脂材料を高濃度に分布させた樹脂層を形成したことで、層間の剥離が抑制されたと考えられる(例えば、特開2008−50587号公報参照)。
【0009】
しかしながら、マトリクス樹脂材料として熱可塑性樹脂材料を使用した場合、成形時における高温・高圧の状態により層間に樹脂層を形成することが難しい。また、熱可塑性樹脂材料が補強繊維材料の間に含浸したプリプレグシートは剛性を有するようになるため、補強繊維材料を多軸に配向させて複数層に積層したシートはドレープ性に欠け、三次元形状の成型金型に合致させるように変形させることが難しいといった課題がある。
【0010】
そこで、本発明は、積層された複数の補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂に異なる熱可塑性樹脂材料からなる樹脂領域を形成することで高品質で優れた特性を備えるプリプレグシート材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るプリプレグシート材は、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域が形成されている。さらに、複数の前記樹脂領域は、異なる種類の熱可塑性樹脂材料からなる。さらに、前記樹脂領域の間の境界部分は、前記補強繊維シート層の内部に入り込んだ状態となっている。さらに、前記樹脂領域は、層状に形成されている。さらに、前記樹脂領域では、前記補強繊維シート層の補強繊維の間に前記熱可塑性樹脂材料が一部空間を残した状態で含浸した半含浸部分が少なくとも一部に形成されている。
【0012】
本発明に係るプリプレグシート材の製造方法は、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート材を特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数種類の熱可塑性樹脂シート材とそれぞれ付着させて複数種類の熱可塑性樹脂補強シート材を形成し、異なる種類の前記熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層して加熱加圧することで一体形成する。さらに、複数種類の前記熱可塑性樹脂シート材は、異なる種類の熱可塑性樹脂材料からなる。さらに、表層側の前記熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料は、所定の温度状態において内層側の前記熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料よりも流動性の低い材料を用いる。さらに、前記補強繊維シート材は、単位面積当りの重量が80g/m2以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記のような構成を有することで、積層された複数の補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂に異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域が形成されているので、高品質で優れた特性を備えたプリプレグシート材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】本発明に係るプリプレグシート材の断面に関する模式図である。
【図1B】本発明に係るプリプレグシート材の断面に関する模式図である。
【図1C】本発明に係るプリプレグシート材の断面に関する模式図である。
【図2】熱可塑性樹脂補強シート材に関する模式図である。
【図3A】別の熱可塑性樹脂補強シート材に関する模式図である。
【図3B】別の熱可塑性樹脂補強シート材に関する模式図である。
【図4】熱可塑性樹脂補強シート材の積層に関する説明図である。
【図5】熱可塑性樹脂補強シート材の製造装置に関する概略構成図である。
【図6】プリプレグシート材の製造装置に関する概略構成図である。
【図7】プリプレグシート材の別の製造装置に関する概略構成図である。
【図8】プリプレグシート材を用いて成形品を製造する工程に関する説明図である。
【図9】実施例1におけるプリプレグシート材の断面を撮影した写真である。
【図10】実施例2におけるプリプレグシート材の断面を撮影した写真である。
【図11】実施例5における積層板の断面を撮影した写真である。
【図12】実施例6における積層板の断面を撮影した写真である。
【図13】実施例7における積層板の断面を撮影した写真である。
【図14】実施例8における積層板の断面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0016】
図1A〜図1Cは、本発明に係るプリプレグシート材の断面に関する模式図である。図1Aは、補強繊維シート層の間に樹脂のみからなる層が形成されたプリプレグシート材に関する断面図である。この例では、プリプレグシート材は、炭素繊維、ガラス繊維等の補強繊維を引き揃えシート状に形成した補強繊維シート層1A〜1Cが層状に配列され、これらの補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂を備えている。マトリックス樹脂は、異なる熱可塑性樹脂材料からなる2つ樹脂領域2及び3を備え、樹脂領域3が樹脂領域2の両側から挟むように層状に形成されている。そして、補強繊維シート層1A及び1B並びに補強繊維シート層1B及び1Cの層間に樹脂領域2の樹脂樹脂層2a及び2bが形成され、補強繊維シート層1A及び1Cの外側に樹脂領域3の樹脂層3a及び3bが形成されている。
【0017】
そして、樹脂層2a及び2bが両側に配置された補強繊維シート層1Bでは、両側から内部に向かって樹脂領域2の樹脂が補強繊維の間に一部入り込んだ状態となっている。また、樹脂層2aが内側に配置され外側に樹脂層3aが配置された補強繊維シート層1A及び樹脂層2bが内側に配置され外側に樹脂層3bが配置された補強繊維シート層1Cでは、内側から樹脂領域2の樹脂が補強繊維の間に一部入り込んだ状態となり、外側から樹脂領域3の樹脂が補強繊維の間に一部入り込んだ状態となっている。そのため、樹脂領域2及び3の間の補強繊維シート層1A及び1Cの内部では、補強繊維の間で2つの異なる熱可塑性樹脂材料が互いに入り乱れるように混在して一体化した境界部分が形成されている。
【0018】
図1B及び図1Cは、補強繊維シート層の内部に樹脂が入り込んで含浸状態となっているプリプレグシート材に関する断面図である。図1Bでは、補強繊維シート層1A〜1Cの間に樹脂層がほとんど見られず、マトリクス樹脂が補強繊維シート層全体に満遍なく入り込んで含浸した状態となっている。マトリクス樹脂は、異なる熱可塑性樹脂材料からなる2つの樹脂領域2及び3を備え、樹脂領域3が樹脂領域2の両側から挟むように層状に形成されており、各領域の間の境界部分が補強繊維シート層の内部に入り込んでいる。また、図1Cでは、補強繊維シート層1A及び1Bの2つの層を備え、補強繊維シート層の間には樹脂層がほとんど見られない状態となっている。そして、異なる熱可塑性樹脂材料からなる2つの樹脂領域2及び3が層状に形成されて、各領域の間の境界部分が補強繊維シート層の内部に入り込んでいる。
【0019】
このように、複数の補強繊維シート層を積層しその厚み方向に異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域を配置して熱可塑性樹脂材料を補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態で一体化しているので、補強繊維シート層に一部入り込んだ樹脂のアンカー効果により補強繊維シート層及び樹脂領域の間の剥離強度が向上してプリプレグシート材の強度を高めることができる。また、補強繊維シート層に入り込んだ樹脂が補強繊維シート層全体に満遍なく含浸せずに一部空隙を残した半含浸状態にすることで、プリプレグシート材としてのドレープ性を確保することができ、剥離しにくくドレープ性の良好な高品質のプリプレグシート材を得ることができる。
【0020】
また、厚み方向に異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域を形成しているので、特性の異なる熱可塑性樹脂材料を用いれば、各熱可塑性樹脂材料が有する特性を併せ持つ優れた特性を備えたプリプレグシート材を得ることができる。例えば、表層に靱性の高い熱可塑性樹脂材料を用い、内層に所定温度状態で流動性の高い熱可塑性樹脂材料を用いてプリプレグシート材を構成すれば、プリプレグシート材を複数枚積層して成形加工する場合、流動性の高い熱可塑性樹脂材料が補強繊維シート層全体に満遍なく含浸してボイドのない成形品を得ることができ、また、層間には靱性の高い樹脂層が形成されるため層間剥離が生じにくい成形品とすることができる。
【0021】
また、ある成形温度に対して流動性の異なる熱可塑性樹脂材料を用いて、表層には流動性の低い材料を配置し、内層には流動性の高い材料を配置することで、積層間において樹脂層を形成することができる。層間に形成された熱可塑性樹脂材料からなる樹脂層により耐衝撃性を向上させることが期待できる。また、表層に耐熱性及び耐溶剤性の高い樹脂を用いてプリプレグシート材を構成すれば、プリプレグシート材を成形加工して得られる成形品に耐熱性及び耐溶剤性を付与することができる。
【0022】
上述した例では、補強繊維シート層を3層とし、層間及び表層に樹脂層が形成されているが、補強シート層は、2層以上であればよく特に限定されない。また、マトリックス樹脂に用いる熱可塑性樹脂材料は、2種類以上用いてもよく特に限定されない。なお、上述した例では、マトリックス樹脂は、複数種類の熱可塑性樹脂材料が層構成されるようになっているが、複数種類の熱可塑性樹脂材料が混在して明確な層構成となっていない場合でもよく、マトリックス樹脂の少なくとも一部に複数の樹脂領域が形成されていればよい。また、同じ種類の熱可塑性樹脂材料でも特性の異なるものを組み合せてマトリックス樹脂を構成するようにしてもよい。
【0023】
プリプレグシート材の層構成については、厚さ方向の中心に対して対称となるように補強繊維シート層及び樹脂領域を構成すれば、反り等の変形が抑えられる。
【0024】
補強繊維シート層に用いる補強繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリオキシメチレン繊維、アロマティック・ポリアミド繊維等のFRPに用いられる高強度・高弾性率の無機繊維や有機繊維などが挙げられる。また、これらの繊維が集束した繊維束を複数組み合せてもよい。なお、補強繊維の繊度については特に限定されない。また、補強繊維シート層の厚みは、プリプレグシート材の用途に合わせて適宜設定すればよく特に限定されないが、プリプレグシート材のドレープ性を得るためには、厚みを0.2mm以下とすることが好ましい。補強繊維シート層の1層における単位面積当りの補強繊維の重量は、80g/m2以下であることが好ましい。補強繊維の重量が80g/m2を超えると、厚み方向の繊維本数が増加し、最終的な成形品を製造した場合に繊維の間に樹脂が流れ込みにくくなってボイドが発生する可能性がある。
【0025】
マトリックス樹脂に用いる熱可塑性樹脂材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12など)、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂材料を2種類以上混合して、ポリマーアロイにして使用してもよい。
【0026】
プリプレグシート材は、上述した補強繊維を引き揃えシート状に形成した補強繊維シート材の片面又は両面に、上述した熱可塑性樹脂材料をフィルム状、パウダー状又は不織布状に付着させた熱可塑性樹脂補強シート材を用いて製造することができる。図2では、熱可塑性樹脂補強シート材4は、複数の補強繊維5fがサイジング剤等により集束した補強繊維束5tを幅方向に複数本引き揃えシート状の補強繊維シート材5に形成した片面に、フィルム状の熱可塑性樹脂シート材6を付着した構成になっている。また、図3A及び図3Bでは、熱可塑性樹脂補強シート材7は、補強繊維シート材8及び熱可塑性樹脂シート材9のいずれか一方のシート材の両面に他方のシート材が付着した構成となっている。図3Aでは、熱可塑性樹脂シート材9の両面に補強繊維シート材8が付着した構成になっており、図3Bでは、補強繊維シート材8の両面に熱可塑性樹脂シート材9が付着した構成となっている。
【0027】
ここで、付着とは、補強繊維シート材の片面又は両面の全面又は複数部分に、熱可塑性樹脂シート材を熱融着させる、又は成型品になった際に力学的特性等に影響を与えない接着剤を薄く塗布して接着させる等して、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材をばらけないように一体化させることである。補強繊維シート材に熱可塑性樹脂シート材を熱融着させる場合、補強繊維シート材の表層部分に熱可塑性樹脂シート材が含浸することもあるが、その場合においてもシートとしてのドレープ性は十分にあり、付着の状態にあるといえる。
【0028】
図3A及び図3Bに示す熱可塑性樹脂シート材では、熱可塑性樹脂シート材又は補強繊維シート材のいずれか一方のシート材の両面に他方のシート材を付着させた構成となっているので、両面に同じ材質のシート材が付着することで熱可塑性補強シート材がいずれの片面にもカールすることがない。熱可塑性樹脂補強シート材を薄層化していくと、カール等の変形が生じやすくなるが、図3A及び図3Bに示す構成にすることによりシート材の平面状の形態を維持することができる。
【0029】
そして、図3Aに示すように、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材が付着した熱可塑性樹脂補強シート材の場合には、両シート材の配合割合を所定の値に設定した際に、補強繊維シート材を半分ずつ熱可塑性樹脂シート材の両面に付着させるようになって補強繊維シート材の厚みが薄く設定できる。そのため、補強繊維シート材中を熱可塑性樹脂が含浸する際、含浸距離が短くなる。
【0030】
熱可塑性樹脂補強シート材を薄層化していく場合、熱可塑性樹脂シート材及び補強繊維シート材の厚さを薄くする必要があるが、熱可塑性樹脂シート材に比べて補強繊維シート材の厚さを薄くすることが容易であることから、熱可塑性樹脂シート材の両面に薄い補強繊維シート材を付着させるようにすることで、熱可塑性樹脂補強シート材をより薄層化して含浸距離を短くすることができる。そのため、さらに短時間で、かつボイドなどの空隙がさらに少なくなった品質の良い成形品を得ることが可能となる。
【0031】
上述した熱可塑性樹脂補強シート材を用いて図1に示すプリプレグシート材を製造する場合には、図4に示すように、図3Aに示す熱可塑性樹脂補強シート材7を2枚積層し、その両側に図2に示す熱可塑性樹脂補強シート材4を積層した後その両側から加熱加圧し、熱可塑性樹脂シート材の樹脂が溶融又は軟化して一部が補強繊維シート材の内部に入り込んだ状態となって一体形成することで製造することができる。そして、熱可塑性樹脂シート材6及び熱可塑性樹脂シート材9にそれぞれ異なる熱可塑性樹脂材料を用いることで、厚み方向に異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂層を形成することができる。例えば、プリプレグシート材の表層に用いる熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料を内層に比べ所定温度状態で流動性の低いものを用いることにより、成形品になったとき、層間に樹脂層を形成することができ、層間剥離の生じ難い成形品を製造することができる。また、表層に用いる熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料を内層に比べ融点の高いものを用いることで、加熱した場合に内層の熱可塑性樹脂材料が表層よりも先に溶融していき、内部におけるボイド等の空隙の発生を抑えることができる。
【0032】
また、薄い熱可塑性樹脂補強シート材を用いることで、異なる熱可塑性樹脂材料が厚み方向に均一に分散した成形品を製造することができ、強度が高まって層間剥離等が生じにくくなる。
【0033】
上述した例では、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材を組み合わせてプリプレグシート材を製造しているが、2枚以上の熱可塑性樹脂補強シート材を組み合せて製造すればよく、特に限定されない。また、熱可塑性樹脂補強シート材にフィルム状の熱可塑性樹脂シート材を用いているが、補強繊維シート材の表面に、パウダー状、織物状、不織布状に形成された熱可塑性樹脂材料を層状に配置して用いることもできる。
【0034】
図5は、熱可塑性樹脂補強シート材Psの製造装置に関する概略構成図である。この例では、複数の給糸体10から繰り出された補強繊維束は、送給機構11により所定の送り量でニップロール12から幅方向に配列されて送給される。幅方向に配列された補強繊維束は、開繊機構13において公知の開繊部13a、縦振動付与部13b及び横振動付与部13cを通過して幅方向に開繊されていき、幅広の補強繊維シート材Tsが得られる。得られた補強繊維シート材Tsの一方の片面には、離型シートRs及び熱可塑性樹脂材料からなるフィルム状の熱可塑性樹脂シート材Hsが重ね合わされて送給され、他方の片面には離型シートRsのみが送給される。
【0035】
離型シートRsは、補強繊維シート材Tsの両面側にそれぞれ配置されたシート供給機構101から連続供給される。熱可塑性樹脂シート材Hsは、補強繊維シート材Tsの片面側に配置されたシート供給機構102から連続供給され、補強繊維シート材Tsと離型シートRsとの間に差し込まれて連続搬送される。補強繊維シート材Tsの一方の片面側に離型シートRs及び熱可塑性樹脂シート材Hsが重ね合わせられ、他方の片面側に離型シートRsが重ね合わせられた状態で走行させながら、2連の加熱加圧ロール105及び2連の冷却加圧ロール106の間を通過して、補強繊維シート材Tsの片面に熱可塑性樹脂シート材Hsを熱融着により貼り合わせて熱可塑性樹脂補強シート材Psを得る。そして、離型シートRsは、シート巻取り機構103により巻き取って熱可塑性樹脂補強シート材Psから分離し、熱可塑性樹脂補強シート材Psを、製品巻取り機構104に巻き取るようになっている。
【0036】
離型シートRsには離型処理された紙つまり離型紙、または、フッ素樹脂シート、熱硬化性ポリイミド樹脂シートなどが使用される。加熱加圧ロール105の加熱温度及び加熱加圧力を制御することにより、補強繊維シート材Tsの片面に熱可塑性樹脂シート材Hsを付着させた状態にしたり、補強繊維シート材Ts中に樹脂を含浸させた状態にすることができる。
【0037】
ここで、補強繊維シート材Tsへの熱可塑性樹脂シート材Hsの付着とは、補強繊維シート材Tsの片面又は両面の全面又は複数部分に、樹脂を熱融着させる、又は成形品になった際に力学的特性等に影響を与えない接着剤を薄く塗布して接着させるなどして、補強繊維シート材Tsと熱可塑性樹脂シート材Hsとを貼り合わせ、一体化させることである。補強繊維シート材Tsに熱可塑性樹脂シート材Hsを熱融着させる場合、補強繊維シート材Tsの表層部分に樹脂がわずかに含浸することもあるが、その場合においても付着の状態にあるといえる。
【0038】
ここで、補強繊維シート材Tsへの樹脂の含浸とは、補強繊維シート材を構成する各繊維間の空間に樹脂が入り込み、各繊維と樹脂が一体化されることである。補強繊維シート材の空間のほぼ全体に樹脂が入り込んだ状態を含浸と称することが多いが、本発明では、空間が残った状態の半含浸である状態においても含浸として取り扱うことができる。
【0039】
なお、図5では、熱可塑性樹脂シート材Hsを補強繊維シート材Tsの片面側のみ供給しているが、両面側にそれぞれ熱可塑性樹脂シート材Hsを供給すれば、補強繊維シート材Tsの両面に熱可塑性樹脂シート材Hsを付着させた熱可塑性樹脂補強シートPsを得ることができる。また、図5に示す製造装置において、補強繊維シート材Tsの片面側に熱可塑性樹脂シート材Hsを付着させた熱可塑性樹脂補強シート材Psを熱可塑性樹脂シート材Hsの代わりにセットし、熱可塑性樹脂補強シート材Psの熱可塑性樹脂シート材Hsを付着した側を補強繊維シート材Tsに密着するように設定して貼り合わせることで、熱可塑性樹脂シート材Hsの両面に補強繊維シート材Tsを貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造することができる。
【0040】
次に、製造された熱可塑性樹脂補強シート材を用いてプリプレグシート材を製造する。図6は、プリプレグシート材Qsの製造装置に関する概略構成図である。この例では、図4に示すように、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材Psを重ね合わせて供給し、重ね合わされた熱可塑性樹脂補強シート材Psの両面側に離型シートRsをさらに重ね合わせるようにシート供給機構201から送給する。熱可塑性樹脂補強シート材Psは、離型シートRsが重ね合わされた状態で搬送されて予備加熱加圧部204、成形加熱加圧部205及び冷却加圧部206の間を通過し、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材Psが積層一体化してプリプレグシート材Qsが得られる。
【0041】
予備加熱加圧部204及び成形加熱加圧部205は、それぞれ上下ブロック部を備え、図示せぬ熱源により上下ブロック部がそれぞれ予備加熱温度及び成形加熱温度に加熱される。そして、油圧による加圧機構204a及び205aにより上下ブロック部の間を通過するシート材に圧接して加熱加圧するようになっている。また、冷却加圧部206は、上下ブロック部を備え、上下ブロック部の内部に冷却水が供給される。そして、油圧による加圧機構206aにより上下ブロック部の間を通過するシート材に圧接して冷却加圧するようになっている。予備加熱加圧部204、成形加熱加圧部205及び冷却加圧部206の上下ブロック部の搬送路側には、上下にそれぞれシート状のクッション部材207及び加圧部材208が張設されている。クッション部材207としては、膨張黒鉛シート等の耐冷熱性、柔軟性及び圧縮復元性のあるシート材が用いられる。また、加圧部材208としては、C/Cコンポジット等の耐熱性、耐衝撃性、熱伝導性を有する板状体が用いられる。
【0042】
熱可塑性樹脂補強シート材Ps及び離型シートRsは、重ね合わされた状態でクッション部材207及び加圧部材208の間に差し込まれるように搬送されながら、予備加熱加圧部204、成形加熱加圧部205及び冷却加圧部206で加熱加圧及び冷却加圧された後離型シートRsはシート巻取り機構202に巻き取られて分離され、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材Psが一体化したプリプレグシート材Qsは製品巻取り機構203に巻き取られる。
【0043】
図7は、プリプレグシート材Qsの別の製造装置に関する概略構成図である。この例では、図5に示す補強繊維シート材Ts及び熱可塑性樹脂シート材Hsを貼り合わせる機構を用いてプリプレグシート材Qsを製造する。図6に示す製造装置と同様に、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材Psを重ね合わせて送給し、重ね合わせた熱可塑性樹脂補強シート材Psの両面側に離型シートRsをさらに重ね合わせるようにシート供給機構101から送給する。熱可塑性樹脂補強シート材Psは、離型シートRsが重ね合わされた状態で搬送されて2連の加熱加圧ロール105及び2連の冷却加圧ロール106の間を通過し、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材Psが積層一体化してプリプレグシート材Qsが得られる。
【0044】
図8は、プリプレグシート材を用いて成形品を製造する工程に関する説明図である。この例では、成形品として積層板を製造するようになっており、まず、所定の大きさの複数枚のプリプレグシート材を補強繊維の方向が異なるように重ね合わせた被成形体Mを平板状の成形型体301の間にセットする。被成形体Mがセットされた成形型体301を加熱プレス機302の加熱プレス型体303及び304の間にセットする。
【0045】
加熱プレス型体303及び304は型面が平面状に形成されており、成形型体301に密着した状態で当接して加熱・加圧処理が行われる。成形型体301の被成形体Mに対する当接部の厚さがすべて均一に設定されているため、加熱プレス型体303及び304から被成形体への熱伝導性がほぼ均一になり、被成形体Mの内部の熱可塑性樹脂材料全体が溶融含浸するようになる。
【0046】
次に、加熱・加圧処理した成形型体301を冷却プレス機305の冷却プレス型体306及び307の間にセットする。冷却プレス型体306及び307は、型面が平面状に形成されており、成形型体301に密着した状態で当接して冷却・加圧処理が行われる。溶融含浸した熱可塑性樹脂材料は、冷却・加圧処理によりムラなく固化して成形され、被成形体Mは成形反りのない成形品Nに仕上げられる。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
以下の材料を用いて、プリプレグシート材を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S−15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂フィルム(厚さ15μm)
市販のPPS樹脂ペレットを押出成形によりフィルム状にしたものを用いた。
ポリアミド6(PA6)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ20μm)
【0048】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
図5に示す製造装置を用いて、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。まず、元幅約6mmの炭素繊維束を48mm間隔で7本配列して開繊処理した。最初の開繊部では、繊維束1本が24mmの幅まで開繊するように開繊幅を設定し、次の開繊部では24mmに開繊した開繊糸が48mmの幅まで開繊するように開繊幅を設定した。炭素繊維束に付与される初期張力を150gに設定し、炭素繊維束を搬送速度5m/分で搬送した。開繊部における吸引気流の流速(炭素繊維束のない開放状態)は20m/秒で、開繊される炭素繊維に吹き付けられる熱風の吹き出し温度は120℃とした。縦振動付与部は、振動回数600rpmで、炭素繊維束を押圧するロールのストローク量は10mmに設定した。横振動付与部は、振動回数が450rpmで、開繊糸を幅方向に振動させるストローク量は5mmに設定した。なお、縦振動付与部のロールの直径は10mm、横振動付与部のロールの直径は25mmで、それぞれ表面は梨地加工を施している。
【0049】
以上のように設定した開繊機構に炭素繊維束を搬送して、シート幅約340mmの補強繊維シート材を連続形成した。補強繊維シート材は、炭素繊維が幅方向に均一に分散されて隙間が生じておらず、その目付け量は約21g/m2であった。
【0050】
連続形成される補強繊維シート材をそのまま連続搬送しながらPPS樹脂フィルムを離型シートにとともに重ね合わせて挟み込み、加熱加圧ロール及び冷却加圧ロールの間を通過させた。離型シートとして、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)を使用した。加熱加圧ロールの温度は250℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分である。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0051】
以上説明した製造方法と同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。次に、製造した熱可塑性樹脂補強シート材を熱可塑性樹脂シート材の代わりに用いて、同様の製造方法で補強繊維シート材を貼り合わせ、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。いずれの製造方法においても、加熱加圧ロールの温度は220℃に、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。こうして、PA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け21g/m2(片面の目付け、両面の合計42g/m2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0052】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、図4に示すように重ね合わせて図6に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。図6に示す製造装置では、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部の各ブロック部を幅1000mm、シート材の搬送方向長さ350mmに設定した。上下ブロック部及びシート材の間には、加圧部材として厚さ2mmのC/Cコンポジット(株式会社アクロス製)をそれぞれセットして、さらに、上下ブロック部とC/Cコンポジットとの間には膨張黒鉛シート(PERMA―FOIL、厚み0.5mm、東洋炭素株式会社製)をクッション部材としてセットした。
【0053】
4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PPS樹脂フィルム(下側がPPS樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせ、加圧部材であるC/Cコンポジットの間に挟み込むように送給し、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部を順次通過させた。予備加熱加圧部では加熱温度150℃及び加圧力0.1MPaに設定し、成形加熱加圧部では温度320℃及び加圧力2MPaに設定し、冷却加圧部では水冷による冷却及び加圧力0.1MPaとした。加工処理では、停止時間つまり加圧時間を約4秒に設定し、加圧時間以外におけるシート材の移動速度は約2秒間で約340mm移動するように設定して、1分間で約3.4m製造する加工速度とした。冷却加圧部から搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、加工されたプリプレグシート材を得た。
【0054】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m2及び樹脂重量含有率約40%のプリプレグシート材が得られた。図9は、プリプレグシート材の断面を撮影した写真である。得られたプリプレグシート材は、若干のボイド(色の黒い部分)が存在するものの、各熱可塑性樹脂材料が炭素繊維間に含浸した状態となっている。写真では、多数の小さい白い丸が炭素繊維の断面である。表層にはPPS樹脂領域(色の薄い部分)が形成され、内層にはPA6樹脂領域(色の濃い部分)が形成されて、それぞれ炭素繊維層の内部に含浸しており、その境界部分は炭素繊維層の内部に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。
【0055】
[実施例2]
<使用材料>
補強繊維シート材及び熱可塑性樹脂シート材は、実施例1と同じものを用いた。
【0056】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0057】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、実施例1の場合と同様に重ね合わせ、図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PPS樹脂フィルム(下側がPPS樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0058】
加熱加圧ロールの加熱温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。
【0059】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m2及び樹脂重量含有率約40%のプリプレグシート材が得られた。図10は、プリプレグシート材の断面を撮影した写真である。得られたプリプレグシート材は、実施例1と同様に、PPS樹脂領域及びPA6樹脂領域の境界部分が炭素繊維層の内部に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。また、炭素繊維層の内部には、実施例1に比べてサイズの大きいボイドが多数存在しており、半含浸状態であることが確認できた。
【0060】
[実施例3]
以下の材料を用いて、プリプレグシート材を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S−15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム;ビクトレックス株式会社製(厚さ16μm)
ポリエーテルイミド(PEI)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ15μm)
【0061】
<熱可塑性樹脂材料の流動特性について>
PEEK樹脂及びPEI樹脂について、流動特性の違いについて検証した。JIS K7199 キャピラリーレオメータ及びスリットダイレオメータによるプラスチックの流れ特性試験方法に準じ、キャピラリーレオメータを用いて、PEEK樹脂(ビクトレックス社製グレード450G)及びPEI樹脂(SABIC社製Ultem1000)の見掛け粘度を測定した。温度370℃で見掛けせん断速度1.216×e2/秒の条件において、PEEK樹脂の見掛け粘度は1.447×e3Pa・s、PEI樹脂の見掛け粘度は1.006×e3Pa・sであった。この測定結果から、PEEK樹脂の方がPEI樹脂に比べて粘度が高く、流動性が低い特性を有していることがわかる。
【0062】
したがって、こうした所定温度状態で流動特性の異なる熱可塑性樹脂材料を用いることで、マトリックス樹脂の内部に異なる樹脂材料からなる複数の樹脂領域を形成することができる。なお、温度状態の設定については、成形圧力との関係で樹脂材料の流動する程度に応じて適宜設定すればよい。
【0063】
また、同じ種類の樹脂材料でも流動特性が異なる場合には、それらを組み合せることもできる。例えば、PEI樹脂では、SABIC社製Ultem1000のメルトフローレート(337℃、6.6kgf)は9g/10分で、SABIC社製Ultem1010ではメルトフローレート(337℃、6.6kgf)は17.8g/10分とされており、同じ樹脂材料でも流動特性か異なっている。この場合には、Ultem1010の方が流動性が高いと考えられるため、同じ種類の樹脂材料でも流動性の違いを利用してマトリックス樹脂の内部に異なる樹脂材料からなる複数の樹脂領域を形成することができる。
【0064】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の製造装置を用いて製造した。実施例1と同様に、炭素繊維束を開繊して補強繊維シート材を形成し、熱可塑性樹脂シート材としてPEEK樹脂フィルムと重ね合わせて離型シートに挟み込み加熱加圧ロールに供給した。離型シートとして、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)を使用した。加熱加圧ロールの温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。冷却加圧ロールから搬出した後上下両側の離型シートを巻き取り、目付け約21g/m2の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEEK樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0065】
以上説明した製造方法と同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEI樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。次に、製造した熱可塑性樹脂補強シート材を熱可塑性樹脂シート材の代わりに用いて、同様の製造方法で補強繊維シート材を貼り合わせ、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。いずれの製造方法においても、加熱加圧ロールの温度は300℃に、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。こうして、PEI樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け約21g/m2(片面の目付け、両面の合計42g/m2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0066】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、図4に示すように重ね合わせて実施例1と同様にプリプレグシート材を製造した。
【0067】
4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PEEK樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPEEK樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PEI樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PEEK樹脂フィルム(下側がPEEK樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせ、加圧部材であるC/Cコンポジットの間に挟み込むように送給し、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部を順次通過させた。予備加熱加圧部では加熱温度250℃及び加圧力0.1MPaに設定し、成形加熱加圧部では温度380℃及び加圧力2MPaに設定し、冷却加圧部では水冷による冷却及び加圧力0.1MPaとした。加工処理では、停止時間つまり加圧時間を約4秒に設定し、加圧時間以外におけるシート材の移動速度は約2秒間で約340mm移動するように設定して、1分間で約3.4m製造する加工速度とした。冷却加圧部から搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、加工されたプリプレグシート材を得た。
【0068】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m2及び樹脂重量含有率約39%のプリプレグシート材が得られた。プリプレグシート材の断面を撮影した写真を確認したところ、図9に示す写真と同様に、表層にはPEEK樹脂層が形成され、内層にはPEI樹脂層が形成されて、それぞれ炭素繊維層の内部に含浸しており、その境界部分は炭素繊維層に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。
【0069】
得られたプリプレグシート材について、大型純曲げ試験機(KES−FBシリーズ(Kawabata’s Evaluation System for Fabrics)の1つ)を用いて曲げ特性を測定した。得られたプリプレグシート材から繊維方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片及び繊維と直角方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片を切断して取り出した。2枚の試験片を大型純曲げ試験機にセットして曲げ試験を実施した結果、繊維方向の曲げ剛性は119.5×10-4N・m2/m、繊維と直角方向の曲げ剛性は3.3×10-4N・m2/mであった。
【0070】
[実施例4]
<使用材料>
補強繊維シート材及び熱可塑性樹脂シート材は、実施例3と同じものを用いた。
【0071】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例3と同様の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0072】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、実施例2の場合と同様に重ね合わせ、図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PEEK樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPEEK樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PEI樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PEEK樹脂フィルム(下側がPEEK樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0073】
加熱加圧ロールの加熱温度は340℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。
【0074】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m2及び樹脂重量含有率約39%のプリプレグシート材が得られた。プリプレグシート材の断面を撮影した写真を確認したところ、図10に示す写真と同様に、PEEK樹脂領域及びPEI樹脂領域の境界部分が炭素繊維層の内部に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。また、炭素繊維層の内部には、実施例3に比べてサイズの大きいボイドが多数存在しており、半含浸状態であることが確認できた。
【0075】
得られたプリプレグシート材について、大型純曲げ試験機(KES−FBシリーズ(Kawabata’s Evaluation System for Fabrics)の1つ)を用いて曲げ特性を測定した。得られたプリプレグシート材から繊維方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状試験片及び繊維と直角方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片を切断して取り出した。2枚の試験片を大型純曲げ試験機にセットして曲げ試験を実施した結果、繊維方向の曲げ剛性は57.6×10-4N・m2/m、繊維と直角方向の曲げ剛性は0.7×10-4N・m2/mであった。実施例1で製造された樹脂が十分含浸したプリプレグシート材に比べ、曲げ剛性が低く、曲がり易いプリプレグシート材が得られたことがわかる。
【0076】
[実施例5]
実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層して図8に示す加熱加圧成型工程を行い、熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。実施例4において得られた半含浸状態のプリプレグシート材を用いて、繊維方向を0度として、[45度/0度/−45度/90度]2Sの構成となるようにプリプレグシート材を積層し、300mm×300mmのサイズの積層材を製造した。製造した積層材を平板状の成形型体の間にセットした。成形型体の表面には離型剤を塗布した。
【0077】
ここで、[45度/0度/−45度/90度]2Sという表記法は、積層材の構成を表わすもので、45度、0度、−45度、90度は繊維方向を示し、[ ]2Sは[ ]内の積層構造を2回繰り返し、厚さ方向に対称(Symmetry)となるように積層することを示している。例えば、[0度/90度]2Sは、0度、90度、0度、90度、90度、0度、90度、0度の構成で8枚のプリプレグシート材を積層した構造となる。
【0078】
シート片をセットした成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度370℃、圧力2MPaで15分間の加熱プレス成形を行った。その後、成形型体を冷却プレス装置に設置して、圧力2MPaで空気冷却した。約20分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0079】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図11は、積層板の断面を撮影した写真である。写真を見ると、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、ボイドの無い積層板が得られたことがわかる。なお、積層板全体の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚み及び炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。
【0080】
[実施例6]
実施例5と同様に、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層した後、図8に示す加熱加圧成形工程を行い熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。実施例5と加熱加圧成形の条件を変えることで、層間に樹脂層が形成された積層板を得た。まず、実施例5と同様の方法により、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を積層し、図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度350℃及び圧力4MPaで15分間加熱加圧成形を行った。実施例5に比べて低温高圧で加熱加圧成形しているため、低温にすることでシート片の表層のPEEK樹脂を流動性の低い状態に設定し、かつ、高圧にすることでPEEK樹脂及びPEI樹脂とも炭素繊維の間への含浸が促進されるように設定した。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで空気冷却した。約20分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0081】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図12は、積層板の断面を撮影した写真である。写真を見ると、各層間にPEEK樹脂からなる樹脂層が形成されたことが確認された。さらに、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、層内には大きなボイドもなく、積層板として品質の良いものが成形できた。なお、積層板全体の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚み及び炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。
【0082】
[実施例7]
実施例5と同様に、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層した後、図8に示す加熱加圧成形工程を行い熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。この例では、実施例5に比べて加熱加圧成形時間の条件を変えて成形を行った。まず、実施例5と同様な方法により、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を積層し、図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度370℃及び圧力4MPaで3分間加熱加圧成形を行った。実施例5に比べて、高圧で短時間の成形時間に設定した。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで水冷冷却を行った。実施例5及び6に比べて、水冷冷却にすることで短時間で冷却するようにした。約5分間室温まで冷却されたところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0083】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図13は、積層板の断面を撮影した写真である。この例では、熱可塑性樹脂材料の含浸時間を短時間に設定しても十分な含浸が行われることを確認できた。これは、補強繊維シート材の厚さを薄くすることで、厚み方向に配列される補強繊維の数が減少し、樹脂の含浸距離が短くなったことによる効果と考えられる。なお、積層板の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚みと炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。
【0084】
[実施例8]
半含浸状態のプリプレグシート材及び熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層した後、図8に示す加熱加圧成型を行い、熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S−15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂フィルム(厚さ50μm)
市販のPPS樹脂ペレットを押出成形によりフィルム状にしたものを用いた。
ポリアミド6(PA6)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ20μm)
【0085】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の方法により、厚さ50μmのPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が目付け21g/m2の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面に熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材、及び、厚さ20μmのPA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け21g/m2(片面の目付け、両面の合計42g/m2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材、の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0086】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材をそれぞれ1枚ずつ用いて重ね合わせ、図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。2枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0087】
加熱加圧ロールの加熱温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。得られたプリプレグシート材は、実施例2と同様に、層間に樹脂の未含浸部分が拡がって樹脂が半含浸状態となっていた。
【0088】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の製造>
実施例5と同様に、製造された半含浸状態のプリプレグシート材から、繊維方向を0度方向として、45度方向に繊維が配列した300mm×300mmのシート片を複数枚切り出した。また、PA6樹脂フィルムの両面に炭素繊維シートを貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材から、繊維方向を0度方向として、0度方向、90度方向、−45度方向に繊維が配列した300mm×300mmのシート片をそれぞれ複数枚切り出した。
【0089】
熱可塑性樹脂補強シート材から切り出したシート片を、[0度/−45度/90度]Sの構成で積層し、その両表層にプリプレグシート材から切り出したシート片を配置して、成形型体の間にセットした。この場合、セットされたシート片の積層構成は、[45度/0度/−45度/90度]Sとなっている。
【0090】
図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度280℃及び圧力4MPaで15分間加熱加圧成形を行った。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで空気冷却した。約15分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0091】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方の熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図14は、積層板の−45度方向と直角方向に切断した断面を撮影した写真である。写真を見ると、両側表層にPPS樹脂からなる樹脂層が形成されたことが確認された。そして、PPS樹脂は、炭素繊維に沿って含浸してPA6樹脂に入り込んだ状態となっていることが確認された。また、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、層内に大きなボイドは生じておらず、成形板として品質の良いものが成形できたことが確認された。
【符号の説明】
【0092】
1A〜1C・・・補強繊維シート層、2・・・樹脂層、3・・・樹脂層、4・・・熱可塑性樹脂補強シート材、5・・・補強繊維シート材、6・・・熱可塑性樹脂シート材、7・・・熱可塑性樹脂補強シート材、8・・・補強繊維シート材、9・・・熱可塑性樹脂シート材、10・・・給糸体、11・・・送給機構、12・・・ニップロール、13・・・開繊機構、101・・・シート供給機構、102・・・シート供給機構、103・・・シート巻取り機構、104・・・製品巻取り機構、105・・・加熱加圧ロール、106・・・冷却加圧ロール、201・・・シート供給機構、202・・・シート巻取り機構、203・・・製品巻取り機構、204・・・予備加熱加圧部、205・・・成形加熱加圧部、206・・・冷却加圧部、301・・・成形型体、302・・・加熱プレス機、303・・・加熱プレス型体、304・・・加熱プレス型体、305・・・冷却プレス機、306・・・冷却プレス型体、307・・・冷却プレス型体
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された複数の補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維補強複合材料は、繊維材料とマトリックス材料を組み合せたもので、軽量で剛性が高く多様な機能設計が可能な材料であり、航空宇宙分野、輸送分野、土木建築分野、運動器具分野等の幅広い分野で用いられている。現在、炭素繊維又はガラス繊維といった補強繊維材料を熱硬化性樹脂材料と組み合せた繊維強化プラスチック(FRP)が主流となっている。しかし、リサイクル性、短時間成型性、成型品の耐衝撃特性の向上等の利点から、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂材料を用いた成型品開発が今後増加すると考えられている。
【0003】
補強繊維材料と熱可塑性樹脂材料と組み合わせたシート材については、例えば、特許文献1では、熱可塑性樹脂シート及び炭素繊維からなる強化繊維束を交互に積層するように搬送し、積層されたシートを加熱及び加圧してプリプレグシート材を製造する点が記載されている。また、特許文献2では、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられてシート状に形成された補強繊維シート材及び補強繊維シート材の片面に付着した熱可塑性樹脂シート材により構成されている熱可塑性樹脂補強シート材を積層して形成された熱可塑性樹脂多層補強シート材を用いて熱可塑性樹脂多層補強成形品を製造する点が記載されている。
【0004】
また、特許文献3では、複数の補強繊維を集束した補強繊維束を幅方向に複数本引き揃えシート状とした補強繊維シート材の片面に、熱可塑性樹脂シート材を、当該熱可塑性樹脂シート材の溶融温度より低い温度で溶融又は軟化する接着用熱可塑性樹脂材によって付着させて熱可塑性樹脂補強シート材を構成し、熱可塑性樹脂補強シート材を積層して接着用熱可塑性樹脂材により各層の熱可塑性樹脂補強シート材を接着一体化させて熱可塑性樹脂多層補強シート材を製造する点が記載されている。
【0005】
また、特許文献4では、開繊糸シートの片面又は両面に、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が付着した樹脂付着離型シートを密着させて加熱加圧することで、開繊糸シートに樹脂を付着又は含浸させた繊維補強シートを製造する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−181832号公報
【特許文献2】特開2008−149708号公報
【特許文献3】特表2008−221833号公報
【特許文献4】特開2010―270420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献では、熱可塑性樹脂材料を補強繊維材料の間に含浸させた繊維補強シート材又は成形品を製造しているが、熱可塑性樹脂材料は、溶融時の樹脂粘度が高く流動特性が悪いため、補強繊維材料の間に熱可塑性樹脂材料の未含浸部分つまりボイド(空隙)が発生しやすく力学的特性が悪くなる。プリプレグシートを積層して得られる積層成形品の場合、層間の強度や靭性が成形品の力学特性に影響を与える。特に、耐衝撃性については、層間樹脂の靭性が支配的となる。
【0008】
マトリクス樹脂材料にエポキシ樹脂材料等の熱硬化性樹脂材料を使用する場合、マトリクス樹脂材料に不溶である熱可塑性樹脂材料の微粒子を分布させ、層間に樹脂層を形成し、耐衝撃性を向上させている。この場合、靭性のある熱可塑性樹脂材料を高濃度に分布させた樹脂層を形成したことで、層間の剥離が抑制されたと考えられる(例えば、特開2008−50587号公報参照)。
【0009】
しかしながら、マトリクス樹脂材料として熱可塑性樹脂材料を使用した場合、成形時における高温・高圧の状態により層間に樹脂層を形成することが難しい。また、熱可塑性樹脂材料が補強繊維材料の間に含浸したプリプレグシートは剛性を有するようになるため、補強繊維材料を多軸に配向させて複数層に積層したシートはドレープ性に欠け、三次元形状の成型金型に合致させるように変形させることが難しいといった課題がある。
【0010】
そこで、本発明は、積層された複数の補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂に異なる熱可塑性樹脂材料からなる樹脂領域を形成することで高品質で優れた特性を備えるプリプレグシート材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るプリプレグシート材は、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域が形成されている。さらに、複数の前記樹脂領域は、異なる種類の熱可塑性樹脂材料からなる。さらに、前記樹脂領域の間の境界部分は、前記補強繊維シート層の内部に入り込んだ状態となっている。さらに、前記樹脂領域は、層状に形成されている。さらに、前記樹脂領域では、前記補強繊維シート層の補強繊維の間に前記熱可塑性樹脂材料が一部空間を残した状態で含浸した半含浸部分が少なくとも一部に形成されている。
【0012】
本発明に係るプリプレグシート材の製造方法は、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート材を特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数種類の熱可塑性樹脂シート材とそれぞれ付着させて複数種類の熱可塑性樹脂補強シート材を形成し、異なる種類の前記熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層して加熱加圧することで一体形成する。さらに、複数種類の前記熱可塑性樹脂シート材は、異なる種類の熱可塑性樹脂材料からなる。さらに、表層側の前記熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料は、所定の温度状態において内層側の前記熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料よりも流動性の低い材料を用いる。さらに、前記補強繊維シート材は、単位面積当りの重量が80g/m2以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記のような構成を有することで、積層された複数の補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂に異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域が形成されているので、高品質で優れた特性を備えたプリプレグシート材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】本発明に係るプリプレグシート材の断面に関する模式図である。
【図1B】本発明に係るプリプレグシート材の断面に関する模式図である。
【図1C】本発明に係るプリプレグシート材の断面に関する模式図である。
【図2】熱可塑性樹脂補強シート材に関する模式図である。
【図3A】別の熱可塑性樹脂補強シート材に関する模式図である。
【図3B】別の熱可塑性樹脂補強シート材に関する模式図である。
【図4】熱可塑性樹脂補強シート材の積層に関する説明図である。
【図5】熱可塑性樹脂補強シート材の製造装置に関する概略構成図である。
【図6】プリプレグシート材の製造装置に関する概略構成図である。
【図7】プリプレグシート材の別の製造装置に関する概略構成図である。
【図8】プリプレグシート材を用いて成形品を製造する工程に関する説明図である。
【図9】実施例1におけるプリプレグシート材の断面を撮影した写真である。
【図10】実施例2におけるプリプレグシート材の断面を撮影した写真である。
【図11】実施例5における積層板の断面を撮影した写真である。
【図12】実施例6における積層板の断面を撮影した写真である。
【図13】実施例7における積層板の断面を撮影した写真である。
【図14】実施例8における積層板の断面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0016】
図1A〜図1Cは、本発明に係るプリプレグシート材の断面に関する模式図である。図1Aは、補強繊維シート層の間に樹脂のみからなる層が形成されたプリプレグシート材に関する断面図である。この例では、プリプレグシート材は、炭素繊維、ガラス繊維等の補強繊維を引き揃えシート状に形成した補強繊維シート層1A〜1Cが層状に配列され、これらの補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂を備えている。マトリックス樹脂は、異なる熱可塑性樹脂材料からなる2つ樹脂領域2及び3を備え、樹脂領域3が樹脂領域2の両側から挟むように層状に形成されている。そして、補強繊維シート層1A及び1B並びに補強繊維シート層1B及び1Cの層間に樹脂領域2の樹脂樹脂層2a及び2bが形成され、補強繊維シート層1A及び1Cの外側に樹脂領域3の樹脂層3a及び3bが形成されている。
【0017】
そして、樹脂層2a及び2bが両側に配置された補強繊維シート層1Bでは、両側から内部に向かって樹脂領域2の樹脂が補強繊維の間に一部入り込んだ状態となっている。また、樹脂層2aが内側に配置され外側に樹脂層3aが配置された補強繊維シート層1A及び樹脂層2bが内側に配置され外側に樹脂層3bが配置された補強繊維シート層1Cでは、内側から樹脂領域2の樹脂が補強繊維の間に一部入り込んだ状態となり、外側から樹脂領域3の樹脂が補強繊維の間に一部入り込んだ状態となっている。そのため、樹脂領域2及び3の間の補強繊維シート層1A及び1Cの内部では、補強繊維の間で2つの異なる熱可塑性樹脂材料が互いに入り乱れるように混在して一体化した境界部分が形成されている。
【0018】
図1B及び図1Cは、補強繊維シート層の内部に樹脂が入り込んで含浸状態となっているプリプレグシート材に関する断面図である。図1Bでは、補強繊維シート層1A〜1Cの間に樹脂層がほとんど見られず、マトリクス樹脂が補強繊維シート層全体に満遍なく入り込んで含浸した状態となっている。マトリクス樹脂は、異なる熱可塑性樹脂材料からなる2つの樹脂領域2及び3を備え、樹脂領域3が樹脂領域2の両側から挟むように層状に形成されており、各領域の間の境界部分が補強繊維シート層の内部に入り込んでいる。また、図1Cでは、補強繊維シート層1A及び1Bの2つの層を備え、補強繊維シート層の間には樹脂層がほとんど見られない状態となっている。そして、異なる熱可塑性樹脂材料からなる2つの樹脂領域2及び3が層状に形成されて、各領域の間の境界部分が補強繊維シート層の内部に入り込んでいる。
【0019】
このように、複数の補強繊維シート層を積層しその厚み方向に異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域を配置して熱可塑性樹脂材料を補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態で一体化しているので、補強繊維シート層に一部入り込んだ樹脂のアンカー効果により補強繊維シート層及び樹脂領域の間の剥離強度が向上してプリプレグシート材の強度を高めることができる。また、補強繊維シート層に入り込んだ樹脂が補強繊維シート層全体に満遍なく含浸せずに一部空隙を残した半含浸状態にすることで、プリプレグシート材としてのドレープ性を確保することができ、剥離しにくくドレープ性の良好な高品質のプリプレグシート材を得ることができる。
【0020】
また、厚み方向に異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域を形成しているので、特性の異なる熱可塑性樹脂材料を用いれば、各熱可塑性樹脂材料が有する特性を併せ持つ優れた特性を備えたプリプレグシート材を得ることができる。例えば、表層に靱性の高い熱可塑性樹脂材料を用い、内層に所定温度状態で流動性の高い熱可塑性樹脂材料を用いてプリプレグシート材を構成すれば、プリプレグシート材を複数枚積層して成形加工する場合、流動性の高い熱可塑性樹脂材料が補強繊維シート層全体に満遍なく含浸してボイドのない成形品を得ることができ、また、層間には靱性の高い樹脂層が形成されるため層間剥離が生じにくい成形品とすることができる。
【0021】
また、ある成形温度に対して流動性の異なる熱可塑性樹脂材料を用いて、表層には流動性の低い材料を配置し、内層には流動性の高い材料を配置することで、積層間において樹脂層を形成することができる。層間に形成された熱可塑性樹脂材料からなる樹脂層により耐衝撃性を向上させることが期待できる。また、表層に耐熱性及び耐溶剤性の高い樹脂を用いてプリプレグシート材を構成すれば、プリプレグシート材を成形加工して得られる成形品に耐熱性及び耐溶剤性を付与することができる。
【0022】
上述した例では、補強繊維シート層を3層とし、層間及び表層に樹脂層が形成されているが、補強シート層は、2層以上であればよく特に限定されない。また、マトリックス樹脂に用いる熱可塑性樹脂材料は、2種類以上用いてもよく特に限定されない。なお、上述した例では、マトリックス樹脂は、複数種類の熱可塑性樹脂材料が層構成されるようになっているが、複数種類の熱可塑性樹脂材料が混在して明確な層構成となっていない場合でもよく、マトリックス樹脂の少なくとも一部に複数の樹脂領域が形成されていればよい。また、同じ種類の熱可塑性樹脂材料でも特性の異なるものを組み合せてマトリックス樹脂を構成するようにしてもよい。
【0023】
プリプレグシート材の層構成については、厚さ方向の中心に対して対称となるように補強繊維シート層及び樹脂領域を構成すれば、反り等の変形が抑えられる。
【0024】
補強繊維シート層に用いる補強繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリオキシメチレン繊維、アロマティック・ポリアミド繊維等のFRPに用いられる高強度・高弾性率の無機繊維や有機繊維などが挙げられる。また、これらの繊維が集束した繊維束を複数組み合せてもよい。なお、補強繊維の繊度については特に限定されない。また、補強繊維シート層の厚みは、プリプレグシート材の用途に合わせて適宜設定すればよく特に限定されないが、プリプレグシート材のドレープ性を得るためには、厚みを0.2mm以下とすることが好ましい。補強繊維シート層の1層における単位面積当りの補強繊維の重量は、80g/m2以下であることが好ましい。補強繊維の重量が80g/m2を超えると、厚み方向の繊維本数が増加し、最終的な成形品を製造した場合に繊維の間に樹脂が流れ込みにくくなってボイドが発生する可能性がある。
【0025】
マトリックス樹脂に用いる熱可塑性樹脂材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12など)、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂材料を2種類以上混合して、ポリマーアロイにして使用してもよい。
【0026】
プリプレグシート材は、上述した補強繊維を引き揃えシート状に形成した補強繊維シート材の片面又は両面に、上述した熱可塑性樹脂材料をフィルム状、パウダー状又は不織布状に付着させた熱可塑性樹脂補強シート材を用いて製造することができる。図2では、熱可塑性樹脂補強シート材4は、複数の補強繊維5fがサイジング剤等により集束した補強繊維束5tを幅方向に複数本引き揃えシート状の補強繊維シート材5に形成した片面に、フィルム状の熱可塑性樹脂シート材6を付着した構成になっている。また、図3A及び図3Bでは、熱可塑性樹脂補強シート材7は、補強繊維シート材8及び熱可塑性樹脂シート材9のいずれか一方のシート材の両面に他方のシート材が付着した構成となっている。図3Aでは、熱可塑性樹脂シート材9の両面に補強繊維シート材8が付着した構成になっており、図3Bでは、補強繊維シート材8の両面に熱可塑性樹脂シート材9が付着した構成となっている。
【0027】
ここで、付着とは、補強繊維シート材の片面又は両面の全面又は複数部分に、熱可塑性樹脂シート材を熱融着させる、又は成型品になった際に力学的特性等に影響を与えない接着剤を薄く塗布して接着させる等して、補強繊維シート材と熱可塑性樹脂シート材をばらけないように一体化させることである。補強繊維シート材に熱可塑性樹脂シート材を熱融着させる場合、補強繊維シート材の表層部分に熱可塑性樹脂シート材が含浸することもあるが、その場合においてもシートとしてのドレープ性は十分にあり、付着の状態にあるといえる。
【0028】
図3A及び図3Bに示す熱可塑性樹脂シート材では、熱可塑性樹脂シート材又は補強繊維シート材のいずれか一方のシート材の両面に他方のシート材を付着させた構成となっているので、両面に同じ材質のシート材が付着することで熱可塑性補強シート材がいずれの片面にもカールすることがない。熱可塑性樹脂補強シート材を薄層化していくと、カール等の変形が生じやすくなるが、図3A及び図3Bに示す構成にすることによりシート材の平面状の形態を維持することができる。
【0029】
そして、図3Aに示すように、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材が付着した熱可塑性樹脂補強シート材の場合には、両シート材の配合割合を所定の値に設定した際に、補強繊維シート材を半分ずつ熱可塑性樹脂シート材の両面に付着させるようになって補強繊維シート材の厚みが薄く設定できる。そのため、補強繊維シート材中を熱可塑性樹脂が含浸する際、含浸距離が短くなる。
【0030】
熱可塑性樹脂補強シート材を薄層化していく場合、熱可塑性樹脂シート材及び補強繊維シート材の厚さを薄くする必要があるが、熱可塑性樹脂シート材に比べて補強繊維シート材の厚さを薄くすることが容易であることから、熱可塑性樹脂シート材の両面に薄い補強繊維シート材を付着させるようにすることで、熱可塑性樹脂補強シート材をより薄層化して含浸距離を短くすることができる。そのため、さらに短時間で、かつボイドなどの空隙がさらに少なくなった品質の良い成形品を得ることが可能となる。
【0031】
上述した熱可塑性樹脂補強シート材を用いて図1に示すプリプレグシート材を製造する場合には、図4に示すように、図3Aに示す熱可塑性樹脂補強シート材7を2枚積層し、その両側に図2に示す熱可塑性樹脂補強シート材4を積層した後その両側から加熱加圧し、熱可塑性樹脂シート材の樹脂が溶融又は軟化して一部が補強繊維シート材の内部に入り込んだ状態となって一体形成することで製造することができる。そして、熱可塑性樹脂シート材6及び熱可塑性樹脂シート材9にそれぞれ異なる熱可塑性樹脂材料を用いることで、厚み方向に異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂層を形成することができる。例えば、プリプレグシート材の表層に用いる熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料を内層に比べ所定温度状態で流動性の低いものを用いることにより、成形品になったとき、層間に樹脂層を形成することができ、層間剥離の生じ難い成形品を製造することができる。また、表層に用いる熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料を内層に比べ融点の高いものを用いることで、加熱した場合に内層の熱可塑性樹脂材料が表層よりも先に溶融していき、内部におけるボイド等の空隙の発生を抑えることができる。
【0032】
また、薄い熱可塑性樹脂補強シート材を用いることで、異なる熱可塑性樹脂材料が厚み方向に均一に分散した成形品を製造することができ、強度が高まって層間剥離等が生じにくくなる。
【0033】
上述した例では、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材を組み合わせてプリプレグシート材を製造しているが、2枚以上の熱可塑性樹脂補強シート材を組み合せて製造すればよく、特に限定されない。また、熱可塑性樹脂補強シート材にフィルム状の熱可塑性樹脂シート材を用いているが、補強繊維シート材の表面に、パウダー状、織物状、不織布状に形成された熱可塑性樹脂材料を層状に配置して用いることもできる。
【0034】
図5は、熱可塑性樹脂補強シート材Psの製造装置に関する概略構成図である。この例では、複数の給糸体10から繰り出された補強繊維束は、送給機構11により所定の送り量でニップロール12から幅方向に配列されて送給される。幅方向に配列された補強繊維束は、開繊機構13において公知の開繊部13a、縦振動付与部13b及び横振動付与部13cを通過して幅方向に開繊されていき、幅広の補強繊維シート材Tsが得られる。得られた補強繊維シート材Tsの一方の片面には、離型シートRs及び熱可塑性樹脂材料からなるフィルム状の熱可塑性樹脂シート材Hsが重ね合わされて送給され、他方の片面には離型シートRsのみが送給される。
【0035】
離型シートRsは、補強繊維シート材Tsの両面側にそれぞれ配置されたシート供給機構101から連続供給される。熱可塑性樹脂シート材Hsは、補強繊維シート材Tsの片面側に配置されたシート供給機構102から連続供給され、補強繊維シート材Tsと離型シートRsとの間に差し込まれて連続搬送される。補強繊維シート材Tsの一方の片面側に離型シートRs及び熱可塑性樹脂シート材Hsが重ね合わせられ、他方の片面側に離型シートRsが重ね合わせられた状態で走行させながら、2連の加熱加圧ロール105及び2連の冷却加圧ロール106の間を通過して、補強繊維シート材Tsの片面に熱可塑性樹脂シート材Hsを熱融着により貼り合わせて熱可塑性樹脂補強シート材Psを得る。そして、離型シートRsは、シート巻取り機構103により巻き取って熱可塑性樹脂補強シート材Psから分離し、熱可塑性樹脂補強シート材Psを、製品巻取り機構104に巻き取るようになっている。
【0036】
離型シートRsには離型処理された紙つまり離型紙、または、フッ素樹脂シート、熱硬化性ポリイミド樹脂シートなどが使用される。加熱加圧ロール105の加熱温度及び加熱加圧力を制御することにより、補強繊維シート材Tsの片面に熱可塑性樹脂シート材Hsを付着させた状態にしたり、補強繊維シート材Ts中に樹脂を含浸させた状態にすることができる。
【0037】
ここで、補強繊維シート材Tsへの熱可塑性樹脂シート材Hsの付着とは、補強繊維シート材Tsの片面又は両面の全面又は複数部分に、樹脂を熱融着させる、又は成形品になった際に力学的特性等に影響を与えない接着剤を薄く塗布して接着させるなどして、補強繊維シート材Tsと熱可塑性樹脂シート材Hsとを貼り合わせ、一体化させることである。補強繊維シート材Tsに熱可塑性樹脂シート材Hsを熱融着させる場合、補強繊維シート材Tsの表層部分に樹脂がわずかに含浸することもあるが、その場合においても付着の状態にあるといえる。
【0038】
ここで、補強繊維シート材Tsへの樹脂の含浸とは、補強繊維シート材を構成する各繊維間の空間に樹脂が入り込み、各繊維と樹脂が一体化されることである。補強繊維シート材の空間のほぼ全体に樹脂が入り込んだ状態を含浸と称することが多いが、本発明では、空間が残った状態の半含浸である状態においても含浸として取り扱うことができる。
【0039】
なお、図5では、熱可塑性樹脂シート材Hsを補強繊維シート材Tsの片面側のみ供給しているが、両面側にそれぞれ熱可塑性樹脂シート材Hsを供給すれば、補強繊維シート材Tsの両面に熱可塑性樹脂シート材Hsを付着させた熱可塑性樹脂補強シートPsを得ることができる。また、図5に示す製造装置において、補強繊維シート材Tsの片面側に熱可塑性樹脂シート材Hsを付着させた熱可塑性樹脂補強シート材Psを熱可塑性樹脂シート材Hsの代わりにセットし、熱可塑性樹脂補強シート材Psの熱可塑性樹脂シート材Hsを付着した側を補強繊維シート材Tsに密着するように設定して貼り合わせることで、熱可塑性樹脂シート材Hsの両面に補強繊維シート材Tsを貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造することができる。
【0040】
次に、製造された熱可塑性樹脂補強シート材を用いてプリプレグシート材を製造する。図6は、プリプレグシート材Qsの製造装置に関する概略構成図である。この例では、図4に示すように、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材Psを重ね合わせて供給し、重ね合わされた熱可塑性樹脂補強シート材Psの両面側に離型シートRsをさらに重ね合わせるようにシート供給機構201から送給する。熱可塑性樹脂補強シート材Psは、離型シートRsが重ね合わされた状態で搬送されて予備加熱加圧部204、成形加熱加圧部205及び冷却加圧部206の間を通過し、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材Psが積層一体化してプリプレグシート材Qsが得られる。
【0041】
予備加熱加圧部204及び成形加熱加圧部205は、それぞれ上下ブロック部を備え、図示せぬ熱源により上下ブロック部がそれぞれ予備加熱温度及び成形加熱温度に加熱される。そして、油圧による加圧機構204a及び205aにより上下ブロック部の間を通過するシート材に圧接して加熱加圧するようになっている。また、冷却加圧部206は、上下ブロック部を備え、上下ブロック部の内部に冷却水が供給される。そして、油圧による加圧機構206aにより上下ブロック部の間を通過するシート材に圧接して冷却加圧するようになっている。予備加熱加圧部204、成形加熱加圧部205及び冷却加圧部206の上下ブロック部の搬送路側には、上下にそれぞれシート状のクッション部材207及び加圧部材208が張設されている。クッション部材207としては、膨張黒鉛シート等の耐冷熱性、柔軟性及び圧縮復元性のあるシート材が用いられる。また、加圧部材208としては、C/Cコンポジット等の耐熱性、耐衝撃性、熱伝導性を有する板状体が用いられる。
【0042】
熱可塑性樹脂補強シート材Ps及び離型シートRsは、重ね合わされた状態でクッション部材207及び加圧部材208の間に差し込まれるように搬送されながら、予備加熱加圧部204、成形加熱加圧部205及び冷却加圧部206で加熱加圧及び冷却加圧された後離型シートRsはシート巻取り機構202に巻き取られて分離され、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材Psが一体化したプリプレグシート材Qsは製品巻取り機構203に巻き取られる。
【0043】
図7は、プリプレグシート材Qsの別の製造装置に関する概略構成図である。この例では、図5に示す補強繊維シート材Ts及び熱可塑性樹脂シート材Hsを貼り合わせる機構を用いてプリプレグシート材Qsを製造する。図6に示す製造装置と同様に、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材Psを重ね合わせて送給し、重ね合わせた熱可塑性樹脂補強シート材Psの両面側に離型シートRsをさらに重ね合わせるようにシート供給機構101から送給する。熱可塑性樹脂補強シート材Psは、離型シートRsが重ね合わされた状態で搬送されて2連の加熱加圧ロール105及び2連の冷却加圧ロール106の間を通過し、4枚の熱可塑性樹脂補強シート材Psが積層一体化してプリプレグシート材Qsが得られる。
【0044】
図8は、プリプレグシート材を用いて成形品を製造する工程に関する説明図である。この例では、成形品として積層板を製造するようになっており、まず、所定の大きさの複数枚のプリプレグシート材を補強繊維の方向が異なるように重ね合わせた被成形体Mを平板状の成形型体301の間にセットする。被成形体Mがセットされた成形型体301を加熱プレス機302の加熱プレス型体303及び304の間にセットする。
【0045】
加熱プレス型体303及び304は型面が平面状に形成されており、成形型体301に密着した状態で当接して加熱・加圧処理が行われる。成形型体301の被成形体Mに対する当接部の厚さがすべて均一に設定されているため、加熱プレス型体303及び304から被成形体への熱伝導性がほぼ均一になり、被成形体Mの内部の熱可塑性樹脂材料全体が溶融含浸するようになる。
【0046】
次に、加熱・加圧処理した成形型体301を冷却プレス機305の冷却プレス型体306及び307の間にセットする。冷却プレス型体306及び307は、型面が平面状に形成されており、成形型体301に密着した状態で当接して冷却・加圧処理が行われる。溶融含浸した熱可塑性樹脂材料は、冷却・加圧処理によりムラなく固化して成形され、被成形体Mは成形反りのない成形品Nに仕上げられる。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
以下の材料を用いて、プリプレグシート材を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S−15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂フィルム(厚さ15μm)
市販のPPS樹脂ペレットを押出成形によりフィルム状にしたものを用いた。
ポリアミド6(PA6)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ20μm)
【0048】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
図5に示す製造装置を用いて、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。まず、元幅約6mmの炭素繊維束を48mm間隔で7本配列して開繊処理した。最初の開繊部では、繊維束1本が24mmの幅まで開繊するように開繊幅を設定し、次の開繊部では24mmに開繊した開繊糸が48mmの幅まで開繊するように開繊幅を設定した。炭素繊維束に付与される初期張力を150gに設定し、炭素繊維束を搬送速度5m/分で搬送した。開繊部における吸引気流の流速(炭素繊維束のない開放状態)は20m/秒で、開繊される炭素繊維に吹き付けられる熱風の吹き出し温度は120℃とした。縦振動付与部は、振動回数600rpmで、炭素繊維束を押圧するロールのストローク量は10mmに設定した。横振動付与部は、振動回数が450rpmで、開繊糸を幅方向に振動させるストローク量は5mmに設定した。なお、縦振動付与部のロールの直径は10mm、横振動付与部のロールの直径は25mmで、それぞれ表面は梨地加工を施している。
【0049】
以上のように設定した開繊機構に炭素繊維束を搬送して、シート幅約340mmの補強繊維シート材を連続形成した。補強繊維シート材は、炭素繊維が幅方向に均一に分散されて隙間が生じておらず、その目付け量は約21g/m2であった。
【0050】
連続形成される補強繊維シート材をそのまま連続搬送しながらPPS樹脂フィルムを離型シートにとともに重ね合わせて挟み込み、加熱加圧ロール及び冷却加圧ロールの間を通過させた。離型シートとして、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)を使用した。加熱加圧ロールの温度は250℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分である。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0051】
以上説明した製造方法と同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。次に、製造した熱可塑性樹脂補強シート材を熱可塑性樹脂シート材の代わりに用いて、同様の製造方法で補強繊維シート材を貼り合わせ、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。いずれの製造方法においても、加熱加圧ロールの温度は220℃に、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。こうして、PA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け21g/m2(片面の目付け、両面の合計42g/m2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0052】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、図4に示すように重ね合わせて図6に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。図6に示す製造装置では、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部の各ブロック部を幅1000mm、シート材の搬送方向長さ350mmに設定した。上下ブロック部及びシート材の間には、加圧部材として厚さ2mmのC/Cコンポジット(株式会社アクロス製)をそれぞれセットして、さらに、上下ブロック部とC/Cコンポジットとの間には膨張黒鉛シート(PERMA―FOIL、厚み0.5mm、東洋炭素株式会社製)をクッション部材としてセットした。
【0053】
4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PPS樹脂フィルム(下側がPPS樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせ、加圧部材であるC/Cコンポジットの間に挟み込むように送給し、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部を順次通過させた。予備加熱加圧部では加熱温度150℃及び加圧力0.1MPaに設定し、成形加熱加圧部では温度320℃及び加圧力2MPaに設定し、冷却加圧部では水冷による冷却及び加圧力0.1MPaとした。加工処理では、停止時間つまり加圧時間を約4秒に設定し、加圧時間以外におけるシート材の移動速度は約2秒間で約340mm移動するように設定して、1分間で約3.4m製造する加工速度とした。冷却加圧部から搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、加工されたプリプレグシート材を得た。
【0054】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m2及び樹脂重量含有率約40%のプリプレグシート材が得られた。図9は、プリプレグシート材の断面を撮影した写真である。得られたプリプレグシート材は、若干のボイド(色の黒い部分)が存在するものの、各熱可塑性樹脂材料が炭素繊維間に含浸した状態となっている。写真では、多数の小さい白い丸が炭素繊維の断面である。表層にはPPS樹脂領域(色の薄い部分)が形成され、内層にはPA6樹脂領域(色の濃い部分)が形成されて、それぞれ炭素繊維層の内部に含浸しており、その境界部分は炭素繊維層の内部に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。
【0055】
[実施例2]
<使用材料>
補強繊維シート材及び熱可塑性樹脂シート材は、実施例1と同じものを用いた。
【0056】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0057】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、実施例1の場合と同様に重ね合わせ、図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PPS樹脂フィルム(下側がPPS樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0058】
加熱加圧ロールの加熱温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。
【0059】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m2及び樹脂重量含有率約40%のプリプレグシート材が得られた。図10は、プリプレグシート材の断面を撮影した写真である。得られたプリプレグシート材は、実施例1と同様に、PPS樹脂領域及びPA6樹脂領域の境界部分が炭素繊維層の内部に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。また、炭素繊維層の内部には、実施例1に比べてサイズの大きいボイドが多数存在しており、半含浸状態であることが確認できた。
【0060】
[実施例3]
以下の材料を用いて、プリプレグシート材を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S−15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム;ビクトレックス株式会社製(厚さ16μm)
ポリエーテルイミド(PEI)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ15μm)
【0061】
<熱可塑性樹脂材料の流動特性について>
PEEK樹脂及びPEI樹脂について、流動特性の違いについて検証した。JIS K7199 キャピラリーレオメータ及びスリットダイレオメータによるプラスチックの流れ特性試験方法に準じ、キャピラリーレオメータを用いて、PEEK樹脂(ビクトレックス社製グレード450G)及びPEI樹脂(SABIC社製Ultem1000)の見掛け粘度を測定した。温度370℃で見掛けせん断速度1.216×e2/秒の条件において、PEEK樹脂の見掛け粘度は1.447×e3Pa・s、PEI樹脂の見掛け粘度は1.006×e3Pa・sであった。この測定結果から、PEEK樹脂の方がPEI樹脂に比べて粘度が高く、流動性が低い特性を有していることがわかる。
【0062】
したがって、こうした所定温度状態で流動特性の異なる熱可塑性樹脂材料を用いることで、マトリックス樹脂の内部に異なる樹脂材料からなる複数の樹脂領域を形成することができる。なお、温度状態の設定については、成形圧力との関係で樹脂材料の流動する程度に応じて適宜設定すればよい。
【0063】
また、同じ種類の樹脂材料でも流動特性が異なる場合には、それらを組み合せることもできる。例えば、PEI樹脂では、SABIC社製Ultem1000のメルトフローレート(337℃、6.6kgf)は9g/10分で、SABIC社製Ultem1010ではメルトフローレート(337℃、6.6kgf)は17.8g/10分とされており、同じ樹脂材料でも流動特性か異なっている。この場合には、Ultem1010の方が流動性が高いと考えられるため、同じ種類の樹脂材料でも流動性の違いを利用してマトリックス樹脂の内部に異なる樹脂材料からなる複数の樹脂領域を形成することができる。
【0064】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の製造装置を用いて製造した。実施例1と同様に、炭素繊維束を開繊して補強繊維シート材を形成し、熱可塑性樹脂シート材としてPEEK樹脂フィルムと重ね合わせて離型シートに挟み込み加熱加圧ロールに供給した。離型シートとして、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)を使用した。加熱加圧ロールの温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。冷却加圧ロールから搬出した後上下両側の離型シートを巻き取り、目付け約21g/m2の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEEK樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0065】
以上説明した製造方法と同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEI樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。次に、製造した熱可塑性樹脂補強シート材を熱可塑性樹脂シート材の代わりに用いて、同様の製造方法で補強繊維シート材を貼り合わせ、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。いずれの製造方法においても、加熱加圧ロールの温度は300℃に、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。こうして、PEI樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け約21g/m2(片面の目付け、両面の合計42g/m2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0066】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、図4に示すように重ね合わせて実施例1と同様にプリプレグシート材を製造した。
【0067】
4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PEEK樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPEEK樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PEI樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PEEK樹脂フィルム(下側がPEEK樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせ、加圧部材であるC/Cコンポジットの間に挟み込むように送給し、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部を順次通過させた。予備加熱加圧部では加熱温度250℃及び加圧力0.1MPaに設定し、成形加熱加圧部では温度380℃及び加圧力2MPaに設定し、冷却加圧部では水冷による冷却及び加圧力0.1MPaとした。加工処理では、停止時間つまり加圧時間を約4秒に設定し、加圧時間以外におけるシート材の移動速度は約2秒間で約340mm移動するように設定して、1分間で約3.4m製造する加工速度とした。冷却加圧部から搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、加工されたプリプレグシート材を得た。
【0068】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m2及び樹脂重量含有率約39%のプリプレグシート材が得られた。プリプレグシート材の断面を撮影した写真を確認したところ、図9に示す写真と同様に、表層にはPEEK樹脂層が形成され、内層にはPEI樹脂層が形成されて、それぞれ炭素繊維層の内部に含浸しており、その境界部分は炭素繊維層に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。
【0069】
得られたプリプレグシート材について、大型純曲げ試験機(KES−FBシリーズ(Kawabata’s Evaluation System for Fabrics)の1つ)を用いて曲げ特性を測定した。得られたプリプレグシート材から繊維方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片及び繊維と直角方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片を切断して取り出した。2枚の試験片を大型純曲げ試験機にセットして曲げ試験を実施した結果、繊維方向の曲げ剛性は119.5×10-4N・m2/m、繊維と直角方向の曲げ剛性は3.3×10-4N・m2/mであった。
【0070】
[実施例4]
<使用材料>
補強繊維シート材及び熱可塑性樹脂シート材は、実施例3と同じものを用いた。
【0071】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例3と同様の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0072】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、実施例2の場合と同様に重ね合わせ、図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PEEK樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPEEK樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PEI樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PEEK樹脂フィルム(下側がPEEK樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0073】
加熱加圧ロールの加熱温度は340℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。
【0074】
<プリプレグシート材の評価>
CF目付け約126g/m2及び樹脂重量含有率約39%のプリプレグシート材が得られた。プリプレグシート材の断面を撮影した写真を確認したところ、図10に示す写真と同様に、PEEK樹脂領域及びPEI樹脂領域の境界部分が炭素繊維層の内部に入り込んで凹凸状に形成されていることが確認できた。また、炭素繊維層の内部には、実施例3に比べてサイズの大きいボイドが多数存在しており、半含浸状態であることが確認できた。
【0075】
得られたプリプレグシート材について、大型純曲げ試験機(KES−FBシリーズ(Kawabata’s Evaluation System for Fabrics)の1つ)を用いて曲げ特性を測定した。得られたプリプレグシート材から繊維方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状試験片及び繊維と直角方向に長さ100mmで幅50mmの長方形状の試験片を切断して取り出した。2枚の試験片を大型純曲げ試験機にセットして曲げ試験を実施した結果、繊維方向の曲げ剛性は57.6×10-4N・m2/m、繊維と直角方向の曲げ剛性は0.7×10-4N・m2/mであった。実施例1で製造された樹脂が十分含浸したプリプレグシート材に比べ、曲げ剛性が低く、曲がり易いプリプレグシート材が得られたことがわかる。
【0076】
[実施例5]
実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層して図8に示す加熱加圧成型工程を行い、熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。実施例4において得られた半含浸状態のプリプレグシート材を用いて、繊維方向を0度として、[45度/0度/−45度/90度]2Sの構成となるようにプリプレグシート材を積層し、300mm×300mmのサイズの積層材を製造した。製造した積層材を平板状の成形型体の間にセットした。成形型体の表面には離型剤を塗布した。
【0077】
ここで、[45度/0度/−45度/90度]2Sという表記法は、積層材の構成を表わすもので、45度、0度、−45度、90度は繊維方向を示し、[ ]2Sは[ ]内の積層構造を2回繰り返し、厚さ方向に対称(Symmetry)となるように積層することを示している。例えば、[0度/90度]2Sは、0度、90度、0度、90度、90度、0度、90度、0度の構成で8枚のプリプレグシート材を積層した構造となる。
【0078】
シート片をセットした成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度370℃、圧力2MPaで15分間の加熱プレス成形を行った。その後、成形型体を冷却プレス装置に設置して、圧力2MPaで空気冷却した。約20分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0079】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図11は、積層板の断面を撮影した写真である。写真を見ると、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、ボイドの無い積層板が得られたことがわかる。なお、積層板全体の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚み及び炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。
【0080】
[実施例6]
実施例5と同様に、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層した後、図8に示す加熱加圧成形工程を行い熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。実施例5と加熱加圧成形の条件を変えることで、層間に樹脂層が形成された積層板を得た。まず、実施例5と同様の方法により、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を積層し、図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度350℃及び圧力4MPaで15分間加熱加圧成形を行った。実施例5に比べて低温高圧で加熱加圧成形しているため、低温にすることでシート片の表層のPEEK樹脂を流動性の低い状態に設定し、かつ、高圧にすることでPEEK樹脂及びPEI樹脂とも炭素繊維の間への含浸が促進されるように設定した。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで空気冷却した。約20分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0081】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図12は、積層板の断面を撮影した写真である。写真を見ると、各層間にPEEK樹脂からなる樹脂層が形成されたことが確認された。さらに、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、層内には大きなボイドもなく、積層板として品質の良いものが成形できた。なお、積層板全体の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚み及び炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。
【0082】
[実施例7]
実施例5と同様に、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層した後、図8に示す加熱加圧成形工程を行い熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。この例では、実施例5に比べて加熱加圧成形時間の条件を変えて成形を行った。まず、実施例5と同様な方法により、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を積層し、図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度370℃及び圧力4MPaで3分間加熱加圧成形を行った。実施例5に比べて、高圧で短時間の成形時間に設定した。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで水冷冷却を行った。実施例5及び6に比べて、水冷冷却にすることで短時間で冷却するようにした。約5分間室温まで冷却されたところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0083】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図13は、積層板の断面を撮影した写真である。この例では、熱可塑性樹脂材料の含浸時間を短時間に設定しても十分な含浸が行われることを確認できた。これは、補強繊維シート材の厚さを薄くすることで、厚み方向に配列される補強繊維の数が減少し、樹脂の含浸距離が短くなったことによる効果と考えられる。なお、積層板の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚みと炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。
【0084】
[実施例8]
半含浸状態のプリプレグシート材及び熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層した後、図8に示す加熱加圧成型を行い、熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S−15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂フィルム(厚さ50μm)
市販のPPS樹脂ペレットを押出成形によりフィルム状にしたものを用いた。
ポリアミド6(PA6)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ20μm)
【0085】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の方法により、厚さ50μmのPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が目付け21g/m2の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面に熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材、及び、厚さ20μmのPA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け21g/m2(片面の目付け、両面の合計42g/m2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材、の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0086】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材をそれぞれ1枚ずつ用いて重ね合わせ、図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。2枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0087】
加熱加圧ロールの加熱温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。得られたプリプレグシート材は、実施例2と同様に、層間に樹脂の未含浸部分が拡がって樹脂が半含浸状態となっていた。
【0088】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の製造>
実施例5と同様に、製造された半含浸状態のプリプレグシート材から、繊維方向を0度方向として、45度方向に繊維が配列した300mm×300mmのシート片を複数枚切り出した。また、PA6樹脂フィルムの両面に炭素繊維シートを貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材から、繊維方向を0度方向として、0度方向、90度方向、−45度方向に繊維が配列した300mm×300mmのシート片をそれぞれ複数枚切り出した。
【0089】
熱可塑性樹脂補強シート材から切り出したシート片を、[0度/−45度/90度]Sの構成で積層し、その両表層にプリプレグシート材から切り出したシート片を配置して、成形型体の間にセットした。この場合、セットされたシート片の積層構成は、[45度/0度/−45度/90度]Sとなっている。
【0090】
図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度280℃及び圧力4MPaで15分間加熱加圧成形を行った。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで空気冷却した。約15分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0091】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、−45度の方向に繊維補強された擬似等方の熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図14は、積層板の−45度方向と直角方向に切断した断面を撮影した写真である。写真を見ると、両側表層にPPS樹脂からなる樹脂層が形成されたことが確認された。そして、PPS樹脂は、炭素繊維に沿って含浸してPA6樹脂に入り込んだ状態となっていることが確認された。また、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、層内に大きなボイドは生じておらず、成形板として品質の良いものが成形できたことが確認された。
【符号の説明】
【0092】
1A〜1C・・・補強繊維シート層、2・・・樹脂層、3・・・樹脂層、4・・・熱可塑性樹脂補強シート材、5・・・補強繊維シート材、6・・・熱可塑性樹脂シート材、7・・・熱可塑性樹脂補強シート材、8・・・補強繊維シート材、9・・・熱可塑性樹脂シート材、10・・・給糸体、11・・・送給機構、12・・・ニップロール、13・・・開繊機構、101・・・シート供給機構、102・・・シート供給機構、103・・・シート巻取り機構、104・・・製品巻取り機構、105・・・加熱加圧ロール、106・・・冷却加圧ロール、201・・・シート供給機構、202・・・シート巻取り機構、203・・・製品巻取り機構、204・・・予備加熱加圧部、205・・・成形加熱加圧部、206・・・冷却加圧部、301・・・成形型体、302・・・加熱プレス機、303・・・加熱プレス型体、304・・・加熱プレス型体、305・・・冷却プレス機、306・・・冷却プレス型体、307・・・冷却プレス型体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域が形成されているプリプレグシート材。
【請求項2】
複数の前記樹脂領域は、異なる種類の熱可塑性樹脂材料からなる請求項1に記載のプリプレグシート材。
【請求項3】
前記樹脂領域の間の境界部分は、前記補強繊維シート層の内部に入り込んだ状態となっている請求項1又は2に記載のプリプレグシート材。
【請求項4】
前記樹脂領域は、層状に形成されている請求項1から3のいずれかに記載のプリプレグシート材。
【請求項5】
前記樹脂領域では、前記補強繊維シート層の補強繊維の間に前記熱可塑性樹脂材料が一部空間を残した状態で含浸した半含浸部分が少なくとも一部に形成されている請求項1から4のいずれかに記載のプリプレグシート材。
【請求項6】
複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート材を特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数種類の熱可塑性樹脂シート材とそれぞれ付着させて複数種類の熱可塑性樹脂補強シート材を形成し、異なる種類の前記熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層して加熱加圧することで一体形成するプリプレグシート材の製造方法。
【請求項7】
複数種類の前記熱可塑性樹脂シート材は、異なる種類の熱可塑性樹脂材料からなる請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
表層側の前記熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料は、所定の温度状態において内層側の前記熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料よりも流動性の低い材料を用いる請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記補強繊維シート材は、単位面積当りの重量が80g/m2以下である請求項6から8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載のプリプレグシート材を用いて成形された成形品。
【請求項11】
前記補強繊維シート層の間に樹脂層が形成されている請求項10に記載の成形品。
【請求項1】
複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域が形成されているプリプレグシート材。
【請求項2】
複数の前記樹脂領域は、異なる種類の熱可塑性樹脂材料からなる請求項1に記載のプリプレグシート材。
【請求項3】
前記樹脂領域の間の境界部分は、前記補強繊維シート層の内部に入り込んだ状態となっている請求項1又は2に記載のプリプレグシート材。
【請求項4】
前記樹脂領域は、層状に形成されている請求項1から3のいずれかに記載のプリプレグシート材。
【請求項5】
前記樹脂領域では、前記補強繊維シート層の補強繊維の間に前記熱可塑性樹脂材料が一部空間を残した状態で含浸した半含浸部分が少なくとも一部に形成されている請求項1から4のいずれかに記載のプリプレグシート材。
【請求項6】
複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート材を特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数種類の熱可塑性樹脂シート材とそれぞれ付着させて複数種類の熱可塑性樹脂補強シート材を形成し、異なる種類の前記熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層して加熱加圧することで一体形成するプリプレグシート材の製造方法。
【請求項7】
複数種類の前記熱可塑性樹脂シート材は、異なる種類の熱可塑性樹脂材料からなる請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
表層側の前記熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料は、所定の温度状態において内層側の前記熱可塑性樹脂補強シート材の熱可塑性樹脂材料よりも流動性の低い材料を用いる請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記補強繊維シート材は、単位面積当りの重量が80g/m2以下である請求項6から8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載のプリプレグシート材を用いて成形された成形品。
【請求項11】
前記補強繊維シート層の間に樹脂層が形成されている請求項10に記載の成形品。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−246442(P2012−246442A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121027(P2011−121027)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(300046658)株式会社ミツヤ (17)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(300046658)株式会社ミツヤ (17)
【Fターム(参考)】
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